JP4958350B2 - グランドパッキンを用いた密封装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、グランドパッキンを用いてなる密封装置に関する。
詳しくは、例えば、スタフィングボックス内に装着され、該スタフィングボックス内のステム等を効果的に封止することのできるグランドパッキンを用いてなる密封装置に関する。
さらに詳しくは、回転ポンプ、バルブ、攪拌機および往復動ポンプ等の摺動部分を密封することができ、ステム等の様々な動作特性および密封要求特性のすべてに適応させて利用する場合に有効なグランドパッキンを装着してなる密封装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、スタフィングボックス内に装着し、スタフィングボックス内のステムおよびスタフィングボックス内壁面等を密封・封止するグランドパッキンとしては、その断面形状が矩形(正方形または長方形)、平行四辺形または直角を有する台形のものが一般的であり、そのいずれかを複数互いに密着させ積み重ねて用いることが一般的に知られている。
しかしながら、従来のグランドパッキンにはいろいろな問題があり、例えば、断面形状がすべて上記矩形のものを複数積み重ねてステムに装着した場合は、パッキン押えの締付け面圧に対する垂直な方向(以下、内外径方向と称す)へのグランドパッキンの拡張・変形に関してばらつきが多く、締付け過剰の部位と締付け不足の部位が混在しやすいという不具合があり、そのため必然的にパッキン押えの締付け面圧が過剰に大きくなり、それに伴って、ステムの動作抵抗および要求トルクが増大するという欠点や、ステム側の隙間にグランドパッキンの材質がかみ込んではみ出し、封止性能(シール性)の低下と封入物の漏れの原因となるという難点がある。
【0003】
そこで、用いるグランドパッキンを比較的低密度にする(柔らかくする)ことで、グランドパッキンの拡張・変形を容易にし、パッキン押えの締付け面圧を小さくしようとする試みもなされているが、前記低密度のグランドパッキンの内外径方向への拡張・変形の量は、パッキン押えの締付け方向の圧縮・変形の量より小さいという特性のため、十分にステムを封止するには、結局パッキン押えの締付け面圧をより大きくすることが必要であった。さらに、前記低密度のグランドパッキンは歪み率(歪み量)が大きいため、ステムの封止に必要なグランドパッキンの数がスタフィングボックス内の許容量を超えてしまう事がある他、その柔らかさのためステムの動作ぶれや振動を防止する軸受けとしての機能を果たさないという欠点や、低密度ゆえに材料自体の浸透漏洩の問題もある。
【0004】
一方、高密度にすることによって、グランドパッキンは形状安定性が向上し、軸受けとしての機能等に優れたものとすることができるが、パッキン押えの締付け面圧に対する内外径方向の拡張・変形の量は基本的に小さいため、十分にステムを封止するにはパッキン押えの締付け面圧をより大きくすることが必要となり、これに伴って密封装置の大型化および取扱いの簡便性損失といった不具合が生じる。
密封装置については、上記のようにメインパッキンとして同一種のものを用いるという構造のほかに、従来から、異なる材質または物性のグランドパッキンを、2種またはそれ以上、互いに密着させてスタフィングボックス内に装着するステム等の密封装置がよく知られている。しかし、その構造をとる理由は、シール性、耐熱性、耐圧力性および耐摩擦性等の要求性能もしくは不足性能を一挙に複数満たすためであり、これは従来のグランドパッキンでは同一種のみでは不可能であったため、必然的に2種以上のグランドパッキンをメインパッキンとして装着せざるを得ないという、密封装置の簡単性・単純化という面での不具合がある。
【0005】
また、米国特許第4328974号では、低密度で断面が平行四辺形のグランドパッキンを、高密度で断面が直角を有する台形のグランドパッキンの間に配し、互いに密着しない形状とした上で、スタフィングボックス内のステムに積み重ねて装着し、その後パッキン押えを締付けることによって互いのパッキンを密着させ、パッキンの内外径方向へ応力が集中する部分を持つようにした密封装置が開示されている。しかしながら、この発明にかかる密封装置では、1)密度の異なるパッキンを複数組み合わせる必要がある、2)歪み率の大きい低密度パッキンが大部分を占めている、3)応力の集中する部分はあるもののその数が少ない、4)応力集中部分以外では矩形のパッキンよりも締付け面圧が伝わらない、5)低密度のパッキンの部分は軸受けとしての機能を低下させている、など様々な問題点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の解決しようとする課題は、より摺動(回転、往復動)性の要求される用途においても、ステムおよびスタフィングボックス内壁面に対して高くかつ安定したシール性を発揮し、さらに、ステムの動作抵抗の低減、形状安定性、腐食・磨耗したステムおよびスタフィングボックスへの適応性、軸受け機能、装着の容易性、封止構造の単純化、封止装置のコンパクト化などに優れた効果をもたらす、新規なグランドパッキンを用いた密封装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行い、高いシール性を効率よく発揮することができるためには、グランドパッキンの形状においてこれまでに無いどのような改良をすれば良いかという点に着目し、種々の推測および実験を繰り返した。従来は、上述のように、若干形状に工夫を凝らした例もあるが、その場合であっても実質的にはグランドパッキンそのものの材質や物性の組み合わせに着目した効果を期待しており、結果としてそれだけでは一定の効果を得ることができる反面、様々な欠点も生じることとなっていたからである。つまり、主としてグランドパッキンの形状に特徴的な改良を施すことによって、従来物性の工夫で向上を図ろうとした所望の効果をもたらすようにするべきである、と考えたのである。
【0008】
