以下、本発明の実施の形態による平板材間の溶接継手および箱型構造体間の溶接継手を、油圧ショベルのブームに適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
ここで、図1ないし図11は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は建設機械としての油圧ショベルで、該油圧ショベル1は、図1に示すように自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、後述の作業装置8とにより大略構成されている。
この場合、油圧ショベル1の上部旋回体3は、下部走行体2と共に建設機械の車体を構成するものである。そして、下部走行体2は、図1中に示す如くトラックフレーム2Aを有している。また、上部旋回体3は、後述の旋回フレーム4、キャブ5、カウンタウエイト6および建屋カバー7等により構成されている。
4は上部旋回体3のフレームを構成する旋回フレームを示し、該旋回フレーム4は、その前側に後述の作業装置8が俯仰動可能に取付けられ、後側には後述のカウンタウエイト6が取付けられている。
5は旋回フレーム4の前部左側に配設された運転室を構成するキャブで、該キャブ5内には、オペレータが着席する運転席、操作レバー、走行用レバーまたはペダル(いずれも図示せず)等が配設されている。
6は旋回フレーム4の後端側に設けられたカウンタウエイトで、該カウンタウエイト6は、旋回フレーム4の後端側に着脱可能に搭載され、前側の作業装置8に対して上部旋回体3全体の重量バランスをとるものである。また、カウンタウエイト6の前側には、エンジン(図示せず)等を収容する後述の建屋カバー7が設けられている。
7はキャブ5とカウンタウエイト6との間に位置して旋回フレーム4上に立設された建屋カバーで、該建屋カバー7は、例えば薄い鋼板からなる複数枚の金属パネル等を用いて建屋構造に形成され、内部にエンジン等を収容する機械室(図示せず)を画成するものである。
8は上部旋回体3の前部に俯仰動可能に設けられた作業装置で、該作業装置8は、後述のブーム11と、ブーム11の先端側に俯仰動可能に取付けられたアーム9と、例えば土砂等の掘削作業を行うため該アーム9の先端側に回動可能に設けられた作業具としてのバケット10とにより大略構成されている。
そして、作業装置8のブーム11は、後述のブームシリンダ11Aにより旋回フレーム4に対して上,下に俯仰動され、アーム9は、ブーム11の先端側でアームシリンダ9Aにより上,下に俯仰動される。また、作業具としてのバケット10は、アーム9の先端側でバケットシリンダ10Aにより上,下に回動されるものである。
ここで、作業装置8のアーム9は、後述のブーム11とほぼ同様に横断面が四角形の閉断面構造をなす箱型構造物(作業腕)として形成される。また、下部走行体2のトラックフレーム2Aについても箱型構造物(溶接構造物)として形成されるものである。しかし、本実施の形態にあっては、箱型構造物として後述のブーム11を例に挙げて説明する。
11は作業装置8の作業腕を構成するブームで、該ブーム11は、図1に示すように長尺な箱型構造物として形成され、ブームシリンダ11Aにより旋回フレーム4に対して上,下に俯仰動されるものである。そして、ブーム11は、図2、図3、図6に示すように長さ方向で3分割される合計3つの箱型構造体(後述の中央ブーム部12、一側ブーム部16および他側ブーム部20)により構成されている。
12はブーム11の一部を構成する箱型構造体としての中央ブーム部で、該中央ブーム部12は、図4に示すように左,右のウェブ板13,13と、該各ウェブ板13の上,下両端側に溶接により接合された上,下のフランジ板14,15とから横断面が四角形の閉断面構造をなす箱型構造体として構成されている。そして、ブーム11の素材となる左,右のウェブ板13,13と上,下のフランジ板14,15とは、例えば鋼板等の平板材を用いてそれぞれ形成されている。
