JP4996694B2 - ねじ切りフライス - Google Patents
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Description
【0001】
本発明はねじ切りフライスに係り、特に、工具のビビリ振動が抑制されて優れた加工精度が得られるねじ切りフライスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
外周部にリードの無い凸条が軸方向に一定のピッチで多数設けられるとともに、その凸条と交差するように複数の溝が設けられることにより複数のランドに分断され、そのランドの周方向の一端にそれぞれその溝に沿って切れ刃が形成されているねじ切りフライスが知られている(特許文献1参照)。そして、このようなねじ切りフライスによれば、NCマシニングセンタなどにより、軸心まわりに回転駆動するとともにねじ素材に対して相対的に公転させつつ軸方向へリード送りすることにより、単一の工具を用いて上記凸条に対応する溝断面を有する種々の径寸法のおねじやめねじを切削加工することができる。
【特許文献1】
特開平9−192930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来のねじ切りフライスは、複数の切れ刃が互いに等しい一定のリードで、且つ工具の軸心まわりにおいて等間隔で設けられているため、ねじを切削加工する際に一定の周期で切削抵抗が増減することにより振動が発生し、且つ共振により増幅されることによりビビリ振動が生じて、ねじのフランク等に波形状の凹凸が生じるなどして加工精度が低下したり異音が発生したりすることがあり、このようなビビリ振動を防止するために切削条件を下げることを余儀なくされていた。
【0004】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、種々の切削条件下で工具のビビリ振動が抑制され、優れた加工精度でねじを切削加工できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
[0005]
かかる目的を達成するために、第1発明は、外周部に、形成すべきめねじのねじ溝に対応する断面形状のリードの無い凸条が軸方向に一定のピッチで多数設けられるとともに、その凸条と交差するように複数の溝が設けられることにより複数のランドに分断され、そのランドの周方向の一端にそれぞれその溝に沿って切れ刃が形成されているねじ切りフライスにおいて、前記複数の切れ刃は、何れも軸心まわりの同じ方向にねじれているか軸心と平行であるとともに、それぞれ一定のリードで設けられている一方、少なくとも一つの切れ刃のリードが軸心まわりに隣接する切れ刃のリードと相違させられ、それ等の切れ刃のその軸心まわりの間隔が軸方向において連続的に変化させられていることを特徴とする。
なお、上記「リード」は、軸心まわりに1回転した際に軸方向に進む距離を意味している。
[0006]
第2発明は、外周部に、形成すべきめねじのねじ溝に対応する断面形状のリードの無い凸条が軸方向に一定のピッチで多数設けられるとともに、その凸条と交差するように複数の溝が設けられることにより複数のランドに分断され、そのランドの周方向の一端にそれぞれその溝に沿って切れ刃が形成されているねじ切りフライスにおいて、前記複数の切れ刃は、何れも軸心まわりの同じ方向にねじれているか軸心と平行であるとともに、その複数の切れ刃が設けられた刃部の軸方向の所定の中間位置では軸心まわりにおいて等間隔であるが、その中間位置から先端側および後端側へずれるとそれぞれ不等間隔になることを特徴とする。
[0007]
第3発明は、第2発明のねじ切りフライスにおいて、前記複数の切れ刃は、それぞれ一定のリードで設けられているとともに、少なくとも一つの切れ刃のリードが軸心まわりに隣接する切れ刃のリードと相違させられることにより、それ等の切れ刃のその軸心まわりの間隔が前記中間位置から先端側および後端側へ向かうに従って対称的に滑らかに増減させられていることを特徴とする。
[0008]
第4発明は、第3発明のねじ切りフライスにおいて、前記複数の溝はそれぞれ一定の幅寸法および一定のリードで設けられているとともに、少なくとも一つの溝のリードが軸心まわりに隣接する溝のリードと相違させられることにより、その一つの溝に沿って設けられた切れ刃のリードが軸心まわりに隣接する切れ刃のリードと相違させられていることを特徴とする。
