JP4997484B2 - フェライト膜とその製造方法、およびそれを用いた電磁雑音抑制体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インダクタンス素子、インピーダンス素子、磁気ヘッド、マイクロ波素子、磁歪素子、及び高周波領域において不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害を抑制するために用いられる電磁干渉抑制体などの高周波磁気デバイスに特に利用価値の高いスピネル型フェライト膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
フェライトめっきとは、例えば、特許文献1に示されているように、固体表面に、金属イオンとして少なくとも第1鉄イオンを含む水溶液を接触させ、固体表面にFeOH+またはこれと他の水酸化金属イオンを吸着させ、続いて吸着したFeOH+を酸化させることによりFeOH2+を得、これが水溶液中の水酸化金属イオンとの間でフェライト結晶化反応を起こし、これによって固体表面にフェライト膜を形成することをいう。
【0003】
従来、この技術を基にフェライト膜の均質化、反応速度の向上を図ったもの(例えば、特許文献2、参照)、固体表面に界面活性を付与して種々の固体にフェライト膜を形成しようとするもの(例えば、特許文献3、参照)、フェライト膜の形成速度の向上に関するもの(例えば、特許文献4、特許文献5、及び特許文献6、参照)がある。
【0004】
フェライトめっきは、膜を形成しようとする固体が前述した水溶液に対して耐性があれば何でも良い。更に、水溶液を介した反応であるため、温度が常温〜水溶液の沸点以下の比較的低温でスピネル型フェライト膜を形成できるという特徴がある。そのため、他のフェライト膜作成技術に比べて、固体の限定範囲が小さい。
【0005】
また、磁気特性を改善する方法としては、磁場中でフェライトめっきを行うことで軟磁気特性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献7、参照)。また、特許文献8では、磁場中でフェライトめっきを行うことで一軸異方性膜が得られることを示している。
【0006】
一方、フェライト薄膜の組成を特定するものとしては、例えば、特許文献9によれば、膜中の重量比Co/Fe=0.001〜0.3で優れた磁気特性が得られると記載されている。
【0007】
また、例えば、特許文献6には、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる後、次に少なくとも酸化剤を含んだ溶液を基体に接触させることを繰り返して、基体表面にフェライト膜を形成することが提案され、それによってフェライト膜の堆積速度が向上するとされている。
【0008】
【特許文献1】
特許第1475891号(特開昭59−11929号公報)
【0009】
【特許文献2】
特許第1868730号(特開昭60−140713号公報)
【0010】
【特許文献3】
特開昭61−030674号公報
【0011】
【特許文献4】
特許第1774864号(特開昭61−179877号公報)
【0012】
【特許文献5】
特許第1979295号(特開昭63−042378号公報)
【0013】
【特許文献6】
特開平02−116631号公報
【0014】
【特許文献7】
特許第2668998号公報
【0015】
【特許文献8】
特開平3−38006号公報
【0016】
【特許文献9】
特開昭60−202522号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、インダクタンス素子、インピーダンス素子、磁気ヘッド、マイクロ波素子、磁歪素子、及び高周波領域における電磁干渉抑制体等への応用という観点からみると軟磁気特性が不十分であり、そのため、各種電子部品等への応用、あるいは適用等に関して大きな課題があった。その解決のためには、具体的には膜の化学組成の最適化、および膜の均質化が重要なポイントとなる。
【0018】
また、一軸異方性を有する膜を上記の応用例のなかで例えばインダクタンス素子に用いる場合、例えばスパイラル状のコイルを用いると、磁性膜の異方性のために素子内部で局所的に磁束密度が低下する部分が生じ、全体としてのインダクタンスが低下するという問題があった。