ここで、中央ブーム部12は、各ウェブ板13および上,下のフランジ板14,15が後述の一側ブーム部16と他側ブーム部20とにそれぞれ後述の如く溶接され、これにより図2、図3に示す長尺なブーム11を、箱型の溶接構造物として形成するものである。そして、中央ブーム部12の各ウェブ板13は、後述する一側ブーム部16のウェブ板17、他側ブーム部20のウェブ板21よりも僅かに厚い平板材(図7に示す板厚t)が通常は使用されている。
この場合、上,下のフランジ板14,15は、図6に示す如く長さ方向両端側の端部14A,14Bと端部15A,15Bとを左,右のウェブ板13に対し、その長さ方向で後退,突出させるように位置をずらして設け、一側ブーム部16と他側ブーム部20とに対する溶接面積を拡大する構成としている。
また、中央ブーム部12には、ブームシリンダ11A(図1参照)の先端側をピン結合(連結)するためのボス部12Aが各ウェブ板13に溶接して設けられている。また、上側のフランジ板14には、アームシリンダ9A(図1参照)の基端側をピン結合(連結)するためのブラケット部12Bが端部14B側寄りの位置に溶接して設けられている。
また、ウェブ板13の長さ方向両端側の端面には、例えば図7に示すように後述の開先部26を略V字状をなして形成するために傾斜面13Aが設けられている。そして、この点は、後述の溶接継手32側でも同様である。また、上,下のフランジ板14,15にも、夫々の溶接部位には略V字状の開先部(図示せず)を形成するために同様の傾斜面(図示せず)が設けられる。
16は中央ブーム部12の一側に接合して設けられる一側ブーム部を示し、該一側ブーム部16は、中央ブーム部12とほぼ同様に、それぞれ平板材からなる左,右のウェブ板17,17と上,下のフランジ板18,19とを用いることにより、四角形の閉断面構造をなす箱型構造体として構成されている。そして、一側ブーム部16の基端側には、旋回フレーム4(図1参照)に対してブーム11をピン結合(連結)するためのボス部16Aが設けられている。
この場合、上,下のフランジ板18,19は、図6に示すようにボス部16Aとは反対側の端部18A,19Aを左,右のウェブ板17に対し、その長さ方向で突出,後退させるように位置をずらして配設され、これにより、一側ブーム部16を中央ブーム部12に接合するときの溶接面積を拡大する構成としている。
また、ウェブ板17の長さ方向端部の端面には、図7に示すように略V字状をなす後述の開先部26を形成するために傾斜面17Aが設けられている。そして、この点は、他の溶接部位でも同様であり、例えば上,下のフランジ板18,19にも、夫々の溶接部位には略V字状の開先部(図示せず)を形成するために同様の傾斜面(図示せず)が設けられる。
20は中央ブーム部12の他側に接合して設けられる他側ブーム部を示し、該他側ブーム部20は、中央ブーム部12とほぼ同様に、それぞれ平板材からなる左,右のウェブ板21,21と上,下のフランジ板22,23とを用いることにより、四角形の閉断面構造をなす箱型構造体として構成されている。そして、他側ブーム部20の先端側には、アーム9(図1参照)をブーム11に対してピン結合(連結)するためのブラケット部20Aが設けられている。
この場合、上,下のフランジ板22,23は、図6に示すようにブラケット部20Aとは反対側の端部22A,23Aを左,右のウェブ板21に対し、その長さ方向で後退,突出させるように位置をずらして配設され、これにより、他側ブーム部20を中央ブーム部12に接合するときの溶接面積を拡大できる構成としている。
24は本実施の形態で採用した中央ブーム部12と一側ブーム部16との間の溶接継手で、該溶接継手24は、中央ブーム部12のウェブ板13と相手方(一側ブーム部16)のウェブ板17とを溶接により接合するもので、後述の裏当て材25、開先部26、溶接ビード部27および突起部29,30等を含んで構成されている。
25は溶接継手24の一部を構成する裏当て材で、該裏当て材25は、例えば図5、図6に示すように基端側がウェブ板13の裏面側に溶接部25Aにより接合され、その先端側25Bは、相手方のウェブ板17側に向けて延びている。そして、裏当て材25の先端側25Bは、相手方となるウェブ板17の端部を裏面側から覆い、ウェブ板17の裏面との間には小さな隙間が形成されている。この場合、ウェブ板17と裏当て材25との間の隙間は、ウェブ板13,17間の板厚差によって決められるもので、板厚差を小さくすれば隙間も小さくできるものである。
