JP4955496B2 - 疲労特性及び伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板 - Google Patents
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熱延鋼板の強度、伸びフランジ性及び疲労特性に関する従来知見として、特許文献1には、Ti−Mo又はTi−Nb−Moの複合析出物を微細に分散させたフェライト組織にして、強度,伸び及び伸びフランジ性を改善することが記載され、特許文献2には、同じく微細なTi−Mo複合析出物を分散させたフェライト主体組織にして、強度、疲労特性及び加工特性を改善することが記載されている。しかし、特許文献1,2のようにフェライト単相組織又はフェライト主体組織では強度を高めにくい。一方、特許文献3には、ベイナイト主体組織とし、かつTiによる析出強化を活用して、強度及び伸びフランジ性を改善することが記載されている。
従って、本発明は、強度、高伸びフランジ性及び高疲労特性を兼備した熱延鋼板を得ることを目的とする。
r≧207÷(27.4X(V)+23.5X(Nb)+31.4X(Ti)+17.6X(Mo)+25.5X(Zr)+23.5X(W)) ・・・・(1)
r/f≦12000 ・・・・(2)
ここで、式(1)のX(M)(M:V,Nb,Ti,Mo,Zr,W)は析出物を構成する元素の平均原子量比であり、下記一般式(3)で表される。
X(M)=(Mの質量%/Mの原子量)/(V/51+Nb/93+Ti/48+Mo/96+Zr/91+W/184) ・・・・(3)
ただし、上記式(3)中の元素記号は鋼組成における当該元素の質量%を意味する。
なお、本発明において加工性は、強度−伸びフランジバランス(TS×λ)で評価し、疲労特性は疲労限度比(FL/TS)で評価する。TSは引張強さ、Elは伸び、λは穴広げ率(伸びフランジ性)、FLは疲労強度を意味する。
・C:0.01%以上、0.10%以下
Cはベイナイト中に炭化物系析出物を形成し、ベイナイトの析出強化に寄与する。しかし、0.01%未満では析出強化量が不足し、疲労特性が不足する。0.10%を超えるとオーステナイト域での圧延中に粗大に析出し、r/fが大きくなるため十分な疲労特性が得られない。従って、C含有量は上記のとおりとする。好ましくは、0.03%以上、0.08%以下である。
Siは固溶強化元素であり伸びフランジ性及び疲労特性の改善に寄与する。しかし、Siはフェライト形成を促進する元素であり、2.0%を超えるとフェライトが形成されてベイナイト分率が低下し、伸びフランジ性及び疲労特性が低下する。従って、Si含有量は上記のとおりとする。好ましくは0.5%以上、1.5%以下である。
・Mn:0.5%以上、2.5%以下
Mnは焼き入れ性を高め、ベイナイト主体組織を構築する。しかし、0.5%未満であると焼き入れ性が不足してフェライトが形成され、ベイナイト分率が低下するため、伸びフランジ性及び疲労特性が低下する。2.5%を超えると焼き入れ性が高くなり過ぎ、ベイナイト変態が抑制されて伸びフランジ性が低下する。従って、Mn含有量は上記のとおりとする。好ましくは1.4%以上、2.3%以下である。
・Nb:0.01%以上、0.30%以下
・Ti:0.01%以上、0.30%以下
・Mo:0.01%以上、0.30%以下
・Zr:0.01%以上、0.30%以下
・W:0.01%以上、0.30%以下
炭化物形成元素であるこれらの元素を添加することでベイナイト中に炭化物系析出物を分散させて析出強化し、強度及び疲労特性を高めることができる。しかし、それぞれ下限値未満であると析出強化量が不足し、疲労特性が不足する。それぞれ上限値を超えるとオーステナイト域での圧延中に析出し、析出物サイズが粗大化してr/fが過大になり疲労特性が不足する。従って、V,Nb,Ti,Mo,Zr,W含有量は上記のとおりとする。好ましくはいずれも0.05%以上、0.20%以下である。また、これらの元素の合計含有量が多すぎると、熱延前の加熱で析出物が完全に固溶せず、未固溶の粗大析出物の量が多くなるので、析出物サイズが粗大化してr/fが過大となり疲労特性が低下する。従って、合計含有量は0.5%以下とする。
・Ni:1%以下
・Cr:1%以下
・B:20ppm以下
これらの元素は鋼の焼き入れ性を高めてフェライト変態を抑制し、ベイナイト分率を向上させる。その結果、疲労特性及び伸びフランジ性が改善する。一方、Cu,Ni,Crについては、含有量が多すぎるとベイナイト変態が抑制され、ベイナイト分率が低下し、伸びフランジ性が低下する。またマルテンサイト分率が増加することで、疲労強度が向上せずに強度が向上し、疲労強度比が低下する。Bについては、γ粒界に固溶状態で存在することでフェライトの形成を抑制するが、含有量が多すぎるとFe23B6として析出し、固溶B量が低下するため,フェライト変態の抑制効果が得られなくなる。従って、Cu,Ni,Cr,B含有量は上記のとおりとする。好ましくは、Cu,Ni,Crがいずれも0.8%以下、Bが15ppm以下である。
