JP4910856B2 - Euvリソグラフィ用反射型マスクブランク、および該マスクブランク用の機能膜付基板 - Google Patents

Euvリソグラフィ用反射型マスクブランク、および該マスクブランク用の機能膜付基板 Download PDF

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本発明は、半導体製造等に使用されるEUV(Extreme Ultraviolet:極端紫外)リソグラフィ用反射型マスクブランク(以下、本明細書において、「EUVマスクブランク」という。)、および該EUVマスクブランクの製造に使用される機能膜付基板、ならびに該EUVマスクブランクをパターニングしたEUVマスクに関する。
従来、半導体産業において、シリコン基板等に微細なパターンからなる集積回路を形成する上で必要な微細パターンの転写技術として、可視光や紫外光を用いたフォトリソグラフィ法が用いられてきた。しかし、半導体デバイスの微細化が加速している一方で、従来のフォトリソグラフィ法の限界に近づいてきた。フォトリソグラフィ法の場合、パターンの解像限界は露光波長の1/2程度であり、液浸法を用いても露光波長の1/4程度と言われており、ArFレーザ(193nm)の液浸法を用いても45nm程度が限界と予想される。そこで45nm以降の露光技術として、ArFレーザよりさらに短波長のEUV光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。本明細書において、EUV光とは、軟X線領域または真空紫外線領域の波長の光線を指し、具体的には波長10〜20nm程度、特に13.5nm±0.3nm程度の光線を指す。
EUV光は、あらゆる物質に対して吸収されやすく、かつこの波長で物質の屈折率が1に近いため、従来の可視光または紫外光を用いたフォトリソグラフィのような屈折光学系を使用することができない。このため、EUV光リソグラフィでは、反射光学系、すなわち反射型フォトマスクとミラーとが用いられる。
マスクブランクは、フォトマスク製造に用いられるパターニング前の積層体である。EUVマスクブランクの場合、ガラス製等の基板上にEUV光を反射する反射層と、EUV光を吸収する吸収体層とがこの順で形成された構造を有している。反射層としては、高屈折層であるモリブデン(Mo)層と低屈折層であるケイ素(Si)層とを交互に積層することで、EUV光を層表面に照射した際の光線反射率が高められた多層反射膜が通常使用される。
吸収体層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的にはたとえば、クロム(Cr)やタンタル(Ta)を主成分とする材料が用いられる。
上記反射層と吸収体層の間には、通常、反射層表面の酸化を防止するために、保護層が形成される。保護層の材料としては、Siが従来広く使用されていた。これに対し、特許文献1には保護層の材料として、ルテニウム(Ru)の使用が提案されている。
保護層の材料としてRuを用いた場合、吸収体層に対して高いエッチング選択比が得られるとともに、Si膜を保護層として用いる場合と比較して、高反射率が得られる。しかしながら、保護層の材料としてRuを用いた場合、マスク製造時の加熱工程(例えば、レジストベーキング工程)、あるいはEUV露光時に、Ru保護層と多層反射膜の最表層のSi層との間で拡散層が形成され、さらにはその拡散層が酸化されるため、反射層の反射率が低下するという問題がある。
特に、EUV露光時の反射率の低下は、経時的に進行するので、露光条件を途中で変更する必要が生じたり、マスクの寿命が短くなったりする。
このような問題を解決するため、特許文献2には、Ruと、Mo、Nb、Zr、Y、B、Ti、Laから選ばれる少なくとも1種とを含有するルテニウム化合物(Ru含有量10〜95at%)からなる保護層が提案されている。
この保護層の場合、マスク製造時の加熱工程(レジストベーキング)において、ルテニウム化合物からなる保護層と多層反射膜表層のSi層との間での拡散層形成を抑制することが可能であると記載されている。
特開2002−122981号公報 特開2005−268750号公報
しかしながら、特許文献2に記載の保護層の場合、EUV露光時における反射率の低下を抑制する効果があるのか明確ではなく、さらにルテニウム化合物に含まれるMo等の元素は、Ruに比べてエッチング速度が速いため、これらの元素の含有量が多いと保護層としてのエッチング特性が悪化するという問題がある。
