以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
(1) 基本構成
初めに、図1を参照しながら、本発明の車両転舵制御装置に係る実施形態の基本的な構成について説明する。ここに、図1は、本発明の車両転舵制御装置に係る実施形態を備える車両の基本的な構成を概念的に示す概略構成図である。
図1に示すように、車両1は、前輪5及び6、並びに後輪7及び8を備えている。前輪及び後輪の少なくとも一方がエンジンの駆動力を得ることにより駆動すると共に、前輪が転舵されることで、車両1は所望の方向に進行することができる。
操舵輪である前輪5及び6は、ドライバーによるステアリングホイール11の操舵に応じて駆動される電動式パワーステアリング装置10により転舵される。具体的には、電動式パワーステアリング装置10は、例えばラックアンドピニオン式の電動式パワーステアリング装置であり、ステアリングホイール11に一方の端部が接続されるステアリングシャフト12と、該ステアリングシャフト12の他方の端部に接続されるラックピニオン機構16と、ステアリングホイール12の回転角度である操舵角θを検出する舵角センサ13と、ステアリングホイール11の操舵によってステアリングシャフト12に加えられる操舵トルクMTを検出するトルクセンサ14と、ドライバーの操舵負担を軽減する補助操舵力を発生させると共に不図示の減速ギアを介してステアリングシャフト12に補助操舵力を与える電動モータ15とを備えている。
このような電動式パワーステアリング装置10においては、ECU30により、舵角センサ13から出力される操舵角θ、トルクセンサ14から出力される操舵トルクMT、ロール角算出回路31から出力される車両1のロール角RA、タックイン判定回路32から出力されるタックインが発生しているか否かを示す制御信号S1、ABS制御回路33から出力されるABS制御が行なわれているか否かを示す制御信号S2、サス制御回路34から出力されるサスペンション制御又はスタビライザ制御が行なわれているか否かを示す制御信号S3、自車位置検出回路35から出力される、車両1が走行しているレーンに対する車両1の位置・方向を示す信号S4、車速センサ41から出力される車速V、並びに横力センサ42から出力される前輪の横力Ff及び後輪の横力Frに基づいて、電動モータ15が発生するトルクである目標操舵トルクTが算出される。
この場合、ロール角算出回路31は、横Gセンサ43により検出される横Gに基づいて、ロール角RAを算出する。タックイン判定回路32は、ヨーレートセンサ44により検出されるヨーレートγ及びスロットル開度センサ45により検出されるスロットル開度Oに基づいて、タックインが発生しているか否かを示す制御信号S1を生成する。
また、自車位置検出回路35は、カメラ等を備えており、道路上のレーンに対する車両1の位置及び車両1が向いている方向(つまり、向き)を検出する。検出された車両1の位置及び方向は、信号S4としてECU30へ出力される。
目標操舵トルクTはECU30から電動モータ15に出力され、目標操舵トルクTに応じた電流が電動モータ15に供給されることで、電動モータ15が駆動される。これにより、電動モータ15からステアリングシャフト12に操舵補助力が加えられ、その結果、ドライバーの操舵負担が軽減される。また、ラックピニオン機構16により、ステアリングシャフト12の回転方向の力が、ラックバー17の往復動方向の力に変換される。ラックバー17の両端は、タイロッド18を介して前輪5及び6に連結されており、ラックバー17の往復運動に応じて、前輪5及び6の向きが変わる。
尚、横力センサ42が直接横力Ff及びFrを検出するように構成してもよいし、或いは横力センサ42を設けることに代えて、例えばECU30が他のパラメータに基づいて横力Ff及びFrを演算等により推定(言い換えれば、算出)するように構成してもよい。他の各種センサについても同様に、センサを設けることでセンサの検出対象を直接的に検出するように構成してもよいし、或いはセンサを設けることに代えて、例えばECU30が他のパラメータに基づいてセンサの検出対象を演算等により推定するように構成してもよい。
(2) 動作原理
続いて、図2から図17を参照して、本実施形態に係る電動式パワーステアリング装置10の動作についてより詳細に説明する。
図2は、電動式パワーステアリング装置10の動作全体を概念的に示すフローチャートである。図2に示すように、イグニションがONになっている場合には(ステップS100:Yes)、電動式パワーステアリング装置10が駆動する。具体的には、ECU30の動作により目標操舵トルクTが算出され(ステップS200)、該算出された目標操舵トルクTに応じて、電動モータ15が駆動されることで操舵トルク制御が行なわれる(ステップS300)。
図3は、図2のステップS200における目標操舵トルクTの算出動作を示すフローチャートである。図3に示すように、目標操舵トルクTを算出する場合には、まずステアリングがオーバーシュート状態にあるか(又は、オーバーシュート状態になるおそれがあるか)否かが判定される(ステップS210)。言い換えれば、ステアリングの振動と車両のヨー振動とが互いに連成され、車両1がふらつく状態にあるか(又は、ふらつく状態になる可能性があるか)否かが判定される。尚、ステップS210におけるオーバーシュート状態の判定動作については、図4を参照して後に詳述する。
ステップS210における判定の結果、ステアリングがオーバーシュート状態にない(又は、ステアリングがオーバーシュート状態になるおそれがない)と判定された場合には(ステップS210:No)、図7及び図8を参照しながら後に詳述する態様で、基本操舵トルクが目標操舵トルクTとして算出される(ステップS230)。
他方、ステップS210における判定の結果、ステアリングがオーバーシュート状態にある(又は、ステアリングがオーバーシュート状態になるおそれがある)と判定された場合には(ステップS210:Yes)、続いて、ドライバーによるステアリングホイール11の操舵方向と前輪5及び6に付与される操舵力の方向が逆であるか(つまり、逆アシストであるか)否かを判定する逆アシスト判定が行われる(ステップS220)。尚、ステップS220における逆アシスト判定動作については、図5及び図6を参照して後に詳述する。
