以下、本発明の加湿部材および加湿器の実施の形態の例について説明する。
図1は、本発明の加湿部材および加湿器の実施の形態の一例を示す、(a)は同じ気孔率の多孔質体を重ね合わせた加湿部材を用いた加湿器の斜視図であり、(b)は異なる気孔率の多孔質体を重ね合わせた加湿部材の斜視図である。なお、図1および図1以降に示す図において、加湿部材1の左右に配置した複数の矢印は、加湿部材1に対する気体の送風方向を示すものである。
図1(a)に示す加湿器10は、複数個の多孔質体2を気体の送風方向に重ね合わせて、気体の送風方向に複数の貫通孔9を設けてある加湿部材1と、加湿部材1に液体を供給するための液体供給部4と、加湿部材1に気体を送る送風手段5と、加湿部材1に吸収保持されずに加湿部材1の下面より滴下する液体を回収して循環させるための液受け6とを備えている。
また、液体供給部4には給水ポンプ(図示せず)が接続され、液体供給部4に設けられた給水孔(図示せず)より水等の液体が滴下または噴霧されて加湿部材1へと供給される。そして、供給された液体のうち、加湿部材1によって吸収保持されなかった液体は、加湿部材1の下面より滴下して液受け6により回収され、回収された液体は、必要に応じて液受け6と液体供給部4とを結ぶ配管(図示せず)および給水ポンプを通って液体供給部4へと循環されている。
また、送風手段5は、必要とされる風量や風速に応じてプロペラ式のファン,シロッコファンまたはターボブロワ等を適宜選択して使用できる。例えば、加湿器10をできるだけ小型化したいときはプロペラ式のファンを用いればよく、大きな部屋を加湿する用途に使用する加湿器10としたいときは、風量の大きなシロッコファンやターボブロワを用いればよい。
この加湿器10を用いれば、送風手段5から送られてくる気体と、液体供給部4より供給された液体を吸収保持した加湿部材1とを接触させることにより、加湿された気体が放出される。このとき、加湿部材1は、図1(a)に示すように、複数個の多孔質体2を気体の送風方向に重ね合わせて、気体の送風方向に複数の貫通孔9を設けてあることが重要である。この加湿部材1によれば、このように複数個の多孔質体2を気体の送風方向に重ね合わせてあることにより、重ね合わせてある面同士の間に存在する微小な隙間が加湿部材1の内部へ液体を供給する流通路となることから、液体供給部4から供給された液体を加湿部材1の全体へと速やかに供給して吸収保持させることができる。そのため、気体を加湿することによって失われた加湿部材1の内部の水分も速やかに補うことができるようになり、加湿効率を向上させることができる。
また、この加湿部材1によれば、気体の送風方向に複数の貫通孔9が設けられていることから、液体を吸収保持した多孔質体2と送風された気体との接触面積が増大し、送風手段5によって送られて加湿部材1を通過する気体にかかる圧力損失が小さくなり、送風された気体の風力によって貫通孔9を伝わらせることによっても液体の供給ができるので、加湿部材1の全体に速やかに液体を供給することができ、加湿効率を向上させることができる。
このように本発明の加湿部材1においては、加湿効率を向上させるために複数個の多孔質体2を気体の送風方向に重ね合わせて、気体の送風方向に複数の貫通孔9を設けてあることが重要であるが、この貫通孔9の大きさとしては、気体の送風方向に重ね合わせる面の表面積における貫通孔9の全開口面積の占有率が10〜70%の範囲であることが好ましい。気体の送風方向に重ね合わせる面の表面積における貫通孔9の全開口面積の占有率が10〜70%であると、多孔質体2の強度を大きく低下させることなく気体と液体を吸収保持した多孔質体2との接触面積を増大させて加湿効率を向上させることができる。
また、個々の貫通孔9の大きさとしては、例えば、気体の送風方向に重ね合わせる面において、縦を高さとし、横を幅としたとき、多孔質体2の高さが100mm,幅が100mmであれば、一辺が5mmの正方形の貫通孔9を5mm間隔で縦横ともに10個ずつ計100個設け、気体の送風方向に重ね合わせる面の表面積における貫通孔9の全開口面積の占有率を25%とすればよい。なお、貫通孔9と多孔質体2の外辺との間隔は、外辺のそれぞれに対して均等とするのであれば2.5mmとなるが、多孔質体2への液体の速やかな供給と多孔質体2が吸収保持できずに起こる下面からの滴下とを抑制するために、外辺との間隔を上部で1mmとし、下部で4mmとしたものであっても構わない。
