本発明は上記目的を達成するためになされたものであり、本発明の第1の態様は、永久磁石を有する突極性のロータと、該ロータを回転させる回転磁界を発生する多相のステータ巻線を有するステータとを備えた永久磁石同期モータのロータ角度を推定するロータ角度推定装置に関する。
そして、前記モータの回転時に生じる前記ロータの永久磁石に起因する誘起電圧と前記ロータの突極性に起因する誘起電圧とを含む拡張誘起電圧の項を有する、前記多相のステータ巻線の相電圧の差である線間電圧と前記多相のステータ巻線の相電流との間の関係式に、前記モータ回転時の所定時点における前記多相のステータ巻線の線間電圧と相電流とを代入して、ロータ角度の実際値と推定値との角度差についての前記拡張誘起電圧の正弦成分と余弦成分とを算出し、該正弦成分と該余弦成分とに基づいて前記モータのロータ角度の推定値を更新するロータ角度更新手段とを備えたことを特徴とする。
かかる本発明によれば、前記ロータ角度更新手段は、前記線間電圧と相電流との間の関係式を用いて、前記モータのロータ角度の推定値を更新する。そのため、前記モータのステータに印加される電圧が飽和して、例えば正弦波ではなくなった場合であっても、前記正弦成分と前記余弦成分とに基づいて前記モータのロータ角度を精度良く更新することができる。さらに、前記関係式は、前記ロータの突極性に起因する誘起電圧を含む前記拡張誘起電圧の項を有しているため、前記正弦成分と前記余弦成分は、前記ロータの突極性に起因して変化する誘起電圧を反映したものとなる。そのため、前記正弦成分と前記余弦成分とに基づいて前記モータのロータ角度の推定値を更新することによって、前記ロータの突極性に起因して生じ得る前記ロータ角度の推定値の実際値に対するオフセットを抑制することができる。
また、前記ロータ角度更新手段は、前記関係式における前記モータの回転速度として、ロータ角度の推定値の微分値を用いることを特徴とする。
かかる本発明によれば、前記モータの回転速度を検出するための回転センサを不要とすることができる。
また、前記ロータ角度更新手段は、前記正弦成分を前記正弦成分と前記余弦成分の2乗和の平方根で除してロータ角度の実際値と推定値との角度差を算出し、該角度差に基づいてロータ角度の推定値を更新することを特徴とする。
かかる本発明によれば、前記正弦成分を前記正弦成分と前記余弦成分の2乗和の平方根で除することによって、前記拡張誘起電圧の変化の影響を低減してロータ角度の推定値を更新することができる。
また、前記モータの多相のステータはU,V,Wの3相であり、前記ロータ角度更新手段は、前記モータをロータの永久磁石による磁束の方向をd軸としたd−q軸による回転座標系の等価回路で扱い、前記関係式として以下の式(1)を用いることを特徴とする。
但し、√(2/3)(Ld-Lq)(ωId-I・ q)+ωΨ:拡張誘起電圧、θe:ロータ角度の実際値と推定値との角度差、ω^:角速度の推定値、Ψ:誘起電圧定数、Vs:拡張誘起電圧のロータ角度の実際値と推定値との角度差についての正弦成分、Vc:拡張誘起電圧のロータ角度の実際値と推定値との角度差についての余弦成分、θ^:ロータ角度の推定値、Vuw:U相-W相間の線間電圧、Vvw:V相-W相間の線間電圧、R:d軸及びq軸電機子巻線の抵抗、Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス、s:微分演算子、Iu:U相の相電流、Iv:V相の相電流。
かかる本発明によれば、前記ロータ角度更新手段は、前記式(1)に前記所定時点における前記モータの3相の電機子コイルの線間電圧と相電流を代入することによって、前記正弦成分と前記余弦成分を算出することができる。
また、前記モータの多相のステータはU,V,Wの3相であり、前記ロータ角度更新手段は、前記モータをロータの永久磁石による磁束方向をd軸としたd−q軸による回転座標系の等価回路で扱い、前記関係式として以下の式(2)を用いることを特徴とする。
