本発明は積層シートの製造方法に関する。より具体的には、静電紡糸法により紡糸した繊維を含む繊維シートと基材シートとが接着した積層シートの製造方法に関する。
繊維シート(特に不織布)を構成する繊維の繊維径が小さいと、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、担持性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れているため、繊維シートを構成する繊維の繊維径は小さいのが好ましい。このような繊維径の小さい繊維からなる繊維シートの製造方法として、紡糸原液を紡糸空間へ供給し、供給した紡糸原液に電界を作用させて紡糸原液を繊維化し、延伸して繊維径の小さい繊維とした後に直接捕集して繊維シート(不織布)とする、いわゆる静電紡糸法が知られている。
このような静電紡糸法によれば、平均繊維径が1μm以下の非常に細い繊維からなる繊維シートを製造することができるが、強度的に劣っている。そのため、剛性や強度の優れる補強材と積層一体化することによって、その強度を高めることが提案されている。例えば、本願出願人は、静電紡糸法により製造された不織布と通気性シートとをホットメルト樹脂接着剤により接着一体化した積層体を提案した(特許文献1)。この積層体は通気性シートによって強度が付与されているとともに、接着剤の静電紡糸不織布片表面からのしみ込み深さが不織布の厚さの40%以下であるため、静電紡糸不織布がもつ本来の性能を発揮できる積層体であるとして提案した。確かに、この提案した積層体は、従来の方法で製造した積層体よりも静電紡糸不織布のもつ性能を発揮できるものであったが、より一層静電紡糸不織布のもつ性能を発揮できる積層体が望まれていた。
特開2007−30175号公報(請求項1、段落番号0028など)
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、静電紡糸法により紡糸した繊維を含む繊維シートのもつ性能を十分に発揮できる積層シートの製造方法を提案することを目的とする。
本発明の請求項1にかかる発明は、「静電紡糸法により紡糸した繊維Eを含む繊維シートSと、基材シートとが接着した積層シートの製造方法であり、前記繊維Eを溶解可能な溶媒Aと、前記繊維E及び基材シート構成材料を溶解不可能で、前記溶媒Aと混合可能、かつ前記溶媒Aよりも沸点の低い溶媒Bとの混合溶媒を含む繊維シートSと基材シートとの積層体を、加熱することによって前記混合溶媒を除去し、前記繊維Eの構成材料によって接着することを特徴とする積層シートの製造方法。」である。
本発明の請求項2にかかる発明は、「繊維シートSが、静電紡糸法により紡糸した繊維Eを直接捕集して形成した繊維ウエブ又は不織布からなることを特徴とする、請求項1記載の積層シートの製造方法。」である。
本発明の請求項3にかかる発明は、「混合溶媒の付与量が溶媒Aによって溶解可能な材料の質量の3〜15倍量であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の積層シートの製造方法。」である。
本発明の請求項4にかかる発明は、「基材シートが、繊維シートSと同じ繊維シートからなることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の積層シートの製造方法。」である。
本発明の請求項5にかかる発明は、「基材シートが、繊維シートSを構成する繊維Eと異なる静電紡糸法により紡糸した繊維Edを含む繊維シートSdからなることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の積層シートの製造方法。」である。
本発明の請求項1にかかる発明は、ホットメルト樹脂接着剤のような第3成分によることなく、静電紡糸法により紡糸した繊維Eによって接着させているため、静電紡糸法により紡糸した繊維を含む繊維シートのもつ性能を十分に発揮できる積層シートを製造することができる。つまり、第3成分が静電紡糸法により紡糸した繊維を含む繊維シートの空隙に浸入しないため、静電紡糸法により紡糸した繊維を含む繊維シートのもつ性能を十分に発揮できる積層シートを製造することができる。
本発明の請求項2にかかる発明は、繊維シートSが、静電紡糸法により紡糸した繊維Eを直接捕集して形成した繊維ウエブ又は不織布からなる場合に、特に有効である。
本発明の請求項3にかかる発明は、混合溶媒の付与量が溶媒Aによって溶解可能な材料の質量の3〜15倍量であることによって、繊維シートSと基材シートとを均一に接着することができる。
本発明の請求項4にかかる発明は、基材シートが、繊維シートSと同じ繊維シートからなるため、厚く、高目付の積層シートを製造することができる。
本発明の請求項5にかかる発明は、基材シートが、繊維シートSを構成する繊維Eと異なる静電紡糸法により紡糸した繊維Edを含む繊維シートSdからなるため、各種性能を有する積層シートを製造することができる。
本発明の積層シートの製造方法においては、まず、静電紡糸法により紡糸した繊維E(以下、「静電紡糸繊維E」と表記することがある)を含む繊維シートSを形成する。繊維シートSは静電紡糸法により紡糸した細い繊維を含むため、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、担持性能、或いは柔軟性など、様々な性能を発揮することができる。このような性能を発揮しやすいように、繊維シートSは静電紡糸繊維Eを50mass%以上含んでいるのが好ましく、70mass%以上含んでいるのがより好ましく、90mass%以上含んでいるのが更に好ましく、静電紡糸繊維Eのみからなるのが最も好ましい。なお、繊維シートSを構成できる静電紡糸繊維以外の繊維は特に限定するものではないが、従来公知の再生繊維、半合成繊維、合成繊維、無機繊維、植物繊維、或いは動物繊維を例示でき、後述の溶媒Aに溶解可能であっても、溶解不可能であっても良い。溶媒Aに溶解可能であれば、静電紡糸繊維Eと一緒に若干溶解して、接着作用を奏する。
