JP4915923B2 - 耐酸性に優れたフェライト系ステンレス鋳鋼および鋳造部材 - Google Patents
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Description
EGRシステムにおいては、例えば上述したガス配管、クーラー部品、切替バルブなど排気ガスに曝される排気ガス再循環系用部材(以下、EGR部材という)が多く使用され、これらEGR部材には、強酸性を呈する排気ガスによる腐食を防止するために優れた耐酸性が望まれている。
例えば、排気ガスの循環経路の切替機構を有するバルブの筐体(以下、EGRバルブという)には、排気ガスの腐食に耐え得る材料として、一般によく知られるオーステナイト系ステンレス鋼のひとつであるSUS304などが使用されている。
上述した特許文献2が提案するフェライト系ステンレス鋼は、耐塩水性を有した鍛造用鋼であり、SiやNbの添加により熱間加工性や冷間加工性をも有している。また、Mnを添加することにより被削性を得ている点でも優れている。しかしながら、本発明者の検討によれば、CuやSiの含有量を1.0質量%以下に抑え、鍛造用鋼としての冷間加工性を持たせたために、耐塩水性は有するものの、硫酸などに対する耐酸性の点では不十分であった。
また、望ましくは、質量%で、(Cu+Si):2.8%以上を含有する耐酸性に優れたフェライト系ステンレス鋳鋼である。
また、質量%で、(Cu+Si):2.8%以上を含有するフェライト系ステンレス鋳鋼によって成る鋳造部材が望ましい。
また、前記鋳造部材は、排気ガスの流路を切り替える切替バルブ用部材であってもよい。
具体的には、質量%で、Cr:18.0〜27.0%、Cu:0.8〜3.5%、Si:0.5〜2.0%、Mo:0.5〜1.5%、Nb:2.5%以下、Ni:0.6%以下、C:0.12%以下、Mn:1.0%以下、Al:0.10%以下、P:0.15%以下、S:0.15%以下、N:0.10%以下で、かつ(Cu+Si):2.0を超え、残部がFeおよび不可避的不純物を含有する、フェライト系ステンレス鋳鋼である。
Cr:18.0〜27.0(質量%)
Crは、耐酸性を得るために18.0%以上含有させる。ただし、含有量を増やすと耐酸性は向上するものの靭性を損ねることがあるので、27.0%以下の含有に抑える。また、Cr含有による溶湯の酸化などを考慮し、鋳造性を欲するならば18.0〜22.0%の範囲で含有させることが望ましい。また、特に高い耐酸性を欲するならば20.0%を超えて27.0%以下で含有させ、これに加えて鋳造性をも欲するならば20.0%を超えて22.0%以下で含有させることが望ましい。
Cuは、本発明においては、耐酸性を付与するために、特に重要な元素である。また、耐熱性の向上にも寄与する。よって、少なくとも0.8%以上を含有させる。また、Cuは、鍛造用鋼では一般に含有を抑えるべき元素とされており、多量に含有させると著しく靭性が劣化して熱間加工性や冷間加工性を損ねてしまうことがある。しかしながら、鋳造用鋼である本発明のフェライト系ステンレス鋳鋼では、鋳造形成することによって所望の形状を得ることができ、実質的な塑性加工を行うことがないので、1.0%を超えて含有することができる。ただし、含有量を増してもそれに見合う耐酸性の向上が期待できないばかりか鋳造性を損ねることがあり、また、鋳造用鋼であっても多大な靭性の劣化は避けるべきである。よって、3.5%以下の含有に抑える。また、耐酸性とともに鋳造性を考慮するならば1.5〜2.5%が望ましく、より鋳造性を考慮するならば2.2%以下に抑えることが望ましい。
