以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造の側面図であり、ケースカバーの一部を破断した状態を示す。図2は、オイル量調節部材を示し、(a)は、オイル量調節部材の斜視図であり、(b)は、(a)のA−A断面を示す断面図である。
まず、その構成について説明する。
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10は、第1歯車1と、第1歯車1よりも下方に位置し第1歯車1と噛み合う第2歯車2と、第1歯車1および第2歯車2を収容するケース3と、ケース3内に溜まったオイルLに浸かるよう設けられたオイル量調節部材4とを含んで構成されている。
第1の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10は、例えば、内燃機関から出力された動力を車輪に伝達するトランスアクスルなどの動力伝達装置で構成されており、第1歯車1は、例えば、ディファレンシャルのリングギヤなどの出力側に接続される歯車で構成され、第2歯車2は、例えば、ディファレンシャルドライブピニオンなどの入力側に接続される歯車で構成されている。また、第1の実施の形態に係る動力伝達装置においては、リダクションドリブンギヤ、リダクションドライブギヤなどの歯車やオイルポンプなどの被潤滑部材が含まれていてもよい。
第1歯車1は、カウンタシャフト5に固定されており、カウンタシャフト5の両端部で軸受を介してケース3に回転自在に支持され、第1歯車1およびカウンタシャフト5が共に回転するようになっている。
第2歯車2は、ディファレンシャルケース6に固定されており、ディファレンシャルケース6の両端部で図示しない軸受を介してケース3に回転自在に支持され、第2歯車2およびディファレンシャルケース6が共に回転するようになっている。
この第2歯車2は、矢印Kbの方向に回転するよう構成されており、その回転により、ケース3の下部に溜まったオイルLを上方に掻き上げるようになっている。第2歯車2により掻き上げられたオイルLは、第1歯車1と第2歯車2の噛み合い部分および前述の被潤滑部材に供給されるようになっている。
ケース3は、第1歯車1、第2歯車2および他の歯車を収容するケース本体3aと、ケース本体3aに取り付けられるケースカバー3bとを含んで構成されている。
ケース本体3aは、アルミダイキャストなどからなり、軽量で高い剛性を有している。
また、ケース本体3aは、点Paと点Pbとを結ぶ線に直交し、点Pbを通る線Pcと、点Pbから第2歯車2の下方に垂直に引いた線Pkとがなす角度θの範囲で、第2歯車2の外周面2aとケース本体3aの内壁面3nとの間の隙間Sを有するよう、内壁面3nが円弧状に形成されている。この第2歯車2の外周面2aと、ケース本体3aの内壁面3nと、ケースカバー3bの図示しない内壁面とによりオイル通路11が画成されている。
第2歯車2により掻き上げられたオイルLは、オイル通路11内を流通して上部に供給されるようになっている。オイル通路11は、オイル量調節部材4と第2歯車2との間に画成され、線Pkの近傍に位置する隙間を入口11aとし、ケース本体3aの内壁面3nと第2歯車2との間に画成され、線Pcの近傍に位置する隙間を出口11bとするオイルLの通路であり、第2歯車2の回転により掻き上げられたオイルLが円滑に流通するようになっている。
このケース本体3aの底面部3tの近傍には、オイル流入口3rが形成されており、ケース3の外部からオイルLが流入しケース本体3aの下部に溜まるようになっている。ケース本体3aと隣接する図示しないケース内のオイルLを、このオイル流入口3rに、流入させるようにしてもよく、図示しないオイルポンプに連結されているオイル管から直接のオイル流入口3rに、オイルLを流入させるようにしてもよい。
ケースカバー3bは、ケース本体3aと同様に、アルミダイキャストなどからなり、軽量で高い剛性を有している。ケースカバー3bには、ケース本体3aに形成された複数の貫通孔3hと対応する位置に、図示しない貫通孔が複数形成されており、これら貫通孔および貫通孔3hにフランジボルトなどの締結具7が挿通され図示しないナットによりねじ結合され、ケース本体3aとケースカバー3bとが一体化されて内部のオイルLが漏出しないようになっている。
図2(a)、(b)に示すように、オイル量調節部材4は、ゴム、エラストマーおよびプラスチックなどの弾性材料からなり、変形部4aと、取付部4b、4cとを含んで構成されている。
変形部4aは、内部に空洞4kを有する方形の六面体からなり、上方に受圧面4jが形成されており、この受圧面4jにオイルLの圧力が加わると変形部4aが凹むようになっている。すなわち、第2歯車2の回転により流動するオイルLが受圧面4jに衝突することにより受圧面4jを押圧すると変形部4aが縮小変形するようになっている。また、変形部4aは、弾性材料で構成されているので、第2歯車2の回転が停止し、オイルLの流動がなくなり、受圧面4jへの押圧力がなくなったとき、自己の復元力により速やかに元の形状に復帰するようになっている。
取付部4bは、変形部4aの底面4tから延在して設けられ、貫通孔を有しており、この貫通孔にはフランジボルト8が挿通されケース本体3aの底面部3tに固定されるようになっている。取付部4cも、取付部4bと同様に変形部4aの底面4tから延在して設けられ、貫通孔を有しており、この貫通孔にはフランジボルト9が挿通されケース本体3aの底面部3tに固定されるようになっている。
以下、本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10の動作について説明する。
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10の側面図であり、第2歯車2の回転によりオイルLが掻き上げられる状態を示す。図4は、図3の部分拡大図であり、第2歯車2が低速で回転している状態を示し、図5は、図4のB−B断面を示す断面図であり、第2歯車2が低速で回転している状態を示し、図6は、図3の部分拡大図であり、第2歯車2が高速で回転している状態を示し、図7は、図6のC−C断面を示す断面図であり、第2歯車2が高速で回転している状態を示す。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10においては、図示しないエンジンが停止しているときは、図1に示すように、オイルLは、ケース3の下部に還流され貯留されて油面が比較的高い状態で静止している。
