JP4986320B2 - カルコン含有粉末組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、粘稠な液状を有する明日葉の黄汁または溶媒抽出物を粉末状に調製する方法、並びに該方法によって得られる粉末組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
明日葉(Angelica keiskei Koidz.)は、八丈島や伊豆諸島などの暖地に原生するセリ科の植物で、古くから強精、強壮、延寿及び長命の薬草として珍重されている日本固有の健康野菜である。従来から、明日葉はビタミン、ミネラル、良質な蛋白質及び食物繊維を豊富に含むことが知られているが、近年、医学的にも明日葉の黄汁中の主成分であるカルコン類が、殺菌作用(抗グラム陽性菌活性)、制酸作用、抗潰瘍作用、発ガンプロモーター抑制作用などといった興味ある薬理活性を示すことが判明している。
【0003】
しかしながら、明日葉の黄汁は粘稠な性質を有しているため、粉末状、顆粒状または錠剤などといった服用しやすい形態に加工することが困難であり、かねてより、上記優れた効能を有する明日葉の黄汁を簡単に加工して商品化する方法が求められていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来の課題を解決することを目的とするものである。すなわち、本発明の目的は、粘稠な液状を有する明日葉の黄汁を簡便に粉末状に加工調製する方法を提供することである。さらに本発明は、かかる方法によって得られる明日葉の黄汁の粉末組成物を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記当業界の要求に鑑みて、明日葉の黄汁を固形化する方法について日夜研究を重ねていたところ、当該黄汁をサイクロデキストリン、特に分岐のないサイクロデキストリンと混合することによって非常に簡単に固形化でき、さらに簡単に微粉末に加工できることを見出した。すなわち本発明者らは、上記方法によると明日葉の黄汁を、凍結乾燥、噴霧乾燥又は減圧乾燥などといった特殊な乾燥方法を用いることなく、通常の乾燥方法で乾燥固形化でき、また得られた固形物は定法により粉砕することによって簡単に微粉末状に調製できることを見出し、さらにはかかる方法が明日葉の溶媒抽出液にも同様に適用できることを確認した。また本発明者らは、上記方法で得られた微粉末中には原料として用いた黄汁中のカルコン類が高い収率で回収できていることを確認した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0006】
すなわち、本発明は下記に掲げる、明日葉に由来するカルコン含有粉末組成物の製造方法である:
(1)明日葉の黄汁または溶媒抽出液をサイクロデキストリンと混合、乾燥し、得られる固形物を粉砕する工程を含む、明日葉に由来するカルコン含有粉末組成物の製造方法。
(2)サイクロデキストリンが分岐のないα−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン及びγ−サイクロデキストリンよりなる群から選択される少なくとも1種である、(1)記載の明日葉に由来するカルコン含有粉末組成物の製造方法。
【0007】
さらに本発明は、下記に掲げる、明日葉に由来するカルコン含有粉末組成物である:
(3)明日葉の黄汁成分または抽出物とサイクロデキストリンとを含有することを特徴とする明日葉に由来するカルコン含有粉末組成物。
(4)サイクロデキストリンが分岐のないα−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン及びγ−サイクロデキストリンよりなる群から選択される少なくとも1種である、(3)記載の明日葉に由来するカルコン含有粉末組成物。
【0008】
【実施の形態】
本発明が対象とする明日葉の黄汁または溶媒抽出液は、式(1)
【0009】
【化1】
Figure 0004986320
【0010】
で示される4-Hydroxyderricin、及び式(2)
【0011】
【化2】
Figure 0004986320
【0012】
で示されるXanthoangelolなどのカルコン骨格を有する所謂カルコン類(以下、「カルコン」と総称する。)を主成分として含有することを特徴とするものである。
【0013】
従って、本発明で用いられる明日葉の黄汁または溶媒抽出液は上記カルコンを含有するものであれば、その取得部位や取得方法によって何ら制限されるものではない。例えば、明日葉の黄汁としては明日葉の茎や根茎などから採取される汁または搾汁を用いることができ、これらは必要に応じてさらに濾過処理や洗浄処理によってゴミなどの夾雑物を除去したり、加熱若しくは濾過処理等によって殺菌することもできる。また明日葉の溶媒抽出物としては、明日葉の全草またはその一部(葉、茎、根等)をそのまま若しくは破砕物として溶媒抽出操作に付すか、また乾燥後、必要に応じて粉砕粉体状として溶媒抽出操作に付して調製されるものを用いることができる。
【0014】