ステップS220における判定の結果、逆アシストであると判定された場合には(ステップS220:Yes)、基本操舵トルクが目標操舵トルクTとして算出される(ステップS230)。
他方、ステップS220における判定の結果、逆アシストでないと判定された場合には(ステップS220:No)、図9から図14を参照しながら後に詳述する態様で、収束操舵トルクが目標操舵トルクTとして算出される(ステップS240)。
図4は、図3のステップS210におけるオーバーシュート状態の判定動作を示すフローチャートである。図4に示すように、オーバーシュート状態を判定する場合には、まず前輪5及び6の舵角δに対する後輪7及び8の横力Frの比率が、所定の閾値OS1よりも大きいか否かが判定される(ステップS211)。
ステップS211における判定の結果、前輪5及び6の舵角δに対する後輪7及び8の横力Frの比率が、閾値OS1よりも大きいと判定された場合には(ステップS211:Yes)、ステアリングがオーバーシュート状態にあると判定される(ステップS214)。従って、収束操舵トルクが目標操舵トルクTとして算出される。
他方、ステップS211における判定の結果、前輪5及び6の舵角δに対する後輪7及び8の横力Frの比率が、閾値OS1よりも大きくないと判定された場合には(ステップS211:No)、続いて、前輪5及び6の舵角δに対するロール角RAの比率が所定の閾値OS2よりも大きいか否かが判定される(ステップS212)。
ステップS212における判定の結果、前輪5及び6の舵角δに対するロール角RAの比率が閾値OS2よりも大きいと判定された場合には(ステップS212:Yes)、ステアリングがオーバーシュート状態にあると判定される(ステップS214)。従って、収束操舵トルクが目標操舵トルクTとして算出される。
他方、ステップS212における判定の結果、前輪5及び6の舵角δに対するロール角RAの比率が閾値OS2よりも大きくないと判定された場合には(ステップS212:No)、ステアリングがオーバーシュート状態にない(つまり、ステアリングは安定している)と判定される(ステップS213)。従って、基本操舵トルクが目標操舵トルクTとして算出される。
尚、ステップS211における判定に加えて又は代えて、前輪5及び6の横力Ffに対する後輪7及び8の横力Frの比率(つまり、Fr/Ff)が、所定の閾値OS3よりも大きいか否かを判定するように構成してもよい。前輪5及び6の横力Ffに対する後輪7及び8の横力Frの比率が、閾値OS3よりも大きいと判定された場合には、ステアリングがオーバーシュート状態にあると判定される。前輪5及び6の横力Ffに対する後輪7及び8の横力Frの比率が、閾値OS3よりも大きくないと判定された場合には、続いてステップS212の判定が行われる。
また、閾値OS1、OS2及びOS3は、前輪5及び6の舵角δと後輪7及び8の横力Frとのヒステリシスループや、前輪5及び6の舵角δとロール角RAとのヒステリシスループや、前輪5及び6の横力Ffに対する後輪7及び8の横力Frとのヒステリシスループ(特に、車速が相対的に低速な場合のヒステリシスループ及び車速が相対的に高速な場合のヒステリシスループ)に基づいて、車両1の各種特性等を考慮しつつ、実験的、経験的、数学的若しくは理論的に、又はシミュレーション等を用いて、電動パワーステアリング装置10が備え付けられる車両1毎に好適な値が設定されることが好ましい。但し、ステアリングがオーバーシュート状態にあるか否かを好適に判定することができる閾値であれば、その設定方向は限定されない。
図5は、図3のステップS220における逆アシスト判定動作を示すフローチャートである。図5に示すように、逆アシストを判定する場合には、まずドライバーによるステアリングホイール11の操舵方向と、電動モータ15により付与される操舵力が前輪5及び6を転舵する方向とが逆であるか否かが判定される(ステップS221)。
ステップS221における判定の結果、ドライバーによるステアリングホイール11の操舵方向と、電動モータ15により付与される操舵力が前輪5及び6を転舵する方向とが逆であると判定された場合には(ステップS221:Yes)、続いて、前輪5及び6の舵角δに対する後輪7及び8の横力Frの比率が所定の閾値OS4よりも大きいか否かが判定される(ステップS225)。具体的には、ステアリング振動が発生しているか否かが判定される。このため、閾値OS4は、上述した閾値OS1よりも大きな値となる。また、OS4についても、前輪5及び6の舵角δと後輪7及び8の横力Frとのヒステリシスループに基づいて、車両1の各種特性等を考慮しつつ、実験的、経験的、数学的若しくは理論的に、又はシミュレーション等を用いて、電動パワーステアリング装置10が備え付けられる車両1毎に好適な値が設定されることが好ましい。但し、ステアリング振動が発生しているか否かを好適に判定することができる閾値であれば、その設定方法は限定されない。
ステップS225における判定の結果、前輪5及び6の舵角δに対する後輪7及び8の横力Frの比率が閾値OS4よりも大きいと判定された場合には(ステップS225:Yes)、逆アシストでないと判定される(ステップS226)。従って、収束操舵トルクが目標操舵トルクTとして算出される。
他方、ステップS225における判定の結果、前輪5及び6の舵角δに対する後輪7及び8の横力Frの比率が閾値OS4よりも大きくないと判定された場合には(ステップS225:No)、逆アシストであると判定される(ステップS227)。従って、基本操舵トルクが目標操舵トルクTとして算出される。
他方、ステップS221における判定の結果、ドライバーによるステアリングホイール11の操舵方向と、電動モータ15により付与される操舵力が前輪5及び6を転舵する方向とが逆でないと判定された場合には(ステップS221:No)、続いて、ステアリングホイール11の操舵角θの絶対値が所定の閾値OS5_1より小さいか否か及びステアリングホイール11の操舵速度(つまり、操舵角速度dθ)の絶対値が所定の閾値OS5_2より小さいか否かが判定される(ステップS222)。
ステップS222における判定の結果、ステアリングホイール11の操舵角θの絶対値が閾値OS5_1より小さく且つステアリングホイール11の操舵速度dθの絶対値が閾値OS5_2より小さいと判定された場合には(ステップS222:Yes)、逆アシストであると判定される(ステップS227)。従って、基本操舵トルクが目標操舵トルクTとして算出される。