エンジンが始動すると、エンジンから出力された動力が、カウンタシャフト5に伝達され、第1歯車1は、図3に示すように、矢印Ka方向に回転する。そして、第1歯車1とともに第2歯車2が矢印Kb方向に回転し、ディファレンシャルケース6が回転し、ディファレンシャルケース6を介して動力が左右の車輪に伝達される。
このとき、第2歯車2の矢印Kb方向の回転に伴って、ケース3の下部に貯留されているオイルLは、掻き上げられオイル通路11の入口11aから出口11bに向かって滑らかに流通し、第1歯車1と第2歯車2との噛み合い部分に供給される。噛み合い部分に供給されたオイルLは、ケース3の下部に還流され貯留される。
図4に示すように、車両が低速走行のとき、すなわち、第2歯車2の回転速度(rpm)が低いときは、第2歯車2で攪拌されて流動する攪拌油量が比較的少なく、単位時間(sec)当たりに掻き上げられるオイル量(mm3/sec)が比較的少ない。この場合、第2歯車2の下部を流動するオイルLの流速(m/sec)も小さいので、オイル量調節部材4の受圧面4jが受ける圧縮力(MPa)も小さい。
ここで、流動するオイルLにより生ずる流動方向の圧力をFとすると、圧力Fが受圧面4jに加わったとき、受圧面4jに垂直な垂直分力Fvと、受圧面4jに水平な水平分力Fhとが作用することになる。したがって、受圧面4jが受ける圧縮力は、垂直分力Fvとなり、受圧面4jがオイルLの流動方向に対して垂直に近い角度になるほど垂直分力Fvが大きくなる。また、垂直分力Fvが等しければ、受圧面4jの受圧面積が大きいほど受圧面4jが受ける圧縮力が大きくなる関係にある。
その結果、車両が低速走行のとき、図4および図5に示すように、オイル量調節部材4の変形部4aは僅かに変形するだけで、第2歯車2の下部とオイル量調節部材4の受圧面4jとの間隔L1は、変形前とほぼ等しく、オイル通路11の入口11aの開口面積S1(mm2)も小さいので、入口11aからオイル通路11に流入するオイル量も少ない。オイル通路11に流入するオイル量が少なくても、第1歯車1および第2歯車2が低速で噛み合っているため、比較的少ないオイル量で充分な潤滑がなされる。なお、開口面積S1は、間隔L1と第2歯車2の歯幅W1との積で表され、S1=L1×W1となる。
図6に示すように、車両が高速走行のとき、すなわち、第2歯車2の回転速度(rpm)が高いときは、第2歯車2で攪拌されて流動する攪拌油量が比較的多く、単位時間(sec)当たりに掻き上げられるオイル量が比較的多い。この場合、第2歯車2の下部を流動するオイルLの流速も大きくなるので、オイル量調節部材4の受圧面4jが受ける圧縮力も大きくなる。
その結果、図6および図7に示すように、オイル量調節部材4の変形部4aは大きく縮小変形し、第2歯車2の下部とオイル量調節部材4の受圧面4jとの間隔L2は、変形前に比べて大きくなり、オイル通路11の入口11aの開口面積S2も大きくなるので、入口11aからオイル通路11に流入するオイル量も増大する。オイル通路11に流入するオイル量が増大すると、第1歯車1および第2歯車2が高速で噛み合い潤滑油量を多く必要とするときに、多量のオイルが供給され充分な潤滑がなされる。なお、開口面積S2は、開口面積S1と同様に、間隔L2と第2歯車2の歯幅W1との積で表され、S2=L2×W1となる。
また、車両が高速走行から、低速走行または低速と高速の中間的な中速走行に移行する際には、縮小変形したオイル量調節部材4に、元の形状に戻るよう復元力が作用する。
すなわち、オイル量調節部材4は、車両の走行状態に応じて適切な大きさに縮小変形するので、車両の走行状態に応じた適切なオイル量が第1歯車1および第2歯車2の噛み合い部分に供給される。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10においては、以上のように構成されているので、次の効果が得られる。
図8は、本発明の第1の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10における、車速と、オイル量およびオイル通路11の入口11aの開口面積との関係を示すグラフであり、横軸は車速(km/hr)、左側の縦軸は、単位時間当たりの撹拌油量(mm3/sec)、右側の縦軸は、オイル通路11の入口11aの開口面積(mm2)を表している。
太実線で示す直線は、第1歯車1および第2歯車2の噛み合い部に、単位時間当たりに供給される必要オイル量(mm3/sec)と車速との関係を表している。また、二重線で示す直線は、第1歯車1および第2歯車2の噛み合い部に、単位時間当たりに供給される供給オイル量(mm3/sec)と車速との関係を表している。また、点線で示す曲線は、図1に示すケース本体3aのオイル流入口3rの開口面積が、a、b、c、dでそれぞれ形成された場合であって、オイル量調節部材4が設けられていない場合における、単位時間当たりに供給される供給オイル量と車速との関係を表している。
なお、オイル流入口3rの開口面積は、a<b<c<dの関係にある。また、Saは、車速がVaのときのオイル通路11の入口11aの開口面積を表しており、Sbは、車速がVbのとき、Scは、車速がVcのとき、Sdは、車速がVdときのオイル通路11の入口11aの開口面積をそれぞれ表している。グラフに示すように、Sa<Sb<Sc<Sd、Va<Vb<Vc<Vdの関係にある。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10は、第1歯車1と、第1歯車1よりも下方に位置し第1歯車1と噛み合う第2歯車2と、第1歯車1および第2歯車2を収容するケース3とを備え、第2歯車2が、ケース3内の下部に溜まったオイルLを掻き上げることにより、第1歯車1および第2歯車2の噛み合い部にオイルLを供給するよう構成されている。そして、ケース3が、その下部にオイルLを流入させるオイル流入口3rを有するとともに、オイル流入口3rの近傍であってオイルLに浸かるようケース本体3aの底面部3tに固定され、第2歯車2によって掻き上げられるオイル量を調節するオイル量調節部材4を有することを特徴としている。このオイル量調節部材4が、第2歯車2によりオイルLが掻き上げられる際のオイルLの圧力によって縮小変形することにより、オイル量調節部材4の上部と第2歯車2の下部との間を流通するオイルLの流量を増大させるよう構成されている。
