a.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態について図面を用いて説明すると、図1は、同第1実施形態に係る車両の操舵装置の全体概略図である。この車両の操舵装置は、運転者によって操舵操作される操舵ハンドル10と、左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2をそれぞれ独立に転舵可能な転舵機構20,30,40,50を備えている。
操舵ハンドル10は、軸線周りに一体回転するステアリングシャフト11の上端に接続されている。ステアリングシャフト11の下端には、電動モータおよび減速機構からなる反力アクチュエータ12が設けられている。この反力アクチュエータ12は、操舵ハンドル10の操舵操作に対して操舵反力を付与する。
転舵機構20,30は、左右前輪FW1,FW2を、図示しない車体に転舵可能に支持するアーム機構21,31をそれぞれ備えている。アーム機構21,31の各後端部は、電気アクチュエータ22,32により、駆動ロッド23,33を介して左右に駆動されるようになっている。電気アクチュエータ22,32は、そのハウジング内に、電気的に駆動される電動モータおよび電動モータの回転運動を減速するとともに直線運動に変換する変換機構を有していて、駆動ロッド23,33の各内側端を、駆動ロッド23,33に対して回転可能に係合したピン24,34を介して左右に駆動する。駆動ロッド23,33は、前記電気アクチュエータ22,32による駆動により、揺動しながら左右方向に変位して、アーム機構21,31の後端部を、駆動ロッド23,33に対して回転可能に係合したピン25,25を介して左右に駆動する。したがって、左右前輪FW1.FWは、電気アクチュエータ22,32により左右にそれぞれ独立して転舵される。
転舵機構40,50は、左右後輪RW1,RW2を、図示しない車体に転舵可能に支持するアーム機構41,51をそれぞれ備えている。アーム機構41,51の各前端部は、電気アクチュエータ42,52により、駆動ロッド43,53を介して左右に駆動されるようになっている。電気アクチュエータ42,52は、前記電気アクチュエータ22,32と同様に構成されていて、駆動ロッド43,53の各内側端を、駆動ロッド43,53に対して回転可能に係合したピン44,54を介して左右に駆動する。駆動ロッド43,53は、電気アクチュエータ42,52による駆動により、揺動しながら左右方向に変位して、アーム機構41,51の前端部を、駆動ロッド43,53に対して回転可能に係合したピン45,55を介して左右に駆動する。したがって、左右後輪RW1,RW2は、電気アクチュエータ42,52により左右にそれぞれ独立に転舵される。
次に、反力アクチュエータ12および電気アクチュエータ22,32,42,52を制御する電気制御装置について説明する。電気制御装置は、ハンドル操舵角センサ61、左前輪転舵角センサ62a、右前輪転舵角センサ62b、左後輪転舵角センサ62c、右後輪転舵角センサ62d、車速センサ63、横加速度センサ64、ヨーレートセンサ65、荷重センサ66a〜66dを備えている。ハンドル操舵角センサ61は、ステアリングシャフト11に組み付けられて、操舵ハンドル10の回転角であるハンドル操舵角θhを検出する。なお、ハンドル操舵角θhは、操舵ハンドル10の中立位置を「0」とし、操舵ハンドル10の左方向の回転角を負の値で表し、操舵ハンドル10の右方向の回転角を正の値で表す。
左前輪転舵角センサ62aおよび右前輪転舵角センサ62bは、電気アクチュエータ32,42内の電動モータに組み込まれた回転角センサによってそれぞれ構成され、各電動モータの回転角を検出することによって左右前輪FW1,FW2の転舵角θf1,θf2をそれぞれ検出する。なお、左右前輪転舵角θf1,θf2も、左右前輪FW1,FW2の中立位置を「0」とし、左右前輪FW1,FW2の左方向の転舵角を負の値で表し、左右前輪FW1,FW2の右方向の転舵角を正の値で表す。また、これらの左前輪転舵角センサ62aおよび右前輪転舵角センサ62bに代えて、アーム機構21,31または駆動ロッド23,33の変位によって左右前輪転舵角θf1,θf2を検出するセンサを用いてもよい。
左後輪転舵角センサ62cおよび右後輪転舵角センサ62dは、電気アクチュエータ42,52内の電動モータに組み込まれた回転角センサによってそれぞれ構成され、各電動モータの回転角を検出することによって左右後輪RW1,RW2の転舵角θr1、θr2をそれぞれ検出する。なお、左右後輪転舵角θr1,θr2も、左右後輪RW1,RW2の中立位置を「0」とし、左右後輪RW1,RW2の左方向の転舵角を負の値で表し、左右後輪RW1,RW2の右方向の転舵角を正の値で表す。また、これらの左後輪転舵角センサ62cおよび右後輪転舵角センサ62dに代えて、アーム機構41,51または駆動ロッド43,53の変位によって左右後輪転舵角θr1,θr2を検出するセンサを用いてもよい。
車速センサ63は、車速Vを検出する。横加速度センサ64は、車両の横加速度Gyを検出する。横加速度Gyは、左方向の加速度を負で表し、右方向の加速度を正で表す。ヨーレートセンサ65は、車両のヨーレートYrを検出する。ヨーレートYrは、左方向の回転を負で表すとともに、右方向の回転を正で表す。荷重センサ66a〜66dは、各車輪FW1,FW2,RW1,RW2にそれぞれ取り付けられていて、各車輪FW1,FW2,RW1,RW2の接地荷重wf1,wf2,wr1,wr2をそれぞれ検出する。
これらのセンサは、電子制御ユニット(以下、ECUという)70に接続されている。ECU70は、CPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするもので、図2の前後輪転舵プログラムを所定の短時間ごとに繰り返し実行することにより、前記センサ61,62a〜62d,63〜65,66a〜66dの検出信号に応じて駆動回路71〜75を介して、反力アクチュエータ12および電気アクチュエータ22,32,42,52を駆動制御する。
次に、上記のように構成した第1実施形態の動作を説明する。イグニッションスイッチの投入により、ECU70は図2の前後輪転舵プログラムを所定の短時間ごとに繰り返し実行し始め、この前後輪転舵プログラムの実行により、操舵ハンドル10の回動操作に応じて左右前輪FW1,FW2および左右後輪RW1,RW2を独立に転舵制御する。なお、本発明には直接に関係しないので、詳しい説明を省略するが、図示しないプログラムの実行により、反力アクチュエータ12も駆動制御されて、操舵ハンドル10の操舵操作に対して適度な反力が付与される。
前後輪転舵プログラムの実行はステップS10にて開始され、ECU70はステップS11にてハンドル操舵角センサ61からハンドル操舵角θhを入力し、車速センサ63から車速Vを入力し、横加速度センサ64から横加速度Gyを入力し、ヨーレートセンサ65からヨーレートYrを入力する。そして、ステップS12にて、下記式4,5の演算の実行により、目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*を計算する。
なお、前記式4および5において、κyrはヨーレートゲイン、τyrはヨーレート時定数、τgyは横加速度時定数である。また、式4,5中のSはラプラス演算子である。κyr,τyr,τgyは、いずれも車速に応じて決定される定数であり、図10(A)および(B)に示されるように、車速が増加するにつれて、κyr,τyr,τgyの値が減少する。このステップS12における目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*の計算ステップが、本発明における目標値設定手段に相当する。
次に、ECU70は、ステップS13にて、目標ヨーレートYr*とヨーレートセンサ65によって検出された実際のヨーレートYrとのずれ量ΔYr(=Yr*−Yr)、および、目標横加速度Gy*と横加速度センサ64によって検出された実際の横加速度Gyとのずれ量ΔGy(=Gy*−Gy)を計算する。
次に、ECU70は、ステップS14にて、下記式6,7の演算の実行により、前輪の目標横力変更量ΔFyfおよび後輪の目標横力変更量ΔFyrを計算する。
ここで、前輪の横力変更量ΔFyfおよび後輪の横力変更量ΔFyrは、上記ずれ量ΔYrおよびΔGyを0にするために必要とされる前輪および後輪の横力の変更量を表すものである。なお、式6,7中のmは車両のばね上重量、Lfは、車両を2輪モデルで表したときの車両中心から前輪までの距離、Lrは、車両を2輪モデルで表したときの車両中心から後輪までの距離、Izは車両の慣性モーメントである。前輪の横力変更量ΔFyfおよび後輪の横力変更量ΔFyrは、下記式8,9を連立して解くことにより得られる。
ここで、上記式8は、2輪モデルにおける力のモーメントのつりあいの式であり、上記式9は、2輪モデルにおける横力のつりあいの式である。
続いて、ECU70は、ステップS15にて、前輪の横力変更量ΔFyfを左右前輪に分配して左前輪FW1および右前輪FW2における横力変更量ΔFyf1,ΔFyf2を決定し、また後輪の横力変更量ΔFyrを左右後輪に分配して左後輪RW1および右後輪RW2における横力変更量ΔFyr1,ΔFyr2を決定する。この場合において、本実施形態では、前輪の横力変更量ΔFyfを均等に二分してΔFyf1およびΔFyf2を決定し、また後輪の横力変更量ΔFyrを均等に二分してΔFyr1およびΔFyr2を決定する。なお、左右輪に横力を分配する方法としては、上記のように単純に前後輪の横力変更量を二分する方法の他、左右輪に加わる接地荷重に比例して分配する方法や、車両に作用する前後力に基づいて分配する方法を採用してもよい。
前記ステップS15の処理後、ECU70は、ステップS16にて、下記式10〜13の実行により、左右前後輪の目標転舵角変更量δf1*,δf2*,δr1*,δr2*を計算する。
ここで、目標転舵角変更量δf1*,δf2*,δr1*,δr2*は、上記ずれ量ΔYrおよびΔGyを0にするために必要とされる前輪および後輪の転舵角の変更量を表すものである。なお、上記式10中のκf1は左前輪FW1のコーナリングパワー、上記式11中のκf2は右前輪FW2のコーナリングパワーであり、本実施形態では両者は等しいものとされる。また、上記式12中のκr1は左後輪RW1のコーナリングパワー、上記式13中のκr2は右後輪RW2のコーナリングパワーであり、本実施形態では両者は等しいものとされる。
ステップS16の処理の実行によって算出される目標転舵角変更量δf1*,δf2*,δr1*,δr2*は、左右前後輪に取り付けられる電気アクチュエータに異常が生じていないとした場合、つまり4輪が全て正常に転舵可能である場合に、実ヨーレートおよび実横加速度がステップS12により計算された目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*と等しくなるようにするために必要な転舵角変更量である。この転舵角変更量δf1*,δf2*,δr1*,δr2*だけ各車輪の転舵角を変更すれば、実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*と等しくなるように各車輪が転舵する。したがって、このステップS16における処理が、本発明における目標車輪角度決定手段に実質的に相当する。