このため、裏当て材25は、ウェブ板13,17のうち板厚の大きい方に溶接され、板厚が薄い相手方のウェブ板には、その裏面側を覆うように配置される。そして、中央ブーム部12のウェブ板13と一側ブーム部16のウェブ板17とは、図5〜図7に示すように両者の端面を互いに突合せるようにして後述の開先部26が形成され、裏当て材25は、開先部26の裏面(底部)側を形成するものである。
26はウェブ板13,17間に裏当て材25を介して形成された溶接用の開先部で、該開先部26は、図7に示すようにウェブ板13の傾斜面13Aとウェブ板17の傾斜面17Aとの間に略V字状をなして形成され、裏当て材25によって裏面側が覆われている。
27は開先部26に設けられた溶接ビード部で、該溶接ビード部27は、図5、図7に示すようにウェブ板13,17の外側から溶接トーチ(図示せず)等を用いて開先部26内に溶接盛りを施すことにより形成され、ウェブ板13,17間を接合する溶接継手24を構成するものである。
28は溶接ビード部27により開先部26の底部側に形成された不溶着部で、該不溶着部28は、開先部26内に溶接盛りを施して形成した溶接ビード部27の一部(実際には溶接金属の一部)が、例えばウェブ板17の裏面と裏当て材25との間から溶出することにより形成されるものである。このため、不溶着部28は不規則な形状を有し、例えば外力の作用でクラック、亀裂等が発生し易い箇所となる。
29はウェブ板13の外表面側に設けられた凸形状の突起部で、この突起部29は、図5、図7に示すように鋼板等からなる長方形状の板材をウェブ板13の外側面に溶接等の手段で接合(固着)することにより形成されている。そして、突起部29の長さ寸法および幅寸法は、その厚さ寸法に比較して十分に大きい寸法に設定される。この場合、突起部29は、図2〜図6に示す如く開先部26に沿ってウェブ板13の幅方向に延び、ウェブ板13の板厚方向では溶接ビード部27よりも外側に大きく突出している。
また、突起部29は、図7に示すように開先部26、溶接ビード部27に近い方の端部29A(即ち、ウェブ板13の外表面に接して固着された端部29A)が前述した不溶着部28に対し、ウェブ板13の長さ方向で距離aだけ離間した位置に配設されている。そして、この場合の距離aは、ウェブ板13の板厚tに対して1/2以上で、1.5倍以下となる下記の範囲内に設定されるものである。
この場合、前記数1による範囲は、発明者等が鋭意研究した結果、得られた値である。そして、突起部29は、ウェブ板17の裏面側で裏当て材25との間に不溶着部28が形成される場合でも、該不溶着部28の位置で応力集中等が発生するのを、後述する理由により緩和するものである。
30はウェブ板17の外表面側に設けられた他の突起部で、該突起部30は、図5、図7に示すように鋼板等からなる長方形状の板材をウェブ板17の外側面に溶接等の手段で接合(固着)することにより凸形状をなして形成されている。そして、突起部30は、ウェブ板13側の突起部29とほぼ同様に構成され、図2〜図6に示す如く開先部26に沿ってウェブ板17の幅方向に延びている。
また、突起部30は、図7に示すように開先部26、溶接ビード部27に近い方の端部30A(即ち、ウェブ板17の外表面に接して固着された端部30A)が前述した不溶着部28に対し、ウェブ板17の長さ方向で距離bだけ離間した位置に配設されている。そして、この場合の距離bも、鋭意研究した結果、ウェブ板13の板厚tに対して1/2以上で、1.5倍以下となる下記の範囲内に設定されるものである。
31は中央ブーム部12と一側ブーム部16との間に設けた他の溶接継手で、該溶接継手31は、図3に示すように中央ブーム部12のフランジ板14と相手方(一側ブーム部16)のフランジ板18とを夫々の端部14A,18A間で溶接により接合するものである。そして、フランジ板14,18(端部14A,18A)間の溶接継手31は、ウェブ板13,17間の溶接継手24とほぼ同様に、裏当て材、開先部および溶接ビード部(いずれも図示せず)等を含んで構成される。