その結果、本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10においては、図8に示すように、車速が低速から高速までの全ての運転状態において、第1歯車1および第2歯車2の噛み合い部に必要なオイル量(mm3/sec)を満たした十分なオイル量を供給することができる。
すなわち、比較的低速走行の車速がVa(km/hr)のとき、第2歯車2の回転が低速であるため、オイル量調節部材4の縮小変形が僅かであり、オイル通路11の入口11aの開口面積Sa(mm2)は、小さくなっているが、必要なオイル量も少なくて済むので、必要なオイル量を満たした供給がなされている。
また、車速がVbのとき、第2歯車2の回転速度は、車速がVaのときよりも大きくなり、前述のようにオイル量調節部材4の縮小変形も第2歯車2の回転の増大により車速がVaのときよりも大きくなる。その結果、オイル通路11の入口11aの開口面積SbもSaよりも大きくなるので、車速がVaのときよりも供給されるオイル量も多くなり、車速がVbのときも、必要なオイル量を満たした供給がなされている。
また、車速がVcのとき、第2歯車2の回転速度は、車速がVbのときよりも大きくなり、前述のようにオイル量調節部材4の縮小変形も第2歯車2の回転の増大により車速がVbのときよりも大きくなる。その結果、オイル通路11の入口11aの開口面積Scも開口面積Sbよりも大きくなるので、車速がVbのときよりも供給されるオイル量も多くなり、車速がVcのときも、必要なオイル量を満たした供給がなされている。
同様に、車速がVdのとき、第2歯車2の回転速度は、車速がVcのときよりも大きくなり、前述のようにオイル量調節部材4の縮小変形も第2歯車2の回転の増大により車速がVcのときよりも大きくなる。その結果、オイル通路11の入口11aの開口面積Sdも開口面積Scよりも大きくなるので、車速がVcのときよりも供給されるオイル量も多くなり、車速がVdのときも、必要なオイル量を満たした供給がなされている。
このように、オイル量調節部材4は、車両の走行状態に応じて適切な大きさに縮小変形するので、車両の走行状態に応じた十分なオイル量を第1歯車1および第2歯車2の噛み合い部分に供給することができる。
また、従来の動力伝達装置の潤滑構造においては、オイル量調節部材4が設けられていないので、ケース3のオイル流入口3rに相当するオイル流入口の開口面積を増大させて、本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10におけるオイル通路11の入口11aに相当する入口部分に、貯留されるオイル量を増大させることが考えられる。
この場合、例えば、図8に示す従来のオイル流入口の開口面積が固定されたaで形成したとき、点線の曲線で示すように、車速VaおよびVbでは、必要オイル量が満たされているが、車速VcおよびVdでは必要オイル量に達していない。この開口面積をbないしdのように大きく形成するようにしても、車速が高くなると必要オイル量が満たされなくなるという問題があった。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10においては、前述のようにオイル通路11の入口11aの開口面積が車両の走行状態に応じて適切な大きさに縮小変形するので、このような必要オイル量に満たないという問題が解消されるという効果がある。
また、従来の動力伝達装置の潤滑構造において、必要オイル量を満たすようオイル流入口の開口面積をaからdのように大きく形成すると、その分、ケース内に流入するオイル量も増大してしまい、例えば、オイル流入口の開口面積をdで形成した場合、点線の曲線で示されるように、車速Vaの近傍において潤滑部分に供給される供給オイル量が不必要に増大してしまう。このことは、ケース下部に貯留されるオイル量が増大し、オイルを掻き上げる歯車のオイルに浸漬する部分が増大することになり、歯車の撹拌抵抗が増大してしまうことになる。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10においては、オイル流入口3rの開口面積が比較的小さく形成されても、車速に対応して縮小変形するオイル量調節部材4が設けられているので、高速走行のときでも、供給オイル量が不足することはない。その結果、ケース3の下部に不必要に多量のオイルが貯留されることはなく、オイルを掻き上げる第2歯車2のオイルに浸漬する部分が増大しないので、第2歯車2の撹拌抵抗の増大が未然に防止されるという効果がある。
次いで、第1の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10の変形例について説明する。
図9は、第1の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10の部分斜視図を示し、(a)は、傾斜した受圧面を有するオイル量調節部材44が設けられた動力伝達装置の潤滑構造10における低速走行の状態を示し、(b)は、傾斜した受圧面を有するオイル量調節部材44が設けられた動力伝達装置の潤滑構造10における高速走行の状態を示す。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10においては、オイル量調節部材4が、内部に空洞4kを有する方形の六面体で構成される場合について説明したが、本発明に係る動力伝達装置の潤滑構造においては、オイル量調節部材は、前述の方形の六面体以外の構造であってもよい。例えば、図9(a)に示すオイル量調節部材44で構成してもよい。