次に、ECU70は、ステップS17にて、左右前後輪FW1,FW2,RW1,RW2が現在の転舵状態から目標転舵角変更量δf1*,δf2*,δr1*,δr2*だけ転舵するように、駆動回路72,73,74,75に制御信号を出力する。これによって、各駆動回路72,73,74,75が電気アクチュエータ22,32,42,52を駆動し、電気アクチュエータ22,32,42,52の駆動によって各車輪FW1,FW2,RW1,RW2が上記目標転舵角変更量δf1*,δf2*,δr1*,δr2*だけ転舵駆動される。
上記ステップS11〜S17に示した制御を行うことによって、ヨーレートYrおよび横加速度Gyが目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*となるように電気アクチュエータ22,32,42,52が制御される。この場合において、上記ステップS11〜S17においては、目標ヨーレートと実ヨーレートとの差(ずれ量)および目標横加速度と実横加速度との差(ずれ量)が0となるように目標転舵角変更量を求め、現在の転舵角状態から目標転舵角変更量だけ転舵する制御を行っているが、実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくなるような転舵角(目標転舵角)を求め、左右前後輪が求めた目標転舵角となるように電気アクチュエータ22,32,42,52を制御するようにしてもよい。この場合、目標転舵角を求めるステップが、本発明における目標車輪角度決定手段に相当する。
その後、ECU70は、ステップS18にて、転舵角センサ62a〜62dによって検出される転舵角θf1,θf2,θr1,θr2を入力し、ステップS19にて実転舵角変更量Δθf1,Δθf2,Δθr1,Δθr2を計算する。なお、ECU70は、前回の前後輪転舵プログラムの実行時に検出した各車輪の実転舵角θf1old,θf2old,θr1old,θr2oldを前回値として記憶しており、この前回値と今回ステップS18にて入力する転舵角θf1,θf2,θr1,θr2との差を計算することによって、実転舵角変更量Δθf1(=θf1−θf1old),Δθf2(=θf2−θf2old),Δθr1(=θr1−θr1old),Δθr2(=θr2−θr2old)を計算する。
ステップS19にて実転舵角変更量Δθf1,Δθf2,Δθr1,Δθr2を計算した後に、ECU70は、ステップS20にて、左右前後輪FW1,FW2,RW1,RW2が全て正常に転舵したかを判定する。この判定は、左右前後輪FW1,FW2,RW1,RW2のそれぞれの実転舵角変更量Δθf1,Δθf2,Δθr1,Δθr2と目標転舵角変更量δf1*,δf2*,δr1*,δr2*との差を基に判断する。具体的には、左前輪FW1の目標転舵角変更量δf1*と実転舵角変更量Δθf1との差の絶対値が所定の基準転舵角変更量Δθ0以下(|δf1*−Δθf1|≦Δθ0)であり、右前輪FW2の目標転舵角変更量δf2*と実転舵角変更量Δθf2との差の絶対値が所定の基準転舵角変更量Δθ0以下(|δf2*−Δθf2|≦Δθ0)であり、左後輪RW1の目標転舵角変更量δr1*と実転舵角変更量Δθr1との差の絶対値が所定の基準転舵角変更量Δθ0以下(|δr1*−Δθr1|≦Δθ0)であり、右後輪RW2の目標転舵角変更量δr2*と実転舵角変更量Δθr2との差の絶対値が所定の基準転舵角変更量Δθ0以下(|δr2*−Δθr2|≦Δθ0)であるか否かを判定する。なお、このステップS20における判定が、本発明における異常検出手段に相当する。
上記条件を全て満たす場合には、全ての車輪が正常に転舵したものと判断できる。この場合は、ステップS17の処理によって実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートおよび目標横加速度となるように各車輪が転舵制御されているので、ステップS22に進んで前後輪転舵プログラムを一旦終了する。上記条件を一つでも満たさない場合には、いずれかの車輪が転舵異常状態であり、転舵異常である車輪が目標転舵角変更量だけ転舵できないために、ステップS17における転舵制御では実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートおよび目標横加速度とはならないものと判断できる。この場合はステップS21に進んで失陥時処理プログラムを実行する。
図3は、失陥時処理プログラムのフローチャートである。失陥時処理プログラムは図3のステップS30にて開始され、ステップS31にて、転舵異常を起こしていて転舵不能である車輪(失陥輪)の数を判定する。ここで、図2に示す前後輪転舵プログラムのステップS20にて目標転舵角変更量と実転舵角変更量とに基づいて正常転舵が行われたかを左右前後輪について判定しており、このときに異常と判定した車輪が失陥輪であるので、この失陥輪の数を記憶しておくことによりステップS31における判定を行うことができる。失陥輪の数が1、つまり1輪失陥である場合はステップS32に進む。失陥輪の数が2、つまり2輪失陥である場合はステップS35に進む。失陥輪の数が3、つまり3輪失陥である場合はステップS38に進む。失陥輪の数が4、つまり全ての車輪が失陥している4輪失陥である場合はステップS39に進む。
ステップS31にて1輪失陥であると判定してステップS32に進むと、このステップS32にて失陥輪が前輪側にあるかを判定する。この判定も、図2に示す前後輪転舵プログラムのステップS20にて行われる判定の際に、正常転舵が行われていないと判定した車輪が特定できるので、その車輪が前輪であるかによって判定できる。ステップS32にて失陥輪が前輪にあると判定した場合にはステップS33に進み、このステップS33にて第1失陥処理プログラムを実行し、その後ステップS40にてこの失陥時処理プログラムの実行を終了する。ステップS32にて失陥輪が前輪にはない、つまり失陥輪が後輪にあると判定した場合にはステップS34に進み、このステップS34にて第2失陥処理プログラムを実行し、その後ステップS40にてこの失陥時処理プログラムの実行を終了する。
また、ステップS31にて2輪失陥であると判定してステップS35に進むと、このステップS35にて前後輪の両側にそれぞれ1輪ずつ失陥輪があるかを判定する。前後輪の両側にそれぞれ1輪ずつ失陥輪がある場合、つまり前後輪ともに一方の車輪は正常輪である場合には、ステップS36に進み、このステップS36にて第3失陥処理プログラムを実行し、その後ステップS40にて失陥時処理プログラムの実行を終了する。前後輪の両側に失陥輪があるわけではない場合、つまり、左右前輪あるいは左右後輪が失陥輪である場合には、ステップS37に進み、このステップS37にて第4失陥処理プログラムを実行し、その後、ステップS40にて失陥時処理プログラムの実行を終了する。
また、ステップS31にて3輪失陥であると判定してステップS38に進むと、このステップS38にて第5失陥処理プログラムを実行する。そして、その後ステップS40にて失陥時処理プログラムの実行を終了する。また、ステップS31にて4輪失陥であると判定した場合はステップS39に進む。4輪失陥であるときは、いずれの車輪をも転舵制御することができないので、このステップS39にて転舵制御を停止する信号を駆動回路72,73,74,75に出力する。その後、ステップS40にて失陥時処理プログラムの実行を終了する。
第1失陥処理は、ECU70が図4に示す第1失陥処理プログラムを実行することにより行われる。この第1失陥処理プログラムは図4のステップS110にて開始し、ステップS111にて失陥輪が左前輪FW1であるかを判定する。失陥輪が左前輪FW1であると判定した場合はステップS112aに進み、失陥している側の前輪に作用する接地荷重である前輪失陥輪荷重Fzdf、および、失陥していない側の前輪、すなわち失陥輪の対称輪に作用する接地荷重である前輪正常輪荷重Fzafを設定する。この場合において、前輪失陥輪は左前輪FW1であるので、左前輪FW1に作用する接地荷重を検出している荷重センサ66aにより検出した接地荷重wf1が前輪失陥輪荷重Fzdfとされる。また、前輪正常輪は右前輪FW2であるので、右前輪FW2に作用する接地荷重を検出している荷重センサ66bにより検出した接地荷重wf2が前輪正常輪荷重Fzafとされる。
ステップS112aにて前輪失陥輪荷重Fzdfおよび前輪正常輪荷重Fzafが設定された後に,ECUはステップS113aにて下記式14の実行により、車両の左右前輪FW1,FW2に作用する接地荷重の左右の偏りを表す荷重移動率ΔFzfを計算する。
なお、この荷重移動率ΔFzfは、その絶対値が大きい場合は接地荷重が左右のどちらかに偏っていることを示し、その絶対値が小さい場合は接地荷重の左右の偏りが小さいことを示す。
続いて、ECU70は、ステップS114aにて、下記式15の実行により、異常時右前輪目標転舵角θf2**を計算する。
上記式15は、以下のように導出される。まず、左前輪FW1および右前輪FW2がともに正常である場合において、実ヨーレートおよび実横加速度がステップS12にて計算された目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくなるために左右前輪にて発生すべき横力(正常時横力)は、κf1・wf1・θf1*+κf2・wf2・θf2*と表される。ここで、θf1*およびθf2*は、左右前輪がともに正常である場合に、実ヨーレートおよび実横加速度を目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくするために必要な左前輪および右前輪の目標転舵角である。これらの目標転舵角θf1*、θf2*は共に等しく、θf1*=θf2*=θf*と表すことができる。
ここで、θf*は、ステップS18にて入力される転舵角θf1に、ステップS16にて計算された左前輪についての目標転舵角変更量δf1*を加えた角度(θf1+δf1*)として表すことができる。これは、左前輪が失陥して転舵不能状態(転舵角が変更されない状態)にあり、このときの左前輪の実転舵角θf1に目標転舵角変更量δf1*を加えた量が、左前輪の本来の目標転舵角であるからである。なお、これに代えて、右前輪の転舵角θf2を用いて、目標転舵角θf*を決定することも可能である。この場合、右前輪は、ステップS17の転舵制御により目標転舵角θf2*(=θf*)に転舵されているはずであるから、ステップS18にて入力された転舵角θf2を、目標転舵角θf*とすればよい。以上より、θf*は、θf1+δf1*と表すことができるし、また、θf2と表すこともできる。したがって、上記式15の右辺第1項の分子である2θf*は、2(θf1+δf1*)と表すことができるし、また、2θf2と表すことができる。あるいは、左右前輪の両実転舵角θf1,θf2を用いて、θf1+δf1*+θf2と表すこともできる。
また、左前輪FW1のコーナリングパワーκf1と、右前輪FW2のコーナリングパワーκf2は等しい(κf1=κf2=κf)。したがって、Fzf=wf1+wf2とすると、正常時横力は、κf・Fzf・θf*と表される。
一方、左前輪FW1が失陥して転舵不能となった場合に前輪に作用する横力(異常時横力)は、κf1・Fzdf・θf1+κf2・Fzaf・θf2と表される。ここで、κf1=κf2=κfであるので、異常時横力は、κf(Fzdf・θf1+Fzaf・θf2)と表される。なお、θf1は失陥輪である左前輪FW1の転舵角であり、左前輪FW1はこの転舵角θf1で固定されている。
