JP5237659B2 - 切削タップ - Google Patents

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Description

本発明は切削タップに係り、特に、完全山部の最前端に位置する第1完全山の切れ刃の摩耗を抑制して工具寿命を改善するとともにめねじの面粗さを向上させる技術に関するものである。
(a) 外周部におねじが設けられるとともに、そのおねじを分断するように軸方向に設けられた溝に沿って切れ刃が形成されている一方、(b) 軸方向において前記おねじの径寸法が略一定の完全山部と、その完全山部に連続して設けられ且つ先端に向かうに従って小径となる食付き部とを有し、(c) 被加工物に設けられた下穴内にその食付き部側からねじ込まれることにより、前記切れ刃によってその下穴の内壁面を切削加工してめねじを形成する切削タップが、めねじを切削加工するねじ加工工具として多用されている(特許文献1、2参照)。そして、例えば特許文献1では、完全山部に後方(シャンク側)へ向かうに従って径寸法が漸減するバックテーパを設けることが提案されており、このようにすればタッピング加工時の加工トルク(抵抗)が低減される。図の(a) は、このような従来の切削タップの外径、有効径、および谷径の軸方向の変化の一例を示す図で、有効径および谷径は、製造上の容易さなどから食付き部および完全山部の全域にバックテーパが設けられている。
特開平3−88628号公報 特開2005−205557号公報
しかしながら、このようにバックテーパが設けられた切削タップにおいては、外径が最も大きい完全山部の最前端に位置する切れ刃(第1完全山の切れ刃)に大きな負荷が作用して摩耗が促進され、加工条件によっては十分な工具寿命が得られないという問題があった。また、図の(a) に示すように食付き部の有効径にもバックテーパが設けられると、先端部で有効径が最も大きくなるため、食付き部の複数の切れ刃による切削加工形状が図の(b) に示すようになり、有効径の減少に伴って段階的に切削加工の範囲が狭くなるため、加工されためねじのフランクには微小な段差が生じることになって面粗さ(面精度)が損なわれる。図の(b) は、切削加工形状の相違、特に有効径の漸減に伴う幅方向の段差を強調して示したもので、1〜6の数字は切削加工の順序を表しているが、その数は食付き部の切れ刃の数によって変化する。
なお、前記特許文献2には、完全山部に大径ねじ部を設けることが提案されており、その場合には大径ねじ部の多数の切れ刃によって切削加工が行なわれるため負荷が分散されるが、その大径ねじ部が実質的に完全山部として機能してバックテーパ無しでめねじの加工が行なわれることと同じであるため、タッピング加工時の加工トルクが大きくなって好ましくない。
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、タッピング加工時の加工トルクを低減するためにバックテーパが設けられる切削タップにおいて、第1完全山の切れ刃に作用する負荷を軽減して摩耗による工具寿命の低下を抑制するとともに、めねじの面粗さを向上させることにある。
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 外周部におねじが設けられるとともに、そのおねじを分断するように軸方向に設けられた溝に沿って切れ刃が形成されている一方、(b) 軸方向において前記おねじの径寸法が略一定の完全山部と、その完全山部に連続して設けられ且つ先端に向かうに従って小径となる食付き部とを有する切削タップにおいて、(c) 前記完全山部は、前記食付き部に連続する前側山部と、残りの後側山部とから成り、その前側山部の軸方向長さはねじ山のピッチPの2倍(2P)以上で且つ4倍(4P)以下である一方、(d) 前記食付き部および前記前側山部における前記おねじの有効径には、その食付き部の先端から前記後側山部に向かうに従ってねじ山の1P(ピッチ)当り3μm以下の所定の変化勾配で半径寸法が漸増する正テーパが設けられており、(e) 前記後側山部における前記おねじの有効径には、前記前側山部の後端からシャンク側へ向かうに従って所定の変化勾配で径寸法が漸減するバックテーパが設けられていることを特徴とする。