Siは、ステンレス鋼の脱酸元素として有用であるとともに耐酸性の向上をもたらす元素である。また、靭性を損ねるCr酸化物が多量に形成されて分散してしまうことを抑制する作用をも有する。よって、0.5%以上を含有させる。ただし、含有量が多くなりすぎるとSi化合物が多量に形成されて靭性を損ねてしまうことがあるので、2.0%以下の含有に抑える。望ましくは1.0〜1.5%の範囲で含有させる。また、鋳造性の観点からは、1.0%を超えて含有させることが望ましい。
Moは、耐食性の向上と固溶強化による強度改善の効果を有するとともに、高温酸化の抑制や高温強度の向上に寄与する元素である。よって、高温での固溶強化を利用し、0.5%以上を含有させることによって高温強度を向上させる。ただし、含有量が多くなりすぎると靭性を損ねてしまうことがあり、コストの点でも不利となるので、1.5%以下の含有に抑える。また、耐酸性、鋳造性、コストなど多面的に考慮すれば、0.8〜1.2%の範囲で含有させることが望ましい。
Nbは、固溶強化や析出強化によって高温強度を向上させる元素であり、本発明においてNbは2.5%以下の範囲で含有させる。また、本発明では、CやNと親和させて炭化物や窒化物を形成させることにより、固溶C量や固溶N量を低減させ、硬さの上昇を抑えて被削性を向上させる効果も期待できる。ただし、CやNの含有量に対してNb量が多くなりすぎると、固溶C量や固溶N量を低減させる効果が飽和してしまい、余分なNbそのものによって被削性が低下することがあるので2.5%以下の含有に抑える。望ましくは、質量%で(C+N)量の10倍程度を含有させ、固溶C量や固溶N量の増加を抑えつつ余分なNbを残存させないことである。Nb炭化物やNb窒化物は粒界腐食性を損ねるCr炭化物よりも優先的に生成され、これによりCr炭化物の析出が抑制されて粒界腐食を抑制することができる。
Niは、本来は耐酸性の向上や固溶強化に寄与する元素である。しかしながら、0.60%を超えて含有させると、フェライト系よりも被削性の劣るオーステナイト系の組織構造を形成することとなる。また、高価な材料であるために材料コストも増えてしまう。望ましくは0.30%以下とし、生産性では不利となるが、より望ましくは0.20%以下とする。
Cは、不可避的な元素であり、鋳造性の向上には寄与するものの、多量の含有は耐酸性や靭性を劣化させることがあり、望ましくは0.12%以下に抑える。より望ましくは0.08%以下、さらには生産性では不利となるが0.05%以下に抑える。
Mnは、鋳鋼の製造時に脱酸剤として必要な元素で、また、MnSを生成して被削性の改善効果を有する。しかしながら、MnSは耐酸性を低下させる化合物でもあるため、望ましくは1.0%以下に抑える。より望ましくは0.70%以下、さらには生産性では不利となるが0.50%以下に抑える。
Alは、SiやMnよりも効果的な脱酸剤として知られる元素であり、鋳鋼の製造時にも使用することはできる。しかしながら、Alは酸化物を生成し、この酸化物が機械加工を施した表面に残存すると美観を損ねてしまう上に、腐食の起点となって耐酸化性の劣化をもたらしてしまうことがある。よって、望ましくは0.10%以下に抑える。生産性では不利となるが、より望ましくは0.05%以下に抑える。
Pは、不可避的な元素であり、靭性の劣化を引き起こして鋳造時に割れを生じさせることがあり、望ましくは0.15%以下に抑える。生産性では不利となるが、より望ましくは0.10%以下に抑える。
Sは、不可避的な元素であり、MnSを生成して被削性の改善効果を有する。しかしながら、MnSは耐酸性を低下させる化合物でもあるため、望ましくは0.15%以下に抑える。生産性では不利となるが、より望ましくは0.10%以下に抑える。
Nは、Cと同様、不可避的な元素であり、結晶粒を微細化して靭性を向上させる効果を有するものの、多量の含有はCr窒化物を析出させることとなり、靭性や耐酸性を劣化させることがある。よって、望ましくは0.10%以下に抑える。より望ましくは、生産性では不利となるが0.05%以下に抑える。
