JP4911855B2 - 生体親和性に優れた骨代替材料の製造方法 - Google Patents

生体親和性に優れた骨代替材料の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体親和性に優れた骨代替材料とその製造方法に関し、より詳細には、少なくとも表面がチタンまたはチタン合金からなる基材を用いた骨代替材料とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
チタンまたはチタン合金(以下、単にチタン合金ということがある)は機械的特性に優れ、体液に対する耐食性が良好で、且つ、生体に対する毒性も極めて低いことから、骨代替材料用金属として一般的に用いられている。ところが、チタン合金には生体親和性(以下、生体活性ということがある)が低いという問題点がある。即ち、骨代替材料には生体骨と直接結合する生体活性が要求されるが、チタン合金は生体骨との親和性が低く、生体骨との結合に長時間を要する。そこで、チタン合金を骨代替材料として用いる場合、何らかの手法でチタン合金に生体骨との結合能を付与する試みがなされてきた。チタン合金が生体活性を示すための条件は、体液中でその表面に骨の主成分であるヒドロキシアパタイト(以下、HAPという)層が形成されることである。HAPは生体活性に優れ、生体骨と直接結合する性質を有しており、生体活性に対してHAPの果たす役割は大きい。
【0003】
かかるHAPを利用した技術として、HAPを含む生体活性材料でチタン合金をコーティングすることにより、生体骨との親和性を高める技術が提案され、実用化されている。そのうち代表的な手法は、チタン合金表面にプラズマ溶射等の手法で生体活性材料をコートするものであるが、この方法を実施するには、比較的高価なHAP粉末が必要となり、しかもこのHAP粉末を基材(チタンまたはチタン合金)表面に溶射するには大掛かりな装置が必要となるのでコスト高となる。また、溶射法により形成した生体活性層は母材との結合力が低いという欠点を有するばかりでなく、生体活性材料が溶射熱により変質し本来の性能を失う可能性がある。
【0004】
他方、特許第2661451号(特許文献1)および特許第3129041号(特許文献2)には、陽極酸化法によりチタン合金表面にHAPを形成させる技術が記載されている。この方法では、CaイオンとPイオンを含む電解溶液中でチタン合金に陽極酸化処理を施し、表面にCaとPを含む陽極酸化層の形成が行なわれるが、HAPの結晶化を促進するため100〜500℃の高温で水熱処理しなければならず、そのための特殊な高圧装置が必要となる。しかも、この方法で形成されたHAPは結晶性が非常に高いため生体骨に含まれるHAPと構造的に大きく異なっており、生体骨と結合する能力は低いと予想される。
【0005】
また、特許第2775523号公報(特許文献3)には、チタン合金からなる基材の表面をアルカリ水溶液で処理した後に、加熱処理すると、生体活性を付与できることが記載されている。同様に、チタン合金からなる基材の表面を塩化タンタル含有過酸化水素水で処理した後に、加熱処理し、表面にアナターゼ型の酸化チタン層を形成すると生体活性が付与されることも報告されている(J.Biomed.Mater.Res.、52(1)、171−176.2000、非特許文献1)。
【0006】
この他に、カルシウムイオン含有電解溶液中で陽極分極し、次いで同溶液中で陰極分極する電気化学的処理により、純チタンに生体活性を付与できることも実験的に確認されている(日本セラミックス協会第12回秋季シンポジウム講演予稿集、P42.1999、非特許文献2)。この方法では、一連の電気化学的処理によりチタン表面に炭酸カルシウムおよび水酸化カルシウムが形成される。しかし、これらの化合物はアルカリ性が強いため、生体に対して悪影響を及ぼす可能性が高い。
【0007】
【特許文献1】
特許第2661451号公報、特許請求の範囲
【特許文献2】
特許第3129041号公報、特許請求の範囲