[0009]
第5発明は、第3発明のねじ切りフライスにおいて、前記複数の溝は互いに等しい一定のリードで設けられているとともに、少なくとも一つの溝の幅寸法がリニアに増加または減少させられることにより、その溝に沿って設けられた切れ刃のリードが軸心まわりに隣接する切れ刃のリードと相違させられていることを特徴とする。
[0010]
第6発明は、第1発明〜第5発明の何れかのねじ切りフライスにおいて、前記複数の切れ刃は2種類の異なるリードで交互に偶数設けられていることを特徴とする。
[0011]
第7発明は、第1発明〜第6発明の何れかのねじ切りフライスにおいて、前記複数の切れ刃は、L1およびL2の2種類のリードで設けられているとともに、小さい方のリードL2は0.7×L1〜0.95×L1の範囲内で設定されていることを特徴とする。
[0012]
第8発明は、第1発明〜第7発明の何れかのねじ切りフライスにおいて、前記複数の切れ刃は、その複数の切れ刃が設けられた刃部の軸方向の中央部において軸心まわりに等間隔とされていることを特徴とする。
発明の効果
[0013]
第1発明のねじ切りフライスにおいては、複数の切れ刃がそれぞれ一定のリードで設けられているとともに、少なくとも一つの切れ刃のリードが軸心まわりに隣接する切れ刃のリードと相違させられ、それ等の切れ刃の間隔が軸方向において連続的に変化させられているため、軸心まわりにおける切れ刃の間隔が不等になる。これにより、ねじを切削加工する際の切削抵抗の増減が不規則になり、共振によりビビリ振動が発生することが抑制され、種々の加工条件下で優れた加工精度でねじを切削加工できるようになる。また、複数の切れ刃のリードが何れも一定であることから、そのような切れ刃を容易に高い精度で形成することができる。
[0014]
第2発明のねじ切りフライスにおいては、刃部の軸方向の所定の中間位置では複数の切れ刃が等間隔に位置しているが、その中間位置から先端側および後端側へずれるとそれぞれ不等間隔になるため、その中間位置の近傍を含んでねじの切削加工が行われることにより、刃部の軸方向において中間位置の前後における偏荷重が緩和され、その中間位置を中心としてねじの切削加工が安定して行われるようになる。これにより、その中間位置の両側における切れ刃の不等間隔と相まってビビリ振動が一層効果的に抑制され、種々の加工条件下で優れた加工精度でねじを切削加工できるようになる。
[0015]
第3発明では、複数の切れ刃がそれぞれ一定のリードで設けられているとともに、少なくとも一つの切れ刃のリードが軸心まわりに隣接する切れ刃のリードと相違させられることにより、それ等の切れ刃の間隔が前記中間位置から先端側および後端側へ向かうに従って対称的に増減させられているため、その中間位置を中心としてねじの切削加工が一層安定して行われるようになるとともに、切れ刃のリードが何れも一定であることから、そのような切れ刃を容易に高い精度で形成することができる。
【0016】
第4発明では、複数の溝が何れも一定の幅寸法および一定のリードで設けられているとともに、少なくとも一つの溝のリードが軸心まわりに隣接する溝のリードと相違させられることにより、その一つの溝に沿って設けられた切れ刃のリードが軸心まわりに隣接する切れ刃のリードと相違させられているため、例えば溝を研削加工するために工具素材をリード送りする際の回転速度または送り速度を変化させて溝のリードを変化させるだけで、所定のリードの切れ刃を簡単且つ安価に高い精度で形成することができる。
【0017】
第5発明では、複数の溝が互いに等しい一定のリードで設けられているとともに、少なくとも一つの溝の幅寸法がリニアに増加または減少させられることにより、その溝に沿って設けられた切れ刃のリードが軸心まわりに隣接する切れ刃のリードと相違させられているため、例えば溝を研削加工する研削砥石の姿勢を変化させて溝の幅寸法を連続的に変化させるだけで、所定のリードの切れ刃を簡単且つ安価に高い精度で形成することができる。
【0018】
第6発明では、複数の切れ刃が2種類の異なるリードで交互に偶数設けられているため、4枚刃以上の多数刃のねじ切りフライスにおいても、一つの切れ刃のリードを変化させるだけの場合に比較して、切削抵抗の周期変化に起因するビビリ振動が効果的に抑制される。