この繊維シートSを構成する静電紡糸繊維Eは積層シートの使用用途等によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンなどの有機材料を挙げることができる。
この静電紡糸法による紡糸方法は従来から公知の方法であり、ノズル等の紡糸原液供給部から紡糸空間へ供給した紡糸原液に対して電界を作用させることにより、紡糸原液を延伸し、繊維化する方法である。
なお、紡糸原液は静電紡糸繊維構成材料を溶媒に溶解させたものである。静電紡糸繊維構成材料は前述の通りであり、溶媒は静電紡糸繊維構成材料によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、ピリジン、トリクロロエタン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、アセトニトリルなどを挙げることができる。これら例示以外の溶媒も使用可能であり、例示以外の溶媒も含めて、2種以上の溶媒を用いた混合溶媒も使用することができる。
このような静電紡糸法によれば、平均繊維径が1μm以下、好ましくは0.8μm以下、より好ましくは0.6μm以下、更に好ましくは0.4μm以下、更に好ましくは0.3μm以下の静電紡糸繊維Eを紡糸することができる。なお、平均繊維径の下限値は特に限定するものではないが、0.01μm以上であるのが好ましい。本発明における「平均繊維径」は50本の繊維の繊維径の算術平均値をいい、「繊維径」は繊維の電子顕微鏡写真を基に計測して得られる値をいう。また、静電紡糸繊維Eは通常、連続繊維であるが、紡糸後に切断したり、間欠的に紡糸原液を紡糸空間へ供給することによって、不連続繊維とすることもできる。これらの中でも連続繊維であると、静電紡糸繊維Eの自由度が低く、毛羽立ちにくいため好ましい。
本発明の繊維シートSは上述のような静電紡糸繊維Eを含むものであるが、例えば、静電紡糸した繊維を直接捕集することによって形成できるし、不連続である静電紡糸繊維Eを抄紙することによっても形成できる。これらの中でも、静電紡糸により紡糸した繊維を直接捕集することによって形成した繊維ウエブ又は不織布は静電紡糸繊維Eの性能を発揮しやすいため好適である。なお、繊維ウエブは繊維同士を接着させるための処理を施していないものを意味し、不織布は繊維同士を接着させるための処理を施したものを意味する。
この好適である静電紡糸した繊維を直接捕集して繊維ウエブを形成する場合、繊維分散ムラが小さいように、また、ある程度の幅と長さをもった繊維ウエブを製造できるように、特開2006−112023号公報に開示の方法により行うのが好ましい。つまり、ノズル等の紡糸原液供給部を捕集体の幅方向に直線的に移動(特には長円状に移動)させながら、紡糸原液を供給するのが好ましい。このように直線的に移動させると、紡糸原液供給部の移動速度を一定にできるため、繊維分散ムラの小さい繊維ウエブを製造しやすい。
一方、静電紡糸法により紡糸した繊維Eを直接捕集して形成した不織布は、前述のようにして形成した繊維ウエブに繊維同士を接着させるための処理を施して得ることができる。この接着処理はエマルジョン等のバインダ、融着処理などによって実施することも可能であるが、静電紡糸繊維Eの性能を発揮できるように、次の方法により接着するのが好ましい。つまり、静電紡糸繊維Eを溶解可能な溶媒A’と、静電紡糸繊維Eを溶解不可能で、前記溶媒A’と混合可能、かつ前記溶媒A’よりも沸点の低い溶媒B’との混合溶媒を繊維ウエブに付与した後に、加熱して前記混合溶媒を除去する際に、静電紡糸繊維Eを若干溶解させて繊維同士を接着する。
この混合溶媒における溶媒A’は静電紡糸繊維Eを若干溶解させて繊維同士を接着させる作用を奏する。溶媒B’は静電紡糸繊維Eを溶解させて消滅させてしまわないように静電紡糸繊維Eを溶解不可能である。また、溶媒B’は溶媒A’を繊維ウエブ全体に均一に付与できるように溶媒A’と混合可能である。更に、溶媒A’による接着作用を発揮できるように、溶媒B’は溶媒A’よりも沸点が低い。溶媒A’による接着作用が生じやすいように、溶媒B’の沸点は溶媒A’の沸点よりも10℃以上低いのが好ましく、30℃以上低いのがより好ましい。なお、溶媒B’の沸点の下限は特に限定するものではないが、室温で容易に揮発しないように、50℃以上であるのが好ましい。
本発明における「静電紡糸繊維を溶解可能」とは、静電紡糸繊維又は静電紡糸繊維構成材料を室温下、溶媒に浸漬し、1mass%以上の濃度の溶解液を作製できることを意味し、「静電紡糸繊維を溶解不可能」とは、静電紡糸繊維又は静電紡糸繊維構成材料を室温下、1時間溶媒に浸漬した時の質量減少率が1mass%未満であることを意味する。また、「溶媒と混合可能」とは、2種類の溶媒を任意の比率で攪拌混合した混合溶媒を放置しても2層に分離しないことを意味する。更に、「沸点」はJIS K5601−2−3により得られる値をいう。
この混合溶媒は静電紡糸繊維Eによって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、静電紡糸繊維Eがポリアクリロニトリルからなる場合には、溶媒A’と溶媒B’の組み合わせがN,N−ジメチルホルムアミドと水の混合溶媒、静電紡糸繊維Eがポリエーテルスルホンからなる場合には、溶媒A’と溶媒B’の組み合わせがN,N−ジメチルホルムアミドとイソプロピルアルコールの混合溶媒、静電紡糸繊維Eがポリビニルアルコールからなる場合には、溶媒A’と溶媒B’の組み合わせが水とイソプロピルアルコールの混合溶媒、を挙げることができる。
