JP5000043B2 - イミド化合物と窒素酸化物とを触媒とする有機化合物の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、イミド化合物触媒を用いた有機化合物の製造法、より詳細には、特定のイミド化合物と触媒量の窒素酸化物の存在下で、ラジカルを生成可能な化合物と酸素原子含有反応剤(窒素酸化物を除く)とを反応させて、酸素原子含有基を含む有機化合物を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
酸化反応は、有機化学工業における最も基本的な反応の一つであるため、種々の酸化法が開発されている。資源及び環境上の観点から、好ましい酸化方法は、分子状酸素又は空気を酸化剤として直接利用する触媒的な酸化法である。しかし、触媒的な酸化法では、通常、酸素を活性化するために高温や高圧を必要としたり、温和な条件で反応させるためにはアルデヒドなどの還元剤の共存下で反応させる必要がある。そのため、触媒的酸化法を用いて、温和な条件下で、アルコール類やカルボン酸を簡易に且つ効率よく製造することは困難であった。
【0003】
また、有機硫黄酸及びその塩の製造法として種々の方法が知られている。例えば、スルホン酸の製造法として、チオールやジスルフィドを酸化剤により酸化する方法、芳香族炭化水素と無水SO3−ピリジンやクロロ硫酸とを反応させるフリーデルクラフト反応を利用する方法、不飽和化合物へのラジカル付加反応により合成する方法などが利用されている。しかし、これらの方法は、反応条件が厳しかったり、多量の副生物が併産されるなどの問題点を有する。また、従来、非芳香族性の炭化水素類を直接且つ効率的にスルホン化する方法は知られていない。
【0004】
特開平8−38909号公報及び特開平9−327626号公報には、分子状酸素により有機基質を酸化するための触媒として、特定の構造を有するイミド化合物、又は前記イミド化合物と遷移金属化合物などとで構成された酸化触媒が提案されている。また、特開平11−239730号公報には、前記イミド化合物の存在下、基質と、一酸化炭素及び酸素とを接触させて、基質にカルボキシル基を導入する方法が開示されている。これらのイミド化合物を触媒として用いる方法によれば、比較的温和な条件下で基質にヒドロキシル基やカルボキシル基などの酸素原子含有基を導入できる。しかし、この方法においても、目的化合物の収率等の点で必ずしも充分満足できるものではなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、酸素原子含有基を有する有機化合物を、より温和な条件下で効率よく製造できる方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定構造のイミド化合物と、触媒量の窒素酸化物の存在下で、ラジカルを生成可能な化合物と酸素原子含有反応剤とを反応させると、温和な条件で対応する酸素原子含有基を含む有機化合物が効率よく得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、(i')下記式(I’)
【化3】
[式中、X’は酸素原子又は−OR’基(R’は水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基、アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基、メチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基、無機酸からOH基を除した基、ジアルキルホスフィノチオイル基、ジアリールホスフィノチオイル基、トリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリベンジルシリル基、トリフェニルシリル基からなる群から選択された少なくとも1種の化学基を示す;N−置換環状イミド骨格のうちR’を除く部分が複数個、R’を介して結合する場合、該R’は、ポリカルボン酸アシル基、カルボニル基、多価の炭化水素基からなる群から選択された少なくとも1種の化学基を示す)を示す]
で表される環状イミド骨格を有するイミド化合物と、
(A’)ラジカルを生成可能な化合物として、(A1)ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有するヘテロ原子含有化合物、(A2)炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物、(A3)メチン炭素原子を有する化合物、(A4)不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物、(A5)非芳香族性環状炭化水素、(A6)共役化合物、(A7')第1級または第2級アミン、(A8)芳香族化合物、(A9)直鎖状アルカン、並びに(A10')α−オレフィン及び内部オレフィンからなる群から選択された少なくとも1種の化合物と、
(B’)酸素、一酸化炭素及び硫黄酸化物から選択された少なくとも1種である酸素原子含有反応剤とを、
(ii')ラジカルを生成可能な化合物(A’)1モルに対して0.0001〜0.2モルの窒素酸化物の存在下、反応させて、前記化合物(A’)に前記酸素原子含有反応剤(B’)由来の酸素原子含有基が導入された酸素原子含有基を含む有機化合物を生成させることを特徴とする有機化合物の製造法を提供する。
【0008】
前記イミド化合物には、下記式(1’)
【化4】
[式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基を示し、R1及びR2は互いに結合して二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよい。X’は酸素原子又は−OR’基(R’は水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基、アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基、メチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基、無機酸からOH基を除した基、ジアルキルホスフィノチオイル基、ジアリールホスフィノチオイル基、トリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリベンジルシリル基、トリフェニルシリル基からなる群から選択された少なくとも1種の化学基を示す;N−置換環状イミド骨格のうちR’を除く部分が複数個、R’を介して結合する場合、該R’は、ポリカルボン酸アシル基、カルボニル基、多価の炭化水素基からなる群から選択された少なくとも1種の化学基を示す)を示す。前記R1、R2、又はR1及びR2が互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、上記式(1’)中に示されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個形成されていてもよい]で表される化合物が含まれる。
【0009】
前記触媒として用いる窒素酸化物には、下記式(2)
NxOy (2)
(式中、xは1又は2、yは1〜6の整数を示す)
で表される化合物が含まれる。
【0010】
前記有機化合物の製造法において、金属化合物を助触媒として用いることもできる。
なお、本明細書では、上記発明のほか、
(i)下記式(I)
【化5】
[式中、Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す]
で表される環状骨格を有するイミド化合物と、
(ii)触媒量の窒素酸化物の存在下、
(A)ラジカルを生成可能な化合物と、
(B)酸素原子含有反応剤(窒素酸化物を除く)とを反応させて、
前記化合物(A)に前記酸素原子含有反応剤(B)由来の酸素原子含有基が導入された酸素原子含有基を含む有機化合物を生成させることを特徴とする有機化合物の製造法、についても説明する。
また、前記イミド化合物には、下記式(1)
【化6】
[式中、R 1 及びR 2 は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基を示し、R 1 及びR 2 は互いに結合して二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよい。Xは酸素原子又は−OR基(Rは水素原子又はヒドロキシル基の保護基を示す)を示す。前記R 1 、R 2 、又はR 1 及びR 2 が互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、上記式(1)中に示されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個形成されていてもよい)で表される化合物が含まれる。
【0011】
【発明の実施の形態】
[イミド化合物触媒]
本発明では、触媒として、前記式(I)で表される環状イミド骨格を有するイミド化合物と窒素酸化物とを組み合わせて用いる。
【0012】
式(I)において、窒素原子とXとの結合は単結合又は二重結合である。前記イミド化合物は、分子中に、式(I)で表されるN−置換環状イミド骨格を複数個有していてもよい。また、このイミド化合物は、前記Xが−OR基であり且つRがヒドロキシル基の保護基である場合、N−置換環状イミド骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状イミド骨格)が複数個、Rを介して結合していてもよい。
【0013】
式(I)中、Rで示されるヒドロキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用のヒドロキシル基の保護基を用いることができる。このような保護基として、例えば、アルキル基(例えば、メチル、t−ブチル基などのC1-4アルキル基など)、アルケニル基(例えば、アリル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基など)、アリール基(例えば、2,4−ジニトロフェニル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル、2,6−ジクロロベンジル、3−ブロモベンジル、2−ニトロベンジル、トリフェニルメチル基など);置換メチル基(例えば、メトキシメチル、メチルチオメチル、ベンジルオキシメチル、t−ブトキシメチル、2−メトキシエトキシメチル、2,2,2−トリクロロエトキシメチル、ビス(2−クロロエトキシ)メチル、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル基など)、置換エチル基(例えば、1−エトキシエチル、1−メチル−1−メトキシエチル、1−イソプロポキシエチル、2,2,2−トリクロロエチル基など)、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、1−ヒドロキシアルキル基(例えば、1−ヒドロキシエチル、1−ヒドロキシヘキシル、1−ヒドロキシデシル、1−ヒドロキシヘキサデシル、1−ヒドロキシ−1−フェニルメチル基など)等のヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基など;アシル基(例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル基などのC1-6脂肪族アシル基;アセトアセチル基;ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基など)、スルホニル基(メタンスルホニル、エタンスルホニル、トリフルオロメタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニル、ナフタレンスルホニル基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシ−カルボニル基など)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基など)、置換又は無置換カルバモイル基(例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル、フェニルカルバモイル基など)、無機酸(硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸など)からOH基を除した基、ジアルキルホスフィノチオイル基(例えば、ジメチルホスフィノチオイル基など)、ジアリールホスフィノチオイル基(例えば、ジフェニルホスフィノチオイル基など)、置換シリル基(例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、トリベンジルシリル、トリフェニルシリル基など)などが挙げられる。