但し、√(2/3)(Ld-Lq)(ωId-I・ q)+ωΨ:拡張誘起電圧、θe:ロータ角度の実際値と推定値との角度差、ω^:角速度の推定値、Ψ:誘起電圧定数、Vs:拡張誘起電圧のロータ角度の実際値と推定値との角度差についての正弦成分、Vc:拡張誘起電圧のロータ角度の実際値と推定値との角度差についての余弦成分、θ^:ロータ角度の推定値、Vuw:U相-W相間の線間電圧、Vvw:V相-W相間の線間電圧、Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス、s:微分演算子、Iu:U相の相電流、Iv:V相の相電流。
上記式(2)は、上記式(1)の抵抗Rをゼロとしたものである。前記モータのステータ巻線の抵抗が低いときには、前記関係式として上記式(2)を用いることによって、前記ロータ推定値更新手段により前記正弦成分と前記余弦成分を算出する際の演算を簡素化することができる。
また、前記所定時点における動作条件と近似する第1及び第2動作条件で前記モータが回転しているときのd軸電流及びq軸電流とd軸電圧及びq軸電圧の組合せを、以下の式(3)に代入して、前記関係式におけるd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスを算出するインダクタンス算出手段を備えたことを特徴とする。
但し、Ld^:d軸インダクタンスの推定値(前記関係式におけるd軸インダクタンスLd)、Lq^:q軸インダクタンスの推定値(前記関係式におけるq軸インダクタンス)、Ke^:誘起電圧定数の推定値、(Vd1,Vq1,Id1,Iq1):第1動作条件におけるd軸電圧Vd1,q軸電圧Vq1,d軸電流Id1,q軸電流Iq1の第1の組み合わせ、(Vd2,Vq2,Id2,Iq2):第2動作条件におけるd軸電圧Vd2,q軸電圧Vq2,d軸電流Id2,q軸電流Iq2の第2の組み合わせ、ω:角速度。
かかる本発明において、上記式(1),式(2)を用いて前記正弦成分と前記余弦成分を算出するときには、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスの値が必要となるが、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスは、前記モータの回転数やトルクによって変化する。そこで、前記インダクタンス算出手段は、前記所定時点における前記モータの動作条件と近似する前記第1及び第2動作条件で前記モータが作動しているときのd軸電圧及びq軸電圧とd軸電流及びq軸電流の組みを、前記式(3)に代入して、前記所定時点と同様と想定されるd軸インダクタンスとq軸インダクタンスを算出する。
そして、前記インダクタンス算出手段により算出されたd軸インダクタンスとq軸インダクタンスを、上記式(1)及び式(2)におけるd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスとすることによって、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスを固定値とした場合に比べて、ロータ角度の推定精度を高めることができる。
また、前記関係式におけるq軸インダクタンスを、前記所定時点における前記モータのトルク又はq軸電流の検出値若しくは指令値が大きいほど小さくなる傾向で設定するインダクタンス設定手段を備えたことを特徴とする。
かかる本発明において、前記モータのトルク又はq軸電流の検出値若しくは指令値が大きいほどq軸インダクタンスが小さくなる傾向がある。そこで、この傾向に合わせて、前記インダクタンス設定手段により、前記関係式におけるq軸インダクタンスを、前記所定時点における前記モータのトルク又はq軸電流の検出値若しくは指令値が大きいほど小さく設定することによって、ロータ角度の推定精度を高めることができる。
また、前記関係式におけるd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスを、前記所定時点における前記モータの回転速度が高いほど大きくなる傾向で設定するインダクタンス設定手段を備えたことを特徴とする。
かかる本発明において、前記モータの回転速度が高いほどd軸インダクタンスとq軸インダクタンスが大きくなる傾向がある。そこで、この傾向に合わせて、前記インダクタンス設定手段により、前記所定時点における前記モータの回転速度が高いほどd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスを大きく設定することによって、ロータ角度の推定精度を高めることができる。
