JP4941140B2 - 転がり軸受ユニットの状態量測定装置 - Google Patents

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Description

この発明は、転がり軸受ユニットを構成する静止側軌道輪と回転側軌道輪との間の相対変位及びこれら両軌道輪同士の間に作用する外力を測定する為に利用する、転がり軸受ユニットの状態量測定装置の改良に関する。
例えば自動車の車輪は懸架装置に対し、複列アンギュラ型等の転がり軸受ユニットにより回転自在に支持する。又、自動車の走行安定性を確保する為に、アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)、更には、電子制御式ビークルスタビリティコントロールシステム(ESC)等の車両用走行安定化装置が使用されている。この様な各種車両用走行安定化装置を制御する為には、車輪の回転速度、車体に加わる各方向の加速度等を表す信号が必要になる。そして、より高度の制御を行なう為には、車輪を介して上記転がり軸受ユニットに加わる荷重(例えばラジアル荷重とアキシアル荷重との一方又は双方)の大きさを知る事が好ましい場合がある。
この様な事情に鑑みて、特許文献1には、特殊なエンコーダを使用して、転がり軸受ユニットに加わる荷重の大きさを測定する発明が記載されている。図7〜8は、この特許文献1に記載された構造ではないが、この特許文献1に記載された構造と同じ荷重の測定原理を採用している、転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関する先発明の構造の1例を示している。この先発明の構造は、使用時にも回転しない静止側軌道輪である外輪1の内径側に、使用時に車輪を支持固定した状態でこの車輪と共に回転する、回転側軌道輪であるハブ2を、複数個の転動体3、3を介して、回転自在に支持している。これら各転動体3、3には、互いに逆向きの(図示の場合には背面組み合わせ型の)接触角と共に、予圧を付与している。尚、図示の例では、上記転動体3として玉を使用しているが、重量が嵩む自動車用の軸受ユニットの場合には、玉に代えて円すいころを使用する場合もある。
又、上記ハブ2の内端部(軸方向に関して「内」とは、自動車への組み付け状態で車両の幅方向中央側を言い、図2、7の右側。反対に、自動車への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、図2、7の左側を、軸方向に関して「外」と言う。本明細書全体で同じ。)には、円環状のエンコーダ4を、上記ハブ2と同心に支持固定している。又、上記外輪1の内端開口を塞ぐ有底円筒状のカバー5の内側に、1対のセンサ6a、6bを支持固定すると共に、これら両センサ6a、6bの検出部を、上記エンコーダ4の被検出面である外周面に近接対向させている。
上記エンコーダ4は、芯金7とエンコーダ本体8とを組み合わせて成る。このうちの芯金7は、軟鋼板等の磁性金属板により、断面クランク形で全体を段付円筒状に構成しており、互いに同心の大径円筒部9及び小径円筒部10と、これら両円筒部9、10の軸方向端縁同士を連結する円輪部11とを備える。又、上記エンコーダ本体8は、上記大径円筒部9の外周面の全周に円筒状の磁性部材(永久磁石材、高保磁力材)を、この大径円筒部9と同心に添着固定(接着固定、モールドによる固定等)した後、この磁性部材に着磁する事により構成している。被検出面である、上記エンコーダ本体8の外周面の軸方向内半部には、S極に着磁された部分とN極に着磁された部分とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。そして、この被検出面の軸方向外半部を、上記S極に着磁された部分と上記N極に着磁された部分との境界の位相が、軸方向に対して所定方向に所定角度で漸次変化する、第一特性変化部12としている。これに対し、上記被検出面の軸方向内半部を、上記S極に着磁された部分と上記N極に着磁された部分との境界の位相が、軸方向に対して上記所定方向と逆方向に上記所定角度と同じ角度で漸次変化する、第二特性変化部13としている。従って、上記S極に着磁された部分と上記N極に着磁された部分とは、軸方向中央部が円周方向に関して最も突出した(又は凹んだ)、「へ」字形(又は「く」字形)となっている。この様なエンコーダ4は、上記芯金7を構成する小径円筒部10を、上記ハブ2の内端部に締り嵌めで外嵌する事により、このハブ2に対し、このハブ2と同心に支持固定している。
