しかしながら、上記のような従来技術による建設機械においては、操向操作時におけるクラッチ及びブレーキの制御に関しては有効であるものの、走行停止時のブレーキ制御や高負荷作業時のブレーキ及びトランスミッションの制御に関しては、次に述べるような幾つかの問題があり、これらの問題に対しては解決手段が無く、課題として残されていた。なお、以下において説明を簡潔にするため、必要な場合を除いては、操作レバー又はブレーキペダルが、中立又は原点位置にある状態をオフと、同オフからそれぞれが操作された状態をオンという。
(1)建設機械では操作性向上のために、一般的にスロットルレバー47は手を放しても操作位置が保持されるようになっている。このため、オペレータは作業機5の操作に専念することができる。この構成のため従来の建設機械では、次のような問題が発生する。
即ち、例えば、ブルドーザ71において、オペレータが変速レバー46をオン(中立以外の速度段)に操作して、例えば押土作業や地雷の除去作業を行っている途中で、ブレーキペダル45をオン操作して車両の走行速度を減速又は停止しようとする。このとき、走行用動力伝達装置80内において大出力状態(通常、トランスミッション83の減速比が大きい。)となっている横軸84aとブレーキ84bとが競合してしまうことになる。そのため、クラッチやブレーキ84bの発熱及び早期磨耗、走行用動力伝達装置80内におけるシャフト、ギヤ(何れも図示せず。)の破損等の故障が誘発されてしまう危険性が発生する。
(2)変速レバー46による速度段の選択操作は、掘削、運土、整地、等の作業状態に合わせて、オペレータが各速度段を使い分けすることができるようにマニュアルシフトとなっている。この構成のため従来の建設機械では、次のような問題が発生する。
オペレータが変速レバー46を高い速度段に入れて重掘削の押土作業や地雷の除去作業を行っているとき、例えば、地雷の爆発等により作業負荷が過大になった場合でもトランスミッション83が自動的にシフトダウンすることはなく、トルクコンバータ82がスリップ率100%(以下、ストール状態と言う。)の状態となってしまう。
しかし、このストール状態の弊害をオペレータが理解せずに、作業を続行してストール状態をそのまま継続させた状態であったり、又はストール状態の発生を繰り返している状態であると、トルクコンバータ82がオーバヒートを起こしてしまう危険性がある。また、ストール状態により高温に晒された内部流体の劣化を招く危険性が発生する。
(3)ブルドーザ71を停止させる場合に、仮にトランスミッション83のみを中立に切り換えて、ブレーキ84bをオンする(制動をかける)ことを怠ったときには、このときたまたま車両が傾斜地を走行中であれば、トランスミッション83が中立にありブレーキ84bがオフの状態となっているので、車両が傾斜地に沿って不意に下方に移動してしまう危険性が発生する。また、地雷除去作業中に地雷が爆発した場合には、爆風によって車両が後退してしまう事態が発生する。
本発明は上記の問題点に着目してなされたもので、変速レバーとブレーキペダルの連携操作又は変速レバーによる速度段の選択操作が不適切に行われた場合でも、走行用動力伝達装置を適切な状態に作動させることで、走行用動力伝達装置の故障、及びオペレータの操作ミスによる車両の不意な移動を回避することのできる建設機械の制御装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本願発明は、エンジンを搭載し、下部に走行装置を有する車体と、前記車体に取り付けられた作業機と、前記エンジンの動力を前記走行装置に伝達する走行用動力伝達装置と、前記走行用動力伝達装置におけるトランスミッションの減速比を切り換える変速レバーと、走行装置に制動を掛けるブレーキとを備えた建設機械において、
前記走行用動力伝達装置にかかる走行負荷を検出する負荷検出手段と、前記負荷検出手段による検出信号を入力し、入力した前記検出信号に基づいて走行負荷が予め設定した所定値を超えたと判断したときに、前記トランスミッションに対して中立指令を出力するコントローラと、を備えたことを最も主要な特徴となしている。
また、本願発明では、コントローラによる制御時にブレーキを作動させる制御を併せて行うこと、また、負荷検出手段の構成を限定したことを主要な特徴となしている。