かかる知見に基づき、試行錯誤および種々検討を繰り返した結果、リング状パッキンの輪形をなす部分の断面形状が四辺形であってこの四辺形が中心軸に対して平行な内径側と外径側の2辺と前記中心軸と直交する軸に対してともに同方向の傾きを有する他の向かい合った2辺とからなる、いわゆる円錐板型のグランドパッキンにおいて、中心軸方向で上端および下端に当たる部分、つまり、グランドパッキン内径側鋭角部分および外径側鋭角部分、を平坦部にした新規なグランドパッキン、およびこれを用いてなる密封装置であれば、上記課題を一挙に解決できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の密封装置に用いられるグランドパッキン(以下では、説明の都合上、単に、「本発明のグランドパッキン」とか「本発明にかかるグランドパッキン」とか称することがある)は、中心軸上下方向に荷重が加えられた場合、傘が広がるように効率良く内径および外径方向に変形(いわゆる円錐板径座金変形)して応力が発生するため、例えば、スタフィングボックス内のステムに装着して締付けた場合、従来と同等もしくは低い締付け荷重であっても格段に優れたシール性などを発揮することができる。また、上記装着の場合は、従来と同様、通常、グランドパッキンを複数使用するが、本発明のグランドパッキンは、円錐板型という特徴以外に、上述のように、上端および下端に平坦部を設けているため、平坦部を有しないものどうしに比べ互いが確実かつ安定に当接することができる。平坦部どうしが当接するのは、通常、1つのグランドパッキンに対し隣合うグランドパッキンの傾斜方向が(形状が)中心軸方向に対して反対となるように装着されているときであり、例えばこの関係が複数のグランドパッキンによって繰り返されると全体としては傾斜の方向が交互となるように装着されることとなる。結果的に、本発明のグランドパッキンを実際に使用した密封装置では、上記確実かつ安定な当接と、いわゆる交互装着によって、締付け部分からの距離にほぼ依存すること無く、内径側に対しても外径側に対しても、非常に効率的かつ高いシール性を多段的に発揮することができる。
【0010】
したがって、本発明にかかる密封装置は、
グランドパッキンをスタフィングボックス内に積み重ねて装着し、前記スタフィングボックス内を封止する密封装置において、
前記グランドパッキンは、断面形状が中心軸に平行な外径側および内径側の2辺と前記中心軸と直交する直交軸に対して同方向の傾きを有する他の2辺(ただし、これら2辺の傾き角度α,βはα<βの関係にあること)とからなる四辺形であるリング状パッキンの内径側鋭角部と外径側鋭角部とに平坦部を設けてなるグランドパッキンであり、かつ、前記スタフィングボックス内において隣り合うグランドパッキンの前記他の2辺の傾き方向が反対となるように装着されている、
ことを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかるクランドパッキンおよびこれを用いてなる密封装置に関する詳細を具体的に説明する。
本発明にかかるグランドパッキン(以下、本発明のグランドパッキンと称することがある。)は、図1(a)、(b)に示すように、その形状は一般的なグランドパッキンと同様に、リング状パッキンである。
本発明のグランドパッキンは、リング部分の中心軸方向の断面形状(すなわち、中心軸を含む平面による断面形状)が四辺形であるグランドパッキンの、内径側鋭角部および外径側鋭角部に当たる部分、つまり、中心軸に沿った方向軸でみた場合に上端に当たる部分と下端に当たる部分とを平坦部にしてなるグランドパッキンである。
【0012】
ここで、上記四辺形とは、図3で示すグランドパッキンの断面のように、内径側の辺1cと外径側の辺1dが共に中心軸2aに対して平行で、その他の2辺である1aおよび1bが前記中心軸2aと直交する直交軸2bに対して同方向の傾きを有している四辺形である。上記傾きとは、図3に示すように、角度αや角度βのことをいい、角度αは直交軸2bと辺1aのなす角度で、角度βは直交軸2bと辺1bのなす角度であり、さらに、上記同方向の傾きとは、直交軸2bを基準にし、直交軸2b上に辺1aおよび辺1bが重なる場合を角度0°とする前提の下で、直交軸2bに対して辺1aおよび辺1bが角度を有する場合の、角度の広がり方向が同じであるということとする。なお、図3に示すグランドパッキンは、本発明のグランドパッキンの特徴を説明する上での参考技術となるグランドパッキンである。
【0013】
また、上記内径側鋭角部および外径側鋭角部とは、それぞれ、図3で示す3a’部分および4b’部分のように、上記四辺形の内角のうち鋭角になっている2つの角部をいうとする。本発明のグランドパッキンは、この3a’部分および4b’部分を後述する平坦部にしてなるものである。
上記平坦部、すなわち、本発明のグランドパッキンの有する平坦部とは、例えば、実際に密封装置などに装着して用いる場合に、隣り合うグランドパッキンやアダプターパッキンなどの平坦部と、実質的に安定かつ確実に当接できる程度に平坦になっていればよく、特に限定されるわけではない。よって、該平坦部は、必ずしも完全な平面部であって中心軸に対する垂直平面と重なる必要はなく、多少傾斜を有していても、一部曲面状になった部分があってもよいし、断面の位置によって(どの部分の断面を見るかによって)断面形状に差異がある場合であってもよい。上記平坦部について、リング状部分の任意の断面形状(中心軸2aを含む平面による任意の断面形状)をもって示す場合、具体的には、例えば、図2(a)、(b)で示す3a部分および4b部分のような形状を好ましく挙げることができる。平坦部3a部分および4b部分それぞれの、直交軸2b方向の幅AおよびBについては、グランドパッキンのリング状部分についての直交軸2b方向の全幅をtとした場合、A<0.5tおよびB<0.5tであることが好ましく、より好ましくはA<0.3tおよびB<0.3tである。上記幅AおよびBが、0.5tより大きい場合は、中心軸方向方向から加えられた荷重に対し、内径および外径方向に効率的に変形(いわゆる円錐板座金変形)できないグランドパッキンとなるおそれがあり、内径および外径方向に十分な応力が発生しないためシール性が低下することとなる。
【0014】
本発明のグランドパッキンにおいて、図2(a)、(b)に示す角度αおよび角度βの取り得る範囲については、特に限定されるわけではなく、具体的には、0°<α<90°、0°<β<90°が好ましく、より好ましくは5°<α<40°、0°<β<40°であるが、上記平坦部の長さAを考慮して適宜設定すればよい。一般的には、平坦部の幅AやBが大きければ、角度αおよびβは大きめに設定する場合が多く、逆に、平坦部の幅AやBが小さければ、角度αおよびβは小さめに設定する場合が多い。また、角度αおよび角度βは、ともに同じ(α=β)であっても異なって(α≠β)いてもよく、特に限定はされるわけではないが、一般的にはα=βであることが汎用性を有する等の点で好ましい。さらに、角度αと角度βの角度差は、0≦|α−β|<20°であることが好ましい。
【0015】
角度α、βが上記範囲内であって、角度αとβとの角度差(|α−β|)が上記範囲内である場合は、各グランドパッキン間に形成されるクリアランスが大きくなりすぎ、十分なシール性を発揮するために必要な変形量(歪み量)が過大になることを避けることができる同時に、装着したグランドパッキン全体での初期装着長さが大きくなりすぎることによる装着性および取り扱い性の機能低下を避けることができる。