又、上記両センサ6a、6bの検出部には、ホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子を組み込んでいる。そして、これら両センサ6a、6bのうち、一方のセンサ6aの検出部を上記第一特性変化部12に、他方のセンサ6bの検出部を上記第二特性変化部13に、それぞれ近接対向させている。これら両センサ6a、6bの検出部が上記両特性変化部12、13に対向する位置は、このエンコーダ4の円周方向に関して同じ位置としている。又、上記外輪1と上記ハブ2との間にアキシアル荷重が作用しない、中立状態で、上記S極に着磁された部分と上記N極に着磁された部分との軸方向中央部で円周方向に関して最も突出した部分が、上記両センサ6a、6bの検出部同士の間の丁度中央位置に存在する様に、各部材の設置位置を規制している。
上述の様に構成する転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合、上記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用すると、上記両センサ6a、6bの出力信号が変化する位相がずれる。即ち、上記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用しておらず、これら外輪1とハブ2とが相対変位していない、中立状態では、上記両センサ6a、6bの検出部は、図8の(A)の実線イ、イ上、即ち、上記最も突出した部分から軸方向に同じだけずれた部分に対向する。従って、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相は、同図の(C)に示す様に一致する。これに対し、上記エンコーダ4を固定したハブ2に、図8の(A)で下向きのアキシアル荷重が作用した場合には、上記両センサ6a、6bの検出部は、図8の(A)の破線ロ、ロ上、即ち、上記最も突出した部分からの軸方向に関するずれが互いに異なる部分に対向する。この状態では上記両センサ6a、6bの出力信号の位相は、同図の(B)に示す様にずれる。更に、上記エンコーダ4を固定したハブ2に、図8の(A)で上向きのアキシアル荷重が作用した場合には、上記両センサ6a、6bの検出部は、図8の(A)の鎖線ハ、ハ上、即ち、上記最も突出した部分からの軸方向に関するずれが、逆方向に互いに異なる部分に対向する。この状態では上記両センサ6a、6bの出力信号の位相は、同図の(D)に示す様に、上記(B)の場合とは逆方向にずれる。
この様に、上述した先発明の構造の場合には、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相が、上記外輪1とハブ2との間に加わるアキシアル荷重の作用方向(これら外輪1とハブ2とのアキシアル方向の相対変位の方向)に応じた向きにずれる。又、このアキシアル荷重(相対変位)により上記両センサ6a、6bの出力信号の位相がずれる程度は、このアキシアル荷重(相対変位)が大きくなる程大きくなる。従って、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相ずれの有無、ずれが存在する場合にはその向き及び大きさに基づいて、上記外輪1とハブ2とのアキシアル方向の相対変位の向き及び大きさ、並びに、これら外輪1とハブ2との間に作用しているアキシアル荷重の作用方向及び大きさを求められる。尚、上記両センサ6a、6bの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて上記アキシアル方向の相対変位及び荷重を算出する処理は、図示しない演算器により行なう。この為、この演算器のメモリ中には、予め理論計算や実験により調べておいた、上記位相差と、上記アキシアル方向の相対変位又は荷重との関係を、計算式やマップ等の型式で記憶させておく。
又、上述した先発明の構造の場合には、それぞれの検出部を第一、第二両特性変化部12、13に対向させた1対のセンサ6a、6bから成るセンサ組を1組だけ設けている。これに対し、特願2006−143097、特願2006−345849には、それぞれが1対のセンサから成るセンサ組を複数組設ける事で、多方向の変位或は外力を求められる構造が開示されている。
ところで、上述した様な転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関しては、上記エンコーダ4を、車輪の回転速度検出用エンコーダとして兼用できる様にする事が、車両用走行安定化装置の構成部品の数、延いてはコストを抑える為には必要である。例えば、上記エンコーダ4の被検出面にその検出部を対向させたセンサ(上記両センサ6a、6bのうちの何れか一方のセンサ、又は、これら両センサ6a、6bとは別個に設けられたセンサ)の出力信号を、車輪の回転速度を表す信号としてABSの制御に利用できれば、少なくとも車輪の回転速度検出用エンコーダを別個に設ける必要がなくなる分、小型軽量化とコストの低減とを図れる。但し、上記出力信号をABSの制御に利用する為には、この出力信号に基づいて車輪の回転速度を正確に把握できる様にすべく、この出力信号のパルスピッチ精度を良好にする必要がある。
