JP7018136B2 - 盛上げタップ - Google Patents

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Description

本発明は盛上げタップに係り、特に、めねじをタッピング加工する際のトルクを低減する技術に関するものである。
完全山部と、その完全山部に連続して設けられ且つ先端に向かうに従って小径となる食付き部とを有するとともに、それ等の完全山部および食付き部には突出部と逃げ部とが交互に形成されたおねじが設けられ、被加工物に設けられた下穴内にその食付き部側からねじ込まれることにより、前記おねじの突出部が下穴の内壁表層部に食い込んで塑性変形させ、めねじを成形する盛上げタップが知られている(特許文献1、2参照)。
特開2007-313575号公報 特許第3822572号公報
ところで、このような盛上げタップは、おねじのねじ山を被加工物に設けられた下穴の内壁表層部に食い込ませて塑性変形させるため、タッピング加工時に大きなトルク(回転抵抗)が発生し、加工条件によっては摩耗等により十分な工具寿命が得られない場合があった。
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、タッピング加工時のトルクを低減して摩耗等による工具寿命の低下を抑制することにある。
かかる目的を達成するために、第1発明は、完全山部と、その完全山部に連続して設けられ且つ先端に向かうに従って小径となる食付き部とを有するとともに、それ等の完全山部および食付き部には突出部と逃げ部とが交互に形成されたおねじが設けられており、そのおねじのねじ山は、形成すべきめねじの谷形状に対応した断面形状を成していて、そのめねじに対応するリード角のつる巻き線に沿って設けられている盛上げタップにおいて、(a) 前記おねじのねじ山は、タップ軸線と平行な断面である軸平行断面においてそのタップ軸線方向の両側に位置する一対のフランクが前記めねじの谷形状に対応する所定のフランク角で傾斜させられた断面三角形状を成しているとともに、(b) 少なくとも前記食付き部における前記ねじ山には、前記断面三角形状のうち前記めねじの谷底に対応する山頂部分に、前記軸平行断面において前記タップ軸線方向の両側に位置する一対の側面がそれぞれ前記フランク角よりも大きな傾斜角度で傾斜させられた断面三角形状の尖り山が設けられていることを特徴とする。
第2発明は、第1発明の盛上げタップにおいて、前記尖り山の前記一対の側面の傾斜角度は何れも40°~80°の範囲内であることを特徴とする。
第3発明は、第1発明または第2発明の盛上げタップにおいて、前記尖り山の前記一対の側面が互いに交わる先端部の内角は、80°~160°の範囲内であることを特徴とする。
第4発明は、第1発明~第3発明の何れかの盛上げタップにおいて、前記尖り山の前記一対の側面の傾斜角度は互いに等しいことを特徴とする。
第5発明は、第1発明~第4発明の何れかの盛上げタップにおいて、前記尖り山の前記一対の側面はそれぞれ前記一対のフランクに直接連結されていることを特徴とする。
第6発明は、第1発明~第5発明の何れかの盛上げタップにおいて、前記尖り山の前記一対の側面が互いに交わる先端部には前記軸平行断面において丸みが付けられていることを特徴とする。
第7発明は、第1発明~第6発明の何れかの盛上げタップにおいて、前記尖り山は、前記食付き部における前記ねじ山にだけ設けられており、前記完全山部における前記ねじ山の山頂は、前記めねじの谷底形状に対応する形状とされていることを特徴とする。
このような盛上げタップにおいては、少なくとも食付き部におけるおねじのねじ山の山頂部分に断面三角形状の尖り山が設けられているため、ねじ山が被加工物の下穴の内壁表層部に食い込み易くなり、タッピング加工時のトルクが低減される。また、尖り山の一対の側面は、ねじ山のフランク角よりも大きな傾斜角度で傾斜させられているため、その一対の側面が互いに交わる先端部の角度(内角)は、フランクをそのまま延長した場合よりも大きくなり、山頂部分の強度不足による欠損等が抑制される。すなわち、ねじ山の山頂部分の強度を確保しつつ、タッピング加工時のトルクを低減して、摩耗等による工具寿命の低下を抑制することができる。また、このようにタッピング加工時のトルクが低減されることにより、盛上げタップを回転に同期して軸線方向へリード送りする際のスラスト荷重も低減される。
