JP4951488B2 - 蒸気タービンロータ及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は蒸気タービンロータ及びその製造方法に係り、特に、低圧側ロータと高圧側ロータとを溶接して一体化した蒸気タービンロータ及びその製造方法に関する。
一般に、大型蒸気タービンのロータは、軸長が長大になりしかも高圧側ロータには高温クリープ破断強度が要求され、低圧側ロータには引張強度と靭性とが要求されるので、一部材で蒸気タービンロータを形成した場合、各特性を満足させることができなかった。そこで、高圧側ロータを高温クリープ破断強度に優れた材料で形成し、低圧側ロータを引張強度と靭性に優れた材料で形成し、その後、これらを溶接によって一体化している。
しかしながら、高圧側ロータと低圧側ロータとを溶接した場合、溶接部近傍に材料の違いに基づく熱応力が発生する。そこで、この熱応力を除去するために焼鈍作業を行なう必要があるが、この焼鈍作業によって材料の異なる高圧側ロータと低圧側ロータとの熱応力を同じように除去することはできなかった。
そこで、例えば特許文献1に示すように、高圧側ロータと低圧側ロータの中間の特性を有する金属を高圧側ロータの端部に肉盛溶接、所謂バタリング層を形成して焼鈍作業を来ない、その後、この肉盛溶接した部分に低圧側ロータを溶接して焼鈍作業を行なっていた。
特開2000−64805号公報
上記バタリング層を形成して高圧側ロータと低圧側ロータを溶接により一体化する技術は、高圧側ロータの端部へのバタリング層の溶接と、高圧側ロータに適した焼鈍作業と、バタリング層の端面への開先加工と、バタリング層と低圧側ロータとの溶接と、低圧側ロータに適した焼鈍作業とを必要とするために、多大な作業と労力を必要としていた。
本発明の目的は、バタリング層を必要とせずに溶接部の強度を確保できると共に残留応力を低減できる蒸気タービンロータ及びその製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明者等は、バタリング層及びその開先加工を必要とせず、しかも必要最小限の焼鈍作業を行なうことで、溶接部の強度を確保できると共に残留応力を低減できる蒸気タービンロータの溶接部の構造を検証した。
図7は、製造時の最終焼き戻し温度が660℃のCr−Mo−V系鋼材を含む高圧側ロータと、製造時の最終焼き戻し温度が600℃のNi−Cr−Mo−V系鋼材を含む低圧側ロータとを直接溶接したときの溶接部近傍の温度分布図である。尚、図7中、Tは高圧側ロータの最終焼き戻し温度、Tは低圧側ロータの最終焼き戻し温度、Wは溶接材の巾、WHAZは高圧側及び低圧側ロータの溶接による熱影響部を示す。
そして、残留応力を除去するための焼鈍作業は、最終焼き戻し温度から夫々30℃〜40℃低い温度によって行った。したがって、高圧側ロータと低圧側ロータに対しての焼鈍温度は660℃−(30〜40)℃と600℃−(30〜40)℃であり、両者の間には60℃の温度差がある。
これらを前提に、高圧側ロータと低圧側ロータとを一体に溶接後、一体化した蒸気タービンロータを熱処理炉に入れ、全体を高圧側ロータの焼鈍温度で熱処理したところ、高温側ロータの溶接部近傍の残留応力は除去できたが、低温側ロータの強度が低下して実機負荷応力に耐えられない結果となった。一方、全体を低圧側ロータの焼鈍温度で熱処理したところ、低圧側ロータの強度は維持されて実機負荷応力耐えられるもであったが、残留応力は十分に除去できないことが判明した。
その要因は、図7に示す温度分布から明らかなように、低圧側ロータの熱容量が高圧側ロータの熱容量に比べて小さいことにより、低圧側ロータが高温で焼鈍されるものと判断し、本発明は、Ni−Cr−Mo−V系鋼材を含む低圧側ロータの熱容量をCr−Mo−V系鋼材を含む高圧側ロータの熱容量よりも大きくして上記目的を達成したのである。
具体的には、低圧側ロータの体積をV、高圧側ロータの体積をVとしたとき、(1)式の関係にして低圧側ロータの熱容量を高圧側ロータの熱容量よりも大きくしたのである。