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、EUV露光時の反射率低下が抑制されたEUVマスクブランク、および該EUVマスクブランクの製造に使用される機能膜付基板を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、Ruを材料として含む保護層の結晶構造をアモルファス化することにより、保護層と多層反射膜表層のSi層との間での拡散層形成を抑制することができ、EUV露光時の反射率低下を抑制することができることを見出した。
そして、本発明者らは、保護層の結晶構造をアモルファス化するには、該保護層の成分をRuと、ホウ素(B)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選択される少なくとも1つと、し、かつ各成分の比率を特定の範囲とするのが効果的であることを見出した。
本発明は、上記した本発明者らの知見に基づいてなされたものであり、基板上に、EUV光を反射する反射層と、該反射層を保護する保護層とがこの順に形成されたEUVリソグラフィ用反射層付基板であって、
前記保護層が、ルテニウム(Ru)と、ホウ素(B)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選択される少なくとも1つと、を成分とし、
前記保護層におけるRuの含有率が70at%〜95at%、前記BおよびZrの合計含有率が5at%〜30at%であることを特徴とするEUVリソグラフィ用反射層付基板を提供する。
また、本発明は、基板上に、EUV光を反射する反射層と、該反射層を保護する保護層とがこの順に形成されたEUVリソグラフィ用反射層付基板であって、
前記保護層が、Ruと、BおよびZrからなる群から選択される少なくとも1つと、を成分とし、
前記保護層は、前記反射層側におけるBおよびZrの合計含有率が高く、表面側におけるBおよびZrの合計含有率が低くなるように、前記保護層におけるBおよびZrの合計含有率が該保護層の厚さ方向に沿って変化する傾斜組成膜であり、
前記反射層側におけるBおよびZrの合計含有率が5at%〜30at%であり、
前記表面側におけるBおよびZrの合計含有率が0at%〜20at%であることを特徴とするEUVリソグラフィ用反射層付基板を提供する。
以下、本明細書において、[0010]、[0011]に記載のEUVリソグラフィ用反射層付基板を総称して「本発明の反射層付基板」ともいう。
本発明の反射層付基板において、前記保護層の結晶状態が、アモルファスであることが好ましい。
また、本発明は、基板上に、EUV光を反射する反射層と、該反射層を保護する保護層とがこの順に形成されたEUVリソグラフィ用反射層付基板であって、
前記保護層が、ルテニウム(Ru)と、ホウ素(B)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選択される少なくとも1つの元素と、を成分とし、
前記保護層におけるRuの含有率が70at%〜95at%、前記BおよびZrの合計含有率が5at%〜30at%であり、
前記保護層の結晶構造がアモルファスであることを特徴とするEUVリソグラフィ用反射層付基板を提供する。
また、本発明は、基板上に、EUV光を反射する反射層と、該反射層を保護する保護層とがこの順に形成されたEUVリソグラフィ用反射層付基板であって、
前記保護層が、Ruと、BおよびZrからなる群から選択される少なくとも1つの元素と、を成分とし、
前記保護層は、前記反射層側におけるBおよびZrの合計含有率が高く、表面側におけるBおよびZrの合計含有率が低くなるように、前記保護層におけるBおよびZrの合計含有率が該保護層の厚さ方向に沿って変化する傾斜組成膜であり、
前記反射層側におけるBおよびZrの合計含有率が5at%〜30at%であり、
前記表面側におけるBおよびZrの合計含有率が0at%〜20at%であり、
前記保護層の結晶構造がアモルファスであることを特徴とするEUVリソグラフィ用反射層付基板を提供する。
以下、本明細書において、[0014]、[0015]に記載のEUVリソグラフィ用反射層付基板についても総称して「本発明の反射層付基板」ともいう。
本発明の反射層付基板において、前記保護層が下記のいずれかの固溶体よりなることが好ましい。
・RuとBとの固溶体
・RuとZrとの固溶体
・Ru、BおよびZrの固溶体
本発明の反射層付基板において、前記保護層がRuと、Bと、を成分とする場合、前記保護層の結晶状態が真空中(1Pa以下)、200℃までアモルファスを維持することが好ましい。
