前述したウォールウォッシャー照明において,感覚的に得られる明るさを高め,空間の広がりを強調して場の雰囲気の向上や場の高級感を高めるためには,高さ方向及び幅方向における壁面全体に対して均一に光が照射されることが必要であり,壁面に対して部分的に光が当たって明るくなっている部分が生じていたとしても,このような照明方法では単に光が当たっているという認識しか得られず,空間全体の明るさ感の向上や,空間の広がり感の強調,場の雰囲気の向上や場の高級感を高めるといった,ウォールウォッシャー照明により得られる効果は期待できない。
このように,ウォールウォッシャー照明を行うに当たり必要となる壁面全体に対する均一な光の照射を阻害する原因の1つに,天井に取り付けられた照明器具によっては,壁面の上端(天井との境界付近)に対する光の照射が難しい点が挙げられる。
すなわち,前述した従来のダウンライトの構造にあっては,天井板に形成された開口内に照明器具を埋め込み状態に設置することから,光源であるランプや,この光源からの光を反射するリフレクタは,天井板の底面(室内側の面)よりも高い位置に配置されることとなる。
その結果,照明器具を傾斜して取り付けたり,又は補助反射面や補助反射鏡を設けたとしても,壁面の上端部分に対しては光が届かず,その結果,壁面の全体を均一に照らすことができないものとなっている。
このような問題を解消する方法としては,光源であるランプやリフレクタを一部,天井板の底面(室内側の面)より低い位置に配置することも考えられるが,このような構成を採用した場合には,照明器具が室内側に大きく迫り出すために,室内側より天井を見上げた際に照明器具の存在が目立つものとなり,室内の景観が損なわれる。
そのため,室内側より観察した際に,見た目において既存のダウンライト等の照明器具と同程度に目立たないものでありながら,壁面の上端に対しても光を照射することができる構造を備えたウォールウォッシャー型の照明器具が要望される。
また,壁面全体に対する均一な光の照射を阻害する他の原因として,壁面に対して照射した光の輪郭が「スカラップ」と呼ばれる模様を形成することが挙げられる。
このスカラップの発生原因を,図12を参照して説明すると,図12(A)に示すように,一般にダウンライト100にはランプ112からの光が直接視界に入ることによる不快な眩しさを感じることがないよう,図12(A)中にθで示すようにランプ112からの光が照射されない範囲が所謂「カットオフアングル」として設定されている。
このようなダウンライト100による光の照射範囲を立体的に表せば,図12(B)に示すように円錐状の照射範囲となり,このダウンライト100を壁面付近の天井に取り付けて壁面Wを照射した場合,壁面Wに形成される光の輪郭は,図12(B)に示す円錐を面L1’で切断した際に得られる断面形状となり,例えば壁面Wの幅方向に複数のダウンライト100を並べて配置して,壁面Wの幅方向全体に光を照射しようとした場合,壁面には,図12(C)で示すように景観を損ねる鋸歯状の模様が形成される。
仮に,ダウンライト100を壁面Wに向けて傾斜した状態で天井に取り付けたとしても,これにより壁面に形成される光の輪郭は,図12(B)中,面L2’で円錐を切断した際に得られる断面形状に変化するのみであり,ダウンライトを傾斜して取り付けただけではスカラップの発生を防止する効果はない。
また,前掲の特許文献2,3として示したように,補助反射面や補助反射鏡を設けたダウンライトの構成にあっても,補助反射面や補助反射鏡が単に壁面側のカットオフアングルθを鋭角に変化させるものであれば,同様に壁面Wには放物線状の模様(スカラップ)が形成されることとなる。
仮に,特許文献2,3に示す構成においてスカラップの発生を阻止しようとすれば,補助反射面や補助反射鏡の反射面を,各部位毎に異なる曲率で形成する等,極めて複雑な形状とする必要があり,その設計,製造が難しい。
このように,従来のウォールウォッシャー型のダウンライトによっては,スカラップを生じさせることなくウォールウォッシャー照明を行うことができないことから,例えば,壁面上部における天井に凹溝を形成しておき,この凹溝内に長尺の蛍光灯を光源とした照明器具を埋め込み設置することによるウォールウォッシャー照明も行われている。
この方法では,前述したスカラップの発生を防止することはできるものの,天井に対する凹溝の形成という大がかりな工事が必要となり費用が嵩むと共に,ハロゲンランプ等を光源とするダウンライトに比較して,蛍光灯を光源とした上記照明手法では明るさが得にくいという欠点がある。
