JP4046402B2 - 酸化触媒系及びそれを用いた酸化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルコール類、カルボニル化合物、カルボン酸類、キノン類、スルホキシド類などを製造する上で有用な酸化触媒−共酸化剤系、およびこの酸化触媒−共酸化剤系を用いた酸化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
酸化反応は、有機化学工業における最も基本的な反応の一つであるため、種々の酸化法が開発されている。資源及び環境上の観点から、好ましい酸化方法は、分子状酸素又は空気を酸化剤として直接利用する触媒的な酸化法である。
特開平8−38909号公報及び特開平9−327626号公報には、分子状酸素により基質を酸化するための触媒として、特定の構造を有するイミド化合物、又は前記イミド化合物と遷移金属化合物などとで構成された酸化触媒が提案されている。この触媒を用いると、温和な条件下で有機基質を酸化でき、カルボン酸類などの酸化生成物を比較的高い収率で製造することができる。しかし、工業的な観点からすれば、転化率や選択率、及び触媒寿命などの点で、未だ十分満足しうる方法とはいえない。また、遷移金属化合物を用いると、目的酸化生成物の製品に金属が混入しやすい。そのため、金属が物性に悪影響を及ぼすような分野に使用するには、高度な精製が必要となる。さらに、従来の酸素酸化法では、芳香族炭化水素からキノン類を、スルフィド類からスルホキシド類を、それぞれ効率よく生成させることが困難である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、温和な条件下、分子状酸素により、基質を効率よく酸化し、目的酸化生成物を高い選択率で生成させることのできる新規な酸化触媒−共酸化剤系と、それを用いた酸化方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、金属触媒を用いることなく、基質を分子状酸素により高い転化率で酸化できる酸化触媒−共酸化剤系と、それを用いた酸化方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、芳香族炭化水素を分子状酸素により酸化して、高い収率でキノン類を生成させることのできる酸化触媒−共酸化剤系と、それを用いた酸化方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、スルフィド類を分子状酸素により酸化して、高い収率でスルホキシド類を生成させることのできる酸化触媒−共酸化剤系と、それを用いた酸化方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定構造のイミド化合物と、共酸化剤として第1級又は第2級アルコールとを組み合わせて用いると、常圧の酸素雰囲気下で、芳香族炭化水素類やスルフィド類などの被酸化性基質を効率よく酸化できることを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明の酸化触媒−共酸化剤系は、(A)下記式(1)
【化2】
(式中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基を示し、R1及びR2は互いに結合して二重結合、又は芳香族性若しくは非芳香族性の環を形成してもよい。Xは酸素原子又はヒドロキシル基を示し、nは1〜3の整数を示す)
で表される酸化触媒としてのイミド化合物と、(B)共酸化剤としての第1級又は第2級アルコールとで構成されている。
また、本発明の酸化方法では、上記の酸化触媒−共酸化剤系の存在下、基質と分子状酸素とを接触させる。
【0005】
【発明の実施の形態】
[イミド化合物(A)]
前記式(1)に表されるイミド化合物(A)において、置換基R1及びR2のうちハロゲン原子には、ヨウ素、臭素、塩素およびフッ素が含まれる。アルキル基には、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル基などの炭素数1〜10程度の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が含まれる。好ましいアルキル基としては、例えば、炭素数1〜6程度、特に炭素数1〜4程度の低級アルキル基が挙げられる。
【0006】
アリール基には、フェニル、ナフチル基などが含まれ、シクロアルキル基には、シクロペンチル、シクロヘキシル基などが含まれる。アルコキシ基には、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ基などの炭素数1〜10程度、好ましくは炭素数1〜6程度、特に炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基が含まれる。
【0007】
アルコキシカルボニル基には、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル基などのアルコキシ部分の炭素数が1〜10程度のアルコキシカルボニル基が含まれる。好ましいアルコキシカルボニル基にはアルコキシ部分の炭素数が1〜6程度、特に1〜4程度の低級アルコキシカルボニル基が含まれる。
【0008】
アシル基としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル基などの炭素数1〜6程度のアシル基が例示できる。
【0009】
前記置換基R1及びR2は、同一又は異なっていてもよい。また、前記式(1)において、R1及びR2は互いに結合して、二重結合、または芳香族性又は非芳香属性の環を形成してもよい。好ましい芳香族性又は非芳香族性環は5〜12員環、特に6〜10員環程度であり、複素環又は縮合複素環であってもよいが、炭化水素環である場合が多い。このような環には、例えば、非芳香族性脂環式環(シクロヘキサン環などの置換基を有していてもよいシクロアルカン環、シクロヘキセン環などの置換基を有していてもよいシクロアルケン環など)、非芳香族性橋かけ環(5−ノルボルネン環などの置換基を有していてもよい橋かけ式炭化水素環など)、ベンゼン環、ナフタレン環などの置換基を有していてもよい芳香族環(縮合環を含む)が含まれる。前記環は、芳香族環で構成される場合が多い。前記環は、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子などの置換基を有していていもよい。
