JP4937621B2 - 動圧軸受装置 - Google Patents

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Description

本発明は動圧軸受装置に関するものである。
動圧軸受装置は、軸受部材と、軸受部材の内周に挿入した軸部材との相対回転により軸受隙間に生じた潤滑流体(例えば、潤滑油)の動圧作用で軸部材を回転自在に非接触支持する軸受装置である。この動圧軸受装置は、高速回転、高回転精度、低騒音等の特徴を備えるものであり、情報機器、例えばHDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置等におけるディスクドライブのスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイール、パーソナルコンピュータ(PC)のファンモータ、あるいは軸流ファンなどの小型モータに搭載される軸受装置として、近年その用途を拡大しつつある。
例えば、HDD等のディスク装置用のスピンドルモータに搭載される動圧軸受装置では、軸部材をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部と、軸部材をスラスト方向に回転自在に非接触支持するスラスト軸受部とが設けられる。ラジアル軸受部は、軸受部材の内周面、あるいはラジアル軸受隙間を介して対向する軸部材の外周面に設けられた動圧溝等の動圧発生部(ラジアル動圧発生部)が、ラジアル軸受隙間に潤滑流体の動圧作用で圧力を発生させることにより形成される。また、スラスト軸受部は、軸部材のフランジ部の両端面、あるいはスラスト軸受隙間を介して対向する部材端面(例えば、軸受部材の端面やハウジング内底面等)に設けられた動圧溝等の動圧発生部(スラスト動圧発生部)がスラスト軸受隙間に潤滑流体の動圧作用で圧力を発生させることにより形成される(例えば、特許文献1参照)。
特開2002−61641号公報
情報機器の低価格化に伴い、動圧軸受装置に対する低コスト化の要請が厳しさを増している。この要請に対応するため、動圧軸受装置を構成する軸受部材の樹脂化が検討されている。その一方で、情報機器の高性能化に伴って、動圧軸受装置に対する高回転精度化の要請が厳しさを増しており、この種の要請に対応するには軸受隙間を所期の値に管理するのが重要である。しかしながら、樹脂は成形収縮が避けられず、所期の軸受隙間幅を得るには、特に軸受面となる領域に精緻な仕上げ加工を要すため、樹脂化によるコストメリットを十分に享受できない。また、一般に、樹脂は線膨張係数が大きく、軸受運転時の温度変化の影響を受け易い。さらに、金属に比べ耐摩耗性に劣り、特に起動・停止時等における軸部材との摺動接触によって軸受面の摩耗が進行し易い。
本発明の目的は、動圧軸受装置の低コスト化と高回転精度化を同時に達成可能とすることにある。
上記目的を達成するため、本発明にかかる動圧軸受装置は、外周面にベース部材に取り付けるための取付け面を有すると共に、内周面にラジアル軸受面を有する軸受部材と、軸受部材の内周に挿入され、軸部およびフランジ部からなる軸部材と、軸受部材のラジアル軸受面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に潤滑流体の動圧作用で圧力を発生させるラジアル動圧発生部とを備え、前記取付け面がベース部材の内周面に嵌合固定されるものであって、軸受部材が、マスター部材に金属を析出させることにより形成した電鋳部と、電鋳部をインサートして樹脂材料で射出成形され、外周面に前記取付け面を有する保持部とからなり、保持部が、ラジアル軸受面が設けられた小径内周面を有する円筒状のスリーブ部と、スリーブ部の外径側から軸方向に伸び、大径内周面を有する大径部とを一体に備え、小径内周面に電鋳部が配され、電鋳部の析出開始面にラジアル軸受面が設けられていることを特徴とするものである。
上記のように、本発明では、軸受部材が、内周面の少なくともラジアル軸受隙間に面する部分(ラジアル軸受面)に電鋳部を有している。電鋳部は、マスター表面に金属を析出させて形成した金属層であり、電解メッキあるいは無電解メッキに準じた手法で形成することができる。電鋳加工の特性上、電鋳部の内面にはマスターの表面形状が非常に微細なレベルまで高精度に転写される。従って、マスターの表面精度を高めておけば、特段の仕上げ加工を施すことなく低コストに高精度なラジアル軸受面を得ることができる。また、ラジアル軸受面が金属面となるから、ラジアル軸受面を樹脂で構成する場合と比べ、温度依存性を低減し、また耐摩耗性を高めてラジアル軸受隙間幅の変動を抑制することができる。軸受部材は、上記特性を有する電鋳部をインサートして射出成形されるので、部材同士の組付け作業が不要となり、高精度な軸受部材が低コストに得られる。
