以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態の構成を示す概略図である。図示されるように、内燃機関1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストン4を往復移動させることにより動力を発生する。内燃機関1は車両用多気筒エンジン(1気筒のみ図示)であり、火花点火式内燃機関、より具体的にはガソリンエンジンである。
内燃機関1のシリンダヘッドには、吸気ポートを開閉する吸気弁Viと、排気ポートを開閉する排気弁Veとが気筒ごとに配設されている。各吸気弁Viおよび各排気弁Veは図示しないカムシャフトによって開閉させられる。また、シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。さらにシリンダヘッドにはインジェクタ(燃料噴射弁)12が気筒ごとに配設され、燃焼室3内に直接燃料噴射するようになっている。ピストン4はいわゆる深皿頂面型に構成されており、その上面には凹部4aが形成されている。そして内燃機関1では、燃焼室3内に空気を吸入させた状態で、インジェクタ12からピストン4の凹部4aに向けて燃料が直接噴射される。これにより点火プラグ7の近傍に、燃料と空気との混合気の層が周囲の空気層と分離された状態で形成(成層化)され、安定した成層燃焼が実行される。
各気筒の吸気ポートは気筒毎の枝管を介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気集合通路をなす吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、吸入空気量を検出するためのエアフローメータ5と、電子制御式スロットルバルブ10とが組み込まれている。なお吸気ポート、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
一方、各気筒の排気ポートは気筒毎の枝管を介して排気集合通路をなす排気管6に接続されており、排気管6には、O2ストレージ機能を有する三元触媒からなる触媒11が取り付けられている。なお排気ポート、枝管及び排気管6により排気通路が形成される。触媒11の上流側と下流側とにそれぞれ排気空燃比を検出するための触媒前センサ及び触媒後センサ17,18が設置されている。触媒前センサ17は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能で、その空燃比に比例した電流信号を出力する。他方、触媒後センサ18は所謂O2センサからなり、理論空燃比を境に出力電圧が急変する特性を持つ。
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、触媒前センサ17、触媒後センサ18のほか、内燃機関1のクランク角を検出するクランク角センサ14、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、スロットルバルブ10の開度を検出するスロットル開度センサ19、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、スロットルバルブ10、インジェクタ12等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。なおスロットル開度は通常アクセル開度に応じた開度に制御される。
触媒11は、これに流入する排気ガスの空燃比A/Fが理論空燃比(ストイキ)A/Fs(例えば14.6)のときにNOx ,HCおよびCOを同時に浄化する。そしてこれに対応して、ECU20は、内燃機関の通常運転時、触媒上流側の排気空燃比即ち触媒前空燃比A/Ffrが理論空燃比A/Fsになるように空燃比を制御する。具体的にはECU20は、理論空燃比A/Fsに等しい目標空燃比A/Ftを設定すると共に、触媒前センサ17により検出された触媒前空燃比A/Ffrが目標空燃比A/Ftに一致するように、インジェクタ12から噴射される燃料噴射量を制御する。これにより触媒11に流入する排気ガスの空燃比は理論空燃比近傍に保たれ、触媒11において最大の浄化性能が発揮されるようになる。