第2発明は、第1発明の切削タップにおいて、前記おねじの外径は、前記前側山部と前記後側山部とで軸方向の変化勾配が別々に定められ、それぞれ前記有効径と同じ変化勾配とされていることを特徴とする。
発明は、第1発明または第2発明の切削タップにおいて、前記後側山部における前記おねじの有効径には、ねじ山の1P(ピッチ)当り0.5〜3μmの範囲内の所定の変化勾配で半径寸法が漸減するバックテーパが設けられていることを特徴とする。
このような切削タップにおいては、完全山部がねじ山のピッチPに対して2P以上で且つ4P以下の前側山部と残りの後側山部とに分けられ、食付き部から前側山部を含む範囲のおねじの有効径には、所定の変化勾配で径寸法が漸増する正テーパが設けられているため、例えばタッピング加工に伴って第1完全山の切れ刃が摩耗すると次の切れ刃によってその摩耗部分の加工が行なわれるなど、タッピング加工時の負荷が前側山部の複数の切れ刃に分散されるため、前側山部における切れ刃の摩耗の進行が抑制されて工具寿命が向上する。その場合に、前側山部の軸方向長さは4P以下で比較的短く、且つ径寸法が漸増する正テーパの半径寸法の変化勾配が1P(ピッチ)当り3μm以下であるため、タッピング加工時の加工トルクの増大が抑制される。
一方、めねじの切削加工を行う食付き部の有効径は、所定の正テーパで漸増しているため、めねじのフランクを削り過ぎることがなく正規の寸法に切削加工できるようになり(図3参照)、前記図のように食付き部までバックテーパが設けられている場合に比較してめねじの面粗さ或いは面精度が向上する。
また、食付き部および前側山部のおねじの有効径には、1P当り3μm以下の所定の変化勾配で半径寸法が漸増する正テーパが設けられているため、径寸法が一定で変化勾配が0の場合に比較して、タッピング加工による切れ刃の摩耗の進行が効果的に抑制される。めねじの素材(被加工物)は、一般に所定の弾性を備えているため、前側山部で僅かに削り過ぎても弾性による縮径で目的とする寸法のめねじを得ることができる。
第2発明では、おねじの外径についても前側山部と後側山部とで軸方向の変化勾配が別々に定められ、それぞれ有効径と同じ変化勾配とされていて、前側山部では所定の正テーパで径寸法が漸増させられているため、切れ刃の外径部分すなわちねじ山の山頂付近についても負荷が分散されて摩耗の進行が抑制される。
発明では、後側山部におけるおねじの有効径に、1P当り0.5〜3μmの範囲内の変化勾配で半径寸法が漸減するバックテーパが設けられているため、タッピング加工時の加工トルクが低減される。
本発明の切削タップは、被加工物に設けられた下穴内に食付き部側からねじ込まれることにより、前記切れ刃によってその下穴の内壁面を切削加工してめねじを形成するように用いられる。下穴を加工するドリルやリーマ等をタップの先端側に一体的に設けることもできる。
おねじを分断するように設けられる溝は2本以上で、タップの外径寸法に応じてその数を増加させる。また、軸心と平行な直溝でも、軸心まわりにねじれたねじれ溝でも良く、直溝の先端にねじれ溝が設けられたスパイラルポイントタップにも適用され得るなど、種々の態様が可能である。
本発明の切削タップは、1条ねじを加工するものでも2条以上の多条ねじを加工するものでも良い。多条ねじの場合も、前側山部の軸方向長さは4P以下で良い。
前側山部の軸方向長さが4Pよりも長くなると、タッピング加工時の加工トルクが大きくなるため、4P以下とする必要がある。また、従来は完全山部の最前端に位置する1枚の切れ刃だけ、加工すべきめねじに対応する正規の寸法とされており、直ちにバックテーパにより径寸法が漸減させられていたが、本発明では負荷を分散して摩耗を抑制するために2P以上で前側山部の軸方向長さが定められる。
食付き部から前側山部には、有効径の径寸法が漸増する正テーパが設けられるが、半径寸法において1P当り3μmより大きい変化勾配だと、タッピング加工時の加工トルクが大きくなり、溶着等が発生して工具寿命が却って低下するため、1P当り3μm以下の変化勾配とする。