このオイル量調節部材44は、ゴム、エラストマーおよびプラスチックなどの弾性材料で形成し、変形部44aと、取付部44b、44cとを含んで構成されている。
変形部44aには、上方に傾斜した受圧面44jが形成されており、この受圧面44jにオイルLの圧力が加わると変形部44aが縮小変形するようになっている。また、変形部44aは、弾性材料で構成されているので、第2歯車2の回転が停止してオイルLの流動がなくなり、受圧面44jへの押圧力がなくなったとき、自己の復元力により速やかに元の形状に復帰するようになっている。なお、傾斜した受圧面44jにオイル流入口3rから流入したオイルLの流動による押圧力が作用し垂直方向の分力が生じても、変形しないような強度で形成されており、オイル流入口3rから流入したオイルLの流動のみでは変形しないようになっている。
取付部44bは、変形部44aの底面から延在して設けられ、貫通孔を有しており、この貫通孔にはフランジボルト8が挿通されケース3の底面部3tに固定されるようになっている。取付部44cも、取付部44bと同様に変形部44aの底面から延在して設けられ、貫通孔を有しており、この貫通孔にはフランジボルト9が挿通されケース本体3aの底面部3tに固定されるようになっている。
この場合において、図9(a)に示すように、車両が低速走行のとき、第2歯車2で攪拌されて流動する攪拌油量が比較的少なく、第2歯車2の下部を流動するオイルLの流速も小さいので、オイル量調節部材44の受圧面44jが受ける圧縮力も小さい。
その結果、オイル量調節部材44の変形部44aは僅かに変形するだけで、第2歯車2の下部とオイル量調節部材44の受圧面44jとの間隔は、変形前とほぼ等しく、オイル通路11の入口11aの開口面積も小さいので、入口11aからオイル通路11に流入するオイル量も少なくなる。
他方、図9(b)に示すように、車両が高速走行のとき、第2歯車2で攪拌されて流動する攪拌油量が比較的多く、第2歯車2の下部を流動するオイルLの流速も大きくなるので、オイル量調節部材44の受圧面44jが受ける圧縮力も大きくなる。この圧縮力は、図2に示すオイル量調節部材4の受圧面4jの受圧面積よりも、受圧面44jが傾斜している分だけ受圧面積が大きく形成されているので、圧縮力は、大きくなる。さらに、受圧面44jが傾斜しているので、受圧面44jが第2歯車2で攪拌されて流動するオイルLの流動方向に直交した配置となり、オイルLの流動により生ずる圧力の垂直分力が、より大きくなり変形部44aが速やかに変形し、車両の走行状態に応じた高い応答性が得られる。
オイル量調節部材44の変形部44aが縮小変形し、第2歯車2の下部とオイル量調節部材44の受圧面44jとの間隔が、変形前に比べて大きくなり、オイル通路11の入口11aの開口面積も大きくなるので、入口11aからオイル通路11に流入するオイル量も増大する。オイル通路11に流入するオイル量が増大すると、第1歯車1および第2歯車2が高速で噛み合い潤滑油量を多く必要とするときに、多量のオイルが供給され充分な潤滑が得られる。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造10においては、オイル量調節部材4を、変形部4aと、取付部4b、4cとを含んで構成し、取付部4b、4cをフランジボルト8、9およびナットによりケース3に固定する場合について説明したが、本発明に係る動力伝達装置の潤滑構造においては、オイル量調節部材を他の固定手段によりケース固定するようにしてもよい。例えば、オイル量調節部材に設けた取付部4b、4cと同様の取付部をケースに設けた保持部に嵌合させ、この保持部で取付部を嵌合保持させるようにしてもよい。また、オイル量調節部材に、取付部を設けることなく、変形部4aと同様の変形部で構成し、この変形部の低面部分を加硫などの接合手段により直接ケースの内壁部に接合するようにしてもよい。
(第2の実施の形態)
図10は、本発明の第2の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造の側面図であり、図11は、図10のD−D断面を示す断面図である。
なお、第2の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造においては、第1の実施の形態におけるケース3の構成およびキャッチタンク13が設けられている点が異なっているが、他の構成は、同様に構成されている。したがって、同一の構成については、図1から図9(a)、(b)に示した第1の実施の形態と同一の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
まず、その構成について説明する。図1に示す第1の実施の形態における動力伝達装置の潤滑構造10と同様に、本発明の第2の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造20は、第1歯車1と、第1歯車1よりも下方に位置し第1歯車1と噛み合う第2歯車2と、第1歯車1および第2歯車2を収容するケース43と、ケース43内に溜まったオイルLに浸かるよう設けられたオイル量調節部材44とを含んで構成されている。
図10に示すように、第2の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造20は、第1の実施の形態と同様、内燃機関から出力された動力を車輪に伝達するトランスアクスルなどの動力伝達装置で構成されており、第1歯車1は、例えば、ディファレンシャルのリングギヤなどの出力側に接続される歯車で構成され、第2歯車2は、例えば、ディファレンシャルドライブピニオンなどの入力側に接続される歯車で構成されている。
図10および図11に示すように、ケース43は、第1ケース43aと、第1ケース43aの開口側に取り付けられるケースカバー43bと、第1ケース43aの隔壁43c側に取り付けられる第2ケース43dとを含んで構成されている。