上述したように本発明においては、質量%で、Cu:0.8〜3.5%、Si:0.5〜2.0%を含有させる。しかしながら、CuとSiの含有量、つまり(Cu+Si)総量が少なすぎると耐酸性を向上させる効果が不十分となるので、(Cu+Si):2.0%を超えて含有させる。ただし、CuとSi、各々の含有量を超えて含有させるものではない。また、やや靭性を劣化させる可能性はあるものの、より高い耐酸性を得るために(Cu+Si):2.8%以上を含有させることもできる。
本発明においては、不可避的として上述したC、P、S、Nといった元素のほか、Mg、Ti、B、V、Co、As、Oなどの元素もまた不可避的な元素である。しかしながら、実質的に全く含有させないことはできないので、本発明の作用効果を阻害しない範囲であれば含有してもよい。
例えばMgは、本来は酸化物を形成してTiNの晶出核となってフェライト粒の微細化効果が期待できるものの、過剰な含有は耐酸性の劣化をもたらしてしまうことがあり、望ましくは0.50質量%以下に抑える。生産性では不利となるが、より望ましくは0.30質量%以下に抑える。
例えばBは、本来はTiBを形成してフェライト粒の微細化効果をもたらすものの、過剰な含有は耐酸性や靭性の劣化をもたらしてしまうことがあり、望ましくは0.10質量%以下に抑える。生産性では不利となるが、より望ましくは0.05質量%以下に抑える。
また、この他のV、Co、As、Oについても、耐酸性に影響を及ぼさないように0.10質量%以下、さらには0.05質量%以下に抑えることが望ましい。
本発明の鋳造部材は、上述した本発明のフェライト系ステンレス鋳鋼を用いて鋳造形成することにより得られるものであり、このフェライト系ステンレス鋳鋼と同等の組成および機械特性を有する。よって、本発明の鋳造部材は、酸性を呈する気体や液体に曝される環境下での使用に好適な鋳造部材として形成されて成り、例えば、排気ガスに曝される排気ガス再循環系用部材であるガス配管、クーラー部品、EGRバルブなどに適用することにより、長期に渡って腐食し難い排気ガス再循環系用部材を得ることができる。
また、本発明の鋳造部材としては、例えば、上述したEGRシステムにおいて使用されるガス配管、クーラー部品、EGRバルブなどがある。本発明の鋳造部材は被削性の点でも良好であるので、特に機械加工を施すことが多いEGRバルブのボディすなわち排気ガスの流路を切り替える切替バルブ用部材への適用は好ましく、生産性向上に格段に寄与できる。
本発明のフェライト系ステンレス鋳鋼の耐酸性を評価するために、表1および表2に示す各組成(本発明の実施例:1〜3、比較例:4〜10、従来例:SUS430、SUS304)から成る腐食試験に供する丸棒形状の試験体(外径10mm、長さ20mm、全表面積785mm2)を製造した。なお、表1および表2に示していない元素もあるが、残部および不可避的不純物としてFeに含むものである。
試験体を製造するにあたっては、まず所定量の原材料を高周波炉で大気溶解し、溶湯を1620〜1640℃に制御しながら、Yブロック型に鋳造した後に上記試験体の寸法形状に機械加工することによって鋳物素材を得た。そして、この鋳物素材に対して機械加工を施し、上記形状を有する各々の試験体を得た。
腐食試験の結果を表3に示す。なお、腐食の評価には、腐食度g/m2・h−1(JIS−Z8401)を用いた。
これに対し、同じフェライト系ステンレス鋳鋼である従来のSUS430の腐食度は、18.99〜670.85g/m2・h−1であった。また、比較例4〜8では、最も小さい比較例4でも63.82〜769.17g/m2・h−1であり、400g/m2・h−1程度の実施例2にも及ばないことがわかった。