【0019】
第7発明では、複数の切れ刃がL1およびL2の2種類のリードで設けられているとともに、小さい方のリードL2は0.7×L1〜0.95×L1の範囲内で設定されており、リードL1の95%以下であるため、リードの相違に伴う切れ刃の不等間隔によるビビリ振動の抑制効果が安定して得られる。また、リードL2はリードL1の70%以上であるため、例えば4枚刃のねじ切りフライスにおいても隣接する切れ刃が交差しない範囲で、ねじを切削加工できる刃部として所定の軸方向長さを確保することができる。
【0020】
第8発明では、複数の切れ刃が刃部の軸方向の中央部において等間隔とされているが、一般に刃部の中央部を含んでねじの切削加工が行われるため、特に刃部のうち加工に関与する部位を意識的に設定することなく、偏荷重やビビリ振動を抑制して加工精度を向上させる効果が安定して得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例であるねじ切りフライスを示す図で、(a) は正面図、(b) は拡大底面図、(c) は(a) におけるIC−IC拡大断面図、(d) は(a) におけるID−ID拡大断面図である。
【図2】図1のねじ切りフライスの刃部の外周部に設けられたねじれ溝、ランド、および切れ刃を軸心Sまわりに展開して示す図である。
【図3】図1のねじ切りフライスを用いてめねじを切削加工する際の手順の一例を説明する図である。
【図4】本発明品(不等リード)および比較品(等リード)を用いてめねじを切削加工した場合に、xyz方向の切削抵抗を測定して、その合力の変動を比較して示す図である。
【図5】図4と同じねじ加工時のxy方向の切削抵抗の合力の変動を比較して示す図である。
【図6】図4と同じねじ加工時のz方向の切削抵抗の変動を比較して示す図である。
【図7】図4〜図6の切削抵抗の変動を分析した結果を説明する図である。
【図8】本発明の他の実施例を説明する図で、ねじれ溝の幅寸法を連続的にリニアに変化させて複数の切れ刃を不等リードとした場合の図2に対応する展開図である。
【符号の説明】
【0022】
10:ねじ切りフライス 14:刃部 16a〜16d、40a〜40d:ねじれ溝(溝) 18a〜18d、42a〜42d:ランド 20a〜20d、44a〜44d:切れ刃 S:軸心 α、β:リード角
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のねじ切りフライスは、NCマシニングセンタなどにより、軸心まわりに回転駆動されるとともにねじ素材(被加工物)に対して相対的に公転しつつ軸方向へリード送りされることにより、単一の工具を用いて径寸法が異なる種々のおねじやめねじを切削加工することができる。めねじの切削加工は、有底の止り穴であっても貫通した通り穴であっても良い。
【0024】
また、ねじ切りフライスは、凸条によってねじ溝のみを切削加工し、下穴の内周面がそのままめねじのねじ山の山頂を構成したり、円柱素材の外周面がそのままおねじのねじ山の山頂を構成したりする場合でも良いが、凸条の間の底部も切削加工に寄与し、ねじ山の山頂を含めて切削加工を行う総形切れ刃を有するものでも良い。
【0025】
複数の溝は、シャンク側から見た切削回転方向と同じ方向にねじれているねじれ溝が好適に採用されるが、逆方向にねじれているねじれ溝を設けることもできるし、軸心と平行な直溝を採用することもできる。直溝は、リードが無限大の溝に相当する。
【0026】
第1発明は、少なくとも切れ刃が不等リードであれば良く、軸心まわりにおいて切れ刃が等間隔に位置する部位(第2発明の中間位置)を備えている必要はなく、刃部の全長に亘って切れ刃が不等間隔であっても差し支えない。なお、リードはねじれ角やリード角に対応するため、リードの代わりにねじれ角やリード角で規定することもできる。他の発明についても同様である。
【0027】
第2発明において複数の切れ刃の間隔は、所定の中間位置を挟んで刃部の軸方向において対称的に滑らかに増減すること、すなわち不等間隔の不等割合が滑らかに拡大することが望ましいが、非対称に増減する場合でも良い。すなわち、第3発明では複数の切れ刃が何れも一定のリードで形成されているため、不等割合が中間位置を挟んで対称的にリニアに拡大するが、第2発明の実施に際しては、切れ刃のリードが途中で変化したり連続的に変化したりしていても良く、必ずしも不等割合が対称的に拡大する必要はない。