第2発明は、尖り山の一対の側面の傾斜角度が何れも40°~80°の範囲内であるため、ねじ山の山頂部分の強度を確保しつつタッピング加工時のトルクを低減する、という効果が適切に得られる。すなわち、加工条件(めねじの材質など)によって異なるが、一対の側面の傾斜角度が40°より小さいと、尖り山の先端部の強度が不足して欠損等が生じ易くなる一方、一対の側面の傾斜角度が80°を超えると、尖り山の存在に拘らずねじ山の山頂部分が軸平行断面において平坦(直線)に近くなり、タッピング加工時のトルクを低減する効果が十分に得られなくなる可能性がある。
第3発明は、尖り山の一対の側面が互いに交わる先端部の内角が80°~160°の範囲内であるため、ねじ山の山頂部分の強度を確保しつつタッピング加工時のトルクを低減する、という効果が適切に得られる。すなわち、加工条件(めねじの材質など)によって異なるが、尖り山の先端部の内角が80°より小さいと、尖り山の先端部の強度が不足して欠損等が生じ易くなる一方、先端部の内角が160°を超えると、尖り山自体が軸平行断面において平坦(直線)に近くなり、タッピング加工時のトルクを低減する効果が十分に得られなくなる可能性がある。この場合は、一対の側面の傾斜角度が何れも40°~80°の範囲内である必要はなく、一方の側面の傾斜角度が40°より小さい場合や、80°を超えている場合でも、先端部の内角が80°~160°の範囲内となるように他方の側面の傾斜角度が定められれば良い。
第4発明は、尖り山の一対の側面の傾斜角度が互いに等しい場合で、ねじ山が被加工物の下穴の内壁表層部に食い込んでめねじを成形する際に、内壁表層部の肉(めねじ材料)が尖り山を挟んで両側へ略均等に流動させられるようになり、タッピング加工時のトルクが適切に低減される。また、このように内壁表層部の肉が略均等に両側、すなわちタップ軸線方向の両側へ流動させられることと、タッピング加工時のトルクが低減されることと相まって、盛上げタップを回転に同期して軸線方向へリード送りする際のスラスト荷重が適切に低減される。
第5発明は、尖り山の一対の側面がそれぞれ一対のフランクに直接連結されている場合、言い換えれば尖り山が一対のフランクに連続して設けられている場合で、例えば尖り山とフランクとの間に中間の傾斜角度の傾斜面等が設けられる場合に比較して、尖り山の先端部の内角を小さくでき、タッピング加工時のトルクを適切に低減できる。
第6発明は、尖り山の一対の側面が互いに交わる先端部に丸みが付けられているため、先端部の強度が高くなって欠損等が抑制される。尖り山の先端部の丸みが大きいと、被加工物の下穴の内壁表層部に食い込む際の抵抗が大きくなり、タッピングトルクが大きくなって工具寿命が低下する恐れがあるため、丸みの大きさや有無は、所定の工具寿命が得られるように、尖り山の先端部の内角等を考慮して定められる。
第7発明は、食付き部におけるねじ山にだけ尖り山が設けられ、完全山部のねじ山の山頂は、目的とするめねじの谷底形状に対応する形状とされているため、食付き部の尖り山によりタッピング加工時のトルクを低減しつつ、完全山部によって目的とするめねじの谷底形状に適切に成形することができる。