軸受部材は、電鋳部を配した小径内周面と、フランジ部の外径側に位置する大径内周面と、小径内周面と大径内周面との間に設けられた第一端面とを有する構成とすることができる。なお動圧軸受装置の運転中には、内部空間を満たす潤滑流体が一部領域で負圧になる場合があり、かかる負圧の発生は、気泡の発生や潤滑油漏れを招き、軸受性能を低下させる恐れがある。かかる不具合は、軸受部材に、前記第一端面に開口する軸方向の貫通穴を設け、軸受装置の内部空間で潤滑流体が流動する経路を確保することによって解消し得る。
軸受部材に第一端面を設けた構成では、軸受部材の第一端面とフランジ部の一方の端面との間のスラスト軸受隙間に、潤滑流体の動圧作用で圧力を発生させるスラスト動圧発生部を設けることもでき、これにより軸部材をスラスト方向に非接触支持することができる。この場合、軸受部材の第一端面に電鋳部を配せば、上記同様にして、スラスト軸受隙間に面する部分(スラスト軸受面)も低コストかつ高精度に形成することができ、またスラスト軸受隙間幅の変動量も抑制することができる。
以上の構成を有する動圧軸受装置は、ロータマグネットと、ステータコイルとを有するモータ、例えばHDD等のディスク駆動装置用のスピンドルモータに好ましく使用することができる。
以上のように、本発明によれば、動圧軸受装置の低コスト化と高回転精度化を同時に達成することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る動圧軸受装置1を組込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。この情報機器用スピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、動圧軸受装置1と、動圧軸受装置1の軸部材2に取り付けられたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、ベース部材6を備えている。ステータコイル4はベース部材6の外周に取り付けられ、ロータマグネット5は、ディスクハブ3の内周に取り付けられている。ディスクハブ3は、その外周に磁気ディスク等のディスクDを一または複数枚保持する。ベース部材6の内周に動圧軸受装置1の軸受部材7が装着されている。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間に発生する電磁力でロータマグネット5が回転し、それに伴ってディスクハブ3、軸部材2が一体に回転する。
図2に上記動圧軸受装置1の一例を示す。この動圧軸受装置1は、回転中心に軸部2aを有する軸部材2と、ベース部材6に取り付けるための取付け面を外周面に有し、軸部2aをその内周に挿入可能な軸受部材7と、軸受部材7の一端側開口を封口する蓋部材10と、軸受部材7の他端側に位置するシール部材11とを備えている。なお、説明の便宜上、蓋部材10の側を下側、シール部材11の側を上側として以下説明を行う。
軸部材2は、例えばステンレス鋼等の金属材料で、軸部2aとその一端に一体又は別体に設けられたフランジ部2bとで構成される。あるいは、軸部2aを金属、フランジ部2bを樹脂で構成したハイブリッド構造とすることもできる。本実施形態における軸部2aの外周面2a1は、凹凸のない断面真円状に形成されている。また、フランジ部2bの両端面2b1、2b2は、凹凸のない平坦面状に形成されている。
軸受部材7は、後に詳述する電鋳加工で形成された電鋳部8と、該電鋳部8をインサートして射出成形された保持部9とで構成され、この保持部9は、例えば樹脂組成物で形成される。樹脂組成物を構成するベース樹脂は射出可能であれば特に限定はなく、例えば、ポリサルフォン(PSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)等の非晶性樹脂のほか、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の結晶性樹脂が使用可能である。これらのベース樹脂には、必要に応じて強化材(繊維状、粉末状等の形態は問わない)や潤滑剤、導電材等の各種充填材が一種または二種以上配合される。