ところが、上述した転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合には、上記エンコーダ4の被検出面に存在する特性境界(S極とN極との境界)が、この被検出面の幅方向に対し傾斜している。この為、車両の走行中、上記エンコーダ4に回転振れ(回転に伴うアキシアル方向の振れ)が生じると、上記出力信号のパルスピッチ精度が悪化する。これに対し、上記エンコーダ4(4a)の製造誤差や組付け誤差、更には転がり軸受ユニットの製造誤差等を厳しく規制すれば、上記エンコーダ4の回転振れを抑える事ができて、上記出力信号のパルスピッチ精度の悪化を十分に抑えられる。但し、この様な方法を採用すると、歩留まりが低下し、製造コストが嵩むと言った不都合が生じ易くなる。
特開2006−113017号公報
本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置は、上述の様な事情に鑑み、エンコーダに生じる回転振れに拘らず、車輪の回転速度を測定する為に使用するセンサの出力信号に就いて、安定したパルスピッチ精度を得られる構造を実現すべく発明したものである。
本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置は、転がり軸受ユニットと、状態量測定装置とを備える。
このうちの転がり軸受ユニットは、静止側周面に静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止側軌道輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、使用時に回転する回転側軌道輪と、上記静止側軌道と上記回転側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備える。
又、上記状態量測定装置は、エンコーダと、センサ装置と、演算器と、回転速度測定用センサとを備える。
このうちのエンコーダは、上記回転側軌道輪に直接又は他の部材を介して支持固定されたもので、この回転側軌道輪と同心の被検出面を備える。そして、この被検出面の特性を円周方向に関して交互に且つ等間隔に変化させると共に、この被検出面の幅方向片半部に、特性変化の位相がこの被検出面の幅方向に対して所定方向に漸次変化する第一特性変化部を、この被検出面の幅方向他半部に、特性変化の位相がこの被検出面の幅方向に対して上記所定方向と逆方向に漸次変化する第二特性変化部を、それぞれ設けている。
又、上記センサ装置は、その検出部を対向させた部分の特性変化に対応して出力信号を変化させるセンサを、少なくとも1対備える。そして、これら1対のセンサのうちの一方のセンサの検出部を上記第一特性変化部に、同じく他方のセンサの検出部を上記第二特性変化部に、それぞれ対向させた状態で、使用時にも回転しない部分に支持されている。
又、上記演算器は、上記センサ装置を構成する1対のセンサの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて、上記両軌道輪同士の間の相対変位と、これら両軌道輪同士の間に作用する外力とのうちの、少なくとも一方の状態量を算出する機能を有する。
又、上記回転速度測定用センサは、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間の状態量の1つである、この静止側軌道輪に対するこの回転側軌道輪の回転速度を求める為に利用されるもので、その検出部を対向させた部分の特性変化に対応して出力信号を変化させると共に、その検出部を上記被検出面に対向させた状態で、使用時にも回転しない部分に支持されている。
特に、本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置に於いては、上記両軌道輪同士の間に外力が作用していない中立状態で、上記回転速度測定用センサの検出部が、上記被検出面のうちで上記第一、第二両特性変化部同士の境界部分若しくはその近傍部分に対向している。
ここで、上記被検出面のうちで上記第一、第二両特性変化部同士の境界部分若しくはその近傍部分が、具体的にどの範囲を示すかに就いて、図9を参照しつつ説明する。