【0028】
また、複数の切れ刃の間隔が刃部の全域において変化していても良いが、例えば刃部の後端部近傍或いは先端部近傍等の一部で、切れ刃の不等割合が一定すなわち切れ刃のリードが等しくされても良い。第1発明や第3発明においても、必ずしも刃部の全域で切れ刃が一定のリードである必要はなく、例えば刃部の90%以上の範囲でリードが一定であれば良く、刃部の後端部近傍や先端部近傍でリードが多少変化していても良い。第4発明および第5発明の溝のリードについても同様である。
【0029】
切れ刃が等間隔となる所定の中間位置は、第8発明のように刃部の軸方向の中央部が望ましいが、先端側或いは後端側へ偏った位置であっても良い。第8発明の「中央部」は、幾何学的に軸方向の中央のみを意味するものではなく、刃部の軸方向寸法の5%以下の範囲で中央から先端側または後端側へずれていても中央部と見做すことができる。
【0030】
第5発明では、溝の幅寸法がリニアに増加または減少させられており、例えば溝を研削加工する研削砥石の姿勢を連続的に変化させることによって幅寸法を変化させることができるが、リードが異なる複数の溝を部分的に重複させて形成することにより、全体として幅寸法がリニアに変化している溝を形成することもできるなど、種々の態様が可能である。
【0031】
第6発明は偶数刃のねじ切りフライスに関するもので、リードが交互に相違させられているが、他の発明の実施に際しては、3枚刃等の奇数刃のねじ切りフライスを採用することもできるし、複数の切れ刃の1つのリードを残りの切れ刃のリードと相違させるだけでも良い。
【0032】
第7発明では、小さい方のリードL2が大きい方のリードL1の70%〜95%の範囲内で設定されているが、刃部の軸方向寸法が短い場合や刃数が少ない場合にはリードL2を70%より小さくしても差し支えないなど、他の発明の実施に際しては、この範囲を超えてリードL2を設定することも可能である。
【0033】
ねじ切りフライスの材質としては、高速度工具鋼や超硬合金等の硬質工具材料が好適に用いられるとともに、切れ刃が設けられる刃部には、必要に応じてTiAlN等の硬質被膜をコーティングすることが望ましい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例であるねじ切りフライス10を示す図で、(a) は軸心Sと直角方向から見た正面図、(b) は(a) の下方である先端側から見た拡大底面図、(c) は(a) におけるIC−IC断面の拡大図、(d) は(a) におけるID−ID断面の拡大図であり、マシニングセンタ等の主軸に把持されるシャンク12と刃部14とを軸方向に一体に備えている。刃部14の外周部には、形成すべきめねじ30(図3参照)等のねじ溝に対応する断面形状のリードの無い凸条が軸方向にめねじ30と同じピッチPで多数設けられており、その凸条を分断するように4本のねじれ溝16a〜16dが設けられることにより4つのランド18a〜18dに分断され、それ等のランド18a〜18dの周方向の一端にそれぞれねじれ溝16a〜16dに沿って切れ刃20a〜20dが設けられている。本実施例のねじ切りフライス10は、刃部14の軸方向長さが約26mmで、直径は約9.5mm、上記凸条のピッチPは1.75mmであり、超硬合金にて一体に構成されているとともに、刃部14の表面にはTiAlNの硬質被膜がコーティングされている。なお、図1(a)において刃部14の左右の両側部に示されている三角形の凹凸、およびその凹凸に対応して各ランド18a〜18dに示されている軸心Sと直角な互いに平行な多数の横線は、リードの無い多数の凸条を表している。また、4本のねじれ溝16a〜16dは、凸条と交差するように設けられる複数の溝に相当する。
[0035]