本発明のグランドパッキンは、断面形状については、上記平坦部3aおよび4b部分、角度αおよび角度βが上述のような条件を満たすものであればよく、特に限定されるわけではないが、具体的には、▲1▼ 内径側と外径側の2辺が同じ長さである、つまりα=βである場合、▲2▼ 内径側1cと外径側1dの2辺において外径側1dの辺の方が長い、つまりα>βとなっている場合(図2(a))、および、▲3▼ 内径側1cと外径側1dの2辺において内径側1cの辺の方が長い、つまりα<βとなっている場合(図2(b))を挙げることができる。
【0016】
本発明のグランドパッキンの断面形状においては、その内径や外径、または、内径側の辺1cおよび外径側の辺1d等の寸法については、特に限定されるわけではなく、平坦部や角度α、βが上記条件を満たし得るリング状のパッキン、特に、グランドパッキンとして成り立つ範囲であればよい。
本発明のグランドパッキンが上述のような特徴ある形状をしていることから、例えば、図5(a)や図6(a)に示すように、スタフィングボックス6内のステム5に、グランドパッキンの向きが交互になるように装着した後、図5(b)や図6(b)に示すようにパッキン押え8により締付けた場合は、図4の(a)から(b)への変化のように、各グランドパッキンは傘が広がるように内外径方向への拡張・変形(いわゆる円錐板形座金変形)し、効率的かつ優れたシール性を発揮する。また、本発明のグランドパッキンを、締付け前の形状図4(a)から締付け後の形状図4(b)へと拡張・変形させるのに必要な荷重は、通常一般的によく用いられる、断面が矩形のグランドパッキンに比べてかなり低減される。さらに、本発明のグランドパッキンは、低密度グランドパッキンのように、パッキン自体の浸透漏洩などの問題もなく、シール性も十分に発揮される。
【0017】
詳しくは、パッキン押えの締付け面8aなどの荷重を与える部分から、本発明のグランドパッキンに圧力が加えられると、グランドパッキンは全体として厚み方向に圧縮される。この圧縮による形状の変形に関し、前記角度αと角度βの存在が、容易に内外径方向への変形・拡張を起こし得るための一要因となっている。さらにこの圧縮による変形・拡張によって、図4(b)に示されるグランドパッキンにおいて、内径側角部3cからステム側へ、またその角部と断面形状で対角関係にある外径側角部4cからスタフィングボックス内壁面側へと、特にこれらの部分で顕著に内外径方向へのピーク的な応力が効率的に伝達される。本発明のグランドパッキンにおいて、この効率的に応力を伝え得る部分を、以下、便宜上、応力集中ポイントと称する。
【0018】
本発明にかかるグランドパッキンは、例えば、ステムやスタフィングボックス内壁面等の封止をする場合、内外径方向に拡張変形した際に応力集中ポイントで発生するピーク的な応力によって封止能を発揮するため、内外径方向へ伝達される応力の総量(例えば、ステムを抱え込む力の総量)が従来のグランドパッキンの使用時より小さい場合であっても、シール性の低下は見られない。つまり、従来よりも低い締付け面圧であっても十分なシールができるため、その反射的効果として、締付け時・シール時に発生する軸抵抗が低くなり、例えば、バルブのシール部分に用いた場合、バルブの開閉に要するハンドルトルクを低減することができる。同様に、締付け時・シール時の摩擦による、ステムやパッキン等の劣化およびグランドパッキン自身の劣化を大きく低減することができるため、特に、通常、シール摩耗等が非常に大きくなる軸作動の頻繁な機器のシール部分に好適であるといえる。
【0019】
本発明にかかるグランドパッキンは、従来と同等もしくはそれ以上の、効率的かつ優れた封止能を発揮するに際し、従来より低い締付け面圧であってもよいので、例えば、パッキン押え8など、特に限定されるわけではないが、これら周辺の装置の大型化、重厚化を避けコンパクトにすることができ、ひいては、密封装置全体の大型化を避け、コンパクト化が可能となる。
高度の密封性を要求される特定の用途にあっては、従来、ステムの外径やスタフィングボックス内の寸法に対し厳格に寸法設定された(いわゆる許容公差が少なく、グランドパッキンとステム、および、グランドパッキンとスタフィングボックス内壁との間の空隙が少ない)グランドパッキンで対応することとなっていた。しかし、本発明のグランドパッキンは、上述したように内外径方向への効率的かつ柔軟な変形・拡張能を有しているため、および、互いに確実かつ安定に当接し得る平坦部を有しているため、特定用途における対象に応じた厳格な寸法設定がなされていなくても対応可能である。さらに、通常の使用の場合においても、1つの寸法のグランドパッキンで、幅広い寸法条件(様々な対象の寸法条件)に対応できるため、グランドパッキンのサイズの種類(製品サイズの種類)の設定が少なくてよく、生産効率が上がり、製造コストを低減することができる。すなわち、本発明のグランドパッキンをスタフィングボックス等を含む密封装置に用いた場合は、締付け面圧を調整することで、前記グランドパッキンに、種々の対象の個別条件に対応するための最適な変形・拡張量を与えることができるため、幅広い条件で使用可能であるとともに高シール性を達成することができる。また、従来、グランドパッキンをスタフィングボックス内のステムなどへ装着する場合には、ある程度の装着困難性を伴っていたが(特に、高密度タイプの密封装置、または上述のような高度の密封性を要求される場合には、寸法等がかなり厳密なこと等もあって、より困難性が大きい。)、本発明のグランドパッキンを用いる場合は、内外径方向への効率的な変形・拡張能による高シール性が確保されていることから、従来品に比べて装着が容易となるようにゆとりを持たせた寸法設定ができる。さらに、グランドパッキンが摩擦や経時的な腐食等により元のサイズから変化してしまった場合、および、ステムやスタフィングボックス内壁が磨耗や腐食等により元のサイズから変化してしまった場合など、特にこれらに限定されるわけではないが、後発的な種々のサイズ変化に対しても、締付け面圧を適宜調整することにより、グランドパッキンを内外径方向へ効率的かつ柔軟に拡張・変形させ、再度サイズを適応させることもできるため、最適な密封性(シール性)を再び確保することができる。
【0020】