この図9のうち、(A)は、前述の図7〜8に示した先発明の構造で、エンコーダ4の被検出面に対してセンサの検出部をアキシアル方向(この被検出面の幅方向)に移動させた場合の、このセンサの出力信号の位相変化特性を示している。又、同じく(B)は、中立状態に於ける、上記エンコーダ4の被検出面と1対のセンサ6a、6bの検出部とのアキシアル方向の位置関係を示している。上記図9の(A)に示す様に、上記センサの出力信号の位相は、上記エンコーダ4の被検出面に対する、このセンサの検出部のアキシアル方向位置によって変化する。但し、この位相の変化率は、上記被検出面の幅方向中央付近で、この被検出面の他の部分に比べて十分に小さく(特に幅方向中央部で0に)なる。この理由は、上記被検出面の幅方向中央付近では、上記第一、第二両特性変化部12、13に存在する、互いに逆向きに傾斜した2つの特性境界(S極とN極との境界)が近づき合っている為であり、この結果、上記センサの出力信号が、これら2つの特性境界からの影響を受けて、これら両影響を平均化した様な位相変化を起こす為である。
そして、本発明で、上記被検出面のうちで上記第一、第二両特性変化部同士の境界部分若しくはその近傍部分とは、上記図9に示した様なセンサの出力信号の位相変化特性を調べた場合に、この位相の変化率が他の部分に比べて十分に小さく(若しくは0に)なる範囲(図9のαの範囲)を言う。
本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した様に、回転速度測定用センサを、センサ装置を構成する、1対のセンサを含む複数個のセンサのうちの何れかのセンサとする。即ち、この何れかのセンサに、上記回転速度測定用センサとしての役割を果たさせる。但し、上記回転速度測定用センサを、上記1対のセンサとは別個独立して設ける事もできる。
上述の請求項1〜2に記載した発明を実施する場合に、好ましくは、請求項3に記載した様に、上記被検出面の特性変化の境界の位相の変化率を、上記第一、第二両特性変化部同士の境界部分及びその近傍部分で他の部分に比べて小さくする。
この為に、上記被検出面の特性変化の境界のうち、上記第一、第二両特性変化部同士の境界部分及びその近傍部分に存在する部分の形状を、例えば略円弧形状(請求項4)又は上記被検出面の幅方向に対して平行な直線形状(請求項5)とする。
又、本発明を実施する場合に、請求項6に記載した様に、前記演算器に、前記1対のセンサのうちの何れか一方の出力信号と上記回転速度測定用センサの出力信号との位相差に基づいて、前記回転側軌道輪の回転方向を判定する機能を持たせる事もできる。
又、上述の請求項1〜6に記載した発明を実施する場合に、好ましくは、請求項7に記載した様に、転がり軸受ユニットを自動車の車輪支持用のハブユニットとする。そして、使用状態で、静止側軌道輪を自動車の懸架装置に支持し、回転側軌道輪であるハブに車輪を結合固定する。
この請求項7に記載した構造を採用する場合、エンコーダの被検出面の幅寸法(一般的な乗用車用の場合で、例えば8〜12mm程度)に対する、前記部分(この被検出面のうちで第一、第二両特性変化部同士の境界部分若しくはその近傍部分)の幅寸法の割合は、25%{好ましくは20%(より好ましくは15%)}程度とする。尚、この割合は、上記両特性変化部の特性変化の境界(例えば、S極とN極との境界)が、軸方向に対し、40〜50度程度傾斜している場合の値である。
上述の様に構成する本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置によれば、エンコーダに回転振れ(回転に伴う被検出面の幅方向の振れ)が生じた場合に、回転速度測定用センサの出力信号の位相変化を十分に抑えられる。この為、上記エンコーダに生じる回転振れに拘らず、上記回転速度測定用センサの出力信号に就いて、安定したパルスピッチ精度を得られる。
又、本発明を実施する場合に、請求項2に記載した構成を採用すれば、上記回転速度測定用センサをセンサ装置と別個に設ける構造を採用する場合に比べて、センサの個数を少なくできる為、省スペース化並びに低コスト化を図れる。
又、本発明を実施する場合に、請求項3〜5に記載した構成を採用すれば、上記何れか1個のセンサの出力信号に就いて、より安定したパルスピッチ精度を得る事ができる。
更に、請求項6に記載した構成を採用すれば、回転側軌道輪の回転方向を、安定して(各センサに対してエンコーダが、アキシアル方向に大きく変位した場合でも)判定できる。そして、この判定結果を利用して、上記回転側軌道輪の回転方向に拘らず、静止側、回転側両軌道輪同士の間の状態量を算出できる。