本発明の反射層付基板において、前記保護層がRuと、Zrと、を成分とする場合、前記保護層の結晶状態が、真空中(1Pa以下)、400℃までアモルファスを維持することが好ましい。
本発明の反射層付基板において、前記保護層表面の表面粗さが0.5nm rms以下であることが好ましい。
本発明の反射層付基板において、前記保護層の膜厚が1〜10nmであることが好ましい。
また、本発明は、上記した本発明の反射層付基板の保護層上に吸収体層を形成してなるEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク(以下、「本発明のEUVマスクブランク」ともいう。)を提供する。
本発明のEUVマスクブランクにおいて、前記吸収体層がタンタル(Ta)を主成分とする材料で形成されることが好ましい。
本発明のEUVマスクブランクにおいて、前記保護層と前記吸収体層とのエッチング選択比が、プラズマエッチングを用いた場合、10以上であることが好ましい。
本発明のEUVマスクブランクにおいて、前記吸収体層上に、タンタル(Ta)を主成分とする材料で形成された、マスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層が設けられていることが好ましい。
吸収体層上に低反射層が形成されている場合において、吸収体層に形成されるパターンの検査に用いられる光の波長に対する前記保護層表面での反射光と、前記低反射層表面での反射光と、のコントラストが、30%以上であることが好ましい。
また、本発明は、上記した本発明のEUVマスクブランクをパターニングしたEUVリソグラフィ用反射型マスク(以下、「本発明のEUVマスク」ともいう。)を提供する。
本発明の反射層付基板では、保護層形成時に保護層と多層反射膜表層のSi層との間での拡散層形成を抑制できる。これにより、拡散層形成による反射率低下が抑制される。
本発明のEUVマスクブランクでは、レジストベーキングのような加熱処理の際に、保護層と多層反射膜表層のSi層との間での拡散層形成を抑制できる。これにより、拡散層形成による反射率低下が抑制される。
本発明のEUVマスクでは、EUV露光時に、保護層と多層反射膜表層のSi層との間での拡散層形成を抑制できる。これにより、拡散層形成による反射率低下が抑制される。したがって、本発明のEUVマスクは、反射率の経時的な変化が小さく、信頼性の高いEUVマスクである。
以下、図面を参照して本発明のEUVマスクブランクを説明する。
図1は、本発明のEUVマスクブランクの1実施形態を示す概略断面図である。図1に示すマスクブランク1は、基板11上にEUV光を反射する反射層12と、該反射層12を保護するための保護層13と、がこの順に掲載されている。該保護層13上には、吸収体層14が形成されている。
以下、マスクブランク1の個々の構成要素について説明する。
基板11は、EUVマスクブランク用の基板としての特性を満たすことが要求される。そのため、基板11は、低熱膨張係数(0±1.0×10-7/℃であることが好ましく、より好ましくは0±0.3×10-7/℃、さらに好ましくは0±0.2×10-7/℃、さらに好ましくは0±0.1×10-7/℃、特に好ましくは0±0.05×10-7/℃)を有し、平滑性、平坦度、およびマスクブランクまたはパターン形成後のフォトマスクの洗浄等に用いる洗浄液への耐性に優れたものが好ましい。基板11としては、具体的には低熱膨張係数を有するガラス、例えばSiO2−TiO2系ガラス等を用いるが、これに限定されず、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスや石英ガラスやシリコンや金属などの基板を用いることもできる。また、基板11上に応力補正膜のような膜を形成してもよい。
基板11は、0.15nm rms以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有していることがパターン形成後のフォトマスクにおいて高反射率および転写精度が得られるために好ましい。
基板11の大きさや厚みなどはマスクの設計値等により適宜決定されるものである。後で示す実施例では外形6インチ(152.4mm)角で、厚さ0.25インチ(6.3mm)のSiO2−TiO2系ガラスを用いた。
基板11の反射層12が形成される側の表面には欠点が存在しないことが好ましい。しかし、存在している場合であっても、凹状欠点および/または凸状欠点によって位相欠点が生じないように、凹状欠点の深さおよび凸状欠点の高さが2nm以下であり、かつこれら凹状欠点および凸状欠点の半値幅が60nm以下であることが好ましい。
