以下、本発明の車両用経路算出装置および車両用経路算出方法に係る最良の実施形態について、図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態である車両用経路算出装置100が、自車両200に設置された配置例を示す平面模式図、図2は、図1に示した車両用経路算出装置100の構成を機能ブロックとして表現したブロック線図である。
図1に示すように、自車両200の走行路上における自車両200の位置および速度(自車両200の状態)を検出する自車状態検出手段としての2台のカメラ11,11(自車状態検出手段の一部、物体検出手段)が、自車両200の室内前部に、前方Frに向けて取り付けられ、自車両200の前方Frの障害物等(物体)を検出する。
2台のカメラ11,11を互いに離して配設したことにより、2台のカメラ11,11で撮影された画像に対して三角測量の原理を適用することで、前方Frの障害物の方向および距離を検出(算出)することができる。
ロータリーエンコーダ12(自車状態検出手段の一部)は、自車両200の従動輪のホイール回転に伴って発生するパルス信号に基づいて、各従動輪の回転数を検出する。この検出された回転数は、自車両200の進行方向についての速度を算出する際の演算に用いられる。
マイクロプロセッサ13は、A/D変換回路、D/A変換回路、中央演算処理装置およびメモリ等から構成される集積回路であり、メモリに格納された所定のプログラムにしたがって、各種センサによって検出された信号の処理と、前方Frの障害物に接触するときの、予測される相対速度の演算を行い、モニタ14に結果を表示する。なお、モニタ14としては、液晶表示の公知デバイスを適用することができる。
操舵システム15および制動システム16は、ドライバー(運転者)の操作に応じてそれぞれ駆動され、いずれも公知の構成を適用することができる。
次に、図2に示したブロック線図について説明する。まず、自車両200の従動輪に設置されたロータリーエンコーダ12により検出されたパルス信号に基づいて、各従動輪の回転数が検出される。この検出された各従動輪の回転数に対して所定の演算処理を施すことにより、自車両200の進行方向についての速度(自車速度)が算出される。
自車両200の室内に設置されたカメラ11,11によってそれぞれ撮影されたイメージに対して画像処理を施すことにより、自車両200と前方Frの障害物とをそれぞれ抽出し、これら抽出された自車両200と前方Frの障害物との各イメージに基づいて、両者の相対的な位置関係を表す情報を得ることができる。
マイクロプロセッサ13には、これらロータリーエンコーダ12およびカメラ11等によって得られた情報を処理する機能に加えて、ロータリーエンコーダ12およびカメラ11等によって得られた情報に基づいて、各障害物1,2,3にそれぞれ至る最適な経路を算出する経路算出手段13cとしての機能部と、自車両200が障害物に接触するのを回避することが可能か否かを所定の時間間隔ごとに繰り返し判定する回避判定手段13aとしての機能部と、経路算出手段13cにより算出された複数の経路について各経路ごとに、後述する自車両200の横移動に伴うタイヤ力の縦力低下による減速度の低下を見込みつつ、障害物との接触時(接触することがない場合は、所定時間経過後または所定距離進行後)における相対速度を算出する相対速度算出手段13dとしての機能部と、算出された相対速度が負となる障害物に向かう経路、または相対速度が負となる障害物に向かう経路が算出されなかった場合には相対速度が相対的に最も小さい障害物に向かう経路を選定する経路選定手段13bとしての機能部とが備えられている。
マイクロプロセッサ13の回避判定手段13aは、自車両200および障害物の各運動状態の情報等に基づいて行われるものとする。経路選定手段13bは、予め実験やシミュレーションによって算出された、自車両200の到達位置・初速情報と関係および最小到達速度との関係に基づいて、前方Frの障害物に対する最小の接触速度(相対速度)の予測を行う。そして、予測された最小接触速度は、接触時の入力エネルギのレベルを判定するのに使用される。
表示用のモニタ14には、カメラ11,11により撮影されたイメージ(像)が映し出され、そのイメージの中に、マイクロプロセッサ13により算出された前方Frの障害物との接触に伴う(予測)入力エネルギのレベルを表す情報が、ドライバーが理解しやすい形態で表示される。
ドライバーは、このモニタ14に映し出された情報(入力エネルギのレベルを表す情報)を判断材料として、入力エネルギのレベルが相対的に大きいと予測される障害物との接触を回避するように、すなわち、いずれかの障害物との接触が避けられない場合には、入力エネルギが相対的に低い障害物に接触する経路を選定して、操舵システム15および制動システム16を操作する。
以下、マイクロプロセッサ13による自車両200の進行経路の選定手順について、図3に示したフローチャートに基づいて説明する。なお、進行経路の選定手順の説明を理解し易くするために、図4に示した状況を想定して、各処理の内容を説明する。
図4は、3車線の直線道路のうち右車線を走行する自車両200の前方Frに、障害物1、障害物2、障害物3が存在する状況である。そして、障害物1は右車線、障害物2は中央車線、障害物3は左車線に位置して静止しており、障害物1が自車両200から最も近い距離の位置にあり、障害物3が自車両200から最も遠い距離の位置にある。
本実施形態の車両用経路算出装置100の処理は、自車両200の進路上に障害物を検出した時点から開始される。
まず、ステップ1では、カメラ11と各センサの検出信号を読み込み、その検出信号が表す情報をマイクロプロセッサ13内のメモリ上に格納する。
次いで、ステップ2では、自車両200および検出した障害物に関する情報(位置、速度等)を、統一された座標値に対応付けて、その運動状態の記述をするために、カメラ11により撮像されたイメージに基づいて、座標系の設定を行う。
すなわち、図5に示すように、道路の進行方向に沿ってX軸を設定し、このX軸に直交する方向に沿ってY軸を設定し、XY座標系を設定する。また、自車両200の現在位置をX座標の原点(0,y)、道路の中心をY座標の原点(y,0)として、このXY座標系の原点(0,0)を設定する。
このように設定されたXY座標系において、自車両200の重心点の位置情報を(x,y)、各障害物1,2,3の後端中央位置情報をそれぞれ(xb1,yb1)、(xb2,yb2)、(xb3,yb3)と表す。