【0019】
また、前述したように、これまで膜の生成速度の向上に対して種々の改善が提案されているが、工業的な生産性という観点からみると不十分であり、そのため、各種電子部品等への応用、あるいは適用等に関して大きな課題があった。
【0020】
しかし、上記特許文献7及び8においては、明細書の実施例中に「めっき液を別々に供給してもよい」との表記はあるものの実施例ではいずれも複数のめっき液をフェライト結晶化の前に混合してから基体に供給する方法を採用している。そのため、固体表面以外で副次的に形成されたフェライトの微粒子が結晶の成長を阻害することにより、また固体表面に吸着するFeOH+の不均一性によって、均質な結晶の集合体であるフェライト膜を得ることが困難であると推定される。
【0021】
さらに、特許文献9のフェライト膜の用途は磁気記録媒体であり、高保磁力化や高残留磁束密度化を狙った発明であり、インダクタンス素子、インピーダンス素子、磁気ヘッド、マイクロ波素子、磁歪素子、及び高周波領域において不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害を抑制するために用いられる電磁干渉抑制体などの高周波磁気デバイスに要求される特性が明らかに異なる。
【0022】
また、特許文献6には、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液、及び少なくとも酸化剤を含んだ溶液を除去する工程については、明示されていない。
【0023】
そこで、本発明の技術的課題は、フェライトめっき法によって形成されるフェライト膜において、懸かる従来の欠点を解消し、生成速度を向上して工業的な生産性を増し、膜面内において磁気的方向性を持ってない(等方性)極めて均質なフェライト膜とその製造方法とそれを用いた電磁雑音抑制体を提供することにある。
【0024】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、種々検討の結果、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる工程と、少なくとも酸化剤を含んだ酸化液を基体に接触させる工程と、前記反応液及び酸化液の内のフェライト膜生成に寄与しない残分りうちを基体から除去する工程とを備えることによって、生成速度を向上して工業的な生産性を増し、膜を構成する構成要素(結晶粒ないしはそれに類する構成要素)が規則的に配置されてなるフェライト薄膜を得、さらに前記構成要素が一軸異方性または多軸異方性を有するとともに、膜全体として薄膜の面内方向で磁気的に等方的である極めて均質なフェライト薄膜が得られることを見出した。また、前記フェライト膜はNi、Zn、Fe、Oを含有するが、更にCoを含有する事により、軟磁気特性がさらに向上することを見出した。
【0025】
また、フェライトめっき膜を単体で、または支持体上に形成することで電磁雑音抑制体となること、更にフェライトめっき膜を電子配線基板上または半導体集積ウェハーの少なくとも一方の面に直接成膜することで電磁雑音抑制体を実現できることを見出した。
【0026】
即ち、本発明によれば、回転磁界の存在下で成膜したフェライト膜であって、前記フェライト膜は、磁化を有する構成要素である結晶粒ないしはそれに類する構成要素が規則的に配置されてなるとともに、膜面内において磁気的な等方性を有し、さらに、前記フェライト膜は、Ni、Zn、Fe、OおよびCoを含有し、前記フェライト膜のNi、Zn、Fe及びCo成分の含有量は、モル比でCo/(Fe+Ni+Zn+Co)の値が0.01/3以上0.3/3以下である事を特徴とするフェライト膜が得られる。
【0027】
ここで、本発明において、膜を構成する要素(結晶粒)が規則的に配置されてなるフェライト膜とは、例えば、図1(a)に示される柱状の結晶粒ないしは、それに類する構成要素、図1(b)に示される粒状の結晶粒ないしは、それに類する構成要素、図1(c)に示される層状の結晶粒ないしは、それに類する構成要素が膜内で非常に均一に分布しているフェライト膜(薄膜)を呼ぶ。
【0028】
また、本発明によれば、前記フェライト膜において、前記構成要素が一軸異方性または多軸異方性の内、少なくともいずれか一方を有することを特徴とするフェライト膜。
【0029】