>V (1)式
このように熱容量を違えることで、低圧側ロータも高温での焼鈍が可能となり、その結果、溶接部の強度確保と残留応力の低減を両立させることができた。
以上説明したように本発明によれば、バタリング層を必要とせずに溶接部の強度を確保できると共に残留応力を低減できる蒸気タービンロータを得ることができる。
以下本発明による蒸気タービンロータの第1の実施の形態を図1〜図7に基づいて説明する。
図1に示すように、蒸気タービンロータ1は、軸方向に複数のディスク2Dを形成した高圧側ロータ2と、軸方向に複数のディスク3Dを形成した低圧側ロータ3とで構成されており、これらは溶接部4で一体に連結されている。高圧側ロータ2と低圧側ロータ3の溶接部4の内径側には中空部5が形成され、軽量化及び溶接面積の低減が図られている。
高圧側ロータ2は、1%Cr−Mo−V系鋼材で形成され、低圧側ロータ3は、3〜4%Ni−Cr−Mo−V系鋼材で形成されており、溶接部4は、表1に示す鋼材が用いられる。尚、表1において残部はFeである。
Figure 0004951488
表1から明らかなように、高圧側ロータ2の鋼材はCr含有量が1.13%で、低圧側ロータ3の鋼材はCr含有量が1.83%であるので、この組成だけに着眼すると、溶接部4となる溶接ワイヤは、両ロータの中間となるCr含有量とすべきである。しかし、溶接後の焼鈍作業を考慮すると、両ロータの最終焼き戻し温度以上の熱処理でも溶接部4の強度低下を起こさないように、Cr含有量が1.22%の溶接ワイヤを用いた。
図2は、高圧側ロータ2と低圧側ロータ3の溶接部4の拡大図で、高圧側ロータ2と低圧側ロータ3の開先部の内径側には、中空部5が形成され、その外径側に位置合わせのための突合せ部6A,6Bが形成されている。突合せ部6A,6Bの外径側に形成された開先に溶接ワイヤを溶融させて充填することで溶接部4を形成し、高圧側ロータ2と低圧側ロータ3を一体に溶融接合している。高圧側ロータ2と低圧側ロータ3には、前記中空部5に連なる大径中空部7A,7Bが形成され、実機負荷応力が突合せ部6A,6Bに集中するのを回避している。
図3は、高圧側ロータ2と低圧側ロータ3を溶接するためのタングステン・不活性ガス(TIG)溶接装置8であり、支持台9に軸支されたアーム10と、このアーム10の先端に支持され電極11を有するトーチ12と、電極11近傍に溶接ワイヤ13を送り出す溶接ワイヤ供給装置13Aと、電極11に電力線14を介して所定値の電流を供給する溶接電源15と、溶接部の酸化を防止するためにガスホース16を介して電極11周囲から噴出させる不活性ガスを供給するガスボンベ17と、高圧側ロータ2と低圧側ロータ3とを支持して回転させるロータ回転装置18とを備えている。
前記溶接電源15からは、電極11と高圧側ロータ2及び低圧側ロータ3との間で電気アークを発生させるために、高圧側ロータ2及び低圧側ロータ3に電流を供給する電力線19が接続されており、また、ロータ回転装置18に回転速度や回転方向を指示する回転信号線20が接続されている。さらに、溶接電源15からは、溶接ワイヤ供給装置13Aに対して溶接ワイヤ13の供給速度を制御する送給信号線21が接続されている。
ところで、図3は、タングステン・不活性ガス(TIG)溶接装置8であるが、サブマージアーク溶接(SAW)装置、被覆アーク溶接装置、金属・不活性ガス(MIG)溶接装置、さらにはこれらを組合せて用いてもよい。
図4は、上記タングステン・不活性ガス(TIG)溶接装置8によって高圧側ロータ2と低圧側ロータ3とを溶接する際のフロー図である。
