ところで、薄膜コンデンサにおける寄生抵抗は、コンデンサとしての電気特性を悪化させるため、寄生抵抗を可能な限り小さくすることが要求される。共通の下部電極層2によって、2個の容量形成部が電気的に直列接続された構造を有する図1,図2に示す従来の薄膜コンデンサにおいて、下部電極層2に高い比抵抗を有する材料を用いる場合には、高抵抗な下部電極層2による寄生抵抗によって、コンデンサとしての電気特性が悪化する問題がある。この問題を解決するためには、下部電極層2による寄生抵抗ができるだけ低減される構造を選択することが重要である。
そのため、図1,図2に示す従来の薄膜コンデンサにおいて、下部電極層2による寄生抵抗を低減させるためには、下部電極層2を流れる電流の経路の長さをできるだけ短く、経路の幅をできるだけ広くするような構造にすることが有効である。具体的には、図4に示すように、隣接して配置される上部電極層4A,4Bの、対向する辺の長さの総和をできるだけ長く、また対向する辺同士の距離をできるだけ短くすることとなる。
しかしながら、薄膜コンデンサには市場ニーズ等により決定されるサイズの制限や要求される容量値により決まるサイズの制限があり、上部電極層4A,4Bの対向する辺の長さの総和を無限に大きくすることはできず、現実的には限られた寸法内においてコンデンサを作製しなければならない。また微細加工技術の限界により、隣接する上部電極層4A,4Bの、対向して存在する辺の距離を0に無限に近づけることもできない。
このため、従来の薄膜コンデンサにおいては、下部電極層2による寄生抵抗を低減させる十分な工夫がなされておらず、Q値の低下等、薄膜コンデンサとしての電気特性が下部電極層2による寄生抵抗によって劣化してしまう。さらに、図3のようにこの従来の下部共通電極を有する薄膜コンデンサを直列接続すると、下部電極層による寄生抵抗は接続数倍だけ増加し、コンデンサとしての電気特性の劣化がより顕著になってしまう問題がある。
本発明はこのような従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、下部電極層による寄生抵抗が小さくコンデンサとしての電気特性に優れている、直列接続されたコンデンサを提供することにある。
本発明のコンデンサは、基体と、前記基体の上面に形成された第1下部電極層と、前記基体の上面に、前記第1下部電極層と分離して形成された第2下部電極層と、前記第1下部電極層と前記第2下部電極層とを覆って形成された誘電体層と、前記誘電体層を挟んで前記第1下部電極層と対向するように設けられた第1上部電極層と、前記誘電体層を挟んで前記第2下部電極層と対向するように設けられ、前記第1上部電極層と電気的に接続された第2上部電極層と、前記誘電体層を挟んで前記第1下部電極層と対向するように設けられ、前記第1上部電極層と分離して形成された第3上部電極層と、前記誘電体層を挟んで前記第2下部電極層と対向するように設けられ、前記第2上部電極層と分離して形成された第4上部電極層と、を含むコンデンサであって、前記第1上部電極層及び前記第2上部電極層の組み合わせと、前記第3上部電極層及び前記第4上部電極層の組み合わせと、の少なくとも一方は複数個あり、前記第1上部電極層と前記第3上部電極層とが1つずつ交互に配列されており、前記第2上部電極層と前記第4上部電極層とが1つずつ交互に配列されているものである。そして、前記第1上部電極層及び前記第2上部電極層を構成する材料は、前記第1下部電極層及び前記第2下部電極層に比べて電気抵抗率が小さく、前記第1上部電極層は、前記第3上部電極層よりも多く、前記第1上部電極層のうち前記第1上部電極層及び前記第3上部電極層の配列方向の両外側に位置するものは、配列方向における幅が第3上部電極層の幅の半分であり、前記第2上部電極層は、前記第4上部電極層よりも多く、前記第2上部電極層のうち前記第2上部電極層及び前記第4上部電極層の配列方向の両外側に位置するものは、配列方向における幅が第4上部電極層の幅の半分であるものである。
また、本発明のコンデンサは、上記構成において、前記誘電体層が、前記第1下部電極層と前記第2下部電極層とで共通となっているものである。
また、本発明のコンデンサは、上記構成において、前記第1下部電極層と前記第2下部電極層とが、前記第1上部電極層と前記第3上部電極層との配列方向と直交する方向に隣接して配置されており、前記第2上部電極層と前記第4上部電極層とが、前記第1上部電極層と前記第3上部電極層との配列方向と平行に配列されており、前記第1上部電極層と前記第2上部電極層とが共通となっているものである。
また、本発明のコンデンサは、上記構成において、前記第1上部電極層及び前記第3上部電極層は、配列方向における幅が、配列方向に垂直な方向における幅に比べ狭く、前記第2上部電極層及び前記第4上部電極層は、配列方向における幅が、配列方向に垂直な方向における幅に比べ狭いものである。
また、本発明のコンデンサは、上記構成において、前記第1下部電極層及び前記第2下部電極層はPtから成り、前記第1上部電極層及び前記第2上部電極層はAuから成るものである。
また、本発明のコンデンサは、上記構成において、前記誘電体層は、少なくともBa,Sr,Tiを含有するペロブスカイト型酸化物結晶体から成るものである。
また、本発明のコンデンサは、上記構成において、前記第1上部電極層及び前記第3上部電極層は、少なくとも1つの対向した辺同士が相互に噛み合う形状を有するものである。
また、本発明のコンデンサは、上記構成において、前記第2上部電極層及び前記第4上部電極層は、少なくとも1つの対向した辺同士が相互に噛み合う形状を有するものである。
また、本発明のコンデンサは、上記構成において、1つずつ交互に配列された前記第1上部電極層と前記第3上部電極層とのうち、一方の上部電極層に挟まれた他方の上部電極層の少なくとも1つは、前記一方の上部電極層の対向する辺のそれぞれに対して対応する外郭形状を有するものである。
また、本発明のコンデンサは、上記構成において、1つずつ交互に配列された前記第2上部電極層と前記第4上部電極層とのうち、一方の上部電極層に挟まれた他方の上部電極層の少なくとも1つは、一方の上部電極層の対向する辺のそれぞれに対して対応する外郭形状を有するものである。
また、本発明のコンデンサは、上記構成において、前記第1上部電極層及び第3上部電極層の前記対向する辺は、互いに対応する形状となっている部分の長さの総和をAとし、前記第1上部電極層及び前記第3上部電極層の外周辺上の2点間の距離の最大値をBとしたとき、A/(2B)>1を満たすものである。