反射層12は、EUVマスクブランクの反射層として所望の特性を有するものである限り特に限定されない。ここで、反射層12に特に要求される特性は、高EUV光線反射率であることである。具体的には、EUV光の波長領域の光線を反射層12表面に入射角度6度で照射した際に、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値が60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。また、反射層12の上に保護層13を設けた場合であっても、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値が60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。
反射層12は、高EUV光線反射率を達成できることから、通常は高屈折層と低屈折率層を交互に複数回積層させた多層反射膜が反射層12として用いられる。反射層12をなす多層反射膜において、高屈折率層には、Moが広く使用され、低屈折率層にはSiが広く使用される。すなわち、Mo/Si多層反射膜が最も一般的である。但し、多層反射膜はこれに限定されず、例えばMo化合物/Si化合物多層反射膜も用いることができる。
反射層12をなす多層反射膜を構成する各層の膜厚および層の繰り返し単位の数は、使用する膜材料および反射層に要求されるEUV光線反射率に応じて適宜選択することができる。Mo/Si反射膜を例にとると、EUV光線反射率の最大値が60%以上の反射層12とするには、多層反射膜は膜厚2.3±0.1nmのMo層と、膜厚4.5±0.1nmのSi層とを繰り返し単位数が30〜60になるように積層させればよい。
なお、反射層12をなす多層反射膜を構成する各層は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など、周知の成膜方法を用いて所望の厚さになるように成膜すればよい。例えば、イオンビームスパッタリング法を用いてSi/Mo多層反射膜を形成する場合、ターゲットとしてSiターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.3×10-2Pa〜2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ4.5nmとなるようにSi膜を成膜し、次に、ターゲットとしてMoターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.3×10-2Pa〜2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ2.3nmとなるようにMo膜を成膜することが好ましい。これを1周期として、Si膜およびMo膜を40〜50周期積層させることによりSi/Mo多層反射膜が成膜される。
保護層13は、エッチングプロセス、通常はプラズマエッチングプロセスにより吸収体層14にパターン形成する際に、反射層12がエッチングプロセスによるダメージを受けないよう反射層12を保護する目的、および反射層12表面が酸化されるのを防止する目的で設けられる。なお、保護層13は、保護層13を形成した後であっても反射層12でのEUV光線反射率を損なうことがないように、保護層13自体もEUV光線反射率が高いことが好ましい。
本発明のEUVマスクブランク1において、保護層13は、ルテニウム(Ru)と、ホウ素(B)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選択される少なくとも1つと、を成分とし、これらの成分の比率を後述する特定の範囲としたものである。保護層13において、Ruと、BおよびZrからなる群から選択される少なくとも1つと、以下のいずれかの固溶体をなす。ここで、固溶体とは、2種類以上の元素が互いに溶け合い、全体が均一の固相となっているものをいい、結晶格子を有する金属間化合物のようなものは含まない。
・RuとBとの固溶体(固溶体(A))
・RuとZrとの固溶体(固溶体(B))
・Ru、BおよびZrの固溶体(固溶体(C))