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1、2、7に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、中立状態でのエンコーダ4と1対のセンサ6a、6bとの位置関係を工夫した点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図7〜8に示した先発明の構造の場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
本例の場合も、前述の図7〜8に示した先発明の構造の場合と同様、中立状態で、上記エンコーダ4の被検出面に設けた第一、第二両特性変化部12、13のうち、この第一特性変化部12に一方のセンサ6aの検出部を、この第二特性変化部13に他方のセンサ6bの検出部を、それぞれ対向させている。但し、本例の場合、この他方のセンサ6bの検出部を、上記第二特性変化部13の幅方向中央部{上記被検出面の幅方向中央付近(上記第一、第二両特性変化部12、13同士の境界部分及びその近傍部分である、図1のαの範囲)から外れた部分}に対向させているのに対し、上記一方のセンサ6aの検出部は、上記第一特性変化部12のうち、上記被検出面の幅方向中央寄り部分{この被検出面の幅方向中央付近(図1のαの範囲の内側)}に対向させている。又、本例の場合、上記一方のセンサ6aの出力信号は、外輪1とハブ2(図7参照)との間のアキシアル方向の相対変位と、これら外輪1とハブ2との間に作用するアキシアル荷重とのうちの一方又は双方の状態量を測定する為に使用するだけでなく、車輪の回転速度を表す信号として、ABSの制御に使用する。即ち、本例の場合には、上記一方のセンサ6aが、特許請求の範囲に記載した回転速度測定用センサとしての役割を果たす。
上述の様に、本例の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合には、中立状態で、一方のセンサ6aの検出部を、エンコーダ4の被検出面の幅方向中央付近(図1のαの範囲の内側)に対向させている。図1の(A)に示す様に、この被検出面の幅方向中央付近は、この被検出面の他の部分に比べて、この被検出面に対してセンサ(6a、6b)の検出部をアキシアル方向に移動させた場合の、このセンサ(6a、6b)の出力信号の位相の変化率が十分に小さく(特に幅方向中央部で0に)なる部分である。この為、本例の場合には、車両の運転時に、上記エンコーダ4に回転振れが生じた場合でも、上記一方のセンサ6aの出力信号の位相変化を十分に抑えられる。この結果、本例の場合には、上記エンコーダ4に生じる回転振れに拘らず、上記一方のセンサ6aの出力信号に就いて、安定したパルスピッチ精度を得られる。
[実施の形態の第2例]
次に、図2〜3は、請求項1、7に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。尚、本例の特徴は、状態量測定装置を構成するセンサとして、外輪1とハブ2との間の状態量を測定する為に使用する1対のセンサ6a、6bに加え、車輪の回転速度を測定する為に使用する(その出力信号をABSの制御に使用する)、回転速度測定用センサである、1個のセンサ6cを設けた点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図7〜8に示した先発明の構造の場合と同様である為、同等部分には同一符号を付して、重複する説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
本例の場合、上記外輪1の内端部に結合固定したカバー5の内周面のうち、上記1対のセンサ6a、6bを支持固定した部分から円周方向に外れた部分に、上記1個のセンサ6cを支持固定している。そして、中立状態で、この1個のセンサ6cの検出部を、エンコーダ4の被検出面の幅方向中央部(図3のαの範囲の内側に存在する、第一、第二両特性変化部12、13同士の境界部分)に対向させている。
上述の様に構成する本例の転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合、図3の(A)に示す様に、上記被検出面のうち、上記1個のセンサ6cの検出部を対向させた部分の周辺部分である、この被検出面の幅方向中央付近(図3のαの範囲の内側)は、この被検出面の他の部分に比べて、この被検出面に対してセンサ(6a、6b、6c)の検出部をアキシアル方向に移動させた場合の、このセンサ(6a、6b、6c)の出力信号の位相の変化率が十分に小さく(特に幅方向中央部で0に)なる部分である。この為、本例の場合には、車両の運転時に、上記エンコーダ4に回転振れが生じた場合の、上記1個のセンサ6cの出力信号の位相変化を十分に抑えられる。この結果、上記エンコーダ4に回転振れが生じる事に拘らず、上記1個のセンサ6cの出力信号に就いて、安定したパルスピッチ精度を得られる。