JP4959159B2 - 部分分解デキストランおよびこれを用いる腐食抑制剤 - Google Patents

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本発明は、デキストランの一部糖鎖を酸化することにより得られた部分分解デキストランおよびこれを利用する腐食抑制剤に関する。
腐食抑制剤は、金属の腐食環境に微量添加し、金属/環境の界面状態を変化させ、金属腐食を抑制する薬剤である。この腐食抑制剤は、現在、冷却水系、ボイラー系、給水・給湯系、石油関連プラント系、非水プラント系等における装置金属材料の保守に使用されている。
腐食抑制剤は設備保全や機器寿命の延長に対し重要な役割を果たすが、環境問題がクローズアップされている近年は、各種設備や工場から系外への有害物質等を含む排水量を減少させる動きが活発化しており、従来の環境負荷を掛ける防食抑制剤が見直されている。
従来の具体的な腐食抑制剤として、まずリン系化合物が挙げられ、古くはヘキサメタリン酸塩、トリポリリン酸塩等の重合リン酸塩が使用され、近年はアミノトリメチルホスホン酸塩、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸塩等の有機リン酸塩が使用されているが、これらリン系化合物は、海洋や河川、湖沼へ放流すれば富栄養化の原因となるため水質汚濁防止法による排水規制が掛けられている。また、モリブデン酸塩や亜鉛塩、亜硝酸塩が腐食抑制剤として使用される場合もあるが、モリブデン酸塩、亜鉛塩は重金属であり、PRTR法(「Pollutant Release and Transfer Registration」に関する一種の廃棄物規制法)の指定化学物質であり、いずれも環境に負荷を与える物質であり好ましくなく、また亜硝酸塩もリン系化合物同様、水質汚濁防止法により規制が掛けられている。
近年、環境保全対策が図られている腐食抑制剤としては、不飽和カルボン酸を中心とした合成高分子電解質が挙げられる。高分子電解質としては、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基を有する単量体を重合したポリマーや、カルボキシル基を有する単量体と、他の単量体の重合による共重合ポリマー等が挙げられるが、これらポリマーは合成化合物であり、生分解性に乏しいという問題があり、この点において環境に優しい物質であるとは言えない。
従って、生分解性を有する物質を防食抑制剤として使用する、あるいは生分解性を有する物質由来の防食抑制剤を開発し使用することで、より環境負荷低減を図った腐食抑制方法を見出すことが本発明の課題である。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、デキストランを酸化反応により部分分解することにより得られる部分分解デキストランは、分解の結果、ジカルボン酸ユニットを有し、この部分が腐食抑制に有効であることおよび原料が多糖類であるため、環境に対する影響は極めて小さいことを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、次の式(I)
Figure 0004959159
で表されるグルコースユニットと、次の式(II)
Figure 0004959159
(式中、Mは水素原子またはアルカリ金属原子を示す)
で表されるジカルボン酸ユニットを含む部分分解デキストランである。
また本発明は、上記部分分解デキストランを有効成分として含有する腐食抑制剤である。
本発明の部分分解デキストランは、ジカルボン酸ユニットを有するため、優れた腐食防止作用を有するものである。そして、原料であるデキストラン自体が自然界に存在する多糖類であるため生分解性を有し、環境に与える影響は極めて小さいものである。
従って、本発明の部分分解デキストランを有効成分とする腐食抑制剤は、例えば、開放循環式冷却水系における軟鋼等の金属の腐食抑制剤として有利に使用できるものである。
本発明において使用される部分分解デキストラン(IV)は、下式に従い、多糖類であるデキストラン(III)を、酸化することにより製造される。
Figure 0004959159
部分分解デキストラン(IV)の原料であるデキストラン(III)は、グルコースの単一多糖類であり、その分子量が、10,000ないし20,000、好ましくは15,000ないし20,000のものが利用される。
一方、デキストラン(III)の酸化には、次亜塩素酸塩、過ヨウ素酸塩等のハロゲン系酸化剤が用いられる。このうち次亜塩素酸塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等が例示される。
具体的な酸化方法としては、デキストラン(III)を適当な溶剤、例えば水等に溶解ないし分散させた後、酸化剤を24ないし72時間程度、好ましくは、40ないし48時間程度作用させる方法が挙げられる。また、この酸化は、室温程度の温度で行われる。なお、酸化反応での酸化剤の使用量は、デキストラン(III)1モルに対し、100ないし500モル程度であり、200ないし300モル程度が好ましい。尚、酸化条件として温度や酸化剤種類を変更することにより酸化剤付与量を抑えることができるため、酸化方法はこの一例に限定されるものでない。
本発明の部分分解デキストラン(IV)は、上記酸化生成物から、適当な精製方法により、低分子物質を除去することにより、一定の分子量以上の生成物として得ることができる。
なお、本発明の部分分解デキストラン(IV)は、ゲルろ過クロマトグラフィーにより反応前後で分子量が変化しないことから、酸化反応がグルコースユニットのC2位とC4位で選択的に生起していることが示された。