【0014】
また、Xが−OR基である場合において、N−置換環状イミド骨格のうちRを除く部分(N−オキシ環状イミド骨格)が複数個、Rを介して結合する場合、該Rとして、例えば、オキサリル、マロニル、スクシニル、グルタリル、フタロイル、イソフタロイル、テレフタロイル基などのポリカルボン酸アシル基;カルボニル基;メチレン、エチリデン、イソプロピリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、ベンジリデン基などの多価の炭化水素基(特に、2つのヒドロキシル基とアセタール結合を形成する基)などが挙げられる。
【0015】
Rとしては、アルキル基(メチル基など)以外の保護基がより好ましい。特に好ましいRには、例えば、水素原子;ヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基;カルボン酸、スルホン酸、炭酸、カルバミン酸、硫酸、リン酸、ホウ酸などの酸からOH基を除した基(アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基等)などの加水分解により脱離可能な加水分解性保護基が好ましい。
【0016】
前記イミド化合物の代表的な例として、前記式(1)で表されるイミド化合物が挙げられる。このイミド化合物において、置換基R1及びR2のうちハロゲン原子には、ヨウ素、臭素、塩素およびフッ素原子が含まれる。アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、デシル基などの炭素数1〜10程度の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が含まれる。好ましいアルキル基としては、例えば、炭素数1〜6程度、特に炭素数1〜4程度の低級アルキル基が挙げられる。
【0017】
アリール基には、フェニル、ナフチル基などが含まれ、シクロアルキル基には、シクロペンチル、シクロヘキシル基などが含まれる。アルコキシ基には、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ、ヘキシルオキシ基などの炭素数1〜10程度、好ましくは炭素数1〜6程度、特に炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基が含まれる。
【0018】
アルコキシカルボニル基には、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル基などのアルコキシ部分の炭素数が1〜10程度のアルコキシカルボニル基が含まれる。好ましいカルボニル基にはアルコキシ部分の炭素数が1〜6程度、特に1〜4程度の低級アルコキシカルボニル基が含まれる。アシル基としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル基などの炭素数1〜6程度のアシル基が例示できる。
【0019】
前記置換基R1及びR2は、同一又は異なっていてもよい。また、前記式(1)において、R1及びR2は互いに結合して、二重結合、または芳香族性又は非芳香属性の環を形成してもよい。好ましい芳香族性又は非芳香族性環は5〜12員環、特に6〜10員環程度であり、複素環又は縮合複素環であってもよいが、炭化水素環である場合が多い。このような環には、例えば、非芳香族性脂環式環(シクロヘキサン環などの置換基を有していてもよいシクロアルカン環、シクロヘキセン環などの置換基を有していてもよいシクロアルケン環など)、非芳香族性橋かけ環(5−ノルボルネン環などの置換基を有していてもよい橋かけ式炭化水素環など)、ベンゼン環、ナフタレン環などの置換基を有していてもよい芳香族環(縮合環を含む)が含まれる。前記環は、芳香族環で構成される場合が多い。前記環は、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。
【0020】
前記R1、R2、又はR1及びR2が互いに結合して形成された二重結合又は芳香族性若しくは非芳香族性の環には、上記式(1)中に示されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個形成されていてもよい。例えば、R1又はR2が炭素数2以上のアルキル基である場合、このアルキル基を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。また、R1及びR2が互いに結合して二重結合を形成する場合、該二重結合を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。さらに、R1及びR2が互いに結合して芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成する場合、該環を構成する隣接する2つの炭素原子を含んで前記N−置換環状イミド基が形成されていてもよい。
【0021】
好ましいイミド化合物には、下記式で表される化合物が含まれる。
【化5】
(式中、R3〜R6は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子を示す。R3〜R6は、隣接する基同士が互いに結合して芳香族性又は非芳香族性の環を形成していてもよい。式(1f)中、Aはメチレン基又は酸素原子を示す。R1、R2、Xは前記に同じ。式(1c)のベンゼン環には、式(1c)中に示されるN−置換環状イミド基がさらに1又は2個形成されていてもよい)
【0022】
置換基R3〜R6において、アルキル基には、前記例示のアルキル基と同様のアルキル基、特に炭素数1〜6程度のアルキル基が含まれ、ハロアルキル基には、トリフルオロメチル基などの炭素数1〜4程度のハロアルキル基、アルコキシ基には、前記と同様のアルコキシ基、特に炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基、アルコキシカルボニル基には、前記と同様のアルコキシカルボニル基、特にアルコキシ部分の炭素数が1〜4程度の低級アルコキシカルボニル基が含まれる。また、アシル基としては、前記と同様のアシル基、特に炭素数1〜6程度のアシル基が例示され、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子が例示できる。置換基R3〜R6は、通常、水素原子、炭素数1〜4程度の低級アルキル基、カルボキシル基、ニトロ基、ハロゲン原子である場合が多い。R3〜R6が互いに結合して形成する環としては、前記R1及びR2が互いに結合して形成する環と同様であり、特に芳香族性又は非芳香族性の5〜12員環が好ましい。
【0023】
好ましいイミド化合物の代表的な例として、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸イミドなどのXが−OR基で且つRが水素原子である化合物;N−アセトキシコハク酸イミド、N−アセトキシマレイン酸イミド、N−アセトキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジアセトキシシクロヘキサンテトラカルボン酸イミド、N−アセトキシフタル酸イミド、N−アセトキシテトラブロモフタル酸イミド、N−アセトキシテトラクロロフタル酸イミド、N−アセトキシヘット酸イミド、N−アセトキシハイミック酸イミド、N−アセトキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジアセトキシピロメリット酸イミド、N,N′−ジアセトキシナフタレンテトラカルボン酸イミドなどのXが−OR基で且つRがアセチル基等のアシル基である化合物;N−メトキシメチルオキシフタル酸イミド、N−(2−メトキシエトキシメチルオキシ)フタル酸イミドなどのXが−OR基で且つRがヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール結合を形成可能な基である化合物;N−メタンスルホニルオキシフタル酸イミド、N−(p−トルエンスルホニルオキシ)フタル酸イミドなどのXが−OR基で且つRがスルホニル基である化合物;N−ヒドロキシフタル酸イミドの硫酸エステル、硝酸エステル、リン酸エステル又はホウ酸エステルなどのXが−OR基で且つRが無機酸からOH基を除した基である化合物などが挙げられる。
【0024】
前記イミド化合物のうち、Xが−OR基で且つRが水素原子である化合物は、慣用のイミド化反応、例えば、対応する酸無水物とヒドロキシルアミンNH2OHとを反応させ、酸無水物基の開環及び閉環を経てイミド化する方法により調製できる。前記酸無水物には、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸などの飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸(1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物)、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸1,2−無水物などの飽和又は不飽和非芳香族性環状多価カルボン酸無水物(脂環式多価カルボン酸無水物)、無水ヘット酸、無水ハイミック酸などの橋かけ環式多価カルボン酸無水物(脂環式多価カルボン酸無水物)、無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水ニトロフタル酸、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸無水物、無水ピロメリット酸、無水メリット酸、1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの芳香族多価カルボン酸無水物が含まれる。
【0025】
前記イミド化合物のうち、Xが−OR基で且つRがヒドロキシル基の保護基である化合物は、対応するRが水素原子である化合物(N−ヒドロキシ環状イミド化合物)に、慣用の保護基導入反応を利用して、所望の保護基を導入することにより調製することができる。例えば、N−アセトキシフタル酸イミドは、N−ヒドロキシフタル酸イミドに無水酢酸を反応させたり、塩基の存在下でアセチルハライドを反応させることにより得ることができる。
【0026】
特に好ましいイミド化合物は、脂環式多価カルボン酸無水物又は芳香族多価カルボン酸無水物、なかでも芳香族多価カルボン酸無水物から誘導されるN−ヒドロキシイミド化合物(例えば、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸イミド);及び該N−ヒドロキシイミド化合物のヒドロキシル基に保護基を導入することにより得られる化合物などが含まれる。
【0027】
式(I)で表されるN−置換環状イミド骨格を有するイミド化合物は、反応において、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。前記イミド化合物は反応系内で生成させてもよい。
【0028】
前記イミド化合物の使用量は、広い範囲で選択でき、例えば、反応成分(基質)1モルに対して0.0000001〜1モル、好ましくは0.00001〜0.5モル、さらに好ましくは0.0001〜0.4モル程度であり、0.001〜0.35モル程度である場合が多い。