これに対し、気体の送風方向に重ね合わせる面の表面積における貫通孔9の全開口面積の占有率が10%未満であると、気体と液体を吸収保持した多孔質体2との接触面積が小さく、気体が加湿部材1を通過する際の圧力損失が増大することから、加湿効率の向上に寄与することが少なくなるため好ましくない。他方、70%を超えると、多孔質体2の強度が大きく低下したり、多孔質体2の製造工程における歩留まりが低下したりして、多孔質体2ひいては加湿部材1の製造コストの上昇を招いたりするため好ましくない。
このように、本発明の加湿部材1によれば、複数個の多孔質体2を気体の送風方向に重ね合わせて、気体の送風方向に複数の貫通孔9を設けてあることによって加湿効率を向上させることができる。
また、図1(a)に示す例においては、同じ気孔率の多孔質体2を複数個重ね合わせて加湿部材1を構成しているが、本発明の加湿部材1は、図1(b)に示す例のように、気孔率の異なる少なくとも2種類の多孔質体2,3で構成することが好ましい。このような加湿部材1によれば、例えば気孔率の高い多孔質3と、相対的に気孔率の低い多孔質体2との少なくとも2種類を用いることにより、気孔率の高い多孔質体3が主に供給された液体を加湿部材1の全体に速やかに供給する役割を担い、相対的に気孔率の低い多孔質体2が主に吸収保持した液体を送風された気体との接触により蒸発させて加湿する役割を担うことから、加湿効率をさらに向上させることができる。このようにして加湿部材1を構成する気孔率の異なる多孔質体2,3は、この例に示すような2種類に限らず、加湿部材1に必要とされる性能に合わせて3種類以上として気体の送風方向に重ね合わせて構成してもよい。なお、製造コスト等を考慮すると、2〜3種類の多孔質体を用いることが好ましい。
このように、本発明の加湿部材1においては、加湿効率をさらに向上させるために少なくとも2種類の気孔率の異なる多孔質体2,3を用いることが好適であるが、相対的に気孔率の低い多孔質体2の主な役割は吸収保持した液体を送風された気体との接触により蒸発させて加湿することであり、そのためには多孔質体2の気孔率は30〜60%とすることが好ましい。多孔質体2の気孔率が30〜60%であると、多孔質体2に供給された液体が十分に吸収保持されて多孔質体2を通過する気体と良好に接触させることができるので、加湿部材1の加湿効率を向上させることができる。
これに対し、多孔質体2の気孔率が30%未満であれば、気体に接触させて蒸発させるために多孔質体2に供給された液体を吸収保持できる量が少なくなるため、加湿部材1の加湿効率が低下することとなる。一方、多孔質体2の気孔率が60%を超えると、液体の吸収保持が十分にできなくなるため、多孔質体2に供給された液体が多孔質体2を通過して加湿部材1の下面より滴下する割合が大きくなり、加湿部材1の加湿効率が低下することとなる。なお、多孔質体2,3の気孔率は、JIS R 1655−2003に記載された水銀圧入法に準拠して測定すればよい。
また、気孔率の高い多孔質体3の主な役割は、多孔質体3自体が送風された気体を加湿するとともに、送風された気体を加湿するのが主な役割である相対的に気孔率の低い多孔質体2へ速やかに液体を供給することである。そのためには多孔質体2よりも液体が移動しやすくて多孔質体2へ供給しやすいことが必要であり、多孔質体3の気孔率は多孔質体2よりも高い範囲の40〜70%であることが好ましい。多孔質体3の気孔率がこの範囲内であれば、液体供給部4から滴下または噴霧されて供給された液体は速やかに多孔質体3の内部に浸透し、隣接する多孔質体2については、上面および隣接する他の多孔質体3との重ね合わせ面同士の間に存在する微小な隙間から直接液体が供給されると同時に、気孔率の高い多孔質体3から相対的に気孔率の低い多孔質体2へ重ね合わせ面を介して液体を供給することができるので、加湿部材1の加湿効率を向上させることができる。