次に、本発明の第2の態様及び第3の態様は、永久磁石を有するロータと、該ロータを回転させる回転磁界を発生する多相のステータ巻線を有するステータとを備えた永久磁石同期モータのロータ角度を推定するロータ角度推定装置に関する。
そして、本発明の第2の態様は、前記モータをロータの永久磁石による磁束の方向をd軸としたd−q軸による回転座標系の等価回路で扱い、以下の式(1)の関係式に、前記モータ回転時の所定時点における前記多相のステータ巻線の線間電圧Vuw,Vvwと相電流Iu,Ivとを代入して、ロータ角度の実際値と推定値との角度差についての正弦成分Vsと余弦成分Vcとを算出し、該正弦成分Vsと該余弦成分Vcとに基づいて前記モータのロータ角度の推定値を更新するロータ角度更新手段とを備えたことを特徴とする。
但し、√(2/3)(Ld-Lq)(ωId-I・ q)+ωΨ:拡張誘起電圧、θe:ロータ角度の実際値と推定値との角度差、ω^:角速度の推定値、Ψ:誘起電圧定数、Vs:ロータ角度の実際値と推定値との角度差についての正弦成分、Vc:ロータ角度の実際値と推定値との角度差についての余弦成分、θ^:ロータ角度の推定値、Vuw:U相-W相間の線間電圧、Vvw:V相-W相間の線間電圧、R:d軸及びq軸電機子巻線の抵抗、Ld:d軸電機子巻線のインダクタンス、Lq:q軸電機子巻線のインダクタンス、s:微分演算子、Iu:U相の相電流、Iv:V相の相電流。
かかる本発明によれば、前記式(1)は線間電圧Vuw,Vvwを入力して正弦成分Vsと余弦成分Vcを算出するものであるため、前記モータのステータに印加される駆動電圧が飽和して、例えば正弦波でなくなった場合であっても、正弦成分Vsと余弦成分Vcを用いてロータ角度の推定値を精度良く更新することができる。さらに、上記式(1)は、ロータの突極性を反映して変化するd軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqを用いているため、ロータが突極性を有する場合に生じ得るロータ角度の推定値のオフセットを抑制することができる。
また、本発明の第3の態様は、前記モータをロータの永久磁石による磁束の方向をd軸としたd−q軸による回転座標系の等価回路で扱い、以下の式(2)の関係式に、前記モータ回転時の所定時点における前記多相のステータ巻線の線間電圧Vuw,Vvwと相電流Iu,Ivとを代入して、ロータ角度の実際値と推定値との角度差についての正弦成分Vsと余弦成分Vcとを算出し、該正弦成分Vsと該余弦成分Vcとに基づいて前記モータのロータ角度の推定値を更新するロータ角度更新手段とを備えたことを特徴とする。
但し、√(2/3)(Ld-Lq)(ωId-I・ q)+ωΨ:拡張誘起電圧、θe:ロータ角度の実際値と推定値との角度差、ω^:角速度の推定値、Ψ:誘起電圧定数、Vs:ロータ角度の実際値と推定値との角度差についての正弦成分、Vc:ロータ角度の実際値と推定値との角度差についての余弦成分、θ^:ロータ角度の推定値、Vuw:U相-W相間の線間電圧、Vvw:V相-W相間の線間電圧、Ld:d軸電機子巻線のインダクタンス、Lq:q軸電機子巻線のインダクタンス、s:微分演算子、Iu:U相の相電流、Iv:V相の相電流。
かかる本発明によれば、前記式(2)は前記式(1)における抵抗Rをゼロとしたものであり、ステータ巻線の抵抗が低いモータでは、前記式(2)を用いることで前記正弦成分及び前記余弦成分の算出を簡素化することができる。
そして、前記式(2)は線間電圧Vuw,Vvwを入力して正弦成分Vsと余弦成分Vcを算出するものであるため、前記モータのステータに印加される駆動電圧が飽和して、例えば正弦波でなくなった場合であっても、正弦成分Vsと余弦成分Vcを用いてロータ角度の推定値を精度良く更新することができる。さらに、上記式(2)は、ロータの突極性を反映して変化するd軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqを用いているため、ロータが突極性を有する場合に生じ得るロータ角度の推定値のオフセットを抑制することができる。