なお、射出材料としては樹脂材料以外に金属材料も使用可能である。金属材料としては、例えば、マグネシウム合金やアルミニウム合金等の低融点金属材料が使用可能である。この他、金属粉とバインダーの混合物で射出成形した後、脱脂・焼結するいわゆるMIM成形で保持部9を成形することもできる。さらにこの他、射出材料としてセラミックを使用することもできる。
保持部9は、内周に電鋳部8を配した円筒状のスリーブ部9aと、スリーブ部9aの外径側から下方に伸び、軸部材2のフランジ部2bの外径側に位置する第一大径部9bと、スリーブ部9aの外径側から上方に伸びる第二大径部9cとで構成され、各部9a〜9cは、界面のない一体品として形成されている。なお、図示例では、第一大径部9bと第二大径部9cの内周が同径に形成されているが、異径としてもよい。
軸受部材7(電鋳部8)の内周面(小径内周面)7aには、ラジアル軸受部R1、R2のラジアル軸受面Aとなる上下2つの領域が軸方向に離隔して設けられ、これら2つの領域には、図3に示すように、ラジアル動圧発生部として、例えばヘリングボーン形状に配列された複数の動圧溝7a1、7a2がそれぞれ形成されている。上側の動圧溝7a1は、軸方向中心(上下の傾斜溝間領域の軸方向中心)mに対して軸方向非対称に形成され、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている。一方、下側の動圧溝7a2は軸方向対称に形成され、その上下領域の軸方向寸法はそれぞれ上記軸方向寸法X2と等しくなっている。この場合、軸部材2の回転時には、動圧溝による潤滑油の引き込み力(ポンピング力)は下側の対称形の動圧溝7a2に比べ、上側の動圧溝7a1で相対的に大きくなる。なお、このようなポンピング力が不要な場合には、上側の動圧溝7a1を下側の動圧溝7a2と同様、軸方向で対称形状とすることもできる。また、図示例のように軸受部材7の小径内周面7a全面に亘って電鋳部8を設ける他、ラジアル軸受面Aとなる領域にのみ設けることもでき、この場合電鋳部8は、軸方向に非連続となる。
また、軸受部材7の下側端面7b(小径内周面7aと第一大径内周面7cとの間に設けられる第一端面)の全部又は一部環状領域には、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受面Bが形成され、当該スラスト軸受面Bには、スラスト動圧発生部として図3(b)に示すようなスパイラル形状に配列した複数の動圧溝7b1が形成されている。
軸受部材7(保持部9)の第一大径部9bの内周面(第一大径内周面)7cには、樹脂または金属材料で形成された有底略円筒状の蓋部材10が固定される。この蓋部材10は、円筒状の側部10aと、側部10aの下端開口を封口する底部10bとを備え、これらは一体形成されている。底部10bの上側端面10b1の全部または一部環状領域には、第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受面Cが形成され、該スラスト軸受面Cにはスラスト動圧発生部として、例えばスパイラル形状に配列した複数の動圧溝が形成されている(図示省略)。
蓋部材10は、その外周面10a1が軸受部材7(保持部9)の第一大径部9bの内周面7cに圧入、接着等適宜の手段で固定される。このとき、軸部材2のフランジ部2bは、軸受部材7の下側端面7bと蓋部材10の底部10bの上側端面10b1との間に形成される空間に収容される。蓋部材10の側部10aの上側端面10a2は、軸受部材7の下側端面7bと当接しており、これによって後述のスラスト軸受隙間が規定幅に管理される。
軸受部材7(保持部9)の第二大径部9cの内周面7eには、金属材料や樹脂材料で形成された環状のシール部材11が圧入、接着、あるいはこれを併用した適宜の手段で固定される。シール部材11の内周面11aは上方に向かうにつれてテーパ状に拡径しており、この内周面11aと、内周面11aに対向する軸部2aの外周面2a1との間には、上方に向かうにつれて半径方向寸法が漸次拡大する環状のシール空間Sが形成される。シール部材11で密封された動圧軸受装置1の内部空間には、潤滑流体として例えば潤滑油が注油され、動圧軸受装置1内が潤滑油で満たされる。この状態で、潤滑油の油面は常にシール空間Sの範囲内に維持される。なお、部品点数および組立工数の削減のため、シール部材11を軸受部材7と一体に成形することもできる。