【0010】
好ましいイミド化合物(A)には、下記式で表される化合物が含まれる。
【化3】
(式中、R3〜R6は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子を示す。R3〜R6は、隣接する基同士が互いに結合して芳香族性又は非芳香族性の環を形成していてもよい。R1、R2およびnは前記に同じ)
置換基R3〜R6において、アルキル基には、前記例示のアルキル基と同様のアルキル基、特に炭素数1〜6程度のアルキル基が含まれ、ハロアルキル基には、トリフルオロメチル基などの炭素数1〜4程度のハロアルキル基、アルコキシ基には、前記と同様のアルコキシ基、特に炭素数1〜4程度の低級アルコキシ基、アルコキシカルボニル基には、前記と同様のアルコキシカルボニル基、特にアルコキシ部分の炭素数が1〜4程度の低級アルコキシカルボニル基が含まれる。また、アシル基としては、前記と同様のアシル基、特に炭素数1〜6程度のアシル基が例示され、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素原子が例示できる。置換基R3〜R6は、通常、水素原子、炭素数1〜4程度の低級アルキル基、カルボキシル基、ニトロ基、ハロゲン原子である場合が多い。R3〜R6が互いに結合して形成する環としては、前記R1及びR2が互いに結合して形成する環と同様であり、特に芳香族性又は非芳香族性の5〜12員環が好ましい。
【0011】
前記一般式(1)において、Xは酸素原子又はヒドロキシル基を示し、窒素原子NとXとの結合は単結合又は二重結合である。nは、通常、1〜3程度、好ましくは1又は2である。式(1)で表される化合物は酸化反応において一種又は二種以上使用できる。
【0012】
前記式(1)で表されるイミド化合物に対応する酸無水物には、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸などの飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸(1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物)、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸1,2−無水物などの飽和又は不飽和非芳香族性環状多価カルボン酸無水物(脂環式多価カルボン酸無水物)、無水ヘット酸、無水ハイミック酸などの橋かけ環式多価カルボン酸無水物(脂環式多価カルボン酸無水物)、無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水ニトロフタル酸、無水トリメット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸無水物、無水ピロメリット酸、無水メリト酸、1,8;4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの芳香族多価カルボン酸無水物が含まれる。
【0013】
好ましいイミド化合物としては、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシマレイン酸イミド、N−ヒドロキシヘキサヒドロフタル酸イミド、N,N′−ジヒドロキシシクロヘキサンテトラカルボン酸イミド、N−ヒドロキシフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラブロモフタル酸イミド、N−ヒドロキシテトラクロロフタル酸イミド、N−ヒドロキシヘット酸イミド、N−ヒドロキシハイミック酸イミド、N−ヒドロキシトリメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシピロメリット酸イミド、N,N′−ジヒドロキシナフタレンテトラカルボン酸イミドなどが挙げられる。特に好ましい化合物は、脂環式多価カルボン酸無水物又は芳香族多価カルボン酸無水物、なかでも芳香族多価カルボン酸無水物から誘導されるN−ヒドロキシイミド化合物、例えば、N−ヒドロキシフタル酸イミドなどが含まれる。
【0014】
前記イミド化合物は、慣用のイミド化反応、例えば、対応する酸無水物とヒドロキシルアミンNH2OHとを反応させ、酸無水物基の開環及び閉環を経てイミド化する方法により調製できる。
【0015】
本発明の方法では、前記式(1)で表される触媒と共に、助触媒として、金属化合物を用いてもよい。
前記金属化合物を構成する金属元素としては、特に限定されず、周期表1〜15族の金属元素の何れであってもよい。なお、本明細書では、ホウ素Bも金属元素に含まれるものとする。例えば、前記金属元素として、周期表1族元素(Li、Na、Kなど)、2族元素(Mg、Ca、Sr、Baなど)、3族元素(Sc、ランタノイド元素、アクチノイド元素など)、4族元素(Ti、Zr、Hfなど)、5族元素(Vなど)、6族元素(Cr、Mo、Wなど)、7族元素(Mnなど)、8族元素(Fe、Ruなど)、9族元素(Co、Rhなど)、10族元素(Ni、Pd、Ptなど)、11族元素(Cuなど)、12族元素(Znなど)、13族元素(B、Al、Inなど)、14族元素(Sn、Pbなど)、15族元素(Sb、Biなど)などが挙げられる。好ましい金属元素には、遷移金属元素(周期表3〜12族元素)が含まれる。なかでも、周期表5〜11族元素、特に、5族及び9族元素が好ましく、とりわけ、Co、Vなどが好ましい。金属元素の原子価は特に制限されず、1〜6価程度であってもよいが、2価又は3価程度である場合が多い。
【0016】