更に、本願発明では、コントローラからの制御状態を表示するモニタ装置を設けたことを主要な特徴となしている。
本願発明に係わる建設機械の各制御方法としては、本願発明に係わる建設機械の各制御装置における制御について、その制御方法を限定したことを最も主要な特徴と成している。
本願発明によると、例えば、変速レバーを中立以外の速度段にして走行しつつ地雷の除去作業を行っている途中で、地雷の爆発等に対応するためオペレータがブレーキペダルの踏込み操作のみで走行速度の減速又は走行の停止を行ったとしても、トランスミッションを自動的に中立に戻すことができる。
本願発明によると、オペレータが変速レバーを例えば軽作業に適した高い速度段に入れて重作業を行っている場合でも、トルクコンバータがストール状態になる以前にトランスミッションを自動的に中立にすることができる。即ち、例えば、地雷除去作業中に、地雷の爆発等により作業負荷が過大になった場合でも、トランスミッションを自動的にシフトダウンすることができる。
このため、トルクコンバータのストール状態が継続してしまう事態やストール状態が繰り返し起きてしまう事態を回避することができる。これによって、変速レバーによる速度段の選択操作が不適切な状態で操作された場合でも、トルクコンバータにおけるオーバヒートやトルクコンバータに供給される内部流体が高温に晒されることによる劣化を防止することができる。
また、コントローラからの指令により、トランスミッションを中立に戻したとき、同時にブレーキを作動させて走行装置に制動をかけることもできる。これにより、例えば傾斜地における作業中であっても、トランスミッションが中立になるだけでなくブレーキが作動するので建設機械が傾斜面に沿って自然に下降してしまう危険性が防止できる。
また、例えば、地雷除去作業中に地雷が爆発した場合等であっても、走行用動力伝達装置等に対して過大の負荷が加わるのを防止するとともに、建設機械の走行を停止させることができる。走行を自動停止させることにより、運転席が爆発位置まで移動することが防止され、爆発に伴う爆風、破片等からオペレータを守ることができる。
更に、走行用動力伝達装置の出力軸の回転速度を検出する回転速度センサを、走行用動力伝達装置にかかる負荷を検出する負荷検出手段として用いることができる。即ち、走行用動力伝達装置がトルクコンバータを有する場合には、周知のとおり、エンジンのトルク性能曲線とトルクコンバータの性能曲線とを組合わせて計算したトルクコンバータ出力軸トルク曲線上で、各回転速度におけるトルクとスリップ率を読み取ることができる。
このため、回転速度センサで検出した回転速度を用いることで、その時における走行用動力伝達装置の負荷トルクとトルクコンバータのスリップ率、つまり走行装置にかかる負荷(走行負荷)を容易に検出することができる。これによって、例えばトルクコンバータのスリップ率の許容上限値を予め設定しておき、回転速度センサで得られる回転速度に対応するトルクコンバータのスリップ率が前記許容上限値を超えたときに過負荷と判断することができる。過負荷と判断したときには、トランスミッションを中立に戻す制御を行わせることができる。
また、走行用動力伝達装置がトルクコンバータを有しないダイレクト式の場合には、前記回転速度センサで得られる回転速度によってエンジンの回転速度を容易に算出することができる。従って、エンジンのトルク性能曲線上において、走行用動力伝達装置の負荷すなわち走行負荷を容易に検出することができる。
このことから、エンジンの回転速度の許容範囲を予め設定しておき、例えば最大トルク点以上等の所定値に設定しておき、回転速度センサで検出した回転速度に対応するエンジンの回転速度が最大トルク点よりも低くなったときに、トランスミッションを中立に戻す制御を行わせることができる。エンジンの回転速度が最大トルク点よりも低くなったときにも、エンジンのストップ所謂エンストの回避と燃費の悪化とを防止できる。
本願発明では、モニタ装置を設けることによって、オペレータは、建設機械の制御状態を容易に把握することができる。このため、コントローラからの指令により建設機械が自動制御されてもて、オペレータは戸惑うことがなく次に行うべき操作を迅速に判断することができる。またこのとき、先に行った操作の適否を認識することができる。これによって、建設機械の操作に不慣れなオペレータであっても、建設機械を能率良く操作することができ、またオペレータによる不適切な操作の頻度を減らすことができる。