ここで、触媒11についてより詳細に説明する。図2に示すように、触媒11においては、図示しない担体基材の表面上にコート材31が被覆され、このコート材31に微粒子状の触媒成分32が多数分散配置された状態で保持され、触媒11内部で露出されている。触媒成分32は主にPt,Pd等の貴金属からなり、NOx ,HCおよびCOといった排ガス成分を反応させる際の活性点となる。他方、コート材31は、排気ガスと触媒成分32との界面における反応を促進させる助触媒の役割を担うと共に、雰囲気ガスの空燃比に応じて酸素を吸収放出可能な酸素吸蔵成分を含む。酸素吸蔵成分は例えば二酸化セリウムCeO2からなる。例えば、触媒成分32及びコート材31の雰囲気ガスが理論空燃比A/Fsよりリッチであると、触媒成分32の周囲に存在する酸素吸蔵成分に吸蔵されていた酸素が放出され、この結果、放出された酸素によりHCおよびCOといった未燃成分が酸化され、浄化される。逆に、触媒成分32及びコート材31の雰囲気ガスが理論空燃比A/Fsよりリーンであると、触媒成分32の周囲に存在する酸素吸蔵成分が雰囲気ガスから酸素を吸収し、この結果NOxが還元浄化される。
このような酸素吸放出作用により、通常の空燃比制御の際に触媒前空燃比A/Ffrが理論空燃比A/Fsに対し多少ばらついたとしても、NOx、HCおよびCOといった三つの排気ガス成分を同時浄化することができる。よって通常の空燃比制御において、触媒前空燃比A/Ffrを敢えて理論空燃比A/Fsを中心に微小振動させ、酸素の吸放出を繰り返させることにより排ガス浄化を行うことも可能である。
ところで、新品状態の触媒11では前述したように細かい粒子状の触媒成分32が多数均等に分散配置されており、排気ガスと触媒成分32との接触確率が高い状態に維持されている。しかしながら、触媒11が劣化してくると、一部の触媒成分32に消失が見られるほか、触媒成分32同士が排気熱で焼き固まって焼結状態になるものがある(図の破線参照)。こうなると排気ガスと触媒成分32との接触確率の低下を引き起こし、浄化率を落としめる原因となる。そしてこのほかに、触媒成分32の周囲に存在するコート材31の量、即ち酸素吸蔵成分の量が減少し、酸素吸蔵能自体が低下する。
このように、触媒11の劣化度と触媒11の持つ酸素吸蔵能の低下度とは相関関係にある。そこで本実施形態では、触媒11の酸素吸蔵能を検出することにより触媒11の劣化度を検出ないし判定することとしている。ここで、触媒11の酸素吸蔵能は、触媒11が吸蔵し得る酸素量である酸素吸蔵容量(OSC;O2 Storage Capacity、単位はg)の大きさによって表される。
以下、本実施形態における触媒の劣化検出について説明する。
本実施形態では、触媒11の劣化検出の際にECU20によるアクティブ空燃比制御が実行される。ここでアクティブ空燃比制御とは、触媒上流側の排気空燃比である触媒前空燃比A/Ffrを、所定のリッチ空燃比A/Frとリーン空燃比A/Flとの一方から他方に所定のタイミングで強制的に切り替える(或いは反転させる)制御である。
ここで触媒11の劣化検出は、内燃機関1の定常運転時で且つ触媒11が所定の活性温度域にあるときに実行される。触媒11の温度は、直接検出してもよいが、本実施形態の場合それをエンジン運転状態に基づき所定のマップ又は関数を用いて推定するようにしている。触媒11の劣化検出はエンジンの1運転毎に1回実行され、少なくとも続けて2回、触媒11が劣化状態にあると判定されたときに触媒11の最終的な劣化が検出され、警告装置が作動させられる。
図3(A),(B)にはそれぞれ、アクティブ空燃比制御実行時における触媒前センサ17及び触媒後センサ18の出力が実線で示されている。また、図3(A)には、ECU20の内部値である目標空燃比A/Ftが破線で示されている。触媒前センサ17及び触媒後センサ18の出力はそれぞれ触媒前空燃比A/Ffr及び触媒後空燃比A/Frrを表す。