本発明にかかるグランドパッキンの密度(硬さ)については、特に限定されないが、要求されるシール性や周辺装置への対応により、適宜最適な密度に調製すればよい。本発明のグランドパッキンは上述のように内外径方向への効率的な変形・拡張能を有するため、例えば、従来、密度を通常より高くした場合に必要とされていた締付け面圧よりも小さい締付け面圧によって、内外径方向へ、良好な変形・拡張をさせることが可能である。よって、本発明のグランドパッキンを用いた場合は、従来における、通常よりも高密度のグランドパッキン、特に、矩形の高密度グランドパッキンなどで問題となっていた、内外径方向への柔軟性(変形・拡張性)不足による締付け面圧に対する応力の伝達不足、装着の困難さ、力学的要求等に対する装置の大型化、不均一な変形に起因する軸抵抗の増大などの欠点が解消され得る。このような理由から、本発明のグランドパッキンを高密度に成形した場合は、形状安定性、耐磨耗性、耐腐食性、ステム等の軸受け機能(軸ぶれや軸振動を抑える機能)および装着の容易性など、これらに限定されるわけではないが、様々な優れた機能を持たせることができる。
【0021】
本発明のグランドパッキンの、構造上の形態および材質としては、特に限定されるわけではないが、具体的には、編組パッキン、積層パッキン、金属パッキン、黒鉛パッキン、樹脂成形パッキン等を好ましく挙げることができる。
前記編組パッキンとは、一般的に、種々の繊維材料(例えば、炭素繊維、アラミド繊維など)からなるヤーンを単数または複数撚り合わせたものを編組み、袋編み、八編み、格子編み等により所望の形状に編組みしたものである。
前記積層パッキンとは、一般的に、シート状の材料を打ち抜き、裁断等の適当な方法で所望の形状に加工し、これを金型等でプレス成形したものである。
【0022】
前記金属パッキンとは、主として金属箔等を圧縮して成形したものである。
これらの中でも、本発明のグランドパッキンに用いる材質としては、黒鉛パッキンとフッ素樹脂とが、耐薬品性および自己潤滑性に優れていることから特に好ましい。
前記黒鉛パッキンとは、一般的に、膨張黒鉛を主材料としたものであって、具体的には、特に限定されるわけではないが、テープモールド型(渦巻き型)型、金網入りテープモールド型、金属箔入りテープモールド型、ブレード型、積層型、圧縮成形型などを好ましく挙げることができる。主原料は膨張黒鉛であるが、さらに補助材料として金属箔、金属線、金属不織布、各種繊維材、液体潤滑剤、固体潤滑剤等を好ましく用いることができ、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0023】
フッ素樹脂パッキンとは、一般的にフッ素系の樹脂を主原料としたものであって、具体的原料としては、特に限定されるわけではないが、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(ポリテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体)等を好ましく挙げることができ、スリーブ状成形体の切削加工や原料ペレットからの射出成形等により成形される。主原料はフッ素樹脂であるが、さらに補助材料として、金属箔、金属線、金属不織布、各種繊維材、その他、塗布もしくは配合のための液体潤滑剤および固体潤滑剤などを好ましく用いることができ、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0024】
前記補助材料としての金属には、特に限定されるわけではないが、アルミニウム、鉛、銅、ステンレス、モネル、インコネル等を好ましく挙げることができる。またこれらは単独で用いても、2種以上併用してもよく、使用の際の形状としては、特に限定されるわけではないが、箔状、リボン状、粒状、チップ綿等を好ましく挙げることができる。
前記補助材料としての繊維材には、特に限定されるわけではないが、木綿、麻、ナイロン、PPS繊維、フッ素系樹脂繊維、黒鉛入りフッ素系樹脂繊維、炭素繊維、炭化繊維、黒鉛化繊維、金属繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、フェノール系繊維、セラミック繊維、石綿等を好ましく挙げることができ、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0025】
前記補助材料としての液体潤滑剤には、特に限定されるわけではないが、鉱物油、合成油、油脂、合成油脂、フッ素系オイル、シリコン系オイル、ワセリンおよび各種グリース等を好ましく挙げることができ、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。
前記補助材料としての固体潤滑剤には、特に限定されるわけではないが、黒鉛(グラファイト)、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ素樹脂、雲母(マイカ)、タルク、金、銀、鉛および各種軟質金属等を好ましく挙げることができ、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。
アロイおよびブレンドする樹脂としては、特に限定されるわけではないが、ナイロン樹脂、PPS樹脂、アセタール樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂および各種ゴム等を好ましく挙げることができ、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0026】
本発明のグランドパッキンの成形にあたって、前記膨張黒鉛を材料として含む場合は、耐薬品性、摺動性、応力緩和性、特に広範囲な温度での安定性など、特に限定されるわけではないが、これら諸性能に優れたものを得ることができる。また、前記膨張黒鉛を材料に含み、本発明のグランドパッキンを成形する方法としては、特に限定されるわけではないが、具体的には、1)膨張黒鉛テープを渦巻状に巻き回した後、巻き軸方向からプレス成形するテープモールド成形方法、2)膨張黒鉛シートを金型等で所望の形状に打ち抜き、これを重ねてプレス成形する積層シート成形方法、3)膨張黒鉛ヤーンを網組みしてプレス成形する成形方法、4)3次元編組み機で所望の形状に成形する3次元編組み成形方法等を好ましく挙げることができ、なかでも1)テープモールド成形方法、2)積層シート成形方法が特に好ましい。
【0027】
本発明のグランドパッキンの成形にあたって、PTFEやPFA等のフッ素樹脂を材料として含む場合は、耐薬品性、摺動性、低発塵性など、特に限定されるわけではないが、これら諸性能に優れたものを得ることができる。また、前記フッ素樹脂を含み、本発明のグランドパッキンを成形する方法としては、特に限定されるわけではないが、具体的には、1)PTFEを用いる場合は、スリーブ状成形品から所望の形状に切削加工する成形方法、2)PFAを用いる場合は、原料ペレットから射出成形等により直接所望の形状にする成形方法等を好ましく挙げることができる。