本発明の一実施例である盛上げタップを説明する図で、タップ軸線Oと直角方向から見た正面図である。 図1の盛上げタップのねじ部を拡大して示した正面図である。 図2における III- III矢視部分でねじ山のつる巻き線に沿って切断した軸直角断面図である。 図1の盛上げタップの食付き部におけるおねじのねじ山の軸平行断面図である。 図1の盛上げタップの完全山部におけるおねじのねじ山の軸平行断面図である。 図1の盛上げタップを含む複数の試験品を用いてタッピング加工を行なった際の加工条件を説明する図である。 図6の加工条件に従ってタッピング加工を行なった際のトルクおよびスラスト荷重の測定結果を説明する図である。 図1の盛上げタップを含む複数の試験品を用いて、図6とは異なる材質の被加工物に対してタッピング加工を行なった際の加工条件を説明する図である。 図8の加工条件に従ってタッピング加工を行なった際のトルクおよびスラスト荷重の測定結果を説明する図である。 図6、図8の加工条件に従ってタッピング加工を行なった際のトルクおよびスラスト荷重の変化特性の一例を示した図である。 本発明の他の実施例を説明する図で、図4に対応する食付き部におけるおねじのねじ山の軸平行断面図である。 本発明の更に別の実施例を説明する図で、図4に対応する食付き部におけるおねじのねじ山の軸平行断面図である。 本発明の更に別の実施例を説明する図で、図4に対応する図であり、尖り山付近を拡大して示した軸平行断面図である。 本発明の更に別の実施例を説明する図で、図4に対応する図であり、尖り山付近を拡大して示した軸平行断面図である。 本発明の更に別の実施例を説明する図で、図2に対応するねじ部の正面図である。
本発明の盛上げタップは、被加工物に設けられた下穴内に食付き部側からねじ込まれることにより、おねじに設けられた突出部がその下穴の内壁表層部に食い込んで塑性変形させることによりめねじを成形するように用いられる。下穴を加工するドリルやリーマ等をタップの先端側に一体的に設けることもできるし、めねじの内径を仕上げるための内径仕上げ刃を一体に設けることもできるなど、種々の態様が可能である。1条ねじを加工する盛上げタップだけでなく、2条以上の多条ねじを加工する盛上げタップにも適用され得る。
盛上げタップは、複数の突出部が軸心と平行に連続するように、軸心まわりに等間隔で3列以上設けられることが望ましいが、各列の突出部を軸心まわりにねじれた螺旋状に連続するように設けることもできるし、軸心まわりに不等間隔で設けることもできるなど、種々の態様が可能である。必要に応じて、切削油剤を供給する油溝等がおねじを分断するように軸方向に設けられても良い。また、盛上げタップは切りくずを発生しないため、止り穴に対しても通り穴に対しても良好にタッピング加工を行なってめねじを成形することができる。
おねじのねじ山の一対のフランクのフランク角は共に30°で、ねじ山の角度(全角)は60°が一般的であるが、フランク角が30°以外のねじ山や、一対のフランクのフランク角が互いに相違するねじ山を有する盛上げタップにも本発明は適用され得る。尖り山の一対の側面の傾斜角度は、それぞれフランク角よりも大きいことを条件として、何れも40°以上が適当で45°以上が望ましく、80°以下が適当で75°以下が望ましい。但し、一対の側面の傾斜角度を40°未満、或いは80°を超えて設定することも可能で、加工条件等(めねじの材質など)に応じて適宜定めることができる。尖り山の先端部の内角は、80°以上が適当で90°以上が望ましく、160°以下が適当で150°以下が望ましい。但し、先端部の内角を80°未満、或いは160°を超えて設定することも可能で、加工条件等(めねじの材質など)に応じて適宜定めることができる。その尖り山の一対の側面の傾斜角度は、例えば互いに等しい大きさに設定されるが、互いに異なる傾斜角度で設けることもできる。また、尖り山は、例えば軸平行断面においてねじ山の中心線上に尖り山の先端部が位置するように設けられるが、尖り山の先端部がねじ山の中心線からずれるように、尖り山を設けることも可能である。
尖り山は、例えば軸平行断面において一対の側面がそれぞれ一対のフランクに直接連結されるように設けられるが、尖り山の一対の側面とフランクとの間に中間の傾斜角度の傾斜面等が設けられても良い。尖り山の先端部は、タッピング加工時のトルクを低減する上で可能な限り角張らせて設けることが望ましいが、所定の強度を確保する上で軸平行断面において所定の丸みを設けることもできる。尖り山の一対の側面とフランクとの連結部についても、角張らせて連結しても良いし所定の丸みを設けることもできる。