なお,壁面に照射された光は,中心から外側に向かうに従い明るさが変化することにより生じる年輪状の縞模様を形成し,このような縞模様によっても壁面全体を均一な明るさで照らし出すことができなくなる。
従って,壁面に照射された光が,中心側から外側に向かうに従い自然に移ろうように形成して,前述のような年輪状の縞模様の発生を防止することができれば,壁面に対するより均一な光の照射が可能となる。
そこで本発明は上記従来技術における欠点を解消するためになされたものであり,既知の天井埋込型のダウンライトと同様に,天井に埋め込んだ状態で取り付けることにより,既知のダウンライト等と同様に室内側からの景観を乱すことなく,違和感なく天井に取り付けることができるものでありながら,これに加えて壁面の上端部に対しても確実に光を照射することができ,しかも,壁面に対して照射された光が,スカラップ,好ましくはスカラップと共に年輪状の縞模様を形成することを防止して,壁面全体に均一に光を照射することができる,ウォールウォッシャー型照明器具を提供することを目的とする。
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の特許請求の範囲の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
上記目的を達成するために,本発明のウォールウォッシャー型照明器具1は,カップ状のリフレクタ30と,前記リフレクタ30の凹面31側に発光部12aを配置するランプ12を備えた照明器具本体10と,下端縁73を天井板80の底面80a(室内側の面)と同一高さ又は前記底面80aより僅かに室内側に突出させた状態で天井板80に取り付けられる取付治具70を備え,前記取付治具70の開口74内に前記照明器具本体10を取り付けることにより,天井に埋め込み状態で取り付けられる照明器具1において,
前記リフレクタ30の前記凹面31が,長軸Xの下端を壁面W側に向けて傾斜させた楕円を,前記長軸Xを中心として回転させて得られる回転楕円面の一部によって形成されていると共に,前記壁面W側に向かって開放する開口32を有し,
前記開口32が,前記天井板80の底面80aに平行な平面であって前記楕円の2つの焦点F1,F2のうち前記長軸Xの下端側にある第1焦点F1部分で前記長軸Xと交わる平面Hで切断された下端開口縁32aと,前記2つの焦点F1,F2間(点M)で前記長軸Xと交わると共に前記平面Hと交叉する斜面Sで切断された傾斜開口縁32bを有し,
前記リフレクタ30を,前記下端開口縁32aが前記取付治具70の下端縁73に対し可及的に接近した下方となるよう配置すると共に,
前記楕円の前記長軸Xの上端側にある第2焦点F2に前記ランプ12の前記発光部12aを配置したことを特徴とする(請求項1)。
前記構成のウォールウォッシャー型照明器具1において,前記リフレクタ30の前記凹面31全面には,多数のディンプル33,34を形成することが好ましく(請求項2),この場合,前記傾斜開口縁32bの上端部P3を通ると共に,前記楕円の長軸Xと直交する基準面Bを想定し,この基準面Bに対して上方側に位置する前記凹面31に形成するディンプル33に対して,下方側に位置する前記凹面31に形成するディンプル34を小径に形成することができる(請求項3)。
更に,前記ランプ12の軸芯が前記楕円の長軸Xと一致するよう前記ランプ12を傾斜させるものとすることが好ましい(請求項4)。
なお,前記リフレクタ30の前記下端開口縁32aの底部を覆うと共に,前記下端開口縁32a側から前記長軸X側に向かって突出する,上面が低反射率に形成された遮光壁52を設け,
前記長軸Xと交叉すると共に,前記傾斜開口縁32bの上端部P3と前記遮光壁の突出側端部とを結ぶ線Cが,天井板80の底面80aに対して所定のカットオフアングルθ(実施例において55°)で傾斜するよう,前記遮光壁52及び前記傾斜開口縁32bを形成することもできる(請求項5)。
この場合,略円筒状に形成された枠体51を備えると共に,前記枠体51の下端開口に前記リフレクタ30の前記下端開口縁32aを載置する前記遮光壁52を備え,且つ,前記枠体51内に前記リフレクタ30の前記傾斜開口縁32bを係止する係止部53を備えた保持具50を前記照明器具本体10に設け,該保持具50を前記取付治具70内に取り付け可能としても良い(請求項6)。