また、第1失陥処理プログラムにおいては、前輪失陥時における車両の挙動の安定化を図るために、前輪失陥時であっても、実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくなるように正常輪を転舵制御する。したがって、左前輪FW1が失陥している状態において、実ヨーレートおよび実横加速度を目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくするために発生すべき横力を得るのに必要な右前輪(正常輪)の目標転舵角(異常時右前輪目標転舵角)をθf2**とすると、下記式16が成立する。
ここで、式16において、Fzf=Fzdf+Fzaf(=wf1+wf2)である。上記式16は、異常時横力を、正常時横力、つまり実ヨーレートおよび実横加速度をステップS12にて計算された目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくするために前輪に必要とされる横力、と等しくするということを表す式である。また、式14から、FzdfおよびFzafを、下記式17および18のようにΔFzfおよびFzfで表すことができる。
上記式17および式18を式16に代入してθf2**について整理することにより、上記式15が導かれる。なお、式15中、ΔFzfの絶対値は1よりもはるかに小さい場合が多い(|ΔFzf|<<1)。したがって、近似的にΔFzf=0として、下記式19のようにして異常時右前輪目標転舵角θf2**を計算してもよい。
上述した式15の導出過程からわかるように、異常時右前輪目標転舵角θf2**は、左前輪が失陥輪である場合においても、実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくなるような横力を発生し得るように決定される。つまり、右前輪目標転舵角θf2**は、車両に作用する実ヨーレートYrおよび実横加速度GyがステップS12にて計算した目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*と等しくなるように(ΔYrおよびΔGyが0になるように)、左前輪FW1が失陥して転舵制御が不能となっている分を対称輪である右前輪FW2で補うために必要とされる転舵角である。したがって、上記式15を用いて異常時右前輪目標転舵角θf2**を計算するステップS114aは、第一失陥処理時(異常時)において、実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*と等しくなるように、正常輪である右前輪の目標転舵角を算出する異常時目標角度算出手段に相当する。また、ステップS114aは、失陥時における左右前輪の横力の合計(異常時横力)が、目標ヨーレートおよび目標横加速度に基づいて算出される横力の合計(正常時横力)と等しくなるように、失陥輪である左前輪の対称輪である右前輪の目標転舵角を算出する異常時対称輪目標角度算出手段に相当する。
ステップS114aにて異常時右前輪目標転舵角θf2**を計算した後、ECU70は、ステップS115aにて、右前輪FW2の転舵角が異常時目標右前輪転舵角θf2**となるように、駆動回路73に指令信号を出力する。この指令信号を受けて駆動回路73が電気アクチュエータ32の駆動を制御し、電気アクチュエータ32によって右前輪FW2が異常時右前輪目標転舵角θf2*となるように転舵制御される。この場合、転舵角センサ62bによって検出された転舵角θf2を用いて電気アクチュエータ32を駆動制御するとよい。そして、ステップS116にてこの第1失陥処理プログラムの実行が終了される。
また、ステップS111にて失陥輪が左前輪FW1ではない、つまり失陥輪が右前輪FW2であると判定した場合はステップS112bに進み、前輪失陥輪荷重Fzdf(=wf2)および前輪正常輪荷重Fzaf(=wf1)を設定する。次いで、ステップS113bにて上記式14の実行により荷重移動率ΔFzfを計算する。その後、ステップS114bにて、下記式20の実行により、異常時左前輪目標転舵角θf1**を計算する。
なお、上記式20は、上記式15と同様な方法で導出される。また、式20の計算にあたり、ΔFzfを近似的に0として計算することもできる。このステップS114bも、ステップS114aと同様に、本発明における異常時目標角度算出手段、異常時対称輪目標角度算出手段に相当する。
ステップS114bにてθf1**を計算した後、ECU70は、ステップS115bにて、前記ステップS115aの場合と同様に、左前輪FW1の転舵角が異常時左前輪目標転舵角θf1**となるように、駆動回路72および電気アクチュエータ22との協働により左前輪FW1を異常時左前輪目標転舵角θf1**に転舵制御する。そして、ステップS116にてこの第1失陥処理プログラムの実行が終了される。
このような第1失陥処理プログラムを実行することによる転舵制御の結果、左右前輪のいずれか一方のみが失陥した状態においても、その対称輪を転舵補正することによって、目標ヨーレートおよび目標横加速度に基づいて算出された横力と同じ横力を生じるように車両が転舵制御される。したがって、失陥輪がある場合でもヨーレートおよび横加速度をともに制御することができる。すなわち、第1失陥処理プログラムの実行により正常前輪側の電気アクチュエータを制御することで、失陥前輪があるときでも、複数の車両の挙動状態を表す挙動状態量(本実施形態ではヨーレートおよび横加速度)が所定の目標値と等しくなるように転舵制御することができ、失陥時における車両の挙動安定性がより向上する。
第2失陥処理は、ECU70が図5に示す第2失陥処理プログラムを実行することにより行われる。この第2失陥処理プログラムは図5のステップS120にて開始し、ステップS121にて失陥輪が左後輪RW1であるかを判定する。失陥輪が左後輪RW1であると判定した場合はステップS122aに進み、後輪失陥輪に作用する接地荷重である後輪失陥輪荷重Fzdr、および、失陥していない側の後輪、すなわち失陥輪の対称輪に作用する接地荷重である後輪正常輪荷重Fzarを設定する。この場合において、後輪失陥輪は左後輪RW1であるので、左後輪RW1に作用する接地荷重を検出している荷重センサ66cにより検出した接地荷重wr1が後輪失陥輪荷重Fzdrとされる。また、後輪正常輪は右後輪RW2であるので、右後輪RW2に作用する接地荷重を検出している荷重センサ66dにより検出した接地荷重wr2が後輪正常輪荷重Fzarとされる。
ステップS122aにて後輪失陥輪荷重Fzdrおよび後輪正常輪荷重Fzarが設定された後に、ECUはステップS123aにて下記式21の実行により、車両の左右後輪に作用する接地荷重の偏りを表す左右後輪荷重移動率ΔFzrを計算する。
続いて、ECU70は、ステップS124aにて、下記式22の実行により、異常時右後輪目標転舵角θr2**を計算する。
ここで、第2失陥処理プログラムにおいては、後輪失陥時における車両の挙動の安定化を図るために、後輪失陥時であっても、実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくなるように正常な後輪を転舵制御する。したがって、左後輪RW1が失陥している状態において、実ヨーレートおよび実横加速度を目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくするために発生すべき横力を得るのに必要な右後輪(正常輪)の目標転舵角(異常時右後輪目標転舵角)をθr2**とすると、下記式23が成立する。
上記式22は、前記θf2**を導出した場合と同様に、上記式23および上記式21から誘導される。なお、ステップS124aにおける計算が、本発明における異常時目標角度算出手段、および、異常時対称輪目標角度算出手段に相当する。また、式22を計算するにあたり、ΔFzrを近似的に0として計算しても良い。
ステップS124aにて異常時右後輪目標転舵角θr2**を計算した後は、ECU70は、ステップS125aにて、上記した前輪の場合と同様に、右後輪RW2を駆動回路75および電気アクチュエータ52との協働により異常時右後輪目標転舵角θr2**に転舵制御する。そして、ステップS126にてこの第2失陥処理プログラムの実行が終了される。
また、ステップS121にて失陥輪が左後輪RW1ではない、つまり失陥輪が右後輪RW2であると判定した場合はステップS122bに進み、後輪失陥輪荷重Fzdr(=wr2)および後輪正常輪荷重Fzar(=wr1)を設定する。次いで、ステップS123bにて上記式18の実行により左右後輪荷重移動率ΔFzrを計算する。続いて、ECU70は、ステップS124bにて、下記式24の実行により、異常時左後輪目標転舵角θr1**を計算する。
なお、上記式24は、上記式22と同様な方法で導出される。また、式24の計算にあたり、ΔFzrを近似的に0として計算してもよい。このステップS124bは、本発明の異常時目標角度算出手段および異常時対称輪目標角度算出手段に相当する。
ステップS124bにてθr1**を計算した後は、ECU70はステップS125bにて、左後輪RW1を、駆動回路74および電気アクチュエータ42との協働により異常時左後輪目標転舵角θr1**に転舵制御する。そして、ステップS126にてこの第2失陥処理プログラムの実行が終了される。
このような第2失陥処理プログラムを実行することによる転舵制御の結果、左右後輪のいずれか一方のみが失陥した状態においても、その対称輪を転舵補正することによって、目標ヨーレートおよび目標横加速度に基づいて算出された横力と同じ横力を生じるように車両が転舵制御される。したがって、失陥輪がある場合でもヨーレートおよび横加速度をともに制御することができる。すなわち、第2失陥処理プログラムの実行により正常後輪側の電気アクチュエータを制御することで、失陥後輪があるときでも、複数の車両の挙動状態を表す挙動状態量(本実施形態ではヨーレートおよび横加速度)が所定の目標値と等しくなるように転舵制御することができ、失陥時における車両の挙動安定性がより向上する。
第3失陥処理は、ECU70が図6および図7に示す第3失陥処理プログラムを実行することにより行われる。この第3失陥処理は、前輪失陥処理(図6参照)および後輪失陥処理(図7参照)に分けられており、前輪失陥処理にて前輪側の転舵制御を、後輪失陥処理にて後輪側の転舵制御を行う。また、前輪失陥処理は前述した第1失陥処理と同様の処理であり、後輪失陥処理は前述した第2失陥処理と同様の処理である。したがって、以下に第3失陥処理を説明する上で、説明に用いる式で上述のものは、上述の式を参照するものとする。
第3失陥処理プログラムは図6のステップS130にて開始し、ステップS131にて前輪の失陥輪が左前輪FW1であるかを判定する。前輪の失陥輪が左前輪FW1であると判定した場合はステップS132aに進み、前輪失陥輪荷重Fzdfおよび前輪正常輪荷重Fzafを設定する。この場合において、前輪失陥輪は左前輪FW1であるので、左前輪FW1に作用する接地荷重を検出している荷重センサ66aにより検出した接地荷重wf1が前輪失陥輪荷重Fzdfとされる。また、前輪正常輪は右前輪FW2であるので、右前輪FW2に作用する接地荷重を検出している荷重センサ66bにより検出した接地荷重wf2が前輪正常輪荷重Fzafとされる。