【0029】
[窒素酸化物]
触媒として用いる窒素酸化物には、例えば、前記式(2)で表される化合物が含まれる。この化合物において、xが1である場合、yは通常1〜3の整数であり、xが2である場合、yは通常1〜6の整数である。
【0030】
窒素酸化物の代表的な例として、N2O、NO、N2O3、NO2、N2O4、N2O5、NO3、N2O6などが挙げられる。これらの窒素酸化物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。窒素酸化物は純粋なものであってもよく、窒素酸化物を主成分として含む混合物であってもよい。窒素酸化物を主成分として含む混合物として、例えば、硝酸酸化プロセスの排ガスなどを利用できる。また、窒素酸化物は反応系内で生成させて用いてもよい。例えば、アンモニウム塩を反応系に添加して反応条件下で窒素酸化物に変換することにより、触媒として用いることもできる。
【0031】
好ましい窒素酸化物には、NO、N2O3、NO2、N2O5などが含まれる。N2O3は酸化二窒素(N2O)及び/又は一酸化窒素(NO)と酸素との反応で容易に得ることができる。より具体的には、反応器内に一酸化窒素(又は酸化二窒素)と酸素とを導入して、青色の液体N2O3を生成させることにより調製できる。そのため、N2O3を予め生成させることなく、酸化二窒素(N2O)及び/又は一酸化窒素(NO)と酸素とを反応系に導入することにより本反応を行ってもよい。
【0032】
前記窒素酸化物の中でも、特にNO2(二酸化窒素)が、安定で取り扱いやすい点、及び触媒活性の点で特に望ましい。NO2は20℃以下で容易に液化し、シリンジワークなどで扱うことが可能である。
【0033】
窒素酸化物の使用量は、触媒量であればよく、例えば、ラジカルを生成可能な化合物(A)1モルに対して0.0001〜0.2モル、好ましくは0.001〜0.18モル、さらに好ましくは0.01〜0.15モル程度である。前記窒素酸化物の使用量が0.0001モル未満では窒素酸化物の添加効果が小さく、0.2モルを超えるとニトロ化反応が進行して、目的の酸素原子含有反応剤(B)由来の酸素原子含有基が導入された化合物の収率が低下しやすくなる。
【0034】
[助触媒]
本発明では、前記イミド化合物と窒素酸化物とからなる触媒に加えて助触媒を用いることもできる。助触媒として金属化合物が挙げられる。前記2種の触媒と金属化合物とを併用することにより反応速度や反応の選択性を向上させることができる。
【0035】
金属化合物を構成する金属元素としては、特に限定されないが、周期表2〜15族の金属元素を用いる場合が多い。なお、本明細書では、ホウ素Bも金属元素に含まれるものとする。例えば、前記金属元素として、周期表2族元素(Mg、Ca、Sr、Baなど)、3族元素(Sc、ランタノイド元素、アクチノイド元素など)、4族元素(Ti、Zr、Hfなど)、5族元素(Vなど)、6族元素(Cr、Mo、Wなど)、7族元素(Mnなど)、8族元素(Fe、Ruなど)、9族元素(Co、Rhなど)、10族元素(Ni、Pd、Ptなど)、11族元素(Cuなど)、12族元素(Znなど)、13族元素(B、Al、Inなど)、14族元素(Sn、Pbなど)、15族元素(Sb、Biなど)などが挙げられる。好ましい金属元素には、遷移金属元素(周期表3〜12族元素)が含まれる。なかでも、周期表5〜11族元素、特に5族〜9族元素が好ましく、とりわけV、Mo、Mn、Coなどが好ましい。金属元素の原子価は特に制限されず、例えば0〜6価程度である。
【0036】
金属化合物としては、前記金属元素の単体、水酸化物、酸化物(複合酸化物を含む)、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、オキソ酸塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩など)、イソポリ酸の塩、ヘテロポリ酸の塩などの無機化合物;有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、青酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩など)、錯体などの有機化合物が挙げられる。前記錯体を構成する配位子としては、OH(ヒドロキソ)、アルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなど)、アシル(アセチル、プロピオニルなど)、アルコキシカルボニル(メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなど)、アセチルアセトナト、シクロペンタジエニル基、ハロゲン原子(塩素、臭素など)、CO、CN、酸素原子、H2O(アコ)、ホスフィン(トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンなど)のリン化合物、NH3(アンミン)、NO、NO2(ニトロ)、NO3(ニトラト)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェナントロリンなどの窒素含有化合物などが挙げられる。
【0037】
金属化合物の具体例としては、例えば、コバルト化合物を例にとると、水酸化コバルト、酸化コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、リン酸コバルトなどの無機化合物;酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルトなどの有機酸塩;コバルトアセチルアセトナトなどの錯体等の2価又は3価のコバルト化合物などが挙げられる。また、バナジウム化合物の例としては、水酸化バナジウム、酸化バナジウム、塩化バナジウム、塩化バナジル、硫酸バナジウム、硫酸バナジル、バナジン酸ナトリウムなどの無機化合物;バナジウムアセチルアセトナト、バナジルアセチルアセトナトなどの錯体等の2〜5価のバナジウム化合物などが挙げられる。他の金属元素の化合物としては、前記コバルト又はバナジウム化合物に対応する化合物などが例示される。金属化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
前記金属化合物の使用量は、例えば、ラジカルを生成可能な化合物(A)1モルに対して、0.000001〜0.1モル程度、好ましくは0.00001〜0.01モル程度である。また、前記金属化合物の使用量は、前記イミド化合物1モルに対して、例えば0.001〜0.1モル程度、好ましくは0.005〜0.08モル程度である。
【0039】
本発明では、また、助触媒として、少なくとも1つの有機基が結合した周期表15族又は16族元素を含む多原子陽イオン又は多原子陰イオンとカウンターイオンとで構成された有機塩を用いることもできる。助触媒として前記有機塩を用いることにより、反応速度や反応の選択性を向上させることができる。
【0040】
前記有機塩において、周期表15族元素には、N、P、As、Sb、Biが含まれる。周期表16族元素には、O、S、Se、Teなどが含まれる。好ましい元素としては、N、P、As、Sb、Sが挙げられ、特に、N、P、Sなどが好ましい。
【0041】
前記元素の原子に結合する有機基には、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換オキシ基などが含まれる。炭化水素基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、アリルなどの炭素数1〜30程度(好ましくは炭素数1〜20程度)の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基);シクロペンチル、シクロヘキシルなどの炭素数3〜8程度の脂環式炭化水素基;フェニル、ナフチルなどの炭素数6〜14程度の芳香族炭化水素基などが挙げられる。炭化水素基が有していてもよい置換基として、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基など)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、アルキル基(例えば、メチル、エチル基などのC1-4アルキル基など)、シクロアルキル基、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル基など)、複素環基などが例示できる。好ましい炭化水素基には、炭素数1〜30程度のアルキル基、炭素数6〜14程度の芳香族炭化水素基(特に、フェニル基又はナフチル基)などが含まれる。前記置換オキシ基には、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが含まれる。
【0042】
前記有機塩の代表的な例として、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機スルホニウム塩などの有機オニウム塩が挙げられる。有機アンモニウム塩の具体例としては、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラヘキシルアンモニウムクロリド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、トリエチルフェニルアンモニウムクロリド、トリブチル(ヘキサデシル)アンモニウムクロリド、ジ(オクタデシル)ジメチルアンモニウムクロリドなどの第4級アンモニウムクロリド、及び対応する第4級アンモニウムブロミドなどの、窒素原子に4つの炭化水素基が結合した第4級アンモニウム塩;ジメチルピペリジニウムクロリド、ヘキサデシルピリジニウムクロリド、メチルキノリニウムクロリドなどの環状第4級アンモニウム塩などが挙げられる。また、有機ホスホニウム塩の具体例としては、テトラメチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムクロリド、トリブチル(ヘキサデシル)ホスホニウムクロリド、トリエチルフェニルホスホニウムクロリドなどの第4級ホスホニウムクロリド、及び対応する第4級ホスホニウムブロミドなどの、リン原子に4つの炭化水素基が結合した第4級ホスホニウム塩などが挙げられる。有機スルホニウム塩の具体例としては、トリエチルスルホニウムイオジド、エチルジフェニルスルホニウムイオジドなどの、イオウ原子に3つの炭化水素基が結合したスルホニウム塩などが挙げられる。
【0043】
また、前記有機塩には、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、オクタンスルホン酸塩、ドデカンスルホン酸塩などのアルキルスルホン酸塩(例えば、C1-18アルキルスルホン酸塩);ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、デシルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩などのアルキル基で置換されていてもよいアリールスルホン酸塩(例えば、C1-18アルキル−アリールスルホン酸塩);スルホン酸型イオン交換樹脂(イオン交換体);ホスホン酸型イオン交換樹脂(イオン交換体)なども含まれる。
【0044】
前記有機塩の使用量は、例えば、ラジカルを生成可能な化合物(A)1モルに対して、0.000001〜0.1モル程度、好ましくは0.00001〜0.01モル程度である。また、前記有機塩の使用量は、前記イミド化合物1モルに対して、例えば0.001〜0.1モル程度、好ましくは0.005〜0.08モル程度である。
【0045】
また、本発明の方法では、系内に、ラジカル発生剤やラジカル反応促進剤を存在させてもよい。このような成分として、例えば、ハロゲン(塩素、臭素など)、過酸(過酢酸、m−クロロ過安息香酸など)、過酸化物(過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)等のヒドロペルオキシドなど)、ラジカル開始剤(アゾビスイソブチロニトリルなど)、安息香酸、ベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらの成分を系内に存在させると、反応が促進される場合がある。前記成分の使用量は、前記イミド化合物1モルに対して、通常0.001〜0.1モル程度であるが、添加剤の種類によってはそれ以上用いてもよい。