しかし、この場合の溶接継手31では、前記溶接継手24で用いた突起部29,30が省略されている。但し、溶接継手31の強度を高めるときには、これと同様の突起部を必要に応じて設ける構成としてもよいものである。また、中央ブーム部12と一側ブーム部16とは、下側のフランジ板15,19(端部15A,19A)間でもほぼ同様な溶接継手(図示せず)が設けられる。
これにより、中央ブーム部12と一側ブーム部16とは、予め四角形の閉断面構造をなす箱型構造体として形成した状態で、左,右のウェブ板13,17間が各溶接継手24を用いて接合され、上側のフランジ板14,18間が溶接継手31で接合され、下側のフランジ板15,19間も同様な溶接継手により接合されるものである。
32は本実施の形態で採用した中央ブーム部12と他側ブーム部20との間の溶接継手を示している。そして、該溶接継手32は、中央ブーム部12のウェブ板13と相手方(他側ブーム部20)のウェブ板21とを溶接により接合するもので、前述したウェブ板13,17間の溶接継手24とほぼ同様に、後述の裏当て材33、開先部(図示せず)、溶接ビード部34および突起部35,36等を含んで構成されている。
33は溶接継手32の一部を構成する裏当て材で、該裏当て材33は、前述した溶接継手24の裏当て材25とほぼ同様に構成されている。しかし、この場合の裏当て材33は、例えば図6に示すように基端側がウェブ板13の裏面側に接合され、その先端側が相手方のウェブ板21側に向けて延びている。そして、裏当て材33の先端側は、相手方となるウェブ板21の端部を裏面側から覆い、ウェブ板13,21間に溶接用の開先部(図示せず)を形成するものである。
34はウェブ板13,21間の開先部に設けられた溶接ビード部で、該溶接ビード部34は、ウェブ板13,21の外側から溶接トーチ等を用いて前記開先部内に溶接盛りを施すことにより形成され、ウェブ板13,21間を接合する溶接継手32を構成するものである。
35,36は溶接継手32の一部を構成する凸形状の突起部で、該突起部35,36は、前述した溶接継手24の突起部29,30とほぼ同様に構成され、図2、図3、図6に示すように鋼板等からなる長方形状の板材をウェブ板13,21の外側面に溶接等の手段で接合(固着)することにより形成されている。そして、突起部35,36は、例えばウェブ板21の裏面側と裏当て材33との間に不溶着部(図示せず)が形成された場合でも、この位置で応力集中等が発生するのを緩和するものである。
37は中央ブーム部12と他側ブーム部20との間に設けた他の溶接継手で、該溶接継手37は、図3に示すように中央ブーム部12のフランジ板14と相手方(他側ブーム部20)のフランジ板22とを夫々の端部14B,22A間で溶接により接合するものである。そして、フランジ板14,22(端部14B,22A)間の溶接継手37は、前述したウェブ板13,21間の溶接継手32とほぼ同様に、裏当て材、開先部および溶接ビード部(いずれも図示せず)等を含んで構成される。
しかし、この場合の溶接継手37では、前記溶接継手32で用いた突起部35,36が省略されている。但し、溶接継手37の強度を高めるときには、これと同様の突起部を必要に応じて設ける構成としてもよいものである。また、中央ブーム部12と他側ブーム部20とは、下側のフランジ板15,23(端部15B,23A)間でもほぼ同様な溶接継手(図示せず)が設けられる。
これにより、中央ブーム部12と他側ブーム部20とは、予め四角形の閉断面構造をなす箱型構造体として形成した状態で、左,右のウェブ板13,21間が各溶接継手32を用いて接合され、上側のフランジ板14,22間が溶接継手37で接合され、下側のフランジ板15,23間も同様な溶接継手により接合されるものである。
本実施の形態による油圧ショベル1は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
まず、油圧ショベル1のキャブ5内に乗り込んだオペレータが、キャブ5内のレバー、ペダル(いずれも図示せず)等を操作し、建屋カバー7内の油圧ポンプ(図示せず)から吐出される圧油を下部走行体2に供給することにより、該下部走行体2の走行モータ等を駆動して車両を前,後進させる。
また、前記油圧ポンプからの圧油を各給排配管(図示せず)を介して作業装置8側に給排することにより、ブーム11とアーム9を俯仰動させつつ、バケット10を回動することによって土砂の掘削作業等を行うものである。