また、前記第2の態様及び前記第3の態様において、前記ロータ角度更新手段は、以下の式(4)によりロータ角度の実際値と推定値との角度差を算出し、該角度差に基づいて前記モータのロータ角度の推定値を更新することを特徴とする。
但し、θe:ロータ角度の実際値と推定値との角度差、Vs:ロータ角度の実際値と推定値との角度差についての正弦成分、Vc:ロータ角度の実際値と推定値との角度差についての余弦成分。
また、前記第2の態様及び前記第3の態様において、前記所定時点における動作条件と近似する第1及び第2動作条件で前記モータが回転しているときのd軸及びq軸電流とd軸及びq軸電圧の組合せを、以下の式(3)に代入して、前記関係式におけるd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスを算出するインダクタンス算出手段を備えたことを特徴とする。
但し、Ld^:d軸インダクタンスの推定値(前記関係式におけるd軸インダクタンスLd)、Lq^:q軸インダクタンスの推定値(前記関係式におけるq軸インダクタンスLq)、Ke^:誘起電圧定数の推定値、(Vd1,Vq1,Id1,Iq1):第1動作条件におけるd軸電圧Vd1,q軸電圧Vq1,d軸電流Id1,q軸電流Iq1の第1の組み合わせ、(Vd2,Vq2,Id2,Iq2):第2動作条件におけるd軸電圧Vd2,q軸電圧Vq2,d軸電流Id2,q軸電流Iq2の第2の組み合わせ、ω:角速度、r:相抵抗。
かかる本発明において、上記式(1),式(2)を用いて前記正弦成分と前記余弦成分を算出するときには、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスの値が必要となるが、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスは、前記モータの回転数やトルクによって変化する。そこで、前記インダクタンス算出手段は、前記所定時点における前記モータの動作条件と近似する前記第1及び第2動作条件で前記モータが作動しているときのd軸電圧及びq軸電圧とd軸電流及びq軸電流の組みを、前記式(3)に代入して、前記所定時点と同様と想定されるd軸インダクタンスとq軸インダクタンスを算出する。
そして、前記インダクタンス算出手段により算出されたd軸インダクタンスとq軸インダクタンスを、上記式(1)及び式(2)におけるd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスとすることによって、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスを固定値とした場合に比べて、ロータ角度の推定精度を高めることができる。
また、前記関係式におけるq軸インダクタンスを、前記所定時点における前記モータのトルク又はq軸電流の検出値若しくは指令値が大きいほど小さくなる傾向で設定するインダクタンス設定手段を備えたことを特徴とする。
かかる本発明において、前記モータのトルク又はq軸電流の検出値若しくは指令値が大きいほどq軸インダクタンスが小さくなる傾向がある。そこで、この傾向に合わせて、前記インダクタンス設定手段により、前記関係式におけるq軸インダクタンスを、前記所定時点における前記モータのトルク又はq軸電流の検出値若しくは指令値が大きいほど小さく設定することによって、ロータ角度の推定精度を高めることができる。
また、前記関係式におけるd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスを、前記所定時点における前記モータの回転速度が高いほど大きくなる傾向で設定するインダクタンス設定手段を備えたことを特徴とする。
かかる本発明において、前記モータの回転速度が高いほどd軸インダクタンスとq軸インダクタンスが大きくなる傾向がある。そこで、この傾向に合わせて、前記インダクタンス設定手段により、前記所定時点における前記モータの回転速度が高いほどd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスを大きく設定することによって、ロータ角度の推定精度を高めることができる。