また、本発明によれば、前記フェライト膜において、前記構成要素の一軸異方性に起因する磁化容易軸が、前記フェライト膜の厚さ方向に略平行であるか、または前記フェライト膜の面内方向にランダムであることを特徴とするフェライト膜が得られる。
【0030】
また、本発明によれば、前記フェライト膜において、前記一軸異方性を有する構成要素がCoを含有することを特徴とするフェライト膜が得られる。
【0031】
また、本発明によれば、前記フェライト膜において、前記多軸異方性を有する構成要素がNi、Zn、Fe、Oを含有することを特徴とするフェライト膜が得られる。
【0032】
また、本発明によれば、前記いずれか一つのフェライト膜を製造する方法であって、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる第1工程と、少なくとも酸化剤を含んだ酸化液を前記基体に接触させる第2工程と、前記反応液及び酸化液の内のフェライト膜生成に寄与しない残分を前記基体から除去する第3工程とを備え、前記フェライト膜を、回転磁界の存在下で成膜することを特徴とするフェライト膜の製造方法が得られる。
【0034】
また、本発明によれば、前記フェライト膜の製造方法において、前記フェライト膜を前記第1から第3工程までを繰り返すことによって成膜することを特徴とするフェライト膜の製造方法が得られる。
【0035】
また、本発明によれば、前記いずれか一つに記載のフェライト膜の製造方法であって、前記第3工程の前記反応液、及び前記酸化液を前記基体から除去する際、重力、遠心力等によって前記反応液及び前記酸化液に付与される流動性によることを特徴とするフェライト膜の製造方法が得られる。
【0036】
また、本発明によれば、前記いずれかのフェライト膜を備えていることを特徴とする電磁雑音抑制体が得られる。
【0037】
また、本発明によれば、前記いずれかのフェライト膜が支持体上に形成されてなる事を特徴とする電磁雑音抑制体が得られる。
【0038】
また、本発明によれば、前記いずれかのフェライト膜が電子配線基板上に直接成膜されてなる事を特徴とする電磁雑音抑制体が得られる。
【0039】
また、本発明によれば、前記いずれか一つのフェライト膜が、半導体集積ウェハーの少なくとも一方の面に直接成膜されてなる事を特徴とする電磁雑音抑制体が得られる。
【0040】
また、本発明によれば、前記いずれか一つのフェライト膜の製造方法によって形成されたフェライト膜を備えていることを特徴とする電磁雑音抑制体が得られる。
【0041】
また、本発明によれば、前記いずれか一つのフェライト膜の製造方法によって形成されたフェライト膜が支持体上に形成されてなる事を特徴とする電磁雑音抑制体が得られる。
【0042】
また、本発明によれば、前記いずれか一つのフェライト膜の製造方法によって形成されたフェライト膜が電子配線基板上に直接成膜されてなる事を特徴とする電磁雑音抑制体が得られる。
【0044】
また、本発明によれば、前記いずれか一つのフェライト膜の製造方法によって形成されたフェライト膜が、半導体集積ウェハーの少なくとも一方の面に直接成膜されてなる事を特徴とする電磁雑音抑制体。
【0045】
【発明の実施の形態】
【0046】
まず、本発明についてさらに、詳細に説明する。
【0047】
図1は本発明に係るフェライト薄膜の模式図で、(a)は膜を構成する結晶粒もしくはそれに類する構成要素が柱状、(b)は膜を構成する結晶粒もしくはそれに類する構成要素が粒状、(c)は膜を構成する結晶粒もしくはそれに類する構成要素が層状の場合を夫々示している。
【0048】
図1(a)に示すように、フェライト薄膜は、柱状の膜を構成する結晶粒もしくはそれに類する構成要素が膜内で非常に均一に分布している。
【0049】
図1(b)の場合においては、フェライト薄膜は、粒状の膜を構成する結晶粒もしくはそれに類する構成要素が膜内で非常に均一に分布している。
【0050】
図1(c)の場合においては、フェライト薄膜は、層状の膜を構成する結晶粒もしくはそれに類する構成要素が膜内で非常に均一に分布している。
【0051】
本発明においては、フェライト膜を構成する構成要素、例えば、結晶粒ないしはそれに類する構成要素が規則的に配置されてなるフェライト薄膜を得、さらに前記構成要素が一軸異方性または多軸異方性を有するとともに、膜全体として薄膜の面内方向で磁気的に等方的である極めて均質なフェライト薄膜が得られ、また前記フェライト薄膜はNi、Zn、Fe、Oを含有するが、更にCoを含有する事により軟磁気特性を向上させるものである。