なお、この混合溶媒においては、溶媒A’の濃度が1〜25mass%であるのが好ましい。溶媒A’の濃度が1mass%未満であると、静電紡糸繊維Eを若干溶解させて繊維同士を接着させるのが困難になる傾向があるためで、3mass%以上であるのが好ましく、5mass%以上であるのがより好ましい。他方、25mass%を超えると、溶媒A’によって静電紡糸繊維Eを溶解させ過ぎてしまい、静電紡糸繊維Eを消失させてしまう傾向があり、また、溶媒A’の揮発と溶媒B’の揮発の時間差が長くなり、接着ムラが発生しやすくなる傾向があるためで、22mass%以下であるのが好ましく、20mass%以下であるのがより好ましい。
このような混合溶媒の繊維ウエブへの付与量は繊維ウエブの質量の3〜15倍量であるのが好ましい。3倍量よりも少ないと、繊維ウエブに対して混合溶媒を均一に付与するのが困難になり、接着ムラが発生しやすくなる傾向があるためで、4倍量以上であるのが好ましく、5倍量以上であるのがより好ましい。他方、15倍量よりも多いと、加熱して混合溶媒を除去する際に、均一に乾燥させることが困難となり、接着ムラが生じやすい傾向があるためで、12倍量以下であるのが好ましく、10倍量以下であるのがより好ましい。
なお、混合溶媒の繊維ウエブへの付与方法は特に限定するものではないが、例えば、混合溶媒浴中に繊維ウエブを浸漬する方法、混合溶媒を繊維ウエブに散布する方法、混合溶媒を繊維ウエブに塗布する方法、などを挙げることができる。これらの中でも、繊維ウエブ全体に対して混合溶媒を均一に付与できる、浸漬する方法により付与するのが好ましい。なお、静電紡糸繊維Eによっては、混合溶媒を繊維ウエブに付与した時に、溶媒A’が静電紡糸繊維内部に浸透し、付与時に静電紡糸繊維が変形したり、後述の加熱時に溶解しやすいため、付与に要する時間(例えば、浸漬時間)は1分以内であるのが好ましい。
そして、前述の混合溶媒を付与した繊維ウエブを加熱し、混合溶媒を除去することによって、不織布を製造することができる。このように加熱すると、まず、混合溶媒中の沸点のより低い溶媒B’が蒸発する。この溶媒B’の蒸発に伴って、溶媒A’は繊維ウエブを構成する静電紡糸繊維同士の交差点に凝集しやすくなる。そのため、溶媒A’によって静電紡糸繊維Eが若干溶解するのと同時に溶媒A’が蒸発するため、過度に静電紡糸繊維Eを溶解させることなく、若干溶解した静電紡糸繊維構成材料によって、繊維同士の交差点が接着する。このように第3成分によることなく接着しているため、静電紡糸繊維Eの性能を発揮することができる。また、繊維同士の交差点が接着しているため、引張り強さが強くなり、伸度も小さくなるなど、各種機械的特性が向上するため、取り扱い性も向上する。
このような加熱処理は溶媒A’の沸点よりも高い温度で実施すれば良い。例えば、溶媒B’の沸点よりも低い温度から連続的に又は段階的に溶媒A’の沸点よりも高い温度まで昇温させても良いし、直接溶媒A’の沸点よりも高い温度で加熱しても良い。連続的な昇温による加熱は、例えば、オーブンにより実施することができ、段階的な昇温による加熱は、例えば、温度の異なる2本以上の加熱ロールと接触させることにより実施することができ、直接溶媒A’の沸点よりも高い温度での加熱は、例えば、オーブン、加熱ロールにより実施することができる。
なお、前述の通り、静電紡糸繊維Eによっては、溶媒A’が静電紡糸繊維内部に浸透し、加熱時に溶解しやすいため、混合溶媒の繊維ウエブへの付与開始から加熱による混合溶媒の除去完了までに要する時間は、25分以内であるのが好ましい。
このように混合溶媒を除去することによって不織布を製造することができるが、続いて加圧することによって、毛羽立ちにくく、形態安定性に優れ、しかも平滑な表面をもつ不織布を製造できる。また、不織布の空隙率(見掛密度)を調節することができる。この加圧は、例えば、油圧プレス機や、片側に樹脂ロールを使用したカレンダーを用いて実施できる。なお、加圧は不織布の目付、厚さ、所望空隙率、静電紡糸繊維Eの種類等によって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、カレンダーを用いて加圧する場合には、1000N/cm以下の線圧であるのが好ましい。また、加圧時に加熱しても良いし、加熱しなくても良く、特に限定するものではない。
本発明の積層シートの製造方法においては、前述のような静電紡糸繊維Eを含む繊維シートSは機械的強度が不十分である傾向があるため、繊維シートSを基材シートと接着する(態様1)。又は、静電紡糸繊維Eを含む繊維シートSは薄かったり、高目付のものであることが困難であるため、繊維シートSを基材シートと接着する(態様2)。或いは、静電紡糸繊維Eを含む繊維シートSの性能を向上させるために、又は別の性能を付与するために、繊維シートSを基材シートと接着する(態様3)。
上記の態様1のように、繊維シートSの機械的強度を向上させる場合、基材シートとして、繊維シートSよりも機械的強度の優れるものを使用する。例えば、織物、編物、ネット、フィルム、繊維シートSよりも太い繊維からなる不織布を基材シートとして使用する。
上記の態様2のように、繊維シートSが薄かったり、目付が低いため、厚く、目付の高い繊維シートとする場合、基材シートとして、繊維シートSと同じ繊維シートを使用する。繊維シートSを同じ繊維シートと積層するため、静電紡糸繊維Eを含む繊維シートS(特に静電紡糸繊維Eのみからなる繊維シートS)では困難であった、厚く、高目付の静電紡糸繊維Eを含む繊維シート(特に静電紡糸繊維Eのみからなる繊維シート)を製造することができる。なお、繊維シートSと同じ繊維シートとは、繊維シートSが繊維ウエブ形態である場合には、繊維ウエブのみならず、不織布形態のものも含み、繊維シートSが不織布形態である場合には、不織布形態のみならず、繊維ウエブ形態のものも含む。