尖り山は、例えば食付き部におけるねじ山にだけ設けられ、完全山部におけるねじ山の山頂形状は、目的とするめねじの谷底形状に対応する形状、例えば軸平行断面において直線や円弧形状等とされるが、完全山部のねじ山にも、食付き部と同様に尖り山を設けることが可能である。その場合、盛上げ加工されためねじの溝底には、尖り山に対応するV字状の溝が形成されるため、必要に応じてタッピング加工後に切削加工や研削加工等により目的とする溝底形状に整形すれば良い。
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の一実施例である盛上げタップ10を示す図で、タップ軸線Oと直角方向から見た正面図である。盛上げタップ10は、図示しないチャックを介して主軸に取り付けられるシャンク12と、めねじを盛上げ加工(転造加工)するためのねじ部16とを、タップ軸線Oと同心に一体に備えている。図2は、ねじ部16を拡大して示した正面図で、図3は、図2における III- III矢視部分でねじ部16のねじ山18に沿って切断した、タップ軸線Oと直角な軸直角断面図である。ねじ部16は、外側へ湾曲した辺からなる多角形状、本実施例では略正八角形状の断面を成しているとともに、その外周面には、被加工物(めねじ素材)の下穴の表層部に食い込んで塑性変形させることによりめねじを盛上げ加工するおねじが設けられている。本実施例の盛上げタップ10は1条ねじを加工するためのもので、おねじも1条ねじである。
上記おねじのねじ山18は、形成すべきめねじの谷の形状に対応した断面形状を成していて、そのめねじに対応するリード角のつる巻き線に沿って設けられているとともに、そのねじ山18が径方向の外側へ突き出す8つの突出部20と、その突出部20に続いて小径となる逃げ部22とが、ねじの進み方向に沿って交互に且つタップ軸線Oまわりにおいて45°の等角度間隔で設けられている。すなわち、正八角形の各頂点部分がそれぞれ突出部20であり、タップ軸線Oと平行に多数の突出部20が連続して設けられるとともに、そのように軸方向に連続する多数の突出部20の列がタップ軸線Oまわりに等角度間隔で8列設けられているのである。
ねじ部16はまた、タップ軸線O方向において径寸法が略一定の完全山部26と、先端側へ向かうに従って小径となる食付き部24とを備えている。食付き部24では、おねじの外径、有効径、および谷径が互いに等しい一定の変化勾配で小径となるように径寸法が変化している。食付き部24においても、図3と同様に略正八角形状を成していて、突出部20および逃げ部22を周方向において交互に備えている。図4は、食付き部24におけるねじ山18の軸平行断面図、すなわちタップ軸線Oと平行な断面図で、図5は、完全山部26におけるねじ山18の軸平行断面図であり、ねじ山18は、軸平行断面においてタップ軸線O方向の両側に位置する一対の進み側フランク30および追い側フランク32が、それぞれ所定のフランク角α1、α2で傾斜させられた断面三角形状を成している。本実施例では、フランク角α1=α2=30°で、全角α=60°の正三角形状を成しており、タップ軸線Oと直角な中心線Sを中心として対称的に設けられている。また、ねじ部16の外周面であってタップ軸線Oまわりの8列の突出部20の中間位置には、それぞれ潤滑油剤を供給するための油溝28がタップ軸線Oと平行に設けられている。
ここで、このような盛上げタップ10は、被加工物に設けられた下穴内に食付き部24側からねじ込まれることにより、突出部20がその下穴の内壁表層部に食い込んで塑性変形させることによりめねじを盛上げ加工する。このような盛上げタップ10によるタッピング加工においては、タッピング加工時に大きなトルク(回転抵抗)が発生し、加工条件によっては摩耗等により十分な工具寿命が得られない場合がある。