また、本発明のコンデンサは、上記構成において、前記第2上部電極層及び第4上部電極層の前記対向する辺は、互いに対応する形状となっている部分の長さの総和をAとし、前記第2上部電極層及び前記第4上部電極層の外周辺上の2点間の距離の最大値をBとしたとき、A/(2B)>1を満たすものである。
また、本発明のコンデンサは、上記構成において、前記第1上部電極層及び前記第2上部電極層は、前記第1下部電極層及び前記第2下部電極層に比べてシート抵抗が小さいものである。
本発明のコンデンサによれば基体と、前記基体の上面に形成された第1下部電極層と、前記基体の上面に、前記第1下部電極層と分離して形成された第2下部電極層と、前記第1下部電極層と前記第2下部電極層とを覆って形成された誘電体層と、前記誘電体層を挟んで前記第1下部電極層と対向するように設けられた第1上部電極層と、前記誘電体層を挟んで前記第2下部電極層と対向するように設けられ、前記第1上部電極層と電気的に接続された第2上部電極層と、前記誘電体層を挟んで前記第1下部電極層と対向するように設けられ、前記第1上部電極層と分離して形成された第3上部電極層と、前記誘電体層を挟んで前記第2下部電極層と対向するように設けられ、前記第2上部電極層と分離して形成された第4上部電極層と、を含むコンデンサであって、前記第1上部電極層及び前記第2上部電極層の組み合わせと、前記第3上部電極層及び前記第4上部電極層の組み合わせと、の少なくとも一方は複数個あり、前記第1上部電極層と前記第3上部電極層とが1つずつ交互に配列されており、前記第2上部電極層と前記第4上部電極層とが1つずつ交互に配列されている。このことから、第1上部電極層と第3上部電極層とが対向する辺の距離,第2上部電極層と第4上部電極層とが対向する辺の距離を多く取ることができる。従って、通常高抵抗な材料から形成される第1下部電極層及び第2下部電極層内を通る電流の経路の幅を従来構造のものよりも広くした状態で、第1上部電極層及び第2上部電極層を接続しているので、複数個の容量形成部を寄生抵抗の小さい状態で接続することができ、その結果、従来よりも大きなQ値を有する、電気特性に優れたコンデンサを提供することができる。
また、本発明のコンデンサによれば、上記構成において、誘電体層が、第1下部電極層と第2下部電極層とで共通としたときには、上部電極層のパターニングのみで複数個の容量形成部を形成することができるので、製造が容易となり、生産性の高いコンデンサを提供することができる。また、第1下部電極層及び第2下部電極層と第1乃至第4上部電極層との電気的な絶縁を確保した状態で、第1乃至第4上部電極層を近接配置することができるので、小型なコンデンサを提供できるものとなる。
また、本発明のコンデンサによれば、上記構成において、第1下部電極層と第2下部電極層とが、第1上部電極層と第3上部電極層との配列方向と直交する方向に隣接して配置されており、第2上部電極層と第4上部電極層とが、第1上部電極層と第3上部電極層との配列方向と平行に配列されており、第1上部電極層と第2上部電極層とが共通となっているときには、第1下部電極層と第1上部電極層とで形成する容量形成部と、第2下部電極層と第2上部電極層とで形成する容量形成部とを近接配置することができるので、小型なコンデンサを提供することができるものとなる。
また、本発明のコンデンサによれば、上記構成において、第1上部電極層及び第2上部電極層を構成する材料は、第1下部電極層及び第2下部電極層に比べて電気抵抗率が小さいときには、電流の経路の幅を広くすることが難しく、電流の経路の長さが長くなる第1上部電極層及び第2上部電極層における寄生抵抗を少なくすることができ、大きなQ値を有する、電気特性に優れたコンデンサを提供することができる。
また、本発明のコンデンサによれば、上記構成において、第1下部電極層及び第2下部電極層はPtから成るときには、第1下部電極層及び第2下部電極層が耐熱性を有するので、誘電体層の材料及び製膜条件を所望の特性に合わせて自由に選択することができる。また、第1上部電極層及び第2上部電極層はAuから成るときには、第1下部電極層及び第2下部電極層に比べ、充分に電気抵抗率が小さいことから、電流の経路の幅を広くすることが難しく、電流の経路の長さが長くなる第1上部電極層及び第2上部電極層における寄生抵抗を少なくすることができ、大きなQ値を有する、電気特性に優れたコンデンサを提供することができる。
また、本発明のコンデンサによれば、上記構成において、誘電体層は、少なくともBa,Sr,Tiを含有するペロブスカイト型酸化物結晶体から成るときには、誘電率が高く、Q値の高いものとすることができる。
また、本発明のコンデンサによれば、上記構成において、第1上部電極層及び第3上部電極層は、少なくとも1つの対向した辺同士が相互に噛み合う形状を有するときには、対向した辺同士を接近させた状態のまま第1上部電極層と第3上部電極層とが対向する辺の長さの総和を大きくすることができるので、通常高抵抗な材料から形成される第1下部電極層内を通る電流の経路の幅を従来構造のものよりも広くすることができる。その結果、寄生抵抗を小さくすることができ、従来よりも大きなQ値を有する、電気特性に優れたコンデンサを提供することができる。
また、本発明のコンデンサによれば、上記構成において、第2上部電極層及び第4上部電極層は、少なくとも1つの対向した辺同士が相互に噛み合う形状を有するときには、対向した辺同士を接近させた状態のまま第2上部電極層と第4上部電極層とが対向する辺の長さの総和を大きくすることができるので、通常高抵抗な材料から形成される第2下部電極層内を通る電流の経路の幅を従来構造のものよりも広くすることができる。その結果、寄生抵抗を小さくすることができ、従来よりも大きなQ値を有する、電気特性に優れたコンデンサを提供することができる。
また、本発明のコンデンサによれば、上記構成において、1つずつ交互に配列された第1上部電極層と第3上部電極層とのうち、一方の上部電極層に挟まれた他方の上部電極層の少なくとも1つは、一方の上部電極層の対向する辺のそれぞれに対して対応する外郭形状を有するときには、対向した辺同士を接近させた状態のまま第1上部電極層と第3上部電極層とが対向する辺の長さの総和を大きくすることができるので、通常高抵抗な材料から形成される第1下部電極層内を通る電流の経路の幅を従来構造のものよりも広くすることができる。その結果、寄生抵抗を小さくすることができ、従来よりも大きなQ値を有する、電気特性に優れたコンデンサを提供することができる。