上記の態様3のように、繊維シートSの性能を向上させる、又は性能を付与する場合、基材シートとして、繊維シートSを構成する繊維Eと異なる静電紡糸法により紡糸した繊維Edを含む繊維シートSdを使用できる。この静電紡糸繊維Eと異なる静電紡糸繊維Edとしては、例えば、樹脂組成、繊維径、繊維長、横断面形状の中から選ばれる少なくとも1点で相違する静電紡糸繊維Edを挙げることができる。特に、繊維径が異なる静電紡糸繊維Edであると、積層シートの厚さ方向において、孔径差をつけることができ、例えば、濾過材として使用した場合に、より長寿命で信頼性の高い積層シートを作製することができる。また、樹脂組成の異なる静電紡糸繊維Edであると、積層シートの表裏で、親水性、疎水性、帯電性などの表面特性に違いを持たせることができるため、各種用途に適用できる積層シートを作製することができる。
この静電紡糸繊維Edは、繊維シートSdの性能を損なわないように、繊維シートSd中、50mass%以上含まれているのが好ましく、70mass%以上含まれているのがより好ましく、90mass%以上含まれているのが更に好ましく、静電紡糸繊維Edのみからなるのが最も好ましい。なお、繊維シートSdは繊維シートSと同様の静電紡糸繊維以外の繊維を含んでいても良い。また、静電紡糸繊維Edを構成する材料、紡糸原液の溶媒、平均繊維径、繊維長、製造方法は静電紡糸繊維Eと全く同様である。また、繊維シートSdも繊維シートSと同様に、静電紡糸法により紡糸した繊維Edを直接捕集して形成した繊維ウエブ又は不織布からなるのが好ましい。不織布形態からなる繊維シートSdは繊維シートSと同様に、静電紡糸繊維Edを溶解可能な溶媒A’’と、静電紡糸繊維Edを溶解不可能で、前記溶媒A’’と混合可能、かつ前記溶媒A’’よりも沸点の低い溶媒B’’との混合溶媒を繊維ウエブに付与した後に、加熱して前記混合溶媒を除去する際に、静電紡糸繊維Edを若干溶解させ、繊維同士を接着して製造できる。なお、溶媒A’’と溶媒B’’との関係も繊維シートSに対して適用する場合と同様である。また、溶媒A’’の濃度、混合溶媒の繊維ウエブへの付与量、混合溶媒の繊維ウエブへの付与方法、付与に要する時間、加熱処理温度、加熱処理方法、混合溶媒の繊維ウエブへの付与開始から加熱による混合溶媒の除去完了までに要する時間、加圧方法、加圧条件等は、不織布形態の繊維シートSを製造する場合と全く同様であることができる。
本発明の積層シートの製造方法は、静電紡糸繊維Eを溶解可能な溶媒Aと、静電紡糸繊維E及び基材シート構成材料を溶解不可能で、前記溶媒Aと混合可能、かつ前記溶媒Aよりも沸点の低い溶媒Bとの混合溶媒を含む繊維シートSと基材シートとの積層体を、加熱することによって前記混合溶媒を除去し、静電紡糸繊維Eの構成材料によって接着し、積層シートを製造する方法である。なお、繊維シートSと基材シートは1枚づつである必要はなく、繊維シートS1枚又は2枚以上と基材シート1枚又は2枚以上とを積層することができる。また、その積層順序も問わない。
この混合溶媒における溶媒Aは静電紡糸繊維Eの構成材料を若干溶解させて基材シートと接着させる作用を奏する。また、静電紡糸繊維E同士の交差点を接着させる作用も奏する。溶媒Bは静電紡糸繊維E及び基材シートを溶解させて消滅させてしまわないように、静電紡糸繊維E及び基材シート構成材料を溶解不可能である。また、溶媒Bは溶媒Aを繊維シートS全体に均一に付与できるように溶媒Aと混合可能である。更に、溶媒Aによる接着作用を発揮できるように、溶媒Bは溶媒Aよりも沸点が低い。溶媒Aによる接着作用が生じやすいように、溶媒Bの沸点は溶媒Aの沸点よりも10℃以上低いのが好ましく、30℃以上低いのがより好ましい。なお、溶媒Bの沸点の下限は特に限定するものではないが、室温で容易に揮発しないように、50℃以上であるのが好ましい。なお、溶媒Aは前述の溶媒A’、A’’と同じであっても良いし、異なっていても良い。また、溶媒Bは前述の溶媒B’、B’’と同じであっても良いし、異なっていても良い。
この混合溶媒は静電紡糸繊維Eによって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、静電紡糸繊維Eがポリアクリロニトリルからなる場合には、溶媒Aと溶媒Bの組み合わせがN,N−ジメチルホルムアミドと水の混合溶媒、静電紡糸繊維Eがポリエーテルスルホンからなる場合には、溶媒Aと溶媒Bの組み合わせがN,N−ジメチルホルムアミドとイソプロピルアルコールの混合溶媒、静電紡糸繊維Eがポリビニルアルコールからなる場合には、溶媒Aと溶媒Bの組み合わせが水とイソプロピルアルコールの混合溶媒、を挙げることができる。
なお、この混合溶媒の濃度は特に限定するものではないが、溶媒Aの濃度が1〜25mass%であるのが好ましい。溶媒Aの濃度が1mass%未満であると、静電紡糸繊維Eを若干溶解させて基材シートと接着させるのが困難になる傾向があるためで、3mass%以上であるのが好ましく、5mass%以上であるのがより好ましい。他方、25mass%を超えると、溶媒Aによって静電紡糸繊維Eを溶解させ過ぎてしまい、繊維シートSが本来有する性能を損なう、静電紡糸繊維Eを消失させてしまう、或いは溶媒Aの揮発と溶媒Bの揮発の時間差が長くなり、接着ムラが発生しやすくなる傾向があるためで、22mass%以下であるのが好ましく、20mass%以下であるのがより好ましい。
