以下、本発明に係る電動ブレーキ装置の第1の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1および図2において、10は電動ブレーキ装置のブレーキロータを示し、ブレーキロータ10は図略の車輪に一体的に取付けられている。ブレーキロータ10の外周部には、断面形状が略コの字状のキャリパ11が、ブレーキロータ10を跨ぐように配置されている。キャリパ11は、車体側に固定されたマウント12にスライドピン13を介して、ブレーキロータ10の軸線方向に少量だけ移動可能に支持されている。
ブレーキロータ10の軸線方向の両側に対向して、ブレーキ部材としての一対のブレーキパッド15、16が配置されている。ブレーキロータ10の内側に配置された第1のブレーキパッド15は、ブレーキロータ10の軸線方向に移動可能な後述する押圧部42に取付けられ、ブレーキロータ10の外側に配置された第2のブレーキパッド18は、キャリパ11の爪部11aに取付けられている。押圧部42は、回り止め部11bによってキャリパ11に対して回り止めされ、第1のブレーキパッド15は、ブレーキロータ10の軸線方向にのみ移動可能となっている。第1および第2のブレーキパッド15、16は、ブレーキロータ10に摺接可能に摩擦係合する摩擦材15a、16aと、摩擦材15a、16aを保持する裏板15b、16bとによって構成されている。なお、第1のブレーキパッド15は、マウント12に対して回り止めしてもよい。
第1および第2のブレーキパッド15、16は、車輪と一体に回転するブレーキロータ10の両面に押付けられて、ブレーキロータ10の制動作用を行うもので、上記したブレーキロータ10と、キャリパ11と、第1および第2のブレーキパッド15、16とによって、制動力発生手段を構成している。
キャリパ11の一端には、モータハウジング21が固定され、モータハウジング21内にビルトイン型の電動モータ22が設けられている。電動モータ22は、中空状のロータ23とステータコイル24とから構成され、ロータ23はモータハウジング21に回転可能に軸承され、ステータコイル24はモータハウジング16の内周に固定され、ステータコイル24への通電によってロータ23が回転されるようになっている。ロータ23内には入力軸25が同心的に挿通され、入力軸25はロータ23に対し軸線方向にのみ移動可能にスプライン係合されている。
また、キャリパ11には、ねじ穴26が入力軸25と同心的に形成され、このねじ穴26にねじ部材27が螺合されている。ねじ部材27には円筒穴27aが入力軸25と同心的に形成され、円筒穴27a内には、円板状の回転部材28が回転可能に収容され、回転部材28とねじ部材27の一端に形成したフランジ部27bとの間には、スラストベアリング29が介挿されている。
入力軸25とねじ部材27および回転部材28との間には、1入力2出力の減速機構31が配設されている。減速機構31は、例えば、ハーモニックドライブ((株)ハーモニック・ドライブ・システムズの登録商標)として知られる波動歯車機構によって構成されている。波動歯車機構(減速機構)31は、ウェブジェネレータ33と、フレクスプライン35と、サーキュラスプライン36とからなり、フレクスプライン35の一端は回転部材28に結合され、サーキュラスプライン36はねじ部材27のフランジ部27bに結合されている。フレクスプライン35の他端外周には外歯が形成され、サーキュラスプライン36の内周にはフレクスプライン35の外歯に部分的に噛合う内歯が形成され、内歯の歯数は外歯の歯数より例えば2歯多くなっている。フレクスプライン35の一端内周には、入力軸25が軸受37を介して回転のみ可能に支承されている。
ウェブジェネレータ33は、図略の楕円カムを回転可能に備え、楕円カムに入力軸25が一体的に連結されている。楕円カムの外周には図略のボールベアリングの内輪が固定され、この内輪に弾性変形可能な外輪がボールを介して支持され、外輪にはフレクスプライン35が取付けられている。
上記した構成の波動歯車機構31は、入力軸25が回転されると、ウェブジェネレータ33の楕円カムが一体的に回転され、この楕円カムの回転によってフレクスプライン35が楕円形に撓まされ、サーキュラスプライン36との噛合い点が円周方向に変化する。これによって、フレクスプライン35(サーキュラスプライン36)に対してサーキュラスプライン36(フレクスプライン35)が相対回転される。このように、波動歯車機構31は、入力軸25に入力された電動モータ22からの回転入力を、フレクスプライン35およびサーキュラスプライン36からなる2つの出力要素に回転を減速して伝達する。