以上で説明した本発明の構成により,本発明のウォールウォッシャー型照明器具1によれば,以下の顕著な効果を得ることができた。
回転楕円面の一部によって形成され,壁面W側に向かって開放する開口を備えた凹面31形状を有するリフレクタ30の前記開口32に,平面Hと斜面Sとによって切断して下端開口縁32aと傾斜開口縁32bを形成したこと,このリフレクタ30の下端開口縁32aが取付治具70の下端縁73に対し可及的に接近した下方となるように配置(従って第1焦点F1も同一の位置に配置)したこと,及び,ランプ12の発光部12aを第2焦点F2に配置したことにより,本発明の照明器具1では,図2中に矢印で示すように,リフレクタ30の凹面31のうち下端開口縁32a部分で反射された反射光を,天井板80と平行に,壁面Wの上端位置に向けて照射することが可能となり,天井埋込型の照明器具でありながら,壁面Wと天井板80との境界部分に迄,確実に光を照射することができる照明機器1を提供することができた。
また,前述したリフレクタ30の構造により,壁面Wに対して照射された光はスカラップを生じず,その結果,壁面Wの全体に均一に光を照射することができるウォールウォッシャー型照明器具を提供することができた。
しかも,リフレクタ30の凹面31に多数のディンプル33,34を形成した構成,特に,基準面Bよりも下方に位置する凹面31に形成するディンプル34を,基準面Bよりも上方に位置する凹面31に形成するディンプル33に比較して小径に形成した構成にあっては,照射光の中心から外側に向かうに従い生じる明るさの変化によって生じる年輪状の縞模様の発生を無くすことができ,その結果,壁面Wに対する照明を,より均一に行うことができた。
更に,ランプ12の軸芯を楕円の長軸Xと一致するよう傾斜させることによりランプ12の配置スペースを減少させてリフレクタ30のサイズを可及的に小さくすることができた。
リフレクタ30の下端開口縁32aの下部を覆う遮光壁52を設けた構成にあっては,この遮光壁52の突出長さと,傾斜開口縁32bの上端部P3の配置,従って傾斜開口縁32bの傾きを調整することで,照射対象とする壁面Wとは反対側に対する光の照射範囲(カットオフアングルθ)を所望の角度に設定することができた。
略円筒状の枠体51に,リフレクタ30の下端開口縁32aを載置する前述の遮光壁52と,傾斜開口縁32bを係止する係止部53を設けることにより形成した保持具50を前記照明器具本体10に設けた構成にあっては,前記保持具50の枠体51内にリフレクタ30を挿入するのみで,リフレクタ30を前述した所望の姿勢に保持することができ,面倒な調整作業等が不要となった。
次に,添付図面を参照しながら本発明のウォールウォッシャー型照明器具1について説明する。
図1において,符号1は本発明のウォールウォッシャー型照明器具であり,この照明器具1は,光源であるランプ12と,このランプ12を取り付けるソケット13を収容したカバー11の下端に,リフレクタ30を保持した保持具50を取り付けることにより形成された照明器具本体10と,天井板80に形成した開口81内に取り付けられるリング状の取付治具70を備えており,前記取付治具70に形成された開口74内に照明器具本体10を室内側より挿入して,取付治具70内に照明器具本体10の保持具50を係止することで,天井に対して埋め込まれた状態で取り付け可能に構成されている。
このうち,前述した照明器具本体10は,前述したカバー11の上端側に光源であるランプ12が取り付けられるソケット13を収容し,前記ソケット13に対してランプ12を取り付けることにより,カバー11内の所定の位置に前記ランプ12が配置されるように構成されている。
このカバー11の下端部には,リフレクタ30を保持する保持具50の上端を連結することができるように構成されており,前記保持具50内にリフレクタ30を保持した状態で,カバー11の下端に保持具50を連結することにより,リフレクタ30がカバー11と保持具50との連結によって形成された空間内に配置,固定されると共に,リフレクタ30の凹面31側の所定の位置に,ランプ12の発光部12aを配置することができるように構成されている。
前述のカバー11の下端縁は,図1に示すように内部に収容されるランプ12の軸線に対して傾斜して形成されており,従って,円筒状に形成された枠体51を有する後述の保持具50の上端にこのカバー11の下端縁を連結すると,カバー11及びこのカバー11内に収容されたランプ12が,図1に示すように保持具50,及びこの保持具50を,取付治具70を介して取り付けている天井板80に対して,所定の角度傾斜した状態(図示の例ではランプ12の軸芯が55°傾斜した状態)に取り付けることができるように構成されている。