なお、多孔質体3の気孔率が40%未満であれば、供給された液体が十分な速やかさで多孔質体3の全体に浸透せず、その結果、多孔質体2への液体の供給が効率よく行なわれないため、加湿部材1の加湿効率が低下する。また、多孔質体3の気孔率が70%を超えると、液体の良好な保持・拡散が難しくなって、多孔質体3に浸透した液体が多孔質体3を通過して加湿部材1の下面より滴下する割合が大きくなり、多孔質体2への液体の供給が効率よく行なわれないため、加湿部材1の加湿効率が低下する。また、多孔質体3の強度も著しく低下する。
また、以上のように気孔率の高い多孔質体3と相対的に気孔率の低い多孔質体2とは、気孔率の範囲が上記の範囲であるとともに、気孔率の差が5%以上であることが好ましい。気孔率の差が5%以上であると、気孔率が高く液体の浸透が速やかな多孔質体3により、相対的に気孔率が低く液体の浸透速度が遅い多孔質体2の全体への液体の浸透を補助する効果をもたらすことができる。
なお、多孔質体2,3の気孔の大きさについては、平均細孔径が0.5〜50μmであることが好ましい。平均細孔径がこの範囲であれば、多孔質体2,3の各部への液体の浸透が速やかに行なわれると同時に、液体が多孔質体2,3に吸収保持されずに加湿部材1の下面より滴下するのを効果的に防ぐことができるからである。なお、気孔率および平均細孔径は、JIS R 1655−2003に準拠して水銀圧入法により測定すればよい。
図2は、本発明の加湿部材の実施の形態の他の例を示す、(a)は気体の送風方向に沿って縦方向に切断した断面の形状が四角形状で気孔率の異なる2種類の多孔質体を気体の送風方向に重ね合わせて、気体の送風方向に複数の貫通孔が設けてある加湿部材の斜視図であり、(b)は気体の送風方向に沿って縦方向に切断した断面の形状が三角形状で気孔率の異なる2種類の多孔質体を気体の送風方向に重ね合わせて、気体の送風方向に複数の貫通孔が設けてある加湿部材の斜視図である。
この図2(a)に示すように、気体の送風方向に沿って縦方向に切断した断面の形状が四角形状で、気孔率の高い多孔質体3と相対的に気孔率の低い多孔質体2とを交互に重ね合わせることによって、液体供給部4から滴下または噴霧された液体が、上面および隣接する他の多孔質体との重ね合わせ面の間に存在する微小な隙間からの供給と、送風された気体の風力による貫通孔9を伝っての供給と、さらに、気孔率が高く液体の浸透が速やかな多孔質体3から相対的に気孔率が低く液体の浸透速度が遅い多孔質体2への重ね合わせ面を介しての供給とにより加湿効率を向上させることができる。
また、気孔率の高い多孔質体3を気体の送風方向の手前側に配置しているので、多孔質体3を相対的に気孔率の低い多孔質体2で挟持した図1(b)に示す例と比較して、送風された気体の風力による貫通孔9を伝っての供給と重ね合わせ面を介しての供給とにより、相対的に気孔率が低く液体の浸透速度が遅い多孔質体2へ速やかな供給を行なえるという利点がある。
また、図2(b)に示すように、気体の送風方向に沿って縦方向に切断した断面の形状が三角形状で、気孔率の高い多孔質体3と相対的に気孔率の低い多孔質体2とを組み合わせたものを重ね合わせて加湿部材1を構成してもよい。このように、気孔率の高い多孔質体3が液体供給部4から滴下または噴霧されて液体を受ける加湿部材1の上面に配置されていることによって液体の浸透が速まり、相対的に気孔率の低い多孔質体2が液受け6に対向する加湿部材1の下面に配置されていることによって、上面および隣接する気孔率の高い多孔質体3との重ね合わせ面の間に存在する微小な隙間からの供給された液体を吸収保持し、加湿部材1に吸収保持されずに加湿部材1の下面より滴下する液体が減少するので加湿効率を向上させることができる。
図3は、本発明の加湿部材を構成する多孔質体の実施の形態の一例を示す、ハニカム形状である多孔質体を気体の送風方向から見た正面図であり、(a)は貫通孔が六角形状の多孔質体,(b)は貫通孔が四角形状の多孔質体,(c)は貫通孔が八角形状と四角形状とを組み合わせた多孔質体を気体の送風方向から見た正面図である。