また、本発明のコンデンサによれば、上記構成において、1つずつ交互に配列された第2上部電極層と第4上部電極層とのうち、一方の上部電極層に挟まれた他方の上部電極層の少なくとも1つは、一方の上部電極層の対向する辺のそれぞれに対して対応する外郭形状を有するときには、対向した辺同士を接近させた状態のまま第2上部電極層と第4上部電極層とが対向する辺の長さの総和を大きくすることができるので、通常高抵抗な材料から形成される第2下部電極層内を通る電流の経路の幅を従来構造のものよりも広くすることができる。その結果、寄生抵抗を小さくすることができ、従来よりも大きなQ値を有する、電気特性に優れたコンデンサを提供することができる。
また、本発明のコンデンサによれば、上記構成において、第1上部電極層及び第3上部電極層の対向する辺は、互いに対応する形状となっている部分の長さの総和をAとし、第1上部電極層及び第3上部電極層の外周辺上の2点間の距離の最大値をBとしたとき、A/(2B)>1を満たすときには、第1上部電極層と第3上部電極層とが対向する辺の長さの総和を大きくすることができるので、通常高抵抗な材料から形成される第1下部電極層内を通る電流の経路の幅を従来構造のものよりも広くすることができる。その結果、寄生抵抗を小さくすることができ、Q値が高く、電気特性が優れたコンデンサを提供することができる。
また、本発明のコンデンサによれば、上記構成において、第2上部電極層及び第4上部電極層の対向する辺は、互いに対応する形状となっている部分の長さの総和をAとし、第2上部電極層及び第4上部電極層の外周辺上の2点間の距離の最大値をBとしたとき、A/(2B)>1を満たすときには、第2上部電極層と第4上部電極層とが対向する辺の長さの総和を大きくすることができるので、通常高抵抗な材料から形成される第2下部電極層内を通る電流の経路の幅を従来構造のものよりも広くすることができる。その結果、寄生抵抗を小さくすることができ、Q値が高く、電気特性が優れたコンデンサを提供することができる。
また、本発明のコンデンサによれば、上記構成において、第1上部電極層及び第2上部電極層は、第1下部電極層及び第2下部電極層に比べてシート抵抗が小さいときには、電流の経路の幅を広くすることが難しく、電流の経路の長さが長くなる第1上部電極層及び第2上部電極層における寄生抵抗を少なくすることができ、大きなQ値を有する、電気特性に優れたコンデンサを提供することができる。
以下、本発明のコンデンサの実施の形態の例について、図面を参照しつつ説明する。
図5(a)は、本発明のコンデンサの第1の実施形態の一例を示す要部平面図であり、図5(b)は、図5(a)のA−A線矢視断面図,図5(c)は、図5(a)のB―B線矢視断面図である。
図5において、基体1上には、基体1の上面に形成された第1下部電極層としての下部電極層2aと、第1下部電極層と分離して形成された第2下部電極層としての下部電極層2bと、第1下部電極層と第2下部電極層とを覆って形成された誘電体層3と、が形成されている。この誘電体層3の上面には、誘電体層3を挟んで下部電極層2aと対向するように設けられた第1上部電極層としての上部電極層4aと、誘電体層3を挟んで下部電極層2bと対向するように設けられ、上部電極層4aと電気的に接続された第2上部電極層としての上部電極層4bと、誘電体層3を挟んで下部電極層2aと対向するように設けられ、第1上部電極層4aと分離して形成された第3上部電極層としての上部電極層4cと、誘電体層3を挟んで下部電極層2bと対向するように設けられ、上部電極層4bと分離して形成された第4上部電極層としての上部電極層4dと、が形成されている。ここで、第1上部電極層4a,第2上部電極層4b,第3上部電極層4c及び第4上部電極層4dはそれぞれ複数個あり、複数個の第1上部電極層4aと複数個の第3上部電極層4cとが1つずつ交互に配列されており、複数個の第2上部電極層4bと複数個の第4上部電極層4dとが1つずつ交互に配列されている。
なお、第1下部電極層と第2下部電極層とを合わせて下部電極層2,第1乃至第4上部電極層を合わせて上部電極層4とする。また、図5(a)において、下部電極層2a,2bの形成位置を破線で示している。さらに、以下の図面において、同様の箇所には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
ここで、複数の上部電極層4c,4dはそれぞれ、容量形成部の外側まで延在して形成されている。上部電極層4cの延在部それぞれに伝搬する信号を入力し、上部電極層4dの延在部それぞれから伝搬する信号を取り出せば、上部電極層4c,4dに入力端子及び出力端子としての機能を持たせることができる。これにより、入力端子から出力端子までの間に、上部電極4cと下部電極層2aとが対向する領域で形成する第1容量形成部と、下部電極層2aと上部電極層4aとが対向する領域で形成する第2容量形成部と、上部電極層4bと下部電極層2bとが対向する領域で形成する第3容量形成部と、下部電極層2bと上部電極層4dとが対向する領域で形成する第4容量形成部とが、直列に接続されたものとなる。ここで、第1容量形成部と第2容量形成部とは下部電極層2aを,第3容量形成部と第4容量形成部とは下部電極層2bを、それぞれ共有することで、両者を直列に接続している。この接続部における電流の経路の幅に着目すると、上部電極層4aと上部電極層4cとが対向する部分,上部電極層4bと上部電極層4dとが対向する部分が多くなるので、下部電極層2a,2b内を流れる電流の経路の幅が広くなり、その結果、寄生抵抗が少なくなりQ値の高いコンデンサとすることができる。
また、第2容量形成部と第3容量形成部とを上部電極層4a,4bを電気的に接続することで、第1〜第4容量形成部を、寄生抵抗の少ない状態で直列に接続させることができるので、所望の容量を有するコンデンサを、従来に比べQ値の高いものとすることができる。なお、図5では、上部電極層4a,4bは第2容量形成部と第3容量形成部とを越えて形成される延在部を有し、その延在部同士が接合されている。図5においては、この延在部同士の接合部に4eを付して区別しているが、実際には上部電極層4a、4bを同一プロセスで一体的に作製するのが好ましい。
また、図5に示すように、誘電体層3を、下部電極層2aと下部電極層2bとで共通としたときには、上部電極層4のパターニングのみで複数個の容量形成部を形成することができるので、製造が容易となり、生産性の高いコンデンサを提供することができる。また、下部電極層2a及び下部電極層2bと上部電極層4a〜4dとの電気的な絶縁を確保した状態で、上部電極層4a〜4dを近接配置することができるので、小型なコンデンサを提供できるものとなる。