上記構成の動圧軸受装置1において、軸部材2が回転すると、軸受部材7を構成する電鋳部8の上下二箇所に離隔形成されたラジアル軸受面Aとなる領域は、軸部材2の外周面2a1とラジアル軸受隙間を介して対向する。軸部材2の回転に伴い、各ラジアル軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、その圧力によって軸部材2がラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが形成される。
また、軸部材2が回転すると、軸受部材7の下側端面7bに形成されたスラスト軸受面Bとなる領域は、軸部材2のフランジ部2bの上側端面2b1とスラスト軸受隙間を介して対向する。同時に、軸部材2が回転すると、蓋部材10の上側端面10b1に形成されたスラスト軸受面Cとなる領域は、軸部材2のフランジ部2bの下側端面2b2とスラスト軸受隙間を介して対向する。軸部材2の回転に伴い、両スラスト軸受隙間に潤滑油の動圧が発生し、その圧力によって軸部材2が両スラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をスラスト方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とが形成される。
動圧軸受装置1の運転中には、内部空間に満たされた潤滑油がその一部領域で負圧になる場合がある。かかる負圧の発生は、気泡の発生や潤滑油の漏れ、あるいは振動の発生等を招き、回転性能低下の要因となる。そこで、本実施形態では、局所的な負圧の発生を防止するため、上述のように、軸受部材7内周上側の動圧溝形状を軸方向非対称として、ラジアル軸受隙間を満たす潤滑油に軸方向下向きのポンピング能力を付与すると共に、下側に押し込まれた潤滑油をラジアル軸受隙間の上端に戻す循環路12を設け、潤滑油を動圧軸受装置1の内部で強制的に循環させる構成を採用している。
図2に例示する循環路12は、大気に開放されたシール空間Sから軸受部材7の第一端面7bに開口した軸方向の貫通穴12aと、シール部材11の下側端面11bに形成された第1半径方向流路12bと、軸受部材7の上側端面7dに形成された円環流路12c、および円環流路12cからラジアル軸受隙間の上端に繋がる第2半径方向流路12dとで構成されている。図示例では、第1の半径方向流路12bをシール部材11の下側端面11b、第2の半径方向流路12dを軸受部材7の上側端面7dに形成した場合を例示しているが、これらの半径方向流路12b、12dは、その対向面に形成しても構わない。
このように、循環路12を設けることで、動圧軸受装置1の運転中には、スラスト軸受隙間→軸方向の貫通穴12a→第1半径方向流路12b→円環流路12c→第2半径方向流路12d→ラジアル軸受隙間の上端、という経路を経て軸受装置内部を潤滑油が循環する。これにより、動圧軸受装置1の内部空間における潤滑油の局所的な負圧発生を防止することができ、高い軸受性能を維持することが可能となる。なお、図示例では貫通穴12aを軸方向で同径に形成しているが、これを軸方向の各部で異径とする(例えば、軸方向上方に向かって漸次縮径させる)こともできる。
次に、上記動圧軸受装置1の製造工程を、軸受部材7の製造工程を中心に図面に基づいて説明する。
図4(a)〜(c)は、上記動圧軸受装置1における軸受部材7の製造工程の一部を示すものである。詳述すると、図4(a)はマスター部材13を製作する工程、図4(b)はマスター部材13の所要箇所をマスキングする工程、図4(c)は電鋳加工により電鋳部材15を形成する工程を示すものである。これらの工程を経た後、電鋳部材15の電鋳部8を樹脂材料でモールドする工程、および電鋳部8とマスター部材13とを分離する工程を経て軸受部材7が製作される。
図4(a)に示す工程では、導電性材料、例えば焼入処理を施したステンレス鋼、ニッケルクロム鋼、その他のニッケル合金、あるいはクロム合金等で形成された中実軸状のマスター部材13が形成される。マスター部材13は、これら金属材料以外にも、導電処理(例えば、表面に導電性の被膜を形成する)を施されたセラミック等の非鉄金属材料で形成することもできる。