後側山部における有効径のバックテーパは、タッピング加工時の加工トルクを低減する上で、1P当り0.5〜3μmの範囲内の変化勾配で半径寸法が漸減するように設けることが望ましいが、めねじの加工条件等によってはこの範囲を逸脱していても差し支えない。
食付き部および前側山部における有効径の正テーパ、および後側山部の有効径のバックテーパは、例えば軸方向において径寸法が一定の変化勾配で直線的に漸増または漸減するように設けられるが、径寸法の変化勾配(変化率)を連続的に滑らかに変化させたり、径寸法を折れ線状に変化させたりすることも可能で、種々の態様が可能である。その場合に、正テーパの領域が前側山部で、バックテーパの領域が後側山部である。
第2発明では、おねじの外径についても前側山部と後側山部とで軸方向の変化勾配が別々に定められ、それぞれ有効径と同じ変化勾配とされているが、有効径の変化勾配と外径の変化勾配とを異なる値とすることもできるし、外径については、前側山部と後側山部とを区別することなく完全山部の全域にバックテーパを設けるようにしても良い。
切削タップのおねじは、一般にそのおねじの溝形状すなわち加工すべきめねじのねじ山形状に対応する断面形状の外周加工部を備えた研削砥石を用いた研削加工によって設けられる。例えば、(a) おねじのねじ山の有効径および谷径が軸方向において所定の変化勾配となるように、途中でその変化勾配が変化するように研削砥石を接近離間させつつ、工具素材を軸心まわりに回転させるとともに軸方向へ相対移動させておねじの研削加工を行う有効径加工工程と、(b) そのおねじのねじ山の外径が軸方向において所定の変化勾配となるように、必要に応じて途中でその変化勾配が変化するように研削砥石を接近離間させつつ、工具素材を軸心まわりに回転させるとともに軸方向へ相対移動させて外周面の研削加工を行う外径加工工程と、(c) 先端に向かうに従って外径が一定の変化勾配で小径となるように研削砥石を接近または離間させつつ、工具素材を軸心まわりに回転させるとともに軸方向へ相対移動させて外周面の研削加工を行う食付き部加工工程と、を有する製造方法で製造することができる。
その場合に、第2発明のように有効径および外径が前側山部、後側山部でそれぞれ同じ変化勾配とされている場合には、前記有効径加工工程および外径加工工程で、共通の移動プログラムを用いて工具素材と研削砥石とを同じ移動経路で相対移動させて研削加工を行なうことが可能で、製造コストが節減される。なお、移動プログラムの一部を変更することにより、有効径および外径の軸方向の変化パターンの一部を変化させることが可能で、有効径および外径の軸方向の変化パターンが異なる切削タップを製造することができる。また、前記食付き部加工工程は必ずしも別工程で行なう必要はなく、完全山部における外径の研削加工と連続して行なわれるようにすることもできる。
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用されたスパイラルポイントタップ10を示す図で、(a) は軸心Oと直角方向から見た正面図、(b) は(a) におけるIB−IB断面の拡大図、(c) は軸方向におけるねじ部16の径寸法の変化パターンを示す図である。このスパイラルポイントタップ10は、図示しないチャックを介して主軸に取り付けられるシャンク12と、シャンク12よりも小径の首部14と、めねじを切削加工するためのねじ部16とを、その順番で軸方向に連なるように同心に一体に備えている。
ねじ部16の外周部には、形成すべきめねじに対応するおねじが設けられているとともに、そのおねじのねじ山18は、形成すべきめねじの谷の形状に対応した断面形状とされている。ねじ部16にはまた、軸心Oまわりに等角度間隔で軸心Oと平行に3本の直溝20が設けられているとともに、その直溝20の先端側に連続してスパイラルポイント溝22が設けられており、それ等の直溝20およびスパイラルポイント溝22によっておねじが分断されることにより、その直溝20およびスパイラルポイント溝22に沿って軸方向に連なる3列の切れ刃28が形成されている。本実施例のスパイラルポイントタップ10は1条の右ねじ(例えばM10×1.5)を加工するためのもので、おねじも1条の右ねじであり、スパイラルポイント溝22は左ねじれ溝である。図1の(b) は、ねじ山18のねじれに沿って谷底で切断した断面である。