尚、ステアリングホイール11の操舵角θの絶対値が閾値OS5_1より小さくなくとも、ステアリングホイール11の操舵速度dθの絶対値が閾値OS5_2より小さければ、逆アシストであると判定するように構成してもよい。また、ステアリングホイール11の操舵速度dθの絶対値が閾値OS5_2より小さくなくとも、ステアリングホイール11の操舵角θの絶対値が閾値OS5_1より小さければ、逆アシストであると判定するように構成してもよい。
他方、ステップS222における判定の結果、ステアリングホイール11の操舵角θの絶対値が閾値OS5_1より小さくない、又はステアリングホイール11の操舵速度dθの絶対値が閾値OS5_2より小さくないと判定された場合には(ステップS222:No)、続いて、ステアリングホイール11の操舵角θの絶対値が所定の閾値OS6_1より大きいか否か及びステアリングホイール11の操舵速度dθの絶対値が所定の閾値OS6_2より大きいか否かが判定される(ステップS223)。
ステップS223における判定の結果、ステアリングホイール11の操舵角θの絶対値が閾値OS6_1より大きく且つステアリングホイール11の操舵速度dθの絶対値が閾値OS6_2より大きいと判定された場合には(ステップS223:Yes)、逆アシストであると判定される(ステップS227)。従って、基本操舵トルクが目標操舵トルクTとして算出される。
尚、ステアリングホイール11の操舵角θの絶対値が閾値OS6_1より大きくなくとも、ステアリングホイール11の操舵速度dθの絶対値が閾値OS6_2より大きければ、逆アシストであると判定するように構成してもよい。また、ステアリングホイール11の操舵速度dθの絶対値が閾値OS6_2より大きくなくとも、ステアリングホイール11の操舵角θの絶対値が閾値OS6_1より大きければ、逆アシストであると判定するように構成してもよい。
他方、ステップS223における判定の結果、ステアリングホイール11の操舵角θの絶対値が閾値OS6_1より大きくない、又はステアリングホイール11の操舵速度dθの絶対値が閾値OS6_2より大きくないと判定された場合には(ステップS223:No)、続いて、車両1がタックイン状態にあるか(又は、タックイン状態になるおそれがあるか)否かが判定される(ステップS224)。係る判定は、タックイン判定回路32から出力される制御信号S1に基づいて行われる。
ステップS224における判定の結果、車両がタックイン状態にある(又は、タックイン状態になるおそれがある)と判定された場合には(ステップS224:Yes)、逆アシストであると判定される(ステップS227)。従って、基本操舵トルクが目標操舵トルクTとして算出される。
他方、ステップS224における判定の結果、車両がタックイン状態にない(又は、タックイン状態になるおそれがない)と判定された場合には(ステップS224:No)、逆アシストでないと判定される(ステップS226)。従って、収束操舵トルクが目標操舵トルクTとして算出される。
ここで、ステップS222及びS223における動作を、操舵角θ及び操舵速度dθのグラフとして示すと、図6のようなグラフになる。図6に示すグラフにおいて、操舵角θ及び操舵速度dθの組み合わせが網掛け部分の領域に存在する場合には、逆アシストでないと判定され、操舵角θ及び操舵速度dθの組み合わせが網掛け部分以外の領域に存在する場合には、逆アシストであると判定される。
尚、閾値OS5_1、OS5_2、OS6_1及びOS6_2についても車両1の各種特性等を考慮しつつ、実験的、経験的、数学的若しくは理論的に、又はシミュレーション等を用いて、電動パワーステアリング装置10が備え付けられる車両1毎に好適な値が設定されることが好ましい。
図7は、図3のステップS230における基本操舵トルクの算出動作を示すフローチャートである。図7に示すように、基本操舵トルクを算出する場合には、まず基本操舵トルクを算出するために必要な各種信号(例えば、車速Vや操舵トルクMT等)が読み込まれる(ステップS231)。続いて、ステップ231において読み込まれた各種信号に基づいて、基本操舵トルクが算出される(ステップS232)。
具体的には、図8に示す操舵トルクMTと基本操舵トルクとの関係を示すグラフに基づいて、基本操舵トルクが算出される。ステアリングホイール11のあそびを確保するために、操舵トルクMTが相対的に小さい場合には基本操舵トルクを0として算出する。操舵トルクMTがある程度の大きさになった場合には、操舵トルクMTが大きくなるにつれてより大きい基本操舵トルクを算出する。操舵トルクMTが所定の値よりも大きくなった場合には、操舵トルクMTの大きさによっても変動しない一定値の基本操舵トルクを算出する。このとき、車速Vが速くなるほど、基本操舵トルクの値を小さくするように構成してもよい。
図9は、図3のステップS240における収束操舵トルクの算出動作を示すフローチャートである。図9に示すように、収束操舵トルクを算出する際には、まず車速依存係数KV1及びKV2が設定される(ステップS241)。
具体的には、図10に示す車速依存係数KV1対車速Vの関係を示すグラフに基づいて、車速依存係数KV1が設定される。同様に、図11に示す車速依存係数KV2対車速Vの関係を示すグラフに基づいて、車速依存係数KV2が設定される。
図10及び図11に示す車速依存係数KV1及びKV2は、車両1の平面方向における運動を示す運動方程式を用いて求めることができる。具体的には、車両1の慣性モーメントをIとし、前軸から車両1の重心位置までの距離をLfとし、後軸から車両1の重心位置までの距離をLrとし、トレール量をLtとし、車両1のスリップ角をβとし、前輪側のコーナリングパワーをKfとし、後輪側のコーナリングパワーをKrとすると、車両1の運動方程式は、数1から数4にて示される。
更に、本実施形態においては、電動式パワーステアリング装置10は、トルク入力を行っているため、前輪5及び6の慣性モーメントをI
hとし、粘性係数をC
hとし、操舵トルクをT
hとすると、以下の数5が成立する。
数1から数5を用いて、車両1のヨー振動を抑制する(言い換えれば、車両1の減衰を大きくする)ことを重視しながら目標操舵トルクTを求めると(つまり、数5の右辺に目標操舵トルクTを加えた式を解くことで)、後輪7及び8の横力F