図3(A)に示されるように、目標空燃比A/Ftは、中心空燃比としての理論空燃比A/Fsを中心として、そこからリッチ側に所定の振幅(リッチ振幅Ar、Ar>0)だけ離れた空燃比(リッチ空燃比A/Fr)と、そこからリーン側に所定の振幅(リーン振幅Al、Al>0)だけ離れた空燃比(リーン空燃比A/Fl)とに強制的に、且つ交互に切り替えられる。そしてこの目標空燃比A/Ftの切り替えないし振動に追従するようにして、実際値としての触媒前空燃比A/Ffrも、目標空燃比A/Ftに対し僅かな時間遅れを伴って切り替わる。よって触媒前空燃比A/Ffrも目標空燃比A/Ftと同様にリッチ空燃比A/Frとリーン空燃比A/Flとに強制的に且つ交互に切り替えられる。このことから目標空燃比A/Ftと触媒前空燃比A/Ffrとは時間遅れがあること以外等価であることが理解されよう。
図示例においてリッチ振幅Arとリーン振幅Alとは等しい。例えば理論空燃比A/Fs=14.6、リッチ空燃比A/Fr=14.1、リーン空燃比A/Fl=15.1、リッチ振幅Ar=リーン振幅Al=0.5である。通常の空燃比制御の場合に比べ、アクティブ空燃比制御の場合は空燃比の振り幅が大きく、即ちリッチ振幅Arとリーン振幅Alとの値は大きい。
ところで、目標空燃比A/Ftが切り替えられるタイミングは、触媒後センサ18の出力がリッチからリーンに、又はリーンからリッチに切り替わるタイミングである。ここで図示されるように触媒後センサ18の出力電圧は理論空燃比A/Fsを境に急変し、触媒後空燃比A/Frrが理論空燃比A/Fsより小さいリッチ側の空燃比であるときその出力電圧がリッチ判定値VR以上となり、触媒後空燃比A/Frrが理論空燃比A/Fsより大きいリーン側の空燃比であるときその出力電圧がリーン判定値VL以下となる。ここでVR>VLであり、例えばVR=0.59(V)、VL=0.21(V)である。
図3(A),(B)に示されるように、触媒後センサ18の出力電圧がリッチ側の値からリーン側に変化してリーン判定値VLに等しくなった時(時刻t1)、目標空燃比A/Ftはリーン空燃比A/Flからリッチ空燃比A/Frに切り替えられる。その後、触媒後センサ18の出力電圧がリーン側の値からリッチ側に変化してリッチ判定値VRに等しくなった時(時刻t2)、目標空燃比A/Ftはリッチ空燃比A/Frからリーン空燃比A/Flに切り替えられる。
このように、触媒後センサ18の出力値が反転してリッチ判定値VR又はリーン判定値VLに達したと同時に目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Fl又はリッチ空燃比A/Frに強制的に切り替えられる。
このアクティブ空燃比制御を実行しつつ、次のようにして触媒11の酸素吸蔵容量OSCが算出され、触媒11の劣化が判定される。
図3を参照して、時刻t1より前では目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flとされ、触媒11にはリーンガスが流入されている。このとき触媒11では酸素を吸収し続けているが、一杯に酸素を吸収した時点でそれ以上酸素を吸収できなくなり、リーンガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後空燃比A/Frrがリーン側に変化し、触媒後センサ18の出力電圧がリーン判定値VLに達した時点(t1)で、目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられ、或いは反転される。このように目標空燃比A/Ftは触媒後センサ18の出力をトリガにして反転される。