前述したように、離間した2台のカメラ11,11によって、自車両200と各障害物1,2,3との間の相対的な位置を検出することができる。また、この段階で、各障害物1,2,3自体のY軸方向に沿った長さ(幅)および移動速度の検出を行い、これらの検出結果をそれぞれLb1,Lb2,Lb3,Vb1,Vb2,Vb3とする。なお、Vb1、Vb2、Vb3は、各障害物1,2,3の前回処理時点での位置情報を用いることにより、算出することができる。
ステップ3では、経路算出手段13cおよび回避判定手段13aが、ステップ2において得られた自車両200および各障害物1,2,3の位置情報および速度情報に基づいて、自車両200から各障害物1,2,3に至る経路を算出するとともに、自車両200が障害物1,2,3を回避することができるか否かの判定を行う。
ここで、図4に示した状況における判定処理の一例を、図6を用いて説明する。
まず、自車両200と各障害物1,2,3の位置情報および速度情報に基づいて、以下の条件式(1),(2)が成立するか否かを判定する。
ここで、式(1),(2)は、検出された各障害物1,2,3が自車両200の走行の妨げになる虞があるか否かを判定する条件式であり、Δwは、自車両200が適切に走行するのに必要なY軸方向に沿った余裕長を、v
0 は、センサによって検出された自車両200の速度を、T
limは、自車両200が障害物1,2,3に接触するまでに要する時間の限界値を、それぞれ表す。
各障害物1,2,3のうちいずれかについて、式(1),(2)の両条件を満たした場合は、その障害物1,2,3は、自車両200の走行の妨げになる虞があると判定される。
このように、走行の妨げの虞有りと判定された場合は、次いで、自車両200が全ての障害物1,2,3を回避することができる経路(無接触で回避できる経路)が存在するか否かを判定する。
まず、自車両200および各障害物1,2,3(の後端中央)のY座標情報に基づいて、以下の条件式(3),(4)のうちいずれか一方でも成立すれば、回避する経路が存在すると判定する。
ここで、L
W は、自車両200のY軸方向に沿った長さ(つまり車幅)を、Δyは、回避を行う上でのY軸方向の余裕長を、それぞれ表す。
条件式(3),(4)が両方とも成立しない場合であっても、以下に示す自車両200および障害物1,2,3のX座標情報に基づく条件式(5),(6)のうちいずれか一方でも成立すれば、回避する経路が存在すると判定する。
ここで、L
L は、自車両200のX軸方向に沿った長さ(つまり車長)を、Δxは、回避を行う上でのX軸方向の余裕長を、それぞれ表す。
以上の式(3)〜(6)は、前方Frに存在する各障害物1,2,3の間に、自車両200の通過を許容する間隙が存在するか否かを判定する条件式である。つまり、ステップ3では、条件式(1),(2)の両方を満たすいずれかの障害物1,2,3が存在し、かつ条件式(3)〜(6)が全て成立しない場合に、無接触での回避は不可能と判定するとともに、各障害物1,2,3に至る経路を算出し、ステップ4の処理に移行する。
また、本実施形態の構成に加えて、道路の境界を検出する道路状態検出手段を備え、この道路状態検出手段によって検出された道路の境界についても、上記障害物1〜3と同様に、自車両200の走行に影響を与えるものとして対象に加えることにより、各障害物1〜3同士の間だけでなく、障害物1〜3と道路の境界との間についての経路も回避経路の候補として判定の対象とすることができる。
ステップ4では、相対速度算出手段13dが、ステップ3で得られた各障害物1,2,3に至る各経路に沿って、自車両200が各障害物1,2,3に到達したと仮定したときの、到達対象障害物1,2,3に対する自車両の速度(相対速度)を算出する。
すなわち、自車両200の到達位置、初速情報と最小到達速度との関係に基づいて、前方Frの障害物1〜3に対する最小接触速度を予測する。この自車両200の到達位置・初速情報と最小到達速度(=最小接触速度)との関係は、車両の運動実験やシミュレーション等によりオフラインで導出され、マイクロプロセッサ3内のメモリに予め格納されている。
ここで、図7に示すように、自車両200の横方向(車幅方向(図4〜6において、Y軸に沿った方向))への移動量(自車横移動距離)が大きいほど、かつ、自車両200と到達位置との縦方向(車長方向(図4〜6において、X軸に沿った方向))への移動量が小さいほど、最小到達速度は大きくなり、さらに、自車両200の初期の速度が大きいほど、最小到達速度は大きくなる傾向を示す。
そして、この関係は、得られた結果をそのままマップとして記録されるだけでなく、この結果に基づいて自車両200の到達位置(xs ,ys )と自車両200の初速v0 との対応関係を示す関数Vmin(xs ,ys ,v0 )を近似的に導出する処理にも用いることができる。
この関係に基づいて、各障害物1〜3における最小接触速度の予測を行い、予め設定された入力エネルギのレベルの判定を、各障害物1〜3ごとに行う。以上の処理により、ステップ4の処理が完了する。
ステップ5では、カメラ11で撮影されたイメージがモニタ4に表示されるとともに、そのイメージに、各障害物1〜3による入力エネルギのレベルが重畳表示される。
すなわち、例えば、ドライバーがその入力エネルギのレベルを直感的に理解できるように、視覚的な効果を利用して、図8に示すように、入力エネルギレベルが大きいときは赤色で、入力エネルギレベルが赤色ほどではないがやや大きいときは橙色で、入力エネルギレベルが橙色ほど大きくないときは黄色で、というように表示色の差異によって、ドライバーの意識を喚起する方法などを適用することができる。
なお、実際のモニタ14には、図8における障害物1を囲む極太破線が赤色で、障害物3を囲む中太破線が橙色で、障害物2を囲む細破線が黄色で、それぞれ表示されるものとする。
以上のステップ5の処理が終了した段階で、本実施形態の車両用経路算出装置100による処理が終了する。
ここで、従来の技術によれば、図4を適用場面とした場合、3つの障害物1,2,3のうち、自車両200の必要制動距離と自車両200〜障害物1,2,3間の距離との差が最も小さい障害物(図4において対応する障害物は障害物3)が、接触の対象となるように経路の選定されるが、これは接触時における各障害物1,2,3との相対速度が障害物3において最も低い、と予測するからである。
しかし、障害物3に接触するためには、大きな横移動(Y軸方向に沿った移動)を伴った車両運動が必要である。そして、このような大きな横移動を伴う車両運動では、タイヤ力が横力として多く消費されてしまうため、自車両200の減速に寄与する縦力として消費される割合が低下し、これにより十分な減速を行うことができず、従来の技術では、接触時の相対速度が計算上最も小さいはずの障害物3に、実際に接触するときの相対速度は、横力による減速度の低下によって、想定したものよりも大きくなる虞があった。