【0052】
ここで、本発明に係わるフェライト膜中に含まれるCo量はモル比でCo/(Fe+Ni+Zn+Co)の値が0/3以上0.3/3以下であり、0.01/3〜0.1/3程度が最も好ましい。
【0053】
また、本発明のフェライト膜の製造方法において、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる工程と、少なくとも酸化剤を含んだ酸化液を基体に接触させる工程と、前記反応液及び酸化液の内のフェライト膜生成に寄与しない残分りうちを基体から除去する工程とを備えることによって、生成速度を向上して工業的な生産性を増し、膜を構成する構成要素が規則的に配置され、膜面内で磁気的に等方的な極めて均質なフェライト薄膜を得るための製造方法が得られる。
【0054】
さらに本製造方法は上記の工程に加えて反応液と酸化液を基体表面に回転磁場中で接触させることによっても得られる。
【0055】
本発明が得られた原因は以下の通りと考えられる。フェライトめっきによるフェライト膜は、前述のように固体表面を基点とした結晶成長によって形成される。その際、フェライト膜は、一軸異方性または多軸異方性を有する構成要素(結晶粒ないしはそれに類する構成要素)が規則的に配置されてなるフェライト薄膜であるが、膜全体として膜面内で磁気的に等方的であるのは、前記構成要素の一軸異方性を与える結晶的な方位がランダムであるかまたは膜面に垂直であるためであると考えられる。
【0056】
本発明において、前記構成要素が多軸異方性を有すればよい。また、本発明において、前記構成要素が一軸異方性を有する場合、その容易軸方向は膜面に垂直であればよい。ただし、前記構成要素が一軸異方性を有し、その容易軸が膜面に垂直でない場合でも、その向きをランダムに配置できれば膜全体として磁気的に等方的な膜が得られる。また、一軸異方性を有しランダムに配置された前記構成要素と多軸異方性を有する前記構成要素が混在してもよい。
【0057】
本発明によれば、例えば、反応液と酸化液を基体表面に回転磁場中で接触させることによって、個々が一軸異方性または多軸異方性を有する前記構成要素の異方性の方向が磁界に誘導されて膜面内でランダムに向き、膜全体として膜面内で磁気的に等方的な膜が得られると考えられる。
【0058】
本発明における反応液、酸化液を除去する工程が、フェライトめっき膜の生成速度を向上し、かつ均質な柱状結晶とすることの原因の詳細は明らかとなっていない。しかし、反応液、酸化液を除去する工程が、固体表面以外での副次的なフェライト微粒子の形成を抑制し、また固体表面に均一にFeOH+を吸着させるものと考えられる。
【0059】
前述したように、例えば、上記特許文献7では磁場中でフェライトめっきを行うことで軟磁気特性を向上させる方法を示しており、特許文献8では磁場中でフェライトめっきを行うことで一軸異方性膜が得られることを示している。
【0060】
しかし、特許文献の実施例中に「めっき液を別々に供給してもよい」との表記はあるものの実施例ではいずれも複数のめっき液をフェライト結晶化の前に混合してから基体に供給する方法を採用している。そのため、固体表面以外で副次的に形成されたフェライトの微粒子が結晶の成長を阻害することにより、また固体表面に吸着するFeOH+の不均一性によって、均質な結晶の集合体であるフェライト膜を得ることが困難であると推定される。また、印加する磁界は一方向であるため、本発明とは異なる。
【0061】
例えば、特許文献9によれば、膜中の重量比Co/Fe=0.001〜0.3で優れた磁気特性が得られると記載されているが、用途は磁気記録媒体であり、高保磁力化や高残留磁束密度化を狙った発明であり、本発明とは用途と方向性が明らかに異なる。
【0062】
例えば、上記特許文献6によれば、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる後、次に少なくとも酸化剤を含んだ溶液を基体に接触させることを繰り返して、基体表面にフェライト膜を形成することが提案され、それによってフェライト膜の堆積速度が向上するとされている。
【0063】