【0046】
[ラジカルを生成可能な化合物(A)]
ラジカルを生成可能な化合物(A)としては、安定なラジカルを生成しうる化合物であれば特に限定されないが、その代表的な例として、(A1)ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有するヘテロ原子含有化合物、(A2)炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物、(A3)メチン炭素原子を有する化合物、(A4)不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物、(A5)非芳香族性環状炭化水素、(A6)共役化合物、(A7)アミン類、(A8)芳香族化合物、(A9)直鎖状アルカン、及び(A10)オレフィン類などが挙げられる。
【0047】
これらの化合物は、反応を阻害しない範囲で種々の置換基を有していてもよい。置換基として、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、メルカプト基、オキソ基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基など)、置換チオ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、スルホ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基などが挙げられる。
ラジカルを生成可能な化合物(A)は、本反応において基質として機能する。
【0048】
ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有するヘテロ原子含有化合物(A1)としては、(A1-1)第1級若しくは第2級アルコール又は第1級若しくは第2級チオール、(A1-2)酸素原子の隣接位に炭素−水素結合を有するエーテル又は硫黄原子の隣接位に炭素−水素結合を有するスルフィド、(A1-3)酸素原子の隣接位に炭素−水素結合を有するアセタール(ヘミアセタールも含む)又は硫黄原子の隣接位に炭素−水素結合を有するチオアセタール(チオヘミアセタールも含む)などが例示できる。
【0049】
前記(A1-1)における第1級若しくは第2級アルコールには、広範囲のアルコールが含まれる。アルコールは、1価、2価又は多価アルコールの何れであってもよい。
【0050】
代表的な第1級アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、1−デカノール、1−ヘキサデカノール、2−ブテン−1−オール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ペンタエリスリトールなどの炭素数1〜30(好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜15)程度の飽和又は不飽和脂肪族第1級アルコール;シクロペンチルメチルアルコール、シクロヘキシルメチルアルコール、2−シクロヘキシルエチルアルコールなどの飽和又は不飽和脂環式第1級アルコール;ベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、3−フェニルプロピルアルコール、桂皮アルコールなどの芳香族第1級アルコール;2−ヒドロキシメチルピリジンなどの複素環式アルコールが挙げられる。
【0051】
代表的な第2級アルコールとしては、2−プロパノール、s−ブチルアルコール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、2−オクタノール、4−デカノール、2−ヘキサデカノール、2−ペンテン−4−オール、1,2−プロパンジオール、2,3−ブタンジオールや2,3−ペンタンジオールなどのビシナルジオール類などの炭素数3〜30(好ましくは3〜20、さらに好ましくは3〜15)程度の飽和又は不飽和脂肪族第2級アルコール;1−シクロペンチルエタノール、1−シクロヘキシルエタノールなどの、ヒドロキシル基の結合した炭素原子に脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素(シクロアルキル基など)とが結合している第2級アルコール;シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロオクタノール、シクロドデカノール、2−シクロヘキセン−1−オール、2−アダマンタノール、橋頭位にヒドロキシル基を1〜4個有する2−アダマンタノール、アダマンタン環にオキソ基を有する2−アダマンタノールなどの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜15員、特に5〜8員)程度の飽和又は不飽和脂環式第2級アルコール(橋かけ環式第2級アルコールを含む);1−フェニルエタノール、1−フェニルプロパノール、1−フェニルメチルエタノール、ジフェニルメタノールなどの芳香族第2級アルコール;1−(2−ピリジル)エタノールなどの複素環式第2級アルコールなどが含まれる。
【0052】
さらに、代表的なアルコールには、1−アダマンタンメタノール、α−メチル−1−アダマンタンメタノール、α−エチル−1−アダマンタンメタノール、α−イソプロピル−1−アダマンタンメタノール、3−ヒドロキシ−α−メチル−1−アダマンタンメタノール、3−カルボキシ−α−メチル−1−アダマンタンメタノール、α−メチル−3a−パーヒドロインデンメタノール、α−メチル−4a−デカリンメタノール、8a−ヒドロキシ−α−メチル−4a−デカリンメタノール、α−メチル−4a−パーヒドロフルオレンメタノール、α−メチル−4a−パーヒドロアントラセンメタノール、α−メチル−8a−パーヒドロフェナントレンメタノール、α−メチル−2−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンメタノール、6−ヒドロキシ−α−メチル−2−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンメタノール、α−メチル−2a−パーヒドロアセナフテンメタノール、α−メチル−3a−パーヒドロフェナレンメタノール、α−メチル−1−ノルボルナンメタノール、α−メチル−2−ノルボルネン−1−メタノールなどの橋かけ環炭化水素基を有するアルコール(ヒドロキシル基が結合している炭素原子に橋かけ環炭化水素基が結合している化合物など)も含まれる。
【0053】
好ましいアルコールには、第2級アルコール(例えば、2−プロパノール、s−ブチルアルコールなどの脂肪族第2級アルコール;1−シクロヘキシルエタノールなどのヒドロキシル基の結合した炭素原子に脂肪族炭化水素基(例えば、C1-4アルキル基、C6-14アリール基など)と非芳香族性炭素環式基(例えば、C3-15シクロアルキル基又はシクロアルケニル基など)とが結合している第2級アルコール;シクロペンタノール、シクロヘキサノール、2−アダマンタノールなどの3〜15員程度の脂環式第2級アルコール;1−フェニルエタノールなどの芳香族第2級アルコール)、及び前記橋かけ環炭化水素基を有するアルコールが含まれる。
【0054】
前記(A1-1)における第1級若しくは第2級チオールとしては、前記第1級若しくは第2級アルコールに対応するチオールが挙げられる。
【0055】
前記(A1-2)における酸素原子の隣接位に炭素−水素結合を有するエーテルとしては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルブチルエーテル、エチルブチルエーテル、ジアリルエーテル、メチルビニルエーテル、エチルアリルエーテルなどの脂肪族エーテル類;アニソール、フェネトール、ジベンジルエーテル、フェニルベンジルエーテル等の芳香族エーテル類;ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ピラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、クロマン、イソクロマンなどの環状エーテル類(芳香環又は非芳香環が縮合していてもよい)などが挙げられる。
【0056】
前記(A1-2)における硫黄原子の隣接位に炭素−水素結合を有するスルフィドとしては、前記酸素原子の隣接位に炭素−水素結合を有するエーテルに対応するスルフィドが挙げられる。
【0057】
前記(A1-3)における酸素原子の隣接位に炭素−水素結合を有するアセタールとしては、例えば、アルデヒドとアルコールや酸無水物などから誘導されるアセタールが挙げられ、該アセタールには環状アセタール及び非環状アセタールが含まれる。前記アルデヒドとして、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ペンタナール、ヘキサナール、デカナールなどの脂肪族アルデヒド;シクロペンタンカルバルデヒド、シクロヘキサンカルバルデヒドなどの脂環式アルデヒド;ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒドなどの芳香族アルデヒドなどが挙げられる。また、前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、ベンジルアルコールなどの一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジブロモ−1,3−プロパンジオールなどの二価アルコールなどが挙げられる。代表的なアセタールとして、1,3−ジオキソラン、2−メチル−1,3−ジオキソラン、2−エチル−1,3−ジオキソランなどの1,3−ジオキソラン化合物;2−メチル−1,3−ジオキサンなどの1,3−ジオキサン化合物;アセトアルデヒドジメチルアセタールなどのジアルキルアセタール化合物などが例示される。
【0058】
前記(A1-3)における硫黄原子の隣接位に炭素−水素結合を有するチオアセタールとしては、前記酸素原子の隣接位に炭素−水素結合を有するアセタールに対応するチオアセタールが挙げられる。
【0059】
前記炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物(A2)としては、(A2-1)カルボニル基含有化合物、(A2-2)チオカルボニル基含有化合物、(A2-3)イミン類などが挙げられる。カルボニル基含有化合物(A2-1)には、ケトン及びアルデヒドが含まれ、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルs−ブチルケトン、メチルt−ブチルケトン、3−ペンタノン、メチルデシルケトン、エチルイソプロピルケトン、イソプロピルブチルケトン、メチルビニルケトン、メチルイソプロペニルケトン、メチルシクロヘキシルケトン、アセトフェノン、メチル(2−メチルフェニル)ケトン、メチル(2−ピリジル)ケトン、シクロヘキシルフェニルケトンなどの鎖状ケトン類;シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、4−メチルシクロヘキサノン、4−クロロシクロヘキサノン、イソホロン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロデカノン、シクロドデカノン、シクロペンタデカノン、1,3−シクロヘキサンジオン、1,4−シクロヘキサンジオン、1,4−シクロオクタンジオン、2,2−ビス(4−オキソシクロヘキシル)プロパン、ビス(4−オキソシクロヘキシル)メタン、4−(4−オキソシクロヘキシル)シクロヘキサノン、2−アダマンタノンなどの環状ケトン類;ビアセチル(2,3−ブタンジオン)、2,3−ペンタンジオン、3,4−ヘキサンジオン、ビベンゾイル(ベンジル)、アセチルベンゾイル、シクロペンタン−1,2−ジオン、シクロヘキサン−1,2−ジオンなどの1,2−ジカルボニル化合物(α−ジケトン類など);アセトイン、ベンゾインなどのα−ケトアルコール類;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ヘキサナール、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジピンアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド;シクロヘキシルアルデヒド、シトラール、シトロネラールなどの脂環式アルデヒド;ベンズアルデヒド、ニトロベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、サリチルアルデヒド、アニスアルデヒド、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどの芳香族アルデヒド;フルフラール、ニコチンアルデヒドなどの複素環アルデヒドなどが挙げられる。