ねじ部材27の円筒穴27a内には、上記した回転部材28に対向して円板状の軸動部材41が収容され、軸動部材41は押圧部42に一体的に結合されている。軸動部材41の軸動によって押圧部42を介して第1ブレーキパッド15の摩擦材15aがブレーキロータ10に対して接近離間される。
回転部材28と軸動部材41との間には、回転部材28の回転運動を軸動部材41および押圧部42の直動運動に変換する回転直動変換機構43が設けられている。回転直動変換機構43は、回転部材28と軸動部材41との互いに対向する対向面28a、41aにそれぞれ設けられた第1および第2カム部45、46と、これらカム部45、46の間に配設された転動部材としての転動ローラ51とによって構成されている。
回転直動変換機構43の構成を、図2、図3および図4に基づいてさらに具体的に説明すると、回転部材28の軸動部材41に対向する対向面28aには、複数(実施の形態においては4つ)の第1カム部45が、回転部材28の回転中心を中心とする円周方向に沿って等角度間隔に配設されている。複数の第1カム部45は同一の形状をなすもので、回転部材28の逆転方向(図4の時計回り)の一端には、回転部材28の正転方向(図4の反時計回り)に沿って、軸動部材41の対向面41aに徐々に接近する緩やかな円弧状の勾配を形成した第1勾配部45aが設けられている。また、第1カム部45の他端(正転方向の一端)には、第1段差部45bが形成され、第1段差部45bは、回転部材28の対向面28aより僅かな寸法S1(図3参照)だけ高くなっている。第1勾配部45aと第1段差部45bとの境界部には、対向面28aに対して直角な第1ストッパ部45cが形成されている。
一方、軸動部材41の回転部材28に対向する対向面41aには、第1カム部45と同数の第2カム部46が、回転部材28の回転中心を中心とする円周方向に沿って等角度間隔に配設されている。複数の第2カム部46は第1カム部45と同一の形状をなすもので、第1カム部45とは逆向きに配置されている。すなわち、回転部材28の正転方向の一端には、回転部材28の逆転方向(時計回り)に沿って、回転部材28の対向面28aに徐々に接近する緩やかな円弧状の勾配を形成した第2勾配部46aが設けられている。また、第2カム部46の他端には、第2段差部46bが形成され、第2段差部46bは、軸動部材41の対向面41aより僅かな寸法S1(図3参照)だけ高くなっている。第2勾配部46aと第2段差部46bとの境界部には、対向面41aに対して直角な第2ストッパ部46cが形成されている。
回転円板28および軸動部材41の各対向面28a、41a間には、保持器53(図3参照)が半径方向移動を規制されて配設され、この保持器53に第1および第2カム部45、46と同数の転動ローラ51が回転可能に保持されている。転動ローラ51は、第1および第2カム部45、46の間で転動し、回転円板28の回転運動によって軸動部材41を軸動するように作用する。
転動ローラ51は、通常、円周方向に隣合う第1カム部45および第2カム部46の各間に位置されて、回転部材28と軸動部材41の対向面28a、41aに接触され、この状態が回転直動変換機構43の初期位置(基準位置)となっている。この状態より、回転部材28が正転方向(図4の矢印方向)に回転されると、転動ローラ51が第1および第2カム部45、46の各勾配部45a、46aに乗り上げ、軸動部材41を勾配部45a、46aの勾配に従って直動させる。反対に、回転直動変換機構43が基準位置にある状態より、回転部材28が逆転方向(図4の反矢印方向)に所定角度だけ回転されると、転動ローラ51が第1および第2カム部45、46の各段差部45b、46bに乗り上げ、軸動部材41を段差部45b、46bの段差分(S1×2)だけ直動させる。
なお、回転部材28が所定角度を超えて逆転方向に回転されると、転動ローラ51が第1および第2カム部45、46の各ストッパ部45c、46cに係合し、回転部材28のそれ以上の逆転が阻止される。
軸動部材41とキャリパ11との間にはスプリング52が介挿され、このスプリング52の付勢力によって軸動部材41を回転円板28に向けてスラスト方向に押圧している。これによって、軸動部材41と回転部材28を転動ローラ51を介して接合状態に保持するとともに、回転部材28をスラストベアリング29を介してねじ部材27のフランジ部27aに押圧し、回転直動変換手段43をねじ部材27内にスラスト方向に一体的に支持している。上記したねじ部材27は、請求項におけるスラスト力支持部材を構成している。