更に本例の場合には、前述の図7〜8に示した先発明の構造の場合と同様、中立状態で、上記1対のセンサ6a、6bの検出部を、それぞれ上記第一、第二両特性変化部12、13の幅方向中央部に対向させている。図3の(A)に示す様に、これら第一、第二両特性変化部12、13の幅方向中央部はそれぞれ、センサ(6a、6b)の出力信号の位相の変化率が大きい部分である。従って、本例の場合には、上記先発明の構造の場合と同様、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相差に基づいて状態量を算出する際のゲイン特性を十分に大きくできる。この為、この状態量に関する測定精度を十分に良好にできる。
尚、上述した各実施の形態では、エンコーダとして、前述の図7〜8に示した先発明の構造と同じエンコーダ4を使用した。但し、本発明を実施する場合には、例えば図4〜5に示す様なエンコーダ4a、4bを使用する事もできる。これら各エンコーダ4a、4bは、被検出面に存在する特性境界(S極とN極)のうち、第一、第二両特性変化部12a(12b)、13a(13b)同士の境界部分及びその近傍部分に存在する部分の形状を、円弧形状(図4)、又は、上記被検出面の幅方向に対して平行な直線形状(図5)としている。この様な構成を有する各エンコーダ4a、4bの場合には、上記エンコーダ4の場合に比べて、被検出面の幅方向中央付近に於ける、センサの出力信号の位相の変化率を、より小さくできる。この為、車輪の回転速度を測定する為に使用するセンサの出力信号に就いて、より安定したパルスピッチ精度を得る事ができる。
本発明を実施する場合に、エンコーダの被検出面のうちで第一、第二両特性変化部同士の境界部分若しくはその近傍部分に対向して、回転速度測定用センサとして機能するセンサ(図1に示したセンサ6a、図3に示したセンサ6c=仮にセンサ6Aとする)の出力信号の位相変化が抑えられる事を利用して、ハブ2等の回転側軌道輪の回転方向を判定する事もできる。即ち、上記回転速度測定用センサとして機能するセンサ6Aの位相は、エンコーダ4がアキシアル方向に変位した場合でも、ほぼ一定である。この為、静止側、回転側両軌道輪同士の間に外力が作用していない中立状態で、上記センサ6Aの出力信号と、別のセンサ(図1に示したセンサ6b、図3に示したセンサ6a又は6b=仮にセンサ6Bとする)との間に適正な位相差を設定すれば、上記外力の作用に伴って上記センサ6Bの位相がずれても、これら両センサ6A、6Bの出力信号の位相が逆転(立上り等のタイミングが逆転)する事はない。
この点に就いて、図2に図10を加えて説明する。特性変化の境界が「へ」字形又は「く」字形であるエンコーダの被検出面の幅方向2個所位置にセンサの検出部を対向させた構造で、これら両センサの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて回転側軌道輪の回転方向を判定するには、この位相差が、次の(1)(2)の条件を満たす事が必要である。
(1) 回転方向に応じて変化する。
(2) 所定の回転方向の場合に生じ得る位相差の範囲と、逆方向の場合に生じ得る位相差の範囲とが重畳しない。
これら(1)(2)の条件を満たす為には、中立状態で1対のセンサA、Bの出力信号の位相を、図10に示す様に90度(又は270度)程度ずらせる事が考えられる。この様に1対のセンサA、Bの出力信号の位相をずらせるには、これら両センサA、Bの設置位置を円周方向にずらせるか、或いは、これら両センサA、Bのうちの一方の出力信号を電気的に遅らせる。何れにしても、これら両センサA、Bの出力信号の位相をずらせれば、例えば回転側軌道輪が図10の(A)−(a)に示す様に正転する場合には、1対のセンサの出力信号が同(A)−(b)に示す様に変化する。そこで、これら両センサの出力信号同士の間の位相差δA に基づいて、回転側軌道輪が正転していると判定する。この場合には、これら両センサの出力信号同士の間の位相差比に基づいて、図10の(A)−(c)に示す様なマップにより、上記回転側軌道輪と静止側軌道輪との間に作用する荷重を求める。これに対して、上記回転側軌道輪が図10の(B)−(a)に示す様に逆転する場合には、1対のセンサの出力信号が同(B)−(b)に示す様に変化する。そこで、これら両センサの出力信号同士の間の位相差δB に基づいて、回転側軌道輪が逆転していると判定する。この場合には、これら両センサの出力信号同士の間の位相差比に基づいて、図10の(B)−(c)に示す様なマップにより、上記回転側軌道輪と静止側軌道輪との間に作用する荷重を求める。