マスター部材13の外周面13aの一部領域には、軸受部材7の電鋳部8を成形する成形部Nが形成される。成形部Nは、電鋳部内周面の凹凸パターンが反転した形状をなし、その軸方向二箇所には、動圧溝7a1、7a2間の丘部を成形する凹部13a1、13a2の列が円周方向に形成されている。もちろん凹部13a1、13a2の形状は動圧発生部形状に対応させ、スパイラル形状等に形成してもよい。
図4(b)に示す工程では、成形部Nを除いてマスター部材13の外表面にマスキング14(図中、散点模様で示す)が施される(マスキング工程)。マスキング14用の被覆材としては、非導電性、および電解質溶液に対する耐食性を有する既存品が適宜選択使用される。
電鋳加工は、NiやCu等の金属イオンを含んだ電解質溶液にマスター部材13を浸漬させた後、マスター部材13に通電して、マスター部材13の外表面のうち、マスキング14が施されていない領域(成形部N)に目的の金属を析出(電解析出)させることにより行われる。電解質溶液には、カーボンやPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの摺動材、あるいはサッカリン等の応力緩和材を必要に応じて含有させてもよい。電着金属の種類は、動圧軸受の軸受面に求められる硬度、疲れ強さ等の物理的性質や、化学的性質に応じて適宜選択される。
電鋳部8は、以上に述べた電解メッキに準ずる方法の他、無電解メッキに準ずる方法で形成することもできる。その場合、マスター部材13の導電性やマスキング14の絶縁性は不要となる。
以上の工程を経ることにより、図4(c)に示すように、マスター部材13の成形部Nに電鋳部8を被着した電鋳部材15が形成される。このとき、電鋳部8の内周面には、成形部Nに形成された凹部13a1、13a2の形状が転写され、図3(a)に示す複数の動圧溝7a1、7a2が軸方向に離隔して形成される。なお、電鋳部8の厚みは、これが厚すぎるとマスター部材13からの剥離性が低下し、逆に薄すぎると電鋳部8の耐久性低下につながるので、求められる軸受性能や軸受サイズ、さらには用途等に応じて最適な厚み(例えば5μm〜200μm程度)に設定される。
次に、上記工程を経て形成された電鋳部材15は、モールド工程に移送される。図示は省略するが、モールド工程では、電鋳部材15をインサート部品として所定の金型にセットした後、上記樹脂材料を用いて射出成形(インサート成形)が行われる。樹脂材料の射出後、樹脂材料を固化させて型開きを行うと、図5に示すように、マスター部材13および電鋳部8からなる電鋳部材15と、保持部9とが一体となった成形品が得られる。このとき、軸受部材7の下側端面7bには、図3(b)に示すスパイラル形状に配列された複数の動圧溝7b1が射出成形と同時に型成形される。なお、軸方向の貫通穴12a、円環流路12c、および第2半径方向流路12dも射出成形と同時に形成することもできる。
この成形品は、その後分離工程に移送され、マスター部材13の外周から電鋳部8が剥離され、電鋳部8および保持部9が一体化したもの(軸受部材7)と、マスター部材13とに分離される。この分離工程では、例えば電鋳部材15あるいは軸受部材7に衝撃を与え、電鋳部8の内周面を半径方向に拡径させてマスター部材13の外周面との間に微小隙間(半径寸法で1μm〜数μm程度)を形成し、マスター部材13を電鋳部8の内周から引抜く。この他、電鋳部8とマスター部材13との熱膨張量差を利用してマスター部材13を分離することもできる。
上記のようにしてマスター部材13と分離された軸受部材7に、マスター部材13とは別に製作された軸部材2を挿入し、その他の構成部材を組み付けた後、軸受部材7の内部空間に潤滑油を充満させることにより、図2に示す動圧軸受装置1が完成する。一方、分離されたマスター部材13は、繰り返し電鋳加工に用いることができるので、高精度な軸受部材7を安定してかつ低コストに量産することができる。
以上に示すように、本発明では、軸受部材7が、内周面の少なくともラジアル軸受隙間に面する部分(ラジアル軸受面A)に電鋳部8を有している。電鋳部8は電鋳加工で形成される金属層であり、電鋳加工の特性上、電鋳部8の内周面には、マスター部材13の表面形状が非常に微細なレベルまで高精度に転写されるため、マスター部材13のうち特に成形部Nを高精度に形成しておけば、電鋳部8のラジアル軸受面Aを特段の後加工を施すことなく高精度かつ低コストに形成することができる。