金属化合物としては、前記金属元素の単体、水酸化物、酸化物(複合酸化物を含む)、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、オキソ酸塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩など)、オキソ酸、イソポリ酸、ヘテロポリ酸などの無機化合物;有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、青酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩など)、錯体などの有機化合物が挙げられる。前記錯体を構成する配位子としては、OH(ヒドロキソ)、アルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなど)、アシル(アセチル、プロピオニルなど)、アルコキシカルボニル(メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなど)、アセチルアセトナト、シクロペンタジエニル基、ハロゲン原子(塩素、臭素など)、CO、CN、酸素原子、H2O(アコ)、ホスフィン(トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィンなど)のリン化合物、NH3(アンミン)、NO、NO2(ニトロ)、NO3(ニトラト)、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェナントロリンなどの窒素含有化合物などが挙げられる。
【0017】
金属化合物の具体例としては、例えば、コバルト化合物を例にとると、水酸化コバルト、酸化コバルト、塩化コバルト、臭化コバルト、硝酸コバルト、硫酸コバルト、リン酸コバルトなどの無機化合物;酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルトなどの有機酸塩;コバルトアセチルアセトナトなどの錯体等の2価又は3価のコバルト化合物などが挙げられる。また、バナジウム化合物の例としては、水酸化バナジウム、酸化バナジウム、塩化バナジウム、塩化バナジル、硫酸バナジウム、硫酸バナジル、バナジン酸ナトリウムなどの無機化合物;バナジウムアセチルアセトナト、バナジルアセチルアセトナトなどの錯体等の2〜5価のバナジウム化合物などが挙げられる。他の金属元素の化合物としては、前記コバルト又はバナジウム化合物に対応する化合物などが例示される。金属化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0018】
[第1級又は第2級アルコール(B)]
第1級又は第2級アルコール(B)には、広範囲のアルコールが含まれる。アルコールは、1価、2価又は多価アルコールの何れであってもよい。
【0019】
第1級アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、1−デカノール、1−ヘキサデカノール、2−ブテン−1−オール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ペンタエリスリトールなどの炭素数1〜30(好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜15)程度の飽和又は不飽和脂肪族第1級アルコール;シクロペンチルメチルアルコール、シクロヘキシルメチルアルコール、2−シクロヘキシルエチルアルコールなどの飽和又は不飽和脂環式第1級アルコール;ベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、3−フェニルプロピルアルコール、桂皮アルコールなどの芳香族第1級アルコール;2−ヒドロキシメチルピリジンなどの複素環式アルコールが挙げられる。好ましい第1級アルコールには、脂肪族第1級アルコール(例えば、炭素数1〜20程度の飽和脂肪族第1級アルコールなど)などが含まれる。
【0020】
第2級アルコールとしては、2−プロパノール、s−ブチルアルコール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、4−デカノール、2−ヘキサデカノール、2−ペンテン−4−オールなどの炭素数3〜30(好ましくは3〜20、さらに好ましくは3〜15)程度の飽和又は不飽和脂肪族第2級アルコール;シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロオクタノール、シクロドデカノール、2−シクロヘキセン−1−オールなどの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜15員、特に5〜8員)程度の飽和又は不飽和脂環式第2級アルコール;1−フェニルエタノール、1−フェニルプロパノール、1−フェニルメチルエタノール、ジフェニルメタノールなどの芳香族第2級アルコール;1−(2−ピリジル)エタノールなどの複素環式第2級アルコールなどが含まれる。
【0021】
前記アルコールは、種々の置換基、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基など)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基などを有していてもよい。
【0022】
好ましい第1級又は第2級アルコール(B)には、第2級アルコール(例えば、s−ブチルアルコールなどの脂肪族第2級アルコール、シクロヘキサノールなどの脂環式第2級アルコール、1−フェニルエタノールなどの芳香族第2級アルコール)が含まれる。特に、前記脂環式第2級アルコール(例えば、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなど)などを用いる場合が多い。前記アルコール(B)は単独で又は2種以上を混合して使用できる。なお、本発明の酸化触媒−共酸化剤系は、前記(A)及び(B)成分に加えて、他の触媒成分を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の酸化触媒−共酸化剤系は均一系であってもよく、不均一系であってもよい。また、触媒成分を担体に担持した固体触媒として使用してもよい。担体としては、活性炭、ゼオライト、シリカ、シリカ−アルミナ、ベントナイトなどの多孔質担体を用いる場合が多い。
【0024】
前記イミド化合物(A)の使用量は、広い範囲で選択でき、例えば、被酸化性基質1モルに対して0.0001〜1モル、好ましくは0.001〜0.5モル、さらに好ましくは0.01〜0.30モル程度であり、0.02〜0.25モル程度である場合が多い。なお、前記金属化合物を助触媒として用いる場合の使用量は、例えば、被酸化性基質1モルに対して0.0001〜0.7モル、好ましくは0.001〜0.5モル、さらに好ましくは0.002〜0.1モル程度であり、0.005〜0.05モル程度である場合が多い。前記金属化合物の使用量が多すぎると、反応に悪影響を及ぼす場合がある。