【特許文献3】
特許第2775523号公報、特許請求の範囲
【非特許文献1】
「ジャーナル オブ バイオメディカル マテリアル リサーチ(JOURNAL OF BIOMEDICAL MATERIALS RESEARCH)」、2000年、第52巻、1号、p171−176
【非特許文献2】
「日本セラミックス協会第12回秋季シンポジウム講演予稿集」、日本セラミックス協会、1999年、P42
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、少なくとも基材表面がチタンまたはチタン合金からなる部材に、前記生体活性付与法より簡便な方法で生体内において長期間使用可能で強固な生体活性層を形成し、生体親和性に優れた骨代替材料とその製法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の骨代替材料は、少なくとも基材表面がチタンまたはチタン合金からなり、その表面にCaとPの両方を同時に含むことがない生体活性の陽極酸化層を有する骨代替材料において、前記陽極酸化層の少なくとも一部がアナターゼ型の酸化チタンからなるところに要旨を有しており、前記陽極酸化層中には、アナターゼ型酸化チタンと結晶面(101)に配向しているルチル型酸化チタンが共存していることが好ましい。
【0010】
このように、陽極酸化層中にアナターゼ型酸化チタンと(101)面に配向したルチル型酸化チタンが共存していると、前記陽極酸化層中にCaやPを含まなくても、優れた生体親和性を発現することができる。
【0011】
さらに、前記陽極酸化層上にアパタイトを主成分とする被膜を形成しておけば、生体内での速やかな骨結合を増進することができるので好ましい。
【0012】
また、本発明に係る製法は、上記骨代替材料を製造する方法として位置付けられるもので、その構成は、少なくとも基材表面がチタンまたはチタン合金である部材を、CaイオンとPイオンの両方を同時に含むことがない電解溶液中で陽極酸化するところに要旨を有している。
【0013】
この方法を実施するに当たっては、前記陽極酸化の後に、加熱処理を行なえば、陽極酸化層中にアナターゼ型酸化チタンの形成をより促進できるので好ましい。また、生体内でより速やかな骨結合を進めるため、前記陽極酸化または加熱処理に次いでカルシウムとリンをアパタイトの溶解度以上含む溶液に浸漬することも推奨される。
【0014】
また前記陽極酸化は、硫酸もしくは硫酸塩を含む電解溶液中で行なうのが最も効率的である。
【0015】
【発明の実施の形態】
発明者らは、チタン合金の表面処理法として一般的に用いられている陽極酸化法に着目し、チタン合金に生体活性を付与する技術について鋭意検討を進めた。その結果、上記方法で表面にアナターゼ型酸化チタン層または(101)面に配向したルチル型酸化チタン層を形成させたチタン合金部材は、ヒトの体液に近いイオン濃度を有する擬似体液に浸漬すると数日の間に表面にアパタイトが形成され、良好な生体活性を有することを見出した。
【0016】
チタン合金よりなる基材を電解溶液中で陽極酸化すると、基材表面に酸化チタンからなる陽極酸化層が形成される。そして、後述する本発明の条件で形成した陽極酸化層を薄膜X線回折により分析したところ、陽極酸化層中の酸化チタンは、アナターゼ型およびルチル型の結晶構造を呈していることが分かった。また、陽極酸化時の電圧が火花放電を生じる電圧より低い場合、表面に形成される陽極酸化層には、アナターゼ型酸化チタンが僅かに検出されるにすぎなかったが、火花放電を生じる電圧以上の電圧で陽極酸化して得たルチル型酸化チタンには、結晶面(101)に相当するピークが強く検出され、ルチル型酸化チタン層の表面は、結晶面(101)に配向していることが確認された。
【0017】