上記した構成により、回転部材28が、例えば図4の矢印方向に回転されると、転動ローラ51が転動しながら回転部材28の第1勾配部45aに乗り上げるとともに、軸動部材41の第2勾配部46aに乗り上げる。これにより、軸動部材41はスプリング52の付勢力に抗してブレーキロータ10に向かう方向に移動され、第1のブレーキパッド15がブレーキロータ10に押付けられる。
反対に、回転部材28が、図4の反矢印方向に回転されると、転動ローラ51が転動しながら回転部材28の第1段差部45bに乗り上げるとともに、軸動部材41の第2段差部46bに乗り上げる。これによって、回転部材28と軸動部材41が所定距離離間される。
上記した回転部材28に設けられた第1カム部45と、軸動部材41に設けられた第2カム部46と、第1および第2カム部45、46の間に設けられた転動ローラ51等によって、回転直動変換機構43を構成しており、また、第1および第2カム部45、46のストッパ部45c、46cによって、回転部材28の一方向の回転を一定の範囲で制限する回転制限手段55を構成している。
上記したように、本実施の形態においては、波動歯車機構(減速機構)31の2つの出力要素に(フレクスプライン35およびサーキュラスプライン36)に、それぞれねじ部材27と回転直動変換機構43が接続されている。
この場合、ねじ部材27は径が大きいために慣性が大きく、しかも、ねじ面に作用する摩擦によって大きな抵抗が作用する。これに対して、回転直動変換機構43には小さな抵抗しか作用しないため、入力軸25が回転されると、通常はサーキュラスプライン36とともに回転部材28が回転され、フレクスプライン35およびねじ部材27は回転されず、停止状態に保持される。しかしながら、転動ローラ51が第1および第2カム部45、46の各ストッパ部45c、46c(回転制限手段55)に係合されると、フレクスプライン35および回転部材28の回転(逆転)が制限されるため、入力軸25の回転によって、サーキュラスプライン36およびねじ部材27が回転されるようになる。
なお、電動モータ22は、図略のECUの信号に基づいて回転制御される。ECUには、図略のブレーキペダルの踏み込み量を検出するペダル操作センサの検出信号が入力され、ECUは、ペダル操作センサの検出信号に基づいて、所定の制動力を発生するためのブレーキパッド15、16の押圧力、すなわち、電動モータ22の回転量を算出するようになっている。
次に、上記した第1の実施の形態における電動ブレーキ装置の動作を、図5および図6の概略図に基づいて説明する。非制動時(初期位置)においては、図5に示すように、スプリング52の付勢力によって軸動部材41が回転部材28側に押圧され、転動ローラ51は回転部材28の円周方向に隣合う第1カム部45の間および軸動部材41の円周方向に隣合う第2カム部46の間にそれぞれ位置されて、回転部材28と軸動部材41との間に挟圧され、軸動部材41と回転部材28は最も接近した状態に保持されている。
この状態において、電動モータ22が図略のブレーキペダルの踏み込み信号に基づいて正転駆動されると、ロータ23とともに入力軸25が正転方向(図6の矢印方向)に回転され、ウェブジェネレータ33が回転される。ウェブジェネレータ33の回転により、フレクスプライン35とサーキュラスプライン36が回転せんとする。
この際、サーキュラスプライン36に結合されたねじ部材27は径が大きいため慣性が大きく、しかも、ねじ面に作用する摩擦によって抵抗が大きいため、入力軸25の回転によってフレクスプライン35とともに回転部材28のみが入力軸25の回転方向と同方向(図6の矢印方向)に回転され、ねじ部材27は静止状態に保持される。
回転部材28の回転により、第1カム部45の勾配部45aに転動ローラ51が転動しながら乗り上げ、かつ転動する転動ローラ51は軸動部材41側の第2カム部46の勾配部46aに乗り上げる。これにより、軸動部材41は、スプリング52の付勢力に抗して回転部材28に対して離間する方向に移動され、押圧部42を介して第1のブレーキパッド15がブレーキロータ10に接近する方向に移動され、ブレーキロータ10の端面に押付けられる。第1のブレーキパッド15がブレーキロータ10の端面に押付けられると、その反力によってキャリパ11がスライドピン13(図1参照)に沿って移動され、図6に示すように、キャリパ11に取付けられた第2のブレーキパッド16もブレーキロータ10の端面に押付けられ、制動力が発生される。