ステップS132aにて前輪失陥輪荷重Fzdfおよび前輪正常輪荷重Fzafが設定された後に、ECUは、ステップS133aにて上記式14の実行により、荷重移動率ΔFzfを計算する。続いて、ECU70は、ステップS134aにて、上記式15の実行により、異常時右前輪目標転舵角θf2**を計算する。ステップS134aにて異常時右前輪目標転舵角θf2**を計算した後は、ECU70は、ステップS135aにて、右前輪FW2を、駆動回路73および電気アクチュエータ32との協働により異常時右前輪目標転舵角θf2**に転舵制御する。
一方、ステップS131にて失陥輪が左前輪FW1ではない(右前輪FW2である)と判定した場合はステップS132bに進み、前輪失陥輪荷重Fzdf(=wf2)および前輪正常輪荷重Fzaf(wf1)を設定する。
ステップS132bにて前輪失陥輪荷重Fzdfおよび前輪正常輪荷重Fzafが設定された後にECU70は、ステップS133bにて上記式14の実行により荷重移動率ΔFzfを計算する。続いて、ECU70は、ステップS134bにて、上記式20の実行により、異常時左前輪目標転舵角θf1**を計算する。ステップS134bにて異常時左前輪目標転舵角θf1**を計算した後は、ECU70は、ステップS135bにて、左前輪FW1を、駆動回路72および電気アクチュエータ22との協働により異常時左前輪目標転舵角θf1**に転舵制御する。
ステップS135aにて右前輪FW2が異常時右前輪目標転舵角θf2**に転舵制御され、あるいはステップS135bにて左前輪FW1が異常時左前輪目標転舵角θf1**に転舵制御された後は、ECU70は図7に示すステップS136にて左後輪RW1が失陥しているかを判定する。失陥輪が左後輪RW1であると判定した場合はステップS137aに進み、後輪失陥輪荷重Fzdrおよび後輪正常輪荷重Fzarを設定する。この場合において、後輪失陥輪は左後輪RW1であるので、左後輪RW1に作用する接地荷重を検出している荷重センサ66cにより検出した接地荷重wr1が後輪失陥輪荷重Fzdrされる。また、後輪正常輪は右後輪RW2であるので、右後輪RW2に作用する接地荷重を検出している荷重センサ66dにより検出した接地荷重wr2が後輪正常輪荷重Fzarとされる。
ステップS137aにて後輪失陥輪荷重Fzdrよび前輪正常輪荷重Fzar設定された後にECU70は、ステップS138aにて上記式21の実行により、左右後輪の荷重移動率ΔFzrを計算する。続いて、ECU70は、ステップS139aにて、上記式22の実行により、異常時右後輪目標転舵角θr2**を計算する。ステップS139aにて異常時右後輪目標転舵角θr2**を計算した後は、ECU70は、ステップS140aにて、右後輪RW2を、駆動回路75および電気アクチュエータ52との協働により異常時目標右後輪転舵角θr2**に転舵制御する。そして、ステップS141にてこの第3失陥処理プログラムの実行が終了される。
一方、ステップS136にて後輪失陥輪が左後輪RW1ではない(右後輪RW2である)と判定した場合はステップS137bに進み、後輪失陥輪荷重Fzdr(=wr2)および後輪正常輪荷重Fzar(=wr1)を設定する。
ステップS137bにて後輪失陥輪荷重Fzdrおよび後輪正常輪荷重Fzarが設定された後にECU70は、ステップS138bにて上記式21の実行により、左右後輪荷重移動率ΔFzrを計算する。続いて、ECU70は、ステップS139bにて、上記式24の実行により、異常時左後輪目標転舵角θr1**を計算する。ステップS139bにて異常時左後輪目標転舵角θr1**を計算した後は、ECU70は、ステップS140bにて、左後輪RW1を、駆動回路74および電気アクチュエータ42との協働により異常時左後輪目標転舵角θr1**に転舵制御する。そして、ステップS141にてこの第3失陥処理プログラムの実行が終了される。
このような第3失陥処理プログラムを実行することによる転舵制御の結果、前輪および後輪の両方に失陥輪がある状態においても、その対称輪が正常輪であれば、対称輪を転舵補正することによって、目標ヨーレートおよび目標横加速度に基づいて算出された横力と同じ横力を生じるように車両が転舵制御される。したがって、前後輪に失陥輪がある場合でもヨーレートおよび横加速度をともに制御することができる。すなわち、第3失陥処理プログラムの実行により正常前輪側および正常後輪側の電気アクチュエータを制御することで、失陥前輪および失陥後輪があるときでも、複数の車両の挙動状態を表す挙動状態量(本実施形態ではヨーレートおよび横加速度)が所定の目標値となるよう制御することができ、失陥時における車両の挙動安定性がより向上する。
第4失陥処理は、ECU70が図8に示す第4失陥処理プログラムを実行することにより行われる。この第4失陥処理プログラムは図8のステップS150にて開始し、ステップS151にて左右前輪FW1,FW2が失陥しているかを判定する。左右前輪FW1,FW2が失陥していると判定した場合はステップS152aに進み、下記式25の実行により、目標後輪横力変更量ΔFyrを計算する。
ここで、上記式25に示される目標後輪横力変更量ΔFyrは、2輪モデルにおける力のモーメントのつりあいの式(上記式8)において、ΔFyfに0を代入することにより導かれる。なお、ΔFyrは、2輪モデルにおける横力のつりあいの式(上記式9)においてΔFyfに0を代入することによっても得られるが、ΔFyrのみを変更してΔYrとΔGyの双方を0にする制御を行うことはできない。よって、本実施形態ではΔYrを0に近づけるヨーレート制御を選択する。
続いて、ECU70は、ステップS153aにて、目標後輪横力変更量ΔFyrを左右輪に分配して、左右後輪の目標横力変更量ΔFyr1,ΔFyr2を計算する。ここで、ΔFyr1,ΔFyr2はそれぞれ等しく、目標後輪横力変更量ΔFyrを二分した値とされる。次いで、ステップS154aにて、下記式26,27の実行により、左右後輪の目標転舵角変更量δr1*,δr2*を計算する。
ここで、κr1は左後輪RW1におけるコーナリングパワー、κr2は右後輪RW2におけるコーナリングパワーであり、一般的にはκr1=κr2である。
上記のようにして左右後輪の目標転舵角変更量δr1*,δr2*を計算した後は、ECU70は、ステップS155aにて、左右後輪RW1,RW2を左右後輪の目標転舵角変更量δr1*,δr2*だけ転舵制御するように、駆動回路74,75に指令信号を出力する。この指令信号を受けて、駆動回路74,75が電気アクチュエータ42,52の駆動を制御し、電気アクチュエータ42,52によって左右後輪RW1,RW2が目標転舵角変更量δr1,δr2だけ転舵制御される。そして、ステップS156にてこの第4失陥処理プログラムの実行が終了される。
また、ステップS151にて左右前輪FW1,FW2が失陥していない、すなわち左右後輪RW1,RW2が失陥していると判定した場合はステップS152bに進み、下記式28の実行により、目標前輪横力変更量ΔFyfを計算する。
ここで、上記式28に示される目標前輪横力変更量ΔFyfは、2輪モデルにおける力のモーメントのつりあいの式(上記式8)において、ΔFyrに0を代入することにより導かれる。
続いて、ECU70は、ステップS153bにて、前輪側の横力変更量ΔFyfを左右輪に分配して、左右前輪の目標横力変更量ΔFyf1,ΔFyf2を計算する。ここで、ΔFyf1,ΔFyf2はそれぞれ等しく、前輪側の目標横力変更量ΔFyfを二分した値とされる。
その後、ECU70は、ステップS154bにて、下記式29,30の実行により、左右前輪の目標転舵角変更量δf1*,δf2*を計算する。
ここで、κf1は左前輪FW1におけるコーナリングパワー、κf2は右前輪FW2におけるコーナリングパワーであり、一般的にはκf1=κf2である。
上記のようにして左右前輪の目標転舵角変更量δf1*,δf2*を計算した後は、ECU70は、ステップS155aの場合と同様に、ステップS155bにて、左右前輪FW1,FW2を、駆動回路72,73および電気アクチュエータ22,32との協働により左右前輪目標転舵角変更量δf1*,δf2*だけ転舵制御する。そして、ステップS156にてこの第4失陥処理プログラムの実行が終了される。
このような第4失陥処理プログラムを実行することによる転舵制御の結果、前輪の両輪が失陥した場合には後輪が、後輪の両輪が失陥した場合には前輪が転舵制御される。このとき、目標転舵角は上記式25または式28に基づいて計算される。ここで、上記式25,28は、ヨーレートによる力のモーメントと正常輪側にて発生する横力とのつりあいから導かれたものであり、このように導出された上記式25,28を満たすように転舵制御することによって、実ヨーレートが目標ヨーレートとなるように転舵制御される。したがって、前輪の両輪あるいは後輪の両輪が失陥した場合でも、車両の挙動状態を表す量であるヨーレートを制御して、車両の挙動を安定化することができる。
3輪失陥の場合は、ECU70は図9に示す第5失陥処理プログラムを実行する。この第5失陥処理プログラムは図9のステップS160にて開始し、ステップS161にて正常輪が前輪にあるかを判定する。正常輪が前輪にあると判定した場合はステップS162に進み、下記式31の実行により、目標前輪横力変更量ΔFyfを計算する。
ここで、上記式31は、上記式28と同様にして算出される。
続いて、ECU70は、ステップS163にて、左前輪が正常であるかを判定する。左前輪が正常である場合には、ステップS164aに進み、下記式32の実行により左前輪目標転舵角変更量δf1*を計算する。
ここで、第5失陥処理においては1輪のみが転舵可能であるので、前輪にて生じる横力変更量ΔFyfは、転舵が可能である左前輪のみで賄う必要がある。したがって、式30のように目標前輪横力変更量ΔFyfを左前輪のコーナリングパワーκf1で除して左前輪目標転舵角変更量δf1*を計算する。次いで、ECU70は、ステップS165aにて左前輪FW1を左前輪目標転舵角変更量δf1*だけ転舵制御し、ステップS170にて第5失陥処理プログラムの実行を終了する。
一方ステップS163にて左前輪が正常でないと判定した場合にはステップS164bに進み、下記式33の実行により、正常輪である右前輪について、右前輪目標転舵角変更量δf2*を計算する。
次いで、ECU70は、ステップS165bにて右前輪FW2を右前輪目標転舵角変更量δf2*だけ転舵制御し、ステップS170にて第5失陥処理プログラムの実行を終了する。
また、ステップS161にて正常輪が前輪でない場合、つまり正常輪が後輪にあると判定した場合には、ステップS166に進み、このステップS166にて下記式34の実行によって後輪横力変更量ΔFyrを計算する。
ここで、上記式34は、上記式25と同様にして導出される。
続いて、ECU70は、ステップS167にて、左後輪が正常であるかを判定する。左後輪が正常である場合には、ステップS168aに進み、下記式35の実行により左後輪目標転舵角変更量δr1*を計算する。
ここで、第5失陥処理においては1輪のみが転舵可能であるので、後輪にて生じる目標後輪横力変更量ΔFyrは左後輪のみで賄う必要がある。したがって、式35のように目標後輪横力変更量ΔFyrを左後輪のコーナリングパワーκr1で除して左後輪目標転舵角変更量δr1*を計算する。次いで、ECU70は、ステップS169bにて左後輪FW1を左後輪目標転舵角変更量δr1*だけ転舵制御し、ステップS170にて第5失陥処理プログラムの実行を終了する。