そして、アナターゼ型酸化チタン層および(101)面に配向したルチル型酸化チタン層を有する上記基材を、ヒトの体液に近いイオン濃度を有する擬似体液に浸漬すると、数日の間に基材表面にアパタイトが形成された。このことから、アナターゼ型および(101)面に配向したルチル型の結晶構造を有する基材は生体活性を有することが分かる。実験的に評価する場合、生体活性を有するとは、擬似体液中でアパタイトを形成し得る能力を有することであり、このようなアパタイト形成能を有する材料は生体内において生体骨と結合する能力を有すると考えられる。
【0018】
一般に、アパタイトは六方晶型の結晶構造を呈することが知られている。特に、擬似体液中で形成させたアパタイトは、薄膜X線回折のc面((004)面)に相当するピークが強く検出されることから、主にc軸に配向していると考えられる。つまり、基材表面とアパタイトのc面が接している可能性が高いのである。
【0019】
そこで、アパタイトのc面とアナターゼ型酸化チタンおよび(101)面に配向したルチル型酸化チタンの結晶構造について検討してみたところ、図1に示すように、アナターゼ型酸化チタン(110)面とルチル型酸化チタン(101)面の結晶構造には、酸素原子配列が原子間距離の点でアパタイトのc面とほぼ一致する部分があり、これら三者の酸素原子配列には高い類似性が存在することが分かった。
【0020】
通常、ある基材表面に別の化合物を形成させると、両者の間で原子配列が異なるため、境界部に界面が存在し、境界部分には界面エネルギーが存在する。ところが、本発明に係る骨代替材料の如く、基材上における陽極酸化層中のルチル型酸化チタン層(101)面やアナターゼ型酸化チタン(110)面とアパタイトのc面のようにお互いの原子配列が類似していると、基材と化合物の境界部に明確な界面が見られなくなり、基材と化合物があたかも連続した様な組織形態となり、界面エネルギーが小さくなって化合物の形成が起こり易くなると考えられる。このように、基材表面にアパタイトc面の酸素原子配列と類似した結晶構造を有する酸化チタン層を形成させれば、基材表面にCaとPを含まなくても生体活性を有する陽極酸化層を確保できるのである。
【0021】
本発明に係る生体親和性に優れた骨代替材料は、次のような形態で実施される。
【0022】
本発明に係る骨代替材料は、所要形状寸法のチタン合金よりなる基材を洗浄し乾燥した後、該試料を陽極として電解溶液中において硫酸等の酸性水溶液中で陽極酸化することにより、基材表面に酸化チタンからなる陽極酸化層を形成して成るものである。この時に用いる基材としては、少なくとも表面がチタンまたはチタン合金により構成されておればよい。
【0023】
上述したように、本発明によって形成した陽極酸化層中の酸化チタンは、その原子配列が、アパタイトの結晶構造と非常に高い類似性を有するため、陽極酸化層中にCaとPを含有させておく必要がない。よって、従来のように陽極酸化時の電解溶液に、CaとPを両方含有させる必要がなく、リン酸、酢酸、硫酸、硫酸塩溶液、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等の単一の溶液、またはこれらの混合溶液を用いても良い。これらの中でも、特に、硫酸および硫酸塩を含む水溶液を用いると、アナターゼ型酸化チタンの形成に有利であるため好ましい。
【0024】
陽極酸化時の電圧は、表面に形成される酸化チタン層のアナターゼ型酸化チタンおよびルチル型酸化チタンの存在比や、ルチル型酸化チタンの結晶面の配向に影響を与えるため、陽極酸化に用いる電解溶液種に応じて設定すればよい。電圧の範囲は特に限定されないが、火花放電を生じる電圧以下で陽極酸化を行なうと、表面に形成される陽極酸化層中のアナターゼ型酸化チタンがわずかに検出される程度にすぎなくなるので、いずれの電解溶液を用いる場合も火花放電が起こる程度の電圧に設定するのが好ましい。
【0025】
また、陽極酸化時の電解溶液種や電圧などの条件によって、生体活性を発現させるのに十分なアナターゼ型酸化チタン層を形成できない場合は、陽極酸化後に、アナターゼ型酸化チタンの析出が進行するのに好ましい温度で加熱処理行なうことで、生体活性を発現するのに十分な量のアナターゼ型酸化チタンを形成させることができる。
【0026】