これに対して、上述した実施形態の車両用経路算出装置100によれば、予め導出された自車両200の到達位置・初速情報と最小到達速度との関係に基づいて、接触時の入力エネルギレベルがモニタ14に表示されている。
最小到達速度は、図7に示すように、従来の技術で用いられている自車両200からの距離に加え、自車両200の横移動に伴う制動力の低下も見込んだ上で求められるため、従来であれば障害物3に接触する経路が選定されていたとしても、本実施形態では、障害物2よりも障害物3の方が、接触時の最小到達速度が大きくなって、入力エネルギのレベルが大きい、と判定されることもある。
そして、ドライバーは、モニタ4に表示された情報を判断材料として参照し、入力エネルギのレベルが最も小さい障害物2に接触する経路を通るように、操舵システム15への操舵や制動システム16への制動という各操作を入力し、接触時の入力エネルギのレベルが比較的高いと予測された障害物との接触を回避することができる。
以上、詳細に説明したように、本実施形態の車両用経路算出装置100によれば、自車前方Frの障害物1,2,3を検出する障害物検出手段(カメラ11)と、自車両200の走行路上における自車両200の位置および速度を検出する自車状態検出手段(カメラ11およびロータリーエンコーダ12)と、自車両200の横移動に伴う減速度の低下を見込みつつ、障害物1,2,3との接触時における相対速度を算出し、算出された相対速度が相対的に高い障害物との接触を回避する経路を選定する経路選定手段13bとを備えた構成を採用したことにより、経路選定手段13bが、自車両200の横移動に伴う減速度の低下を見込みつつ、各障害物1,2,3との接触時における相対速度を算出するため、これら各相対速度の予測精度を高めることができ、したがって、経路選定手段13bが、相対速度が相対的に高い障害物1,3との接触を回避する経路を精度よく選定することができる。
なお、本実施形態においては、障害物検出手段13bによって検出された障害物1,2,3と自車状態検出手段によって検出された自車両200の位置および速度とに基づいて障害物1,2,3に対する自車両200の無接触での回避の可否を判定する回避判定手段13aを備えた構成を採用しているが、本発明の車両用経路算出装置においては、相対速度が相対的に高い障害物との接触を回避する経路を精度よく選定する観点からは、必ずしも必須の構成要素ではない。
一方、上記回避判定手段13aを備え、この回避判定手段13aによって、無接触での回避の不可が判定されたときに限り、経路選定手段13bが、相対速度が相対的に高い障害物との接触を回避する経路を選定する構成である実施形態の車両用経路算出装置100によれば、回避経路として、無接触での回避経路を選択することができ、より好ましい。
(変形例1)
第1実施形態に係る車両用経路算出装置100は、マイクロプロセッサ13内に回避判定手段13aを備えた構成であるが、本発明に係る車両用経路算出装置は、そのような形態に限定されるものではなく、上述の回避判定手段13aを備えない構成を採用することもできる。
すなわち、図9に示した変形例1に係る車両用経路算出装置100は、自車状態検出手段としてのカメラ11,11およびエンコーダ12と、障害物検出手段としてのカメラ11,11と、経路算出手段13aの機能、相対速度算出手段13dの機能および経路選定手段13bの機能を有するマイクロプロセッサ13と、障害物入力エネルギレベル表示手段としてのモニタ14とを備えた構成である。
このように構成された変形例1の車両用経路算出装置100によれば、図10に示すように、ステップ1では、カメラ11と各センサの検出信号を読み込み、その検出信号が表す情報をマイクロプロセッサ13内のメモリ上に格納する。
次いで、ステップ2では、自車両200および検出した障害物に関する情報を(位置、速度等)を、統一された座標値に対応付けて、その運動状態の記述を行うために、カメラ11により、撮像されたイメージに基づいて、座標系の設定を行う。これらのステップ1,2については、構成、作用において、第1実施形態と全く同じである。
ステップ3では、経路算出手段13cが、第1実施形態におけるステップ3の処理と同様にして、自車両200から各障害物1,2,3に至る経路を算出する。
ステップ4では、相対速度算出手段13dが、これら各障害物1,2,3に接触したと仮定した場合における各接触対象障害物1,2,3に対する自車両200の速度(相対速度)を算出する。
このとき、相対速度算出手段13dは、上述した障害物1,2,3に向かう算出された経路に沿って、自車両200が減速しながら走行するものとして、相対速度を算出する。この自車両200の減速しながらの走行は、走行経路が、走行車線を移動する等の横移動を伴う場合、減速度の低下を招くが、この相対速度算出手段13dは、この減速度の低下を見込んで相対速度を算出するため、より精度の高い相対速度を算出することができる。
そして、ステップ5では、経路選定手段13bが、各障害物1,2,3に向かう経路に沿って、向かう対象となる障害物に到達したと仮定したときにおける相対速度が負となる経路(結果的に、障害物1,2,3との接触が回避される経路)か、または相対速度が負となる経路が存在しないとき(障害物1,2,3との接触が回避できない場合)は、相対速度が最も小さい経路を選定する。
また、経路選定手段13bは、ステップ5において選定しなかった他の経路に対応する障害物(例えば、選定した経路に対応する障害物が障害物1であるときは、他の経路に対応する障害物は障害物2および障害物3となる。)との相対速度(相対速度算出手段13dにより算出された相対速度)が所定値以上であるか否かを判定する(ステップ6)。
ステップ7では、第1実施形態のステップ5における処理と同様の処理、すなわち、カメラ11で撮影されたイメージがモニタ4に表示されるとともに、そのイメージに、各障害物1〜3による入力エネルギのレベルが重畳表示される。
つまり、入力エネルギレベルが最小となる選定経路(ステップ5において選定された障害物1に至る経路)、相対速度が所定値よりも小さい非選定経路(ステップ6で”No”と判定された経路)、相対速度が所定値以上である選定経路(ステップ6で”Yes”と判定された経路)が、互いに識別可能にモニタ4に表示される。