しかし、上記特許文献6には、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液、及び少なくとも酸化剤を含んだ溶液を除去する工程については明示されていない。
【0064】
本発明者等の検討によれば、この少なくとも第一鉄イオンを含む反応液、及び少なくとも酸化剤を含んだ溶液を除去する工程が、フェライトめっき膜の生成速度を向上し、かつ均質な結晶とすることに対して極めて重要、不可欠である。
【0065】
また、本発明によるフェライトめっき膜は高周波帯域における優れた磁気損失特性により、単体または支持体上に形成することで電磁雑音抑制体として使用でき、更にフェライトめっき膜を電子配線基板上または半導体集積ウェハーの少なくとも一方の面に直接成膜することにより、電磁雑音抑制体を兼ね備えた電子配線基板または半導体集積ウェハーを実現することができる。
【0066】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0067】
図2は本発明の第1の実施の形態によるめっき装置の概略構成図である。図3は図2のめっき装置を基体に垂直な方向から見たときの配置図である。
【0068】
図2及び図3を参照すると、回転台9の上にフェライト膜を形成する基体6が設置されている。回転台9の両側には、磁石5が配置され、基体6に磁界を印加する役割を担う。また、磁石5は回転台9とは独立に固定されており、回転台9の回転に関わらず一方向に磁界が印加される。基体6の上方には、夫々にタンク7,8に貯蔵されためっき液を基体6に供給するために、これらのタンク7,8に接続されたノズル3,4が夫々設けられている。
【0069】
前述しためっき工程における反応液、酸化液の除去を効率よく行うために必要な液は幾つかに分けて準備する方が良い。また、図2及び図3では、めっきに必要な液を二つに分けた場合を示している。
【0070】
タンク7,8に貯蔵された溶液は、ノズル3,4を介して基体6に供給される。その際、例えば、ノズル3を介して基体6に溶液が供給された後、供給された溶液が回転による遠心力で除去され、ノズル4を介して基体6に供給された溶液が、回転による遠心力で除去されることを繰り返す。
【0071】
図4は比較例に用いた装置構成の概略を示す正面図、図5は図4の装置の垂直上方から眺めたときの配置図である。
【0072】
図4及び図5を参照すると、回転台9の上にはフェライト膜を形成する基体6が設置される。磁石5も同じく回転台9の上に置かれ、基体6と共に回転し、基体6に磁界を印加する役割を担う。基体6にかかる磁界は図2の場合と等しくなるように調整してある。
【0073】
図6は参考例に係るめっき装置の構成を示す概略正面図であり、反応液、及び酸化液を基体から除去する際、重力によって反応液、酸化液に付与される流動性による場合を示している。図6においても、図2と同様に、タンク7,8に貯蔵された溶液は、ノズル3,4を介して傾斜台10に設置された基体6に供給される。その際、例えば、ノズル3を介して基体6に溶液が供給された後、重力によって溶液に付与される流動性によって供給された溶液が除去され、ノズル4を介して基体6に溶液が供給された後、重力によって溶液に付与される流動性によって供給された溶液が除去されることを繰り返す。
【0074】
また、本発明においては、一方の溶液が供給された後、供給された溶液が除去され、他方の溶液が供給された後、供給された溶液が除去される工程の繰り返しの例を示したが、二つの溶液が同時に供給されても構わない。
【0075】
次に本発明のフェライト薄膜の作製の具体例について説明する。
【0076】
(例1)
図2及び図3に示す様な装置の回転台9の上にプラズマ処理により、基体6として親水化処理をしたガラス板を設置し150rpmで回転させながら脱酸素イオン交換水を供給しながら90℃まで加熱した。ついで、装置内にN2ガスを導入し脱酸素雰囲気を形成した。反応液は2種類準備した。脱酸素イオン交換水中にFeCl2・4H2O、NiCl2・6H2O、ZnCl2、CoCl2・6H2Oをそれぞれ3.3, 1.3, 0.03, 0.1g/L溶かしたものを反応液Aとした。脱酸素イオン交換水中にFeCl2・4H2O、NiCl2・6H2O、ZnCl2をそれぞれ3.3, 1.3, 0.03 g/L溶かしたものを反応液Bとした。