ハニカム形状の本来の形状は、図3(a)に示すように貫通孔9が正六角形であり、それぞれの間隔がほぼ一定となるように並べた形状を指すものであるが、一般的には、図3(b)に示すように貫通孔9が正方形などの四角形状であるものや、図3(c)に示すように貫通孔9が八角形状と四角形状との組み合わせであるもの等もハニカム形状と呼ばれている。本発明においては、図3(a)〜(c)に示す例に限らず一般的にハニカム形状と呼ばれている形状の貫通孔9を有する多孔質体2を用い、1以上の種類を適宜組み合わせて加湿部材1としたものであっても構わない。
このように貫通孔9がハニカム形状であることによって、液体を吸収保持した多孔質体2と気体との接触面積がさらに増大して加湿部材1の加湿効率が向上すると同時に、多孔質体2がハニカム形状であることから多孔質体2の強度が向上し、気体の送風方向に多孔質体2を複数個重ね合わせれば耐久性に優れた加湿部材1とすることができる。
そして、本発明の加湿器10に用いる加湿部材1を構成する多孔質体2,3の材質としては、多孔質であれば特に制限は無く、樹脂,セラミックス,金属、あるいは軽石やシラス等を用いてもよいが、加湿部材1としての機械的強度や加熱処理によるクリーニングや殺菌処理の際の耐熱性を考慮すると、セラミックスが好適である。
加湿部材1の多孔質体2,3がセラミックスからなるときには、加湿部材1の機械的強度が向上するとともに耐熱性が向上するため、長期間の使用によって大気中の埃や粉塵,液体に含有される不純物の析出等によって加湿部材1が目詰まりして加湿効率が低下しても、高温での熱処理が可能であることから加湿効率を回復させることができ、加湿部材1の交換サイクルを大幅に延長することが可能になる。また、長期間の使用によって加湿部材1に藻や雑菌等が繁殖し始めたとしても、高温での熱処理によって簡単かつ確実に藻等の除去や殺菌処理を行なうことができ、衛生的な状態で加湿を継続することができる。
図4は、本発明の加湿器の実施の形態の他の例を示す斜視図である。なお、図1と同様の部材には同じ符号を用いて示す。
図4に示す加湿器20は、気孔率の異なる多孔質体2,3を気体の送風方向に重ね合わせて、気体の送風方向に複数の貫通孔9を設けてある加湿部材1と、加湿部材1に液体を供給するための液体供給部4と、加湿部材1に気体を送る送風手段5と、加湿部材1に吸収保持されずに加湿部材1の下面より滴下する液体を回収して循環させるための液受け6と、加湿部材1の両端に取り付けられ加湿部材1を加熱する加熱部7と、加熱部7に加熱用の電力を供給すると同時に加熱温度を調整するための温度コントローラ8とを備えている。
このような構成とすることにより、加湿部材1を加熱部7で加熱することによって液体の蒸発を容易にして、加湿開始までの時間を短縮したり、あるいは加湿量を増加させて加湿効率を向上させたり、運転停止時に加湿部材1に吸収保持された液体を乾燥させることによって、加湿部材1への雑菌等の付着や繁殖を抑制したり、あるいは、加湿部材1を100℃以上の高温にすることで、加湿部材1に付着した雑菌や病原菌,ウイルス等を死滅させ殺菌したりできるので、衛生面にも優れた加湿器20とすることができる。
なお、加熱部7は、必ずしも加湿部材1と接していなければならないことはなく、加湿部材1に近接させて設置してもよいが、セラミックスへの抵抗体印刷技術や積層技術を応用して加熱用のヒーターを内蔵した多孔質体2を作製し、多孔質体3を挟んで気体の送風方向に重ね合わせて加湿部材1としてもよい。こうすれば、加熱部7の設置スペースを別途設ける必要が無く、加湿器20の小型化が可能となる。
また、加湿部材1が多孔質体2,3を気体の送風方向に重ね合わせてあることから、それぞれの多孔質体2,3の間に貫通孔9と同様の貫通孔を有する板状のヒーターからなる加熱部7を挟持させた構造としてもよい。このような構造とすれば、図4に示す例のように加湿部材1の両端(両側)に加熱部7を配置したときと比較して、加湿部材1の全体をすばやく加熱することが可能となるため、加湿部材1の加熱による乾燥や殺菌に要する時間を短縮できる効果がある。