このように、変形例1に係る車両用経路算出装置100によれば、相対速度算出手段13dが、経路算出手段13cにより算出された経路を自車両200が減速しながら走行した場合における、各障害物1,2,3との相対速度を算出するため、各相対速度の予測精度を高めることができ、これにより、経路選定手段13bが、相対速度が負となる経路、または相対速度が負となる経路が存在しないときは相対速度が最小となる経路を、精度よく選定することができる。
(変形例2)
変形例1に係る車両用経路算出装置100は、各障害物1,2,3による入力エネルギの大小に応じて、各障害物1,2,3にそれぞれ至る経路を、モニタ4に識別表示することで、経路の選択に際してドライバーへの注意を喚起するものであるが、例えば、障害物1,2,3に対する自車両200の相対速度が負となる経路が複数存在する場合や、相対速度が負となる経路は存在しないが、所定値以下となる経路が複数存在する場合(例えば、同一の最小値となる複数の経路が存在する場合など)には、経路選定手段13bが、それら相対速度がいずれも負の複数の経路または所定値以下となる複数の経路のうち、自車両200に対する必要な操作量が相対的に最も小さい経路を選定するようにしてもよい。
この場合、図10のステップ5における処理に代えて、図11のステップ5に示すように、経路選定手段13bが、ステップ4において相対速度算出手段13dにより算出された各障害物1,2,3にそれぞれ向かう経路に沿って自車両200が各障害物1,2,3に到達したとき、障害物1,2,3に対する自車両200の各相対速度と所定値とを大小比較する。
そして、所定値よりも小さい相対速度の経路(ステップ5において”No”と判定された経路)については、ステップ6において、その経路に沿って自車両200が進行するのに必要とされる自車両200に対する運転操作の操作量(具体的には、例えばステアリングホイールの操舵量)を算出し、ステップ7において、経路選定手段13bが、その操作量が最も小さい経路を選定し、その後、カメラ11で撮影されたイメージがモニタ4に表示されるとともに、この選定された経路が当該イメージに重畳表示される(ステップ9)。
なお、さらにその算出された操作量自体を、時々刻々と時系列的に表示するようにしてもよい。
このように構成された変形例に係る車両用経路算出装置100によれば、変形例1と同様に、経路選定手段13bが、相対速度が相対的に低いことにより、接触による入力エネルギが相対的に小さい経路を、精度よく選定することができる。
しかも、相対速度が負となる経路が複数存在するときは、これら相対速度が負の経路は、自車両200が障害物に接触することがないことを意味するため、相対速度が負となる経路のうちいずれの経路を選定したとしても、自車両200が障害物に接触することはない。
そして、経路選定手段13bは、そのような相対速度が負となる複数の経路のうち、自車両200に対する操作量(変形例2では、ステアリングホイールの操舵量)が相対的に最小となる経路を選定するため、ドライバーによる障害物の回避運転操作の負担を軽減させることができる。
なお、回避運転操作において、ステアリングホイールに対する操舵は、自車両200の挙動に対して非常に繊細な操作となるため、大きな操舵量や急激な操舵は、自車両200の挙動を不安定にする虞があるが、上述した操作量として、ステアリングホイールに対する操舵量を適用することにより、ドライバーは、自車両200の挙動が不安定になる虞のある操作を最小限に抑制することができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の車両用経路算出装置に係る第2の実施形態について、図12から図19に示した図面を参照して説明する。
図12は、本発明の第2実施形態である車両用経路算出装置100が、自車両200に設置された配置を示す平面模式図である。
図12に示すように、2台のカメラ21,21(自車状態検出手段の一部、物体検出手段)が自車両200の室内前部に取り付けられ、自車両200の前方Frの障害物等(物体)を検出する。
2台のカメラ21,21を互いに離して配設したことにより、2台のカメラ21,21で撮影された画像に対して三角測量の原理を適用することで、前方Frの障害物の方向および距離を検出(算出)することができる。
ロータリーエンコーダ22(自車状態検出手段の一部)は、自車両200の各輪のホイール回転に伴って発生するパルス信号に基づいて、各輪の回転数を検出するため、それぞれの車輪に設置されている。この検出された回転数は、自車両200の進行方向についての速度を算出する際の演算に用いられる。
ヨーレートセンサ23は、水晶振動子や半導体等を用いて構成される公知のデバイスを利用したものであり、自車両200の重心に発生するヨーレートを検出する。
加速度センサ24は、圧電素子等を用いて構成される公知のデバイスを利用したものであり、自車両200に発生する特定方向の加速度を検出する。本実施形態においては、自車両200の縦方向(X軸に沿った方向)と横方向(Y軸に沿った方向)とにそれぞれ発生する加速度を検出する構成であり、この加速度センサ24によって検出された加速度出力を積分して、自車両200の縦方向および横方向についての各速度を検出する。
マイクロプロセッサ25は、第1実施形態の車両用経路算出装置100におけるマイクロプロセッサ13と同様の構成からなる集積回路であり、メモリに格納されたプログラムにしたがって、各種センサで検出された信号の処理と最適操作量を算出する演算処理を行い、その算出結果を、操舵用サーボコントローラ28およびブレーキコントローラ29にそれぞれ出力する。
操舵用サーボコントローラ28は、制御演算のためのマイクロプロセッサと、操舵用サーボモータ27を駆動するための昇圧回路等とから構成され、操舵角センサ26によって検出された操舵角が、外部のマイクロプロセッサ25から出力された目標操舵角に一致するようにサーボ制御を実行する。
操舵角センサ26は、ラック&ピニオン方式の前輪操舵機構におけるフィードバック信号として、操舵用サーボコントローラ28に計測値を伝達する。
操舵用サーボモータ27は、ピニオンギアをモータで回転させることによって、操舵系を自動で動作させる役割を担っている。
ブレーキコントローラ29は、制御演算のためのマイクロプロセッサとアクチュエータ駆動の昇圧回路とから構成され、外部マイクロプロセッサ25から出力された制動トルク信号を指令値として、ブレーキアクチュエータ30を操作する。
ブレーキアクチュエータ30は、ブレーキコントローラ29からの出力信号に応じてブレーキ圧を調整することにより、各輪の制動系を自動かつ独立に動作させる役割を担っている。