また、図5に示すように、下部電極層2aと下部電極層2bとが、上部電極層4aと上部電極層4cとの配列方向と直交する方向に隣接して配置されており、上部電極層4a,cの配列方向と、上部電極層4b,4dの配列方向とが互いに平行である、即ち配列方向が等しく、かつ上部電極層4aと上部電極層4bとが共通となっているときには、小型なコンデンサを提供することができるものとなる。
ここで、図5に示すように、上部電極層4a,4cの配列方向における幅(図面の上下方向の幅)は、配列方向に垂直な方向における幅(図面の左右方向の幅)に比べ充分に狭いことが好ましい。すなわち、下部電極層2a内を流れる電流の経路に沿う方向における容量形成部の幅が狭いことが好ましい。このような構成にすることで、所望の容量を得ることができるからである。例えば、図2に示すような従来のコンデンサにおいては、下部電極層2の電気抵抗が大きいため、2つの容量形成部は互いから離れるに従い、電流が流れにくくなり、形成する容量の大きさが小さくなる領域があった。また、2つの容量形成部のうち、互いから離れた側においては電流が流れず、実際に容量を形成する領域が少なくなっていることもあった。このため、所望の容量値を得られなかったり、容量形成部の面積に対して、容量形成効率が悪くなったりしていた。これに対して、図5の構成によれば、第1容量形成部と第2容量形成部とは、互いから離れた方向における幅が狭いことから、設計どおりの容量値を得ることができるとともに、容量形成部の面積に対して、効率よく容量を形成することができるので、信頼性が高く、かつ小型なコンデンサとすることができる。これは、上部電極層4b,4dについても同様である。
ここで、図16を用いて、図5に示すコンデンサの各容量形成部の接続状態を説明する。図16は、図5に示すコンデンサの等価回路図である。
図16において、Inは図5の上部電極層4cがその機能を果たす入力端子,R4c1〜R4c3は、図5の上部電極層4cの抵抗成分,C11〜C13は、第1容量形成部としての容量部,R2a1〜R2a6は、図5の第1容量形成部と第2容量形成部との間を接続する下部電極層2aの抵抗成分,C21〜C24は第2容量形成部としての容量部,R4a1〜R4a4は、図5の第2容量形成部と第3容量形成部とを接続する上部電極層4a,接続部4e,上部電極層4bとの抵抗成分,C31〜C34は第3容量形成部としての容量部,R2b1〜R2b6は、図5の第3容量形成部と第4容量形成部との間を接続する下部電極層2bの抵抗成分,C41〜C43は第4容量形成部としての容量部,R4d1〜R4d3は、図5の上部電極層4dの抵抗成分,Outは、図5の上部電極層4dがその機能を果たす出力端子、をそれぞれ示す。
図16に示すように、入力端子Inから、第1容量形成部としての容量部C11〜C13が抵抗成分R4c1〜R4c3を介して並列に接続されている。この容量部C11〜C13にそれぞれ、第2容量形成部としての容量部C21〜C24が抵抗成分R2a1〜R2a6を介して直列に接続されている。この容量部C21〜C24同士は並列に接続されている。次に、この容量部C21〜C24に、抵抗成分R4a1〜R4a4を介して、第3容量形成部としての容量部C31〜C34が直列に接続されている。この容量部C31〜C34同士は並列に接続されている。次に、この容量部C31〜C34に、抵抗成分R2b1〜R2b6を介して、第4容量形成部としての容量部C41〜C43が直列に接続されている。この容量部C41〜C43同士は並列に接続されている。次に、この容量部C41〜C43が、抵抗成分R4d1〜R4d3を介して出力端子Outに接続されている。
このように、第1〜第4容量形成部のそれぞれを構成する複数の容量部は並列に接続されているものとなる。また、個々の容量部に着目すると、第1〜第4容量形成部は直列に接続されている。
なお、抵抗成分R4c1〜R4c3,R4a1〜R4a4,R4d1〜R4d3は、図5の上部電極層4で構成されるため、図5の下部電極層2で構成される抵抗成分R2a1〜R2a6,R2b1〜R2b6に比べ抵抗が少ないものとなる。
このように、第1容量形成部が複数の容量部を並列接続されて形成されているので、複数の容量部のうちの1つがオープン不良となってもその他の容量部でカバーされ、第1容量形成部全体としてはわずかな容量低下のみに抑えることが出来る。これは、第2〜第4容量形成部についても同様である。
次に、具体的な構成について説明する。
基体1は、耐熱性が高く、基体1上に形成する容量形成部を支持することができる強度を有し、基体1上に形成される下部電極層2及び誘電体層3の表面が平滑になるように、十分な平坦度の表面粗さを有していることが好ましい。また、容量形成部を積層する側の表面(上面)が絶縁性を有するものであれば特に材料を限定するものではないが、例えば、Al2O3,SiO2/Si,MgO,LaAlO3,SrTiO3などのセラミックス基板やサファイア等の単結晶基板を使用することができる。
下部電極層2には、誘電体層3の形成時に高温下での処理が必要となる場合があるため、耐熱性を考慮して、高融点の材料を用いることが望ましい。また、その上面に誘電体層3を配向性良く成長させるために、結晶性や表面モフォロジーが良く,誘電体層3と格子定数が近いことが望ましい。さらに、誘電体層3が金属酸化物より成る場合には、酸化されにくい金属であることが望ましい。以上のことから、下部電極層2に好適な材料として、白金や、酸化イリジウム等の酸化物導電体等が一般的に用いられる。下部電極層2a,2bは同じ材料でもよいし、互いに異なる材料でもよい。
下部電極2の厚みは、電極としての抵抗成分、下部電極2の連続性を考慮した場合は、厚い方が望ましいが、基体1との密着性を考慮した場合は、相対的に薄いほうが望ましく、両方を考慮して決定される。具体的には、0.1μm〜10μmである。これは、0.1μmよりも薄くすると、下部電極2自身の抵抗が大きくなるほか、非形成部ができ電極の連続性が確保できなくなる可能性があるからであり、10μmより厚くすると、基体1との密着性が低下したり、基体1の反りを生じたりするおそれがあるからである。
誘電体層3には、高誘電率を有する結晶性誘電体材料、チタン酸ストロンチウム,チタン酸バリウム,チタン酸バリウムストロンチウム,チタン酸鉛等のペロブスカイト型酸化物誘電体材料を用いることが望ましい。特に、少なくともBa,Sr,Tiを含有するペロブスカイト型酸化物結晶体を用いた場合には、高誘電率でQ値の高いものとなり好ましい。
また、上部電極層4としては、上部電極層4による抵抗を低くするために、高い導電性を有する材料が好ましく、例えば、金、アルミニウム、銅等を好適に用いることができる。上部電極層4a〜4dは同一材料を用いてもよいし、互いに異なる材料を用いてもよい。