このような混合溶媒の付与量(積層体における含有量)は、溶媒Aによって溶解可能な材料の質量の3〜15倍量であるのが好ましい。3倍量よりも少ないと、混合溶媒を均一に付与するのが困難になり、接着ムラが発生しやすくなる傾向があるためで、4倍量以上であるのが好ましく、5倍量以上であるのがより好ましい。他方、15倍量よりも多いと、加熱して混合溶媒を除去する際に、均一に乾燥させることが困難となり、接着ムラが生じやすい傾向があるためで、12倍量以下であるのが好ましく、10倍量以下であるのがより好ましい。なお、この混合溶媒の付与量は「溶媒Aによって溶解可能な材料の質量」を基準としている。つまり、溶媒Aによって溶解するのが繊維シートSだけである場合には、繊維シートSを基準とし、溶媒Aによって溶解するのが繊維シートSに加えて基材シート構成材料も溶解するのであれば、繊維シートSと基材シート構成材料の和の質量を基準とする。
混合溶媒の繊維シートSへの付与方法は特に限定するものではないが、例えば、混合溶媒浴中に積層体を浸漬する方法、混合溶媒を積層体(特に繊維シートS)に散布する方法、混合溶媒を積層体(特に繊維シートS)に塗布する方法、混合溶媒浴中に繊維シートSを浸漬する方法、混合溶媒を繊維シートSに散布する方法、混合溶媒を繊維シートSに塗布する方法などを挙げることができる。これらの中でも、繊維シートS全体に対して混合溶媒を均一に付与できる、積層体又は繊維シートSを浸漬する方法により付与するのが好ましい。なお、繊維シートSに混合溶媒を付与し、しかも基材シートも接着に関与する場合には、別途基材シートに混合溶媒を、繊維シートSに付与する方法と同様の方法で付与するのが好ましい。また、静電紡糸繊維Eによっては、混合溶媒を付与した時に、溶媒Aが静電紡糸繊維内部に浸透し、付与時に静電紡糸繊維が変形したり、後述の加熱時に溶解しやすいため、付与に要する時間(例えば、浸漬時間)は1分以内であるのが好ましい。
そして、前述の積層体を加熱して混合溶媒を除去し、静電紡糸繊維Eの構成材料によって繊維シートSと基材シートとを接着して、積層シートを製造することができる。このように加熱すると、まず、混合溶媒中の沸点のより低い溶媒Bが蒸発する。この溶媒Bの蒸発に伴って、溶媒Aは繊維シートSを構成する静電紡糸繊維同士の交差点、及び静電紡糸繊維Eと基材シートとの接触点に凝集しやすくなる。そのため、溶媒Aによって静電紡糸繊維Eが若干溶解するのと同時に溶媒Aが蒸発するため、過度に静電紡糸繊維Eを溶解させることなく、若干溶解した静電紡糸繊維構成材料によって、静電紡糸繊維Eと基材シートとの接触点、及び静電紡糸繊維同士の交差点が接着する。このように第3成分によることなく接着しているため、繊維シートSを構成する静電紡糸繊維Eの性能を発揮することができる。
このような加熱処理は溶媒Aの沸点よりも高い温度で実施すれば良い。例えば、溶媒Bの沸点よりも低い温度から連続的に又は段階的に溶媒Aの沸点よりも高い温度まで昇温させても良いし、直接溶媒Aの沸点よりも高い温度で加熱しても良い。連続的な昇温による加熱は、例えば、オーブンにより実施することができ、段階的な昇温による加熱は、例えば、温度の異なる2本以上の加熱ロールと接触させることにより実施することができ、直接溶媒Aの沸点よりも高い温度での加熱は、例えば、オーブン、加熱ロールにより実施することができる。
なお、前述の通り、静電紡糸繊維Eによっては、溶媒Aが静電紡糸繊維内部に浸透し、加熱時に溶解しやすいため、混合溶媒の繊維シートSへの付与開始から加熱による混合溶媒の除去完了までに要する時間は、25分以内であるのが好ましい。
このように混合溶媒を除去することによって繊維シートSと基材シートとを接着し、積層シートを製造することができるが、続いて加圧することによって、繊維シートSが毛羽立ちにくく、形態安定性に優れ、しかも平滑な表面をもつ積層シートを製造できる。また、積層シートの空隙率(見掛密度)を調節することができる。この加圧は、例えば、油圧プレス機や、片側に樹脂ロールを使用したカレンダーを用いて実施できる。なお、加圧は積層シートの目付、厚さ、所望空隙率、静電紡糸繊維Eの種類等によって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、カレンダーを用いて加圧する場合には、1000N/cm以下の線圧であるのが好ましい。また、加圧時に加熱しても良いし、加熱しなくても良く、特に限定するものではない。
このように、バインダー等の第3成分を使用することなく、繊維シートSと基材シートとを接着できる製造方法であるため、繊維シートSが本来有する性能を発揮できる積層シートを製造することができる。基材シートの種類によっては、機械的強度が付与され、取り扱い性に優れる積層シート、厚く、目付の高い積層シート、又は分離性能、液体保持性能、隠蔽性能、絶縁性能、担持性能などの各種性能が付与又は向上した積層シートを製造することができる。したがって、本発明の積層シートは各種用途に適用できるものである。例えば、液体、気体、又はマスク用濾過材、電気化学素子用セパレータ(例えば、アルカリ電池用セパレータ、リチウム電池用セパレータ、電気二重層キャパシタ用セパレータ、電解コンデンサ用セパレータなど)、ワイパー、電解質膜用材料、人工皮膚用材料、ナノカプセル用材料、音響材料として好適に使用できる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
(実施例1)
(1)紡糸原液の調製;
重量平均分子量50万のポリアクリロニトリルを、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)に濃度10.5mass%となるように溶解させた紡糸原液(粘度:1200mPa・s)を用意した。