このようなセラミックスからなる加湿部材1を構成する多孔質体2,3の製造方法としては、成形原料を粉末加圧成形法,押出成形法または射出成形法等の成形方法で所望の形状に成形し、必要に応じて機械加工を施した後、焼成炉にて所定の温度パターンで熱処理してバインダを焼失させるとともにセラミックス粒子同士を焼結させ、さらに必要に応じて機械加工を施すことにより、セラミックスからなる多孔質体2,3を得ることができる。
ここで、押出成形法を用いた多孔質体2,3の製造方法について詳述する。
まず、所定の粒径を有するセラミック粉体とバインダと水とを混合攪拌ミキサーで混合し、混練機等で混練して、粘土状の成形原料とし、スクリューと、スクリューを覆って一部に成形原料の投入口を開口したバレル部と、バレル部の出口側に接続され所望の形状を得るための開口部を有した金型とを備えたスクリュー式の押出成形機を用いて成形を行なう。
このとき、セラミック粉体としては、アルミナ,ジルコニア,窒化硅素,炭化硅素,窒化アルミニウム,フェライト等がその使用目的に応じて適宜選択され、必要に応じて酸化硅素,酸化カルシウム,酸化マグネシウム,酸化ニッケル,酸化亜鉛,酸化銅等の焼結助剤を添加してもよい。また、バインダとしては、押し出し成形時の成形原料の流動性,成形体の保形性や強度,脱バインダ性を総合的に考慮すると、水溶性のセルロースエーテルを使用するのが好ましい。その添加量は、セラミック粉体100質量部に対して水溶性のセルロースエーテルを0.5〜25質量部の割合で添加すればよい。水溶性のセルロースエーテルの添加量を0.5〜25質量部とすることにより、成形原料の流動性が良好で詰まることがなく、ハンドリングに耐え得る強度を持った成形体を得ることができる。
これに対し、このバインダの添加量が0.5質量部未満では、押し出し成形時の成形原料の流動性が悪化して、成形原料が詰まったり、得られた成形体の強度が不足したりして、ハンドリングが困難となるため好ましくない。また、バインダの添加量が25質量部を超えると、焼成時にバインダを焼失させる時間が長時間必要となるため生産効率が悪く、さらにバインダが焼失するときの収縮率が大きくなり、成形体の変形や破損が生じやすくなるため、好ましくない。
また、バインダを溶解して軟化させ、押し出し成形時の成形原料に適度な流動性を持たせるために添加する溶媒としては、バインダであるセルロースエーテルに対する溶解性に優れ、かつ安全性に優れた水を用いるのが好ましい。水の添加量は、押し出し成形時の成形原料の流動性や押し出し成形後の成形体強度を考慮して調整すればよいが、その添加量はセラミック粉体100質量部に対して5〜30質量部の割合で添加すればよい。
このようにして得られた成形原料をバレル部に開口している投入口より投入する。投入された成形原料は、スクリューの回転により、スクリューとバレル部の内壁間との隙間を通ってバレル部の出口側に接続された金型の方向へと押し出され、この金型を通過することにより、成形体が得られる。
次に、この成形体を乾燥させる。急激な乾燥は成形体を変形させるため、自然乾燥でもよいが、一定時間の自然乾燥と、灯油ボイラ等で気温80℃前後に設定された乾燥室で残留する水分を除く乾燥とを組み合わせて実施する方が好ましい。また、高周波やマイクロ波を用いて、成形体の内部を加熱して乾燥させる方法も、成形体の変形を防止し、かつ短時間で乾燥させることができるという点で有効な手段である。
そして、成形体の乾燥後、焼成を行なう。焼成の温度パターンは使用するセラミック粉体の種類や粒径によって異なるが、例えば平均粒径40μmのアルミナを使用する場合であれば、まず室温から300〜500℃の温度までを2〜6時間かけて昇温し、その後1〜4時間の保持時間を設けることによって、成形体に含まれるバインダを焼失させる。その後、1000〜1600℃の最高温度まで2〜6時間かけて昇温し、1〜4時間の保持時間を設けた後、室温まで徐々に冷却すればよい。なお、多孔質体2と比較して相対的に気孔率の高い多孔質体3については、セラミック粉体の粒径の大きさを、例えば平均粒径120μmと変えて上記と同様の方法によって作製することができる。
また、多孔質体2,3の大きさに関しては特に制限が無く、例えば大きなサイズの加湿部材1が必要な場合には、多孔質体2,3の大きさを大きくしてもよいが、小さなサイズの多孔質体2,3の複数個を気体の送風方向に重ね合わせたものをさらに気体の送風方向に垂直な面に沿って複数並べることにより所望のサイズの加湿部材1として使用してもよい。