ステップ1で溶接行程を開始する指示がでると、ステップ2で溶接前に高圧側ロータ2と低圧側ロータ3の溶接箇所を加熱するために予熱される。そしてステップ3で溶接が行われ、その後、ステップ4で溶接によって溶接部4に入った熱を均一化するために残留応力除去焼鈍(SR)処理が行われる。次に、ステップ5で、溶接部に欠陥が存在するか否かを確認するための検査が行われ、ステップ6で欠陥が検出されなかった場合には、ステップ7で接合行程を終了する。しかし、ステップ6で、欠陥が検出された場合には、ステップ8に進み、その欠陥が許容できる欠陥と判断された場合にはステップ7に進んで接合行程を終了する。しかしながら、ステップ8で許容できない欠陥が存在すると判断された場合には、ステップ9に進み、欠陥部の除去が行われ、その後、ステップ3の本溶接を改めて行い、その後は上述の行程で作業を進める。
以上が高圧側ロータ2と低圧側ロータ3とを直接溶接する際のフローチャートであるが、仮に、バタリング層を介して高圧側ロータ2と低圧側ロータ3とを溶接する場合には、ステップ2とステップ3との間にステップ30、40,50,60,80,90,100の多大な作業が必要となる。
次に、残留応力除去焼鈍(SR)処理後の残留応力測定結果を図5に基づいて説明する。
残留応力は、引張応力でも圧縮応力でも許容範囲内になければならない。焼鈍処理前には、高圧側ロータ2と低圧側ロータ3における溶接による熱影響部(HAZ)には、許容範囲を超える残留応力を含んでいた。そこで、焼鈍処理をT−30℃で行った場合、低圧側ロータ3の熱影響部(HAZ)では許容範囲内に残留応力を低減させることができた。しかしながら、高圧側ロータ2の熱影響部(HAZ)においては残留応力が十分に除去できず許容範囲外であった。さらに、焼鈍処理をT−30℃で行った場合、高圧側ロータ2と低圧側ロータ3における溶接による熱影響部(HAZ)において残留応力は十分に低減でき、許容範囲内に収まることができた。
以上から、残留応力除去焼鈍(SR)処理は、T−30℃で行なうべきであることが明らかになった。しかしながら、実際に残留応力除去焼鈍(SR)処理を行なう場合には、測定及び温度制御の誤差等を考慮すると、最適焼鈍温度はT−(30〜40℃)で行なうべきである。
図6は、高圧側ロータ2と低圧側ロータ3及び溶接部4の3部材の引張試験の結果を示すものである。横軸は熱処理(焼鈍)温度で、縦軸は耐力(引張強度)である。いずれの部材も熱処理温度を高く、例えばT(660℃)方向にすると、耐力は低下する傾向にある。溶接部の残留応力を許容範囲内に除去するに必要なT−30℃で行った場合には、溶接部の耐力は低圧側ロータ3に必要な耐力σは満足しないが、高圧側ロータ2に必要な耐力σは満足する。
溶接部4を中心とした高圧側ロータ2と低圧側ロータ3を電気炉などに入れて、T−30℃で熱処理した場合には、図5に示すように、残留応力は十分に低減できるが、上述のように、低圧側ロータ3に必要な耐力σを満足することができない。また、溶接部をT−30℃で熱処理した場合には、溶接部4、高圧側ロータ2及び低圧側ロータ3の耐力は満足させることができるが、図5に示すように、高圧側ロータ2の残留応力を許容範囲内に低減することができない。
本実施の形態においては、これらの矛盾を解消するために、溶接部を含む高圧側ロータ2と低圧側ロータ3の熱影響部(HAZ)を熱処理する際に、溶接部近傍を高圧側ロータ2及び低圧側ロータ3に適した温度分布となるように、高圧側ロータ2及び低圧側ロータ3の形状を工夫したのである。
即ち、図7に示す温度分布で熱処理ができるように、図4に示すステップ4の残留応力除去焼鈍(SR)処理時に、図8に示す局所熱処理装置22を用いて熱処理すると共に、溶接部近傍の高圧側ロータ2と低圧側ロータ3との熱容量を変えたのである。
図8において、局所熱処理装置22は、被加熱部の形状に合わせて任意に変形できる局所加熱器23と、溶接部4近傍の高圧側ロータ2と低圧側ロータ3の外周を保温する複数の保温材24A〜24Dと、冷却装置25と、熱処理時の高圧側ロータ2と低圧側ロータ3の温度を測定する温度測定器26A,26Bと、温度制御装置27とを備え、温度制御装置27からは前記局所加熱器23及び冷却装置25へ電力を供給する電力線が接続され、温度測定器26A,26Bとは信号線で接続されている。
温度制御装置27は、温度測定器26A,26Bからの温度信号に基づいて局所加熱器23及び冷却装置25の出力を制御している。