【0028】
また、本発明のグランドパッキンの成形について、上記平坦部を設けるための作成方法もしくは加工方法としては、特に限定されるわけではなく、通常用いられる作成方法、加工方法であればよい。具体的には、例えば、上記平坦部が形成されるように成形時に用いる金型の形状を変更する、または、一旦成形した後切削加工する、などの方法が挙げられる。
本発明のグランドパッキンを用いた密封装置とは、上記本発明のグランドパッキンをスタフィングボックス内のステムに複数装着する密封装置を好ましく挙げることができる。詳しくは、例えば、図5(a)や図6(a)に示すように、スタフィングボックス6内のステム5に上記本発明のグランドパッキン1を複数、向きを交互にして積み重ねて装着し、パッキン押え8を締付けることによってステム5およびスタフィングボックス6内壁面を封止することが好ましい。この際、装着するグランドパッキン1の形状の方向性は、前記他の2辺(1aおよび1b)の傾き方向が交互となるようにされていることが好ましい。なお、傾き方向を交互にする仕方については、例えば、図5(a)に示すようなパターンと、図6(a)に示すようなパターンとあるが、どのような向きと順序で装着するかは使用目的や用途に応じて変化させることができ、また、装着する数なども種々変化させることができる。また、全てのグランドパッキンを交互に装着することに限らず、一部は同方向に重ねて、一部は交互となるように装着することもできる。すなわち、本発明のグランドパッキンすべてが傾き方向が同じとなるように装着されている場合でなければ、どのように装着しても本発明の効果を発揮させることができる。
【0029】
図5(a)と図6(a)では、どちらの装着方法でもよいが、通常一般的には、図5(a)の形態が好ましい。図5(a)の形態であれば、両端部に位置するグランドパッキンと、パッキン押え加圧面およびスタフィングボックス内底面部と、の間に形成されるクリアランスにより、両端部のグランドパッキンとステムとの接触領域は、上記加圧面および底面部から離れた状態となるため、グランドパッキン装着後の締付けにより発生する、いわゆる「はみ出し(かみ込み)」を防止することができ、シール性低下を防ぐことができる。「はみ出し(かみ込み)」とは、例えば、図6(a)において、ステム5がスタフィングボックス内の底面部7を貫通している部分のわずかな隙間、または、ステム5とパッキン押え8とのわずかな隙間などに、荷重のかかったグランドパッキンの一部が入り込んでしまうことであり、装置の密封性(シール性)を低下させる要因となる。
【0030】
本発明にかかるグランドパッキンを用いた密封装置では、利便性や、各シール部分によらない均一なシール性なども考慮すると、用いるグランドパッキン1の形状や寸法さらには材質などの構造的要素はすべて同一であることが好ましいが、特に限定されるわけではなく、上記平坦部の幅や、上記角度αおよび角度βそれぞれの大きさ、またその他の部分の形状や寸法、さらには材質などが異なる、様々なグランドパッキンを任意に組み合わせて用いてもよい。なお、図7や図8に示すように、スタフィングボックス内の底面部7側および/またはパッキン押え8側に、アダプターパッキン10を装着してもよく、また、図9に示すように、複数の断面形状が矩形の従来型のグランドパッキン10aとともに本発明のグランドパッキンを少なくとも1つ併用してもよく、また、図10や図11に示すように、本発明のグランドパッキンどうしの間に断面形状が矩形の従来型のグランドパッキンを介在させるようにして併用してもよい。さらに、図12に示すように、グランドパッキン以外の部材を併用してもよい。例えば、金属や樹脂等で作られた硬質リング10bを介在させて使用することにより、使用目的や用途に応じて、密封装置全体の締め具合の調整や、シール性と低トルク性とバランスの調整を図ることができる。このように、アダプターパッキン10や、上記従来型のグランドパッキン10aや、硬質リング10bなどを併用する場合も、本発明のグランドパッキン1は、形状や寸法さらには材質などの構造的要素全てが同一であれば好ましいが、特に限定はされるわけではなく、上述したような種々のグランドパッキンを任意に組み合わせて用いてもよい。従来は、ステムなどの封止に際して、同一種のグランドパッキンのみを用いていたのでは「満たすことが不可能な要求性能や要求事項」や「補うことのできない不足性能」などが多々あったため、例えば、形状、密度および材質等の異なる2種以上のグランドパッキンを採用して組み合わせて用いていた。上記要求性能および不足性能とは、特に限定されるわけではないが、具体的には、均一な締付け分布性能(シール性)、耐熱性、耐圧力性、耐摩擦性等を好ましく挙げることができる。
【0031】
本発明のグランドパッキンとして、例えば、高密度特性をもつものを採用した場合は、その高密度特性に加え、本発明のグランドパッキンが持つ効率的な拡張・変形能も発揮されるため、少なくとも従来考えられていた低密度と高密度の両方の性質を合わせ持つようなものとすることができ、本発明の密封装置の構造などにおいても、簡単化という点で好ましい。
本発明のグランドパッキンは、上述のように、効率的な拡張・変形能を有するため、複数のグランドパッキンを密封装置に用いた場合、個々のグランドパッキンが内径側と外径側に応力集中ポイントを有し、1種類であっても効率的な応力発生をさせ、かつ、隣り合うグランドパッキンと平坦部において当接させた場合は、内径側であっても外径側であってもその当接部分において応力集中が相乗効果によって大きくなるため、構造の簡単化の面から見ても、本発明のグランドパッキンを用いた密封装置においては、同一種のグランドパッキンを用いることが好ましい。
【0032】
本発明のグランドパッキンを用いた密封装置では、図5(a)や図6(a)に示すように、パッキン押え8の締付け前は、ステム5に装着された各グランドパッキン1の間に一定の空間を設けることができる。前記空間は、グランドパッキン1の断面形状において前記他の2辺(1aおよび1b)がそれぞれ中心軸と直交する直交軸に対して同方向の傾きを有し、かつ、その向きが交互となるように複数のグランドパッキンを装着することに起因するものである。スタフィングボックス6内のステム5に装着された各グランドパッキン1が、上述のように、内外径方向の効率的な拡張・変形能を発揮するためには、このような空間的余裕を設けられていることが好ましい。
【0033】