さらに、多孔質体2,3は、それぞれの間に微小な隙間を生じるように重ね合わせてあることが好ましい。そのため、例えば部分的に接着剤を塗布して、重ね合わせる面の間に微小な隙間を生じるように接着する、硬化後に多孔質となるような接着剤を用いる、クランプを用いて固定する、所定の寸法に作製された枠体に複数個の多孔質体2,3を重ね合わせた状態で挿入する等の方法の中より適宜選択して、多孔質体2,3を固定して加湿部材1とすればよい。こうすることにより、多孔質体2,3の重ね合わせる面の間の微小な隙間が供給された液体の流通路となって、加湿部材1の全体により速やかに液体を供給することが可能となる。
また、多孔質体2,3の重ね合わせる面に薄刃のダイヤモンド砥石を使用したスライシングマシン等で機械加工することによって、微小な溝を上下方向,左右方向および斜め方向の少なくともいずれか一方向に形成することが好ましい。これにより、さらに加湿部材1の全体に速やかに液体を供給することが可能となる。
また、加湿部材1への雑菌や病原菌,ウイルス等の繁殖を抑制する目的で、多孔質体2,3は抗菌作用を有する材料で作製してもよく、あるいは、多孔質体2,3に抗菌作用を有する物質を含浸させたり、表面をコーティングしたりしてもよい。抗菌作用を有する物質としては、銀,銅,亜鉛,ニッケル,酸化チタン,リン酸チタニウム等があり、適宜選択して使用することができる。
そして、このような本発明の加湿部材1を用いた本発明の加湿器10は、加湿効率が高いため従来よりもコンパクトで、ランニングコストが低く、かつ衛生面に優れた加湿器10とすることができる。
また、本発明の加湿部材1を加熱する加熱部7を有する本発明の加湿器20は、加熱部7によって加湿部材1を加熱することにより、液体の蒸発を容易にして加湿開始までの時間を短縮したり加湿量を増加させて加湿効率を向上させたりすることができる。また、運転停止時に加湿部材1の吸収保持された液体を乾燥させることによって、加湿部材1への雑菌の付着や繁殖を抑制したり、あるいは、加湿部材1を100℃以上の高温にすることで、加湿部材1に付着した雑菌や病原菌,ウイルス等を死滅させ殺菌したりすることが可能となり、一般家庭や工場等の湿度調整用としてはもとより、衛生面が重視される病院や老人福祉施設,幼稚園,保育園等においても好適に使用することができる。
また、本発明の加湿器10および加湿器20は、必ずしも内部に送風手段5を備えなくてもよく、別途送風する手段を有する既存の送風装置やエアコン,空気清浄機等と組み合わせて使用することもできる。
以下に本発明の実施例を示す。
本発明の加湿部材1の実施例としての試料No.1の作製を行なった。なお、この実施例において多孔質体2,3の気孔率および平均細孔径は、JIS R 1655−2003に準拠して水銀圧入法により測定を行なった。
まず、気体の送風方向に対して縦に垂直な方向を高さとし、気体の送風方向に対して横に垂直な方向を幅とし、気体の送風方向を奥行きとしたとき、高さが40mm,幅が40mm,奥行きが10mmであり、気体の送風方向から見て断面形状が一辺が5mmの正方形である貫通孔9を4mmの間隔で縦横4個ずつ計16個有するポリエチレン樹脂からなる気孔率55%の平板状の多孔質体2を3個、気体の送風方向に重ね合わせることによって、気体の送風方向に重ね合わせる面の表面積における貫通孔9の全開口面積の占有率が25%,高さが40mm,幅が40mm,奥行きが30mmの試料No.1の加湿部材1を得た。
次に、本発明の加湿部材1の実施例としての試料No.2の作製にあたり、多孔質体2の原料として平均粒径が40μmの高純度アルミナを、バインダとしてセルロースエーテルを、溶媒として水を用意した。そして、高純度アルミナ100質量部と、高純度アルミナ100質量部に対して15質量部のセルロースエーテルおよび25質量部の水とを市販の混合攪拌ミキサーに入れ混合し、混練機で混練して、成形原料とした。次に、この成形原料を試料No.1と同様の多孔質体2を得ることのできる出口部形状を有する金型を備えたスクリュー式の押出成形機を用いて押し出し成形し、直方体形状の成形体を得た。