一方、高圧側ロータ2と低圧側ロータ3は、回転起動及び停止時の応力を低減するために、接続部近傍には半径Rの中空部5が形成されている。そして、この半径Rは応力が溶接部4に集中しないように設定されている。この半径Rの中空部5に隣接して高圧側ロータ2には、半径R+h、軸方向の幅Wの中空部5Aを形成し、低圧側ロータ3には、半径R+h、軸方向の幅Wの中空部5Aを形成している。そして、これら中空部5A,5Bは、溶接部4の軸方向中心を基点として軸方向に溶接部4の肉厚(反径方向の寸法)tと同じ寸法内に重複するように形成し、溶接部4の肉厚(反径方向の寸法)tと同じ寸法内における高圧側ロータ2の体積よりも低圧側ロータ3の体積を大きくして低圧側ロータ3の熱容量を高圧側ロータ2の熱容量よりも大きくしている。さらに、保温材24A〜24Dも、高圧側ロータ2には溶接部4の肉厚(反径方向の寸法)tと同じ寸法内に同じ厚さとなるように被覆し、低圧側ロータ3には溶接部4から離れるにしたがい厚さを薄くし、加えて、低圧側ロータ3の保温材24Dの外側には冷却装置25を設置して冷却することで、図7に示す温度分布を保持するようにしている。
ここで、溶接部4の外周部から内周部に至る範囲の温度を均一にする場合、軸方向に対して溶接部4の中心から溶接部4の肉厚tにほぼ等しい距離の範囲内の温度も均一になる等方伝熱モデルを想定する。尚、中空部5A,5Bの外周角部は応力の集中を避けるために実際は円弧状に加工されているが、ここでは計算を簡略化するために、直角になっていると仮定する。また、添字を高圧側ロータ2、添字を低圧側ロータ3、溶接部4の肉厚tにほぼ等しい軸方向の距離をx(低圧側ロータ3の側が正、高圧側ロータ2の側が負)とする。
上記仮定の下に算出すると、溶接部4から距離x(−t≦x≦t)の範囲内の高圧側ロータ2の体積Vと低圧側ロータ3の体積Vは、(2)式、(3)式となる。
=2πR(t−h) (−t≦x<0) (2)式
=2πR(t−h) (0<x≦t) (3)式
また、溶接部4から距離x(−t≦x≦t)の範囲内の高圧側ロータ2の温度上昇率ΔTと低圧側ロータ3の温度上昇率ΔTは、(4)式、(5)式となる。
ΔT=(T−40℃)−rt (−t≦x<0) (4)式
ΔT=ΔT−(T−T)/2 (−t≦x<0) (5)式
尚、rtは室温である。
一方、溶接部4の外周部中心部(x=0)に取付けた局所加熱器23から伝達される高圧側ロータ2の熱量Hと低圧側ロータ3の熱量Hは、(6)式、(7)式となる。
=CPHΔT (−t≦x<0) (6)式
=CPLΔT (−t≦x<0) (7)式
尚、Cは各ロータの比熱である。
ここで、高圧側ロータ2と低圧側ロータ3の比熱Cを同等と仮定すると、熱量Hと熱量Hは同じとなるので、(8)式が成立する。
ΔT=ΔT→V=ΔT/ΔT (8)式
また、(3)式を変形すると、(9)式となる。
=t−V/2πR (9)式
そして、(9)式に(2)式と(7)式を代入すると、(10)式が成立する。
=t−ΔT/ΔT/2πR=t−ΔT/ΔT(t−h)=ΔT/ΔT−t(ΔT/ΔT−1) (10)式
(10)式により、ΔT,ΔT,hが決まれば、低圧側ロータ3の中空部5Bの断面積hを求めることができる。
ここで、(9)式の左辺が0以上となるためには、(11)式が成立しなければならない。
2πRt−V>0 (11)式
この(11)式に、(2)式と(7)式を代入して整理すると、(12)式が得られる。
>(1−ΔT/ΔT) (12)式
この(12)式により、高圧側ロータ2と低圧側ロータ3との間の熱処理温度に温度分布をつけるために必要な高圧側ロータ2の中空部5Aの断面積hを求めることができる。
図9は、中空部5A,5Bの断面積の計算例を示し、横軸は高圧側ロータ2の中空部5Aの断面積hを溶接部4の肉厚tの2乗tで除した無次元数で、縦軸は低圧側ロータ3のhを溶接部4の肉厚tの2乗tで除した無次元数である。高圧側ロータ2の中空部5Aの断面積hと低圧側ロータ3のhのいずれか一方側を決めることにより他方側の断面積が求まる。