このねじ切りフライス10は、シャンク12側から見て右まわりに回転駆動されることにより切削加工を行うもので、ねじれ溝16a〜16dは何れもその切削回転方向と同じ右まわりにねじれている。これ等のねじれ溝16a〜16dは、図2の展開図から明らかなように、それぞれ一定のリードおよび一定の幅寸法で設けられているが、交互にリードが相違させられている。すなわち、ねじれ溝16a、16cのリードL1は、ねじれ溝16b、16dのリードL2よりも大きく、リードL2はリードL1の70%〜95%の範囲内で、本実施例では約83%とされており、具体的にはリードL1=60mm、リードL2=50mmで、ねじれ溝16a、16cのリード角α≒63°34′、ねじれ溝16b、16dのリード角β≒59°10′である。また、これ等のねじれ溝16a〜16dは、刃部14の軸方向における中央部(本実施例では略中央)で軸心Sまわりにおいて等間隔になり、先端側および後端側へ向かうに従って間隔が対称的に滑らかリニアに増減させられており、ランド18a〜18dのランド幅(図2における左右方向の寸法)は、そのねじれ溝16a〜16dの間隔変化に対応して、刃部14の軸方向の中央部では略同じであるが、先端側および後端側へ向かうに従って交互に増減させられている。すなわち、ランド18aおよび18cのランド幅は、刃部14の先端から後端へ向かうに従って滑らかにリニアに漸増させられている一方、ランド18bおよび18dのランド幅は、刃部14の先端から後端へ向かうに従って滑らかにリニアに漸減させられている。
[0036]
このようにねじれ溝16a〜16dが不等リードで設けられることにより、それ等のねじれ溝16a〜16dに沿って設けられた切れ刃20a〜20dも不等リードとされ、軸心Sまわりにおける切れ刃20a〜20dの間隔が軸方向において滑らかにリニアに変化させられている。すなわち、ねじれ溝16a、16cに沿って設けられた切れ刃20a、20cは、それ等のねじれ溝16a、16cと同じリードL1(リード角α)で傾斜しているのに対し、ねじれ溝16b、16dに沿って設けられた切れ刃20b、20dは、それ等のねじれ溝16b、16dと同じリードL2(リード角β)で傾斜しているのであり、刃部14の軸方向における中央部では軸心Sまわりにおいて等間隔であるが、先端側および後端側へ向かうに従って間隔が対称的に滑らかにリニアに増減させられて、不等間隔の不等割合すなわち間隔が狭い部分の寸法と広い部分の寸法との比が拡大している。具体的には、切れ刃20aと20bとの間隔、および切れ刃20cと20dとの間隔は、何れも刃部14の先端から後端へ向かうに従って滑らかにリニアに漸増させられている一方、切れ刃20bと20cとの間隔、および切れ刃20dと20aとの間隔は、何れも刃部14の先端から後端へ向かうに従って滑らかにリニアに漸減させられており、刃部14の軸方向の中央部では等間隔であるが、その中央部から先端側および後端側へずれると不等間隔となり、且つ先端側および後端側へ向かうに従って不等間隔の不等割合がリニアに拡大している。本実施例では、切れ刃20a〜20dが等間隔となる中央部が所定の中間位置に相当する。
【0037】
そして、このようなねじ切りフライス10を用いてめねじ30を切削加工する際には、先ず、図3の(a) に示すように、めねじ30を加工すべきねじ素材としての被加工物32に対して、前記刃部14よりも大径で且つめねじ30の内径寸法と同じか僅かに小さい径寸法の下穴34を形成するとともに、必要に応じてその下穴34の口元(開口部)にテーパ形状の面取り36を設ける。図3は、止り穴のめねじ30を加工する場合で、下穴34も底部を備えている。
【0038】
次に、図3の(b) に示すように、マシニングセンタ等の3次元加工機の主軸に取り付けられたねじ切りフライス10を前記下穴34の中心線Oに沿って下穴34内に挿入し、(c) に示すように、ねじ切りフライス10を軸心まわりに回転駆動しつつ、約90°のアプローチ範囲で下穴34の内周面に滑らかに食い付かせる。そして、その状態で(d) に示すように、ねじ切りフライス10を軸心Sまわりに回転駆動しつつ、下穴34の中心線Oまわりに360°公転させるとともに、凸条の1ピッチP分だけ軸方向へリード送りすることにより、目的とするめねじ30を切削加工する。本実施例では、ねじ切りフライス10を左まわりに公転させるとともに、1ピッチP分だけシャンク12側へ後退させることにより、右ねじのめねじ30を切削加工する。この時、切れ刃20a〜20dが等間隔に位置する刃部14の中央部を含んで、その中央部がめねじ30の軸方向の略中央に位置する状態で、そのめねじ30の切削加工が行われる。その後、(e) に示すように90°のリリース範囲でねじ切りフライス10を滑らかに下穴34の内周面から離間させて中心線Oまで戻し、(f) に示すように中心線Oに沿って引き抜くことにより、一連のねじ切削加工が終了する。