これに対し、本実施例では、食付き部24におけるねじ山18の山頂部分に尖り山40が設けられている。尖り山40は、図4に示す軸平行断面においてタップ軸線O方向の両側に位置する一対の側面42、44が、それぞれ前記フランク角α1、α2よりも大きな傾斜角度β1、β2で傾斜させられた断面三角形状を成している。すなわち、一対の側面42、44は、図4に示す軸平行断面において直線で表されるとともに、ねじ山18の山頂側の先端部46で互いに交わるように設けられる。本実施例では、傾斜角度β1=β2で、ねじ山18の中心線Sを中心として対称形状を成すように設けられているとともに、それ等の傾斜角度β1、β2は40°~80°の範囲内、好適には45°~75°の範囲内で、適当に定められる。これにより、一対の側面42、44が互いに交わる先端部46の内角(=β1+β2)は80°~160°の範囲内となり、好適には90°~150°の範囲内とされる。また、尖り山40は、一対のフランク30、32に連続して設けられており、一対の側面42、44は、図4の軸平行断面においてそれぞれ一対のフランク30、32に折れ線状に直接連結されている。尖り山40の先端部46は、本実施例ではできるだけ角張るように形成されており、尖り山40の一対の側面42、44とフランク30、32との連結部48、50も角張っている。
一方、図5に示す完全山部26のねじ山18は、目的とするめねじのねじ溝の断面形状に対応する断面形状で、本実施例では図5の軸平行断面においてタップ軸線Oと平行な直線にて山頂52が形成されている。すなわち、完全山部26におけるねじ山18の山頂52は、タップ軸線Oを中心とする円筒形状を成している。
前記食付き部24のねじ山18に設けられる尖り山40は、例えば完全山部26と同じ図5に示す断面形状のねじ山18を加工した後、研削加工や切削加工によりねじ山18の山頂52の両側角部を面取加工することによって形成することができる。なお、転造加工によって図4に示す断面形状のねじ山18を設けることもできるなど、種々の製造方法を採用できる。
次に、本実施例の盛上げタップ10を含む複数の試験品を用意し、材質が異なる2種類の被加工物に対してタッピング加工を行い、トルクおよびスラスト荷重を測定した結果を説明する。図6および図7は、JISの規定によるS45C〔機械構造用炭素鋼〕に対してタッピング加工を行った時の試験条件および試験結果で、図8および図9は、JISの規定によるSCM440(30HRC)〔クロムモリブデン鋼〕に対してタッピング加工を行った時の試験条件および試験結果である。図7、図9における試験品の「山頂平(従来)」は、食付き部24を含めてねじ山18の山頂が前記図5に示す山頂52のように平坦な従来の盛上げタップで、その他の試験品は前記盛上げタップ10と同様に尖り山40を備えており、傾斜角度β1=β2であるとともに、その傾斜角度β1、β2を35°~85°の範囲で変化させたものである。傾斜角度β1、β2が45°、60°、および75°の試験品は本実施例品である。
また、図7、図9における「トルク(N・cm)」および「スラスト荷重(N)」は、KISTLER社製の型式5697Aの測定装置を主軸に取り付けて測定したもので、図10に示すようなデータから算出した値である。具体的には、「トルク(N・cm)」については略安定する図10のA部の平均値で、「スラスト荷重(N)」については略安定する図10のB部の平均値である。正転時の最大値や複数のピーク値の平均値などを用いることもできる。図7、図9における「トルク比(%)」および「スラスト荷重比(%)」は、「山頂平(従来)」の測定値を基準(100%)として、その他の試験品におけるトルク、スラスト荷重の割合(百分率)を求めたもので、その値が小さい程トルクやスラスト荷重の低減効果が大きい。図10における「正転」は、盛上げタップを被加工物の下穴内にねじ込んでタッピング加工を行う回転方向で、「逆転」は、盛上げタップを逆転させてめねじから抜き出す回転方向である。図10のトルクの+側は、盛上げタップを正転させる方向のトルクで、下穴内にねじ込む際の回転抵抗に対応し、逆転させて抜き出す際にも、被加工物の弾性復帰で回転抵抗が発生し、逆転方向(-側)のトルクが発生する。図10のスラスト荷重の+側は、盛上げタップを正転させて下穴内にねじ込む際に、リード送り(シンクロ送り)のためにタップ先端側へ押し込む方向の荷重で、盛上げタップ10を逆転させて抜き出す際のスラスト荷重は略0である。