ねじ部16は、軸方向において径寸法が略一定の完全山部26と、先端側へ向かうに従って小径となる食付き部24とを備えている。食付き部24は、タップ先端まで形成されたおねじの外周部がテーパ状に除去されることによって形成されており、外径のみが大きな変化勾配のテーパ形状とされている。前記スパイラルポイント溝22は食付き部24の全域に設けられており、食付き部24で生成された切りくずをタップ先端側へ排出する。
ところで、このようなスパイラルポイントタップ10は、被加工物に設けられた下穴内に食付き部24側からねじ込まれることにより、切れ刃28がその下穴の内壁面を切削加工することによりめねじを形成する。このようなタッピング加工では大きな加工トルク(抵抗)が発生するために、これを低減するために従来は完全山部26の全域に所定のバックテーパが設けられていた。しかしながら、ねじ部16の中の最も大径の部分、すなわち完全山部26の最前端に位置する第1完全山の切れ刃28に大きな負荷が作用して摩耗が促進され、加工条件によっては十分な工具寿命が得られない場合があった。
これに対し、本実施例では、図1の(c) に示すように、完全山部26が更に前側山部26aと後側山部26bとに分けて構成されている。前側山部26aは前記食付き部14に連続する前側の部分で、その軸方向長さは、ねじ山18のピッチPに対して2P〜4Pの範囲内で、本実施例では3列の切れ刃28においてそれぞれ軸方向に連なる2つの切れ刃28が含まれるように2P程度に設定されており、完全山部26の残りの部分が後側山部26bとされている。
そして、食付き部24および前側山部26aにおけるおねじの有効径および谷径には、食付き部24の前端から後側山部26bに向かうに従って小さな変化勾配、具体的には半径寸法が1P当り3μm以下の一定の変化勾配で漸増する正テーパが設けられている。また、後側山部26bにおけるおねじの有効径および谷径には、前側山部26aの後端から首部14側へ向かうに従って小さな変化勾配、具体的には半径寸法が1P当り0.5〜3μmの範囲内の一定の変化勾配で漸減するバックテーパが設けられている。本実施例ではまた、おねじの外径も、前側山部2aと後側山部26bとで軸方向の変化勾配が別々に定められ、それぞれ上記有効径と同じ変化勾配とされている。上記完全山部26の前端部すなわち食付き部24との境界部分では、外径、有効径、および内径が何れも加工すべきめねじに対応する正規の寸法とされている。なお、図1の(c) は、あくまでも例示で正確な寸法割合や変化勾配で示したものではなく、且つ直径寸法の変化パターンであるため、実際のタップ形状とは相違する。図2、図6、および前記図7の(a) も同様である。また、前記スパイラルポイント溝22は、前側山部26aの全域を含むように設けられている。
このようなねじ部16は、例えばねじ部16におけるおねじの溝形状すなわち加工すべきめねじのねじ山形状に対応する断面形状の外周加工部を備えた研削砥石を用いた研削加工によって形成される。すなわち、円柱形状の工具素材の外周面に研削砥石を押し当てて研削加工を行いつつ、その工具素材を軸心Oまわりに回転させるとともに軸方向へ相対移動させることによっておねじを形成できる。例えば、先ず、図2の(a) に示すように、ねじ部16の有効径および谷径が、食付き部24および前側山部26aでは後方(シャンク12側で図の右側)へ向かうに従って所定の変化勾配で漸増し、後側山部26bでは後方へ向かうに従って所定の変化勾配で漸減するように、研削砥石と工具素材とを接近離間方向へ連続的に相対移動させながら研削加工を行なう。これにより、前側山部26aと後側山部26bとの境界で有効径の変化勾配を変化させながら、食付き部24および完全山部26を形成すべき範囲の全域に連続しておねじを研削加工することができる。このようなおねじの加工は、例えば食付き部24側から完全山部26側へ向かって行なわれる。この図2の(a) は有効径加工工程である。