上部電極層4の厚みは、電極としての抵抗成分、および上部電極層4の連続性を考慮した場合は、厚い方が望ましいが、誘電体層3との密着性を考慮した場合は、相対的に薄いほうが望ましく、両方を考慮して決定される。具体的には、0.1μm〜10μmである。これは、0.1μmよりも薄くすると、上部電極層4自身の抵抗が大きくなるほか、非形成部ができ電極としての連続性が確保できなくなる可能性があるからであり、10μmより厚くすると、誘電体層3との密着性が低下するおそれがあるからである。
ここで、上部電極層4a,4c及び上部電極層4b,4dは、互いに対向する辺が複数存在する構成となっている。このため、隣接して配置される上部電極層4a,4c及び上部電極層4b,4dが互いに対向する辺の長さの総和を従来構造より長くすることができるので、通常高抵抗な材料から形成される下部電極層2及び下部電極層3内を通る電流の経路の幅を従来構造のものよりも広くすることができ、コンデンサの寄生抵抗を従来のものより低減することができる。
また、上部電極層4a,4bは、下部電極層2a,2bに比べて電気抵抗率の低い材料を用いることが好ましい。特に、上部電極層4a,4bとしてAuを、下部電極層2a,2bとしてPtを用いることが好ましい。電流の経路の幅を広くすることが難しく、かつ電流の経路の長さが長くなる上部電極層4a,4bにおける寄生抵抗を少なくすることができ、大きなQ値を有する、電気特性に優れたコンデンサを提供することができるからである。また、下部電極層2としてPtを用いることで、その上に誘電体層3を結晶性よく形成することができるので、さらにQ値の高いコンデンサを提供することができる。
また、上部電極層4a,4bは、下部電極層2a,2bに比べてシート抵抗が低いことが好ましい。下部電極層2a,2bは、その上に形成される誘電体層3を結晶性よく成長させるために、その膜厚が制限される。例えば、Ptを用いた場合に、電極としての抵抗を少なくするように十分厚く形成すると、誘電体層3を結晶性よく形成することができない。このため、下部電極層2a,2bは、材料のみならず厚みの要因でも抵抗の大きいものとなるので、本発明では下部電極層2a,2bの電流の経路の幅を広くして、損失を抑制している。また、上部電極層4a,4bについては、下部電極層2a,2bよりもシート抵抗を小さくすることで、電流の経路の幅を広くすることが難しく、かつ電流の経路の長さが長くなる上部電極層4a,4bにおける寄生抵抗を少なくすることができる。これにより、大きなQ値を有する、電気特性に優れたコンデンサを提供することができる。シート抵抗を小さくするためには、例えば、比抵抗の小さい材料を用いたり、厚みを大きくしたりすればよい。
次に、図5に示す第1の実施の形態の変形例について、図6〜図12を参照しつつ説明する。
図5に示す本発明の第1の実施の形態では、上部電極層4a〜4dの、図の上下方向における幅が同一に設定されているが、例えば図6に示すように上部電極層4a〜4dの幅を様々に変化させても良い。
特に、図5,図6に示すように、上部電極層4a,4bが共通となっており、これら上部電極層4a,4bの組み合わせが偶数個あり、且つこれら上部電極層4a,4bの組み合わせの数が、上部電極4c,4dの組み合わせの数よりも多い場合、すなわち、上部電極層4a,4bの組み合わせが上部電極層4a,4cの配列方向における両外側にある場合には、図7に示すように、下部電極層2を流れる電流の均一性を考慮して、上部電極層4a,4bの組み合わせの中で最も外側に位置する上部電極4a,4bの、図の上下方向における幅が他の電極の幅の半分であることが望ましい。
また上部電極層4の個数は自由に設定でき、上部電極層4a,4bの組み合わせと、上部電極層4c,4dの組み合わせの繰り返し個数を変えてもよいし、図8に示すように、上部電極層4c,4dの個数が異なっていてもよい。
また図5では上部電極層4a,4bが共通の電極によって構成され接続部4eを介して接続されているが、図9に示すように別々の電極で構成されていても良い。図9は、図5に示すコンデンサの変形例であり、(a)は平面図,(b)は図9(a)のC−C線矢視断面図,(c)は図9(a)のD−D線矢視断面図である。この場合には、接続部4eとして例えばボンディングワイヤ4e’などの周知の接続方法を用いて、両者を電気的に接続すればよい。ボンディングワイヤ4e’を用いることで、下部電極層2a,2bの配置を、上部電極層2a,2cの配列方向及び上部電極層2b,2dの配列方向とは関係なく適宜配置することができ、設計の自由度を上げることができる。また、誘電体層3が圧電性を有する場合に、誘電体層3が厚み縦方向に振動し、Q値が周波数に対して周期的に悪化する恐れがあるが、ボンディングワイヤ4e’により厚み縦方向の振動を散乱させることができるので、Q値の悪化のない、信頼性の高いコンデンサとすることができる。
また、図9に示すように、基体1,誘電体層3も、下部電極層2a,2bにそれぞれ対応するよう別々に形成されていてもよい。これにより、第1,第2容量形成部と、第3,第4容量形成部とを確実に分離することができる。
また、図9では接続部4eとしてボンディングワイヤ4e’を用いた例について示したが、図5の上部電極層4a,4bの延在部の接続部4e部を、上部電極層4a,4bと異なる材料で、両者を接続するように設けてもよい。
また図5では下部電極層2が2個の場合を例に説明したが、図10に示すよう、3個以上の複数個の下部電極層2を設けてもよい。その場合には、n個の下部電極層2の配列方向に沿って、2i―1個目と2i個目との両方の下部電極層2に対向するように設けた上部電極層4(例えば、上部電極層4a,4b)と、2i個目と2i+1個目との両方の下部電極層2に対向するように設けた上部電極層4(例えば、上部電極層4c,4d)と、を平面視で千鳥状に配置した構成とすればよい。ただし、iはn/2以下の整数である。
このような構成とすることで、複数の容量形成部をQ値の高い状態で接続することができるので、所望の容量が大きい場合でも、Q値の高い、電気特性の優れたコンデンサを大型化することなく提供することができる。
ここで、上部電極層4c及び上部電極層4dと外部回路とを電気的に接続する方法の例を図11,図12に示す。
図11は、図5に示すコンデンサにおいて上部電極層4c,4dと外部回路とを電気的に接続するための構成の一例を示す、(a)は平面図であり、(b)は図11(a)のE−E線矢視断面図である。