次に、作業装置8に用いるブーム11の製造工程について説明するに、まず、ブーム11を図6に示すように長さ方向で3分割される合計3つの箱型構造体として、中央ブーム部12、一側ブーム部16および他側ブーム部20によりそれぞれ別々に製作する。
この場合、箱型構造体としての中央ブーム部12は、図4に示すように左,右のウェブ板13,13と、該各ウェブ板13の上,下両端側に溶接により接合された上,下のフランジ板14,15とから横断面が四角形の閉断面構造をなす箱型構造体として製作される。
また、一側ブーム部16もこれと同様に、左,右のウェブ板17,17と上,下のフランジ板18,19とから四角形の閉断面構造をなすように形成され、他側ブーム部20も、左,右のウェブ板21,21と上,下のフランジ板22,23とから同様に閉断面構造をなして形成される。
そして、中央ブーム部12のウェブ板13等には、例えば図6に示す如く裏当て材25,33を予め溶接して設けるようにする。また、ウェブ板13,17の外側面には、溶接継手24の一部を構成する突起部29,30を設け、ウェブ板13,21の外側面には、溶接継手32の一部を構成する突起部35,36を設ける。なお、これらの突起部29,30,35,36等は、溶接ビード部27,34を形成した後に設けることも可能である。
次に、この状態で中央ブーム部12と一側ブーム部16とを、図6中に示す矢印の方向で互いに突合せるようにして、例えばウェブ板13,17間に溶接用の開先部26を図5、図7に示すように形成する。このとき、上側のフランジ板14,18間にも同様な開先部を形成し、下側のフランジ板15,19間にも同様な開先部を形成する。
そして、ウェブ板13,17間の開先部26には、外側から溶接トーチ等を用いて溶接盛りを施すことにより溶接ビード部27を形成して溶接継手24を製作する。また、上側のフランジ板14,18間にも、同様な溶接ビード部を形成して溶接継手31を製作する。さらに、下側のフランジ板15,19間にも同様な溶接ビード部を形成して溶接継手を製作する。
これにより、中央ブーム部12と一側ブーム部16とは、予め四角形の閉断面構造をなす箱型構造体として形成した状態で、左,右のウェブ板13,17間が各溶接継手24を用いて接合され、上側のフランジ板14,18間が溶接継手31で接合され、下側のフランジ板15,19間も同様な溶接継手により接合される。また、中央ブーム部12と他側ブーム部20との間も、図3に示す溶接継手32,37等を用いて一体的に接合することができる。
ところで、このような溶接継手24等の場合には、2つの箱型構造体を互いに突合せるようにして接合するため、ウェブ板13,17の両方に裏当て材25を接合して設けることはできない。即ち、例えば一方のウェブ板13にのみ裏当て材25を接合して設け、相手方のウェブ板17に対しては裏当て材25を裏面側に当接または近接させて配置する以外に方法はない。
そして、このような状態でウェブ板13,17間に形成される開先部26内に溶接盛りを施して溶接ビード部27を設けた場合には、例えば図7中に示すようにウェブ板17の裏面と裏当て材25との間に溶接金属の一部がはみ出すようにして不溶着部28が形成される。そして、この不溶着部28の位置では、外力の作用に伴って応力集中が発生し易くなることが知られている。
そこで、本発明者等は、図9に示すような凸形状の突起部38Aを有する平板材38をサンプルとして用意した。そして、該平板材38の一方の端部側を動かないように固定し、他方の端部側には矢示F方向の引張り荷重を付加することにより、当該平板材38の裏面38Bにおける応力状態を詳細に検査して下記のような応力分布の特性データを作成した。
即ち、図11に示す応力比の特性データ(特性線39)は、横軸が平板材38の板厚tを基準とした段差38Cからの距離を示し、「0.5t」の位置は、図10に示す点Aの位置(平板材38の長さ方向で段差38Cの位置から0.5tだけ離れた位置)に相当し、「1.0t」の位置は、段差38Cの位置から平板材38の板厚t分だけ離れた位置に相当する。また、縦軸は、平板材38の裏面38Bにおける裏面側応力比を示している。