【0060】
チオカルボニル基含有化合物(A2-2)としては、前記カルボニル基含有化合物(A2-1)に対応するチオカルボニル基含有化合物が挙げられる。
【0061】
イミン類(A2-3)には、前記カルボニル基含有化合物(A2-1)と、アンモニア又はアミン類(例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ベンジルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンなどのアミン;ヒドロキシルアミン、O−メチルヒドロキシルアミンなどのヒドロキシルアミン類;ヒドラジン、メチルヒドラジン、フェニルヒドラジンなどのヒドラジン類など)とから誘導されるイミン類(オキシムやヒドラゾンも含む)が含まれる。
【0062】
前記メチン炭素原子を有する化合物(A3)には、(A3-1)環の構成単位としてメチン基(すなわち、メチン炭素−水素結合)を含む環状化合物、(A3-2)メチン炭素原子を有する鎖状化合物が含まれる。
【0063】
環状化合物(A3-1)には、(A3-1a)少なくとも1つのメチン基を有する橋かけ環式化合物、(A3-1b)環に炭化水素基が結合した非芳香族性環状化合物(脂環式炭化水素など)などが含まれる。なお、前記橋かけ環式化合物には、2つの環が2個の炭素原子を共有している化合物、例えば、縮合多環式芳香族炭化水素類の水素添加生成物なども含まれる。
【0064】
橋かけ環式化合物(A3-1a)としては、例えば、デカリン、ビシクロ[2.2.0]ヘキサン、ビシクロ[2.2.2]オクタン、ビシクロ[3.2.1]オクタン、ビシクロ[4.3.2]ウンデカン、ビシクロ[3.3.3]ウンデカン、ツジョン、カラン、ピナン、ピネン、ボルナン、ボルニレン、ノルボルナン、ノルボルネン、カンファー、ショウノウ酸、カンフェン、トリシクレン、トリシクロ[5.2.1.03,8]デカン、トリシクロ[4.2.1.12,5]デカン、エキソトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、エンドトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、トリシクロ[4.3.1.12,5]ウンデカン、トリシクロ[4.2.2.12,5]ウンデカン、エンドトリシクロ[5.2.2.02,6]ウンデカン、アダマンタン、1−アダマンタノール、1−クロロアダマンタン、1−メチルアダマンタン、1,3−ジメチルアダマンタン、1−メトキシアダマンタン、1−カルボキシアダマンタン、1−メトキシカルボニルアダマンタン、1−ニトロアダマンタン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン、ペルヒドロアントラセン、ペルヒドロアセナフテン、ペルヒドロフェナントレン、ペルヒドロフェナレン、ペルヒドロインデン、キヌクリジンなどの2〜4環式の橋かけ環式炭化水素又は橋かけ複素環化合物及びそれらの誘導体などが挙げられる。これらの橋かけ環式化合物は、橋頭位(2環が2個の原子を共有している場合には接合部位に相当)にメチン炭素原子を有する。
【0065】
環に炭化水素基が結合した非芳香族性環状化合物(A3-1b)としては、1−メチルシクロペンタン、1−メチルシクロヘキサン、リモネン、メンテン、メントール、カルボメントン、メントンなどの、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)程度の炭化水素基(例えば、アルキル基など)が環に結合した3〜15員程度の脂環式炭化水素及びその誘導体などが挙げられる。環に炭化水素基が結合した非芳香族性環状化合物(A3-1b)は、環と前記炭化水素基との結合部位にメチン炭素原子を有する。
【0066】
メチン炭素原子を有する鎖状化合物(A3-2)としては、第3級炭素原子を有する鎖状炭化水素類、例えば、イソブタン、イソペンタン、イソヘキサン、3−メチルペンタン、2,3−ジメチルブタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3,4−ジメチルヘキサン、3−メチルオクタンなどの炭素数4〜20(好ましくは、4〜10)程度の脂肪族炭化水素類およびその誘導体などが例示できる。
【0067】
前記不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物(A4)としては、(A4-1)芳香族性環の隣接位(いわゆるベンジル位)にメチル基又はメチレン基を有する芳香族化合物、(A4-2)不飽和結合(例えば、炭素−炭素不飽和結合、炭素−酸素二重結合など)の隣接位にメチル基又はメチレン基を有する非芳香族性化合物などが挙げられる。
【0068】
前記芳香族性化合物(A4-1)において、芳香族性環は、芳香族炭化水素環、芳香族性複素環の何れであってもよい。芳香族炭化水素環には、ベンゼン環、縮合炭素環(例えば、ナフタレン、アズレン、インダセン、アントラセン、フェナントレン、トリフェニレン、ピレンなどの2〜10個の4〜7員炭素環が縮合した縮合炭素環など)などが含まれる。芳香族性複素環としては、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、フラン、オキサゾール、イソオキサゾールなどの5員環、4−オキソ−4H−ピランなどの6員環、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、4−オキソ−4H−クロメンなどの縮合環など)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾールなどの5員環、4−オキソ−4H−チオピランなどの6員環、ベンゾチオフェンなどの縮合環など)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾールなどの5員環、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジンなどの6員環、インドール、キノリン、アクリジン、ナフチリジン、キナゾリン、プリンなどの縮合環など)などが挙げられる。
【0069】
なお、芳香族性環の隣接位のメチレン基は、前記芳香族性環に縮合した非芳香族性環を構成するメチレン基であってもよい。また、前記(A4-1)において、芳香族性環と隣接する位置にメチル基とメチレン基の両方の基が存在していてもよい。
【0070】
芳香族性環の隣接位にメチル基を有する芳香族化合物としては、例えば、芳香環に1〜6個程度のメチル基が置換した芳香族炭化水素類(例えば、トルエン、キシレン、1−エチル−4−メチルベンゼン、1−エチル−3−メチルベンゼン、1−t−ブチル−4−メチルベンゼン、1−メトキシ−4−メチルベンゼン、メシチレン、デュレン、メチルナフタレン、メチルアントラセン、4,4′−ジメチルビフェニルなど)、複素環に1〜6個程度のメチル基が置換した複素環化合物(例えば、2−メチルフラン、3−メチルフラン、3−メチルチオフェン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、2−クロロ−6−メチルピリジン、5−エチル−2−メチルピリジン、4−メチルインドール、2−メチルキノリン、3−メチルキノリン、4−メチルキノリン、5−メチルキノリン、6−メチルキノリン、7−メチルキノリン、8−メチルキノリンなどの含酸素複素環化合物、含窒素複素環化合物、含硫黄複素環化合物など)などが例示できる。
【0071】
芳香族性環の隣接位にメチレン基を有する芳香族化合物としては、例えば、炭素数2以上のアルキル基又は置換アルキル基を有する芳香族炭化水素類(例えば、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、1,4−ジエチルベンゼン、ジフェニルメタンなど)、炭素数2以上のアルキル基又は置換アルキル基を有する芳香族性複素環化合物(例えば、2−エチルフラン、3−プロピルチオフェン、4−エチルピリジン、4−ブチルキノリンなどの含酸素複素環化合物、含窒素複素環化合物、含硫黄複素環化合物など)、芳香族性環に非芳香族性環が縮合した化合物であって、該非芳香族性環のうち芳香族性環に隣接する部位にメチレン基を有する化合物(ジヒドロナフタレン、インデン、インダン、テトラリン、フルオレン、アセナフテン、フェナレン、インダノン、キサンテン等)などが例示できる。
【0072】
不飽和結合の隣接位にメチル基又はメチレン基を有する非芳香族性化合物(A4-2)には、例えば、(A4-2a)いわゆるアリル位にメチル基又はメチレン基を有する鎖状不飽和炭化水素類、(A4-2b)カルボニル基の隣接位にメチル基又はメチレン基を有する化合物が例示できる。
【0073】
前記鎖状不飽和炭化水素類(A4-2a)としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1,5−ヘキサジエン、1−オクテン、3−オクテン、ウンデカトリエンなどの炭素数3〜20程度の鎖状不飽和炭化水素類が例示できる。前記化合物(A4-2b)には、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、3−ペンタノン、アセトフェノンなどの鎖状ケトン類;シクロヘキサノンなどの環状ケトン類)、カルボン酸又はその誘導体(例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、フェニル酢酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、及びこれらのエステルなど)などが含まれる。
【0074】
前記非芳香族性環状炭化水素(A5)には、(A5-1)シクロアルカン類及び(A5-2)シクロアルケン類が含まれる。
【0075】
シクロアルカン類(A5-1)としては、3〜30員のシクロアルカン環を有する化合物、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロドデカン、シクロテトラデカン、シクロヘキサデカン、シクロテトラコサン、シクロトリアコンタン、及びこれらの誘導体などが例示できる。好ましいシクロアルカン環には、5〜30員、特に5〜20員のシクロアルカン環が含まれる。
【0076】
シクロアルケン類(A5-2)には、3〜30員のシクロアルケン環を有する化合物、例えば、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロヘキセン、1−メチル−シクロヘキセン、イソホロン、シクロヘプテン、シクロドデカエンなどのほか、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエンなどのシクロアルカジエン類、シクロオクタトリエンなどのシクロアルカトリエン類、及びこれらの誘導体などが含まれる。好ましいシクロアルケン類には、3〜20員環、特に3〜12員環を有する化合物が含まれる。
【0077】