照明器具本体10に設けられた前述のリフレクタ30は,ランプ12によって発生した光を所定の方向に反射するものであり,反射面として形成された凹面31を備えていると共に,このリフレクタ30の凹面31側にランプ12の発光部12aが配置されている。
このリフレクタ30の凹面31は,図1〜図3に示すように,楕円の長軸Xを回転中心として前記楕円を回転させて得た回転楕円面の一部によって形成されており,この回転楕円面を,光の照射対象とする壁面(垂直壁)W側に前記長軸Xの下端側が向くように傾斜させた姿勢で取り付けられると共に,壁面W側に向かって開放する開口32が形成されている。
なお,一般に,楕円の「長軸」とは,楕円の内部において,楕円の2焦点を通る線を指すが,説明の便宜上,図中に表している長軸Xは,上記意味における長軸の一部,乃至はこれを延長した線として表している。
この楕円の長軸Xは,図示の例では天井板80に対して55°の傾きとなるよう傾斜させているが,この長軸Xの傾斜角は図示の例に限定されず,壁面側に照射する光の配分,照明器具の取付位置(壁面からの距離)等に対応して適宜変更可能であり,一例として,図8に示す例では,この長軸Xの傾斜角を65°に形成している。
このように,長軸Xを傾斜させた回転楕円面の一部によって形成された凹面31を有するリフレクタ30の開口32は,図1〜図4に示すように下端開口縁32aと傾斜開口縁32bの2つの開口縁によってその縁部が形成されている。
このうちの下端開口縁32aは,図1及び図2に示すように天井板80の底面80aに対し平行な平面であって,前述の楕円が有する2つの焦点F1,F2のうち,長軸Xの下端側にある第1焦点F1部分において前記長軸Xと交叉する仮想の平面Hによって前記回転楕円面を切断することにより得られる縁部分である。
また,前述の傾斜開口縁32bは,図1〜図4に示すように,第1,第2焦点F1,F2間の所定の点Mで前記楕円の長軸Xと交叉すると共に前記平面Hと交叉する仮想の斜面Sによって前記回転楕円面を切断することにより得られる縁部分である。
この下端開口縁32aと,傾斜開口縁32bの範囲を,図4を参照して説明すると,点P1から点P2を通り,点P1’に至る部分が前述の下端開口縁32aであり,点P1から点P3を通り,点P1’に至る部分が前述の傾斜開口縁32bである。
このリフレクタ30の凹面31には,ディンプル33,34を形成することが好ましく,このディンプル33,34の形成によって,リフレクタ30によって反射された光が壁面に投影された際,光の中心側から外側に至る明るさの変化が自然に移り変わって,投影面に年輪状の縞模様が形成されることが防止されている。
このディンプル33,34の形成は,リフレクタ30の凹面31全体に亘って同形状のディンプルを形成するものとしても良いが,本実施形態にあっては,図3に示すように,傾斜開口縁32bの上端部P3を通り,楕円の長軸Xに対して直交する基準面Bを想定し,この基準面Bよりも上方に位置する凹面31に形成するディンプル33に対し,前記基準面Bよりも下方に位置する凹面31に形成するディンプル34を小径のものとして形成している。
なお,図3では,凹面31の一部にのみにディンプル33,34を表示し,その他の部分におけるディンプル33,34の表示については省略している。
このディンプル33,34のサイズは,前述した基準面Bに対し上方側の凹面31に形成するディンプル33を一例としてR8mm,φ3mmの凸ポンチを使用して形成し,前記基準面Bに対し下方に位置する凹面31に形成するディンプル34を一例としてR8mm,φ1.5mmの凸ポンチを使用して形成している。
このディンプル33,34は,リフレクタの凹面31全体に隙間無く形成することが好ましく,例えば図3に示すように各ディンプルを六角形に形成して蜂の巣状に配置することにより,凹面31に隙間無くディンプルを形成するものとしても良い。
もっとも,凹面31に形成するディンプル33,34は,図示のように必ずしも規則的に形成したものである必要はなく,ランダムに形成したものであっても良く,本実施形態にあっては,前記基準面Bに対し下方に位置する凹面31に形成するディンプル34をランダムに形成している。