・Al:0.1%以下
Pは固溶強化の効果があるが、添加しすぎると粒界に偏析し、粒界強度を低下させることで疲労特性が低下する。0.1%まで添加可能である。好ましくは、0.03%以下である。
Alは脱酸元素であるとともに、Nを固定し、Nによる時効効果を抑制し脆化を抑制する作用がある。しかし、添加しすぎるとフェライトの形成が促進されるため、ベイナイト分率が低下し、疲労強度比及び伸びフランジ性が劣化する。0.1%程度まで添加してよい。好ましくは、0.08%以下である。
S,N,Oは窒化物、酸化物を形成し、これが破壊の基点となり、疲労特性・伸びフランジ性を劣化させるので低い方がよく、S:0.010%以下、N:0.0060%以下、O:0.0030%以下に規制することが望ましい。
Ca,Mg,REMは介在物を微細にすることで伸びフランジ性や疲労特性の改善に寄与するので、1種以上を添加してもよい。添加する場合は、いずれも0.01%以下が望ましい。
・r/f≦12000((2)式)
この2つの規定は、ベイナイト中の析出物の平均粒径r(nm)を転位によりカッティングされないサイズに制御し、同時に析出物の粒子間距離(r/f)を小さい値に制限することを意味する。fはベイナイト中の析出物分率(面積分率)である。これにより、転位が析出物を通過する機構がカッティング機構からオロワン機構に変わり、同時に繰り返し応力付与中の転位の移動に対する抵抗力を大きくし、疲労特性を改善することができる。
条件式(2)において、r/fは好ましくは10000以下、さらに好ましくは8000以下である。
前記条件式(1)は、転位が析出物を通過する機構としてオロワン機構が発現されるためには、鋼組成に応じた適切な析出物サイズ(臨界粒子径以上のサイズ)が存在することを示す。この条件式(1)が本発明の熱延鋼板の疲労特性を改善するうえで技術的意義を有することは、後述する実施例により実証されている。
ベイナイト主体の均一な組織にすることにより、伸びフランジ性を向上させることができる。一方、ベイナイト分率が低下し第2相(フェライト、マルテンサイト、残留オーステナイト、パーライト)が混入すると、第2相と主相であるベイナイト界面に応力集中が起こり、小さな歪みでも破壊が起こるようになることで伸びフランジ性が劣化する。
ベイナイト分率は好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
典型的な製造方法は、鋼素材を加熱した後、仕上げ圧延を含む熱間圧延、熱延後の急冷、急冷停止後の巻き取り、巻き取り後の保持である。以下、各工程について説明する。
・加熱
熱間圧延前の加熱は1100℃以上、1300℃以下で行う。この加熱によりオーステナイト単相とし、かつ炭化物をオーステナイトに固溶させる。加熱温度が1100℃未満では炭化物がオーステナイトに固溶できず、粗大な炭化物が形成されるため疲労特性改善効果が得られない。一方、1300℃を越える温度は操業上困難である。望ましい加熱時間は10分以上、12時間以下である。加熱時間が短いと析出物を固溶させられず、加熱時間が長すぎると生産性を阻害する。
熱間圧延は、仕上げ圧延温度が800℃以上、1050℃以下の範囲になるように行う。仕上げ圧延温度が800℃未満では熱間圧延時に炭化物がオーステナイト中に析出し、粗大になりすぎるため、所望のr/fが得られない。また焼き入れ性が低下しベイナイト分率が低くなる。一方、1050℃を超えるとオーステナイトが粗大化して焼き入れ性が高まり、ベイナイト分率が低下し、マルテンサイト分率が増加するため、伸びフランジ性が低下する。
・熱延後の急冷
熱延後の急冷はベイナイト変態と析出が同時に起こる温度域(500℃から600℃の範囲)まで20℃/s以上で急冷する。フェライト変態が起こる温度域を急速に冷却することで、フェライト変態を抑制する。この急冷停止温度が高すぎるとフェライトが形成され、疲労特性が低下し、低すぎるとマルテンサイトが形成され、伸びフランジ性が低下する。
冷却速度は、遅すぎるとフェライトが形成され,疲労特性が低下するため、速いことが望ましいが、速すぎると制御が困難となるため、好ましくは150℃/s未満、さらに好ましくは120℃/s未満とする。
急冷後、500〜550℃で巻き取る。巻き取り温度が高すぎるとフェライトが形成され、疲労特性が低下し、低すぎるとマルテンサイトが形成され,伸びフランジ性が低下する。
・巻き取り後の保持
巻き取り後の保持はベイナイト中に析出物を適切なサイズに成長させるために行うもので、巻き取り後、冷却速度5℃/hr以下(0℃/hrを含む)で20hr以上保持後、任意の条件で冷却する。冷却速度が大きいか保持時間が短いと析出物が微細になり、カッティングされやすくなるため疲労特性が低下する。
なお、表1,2の最右欄に記載したrcは、条件式(1)の右辺の式で計算された平均粒径の値である(組織観察で得られた平均粒径rと区別するためrcと記載している)。右から2番目の欄に記載したwpはV,Nb,Ti,Mo,Zr,Wの合計含有量である。