図7および図9の試験結果において、食付き部24におけるねじ山18の山頂部分に尖り山40を設けた試験品のうち、傾斜角度β1、β2が35°の試験品は、何れもねじ山18の山頂部分に欠損が生じて加工不可であった。傾斜角度β1、β2が45°~85°の範囲の試験品については、何れの被加工物に対しても欠損を生じることなくタッピング加工を行うことが可能で、山頂が平坦な従来の試験品に比較して、トルクおよびスラスト荷重が何れも低減される。特に、傾斜角度β1、β2が45°~75°の範囲の試験品、すなわち本実施例の盛上げタップ10は、トルクおよびスラスト荷重の低減効果が大きい。
このように、本実施例の盛上げタップ10においては、食付き部24におけるおねじのねじ山18の山頂部分に断面三角形状の尖り山40が設けられているため、ねじ山18が被加工物の下穴の内壁表層部に食い込み易くなり、タッピング加工時のトルクおよびスラスト荷重が低減される。また、尖り山40の一対の側面42、44は、ねじ山18のフランク角α1、α2よりも大きな傾斜角度β1、β2で傾斜させられているため、その一対の側面42、44が互いに交わる先端部46の角度(内角)は、フランク30、32をそのまま延長した場合よりも大きくなり、山頂部分の強度不足による欠損等が抑制される。すなわち、ねじ山18の山頂部分の強度を確保しつつ、タッピング加工時のトルクおよびスラスト荷重を低減して、摩耗等による工具寿命の低下を抑制することができる。
また、尖り山40の一対の側面42、44の傾斜角度β1、β2が何れも40°~80°の範囲内であるため、ねじ山18の山頂部分の強度を確保しつつタッピング加工時のトルクを低減する、という効果が適切に得られる。すなわち、一対の側面42、44の傾斜角度β1、β2が40°より小さいと、β1、β2=35°の試験品のように尖り山40の先端部46の強度が不足して欠損等が生じ易くなる。一方、一対の側面42、44の傾斜角度β1、β2が80°を超えると、尖り山40の存在に拘らずねじ山18の山頂部分が軸平行断面において平坦(直線)に近くなり、β1、β2=85°の試験品のようにタッピング加工時のトルクやスラスト荷重を低減する効果が十分に得られなくなる。
また、本実施例の盛上げタップ10は、傾斜角度β1=β2であり、尖り山40の先端部46の内角が80°~160°の範囲内であるため、ねじ山18の山頂部分の強度を確保しつつタッピング加工時のトルクおよびスラスト荷重を低減する、という効果が適切に得られる。すなわち、尖り山40の先端部46の内角が80°より小さいと、β1、β2=35°の試験品(先端部46の内角=70°)のように先端部46の強度が不足して欠損等が生じ易くなる。一方、先端部46の内角が160°を超えると、尖り山40自体が軸平行断面において平坦(直線)に近くなり、β1、β2=85°の試験品(先端部46の内角=170°)のようにタッピング加工時のトルクやスラスト荷重を低減する効果が十分に得られなくなる。
また、本実施例の盛上げタップ10は、尖り山40の一対の側面42、44の傾斜角度β1、β2が互いに等しいため、ねじ山18が被加工物の下穴の内壁表層部に食い込んでめねじを盛上げ加工する際に、内壁表層部の肉(金属)が尖り山40を挟んで両側へ略均等に流動させられるようになり、タッピング加工時のトルクやスラスト荷重が適切に低減される。
また、本実施例の盛上げタップ10は、尖り山40の一対の側面42、44が軸平行断面においてそれぞれ一対のフランク30、32に折れ線状に直接連結されており、尖り山40が一対のフランク30、32に連続して設けられているため、例えば尖り山40とフランク30、32との間に中間の傾斜角度の傾斜面等が設けられる場合に比較して、尖り山40の先端部46の内角を小さくでき、タッピング加工時のトルクやスラスト荷重を適切に低減できる。