但し、上述の様に、中立状態での上記1対のセンサの出力信号の位相を90度(又は270度)ずらせる構造の場合には、上記回転側軌道輪と静止側軌道輪との間に作用する荷重が大きくなり、上記両センサに対して上記エンコーダが、被検出面の幅方向に大きく変位すると、これら両センサの位相が逆転(立上り等のタイミングが逆転)する可能性がある。この様な逆転を生じると、上記荷重を求められなくなる。そこで、転がり軸受ユニットの状態量測定装置を設計する場合に、中立状態での上記1対のセンサの出力信号の位相を(可能な限りの最大限である)180度ずらせて、上記逆転を生じない様にしている。但し、上記位相を180度ずらせた場合には、上記両センサの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて回転側軌道輪の回転方向を判定する事はできない。上記エンコーダの被検出面の特性変化の境界の傾斜角度を緩くしたり、特性変化のピッチを大きくする事で、この被検出面の幅方向に関する上記両センサの変位量が多くなっても、上記逆転が生じない様にする事は可能である。但し、傾斜角度を緩くする事は、荷重の測定精度を悪化させ、ピッチを大きくする事は、荷重を測定するまでの時間が長くなる事に繋がる為、採用できない場合もある。
これに対して本発明の構造の場合には、前記回転速度測定用センサとして機能するセンサ6Aの出力信号の位相変化が抑えられる為、このセンサ6Aの出力信号と、前記別のセンサ6Bの出力信号との間の位相差を利用して、ハブ2等の回転側軌道輪の回転方向を効果的に判定できる。即ち、本発明の構造の場合には、前述した通り、上記エンコーダの変位に伴う、上記センサ6Aの出力信号の位相変化が少ない。従って、特性変化の境界の傾斜角度を緩くしたり、特性変化のピッチを大きくしなくても、上記両センサに対して上記エンコーダが、被検出面の幅方向に大きく変位した場合に、これら両センサの位相が逆転しにくくできる(実際に作用する可能性のある荷重で、逆転する事はない)。そして、上記センサ6Aの出力信号と、上記別のセンサ6Bの出力信号との間の位相差を90度(又は270度)ずらせて、上記回転側軌道輪の回転方向の判定を行なえる。尚、3個以上のセンサを備えた構造の場合でも、上述の様に回転方向の判定を行なう為には、上記条件を満たす1対のセンサ6A、6Bの出力信号を利用する。何れにしても、従来から知られている、回転方向判定用のセンサを使用せずに、回転側軌道輪部材の回転方向を判定できる。そして、回転方向に応じたマップを使用する事で、この回転側軌道輪部材と静止側軌道輪部材との間に作用する荷重を求められる。
又、本発明は、前述した各実施の形態の構造に限らず、特許請求の範囲に記載された要件を満たす、各種の構造に適用可能である。例えば、本発明は、エンコーダとして単なる磁性材製のもの(例えば図6に示すエンコーダ4cの様に、被検出面に透孔14と柱部15とを円周方向に関して交互に且つ等間隔に配置したもの)を組み込んだ構造(この構造では、センサ側に永久磁石を組み込む必要がある)や、エンコーダの被検出面を円輪面とし、且つ、この被検出面に各センサの検出部を軸方向に対向させる事で、静止側軌道輪と回転側軌道輪との間のラジアル方向の状態量(相対変位、作用する外力)を測定可能とした構造にも、適用可能である。更に、本発明は、車輪支持用の転がり軸受ユニットに限らず、各種機械装置の回転支持部分に組み込まれる転がり軸受ユニットを対象として実施する事もできる。
本発明の実施の形態の第1例を示しており、(A)は、エンコーダの被検出面に対してセンサの検出部をアキシアル方向に移動させた場合の、このセンサの出力信号の位相変化特性を示す線図。(B)は、エンコーダの被検出面と各センサの検出部とのアキシアルの位置関係を、中立状態で示した図。 同第2例を示す断面図。 この第2例に関する、図1と同様の図。 本発明を実施する場合に採用できる、他のエンコーダの第1例の円周方向一部分を径方向から見た図。 同じく、他のエンコーダの第2例の円周方向一部分を径方向から見た図。 同じく、他のエンコーダの第3例に関する、図3と同様の図。 転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関する先発明の構造の1例を示す断面図。 アキシアル荷重に基づいて1対のセンサの出力信号が変化する状態を説明する為の線図。 上記先発明の構造の1例に関する、図1と同様の図。 回転側軌道輪の回転方向の判定を可能にした先発明を説明する為の模式図。
符号の説明
1 外輪
2 ハブ
3 転動体
4 エンコーダ
5 カバー
6a、6b、6c センサ
7 芯金
8 エンコーダ本体
9 大径円筒部
10 小径円筒部
11 円輪部
12 第一特性変化部
13 第二特性変化部
14 透孔
15 柱部