一方ステップS167にて左後輪が正常でないと判定した場合にはステップS168bに進み、下記式36の実行により、正常輪である右後輪について、右後輪目標転舵角変更量δr2*を計算する。
次いで、ECU70は、ステップS169bにて右後輪RW2を右後輪目標転舵角変更量δr2*だけ転舵制御し、ステップS170にて第5失陥処理プログラムの実行を終了する。
このような第5失陥処理プログラムを実行することによる転舵制御の結果、1輪のみが転舵可能である場合においても、転舵可能な車輪についての目標転舵角は上記式31,34に基づいて計算される。ここで、上記式31,34は、ヨーレートによる力のモーメントと正常輪にて発生する横力とのつりあいから導かれたものであり、このように導出された上記式31,34を満たすように転舵制御することによって、実ヨーレートが目標ヨーレートとなるように転舵制御される。したがって、1輪のみが転舵可能である場合でも、車両の挙動状態を表す量であるヨーレートを制御して、車両の挙動を安定化することができる。
以上の説明からわかるように、本実施形態においては、第1失陥処理、第2失陥処理、第3失陥処理のときには、ヨーレートセンサ65および横加速度センサ64によって検出されるヨーレートYrおよび横加速度GyがステップS12の計算によって得られた目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*と等しくなるように、失陥輪の反対側の正常輪に取り付けられた電気アクチュエータ、すなわち正常な電気アクチュエータを制御している。このような制御を行うことにより、失陥時においてもヨーレートおよび横加速度の2つの車両挙動状態を示す量(車両挙動状態量)を制御することができるので、失陥時における車両挙動の安定化を図ることができる。
(変形例1)
上記第1実施形態においては、第4失陥処理時および第5失陥処理時において、横力変更量ΔFyを力のモーメントのつりあい(上記式8)から求め、ヨーレートが目標ヨーレートとなるような転舵制御(ヨーレート制御)を行っていたが、横力のつりあいから(上記式9)からでも導くことができる。この場合には、横力変更量ΔFyは、下記式37によって求められる。
ここで、ΔFyは、目標前輪横力変更量ΔFyfでもよく、また目標後輪横力変更量ΔFyrでもよい。この式は、横加速度のずれ量ΔGyを用いて横力変更量ΔFyを表しているので、この式37を用いて正常輪の転舵角を制御することにより、横加速度が目標横加速度Gy*となるような転舵制御(横加速度制御)を行うことができる。
(変形例2)
また、上記第1実施形態においては、第1失陥処理時、第2失陥処理時および第3失陥処理時において、前後輪失陥輪荷重Fzdf,Fzdrおよび前後輪正常輪荷重Fzaf,Fzarは、各輪に取り付けられた荷重センサ66a〜66dにより検出していたが、荷重センサに代えて車両のロール角を検出するロール角センサを設け、このロール角センサにより検出されたロール角を基に前後輪失陥輪荷重Fzdf,Fzdrおよび前後輪正常輪荷重Fzaf,Fzarを計算により求めることもできる。この場合は、図1の点線で示すようにロール角センサ67が車体などの適当部位に取り付けられる。ロール角センサ67により検出されるロール角φrはECU70に入力される。そして、検出されるロール角φrに基づき、ECU70は下記式38〜41の計算を実行する。
ここで、Kfは前輪のホイールレート、Krは後輪のホイールレート、Cfは前輪側のショックアブソーバ減衰係数、Crは後輪側のショックアブソーバ減衰係数、Fzf0は前輪の基準接地荷重、Fzr0は後輪の基準接地荷重、Tはホイールトレッドである。また、ロール角φrは、右方に傾く場合を正とし、左方に傾く場合を負とする。上記式38〜41を必要に応じて計算することによって、各車輪の接地荷重を求めることができる。
(変形例2−1)
また、上記変形例2において式38〜41の計算を実行するにあたり、ロール角φrをロール角センサ67により検出するのではなく、横加速度センサ64により検出される横加速度Gyを用いて計算により求めることもできる。この場合には、ECU70は、下記式42の計算を実行する。
ここで、mは車両のばね上重量を表し、haは車両のロールアーム長を表し、Iyは車両のロール慣性モーメントを表し、Cyは車両のロール減衰係数を表し、Kyは車両のロール剛性を表し、gは重力加速度を表し、Sはラプラス演算子を表す。これらのm,ha,Iy,Cy,Kyは、車両に応じて定められた定数である。上記式42の計算を実行することによって、ロール角φrを求めることができる。
(変形例2−2)
また、上記変形例2−1において式40の計算を実行するにあたり、横加速度Gyを横加速度センサ64により検出するのではなく、転舵角センサ62a〜62dにより検出される転舵角θf1,θf2を用いて計算により求めることもできる。この場合には、ECU70は、下記式43の計算を実行する。
ここで、Lはホイールベースを表し、Aは車両のスタビリティファクタを表し、L,Aは共に車両に応じて予め定められた定数である。上記式43の計算を実行することによって、横加速度Gyを求めることができる。
b.第2実施形態
次に、上記第1実施形態を変形した第2実施形態について説明する。この第2実施形態に係る車両の操舵装置においては、各車輪の転舵状態に応じ、実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくなるように各車輪のキャンバー角を制御するものである。この車両の操舵装置は、図11に示すように、運転者によって操舵操作される操舵ハンドル10と、この操舵ハンドル10に上端を一体回転するように接続したステアリングシャフト11を備え、同シャフト11の下端にはピニオンギヤ13が一体回転するように接続されている。ピニオンギヤ13は、ラックバー14に形成されたラック歯と噛み合ってラックアンドピニオン機構を構成する。ラックバー14の両端には左右前輪FW1,FW2が操舵可能に接続されており、左右前輪FW1,FW2は、ステアリングシャフト11の軸線回りの回転に伴うラックバー14の軸線方向の変位に応じて左右に操舵される。
また、左右前後輪FW1,FW2,RW1,RW2にはキャンバー角調整装置81,82,83,84がそれぞれ取り付けられている。このキャンバー角調整装置81,82,83,84は、図12に示すように電動モータ85と、ボールネジ機構86とを備えていて、電動モータ85の回転出力がボールネジ機構86によって直線駆動力に変換される。ボールネジ機構86の出力軸86aは例えば車輪に連結されたサスペンションのアッパーアームUAに固定されており、ボールネジ機構86から伝達される直線駆動力がアッパーアームUAに伝達されてアッパーアームUAが軸方向に移動することによって、車輪のキャンバー角ξが変化される。各キャンバー角調整装置81,82,83,84の電動モータ85はそれぞれ駆動回路91,92,93,94に接続されている。この駆動回路91,92,93,94はECU70に接続されていて、ECU70からの指令信号によって駆動する。
次に、キャンバー角調整装置を制御する電気制御装置について説明する。電気制御装置は、ハンドル操舵角センサ61、車速センサ63、横加速度センサ64、ヨーレートセンサ65、荷重センサ66a〜66d、キャンバー角センサ68a〜68dを備えている。ハンドル操舵角センサ66はハンドル操舵角θhを検出する。車速センサ63は車速Vを検出する。横加速度センサ64は車両の横加速度Gyを検出する。ヨーレートセンサ65は車両のヨーレートYrを検出する。荷重センサ66a〜66dは各車輪FW1,FW2,RW1,RW2の接地荷重wf1,wf2,wr1,wr2を検出する。これらのセンサは、上記第1実施形態で説明したものと同様な構造である。キャンバー角センサ68a〜68dは、各車輪のキャンバー角ξf1,ξf2,ξr1,ξr2を検出する。
これらのセンサは、電子制御ユニット(以下、ECUという)70に接続されている。ECU70は、CPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするもので、図13の前後輪キャンバー角制御プログラムを所定の短時間ごとに繰り返し実行することにより、前記センサ61,62a〜62d,63〜65,66a〜66dの検出信号に応じて駆動回路71〜75を介して、キャンバー角調整装置を駆動制御する。
次に、上記のように構成した第2実施形態の動作を説明する。イグニッションスイッチの投入により、ECU70は図13の前後輪キャンバー角制御プログラムを所定の短時間ごとに繰り返し実行する。前後輪キャンバー角制御プログラムの実行はステップS50にて開始され、ECU70はステップS51にてハンドル操舵角センサ61からハンドル操舵角θhを入力し、車速センサ63から車速Vを入力し、横加速度センサ64から横加速度Gyを入力し、ヨーレートセンサ65からヨーレートYrを入力する。そして、ステップS52にて目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*を計算する。目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*は、上記第1実施形態にて説明した上記式4,5の演算の実行により求められる。
次に、ECU70は、ステップS53にて、目標ヨーレートYr*とヨーレートセンサ65によって検出された実際のヨーレートYrとのずれ量ΔYr(=Yr*−Yr)、および、目標横加速度Gy*と横加速度センサ64によって検出された実際の横加速度Gyとのずれ量ΔGy(=Gy*−Gy)を計算する。
次に、ECU70は、ステップS54にて、前輪の目標横力変更量ΔFyfおよび後輪の目標横力変更量ΔFyrを計算する。前輪および後輪の横力変更量ΔFyfおよびΔFyrは、上記第1実施形態にて説明した上記式6,7の演算の実行により求められる。
続いて、ECU70は、ステップS55にて、前輪の横力変更量ΔFyfを左右前輪に均等に分配して左前輪FW1および右前輪FW2における横力変更量ΔFyf1,ΔFyf2を決定し、また後輪の横力変更量ΔFyrを左右後輪に均等に分配して左後輪RW1および右後輪RW2における横力変更量ΔFyr1,ΔFyr2を決定する。
前記ステップS55の処理後、ECU70は、ステップS56にて、下記式44〜47の実行により、左右前後輪の目標キャンバー角変更量ψf1*,ψf2*,ψr1*,ψr2*を計算する。
ここで、目標キャンバー角変更量ψf1*,ψf2*,ψr1*,ψr2*は、上記ずれ量ΔYrおよびΔGyを0にするために必要とされる前輪および後輪のキャンバー角の変更量を表すものである。なお、上記式44中のκsf1は左前輪FW1のキャンバースティフネス、上記式45中のκsf2は右前輪FW2のキャンバースティフネスであり、本実施形態では両者は等しいものとされる。また、上記式46中のκsr1は左後輪RW1のキャンバースティフネス、上記式47中のκsr2は右後輪RW2のキャンバースティフネスであり、本実施形態では両者は等しいものとされる。