また、第1級又は第2級アルコール(B)の使用量も、反応性および選択率を低下させない範囲で適当に選択でき、例えば、被酸化性基質1モルに対して0.1〜200モル、好ましくは1〜100モル、さらに好ましくは1〜50モル程度であり、2〜30モル程度である場合が多い。第1級又は第2級アルコール(B)を反応溶媒として用いることもできる。
【0025】
なお、イミド化合物(A)に対する第1級又は第2級アルコール(B)の割合は、反応速度や選択率を損なわない程度で選択でき、例えば、第1級又は第2級アルコール(B)/イミド化合物(A)(モル比)=1〜1000、好ましくは10〜500、さらに好ましくは20〜200程度である。
【0026】
このような酸化触媒−共酸化剤系を利用すると、アルコール(B)がイミド化合物(A)及び酸素により酸化されて生成するヒドロペルオキシドが、種々の有機基質の酸化を促進するためか、酸化反応が効率よく進行し、酸化生成物が高い収率で得られる。また、酸化活性が高く、従来の触媒的酸化法では困難であった、例えば、芳香族炭化水素をキノン類に変換する反応、スルフィドをスルホキシドに変換する反応などを円滑に進行させる。
【0027】
[酸化方法]
本発明の酸化方法では、前記酸化触媒−共酸化剤系の存在下、分子状酸素と基質とを接触させて酸化する。前記基質には、分子状酸素により酸化されうる種々の被酸化性化合物が含まれる。
【0028】
好ましい基質として、(a)不飽和結合に隣接する部位に炭素−水素結合を有する化合物、(b)メチン炭素原子を有する化合物、(c)非芳香族性環状炭化水素、(d)ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有する非芳香族性複素環化合物、(e)共役化合物、(f)芳香族炭化水素、(g)チオール類、(h)エーテル類、(i)スルフィド類、(j)アルデヒド若しくはチオアルデヒド類、および(k)アミン類などが挙げられる。これらの化合物は、種々の置換基、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基など)、置換チオ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル基など)、アラルキル基、複素環基などを有していてもよい。
【0029】
(a)不飽和結合に隣接する部位に炭素−水素結合を有する化合物
不飽和結合に隣接する部位に炭素−水素結合を有する化合物(a)としては、(a1)芳香族性環の隣接位(いわゆるベンジル位)にメチル基又はメチレン基を有する芳香族化合物、(a2)不飽和結合(例えば、炭素−炭素不飽和結合、炭素−酸素二重結合など)の隣接位にメチル基又はメチレン基を有する非芳香族性化合物などが挙げられる。
【0030】
前記芳香族性化合物(a1)において、芳香族性環は、芳香族炭化水素環、芳香族性複素環の何れであってもよい。芳香族炭化水素環には、ベンゼン環、縮合炭素環(例えば、ナフタレン、アズレン、インダセン、アントラセン、フェナントレン、トリフェニレン、ピレンなどの2〜10個の4〜7員炭素環が縮合した縮合炭素環など)などが含まれる。芳香族性複素環としては、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、フラン、オキサゾール、イソオキサゾールなどの5員環、4−オキソ−4H−ピランなどの6員環、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、4−オキソ−4H−クロメンなどの縮合環など)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾールなどの5員環、4−オキソ−4H−チオピランなどの6員環、ベンゾチオフェンなどの縮合環など)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾールなどの5員環、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジンなどの6員環、インドール、キノリン、アクリジン、ナフチリジン、キナゾリン、プリンなどの縮合環など)などが挙げられる。
【0031】
なお、芳香族性環の隣接位のメチレン基は、前記芳香族性環に縮合した非芳香族性環を構成するメチレン基であってもよい。また、芳香族性化合物(a1)において、芳香族性環と隣接する位置にメチル基とメチレン基の両方の基が存在していてもよい。
【0032】
芳香族性環の隣接位にメチル基を有する芳香族化合物としては、例えば、芳香環に1〜6個程度のメチル基が置換した芳香族炭化水素類(例えば、トルエン、キシレン、1−エチル−4−メチルベンゼン、1−エチル−3−メチルベンゼン、1−t−ブチル−4−メチルベンゼン、1−メトキシ−4−メチルベンゼン、メシチレン、デュレン、メチルナフタレン、メチルアントラセン、4,4′−ジメチルビフェニルなど)、複素環に1〜6個程度のメチル基が置換した複素環化合物(例えば、2−メチルフラン、3−メチルフラン、3−メチルチオフェン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4−メチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、4−メチルインドール、2−メチルキノリンなど)などが例示できる。
【0033】
芳香族性環の隣接位にメチレン基を有する芳香族化合物としては、例えば、炭素数2以上のアルキル基又は置換アルキル基を有する芳香族炭化水素類(例えば、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、1,4−ジエチルベンゼン、ジフェニルメタンなど)、炭素数2以上のアルキル基又は置換アルキル基を有する芳香族性複素環化合物(例えば、2−エチルフラン、3−プロピルチオフェン、4−エチルピリジン、4−ブチルキノリンなど)、芳香族性環に非芳香族性環が縮合した化合物であって、該非芳香族性環のうち芳香族性環に隣接する部位にメチレン基を有する化合物(ジヒドロナフタレン、インデン、インダン、テトラリン、フルオレン、アセナフテン、フェナレン、インダノン、キサンテン等)などが例示できる。
【0034】
不飽和結合の隣接位にメチル基又はメチレン基を有する非芳香族性化合物(a2)には、例えば、(a2-1)いわゆるアリル位にメチル基又はメチレン基を有する鎖状不飽和炭化水素類、(a2-2)カルボニル基の隣接位にメチル基又はメチレン基を有する化合物が例示できる。
【0035】