ケース43においては、第1ケース43aとケースカバー43bと第1ケース43aの隔壁43cとにより第1収容室21が画成されており、さらに、第2ケース43dと第1ケース43aの隔壁43cとにより第2収容室22が画成されている。第1収容室21には、第1歯車1、第2歯車2および他の歯車が収容されており、第2収容室22には、図示しない1対のプーリと金属ベルトから構成される無段変速機構(CVT)や遊星歯車装置などの被潤滑部材45が収容されている。第1収容室21および第2収容室22には、第1歯車1、第2歯車2および被潤滑部材45を潤滑するためのオイルLが封入されており、第1収容室21の下部および第2収容室22の下部にそれぞれ貯留されるようになっている。
第1ケース43aは、第1の実施の形態と同様、アルミダイキャストなどからなり、軽量で高い剛性を有している。また、第1ケース43aは、点Paと点Pbとを結ぶ線に直交し、点Pbを通る線Pcと、点Pbから第2歯車2の下方に垂直に引いた線Pkとがなす角度θの範囲で、第2歯車2の外周面2aと第1ケース43aの内壁面43nとの間の隙間Sを有するよう、内壁面43nが円弧状に形成されている。
この第2歯車2の外周面2aと、第1ケース43aの内壁面43nと、ケースカバー43bの図示しない内壁面とによりオイル通路51が画成されている。第2歯車2により掻き上げられたオイルLは、オイル通路51内を流通して上部に供給されるようになっている。オイル通路51は、オイル量調節部材44と第2歯車2との間に画成され、線Pkの近傍に位置する隙間を入口51aとし、第1ケース43aの内壁面43nと第2歯車2との間に画成され、線Pcの近傍に位置する隙間を出口51bとするオイルLの通路であり、第2歯車2の回転により掻き上げられたオイルLが円滑に流通するようになっている。
この第1ケース43aは、一端側に隔壁43cが形成されており、隔壁43cにより第1歯車1のカウンタシャフト5および第2歯車2のディファレンシャルケース6の一端部が支持されている。カウンタシャフト5および第2歯車2のディファレンシャルケース6の他端部は、ケースカバー43bにより支持されている。
第1ケース43aにおける底面部43tの近傍の隔壁43cには、オイル流入口43rが形成されており、第2ケース43dからオイルLが流入し、第1ケース43aの下部に溜まるようになっている。
また、隔壁43cには、第1歯車1と第2歯車2との噛み合い部分の近傍で、キャッチタンク13が設けられている。このキャッチタンク13は、隔壁43cから第2歯車2に向かって突出し、その断面が略Uの字状になるよう、隔壁43cと一体的に形成されており、このキャッチタンク13内に第2歯車2により掻き上げられたオイルLが補足され貯留されるようになっている。
また、隔壁43cには、キャッチタンク13の近傍で第1収容室21と第2収容室22とを連通しオイルLを流通させる流通孔43kが形成されており、キャッチタンク13に貯留されたオイルLが第1収容室21から第2収容室22に流通するようになっている。
ケースカバー43bは、第1ケース43aと同様に、アルミダイキャストなどからなり、軽量で高い剛性を有している。ケースカバー43bには、第1の実施の形態と同様、第1ケース43aに形成された複数の貫通孔43hと対応する位置に、図示しない貫通孔が複数形成されており、これら貫通孔および貫通孔43hにフランジボルトなどの締結具7が挿通され図示しないナットによりねじ結合されている。
第2ケース43dは、第1ケース43aと同様に、アルミダイキャストなどからなり、軽量で高い剛性を有している。この第2ケース43dは、第1ケース43aに取り付けられる開放端とこの開放端と反対側に形成された側壁からなる閉止端を有しており、この閉止端で被潤滑部材の一端部を支持している。被潤滑部材の他端部は、第1ケース43aの隔壁43cにより支持されている。
第1ケース43aと、ケースカバー43bと、第2ケース43dとが一体化されて内部のオイルLが漏出しないようになっており、第1ケース43aと、ケースカバー43bと、第2ケース43dとが、本発明に係る動力伝達装置の潤滑構造におけるケースを構成している。
オイル量調節部材44は、第1の実施の形態と同様、ゴム、エラストマーおよびプラスチックなどの弾性材料からなり、変形部44aと、取付部44b、44cとを含んで構成されており、詳細な説明は省略する。
以下、本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造20の動作について説明する。
図12は、本発明の第2の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造20の側面図であり、車両の低速走行時の第2歯車2の回転によりオイルLが掻き上げられる状態を示す。図13は、動力伝達装置の潤滑構造20の側面図であり、車両の高速走行時の第2歯車2の回転によりオイルLが掻き上げられる状態を示す。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造20においては、第1の実施の形態と同様、図示しないエンジンが停止しているときは、図10に示すように、オイルLは、第1ケース43aの下部に還流され貯留されて油面が比較的高い状態で静止している。
エンジンが始動すると、第1の実施の形態と同様、エンジンから出力された動力が、カウンタシャフト5に伝達され、第1歯車1は、図12に示すように、矢印Ka方向に回転する。そして、第1歯車1とともに第2歯車2が矢印Kb方向に回転し、ディファレンシャルケース6が回転し、ディファレンシャルケース6を介して動力が左右の車輪に伝達される。
このとき、第2歯車2の矢印Kb方向の回転に伴って、第1ケース43aの下部に貯留されているオイルLは、掻き上げられオイル通路51の入口51aから出口51bに向かって滑らかに流通し、キャッチタンク13に補足されるオイルLと、第1歯車1と第2歯車2との噛み合い部分に供給されるオイルLとに分岐される。キャッチタンク13に補足されたオイルLは、図11に示す動力伝達装置の潤滑構造20と同様に、流通孔43kを流通し、第2収容室22に流入し、被潤滑部材45の上部に供給され、さらに、被潤滑部材45から、第2収容室22の下部に還流され、貯留される。他方、第1収容室21内の第1歯車1と第2歯車2との噛み合い部分に供給されたオイルLは、第1収容室21の下部に還流され貯留される。