ブレーキの解除時は、ブレーキペダルの解除信号に基づいて、電動モータ22が逆転駆動される。これにより、ロータ23とともに入力軸25が逆転方向(図6の反矢印方向)に回転され、ウェブジェネレータ33が回転される。ウェブジェネレータ33の回転により、回転部材28が入力軸25の回転方向と同方向に回転され、上記したと逆の動作によって、軸動部材41とともに第1のブレーキパッド15が後退される。そして、回転直動変換機構43が図5に示す初期位置まで復帰されると、電動モータ22の回転が停止される。
ところで、第1および第2のブレーキパッド15、16の摩擦材15a、16aは使用につれて次第に摩耗し、これを放置すると、初期位置における第1および第2のブレーキパッド15、16とブレーキロータ10とのギャップ量が大きくなり、制動時の応答性が悪化することになる。
そこで、本実施の形態においては、必要時に、例えば、毎日1回最初にエンジンを始動させた際に、摩擦材15a、16aの摩耗補償を実行するようになっており、以下、摩耗補償動作について図7に基づいて説明する。
図5に示すように、回転直動変換機構43が初期位置に保持されている状態において、図略のECUより摩耗補償の実行が指令されると、電動モータ22が逆転駆動され、ロータ23とともに入力軸25が図7(A)の矢印方向に逆転される。入力軸25の逆転により、回転部材28が入力軸25と同方向に回転されるため、第1カム部46の段差部45bに転動ローラ51が転動しながら乗り上げ、かつ転動する転動ローラ51は軸動部材41側の段差部45bにも乗り上げる(図7(A)参照)。これにより、軸動部材41は、第1および第2段差部45、46の各段差分S1(図3参照)の2倍の量だけ、スプリング52の付勢力に抗してブレーキロータ10に向かって移動される。
電動モータ22によって回転部材28がさらに逆転されると、図7(A)に示すように、転動ローラ51が第1および第2ストッパ部45c、46cに係合し、回転部材28のそれ以上の回転が阻止される。従って、電動モータ22による入力軸25の逆転によって、ねじ部材27に結合されたサーキュラスプライン36が、ねじ部材27とキャリパ11のねじ穴26との摩擦抵抗に打ち勝って、入力軸25の回転方向と反対の方向、すなわち、正転方向に回転される。これにより、ねじ部材27がねじ穴26内を正転され、ねじ部材27はねじのリードに従ってブレーキロータ10に向かう方向に軸方向移動される。
かかるねじ部材27の回転かつ軸方向移動により、ねじ部材27の円筒穴27a内に収容された回転部材28および軸動部材41等は、ねじ部材27に対して相対回転しながら、すなわち、非回転状態を維持しながら、ねじ部材27と一体的にスラスト方向に移動され、図7(B)に示すように、第1および第2のブレーキパッド15、16の摩擦材15a、16bがブレーキロータ10に当接される。
その後、電動モータ22を所定角度だけ正転駆動して、入力軸25を図7(B)の矢印方向に正転させると、回転部材28が正転方向に所定角度回転され、図7(C)に示すように、転動ローラ51が第1および第2カム部45,46の各段差部45b、46bより離脱して、回転部材28と軸動部材41の対向面28a、41a(図5参照)に再び当接される。これにより、軸動部材41および押圧部42がブレーキロータ10から離れる方向に一定量後退され、第1および第2のブレーキパッド15、16とブレーキロータ10との間には、トータルで段差部45b、46bの段差分S1の2倍の隙間が形成され、これが新たな初期位置となる。
このように、摩耗補償動作の実行により、ブレーキパッド15、16とブレーキロータ10との間には、微小量の適正な隙間(ギャップ)が形成できるので、ブレーキパッド15、16の摩擦材15a、16aの摩耗に拘らず、ブレーキ効きの応答性を常に良好に維持できるようになる。
なお、第1および第2のブレーキパッド15、16の摩擦材15a、16aが所定量摩耗して寿命となった場合には、摩擦材15a、16aを交換する必要があるが、この際、上記した回転直動変換機構43の第1および第2カム部45、46の各勾配部45a、46aの頂点に、回転部材28の正転方向の回転を阻止するストッパ部を別個設けることにより、電動モータ22の回転を利用して摩擦材15a、16aの交換を可能にできる。