本願発明に係わる建設機械の各制御方法の発明では、上述した建設機械の制御装置における制御を有効に行わせることができる。即ち、走行用動力伝達装置にかかる走行負荷が予め設定した所定値を超えたときには、トランスミッションを中立にする制御を行わせることができる。
走行用動力伝達装置にかかる走行負荷が予め設定した所定値を超えたときに、トランスミッションを中立にする制御においては、同時にブレーキをオンにして作動させる制御を行わせることもできる。
そして、制御状態をオペレータに知らせる制御を行わせることができる。このように、本願発明では、ブレーキ操作とトランスミッションを切換える変速レバーの操作とが、互いに連動して行われずそれぞれ不適切な状態で操作されたとしても、ブレーキの作動状態とトランスミッションの切換え位置とを連動させた適切な状態となるように制御することができる。従って、建設機械の操作に不慣れなオペレータが建設機械を操作する場合であっても、建設機械を能率良く操作することができ、またオペレータによる不適切な操作の頻度を減らすことができる。
以下に、本願発明に係る建設機械の制御装置及び同制御装置を用いた制御方法の好ましい実施形態について、図1〜図5を参照して詳述する。尚、建設機械としてブルドーザを例に挙げて説明する。
まず、図1、図2により、建設機械の構成要素の説明をする。
図1〜図2において、建設機械1は、車体1aの下部に左右1対の走行装置2,2を備え、車体1aの前方には作業機5を取り付けている。車体1aの前部内側にはエンジン3が搭載され、エンジン3にはエンジン3を制御するエンジンコントローラ3aが取り付けられている。
エンジン3の後部には走行用動力伝達装置10(図3において後述する。)を連結している。エンジン3からの動力は、走行用動力伝達装置10を介して左右1対の走行装置2,2に伝達され、左右1対の走行装置2,2を駆動している。走行用動力伝達装置10の後部には、走行用動力伝達装置10の負荷(すなわち走行装置2,2の負荷)を検出する負荷検出手段51(図3において後述する。)が取り付けられている。
車体1aの後部側上部には運転室4が配設されている。運転室4内には、略中央部に運転席4aが配設され、左寄りにコントローラ40が配設されている。運転室4内で、運転席4aの前方には、駐車ブレーキレバー41、左操向レバー43、右操向レバー44、ブレーキペダル45、スロットルレバー47及びモニタパネル49が、また運転席4aの左側には変速レバー46が夫々配設されている。
次に図3を用いて、上記の各構成要素を用いた建設機械の制御回路を説明する。尚、図3において実細線は油圧経路を示し、破線はパイロット油圧経路、一点鎖線は電気的な操作信号経路、二点鎖線は電気的なフィードバック信号経路、三点鎖線は集合体(ユニット)を表す包囲線をそれぞれ示している。また、以降の制御回路図においても、制御回路図で記載した線の意味は同じようになっている。
図3において、エンジンコントローラ3a(図3の下部に示す。)は、信号経路47aを介してコントローラ40に接続されている。また、走行用動力伝達装置10(図3の下部に示す。)は、動力源としてのエンジン3の出力動力を、PTO11、同PTO11の一動力出力軸に連結したトルクコンバータ12、トランスミッション13、横軸装置16、及び左右の終減速機19,19を経由して左右スプロケット19a,19aに伝達している。左右1対の走行装置2,2に伝達された動力によって、左右1対の走行装置2,2は駆動される。
横軸装置16の後面側には、トランスミッション13の出力軸(図示せず。)の回転速度を検出する回転速度センサ51が取り付けられている。回転速度センサ51は、走行用動力伝達装置10の負荷を検出する負荷検出手段として機能し、信号経路51aを介してコントローラ40に接続している。
また、トランスミッション13には、変速用の油圧ポート15が所定数配設され、油圧ポート15の上には変速弁ユニット14が取付けられている。変速弁ユニット14は、図3の上部側における三点鎖線の枠線14で示している。変速弁ユニット14は、複数の切換弁から構成(詳細は後述する。)され、各切換弁はそれぞれ信号経路46a,46b,46c,46d,46eを介してコントローラ40に接続している。