図13は、図12に示した車両用経路算出装置100の構成を機能ブロックとして表現したブロック線図である。まず、自車両200の運動状態を表す情報は、カメラ21、ロータリーエンコーダ22(車速センサ)、ヨーレートセンサ23、および加速度センサ24によってそれぞれ検出された情報を、統合的に処理することにより得られる。
前方Frの障害物1,2,3の運動状態を表す情報は、カメラ21によって撮影されたイメージに対して画像処理を施すことにより、容易に抽出することができる。
マイクロプロセッサ25は、本発明の第1実施形態の車両用経路算出装置100と同様に、センサ情報処理機能、障害物1,2,3との無接触での回避が可能か否かを判定する回避判定手段25aとしての機能部と、自車両200が各障害物1,2,3にそれぞれ至る最適な経路を算出する経路算出手段25gとしての機能部と、経路算出手段25gにより算出された複数の経路について各経路ごとに、自車両200の横移動に伴うタイヤ力の縦力低下による減速度の低下を見込みつつ、障害物との接触時(接触することがない場合は、所定時間経過後または所定距離進行後)における相対速度を算出する相対速度算出手段25hとしての機能部と、算出された相対速度が負となる障害物に向かう経路、または相対速度が負となる経路が算出されなかった場合には、相対速度が相対的に最も小さい障害物に向かう経路を選定する経路選定手段25bとしての機能部とを含む。
なお、第2実施形態においては、経路算出手段25gとしての機能部と相対速度算出手段25hとしての機能部とは、機能面において、経路選定手段25bとしての機能部に一体化しているため、以下、経路算出手段25gおよび相対速度算出手段25hの作用・機能の説明は、経路選定手段25bの作用・機能として説明する。
本実施形態の車両用経路算出装置100における経路選定手段25bには、現在の自車両200の運動状態(後述の評価関数および車両モデルに基づく運動状態)に基づいて所定時間経過後の未来時点までの期間に、自車両200が採り得る操作量パターンの中から、自車両200にとって最も都合の良い経路に沿って自車両200を移動させるための操作量パターンの算出を、検出された各障害物1,2,3に対して行う車両操作量算出手段25cが含まれている。
ここで、車両操作量算出手段25cは、現時点よりも将来の時点における自車両200の運動状態を予測するための車両モデル(自車操作によって発生した車両運動が記述される車両モデル)25dと、自車両200にとって最も都合の良い操作パターンを定義する評価関数を設定する評価関数設定手段25e、および、移動する障害物1,2,3の各移動軌跡を予測する障害物移動軌跡予測手段25fを内部に含む構成である。
そして、経路選定手段25gは、障害物移動軌跡予測手段25fによって予測された障害物1,2,3の移動軌跡と、自車両200の位置、速度などの自車両200の情報とに基づいて、障害物1,2,3に対する自車両200の相対速度を逐次算出する。
車両操作量算出手段25cは、評価関数設定手段25eにより設定された評価関数および車両モデル25dに基づいて、自車両200を、選定された経路に沿って進めるのに必要な自車両200に対する操作量を求め、この操作量を所定の操作パターンとして出力する。
第2実施形態の車両用経路算出装置100において、最も都合の良い操作パターンとは、自車両200と障害物1,2,3との相対速度が低い状態で、自車両200と障害物1,2,3とが接触する経路を通る車両操作であり、この条件を数式的に表現することにより、自車両200の操作パターンと、その操作パターンにしたがった自車両200の運動パターンとを数値的に評価するものが評価関数(障害物との相対速度を数値的に評価する相対速度指標項を含んだ評価関数)である。
評価関数の構成にあたっては、障害物1,2,3が移動する場合には、障害物移動軌跡予測手段23fによって移動情報を評価関数に含めた構成とすればよい。
さらに、自車両200の前方Frの道路の境界を検出する道路状態検出手段を備えた構成を採用した場合には、この道路状態検出手段によって検出された道路の境界を評価関数に含めることにより、自車両200の経路が路外に逸脱するのを防止する等、道路形状に適した評価を行うこともできる。
また、道路状態検出手段が道路の曲率を検出するものでは、道路状態検出手段によって検出された道路の曲率を評価関数に含めることにより、自車両200の経路が路外に逸脱するのを防止する等、道路形状に適した評価を行うこともできる。
さらにまた、道路状態検出手段が路面摩擦係数を検出するものでは、道路状態検出手段によって検出された道路の路面摩擦係数を評価関数に含めることにより、自車両200が路面でスリップすることを想定する等、道路形状に適した評価を行うこともできる。
これら評価関数の設定の具体的な処理については、後に詳述する。
以上の機能によって、自車両200と障害物1,2,3とが接触するとき、相対速度が高い障害物1,2,3とが接触しないように回避した経路を選択する車両用経路算出装置100が構成される。
この車両用経路算出装置100によって算出された操作パターンを利用する直接的な方法として、自車両200に搭載された各操作アクチュエータを駆動することで、算出された操作パターンを実際に実行する手法を適用することができる。
本実施形態の車両用経路算出装置100は、自車両200の前輪の操舵と前後各輪のブレーキの目標操作量に適応させて、自動で制御を行う車両操作制御手段31を加えた構成である。
操舵系は、主に操舵用サーボコントローラ28、操舵用サーボモータ27および操舵角センサ29からなり、制動系は、ブレーキコントローラ29およびブレーキアクチュエータ30から構成されている。なお、これら各操作系の制御システム自体は、公知の技術を適用したものであり、具体的な作用についての説明は省略する。
以下、マイクロプロセッサ25による経路の選定手順について、図11に示したフローチャートに基づいて説明する。なお、経路の選定手順の説明を理解し易くするために、図12に示した仮想的な状況に関して、各処理の内容を説明する。
図12は、3車線の直線道路の右車線を走行する自車両200の前方Frに、障害物1、障害物2、障害物3が存在する状況である。そして、障害物1は右車線、障害物2は中央車線、障害物3は左車線に位置して、それぞれ前方Frに向かって移動しており、障害物1が自車両200に最も近い距離の位置にあり、障害物3が自車両200から最も遠い距離の位置にある。
本実施形態の車両用経路算出装置100の処理は、自車両200の進路上に障害物を検出した時点から開始される。なお、ステップ1からステップ3までの処理は図4に示した第1実施形態のステップ1からステップ3の処理と同一であるため、記載を省略する。