(2)繊維ウエブの製造装置の準備;
図1〜図3に示すような製造装置を用意した。つまり、17本のノズル群21〜217(それぞれ内径が0.4mmのステンレススチール製針状ノズル)をピッチ50mmで、チェーン状支持体6cにそれぞれ固定し、この支持体6cを第1スプロケット6aと第2スプロケット6bとの間に橋渡し、ノズル群21〜217を長円状(長径:500mm、短径:100mm)に配置した。更に、第1スプロケット6aに駆動モーター6を取り付けた。
次いで、ポリエチレン製容器1にマイクロポンプ3(マイクロポンプ社製;マイクロポンプFC−513 ポンプヘッド:188 1rpm=0.017mLタイプ;コントローラ部=株式会社中央理化製)を接続するとともに、パーフルオロアルコキシ樹脂製チューブ1aを接続し、このチューブ1aをノズル21にロータリージョイントを介して接続した。次いで、このノズル21と隣接するノズル22とを前記と同様のチューブ1aで接続し、紡糸原液がノズル21を介してノズル22へ供給できるようにした。同様に、ノズル22とノズル23、ノズル23とノズル24と順番にチューブ1aで接続して、ノズル217まで紡糸原液を供給できるようにした。
次いで、ガラスクロスにポリテトラフルオロエチレン及び導電性粒子を含浸し、焼成したベルト状捕集体5(幅:800mm)をアースして、前記ノズル群21〜217の直下に設置した。次いで、マイクロポンプ3のギアポンプヘッドに高電圧電源4を接続するとともに、前記ノズル群21〜217の先端が、上方から下方に向かってベルト状捕集体5の方向に向いており、しかもノズル群21〜217のエンドレス軌道の長径方向がベルト状捕集体5の幅方向(移動方向に対して直交方向)と一致するように、ノズル群21〜217を配置した。なお、ノズル群21〜217のノズルの先端とベルト状捕集体5の捕集表面との距離は40mmとした。
次に、前記ノズル群21〜217及びベルト状捕集体5を塩化ビニル製直方体紡糸容器8(幅:1200mm、高さ:2000mm、奥行き:2400mm)の中央部に配置した。なお、直方体紡糸容器8の内側には、上壁面から800mm下方側の位置に整流板9aを上壁面と平行に配置した。また、ベルト状捕集体5の移動方向端部に、ベルト状捕集体5に従動して繊維ウエブを巻き取ることができるように、紙管7(直径:80mm、長さ:800mm)を設置した。
そして、直方体紡糸容器8の上壁面に温湿度調整機能を備えた送風機9(PAU−1400HDR、(株)アピステ)を接続するとともに、直方体紡糸容器8の下壁面に排気ファン10を接続した。
(3)静電紡糸不織布(繊維シートS)の製造;
前記紡糸原液を前記容器1に入れ、前記マイクロポンプを用いて紡糸原液を、ノズル21を介してノズル群21〜217へ供給し、ノズル群21〜217を180mm/sec.の一定速度で移動させながら、各ノズルから紡糸原液を吐出(1本あたりの吐出量:1g/時間)し、また、前記ベルト状捕集体5を一定速度(表面速度:3cm/分)で移動させながら、前記高電圧電源4から紡糸原液に+7kVの電圧を印加して、吐出した紡糸原液に電界を作用させて繊維化し、前記ベルト状捕集体5上に集積させて、連続繊維からなる繊維ウエブを製造し、紙管7で巻き取った。なお、繊維ウエブを製造する際には、送風機9から温度26℃、相対湿度23%の調湿エアを5m3/分で供給するとともに、排気口から出てくる気体を排気ファン10で排気した。なお、繊維ウエブは平均繊維径が0.4μmの静電紡糸連続繊維のみから構成されていた。
次に、紙管7から繊維ウエブを巻出し、長さ40cm、幅30cmのアルミニウム製フレームに貼り付け、温度160℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行うことにより、静電紡糸繊維中に残留する溶媒を除去し、目付5g/m2の乾燥繊維ウエブを形成した。
次に、溶媒AとしてN,N−ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)、溶媒Bとして純水(沸点:100℃)を使用し、溶媒Aの濃度が5mass%の混合溶媒を調製した。
そして、この混合溶媒浴中に前記フレームで固定した乾燥繊維ウエブを5秒間浸漬した後に引き上げ、一対のロールで混合溶媒を絞ることによって、乾燥繊維ウエブ質量の5倍量の混合溶媒を前記乾燥繊維ウエブに付与した。このような混合溶媒を付与した乾燥繊維ウエブを2枚作製し、積層して積層体とした。これら乾燥繊維ウエブのうち、1枚は繊維シートSに相当し、もう1枚は基材シートに相当する。
続いて、この積層体を温度160℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行い(混合溶媒浴への浸漬開始から熱処理完了までの時間:15分)、フレームを外して、繊維シートSと基材シートとが接着した積層シート(実際には1層構造状の不織布、目付:10g/m2、厚さ:50μm)を製造した。この積層シートの物性は表1に示す通りであった。
(実施例2)
混合溶媒における溶媒Aの濃度を10mass%としたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維シートSと基材シートとが接着した積層シート(実際には1層構造状の不織布、目付:10g/m2、厚さ:45μm)を製造した。この積層シートの物性は表1に示す通りであった。
(参考例1)
実施例1と同様に作製した乾燥繊維ウエブ(混合溶媒による接着処理を施していない、目付:5g/m2)を2枚積層し、積層シートとした。この積層シートの物性は表1に示す通りであった。
(参考例2)
実施例1と同様にして乾燥繊維ウエブ(目付:5g/m2)を作製した。