この場合、裏面側応力比とは、例えば歪ゲージ等を用いて計測可能な平板材38の裏面38Bにおける応力を、平板材38の断面平均応力で割り算することにより求められ、断面平均応力は平板材38の断面形状から通常の応力計算を行うことにより算出されるものである。
そして、平板材38の裏面側応力比は、図11中に示す特性線39のように、突起部38Aを有した平板材38の中心O−O位置(例えば、図11中の横軸で「−2.0t」となる位置)で、1.3に近い値まで大きくなるのに対し、平板材38の段差38Cに近い位置(図11中の横軸で「0」となる位置の近傍)では、裏面側応力比が1に近い値まで低下する。さらに、平板材38の長さ方向で段差38Cの位置から0.5tだけ離れた位置(図10に示す点Aの位置)では、裏面側応力比が0.95〜1.0の間で、例えば0.975前,後の値まで小さくなることが確認された。
そこで、本実施の形態では、図2〜図7に示すように、ウェブ板13の外表面側に凸形状の突起部29を設け、該突起部29の端部29Aを裏面側の不溶着部28に対し、ウェブ板13の長さ方向で距離a(ウェブ板13の板厚tに対して1/2以上で、1.5倍以下となる距離a)だけ離間した位置に配設する構成としている。そして、凸形状の突起部29は、開先部26に沿ってウェブ板13の幅方向に延びると共に、ウェブ板13の板厚方向では溶接ビード部27よりも外側に大きく突出する構成としている。
また、相手方となるウェブ板17の外表面側にも凸形状の突起部30を設け、該突起部30の端部30Aも裏面側の不溶着部28に対し、ウェブ板17の長さ方向で距離b(板厚tに対して1/2以上で、1.5倍以下となる距離b)だけ離間した位置に配設している。そして、この場合の突起部30も、開先部26に沿ってウェブ板17の幅方向に延びると共に、ウェブ板17の板厚方向では溶接ビード部27よりも外側に大きく突出する構成としている。
これにより、例えばウェブ板13,17間に付加される引張り荷重等の外力によりウェブ板13,17の裏面側に発生する応力が、ウェブ板17の裏面側と裏当て材25との間の不溶着部28の位置で集中するのを、ウェブ板13,17の外表面側に設けた凸形状の突起部29,30により緩和することができる。
即ち、ウェブ板13,17の裏面側に発生する応力は、図11に示す特性線39による解析データからも明らかな如く、例えば板厚tに対して突起部29,30からt/2(0.5t)以上に離れて、1.5倍(1.5t)以下となる範囲内の位置で最も小さくなる。このため、図7中に例示した距離a,bの位置に不溶着部28が配置されるように、ウェブ板13,17の表面側に突起部29,30を形成することにより、不溶着部28の位置で裏面側の応力が集中するのを緩和することができ、外力に対する溶接継手24の強度を容易に高めることができる。
しかも、凸形状の突起部29,30は、ウェブ板13,17の外表面側に肉盛りを施すように追加して設けることができる。このため、例えば一方のウェブ板13に裏当て材25を接合する前、または接合した後に凸形状の突起部29,30を設けることができ、あるいは溶接用の開先部26に溶接トーチを用いて溶接ビード部27を形成した後に、この溶接トーチを用いてウェブ板13,17の外側面に平板材からなる突起部29,30を接合して設けることもできる。
また、油圧ショベル1を実際に稼働させた後にも、必要に応じて作業現場等で溶接作業を行って突起部29,30を設けることも可能である。さらには、凸形状の突起部29,30は、ウェブ板13,17の必ずしも両方に設ける必要はなく、例えばウェブ板13にのみ突起部29を設け、他の突起部30は省略してもよい。また、ウェブ板17にのみ突起部30を設け、一方の突起部29を省略することも可能である。
これにより、本実施の形態によれば、ウェブ板13,17の外側面に突起部29,30を設けることにより、不溶着部28における応力集中の緩和対策を低コストで、ウェブ板13,17の外表面側から容易に行うことができ、その作業性を確実に向上することができる。