前記共役化合物(A6)には、共役ジエン類(A6-1)、α,β−不飽和ニトリル(A6-2)、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(例えば、エステル、アミド、酸無水物等)(A6-3)などが挙げられる。
【0078】
共役ジエン類(A6-1)としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2−クロロブタジエン、2−エチルブタジエンなどが挙げられる。なお、共役ジエン類(A6-1)には、二重結合と三重結合とが共役している化合物、例えば、ビニルアセチレンなども含めるものとする。
【0079】
α,β−不飽和ニトリル(A6-2)としては、例えば、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(A6-3)としては、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなど(メタ)アクリルアミド誘導体などが挙げられる。
【0080】
前記アミン類(A7)としては、第1級または第2級アミン、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、エチレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、ヒドロキシルアミン、エタノールアミンなどの脂肪族アミン;シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミンなどの脂環式アミン;ベンジルアミン、トルイジンなどの芳香族アミン;ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、インドリンなどの環状アミン(芳香族性又は非芳香族性環が縮合していてもよい)等が例示される。
【0081】
前記芳香族炭化水素(A8)としては、ベンゼン、ナフタレン、アセナフチレン、フェナントレン、アントラセン、ナフタセン、アセアンスリレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、ピセン、ペリレン、ペンタセン、コロネン、ピランスレン、オバレンなどの、少なくともベンゼン環を1つ有する芳香族化合物、好ましくは少なくともベンゼン環が複数個(例えば、2〜10個)縮合している縮合多環式芳香族化合物などが挙げられる。これらの芳香族炭化水素は、1又は2以上の置換基を有していてもよい。置換基を有する芳香族炭化水素の具体例として、例えば、2−クロロナフタレン、2−メトキシナフタレン、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン、2−メチルアントラセン、2−t−ブチルアントラセン、2−カルボキシアントラセン、2−エトキシカルボニルアントラセン、2−シアノアントラセン、2−ニトロアントラセン、2−メチルペンタレンなどが挙げられる。また、前記ベンゼン環には、非芳香族性炭素環、芳香族性複素環、又は非芳香族性複素環が縮合していてもよい。
【0082】
前記直鎖状アルカン(A9)としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン等の炭素数1〜30程度(好ましくは炭素数1〜20程度)の直鎖状アルカンが挙げられる。
【0083】
前記オレフィン類(A10)としては、置換基(例えば、ヒドロキシル基、アシルオキシ基等の前記例示の置換基など)を有していてもよいα−オレフィン及び内部オレフィンの何れであってもよく、ジエンなどの炭素−炭素二重結合を複数個有するオレフィン類も含まれる。例えば、オレフィン類(A10)として、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、2,4,4−トリメチル−2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、2,3−ジメチル−2−ブテン、3−ヘキセン、3−ヘキセン−1−オール、2−ヘキセン−1−オール、1−オクテン−3−オール、1−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテン、3−オクテン、4−オクテン、1−ノネン、2−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1−アセトキシ−3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、3−ビニルピリジン、3−ビニルチオフェンなどの鎖状オレフィン類;シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン、シクロウンデセン、シクロドデセン、1,4−シクロヘキサジエン、1,4−シクロヘプタジエン、シクロデカジエン、シクロドデカジエン、リモネン、1−p−メンテン、3−p−メンテン、カルベオール、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、ビシクロ[3.2.1]オクタ−2−エン、α−ピネン、2−ボルネンなどの環状オレフィン類などが挙げられる。
【0084】
上記のラジカルを生成可能な化合物は単独で用いてもよく、同種又は異種のものを2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの化合物を2種以上、特に異種の化合物を2種以上併用すると、例えば酸素などの酸素原子含有ガスと反応させる場合などには、一方の基質が他方の基質の共反応剤(共酸化剤など)として機能し、反応速度が著しく向上することがある。
【0085】
[酸素原子含有反応剤(B)]
酸素原子含有反応剤(B)には、酸素原子を含む種々の反応剤[酸素原子含有ガスなど(窒素酸化物を除く)]が含まれる。このような反応剤として、例えば、酸素、一酸化炭素、硫黄酸化物などが挙げられる。
【0086】
酸素は、分子状酸素、活性酸素の何れであってもよい。分子状酸素は、特に制限されず、純粋な酸素を用いてもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈した酸素や空気を使用してもよい。酸素として分子状酸素を用いる場合が多い。
【0087】
一酸化炭素としては、純粋な一酸化炭素であってもよいが、不活性ガスで希釈して用いてもよい。
【0088】
硫黄酸化物には、SpOq(式中、pは1又は2、qは1〜7の整数を示す)で表される化合物が含まれる。この化合物において、pが1である場合、qは通常1〜4の整数であり、pが2である場合、qは通常3又は7である。硫黄酸化物の代表的な例として、例えば、SO、S2O3、SO2、SO3、S2O7、SO4などが挙げられる。これらの硫黄酸化物は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、三酸化硫黄として三酸化硫黄を含む発煙硫酸を用いてもよい。
【0089】
好ましい硫黄酸化物には、二酸化硫黄(SO2)及び三酸化硫黄(SO3)から選択された少なくとも1種を主成分として含む硫黄酸化物が含まれる。
【0090】
上記の酸素原子含有反応剤を1種又は2種以上選択して使用することにより、前記ラジカルを生成可能な化合物(A)を、例えば、酸化、カルボキシル化、スルホン化でき、酸素原子含有反応剤(B)に由来する酸素原子含有基(例えば、ヒドロキシル基、オキソ基、カルボキシル基、スルホン酸基等)を含む有機化合物を得ることができる。また、2種以上の酸素原子含有反応剤を併用することにより、分子内に、2種以上の異種官能基を導入することができる。なお、この場合、2種以上の酸素原子含有反応剤を同時に用いてもよく、逐次的に用いてもよい。
【0091】
[反応]
反応は溶媒の存在下又は非存在下で行われる。溶媒としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;水;これらの混合溶媒などが挙げられる。溶媒としては、酢酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸類、アセトニトリルやベンゾニトリルなどのニトリル類、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、酢酸エチルなどのエステル類などを用いる場合が多い。
【0092】
酸素原子含有反応剤(B)の使用量は、その種類により異なり、反応性や操作性等を考慮して適宜選択できる。例えば、酸素原子反応剤として酸素を用いる場合(酸化)、酸素の使用量は、化合物(A)1モルに対して0.5モル以上(例えば、1モル以上)、好ましくは1〜100モル、さらに好ましくは2〜50モル程度である。化合物(A)に対して過剰モルの酸素を使用する場合が多い。
【0093】
酸素原子含有反応剤(B)として一酸化炭素と酸素を併用する場合(カルボキシル化)、化合物(A)1モルに対して1モル以上(例えば、1〜100モル程度)の一酸化炭素と0.5モル以上(例えば、0.5〜50モル程度)の酸素を用いることが多い。この場合、一酸化炭素と酸素の割合は、一酸化炭素/酸素(モル比)=1/99〜99.99/0.01、好ましくは10/90〜99/1程度である。
【0094】
酸素原子含有反応剤(B)として硫黄酸化物を用いる場合(スルホン化等)、該硫黄酸化物の使用量は、硫黄酸化物の種類や化合物(A)の種類等に応じて適宜選択できるが、一般には、化合物(A)1モルに対して1〜50モル、好ましくは1.5〜30モル程度の範囲から選択できる。硫黄酸化物の大過剰雰囲気下で反応を行ってもよい。なお、硫黄酸化物(例えば、二酸化硫黄)と酸素とを併用すると、目的化合物の収率が向上する場合がある。この場合、硫黄酸化物(例えば、二酸化硫黄)と酸素の割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/99〜99/1、好ましくは10/90〜90/10、さらに好ましくは前者/後者(モル比)=30/70〜70/30程度である。
【0095】
反応温度は、化合物(A)や酸素原子含有反応剤(B)の種類等に応じて適当に選択できる。例えば、酸素原子含有反応剤(B)として酸素を用いる場合には、反応温度は0〜300℃、好ましくは20〜250℃、さらに好ましくは30〜150℃程度である。特に、アダマンタン類からアダマンタンジオール類を得る場合など、メチン炭素原子を有する化合物(A3)等から対応するヒドロキシ化合物を製造する場合には、反応温度を30〜100℃程度、とりわけ45〜65℃程度の範囲に設定することにより、目的のヒドロキシ化合物の選択率が向上して、該化合物を高い収率で得ることができる。
【0096】
酸素原子含有ガスとして一酸化炭素と酸素とを用いる場合には、反応温度は、例えば0〜200℃程度、好ましくは10〜150℃程度である。また、酸素原子含有反応剤(B)として硫黄酸化物を用いる場合(酸素を併用する場合も含む)の反応温度は、例えば0〜150℃程度、好ましくは10〜125℃程度である。
【0097】
反応圧力は、常圧、加圧下の何れであってもよい。加圧下で行う場合には、通常、0.1〜10MPa、好ましくは0.2〜7MPa程度である。反応は、回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。
【0098】
反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段やこれらを組み合わせることにより分離精製できる。
【0099】
この方法によれば、温和な条件下、酸素原子含有反応剤(B)の種類に応じた反応生成物を収率よく得ることができる。
【0100】
より具体的には、酸素原子含有反応剤(B)として酸素を用いた場合には、酸化反応が進行して対応する酸化生成物が得られる。例えば、化合物(A)として前記ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有するヘテロ原子含有化合物(A1)を用いると、該ヘテロ原子の隣接位の炭素原子が酸化される。例えば、第1級アルコールからは対応するアルデヒド又はカルボン酸が生成し、第2級アルコールからは対応するケトンなどが生成する。また、エーテルからはエステルや酸無水物が生成する。さらに、環状エーテルからはラクトンが生成する。