図12に示すように、車両が低速走行のときは、第1の実施の形態と同様、第2歯車2で攪拌されて流動する攪拌油量が比較的少なく、単位時間(sec)当たりに掻き上げられるオイル量(mm3/sec)が比較的少ない。この場合、第2歯車2の下部を流動するオイルLの流速(m/sec)も小さいので、オイル量調節部材44の受圧面44jが受ける圧縮力(MPa)も小さい。
その結果、オイル量調節部材44の変形部44aは僅かに変形するだけで、第2歯車2の下部とオイル量調節部材44の受圧面44jとの間隔は、変形前とほぼ等しく、オイル通路51の入口51aの開口面積も小さいので、入口51aからオイル通路51に流入するオイル量も少ない。オイル通路51に流入するオイル量が少なくても、第1歯車1および第2歯車2が低速で噛み合っているため、比較的少ないオイル量で充分な潤滑がなされる。
図13に示すように、車両が高速走行のときは、第1の実施の形態と同様に、第2歯車2で攪拌されて流動する攪拌油量が比較的多く、単位時間(sec)当たりに掻き上げられるオイル量が比較的多い。この場合、第2歯車2の下部を流動するオイルLの流速も大きくなるので、オイル量調節部材44の受圧面44jが受ける圧縮力も大きくなる。その結果、オイル量調節部材44の変形部44aは大きく縮小変形し、第2歯車2の下部とオイル量調節部材44の受圧面44jとの間隔は、変形前に比べて大きくなり、オイル通路51の入口51aの開口面積も大きくなるので、入口51aからオイル通路51に流入するオイル量も増大する。オイル通路51に流入するオイル量が増大すると、第1歯車1および第2歯車2が高速で噛み合い潤滑油量を多く必要とするときに、多量のオイルが供給され充分な潤滑がなされる。
また、第1の実施の形態と同様に、車両が高速走行から、低速走行または低速と高速の中間的な中速走行に移行する際には、縮小変形したオイル量調節部材44に、元の形状に戻るよう復元力が作用する。すなわち、オイル量調節部材44は、車両の走行状態に応じて適切な大きさに縮小変形するので、車両の走行状態に応じた適切なオイル量が第1歯車1および第2歯車2の噛み合い部分に供給される。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造20においては、以上のように構成されているので、次の効果が得られる。
図14は、本発明の第2の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造20における、第1収容室21および第2収容室22の内部のオイルLの流通状態を説明する模式図である。第1収容室21および第2収容室22は、それぞれ一点鎖線で囲まれた部分で表されている。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造20は、第1の実施の形態と同様、第1歯車1と、第1歯車1よりも下方に位置し第1歯車1と噛み合う第2歯車2と、第1歯車1および第2歯車2を収容する第1ケース43aと、被潤滑部材45を収容する第2ケース43dとを備え、第2歯車2が、第1ケース43a内の下部に溜まったオイルLを掻き上げることにより、キャッチタンク13に補足されて貯留されるとともに、第1歯車1および第2歯車2の噛み合い部にオイルLが供給されるよう構成されている。そして、第1ケース43aが、その下部にオイルLを流入させるオイル流入口43rを有するとともに、オイル流入口43rの近傍であってオイルLに浸かるよう第1ケース43aの底面部43tに固定され、第2歯車2によって掻き上げられるオイル量を調節するオイル量調節部材44を有することを特徴としている。このオイル量調節部材44が、第2歯車2によりオイルLが掻き上げられる際のオイルLの圧力によって縮小変形することにより、オイル量調節部材44の上部と第2歯車2の下部との間を流通するオイルLの流量を増大させるよう構成されている。
その結果、本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造20においては、第1の実施の形態と同様、車速が低速から高速までの全ての運転状態において、第1歯車1および第2歯車2の噛み合い部に必要なオイル量(mm3/sec)を満たした十分なオイル量を供給することができる。さらに、キャッチタンク13で掻き上げられたオイルLを補足して貯留することにより、流通孔43kを通して第2ケース43d内にオイルLを流入させ、被潤滑部材45に十分なオイル量を供給することができる。
また、本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造20においては、第1ケース43a内の第1収容室21と第2ケース43d内の第2収容室22とを隔てる隔壁43cが設けられ、この隔壁43cに第1収容室21と第2収容室22とを連通させるオイル流入口43rと流通孔43kとが設けられているので、第1収容室21に収容された第1歯車1および第2歯車2の噛み合い部と第2収容室22とに収容された被潤滑部材45にオイルLを充分に供給することができる。
すなわち、図14に示すように、矢印24に示すオイル流入口43rを通って第2収容室22の下部22aから流入したオイルLは、第1収容室21の下部21aに貯留される。そして、車両の走行状態に応じて第2歯車2が回転すると、第1収容室21の下部に貯留されているオイルLは、第2歯車2により攪拌されて入口51aからオイル通路51内に掻き上げられ、オイル通路51内を流通して出口51bから排出され、2経路に分岐される。分岐された1経路は、矢印25で示すよう流通し、キャッチタンク13に補足されて貯留される。分岐された他の1経路は、矢印26で示すよう流通し、第1歯車1と第2歯車2との噛み合い部分に供給され、その後、矢印27で示すよう流通し、第1収容室21の下部21aに還流される。