図11では、上部電極層4の少なくとも一部を覆って保護膜9を成膜し、保護膜9に上部電極層4cに達するコンタクトホール10a,10b,10c、及び上部電極層4dに達するコンタクトホール11a,11b,11cを形成した後、上部電極層4cに電気的に接続する引出し電極層12と、上部電極層4dに電気的に接続する引出し電極層13とを、それぞれ保護膜9上から容量形成部の外側まで形成している。ここで、図11では、コンタクトホール10a〜10c,11a〜11c形成部を点線で示している。
この引出し電極層12,13を、外部回路と接続するための入出力端子を形成するパッド電極とすることができる。また、引出し電極層12,13の抵抗は導電性を有する材料であれば特に限定されないが、電気抵抗率の低い例えばAu等を用いるのが好ましい。
ここで、保護膜9は、引出し電極層12,13と下部電極層2a,2bとの間、及び引出し電極層12,13と上部電極層4a,4bとの間の絶縁を保つために絶縁性を有する材料を用いればよいが、容量形成部への水分の浸入等を防ぐことができることから酸化ケイ素等を被覆性のよいCVD法などで形成するとよい。また、引出し電極層12,13は、抵抗の低い導電性材料であるAu等を用いればよい。
また、図12は、図5に示すコンデンサにおいて上部電極層4c,4dと外部回路とを電気的に接続するための構成の他の例を示す、(a)は平面図であり、(b)は図12(a)のF−F線矢視断面図であり、(c)は図12(a)のG−G線矢視断面図である。
図12に示すように、上部電極層4cを容量形成部の外側まで引き出すように延在させ、この延在部同士を接続するパッド電極層14を設けてもよい。同様に上部電極層4dにはパッド電極層15を設ければよい。パッド電極層14,15は、図12に示すように、上部電極層4c、4dの上部に別体として設けてもよいし、上部電極層4c、4dをパターニングする際に同一の膜を用い一括で形成してもよい。
パッド電極層14,15は、導電性を有する材料であれば特に限定されないが、電気抵抗率の低いAuが好ましい。
このような構成とすることで、図11において必要としていた絶縁膜9が不要となり、簡易な構成で外部回路との接続が可能な、生産性の高いコンデンサを提供することができる。
なお、図5〜図12では、誘電体層3が下部電極層2a,2bの全面を覆う場合を例に説明したが、誘電体層3を、下部電極層2a,2bと上部電極層4a〜4dとの絶縁を確保できる範囲で、下部電極層2a,2bの一部を覆うものとしてもよい。
また、図5〜図12では、誘電体層3を複数の上部電極層4a〜4dで共用しているが、上部電極層4a〜4dそれぞれに対して個別に設けてもよい。
さらに、以上の図5〜図12では、上部電極層4a〜4dとして全て矩形状のものを例に説明したが、矩形状に限定されるものではない。例えば、交互に配置された上部電極層4a,4c、上部電極層4b,4dの対向する辺の距離を長くするために、図17〜図20に示すような形状としてもよい。ここで、図17〜図20は、上部電極層4a,4cの形状の変形例を示す要部平面図である。図17〜図20において、上部電極層4b,4d,接続部4e,下部電極層2b等を省略している。また、誘電体層3を、下部電極層2aの一部を覆うものとし、さらに、上部電極層4a,4cそれぞれに対して個別に設けた例を示した。なお、上部電極層4b,4eも上部電極層4a,4cと同様の形状とすることができる。
例えば、図17(a)に示すように、上部電極層4aおよび上部電極層4cは、対向した辺同士が相互に噛み合う形状を有する構成としてもよい。
ここで、対向する辺とは、上面から見たときに互いに向き合う部分をいい、直線状の領域のみではなく曲線状の領域等も含むものとする。また、対向した辺同士が噛み合う形状とは、対向した辺上の2点間の距離が最大となるような2点を線分で結んだときに、上部電極層4a,上部電極層4cの少なくとも一方を横切る形状をいうものとする。すなわち、平面視でもしくは平面透視して、対向する上部電極層4aの少なくとも一部が、上部電極層4a,4cの並設方向に、隣接する上部電極層4cの一端よりも上部電極層4c側へ張り出すように配置されており、上部電極層4cの上部電極層4a側の部分(対向する部分)は上部電極層4aの形状に対応した形状となっている。このような構成を有するため、隣接して配置される上部電極層4aと上部電極層4cとが対向する辺の長さの総和を従来構造より長くすることができるので、通常高抵抗な材料から形成される下部電極層2a内を通る電流の経路の幅を従来構造のものよりも広くすることができ、コンデンサの寄生抵抗を従来のものより低減することができる。
上部電極層4aおよび上部電極層4cの形状および配置は、図17(a)に示すように、上部電極層4aは、上部電極層4cと対向する辺に櫛歯状の第1櫛歯領域4a1を有し、上部電極層4cは、上部電極層4aと対向する辺に第1櫛歯領域4a1と噛み合うように櫛歯状の第2櫛歯領域4c1を有するものとしてもよい。また、図17(b)に示すように、外形に曲線部を含むような形状の上部電極層4aと、上部電極層4aと対向する部分の形状が、上部電極層4aの形状に対応するような形状となっている上部電極層4cとを配列してもよい。なお、図17(c)は図17(b)のK−K線矢視図である。特に、図17(a)に示す構成とするときには、上部電極層4aと上部電極層4cとが対向する辺の長さの総和を飛躍的に大きくすることができるので、通常高抵抗な材料から形成される下部電極層2a内を通る電流の経路の幅を従来構造のものよりも広くすることができる。その結果、寄生抵抗を小さくすることができ、Q値が高く、電気特性が優れたコンデンサを提供することができる。なお、図17において、一組の上部電極層2a,2cのみ示したが、実際には、上部電極層2a,2cが複数個交互に配置されている。
また、図18に示すように、上部電極層4a,4cの形状は三角形状であっても良い。特に、最も長い辺同士を対向させるように配置すれば、上部電極層4a,4cが配置される領域の大きさに対して、対向する辺の長さの総和を大きくすることができる。なお、以下の図19,図20についても同様であるが、実際には、上部電極層4aは不図示の上部電極層4bに電気的に接続されている。
また、図19に示すように、1つずつ交互に配列された上部電極層4aと上部電極層4cとのうち、一方の上部電極層(この例では上部電極層4a)に挟まれた他方の上部電極層(この例では上部電極層4c)は、一方の上部電極層の対向する辺のそれぞれに対して対応する外郭形状を有するようにしてもよい。
また、例えば電極層4a,4cの形状は全て同一形状である必要はなく、図20に示すように、対向する辺同士が全て相互に対応する形状を有していれば、様々な形状が混在していても良い。