次に、本発明の鋳造部材の実施例となる、図1に外観形状を模式的に示す、排気ガス再循環系用部材(EGR部材)のひとつである、排気ガスの流路を切り替える用途に使用される切替バルブ用部材(以下、EGRバルブ1という)を、ロストワックス精密鋳造法によって鋳造形成した。製造したEGRバルブ1は、フランジ面6を有する筐体2と、エンジン始動時など低温の排気ガスの流路となる低温側通路3と、高温の排気ガスをクーラーに送るための流路となる高温側通路4と、図示しないバタフライバルブを取り付ける軸(図示せず)を挿入する軸穴5と、該軸の取付穴7と、上記バタフライバルブを突き当てるストッパ3a、4aと、上記筐体の固定穴8を有する。また、材料には、表1に実施例3として示したフェライト系ステンレス鋳鋼の組成を有する材料を使用した。
次いで、表1に実施例3として示した組成の材料、つまり、質量%で、Cr:19.65%、Cu:1.81%、Si:1.21%、Mo:0.96%、Nb:0.41%、Ni:0.11%、C:0.04%、Mn:0.07%、Al:0.02%、P:0.02%、S:0.01%、N:0.01%で、残部:Feおよび不可避的不純物からなる(Cu+Si):3.02%の溶湯を、大気溶解して得た。そして、この溶湯を1620〜1640℃に制御しながら上記鋳型に吸引鋳造し、冷却後に鋳型を解体し、サンドショットにより鋳型屑等を除去した後にブロー清掃し、本発明の実施例となるEGRバルブ1の鋳物素材(外形状70mm×105mm×30mm、質量683g)を得た。
このようにして得られたEGRバルブは、本発明の耐酸性に優れたフェライト系ステンレス鋳鋼と同じ組成を有するので、硫酸などの強酸に対する耐酸性を備えた高性能なEGRバルブとして提供することができる。また、オーステナイト系に比べて被削性の点でも良好であって機械加工コストの面でも有利となるので、安価なEGRバルブとして提供することができる。
Claims (7)
- 質量%で、Cr:18.0〜27.0%、Cu:0.8〜3.5%、Si:0.5〜2.0%、Mo:0.5〜1.5%、Nb:2.5%以下、Ni:0.6%以下、C:0.12%以下、Mn:1.0%以下、Al:0.10%以下、P:0.15%以下、S:0.15%以下、N:0.10%以下で、かつ(Cu+Si):2.0%を超え、残部がFeおよび不可避的不純物を含有することを特徴とする耐酸性に優れたフェライト系ステンレス鋳鋼。
- 質量%で、Cr:18.0〜22.0%、Cu:0.8〜2.2%、Si:1.0〜1.5%を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐酸性に優れたフェライト系ステンレス鋳鋼。
- 質量%で、(Cu+Si):2.8%以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の耐酸性に優れたフェライト系ステンレス鋳鋼。
- 質量%で、Cr:18.0〜27.0%、Cu:0.8〜3.5%、Si:0.5〜2.0%、Mo:0.5〜1.5%、Nb:2.5%以下、Ni:0.6%以下、C:0.12%以下、Mn:1.0%以下、Al:0.10%以下、P:0.15%以下、S:0.15%以下、N:0.10%以下で、かつ(Cu+Si):2.0%を超え、残部がFeおよび不可避的不純物を含有するフェライト系ステンレス鋳鋼によって成ることを特徴とする耐酸性に優れた鋳造部材。
- 質量%で、Cr:18.0〜22.0%、Cu:0.8〜2.2%、Si:1.0〜1.5%を含有するフェライト系ステンレス鋳鋼によって成ることを特徴とする請求項4に記載の耐酸性に優れた鋳造部材。
- 質量%で、(Cu+Si):2.8%以上を含有するフェライト系ステンレス鋳鋼によって成ることを特徴とする請求項4または5に記載の耐酸性に優れた鋳造部材。
- 前記鋳造部材は、排気ガスの流路を切り替える切替バルブ用部材であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の耐酸性に優れた鋳造部材。
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