キャッチタンク13に貯留されたオイルLは、矢印28で示すよう流通し、流通孔43kを経由して第2収容室22内に流入し、被潤滑部材45に供給されて、矢印29で示すよう第2収容室22内で流通し、第2収容室22の下部22aに還流する。そして、矢印24で示すようオイル流入口43r内を流通し、第1収容室21の下部21aに還流し、順次効率よく循環する。本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造20においては、オイル量調節部材44が第2歯車2の下部に設けられているので、車両の走行状態に応じて適切なオイル量を、この第1歯車1と第2歯車2との噛み合い部分に供給することができるとともに、キャッチタンク13を経由して第2収容室22内に収容されている被潤滑部材45にも適切なオイル量を供給することができる。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造20においても、第1の実施の形態と同様に、オイル流入口43rの開口面積が比較的小さく形成されても、車速に対応して縮小変形するオイル量調節部材44が設けられているので、高速走行のときでも、供給オイル量が不足することはない。その結果、第1ケース43aおよび第2ケース43dの各下部に不必要に多量のオイルが貯留されることはなく、オイルを掻き上げる第2歯車2のオイルに浸漬する部分が増大しないので、第2歯車2の撹拌抵抗の増大が未然に防止されるという効果がある。
(第3の実施の形態)
図15は、本発明の第3の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造30の側面図であり、図16は、オイル量調節部材を示し、(a)は、オイル量調節部材の斜視図であり、(b)は、(a)のF−F断面を示す断面図である。
なお、第3の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造30においては、第2の実施の形態におけるオイル量調節部材66が異なっているが、他の構成は同様に構成されている。したがって、同一の構成については、図10から図14に示した第2の実施の形態と同一の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
まず、その構成について説明する。
図10および図11に示す第2の実施の形態における動力伝達装置の潤滑構造20と同様に、本発明の第3の実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造30は、第1歯車1と、第1歯車1よりも下方に位置し第1歯車1と噛み合う第2歯車2と、第1歯車1および第2歯車2を収容するケース43と、ケース43内に溜まったオイルLに浸かるよう設けられたオイル量調節部材66とを含んで構成されている。
図15および図16(a)、(b)に示すように、オイル量調節部材66は、プラスチック、板金などの硬質の材料からなり受圧部66aと、圧縮コイルばねなどの弾性材料からなる変形部66b、66c、66d、66eと、第1ケース43aの底面部43tに変形部66bないし66eを取り付けるための取付部66f、66gおよび図示しない他の2個の取付部とを含んで構成されている。
受圧部66aは、受圧面66mと、この受圧面66mと反対側の変形部66bないし66eを支持する支持面66sと、受圧面66mから支持面66s側に突出した突出縁部66tとを有している。
変形部66bないし66eは、受圧部66aにオイルLの圧力が加わると収縮して受圧部66aが第1ケース43aの底面部43tに近接するようになっている。すなわち、第2歯車2の回転により流動するオイルLが受圧部66aに衝突することにより受圧部66aを押圧すると変形部66bないし66eが縮小変形するようになっている。また、変形部66bないし66eは、弾性材料で構成されているので、第2歯車2の回転が停止し、オイルLの流動がなくなり、受圧部66aへの押圧力がなくなったとき、自己の復元力により速やかに元の形状に復帰するようになっている。
取付部66fは、変形部66bを保持し第1ケース43aの底面部43tに固定するようリング状に形成され底面部43tに接合されている。この取付部66fは、底面部43tから突出して底面部43tと一体的に形成してもよい。
以下、本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造30の動作について説明する。
図17は、図15のE−E断面を示す断面図であり、車両の低速走行時の第2歯車2の回転によりオイルLが掻き上げられる状態を示す。また、図18は、図15のE−E断面を示す断面図であり、車両の高速走行時の第2歯車2の回転によりオイルLが掻き上げられる状態を示す。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造30においては、第1の実施の形態と同様、図示しないエンジンが停止しているときは、図15に示すように、オイルLは、第1ケース43aの下部に還流され貯留されて油面が比較的高い状態で静止している。
エンジンが始動すると、第1の実施の形態と同様、エンジンから出力された動力が、カウンタシャフト5に伝達され、第1歯車1は、紙面に向かって反時計廻りに回転する。そして、第1歯車1とともに第2歯車2が時計廻りに回転し、ディファレンシャルケース6が回転し、ディファレンシャルケース6を介して動力が左右の車輪に伝達される。
このとき、第2歯車2の時計廻りの回転に伴って、第1ケース43aの下部に貯留されているオイルLは、掻き上げられオイル通路51の入口51aから出口51bに向かって滑らかに流通し、キャッチタンク13に補足されるオイルLと、第1歯車1と第2歯車2との噛み合い部分に供給されるオイルLとに分岐される。キャッチタンク13に補足されたオイルLは、流通孔43kを流通し、図11に示す第2収容室22に流入し、被潤滑部材45の上部に供給され、さらに、被潤滑部材45から、第2収容室22の下部に還流され、貯留される。他方、第1収容室21内の第1歯車1と第2歯車2との噛み合い部分に供給されたオイルLは、第1収容室21の下部に還流され貯留される。