また、横軸装置16の内部には、トランスミッション13の出力動力を左右の終減速機19,19に分配伝達する横軸16aと、油圧の付加で開放される所謂ネガティブ式のクラッチ17,17及びブレーキ18,18とが配設されている。クラッチ17,17及びブレーキ18,18は、横軸16aと左右の終減速機19,19との間にそれぞれ設けられている。
横軸装置16の上面側の左右には、それぞれクラッチ17及びブレーキ18を操作する油圧ポート17a,18aが設けられている。同左右それぞれの油圧ポート17a,18a上には、それぞれ左右の操向弁ユニット33,34が取付けられている。左右の操向弁ユニット33,34は、図3の中央部における三点鎖線の枠線33.34で示している。左右の操向弁ユニット33,34は、複数の切換弁から構成(詳細は後述する。)され、各操向弁ユニット33,34は、それぞれ信号経路41a,43a,43bと信号経路44a,44bとを介してコントローラに接続している。
また、PTO11には、ポンプ5とポンプ6とが取付けられている。ポンプ5は、変速弁ユニット14及び操向弁ユニット33,34の夫々にパイロット油圧を供給し、ポンプ6は、トランスミッション13、クラッチ17,17、及びブレーキ18,18にそれぞれ操作用油圧を供給する。ポンプ5,6は、それぞれ油圧管路5a,6aを介して変速弁ユニット14と操向弁ユニット33,34とにそれぞれ接続している。
駐車ブレーキレバー41には、同駐車ブレーキレバー41のブレーキオン位置かオフ(ブレーキ解除)位置かを検出する駐車ブレーキ操作検出センサ41sが設けられている。左操向レバー43及び右操向レバー44には、それぞれ左操向レバー43、右操向レバー44が操作されたか否かを検出する左右操向操作検出センサ43s,44sが設けられている。
ブレーキペダル45には、同ブレーキペダル45が踏み込まれている(制動をかける位置)のか否かを検出するブレーキ踏込み検出センサ45sが設けられている。変速レバー46には、同変速レバー46で選択された速度段及び中立を検出する変速レバー位置検出センサ46sが設けられている。更に、スロットルレバー47には、同スロットルレバー47の操作量を検出するスロットル操作量検出センサ47sが設けられている。
これらの駐車ブレーキ操作検出センサ41s、左右操向操作検出センサ43s,44s、ブレーキ踏込み検出センサ45s、及び変速レバー位置検出センサ46sは、例えばリミットスイッチ等により構成されている。また、スロットル操作量検出センサ47sは、例えばポテンショメータ等によって構成されている。
駐車ブレーキ操作検出センサ41s、左右操向操作検出センサ43s,44s、ブレーキ踏込み検出センサ45s、変速レバー位置検出センサ46s、及びスロットル操作量検出センサ47sで検出されたそれぞれの検出信号は、それぞれ信号経路41m,43m,44m,45m,46m,47mを介してコントローラ40に入力される。
モニタパネル49は、コントローラ40の制御状態をオペレータに知らせるためのモニタ装置として設けられている。本実施形態では液晶表示器やプラズマ表示器等のグラフィック表示器又はキャラクタ表示器から構成されている。モニタパネル49は、信号経路49mを介してコントローラ40に接続している。
次に図3〜図4を用いて、前記構成要素の制御機能を説明する。
図3〜図4において、後述する走行自動制御の説明を容易にする目的で、先ずオペレータの操作(以下、マニュアルモードと言う。)による制御機能の説明をする。
駐車ブレーキレバー41を解除方向に操作すると、駐車ブレーキ操作検出センサ41sにより駐車ブレーキレバー41が解除方向に操作されたことを検出する。前記検出した検出信号は、信号経路41mを介してコントローラ40に入力される。コントローラ40は、入力した前記出信号に基づいてブレーキ開放指令を求める。求めたブレーキ開放指令を、信号経路41aを介して操向弁ユニット33のパイロット弁33pに出力する。