なお,図1〜3中の符号35は,リフレクタ30に設けたランプ挿入口であり,後述する保持具50にリフレクタ30を保持した状態で,保持具50の上端にカバー11の下端部を連結すると,前述のカバー11に設けられたソケット13に取り付けられたランプ12がこのランプ挿入口35を介してリフレクタ30の凹面31側に挿入され,発光部12aが前記楕円の第2焦点F2に配置されるようになっている。
以上のように構成されたリフレクタ30は,下端開口縁32aが,天井板80に取り付けられる後述の取付治具70の下端縁73に対し可及的に接近した下方となるように配置される。
このようなリフレクタ30の配置は,例えば前述したカバー11内に,前述した配置となるようにリフレクタ30を固定することにより実現するものとしても良いが,本実施形態にあっては,前述したようにカバー11の下端に取り付ける保持具50内にリフレクタ30を収容した状態とし,この状態で保持具50の上端に前記カバー11の下端を連結すると共に,この保持具50を,後述する取付治具70内に係止することで,前述したリフレクタ30の配置を実現することができるようにしている。
この保持具50は,図5及び図6に示すように,略円筒状に形成された枠体51の下端に,リフレクタ30の下端開口縁32aを載置する遮光壁52を備えると共に,前記枠体51内に,リフレクタ30に設けた傾斜開口縁32bと当接する傾斜面を備えた係止部53を設け〔図5(A),図6(A),(B)参照〕,リフレクタ30の下端開口縁32aが前記遮光壁52上に載置され,且つ,前記係止部53の傾斜面に傾斜開口縁32bが当接するように保持具50の前記枠体51内にリフレクタ30を挿入すると,リフレクタ30を前述した配置と成すに必要な状態に位置決めすることができるように構成されている。
この保持具50に設けられた前述の遮光壁52は,リフレクタ30の下端開口縁32aを載置した際に,前記下端開口縁32aの下方においてリフレクタ30の開口32を部分的に塞ぐように構成されており,前述したリフレクタ30の保持や位置決めをする機能の他,ランプ12からの直接光や,リフレクタ30による反射光の一部を遮光して,壁面Wとは反対側に照射される光の照射角(カットオフアングルθ)を所定の角度に設定する機能を有している(図1,2参照)。
このように,遮光壁52による遮光を実現するために,前述の遮光壁52の上面(リフレクタ30の下端開口縁32aを載置する面)には,例えばつや消しの黒色塗料を塗布する等して,この面の反射率を低下させている。
本実施形態にあっては,このつや消しの黒色塗料を塗布する他,遮光壁52の上面に図2に示すような鋸歯状の凹凸を形成し,この面に入射した光が黒色塗料によって完全には吸収されずに一部反射した場合であっても,この光を乱反射させて消散させることかできるようにしている。
遮光壁52は,室内側に必要な照明光を照射できる範囲で保持具50の枠体51の下端開口を塞いでおり,図示の実施形態にあっては,リフレクタ30の下端開口縁32aの中間点P2の内側に位置する部分〔図5(A)中のP4の位置〕において第1焦点F1側に対する突出長を最大とし,両端に近付くに従って徐々に突出長さを短くした,平面視において三日月状に形成されている〔図5(A),(E)参照〕。
そして,図1及び図2に示すように,リフレクタ30の傾斜開口縁32bの上端部P3を通って楕円の長軸Xと交叉し,遮光壁の縁部上の一点P4に入る線Cの傾きによって決まる,壁面Wとは反対側に照射される光のカットオフアングルθが所定の角度となるよう,前記遮光壁52の突出長さ及び/又は前記傾斜開口縁32bの傾きが決定されている。
ここで,傾斜開口縁32bの傾きは,カットオフアングルθの設定によって変更し得るものであるから,傾斜開口縁32bを例えば天井体80の底面80aに対し垂直方向に形成しても良い。
図1に示す実施形態にあっては,前述したカットオフアングルθが55°となるように前述の遮光壁52の突出長さ及びリフレクタ30の傾斜開口縁32bの傾斜角を設定しているが,カットオフアングルθは,照明器具1の用途,設置場所等に応じて,各種の角度に設定することができ,例えば,前述のリフレクタ30として共通する構造のものを使用しつつ,遮光壁52の突出長さが異なる保持具50を複数準備しておき,この保持具50の交換によりカットオフアングルθの設定を変更可能に構成するものとしても良い。
なお,図1及び図2に示す例では,この遮光壁52を第1焦点側F1に向かって,天井板80の底面80aに対して略平行を成すように突出させたものとしているが,この遮光壁52は,例えば図8に示すように,枠体51の下端縁より斜め下向きに突出するように設けても良く,カットオフアングルθを所定の角度に設定し得るものであれば,その構造は限定されない。