ここで、対向する辺同士が相互に対応する形状である、とは、対向する辺同士の離間する距離が変わらずに配置されていればよく、必ずしも噛み合う形状や、対向する部分で角部を有していたり、曲線状になっていたりする必要はなく、図18のように直線でもよい。このことから、図5〜図14に示すような矩形状のものも、並行に配置されることにより、対向する辺同士が相互に対応する形状であると言える。
いずれの場合も隣接して配置される上部電極層4a,4cの、対向する辺の長さの総和が従来構造のものよりも長くなるので、寄生抵抗を従来の薄膜コンデンサよりも低減できるものとなる。
なお、コンデンサを構成する全ての上部電極層4a〜4dを、図17〜図20に示すような形状とする必要はなく、交互に複数配置されている上部電極層4a,4c及び上部電極層4b,4dのいずれか一組のみ図17〜図20に示すような形状とすればよい。
また、上部電極層4a,4cの対向する辺は、互いに対応する形状となっている部分の辺の長さの総和をAとし、上部電極層4a,4cの外周辺上の2点間の距離の最大値をBとしたとき、A/(2B)>1を満たすことが望ましい。
ここで、上部電極層4a,4cの対向する辺が、A/(2B)>1を満たす構成となっていることによる効果を、図2に示す従来の薄膜コンデンサの場合と比較しつつ詳細に検討する。
図2において、上部電極層4Aおよび上部電極層4Bの対向する辺において、互いに対応する形状となっている部分の辺の長さの総和をAとし、上部電極層4A,4Bの外周辺上の2点間の距離の最大値をBとする。ここで、Bは上部電極層4A,4Bが配置された矩形状の領域の対角線の長さと等しくなり、市場ニーズ等によって決定される部品のサイズ等で規定される。従来の構成においては、Bは下式のように表される。
B=[(A/2)2+{G+2(S/A)}2](1/2)
ここでGは対向して配置された上部電極層4A,4Bの対向する辺同士の距離、Sは容量形成部の面積である。
図4に示すように、対向する辺の長さA/2を限りなく大きく、Gを限りなく小さくすることにより下部電極2による寄生抵抗は原理的に最小にすることができる。このときBは限りなくA/2に近い長さとなる。
しかしながら、Bは対向する辺を一辺に持つ三角形の斜辺に相当するため、原理的に、下式が成り立つ。
A/(2B)<1
これに対して、本発明の図5〜図14,図17〜図20に示すようなコンデンサによれば、上部電極層4a,4bが配置される領域の大きさは図2に示す例と同程度であっても、対応する辺の数を増やす(例えば、図5〜図14参照)ことで、容易にA/(2B)>1とすることができる。なお、上部電極層2a,2cが複数個交互に配置されているときに、前述のAは、上部電極層4a,4cが互いに対応する形状となっている部分の辺の長さの総和であり、Bは、電極層4a,4cが配置される領域の対角線の長さと等価となっている。例えば、図5の上部電極層4a,4cが形成された領域に着目すると、同じ大きさの領域,即ち同じBであるのに対して、Aは、図2に示す例に比べて6倍とすることができる。このように、従来の構成では実現不可能であったレベルまで、飛躍的に寄生抵抗を低減することができるものとなる。さらに、図17(a)に示すように、対応する辺同士の形状を、例えば、櫛歯数を多くしたり、櫛歯状に噛み合う部分の長さを長くしたりすることで、容易にA/(2B)>1とすることができる。具体的には、図5のように単純に直線的に対向している場合に比べて、櫛歯状に噛み合う部分の長さ×(櫛歯数−1)×2だけ対向する辺の長さを増やすことができる。このため、さらに飛躍的に寄生抵抗を低減することができるものとなる。
次に、図5に示す本発明におけるコンデンサを例にとり、本発明のコンデンサの製造方法の一例について説明する。
まず、基体1上に厚さ0.1〜10μmの白金膜をスパッタリング法を用いて成膜する。
次に、白金膜2i上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィによりパターニングを行った後、これをマスクに用いてエッチングを行ない、白金膜をパターニングして下部電極層2a,2bとし、レジストを除去する。
次に、その上に誘電体層3としてのチタン酸バリウムストロンチウム膜、さらにその上に厚さ0.1〜10μmの金膜を成膜する。
次に、金膜上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィによりパターニングを行い、これをマスクに用いて金膜をエッチングし上部電極層4a〜4dとし、レジストを除去する。
なお、下部電極層2と上部電極層4とにそれぞれ白金と金とを用いていた例で説明したが、他の金属や酸化物導電体、またはそれらの多層膜を用いても良い。
次に本発明のコンデンサの実施例について図面を参照しつつ説明する。具体的には、アンソフト社の電磁界シミュレータであるHFFS(High−Frequency Structure Simulator)を用いてシミュレーションを行い、本発明の構成のコンデンサと従来の構成の薄膜コンデンサとのQ値を比べた。
シミュレーションに用いたモデルの図を参照しながら説明する。
(比較例:モデル1)
図13は、シミュレーションに用いた従来の構成の薄膜コンデンサのモデルであるモデル1を示す図であり、(a),(b)はそれぞれ、その上部平面図とH−H線矢視断面図である。図13に示す薄膜コンデンサのモデル1では、基体1上に厚さ0.1μmの下部電極2a及び下部電極2b、これらの下部電極を覆う厚さ0.1μmの誘電体層3、厚さ1.2μmの上部電極層4A,4B,4Cが順次積層されて構成される4個の容量形成部(8a、8b、8c、8d)が下部電極2a,2b、上部電極層4Bを共有することで直列に接続された構成とした。なお、電極層4A,4Cはそれぞれ容量形成部の外側まで延びて形成されており、それぞれの容量形成部の外側における領域に端子電極7a,7bを設けた。
ここで基体1にはサファイアの物性値を用いた。下部電極層2a,2bにはPtの物性値を用いた。誘電体層3の物性値は、比誘電率330,Q値を200と設定した。また、上部電極層4A〜4C及び端子電極7a、7bは理想導体とした。また容量形成部8a、8b、8c、8dの上面の面積はそれぞれ5684μm2とした。このモデル1において、RF信号は端子電極7aの上面から入力され、端子電極7bの上面から出力される。
(実施例:モデル2)
次に、図14は、シミュレーションに用いた本発明のコンデンサのモデルであるモデル2を示す図であり、(a),(b)はそれぞれ、その上部平面図とI−I線矢視断面図である。モデル2は、上部電極層4a〜4dの配置を図7に示すような構成とした点以外はモデル1と同様の条件とした。以下、変更点のみを説明する。