通常、チタン合金を酸素の存在下で加熱処理すると、その表面に酸化チタン層が形成される。例えば、約700℃を超える温度で純チタンを加熱処理すると、表面には、ほぼ単層のルチル型酸化チタン層が形成されるが、このような手法で形成されたルチル型酸化チタンは、(101)面に配向していないため、酸素の原子配列の点においてアパタイトの結晶構造との類似性が低く、アパタイト形成能を示さない。よって加熱処理は、500℃以上、700℃以下の温度で行なうのが好ましい。加熱処理の温度が500℃よりも低い場合、アナターゼ型酸化チタンの形成が進行せず、基材に生体活性層を付与することができない。また、加熱処理の温度が700℃を超えるとアナターゼ型酸化チタンよりも、(101)面に配向していないルチル型酸化チタンの形成が中心となるため好ましくない。より好ましい加熱処理温度は550℃以上、650℃以下である。この様に簡便な手法で(101)面に強く配向したルチル型酸化チタンを形成する手法は他に例が無く、この点からも非常に特徴的な手法である。
【0027】
チタン合金からなる表面に上記のようなアナターゼ型酸化チタン等の薄層を形成させる他の方法として、ゾルゲル法が挙げられる。この方法では、目的とする薄層を基材表面に均一に形成させることは可能であるが、形成された層と基材との結合力は非常に弱い。よって、骨代替材料への生体活性層の形成法としてゾルゲル法を適用した場合、骨との強固な結合は期待できない。
【0028】
一方、上記の如く陽極酸化により形成した酸化チタン層は、基材と強固に結合することを確認している。
【0029】
また、上述した陽極酸化によって特定の酸化チタン層を形成させた後、アパタイトの溶解度以上のカルシウムやリンを含む水溶液中、望ましくは擬似体液中に浸漬し、基材表面に予め、アパタイトを形成させておくことは、好ましい実施態様として推奨される。特に、体液に近いイオン濃度を有する擬似体液中で形成されたアパタイトは、その組成および構造が骨のアパタイトの組成および構造に近似しているため、予めアパタイトを形成させておくことで、生体内で速やかな骨結合が期待できるからである。
【0030】
陽極酸化法は、工業的に一般的な手法であり、本発明の方法によればチタンまたはチタン合金に非常に簡便に生体活性を付与するすることができる。また、陽極酸化により表面に形成される酸化チタン層は、基材との結合力が強く摩擦や剥離等のストレスに対する抵抗性が高い。よって、本発明の骨代替材料は生体内において骨と強く結合し、長期間に渡って安定して使用可能である。
【0031】
【実施例】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本発明の技術範囲に包含される。
【0032】
〔実施例1〕
1.0mol/lの硫酸水溶液中で、それぞれ90V、105V、155V、180Vの電圧をかけて純チタン板(10×10×1mm3)を陽極酸化し、試料1〜4を作製した。
【0033】
〔実施例2〕
濃度が0.25mol/l、0.5mol/l、1.5mol/l、3.0mol/lであるそれぞれの硫酸水溶液中で、155Vの電圧をかけて純チタン板を陽極酸化し、試料5、6、7、8を作製した。
【0034】
〔実施例3〕
0.5mol/lの硫酸アンモニウム水溶液中で、90Vの電圧をかけて純チタン板を陽極酸化して試料9を、110Vの電圧で試料10を作製した。
【0035】
〔実施例4〕
1.0mol/lの硫酸アンモニウム水溶液中で、90Vの電圧をかけて純チタン板を陽極酸化して試料11を、110Vの電圧で試料12を作製した。
【0036】
〔実施例5)
0.5mol/lの硫酸ナトリウム水溶液中で、155Vの電圧をかけて純チタン板を陽極酸化して試料13を、180Vの電圧で試料14を作製した。
【0037】
〔実施例6〕
1.0mol/lの硫酸ナトリウム水溶液中で、155Vの電圧をかけて純チタン板を陽極酸化して試料15を、185Vの電圧で試料16を作製した。
【0038】
〔実施例7〕