得られた熱延鋼板からサンプルを採取し、組織観察、引張試験、疲労試験、伸びフランジ特性試験を下記要領で実施した。
鋼板中心部のTD面の組織を観察した。サンプルを鏡面に研磨した後、3%ナイタール腐食液で腐食し、×400で5視野観察及び撮影し、ポイントカウンティング法(各視野ごとに均等なメッシュで100ポイント)でベイナイト分率を求めた。
ベイナイト中の析出物の平均粒径rは、抽出レプリカ法により析出物を抽出し、ベイナイト領域を透過形電子顕微鏡にて、倍率×150000で1μm×1μmの領域を観察及び撮影し、その中に観察された析出物(円相当直径で2nm以上)を画像解析して各粒子の面積を求め、その面積から円相当直径を求めて平均値を算出し、平均粒径rとした。
また、析出物の面積を足し合わせ、観察面積に占める析出物面積からベイナイト中の析出物分率(面積率)fを求め、平均粒径rと析出物分率fからr/fを計算した。
引張試験は、サンプルをJISZ2201記載の5号試験片に加工し、JISZ2241に従って実施し、引張強さ(TS)を測定した。TSは780MPa以上を良好と評価した。
・疲労試験
疲労試験は、サンプルの表裏面を0.5mmずつ研削し、その後、JISZ2275記載の平面曲げ試験を実施し、疲労強度(FL)を測定した。また、疲労強度(FL)と引張強さ(TS)から疲労限度比(FL/TS)を計算した。
疲労特性の評価として、980MPa以下の場合は、疲労限度比(FL/TS)が0.60以上を良好、0.65以上を特に良好と評価し、TSが980MPa超の場合は、疲労限度比(FL/TS)が0.55以上を良好、0.60以上を特に良好と評価した。
伸びフランジ特性試験として穴広げ試験を行い、穴広げ率(λ)を測定した。穴広げ試験は、日本鉄鋼連盟規格JFST1001に従って実施した。また、穴広げ率(γ)と引張強さ(TS)から強度−伸びフランジバランス(λ×TS)を計算した。
伸びフランジ特性の評価として、強度−伸びフランジバランス(λ×TS)が50000以上で良好、60000以上で特に良好と評価した。
一方、その他の試験例は、クレームに規定された組成、ベイナイト分率、析出物の平均粒径r、及びr/fの少なくとも1つの要件を満たさず、FL/TSとTS×γの一方又は双方が劣る。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.01%以上、0.10%以下、Si:2.0%以下、Mn:0.5%以上、2.5%以下を含み、さらにV:0.01%以上、0.30%以下、Nb:0.01%以上、0.30%以下、Ti:0.01%以上、0.30%以下、Mo:0.01%以上、0.30%以下、Zr:0.01%以上、0.30%以下、W:0.01%以上、0.30%以下の1種又は2種以上を合計で0.5%以下含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、ベイナイト分率が80%以上で、析出物の平均粒径r(nm)が下記条件式(1)を満たし、平均粒径rと析出物分率fが下記条件式(2)を満たすことを特徴とする疲労特性及び伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板。
r≧207÷(27.4X(V)+23.5X(Nb)+31.4X(Ti)+17.6X(Mo)+25.5X(Zr)+23.5X(W)) ・・・・(1)
r/f≦12000 ・・・・(2)
ここで、式(1)のX(M)(M:V,Nb,Ti,Mo,Zr,W)は析出物を構成する元素の平均原子量比であり、下記一般式(3)で表される。
X(M)=(Mの質量%/Mの原子量)/(V/51+Nb/93+Ti/48+Mo/96+Zr/91+W/184) ・・・・(3)
ただし、上記式(3)中の元素記号は当該元素の質量%を意味する。 - さらにCu:1%以下、Ni:1%以下、Cr:1%以下、B:20ppm以下のいずれか1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載された疲労特性及び伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板。
- さらにAl:0.1%以下を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載された疲労特性及び伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板。
- さらにP:0.1%以下を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された疲労特性及び伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板。
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