本実施の形態では、溶接部4の肉厚t=80mmの場合、高圧側ロータ2の中空部5Aの断面積hを15とすると、低圧側ロータ3の中空部5Bの断面積hは10.2となり、高圧側ロータ2の中空部5Aの断面積hを12とすると、低圧側ロータ3のhは7.5となる。
さらに、溶接部4の肉厚t=100mmの場合や肉厚t=120mmの場合には、高圧側ロータ2の中空部5Aの断面積hを15とすると、低圧側ロータ3の中空部5Bの断面積hは8.8,6.4となる。
このように、高圧側ロータ2の中空部5Aの断面積hと低圧側ロータ3の中空部5Bの断面積hのいずれか一方側を変化させると他方側の断面積も変化する。
尚、本実施の形態における中空部5Aの断面積hと中空部5Bの断面積hは、中空部5A,5Bの形状によって計算仮定が異なるので、(10)式や(12)式によって規定されるとは限らず、中空部5A,5Bの形状としての必要条件としては、(13)式を仮定すれば(7)式から(14)式及び(15)式が規定される。
ΔT>ΔT (13)式
>V (14)式
>h (15)式
さらに、以上の計算仮定によらず、図7に示した温度分布で残留応力除去焼鈍(SR)処理を達成できれば、高圧側ロータ2と低圧側ロータ3の中空部5近傍の形状は自由である。
以上の説明は、溶接部4の肉厚tを、変えることで低圧側ロータ3の中空部5Bの断面積、云い代えれば、中空部5B外周の体積を変化させて熱容量を変え、これによって高圧側ロータ2の中空部5A外周の熱容量よりも大きくしたものであるが、溶接部4の肉厚tを変化させずに、最終焼き戻し温度の設定を変えることでも中空部5A,5Bの断面積を変えることができる。
図10を用いて溶接部4の肉厚tを変化させずに、最終焼き戻し温度の設定を変えることで中空部5A,5Bの断面積を変化させる計算例を説明する。
高圧側ロータ2と低圧側ロータ3の最終焼き戻し温度T,Tが前記実施の形態と同じ660℃,600℃に加え、610℃,550℃及び560℃,500℃とした場合の計算例を示している。最終焼き戻し温度T,Tを610℃,550℃とした場合、高圧側ロータ2の中空部5Aの断面積hを15とすると、低圧側ロータ3の中空部5Bの断面積hは9.9となり、最終焼き戻し温度T,Tを560℃,500℃とした場合、高圧側ロータ2の中空部5Aの断面積hを15とすると、低圧側ロータ3のhは9.5となる。
このように、高圧側ロータ2と低圧側ロータ3の最終焼き戻し温度T,Tを変化させることで、低圧側ロータ3の中空部5Bの断面積hを変えることができ、断面積hを調整することで図7に示し温度分布で残留応力除去焼鈍(SR)処理を行なうことができる。
図11〜図13は、蒸気タービンロータ1の溶接位置の変形例を示すもので、図11に示す蒸気タービンロータ1は、図1に比べて溶接位置が高圧側ロータ2側寄りに位置し、溶接部28Aの内側には中空部29Aが構成され、さらに、図示は省略するが、この中空部29Aに連なって上記実施の形態と同じような中空部5A,5Bが形成されているのは云うまでもない。図12に示す蒸気タービンロータ1は、溶接位置が低圧側ロータ3の軸端寄りに位置し、溶接部28Bの内側には中空部29Bが構成され、さらに、図示は省略するが、この中空部29Bに連なって上記実施の形態と同じような中空部5A,5Bが形成されているのは云うまでもない。図13は、図11と図12との組合せて2箇所に溶接位置が存在するものである。
図11〜図13に示すように、蒸気タービンロータ1に要求される圧力や温度、さらには設置場所や高圧側ロータ2と低圧側ロータ3の母材価格に見合って最適な接合位置を選択することが望ましい。
図14は、本発明による蒸気タービンロータの第2の実施の形態を示すもので、図8と同符号は同一部品を示すので再度の詳細な説明は省略する。