前記鎖状不飽和炭化水素類(a2-1)としては、例えば、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1,5−ヘキサジエン、1−オクテン、3−オクテン、ウンデカトリエンなどの炭素数3〜20程度の鎖状不飽和炭化水素類が例示できる。前記化合物(a2-2)には、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、3−ペンタノン、アセトフェノンなどの鎖状ケトン類;シクロヘキサノンなどの環状ケトン類)、カルボン酸又はその誘導体(例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、及びこれらのエステルなど)などが含まれる。
【0036】
不飽和結合に隣接する部位に炭素−水素結合を有する化合物(a)を、前記酸化触媒−共酸化剤系の存在下、分子状酸素により酸化すると、不飽和結合に隣接する部位が効率よく酸化されて、アルコール、カルボニル化合物又はカルボン酸が生成する。例えば、不飽和結合に隣接する部位にメチル基を有する化合物からは、第1級アルコール類、アルデヒド類又はカルボン酸類、特にカルボン酸類を高い収率で得ることができる。具体的には、例えば、トルエンからは安息香酸が収率よく得られる。また、不飽和結合に隣接する部位にメチレン基を有する化合物からは、第2級アルコール類又はケトン類、特にケトン類を高収率で得ることができる。例えば、テトラリンを酸化すると、主としてα−テトラロンが生成し、フルオレンを酸化するとフルオレノンが生成する。さらに、ケトン類を酸化すると、開裂して、アルデヒド又はカルボン酸が生成する場合が多い。特に、シクロヘキサノンなどの環状ケトン類を基質として用いると、例えばアジピン酸などのジカルボン酸が高い収率で得られる。
【0037】
なお、前記鎖状不飽和炭化水素類(a2-1)などのように、炭素−炭素二重結合を有する化合物を酸化すると、酸化条件により、炭素−炭素二重結合に酸素が導入されて、対応するエポキシ化合物が得られる場合がある。
【0038】
本発明の好ましい方法には、メチル基が置換したベンゼン誘導体(例えば、トルエン、キシレンなど)を酸素と接触させて、工業的に有用な化合物であるカルボキシル基を有するベンゼン誘導体(例えば、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸など)を生成させる方法、炭素数2〜6程度のアルキル基が置換した芳香族炭化水素類(例えば、エチルベンゼンなど)を酸素と接触させ、工業的に有用な化合物であるカルボニル基を有するベンゼン誘導体(例えば、アセトフェノンなど)を生成させる方法が含まれる。
【0039】
(b)メチン炭素原子を有する化合物
メチン炭素原子(又は第3級炭素原子)を有する化合物(b)には、(b1)環の構成単位としてメチン基(すなわち、メチン炭素−水素結合)を含む環状化合物、(b2)メチン炭素原子を有する鎖状化合物が含まれる。
【0040】
環状化合物(b1)には、(b1-1)少なくとも1つのメチン基を有する橋かけ環式化合物、(b1-2)環に炭化水素基が結合した非芳香族性環状化合物(脂環式炭化水素など)などが含まれる。なお、前記橋かけ環式化合物には、2つの環が2個の炭素原子を共有している化合物、例えば、縮合多環式芳香族炭化水素類の水素添加生成物なども含まれる。
【0041】
橋かけ環式化合物(b1-1)としては、例えば、デカリン、ビシクロ[2.2.0]ヘキサン、ビシクロ[2.2.2]オクタン、ビシクロ[3.2.1]オクタン、ビシクロ[4.3.2]ウンデカン、ツジョン、カラン、ピナン、ピネン、ボルナン、ボルニレン、ノルボルナン、ノルボルネン、カンファー、ショウノウ酸、カンフェン、トリシクレン、トリシクロ[4.3.1.12,5]ウンデカン、トリシクロ[5.2.1.03,8]デカン、エキソトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、エンドトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、エンドトリシクロ[5.2.2.02,6]ウンデカン、アダマンタン、1−アダマンタノール、1−クロロアダマンタン、1−メチルアダマンタン、1,3−ジメチルアダマンタン、1−メトキシアダマンタン、1−カルボキシアダマンタン、1−メトキシカルボニルアダマンタン、1−ニトロアダマンタン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン、ペルヒドロアントラセン、ペルヒドロアセナフテン、ペルヒドロフェナントレン、ペルヒドロフェナレン、ペルヒドロインデン、キヌクリジンなどの2〜4環式の橋かけ環式炭化水素又は橋かけ複素環化合物及びそれらの誘導体などが挙げられる。これらの橋かけ環式化合物は、橋頭位(2環が2個の原子を共有している場合には接合部位に相当)にメチン炭素原子を有する。
【0042】
環に炭化水素基が結合した非芳香族性環状化合物(b1-2)としては、1−メチルシクロペンタン、1−メチルシクロヘキサン、リモネン、メンテン、メントール、カルボメントン、メントンなどの、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)程度の炭化水素基(例えば、アルキル基など)が環に結合した3〜15員程度の脂環式炭化水素及びその誘導体などが挙げられる。環に炭化水素基が結合した非芳香族性環状化合物(b1-2)は、環と前記炭化水素基との結合部位にメチン炭素原子を有する。
【0043】
メチン炭素原子を有する鎖状化合物(b2)としては、第3級炭素原子を有する鎖状炭化水素類、例えば、イソブタン、イソペンタン、イソヘキサン、3−メチルペンタン、2,3−ジメチルブタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3,4−ジメチルヘキサン、3−メチルオクタンなどの炭素数4〜20(好ましくは、4〜10)程度の脂肪族炭化水素類およびその誘導体などが例示できる。
【0044】