本発明のグランドパッキンを用いた密封装置においては、パッキン押えによる締付け面圧が加えられると、図5(b)や図6(b)に示すように、各グランドパッキン1はパッキン間の空間を利用してその空間を減少させつつ拡張・変形し、グランドパッキンどうしの当接部分から効率的かつ集中的に応力が伝達され、ステム5ならびにスタフィングボックス6内壁面が封止される。この際、パッキン押え8によって加えられた締付け面圧が各グランドパッキン1に効率的に伝達されるので、全てのグランドパッキン1において、特に上記当接部分において応力集中ポイントを有する。特に、図5(a)や図6(a)のように本発明のグランドパッキンすべてが、上述したように、その向きが交互になるように装着された場合には、全体としての封止効果は多段シール的な効果となって、きわめて優れたシール性を発揮することとなる。また、図5(a)や図6(a)においては、本発明のグランドパッキンはすべてその向きが交互となるように装着されているので、上記当接部分、すなわち、本発明のグランドパッキンの平坦部どうしが接する部分は、内径側および外径側の両側に、極めて優れた応力集中ポイントとなるとともに、パッキン押え8からの距離にほぼ依存すること無く、スタフィングボックス内のどの応力集中ポイントにおいても実質的に同等レベルの高シール性を発揮することができる。通常、従来型のグランドパッキン(例えば、断面形状が矩形のグランドパッキンや四辺形のグランドパッキンなど)を使用した場合では、パッキン押え8からの距離が大きくなるにつれてシール性が低下することは必至であったため、本発明の作用効果として、上記当接部の応力集中とともに、特に優れた効果の1つであるといえる。
【0034】
本発明のグランドパッキンを用いた密封装置としては、上述のように、図7〜12に示すように、スタフィングボックス内の底面部7側および/またはパッキン押え8側にアダプターパッキンを装着したり、本発明のグランドパッキンと断面形状が矩形の従来型のグランドパッキンとを組み合わせたりしてなる封止構造も好ましく挙げることができる。
アダプターパッキン10や硬質リング10bとしては、具体的には、高強度、高弾性を有するものが好ましく、金属製や樹脂製のものが好ましい。アダプターパッキン10については、リング部分の断面形状が矩形である従来のグランドパッキンなどで代用してもよく、様々な材質のものを適宜選択すればよい。また、アダプターパッキン10を、スタフィングボックス内の底面部7側および/またはパッキン押え8側に用いた場合は、グランドパッキンのはみ出し(かみ込み)防止などの効果を得ることができ好ましい。
【0035】
また、本発明のグランドパッキンを用いた密封装置では、本発明のグランドパッキンとは形状の異なるグランドパッキンを、適宜組み合わせて使用しても良い。形状の異なるグランドパッキンとしては、上述した矩形のものなどが挙げられるが、特に限定はされない。また、本発明のグランドパッキンを用いた密封装置において、グランドパッキンとして本発明のグランドパッキンのみを用いる場合は、少なくともそれら全てが同方向で重なるように装着されていなければ、本発明の効果を発揮することができる。
本発明のグランドパッキンを用いた密封装置において、好ましい形態としては、装着されるグランドパッキンが、本発明のグランドパッキンと矩形のグランドパッキンとが順に交互に装着された形態などが挙げられるが、最も好ましい形態としては、装着されるグランドパッキンが、図5(a)や図6(a)で示されるような交互装着の形態、すなわち、装着されたグランドパッキンのすべてが、その隣り合うグランドパッキンと前記他の2辺の傾き方向が異なるように装着されている形態が挙げられる。
【0036】
本発明のグランドパッキンを用いた密封装置は、封止部分の構造が、いわゆる標準方式またはランタリング方式のものなど、特にこれらに限定されるわけではないが、あらゆる方式のものに用いることができ、さらに、具体的に利用できる例としては、特に限定されるものではないが、例えば、回転ポンプ、往復動ポンプ等のポンプ類;ゲートバルブ、グローブバルブ等のバルブ類;各種撹拌機等を好ましく挙げることができる。
本発明のグランドパッキン1においては、上述したような特性を保持しつつ、以下のような様々な構造的(形状の)変化を好ましく持たせることができ、本発明の密封装置に用いることができる。また、密封装置においても様々な構造的(形状の)変化を好ましく持たせることができる。これらの中には、構造の変化により、さらに優れた特性を有するようになるものも含まれる。
【0037】
上記構造的変化としては、特に限定されるわけではないが、前記グランドパッキン1については、図2(a)に示されるグランドパッキン1の断面形状における、中心軸2aに対する直交軸2bに対し同方向の角度をなす辺1aと辺1bに着目した場合、図13(a)、(b)に示すようにアーチ状(円弧状)部分を有するようにしたもの等を好ましく挙げることができる。同様に、前記密封装置(スタフィングボックスあるいはパッキン押えなど)については、スタフィングボックス内底面部7に傾斜を設けたものや、パッキン押え加圧面8aに傾斜を設けたものなどを挙げることができる。これら構造的変化については、着目した上記部分すべてが変化していてもそうでなくてもよく、適宜組み合わせればよい。また、上記構造的変化は1つ採用しても2つ以上併用して採用してもよい。
【0038】
【実施例】
以下に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、以下では、便宜上、「重量部」を単に「部」と記すことがある。
参考例1−
主原料として膨張黒鉛製シートを15mm幅にスリットして膨張黒鉛テープとし、このテープを渦巻状に巻いた後、金型で圧縮成形して、パッキン内径20mm、パッキン外径33mm、外径側厚み6.5mmで、図2(a)または(b)に示す角度αが5°、角度βが5°、幅Aが0.15t、幅Bが0.15t、密度1.70g/cmである、参考例1の黒鉛製グランドパッキン(以下、グランドパッキン(1)と称す)を得た。ここで、上記「外径側厚み」とは、図2(a)または(b)に示す辺1dの長さをいう。
【0039】
このグランドパッキン(1)について、図16に示すような密封装置(以下、シール性試験装置と称す)に4リング装着し、シール性の評価を行った。
シール性試験装置は、ステム(駆動軸)15、スタフィングボックス6およびパッキン押え8等を有する上部容体と、この上部容体にOリング11を介して締付け用ボルト12で一体化させた下部容体からなる。下部容体には、窒素ガスを注入するための加圧孔13、ガス封入部16、ステム(駆動軸)15を回転させるためのベアリング14およびスラストベアリング17が設けられている。シール性の試験に用いるグランドパッキン(4リング)は、スタフィングボックス内底面部7側とパッキン押え加圧面8aの間に装着され、パッキン押え8を締付けることによって、スタフィングボックス6内壁面およびステム(駆動軸)15表面が封止される。なお、グランドパッキン(1)は、図5(a)や図16に示すような方向性を有するパターンで装着した。