保護層13、すなわち、上記の固溶体において、Ruの含有率が70at%〜95at%であり、BおよびZrの合計含有率が5at%〜30at%である場合、保護層13中で、Ru、BおよびZrが結晶格子を有する化合物を形成しにくいため、保護層13の結晶状態がアモルファスになりやすく好ましい。したがって、固溶体(A)の場合、Ruの含有率が70at%〜95at%であり、Bの含有率5at%〜30at%であると、保護層13の結晶状態がアモルファスになりやすく好ましい。固溶体(B)の場合、Ruの含有率が70at%〜95at%であり、Zrの含有率が5at%〜30at%であると、保護層13の結晶状態がアモルファスになりやすく好ましい。固溶体(C)の場合、Ruの含有率が70at%〜95at%であり、BおよびZrの合計含有率が5at%〜30at%であると、保護層13の結晶状態がアモルファスになりやすく好ましい。
なお、保護層13は、保護層としての技術的な効果を奏する限り、Ru、BおよびZr以外の元素を含んでもよい。
なお、上記固溶体(A)〜(B)において、Ru、BおよびZrを上記含有率とした場合に保護層13の結晶状態がアモルファスになる理由としては、以下の理由が考えられる。
固溶体に含まれる原子の体積差(原子半径の差)が大きいため、RuおよびBを上記含有率とした場合、保護層13(固溶体)の結晶状態がアモルファスになりやすいと考えられる。また、RuおよびZrが上記の含有率であると、固溶体が共晶点付近の組成比となるため、保護層13を形成する際、固溶体が急冷されることにより、結晶状態がアモルファスになると考えられる。
上記の固溶体において、Ruの含有率と、BおよびZrの合計含有率と、が上記の範囲であれば、保護層13の結晶状態がアモルファスになる。上記の固溶体において、BおよびZrの合計含有率が5at%未満であると、BおよびZrの含有率が低すぎるため、保護層13の結晶状態がアモルファスにならない。一方、BおよびZrの合計含有率が30at%超だと、保護層13のエッチング耐性が悪くなるといった問題が生じる。また、Zrの含有量が多すぎると、エッチングレートが早くなり、かつZr成分が多いと酸化されやすくなる問題も生じる。また、Bの含有量が多すぎると、保護層13を形成する際に使用するスパッタリングターゲットの作製が困難になるといった問題が生じる。
なお、特許文献2においては、BやZr以外のMo、Nb等もBやZrと同列に扱っている。しかし、我々が検討した結果、TiおよびNbはRuとの成膜速度の差が大きく、TiやNbの添加量を多くすることは現実的に困難であることが判明した。また、Moについても、アモルファス化するための成膜条件がいまだに見出せていない。
つまり、特許文献2に記載されているドーパントは、ある一面の効果のみを考えて規定されていると推定されるが、現実的に使用できるようなドーパントではないことが判明した。言い換えると特許文献2は、使えそうなドーパントを、実際に使用できるかどうかという技術的な判断なしに例示しただけである。よって、特許文献2は、いわゆる当業者にとって、いずれのドーパントが実際に使用できるか理解できるようには記載されておらず、公知例としての適格性は有していないと考えられる。
上記の固溶体において、Ruの含有率が80at%〜95at%であり、BおよびZrの合計含有率が5at%〜20at%であることが好ましく、Ruの含有率が80at%〜90at%であり、BおよびZrの合計含有率が10at%〜20at%であることがより好ましい。
本明細書において、「保護層13の結晶状態がアモルファスである」と言った場合、全く結晶構造を持たないアモルファス構造となっているもの以外に、微結晶構造のものを含む。
なお、保護層13の結晶状態がアモルファスであること、すなわち、アモルファス構造であること、または微結晶構造であることは、X線回折(XRD)法によって確認することができる。保護層13がアモルファス構造であるか、または微結晶構造であれば、XRD測定により得られる回折ピークにシャープなピークが見られない。
本発明のEUVマスクブランク1では、保護層13の結晶状態がアモルファスであることにより、反射層12をなす多層反射膜の最表層と保護層13との間での拡散層形成が抑制される。保護層13が結晶構造である場合、多層反射膜の最表層として一般的なSi層中のSiが保護層13の連続する結晶粒界から拡散することによって拡散層が形成されると考えられる。保護層13がアモルファス構造または微結晶構造であれば、結晶粒界が存在しない、あるいは結晶粒界が不連続であるためSiの拡散が起こりにくく、拡散層形成が抑制されると考えられる。特に反射層12をなす多層反射膜の最表層との界面近傍において、結晶状態がアモルファスであることが好ましい。