0.1mol/lのリン酸水溶液中で、70Vの電圧をかけて純チタン板を陽極酸化して試料17を、同様に陽極酸化を行なった後600℃で加熱処理を行なって試料18を作製した。
【0039】
〔実施例8〕
1.0mol/lのリン酸水溶液中で、70Vの電圧をかけて純チタン板を陽極酸化して試料19を、同様に陽極酸化した後600℃で加熱処理を行なって試料20を作製した。
【0040】
〔実施例9〕
1.0mol/lのリン酸水溶液中で、155vの電圧をかけて純チタン板を陽極酸化して試料21を、同様に陽極酸化した後600℃で加熱処理を行なって試料22を作製した。
【0041】
〔実施例10〕
1.0mol/lの水酸化ナトリウム水溶液中で、30Vの電圧をかけて純チタン板を陽極酸化して試料23を、同様の陽極酸化に次いで600℃で加熱処理を行なって試料24を作製した。
【0042】
〔実施例11〕
1.0mol/lの水酸化ナトリウム水溶液中で、70Vの電圧をかけて純チタン板を陽極酸化して試料25を、同様に陽極酸化した後600℃で加熱処理を行なって試料26を作製した。
【0043】
それぞれの条件で作製した試料表面を薄膜X線回折により分析し、アナターゼ型酸化チタンおよびルチル型酸化チタンの析出状態を調べた。ルチル型酸化チタンの(101)面配向の有無については、薄膜X線回折測定により得られたピーク強度の比較によって評価した。アナターゼ型酸化チタン由来のピークは、2θが25°付近に見られる。ルチル型酸化チタンの(110)面由来のピークは2θが27°付近に見られ、(101)面由来のピークは36°付近に見られる。ルチル型酸化チタンの標準試料で同様の分析を行なうと、(110)面由来のピーク強度と(101)面由来のピーク強度の比はおよそ2:1となる。この(101)面由来のピーク強度が(110)面由来のピーク強度の1/2を明らかに超えた場合に(101)面配向「有り」と評価することとした。それぞれのピーク強度を判断し、アナターゼ型酸化チタンおよびルチル型酸化チタンが析出しなかったものを「−」、少量析出したものを「+」、中量析出したものを「++」、多量析出したものを「+++」と評価した。
【0044】
また、それぞれの試料の生体活性を評価するため、37℃の擬似体液中(イオン濃度Na+:142.0mM、K+:5.0mM、Mg2+:1.5mM、Ca2+:2.5mM、Cl-:148.8mM、HPO4 2-:1.0mM、SO4 2-:0.5mM)に3日間、または7日間浸漬した際の試料表面におけるアパタイト形成状況を走査型電子顕微鏡(SEM)にて確認した。アパタイトを形成しなかったものを×、アパタイトを形成したものを○、アパタイトを著しく形成したものを◎と評価した。
【0045】
陽極酸化のみの処理を行なって作製した試料(試料1〜16)の処理条件および分析結果を表1に、陽極酸化に次いで加熱処理を行なって作製した試料(試料17〜26)の処理条件および分析結果を表2にまとめた。
【0046】
【表1】
Figure 0004911855
【0047】
【表2】
Figure 0004911855
【0048】
試料1〜16の全てが陽極酸化のみでアナターゼ型酸化チタン単相、またはアナターゼ型酸化チタンとルチル型酸化チタンの混合相の陽極酸化層を形成し、擬似体液中でアパタイト形成能を有することを確認した。特に、試料2、3、6、7、10、12ではアナターゼ型酸化チタンの析出量が多く、旦つ、ルチル型酸化チタンが(101)面に配向しているため良好なアパタイト形成能を示すことが確認された。
【0049】
図2に、試料2、3および4の薄膜X線分析結果を示した。試料2ではアナターゼ型酸化チタンのピークが顕著に認められ、ルチル型酸化チタンのピークは僅かであった。この結果と試料2、3および4が良好なアパタイト形成能を有することから、ほぼアナターゼ型酸化チタンのみで良好なアパタイト形成能を発現することが分かる。一方、試料3および4において、ルチル型酸化チタンの(110)面と(101)面に由来するピークが顕著に見られた。これらのピーク強度を比較すると、(101)面のピーク強度が(110)面のピーク強度の1/2を明らかに超えており、これらの試料に析出したルチル型酸化チタンには(101)面への配向性があると判断できる。特に、試料4ではアナターゼ型酸化チタンの析出が僅かであるにも関わらず、良好なアパタイト形成能を発現していることから、(101)面に配向したルチル型酸化チタンがアパタイト形成能の発現に寄与していることが分かる。