また、生成物である部分分解デキストラン(IV)のグルコースユニット(I)とジカルボン酸ユニット(II)の比率は、部分分解デキストラン(IV)と原料であるデキストラン(III)H-NMRスペクトルの比較から求めることができる。すなわち、図1(a)に示すように、部分分解デキストラン(IV)のH-NMRスペクトルにおいて、4.93ppmのピークAはグルコースユニットのH1プロトンとジカルボン酸ユニットのHaプロトンに由来し、4ppm付近のピークBは、両ユニットの残りのプロトン(つまりHb、Hc、H2.6)に帰属される。したがって、ピークAとBの積分比I/Iを用いることにより、生成物の両ユニットの組成比(m/n)を次式により求めることができる。
m/n = I/(3I)−1
H-NMRスペクトルでの4.93ppmのピークAの積分面積
H-NMRスペクトルでの4ppm付近のピークBの積分面積
以上のようにして得られた部分分解デキストラン(IV)は、腐食抑制剤、例えば、開放循環式冷却水系における軟鋼等の金属の腐食抑制剤として使用することができる。
腐食抑制剤として使用するには、部分分解デキストラン(IV)を水に10ないし500mg/L、好ましくは、50ないし100mg/L添加すればよい。また、生分解性の高い水処理剤を提供するため、本発明品を腐食抑制剤として必須配合成分とする他に、リン系化合物、高分子化合物等を配合又は併用することもできる。冷却水系等、処理水系によっては、更に銅系金属用の防食剤であるアゾール系化合物を配合又は併用することが望ましい。そのようなアゾール系化合物としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、アミノトリアゾールなどを挙げることができ、これらは単独でも混合しても用いることができる。更に、スライムや微生物腐食の発生を防ぐため、菌類抑制剤を、配合又は併用することが好ましい場合もある。そのような菌類抑制剤としては、例えば、有機硫黄窒素化合物などが挙げられ、その具体例としては、2−メチル−3−イソチアゾロン、5−クロロ−2−メチル−3−イソチアゾロン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3−イソチアゾロンなどを挙げることができ、これらは単独でも混合しても用いることができる。
なお、本発明の部分分解デキストラン(IV)は、グルコース(I)またはこれが酸化されて得られるジルボン酸ユニット(II)で構成されているので、生分解性であり、使用後環境に放出しても問題となることがない。また、腐食抑制剤として使用している過程で生分解が生じ、有効成分が減少する場合には、部分分解デキストラン(IV)量を分析しながら有効成分を必要分補充追加すれば、管理としてより好ましい。
次に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
実 施 例 1
部分分解デキストランの製造(1):
原料デキストランとして、平均分子量1.5〜2×10のものを用いた。このデキストラン(1.0g, 6.2mmol ユニット)を100mLの純水に溶解し、NaOH(0.1N)を添加した。この溶液に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(25.6mL、1.28g、17mmol(有効塩素濃度5%以上);デキストランに対するモル比は、約300倍)を加え、室温下で24時間攪拌した。その後、同じ量の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(デキストランに対するモル比は、約300倍)を追加し、室温下で2日間撹拌した。
生成物のうち分子量5000以上の成分を、ポリエーテルスルホンの限外ろ過膜を用いて分画した。得られた水溶液を凍結乾燥することにより、潮解性のない白色粉末として部分分解デキストラン(1)を得た(収率18質量%)。
IR(KBr,cm−1):
1614(νC=O),1417,1308,1246,1147,1107,
1078,1041,1020,914,887,808,642.
H-NMR(DO,TMSP,ppm):
δ 4.93(m,1H),4.31,3.54(m,4.04H).
13C-NMR(DO,TMSP,ppm):
δ 179,176,106,101,82.1,79.5,76.6,74.5,
73.4,72.7,68.7.
GPC:
Mn=1.7×10,Mw=1.9×10(Mw/Mn=1.1).
上記のIRスペクトルから、カルボン酸基由来の伸縮振動ピーク(1614cm−1(νC=O))が観測され、13C-NMRにおいてカルボン酸基に帰属できるピーク(179ppmおよび176ppm)が確認されたことより、ポリカルボン酸であることがわかった。同様、13C-NMRから、グルコースユニットとジカルボン酸ユニットに基づくピークが共に確認され(図2)、部分分解デキストランがジカルボン酸ユニットを含むものであることが分かった。
また、得られた部分分解デキストランのH-NMRスペクトルについて、4.93ppmのピークAの積分面積と、4ppm付近のピークBの積分面積の比(I/I)を用いて、両ユニットの組成比(m/n)を求めたところ、積分比の実測値が4.01となり、部分分解デキストランの酸化度(1−m/n)は、0.65となり、繰り返し単位当たり1.3個のカルボキシル基が導入されていることが明らかになった。
実 施 例 2
部分分解デキストランの製造(2):
実施例1と同じ条件下でデキストラン(1.0g)と次亜塩素酸ナトリウム水溶液(25.6mL、1.28g、17mmol/デキストランに対するモル比約300倍)を反応させ、部分分解デキストラン(2)を得た(収率29質量%)。
H-NMR(DO,TMSP,ppm):
δ 4.96(m,1H),4.63,3.51(m,4.44H).