【0039】
ここで、本実施例のねじ切りフライス10は、複数の切れ刃20a〜20dがそれぞれ一定のリードL1(リード角α)またはL2(リード角β)で設けられているとともに、切れ刃20a、20cのリードL1が軸心Sまわりに隣接する切れ刃20b、20dのリードL2と相違させられ、それ等の切れ刃20a〜20dの間隔が軸方向において連続的に変化させられているため、軸心Sまわりにおける切れ刃20a〜20dの間隔が不等になる。これにより、ねじ(めねじ30等)を切削加工する際の切削抵抗の増減が不規則になり、共振によりビビリ振動が発生することが抑制され、種々の加工条件下で優れた加工精度でねじを切削加工できるようになる。
【0040】
また、刃部14の軸方向の中央部では複数の切れ刃20a〜20dが等間隔に位置しているが、その中央部から先端側および後端側へずれるとそれぞれ不等間隔になるため、その中央部の近傍を含んでねじ(めねじ30等)の切削加工が行われることにより、刃部14の軸方向において中央部の前後における偏荷重が緩和され、その中央部を中心としてねじの切削加工が安定して行われるようになる。これにより、中央部の両側における切れ刃20a〜20dの不等間隔と相まってビビリ振動が一層効果的に抑制され、種々の加工条件下で優れた加工精度でねじを切削加工できるようになる。
【0041】
また、本実施例では複数の切れ刃20a〜20dがそれぞれ一定のリードL1(リード角α)またはL2(リード角β)で設けられているとともに、切れ刃20a、20cのリードL1が軸心Sまわりに隣接する切れ刃20b、20dのリードL2と相違させられることにより、それ等の切れ刃20a〜20dの間隔が中央部から先端側および後端側へ向かうに従って対称的に増減させられているため、その中央部を中心としてねじの切削加工が一層安定して行われるようになるとともに、切れ刃20a〜20dのリードL1、L2が何れも一定であることから、そのような切れ刃20a〜20dを容易に高い精度で形成することができる。
【0042】
また、本実施例では、複数のねじれ溝20a〜20dが何れも一定の幅寸法および一定のリードL1(リード角α)またはL2(リード角β)で設けられているとともに、ねじれ溝16a、16cのリードL1が軸心Sまわりに隣接するねじれ溝16b、16dのリードL2と相違させられることにより、そのねじれ溝16a、16cに沿って設けられた切れ刃20a、20cのリードL1が軸心Sまわりに隣接する切れ刃20b、20dのリードL2と相違させられているため、例えばそれ等のねじれ溝16a〜16dを研削加工するために工具素材をリード送りする際の回転速度または送り速度を変化させてねじれ溝16a〜16dのリードを変化させるだけで、所定のリードL1およびL2の切れ刃20a〜20dを簡単且つ安価に高い精度で形成することができる。
【0043】
また、本実施例では、4枚の切れ刃20a〜20dが2種類の異なるリードL1(リード角α)、L2(リード角β)で交互に偶数設けられているため、4枚の切れ刃20a〜20dの中の何れか一つのリードを変化させるだけの場合に比較して、切削抵抗の周期変化に起因するビビリ振動が効果的に抑制される。
【0044】
また、本実施例では、複数の切れ刃20a〜20dがL1およびL2の2種類のリードで設けられているとともに、小さい方のリードL2は0.7×L1〜0.95×L1の範囲内で設定されており、リードL1の95%以下であるため、リードの相違に伴う切れ刃20a〜20dの不等間隔によるビビリ振動の抑制効果が安定して得られる。また、リードL2はリードL1の70%以上であるため、4枚刃のねじ切りフライス10においても隣接する切れ刃が交差しない範囲で、ねじを切削加工できる刃部14として所定の軸方向長さを確保することができる。
【0045】
また、本実施例では、複数の切れ刃20a〜20dが刃部14の軸方向の中央部において等間隔とされているが、一般に刃部14の中央部を含んでねじの切削加工が行われるため、特に刃部14のうち加工に関与する部位を意識的に設定することなく、偏荷重やビビリ振動を抑制して加工精度を向上させる効果が安定して得られる。