ステップ4では、車両運動を予測するための車両モデル23dに使用される状態ベクトルの現在値を算出する。
まず、車両モデル23dの説明を行なう。この車両モデル23dを精密化することにより、算出された車両運動予測結果の信頼性は向上するが、反対に、車両モデル23dを簡略化することにより、マイクロプロセッサ23に作用する演算負荷は軽減されるため、車両モデル23dは、信頼性と負荷軽減とのうちいずれを重視するかに応じて、適宜変更可能とするのが好ましい。
本実施形態において使用される車両モデル23dは、自車両200の横移動による減速度の低下を含んだ4輪モデルである。
この4輪モデルは、以下の微分方程式(7)〜(13)によって表される。
ここで、θ,v,β,γ,ω
i は、図13に示すように、自車両200のヨー角、速度、すべり角、ヨーレート、各輪回転速度をそれぞれ示す。
また、m,I,IW ,Lf ,Lr ,Lt ,Rt は、自車両200の質量、ヨー慣性モーメント、車輪回転慣性モーメント、車両重心から前輪軸までの距離、車両重心から後輪軸までの距離、トレッドベースの半分、タイヤ半径、をそれぞれ表し、全て定数として扱う。
そして、Tqi ,Fyi ,Fxi (i={fl,fr,rl,rr})は、各輪の制動トルク、タイヤ横力、タイヤ縦力をそれぞれ表し、これらタイヤ横力Fyi 、タイヤ縦力Fxi は、以下の式(14),(15)に示すMagic FormulaやBlush Modelのような各輪のすべり角αi 、すべり率κi 、輪荷重Fzi の関数とする。
本実施形態においては、輪荷重Fz
i は一定と仮定し、α
i 、κ
i は以下の計算式(16)〜(18)を使用する。
ここで、δ
f は前輪舵角、ω
i は各輪の回転数、R
t はタイヤ半径を表す。
また、道路の路面とタイヤとの間の摩擦係数を推定する道路状態検出手段を使用し、この道路状態検出手段によって推定された摩擦係数を用いて、各輪のタイヤ横力を以下のように表すことにより、路面に対するタイヤのスリップを見込んだ車両運動を求めることができる。
以上説明した車両モデル23dを用いると、本実施形態によって経路算出の対象となる車両200の運動状態は、10次元のベクトルとして下式(21)により表され、また、車両200を運動させる操作量の入力は、5次元のベクトルとして下式(22)のように表される。
上記式(7)〜(22)で表現される車両モデルは、非線形要素を含んでいるため、以下の式(23)で示す非線形微分方程式の一般形で表すことができる。
以上が、本実施形態において用いられる車両モデルの説明である。
次に、車両状態の現在値を取得する手順について説明する。xおよびyは、ステップ2の段階で算出されている。γは、ヨーレートセンサの出力によって得られ、θは、ある時点での車両姿勢を基準として、ヨーレートセンサの出力を積分することで検出することができる。
βは、車両縦方向の速度をvx 、横方向の速度をvy としたとき、以下の式(24)で表すことができる。
ここで、自車両200に取り付けられた加速度センサ24により検出された縦方向の加速度を積分すると、速度v
x を算出することができ、横方向の加速度を積分すると、速度v
y を算出することができ、これら算出された2つの速度v
x ,v
y を用いて、式(24)を適用することで、βを算出することができる。
また、βが微小であると仮定すると、v=vx と近似することができる。以上の処理を行うことで、ステップ4は完了する。
ステップ5では、障害物1,2,3の位置に基づいて、その後の未来の移動軌跡を推定する。例えば、簡単な処理手順として、ステップ2において検出された障害物1,2,3の位置情報の履歴に基づいて各障害物1,2,3の移動速度を推定し、障害物1,2,3が等速直線運動をしているとの仮定により、未来の移動軌跡を算出することができる。
図4において、時刻t0 における各障害物1,2,3の位置を、(xb1 t0,yb1 t0),(xb2 t0,yb2 t0),(xb3 t0,yb3 t0)とそれぞれ定義し、各障害物1,2,3のいずれも、時刻t0 において、自車両200の進行方向(X軸に沿って正の向き)と同じ向きにvb1,vb2,vb3の速度でそれぞれ移動していると推定した場合、時刻t0 からt秒後における各障害物1,2,3の位置の推定値は下式(25),(26),(27)に示すものとなる。
以上がステップ5における処理内容である。なお、障害物1,2,3が静止していると判定した場合には、このステップ5の処理を省くことができる。
ステップ6では、車両運動に対する適否の基準となる評価関数の設定を行う。評価関数は、現在時刻t0 からその後の所定推定時刻t0 +Tまでの期間に、自車両200に加えられた入力uに対する車両状態ベクトルxの予測値に基づいて、次式(28)のように表すことができる。
ここで、式(28)の右辺の第1項は、時刻t
0 +Tにおける車両運動状態の適否を評価する式、第2項は、時刻t
0 から時刻t
0 +Tまでの期間中における車両運動状態の適否を評価する式である。
式(28)で表される評価基準を評価関数として使用することにより、現在時刻t0 からT秒後の未来(時刻t0 +T)までの車両運動状態を予測して、この期間についても、見込んだ操作量の算出が可能となる。
本実施形態における式(28)の右辺第2項に含まれる評価項目を以下に示す。
<評価項目1>自車両200の速度は低い方が好ましい。
<評価項目2>自車両200と接触対象となる障害物とのY座標偏差(Y軸方向に沿った距離)は小さいほうが好ましい。
<評価項目3>自車両200の操舵角は必要以上に大き過ぎない方が好ましい。
<評価項目4>自車両200の各輪の制動トルクは大きいほうが好ましい。
ここで、<評価項目1>は、速度が低くなるように自車両200に制動をかけることで、障害物1,2,3との接触時における相対速度を低くし、障害物からの入力エネルギを最小限に抑える、という最も重要な評価項目である。
次の<評価項目2>は、自車両200と障害物1,2,3とが接触するときの位置を決定する式であり、この接触位置は、障害物1,2,3に応じて設定することができる。本実施形態においては、自車両200と障害物1,2,3とが自車両200の前面全体で接触するのが好ましいものとして設定している。
<評価項目3>は、可能な限り小さな操舵角で自車両200を操作することで、効率的かつ素早い回避運動を実現させる項目である。
ここで、図15に示した障害物2に自車両200が接触する経路を選定すると仮定した場合の評価関数を示す。<評価項目1>については、ステップ5において推定した障害物2の移動速度を使用して、下式(29)のように表すことができる。