前記酸化触媒−共酸化剤系を利用すると、メチン炭素原子を有する化合物(b)を効率よく酸化でき、メチン炭素にヒドロキシル基が導入されたアルコール誘導体を高い収率で得ることができる。例えば、アダマンタンなどの橋かけ環式炭化水素類(b1-1)を酸化すると、橋頭位にヒドロキシル基が導入されたアルコール誘導体、例えば、1−ヒドロキシアダマンタン(条件により、1,3−ジヒドロキシアダマンタン及び1,3,5−トリヒドロキシアダマンタン)が高い収率で得られる。なお、アダマンタンなどの橋頭位に隣接する部位にメチレン基を有する化合物では、酸化条件により、前記メチレン基にオキソ基が導入されたケトン誘導体(例えば、2−アダマンタノン)が生成する場合がある。また、イソブタンなどのメチン炭素原子を有する鎖状化合物(b2)を酸化すると、t−ブタノールなどの第3級アルコールを高い収率で得ることができる。
【0045】
(c)非芳香族性環状炭化水素
非芳香族性環状炭化水素(c)には、(c1)シクロアルカン類及び(c2)シクロアルケン類が含まれる。
シクロアルカン類(c1)としては、3〜30員のシクロアルカン環を有する化合物、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロドデカン、シクロテトラデカン、シクロヘキサデカン、シクロテトラコサン、シクロトリアコンタン、及びこれらの誘導体などが例示できる。好ましいシクロアルカン環には、5〜30員、特に5〜20員のシクロアルカン環が含まれる。
【0046】
本発明の酸化触媒−共酸化剤系の存在下、このようなシクロアルカン類(c1)を酸化すると、常圧の空気又は酸素雰囲気下であっても、高い収率で、対応するジカルボン酸又はシクロアルカノンが生成する。例えば、シクロヘキサンを酸化すると、高い転化率及び選択率でアジピン酸を得ることができる。また、酸化に対する反応性が小さい8員以上、特に9員以上の大環状シクロアルカン類であっても、酸素に対する反応性が向上し、高い収率でケトン類やジカルボン酸類(特に、大環状モノケトン類、長鎖ジカルボン酸類)を製造できる。例えば、シクロオクタンを酸化すると、シクロオクタノンやスベリン酸が生成する。
【0047】
シクロアルケン類(c2)には、3〜30員のシクロアルケン環を有する化合物、例えば、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロヘキセン、1−メチル−シクロヘキセン、イソホロン、シクロヘプテン、シクロドデカエンなどのほか、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエンなどのシクロアルカジエン類、シクロオクタトリエンなどのシクロアルカトリエン類、及びこれらの誘導体などが含まれる。好ましいシクロアルケン類には、3〜20員環、特に3〜12員環を有する化合物が含まれる。
【0048】
本発明の酸化触媒−共酸化剤系を用いて前記シクロアルケン類(c2)を酸化すると、対応する酸化物、特にシクロアルケノン類やシクロアルケノール類を高い収率で得ることができる。また、反応条件により、炭素−炭素二重結合に酸素が導入された、エポキシ化合物を得ることができる。
【0049】
(d)ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有する非芳香族性複素環化合物ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有する非芳香族性複素環化合物(d)における非芳香族性複素環には、窒素原子、酸素原子及びイオウ原子から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を有する3〜20員(好ましくは5〜12員、さらに好ましくは5又は6員)の複素環などが含まれる。前記複素環には、ベンゼン環、シクロヘキサン環、ピリジン環などの芳香族性又は非芳香族性の環が1又は2以上縮合していてもよい。前記複素環としては、例えば、ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ピラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、インドリン、クロマン、イソクロマンなどが例示される。
【0050】
前記非芳香族性複素環化合物(d)を本発明の酸化触媒−共酸化剤系の存在下で酸化すると、ヘテロ原子の隣接位にヒドロキシル基又はオキソ基が導入され、対応するヒドロキシ基又はカルボニル基含有化合物(例えば、ラクトン、ラクタムなど)を得ることができる。
【0051】
(e)共役化合物
共役化合物(e)には、共役ジエン類(e1)、α,β−不飽和ニトリル(e2)、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(例えば、エステル、アミド、酸無水物等)(e3)などが挙げられる。
【0052】
共役ジエン類(e1)としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2−クロロブタジエン、2−エチルブタジエンなどが挙げられる。なお、共役ジエン類(e1)には、二重結合と三重結合とが共役している化合物、例えば、ビニルアセチレンなども含めるものとする。共役ジエン類(e1)の酸化によりアルケンジオールなどが生成する。例えば、ブタジエンを酸化すると、2−ブテン−1,4−ジオール、1−ブテン−3,4−ジオールなどが得られる。
【0053】
α,β−不飽和ニトリル(e2)としては、例えば、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(e3)としては、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなど(メタ)アクリルアミド誘導体などが挙げられる。これらのα,β−不飽和ニトリル(e2)、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(e3)を酸化すると、α,β−不飽和結合部位が選択的に酸化されて、前記不飽和結合が単結合となり、且つβ位がアセタール基に変換されるた化合物が得られる。より具体的には、例えば、メタノールの存在下で、アクリロニトリル及びアクリル酸メチルを酸化すると、それぞれ、3,3−ジメトキシプロピオニトリル及び3,3−ジメトキシプロピオン酸メチルが生成する。
【0054】
(f)芳香族炭化水素
芳香族炭化水素(f)としては、ベンゼン、ナフタレン、アセナフチレン、フェナントレン、アントラセン、ナフタセン、アセアンスリレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、ピセン、ペリレン、ペンタセン、コロネン、ピランスレン、オバレンなどの、少なくともベンゼン環を1つ有する芳香族化合物、好ましくは少なくともベンゼン環が複数個(例えば、2〜10個)縮合している縮合多環式芳香族化合物などが挙げられる。