これにより、パイロット弁33pは4個のロック弁33q、33q、33q、33qを閉じる。4個のロック弁33q、33q、33q、33qが閉じられることにより、横軸装置16の左側に配設した油圧ポート17a,18aに接続する油圧経路33e、33f、及び横軸装置16の右側に配設した油圧ポート17a,18aに接続する油圧経路34e、34fをそれぞれ常時ドレーンする油圧経路33g、33h、34g、34hが閉じられる。
従って、ポンプ6からの圧油を、ブレーキ弁33d,34d及び油圧管路33f、34fを介してブレーキ18,18に供給することができる。この結果、左右のネガティブ式のクラッチ17,17及びブレーキ18,18が、常時オン状態即ち駐車状態から解除されて、左右のクラッチ17,17はオンとなり、かつブレーキ18,18はオフとなって、建設機械は走行可能状態となる。このとき、以下に述べる操作が可能となる。
左操向レバー43を操作すると、コントローラ40は入力した左操向操作検出センサ43sからの検出信号に基づいて操向指令を求める。求めた操向指令は信号経路43a,43bを介して、操向弁ユニット33のパイロット弁33a,33bに出力される。すると、パイロット弁33a,33bの作動によって、車両左側クラッチ17の操作用のクラッチ弁33c及び車両左側ブレーキ18の操作用のブレーキ弁33dが、それぞれ切換えられて、左クラッチ17をオフ(切断)状態とし、かつ左ブレーキ18をオン(制動)状態とするように圧油制御が行われる。
これによって、建設機械の左方向への操向が可能となる。また、右操向レバー44を操作した場合には、上記と同様にして建設機械の右方向への操向が可能となる。右操向レバー44を操作した場合については、上述した左操向レバー43を操作した場合の説明から容易に類推できるものとして、その説明を省略する。
ブレーキペダル45を踏込み操作すると、ブレーキ踏込み検出センサ45sによりブレーキペダル45が踏込み操作されたことを検出する。検出した検出信号は、コントローラ40に入力される。コントローラ40は入力した前記検出信号に基づいて、ブレーキオン指令を信号経路43b,44bを介して左右の操向弁ユニット33,34におけるパイロット弁33b,34bに出力する。これにより、パイロット弁33b,34bが切換えられて、引き続きブレーキ弁33d,34dの切り換えが行われ、左右のブレーキ18,18がオン(制動)状態となる。
また変速レバー46を操作すると、変速レバー位置検出センサ46sにより検出した変速信号がコントローラ40に入力される。コントローラ40は入力した前記変速信号に対応した変速指令を作成し、信号経路46a,46b,46c,46d,46eを介して変速弁ユニット14におけるパイロット弁14a,14b,14c,14d,14eにそれぞれ出力する。これによって、各パイロット弁14a,14b,14c,14d,14eが制御されて、それぞれ前進弁14f、後進弁14g、1速弁14h、2速弁14j、3速弁14kが選択的に操作されることになる。これにより、トランスミッション13の中立、発進、変速の各制御を行うことができる。
そして、スロットルレバー47を操作すると、スロットル操作量検出センサ47sにより検出した操作量信号がコントローラ40に入力される。コントローラ40は入力した前記操作量信号に対応した燃料噴射量指令を作成し、信号経路47aを介して前記燃料噴射量指令をエンジンコントローラ3aに出力する。エンジンコントローラ3aは入力した燃料噴射量指令に基づき燃料噴射量を制御する。これによって、エンジン3の回転速度を制御することができる。
次に、図4に基づいて、コントローラ40による制御機能の概要説明を行う。コントローラ40は、例えばマイクロコンピュータ等の演算装置を主体として構成されている。詳細な制御手順は後述するが、コントローラ40は、入力した変速レバー位置検出センサ46sの検出信号及びブレーキ踏込み検出センサ45sの検出信号に基づいて次のような判断を行い、同判断に基づいた制御を行う。
即ち、変速レバー46が中立以外の速度段に、かつブレーキペダル45が踏み込まれた状態にそれぞれ操作されているものとコントローラ40が判断したときには、変速弁ユニット14に対してトランスミッション13を中立にする指令を出力する。これにより、走行用動力伝達装置10に加わる過負荷とそれによる破損とを防ぐことができる。また、コントローラ40の行った上述の制御の状態をモニタパネル49に表示させる。これにより、モニタパネル49を見たオペレータの判断を待つことができるようになっている。