r及び該横力F
rの微分値に基づいて目標操舵トルクT(ここでは収束操舵トルク)を設定すればよいことが判明する。具体的には、目標操舵トルクTを、後輪7及び8の横力F
rにある係数Aを掛け合わせた値と、後輪7及び8の横力F
rの微分値dF
rにある係数Bを掛け合わせた値との和に設定すればよいことが判明する。この係数A及びBが夫々、車速依存係数K
V1及びK
V2に相当する。
このようにして求められる車速依存係数KV1及びKV2は、図10及び図11に示すように、夫々車速Vに依存して変化する。
但し、車速Vが異常な場合(例えば、ハイドロプレーニング現象等が発生している場合等)には、車速依存係数KV1を0に設定することが好ましい。
特に、車速依存係数KV1は、ある車速(具体的には、ニュートラルステアとなる状態)を境界として、符号が反転する。具体的には、ある車速以下での車速依存係数KV1は正の値をとり、ある車速以上での車速依存係数は負の値を取る。これは、ある車速以上では、車両の挙動がオーバーステア気味になりやすいことから、該オーバーステアを抑制するために(つまり、車両のヨー振動を抑制するために)、ドライバーの操舵の方向とは逆の方向への操舵を考慮しながら(言い換えれば、ドライバーがハンドルを切りにくくなるような)目標操舵トルクTが設定されることを示している。つまり、車両1の挙動が安定するような目標操舵トルクTが設定されることを示している。
このように、目標操舵トルクTとしての収束操舵トルクは、KV1×Fr+KV2×dFrという式に基づいて算出することができる。しかしながら、車両の挙動等によっては、上記収束操舵トルクをそのまま適用することは、逆に車両の挙動を悪化させることにつながりかねない。従って、本実施形態では、以下に示す動作を更に行うことで収束操舵トルクを算出している。
具体的には、再び図9において、まず悪路係数KBが設定される(ステップS242)。悪路係数KBは、0から1の間の数値に設定される。車両1が悪路(例えば、低μ路や、凹凸路等の車速Vが大きく、不規則に又は意図せず変動する路面)を走行している場合には、悪路係数KBを0に設定する。或いは、車両1が悪路を走行している場合には、悪路係数KBを0よりも大きく且つ1未満の値に設定してもよい。他方、車両1が悪路を走行していない場合(即ち、舗装路等の通常路を走行している場合)には、悪路係数KBを1に設定する。
続いて、前後加速度係数KAが設定される(ステップS243)。前後加速度係数KAは、0から1の間の数値に設定される。
具体的には、前後加速度係数KAは、図12に示すグラフに応じて設定される。図12は、前後加速度αの絶対値に対する前後加速度係数KAの値を示すグラフである。図12に示すように、車両1の前後加速度αの絶対値が所定値以下の場合には、前後加速度係数KAを1に設定する。車両1の前後加速度αの絶対値が所定値以下の場合には、車両1の前後加速度αの絶対値が大きければ大きいほど、前後加速度係数KAをより小さな値に設定する。或いは、前後加速度αの絶対値が所定値以上である場合には又は車両1にピッチが生じている場合には、前後加速度係数KAを0に設定してもよい。
また、図13に示すように、前後加速度αが変化し始めてからの経過時間に応じて前後加速度係数KAを設定するように構成してもよい。図13は、前後加速度αが変化し始めてからの経過時間に対する前後加速度係数KAの値を示すグラフである。図13に示すように、前後加速度αが変化し始めた場合には、車両1に固有のピッチ周期に相当する時間が経過するまでは、前後加速度係数KAを0に設定しておき、ピッチ周期に相当する時間が経過した後は、時間の経過と共に徐々に大きな値に設定するように構成してもよい。
再び図9において、続いて、ABS係数KX1及びKX2が設定される(ステップS244)。ABS係数KX1及びKX2は、0から1の間の数値に設定される。
具体的には、ABS係数KX1及びKX2は、図14に示すグラフに応じて設定される。図14は、時間に対するABS係数KX1及びKX2の値を示すグラフである。図14に示すように、ABS制御が行われている場合には、ABS係数KX1及びKX2の夫々を0に設定する。ABS制御が行われているか否かは、ABS制御回路33から出力される制御信号S2により判定することができる。その後、ABS制御が終了した場合には、まずABS係数KX2を徐々に大きな値に設定していく。ABS制御が終了してから一定時間が経過した後には、続いてABS係数KX1を徐々に大きな値に設定していく。このとき、ABS係数KX2の単位時間当たりの増分は、ABS係数KX1の単位時間当たりの増分よりも大きい。言い換えれば、図14に示すABS係数KX1に係るグラフの傾きは、図14に示すABS係数KX2に係るグラフの傾きよりも緩やかである。
尚、ABS制御が終了した後に、ABS係数KX1及びABS係数KX2を徐々に大きくしていく動作に代えて、ABS制御が終了した後の一定期間はABS係数KX2を1に設定し且つABS係数KX1を0に設定し、その後更に一定期間経過した後にABS係数KX1を1に設定するように構成してもよい。
また、VSCやTRC等の前後力制御が行われている場合についても、ABS制御の場合と同様の態様で、ABS係数KX1及びKX2を設定することが好ましい。
再び図9において、続いて、サス係数KZが設定される(ステップS245)。サス係数KZは、0から1の間の数値に設定される。具体的には、サスペンション制御が行われていない場合には、サス係数KZは1に設定される。サスペンション制御が行われているか否かは、サス制御回路34から出力される制御信号S3により判定することができる。他方、サスペンション制御が行われている場合には、サス係数KZは0又は0より大きく且つ1未満の値に設定される。
また、スタビライザ制御等の接地荷重可変制御が行われている場合についても、サスペンション制御の場合と同様の態様で、サス係数KZを設定することが好ましい。
続いて、レーンキープ係数KL1及びKL2が設定される(ステップS246)。具体的には、レーンキープ係数KL1及びKL2は、図15に示すフローチャートに従って設定される。図15は、レーンキープ係数KL1及びKL2を設定する際の動作の流れを概念的に示すフローチャートである。