式(29)の値を小さくすることは、自車両200と障害物2とが接触する時点における相対速度を小さくすることを意味する。
次式(30)は、<評価項目2>を表す関数の一例である。
式(30)におけるΔは、自車両200と障害物2との接近状態に対する余裕度を示すパラメータであり、式(30)の値を小さくすることは、自車両200と障害物2とのY座標偏差を小さくすることを意味する。
<評価項目3>は、<評価項目1>と同様の考え方に基づいて、下式(31)のように表すことができる。
<評価項目4>は、制動トルクが大きくなるにしたがって、その値が小さくなる関数を適用すればよく、例えば下式(32)が好適である。
ここで、道路状態検出手段を備えた構成にあっては、「自車両200は道路の境界に近付き過ぎない方が好ましい」との評価項目を付加し、この評価内容を式(30)のような数式で表現することにより、道路状態を見込んだ評価を行うことも可能である。
上述した4つの評価項目のそれぞれに、適当な重み付けパラメータを乗じた上で加算した関数を、評価式L(τ)とする。
各評価項目1,2,3,4ごとの重み付けパラメータをwv ,wb ,wd ,wi (i={fl,fr,rl,rr})とすると、式(28)におけるL、ψは、それぞれ式(33),(34)で表すことができる。
以上のようにして表された評価関数J(式(28)←式(33),(34))の設定を、検出された各障害物1,2,3のそれぞれに対して行い、次のステップ7に移る。
ステップ7では、評価関数Jにおける評価区間の長さTを決定する。このTに関しても、評価関数Jと同様に、検出された各障害物1,2,3に対して行う。Tの設定方法の一例を、図12の場面で自車両200が障害物2に接触する場合について、図14を用いて説明する。
まず、ステップ4において使用した車両モデル23dを用いて、自車両200がフルブレーキの制動をかけた場合の車両運動を予測する。そして、ステップ5において推定した障害物2の移動軌跡に基づいて、自車両200の前面が障害物2の後部xb2 t に到達するまでの時間tを算出する。
フルブレーキで制動しているため、この時間tが、自車両200の前面が位置xb2 t に到達する最も長い時間であると考えることができる。そして、この時間tを時間Tとして設定することにより、評価区間内に、接触する時刻を含ませることができる。
本実施形態においては、この設定方法により、各障害物1,2,3における評価区間を設定する。なお、本実施形態の構成に、自車両200が各障害物1,2,3に接触する時刻を推定する手段(接触時刻推定手段)を含む場合、その接触時刻推定手段によって推定された接触時刻を評価区間として使用することも可能である。
接触時刻推定手段については、後述するステップ8において、その一例を説明する。
そして、この接触時刻推定手段によって時間Tを算出する場合は、<評価項目1>に代えて、以下の<評価項目1′>を適用することもできる。
<評価項目1′>接触すると推定される時刻における自車両200と障害物1,2,3との相対速度は小さいほうが好ましい。
この<評価項目1′>は、障害物2を対象にすると、下式(35)に表すことができる。
また、接触時刻推定手段を備えた構成の車両用経路算出装置においては、以下のような接触時における自車両200の姿勢を、評価項目に含めることも可能となり、この評価項目を加えることにより、一層精密な評価を行うことができる。
<評価項目5> 推定される接触時における自車両200の姿勢と目標とする姿勢との差(角度差)は小さいほうが好ましい。
この<評価項目5>は、障害物2を対象にした実施形態では、下式(36)のように表すことができる。
ここで、θ
ref は、各障害物1,2,3に対して接触した時における自車両200の目標姿勢(角度)を表す。
評価関数設定手段23eが、障害物1,2,3に接触する時刻を推定する接触時刻推定手段を備え、接触時刻推定手段によって推定された接触時刻における自車両200の状態の数値的な評価を行うことにより、従来の技術では検討されていなかった接触時における状態を、障害物の状態に応じて設定することができる。
なお、接触時刻推定手段を含まない構成においては、式(35),(36)を用いることができないが、ステップ6で設定した評価関数(式(28),(29))を使用すればよい。
ステップ8では、構成された車両モデル23dと、各障害物1,2,3に対してそれぞれ設定された評価関数Jとに基づいて、評価関数Jの値を最小とする最適操作量を算出する演算を行う。
式(28)の評価関数Jを最小にする操作量を求める問題は、一般に、最適制御問題と呼ばれ、その数値解を求めるために様々なアルゴリズムが公知の技術として考えられている。
その公知技術としては、例えば、文献「A continuation /GMRES method for fastcomputation of nonlinear receeding horizon control(T.Ohtsuka;Automatica, vol,40, 563/574, 2004.)」がある。この文献に記載されたアルゴリズムを使用して、最適操作量の算出を行う。
本実施形態においては、入力uは式(22)式より、u=(δf Tqfl Tqfr Tqrl Tqrr)であるので、時刻t0 から時刻t0 +Tまでの期間に亘る各操作量が、時系列で算出される。
実際の操作量算出においては、評価区間を適当なステップ数Nで分割した離散化を行い、各ステップ時点における操作量の値を算出する。つまり、下式(37)〜(41)に示すN個の時系列入力(操作量)を得ることができる。
この最適操作量算出を、各障害物1,2,3ごとに実行する。以上が、ステップ8での処理である。
ここで、ステップ7で説明した接触時刻推定手段の一例を示す。まず、ステップ7における、評価区間内に接触時刻を含ませる設定方法を使用して、ステップ8までの処理を行い、u* =(δf * Tqfl * Tqfr * Tqrl * Tqrr *)を算出する。この操作量パターンを、ステップ4で説明した車両モデル23dに、入力として加えて車両運動の予測を行い、自車両200の移動軌跡を(x*(t),y*(t))とする。
そして、式(25)〜(27)によって推定された各障害物1,2,3の移動位置から、以下の式(42)を満足する時間tを算出する。
算出された時間tを、各障害物1,2,3との接触までに要する時間とすることで、この時間tを式(28)における時間Tとして設定することができる。以上が、接触時刻推定手段に関する説明である。