【0046】
因みに、本実施例のねじ切りフライス10と、ねじれ溝16a〜16dのリードが何れもL2、すなわち切れ刃20a〜20dのリードがL2(=50mm)でリード角がβ(≒59°10′)であり、且つ軸心Sまわりにおいて等間隔で設けられている比較品とを用いて、以下の加工条件でめねじの切削加工を行い、xyz方向の切削抵抗(N)を測定して比較したところ、図4〜図7に示す結果が得られた。xy方向の切削抵抗は、軸心Sと直角な方向すなわち軸心Sまわりの回転負荷や公転に対する負荷であり、z方向は軸方向の負荷である。なお、加工条件の中の「ゼロカット1公転」は、より高い形状精度が要求される場合に行われるもので、切込み寸法0で切削加工と同じ加工(自転および公転)を繰り返す。
(加工条件)
・被削材:SCM440(40HRC)
・切削速度V:50m/min
・1刃当りの送り速度f:0.05mm/t
・加工めねじサイズ:M12×1.75(止り穴)
・ねじ立て長さ:約20mm
・切削油:水溶性切削油剤
・ねじ立て態様:切削加工1公転+ゼロカット1公転
・機械:たて型マシニングセンタ
【0047】
図4〜図7において、不等リードは本発明品のことで、等リードは比較品のことであり、図4〜図6のグラフの縦軸は切削抵抗(N)、横軸は時間(秒)であり、約10秒で1公転させられる。また、図4は、xyz方向の切削抵抗の合力の変動を示すグラフで、図5は、xy方向の切削抵抗の合力の変動を示すグラフで、図6は、z方向の切削抵抗の変動を示すグラフであり、図7は、これ等の切削抵抗のデータに基づいて平均値や最大値、最小値、標準偏差σを算出した結果である。そして、図4、図6のグラフおよび図7の(a) 、(c) の算出値から明らかなように、本発明品(不等リード)の方が比較品(等リード)に比べて切削抵抗の変動幅や標準偏差σが小さく、ビビリ振動が大幅に改善されることが分かる。図5および図7(b) のxy方向の切削抵抗に関するグラフや算出値については、本発明品と比較品とで大きな差が無いため、z方向(軸方向)の切削抵抗による振動が特に改善されたものと考えられる。
【0048】
なお、上記実施例では、2種類のリードL1およびL2で一定の幅寸法のねじれ溝16a〜16dが設けられることにより、複数の切れ刃20a〜20dが不等リードとされていたが、図8に示すように、複数のねじれ溝40a〜40dが互いに等しい一定のリードで設けられるとともに、ねじれ溝40a、40cについては先端から後端に向かうに従って幅寸法がリニアに減少させられる一方、残りのねじれ溝40b、40dについては先端から後端に向かうに従って幅寸法がリニアに増加させられることにより、それ等のねじれ溝40a〜40dに沿って設けられた切れ刃44a〜44dを不等リードとし、軸心Sまわりにおける切れ刃44a〜44dの間隔を軸方向において滑らかにリニアに変化させることもできる。図8の一点鎖線はねじれ溝40a〜40dの中心線で、互いに平行すなわち等リードであるが、各ねじれ溝40a〜40dは、それぞれ中心線に対して対称的に幅寸法が増減させられている。また、ねじれ溝40aおよび40cとねじれ溝40bおよび40dとは、刃部14の中央部を挟んで軸方向において対称的に幅寸法が増減させられており、それ等のねじれ溝40a〜40dによって形成される4つのランド42a〜42dのランド幅は、互いに略同じで且つ軸方向において全長に亘って略一定とされている。
【0049】
そして、上記ねじれ溝40a、40cに沿って設けられる切れ刃44a、44cについては、前記切れ刃20a、20cと同様にリードL1(リード角α)で傾斜させられ、ねじれ溝40b、40dに沿って設けられる切れ刃44b、44dについては、前記切れ刃20b、20dと同様にリードL2(リード角β)で傾斜させられている。また、刃部14の軸方向における中央部では軸心Sまわりにおいて切れ刃44a〜44dは等間隔であるが、先端側および後端側へ向かうに従って間隔が対称的に滑らかにリニアに増減させられて、不等間隔の不等割合が拡大させられており、前記実施例と同様の作用効果が得られる。
【0050】