【0101】
化合物(A)として炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物(A2)を用いた場合には、ヘテロ原子の種類等に応じた酸化反応生成物が得られる。例えば、ケトン類を酸化すると、開裂してカルボン酸等が生成し、例えばシクロヘキサノンなどの環状ケトン類からは、アジピン酸などのジカルボン酸が得られる。また、この場合、第2級アルコール(例えばベンズヒドロール等)などのヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有するヘテロ原子含有化合物(A1)等を共反応剤(共酸化剤)として用いると、温和な条件下でバイヤービリガー型の反応が進行して、環状ケトン類からは対応するラクトン類を、鎖状ケトン類からは対応するエステルをそれぞれ収率よく得ることができる。また、アルデヒド類からは対応するカルボン酸が生成する。
【0102】
また、化合物(A)としてメチン炭素原子を有する化合物(A3)を用いると、メチン炭素にヒドロキシル基が導入されたアルコール誘導体を高い収率で得ることができる。例えば、アダマンタンなどの橋かけ環式炭化水素類(A3-1a)を酸化すると、橋頭位にヒドロキシル基が導入されたアルコール誘導体、例えば、1−アダマンタノール、1,3−アダマンタンジオール及び1,3,5−アダマンタントリオールを高い選択率で得ることができる。イソブタンなどのメチン炭素原子を有する鎖状化合物(A3-2)からは、t−ブタノールなどの第3級アルコールを高い収率で得ることができる。
【0103】
化合物(A)として不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物(A4)を用いると、不飽和結合の隣接位が効率よく酸化されて、アルコールやカルボン酸などが生成する。例えば、不飽和結合の隣接位にメチル基を有する化合物からは、第1級アルコール類又はカルボン酸類を高い収率で得ることができる。具体的には、例えば、トルエンからは安息香酸など、3−メチルピリジンからはニコチン酸など、メチルキノリン類からはキノリンカルボン酸類などが収率よく得られる。また、不飽和結合の隣接位にメチレン基を有する化合物からは、第2級アルコール類、ケトン類、カルボン酸類などを得ることができる。
【0104】
化合物(A)として非芳香族性環状炭化水素(A5)を用いると、環を構成する炭素原子にヒドロキシ基又はオキソ基が導入されたアルコール又はケトン、又は反応条件により、環が酸化的に開裂して対応するジカルボン酸が生成する。例えば、シクロヘキサンからは、条件を適宜選択することにより、シクロヘキシルアルコール、シクロヘキサノン又はアジピン酸を選択性良く得ることができる。
【0105】
化合物(A)として共役化合物(A6)を用いると、その構造により各種化合物が生成する。例えば、共役ジエン類の酸化によりアルケンジオールなどが生成する。具体的には、ブタジエンを酸化すると、2−ブテン−1,4−ジオール、1−ブテン−3,4−ジオールなどが得られる。α,β−不飽和ニトリルやα,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体を酸化すると、α,β−不飽和結合部位が選択的に酸化されて、前記不飽和結合が単結合となり、且つβ位が、ホルミル基、アセタール基(アルコール存在下で反応させた場合)又はアシルオキシ基(カルボン酸存在下で反応させた場合)に変換されるた化合物が得られる。より具体的には、例えば、メタノールの存在下で、アクリロニトリル及びアクリル酸メチルを酸化すると、それぞれ、3,3−ジメトキシプロピオニトリル及び3,3−ジメトキシプロピオン酸メチルが生成する。
【0106】
化合物(A)としてアミン類(A7)を用いると、対応するシッフ塩基、オキシムなどが生成する。アミン類(A7)のなかでも、環状アミンからは対応するラクタムが生成する。
【0107】
また、化合物(A)として芳香族化合物(A8)を用いる場合、不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物(例えばフルオレン等)(A4)などを共反応剤(共酸化剤)として共存させると、対応するキノン類が収率良く生成する。また、直鎖状アルカン(A9)からはアルコールなどが生成する。
【0108】
さらに、化合物(A)としてオレフィン類(A10)を用いる場合、第2級アルコールなどのヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有するヘテロ原子含有化合物(A1)や不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物(A4)などを共反応剤(共酸化剤)として共存させると、温和な条件下でエポキシ化反応が進行して、対応するエポキシドを収率よく得ることができる。
【0109】
酸素原子含有反応剤(B)として一酸化炭素と酸素とを用いた場合には、カルボキシル化反応が円滑に進行し、対応するカルボン酸を収率よく得ることができる。例えば、化合物(A)としてメチン炭素原子を有する化合物(A3)を用いた場合には、該メチン炭素原子にカルボキシル基が導入され、不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物(A4)では、該炭素−水素結合に係る炭素原子にカルボキシル基が導入される。また、シクロヘキサンなどの非芳香族性環状炭化水素(A5)からは、環を構成する炭素原子にカルボキシル基が結合したカルボン酸が生成する。さらに、直鎖アルカン(A9)から対応するカルボン酸が生成する。
【0110】
酸素原子含有反応剤(B)として硫黄酸化物を用いた場合には、スルホン化やスルフィン化反応が進行し、対応する有機硫黄酸又はその塩が得られる。例えば、化合物(A)としてメチン炭素原子を有する化合物(A3)を用いると、該メチン炭素原子に硫黄酸基が導入され、不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物(A4)を用いると、該炭素−水素結合に係る炭素原子に硫黄酸基(スルホン酸基、スルフィン酸基等)が導入される。また、シクロヘキサンなどの非芳香族性環状炭化水素(A5)からは、環を構成する炭素原子に硫黄酸基が結合した有機硫黄酸が生成する。さらに、直鎖アルカン(A9)から対応する有機硫黄酸が生成する。生成した有機硫黄酸は、慣用の方法、例えば、水などの適当な溶媒中で、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩、アミン類、チオ尿素類、イソチオ尿素類などと反応させることにより、対応する有機硫黄酸塩に変換することができる。
【0111】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、特定構造のイミド化合物と窒素酸化物とを組み合わせて触媒として用いるので、ラジカル機構により、酸素原子含有基を含む有機化合物を温和な条件で、しかも効率よく製造することができる。また、温和な条件で反応を行うことができるため、反応の選択性が高く、しかも用いるイミド化合物触媒の失活を抑制できるとともに、アダマンタン等の昇華性の物質を反応成分として用いても、昇華によるトラブルや収率の低下等を防止できる。
【0112】
また、本発明の方法によれば、ヒドロキシル基、オキソ基、カルボキシル基、ニトロ基、スルホン酸基などの酸素原子含有基を有する有機化合物を、非常に温和な条件で簡易に且つ選択性よく製造することができる。
特に、本発明では、酸素を用いる酸化反応においてはアルコールなどの低次酸化生成物を高い選択率で得ることが可能である。
【0113】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0114】
実施例1
アダマンタン3.0g、N−ヒドロキシフタルイミド0.72g(20モル%)、バナジウムアセチルアセトナトV(acac)3 0.023g(0.3モル%)、及び酢酸27.0gをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.10g(10モル%)加え、酸素1気圧(0.1MPa)の雰囲気下、55℃で6時間攪拌した。反応混合物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、1−アダマンタノールが収率35%、1,3−アダマンタンジオールが収率20%、1,3,5−アダマンタントリオールが収率2%、2−アダマンタノンが収率6%で生成していた。アダマンタンの転化率は85%であった。
【0115】
比較例1
二酸化窒素を添加しなかった点以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、反応は進行せず、アダマンタンが100%回収された。
【0116】
実施例2
3−メチルキノリン1ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(20モル%)、及び酢酸5mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.1ミリモル(10モル%)加え、酸素1気圧(0.1MPa)の雰囲気下、110℃で15時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、3−キノリンカルボン酸が収率35%で生成していた。3−メチルキノリンの転化率は70%であった。
【0117】
実施例3
3−メチルキノリン1ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(20モル%)、酢酸コバルト(II)0.02ミリモル(2モル%)、酢酸マンガン(II)0.01ミリモル(1モル%)及び酢酸5mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.1ミリモル(10モル%)加え、酸素1気圧(0.1MPa)の雰囲気下、110℃で15時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、3−キノリンカルボン酸が収率75%で生成していた。3−メチルキノリンの転化率は90%であった。
【0118】
比較例2
二酸化窒素を添加しなかった点以外は実施例3と同様の操作を行ったところ、反応は進行せず、3−メチルキノリンが100%回収された。
【0119】
実施例4
2−メチルキノリン1ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(20モル%)、酢酸コバルト(II)0.02ミリモル(2モル%)、酢酸マンガン(II)0.001ミリモル(0.1モル%)及び酢酸5mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.1ミリモル(10モル%)加え、空気20気圧(2MPa)の雰囲気下、130℃で15時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、2−キノリンカルボン酸が収率49%で生成していた。2−メチルキノリンの転化率は77%であった。
【0120】
実施例5
4−メチルキノリン1ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(20モル%)、酢酸コバルト(II)0.02ミリモル(2モル%)、酢酸マンガン(II)0.001ミリモル(0.1モル%)及び酢酸5mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.1ミリモル(10モル%)加え、空気20気圧(2MPa)の雰囲気下、150℃で5時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、4−キノリンカルボン酸が収率87%で生成していた。4−メチルキノリンの転化率は98%であった。
【0121】
実施例6