すなわち、まず、回転直動変換機構43の初期位置において、摩擦材15a、16aを取外し、その状態で、電動モータ22を正転方向に回転すると、上記したように、波動歯車機構31のフレクスプライン35とともに回転部材28が正転方向に回転される。これによって、転動ローラ51が第1および第2カム部45、46の各勾配部45a、46aに乗り上げ、その勾配の頂点に設けたストッパ部に当接する。転動ローラ51がストッパ部に当接すると、回転部材28のそれ以上の正転方向の回転が阻止されるため、今度は波動歯車機構31のサーキュラスプライン36とともにねじ部材27が逆転方向に回転され、ねじ穴26内を後退される。
ねじ部材27が所定の後退位置まで後退された状態で、電動モータ22を逆転方向に回転すると、回転部材28が逆転されて転動ローラ51が、回転部材28および軸動部材41の対向面28a、41aに当接される。その状態で、ブレーキパッド15、16の裏板15b、16bに新たな摩擦材15a、16aを取付ける。しかる状態で、上記した摩耗補償動作を実行し、摩擦材15a、16aとブレーキロータ10とのギャップを一定に確保する。
図8は、本発明の第2の実施の形態を示すもので、第1の実施の形態と異なる点は、第1の実施の形態においては、キャリパ11のねじ穴26とねじ部材(スラスト力支持部材)27とのねじ嵌合による摩擦抵抗によってねじ部材27を静止状態に保持するようにしたが、第2の実施の形態においては、ねじ部材27に動作抵抗を積極的に付与する手段を別個に設け、ねじ部材27の静止状態の保持を確実に行えるようにしたことである。従って、以下においては、第1の実施の形態と異なる点を主に説明し、同一構成部分については同一部品に同一の参照番号を付し、説明を省略する。
図8において、キャリパ11に形成されたねじ穴26には、ねじ部材27が螺合されている。また、ねじ穴26には、ねじ部材27のフランジ部27bに対向して、動作抵抗力を一定に補償するねじ補償部材61が螺合されている。ねじ補償部材61とフランジ部27bのいずれか一方、例えば、フランジ部27b側には、連結部としての連結部材62が円周上複数結合され、ねじ補償部材61とフランジ部27bの他方、例えば、ねじ補償部材61側には、連結部材62をねじ部材27の軸線方向に摺動可能に嵌合する連結穴63が円周上複数形成されている。これら連結部材62によって、ねじ部材27とねじ補償部材61は、回転方向には一体回転可能に、かつ軸方向には相対移動可能に連結されている。
ねじ部材27のフランジ部27bとねじ補償部材61との間には、付勢部材としてのコイルばねからなるスプリング64が介装され、このスプリング64の付勢力によってねじ部材27をねじ補償部材61に対してロータ10側に向けてねじ部材27のスラスト方向に付勢している。かかるスプリング64によるスラスト方向の付勢力によってねじ部材27のねじ部がねじ穴26のねじ部に押圧され、摩擦抵抗を発生させるようにしている。この場合、ねじ部材27が回転すると、ねじ補償部材61も連結部材62を介して一体に回転され、ねじ部材27とねじ補償部材61はねじ作用によって軸方向に一体的に移動される。このため、ねじ部材27が軸方向に移動しても、ねじ補償部材61との間に設置したスプリング64のたわみ量は変化せず、常に一定のばね力に補償される。従って、ねじ部材27の軸方向移動に係わらず、ねじ部材27のねじ部に作用する摩擦抵抗が一定となり、ねじ部材2に常に一定の摩擦抵抗を安定的に付与することができるようになる。
上記したねじ補償部材61、連結部(連結部材)62およびスプリング64によって、ねじ部材27の移動に係わらずねじ部材27に常に一定の動作抵抗(摩擦抵抗)を付与する動作抵抗付与手段65を構成している。なお、連結部62は、ねじ部材27のフランジ部27bとねじ補償部材61の対向面に、回転方向には一体回転可能に、かつ軸方向には相対移動可能に係合する係合部を設けた構成としてもよい。
このように上記した第2の実施の形態においては、動作抵抗付与手段65によってねじ部材27に所定の動作抵抗が付与されているため、入力軸25が回転されると、通常はサーキュラスプライン36とともに回転部材28が回転され、フレクスプライン35およびねじ部材27は回転されず、停止状態に保持される。そして、回転部材28の回転により、転動ローラ51が第1および第2カム部45、46の各ストッパ部45c、46c(回転制限手段55)に係合されると、フレクスプライン35および回転部材28の回転(逆転)が制限されるため、入力軸25の回転によって、サーキュラスプライン36とともにねじ部材27が動作抵抗付与手段65による動作抵抗に抗して回転されるようになる。