この場合にはまた、ねじれ溝40aおよび40cの幅寸法が先端から後端に向かうに従って減少させられ、ねじれ溝40bおよび40dの幅寸法が先端から後端に向かうに従って増加させられることにより、切れ刃44a、44cのリードL1が軸心Sまわりに隣接する切れ刃44b、44dのリードL2と相違させられているため、例えばねじれ溝40a〜40dを研削加工する研削砥石の姿勢を変化させてねじれ溝40a〜40dの幅寸法を変化させるだけで、所定のリードL1およびL2の切れ刃44a〜44dを簡単且つ安価に高い精度で形成することができる。
【0051】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のねじ切りフライスは、複数の切れ刃の少なくとも一つのリードが軸心まわりに隣接する切れ刃のリードと相違させられるなどして、軸心まわりにおける切れ刃の間隔が不等とされているため、ねじを切削加工する際の切削抵抗の増減が不規則になる。これにより、共振によりビビリ振動が発生することが抑制され、種々の加工条件下で高精度のねじを切削加工する際に好適に用いられる。
Claims (8)
- 外周部に、形成すべきめねじのねじ溝に対応する断面形状のリードの無い凸条が軸方向に一定のピッチで多数設けられるとともに、該凸条と交差するように複数の溝が設けられることにより複数のランドに分断され、該ランドの周方向の一端にそれぞれ該溝に沿って切れ刃が形成されているねじ切りフライスにおいて、
前記複数の切れ刃は、何れも軸心まわりの同じ方向にねじれているか軸心と平行であるとともに、それぞれ一定のリードで設けられている一方、少なくとも一つの切れ刃のリードが軸心まわりに隣接する切れ刃のリードと相違させられ、それ等の切れ刃の該軸心まわりの間隔が軸方向において連続的に変化させられている
ことを特徴とするねじ切りフライス。 - 外周部に、形成すべきめねじのねじ溝に対応する断面形状のリードの無い凸条が軸方向に一定のピッチで多数設けられるとともに、該凸条と交差するように複数の溝が設けられることにより複数のランドに分断され、該ランドの周方向の一端にそれぞれ該溝に沿って切れ刃が形成されているねじ切りフライスにおいて、
前記複数の切れ刃は、何れも軸心まわりの同じ方向にねじれているか軸心と平行であるとともに、該複数の切れ刃が設けられた刃部の軸方向の所定の中間位置では軸心まわりにおいて等間隔であるが、該中間位置から先端側および後端側へずれるとそれぞれ不等間隔になる
ことを特徴とするねじ切りフライス。 - 前記複数の切れ刃は、それぞれ一定のリードで設けられているとともに、少なくとも一つの切れ刃のリードが軸心まわりに隣接する切れ刃のリードと相違させられることにより、それ等の切れ刃の該軸心まわりの間隔が前記中間位置から先端側および後端側へ向かうに従って対称的に滑らかに増減させられている
ことを特徴とする請求項2に記載のねじ切りフライス。 - 前記複数の溝はそれぞれ一定の幅寸法および一定のリードで設けられているとともに、少なくとも一つの溝のリードが軸心まわりに隣接する溝のリードと相違させられることにより、該一つの溝に沿って設けられた切れ刃のリードが軸心まわりに隣接する切れ刃のリードと相違させられている
ことを特徴とする請求項3に記載のねじ切りフライス。 - 前記複数の溝は互いに等しい一定のリードで設けられているとともに、少なくとも一つの溝の幅寸法がリニアに増加または減少させられることにより、該溝に沿って設けられた切れ刃のリードが軸心まわりに隣接する切れ刃のリードと相違させられている
ことを特徴とする請求項3に記載のねじ切りフライス。 - 前記複数の切れ刃は2種類の異なるリードで交互に偶数設けられている
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のねじ切りフライス。 - 前記複数の切れ刃は、L1およびL2の2種類のリードで設けられているとともに、小さい方のリードL2は0.7×L1〜0.95×L1の範囲内で設定されている
ことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のねじ切りフライス。 - 前記複数の切れ刃は、該複数の切れ刃が設けられた刃部の軸方向の中央部において軸心まわりに等間隔とされている
ことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のねじ切りフライス。
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