GPC:
Mn=1.8×10,Mw=2.0×10(Mw/Mn=1.1).
実 施 例 3
部分分解デキストランの製造(3):
実施例1と同じ条件下でデキストラン(1.0g)と次亜塩素酸ナトリウム水溶液(14.1mL、0.70g、9.4mmol/デキストランに対するモル比約165倍)を反応させ、部分分解デキストラン(3)を得た(収率20質量%)。
H-NMR(DO,TMSP,ppm):
δ 4.97(m,1H),4.64,3.51(m,4.88H)
GPC:
Mn=1.9×10,Mw=2.1×10(Mw/Mn=1.1).
実 施 例 4
腐食抑制試験:
開放系で、35℃において撹拌されている水道水(相模原市水または戸田市水)に軟鋼(炭素鋼)を浸漬し、7日後の重量減少を測定することにより腐食抑制試験を行った。これらの水道水の腐食抑制剤を含まないときの腐食速度(対照試験)は、相模原市水では150.3mdd、戸田市水では105〜132mddでほぼ同等と見なし、これらの平均から対照の腐食速度を(1.3±0.2)×10mddとした。なお、相模原市水の分析データは以下の通りである。
pH:7.4
電気伝導度(σ):172μS/cm
全硬度:58mgCaCO/L
一方、試験に用いた軟鋼は、その大きさが30×50×1mmの軟鋼(JIS SS 400)で、この試験片は文献(I. Sekine, T. Shimode, M. Yuasa, and T. Takaoka, Ind. Eng. Chem. Res., 29, 1460 (1990))の方法で前処理した。
この軟鋼は、エメリー紙で研磨した後、純水、メタノールおよびアセトンで超音波照射下において洗浄して腐食抑制試験に用いた。
腐食抑制試験の被験化合物としては、実施例1で得た部分分解デキストランの他、ポリアクリル酸(PAA)(数平均分子量4500)、アクリル酸−アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸共重合体(AA−AMPS)(モル組成比75/25、数平均分子量4500)を用いた。
腐食抑制試験は、被検化合物を所定濃度とした1Lの水溶液に試験片を浸漬し、重量を測定し、これから下式に従い、腐食速度(v)を求めた。なお腐食速度の単位は、mg・dm−2day−1(mddと略す)である。この結果を表1に示す。
腐食速度:
v = wA−1−1
w:重量減少(単位mg)
A:試験片の表面積(dm
t:は浸漬時間(day)
Figure 0004959159
この結果に示すように、腐食速度は、部分分解デキストランの添加量と共に低下し、腐食抑制剤として働いていることが明らかになった。また、酸化度が高くカルボン酸導入量の高い化合物ほど腐食速度が小さいことが分かり、カルボン酸を有しないデキストラン自体が腐食抑制性能が顕著でないことにより、デキストランの部分酸化が腐食抑制性能を向上させる要因であることが証明された。特に、酸化度0.65の部分分解デキストランは、PAAと同程度の高い腐食抑制能を示すことが明らかになった。
また、腐食抑制試験後の菌数測定から、部分分解デキストランが生分解性を示すことが予備的に確認された。
本発明の部分分解デキストラン(IV)は、優れた腐食防止作用を有するものである。そして、原料であるデキストラン自体が自然界に存在する多糖類であるため生分解性を有し、環境に与える影響は極めて小さいものである。
従って、本発明の部分分解デキストランの使用による腐食抑制方法は、金属部材の腐食を防止する目的で、冷却水処理系、排水処理系、工業用水処理系、純水処理系等の各種水処理系全般に適用することができるものである。
部分分解デキストラン(IV)と原料であるデキストラン(III)H-NMRスペクトルを示す図面である。 グルコースユニットとジカルボン酸ユニットの13C-NMRスペクトルを示す図面である。

Claims (2)

  1. 次の式(I)
    Figure 0004959159
    で表されるグルコースユニットと、次の式(II)
    Figure 0004959159
    (式中、Mは水素原子またはアルカリ金属原子を示す)
    で表されるジカルボン酸ユニットを含む部分分解デキストランを有効成分として含有する腐食抑制剤であって、前記部分分解デキストランの分子量が数平均分子量として15,000ないし20,000であり、前記部分分解デキストランの酸化度が0.28〜0.65であることを特徴とする腐食抑制剤。
  2. 部分分解デキストランが、デキストランに、塩基性条件下で次亜塩素酸塩を作用させることにより得られたものである請求項第1項記載の腐食抑制剤。
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