本実施の形態において、図8に示す第1の実施の形態と異なる構成は、低圧側ロータ3に、高圧側ロータ2の直径Dよりも大きな直径Dの大径部30を形成して蓄熱部を形成したのである。この大径部30は、低圧側ロータ3の熱容量を残留応力除去焼鈍(SR)処理時に一時的に高圧側ロータ2よりも大きくするためのものである。
このように、本実施の形態は、中空部5A,5Bの断面積h,hを変化させることに加え、低圧側ロータ3側に蓄熱部となる大径部30を形成することで、温度上昇率が前記(13)式を満たすようにしたのである。前記(13)式を満たす条件としては、(16)式が挙げられる。
<D (16)式
ただ、前記(16)式の関係は、残留応力除去焼鈍(SR)処理時に成立していればよく、例えば熱処理後に低圧側ロータ3の直径D部を切削して高圧側ロータ2の直径Dと同じにしてもよい。
このように、本実施の形態は、中空部5A,5Bを形成した上で、低圧側ロータ3の外径を大径に調整することで、図7に示す温度分布によって熱処理を行なうことができる。尚、低圧側ロータ3の外径を大径にすることで、図7に示す温度分布によって熱処理を行なうことができるのであれば、前記中空部5A,5Bは必ずしも必要とするものではない。
図15は、本発明による蒸気タービンロータの第3の実施の形態を示すもので、図14と同符号は同一部品を示すので再度の詳細な説明は省略する。
本実施の形態は、図14に示す第2の実施の形態と異なる構成は、低圧側ロータ3の外周に、熱放散部となる直径Dの放熱フィン31を複数設けて、低圧側ロータ3の熱容量を高圧側ロータ2の熱容量よりも大きくしたのである。
このように構成することで、放熱フィン31の放熱効果と熱容量の相乗効果により低圧側ロータ3への伝熱を制御することができ、その結果、図7に示す温度分布で残留応力除去焼鈍(SR)処理を行なうことができる。
尚、本実施の形態においても、残留応力除去焼鈍(SR)処理後に、放熱フィン31を切削して低圧側ロータ3と高圧側ロータ2との直径を同じにしてもよく、また、本実施の形態においても、放熱フィン31のみで図7に示す温度分布での熱処理ができるのであれば、前記中空部5A,5Bは必ずしも必要とするものではない。
本発明による蒸気タービンロータの第1の実施の形態を示す一部破断側面図。 本発明による蒸気タービンロータの高圧側ロータと低圧側ロータとの連結部を示す縦断拡大側面図。 高圧側ロータと低圧側ロータを溶接するためのタングステン・不活性ガス溶接装置を示す概略側面図。 本発明による蒸気タービンロータの高圧側ロータと低圧側ロータの溶接工程を示すフロー図。 残留応力除去焼鈍(SR)処理後の残留応力測定結果図。 高圧側ロータと低圧側ロータ及び溶接部の引張強さの測定結果図。 残留応力除去焼鈍(SR)処理時の高圧側ロータと低圧側ロータの温度分布図。 第1の実施の形態による高圧側ロータと低圧側ロータとの溶接後における残留応力除去焼鈍処理を行なう局所熱処理装置を示す模式図。 第1の実施の形態による高圧側ロータと低圧側ロータの中空部の断面積の計算結果を示す図。 第1の実施の形態による高圧側ロータと低圧側ロータの溶接部の残留応力除去焼鈍処理結果を示す図。 蒸気タービンロータの溶接位置の第1の変形例を示す図1相当図。 蒸気タービンロータの溶接位置の第2の変形例を示す図1相当図。 蒸気タービンロータの溶接位置の第3の変形例を示す図1相当図。 本発明による蒸気タービンロータの第2の実施の形態を示す図8相当図。 本発明による蒸気タービンロータの第23実施の形態を示す図8相当図。
符号の説明
1…蒸気タービンロータ、2…高圧側ロータ、2D…ディスクと、3…低圧側ロータ、3D…ディスク、4…溶接部、5,5A,5B…中空部、6A,6B…突合せ部、7A,7B…大径中空部、8…タングステン・不活性ガス(TIG)溶接装置、9…支持台、10…アーム、11…電極、12…トーチ、13…溶接ワイヤ、13A…溶接ワイヤ供給装置、14…電力線、15…溶接電源、16…ガスホース、17…ガスボンベ、18…ロータ回転装置、19…電力線、20…回転信号線、21…送給信号線、22…局所熱処理装置、23…局所加熱器、24A〜24D…保温材、25…冷却装置、26A,26B…温度測定器、27…温度制御装置、28A,28B…溶接部、29A,29B…中空部、30…大径部、31…放熱フィン。