次に、この成形体を乾燥させた。乾燥においては、急激な乾燥を避けるため、一定時間自然乾燥した後、灯油ボイラ等で気温80℃前後に設定された乾燥室での乾燥を組み合わせて行なった。成形体の乾燥後、焼成炉内にて酸化雰囲気のもとで室温から400℃まで4時間かけて昇温し、400℃にて2時間保持することによってバインダを焼失させた。その後、1400℃まで4時間かけて昇温し、2時間の保持時間を設けた後に室温まで8時間かけて徐々に冷却することによって、直方体形状のセラミックス製の多孔質体2を得た。こうして得られたセラミックス製の多孔質体2の平均細孔径および気孔率は、平均細孔径が1.5μmで気孔率が42.5%であった。
上記の方法にて作製され、気体の送風方向から見て断面形状が一辺が5mmの正方形である貫通孔9を4mmの間隔で縦横4個ずつ計16個有し、高さが40mm,幅が40mm,奥行きが10mmのセラミックス製の多孔質体2を3個、気体の送風方向に重ね合わせることによって、高さが40mm,幅が40mm,奥行きが30mmの試料No.2の加湿部材1を得た。
次に、本発明の加湿部材1の実施例としての試料No.3の作製にあたり、上記と同様の方法で気体の送風方向に複数の貫通孔9を有する多孔質体2を2個作製し、さらに多孔質体3の原料として、平均粒径が120μmの高純度アルミナを用意し、上記と同様の方法にて気体の送風方向に複数の貫通孔9を有するセラミックス製の多孔質体3を1個得た。こうして得られたセラミックス製の多孔質体3の平均細孔径および気孔率は、平均細孔径が4.5μmで気孔率が52.5%であった。そして、これらのセラミックス製の多孔質体2,3を用いて、多孔質体2で多孔質体3を挟むように交互に気体の送風方向に重ね合わせることにより、高さが40mm,幅が40mm,奥行きが30mmの試料No.3の加湿部材1を得た。
次に、本発明の加湿部材1の実施例としての試料No.4の作製にあたり、押し出し成形時の金型の形状以外は、試料No.3と同様の方法を用いて作製した。押し出し成型時の金型としては、図3(a)に示す貫通孔9が六角形のハニカム形状となる出口形状を有する金型を用いた。そして、貫通孔9が六角形のハニカム形状の多孔質体2,3を用いて、多孔質体2で多孔質体3を挟むように交互に気体の送風方向に重ね合わせることにより、気体の送風方向に重ね合わせる面の表面積における貫通孔9の全開口面積の占有率が65%,高さが40mm,幅が40mm,奥行きが30mmの試料No.4の加湿部材1を得た。なお、試料No.1〜4における多孔質体2,3の固定はクランプを用いて行なった。
また、比較例1の加湿部材として、気体の送風方向から見て断面形状が一辺が5mmの正方形である貫通孔を4mmの間隔で縦横4個ずつ計16個有し、高さが40mm,幅が40mm,奥行きが30mmで気孔率55%のポリエチレン樹脂からなる加湿部材を作製した。さらに、比較例2として、試料No.2のセラミックスの多孔質体2と同様の作製方法を用いて、縦が40mm,横が40mm,奥行きが30mmであり、気体の送風方向から見て断面形状が一辺が5mmの正方形である貫通孔を4mmの間隔で縦横4個ずつ計16個有する比較例2の加湿部材を作製した。なお、平均細孔径および気孔率は、上記と同様に、平均細孔径が1.5μmで気孔率が42.5%であった。
次に、これらの本発明の試料No.1〜4および比較例1,2の加湿部材を用いて、加湿部材の上面中央部より加湿用の水を供給したときの、水の浸透度合いを比較した。条件としては、加湿用の水の供給流量を10cm3/秒とし、そのときの加湿部材各部への水の浸透度合いを、気体の送風方向に垂直な一面を観察面とし、水が浸透する前後における多孔質体の色調の変化を目視にて観察し、観察面全体の色調が変化するまでの所要時間を計測する方法によって確認した。なお、加湿部材の上面から観察面に水が垂れて来ないよう、加湿部材の上面と観察面の境界付近とに樹脂からなる堰板を設置してから観察を実施した。