6−メチルキノリン1ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(20モル%)、及び酢酸5mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.1ミリモル(10モル%)加え、酸素1気圧(0.1MPa)の雰囲気下、110℃で15時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、6−キノリンカルボン酸が収率19%で生成していた。6−メチルキノリンの転化率は31%であった。
【0122】
実施例7
6−メチルキノリン1ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(20モル%)、酢酸コバルト(II)0.02ミリモル(2モル%)、酢酸マンガン(II)0.001ミリモル(0.1モル%)及び酢酸5mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.1ミリモル(10モル%)加え、酸素1気圧(0.1MPa)の雰囲気下、110℃で15時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、6−キノリンカルボン酸が収率48%で生成していた。6−メチルキノリンの転化率は59%であった。
【0123】
実施例8
7−メチルキノリン1ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(20モル%)、及び酢酸5mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.1ミリモル(10モル%)加え、酸素1気圧(0.1MPa)の雰囲気下、110℃で15時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、7−キノリンカルボン酸が収率54%で生成していた。7−メチルキノリンの転化率は74%であった。
【0124】
実施例9
8−メチルキノリン1ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(20モル%)、及び酢酸5mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.1ミリモル(10モル%)加え、酸素1気圧(0.1MPa)の雰囲気下、110℃で15時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、8−キノリンカルボン酸が収率24%で生成していた。8−メチルキノリンの転化率は27%であった。
【0125】
実施例10
8−メチルキノリン1ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(20モル%)、酢酸コバルト(II)0.02ミリモル(2モル%)、酢酸マンガン(II)0.001ミリモル(0.1モル%)及び酢酸5mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.1ミリモル(10モル%)加え、酸素1気圧(0.1MPa)の雰囲気下、110℃で15時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、8−キノリンカルボン酸が収率35%で生成していた。8−メチルキノリンの転化率は40%であった。
【0126】
実施例11
2−メチルキノリン1ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(20モル%)、及び酢酸5mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.3ミリモル(30モル%)加え、酸素1気圧(0.1MPa)の雰囲気下、110℃で15時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、2−キノリンカルボン酸が収率64%で生成していた。2−メチルキノリンの転化率は70%であった。
【0127】
実施例12
3−メチルピリジン(β−ピコリン)2ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(10モル%)、酢酸コバルト(II)0.01ミリモル(0.5モル%)、酢酸マンガン(II)0.002ミリモル(0.1モル%)及び酢酸2mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.2ミリモル(10モル%)加え、酸素1気圧(0.1MPa)の雰囲気下、100℃で15時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、ニコチン酸が収率46%で生成していた。3−メチルピリジンの転化率は50%であった。
【0128】
実施例13
2−クロロ−6−メチルピリジン2ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(10モル%)、酢酸コバルト(II)0.04ミリモル(2モル%)、酢酸マンガン(II)0.002ミリモル(0.1モル%)及び酢酸7mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.2ミリモル(10モル%)加え、空気20気圧(2MPa)の雰囲気下、150℃で15時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、2−クロロ−6−ピリジンカルボン酸が収率58%で生成していた。2−クロロ−6−メチルピリジンの転化率は64%であった。
【0129】
実施例14
5−エチル−2−メチルピリジン2ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(10モル%)、酢酸コバルト(II)0.04ミリモル(2モル%)、酢酸マンガン(II)0.002ミリモル(0.1モル%)及び酢酸7mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.2ミリモル(10モル%)加え、空気20気圧(2MPa)の雰囲気下、130℃で10時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、5−アセチル−2−メチルピリジンが収率45%で、5−(1−アセトキシエチル)−2−メチルピリジンが収率2%で、2−メチル−5−ピリジンカルボン酸が収率15%で、2,5−ピリジンジカルボン酸が痕跡量生成していた。5−エチル−2−メチルピリジンの転化率は70%であった。
【0130】
実施例15
5−エチル−2−メチルピリジン2ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(10モル%)、酢酸コバルト(II)0.04ミリモル(2モル%)、酢酸マンガン(II)0.002ミリモル(0.1モル%)及び酢酸7mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.2ミリモル(10モル%)加え、空気20気圧(2MPa)の雰囲気下、150℃で5時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、5−アセチル−2−メチルピリジンが収率11%で、5−(1−アセトキシエチル)−2−メチルピリジンが収率7%で、2−メチル−5−ピリジンカルボン酸が収率40%で、2,5−ピリジンジカルボン酸が収率4%で、ニコチン酸が痕跡量生成していた。5−エチル−2−メチルピリジンの転化率は70%であった。
【0131】
実施例16
5−エチル−2−メチルピリジン2ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル(10モル%)、酢酸コバルト(II)0.04ミリモル(2モル%)、酢酸マンガン(II)0.002ミリモル(0.1モル%)及び酢酸7mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.2ミリモル(10モル%)加え、空気20気圧(2MPa)の雰囲気下、180℃で5時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、5−アセチル−2−メチルピリジンが収率5%で、5−(1−アセトキシエチル)−2−メチルピリジンが収率10%で、2−メチル−5−ピリジンカルボン酸が収率16%で、2,5−ピリジンジカルボン酸が収率1%で、ニコチン酸が収率37%で生成していた。5−エチル−2−メチルピリジンの転化率は73%であった。
【0132】
実施例17
3−メチルキノリン1ミリモル、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸イミド0.1ミリモル(10モル%)、酢酸コバルト(II)0.02ミリモル(2モル%)、酢酸マンガン(II)0.001ミリモル(0.1モル%)及び酢酸5mlをフラスコに入れ、これに液化した二酸化窒素(NO2)を0.1ミリモル(10モル%)加え、酸素1気圧(0.1MPa)の雰囲気下、100℃で15時間攪拌した。反応混合物を分析したところ、3−キノリンカルボン酸が収率85%で生成していた。3−メチルキノリンの転化率は95%であった。
Claims (7)
- (i')下記式(I’)
で表される環状イミド骨格を有するイミド化合物と、
(A’)ラジカルを生成可能な化合物として、(A1)ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有するヘテロ原子含有化合物、(A2)炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物、(A3)メチン炭素原子を有する化合物、(A4)不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物、(A5)非芳香族性環状炭化水素、(A6)共役化合物、(A7')第1級または第2級アミン、(A8)芳香族化合物、(A9)直鎖状アルカン、並びに(A10')α−オレフィン及び内部オレフィンからなる群から選択された少なくとも1種の化合物と、
(B’)酸素、一酸化炭素及び硫黄酸化物から選択された少なくとも1種である酸素原子含有反応剤とを、
(ii')ラジカルを生成可能な化合物(A’)1モルに対して0.0001〜0.2モルの窒素酸化物の存在下、反応させて、前記化合物(A’)に前記酸素原子含有反応剤(B’)由来の酸素原子含有基が導入された酸素原子含有基を含む有機化合物を生成させることを特徴とする有機化合物の製造法。 - (A’)ラジカルを生成可能な化合物が、(A3)メチン炭素原子を有する化合物、及び(A4)不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物からなる群から選択された少なくとも1種の化合物である、請求項1記載の有機化合物の製造法。
- (A’)ラジカルを生成可能な化合物が、(A3-1)環の構成単位としてメチン基を含む環状化合物、及び(A4-1)芳香族性環の隣接位にメチル基又はメチレン基を有する芳香族化合物、からなる群から選択された少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2記載の有機化合物の製造法。
- R’が水素原子、ヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基、無機酸からOH基を除した基、アシル基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基からなる群から選択された少なくとも1種の化学基である、請求項1〜3の何れかの項に記載の有機化合物の製造法。
- イミド化合物が、下記式(1’)
- 窒素酸化物が、下記式(2)
NxOy (2)
(式中、xは1又は2、yは1〜6の整数を示す)
で表される化合物である請求項1〜5の何れかの項に記載の有機化合物の製造法。 - 金属化合物を助触媒として用いる請求項1〜6の何れかの項に記載の有機化合物の製造法。
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