図15に示すように、まず、自車位置検出回路35の動作により、道路上のレーンに対する車両1の位置及び車両1が向いている方向が検出される(ステップS2461)。例えば、車両1がレーンの中央を走行しているか、車両1がレーンの右寄りを走行しているか(更に、車両1がレーンの中央からどれだけ右寄りにずれているか)、或いは車両1がレーンの左寄りを走行しているか(更に、車両1がレーンの中央からどれだけ左寄りにずれているか)を示す情報が検出される。加えて、車両1がレーンと平行な方向を向いているか、車両1がレーンに平行な方向に対して右側へ又は時計周りに回転した方向を向いているか(更には、車両1がレーンに対してどれだけ右側へ又は時計周りに回転した方向を向いているか)車両1がレーンに平行な方向に対して左側へ又は半時計周りに回転した方向を向いているか(更には、車両1がレーンに平行な方向に対してどれだけ左側へ又は半時計周りに回転した方向を向いているか)を示す情報が検出される。
続いて、ECU30の制御の下に、電動モータ15により付与される収束操舵トルクが0より大きいか否かが判定される(ステップS2462)。尚、ここでは、付与される収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向が「左」となる場合に、収束操舵トルクの値が0より大きな値となる具体例について説明する。従って、ステップS2462における判定は、収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向が「左」であるか否かの判定と同等である。
ステップS2462における判定の結果、収束操舵トルクが0より大きな値を有していると判定された場合には(ステップS2462:Yes)、ステップS2461において検出された車両1の位置及び車両1が向いている方向に応じて、レーンキープ係数KL1及びKL2が設定される(ステップS2463)。
より具体的には、ステップS2463中の上側のグラフに示すように、車両1がレーンに平行な方向を向いている場合には、レーンキープ係数KL1は1に設定される。車両1がレーンに平行な方向に対して右側へ又は時計周りに回転した方向を向いている場合には、レーンキープ係数KL1は1より大きな値に設定される。特に、車両1がレーンに平行な方向に対してより多く回転した方向を向いているほど、レーンキープ係数KL1はより大きな値に設定される。但し、車両1がレーンに平行な方向に対してある程度以上回転した方向を向いている場合には、車両1がレーンに平行な方向に対してどれだけ回転した方向を向いているかに関わらず、レーンキープ係数KL1は一定の値に設定される。他方、車両1がレーンに平行な方向に対して左側へ又は半時計周りに回転した方向を向いている場合には、レーンキープ係数KL1は1より小さな値に設定される。特に、車両1がレーンに平行な方向に対してより多く回転した方向を向いているほど、レーンキープ係数KL1はより小さな値に設定される。但し、車両1がレーンに平行な方向に対してある程度以上回転した方向を向いている場合には、車両1がレーンに平行な方向に対してどれだけ回転した方向を向いているかに関わらず、レーンキープ係数KL1は一定の値に設定される。
更に、ステップS2463中の下側のグラフに示すように、車両1がレーンの中央を走行している場合には、レーンキープ係数KL2は1に設定される。車両1がレーンの右寄りを走行している場合には、レーンキープ係数KL2は1より大きな値に設定される。特に、車両1がレーンの中央から遠ざかるほど、レーンキープ係数KL2はより大きな値に設定される。但し、車両1がレーンの中央からある程度以上遠ざかっている場合には、車両1がレーンの中央からどれだけ右寄りにずれているかに関わらず、レーンキープ係数KL2は一定の値に設定される。他方、車両1がレーンの左寄りを走行している場合には、レーンキープ係数KL2は1より小さな値に設定される。特に、車両1がレーンの中央から遠ざかるほど、レーンキープ係数KL2はより小さな値に設定される。但し、車両1がレーンの中央からある程度以上遠ざかっている場合には、車両1がレーンの中央からどれだけ左寄りにずれているかに関わらず、レーンキープ係数KL2は一定の値に設定される。
他方、ステップS2462における判定の結果、収束操舵トルクが正の値を有していないと判定された場合には(ステップS2462:No)、ステップS2461において検出された車両1の位置及び車両1が向いている方向に応じて、レーンキープ係数KL1及びKL2が設定される(ステップS2464)。
より具体的には、ステップS2464中の上側のグラフに示すように、車両1がレーンに平行な方向を向いている場合には、レーンキープ係数KL1は1に設定される。車両1がレーンに平行な方向に対して右側へ又は時計周りに回転した方向を向いている場合には、レーンキープ係数KL1は1より小さな値に設定される。特に、車両1がレーンに平行な方向に対してより多く回転した方向を向いているほど、レーンキープ係数KL1はより小さな値に設定される。但し、車両1がレーンに平行な方向に対してある程度以上回転した方向を向いている場合には、車両1がレーンに平行な方向に対してどれだけ回転した方向を向いているかに関わらず、レーンキープ係数KL1は一定の値に設定される。他方、車両1がレーンに平行な方向に対して左側へ又は半時計周りに回転した方向を向いている場合には、レーンキープ係数KL1は1より大きな値に設定される。特に、車両1がレーンに平行な方向に対してより多く回転した方向を向いているほど、レーンキープ係数KL1はより大きな値に設定される。但し、車両1がレーンに平行な方向に対してある程度以上回転した方向を向いている場合には、車両1がレーンに平行な方向に対してどれだけ回転した方向を向いているかに関わらず、レーンキープ係数KL1は一定の値に設定される。
更に、ステップS2464中の下側のグラフに示すように、車両1がレーンの中央を走行している場合には、レーンキープ係数KL2は1に設定される。車両1がレーンの右寄りを走行している場合には、レーンキープ係数KL2は1より小さな値に設定される。特に、車両1がレーンの中央から遠ざかるほど、レーンキープ係数KL2はより小さな値に設定される。但し、車両1がレーンの中央からある程度以上遠ざかっている場合には、車両1がレーンの中央からどれだけ右寄りにずれているかに関わらず、レーンキープ係数KL2は一定の値に設定される。他方、車両1がレーンの左寄りを走行している場合には、レーンキープ係数KL2は1より大きな値に設定される。特に、車両1がレーンの中央から遠ざかるほど、レーンキープ係数KL2はより大きな値に設定される。但し、車両1がレーンの中央からある程度以上遠ざかっている場合には、車両1がレーンの中央からどれだけ左寄りにずれているかに関わらず、レーンキープ係数KL2は一定の値に設定される。