また、コントローラ40は、変速レバー46が中立に操作され、かつブレーキペダル45が解除された状態になっていると判断したときには、パイロット弁33b,34bを介してブレーキ弁33d,34dに対してブレーキオン指令を出力する。これにより、ブレーキ操作の遅れによって、例えば、傾斜地にある車両の下降を防ぐと共に、コントローラ40の行った上述の制御の状態をモニタパネル49に表示させる。これにより、オペレータの判断を待つことができるようになっている。
さらにコントローラ40は、入力した回転速度センサ51の検出信号に基づいて、走行用動力伝達装置10の負荷とそれによるトルクコンバータ12のスベリ率を求めることができる。例えば、オペレータが変速レバー46を高速段に入れた状態で、押土作業や地雷の除去作業を行っており、地雷の爆発等により走行用動力伝達装置10に高負荷が加わり、トルクコンバータ12における前記求めたスベリ率が例えば90%以上即ちストールに近い状態になったとコントローラ40が判断したときには、コントローラ40は、変速弁ユニット14に対して中立の指令を出力するとともに、ブレーキ弁33d,34dに対してブレーキオンの指令を出力する。
これによって、トルクコンバータ12におけるオーバヒートやトルクコンバータ12に対する作動油の内部劣化を防止することができる。また、コントローラ40は、上記の行った制御の状態をモニタパネル49に表示させ、オペレータに対して変速レバー46のシフトダウンを促すようにすることができる。
次に、図5に示す制御フローチャートに基づいて、コントローラ40の制御手順を詳細に説明する。尚、制御の初期状態として、ステップS0において、エンジン3は稼動中であって、駐車ブレーキレバー41はオン(制動)しているものとする。
まず、ステップS1において、駐車ブレーキレバー41が解除されたか否かの判断を行う。駐車ブレーキレバー41が解除されていないと判断したときには、ステップS1に戻り、前記の判断を繰り返して行い、駐車ブレーキレバー41が解除されるまで待つ。駐車ブレーキレバー41が解除されているものと判断したときには、ステップS2に移る。
ステップS2では、操向弁ユニット33,34におけるパイロット弁33pに対して駐車ブレーキ解除指令を出力して、4個のロック弁33qを遮断する。これにより、ブレーキ弁33d,34d及びクラッチ弁33c,34cの作動を可能とする。次にステップS3に移る。
ステップS3では、変速レバー46が中立か否かの判断を行う。変速レバー46が中立のときには、ステップS11に移る。ステップS11では、パイロット弁33b,34bを介してブレーキ弁33d,34dにブレーキオン指令を出力して、ブレーキ18,18を作動させて車両に対して制動をかけ、車両の移動を防止する。
次にステップS12に移り、ブレーキペダル45が踏み込まれているか否かの判断を行う。ブレーキペダル45が踏み込まれていればステップS1へ戻って以上の処理を繰り返して行う。ブレーキペダル45が踏み込まれていないときには、ステップS13に移る。
ステップS13では、モニタパネル49(モニタ装置)に対して、例えば、図6に示す如く、「ブレーキ18をオンして待機中であり、変速レバー46での速度段選択操作を待っている」旨の制御状態を表示する。これによって、オペレータに対して自動制動中であることを知らせることができる。その後、ステップS1に戻って、以上の処理を繰り返す。
なお、仮に、ステップS0において、駐車ブレーキレバー41の掛け忘れによってオフ
(ブレーキが解除されている状態)の場合であっても、ステップS1,S2を経てステップS3において、変速レバー46が中立であると判断されたときには、ステップS11に移って自動的にブレーキ18をオンにすることができる。
ステップS3において、変速レバー46が中立以外の速度段に選択されている場合には、次にステップS21に移る。ステップS21では、ブレーキペダル45が解放されているか否かの判断を行う。ブレーキペダル45が解放されていない(踏み込まれている)場合には、ステップS22に移る。