かくして、予め四角形の閉断面構造をなす箱型構造体として形成された中央ブーム部12と一側ブーム部16とは、左,右のウェブ板13,17間をそれぞれ溶接継手24を用いて接合でき、不溶着部28における応力集中の緩和対策を低コストで図ることができると共に、上側のフランジ板14,18間も図3に示す溶接継手31を用いて接合でき、下側のフランジ板15,19間も同様な溶接継手により接合することができる。
また、中央ブーム部12と他側ブーム部20との間も、左,右のウェブ板13,21間をそれぞれ溶接継手32を用いて接合することができ、この場合も突起部35,36を設けることにより、ウェブ板21の裏面側と裏当て材33との間の不溶着部(図示せず)における応力集中の緩和対策を低コストで図ることができる。
そして、上側のフランジ板14,22間も図3に示す溶接継手37を用いて接合でき、下側のフランジ板15,23間も同様な溶接継手で接合することができる。これにより、箱型構造体である中央ブーム部12と他側ブーム部20との間を、図3に示す溶接継手32,37等を用いて一体的に接合することができる。
従って、本実施の形態によれば、箱型構造体である中央ブーム部12と一側ブーム部16,他側ブーム部20との間を溶接により接合するときに、裏当て材25,33等を用いてウェブ材17,21の裏面側に不溶着部28等が形成される場合でも、応力の集中を容易に緩和することができ、材料費や製作コスト等を確実に低減することができる。
次に、図12は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、平板材の外表面側に肉盛溶接を施すことにより凸形状の突起部を形成する構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、41は本実施の形態で採用した溶接継手で、該溶接継手41は、第1の実施の形態で述べた溶接継手24と同様に、中央ブーム部12のウェブ板13と相手方(一側ブーム部16)のウェブ板17とを溶接により接合するもので、裏当て材25、開先部26、溶接ビード部27および後述の突起部42,43等を含んで構成されている。
42はウェブ板13(平板材)の外表面側に設けられた凸形状の突起部で、該突起部42は、第1の実施の形態で述べた突起部29とほぼ同様に構成され、開先部26、溶接ビード部27に近い方の端部42A(即ち、ウェブ板13の外表面に接して溶着された端部42A)が不溶着部28に対し、ウェブ板13の長さ方向で距離aだけ離間した位置に配設されている。
しかし、この場合の突起部42は、ウェブ板13の外表面側に肉盛溶接を施すことにより形成されている。そして、突起部42は、開先部26に沿ってウェブ板13の幅方向に延び、ウェブ板13の板厚方向では溶接ビード部27よりも外側に大きく突出している。これにより、突起部42は、ウェブ板17の裏面側で裏当て材25との間に不溶着部28が形成される場合でも、該不溶着部28の位置で応力の集中等が発生するのを緩和するものである。
43はウェブ板17の外表面側に設けられた他の突起部で、該突起部43も、ウェブ板17の外表面に肉盛溶接を施すことによって形成した点を除けば、第1の実施の形態で述べた突起部30と同様に構成されている。そして、突起部43は、開先部26、溶接ビード部27に近い方の端部43A(即ち、ウェブ板17の外表面に接して溶着された端部43A)が不溶着部28に対し、ウェブ板17の長さ方向で距離bだけ離間した位置に配設されている。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、ウェブ板13,17の外側面に突起部42,43を設けることにより、前記第1の実施の形態と同様な効果を奏する。特に、本実施の形態では、ウェブ板13,17の外表面に肉盛溶接を施すことにより凸形状の突起部42,43を容易に形成することができる。
即ち、例えば溶接用の開先部26に溶接盛りを施して溶接ビード部27を形成する前、または溶接盛りを施して溶接ビード部27を形成した後に、このときの溶接トーチを用いて突起部42,43の形成作業をウェブ板13,17(平板材)の外側から容易に行うことができ、溶接工程全体の作業性をより一層向上することができる。