次に、溶媒A’としてN,N−ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)、溶媒B’として純水(沸点:100℃)を使用し、溶媒A’の濃度が10mass%の混合溶媒を調製した。
そして、この混合溶媒浴中に乾燥繊維ウエブを5秒間浸漬した後に引き上げ、一対のロールで混合溶媒を絞ることによって、乾燥繊維ウエブ質量の5倍量の混合溶媒を前記乾燥繊維ウエブに付与した。
続いて、この混合溶媒含有乾燥繊維ウエブを温度160℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行い(混合溶媒浴への浸漬開始から熱処理完了までの時間:13分)、繊維間を接着して不織布(目付:5g/m2)を製造した。このような不織布を2枚作製し、この2枚の不織布を混合溶媒による接着処理を施すことなく、単に積層して積層シートとした。この積層シートの物性は表1に示す通りであった。
(比較例1)
参考例2と同様にして、混合溶媒処理によって繊維間を接着した不織布(目付:5g/m2)を2枚製造した。
次いで、ホットメルトスプレー装置を用い、軟化点140℃、溶融粘度5000mPa・sにおける温度が177℃のポリオレフィン系ホットメルト樹脂接着剤(松村石油化学研究所製、商品名:モレスコメルトAC−925R)を、一方の不織布の片表面に目付10g/m2となるようにスプレー塗布し、ホットメルト樹脂接着剤塗布面が当接するように、もう一方の不織布を積層し、直ちに加圧ロールにより圧着して、積層シートを製造した。なお、スプレー塗布条件はホットメルトスプレー装置の溶融部温度180℃、定量供給部温度190℃、吐出部温度190℃、ホットエアー圧137.3kPa、ホットエアー量250L/min.の条件下で行い、圧着条件はニップ圧49N、クリアランス0.2mm、加圧時間0.03secの条件下で行った。この積層シートの物性は表1に示す通りであった。
#1:幅15mm、長さ100mmに裁断した積層シートを、長手方向の端部から少し剥離させ、剥離させた箇所をインストロン型引っ張り試験機のチャックにそれぞれ固定し、引張速度50mm/minの条件下で測定した値
#2:JIS L 1096:1999 8.27.1 A法(フラジール形法)に則って測定した値
この表1の参考例1と実施例1、2との比較から、本発明の方法により製造した積層シートは乾燥繊維ウエブ積層シートの通気度の65%以上を有するものであった。これに対して、参考例1と比較例1との比較から、従来のホットメルトによる方法によると、乾燥繊維ウエブ積層シートの通気度の37%程度であった。このことから、本発明の製造方法によれば、従来よりも静電紡糸繊維Eを含む乾燥繊維ウエブの物性を維持した状態で積層シートを製造できることがわかった。また、既に接着した不織布を積層した参考例2との比較から、本発明の方法により製造した積層シートは不織布の通気度の113%以上を有するものであった。これに対して、参考例2と比較例1との比較から、従来のホットメルトによる方法によると、不織布の通気度の63%程度であった。このことからも、本発明の製造方法によれば、従来よりも静電紡糸繊維Eを含む乾燥繊維ウエブの物性を維持した状態で積層シートを製造できることがわかった。
(実施例3)
ポリエーテルスルホン樹脂を、N,N−ジメチルアセトアミド(沸点165℃)に濃度25mass%となるように溶解させた紡糸原液(粘度:1200mPa・s)を、実施例1と同様の装置を用いて紡糸し、直接捕集して、静電紡糸連続繊維(平均繊維径:0.4μm)のみからなる繊維ウエブを製造し、紙管7で巻き取った。
次に、紙管7から繊維ウエブを巻出し、長さ40cm、幅30cmのアルミニウム製フレームに貼り付け、温度170℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行うことにより、静電紡糸連続繊維中に残留する溶媒を除去し、目付5g/m2の乾燥繊維ウエブを形成した。
次に、溶媒AとしてN,N−ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)、溶媒Bとしてイソプロピルアルコール(沸点:82.4℃)を使用し、溶媒Aの濃度が2mass%の混合溶媒を調製した。
そして、この混合溶媒浴中に前記フレームで固定した乾燥繊維ウエブを5秒間浸漬した後に引き上げ、一対のロールで混合溶媒を絞ることによって、乾燥繊維ウエブ質量の5倍量の混合溶媒を前記乾燥繊維ウエブに付与した。この乾燥繊維ウエブは本実施例において基材シート(繊維シートSd)に相当する。
別途、参考例2と同様に作製した静電紡糸繊維がポリアクリロニトリル樹脂からなり、繊維間を接着した不織布(目付:5g/m2)を用意し、前記と同じ混合溶媒中に5秒間浸漬した後に引き上げ、一対のロールで混合溶媒を絞ることによって、不織布質量の5倍量の混合溶媒を不織布に付与した。この不織布は本実施例において繊維シートSに相当する。
続いて、前記混合溶媒を付与した乾燥繊維ウエブと前記不織布とを積層し、長さ40cm、幅30cmのアルミニウム製フレームに貼り付けた後、温度160℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行い(混合溶媒浴への浸漬開始から熱処理完了までの時間:15分)、フレームを外して、繊維シートSと繊維シートSd(基材シート)とが接着した積層シート(目付:10g/m2、厚さ:41μm)を製造した。この積層シートの剥離強度は0.043N/15mm幅で、繊維シートSと繊維シートSdとが簡単に剥離することのない、取扱い性に優れたものであった。
(実施例4)