【0055】
これらの芳香族炭化水素は、酸化によりキノン環を形成しうる範囲で、1又は2以上の置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、メルカプト基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基など)、置換チオ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、アルキル基(例えば、メチル、エチル、t−ブチル基などのC1-4アルキル基など)、アルケニル基(例えば、アリル基などのC1-4アルケニル基など)、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル基など)、アラルキル基、複素環基などが挙げられる。
【0056】
置換基を有する芳香族炭化水素の具体例として、例えば、2−クロロナフタレン、2−メトキシナフタレン、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン、2−メチルアントラセン、2−t−ブチルアントラセン、2−カルボキシアントラセン、2−エトキシカルボニルアントラセン、2−シアノアントラセン、2−ニトロアントラセン、2−メチルペンタレンなどが挙げられる。
【0057】
また、前記ベンゼン環には、非芳香族性炭素環、芳香族性複素環、非芳香族性複素環が縮合していてもよい。非芳香族性炭素環には、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン環などの3〜15員程度のシクロアルカン環及びシクロアルケン環が含まれる。芳香族性複素環には、フラン、チオフェン、ピロール、オキサゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン環などの、酸素原子、イオウ原子及び窒素原子から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を1〜3個程度有する芳香族性複素環などが含まれる。非芳香族性複素環には、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオフェン、ピロリジン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン環などの酸素原子、イオウ原子及び窒素原子から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を1〜3個程度有する非芳香族性複素環などが含まれる。
【0058】
芳香族炭化水素(f)を本発明の酸化触媒−共酸化剤系を用いて酸化すると、対応するキノン類が高い選択率及び収率で得られる。例えば、アントラセンからアントラキノンを効率よく生成させることができる。この反応は、従来の酸素酸化法では困難であったため、極めて有用である。
【0059】
(g)チオール類
チオール類としては、メタンチオール、エタンチオール、1−プロパンチオール、1−ブタンチオール、1−ヘキサンチオール、1−オクタンチオール、1−デカンチオール、1−プロペンチオール、エチレンチオグリコール、プロピレンチオグリコール、1,3−ブタンジチールなどの脂肪族チオール;シクロペンタンチオール、シクロヘキサンチオール、メチルシクロヘキサンチオール、シクロヘキセン−1−チオールなどの脂環式チオール;フェニルメタンチオール、2−フェニルエタンチオールなどの芳香族チオールなどが挙げられる。
チオール類を酸化すると、反応条件により、対応するジスルフィド及び/又はスルホン酸が生成する。
【0060】
(h)エーテル類
エーテル類としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルブチルエーテル、エチルブチルエーテル、ジアリルエーテル、メチルビニルエーテル、エチルアリルエーテルなどの脂肪族エーテル類;アニソール、フェネトール、ジベンジルエーテル、フェニルベンジルエーテル等の芳香族エーテルなどが挙げられる。
エーテル類を酸化すると、酸素原子の隣接位が酸化されて、対応するエステル又は酸無水物が得られる。
【0061】
(i)スルフィド類
スルフィド類としては、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジイソプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、メチルエチルスルフィド、メチルブチルスルフィド、エチルブチルスルフィド、ジアリルスルフィドなどの脂肪族スルフィド類;メチルフェニルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ジベンジルスルフィド、フェニルベンジルスルフィドなどの芳香族スルフィド類などが挙げられる。
スルフィド類を酸化すると、対応するスルホキシドが高い選択率及び収率で得られる。例えば、ジフェニルスルフィド及びメチルフェニルスルフィド(チオアニソール)を酸化すると、それぞれ、ジフェニルスルホキシド及びメチルフェニルスルホキシドが高収率で生成する。この反応も、従来の酸素酸化反応では困難であったため、非常に有用である。
【0062】
(j)アルデヒド若しくはチオアルデヒド類
アルデヒド類としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ヘキサナール、デカナール、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジピンアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド;ホルミルシクロヘキサン、シトラール、シトロネラールなどの脂環式アルデヒド;ベンズアルデヒド、ニトロベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、サリチルアルデヒド、アニスアルデヒド、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどの芳香族アルデヒド;フルフラール、ニコチンアルデヒドなどの複素環アルデヒドなどが挙げられる。チオアルデヒド類としては、前記アルデヒド類に対応するチオアルデヒド類が挙げられる。