Claims (7)

  1. 転がり軸受ユニットと、状態量測定装置とを備え、
    このうちの転がり軸受ユニットは、静止側周面に静止側軌道を有し、使用時にも回転しない静止側軌道輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、使用時に回転する回転側軌道輪と、上記静止側軌道と上記回転側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えたものであり、
    上記状態量測定装置は、エンコーダと、センサ装置と、演算器と、回転速度測定用センサとを備え、
    このうちのエンコーダは、上記回転側軌道輪に直接又は他の部材を介して支持固定されたもので、この回転側軌道輪と同心の被検出面を備え、この被検出面の特性を円周方向に関して交互に且つ等間隔に変化させると共に、この被検出面の幅方向片半部に、特性変化の位相がこの被検出面の幅方向に対して所定方向に漸次変化する第一特性変化部を、この被検出面の幅方向他半部に、特性変化の位相がこの被検出面の幅方向に対して上記所定方向と逆方向に漸次変化する第二特性変化部を、それぞれ設けており、
    上記センサ装置は、その検出部を対向させた部分の特性変化に対応して出力信号を変化させるセンサを、少なくとも1対備え、これら1対のセンサのうちの一方のセンサの検出部を上記第一特性変化部に、同じく他方のセンサの検出部を上記第二特性変化部に、それぞれ対向させた状態で、使用時にも回転しない部分に支持されており、
    上記演算器は、上記センサ装置を構成する1対のセンサの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて、上記両軌道輪同士の間の相対変位と、これら両軌道輪同士の間に作用する外力とのうちの、少なくとも一方の状態量を算出する機能を有するものであり、
    上記回転速度測定用センサは、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間の状態量の1つである、この静止側軌道輪に対するこの回転側軌道輪の回転速度を求める為に利用されるもので、その検出部を対向させた部分の特性変化に対応して出力信号を変化させると共に、その検出部を上記被検出面に対向させた状態で、使用時にも回転しない部分に支持されている、
    転がり軸受ユニットの状態量測定装置に於いて、
    上記両軌道輪同士の間に外力が作用していない中立状態で、上記回転速度測定用センサの検出部が、上記被検出面のうちで上記第一、第二両特性変化部同士の境界部分若しくはその近傍部分に対向している事を特徴とする転がり軸受ユニットの状態量測定装置。
  2. 回転速度測定用センサが、センサ装置を構成する、1対のセンサを含む複数個のセンサのうちの何れかのセンサである、請求項1に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置。
  3. 被検出面の特性変化の境界の位相の変化率が、第一、第二両特性変化部同士の境界部分及びその近傍部分で他の部分に比べて小さくなっている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置。
  4. 被検出面の特性変化の境界のうち、第一、第二両特性変化部同士の境界部分及びその近傍部分に存在する部分の形状が、略円弧形状になっている、請求項3に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置。
  5. 被検出面の特性変化の境界のうち、第一、第二両特性変化部同士の境界部分及びその近傍部分に存在する部分の形状が、上記被検出面の幅方向に対して平行な直線形状になっている、請求項3に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置。
  6. 演算器が、1対のセンサのうちの何れか一方の出力信号と回転速度測定用センサの出力信号との位相差に基づいて、回転側軌道輪の回転方向を判定する機能を有する、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置。
  7. 転がり軸受ユニットが自動車の車輪支持用のハブユニットであり、使用状態で静止側軌道輪が自動車の懸架装置に支持されると共に、回転側軌道輪であるハブに車輪が結合固定される、請求項1〜6のうちの何れか1項に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置。
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