なお、反射層12をなす多層反射膜の最表層と保護層13との界面付近で、保護層13がアモルファス構造または微結晶構造となっていれば、拡散層形成を抑制する効果が発揮されると考えられる。このため、必ずしも保護層13全体がアモルファス構造または微結晶構造とはなっていなくてもよい。例えば、保護層13は、反射層12側のみがアモルファス構造または微結晶構造となっていて、吸収体層14側(すなわち、保護層13の表面側)は結晶構造となっていてもよい。したがって、保護層13は、以下に述べるような傾斜組成膜であってもよい。但し、保護層13が傾斜組成膜である場合でも、保護層13全体がアモルファス構造または微結晶構造であることが好ましい。保護層13全体をアモルファス構造または微結晶構造である場合、保護層13の表面側がアモルファス構造または微結晶構造であるため、保護層13表面が平滑性に優れる。
本明細書において、保護層13が傾斜組成膜である場合、反射層12側におけるBおよびZrの合計含有率が高く、吸収体層14側(すなわち、保護層13の表面側)におけるBおよびZrの合計含有率が低くなるように、保護層13をなす固溶体におけるBおよびZrの合計含有率が該保護層13の厚さ方向に沿って変化する。ここで、保護層13をなす固溶体は、上記した固溶体(A)〜(C)のいずれであってもよい。
保護層13を傾斜組成膜とした場合、以下の効果が発揮される。
保護層13の反射層12側はアモルファス構造または微結晶構造となっているため、拡散層形成を抑制する効果が発揮される。一方、保護層13の表面側におけるBおよびZrの含有率を低くすることにより、保護層13表面の酸化を抑制することができる。保護層13の表面側でBやZrの含有率が高いと、保護層13表面が酸化されやすくなる。
上記した効果を発揮させるため、保護層13をなす傾斜組成膜は下記組成を有する。
(1)反射層12側において、保護層13中、すなわち、固溶体中のBおよびZrの合計含有率が5at%〜30at%である。
(2)保護層13の表面側(図1中、吸収体層14側)において、保護層13中、すなわち、固溶体中のBおよびZrの合計含有率が0at%〜20at%である。
したがって、保護層13の表面側はBおよびZrを含んでいなくてもよい。
保護層13をなす傾斜組成膜において、(1)の組成を有する部分は、反射層12側の表面から厚さ1〜1.5nmであることが好ましく、1〜2nmであることがよい好ましい。また、Ruの含有率が80at%〜95at%であり、BおよびZrの合計含有率が5at%〜20at%であることが好ましく、Ruの含有率が85at%〜95at%であり、BおよびZrの合計含有率が5at%〜15at%であることがより好ましい。一方、(2)の組成を有する部分は、吸収体層14側の表面から厚さ1〜1.5nmであることが好ましく、1〜2nmであることがより好ましい。また、Ruの含有率が85at%〜100at%であり、BおよびZrの合計含有率が0at%〜15at%であることが好ましく、Ruの含有率が90at%〜95at%であり、BおよびZrの合計含有率が5at%〜10at%であることがより好ましい。
なお、上記の傾斜組成膜は、保護層13中、すなわち、固溶体におけるBおよびZrの合計含有率が、該保護層13の厚さ方向に沿って連続的に変化するものであってもよいし、固溶体におけるBおよびZrの合計含有率が異なる層を複数積層したものであってもよい。
上記したように、拡散層形成のおそれがあるのは、マスク製造時の加熱工程(例えば、レジストベーキング工程)、あるいはEUV露光時である。したがって、これらの状況で、保護層13はアモルファス構造または微結晶構造を維持する必要がある。EUV露光時に拡散層が形成すると、露光条件を途中で変更する必要があるため、EUV露光時に保護層13がアモルファス構造または微結晶構造を維持することは特に重要である。
保護層13が、RuおよびBを成分とする場合、すなわち、固溶体(A)の場合、その結晶状態が真空中(1Pa以下)、200℃までアモルファスを維持することができる。
この場合、EUV露光時における保護層13の加熱温度が200℃以下となるように露光条件を設定すればよい。一方、保護層13が、RuおよびZrを成分とする場合、すなわち、固溶体(B)の場合、その結晶状態が真空中(1Pa以下)、400℃までアモルファスを維持することできる。この場合、EUV露光時における保護層13の加熱温度が400℃以下となるように露光条件を設定すればよい。
なお、保護層13が傾斜組成膜である場合については、保護層13形成当初からアモルファス構造または微結晶構造であった部分、すなわち保護層13の反射層側について上記が適用される。
本発明のEUVマスクブランク1では、EUV照射時における、反射層12をなす多層反射膜の最表層と保護層13との間での拡散層形成が抑制されるため、EUV照射時の反射率の低下が抑制されている。具体的には、保護層13にEUV光を入射角θ(6度)で8時間照射した後の反射率の低下が1%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