Claims (6)

  1. 軸方向に複数のディスクを形成したNi−Cr−Mo−V鋼材を含む低圧側ロータと軸方向に複数のディスクを形成したNi−Cr−V鋼材を含む高圧側ロータとを溶接して一体化した蒸気タービンロータにおいて、低圧側ロータと高圧側ロータとの溶接時に、溶接部の中心から溶接部の肉厚に等しい範囲内の前記低圧側ロータの体積を高圧側ロータの体積よりも大きく形成して前記低圧側ロータの熱容量を高圧側ロータの熱容量よりも大きくしたことを特徴とする蒸気タービンロータ。
  2. 軸方向に複数のディスクを形成したNi−Cr−Mo−V鋼材を含む低圧側ロータと軸方向に複数のディスクを形成したNi−Cr−V鋼材を含む高圧側ロータとを溶接して一体化した蒸気タービンロータにおいて、低圧側ロータと高圧側ロータとの溶接時に、前記低圧側ロータと高圧側ロータの溶接部の中心から溶接部の肉厚に等しい範囲内に夫々中空部を形成すると共に、低圧側ロータの中空部を高圧側ロータの中空部よりも小さく形成して前記低圧側ロータの熱容量を高圧側ロータの熱容量よりも大きくしたことを特徴とする蒸気タービンロータ。
  3. 軸方向に複数のディスクを形成したNi−Cr−Mo−V鋼材を含む低圧側ロータと軸方向に複数のディスクを形成したNi−Cr−V鋼材を含む高圧側ロータとを溶接して一体化した蒸気タービンロータにおいて、低圧側ロータと高圧側ロータとの溶接時に、前記低圧側ロータと高圧側ロータの溶接部の中心から溶接部の肉厚に等しい範囲内に夫々中空部を形成すると共に、低圧側ロータの中空部を高圧側ロータの中空部よりも小さく形成し、かつ、前記低圧側ロータに蓄熱部を設けて前記低圧側ロータの熱容量を高圧側ロータの熱容量よりも大きくしたことを特徴とする蒸気タービンロータ。
  4. 軸方向に複数のディスクを形成したNi−Cr−Mo−V鋼材を含む低圧側ロータと軸方向に複数のディスクを形成したNi−Cr−V鋼材を含む高圧側ロータとを溶接して一体化した蒸気タービンロータにおいて、低圧側ロータと高圧側ロータとの溶接時に、前記低圧側ロータと高圧側ロータの溶接部の中心から溶接部の肉厚に等しい範囲内に夫々中空部を形成すると共に、低圧側ロータの中空部を高圧側ロータの中空部よりも小さく形成し、かつ、前記低圧側ロータに熱放散部を設けて前記低圧側ロータの熱容量を高圧側ロータの熱容量よりも大きくしたことを特徴とする蒸気タービンロータ。
  5. 軸方向に複数のディスクを形成したNi−Cr−Mo−V鋼材を含む低圧側ロータと軸方向に複数のディスクを形成したNi−Cr−V鋼材を含む高圧側ロータとを溶接して一体化した蒸気タービンロータの製造方法において、前記低圧側ロータと高圧側ロータの溶接部の中心から溶接部の肉厚に等しい範囲内に夫々中空部を形成すると共に、低圧側ロータの中空部を高圧側ロータの中空部よりも小さく形成し、かつ、前記低圧側ロータに蓄熱部を設けて前記低圧側ロータの熱容量を高圧側ロータの熱容量よりも大きくした状態で前記低圧側ロータと高圧側ロータとの溶接を行なうことを特徴とする蒸気タービンロータの製造方法。
  6. 軸方向に複数のディスクを形成したNi−Cr−Mo−V鋼材を含む低圧側ロータと軸方向に複数のディスクを形成したNi−Cr−V鋼材を含む高圧側ロータとを溶接して一体化した蒸気タービンロータの製造方法において、前記低圧側ロータと高圧側ロータの溶接部の中心から溶接部の肉厚に等しい範囲内に夫々中空部を形成すると共に、低圧側ロータの中空部を高圧側ロータの中空部よりも小さく形成し、かつ、前記低圧側ロータに熱放散部を設けて前記低圧側ロータの熱容量を高圧側ロータの熱容量よりも大きくし状態で前記低圧側ロータと高圧側ロータとの溶接を行なうことを特徴とする蒸気タービンロータの製造方法。
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