ステップS56の処理の実行によって算出される目標キャンバー角変更量ψf1*,ψf2*,ψr1*,ψr2*は、左右前後輪に取り付けられるキャンバー角調整装置に異常が生じていないとした場合、つまり4輪が全て正常にキャンバー角の変更が可能である場合に、実ヨーレートおよび実横加速度がステップS52により計算された目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*と等しくなるようにするために必要なキャンバー角変更量である。このキャンバー角変更量ψf1*,ψf2*,ψr1*,ψr2*だけ各車輪のキャンバー角を変更すれば、実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*と等しくなるように各車輪のキャンバー角が調整される。したがって、このステップS56における処理が、本発明における目標車輪角度決定手段に実質的に相当する。
次に、ECU70は、ステップS57にて、左右前後輪FW1,FW2,RW1,RW2が現在のキャンバー角から目標キャンバー角変更量ψf1*,ψf2*,ψr1*,ψr2*だけ変更されるように、駆動回路91,92,93,94に制御信号を出力する。これによって、各駆動回路91,92,93,94がキャンバー角調整装置81,82,83,84の駆動を制御し、各車輪FW1,FW2,RW1,RW2のキャンバー角が上記キャンバー角変更量ψf1*,ψf2*,ψr1*,ψr2*だけ変更される。
上記ステップS51〜S57に示した制御を行うことによって、ヨーレートYrおよび横加速度Gyが目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*となるようにキャンバー角調整装置81,82,83,84が制御される。この場合において、上記ステップS51〜S57においては、目標ヨーレートと実ヨーレートとの差(ずれ量)および目標横加速度と実横加速度との差(ずれ量)が0となるように目標キャンバー角変更量を求め、現在のキャンバー角から目標キャンバー角変更量だけ変更する制御を行っているが、実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくなるようなキャンバー角(目標キャンバー角)を求め、左右前後輪が求めた目標キャンバー角となるようにキャンバー角調整装置81,82,83,84を制御するようにしてもよい。この場合、目標キャンバー角を求めるステップが、本発明における目標車輪角度決定手段に相当する。
その後、ECU70は、ステップS58にて、キャンバー角センサ68a〜68dによって検出されるキャンバー角ξf1,ξf2,ξr1,ξr2を入力し、ステップS59にて実キャンバー角変更量Δξf1,Δξf2,Δξr1,Δξr2を計算する。なお、ECU70は、前回の前後輪キャンバー角制御プログラムの実行時に検出した各車輪の実キャンバー角ξf1old,ξf2old,ξr1old,ξr2oldを前回値として記憶しており、この前回値と今回ステップS18にて入力するキャンバー角ξf1,ξf2,ξr1,ξr2との差を計算することによって、実キャンバー角変更量Δξf1(=ξf1−ξf1old),Δξf2(=ξf2−ξf2old),Δξr1(=ξr1−ξr1old),Δξr2(=ξr2−ξr2old)を計算する。
ステップS59にて実キャンバー角変更量Δξf1,Δξf2,Δξr1,Δξr2を計算した後に、ECU70は、ステップS60にて、左右前後輪FW1,FW2,RW1,RW2が全て正常にキャンバー角を変更したかを判定する。この判定は、左右前後輪FW1,FW2,RW1,RW2のそれぞれの実キャンバー角変更量Δξf1,Δξf2,Δξr1,Δξr2と目標キャンバー角変更量ψf1*,ψf2*,ψr1*,ψr2*との差を基に判断する。具体的には、左前輪FW1の目標キャンバー角変更量ψf1*と実キャンバー角変更量Δξf1との差の絶対値が所定の基準キャンバー角変更量Δξ0以下(|ψf1*−Δξf1|≦Δθ0)であり、右前輪FW2の目標キャンバー角変更量ψf2*と実キャンバー角変更量Δξf2との差の絶対値が所定の基準キャンバー角変更量Δξ0以下(|ψf2*−Δξf2|≦Δξ0)であり、左後輪RW1の目標キャンバー角変更量ψr1*と実キャンバー角変更量Δξr1との差の絶対値が所定の基準キャンバー角変更量Δξ0以下(|ψr1*−Δξr1|≦Δξ0)であり、右後輪RW2の目標キャンバー角変更量ψr2*と実キャンバー角変更量Δξr2との差の絶対値が所定の基準キャンバー角変更量Δξ0以下(|ψr2*−Δξr2|≦Δξ0)であるか否かを判定する。なお、このステップS60における判定が、本発明における異常検出手段に相当する。
上記条件を全て満たす場合には、全ての車輪が正常にキャンバー角を変更したものと判断できる。この場合は、ステップS57の処理によって実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートおよび目標横加速度となるように各車輪のキャンバー角が調整されているので、ステップS62に進んで前後輪転舵プログラムを一旦終了する。上記条件を一つでも満たさない場合には、いずれかの車輪がキャンバー角変更異常状態であると判断できる。この場合はステップS61に進んでキャンバー角異常時処理プログラムを実行する。
図14は、キャンバー角異常時処理プログラムのフローチャートを示している。キャンバー角異常時処理プログラムは図14のステップS70にて開始され、ステップS71にてまずキャンバー角の変更異常が生じている車輪(キャンバー角異常輪)の数を判定する。ここで、図13に示す前後輪キャンバー角制御プログラムのステップS60にて各輪の目標キャンバー角変更量と実キャンバー角変更量とに基づいて正常にキャンバー角の変更が行われたかを左右前後輪について判定しており、このときに異常と判定した車輪がキャンバー角の変更異常が生じている車輪(キャンバー角異常輪)であるので、このキャンバー角異常輪の数を記憶しておくことによりステップS71における判定を行うことができる。キャンバー角異常輪の数が1、つまり1輪異常である場合はステップS72に進む。キャンバー角異常輪の数が2、つまり2輪異常である場合はステップS75に進む。キャンバー角異常輪の数が3、つまり3輪異常である場合はステップS78に進む。キャンバー角異常輪の数が4、つまり全ての車輪が異常である4輪異常の場合はステップS79に進む。
ステップS71にて1輪異常であると判定してステップS72に進むと、このステップS72にてキャンバー角異常輪が前輪側にあるかを判定する。この判定も、図13に示す前後輪キャンバー角制御プログラムのステップS60における判定時にてキャンバー角異常輪が特定できるので、その特定したキャンバー角異常輪が前輪であるかによって判定できる。ステップS72にてキャンバー角異常輪が前輪にあると判定した場合にはステップS73に進み、このステップS73にて第1キャンバー角異常処理プログラムを実行し、その後ステップS80にてこのキャンバー角異常時処理プログラムの実行を終了する。ステップS72にてキャンバー角異常輪が前輪にはない、つまりキャンバー角異常輪が後輪にあると判定した場合にはステップS74に進み、このステップS74にて第2キャンバー角異常処理プログラムを実行し、その後ステップS80にてこのキャンバー角異常時処理プログラムの実行を終了する。
また、ステップS71にて2輪異常であると判定してステップS75に進むと、このステップS75にて前後輪の両側にそれぞれ1輪ずつキャンバー角異常輪があるかを判定する。前後輪の両側にそれぞれ1輪ずつキャンバー角異常輪がある場合、つまり前後輪ともに一方の車輪は正常輪である場合には、ステップS76に進み、このステップS76にて第3キャンバー角異常処理プログラムを実行し、その後ステップS80にてキャンバー角異常時処理プログラムの実行を終了する。前後輪の両側にキャンバー角異常輪があるわけではない場合、つまり、左右前輪あるいは左右後輪がキャンバー角異常輪である場合には、ステップS77に進み、このステップS77にて第4キャンバー角異常処理プログラムを実行し、その後、ステップS80にてキャンバー角異常時処理プログラムの実行を終了する。
また、ステップS71にて3輪異常であると判定してステップS78に進むと、このステップS78にて第5キャンバー角異常処理プログラムを実行する。そして、その後ステップS80にて異常時処理プログラムの実行を終了する。また、ステップS71にて4輪異常であると判定した場合はステップS79に進む。4輪が全てキャンバー角異常であるときは、いずれの車輪のキャンバー角も制御することができないため、キャンバー角が制御不能であることを示す警告ランプを点灯する。このような警告表示処理により、キャンバー角調整装置が全て異常であることを運転者に知らせる。なお、4輪が全てキャンバー角異常であっても左右前輪の転舵自体は可能であるため、上記第1実施形態のように転舵制御を停止することはない。その後、ステップS80にて異常時処理プログラムの実行を終了する。
第1キャンバー角異常処理は、ECU70が図15に示す第1キャンバー角異常処理プログラムを実行することにより行われる。この第1キャンバー角異常処理プログラムは図15のステップS210にて開始し、ステップS211にてキャンバー角異常輪が左前輪FW1であるかを判定する。キャンバー角異常輪が左前輪FW1であると判定した場合はステップS212aに進み、キャンバー角異常輪に作用する接地荷重である前輪キャンバー角異常輪荷重Fzdf、および、異常ではない車輪、すなわち異常輪の対称輪に作用する接地荷重である前輪正常輪荷重Fzafを設定する。この場合において、前輪キャンバー角異常輪は左前輪FW1であるので、左前輪FW1に作用する接地荷重を検出している荷重センサ66aにより検出した接地荷重wf1が前輪キャンバー角異常輪荷重Fzdfとされる。また、前輪正常輪は右前輪FW2であるので、右前輪FW2に作用する接地荷重を検出している荷重センサ66bにより検出した接地荷重wf2が前輪正常輪荷重Fzafとされる。
ステップS212aにて前輪キャンバー角異常輪荷重Fzdfおよび前輪正常輪荷重Fzafが設定された後に,ECUはステップS213aにて車両の左右前輪FW1,FW2に作用する接地荷重の偏りを表す左右前輪の荷重移動率ΔFzfを計算する。荷重移動率ΔFzfは、上記第1実施形態にて説明した上記式14の実行により求められる。
続いて、ECU70は、ステップS214aにて、下記式48の実行により、異常時右前輪目標キャンバー角ξf2**を計算する。
上記式48は、以下のように導かれる。まず、左前輪FW1および右前輪FW2のキャンバー角がともに正常に制御される場合において、実ヨーレートおよび実横加速度がステップS52にて計算された目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくなるために左右前輪にて発生すべきキャンバースラスト(正常時キャンバースラスト)は、κsf1・wf1・ξf1*+κsf2・wf2・ξf2*と表される。ここで、ξf1*およびξf2*は、両輪の前輪がともに正常にキャンバー角制御をすることができる場合に、実ヨーレートおよび実横加速度を目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくするために必要な左前輪および右前輪の目標キャンバー角である。これらの目標キャンバー角ξf1*,ξf2*は共に等しく、ξf1*=ξf2*=ξf*と表すことができる。