ステップS22では、変速弁ユニット14に対して中立の指令を出力し、パイロット弁33b,34bを制御して、ブレーキ弁33d,34dに対してブレーキオン指令を出力する。これにより、走行用動力伝達装置10に過負荷が加わるのを防止することができる。更に、モニタパネル49に対して、例えば図7に示すように、「変速レバー46の選択速度段に基づく変速制御の実行を留保していて、ブレーキペダル45が放されるのを待っている」旨の制御状態を表示する。その後ステップS3に戻る。ステップS3において、変速レバー46が中立に戻されるか、又はステップS21でブレーキペダル45が放されるのを待つ。
ステップS21において、ブレーキペダル45が放されているときには、ステップS31に移る。ステップS31では、パイロット弁33b,34bを介してブレーキ弁33d,34dに対してブレーキオフ指令を出力し、変速弁ユニット14に対して、変速レバー46で選択している速度段への変速指令を出力する。また、モニタパネル49に対する前記制御状態の表示を消す。
その後、ステップS32に移って、作業の続行を行う。次いで、ステップS33に移り、走行用動力伝達装置10の負荷(以下、単に走行負荷と言う。)が所定の許容値以下か否かの判定を行う。
ここで、上記ステップS33における走行負荷の許容合否の判定は、次にようにして行われる。即ち、まず、回転速度センサ51で検出した回転速度(トランスミッション13の出力軸の回転速度)を、その時における変速弁ユニット14に対して指令している速度段でのトランスミッション13の減速比を用いて、トルクコンバータ12の出力軸での回転速度に置換えた値(以下、等価回転速度と言う。)に変換する。
次に、エンジン3のトルク性能曲線とトルクコンバータ12の性能曲線とを組合わせて予め計算したトルクコンバータ出力軸トルク曲線を用いて、前記求めた等価回転速度におけるトルクとスリップ率とを求める。求めたスリップ率が、所定許容範囲の上限値、即ちスリップ継続が行われても、同スリップ継続を許容できるものとして予め設定したスリップ率の上限値よりも低いか否かの判定を行っている。
なお、正確には、前記トルクコンバータ出力軸トルク曲線は、エンジン3のスロットル開度をパラメータにして、所定スロットル開度毎に対応したトルクコンバータ出力軸トルク曲線のデータとして、コントローラ40内の記憶部(例えば、ROM、RAM等で構成される。図示せず。)に記憶しておいたものである。これにより、オペレータが仮にスロットルレバー47を全開にしない状態で作業を行った場合でも、その時のスロットル開度に応じて上述したと同様にして等価回転速度に基づいてスリップ率を正しく求めることができる。
ステップS33において、走行負荷が予め設定した上限値以下(適正)であると判断したときには、ステップS1に戻って以上の処理を繰り返すことになる。走行負荷が予め設定した上限値以上(過大)であると判断したときには、ステップS34に移る。
ステップS34では、変速レバー位置検出センサ46sで検出した変速信号に基づいて、変速レバー46がシフトダウンされたか否かの判断を行う。シフトダウンされなかったときには、ステップS35に移る。ステップS35では、変速弁ユニット14に対してトランスミッション13の中立指令を出力し、パイロット弁33b,34bを介してブレーキ弁33d,34dに対してブレーキオン指令を出力する。
これにより、車両の移動を防止する。また、モニタパネル49に対して、例えば図8に示すように、「トルクコンバータ12の過熱防止の目的で変速レバー46の選択速度段での変速実行を留保しており、変速レバー46のシフトダウンを待っている」旨の制御状態の表示をする。その後、ステップS34に戻って、オペレータによりシフトダウンされるのを待つ。ステップS34において、シフトダウンが行われたときには、ステップS31に戻って、以上の処理を繰り返す。
なお、ステップS34において、変速レバー46が操作されて1速までシフトダウンされた場合には、建設機械は一般的に1速においては走行装置2がスリップするまでの大きな牽引力を有するように1速の減速比が設定されているので、トルクコンバータ12がストールに近い状態となることはない。このため、1速の状態で再度ステップS34に至ることはない。
従って、ステップS34とステップS35とによるループ状態から抜け出せない事態は生じない。また、1速の状態でも走行装置2がスリップする場合には、オペレータは状況を目で確認することができるので、作業機5の負荷を軽減する以外の解決方法を選択することができる。