モデル2では、上部電極層4a,4bの組み合わせと上部電極層4c,4dの組み合わせとが交互に配列されており、かつ上部電極層4c,4dはそれぞれ容量形成部の外側まで延びて形成されている。上部電極層4c,4dそれぞれの容量形成部の外側において、その上面に端子電極7a、7bを設けた。RF信号は端子電極7aの上面から入力され、端子電極7bの上面から出力される。また、誘電体層3を挟んで下部電極層2aと上部電極層4aとで形成される容量形成部の面積の和,誘電体層3を挟んで下部電極層2aと上部電極層4cとで形成される容量形成部の面積の和,誘電体層3を挟んで下部電極層2bと上部電極層4bとで形成される容量形成部の面積の和,及び誘電体層3を挟んで下部電極層2bと上部電極層4dとで形成される容量形成部の面積の和は、それぞれ5684μm2とした。このため、モデル2の容量形成部で形成される容量の合計は、モデル1と等しくなっている。
本実施例においては、モデル1が従来構造の薄膜コンデンサに相当し、モデル2が本発明のコンデンサに相当する。また本実施例において、上部電極層4の各電極層の対向した辺同士の距離は5μmとした。
(実施例と比較例との比較)
上記2種類のモデルにおいて入力するRF信号の周波数が500MHz〜4GHzにおけるQ値をシミュレーションした。
このようにしてシミュレーションを行った結果を図15に示す。図15において、横軸はRF信号の周波数の値(単位:Hz)を、縦軸はQ値(単位:なし)を表している。本発明のコンデンサをモデル化したモデル2のQ値は、従来のコンデンサをモデル化したモデル1のQ値よりも全ての周波数領域において大きくなり、従来に比べ損失の少ないコンデンサであることが実証された。
容量形成部面積はモデル1とモデル2において同一であるので、本発明のコンデンサによれば、コンデンサを大型化することなく、Q値を大幅に改善することができることが確認された。
次に、本明細書に定義されている、A,B及びA/(2B)の大きさと、コンデンサのQ値,寄生抵抗値の大きさと、の関係について検討する。
(比較例2:モデル3)
以下、モデル1と異なる点のみについて説明する。モデル1と同様の構成で、容量形成部を6個直列接続するようにし、下部電極層の厚さを0.1μ,誘電体層の厚さを0.1μm,上部電極層の厚さを1.2μm,誘電体層の比誘電率を330,Q値を200,容量形成部の上面の面積をそれぞれ4500μm2とした。
(実施例2:モデル4)
次に、図21(a)は、シミュレーションに用いた本発明のコンデンサのモデルであるモデル4を示す平面図である。図の縦方向に、2組の上部電極層4a,4cをそれぞれ交互に配置し、2組の上部電極層4b,4dを交互に配置している。さらに、基板1上に3つの下部電極層2a,2b,2cを設け、この下部電極層2a,2b,2cの配列方向に沿って、1個目と2個目との両方の下部電極層2a,2bに対向するように設けた上部電極層4(上部電極層4a,4bを電気的に接続したもの)と、2個目と3個目との両方の下部電極層2b,2cに対向するように設けた上部電極層4(上部電極層4c,4dを電気的に接続したもの)と、を平面視で千鳥状に配置した構成となっている。
また、図の左端に配置された上部電極層4cと、図の右端に配置された上部電極層4aは、それぞれ容量形成部の外側まで延びて形成されている。上部電極層4c,4aそれぞれの容量形成部の外側において、その上面に端子電極7a、7bを設けた。RF信号は端子電極7aの上面から入力され、端子電極7bの上面から出力される。その他の点についてはモデル3と同様とした。
また、誘電体層3を挟んで下部電極層2aと上部電極層4aとで形成される容量形成部の面積の和,誘電体層3を挟んで下部電極層2aと上部電極層4cとで形成される容量形成部の面積の和,誘電体層3を挟んで下部電極層2bと上部電極層4bとで形成される容量形成部の面積の和,誘電体層3を挟んで下部電極層2bと上部電極層4dとで形成される容量形成部の面積の和,誘電体層3を挟んで下部電極層2cと上部電極層4aとで形成される容量形成部の面積の和,誘電体層3を挟んで下部電極層2cと上部電極層4cとで形成される容量形成部の面積の和は、それぞれ4500μm2とした。このため、モデル4の容量形成部で形成される容量の合計は、モデル3と等しくなっている。
(実施例3:モデル5)
次に、図21(b)は、シミュレーションに用いた本発明のコンデンサのモデルであるモデル5を示す平面図である。図の縦方向に、4組の上部電極層4a,4cをそれぞれ交互に配置し、4組の上部電極層4b,4dを交互に配置した点以外は、モデル4と同様とした。
また、モデル5の容量形成部で形成される容量の合計は、モデル3,4と等しくした。
各上部電極層の間の距離を2μmとすると、モデル3において容量形成部8a,8bに、モデル4,モデル5において、上部電極層4b,4dに、それぞれ着目すると、A,B及びA/(2B)の大きさは表1のようになる。
表1に示す通り、従来の構造である比較例2の薄膜コンデンサにおいては、A/(2B)の値は1未満となり、本発明のコンデンサである実施例2,3においては、A/(2B)の値は1以上となり、上部電極層の数を増やし、対向する辺の数を増やすにつれてその値は大きくなった。また、モデル3〜5で、Bの値がほぼ一定であることから、上部電極層の数を増やしても、コンデンサのサイズはほぼ一定となっていることを確認した。
本実施例においては、1GHzにおけるQ値をシミュレーションした。
このようにしてシミュレーションを行った結果を図22に示す。図22において横軸はA/(2B)の値を、縦軸は、左側がQ値,右側が寄生抵抗(単位:Ω)を表している。図22から、A/(2B)の増大に伴い、1GHzにおける寄生抵抗が大きく低減していることが明らかとなった。特にA/(2B)が1付近においては寄生抵抗の低減の度合いが大きく、本発明による効果が実証された。また、寄生抵抗の低減と共に、Q値も大幅に改善していることも分かった。Q値においてもA/(2B)が1付近における改善の度合いが大きく、本発明による効果が実証されるものであった。
モデル3〜5で容量形成部の面積は一定としたため、本発明のコンデンサによれば、コンデンサを大型化することなく、寄生抵抗を大幅に低減し、Q値を大幅に改善することができることが確認された。
なお、以上はあくまで本発明の実施の形態の例示であって、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更や改良を加えることは何ら差し支えない。