前記反応液A、Bのいずれかと脱酸素イオン交換水中にNaNO2とCH3COONH4をそれぞれ0.3, 5.0g/L溶かした酸化液をノズルによりそれぞれ30ml/minの流量で約30分供給した。本装置においては基体表面には約50Oeの磁界が膜面に略平行に印加されており、また、磁石は回転テーブルとは独立して固定されているため、基体は回転磁界中に置かれた場合とほぼ同じ効果を得ると考えられる。その後、取り出したガラス基板の板上には反応液A、Bいずれを用いた場合にも黒色鏡面膜が形成されており、反応液Aを用いた場合はNi,Zn,Fe,Co,O、反応液Bを用いた場合はNi,Zn,Fe,Oからなるフェライトであることを確認した。反応液Aを用いた場合のフェライト膜中に含まれるCo量はモル比でCo/(Fe+Ni+Zn+Co)の値が0.03/3だった。作製したフェライト膜の磁化曲線を測定したところ、反応液A、反応液Bいずれの反応液を用いた場合も膜面内のいずれの方向でも磁化曲線はほぼ同じ形状であり、薄膜の面内方向で磁気的に等方的であるフェライト薄膜が得られた。得られた膜の透磁率の実部(μ’)と虚部(μ”)を測定して以下の表1の結果が得られた。
【0077】
【表1】
【0078】
いずれの膜も優れた軟磁気特性を示しているが、反応液Aを用いた方がμ’の値が高く、かつμ”も非常に広い周波数範囲で高い値を保ち優れた特性を示した。
【0079】
(例2)
図2及び図3に示す様な装置の磁石を取り外し、上記本発明の例1と同じ条件で製膜した。作製したフェライト膜の磁化曲線を測定したところ、反応液A、反応液Bいずれの反応液を用いた場合も膜面内のいずれの方向でも磁化曲線はほぼ同じ形状であり、薄膜の面内方向で磁気的に等方的であるフェライト薄膜が得られた。得られた膜の透磁率の実部(μ’)と虚部(μ”)を測定して以下の表2の結果が得られた。
【0080】
【表2】
【0081】
いずれの膜も優れた軟磁気特性を示しているが、反応液Aを用いた方がμ’の値が高く、かつμ”も非常に広い周波数範囲で高い値を保ち優れた特性を示した。
【0082】
(比較例1)
比較のため図4及び図5に示す様な装置を用いて、上記本発明の例1と同じ条件で製膜した。基体表面には約50Oeの磁界が印加されていることを確認した。その後、取り出したガラス基板の板上には反応液A、Bいずれを用いた場合にも黒色鏡面膜が形成されており、反応液Aを用いた場合はNi,Zn,Fe,Co,O、反応液Bを用いた場合はNi,Zn,Fe,Oからなるフェライトであることを確認した。反応液Aを用いた場合のフェライト膜中に含まれるCo量はモル比でCo/(Fe+Ni+Zn+Co)の値が0.03/3だった。反応液A、反応液Bいずれの反応液を用いた場合も磁場方向に平行な方向の磁化曲線は磁化容易方向である形状であった。また、反応液A、反応液Bいずれの反応液を用いた場合も磁場に垂直な方向の磁化曲線は磁化困難方向のヒステリシスループを描き、特定の方向に磁化容易方向を有する一軸異方性のフェライト膜であった。ただし、反応液Aを用いた膜の方が磁化困難方向と磁化容易方向のヒステリシスループの形状の違いが顕著であった。
【0083】
(参考例)
図6に示すような装置の傾斜台10の上にプラズマ処理により親水化処理をした基体6としてガラス板を設置し脱酸素イオン交換水を供給しながら90℃まで加熱した。ついで、装置内にN2ガスを導入し脱酸素雰囲気を形成した。反応液と酸化液は、本発明の例1と同じものを準備した。反応液、酸化液の流量を30ml/minに調整後、反応液A、Bのいずれかをノズルより0.5s供給した後、重力によって反応液に付与される流動性によって反応液を除去し、酸化液をノズルより0.5s供給した後、重力によって反応液に付与される流動性によって反応液を除去することを1サイクルとして、2000サイクル繰り返した。その後、取り出したガラス基板の板上には反応液A、Bいずれを用いた場合にも黒色鏡面膜が形成されており、反応液Aを用いた場合はNi,Zn,Fe,Co,O、反応液Bを用いた場合はNi,Zn,Fe,Oからなるフェライトであることを確認した。反応液Aを用いた場合のフェライト膜中に含まれるCo量はモル比でCo/(Fe+Ni+Zn+Co)の値が0.03/3だった。作製したフェライト膜の磁化曲線を測定したところ、反応液A、反応液Bいずれの反応液を用いた場合も膜面内のいずれの方向でも磁化曲線はほぼ同じ形状であり、薄膜の面内方向で磁気的に等方的であるフェライト薄膜が得られた。得られた膜の透磁率の実部(μ’)と虚部(μ”)を測定して以下の表3の結果が得られた。