保護層13は、アモルファス構造または微結晶構造を有することにより、該保護層13表面の表面粗さが0.5nm rms以下である。保護層13表面の表面粗さが大きいと、該保護層13上に形成される吸収体層14の表面粗さが大きくなり、該吸収体層14に形成されるパターンのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなる。パターンが微細になるに従いエッジラフネスの影響が顕著になるため、吸収体層14表面は平滑であることが要求される。
保護層13表面の表面粗さが0.5nm rms以下であれば、該保護層13上に形成される吸収体層14表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。保護層13表面の表面粗さは0.4nm rms以下であることがより好ましく、0.3nm rms以下であることがさらに好ましい。
保護層13の厚さは、1〜10nmであることが、EUV光線反射率を高め、かつ耐エッチング特性を得られるという理由から好ましい。保護層13の厚さは、1〜5nmであることがより好ましく、2〜4nmであることがさらに好ましい。
なお、特許文献2においては、Ru膜はSi膜と拡散層を形成しやすいため、Ru層にMo等を添加することで拡散層の形成を防止できるとしている。
しかし、本発明者らの研究によれば、Ru膜にある金属を添加するだけでは、Si層との拡散層の形成を防止できないことが判明した。以下、詳細に説明する。
Ru層に添加する金属として、特許文献2には、Mo以外にZrやBも具体的に例示されている。その実施例が、特許文献2の実施例5(RuZr)、実施例10〜13(RuB)に記載されている。しかし、実施例5ではZrの含有量は50原子%であり、また実施例10〜13では、Bの含有量は30原子%(実施例10)、50原子%(実施例11)、60原子%(実施例12)、66原子%(実施例13)とかなり高くなっている。つまり、実施例5、10〜13では、Ruの含有量が非常に小さくなっている。これでは、Ru層が本来有する特性を発揮することができない。
また、実施例5、10〜13では、その組成から金属間化合物であると考えられるが、本発明者らの研究によれば、金属間化合物の場合、ある特定の結晶構造を有しているため、Siの拡散防止の特性が不十分であり、結果的に反射率の低下を抑えることが困難であることが判明した。
これに対し、本発明では、保護層をRuと、BおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種と、を成分とし、かつ各成分の比率を特定の範囲とすることで、保護層に含まれるRuの量をある程度以上に維持するとともに、保護層の結晶状態をアモルファス構造とすることで、Siの拡散を防止でき、結果的に反射率の低下を抑えることが可能となる。
すなわち、本発明において、保護層は、ルテニウム(Ru)と、ホウ素(B)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選択される少なくとも1つの元素と、を成分とし、該保護層におけるRuの含有率が70at%〜95at%であり、BおよびZrの合計含有率が5at%〜30at%であり、該保護層の結晶構造がアモルファスであることを特徴とする。
また、本発明において、保護層は、Ruと、BおよびZrからなる群から選択される少なくとも1つの元素と、を成分とし、反射層側におけるBおよびZrの合計含有率が高く、表面側におけるBおよびZrの合計含有率が低くなるように、該保護層におけるBおよびZrの合計含有率が該保護層の厚さ方向に沿って変化する傾斜組成膜であり、該反射層側におけるBおよびZrの合計含有率が5at%〜30at%であり、該表面側におけるBおよびZrの合計含有率が0at%〜20at%であり、該保護層の結晶構造がアモルファスであることを特徴とする。
保護層13は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など周知の成膜方法を用いて成膜することができる。
マグネトロンスパッタリング法により上記した固溶体(A)からなる保護層13を形成する場合、ターゲットとしてRuターゲットおよびBターゲットを用い、アルゴン(Ar)雰囲気中でこれらのターゲットを同時に放電させればよい。具体的には、以下の条件でマグネトロンスパッタリングを実施すればよい。