アルデヒド類を酸化すると、対応するカルボン酸が高収率で得られる。
【0063】
(k)アミン類
アミン類(k)としては、第1級または第2級アミン、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、エチレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、ヒドロキシルアミン、エタノールアミンなどの脂肪族アミン;シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミンなどの脂環式アミン;ベンジルアミン、トルイジンなどの芳香族アミンなどが例示される。アミン類は、酸化により対応するシッフ塩基、オキシムなどに変換される。
【0064】
基質の酸化に利用される分子状酸素は、特に制限されず、純粋な酸素を用いてもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈した酸素を使用してもよい。操作性及び安全性のみならず経済性などの点から、空気を使用するのが好ましい。
【0065】
分子状酸素の使用量は、基質および目的化合物の種類に応じて選択でき、通常、基質1モルに対して、0.5モル以上(例えば、1モル以上)、好ましくは1〜100モル、さらに好ましくは2〜50モル程度である。基質に対して過剰モルの分子状酸素を使用する場合が多い。
【0066】
本発明の酸化方法は、通常、有機溶媒中で行われる。有機溶媒としては、例えば、酢酸、プロピオン酸などの有機酸;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;ニトロベンゼン、ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;これらの混合溶媒など挙げられる。溶媒としては、酢酸などの有機酸類、ベンゾニトリルなどのニトリル類、トリフルオロメチルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素などを用いる場合が多い。なお、本発明の方法では、芳香族化合物、例えばベンゾニトリルなどのベンゼン誘導体を用いると、高い転化率が得られる場合が多い。
【0067】
本発明の方法は比較的温和な条件であっても円滑に酸化反応が進行する。反応温度は、基質の種類などに応じて適当に選択でき、例えば、0〜300℃、好ましくは30〜250℃、さらに好ましくは40〜200℃程度であり、通常、50〜150℃程度で反応する場合が多い。なお、基質の種類等によっては、室温などの比較的低温でも酸化反応を円滑に進行させることができる。反応は、常圧または加圧下で行うことができ、加圧下で反応させる場合には、通常、1〜100atm(例えば、1.5〜80atm)、好ましくは2〜70atm程度である。反応時間は、反応温度及び圧力に応じて、例えば、30分〜48時間程度の範囲から適当に選択できる。
【0068】
反応は、分子状酸素の存在下又は分子状酸素の流通下、回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。なお、第1級又は第2級アルコール(B)は、反応により、対応するアルデヒド若しくはケトン、又はカルボン酸に酸化される。
【0069】
反応終了後、反応生成物は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により、容易に分離精製できる。
【0070】
【発明の効果】
本発明の酸化触媒−共酸化剤系及び酸化方法によれば、温和な条件下、分子状酸素により、基質を効率よく酸化し、目的酸化生成物を高い選択率で生成させることができる。また、金属触媒を用いることなく、基質を分子状酸素により高い転化率で酸化できる。さらに、芳香族炭化水素およびスルフィド類を分子状酸素により酸化して、それぞれ、効率よくキノン類およびスルホキシド類を生成させることができる。
【0071】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0072】
実施例1
ジフェニルスルフィド2ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.2ミリモル、シクロヘキサノール10ミリモル、及びベンゾニトリル6mlの混合物を、酸素雰囲気下(1気圧)、80℃で16時間攪拌した。反応液中の生成物をガスクロマトグラフィー分析により調べたところ、ジフェニルスルフィドの転化率90%で、ジフェニルスルホキシドおよびジフェニルスルホンが、それぞれ88%及び7%の選択率で生成していた。
【0073】
実施例2
メチルフェニルスルフィド2ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.4ミリモル、シクロヘキサノール10ミリモル、及びベンゾニトリル6mlの混合物を、酸素雰囲気下(1気圧)、90℃で16時間攪拌した。反応液中の生成物をガスクロマトグラフィー分析により調べたところ、メチルフェニルスルフィドの転化率99%で、メチルフェニルスルホキシドおよびメチルフェニルスルホンが、それぞれ86%及び7%の選択率で生成していた。
【0074】
実施例3
アントラセン2ミリモル、N−ヒドロキシフタルイミド0.4ミリモル、シクロヘキサノール20ミリモル、及びベンゾニトリル6mlの混合物を、酸素雰囲気下(1気圧)、80℃で14時間攪拌した。反応液中の生成物をガスクロマトグラフィー分析により調べたところ、アントラセンの転化率82%で、アントラキノンが91%の選択率で生成していた。
Claims (3)
- 請求項1記載の酸化触媒−共酸化剤系の存在下、基質と分子状酸素とを接触させる酸化方法。
- 基質が、(a)不飽和結合に隣接する部位に炭素−水素結合を有する化合物、(b)メチン炭素原子を有する化合物、(c)非芳香族性環状炭化水素、(d)ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有する非芳香族性複素環化合物、(e)共役化合物、(f)芳香族炭化水素、(g)チオール類、(h)エーテル類、(i)スルフィド類、(j)アルデヒド若しくはチオアルデヒド類、又は(k)アミン類である請求項2記載の酸化方法。
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