ここで、ξf*は、ステップS58にて入力されるキャンバー角ξf1に、ステップS56にて計算された右前輪についての目標キャンバー角変更量ψf1*を加えた角度(ξf1+ψf1*)として表すことができる。これは、左前輪がキャンバー角異常のためキャンバー角の変更が不能であり、このときの左前輪のキャンバー角ξf1に目標キャンバー角変更量ψf1*を加えた量が、左前輪の本来の目標キャンバー角であるからである。なお、これに代えて、右前輪のキャンバー角ξf2を用いて、目標キャンバー角ξf*を決定することも可能である。この場合、右前輪は、ステップS57のキャンバー角制御により目標キャンバー角ξf2*(=ξf*)に変更されているはずであるから、ステップS58にて入力されたキャンバー角ξf2を、目標キャンバー角ξf*とすればよい。以上より、ξf*は、ξf1+ψf1*と表すことができるし、また、ξf2と表すこともできる。したがって、上記式46の右辺第1項の分子である2ξf*は、2(ξf1+ψf1*)と表すことができるし、また、2ξf2と表すことができる。あるいは、左右前輪の両実キャンバー角ξf1,ξf2を用いて、ξf1+ψf1*+ξf2と表すこともできる。
また、左前輪FW1のキャンバースティフネスκsf1と、右前輪FW2のキャンバースティフネスκsf2は等しい(κsf1=κsf2=κf)。したがって、Fzf=Wf1+Wf2とすると、上記キャンバースラストは、κsf・Fzf・ξf*と表される。
一方、左前輪FW1のキャンバー角の制御が異常である場合に前輪に作用するキャンバースラスト(異常時キャンバースラスト)は、κsf1・Fzdf・ξf1+κsf2・Fzaf・ξf2*と表される。ここで、κsf1=κsf2=κsfであるので、上記キャンバースラストは、κsf(Fzdf・ξf1+Fzaf・ξf2*)と表される。なお、ξf1はキャンバー角異常輪である左前輪FW1のキャンバー角であり、左前輪FW1はこのキャンバー角ξf1で固定されている。
また、第1キャンバー角異常処理プログラムにおいては、前輪のキャンバー角の制御異常時に車両の挙動の安定化を図ることために、前輪のいずれか一方のキャンバー角の制御異常時であっても、実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくなるように正常輪のキャンバー角を制御する。したがって、左前輪のキャンバー角の制御が異常となっている状態において、実ヨーレートおよび実横加速度を目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくするために発生すべきキャンバースラストを得るのに必要な右前輪(正常輪)の目標キャンバー角(異常時右前輪目標キャンバー角)をξf2**とすると、下記式49が成立する。
ここで、式49において、Fzf=Fzdf+Fzaf(=wf1+wf2)である。上記式49は、異常時キャンバースラストを、正常時キャンバースラスト、つまり実ヨーレートおよび実横加速度をステップS52にて計算された目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくするために前輪に必要とされるキャンバースラスト、と等しくするということを表す式である。また、上記第1実施形態で説明したようにFzdfおよびFzafは上記式17および18のようにΔFzfおよびFzfで表すことができるので、式17および式18を式49に代入して整理することにより、上記式48が導かれる。
上述した式48の導出過程からわかるように、異常時右前輪目標キャンバー角ξf2**は、左前輪がキャンバー角異常輪である場合においても、実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくなるようなキャンバースラストを発生し得るように決定される。つまり、異常時右前輪目標キャンバー角θf2**は、車両に作用する実ヨーレートYrおよび実横加速度GyがステップS52にて計算した目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*と等しくなるように(ΔYrおよびΔGyが0になるように)、左前輪FW1のキャンバー角制御が不能となっている分を対称輪である右前輪FW2で補うために必要とされるキャンバー角である。したがって、上記式48を用いて異常時右前輪目標キャンバー角θf2**を計算するステップS214aは、第一キャンバー角異常処理時(異常時)において、実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gy*と等しくなるように、正常輪である右前輪の目標キャンバー角を算出する異常時目標角度算出手段に相当する。また、ステップS214aは、キャンバー角異常時における左右前輪のキャンバースラストの合計(異常時キャンバースラスト)が、目標ヨーレートおよび目標横加速度に基づいて算出されるキャンバースラストの合計(正常時キャンバースラスト)と等しくなるように、キャンバー角異常輪(左前輪)の対称輪である右前輪の目標キャンバー角を算出する異常時対称輪目標角度算出手段に相当する。
ステップS214aにて右前輪目標キャンバー角ξf2**を計算した後、ECU70は、ステップS215aにて、右前輪FW2のキャンバー角が右前輪目標キャンバー角ξf2**となるように、駆動回路92に指令信号を出力する。この指令信号を受けて、駆動回路92がキャンバー角調整装置82の駆動を制御して、右前輪FW2のキャンバー角が右前輪目標キャンバー角ξf2**とされる。この場合、キャンバー角センサ68bによって検出されるキャンバー角ξf2を用いてキャンバー角調整装82を駆動制御するとよい。そして、ステップS216にてこの第1キャンバー角異常処理プログラムの実行が終了される。
また、ステップS211にてキャンバー角異常輪が左前輪FW1ではない、つまりキャンバー角異常輪が右前輪FW2であると判定した場合はステップS212bに進み、前輪キャンバー角異常輪荷重Fzdf(=wf2)および前輪正常輪荷重Fzaf(=wf1)を設定する。ついで、ステップS213bにて上記式14の実行により左右前輪の荷重移動率ΔFzfを計算する。その後、ステップS214bにて、下記式50の実行により、異常時左前輪目標キャンバー角ξf1**を計算する。
なお、上記式50は、上記式48と同様な方法で導出される。また、このステップS214bも、ステップS214aと同様に、本発明における異常時目標角度算出手段、異常時対称輪目標角度算出手段に相当する。
ステップS214bにて左前輪目標キャンバー角ξf1*を計算した後、ECU70は、ステップS215bにて、前記ステップS215aの場合と同様に、左前輪FW1のキャンバー角を、駆動回路91およびキャンバー角調整装置81との協働により異常時左前輪目標キャンバー角ξf1**に変更制御する。そして、ステップS216にてこの第1異常処理プログラムの実行が終了される。
このような第1キャンバー角異常処理プログラムを実行することによるキャンバー角制御の結果、左右前輪のいずれか一方のみのキャンバー角が調整不能の状態においても、その対称輪のキャンバー角を補正することによって、目標ヨーレートおよび目標横加速度に基づいて算出されたキャンバースラストと同じキャンバースラストを生じるようにキャンバー角制御が行われる。したがって、キャンバー角異常輪がある場合でもヨーレートおよび横加速度をともに制御することができる。すなわち、第1キャンバー角異常処理プログラムの実行により前輪正常輪のキャンバー角調整装置を制御することで、前輪にキャンバー角異常輪があるときでも、複数の車両の挙動状態を表す挙動状態量(本実施形態ではヨーレートおよび横加速度)が所定の目標値となるよう制御することができ、キャンバー角異常時における車両の挙動安定性がより向上する。
また、第2キャンバー角異常処理を行うときには、ECU70は図16に示す第2キャンバー角異常処理プログラムを実行する。この第2キャンバー角異常処理プログラムは図16のステップS220にて開始し、ステップS221にて異常輪が左後輪RW1であるかを判定する。異常輪が左後輪RW1であると判定した場合はステップS222aに進み、後輪のキャンバー角異常輪に作用する接地荷重である後輪キャンバー角異常輪荷重Fzdr、および、異常でない側の後輪、すなわち異常輪の対称輪に作用する接地荷重である後輪正常輪荷重Fzarを設定する。この場合において、後輪異常輪は左後輪RW1であるので、左後輪RW1に作用する接地荷重を検出している荷重センサ66cにより検出した接地荷重wr1が後輪キャンバー角異常輪荷重Fzdrとされる。また、後輪正常輪は右後輪RW2であるので、右後輪RW2に作用する接地荷重を検出している荷重センサ66dにより検出した接地荷重wr2が後輪正常輪荷重Fzarとされる。
ステップS222aにて後輪失陥輪荷重Fzdrおよび後輪正常輪荷重Fzarが設定された後に、ECUはステップS223aにて左右後輪荷重移動率ΔFzrを計算する。左右後輪荷重移動率ΔFzrは、上記第1実施形態にて説明した上記式21の実行により求められる。
続いて、ECU70は、ステップS224aにて、下記式51の実行により、異常時右後輪目標キャンバー角ξr2**を計算する。
ここで、第2キャンバー角異常処理プログラムにおいては、後輪のキャンバー角異常時における車両の挙動の安定化を図るために、後輪のキャンバー角異常時であっても、実ヨーレートおよび実横加速度が目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくなるように正常な後輪のキャンバー角を制御する。したがって、左後輪RWのキャンバー角の調整が異常である状態において、実ヨーレートおよび実横加速度を目標ヨーレートおよび目標横加速度と等しくするために発生すべきキャンバースラストを得るのに必要な右後輪(正常輪)の目標キャンバー角(異常時右後輪目標キャンバー角)をξr2**とすると、下記式52が成立する。
上記式51は、前記ξf2**を導出した場合と同様に、上記式52および上記式21から誘導される。なお、ステップS224aにおける計算が、本発明における異常時目標角度算出手段、および、異常時対称輪目標角度算出手段に相当する。
ステップS224aにて異常時右後輪目標キャンバー角ξr2**を計算した後は、ECU70は、ステップS225aにて、上記した前輪の場合と同様に、右後輪RW2のキャンバー角を駆動回路94およびキャンバー角調整装置84との協働により異常時右後輪目標キャンバー角ξr2**に変更制御する。そして、ステップS226にてこの第2キャンバー角異常処理プログラムの実行が終了される。
また、ステップS221にてキャンバー角異常輪が左後輪RW1ではない、つまりキャンバー角異常輪が右後輪RW2であると判定した場合はステップS222bに進み、後輪キャンバー角異常輪荷重Fzdr(=wr2)および後輪正常輪荷重Fzar(=wr1)を設定する。ついで、ステップS223bにて上記式21の実行により左右後輪荷重移動率ΔFzrを計算する。続いて、ECU70は、ステップS224bにて、下記式53の実行により、異常時左後輪目標キャンバー角ξr1**を計算する。
なお、上記式53は、上記式51と同様な方法で導かれる。このステップS224bは、本発明の異常時目標角度算出手段および異常時対称輪目標角度算出手段に相当する。