【0084】
【表3】
【0085】
いずれの膜も優れた軟磁気特性を示しているが、反応液Aを用いた方がμ’の値が高く、かつμ”も非常に広い周波数範囲で高い値を保ち優れた特性を示した。
【0086】
本発明の実施例において、反応液、酸化液の除去は遠心力または基体の傾斜により付与したが、反応液、酸化液が均一に除去できるのであれば、不活性ガス、もしくは酸素を含有した不活性ガスを供給する等によって付与される流動性によって行っても構わない。
【0087】
また、本発明の例1において、膜の構成要素(結晶粒)の異方性の向きをランダムにする手段として回転磁界を用いたが、たとえば基体に用いる物質の結晶配向性や表面粗さの最適化など、その他の手段を用いても構わない。
【0088】
(例4)
本発明により得られたフェライト薄膜の電磁雑音抑制効果を図7に示す評価系を用いて確認した。図7を参照すると、マイクロストリップライン(MSL)12を、フェライト薄膜形成時の基体および伝送線路として用いている。このMSL12は、厚さ1.6mm、80mm角のガラスエポキシ基板12aの表面中央部に幅約3mmの中心導体12bを全幅80mmに渡って形成し、裏面はグラウンド導体12cをなし、その特性インピーダンスは50Ωである。さらにMSL12の表面には、略全面に渡り本発明の例1において反応液Bにより得られたフェライト薄膜14を直接形成してある。
【0089】
測定は、MSL12の両端を、同軸ケーブル15を介してネットワークアナライザ11に接続し、MSL12単体での伝送特性を基準にMSL12上に試料を配置した場合の伝送特性を求めたものである。
【0090】
図8は得られた伝送特性を示す図であり、図8(a)は反射特性(S11)、図8(b)はMSL12自体の透過損失分を差し引いた透過特性(ΔS21)を示している。図8(a)に示すように、反射特性(S11)は、フェライト薄膜試料を大面積に形成したにもかかわらず十分に低い値であり、例えば実際の電子回路に用いても伝送信号に悪影響を及ぼすことは無いレベルだと考えられる。
【0091】
図8(b)に示すように、MSL12自体の透過損失分を差し引いた透過特性(ΔS21)においては、高周波側での大きな減衰が確認できる。これらの結果より、本発明によるフェライト薄膜を伝送線路に形成することで、電子機器内で生じる高周波のノイズを減衰させる電磁雑音抑制体として有効であることがわかる。さらにこの特性は薄膜試料の面積、膜厚やその組成を変えることで所望の特性に調整することが可能である。
【0092】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、フェライト膜を構成する構成要素(結晶粒ないしはそれに類する構成要素)が規則的に配置されてなるフェライト薄膜を得、さらに前記構成要素が一軸異方性または多軸異方性を有するとともに、膜全体として薄膜の面内方向で磁気的に等方的である極めて均質なフェライト膜が得られる。
【0093】
また、本発明によれば、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる工程と、少なくとも酸化剤を含んだ酸化液を基体に接触させる工程と、前記反応液及び酸化液の内のフェライト膜生成に寄与しない残分りうちを基体から除去する工程とを備えることによって、生成速度を向上して工業的な生産性を増し、膜を構成する構成要素が規則的に配置され、膜面内で磁気的に等方的な極めて均質なフェライト膜を得るための製造方法が得られ、工業的な利用価値は大である。
【0094】
また、本発明によるフェライトめっき膜を単体または支持体上に形成することで、あるいは、電子配線基板上または半導体集積ウェハーの少なくとも一方の面に直接成膜することで電磁雑音抑制体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るフェライト薄膜の模式図で、(a)は膜を構成する結晶粒もしくはそれに類する構成要素が柱状、(b)は膜を構成する結晶粒もしくはそれに類する構成要素が粒状、(c)は膜を構成する結晶粒もしくはそれに類する構成要素が層状の場合を夫々示している。
【図2】 本発明の第1の実施の形態による装置の概略正面図である。
【図3】 図2の装置を基体に垂直な方向から見たときの配置図である。