その結果、比較例1のポリエチレン樹脂の多孔質体からなる加湿部材および比較例2のセラミックスの多孔質体からなる加湿部材は、加湿部材の上面の中央部より滴下された水の一部は加湿部材の上面より多孔質体に吸収されるが、加湿部材の上面で吸収されなかった残部の水は、加湿部材の上面からあふれて側面に流出し、そのまま側面を伝って加湿部材の下面より水が滴下する現象が見られた。そのため、観察面全体、特に観察面の中央部に水が浸透するまでに時間を要し、比較例1における所要時間は約7秒,比較例2における所要時間は約9秒であった。
これに対し、本発明の実施例の試料No.1,2の加湿部材1では、加湿部材1の上面の中央部に滴下された水の一部は直接加湿部材1の上面より多孔質体2に吸収され、残部はそれぞれの多孔質体2の重ね合わせた面の間に生じた微小な隙間および気体の送風方向に設けられた複数の貫通孔9を通って加湿部材1の下方向および左右方向へ速やかに浸透し、実施例の試料No.1においては所要時間が約4秒にて、試料No.2においては所要時間が約5秒にて観察面全体に水が浸透することが確認された。また、このような構成の加湿部材1であれば、気体を加湿して失われた加湿部材1の内部の水分を補うための液体を加湿部材1の各部に速やかに供給することができるので、加湿効率を向上できることが確認された。
また、本発明の実施例の試料No.3の加湿部材1は、加湿部材1の上面の中央部に滴下された水の一部は直接加湿部材1の上面より多孔質体2,3に吸収され、残部はそれぞれの多孔質体2,3の重ね合わせた面の間に生じた微小な隙間および気体の送風方向に設けられた複数の貫通孔9を通って、加湿部材1の下方向および左右方向へ速やかに浸透し、さらには、気孔率の高い多孔質体3から隣接する相対的に気孔率の低い多孔質体2へと水が供給されることにより、約3秒の所要時間にて観察面全体に水が浸透することが確認された。
また、本発明の実施例の試料No.4の加湿部材1は、貫通孔9が六角形のハニカム形状の多孔質体2,3を用いて、多孔質体2で多孔質体3を挟むように交互に気体の送風方向に重ね合わせて、気体の送風方向に重ね合わせる面の表面積における貫通孔9の全開口面積の占有率が65%であることから、約2秒の所要時間にて観察面全体に水が浸透することが確認された。
このように、本発明の実施例1〜4が、比較例1,2よりも加湿部材1の観察面全体に水が浸透する所要時間が短縮できたことから、複数個の多孔質体2,3を気体の送風方向に重ね合わせて、気体の送風方向に複数の貫通孔9が設けてあることにより、多孔質体2または多孔質体2,3の重ね合わせた面の間に生じた微小な隙間および気体の送風方向に設けられた複数の貫通孔9を通って、加湿部材1の下方向および左右方向へ速やかに浸透していることが確認された。
さらに、本発明の実施例の試料No.3,4によれば、試料No.1,2よりも加湿部材1の観察面全体に水が浸透する所要時間を短縮できたことから、気孔率の高い多孔質体3から隣接する相対的に気孔率の低い多孔質体2へと水が供給されることにより加湿部材1の奥行全体に対して速やかに液体を供給する作用を有していることが観察より明らかとなった。
また、本発明の実施例の試料No.2〜4の加湿部材1は、セラミックスからなることから、酸化雰囲気の焼成炉内で800℃の高温まで加熱しても、変質や変形,破損を生じなかった。このことから、セラミックスからなる本発明の加湿部材1は、大気中の埃や粉塵,液体に含有される不純物の析出によって目詰まりして加湿効率が低下しても、高温での熱処理が可能であるため、熱処理によって加湿効率を回復できることが確認された。
また、これら試料No.1〜4の加湿部材1を用いた本発明の加湿器10は、加湿効率が高いため従来よりもコンパクトで、ランニングコストが低く、かつ衛生面に優れた加湿器10とすることができることが確認された。
さらに、試料No.2〜4の加湿部材1に加熱部7を取り付けた本発明の加湿器20は、加熱部7によって加湿部材1を加熱することができ、液体の蒸発を容易にして加湿開始までの時間短縮や加湿量の増加から加湿効率を高められるとともに、加湿部材1に雑菌が繁殖した場合にも、ヒーター等の加熱部7により殺菌をすることが可能であることから、衛生面に優れた加湿器20となることが確認された。