ステップS224bにて異常時左後輪目標キャンバー角ξr1**を計算した後は、ECU70はステップS125bにて、左後輪RW1のキャンバー角を、駆動回路93およびキャンバー角調整装置83との協働により異常時左後輪目標キャンバー角ξr1**に変更制御する。そして、ステップS226にてこの第2異常処理プログラムの実行が終了される。
このような第2キャンバー角異常処理プログラムを実行することによるキャンバー角制御の結果、左右後輪のいずれか一方のみの車輪にキャンバー角の制御異常が生じた場合においても、その対称輪のキャンバー角を補正することによって、目標ヨーレートおよび目標横加速度に基づいて算出されたキャンバースラストと同じキャンバースラストを生じるようにキャンバー角の制御が行われる。したがって、キャンバー角異常輪がある場合でもヨーレートおよび横加速度をともに制御することができる。すなわち、第2キャンバー角異常処理プログラムの実行により正常後輪のキャンバー角調整装置を制御することで、キャンバー角異常輪が後輪にあるときでも、複数の車両の挙動状態を表す挙動状態量(本実施形態ではヨーレートおよび横加速度)が所定の目標値となるよう制御することができ、キャンバー角異常時における車両の挙動安定性がより向上する。
また、第3キャンバー角異常処理を行うときは、ECU70は図17に示す第3キャンバー角異常処理プログラムを実行する。この第3キャンバー角異常処理は図17のステップS230で開始し、ステップS231にて前輪キャンバー角異常処理を行う。この前輪キャンバー角異常処理においては、上記第1キャンバー角異常処理にて説明した図15の第1キャンバー角異常処理プログラムと同じプログラムが実行される。次いで、ECU70は、ステップS232にて後輪キャンバー角異常処理を行う。この後輪キャンバー角異常処理においては、上記第2キャンバー角異常処理にて説明した図16の第2キャンバー角異常処理プログラムと同じプログラムが実行される前輪キャンバー異常処理および後輪キャンバー角異常処理を実行した後に、ステップS233にてこの第3キャンバー角異常処理プログラムの実行が終了される。
このような第3異常処理プログラムを実行することによる転舵制御の結果、前輪および後輪の両方にキャンバー角異常輪がある状態においても、その対称輪が正常輪であれば、対称輪のキャンバー角を補正することによって、目標ヨーレートおよび目標横加速度に基づいて算出されたキャンバースラストと同じキャンバースラストを生じるようにキャンバー角制御される。したがって、前後輪にキャンバー角異常輪がある場合でもヨーレートおよび横加速度をともに制御することができる。すなわち、第3異常処理プログラムの実行により正常前輪側および正常後輪側のキャンバー角を制御することで、前輪キャンバー角異常輪および後輪キャンバー角異常輪があるときでも、複数の車両の挙動状態を表す挙動状態量(本実施形態ではヨーレートおよび横加速度)が所定の目標値となるよう制御することができ、キャンバー角異常時における車両の挙動安定性がより向上する。
また、第4キャンバー角異常処理を行うときには、ECU70は図18に示す第4キャンバー角異常処理プログラムを実行する。この第4キャンバー角異常処理プログラムは図18のステップS250にて開始し、ステップS251にて左右前輪FW1,FW2のキャンバー角がともに異常(制御不能)であるかを判定する。左右前輪FW1,FW2がともに異常であると判定した場合はステップS252aに進み、下記式54の実行により、後輪の横力変更量ΔFyrを計算する。
上記式54に示される横力変更量ΔFyrは、2輪モデルにおける力のモーメントのつりあいの式(上記式8)において、ΔFyfに0を代入することにより導かれる。
続いて、ECU70は、ステップS253aにて、後輪側の横力変更量ΔFyrを左右輪に均等に分配して、左右後輪の目標横力変更量ΔFyr1,ΔFyr2を計算する。次いで、ステップS254aにて、下記式55,56の実行により、左右後輪の目標キャンバー角変更量ψr1*,ψr2*を計算する。
上記のようにして左右後輪の目標キャンバー角変更量ψr1*,ψr2*を計算した後は、ECU70は、ステップS255aにて、左右後輪RW1,RW2のキャンバー角を左右後輪目標キャンバー角変更ψr1*,ψr2*だけ変更するように、駆動回路93,94に指令信号を出力する。この指令信号を受けて、駆動回路93,94がキャンバー角調整装置の駆動を制御して、左右後輪RW1,RW2のキャンバー角が左右後輪目標キャンバー角変更量ψr1,ψr2だけ変更される。そして、ステップS256にてこの第4キャンバー角異常処理プログラムの実行が終了される。
また、ステップS251にて左右前輪FW1,FW2が異常ではない、すなわち左右後輪RW1,RW2が異常であると判定した場合はステップS252bに進み、下記式57の実行により、前輪の横力変更量ΔFyfを計算する。
ここで、上記式57に示される横力変更量ΔFyfは、2輪モデルにおける力のモーメントのつりあいの式(上記式8)において、ΔFyrに0を代入することにより導かれる。
続いて、ECU70は、ステップS253bにて、前輪側の横力変更量ΔFyfを左右輪に均等に分配して、左右前輪の横力変更量ΔFyf1,ΔFyf2を計算する。その後、ECU70は、ステップS254bにて、下記式58,59の実行により、左右前輪の目標キャンバー角変更量ψf1*,ψf2*を計算する。
上記のようにして左右前輪の目標キャンバー角変更量ψf1*,ψf2*を計算した後は、ECU70は、ステップS255bにて、左右前輪FW1,FW2のキャンバー角を左右前輪目標キャンバー角変更量ψf1*,ψf2*だけ変更するように、駆動回路91,92に指令信号を出力する。この指令信号を受けて、駆動回路91,92がキャンバー角調整装置81,82の駆動を制御して、左右前輪FW1,FW2のキャンバー角が左右前輪目標キャンバー角変更量ψf1,ψf2だけ変更される。そして、ステップS256にてこの第4キャンバー角異常処理プログラムの実行が終了される。
このような第4キャンバー角異常処理プログラムを実行することによるキャンバー角制御の結果、前輪の両輪がキャンバー角異常である場合には後輪のキャンバー角を、後輪の両輪がキャンバー角異常である場合には前輪のキャンバー角を制御する。このとき、制御の基礎となる目標キャンバー角は、上記式54または式57に基づいて計算される。ここで、上記式54,57は、ヨーレートによる力のモーメントと正常輪にて発生する横力とのつりあい(式8)から導かれたものである。したがって、正常輪のキャンバー角を補正して目標ヨーレートとなるように車両の挙動状態を制御していることになる。このように制御することによって、前輪の両輪あるいは後輪の両輪のキャンバー角が制御不能となった場合でも、車両の挙動状態を表す量であるヨーレートを制御し、車両の挙動を安定化することができる。
3輪がキャンバー角異常である場合は、ECU70は図19に示す第5キャンバー角異常処理プログラムを実行する。この第5キャンバー角異常処理プログラムは図19のステップS260にて開始し、ステップS261にて正常輪が前輪にあるかを判定する。正常輪が前輪にあると判定した場合はステップS262に進み、前輪の目標横力変更量ΔFyfを計算する。ΔFyfは、上記式55と同様な式により計算される。
続いて、ECU70は、ステップS263にて、左前輪が正常であるかを判定する。左前輪が正常である場合には、ステップS264aに進み、下記式60の実行により左前輪目標キャンバー角変更量ψf1*を計算する。
ここで、第5キャンバー角異常処理においては1輪のみのキャンバー角が制御可能であるので、前輪にて生じるキャンバースラストは、制御が可能である左前輪のみにて賄う必要がある。したがって、式60のように目標前輪横力変更量ΔFyfを左前輪のキャンバースティフネスκsf1で除して左前輪目標キャンバー角変更量ψf1*を決定する。次いで、ECU70は、ステップS265aにて左前輪FW1を左前輪目標キャンバー角変更量ψf1*だけ変更するように、駆動回路91に指令信号を出力する。この指令信号を受けて、駆動回路91がキャンバー角調整装置81の駆動を制御して、左前輪FW1のキャンバー角が左前輪目標キャンバー角変更量ψf1*だけ変更される。その後、ステップS270にて第5キャンバー角異常処理プログラムの実行が終了される。
一方、ステップS263にて左前輪が正常でないと判定した場合にはステップS264bに進み、正常輪である右前輪について、下記式61の実行により、右前輪目標キャンバー角変更量ψf2*を計算する。
次いで、ECU70は、ステップS265bにて右前輪FW2を右前輪目標キャンバー角変更量ψf2*だけ変更制御し、ステップS270にて第5キャンバー角異常処理プログラムの実行が終了される。
また、ステップS261にて正常輪が前輪でない場合、つまり正常輪が後輪にあると判定した場合には、ステップS266に進み、このステップS266にて後輪横力変更量ΔFyrを計算する。ΔFyrは、上記式54と同様な式により計算される。
続いて、ECU70は、ステップS267にて、左後輪が正常であるかを判定する。左後輪が正常である場合には、ステップS268aに進み、下記式62の実行により左後輪目標キャンバー角変更量ψr1*を計算する。
次いで、ECU70は、ステップS269aにて左後輪RW1を左後輪目標キャンバー角変更量ψr1*だけ変更制御し、ステップS270にて第5キャンバー角異常処理プログラムの実行が終了される。
一方、ステップS267にて左後輪が正常でないと判定した場合には、ステップS268bに進み、正常輪である右後輪について、下記式63の実行により右後輪目標キャンバー角変更量ψr2*を計算する。
次いで、ECU70は、ステップS269bにて右後輪RW2を右後輪目標キャンバー角変更量ψr2*だけ変更制御し、ステップS270にて第5キャンバー角異常処理プログラムの実行が終了される。
以上の説明からわかるように、本実施形態においては、第1キャンバー角異常処理、第2キャンバー角異常処理、第3キャンバー角異常処理を行う際に、ヨーレートセンサ65および横加速度センサ64によって検出されるヨーレートYrおよび横加速度GyがステップS52の計算によって得られた目標ヨーレートYr*および目標横加速度Gyと等しくなるように、キャンバー角異常輪の反対側の正常輪に取り付けられたキャンバー角調整装置、すなわち正常な調整が行われているキャンバー角調整装置を制御している。このような制御を行うことにより、キャンバー角異常時においてもヨーレートおよび横加速度の2つの車両挙動状態を示す量(車両挙動状態量)を制御することができるので、キャンバー各異常時における車両挙動の安定化を図ることができる。なお、本発明の第2実施形態においても、上記第1実施形態の変形例1,2,2−1,2−2にて説明した変形が可能であることは明らかである。
10…操舵ハンドル、20,30,40,50…転舵機構、22,32,42,52…電気アクチュエータ(車輪角度調整手段)、61…ハンドル操舵角センサ、62a,62b,62c,62d…転舵角センサ(車輪角度取得手段)、63…車速センサ、64…横加速度センサ(車両挙動状態量検出手段)、65…ヨーレートセンサ(車両挙動状態量検出手段)、66…ハンドル操舵角センサ、66a,66b,66c,66d…荷重センサ(接地荷重取得手段)、67…ロール角センサ、68a,68b,68c,68d…キャンバー角センサ(車輪角度取得手段)、81,82,83,84…キャンバー角調整装置(車輪角度調整手段)