つまり、ステップS2463及びステップS2464における動作は、以下のようにまとめられる。収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向と、レーンに平行な方向に対して車両1が向いている方向とが同一となる場合には、レーンキープ係数KL1は1より小さな値に設定される。他方、収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向と、レーンに平行な方向に対して車両1が向いている方向とが逆となる場合には、レーンキープ係数KL1は1より大きな値に設定される。同様に、収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向と、レーンの中央を基準として車両1が位置する方向とが同一となる場合には、レーンキープ係数KL2は1より小さな値に設定される。他方、収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向と、レーンの中央を基準として車両1が位置する方向とが逆となる場合には、レーンキープ係数KL2は1より大きな値に設定される。
その後、後輪7及び8の横力Frに実際に掛け合わされる係数であるK1が算出される(ステップS247)。具体的には、K1=KV1×KA×KX1×KL1×KZとなる。同様に、後輪7及び8の横力Frの微分値dFrに実際に掛け合わされる係数であるK2が算出される(ステップS247)。具体的には、K2=KV2×KB×KX2×KX2となる。その後、後輪7及び8の横力Fr及び後輪7及び8の横力Frの微分値dFrが算出される(ステップS248)。その後、ステップS247において算出されたK1、ステップS247において算出されたK2、並びにステップS248において算出されたFr及びdFrに基づいて、収束操舵トルクが算出される(ステップS249)。
以上説明したように、本実施形態によれば、ステアリングがオーバーシュート状態にあるか否かを好適に判定することができる。そして、ステアリングがオーバーシュート状態にある場合には、収束操舵トルクを目標操舵トルクTとして設定することができる。これにより、ステアリングがオーバーシュート状態にある場合でも、ステアリングの振動と車両のヨー振動とが互いに連成する(具体的には、逆相で共振してしまう)ことを防止することができる。その結果、前輪5及び6の振動を収束させることができる。つまり、ステアリングの収束性を向上させつつ、車両1の収束性をも向上させることができる。
加えて、トルク入力による寄与を考慮しながら、車両1の平面方向における運動方程式に基づいて収束操舵トルクを算出しているため、高精度に(或いは、より最適な)収束操舵トルクを算出することができる。
加えて、前輪5及び6の舵角δや、前輪5及び6の横力Ffや、後輪7及び8の横力Frや、ロール角RA等をモニタリングすることで、ステアリングがオーバーシュート状態にあるか否かを好適に或いは高精度に判定することができる。
特に、図4のステップS212に示すようにステップ前輪5及び6の舵角δに対するロール角RAの比率をモニタリングしているため、例えばミニバンやSUV(Sport Utility Vehicle)等の車高の高い車両1においても、ステアリングがオーバーシュート状態にあるか否かを好適に或いは高精度に判定することができる。このような利点を考慮すると、車高の高い車両に対して選択的に図4のステップS212の動作を行い、例えばスポーツカータイプのセダンやクーペ等の車高の低い車両に対しては図4のステップS212の動作を行わないように構成してもよい。
更に、図5のステップS221に示すように、ドライバーによる操舵方向と、電動モータ15により付与される操舵力が前輪5及び6を転舵する方向とが逆である場合には、ドライバーが緊急回避操舵を行っている可能性が高いことを考慮して、ドライバーの操舵に応じた基本操舵力を目標操舵トルクTに設定することにより、回避性能の悪化を防止することができる。つまり、ドライバーの緊急回避の意思を尊重することができる。
但し、ドライバーによる操舵方向と、電動モータ15により付与される操舵力が前輪5及び6を転舵する方向とが逆である場合であっても、図5のステップS225に示すように、ステアリング振動が生じている又は生じ得る場合には、収束操舵トルクを目標操舵トルクTに設定することにより、操舵感よりも車両1の安定性を重視することができる。
尚、ドライバーによる操舵方向と、電動モータ15により付与される操舵力が前輪5及び6を転舵する方向とが逆である場合には、ドライバーによる操舵方向とは逆の方向への操舵力が設定される原因となる、後輪7及び8の横力Frに掛け合せる係数K1を小さくしてもよい。収束操舵トルクを算出する際の、後輪7及び8の横力Frの比例値の寄与率を小さくしてもよい。
更に、図5のステップS222に示すように、操舵角θの絶対値や操舵速度dθの絶対値が相対的に小さい範囲においてはドライバーが操舵感の変化を感じやすいことを考慮して、操舵トルクMTに応じた基本操舵トルクを目標操舵トルクTに設定することで、ドライバーの操舵感を悪化させない。
更に、図5のステップS223に示すように、操舵角θの絶対値や操舵速度dθの絶対値が相対的に大きい範囲においてはドライバーが緊急回避操舵を行っている可能性があることを考慮して、操舵トルクMTに応じた基本操舵トルクを目標操舵トルクTに設定することで、ドライバーの緊急回避の意思を尊重することができる。
更に、図5のステップS224に示すように、タックインが発生している場合には、タックインに起因して後輪7及び8の横力Frが変動しやすい或いは前輪5及び6の操舵によっても所望の横力Frが必ずしも得られないことを考慮して、操舵トルクMTに応じた基本操舵トルクを目標操舵トルクTに設定することができる。