また、本実施例の盛上げタップ10は、食付き部24におけるねじ山18にだけ尖り山40が設けられており、完全山部26のねじ山18の山頂52は、目的とするめねじの谷底形状に合わせて軸平行断面において平坦形状とされているため、食付き部24の尖り山40によりタッピング加工時のトルクやスラスト荷重を低減しつつ、完全山部26によって目的とするめねじの谷底形状に適切に成形することができる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
図11は前記図4に対応する図で、食付き部24におけるおねじのねじ山18の軸平行断面図であり、前記実施例に比較して、ねじ山18の山頂部分に設けられた尖り山60が相違する。すなわち、この尖り山60は、進み側フランク30に連続して設けられた一方の側面62の傾斜角度β1と、追い側フランク32に連続して設けられた他方の側面64の傾斜角度β2とが相違しており、先端部66は中心線S上に位置しているものの、その中心線Sに対して非対称形状を成している。具体的には、側面62側の傾斜角度β1が、側面64側の傾斜角度β2よりも大きい。この場合、ねじ山18が被加工物の下穴の内壁表層部に食い込んでめねじを盛上げ加工する際に、内壁表層部の肉(金属)が尖り山60の両側へ流動する際の流動量が、側面62側と側面64側とで差が生じるようになり、タッピング加工時のスラスト荷重を調整することができる。なお、側面62側の傾斜角度β1を、側面64側の傾斜角度β2よりも小さくすることも可能である。
図12は前記図4に対応する図で、食付き部24におけるおねじのねじ山18の軸平行断面図であり、前記実施例に比較して、ねじ山18の山頂部分に設けられた尖り山70が相違する。すなわち、この尖り山70は、前記尖り山40と同様に傾斜角度β1=β2の一対の側面42、44を備えているが、先端部46の位置が、ねじ山18の中心線Sから進み側フランク30側、すなわちタップ軸線O方向におけるタップ先端側へずれている。この場合も、ねじ山18が被加工物の下穴の内壁表層部に食い込んでめねじを盛上げ加工する際に、内壁表層部の肉(金属)が尖り山70の両側へ流動する際の流動量が、側面42側と側面44側とで差が生じるようになり、タッピング加工時のスラスト荷重を調整することができる。なお、先端部46の位置を、ねじ山18の中心線Sから追い側フランク32側へずらすこともできる。図11の尖り山60についても、同様に先端部66の位置をねじ山18の中心線Sからずらすように設けることができる。
図13は前記図4に対応する図で、食付き部24におけるおねじのねじ山18の軸平行断面図であり、ねじ山18の山頂部付近、すなわち尖り山80付近を拡大して示した図である。この尖り山80は、基本的に前記実施例の尖り山40と同様の断面形状を成しており、傾斜角度β1=β2の一対の側面42、44を備えているが、先端部46および連結部48、50には、図13に示す軸平行断面においてそれぞれ所定の丸みが付けられている。この場合には、先端部46および連結部48、50の強度が高くなって欠損等が抑制される。先端部46の丸みが大きいと、被加工物の下穴の内壁表層部に食い込む際の抵抗が大きくなり、タッピングトルクが大きくなって工具寿命が低下する恐れがあるため、丸みの大きさ(半径や範囲など)は、所定の工具寿命が得られるように、先端部46の内角等を考慮して定められる。丸みの大きさは、尖り山80が軸平行断面において直線で表される一対の側面42、44を備えることを条件として定められる。他の尖り山60、70についても同様に、先端部66、46に丸みを設けたり、フランク30、32との連結部に丸みを設けたりすることができる。
図14は前記図4に対応する図で、食付き部24におけるおねじのねじ山18の軸平行断面図であり、ねじ山18の山頂部付近、すなわち尖り山40付近を拡大して示した図である。この実施例では、尖り山40の一対の側面42、44とフランク30、32との間に、それぞれ傾斜面92、94が設けられている。傾斜面92の傾斜角度は、フランク角α1よりも大きく且つ傾斜角度β1よりも小さく、進み側フランク30から山頂側へ向かうに従って段階的に傾斜角度が大きくされている。傾斜面94の傾斜角度は、フランク角α2よりも大きく且つ傾斜角度β2よりも小さく、追い側フランク32から山頂側へ向かうに従って段階的に傾斜角度が大きくされている。他の実施例についても同様に、尖り山60、70、80とフランク30、32との間に、中間の傾斜角度の傾斜面を設けることができる。2段以上で折れ曲がった傾斜面を設けることも可能である。