次に、図2の(b) に示すように、ねじ山18の外径が、食付き部24および前側山部26aでは後方へ向かうに従って有効径と同じ変化勾配で漸増し、後側山部26bでは後方へ向かうに従って有効径と同じ変化勾配で漸減するように、研削砥石と工具素材とを接近離間方向へ連続的に相対移動させながら、ねじ山18の外周面(山頂)の研削加工を行なう。この外周研削加工は、例えば前記図2の(a) の有効径加工工程と同じ研削砥石を、おねじの谷径と外径との差分だけ離間させて配置するとともに、その研削砥石の外周面がねじ山18の外周面に押し当てられるように工具素材を180°反転させることにより、同じ移動プログラムを用いて同じ移動経路で相対移動させることによって、容易に行なうことができる。これにより、前側山部26aと後側山部26bとの境界で外径の変化勾配を変化させながら、食付き部24および完全山部26を形成すべき範囲の全域に連続して外径の研削加工を行なうことができる。この段階では、食付き部24における外径も、前側山部26aと同じ変化勾配で変化させられる。このような外径の加工は、例えば食付き部24側から完全山部26側へ向かって行なわれる。この図2の(b) は外径加工工程である。
その後、図2の(c) に示すように、先端(図の左方向)に向かうに従って外径が比較的大きな一定の変化勾配で小径となるように研削砥石を工具素材に対して接近または離間させつつ、工具素材を軸心まわりに回転させるとともに軸方向へ相対移動させて外周部の研削加工を行うことにより、ねじ山18をテーパ状に除去して食付き部24を形成する。このような外周部の研削加工は、例えば食付き部24の先端側から完全山部26側へ向かって行なわれる。この図2の(c) は食付き部加工工程である。
なお、本実施例のスパイラルポイントタップ10は高速度工具鋼にて構成されているとともに、ねじ部16の表面には必要に応じて硬質被膜が設けられ、或いは溶着防止のための酸化処理が施される。
このようなスパイラルポイントタップ10においては、完全山部26がねじ山18のピッチPに対して4P以下の前側山部26aと残りの後側山部26bとに分けられ、食付き部24から前側山部26aを含む範囲のおねじの有効径および谷径には、所定の変化勾配で径寸法が漸増する正テーパが設けられているため、例えばタッピング加工に伴って第1完全山の切れ刃28が摩耗すると次の切れ刃28によってその摩耗部分の加工が行なわれるなど、タッピング加工時の負荷が前側山部26aの複数の切れ刃28に分散されるため、前側山部26aにおける切れ刃28の摩耗の進行が抑制されて工具寿命が向上する。その場合に、前側山部26aの軸方向長さはねじ山18のピッチPに対して4P以下で比較的短く、且つ径寸法が漸増する正テーパの半径寸法の変化勾配が1P(ピッチ)当り3μm以下であるため、タッピング加工時の加工トルクの増大が抑制される。
一方、めねじの切削加工を行う食付き部24の有効径が所定の正テーパで漸増しているため、図3に示すようにめねじのフランクを削り過ぎることがなく正規の寸法に切削加工されるようになり、前記図のように食付き部までバックテーパが設けられている場合に比較してめねじの面粗さ或いは面精度が向上する。図3は図の(b) に対応する図で、6枚の切れ刃28で切削加工が行われた場合であるが、その数は食付き部24の切れ刃28の数によって変化する。
また、本実施例では、おねじの外径についても前側山部26aと後側山部26bとで軸方向の変化勾配が別々に定められ、それぞれ有効径と同じ変化勾配とされていて、前側山部26aでは所定の正テーパで径寸法が漸増させられているため、切れ刃28の外径部分すなわちねじ山18の山頂付近についても負荷が分散されて摩耗の進行が抑制される。
また、本実施例では、前側山部26aの軸方向長さがP以上であるため、切れ刃28を枚以上含むことになり、その前側山部26aに存在する複数の切れ刃28に負荷が分散されて摩耗の進行が抑制される。
また、本実施例では、後側山部2bにおけるおねじの外径、有効径、および谷径に、1P当り0.5〜3μmの範囲内の変化勾配で半径寸法が漸減するバックテーパが設けられているため、タッピング加工時の加工トルクが低減される。
また、本実施例では、食付き部24および前側山部26aのおねじの有効径および谷径に、1P当り3μm以下の所定の変化勾配で半径寸法が漸増する正テーパが設けられており、前側山部26aでは外径についても同じ変化勾配で正テーパが設けられているため、径寸法が一定で変化勾配が0の場合に比較して、タッピング加工による切れ刃28の摩耗の進行が効果的に抑制される。めねじの素材(被加工物)は、一般に所定の弾性を備えているため、前側山部26aで僅かに削り過ぎても弾性による縮径で目的とする寸法のめねじを得ることができる。