ここで抽出溶媒としては、例えば、水;メタノール,エタノール,プロパノール及びブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール;酢酸エチルエステル等の低級アルキルエステル;エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのグリコール類;その他エチルエーテル、アセトン、酢酸等の極性溶媒;ベンゼンやヘキサン等の炭化水素;エーテルや石油エーテルなどのエーテル類等の非極性溶媒の公知の有機溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いても、二種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。例えば必要に応じて上記有機溶媒に適量な水を加えて含水有機溶媒として用いることもでき、かかるものとしては好適に水とアルコールの混合溶媒を挙げることができる。本発明において、より好ましくは水、アルコール(例えばエタノール等)、または水とアルコールの混合液である。
【0015】
抽出方法としては、一般に用いられる方法が採用でき、例えばエキス剤、エリキシル剤、浸剤・煎剤、流エキス剤及びチンキ剤等の各種製剤の調製に用いられる抽出方法を広く挙げることができる。制限はされないが、例えば溶媒中に明日葉の全草若しくは一部(そのまま若しくは粗末、細切物)、又はそれらの乾燥破砕物(粉末など)を冷浸、温浸等によって浸漬する方法、加温し攪拌しながら抽出を行い、濾過して抽出液を得る方法、またはパーコレーション法等を挙げることができる。得られた抽出液は、必要に応じてろ過または遠心分離によって固形物を除去した後、そのまま用いるか、または溶媒を留去して濃縮液として用いることもできる。また、濃縮後、該濃縮液を非溶解性溶媒で洗浄して精製して用いても、またこれを更に適当な溶媒に溶解もしくは懸濁して用いることもできる。また、抽出液を、慣用されている精製法、例えば向流分配法や液体クロマトグラフィー等を用いて、4-HydroxyderricinやXanthoangelolなどのカルコンを含む画分を取得、精製して使用することも可能である。
【0016】
取得の簡便性から、好適には明日葉の黄汁が用いられる。
【0017】
上記明日葉の黄汁または溶媒抽出液と混合して用いられるサイクロデキストリンとしては、特に制限されず、従来公知のサイクロデキストリンを広く挙げることができる。好ましくは、分岐を有さないサイクロデキストリンである。分岐を有するサイクロデキストリン及び分岐を有さないサイクロデキストリンのいずれを用いても明日葉の黄汁又は溶媒抽出物を固形化し粉末化することが可能であるが、分岐を有さないサイクロデキストリンを用いるほうが、乾燥度の高い固形物として調製できるため簡単に粉砕でき、粉砕によってサラサラした均一な微粉末に調製できるという利点がある。さらに本発明においては、グルコースを6〜8分子の割合で含有するα−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン及びγ−サイクロデキストリンを用いることができる。好ましくはβ−サイクロデキストリンおよびα−サイクロデキストリンであり、特に好ましくはβ−サイクロデキストリンである。
【0018】
明日葉の黄汁または溶媒抽出液と上記サイクロデキストリンとの配合割合は、明日葉の黄汁または溶媒抽出液の固形化及び粉末化に支障をきたさない量であれば特に制限されず、得られる粉末組成物中に所望量のカルコンが含まれるように適宜選択して調製することができる。例えば明日葉の黄汁100重量部に対してサイクロデキストリンを通常30〜300重量部、好ましくは50〜200重量部、より好ましくは60〜150重量部、更に好ましくは70〜100重量部の割合で配合することができる。
【0019】
上記のようにして明日葉の黄汁または溶媒抽出液をサイクロデキストリンと混合すると、粘稠な液状であった明日葉の黄汁または溶媒抽出液は、おそらくはサイクロデキストリンの包接化現象に基づいて、発熱し粘土状(ペースト状)に変化する。尚、両者を混合するにあたり、サイクロデキストリンの包接反応を促進し反応を効率よく進行させるために、水を共存させておくことが好ましい。水の配合割合としては特に制限されないが、サイクロデキストリン100重量部に対して5〜100重量部程度、好ましくは20〜70重量部、より好ましくは40〜50重量部の範囲を例示することができる。
【0020】
本発明の明日葉に由来するカルコン含有粉末組成物は、上記粘土状物(ペースト)を乾燥して、次いで得られる固形物を粉砕することによって調製することができる。
【0021】
乾燥方法は、特に制限されず、冷温乾燥,常温乾燥及び加温乾燥、並びに自然乾燥及び通風乾燥のいずれをも採用することができる。好ましくは常温〜加温の下で送風乾燥する方法である。具体的には40〜60℃、好ましくは50℃程度の加温下で送風乾燥する方法を挙げることができる。
【0022】
また粉砕方法も特に制限されることなく、定法に従って乳鉢、ミキサー、カッターミル及びハンマーミルなどの通常使用される粉砕機を用いて、粉末状〜微粉末状に調製することができる。
【0023】