上記した第2の実施の形態によれば、動作抵抗付与手段65によってねじ部材27に所定の動作抵抗を付与するように構成したため、ねじ部材27のねじ嵌合による摩擦に頼る必要がなく、キャリパ11のねじ穴26とねじ部材27との嵌合精度を多少ラフに構成しても、ねじ部材27に動作抵抗を確実に付与することができるようになる。
図9は、上記した第2の実施の形態の変形例を示すもので、スプリング64に代えて弾性ゴム66を、ねじ部材27のフランジ部27bとねじ補償部材61との間に圧縮した状態で介装したものである。これによっても、スプリング64と同様な作用効果を奏することができる。なお、弾性ゴム66は、1つのリング状のもので構成しても、あるいは棒状の弾性ゴムを円周上複数配列する構成であってもよい。
図10および図11は、本発明の第3の実施の形態を示すもので、上記した第2の実施の形態と異なる点は、ねじ部材27にラジアル方向の動作抵抗を付与するようにしたことである。
図10および図11において、ねじ部材27のフランジ部27bには、例えば、円周上2か所に、収納凹部71(図11参照)が形成され、収納凹部71はフランジ部27bの外周に開口されている。各収納凹部71には、角型の摩擦係合体72がそれぞれ径方向に摺動のみ可能に嵌合されている。摩擦係合体72の外面には、キャリパ11のねじ穴26にねじ係合するねじ部72aが形成されている。収納凹部71の底部と摩擦係合体72との間には、付勢部材としてのコイルばねからなるスプリング73が介装され、このスプリング73の付勢力によって摩擦係合体72をねじ部材27の内側からキャリパ11のねじ穴26に向けて押圧し、摩擦係合体72のねじ部72aをキャリパ11のねじ穴26に摩擦係合させるようになっている。かかる摩擦係合体72とスプリング73によって、ねじ部材27に常に一定の動作抵抗を付与する動作抵抗付与手段65を構成している。
上記した第3の実施の形態によれば、摩擦係合体72がねじ部材27と一体的に回転されるため、ねじのリードに従って摩擦係合体72をねじ部材27と一体的に軸方向に移動することができる。従って、第2の実施の形態におけるねじ補償部材61を別途設けなくても、ねじ部材27の軸方向移動に係わらず常に一定の動作抵抗を安定的に付与することができる。
図12は、本発明の第4の実施の形態を示すもので、キャリパ11に収納穴171をねじ部材27の略径方向に貫通するように形成し、この収納穴171に摩擦係合体172を摺動のみ可能に収納したものである。摩擦係合体172の先端面には、ねじ部材27のねじ部にねじ係合するねじ部172aが形成されている。収納穴171の開口端部にはスプリング受け174が螺着され、スプリング受け174と摩擦係合体172との間に、摩擦係合体172をねじ部材27のねじ部に向けて押圧する付勢部材としてのコイルばねからなるスプリング173が介装されている。かかるスプリング173の付勢力によって摩擦係合体172をねじ部材27のねじ部に向けてラジアル方向に押圧するようになっている。上記した摩擦係合体172およびスプリング173によって、ねじ部材27に常に一定の動作抵抗を付与する動作抵抗付与手段65を構成している。
すなわち、先に述べた第3の実施の形態においては、摩擦係合体72をねじ部材27の内側からキャリパ11のねじ穴26に向けてラジアル方向に押圧するのに対して、第4の実施の形態においては、摩擦係合体172をねじ部材27の外側からねじ部材27のねじ部に向けてラジアル方向に押圧するようにしている。第4の実施の形態によれば、摩擦係合体172をスプリング173の付勢力によって、ねじ部材27のねじ部に押圧することによって、ねじ部材27に常に一定の動作抵抗を付与することができる。
なお、第3の実施の形態および第4の実施の形態においても、第2の実施の形態の変形例として述べたように、スプリング73、173に代えて弾性ゴム等の弾性体を用いることもできる。