そして今度は触媒11にリッチガスが流入されることとなる。このとき触媒11では、それまで吸蔵されていた酸素が放出され続ける。よって触媒11の下流側にはほぼ理論空燃比A/Fsの排気ガスが流出し、触媒後空燃比A/Frrがリッチにならないことから、触媒後センサ18の出力は反転しない。触媒11から酸素が放出され続けるとやがて触媒11からは全ての吸蔵酸素が放出され尽くし、その時点でそれ以上酸素を放出できなくなり、リッチガスが触媒11を通り抜けて触媒11の下流側に流れ出す。こうなると触媒後空燃比A/Frrがリッチ側に変化し、触媒後センサ18の出力電圧がリッチ判定値VRに達した時点(t2)で、目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flに切り替えられる。
酸素吸蔵容量OSCが大きいほど、酸素を吸収或いは放出し続けることのできる時間が長くなる。つまり、触媒が劣化していない場合は目標空燃比A/Ftの反転周期(例えばt1からt2までの時間)が長くなり、触媒の劣化が進むほど目標空燃比A/Ftの反転周期は短くなる。
そこで、このことを利用して酸素吸蔵容量OSCが以下のようにして算出される。図4に示すように、時刻t1で目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられた直後、僅かに遅れて実際値としての触媒前空燃比A/Ffrがリッチ空燃比A/Frに切り替わる。そして触媒前空燃比A/Ffrが理論空燃比A/Fsに達した時点t11から、次に目標空燃比A/Ftが反転する時点t2まで、次式(1)により微小時間毎の酸素吸蔵容量dCが算出され、且つこの微小時間毎の酸素吸蔵容量dCが時刻t11から時刻t2まで積分される。こうしてこの酸素放出サイクルにおける酸素吸蔵容量OSC1即ち放出酸素量が算出される。
ここで、Qは燃料噴射量であり、空燃比差ΔA/Fに燃料噴射量Qを乗じると過剰分の空気量を算出できる。Kは空気に含まれる酸素割合(約0.23)である。
基本的には、この1回で算出された酸素吸蔵容量OSC1を用い、これを所定のしきい値(触媒劣化判定しきい値)と比較し、酸素吸蔵容量OSC1がしきい値を超えていれば正常、酸素吸蔵容量OSC1がしきい値以下ならば劣化、というように触媒の劣化を判定できる。しかしながら、本実施形態では精度を向上させるため、リーン側でも同様に酸素吸蔵容量(この場合酸素吸収量)を算出し、必要に応じてリッチ側とリーン側とで複数回算出を繰り返し、その平均値をしきい値と比較して最終的な劣化判定を行っている。
具体的には、図4に示すように、時刻t2で目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flに切り替えられた後、前式(1)により微小時間毎の酸素吸蔵容量dCが算出され、且つこの微小時間毎の酸素吸蔵容量dCが、触媒前空燃比A/Ffrが理論空燃比A/Fsに達した時点t21から、次に目標空燃比A/Ftがリッチ側に反転する時点t3まで積分される。こうしてこの酸素吸収サイクルにおける酸素吸蔵容量OSC2即ち吸収酸素量が算出される。前回サイクルの酸素吸蔵容量OSC1と今回サイクルの酸素吸蔵容量OSC2とはほぼ等しい値となるはずである。こうして複数の酸素吸蔵容量OSC1,OSC2,・・・OSCn(例えばnは5以上)が繰り返し算出され、その平均値OCSavが所定のしきい値OSCsと比較される。そして、平均値OCSavがしきい値OSCsを超えていれば触媒11は正常、平均値OCSavがしきい値OSCs以下ならば触媒11は劣化と判定される。
なお、車両の走行距離等、触媒劣化度に相関する値に応じて酸素吸蔵容量OSCの算出回数nを変化させてもよい。例えば走行距離が比較的少なく明らかに劣化が相当程度進んでいないと想定できる場合はnを少ない値とし、走行距離が比較的多く劣化が相当程度進んでいる可能性のある場合はnを多い値とする。
さて、上述のアクティブ空燃比制御においては、触媒後センサ18の出力電圧がリーン側に反転してリーン判定値VLに達したと同時に(図3のt1)目標空燃比A/Ftがリッチ空燃比A/Frに切り替えられ、触媒後センサ18の出力電圧がリッチ側に反転してリッチ判定値VRに達したと同時に(図3のt2)目標空燃比A/Ftがリーン空燃比A/Flに切り替えられる。つまり、目標空燃比A/Ftの反転は触媒後センサ18の出力が反転するタイミングで行われる。