更に、図9のステップS242に示すように、車両1が悪路を走行している場合には、ノイズが大きい後輪7及び8の横力Frの微分値dFrの収束操舵トルクの算出への寄与率を下げる又は0にする(言い換えれば、ノイズが小さい後輪7及び8の横力Frに基づいて収束操舵トルクを算出する)ことにより、悪路による影響を極力排除しながら、収束操舵トルクを好適に算出することができる。
更に、図9のステップS243に示すように、車両1が加減速している場合には、加減速に起因して大きく変動する後輪7及び8の横力Frの収束操舵トルクの算出への寄与率を下げる又は0にする(言い換えれば、加減速によってもそれほど大きく変動しない後輪7及び8の横力Frの微分値dFrに基づいて収束操舵トルクを算出する)ことにより、加減速による影響を極力排除しながら、収束操舵トルクを好適に算出することができる。
更に、図9のステップS244に示すように、車両1に対してABS制御等の前後力制御が行われている場合には、前後力制御に起因して大きく変動する後輪7及び8の横力Frの収束操舵トルクの算出への寄与率を下げる又は0にする(言い換えれば、前後力制御によってもそれほど大きく変動しない後輪7及び8の横力Frの微分値dFrに基づいて収束操舵トルクを算出する)ことにより、前後力制御による影響を極力排除しながら、収束操舵トルクを好適に算出することができる。
更に、図9のステップS245に示すように、サスペンション制御等の接地荷重可変制御が行われている場合には、接地荷重制御に起因して大きく変動する後輪7及び8の横力Frの収束操舵トルクの算出への寄与率を下げる又は0にする(言い換えれば、接地荷重可変制御によってもそれほど大きく変動しない後輪7及び8の横力Frの微分値dFrに基づいて収束操舵トルクを算出する)ことにより、接地荷重可変制御による影響を極力排除しながら、収束操舵トルクを好適に算出することができる。
更に、図9のステップS246に示すように、車両1が向いている方向及び車両1の位置の夫々に応じて、後輪7及び8の横力Fr及び微分値dFrの収束操舵トルクの算出への寄与率を変動させることができる。
車両1が向いている方向及び位置の夫々に応じて、後輪7及び8の横力Fr及び微分値dFrの収束操舵トルクの算出への寄与率を変動させたときの車両1の挙動について、図16及び図17を用いて説明する。ここに、図16は、後輪7及び8の横力Fr及び微分値dFrの収束操舵トルクの算出への寄与率を、図15のステップS2463に示す態様で変動させたときの車両1の挙動を概念的に示す平面図であり、図17は、後輪7及び8の横力Fr及び微分値dFrの収束操舵トルクの算出への寄与率を、図15のステップS2464に示す態様で変動させたときの車両1の挙動を概念的に示す平面図である。
図16(a)に示すように、収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向が「左」であり且つ車両1がレーンに平行な方向に対して右側へ又は時計周りに回転した方向を向いている場合には、レーンキープ係数KL1は1より大きな値に設定される。このため、収束操舵トルクは大きくなる。これにより、車両1を左側へ転舵するように作用するトルクが大きくなり、その結果、車両1の向きがレーンに平行な方向に戻される。
他方、図16(b)に示すように、収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向が「左」であり且つ車両1がレーンに平行な方向に対して左側へ又は半時計周りに回転した方向を向いている場合には、レーンキープ係数KL1は1より小さな値に設定される。このため、収束操舵トルクは小さくなる。これにより、車両1を左側へ転舵するように作用するトルクが小さくなり、その結果、車両1の向きがレーンに平行な方向からよりずれることを相応に防ぐことができる。
また、図16(c)に示すように、収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向が「左」であり且つ車両1がレーンの右寄りを走行している場合には、レーンキープ係数KL2は1より大きな値に設定される。このため、収束操舵トルクは大きくなる。これにより、車両1を左側へ転舵するように作用するトルクが大きくなり、その結果、車両1の位置がレーンの中央付近に戻される。
他方、図16(d)に示すように、収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向が「左」であり且つ車両1がレーンの左寄りを走行している場合には、レーンキープ係数KL2は1より小さな値に設定される。このため、収束操舵トルクは小さくなる。これにより、車両1を左側へ転舵するように作用するトルクが小さくなり、その結果、車両1の位置がレーンの中央から更にずれることを相応に防ぐことができる。
同様に、図17(a)に示すように、収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向が「右」であり且つ車両1がレーンに平行な方向に対して左側へ又は半時計周りに回転した方向を向いている場合には、レーンキープ係数KL1は1より大きな値に設定される。このため、収束操舵トルクは大きくなる。これにより、車両1を右側へ転舵するように作用するトルクが大きくなり、その結果、車両1の向きがレーンに平行な方向に戻される。
他方、図17(b)に示すように、収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向が「右」であり且つ車両1がレーンに平行な方向に対して右側へ又は時計周りに回転した方向を向いている場合には、レーンキープ係数KL1は1より小さな値に設定される。このため、収束操舵トルクは小さくなる。これにより、車両1を右側へ転舵するように作用するトルクが小さくなり、その結果、車両1の向きがレーンに平行な方向からよりずれることを相当に防ぐことができる。
また、図17(c)に示すように、収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向が「右」であり且つ車両1がレーンの左寄りを走行している場合には、レーンキープ係数KL2は1より大きな値に設定される。このため、収束操舵トルクは大きくなる。これにより、車両1を右側へ転舵するように作用するトルクが大きくなり、その結果、車両1の位置がレーンの中央付近に戻される。