もっとも,図8に示すように遮光壁52を下向きに傾斜させた構造とした場合には,室内側より設置された状態の照明器具1を観察した際に,この遮光壁52の存在によって照明器具1の存在が目立ち,室内の景観を乱すおそれがあることから,好ましくは図1,図2に示したように,遮光壁52は,枠体51下端縁より大幅に下方に突出しない状態に設けることが好ましい。
リフレクタ30の傾斜開口縁32bに当接してリフレクタ30の位置決めを可能とする前述の係止部53として,図示の実施形態にあっては,前記リフレクタ30の傾斜開口縁32bの傾斜角に対応した角度で形成されたスロープ状の傾斜面を備えた係止部53を設けている。
この係止部53は,その上端において,図5(A)及び図6(A)に示すように,枠体51の内壁より張り出した切欠円弧状の舌片54に連結されており,この舌片54によって,リフレクタ30による反射光の一部が室内側に照射されないようにされている(図2参照)。
なお,この舌片54の下方には,背面視〔図5(E)参照〕において三日月状を成すと共に,中央側を上方に向かって膨出するように湾曲させた反射板55が設けられており,この反射板55の底面側を反射面,例えば鏡面に形成することで,例えば下端開口縁32a付近のリフレクタ30の凹面31で反射された光のうち,拡散によって天井板80に対して平行な照射方向から外れた拡散光等を室内側に反射させることで,照明器具1の直下方向における明るさを増加させている。
なお,図5及び図6中,符号56は,冷却風の導入路であり,この冷却風の導入路56を介してリフレクタ30やランプ12を冷却する冷却風を導入することができるように構成している。
以上のように構成された保持具50は,内部にリフレクタ30を収容すると共に,上端にカバー11の下端部を連結した状態で,リング状の取付治具70を介して天井板80に形成された開口81内に取り付けられる。
この取付治具70は,略円筒状に形成された円筒部71と,この円筒部71の下端開口縁より外周方向に突出したフランジ部72を備えており,この取付治具70の円筒部71を天井板80に形成した開口81内に,室内側よりフランジ部72が天井板80の底面80aに当たる迄挿入すると,板バネ等によって形成された支持脚75(図8参照)が天井板80の上面側において開口81の周縁に係止され,この支持脚75により,又はこの支持脚75に加えて前記取付治具70を天井板80にネジ止め等することにより,天井板80に形成された開口81内に固定されている。
このように,図示の例では取付治具70の下端縁73は,フランジ部72の肉厚分,天井板80の底面80aに対し僅かに低い位置に配置されているものとなっている。
もっとも,この取付治具70としては,前述したフランジ部72を備えていない構成のものを使用して,取付治具70の下端縁73が,天井板80の底面80aと厳密に同一の高さとなるように取り付けるものとしても良い。
この取付治具70の円筒部71は,前述のカバー11及び保持具50を挿入可能な内径に形成されていると共に,室内側よりカバー11側を上向きにして照明器具本体10を挿入し,この照明器具本体10の保持具50部分を所定の位置迄挿入すると,円筒部71内に保持具50の外周を係止することができるように構成されている。
図1及び図2に示す実施形態にあっては,この取付治具70の円筒部71内周に設けた板バネ76の上端部分を,保持具50の枠体51外周に周方向に連続して形成した係止段部57に係止することで,保持具50を取付治具70内の所定の位置に係止することができるように構成していると共に,前記位置で保持具50を取付治具70内に係止すると,保持具50内に収容されたリフレクタ30の前述した配置が実現されるように構成されている。
以上のように構成された照明器具本体10は,前述したように天井板80に形成された開口81内に嵌合・固定された取付治具70内に挿入されて,天井に埋め込み状態で取り付けられる。
天井に対する取り付けは,ウォールウォッシャー効果を狙って照明対象とする壁面Wの高さ等に応じて所定距離離れた位置で天井に取り付けると共に,照明器具本体10の傾斜方向下方に,照射対象とする壁面Wが配置されるように取り付ける。
一例として,図1を参照して説明した照明器具1において,高さ3000mmの壁面に対しその全高に亘り光を照射する場合には,壁面からおよそ1200mm離れた位置で天井に取り付ける。