一方、内燃機関始動後の一定期間内では、燃焼される混合気の空燃比がリッチであることや排気ガス温度が低温であることなどに起因して、排気ガス中のHC,COといったリッチ成分(或いは未燃成分)が触媒11自体及び触媒前後のセンサ17,18に付着する傾向にある。特に、触媒11の下流側では、排気ガスの熱が既に上流側の排気管や触媒11に奪われてしまっていることから、排気温度が低く、触媒前センサ17よりもむしろ触媒後センサ18の方が活性が遅れる傾向にあり、リッチ成分の付着が著しい。このように触媒前後のセンサ17,18、特に触媒後センサ18にリッチ成分が付着すると、センサ出力が不安定となり、当該センサから正常な出力を行えなくなる。そして、かかるセンサ出力に基づいて触媒の劣化検出を行うと誤検出に至る可能性もある。例えば、触媒後センサ18に付着したリッチ成分の影響で目標空燃比A/Ftの反転タイミングにぶれが生じ、算出される酸素吸蔵容量の値が不正確な値となる可能性がある。
そこで、このような問題を回避するため、本実施形態では、内燃機関始動後の所定期間内に触媒の劣化検出を実行するときには、その実行前に、触媒上流側の排気空燃比(触媒前空燃比A/Ffr)を顕著なリーンとするような所定運転状態があったことを条件として劣化検出を実行することとしている。即ち、本実施形態は、内燃機関始動後の所定期間内に触媒の劣化検出を実行する際の前提条件に関するものである。
以下、本実施形態の触媒劣化検出制御の第1の形態を図5に基づいて説明する。同図に示される触媒劣化検出制御の実行ルーチンはECU20により所定の微小時間(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
まずステップS101において、触媒劣化検出制御の基本実行条件が成立しているか否かが判断される。この基本実行条件とは例えば、1)内燃機関1が定常運転状態にあること、2)触媒11の温度が所定の活性温度域にあること、のいずれをも満たすことである。基本実行条件が成立していない場合には本ルーチンが終了され、他方、基本実行条件が成立している場合にはステップS102に進む。
ステップS102においては、内燃機関始動時から現時点までの期間である始動後期間が所定期間と比較される。ここで始動後期間はECU20に装備されたタイマ等により計測され、他方、所定期間は、触媒後センサ18が所定の活性温度域に達するような期間(例えば数分程度の値)として予め設定され、ECU20に入力されている。
始動後期間が所定期間未満でないとき、即ち所定期間以上であるときは、触媒後センサ18が所定の活性温度域に達しているとみなされ、ステップS104に進んで前述の如き触媒劣化検出が実行される。即ち、アクティブ空燃比制御の実行、触媒の酸素吸蔵容量OSCの算出、算出された酸素吸蔵容量OSCと触媒劣化判定しきい値との比較という行程を順次経て、触媒の正常・劣化が判断される。ステップS104の実行後、本ルーチンが終了される。
他方、始動後期間が所定期間未満であるときは、触媒後センサ18が所定の活性温度域に達していないとみなされ、ステップS103に進んで、内燃機関の始動時から現時点までの間に、燃料噴射を停止するフューエルカット(F/C)が実行された履歴があるか否かを判断する。フューエルカットにより触媒前空燃比A/Ffrが実質的に無限大の値となるので、このフューエルカットが前述したような、触媒前空燃比A/Ffrを顕著なリーンとするような所定運転状態に相当する。なおここで「触媒前空燃比A/Ffrを顕著なリーンにする」とは、触媒前空燃比A/Ffrを、通常の空燃比制御時のリーン空燃比(即ち、理論空燃比より僅かにリーン側にずれた空燃比)よりもさらにリーン側の空燃比とすることをいう。フューエルカットは例えば、1)アクセル開度センサ15によって検出されたアクセル開度が略全閉であること、2)クランク角センサ14の出力に基づいて計算されるエンジン回転速度がアイドル速度より若干高い所定速度以上であること、の二条件を満たしたときに実行される。