他方、図17(d)に示すように、収束操舵トルクが前輪5及び6を転舵する方向が「右」であり且つ車両1がレーンの右寄りを走行している場合には、レーンキープ係数KL2は1より小さな値に設定される。このため、収束操舵トルクは小さくなる。これにより、車両1を右側へ転舵するように作用するトルクが小さくなり、その結果、車両1の位置がレーンの中央から更にずれることを相応に防ぐことができる。
このように、車両1が向いている方向及び車両1の位置の夫々に応じて、後輪7及び8の横力Fr及び微分値dFrの収束操舵トルクの算出への寄与率を変動させることで、レーンの中央付近をレーンに平行な向きに進むように車両1の位置や向きを制御することができる。言い換えれば、ドライバーに対してステアリング操作を強いることなく、レーンの中央付近をレーンに平行な向きに進むように車両1を走行させることができる。
更に、車速Vが異常な場合には、変動が大きい後輪7及び8の横力Frの収束操舵トルクの算出への寄与率を下げる又は0にする(言い換えれば、変動が小さい後輪7及び8の横力Frの微分値dFrに基づいて収束操舵トルクを算出する)ことにより、車速Vの異常による影響を極力排除しながら、収束操舵トルクを好適に算出することができる。
尚、上述した実施形態は、操舵トルクMT及び目標操舵トルクTに基づいて前輪5及び6の操舵を行っている。しかしながら、操舵角θに基づいて前輪5及び6の転舵をアクチュエータにより行う、いわゆるアクティブステアの場合であっても、ステアリングがオーバーシュート状態にある場合に、上記動作と同様の態様で転舵を行うことにより、上述した各種利益を享受することができる。
また、上述の実施形態では、車両1の位置及び方向は、道路上のレーンを基準として検出されている。しかしながら、車両1の位置及び方向を検出することができれば、レーン以外の各種対象物を基準として用いてもよい。
或いは、自車位置検出回路35は、カメラに加えて又は代えて、GPS受信回路、方角検出回路及び地図データ格納回路を備えていてもよい。この場合、GPS受信回路によって受信されるGPS電波により判明する車両1の緯度・経度、方角検出回路により検出される車両の方角、及び地図データ格納回路に格納されている地図データ中のレーンデータに基づいて、車両1の位置及び方向を算出するように構成してもよい。
(3) 変形例
続いて、図18及び図19を参照しながら、本実施形態の電動式パワーステアリング装置10の変形例について説明を進める。
(3−1)第1変形例
図18は、本発明の車両転舵制御装置に係る実施形態の第1変形例の基本的な構成を概念的に示す概略構成図である。図18に示すように、第1変形例においては、前輪5及び6を転舵する電動式パワーステアリング装置10に加えて、後輪7及び8を転舵する電動式パワーステアリング装置50を更に備えている。
電動式パワーステアリング装置50は、例えばラックアンドピニオン式の電動式パワーステアリング装置であり、後輪7及び8を転舵するための補助操舵力を発生させると共に不図示の減速ギアを介してステアリングシャフト52に補助操舵力を与える電動モータ55と、ラックピニオン機構56とを備えている。このような電動式パワーステアリング装置50においては、ECU30により、後輪7及び8を転舵する電動モータ55の目標操舵トルクTrが電動モータ55に出力される。これにより、目標操舵トルクTに応じた電流が電動モータ15に供給されることで、電動モータ55は、後輪7及び8を転舵させる操舵力を発生させる。
このような構成を有する第1変形例においては、ドライバーによるステアリングホイール11の操舵方向と、電動モータ15により付与される操舵力が前輪5及び6を転舵する方向とが逆であると判定された場合に、後輪7及び8が転舵される。このとき、前輪5及び6を転舵する電動モータ15には、上述の基本操舵トルクが目標トルクTとして、ECU30から出力される。
後輪7及び8が転舵されることで、車両1側のヨーモーメントを変化させることができる。即ち、図1から図14を参照して説明した実施形態においては、収束操舵トルクTを電動モータ15の目標操舵トルクTとして設定することにより、ステアリングのヨーモーメントを変化させているが、第1変形例においては車両1側のヨーモーメントを変化させている。このように車両1側のヨーモーメントを変化させても、上述したように、ステアリングの振動と車両のヨー振動とが互いに連成する(具体的には、逆相で共振してしまう)ことを防止することができる。その結果、前輪5及び6の振動を収束させることができる。つまり、ステアリングの収束性を向上させつつ、車両1の収束性をも向上させることができる。
加えて、操舵トルクMTに応じた基本操舵トルクを目標操舵トルクTに設定することにより前輪5及び6が転舵されるため、ドライバーの操舵感を悪化させないという利点を有する。
(3−2)第2変形例
図19は、本発明の車両転舵制御装置に係る実施形態の第2変形例の基本的な構成を概念的に示す概略構成図である。図19に示すように、第2変形例においては、前輪5を転舵するアクティブステアアクチュエータ61及び前輪6を転舵するアクティブアクチュエータ62を備えている。アクティブステアアクチュエータ61及び62は、ECU30より出力される前輪5の目標転舵角δL及び前輪6の目標転舵角δRに基づいて、前輪5の転舵角がδLとなるように且つ前輪6の転舵角がδRとなるように、前輪5及び6を転舵する。
第2変形例においては、上述の如くステアリングがオーバーシュート状態にあると判定された場合には、前輪5及び6がトーインとなるように、目標転舵角δL及びδRが設定される。
このように、前輪5及び6をトーインにすることで、前輪5及び6のコーナリングパワーCpを変化させることができ、その結果、前輪5及び6の固有振動値を変化させることができる。これにより、ステアリングの振動と車両のヨー振動とが互いに連成する(具体的には、逆相で共振してしまう)ことを防止することができる。その結果、前輪5及び6の振動を収束させることができる。つまり、ステアリングの収束性を向上させつつ、車両1の収束性をも向上させることができる。
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両転舵制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。