図17に示すように、車両が低速走行のときは、第2の実施の形態と同様、第2歯車2で攪拌されて流動する攪拌油量が比較的少なく、単位時間(sec)当たりに掻き上げられるオイル量(mm3/sec)が比較的少ない。この場合、第2歯車2の下部を流動するオイルLの流速(m/sec)も小さいので、オイル量調節部材66の受圧部66jが受ける圧縮力(MPa)も小さい。
その結果、オイル量調節部材66の変形部66bないし66eは僅かに変形するだけで、第2歯車2の下部とオイル量調節部材66の受圧部66jとの間隔L3は、変形前とほぼ等しく、オイル通路51の入口51aの開口面積S1も小さいので、入口51aから図15に示すオイル通路51に流入するオイル量も少ない。オイル通路51に流入するオイル量が少なくても、第1歯車1および第2歯車2が低速で噛み合っているため、比較的少ないオイル量で充分な潤滑がなされる。なお、開口面積S1は、間隔L3と第2歯車2の歯幅W2との積で表され、S3=L3×W2となる。
図18に示すように、車両が高速走行のときは、第2の実施の形態と同様に、第2歯車2で攪拌されて流動する攪拌油量が比較的多く、単位時間(sec)当たりに掻き上げられるオイル量が比較的多い。この場合、第2歯車2の下部を流動するオイルLの流速も大きくなるので、オイル量調節部材66の受圧部66jが受ける圧縮力も大きくなる。その結果、オイル量調節部材66の変形部66bないし66eは大きく縮小変形し、第2歯車2の下部とオイル量調節部材66の受圧部66jとの間隔L4は、変形前に比べて大きくなり、オイル通路51の入口51aの開口面積S4も大きくなるので、入口51aから図15に示すオイル通路51に流入するオイル量も増大する。オイル通路51に流入するオイル量が増大すると、第1歯車1および第2歯車2が高速で噛み合い潤滑油量を多く必要とするときに、多量のオイルが供給され充分な潤滑がなされる。なお、開口面積S4は、間隔L4と第2歯車2の歯幅W2との積で表され、S4=L4×W2となる。
また、第1の実施の形態と同様に、車両が高速走行から、低速走行または低速と高速の中間的な中速走行に移行する際には、縮小変形したオイル量調節部材66に、元の形状に戻るよう復元力が作用する。すなわち、オイル量調節部材66は、車両の走行状態に応じて適切な大きさに縮小変形するので、車両の走行状態に応じた適切なオイル量が第1歯車1および第2歯車2の噛み合い部分に供給される。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造30においては、以上のように構成されているので、次の効果が得られる。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造30は、第2の実施の形態と同様、第1歯車1と、第1歯車1よりも下方に位置し第1歯車1と噛み合う第2歯車2と、第1歯車1および第2歯車2を収容する第1ケース43aと、被潤滑部材45を収容する第2ケース43dとを備え、第2歯車2が、第1ケース43a内の下部に溜まったオイルLを掻き上げることにより、キャッチタンク13に補足されて貯留されるとともに、第1歯車1および第2歯車2の噛み合い部にオイルLが供給されるよう構成されている。そして、第1ケース43aが、その下部にオイルLを流入させるオイル流入口43rを有するとともに、オイル流入口43rの近傍であってオイルLに浸かるよう第1ケース43aの底面部43tに固定され、第2歯車2によって掻き上げられるオイル量を調節するオイル量調節部材66を有することを特徴としている。このオイル量調節部材66が、第2歯車2によりオイルLが掻き上げられる際のオイルLの圧力によって縮小変形することにより、オイル量調節部材66の上部と第2歯車2の下部との間を流通するオイルLの流量を増大させるよう構成されている。
その結果、本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造30においては、第2の実施の形態と同様、車速が低速から高速までの全ての運転状態において、第1歯車1および第2歯車2の噛み合い部に必要なオイル量(mm3/sec)を満たした十分なオイル量を供給することができる。さらに、キャッチタンク13で掻き上げられたオイルLを補足して貯留することにより、流通孔43kを通して第2ケース43d内にオイルLを流入させ、被潤滑部材45に十分なオイル量を供給することができる。
また、本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造30においては、第1ケース43a内の第1収容室21と第2ケース43d内の第2収容室22とを隔てる隔壁43cが設けられ、この隔壁43cに第1収容室21と第2収容室22とを連通させるオイル流入口43rと流通孔43kとが設けられているので、第1収容室21と第2収容室22とに収容された被潤滑部材45にオイルLを充分に供給することができる。
本実施の形態に係る動力伝達装置の潤滑構造30においても、第2の実施の形態と同様に、オイル流入口43rの開口面積が比較的小さく形成されても、車速に対応して縮小変形するオイル量調節部材66が設けられているので、高速走行のときでも、供給オイル量が不足することはない。その結果、第1ケース43aおよび第2ケース43dの各下部に不必要に多量のオイルが貯留されることはなく、オイルを掻き上げる第2歯車2のオイルに浸漬する部分が増大しないので、第2歯車2の撹拌抵抗の増大が未然に防止されるという効果がある。
本第1ないし第3の実施の形態においては、動力伝達装置の潤滑構造10、20、30を自動車のトランスアクスルに適用した場合について説明したが、本発明においては、動力伝達装置の潤滑構造を内燃機関に用いられる自動または手動の変速機、ディファレンシャル装置などの潤滑オイルにより潤滑する動力伝達装置の潤滑構造に適用することができる。
以上説明したように、本発明に係る動力伝達装置の潤滑構造は、撹拌抵抗を低減することができるとともに、歯車の回転速度に応じた適切なオイル量を潤滑部分に供給することができる動力伝達装置の潤滑構造を提供することができるという効果を奏し、自動変速機、手動変速機、無段変速機(CVT)およびトランスアクスルなどの変速機や動力伝達装置の潤滑構造に有用である。