【図4】 比較例に用いた装置の正面概略図である。
【図5】 図4の装置を基体に垂直な方向から見たときの配置図である。
【図6】 参考例に係る装置の概略図である。
【図7】 本発明の実施の形態により得られたフェライト薄膜の電磁雑音抑制効果の評価系の概略図である。
【図8】 本発明の実施の形態によるフェライト薄膜の電磁雑音抑制効果の評価例である。
【符号の説明】
1 膜を構成する構成要素
2 基体
3,4 ノズル
5 磁石
6 基体
7、8 タンク
9 回転台
10 傾斜台
11 磁石支持台
12 マイクロストリップライン(MSL)
13 ネットワークアナライザ
14 フェライト薄膜
15 同軸ケーブル
Claims (16)
- 回転磁界の存在下で成膜したフェライト膜であって、
前記フェライト膜は、磁化を有する構成要素である結晶粒ないしはそれに類する構成要素が規則的に配置されてなるとともに、膜面内において磁気的な等方性を有し、さらに、前記フェライト膜は、Ni、Zn、Fe、OおよびCoを含有し、前記フェライト膜のNi、Zn、Fe及びCo成分の含有量は、モル比でCo/(Fe+Ni+Zn+Co)の値が0.01/3以上0.3/3以下である事を特徴とするフェライト膜。 - 請求項1記載のフェライト膜において、前記構成要素が一軸異方性または多軸異方性の内、少なくともいずれか一方を有することを特徴とするフェライト膜。
- 請求項2記載のフェライト膜において、前記構成要素の一軸異方性に起因する磁化容易軸が、前記フェライト膜の厚さ方向に略平行であるか、または前記フェライト膜の面内方向にランダムであることを特徴とするフェライト膜。
- 請求項2又は3に記載のフェライト膜において、前記一軸異方性を有する構成要素がCoを含有することを特徴とするフェライト膜。
- 請求項2に記載のフェライト膜において、前記多軸異方性を有する構成要素がNi、Zn、Fe、Oを含有することを特徴とするフェライト膜。
- 請求項1乃至5の内のいずれか一つに記載のフェライト膜を製造する方法であって、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる第1工程と、少なくとも酸化剤を含んだ酸化液を前記基体に接触させる第2工程と、前記反応液及び酸化液の内のフェライト膜生成に寄与しない残分を前記基体から除去する第3工程とを備え、前記フェライト膜を、回転磁界の存在下で成膜することを特徴とするフェライト膜の製造方法。
- 請求項6に記載のフェライト膜の製造方法において、前記フェライト膜を前記第1から第3工程までを繰り返すことによって成膜することを特徴とするフェライト膜の製造方法。
- 請求項6又は7に記載のフェライト膜の製造方法であって、前記第3工程の前記反応液、及び前記酸化液を前記基体から除去する際、重力、遠心力等によって前記反応液及び前記酸化液に付与される流動性によることを特徴とするフェライト膜の製造方法。
- 請求項1乃至5の内のいずれか一つに記載のフェライト膜を備えていることを特徴とする電磁雑音抑制体。
- 請求項1乃至5の内のいずれか一つに記載のフェライト膜が支持体上に形成されてなる事を特徴とする電磁雑音抑制体。
- 請求項1乃至5の内のいずれか一つに記載のフェライト膜が電子配線基板上に直接成膜されてなる事を特徴とする電磁雑音抑制体。
- 請求項1乃至5の内のいずれか一つに記載のフェライト膜が、半導体集積ウェハーの少なくとも一方の面に直接成膜されてなる事を特徴とする電磁雑音抑制体。
- 請求項6乃至8の内のいずれか一つに記載のフェライト膜の製造方法によって形成されたフェライト膜を備えていることを特徴とする電磁雑音抑制体。
- 請求項6乃至8の内のいずれか一つに記載のフェライト膜の製造方法によって形成されたフェライト膜が支持体上に形成されてなる事を特徴とする電磁雑音抑制体。
- 請求項6乃至8の内のいずれか一つに記載のフェライト膜の製造方法によって形成されたフェライト膜が電子配線基板上に直接成膜されてなる事を特徴とする電磁雑音抑制体。
- 請求項6乃至8の内のいずれか一つに記載のフェライト膜の製造方法によって形成されたフェライト膜が、半導体集積ウェハーの少なくとも一方の面に直接成膜されてなる事を特徴とする電磁雑音抑制体。
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