また、ラジアル軸受面Aを樹脂部分に設ける従来構成に比べ、ラジアル軸受面Aの線膨張係数が低くなるので、温度変化に伴うラジアル軸受隙間幅の変動量を抑制することができる。さらに、ラジアル軸受面Aの耐摩耗性が高まることから、起動・停止時等、軸部材2との摺動接触を繰り返しても、ラジアル軸受面Aの摩耗量を軽減することができる。以上のことから、本発明によれば動圧軸受装置1の低コスト化と高回転精度化を同時に達成することができる。
なお、以上の説明では、ラジアル軸受面Aを電鋳部8に設けた構成の動圧軸受装置1について説明を行ったが、ラジアル軸受面Aに加えスラスト軸受面(本実施形態ではスラスト軸受面B)を電鋳部8に設けることもできる。図6は、その一例を示すもので、電鋳部8がラジアル軸受面Aを有するラジアル電鋳部81と、ラジアル電鋳部81と一体に形成されたスラスト軸受面Bを有するスラスト電鋳部82とで構成されている。このようにスラスト軸受面Bも電鋳部8に設けることにより、上述した電鋳加工の特性から、第1スラスト軸受部T1でも高い回転精度を得ることができる。なお、その他の構成部材および機能は、図2に示す動圧軸受装置1と同一であるため、共通の参照番号を付して重複説明を省略する。
図6に示す軸受部材7は、例えば図7に示すようなマスター部材23を用いて形成することができる。このマスター部材23は、小径の第一円柱部23aと、第一円柱部23aと軸方向に連続した大径の第二円柱部23bとで構成されている。第1円柱部23aの外周面のうち、第2円柱部23bの上側端面と連続する一部軸方向領域、および第2円柱部23bの上側端面を除いてマスキング14が施される。このマスター部材23を用いて電鋳加工を行うと、ラジアル電鋳部81およびスラスト電鋳部82が一体に形成された電鋳部材25が得られる。そして、当該電鋳部材25を用いてインサート成形を行うことにより、図6に示す軸受部材7が形成される。
なお、図6に示す形態では、ラジアル電鋳部81とスラスト電鋳部82とを一体構造としたものを例示したが、両者を別体とすることもできる。両者を別体構造とする場合には、例えば、マスキング14の形成領域を変更すればよい。
以上本発明の実施形態を例示したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、以下示すような動圧軸受装置の構成例においても好適に用いることができる。なお、以下の説明では、図2に示す実施形態と同一機能を有する部材および要素には共通の参照番号を付して重複説明を省略する。
図8は、動圧軸受装置1の他の実施形態を示すものである。同図における動圧軸受装置1は、主に、第2スラスト軸受部T2が軸受部材7の外径側の上側端面7dと、これに対向するディスクハブ3におけるプレート部3aの下側端面3a1との間に形成されている点、およびシール空間Sが軸受部材7のテーパ状外周面7fとディスクハブ3の円筒部3bの内周面3b1とのに形成されている点で図2に示す実施形態と構成を異にする。なお、同図においては、ラジアル軸受面Aのみを電鋳部8に設けた構成を例示しているが、図6に示す実施形態と同様、第1スラスト軸受部T1を形成するスラスト軸受面B、あるいは第2スラスト軸受部T2を形成するスラスト軸受面Cの何れか一方を、ラジアル軸受面Aと一体または別体の電鋳部8に設けた構成とすることもできる。
図9は、動圧軸受装置1の他の実施形態を示すものである。同図における動圧軸受装置1は、主に、軸部材2の軸方向2箇所にフランジ部21、22が離隔して設けられ、この両フランジ部の一端面と軸受部材7の両端面9a2、9a3との間に両スラスト軸受部T1、T2が設けられる点、およびシール空間が軸受部材7の両端開口部に設けられ、両シール空間S1、S2が両フランジ部21、22の外周面21a、22aと軸受部材7の大径内周面との間に設けられる点で図2に示す実施形態と構成を異にする。なお、本実施形態においても上記図6に示す実施形態と同様、第1スラスト軸受部T1を形成するスラスト軸受面B、あるいは第2スラスト軸受部T2を形成するスラスト軸受面Cの何れか一方を、ラジアル軸受面Aと一体または別体の電鋳部8に設ける構成とすることもできる。
以上に示す実施形態では、ラジアル動圧発生部として、へリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、ラジアル動圧発生部として、複数の円弧面や軸方向溝、あるいは調和波形面を設け、ラジアル軸受部R1、R2の何れか一方又は双方を、いわゆる多円弧軸受やステップ軸受、あるいは非真円軸受を採用することもできる(図示省略)。これらの動圧発生部は、上記の実施形態と同様、軸受部材7の電鋳部8に形成することができるが、その形成方法は、動圧溝を形成する場合の各工程に準じるので詳細な説明は省略する。