次に、図13は本発明の第3の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、平板材であるフランジ板間の溶接継手に凸形状の突起部を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、51は本実施の形態で採用した溶接継手で、該溶接継手51は、第1の実施の形態で述べた溶接継手31に替えて、中央ブーム部12のフランジ板14と相手方(一側ブーム部16)のフランジ板18とを溶接により接合するものである。そして、この場合の溶接継手51は、後述の突起部52,53等を含んで構成されている。
52はフランジ板14の外表面側に設けられた凸形状の突起部で、該突起部52は、第1の実施の形態で述べた突起部29とほぼ同様に構成され、フランジ板14の端部14A側に設けられている。そして、突起部52は、開先部(図示せず)に沿ってフランジ板14の幅方向に延び、フランジ板14の板厚方向では溶接ビード部(図示せず)よりも外側に大きく突出している。
53はフランジ板18の外表面側に設けられた他の突起部で、この突起部53も、第1の実施の形態で述べた突起部30とほぼ同様に構成され、フランジ板18の端部18A側に設けられている。そして、突起部53は、開先部(図示せず)に沿ってフランジ板18の幅方向に延び、フランジ板18の板厚方向では溶接ビード部(図示せず)よりも外側に大きく突出している。
かくして、このように構成される本実施の形態では、前記第1の実施の形態で述べたウェブ板13,17間の溶接継手24に加えて、上側のフランジ板14,18間にも突起部52,53を備える溶接継手51を設けることにより、前記第1の実施の形態に比較して中央ブーム部12と一側ブーム部16との間をより一層強固に溶接することができ、例えばフランジ板18の裏面側と裏当て材との間に不溶着部(いずれも図示せず)が形成される場合でも、不溶着部での応力の集中を緩和することができる。
なお、前記第3の実施の形態では、中央ブーム部12と一側ブーム部16との間の溶接構造において、ウェブ板13,17間を溶接継手24により接合し、上側のフランジ板14,18間にも突起部52,53を備える溶接継手51を設ける場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばフランジ板14,18間の溶接継手51で十分な強度が確保できるならば、ウェブ板13,17間の溶接継手24は、突起部29,30等を用いない構造としてもよいものである。
また、前記第3の実施の形態で述べた中央ブーム部12と一側ブーム部16との間の溶接構造でも強度不足等が心配されるような場合には、下側のフランジ板15,19間の溶接継手に対しても、上側のフランジ板14,18間の溶接継手51と同様に凸形状の突起部を設ける構成としてもよい。また、上記の点は、中央ブーム部12と他側ブーム部20との間の溶接継手についても同様である。
また、前記第1の実施の形態では、ウェブ板13の外表面側に凸形状の突起部29を設け、相手方となるウェブ板17の外表面側にも凸形状の突起部30を設ける場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばウェブ板13にのみ突起部29を設け、ウェブ板17には突起部30を設けない構成としてもよい。また、ウェブ板17にのみ突起部30を設け、一方の突起部29を省略することも可能である。そして、この点は、第2,第3の実施の形態についても同様である。
一方、前記各実施の形態では、作業装置8のブーム11を中央ブーム部12、一側ブーム部16および他側ブーム部20に3分割する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばブームを2分割、または4つ以上に分割する場合に適用してもよく、作業装置8のアーム9を複数に分割する場合等にも適用できるものである。
また、本発明による箱型構造体(平板材)間の溶接継手は、例えば図1に示す下部走行体2のトラックフレーム2Aに用いる箱型構造体にも適用できるものである。さらに、例えばホイール式油圧ショベル、油圧クレーン等の溶接による箱型構造体にも適用でき、例えば伸縮式の作業腕(ブーム)を備えたクレーン、高所作業車、またはホイールローダ等のように、種々の建設機械に設ける作業腕、フレーム等の箱型構造体にも広く適用できるものである。