ステップ9では、ステップ8で算出された最適操作量を、ステップ4で使用した車両モデル23dに入力した際の車両運動予測と、ステップ5で求めた障害物1,2,3の移動軌跡とに基づいて、自車両200と各障害物1,2,3との接触時における相対速度の推定を行う。
そして、得られた結果に基づいて、接触時の相対速度が大きいと予測された障害物との接触を回避するような操作量を選択する。自車両200が、この操作量の操作にしたがった経路に沿って移動するため、マイクロプロセッサ25内部のメモリに操作量を格納し、T/N[秒]の時間間隔で順次読み込み、前輪の操舵制御系および各輪のブレーキ制御系にそれぞれ指令値として入力する。
以上でステップ9の処理は終了し、本実施形態の車両用経路算出装置100による処理が終了する。
図15に示した状況を適用場面とした場合、従来の技術によれば、図18に示すように、単に、自車両200から最も離れた位置の障害物である障害物3が接触対象として選定され、この場合、制動しながら障害物3に接触する車両運動が予測される。
ここで、障害物3に接触するためには、大きな横移動を伴った車両運動を行わせる必要があり、限られたタイヤ力が横力に多く使用されてしまい、制動に必要な縦力には充分使用されないこととなる。この結果、接触時の相対速度が最も低くなるとの前提の下に、選定された経路であるにも拘わらず、実際の接触時における相対速度は予測値まで低下せず、接触によって自車両200は、予測値よりも高い入力エネルギを受ける虞があった。
しかし、本実施形態の車両用経路算出装置100によれば、評価関数の評価項目に基づいて、各障害物1,2,3に接触するのに数値的に最適な車両操作量を算出することができ、得られた各操作量に基づいて経路の選定が行われる。
この結果、図19に示すように、障害物3に接触すると仮定して算出された最適操作量を実行した場合に、接触時において予測される相対速度が、他の障害物2との接触時における予測相対速度よりも大きいと判定された場合、自車両200への入力エネルギのレベルが大きいと判定されて、その障害物3に接触する経路は選定されない。
したがって、障害物1,2,3との接触時における実際の車速の算出精度を高めて、自車両200との相対速度が相対的に高い障害物、すなわち実際の入力エネルギが相対的に高い障害物、との接触を回避した経路を確実に選定することができる。
しかも、従来の技術と同様に、自車両200からの距離が近いため、制動に必要な距離(必要制動距離)を十分に確保することができず、接触時の相対速度が高いと判定される障害物1に接触する経路も選定されない。
また、経路が選定された後も、一定時間間隔ごとに、上述したステップ1〜ステップ8の処理を繰り返し実行することにより、処理の各実行時点において最適な経路を選定することができる。
さらに、ステップ3の処理中に障害物1,2,3が移動するなどにより、処理の途中で、障害物1,2,3を回避することができるとの判定がなされた場合は、ドライバーによる回避操作や車両200に組み込まれた回避制御を優先させればよい。
以上、詳細に説明したように、本実施形態の車両用経路算出装置100によれば、自車両200の前方Frの障害物1,2,3を検出する障害物検出手段(カメラ21)と、自車両200の走行路上における自車両200の位置および速度を検出する自車状態検出手段(カメラ21およびロータリーエンコーダ22)と、自車両200の横移動に伴う減速度の低下を見込みつつ、障害物1,2,3との接触時における相対速度を算出し、算出された相対速度が相対的に高い障害物との接触を回避する経路を選定する経路選定手段23bとを備えた構成を採用したことにより、経路選定手段23bが、自車両200の横移動に伴う減速度の低下を見込みつつ、各障害物1,2,3との接触時における相対速度を算出するため、これら各相対速度の予測精度を高めることができ、したがって、経路選定手段23bが、相対速度が相対的に高い障害物1,3との接触を回避する経路を精度よく選定することができる。
また、回避判定手段23aによって、無接触での回避の不可が判定されたときに限り、経路選定手段23bが、相対速度が相対的に高い障害物との接触を回避する経路を選定するため、回避経路として、無接触での回避経路を選択することができる。
さらに、車両操作量算出手段が、選定された経路に沿って自車両200を移動させるために必要な操作パターンを出力することにより、数値的に最適な車両操作量として、直接的および間接的に使用することができる。
また、自車両200の横移動に伴う減速度の低下を見込んだ、障害物1,2,3との接触時における相対速度を表す相対速度指標項を含んだ評価関数Jを用いることにより、客観的に最適な経路(入力エネルギが最も小さい障害物と接触する経路)を得ることができる。
さらに、障害物1,2,3が移動体であっても、障害物移動軌跡予測手段23fが、その移動体である障害物1,2,3の移動軌跡を予測した上で、経路選定手段23bが、障害物移動軌跡予測手段23fによって予測された障害物1,2,3の移動軌跡とカメラ21およびロータリエンコーダ22によって検出された自車両200の情報とに基づいて、障害物1,2,3に対する自車両200の相対速度を逐次算出することにより、最適な経路を選定することができる。
また、回避判定手段23aが、所定の時間間隔ごとに繰り返し、自車両200の情報および障害物1,2,3に関する情報に基づいて、障害物1,2,3に対する自車両200の無接触での回避の可否を判定するため、障害物1,2,3と自車両200との位置関係や相対速度が経時的に変化しても、常に最新の位置関係や相対速度に基づいて、回避の可否を判定することができる。
そして、回避可能と判定されたときは、接触時の相対速度が最も低くなる障害物2と接触する経路の選定をキャンセルし、全ての障害物1,2,3と無接触で回避する操作を優先的に実行して、障害物2から自車両200にエネルギが入力されるのを回避することができる。
一方、最新の判定結果によっても回避不可能と判定されているときは、その最新の情報(自車両200の情報および障害物1,2,3の情報)に基づいて、接触時の相対速度が最も低くなる障害物2と接触する経路を選定することができる。
これにより、常に最新の情報に基づいて、自車両200に最も低いエネルギしか入力されないように、経路の選定を行うことができる。
また、本実施形態の車両用経路算出装置100は、車両操作制御手段31が、車両操作量算出手段23cによって算出された操作パターンにしたがって、自車両200の車両操作を自動で制御することにより、ドライバーの手動操作に頼らずに、確実に算出した経路に沿って走行することができる。
これにより、ドライバーの熟練度や操作遅れに拘わらず、適時に、かつ適切に、車両操作が実行される。