フューエルカット履歴がある場合はステップS104に進んで前記同様に触媒劣化検出が実行される。他方、フューエルカット履歴がない場合はステップS105に進んで触媒劣化検出が実行されずに本ルーチンが終了される。
この触媒劣化検出制御の第1の形態によれば、始動後期間が所定期間未満の場合、即ち触媒後センサ18が所定の活性温度域に達していないような機関始動後から短期間の場合(ステップS102:YES)であっても、以前のフューエルカット履歴がある場合(ステップS103:YES)には、触媒劣化検出が実行される。
触媒後センサ18が所定の活性温度域に達していないような機関始動後から短期間の間は触媒劣化検出を実行しないのが一般的であるが、本実施形態では、触媒劣化検出の実行の機会を可能な限り確保するため、触媒温度が活性温度域に入って基本実行条件が成立すれば(ステップS101:YES)、触媒劣化検出を基本的に実行可としている。但し、このような短期間の間では燃焼の安定化のため空燃比がリッチとなっていることが多く、排気ガス温度も低温なので、排気ガス中にリッチ成分(HC,CO)が多く含まれ、且つこのリッチ成分が触媒後センサ18に付着して触媒後センサ18の出力を不安定にさせる。
しかしながら、この場合にもフューエルカット履歴があることを条件に触媒劣化検出を実行するので、かかる問題が解消される。即ち、フューエルカットによって空気或いは新気が排気通路を流れるようになり、この空気を、触媒後センサ18に付着したリッチ成分と化学的に反応(特に燃焼反応)させ、リッチ成分を消失させることができる。また、空気により触媒後センサ18に付着したリッチ成分を物理的にも吹き飛ばすことができる。これによってリッチ成分をパージすると共に触媒後センサ18をリフレッシュすることができ、リッチ成分の影響を無くして触媒後センサ18の出力を安定化させ、触媒後センサ18にリッチ成分が付着した状態で劣化検出がなされることを防止することができる。そして、そのようなリッチ成分付着に起因する誤検出をも防止し、触媒劣化検出の精度を高めることができる。
加えて、フューエルカットによる新気流通により、触媒前センサ17に付着したリッチ成分をも化学的、物理的に消失させることができる。これにより触媒前センサ17についても触媒後センサ18についてと同様な利益を得ることができる。
次に、本実施形態の触媒劣化検出制御の第2の形態を図6に基づいて説明する。同図に示される触媒劣化検出制御の実行ルーチンもECU20により所定の微小時間(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
まずステップS201において、前記ステップS101と同様、触媒劣化検出制御の基本実行条件が成立しているか否かが判断される。そして次のステップS202においては、前記ステップS102と同様、始動後期間が所定期間と比較される。
始動後期間が所定期間未満でないとき(即ち所定期間以上であるとき)は、触媒後センサ18が所定の活性温度域に達しているとみなされ、ステップS204に進んで前記ステップS104と同様に触媒劣化検出が実行され、本ルーチンが終了される。
他方、始動後期間が所定期間未満であるときは、触媒後センサ18が所定の活性温度域に達していないとみなされ、ステップS203に進んで前記ステップS103と同様、内燃機関始動時から現時点までの間のフューエルカット履歴があるか否かが判断される。
フューエルカット履歴がある場合はステップS204に進んで前記同様に触媒劣化検出が実行される。他方、フューエルカット履歴がない場合はステップS205に進んでリーンスパイク許可条件が成立しているか否かが判断され、リーンスパイク許可条件が成立している場合は、ステップS206にてリーンスパイクが実行された後、ステップS204に進んで触媒劣化検出が実行される。他方、リーンスパイク許可条件が成立していない場合は、ステップS207に進んで、触媒劣化検出が実行されずに、本ルーチンが終了される。