図15は前記図2に対応する図で、ねじ部100を拡大して示した正面図である。このねじ部100は、食付き部24および完全山部26を備えているとともに、食付き部24におけるおねじのねじ山18の山頂部分に尖り山40が設けられている点は、前記ねじ部16と同じであるが、完全山部26におけるおねじのねじ山18の山頂部分にも尖り山40が設けられている。この場合は、盛上げ加工されためねじの溝底には、尖り山40に対応するV字状の溝が形成されるため、必要に応じてタッピング加工後に切削加工や研削加工等により目的とする溝底形状に整形される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
10:盛上げタップ 16、100:ねじ部(おねじ) 18:ねじ山 20:突出部 22:逃げ部 24:食付き部 26:完全山部 30:進み側フランク 32:追い側フランク 40、60、70、80:尖り山 42、44、62、64:側面 46、66:先端部 O:タップ軸線 α1、α2:フランク角 β1、β2:傾斜角度

Claims (7)

  1. 完全山部と、該完全山部に連続して設けられ且つ先端に向かうに従って小径となる食付き部とを有するとともに、それ等の完全山部および食付き部には突出部と逃げ部とが交互に形成されたおねじが設けられており、該おねじのねじ山は、形成すべきめねじの谷形状に対応した断面形状を成していて、該めねじに対応するリード角のつる巻き線に沿って設けられている盛上げタップにおいて、
    前記おねじのねじ山は、タップ軸線と平行な断面である軸平行断面において該タップ軸線方向の両側に位置する一対のフランクが前記めねじの谷形状に対応する所定のフランク角で傾斜させられた断面三角形状を成しているとともに、
    少なくとも前記食付き部における前記ねじ山には、前記断面三角形状のうち前記めねじの谷底に対応する山頂部分に、前記軸平行断面において前記タップ軸線方向の両側に位置する一対の側面がそれぞれ前記フランク角よりも大きな傾斜角度で傾斜させられた断面三角形状の尖り山が設けられている
    ことを特徴とする盛上げタップ。
  2. 前記尖り山の前記一対の側面の傾斜角度は何れも40°~80°の範囲内である
    ことを特徴とする請求項1に記載の盛上げタップ。
  3. 前記尖り山の前記一対の側面が互いに交わる先端部の内角は、80°~160°の範囲内である
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の盛上げタップ。
  4. 前記尖り山の前記一対の側面の傾斜角度は互いに等しい
    ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の盛上げタップ。
  5. 前記尖り山の前記一対の側面はそれぞれ前記一対のフランクに直接連結されている
    ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の盛上げタップ。
  6. 前記尖り山の前記一対の側面が互いに交わる先端部には前記軸平行断面において丸みが付けられている
    ことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の盛上げタップ。
  7. 前記尖り山は、前記食付き部における前記ねじ山にだけ設けられており、前記完全山部における前記ねじ山の山頂は、前記めねじの谷底形状に対応する形状とされている
    ことを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の盛上げタップ。
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