【0040】
シール性試験にあっては、シール性試験装置内のガス封入部16に密封する、シール対象となる流体として窒素ガスを用いた。窒素ガスは、ガス封入部16に、ガス圧が常に10MPaとなるように、加圧孔13から注入される。このガス圧を保持したまま、シール性試験装置全体を水中に浸漬させ、パッキン押え8の締付け面圧を0MPaから45MPaまで、5MPaずつ段階的に増加させていき、順に各段階ごとにシール性を試験した。シール性の成否の判断は、水中での窒素ガスの漏洩速度を基準にし、この値が5.0×10-5Pa・m3/s未満となった時をシールできた時とした。この窒素ガスをシールできた時の「締付け面圧」を記録し、「歪み率」、「接触面積あたりの軸抵抗」を測定した。その結果を表1に示す。なお、窒素ガスの漏洩は、スタフィングボックス6内以外からは全くなく、前記漏洩速度の測定は、水上置換により漏洩した窒素ガスを回収し(約3分間)、その回収体積と回収時間から求める。
【0041】
また、締付け面圧、歪み率、接触面積あたりの軸抵抗の測定方法は以下に示す。
締付け面圧(MPa):
前記窒素ガスをシールできた時の、中心軸方向から見たグランドパッキンの投影(単位)面積あたりの締付け荷重である。
歪み率(%):
グランドパッキンの軸方向装着長さ(パッキン抑え加圧面からスタフィングボックス内の底面部までの長さ)が、締付け前から締付け後の前記窒素ガスをシールできた時までの間に減少した割合をいう。すなわち、グランドパッキンの軸方向装着長さについて、締付け前をLとし、締付け後をlとした時、歪み率(%)は「歪み率(%)=(L−l)/L×100」の式より求めることができる。
【0042】
接触面積あたりの軸抵抗(N/mm):
前記窒素ガスをシールできた時の、軸抵抗(すなわち、軸を回転させるために要する力(荷重))をトルクレンチを用いて測定し、これを、グランドパッキン締付け後の装着長さlに軸周を乗じた見かけの接触面積で除した値である。
−実施例1と参考例2,3
参考例1において調製した角度α、角度β、幅Aおよび幅Bを表1に示したとおりにする以外は、参考例1と同様の操作を繰り返して実施例1と参考例2,3の黒鉛製グランドパッキン(以下、グランドパッキン(2)〜(4)と称す)を得た。また、参考例1と同様のシール性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
−比較例1−
角度αを0°、角度βを0°、外径側厚み6.5mm(内径側厚みも同様)とした以外は、参考例1と同様の操作を繰り返して、断面形状が矩形である、比較例1の黒鉛製グランドパッキン(以下、比較グランドパッキン(1)と称す)を得た。また、参考例1と同様のシール性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
Figure 0004958350
【0045】
表1の結果より、本発明にかかる実施例1と参考例1〜3のグランドパッキンを用いた場合は、いずれも、比較例1の従来の矩形グランドパッキンよりも低い締付け面圧でガスをシールすることができることが分かる。従って、あまり高荷重をくわえられない部分にも安全に適用することができ、かつ十分なシール性を発揮させることができる。このように、本発明のグランドパッキンでは低締付け面圧であっても十分シール可能であるが、これに伴う効果として、軸抵抗も小さくできることが分かる。よって、本発明のグランドパッキンは、例えばバルブなどに適用された場合にはその開閉に要するハンドルトルクが大きく低減され、中でも特に、通常、軸作動が頻繁でありシール摩耗による装置およびグランドパッキンの劣化が激しいとされる部分への使用に好適である。同様に、低締付け圧でよいため、装着・締付けが容易であり、締め付けた状態で保持することにも大きな力を必要せず、非常に取扱い性に優れているといえ、密封装置全体のコンパクト化も達成することができる。
このように、本発明のグランドパッキンが従来のグランドパッキン(断面形状が矩形)に比べてシール性等が顕著に優れていることを、直接、作用機構の面から説明するため、以下のようなシミュレーションを行った。
【0046】
すなわち、グランドパッキン(3)および比較グランドパッキン(1)について、両方ともそれぞれ計4リングずつを図5(a)に示すような形態で密封装置に用いた場合をモデリングし、以下に詳述するシミュレーションをして、内径側、外径側の各シール面への伝達面圧(MPa)を求めた。ここで、グランドパッキン(3)については締付け面圧20MPaでシールした場合、比較グランドパッキン(1)については締付け面圧20MPaおよび45MPaそれぞれでシールした場合をシミュレーションした。
上記シミュレーションでは、グランドパッキンを密封装置に装着して締め付けた状態での、内径側および外径側各シール面への、締付け面圧に起因する伝達面圧を、有限要素解析(FEA)により求めた。有限要素解析(FEA)は、軸対称弾性計算の手法を用いた。その際、軸、スタフィングボックスおよびパッキン押え等のグランドパッキン以外の部分は剛体とした。グランドパッキンの材料定数としては、摩擦係数、ヤング率、ポアソン比、密度および要素数があるが、これらの値はグランドパッキン1リングあたりの歪み率、復元率および寸法変化と、文献値等を参考に決定した。具体的には、摩擦係数は0.3、ヤング率は117.68MPa、ポアソン比は0.3、密度は1.70g/cm3とした。要素数は、装着したグランドパッキン(4リング)全体に対し、400とした。
【0047】
次に、パッキン押えを締付けた際の、パッキン押え加圧面からみたスタフィングボックス内の底面部までの「長さ距離」を1とし、図14、図15に示すように、X軸を、パッキン押え加圧面からの長さ距離、Y軸を、この長さ距離に対応する「伝達面圧(MPa)」としてグラフ化した。なお、グランドパッキン外径側からスタフィングボックス内壁面への伝達面圧については図14に、内径側から軸(ステム)表面への伝達面圧については図15に示した。