因みに、図4の(a) に示す3種類の試験品(本発明品、比較品、従来品)をそれぞれ2本ずつ用意し、図4の(b) に示す加工条件でタッピング加工を行って耐久性試験を行なったところ、図4の(c) に示す結果が得られた。本発明品は、前記実施例と同様に外径、有効径、および谷径が何れも前側山部26aと後側山部26bとに分けて構成され、前側山部26aの長さ範囲は2Pで、外径、有効径、および谷径の半径寸法が何れも1P当り1.2μmの変化勾配で漸増する正テーパが設けられており、後側山部26bには、外径、有効径、および谷径の半径寸法が何れも1P当り2.1μmの変化勾配で漸減するバックテーパが設けられている。比較品は、本発明品と同様に外径、有効径、および谷径が何れも前側山部26aと後側山部26bとに分けて構成され、後側山部26bには、外径、有効径、および谷径の半径寸法が何れも1P当り2.1μmの変化勾配で漸減するバックテーパが設けられているが、前側山部26aには、外径、有効径、および谷径の半径寸法が1P当り3.5μmの大きな変化勾配で漸増する正テーパが設けられている点が本発明品と相違している。従来品は、完全山部26の全域で外径、有効径、および谷径が一定の変化勾配で漸減するバックテーパが設けられている場合で、その変化勾配は本発明品の後側山部26bにおける変化勾配と同じである。また、図4の(b) の加工条件において、被加工物の欄の「S45C」は、JIS規格による鋼材記号で機械構造用炭素鋼を表している。なお、図4および次の図5では、後方へ向かうに従って漸増する正テーパの変化勾配をプラス(+)で表し、後方へ向かうに従って漸減するバックテーパの変化勾配をマイナス(−)で表している。
図4の(c) は、各スパイラルタップ(試験品)が寿命に達するまでの加工ねじ穴数(タッピング個数)、寿命原因、従来品の平均加工ねじ穴数を100%とした場合の耐久比を示したもので、本発明品は従来品に比較して耐久性が72%向上した。前側山部26aの径寸法の変化勾配が大きい比較品は、溶着等により加工トルクが増大して工具が折損する場合があり、従来品よりも却って工具寿命が低下する。なお、寿命原因の欄の「GPOUT」は、ねじ部16の摩耗で加工めねじの寸法が小さくなり、その加工めねじを通りねじプラグゲージ(GP)が通らなくなったことにより工具寿命に達したことを表している。
図5は、図4と同様に3種類の試験品(本発明品、比較品、従来品)をそれぞれ2本ずつ用意し、図5の(b) に示す加工条件でタッピング加工を行って耐久性試験を行なった場合で、本発明品は、前記実施例と同様に外径、有効径、および谷径が何れも前側山部26aと後側山部26bとに分けて構成され、前側山部26aの長さ範囲は2Pで、外径、有効径、および谷径の半径寸法が何れも1P当り2.0μmの変化勾配で漸増する正テーパが設けられており、後側山部26bには、外径、有効径、および谷径の半径寸法が何れも1P当り2.1μmの変化勾配で漸減するバックテーパが設けられている。比較品は、本発明品と同様に外径、有効径、および谷径が何れも前側山部26aと後側山部26bとに分けて構成され、それぞれ本発明品と同じ変化勾配で正テーパが設けられているが、前側山部26aの長さ範囲が5Pと大きい点が本発明品と相違している。従来品は、図4の耐久性試験で用いた従来品と同じものである。また、図5の(b) の加工条件において、被加工物の欄の「SUS304」は、JIS規格による鋼材記号でステンレス鋼を表している。
図5の(c) は、図4の(c) と同様に各スパイラルタップ(試験品)が寿命に達するまでの加工ねじ穴数(タッピング個数)、寿命原因、従来品の平均加工ねじ穴数を100%とした場合の耐久比を示したもので、本発明品は従来品に比較して耐久性が23%向上した。前側山部26aの長さ範囲が5Pと大きい比較品は、溶着等により加工トルクが増大して何れも工具が折損し、従来品よりも工具寿命が低下する。