このようにして取り付けられた本発明の照明器具1において,前述したリフレクタ30の凹面31は前述したように回転楕円面の一部によって形成されていることから,楕円の2つの焦点F1,F2のいずれか一方より発し,凹面31で反射された光は,他方の焦点に対して入射されることとなり,前述したようにランプ12の発光部12aを第2焦点F2に配置した本発明の照明器具1にあっては,このランプ12より発せられ,凹面31によって反射された光は,図2中に矢印で示すように,第1焦点F1に入射することとなる。
そして,本発明の照明器具1に設けられたリフレクタ30は,下端開口縁32aが取付治具70の下端縁73に対し可及的に接近した下方となるように配置されていることから,この下端開口縁32aと同一平面H上にある第1焦点F1もまた,取付治具70の下端縁73に対し可及的に接近した下方となるように配置されている。
そして,ランプ12の発光部12aを,第2焦点F2に配置していることから,ランプ12より発し,リフレクタ30の凹面31によって反射された光のうち,下端開口縁32a付近に入射した光は,第1焦点F1を通り,天井板80に対して平行に進み,壁面Wに照射される。
その結果,本発明の照明器具1によれば,天井との境界付近における壁面Wの上端に迄,光を照射することができるものとなっている(図2参照)。
また,本発明の照明器具1に設けたリフレクタ30にあっては,前述の下端開口縁32aを設けた構成により,壁面Wに対して照射された光がスカラップを形成することをも防止できるものとなっている。
ここで,凹面31を回転楕円面の一部によって形成したリフレクタ30により反射される光の照射範囲を考えると,このリフレクタ30が本発明の下端開口縁32aに対応する部分を備えていない回転対称の形状を有する場合には,このリフレクタによる照射範囲は,図7(A)中に実線で示すように,第1焦点F1を頂点とした二等辺三角形の範囲となる。
しかし,本願の照明器具1で採用するリフレクタ30では,前述したように,第1焦点F1で長軸Xと交叉する,平面Hによって切断することにより形成された下端開口縁32aを備えているために,このような下端開口縁32aを備えたリフレクタ30による光の照射範囲は,図7(A)中に破線で示した状態に変化する。
このように,下端開口縁32aを備えたリフレクタ30によって反射された光の照射範囲を立体的に表せば,図7(B)に示すものとなり,この照射範囲は,円錐を平面Hで切り欠いた形状となる。
そして,本発明の照明器具1にあっては,図7(B)に示す平面Hは,天井板80の底面80aに対して平行なものであるから,壁面Wに対して照射される光は,図7(B)に示す切欠円錐を,平面Hに対して直交する面で切断した断面形状に対応したものとなり,その結果,壁面Wに対してスカラップが形成されることを完全に防止することができるものとなっている。
しかも,リフレクタ30の凹面31にディンプル33,34を形成した構成にあっては,照射光の中心から外側に向かう明るさの移り変わりが自然なものとなり,その結果,壁面Wに照射された光が年輪状の縞模様を形成することをも防止することができるものとなっている。
特に,図3を参照して説明したように,基準面Bに対して上方側に位置する凹面31に形成するディンプル33に対し,下方側に位置する凹面31に形成するディンプル34の大きさをより小さなものとして形成した構成にあっては,前述した明るさの移ろいをより一層自然なものとすることができ,その結果,年輪状の縞模様が発生することを略完全に防止することができた。
このように,本発明の照明器具1によれば,回転楕円面の一部によって凹面31が形成された単一のリフレクタ30の切断位置を工夫すること,更には凹面31にディンプル33,34を形成することにより,従来技術として説明したように,リフレクタに補助反射面を設けたり,又は,リフレクタ内に補助反射板を設ける構成に比較してリフレクタの構造を単純なものとすることができるだけでなく,従来の照明器具では困難であった,壁面Wの上端に対する光の照射,スカラップの発生防止,年輪状の縞模様の発生防止のいずれをも達成することができるものとなっている。
しかも,このように形成された本発明の照明器具1にあっては,室内側より天井を見上げた際,照明器具の存在が目立つことなく,設置状態において既知のダウンライトと同様の外観を呈するものとなっており,室内の景観を乱すこともないものとなっている。