この第2の形態では、第1の形態のようにフューエルカット履歴が無い場合に直ちに触媒劣化検出を実行しないのではなく、フューエルカット履歴が無い場合でもリーンスパイク許可条件が成立している場合にはリーンスパイクを強制的に実行し、その後触媒劣化検出を実行するようにしている。
リーンスパイクとは、燃焼室内の混合気の空燃比、即ち触媒前空燃比A/Ffrを一時的或いは瞬時的に、通常空燃比制御時のリーン空燃比よりもさらにリーン側の(即ち、顕著にリーンの)空燃比にする制御である。例えば、目標空燃比A/Ftを15〜15.5程度の値に設定して燃料噴射を行い、触媒前センサ17で検出される実空燃比がその目標空燃比A/Ftに等しい値に達したら制御を終了するというものである。これにより、触媒前空燃比A/Ffrが一時的に顕著なリーンとなり、前記フューエルカットの場合と同様、触媒後センサ18をリフレッシュすることができる。即ち、リーンスパイクに基づく顕著なリーンガスにより触媒後センサ18に付着したリッチ成分を化学的、物理的に消失させ、リッチ成分の影響を無くして触媒後センサ18の出力を安定化させることができる。そしてそのようなリッチ成分付着に起因する誤検出を防止し、触媒劣化検出の精度を高めることができる。リーンスパイクによって触媒前センサ17に付着したリッチ成分をも消失させることができる点も前記同様である。
こうして、フューエルカット履歴が無い場合でもリーンスパイクを実行して触媒劣化検出を実行することができるので、触媒劣化検出の機会をより多く確保することが可能になる。
ここで、リーンスパイクは燃焼される混合気の空燃比を一時的に顕著なリーンとする制御なので、その実行によるエミッションやドライバビリティの悪化が懸念される。リーンスパイク実行時の空燃比の値はできるだけエミッションやドライバビリティに悪影響を与えないように設定されてはいるものの、これらへの影響は最小限に止めるのが望ましい。
そこで本実施形態では、リーンスパイク実行前にその実行を許可する条件が成立しているかどうかを判断するようにしている(ステップS205)。リーンスパイク許可条件は、以下の条件A〜Cの少なくとも一つ、好ましくは全て、が満たされたときに成立する。
A.内燃機関への加速要求が無いこと。
B.内燃機関が、NOx排出量が多くなるような所定の運転領域に無いこと。
C.触媒11の下流側に位置する下流触媒の温度が所定の活性温度域にあること。
条件Aはドライバビリティ上の観点に基づくものである。例えば車両用内燃機関において、ドライバがアクセルを踏み込んで加速しようとしたときに空燃比を一時的に顕著なリーンとしてしまうと、加速の途中で一瞬加速感が抜けて違和感を生じる。よってこれを回避するため、内燃機関への加速要求があるときはリーンスパイクを実行しないようにし、逆に内燃機関への加速要求がないときにリーンスパイクを実行するようにする。
この条件Aの判断は例えば次のように行うことができる。即ち、アクセル開度センサ15で検出されたアクセル開度の値が所定値より大きいか、またはアクセル開度の変化速度が所定値より大きいとき、加速要求ありと判断し、逆に、アクセル開度の値が所定値以下か、またはアクセル開度の変化速度が所定値以下のとき、加速要求なしと判断する。
条件Bはエミッション上の観点に基づくものである。例えば燃費向上のための希薄燃焼運転(リーンバーン運転)を実行する領域のような、元々NOxが排出されやすい運転領域が存在する場合があり、この運転領域にあるときに空燃比を一時的に顕著なリーンとしてしまうと、NOxがさらに悪化してしまう。よってこれを回避するため、内燃機関が、NOx排出量が多くなるような運転領域にある場合にはリーンスパイクを実行しないようにし、逆に内燃機関が、NOx排出量が多くなるような運転領域に無い場合にはリーンスパイクを実行するようにする。
この条件Bの判断方法としては、例えば機関運転状態を表すパラメータ(例えば回転速度と負荷)に関連付けてリーンスパイク実行領域マップを予め作製すると共にECU20に入力しておき、それらパラメータの検出値とリーンスパイク実行領域マップとを比較して条件Bの成立・不成立を判断する。