図14、図15に示されるグラフの結果より、以下のようなことが分かる。すなわち、本発明のグランドパッキンは、内径側および外径側にあるいずれのシール面に対しても高効率的に締付け面圧を伝達する応力集中ポイントを有するため、このグランドパッキンを密封装置に用いた場合は、一定の締付け面圧に対し、断面形状が矩形である従来型のグランドパッキンを用いた場合に比べて優れたシール部分(伝達面圧の大きなシール部分)が、鋭いピーク状でかつ複数存在することとなる。また、ピークの大きさは、内径側のピーク同士あるいは外径側のピーク同士であっても、また、内径側と外径側のピーク同士であっても、それぞれを比較した場合ほぼ同レベルであり、締付け面からの距離や、内径側外径側の違いによらず、安定したピーク値を示す。よって、効率的に、しかも、多段シール的な相乗効果を発揮できることから、単にそれぞれのピーク部分で発揮される優れたシール性のみならず、全体としても、従来よりはるかに効率的で優れた封止効果がもたらされることが分かる。
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、より摺動(回転、往復動)性の要求される用途においても、ステムおよびスタフィングボックス内壁面に対して高くかつ安定したシール性を発揮し、さらに、ステムの動作抵抗の低減、形状安定性、腐食・磨耗したステムおよびスタフィングボックスへの適応性、軸受け機能、装着の容易性、封止構造の単純化、封止装置のコンパクト化などに優れた効果をもたらす、新規なグランドパッキンを用いた密封装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、本発明にかかるグランドパッキンの一実施例を示す斜視図であり、(b)は、図1(a)のグランドパッキンを裏返しにした時の斜視図である。また、(c)は、図1(a)または(b)のグランドパッキンの幅方向からの投影図であり、(d)は、図1(a)または(b)のグランドパッキンの厚み方向からの投影図である。
【図2】(a)、(b)ともに、本発明にかかるグランドパッキンの一実施例を示す、中心軸2aを含む平面により切断した場合の部分断面図であり、(a)はα>βの場合、(b)はα<βの場合を表す。
【図3】参考技術となるグランドパッキンを示す、中心軸2aを含む平面により切断した場合の部分断面図である。
【図4】(a)、(b)ともに、本発明にかかるグランドパッキンの一実施例を示す、中心軸2aを含む平面により切断した場合の部分端面図であり、(a)は変形前を表し、(b)は変形後を表す。
【図5】本発明にかかるグランドパッキンを用いた密封装置の一実施例を示す概略断面図であり、(a)は封止前(パッキン押え8の締付け前)を表し、(b)は封止後(パッキン押え8の締付け後)を表す。
【図6】本発明にかかるグランドパッキンを用いた密封装置の一実施例を示す概略断面図であり、(a)は封止前(パッキン押え8の締付け前)を表し、(b)は封止後(パッキン押え8の締付け後)を表す。
【図7】本発明にかかるグランドパッキンを用いた密封装置であって、さらにアダプターパッキンを装着した密封装置の一実施例を示す概略断面図であり、封止前(パッキン押え8の締付け前)を表す。
【図8】本発明にかかるグランドパッキンを用いた密封装置であって、さらにアダプターパッキンを装着した密封装置の一実施例を示す概略断面図であり、封止前(パッキン押え8の締付け前)を表す。
【図9】本発明にかかるグランドパッキンと従来型のグランドパッキンとを組み合わせて装着した密封装置の一実施例を示す概略断面図であり、封止前(パッキン押え8の締付け前)を表す。
【図10】本発明にかかるグランドパッキンと従来型のグランドパッキンとを組み合わせて装着した密封装置の一実施例を示す概略断面図であり、封止前(パッキン押え8の締付け前)を表す。
【図11】本発明にかかるグランドパッキンと従来型のグランドパッキンとを組み合わせて装着した密封装置の一実施例を示す概略断面図であり、封止前(パッキン押え8の締付け前)を表す。
【図12】本発明にかかるグランドパッキンを装着した密封装置であって、さらにアダプターパッキンと硬質リングとを装着した密封装置の一実施例を示す概略断面図であり、封止前(パッキン押え8の締付け前)を表す。
【図13】(a)、(b)ともに、本発明にかかるグランドパッキンの構造を部分的に変形させた一実施例を示す、中心軸2aを含む平面により切断した場合の部分端面図である。
【図14】X軸が、パッキン押え加圧面からの「長さ距離」、Y軸が、この長さ距離に対応する「内径側伝達面圧(MPa)」を表すグラフである。
【図15】X軸が、パッキン押え加圧面からの「長さ距離」、Y軸が、この長さ距離に対応する「外径側伝達面圧(MPa)」を表すグラフである。
【図16】実施例に記載した、グランドパッキンのシール性を試験する密封装置(シール性試験装置)の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
1 グランドパッキン
2a 中心軸
2b 中心軸に対する直交軸
2c 直径軸
3a 内径側平坦部
3b 内径側鈍角部
4a 外径側鈍角部
4b 外径側平坦部
3a’ 内径側鋭角部
4b’ 外径側鋭角部
3c 内径側応力集中ポイント
4c 外径側応力集中ポイント
5 ステム
6 スタフィングボックス
7 スタフィングボックス内底面部
8 パッキン押え
8a パッキン押え加圧面
9 締付け用ボルト
10 アダプターパッキン
10a 断面形状が矩形のグランドパッキン
10b 硬質リング
11 Oリング
12 締付け用ボルト
13 加圧孔
14 ベアリング
15 ステム(駆動軸)
16 ガス封入部
17 スラストベアリング
18 トルクレンチ装着部

Claims (3)

  1. グランドパッキンをスタフィングボックス内に積み重ねて装着し、前記スタフィングボックス内を封止する密封装置において、
    前記グランドパッキンは、断面形状が中心軸に平行な外径側および内径側の2辺と前記中心軸と直交する直交軸に対して同方向の傾きを有する他の2辺(ただし、これら2辺の傾き角度α,βはα<βの関係にあること)とからなる四辺形であるリング状パッキンの内径側鋭角部と外径側鋭角部とに平坦部を設けてなるグランドパッキンであり、かつ、前記スタフィングボックス内において隣り合うグランドパッキンの前記他の2辺の傾き方向が反対となるように装着されている、
    ことを特徴とする、密封装置。
  2. 前記スタフィングボックス内に装着されたグランドパッキンのすべてが、その隣り合うグランドパッキンと前記他の2辺の傾き方向が異なるように装着されている、請求項に記載の密封装置。
  3. 前記スタフィングボックス内の底面部側および/またはパッキン押え側に、さらにアダプターパッキンを装着させてなる、請求項またはに記載の密封装置。
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