なお、前記実施例ではねじ部16の外径、有効径、および谷径が何れも前側山部26aと後側山部26bとに分けて構成され、径寸法の変化勾配等が互いに等しい同じ変化パターンで径寸法が変化するように構成されていたが、図6に示すように有効径および谷径のみが前側山部26aと後側山部26bとに分けて構成されるようにしても良い。その場合に、外径は、従来と同様に完全山部26の全域で一定の変化勾配で径寸法が漸減するバックテーパが設けられれば良く、例えば有効径の後側山部26bにおける変化勾配と同じ変化勾配のバックテーパが設けられる。
本実施例においても、食付き部24から前側山部26aを含む範囲の有効径および谷径には、所定の変化勾配で径寸法が漸増する正テーパが設けられているため、タッピング加工時の負荷が前側山部26aの複数の切れ刃28に分散されて切れ刃28の摩耗の進行が抑制され、工具寿命が向上する一方、食付き部24では前記図3と同様にめねじのフランクを削り過ぎることなく正規の寸法に切削加工できるようになり、めねじの面粗さ或いは面精度が向上するなど、前記実施例と同様の効果が得られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
本発明の一実施例であるスパイラルポイントタップを説明する図で、(a) は正面図、(b) は(a) におけるIB−IB断面の拡大図、(c) はねじ部の径寸法の軸方向における変化パターンを示す図である。 図1のスパイラルポイントタップのねじ部を加工する際の加工方法の一例を説明する図である。 図1のスパイラルポイントタップの食付き部の複数の切れ刃の切削加工形状を説明する図である。 本発明品、比較品、および従来品を用いてタッピング加工を行なって耐久性を調べた時の試験品の諸元や加工条件、寿命までの加工ねじ穴数等を示す図である。 図4とは異なる試験品を用いて異なる加工条件でタッピング加工を行なって耐久性を調べた時の試験品の諸元や加工条件、寿命までの加工ねじ穴数等を示す図である。 外径には完全山部の全域でバックテーパが設けられている実施例を説明する図で、図1の(c) に対応する径寸法の変化パターンを示す図である。 ックテーパが設けられた従来の切削タップを説明する図で、(a) は径寸法の軸方向における変化パターンを示す図であり、(b) は食付き部の複数の切れ刃の切削加工形状を説明する図である。
符号の説明
10:スパイラルポイントタップ(切削タップ) 16:ねじ部(おねじ) 20:直溝 22:スパイラルポイント溝 24:食付き部 26:完全山部 26a:前側山部 26b:後側山部 28:切れ刃

Claims (3)

  1. 外周部におねじが設けられるとともに、該おねじを分断するように軸方向に設けられた溝に沿って切れ刃が形成されている一方、軸方向において前記おねじの径寸法が略一定の完全山部と、該完全山部に連続して設けられ且つ先端に向かうに従って小径となる食付き部とを有する切削タップにおいて、
    前記完全山部は、前記食付き部に連続する前側山部と、残りの後側山部とから成り、該前側山部の軸方向長さはねじ山のピッチPの2倍(2P)以上で且つ4倍(4P)以下である一方、
    前記食付き部および前記前側山部における前記おねじの有効径には、該食付き部の先端から前記後側山部に向かうに従ってねじ山の1P(ピッチ)当り3μm以下の所定の変化勾配で半径寸法が漸増する正テーパが設けられており、
    前記後側山部における前記おねじの有効径には、前記前側山部の後端からシャンク側へ向かうに従って所定の変化勾配で径寸法が漸減するバックテーパが設けられている
    ことを特徴とする切削タップ。
  2. 前記おねじの外径は、前記前側山部と前記後側山部とで軸方向の変化勾配が別々に定められ、それぞれ前記有効径と同じ変化勾配とされている
    ことを特徴とする請求項1に記載の切削タップ。
  3. 前記後側山部における前記おねじの有効径には、ねじ山の1P(ピッチ)当り0.5〜3μmの範囲内の所定の変化勾配で半径寸法が漸減するバックテーパが設けられている
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の切削タップ。
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