以上の説明では、ラジアル軸受部R1、R2のように、ラジアル軸受部を軸方向に2箇所離隔して設けた構成としたが、軸受部材7の内周面の上下領域に亘って1箇所、あるいは3箇所以上のラジアル軸受部を設けた構成としても良い。
また、以上説明した実施形態では、軸受部材7を構成する電鋳部8に動圧溝等のラジアル動圧発生部を形成した場合を例示したが、ラジアル動圧発生部は、電鋳部8とラジアル軸受隙間を介して対向する軸部2aの外周面2a1に、転造や切削等の機械加工やエッチング、あるいはインクジェット印刷等適宜の手段を用いて形成することもできる。この場合、電鋳部8は、凹凸のない円筒面状に形成される。
さらに、以上の説明ではスラスト動圧発生部として、スパイラル形状やヘリングボーン形状に配列した動圧溝を例示しているが、スラスト動圧発生部としては、この他にも複数の半径方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設け、スラスト軸受部T1、T2の一方又は双方を、いわゆるステップ軸受、いわゆる波型軸受(ステップ型が波型になったもの)等で構成することもできる(図示省略)。また、スラスト動圧発生部は、軸受部材7や蓋部材10とスラスト軸受隙間を介して対向するフランジ部2bの両端面等に形成しても良い。
また、以上の実施形態では、動圧軸受装置1の内部に充満する潤滑流体として、潤滑油を例示したが、それ以外にも各軸受隙間に動圧を発生させることができる流体、例えば磁性流体の他、空気等の気体等を使用することもできる。
本発明の構成を有する動圧軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一例を示す断面図である。 本発明に係る動圧軸受装置の断面図である。 (a)図は軸受部材の縦断面図、(b)図は軸受部材の第一端面を示す図である。 (a)図はマスター部材の斜視図、(b)図はマスター部材にマスキングを施した状態を示す斜視図、(c)図は電鋳部材の斜視図である。 インサート成形直後の軸受部材の断面図である。 動圧軸受装置の他の形態を示す断面図である。 電鋳部材の他の形態を示す斜視図である。 動圧軸受装置の他の形態を示す断面図である。 動圧軸受装置の他の形態を示す断面図である。
符号の説明
1 動圧軸受装置
2 軸部材
7 軸受部材
8 電鋳部
9 保持部
13、23 マスター部材
14 マスキング
15、25 電鋳部材
A ラジアル軸受面
B、C スラスト軸受面
7a1、7a2 動圧溝
R1、R2 ラジアル軸受部
T1、T2 スラスト軸受部
S、S1、S2 シール空間

Claims (5)

  1. 外周面にベース部材に取り付けるための取付け面を有すると共に、内周面にラジアル軸受面を有する軸受部材と、軸受部材の内周に挿入され、軸部およびフランジ部からなる軸部材と、軸受部材のラジアル軸受面と軸部材の外周面との間のラジアル軸受隙間に潤滑流体の動圧作用で圧力を発生させるラジアル動圧発生部とを備え、前記取付け面がベース部材の内周面に嵌合固定される動圧軸受装置において、
    軸受部材が、マスター部材に金属を析出させることにより形成した電鋳部と、電鋳部をインサートして樹脂材料で射出成形され、外周面に前記取付け面を有する保持部とからなり、該保持部が、ラジアル軸受面が設けられた小径内周面を有する円筒状のスリーブ部と、スリーブ部の外径側から軸方向に伸び、大径内周面を有する大径部とを一体に備え、
    小径内周面に電鋳部が配され、電鋳部の析出開始面にラジアル軸受面が設けられていることを特徴とする動圧軸受装置。
  2. 軸受部材が、小径内周面と大径内周面との間に設けられた第一端面を有する請求項1記載の動圧軸受装置。
  3. 軸受部材に、第一端面に開口する軸方向の貫通穴を設けた請求項2記載の動圧軸受装置。
  4. 軸受部材の第一端面に設けられたスラスト軸受面とフランジ部の一方の端面との間のスラスト軸受隙間に、潤滑流体の動圧作用で圧力を発生させるスラスト動圧発生部を有する請求項2記載の動圧軸受装置。
  5. 電鋳部の析出開始面に前記スラスト軸受面が形成された請求項4記載の動圧軸受装置。
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