条件Cもエミッション上の観点に基づくものである。例えば、エミッション向上のため、前記触媒11の下流側の排気通路に触媒を追加して設けることがある。この追加された触媒を下流触媒という。下流触媒は通常、触媒後センサ18の下流側に設置される。この場合において、リーンスパイクの実行によってNOxが排出され上流側の触媒11を通過したとしても、下流触媒が活性温度域にあるのであれば、そのNOxを下流触媒で除去することが可能である。よって、下流触媒が活性温度域にない場合にはリーンスパイクを実行しないようにし、逆に下流触媒が活性温度域にある場合にはリーンスパイクを実行するようにする。
この条件Cの判断方法としては、例えば下流触媒の温度を推定し、この推定温度が所定温度以上のとき条件C成立、推定温度が所定温度未満のとき条件C不成立とする。
このように、リーンスパイク実行前にその実行許可条件成立の有無を判断するので、リーンスパイクによるエミッションやドライバビリティの悪化を未然に防止することができる。
次に、本実施形態の触媒劣化検出制御の第3の形態を図7に基づいて説明する。同図に示される触媒劣化検出制御の実行ルーチンもECU20により所定の微小時間(例えば16msec)毎に繰り返し実行される。
この第3の形態の実行ルーチンは第1の形態の実行ルーチンと大略同様である。第3の形態では、ステップS301,S302,S304,S305が第1の形態のステップS101,S102,S104,S105と同様であり、ステップS303のみが第1の形態のステップS103と異なる。
第1の形態のステップS103では、内燃機関の始動時から現時点までの間にフューエルカットが実行された履歴が有るかどうかが判断された。これに対し、第3の形態のステップS303では、内燃機関の始動時から現時点までの間にリーンスパイクが実行された履歴が有るかどうかが判断される。このリーンスパイクの実行によってもフューエルカットと同様に触媒前後のセンサ17,18(特に触媒後センサ18)のリフレッシュを図ることができるので、第1の形態のフューエルカット履歴をリーンスパイク履歴に置き換えても第1の形態と同様の作用効果を発揮することができる。
なお、内燃機関の始動時から現時点までの間にリーンスパイクが実行される場合とは、例えば触媒劣化検出と関係する或いは無関係な他の条件に基づいてリーンスパイクが実行される場合をいう。
以上説明したように、本実施形態によれば、内燃機関始動後の一定期間内は触媒前空燃比A/Ffrを顕著なリーンとするような所定運転状態があったことを条件として触媒劣化検出を実行する。これによりセンサに付着したリッチ成分を予めパージしてから触媒劣化検出を実行することができる。よって触媒劣化検出実行時において、センサにリッチ成分が付着した状態で劣化検出がなされることを防止し、センサの出力を安定化させて誤検出を防止し、触媒劣化検出の精度を高めることができる。
以上、本発明の好適な実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば上述の内燃機関は直噴式であったが、吸気ポート(吸気通路)噴射式或いは両噴射方式を兼ね備えるデュアル噴射式の内燃機関にも本発明は適用可能である。内燃機関の形式や用途に特に限定はない。触媒後センサ18は、触媒前センサ17と同様な全域空燃比センサに置き換えることも可能である。
前記実施形態では、触媒劣化検出方法として、触媒の酸素吸蔵容量を算出してこれを触媒劣化判定しきい値と比較して劣化判定を行う方法(所謂Cmax法)を採用した。しかしながら、他の触媒劣化検出方法を採用することもできる。例えば特許文献1に開示されているような触媒前後のセンサの出力軌跡長の比に基づき触媒劣化を検出する方法や、より単純に触媒後センサの出力軌跡長に基づき触媒劣化を検出する方法などが採用できる。
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。