【0050】
表2より、陽極酸化のみでアナターゼ型酸化チタンやルチル型酸化チタンを明確に析出できず、アパタイト形成能を示さない場合でも、陽極酸化に次いで600℃で加熱処理することによりアパタイト形成能を示すようになることを確認した。この結果は、加熱処理によりアナターゼ型酸化チタンやルチル型酸化チタンの析出が進行することで、アパタイト形成能が発現したと考えられる。しかし、これらの試料に析出したルチル型酸化チタンに(101)面の配向が見られないため、主にアナターゼ型酸化チタンがアパタイト形成能の発現に寄与しているものと考えられる。
【0051】
〔実施例12〕
硫酸水溶液1.0mol/lの電解溶液中で155Vの電圧をかけて純チタン板(10×10×1mm3)を陽極酸化し、さらに600℃で加熱処理した試料を37℃の擬似体液(実施例1〜11と同様)に7日間浸漬し、その表面に厚さ約10μmのアパタイト層を形成させた。次にチタン基板上のアパタイト層の表面に基板面と同じ面積(10×10mm)のステンレス鋼ジグを付着させた。ジグの付着にはエポキシ系のアラルダイト接着剤を用い、接着剤部分の厚さは約0.2mmとした。基板に対して垂直に引張り荷重を加えたところ、約20MPaの強度で破壊した。破壊後の基板表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)により元素分布を調べた結果を図3に示す。
【0052】
CaおよびPが分布している部分はアパタイト層の表面を、Tiが分布している部分は陽極酸化処理表面を示している。図3の結果より、破壊は、ほぼアパタイトと接着剤の界面で生じたと判断され、純チタン基板と陽極酸化処理層が強固に結合していると結論付けられる。
【0053】
【発明の効果】
本発明に係る骨代替材料は、チタンまたはチタン合金を電解溶液中で陽極酸化することで、陽極酸化層にCaとPを同時に含ませなくてもチタンまたはチタン合金に良好な生体活性を付与することができ、基材と強固に結合した生体活性を有する陽極酸化層を得ることができる。即ち、本発明によれば簡便な手法で生体内で長期間使用可能な、生体活性に優れた骨代替材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】アパタイトc面(004)、アナターゼ(110)面、ルチル(101)面の酸素の原子配列を示す模式図である。
【図2】陽極酸化後の試料2、3および4のX線回折結果を示すスペクトルである。
【図3】アパタイト層/陽極酸化層の基材との接着強度評価後の剥離界面の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察結果およびエネルギー分散型X線分光分析(EDX)による元素分布を示す像である。

Claims (3)

  1. 少なくとも表面がチタンまたはチタン合金からなる基材を、硫酸を含む電解溶液中、
    火花放電が発生し、かつ、
    前記基材表面に、アナターゼ型の酸化チタンと、(101)面のピーク強度が(110)面のピーク強度の1/2を超えるルチル型酸化チタンとの混合相を形成する電圧で
    陽極酸化することを特徴とする骨代替材料の製造方法。
  2. 前記陽極酸化の後に、加熱処理を行なう請求項1に記載の骨代替材料の製造方法。
  3. 前記陽極酸化に次いで、または加熱処理に次いで、カルシウムとリンをアパタイトの溶解度以上含む溶液に浸漬する請求項1または2に記載の骨代替材料の製造方法。
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