斯くして得られる本発明の粉末組成物は、明日葉に由来するカルコン(例えば、4-Hydroxyderricin、Xanthoangelol)を有効成分として含有するものであり、それ自体食品、医薬部外品又は医薬品として、またこれらの各種製剤化のための原料(バルク)として有効に利用することができる。なお、本発明の粉末組成物は、上記カルコンが総量で2〜30重量%、好ましくは明日葉の黄汁中の含有割合に従って4〜10重量%の割合で含まれるように適宜調製されてもよい。
【0024】
本発明の粉末組成物には、本発明の効果を妨げない限り、他の成分として、これらのものとしては薬学上もしくは食品衛生上許容される担体や添加剤を配合することもでき、例えば慣用の増量材(例えばデキストリンなどの澱粉類、乳糖などの糖類等)、賦形剤、滑沢剤、結合剤、矯味剤、矯臭剤及び甘味料などを例示することができる。
【0025】
【実施例】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
実施例1
明日葉の茎に切り目を入れて採取した黄汁50gを煮沸水にて殺菌したものを原料(原液)として用いて、67.1gの99.5%エタノールとともに丸底フラスコに入れて、室温で1時間撹拌した。得られた混合液をヌッチェで濾過して、濾液を常圧濃縮して47.1gの茶褐色の油状液体を得た。得られた油状液体37.4gに水21.1gとβ-サイクロデキストリン51.5gを添加配合して、全体がペースト状になるまで十分撹拌混合した。得られたペースト状の混合物をステンレス製のバットに広げ、送風乾燥機(50℃)内で乾燥させることにより、淡黄色で脆い塊状の固形物58.9g得た。この固形物をミキサーで粉砕して、淡黄色の微粉末物(33.9g)を調製した。得られた微粉末物中に含まれる4-Hydroxyderricin及びXanthoangelolの含有量を、下記条件の下、高速液体クロマトグラフィーで分析した。
【0026】
装置 :島津LC−6A、島津CR7Aクロマトパック
カラム :COSMOSIL 5C18-AR (4.6φ×250mm)
移動相 :メタノール−水(7:3)
温度 :50℃
流速 :0.9ml/min
検出 :UV 330nm
サンプル量:2μl。
【0027】
その結果、4-Hydroxyderricinが2.29%、 Xanthoangelolが4.60%の割合で含まれていた。これらの含有量は原料として用いた明日葉の黄汁中に含まれる4-Hydroxyderricin及びXanthoangelolのそれぞれ96.2%及び89.1%に相当するものであり、これから、本発明の粉末組成物中には明日葉の黄汁中の4-Hydroxyderricin及びXanthoangelolが約90〜96%もの高い収率でもって回収されていることが確認できた。
【0028】
比較例
実施例1と同様にして得た油状液体37.4gに水21.1gとデキストリン(パインデックスNo.3:松谷化学製)51.5gを添加配合して、室温で十分撹拌混合した。その結果、β-サイクロデキストリンを使用した実施例1の場合とは異なり、粘性の低い不均一な混合物となった。この混合物をステンレス製のバットに広げ、送風乾燥機(50℃)内で乾燥させたが、飴状の茶色の固体となり粉末化することができなかった。
【0029】
【発明の効果】
本発明によれば、殺菌作用(抗グラム陽性菌活性)、制酸作用、抗潰瘍作用、および発ガンプロモーター抑制作用などの薬理活性を有するカルコン(4-Hydroxyderricin及びXanthoangelol)を含有する明日葉の黄汁または溶媒抽出物を、凍結乾燥や噴霧乾燥などの煩雑な方法を要することなく、簡単にしかも収率よく固形化、粉末化することができる。斯くして得られる粉末組成物はそれ自体食品、医薬部外品、医薬品として有用であるだけでなく、これらの製剤化に使用される原料(バルク)として有用である。

Claims (4)

  1. サイクロデキストリン100重部に対して5−100重部の水の存在下で、明日葉の黄汁またはエタノールを溶媒とする溶媒抽出液を前記サイクロデキストリンと混合、乾燥し、得られる固形物を粉砕する工程を含む、明日葉由来粉末組成物の製造方法。
  2. 前記サイクロデキストリンが分岐のないα−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン及びγ−サイクロデキストリンよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1記載の明日葉由来粉末組成物の製造方法。
  3. 請求項1又は2に記載の方法によって得られること、及び
    明日葉の黄汁成分または抽出物、及び、分岐のないα−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン及びγ−サイクロデキストリンよりなる群から選択される少なくとも1種のサイクロデキストリンを含有することを特徴とする、明日葉由来粉末組成物。
  4. 明日葉の黄汁中の4-Hydroxyderricin又はXanthoangelolを含有する、請求項3記載の明日葉由来粉末組成物。
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