ポリビニルアルコール樹脂(完全けん化重合度1000)を、水(沸点:100℃)に濃度15mass%となるように溶解させた紡糸原液(粘度:1500mPa・s)を、実施例1と同様の装置を用いて紡糸し、直接捕集して、静電紡糸連続繊維(平均繊維径:0.25μm)のみからなる繊維ウエブを製造し、紙管7で巻き取った。
次に、紙管7から繊維ウエブを巻出し、長さ40cm、幅30cmのアルミニウム製フレームに貼り付け、180℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行うことにより、静電紡糸連続繊維中に残留する溶媒を除去するとともに、結晶化を行い、目付5g/m2の乾燥繊維ウエブを形成した。
次に、溶媒Aとして水(沸点:100℃)、溶媒Bとしてイソプロピルアルコール(沸点:82.4℃)を使用し、溶媒Aの濃度が2mass%の混合溶媒を調製した。
そして、この混合溶媒浴中に前記フレームで固定した乾燥繊維ウエブを5秒間浸漬した後に引き上げ、一対のロールで混合溶媒を絞ることによって、乾燥繊維ウエブ質量の5倍量の混合溶媒を前記乾燥繊維ウエブに付与した。
続いて、この混合溶媒含有乾燥繊維ウエブを温度80℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行った後、続いて180℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行い(混合溶媒浴への浸漬開始から熱処理完了までの時間:23分)、フレームを外して、平均繊維径が0.25μmの静電紡糸連続繊維のみからなる不織布を製造した。この不織布は本実施例において繊維シートSd(基材シート)に相当する。
他方、実施例3と同様にして作製した静電紡糸繊維(平均繊維径:0.4μm)がポリエーテルスルホン樹脂からなる、目付5g/m2の乾燥繊維ウエブを用意した。この乾燥繊維ウエブは本実施例において繊維シートSに相当する。
また、溶媒AとしてN,N−ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)、溶媒Bとしてイソプロピルアルコール(沸点:82.4℃)を使用し、溶媒Aの濃度が2mass%となるように調整した混合溶媒を調製した。
次いで、前記不織布、乾燥繊維ウエブそれぞれを前記混合溶媒に浸漬した後に引き上げ、一対のロールで混合溶媒を絞ることによって、不織布質量の5倍量の混合溶媒、及び乾燥繊維ウエブ質量の5倍量の混合溶媒をそれぞれ付与した。
続いて、前記混合溶媒を付与した不織布と前記乾燥繊維ウエブとを積層し、長さ40cm、幅30cmのアルミニウム製フレームに貼り付けた後、温度160℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行い(混合溶媒浴への浸漬開始から熱処理完了までの時間:15分)、フレームを外して、繊維シートSと繊維シートSdとが接着した積層シート(目付:10g/m2、厚さ:53μm)を製造した。この積層シートの剥離強度は0.046N/15mm幅で、繊維シートSと繊維シートSdとが簡単に剥離することのない、取扱い性に優れたものであった。
(実施例5)
実施例4と同様にして、ポリビニルアルコール樹脂を用い、混合溶媒によって接着した、平均繊維径0.25μm、目付5g/m2の静電紡糸連続繊維のみからなる不織布を製造した。この不織布は本実施例において繊維シートSd(基材シート)に相当する。
他方、実施例1と同様に作製した静電紡糸繊維がポリアクリロニトリル樹脂からなり、平均繊維径0.4μmの静電紡糸連続繊維のみからなる目付5g/m2の乾燥繊維ウエブを用意した。この乾燥繊維ウエブは本実施例において繊維シートSに相当する。
また、溶媒AとしてN,N−ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)、溶媒Bとしてイソプロピルアルコール(沸点:82.4℃)を使用し、溶媒Aの濃度が5mass%となるように混合溶媒を調製した。
次いで、前記不織布、乾燥繊維ウエブそれぞれを前記混合溶媒に浸漬した後に引き上げ、一対のロールで混合溶媒を絞ることによって、不織布質量の5倍量の混合溶媒、及び乾燥繊維ウエブ質量の5倍量の混合溶媒をそれぞれ付与した。
続いて、前記混合溶媒を付与した不織布と前記乾燥繊維ウエブとを積層し、長さ40cm、幅30cmのアルミニウム製フレームに貼り付けた後、温度160℃に設定したオーブン中で10分間熱処理を行い(混合溶媒浴への浸漬開始から熱処理完了までの時間:15分)、フレームを外して、繊維シートSと繊維シートSdとが接着した積層シート(目付:10g/m2、厚さ:46μm)を製造した。この積層シートの剥離強度は0.043N/15mm幅で、繊維シートSと繊維シートSdとが簡単に剥離することのない、取扱い性に優れたものであった。
(実施例6)
溶媒Aの濃度が7mass%となるように調製した混合溶媒を使用したこと以外は、実施例5と同様にして、繊維シートSと繊維シートSdとが接着した積層シート(目付:10g/m2、厚さ:44μm)を製造した。この積層シートの剥離強度は0.049N/15mm幅で、繊維シートSと繊維シートSdとが簡単に剥離することのない、取扱い性に優れたものであった。
実施例における繊維ウエブ製造装置の模式的平面図
図1の製造装置を矢印Aの方向から見た模式的断面図
図1の製造装置を矢印Bの方向から見た模式的断面図
符号の説明
1:容器
1a:チューブ
21〜217:ノズル群
3:マイクロポンプ
4:高電圧電源
5:ベルト状捕集体
6:駆動モーター
6a:第1スプロケット
6b:第2スプロケット
6c:チェーン状支持体
7:紙管
8:直方体紡糸容器
9:送風機
9a:整流板
10:排気ファン