図13は、本発明の第5の実施の形態の変形例を示すもので、動作抵抗付与手段65の付勢部材として、永久磁石273の磁力を利用したものである。ねじ部材27のフランジ部27bの外周には、図11で示した収納凹部71と同様な収納凹部が円周上2か所形成され、これら収納凹部に、図13に示すように、角型の摩擦係合体272が径方向に摺動のみ可能に収納されている。摩擦係合体272の外面には、キャリパ11のねじ穴26にねじ係合するねじ部272aが形成されている。収納凹部の底部と、これに対向する摩擦係合体272の内面には、それぞれ永久磁石273、273が互いに反発し合う極性で対向して植設されている。これら永久磁石273による反発力によって、摩擦係合体272をねじ部材27の内側からキャリパ11のねじ穴26に向けて押圧し、摩擦係合体272のねじ部272aをキャリパ11のねじ穴26に摩擦係合させるようになっている。かかる摩擦係合体272および永久磁石273によって、ねじ部材27に常に一定の動作抵抗を付与する動作抵抗付与手段65を構成している。
この場合、永久磁石273を、第4の実施の形態と同様に、ねじ部材27の外側からねじ部材27のねじ部に向けてラジアル方向に押圧するように配置することもできる。あるいはまた、第2の実施の形態と同様に、ねじ部材27をスラスト方向に押圧するように配置することもできる。
このように、動作抵抗付与手段65としては、スプリングあるいは弾性ゴム等に限定されることなく、ねじ部材(スラスト力支持部材)27をスラスト方向あるいはラジアル方向に押圧することによって、スラスト力支持部材27に動作抵抗を付与できるものであればどのような構成であってもよい。
なお、スラスト力支持部材27をスラスト方向に押圧する場合であっても、図8におけるねじ補償部材61は、必ずしも必須の要素ではなく、スラスト力支持部材27の軸方向移動に伴ってスプリングが撓んでも、ばね力の変化が小さなスプリングを選択すれば、ねじ補償部材61を省略することもできる。
上記した実施の形態においては、1入力2出力の減速機構31として、波動歯車機構を用いた例について述べたが、本発明は、波動歯車機構に限定されるものではなく、例えば、遊星歯車機構からなる減速機構を用いてもよいものである。同様に、電動モータ22もビルトインモータに限定されるものではない。
また、上記した実施の形態においては、回転直動変換機構43を、回転部材28と軸動部材41との対向面28a、41aにそれぞれ設けられた第1および第2カム部45、46と、これらカム部45、46の間に配設された転動ローラ51とによって構成した例について説明したが、回転直動変換機構43は実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば、曲面状の勾配部45a(46a)を平面状の勾配部として実施することも可能である。
また、回転直動変換機構43を、カム部を用いて構成する場合においても、必ずしも2組のカム部(第1および第2カム部45、46)を対向して設ける必要はなく、少なくとも回転方向の一端側に勾配部を、回転方向の他端側に一定高さの段差部を備えた1組のカム部によっても実施可能である。
また、上記した実施の形態においては、摩擦材15a、16aの摩耗補償動作を、毎日1回最初にエンジンを始動させた際に行う例について説明したが、摩耗補償動作の実行は、1日1回ではなく、エンジン始動時毎に行ってもよいし、一定距離あるいは一定時間走行する毎に行うようにしてもよい。要は、非制動時に、ブレーキロータ10とブレーキパッド15、16の摩擦材15a、16aとの間に、常に適正なギャップが設けられるように管理されればよい。
また、上記した実施の形態においては、非制動時のブレーキロータ10とブレーキパッド15、16との間のギャップを、回転直動変換機構43の段差部45b、46bによって形成できるようにしたが、例えば、ねじ部材27のバックラッシュを利用して、ブレーキロータ10とブレーキパッド15、16との間に僅かなギャップを形成することも可能であり、段差部45b、46bは必ずしも必要な要件ではない。
斯様に、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の形態を採り得ることは勿論である。
10…ブレーキロータ、11…キャリパ、15、16…ブレーキ部材(ブレーキパッド)、22…電動モータ、23…ロータ、25…入力軸、27…ねじ部材、28…回転部材、31…減速機構、35、36…出力要素、41…軸動部材、42…押圧部、43…回転直動変換機構、45a、46a…勾配部、45b、46b…段差部、45c、46c…ストッパ部、55…回転制限手段、61…ねじ補償部材、62…連結部(連結部材)、64、66、73、173、273…付勢部材、65…動作抵抗付与手段。