図5に示した制御手順において、コントローラ40は、変速レバー46が中立にあるときに、ブレーキペダル45も解放された状態であれば、ブレーキ18,18を自動的にオン(制動)にする制御を行う。即ち、例えば車両が傾斜地にあったとしたとき、変速レバー46が中立でブレーキペダル45が開放されていれば、車両は傾斜地の斜面に沿って自動的に降下してしまうが、ステップS11〜S13によってブレーキ18,18が自動的にオン(制動)されるので、車両が降下してしまうのを防止することができる。
また、例えば、建設機械が地雷の除去作業を行っている場合に、地雷の爆発が生じた場合などにおいても、変速レバー46が中立でブレーキペダル45が開放されていれば、爆風によって車両が後退してしまう事態が発生するが、ブレーキ18,18が自動的にオン(制動)されるので、このような事態の発生を防止することができる。
コントローラ40は、変速レバー46が中立以外の速度段に選択されているときに、ブレーキペダル45の踏み込み操作がされていれば、トランスミッション13を自動的に中立に制御する。これにより、例えば、建設機械が地雷の除去作業を行っている場合に、地雷の爆発が生じた場合などにおいても、ステップS21〜S22によってトランスミッション13を中立にすることができる。このため、トランスミッション13が中立になっていないときには地雷の爆発によって走行用動力伝達装置10に過負荷が加わってしまうが、トランスミッション13を中立にしているので過負荷が走行用動力伝達装置10に加わるのを防止できる。
また、コントローラ40が、トルクコンバータ12がストールに近い状態で使用されていることを判断したときには、コントローラ40は、ステップS31〜S36によってトランスミッション13を自動的に中立に戻るように制御するので、トルクコンバータ12が過熱するのを防止することができる。
このように本願発明では、変速レバー46とブレーキペダル45との間での連携操作、又は変速レバー46による速度選択操作が不適切に操作された場合であっても、走行用動力伝達装置10を適切な状態に作動させることができ、走行用動力伝達装置10の故障を防止できる。
なお、上記実施形態では、オペレータに対してコントローラ40の制御状態を知らせるモニタ装置としてのモニタパネル49での表示内容を、図6〜図8で例示したように文字によるメッセージ表示としている。しかし、モニタパネル49における表示内容は例示した文字による表示に限定されるものではない。例えば、ランプを点灯又は点滅させること、数種類のアラームメッセージ毎に対応して配した複数のLED(発光ダイオード)を選択的に点灯又は点滅させることなど、他の公知の表示方法を用いることもできる。また、モニタ装置としては、音声や警報等によってオペレータに制御状態を知らせることも、またこれらの表示方法を適宜組み合わせて用いることもできる。
なおまた、走行用動力伝達装置10の負荷を検出する負荷検出手段として、トランスミッション13の出力軸回転速度を検出する回転速度センサ51を用いているが、負荷検出手段としては、回転速度センサ51に限定されるものではない。例えば、CCD等の撮像素子を車両の所定箇所に配設しておき、画像処理によって車両の対地速度を検出する検出手段を用いたり、超音波距離計を用いて対地速度を検出する検出手段を用いたりして、車両の対地速度を検出し、検出した対地速度とエンジン3のスロットル開度とを比較することによって、走行用動力伝達装置10の負荷を検出するように構成することもできる。
なおさらに、走行負荷が過大か否かの判定において、トルクコンバータ12のスリップ率を用いているが、これに限定されるものではない。例えば、トルクコンバータ12を有しない走行用動力伝達装置においては、エンジン回転速度又はエンジンの負荷トルク等を用いて走行負荷の過大についての判断を行うこともできる。
以上はブルドーザを例にとって、本願発明に係わる実施形態について説明を行ったが、本願発明の適用は、ブルドーザに限定されるものではなく限ることなく、他の、エンジンと、ブレーキを含む走行用動力伝達装置とを備えた建設機械に対しても普遍的に上記と同様に実施することが可能であり、上記と同様の作用効果を奏し得るものである。