スパッタガス:Ar(ガス圧1.0×10-1〜10×10-1Pa、好ましくは1.0×10-1〜5.0×10-1Pa、より好ましくは1.0×10-1〜3.0×10-1Pa)
投入電力(各ターゲットについて):30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:1.0〜60nm/sec、好ましくは1.0〜45nm/sec、より好ましくは1.0〜30nm/sec
マグネトロンスパッタリング法により上記した固溶体(B)からなる保護層13を形成する場合、ターゲットとしてRuターゲットおよびZrターゲットを用い、Ar雰囲気中でこれらのターゲットを同時に放電させればよい。具体的には、以下の条件でマグネトロンスパッタリングを実施すればよい。
スパッタガス:Ar(ガス圧1.0×10-1〜10×10-1Pa、好ましくは1.0×10-1〜5.0×10-1Pa、より好ましくは1.0×10-1〜3.0×10-1Pa)
投入電力(各ターゲットについて):30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:1.0〜60nm/sec、好ましくは1.0〜45nm/sec、より好ましくは1.0〜30nm/sec
吸収体層14に特に要求される特性は、EUV光線反射率が極めて低いことである。具体的には、EUV光の波長領域の光線を吸収体層14表面に照射した際に、波長13.5nm付近の最大光線反射率が0.5%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。
上記の特性を達成するため、EUV光の吸収係数が高い材料で構成されることが好ましく、タンタル(Ta)を主成分とする材料で形成されていることが好ましい。
このような吸収体層14としては、Ta、B、Siおよび窒素(N)を以下に述べる比率で含有するもの(TaBSiN膜)が挙げられる。
Bの含有率 1at%以上5at%未満、好ましくは1〜4.5at%、より好ましくは1.5〜4at%
Siの含有率 1〜25at%、好ましくは1〜20at%、より好ましくは2〜12at%
TaとNとの組成比(Ta:N) 8:1〜1:1
Taの含有率 好ましくは50〜90at%、より好ましくは60〜80at%
Nの含有率 好ましくは5〜30at%、より好ましくは10〜25at%
上記組成の吸収体層14は、その結晶状態はアモルファスであり、表面の平滑性に優れている。
上記組成の吸収体層14は、表面粗さが0.5nm rms以下である。吸収体層14表面の表面粗さが大きいと、吸収体層14に形成されるパターンのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなる。パターンが微細になるに従いエッジラフネスの影響が顕著になるため、吸収体層14表面は平滑であることが要求される。
吸収体層14表面の表面粗さが0.5nm rms以下であれば、吸収体層14表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。吸収体層14表面の表面粗さは0.4nm rms以下であることがより好ましく、0.3nm rms以下であることがさらに好ましい。
吸収体層14の厚さは、50〜100nmであることが好ましい。上記した構成の吸収層14は、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法のようなスパッタリング法など、周知の成膜方法を用いて形成することができる。マグネトロンスパッタリング法を用いる場合、下記(1)〜(3)の方法で吸収体層14を形成することができる。
(1)Taターゲット、BターゲットおよびSiターゲットを使用し、Arで希釈した窒素(N2)雰囲気中でこれらの個々のターゲットを同時に放電させることによって吸収体層14を形成する。
(2)TaB化合物ターゲットおよびSiターゲットを用いて、これらのターゲットをArで希釈したN2雰囲気中で同時放電させることによって吸収体層14を形成する。
(3)TaBSi化合物ターゲットを用いて、この3元素が一体化されたターゲットをArで希釈したN2雰囲気中で放電させることによって吸収体層14を形成する。
なお、上述した方法のうち、2以上のターゲットを同時に放電させる方法((1)、(2))では、各ターゲットの投入電力を調節することによって、形成される吸収体層14の組成を制御することができる。
上記の中でも(2)および(3)の方法が、放電の不安定化や膜の組成や膜厚のばらつきを回避できる点で好ましく、(3)の方法が特に好ましい。TaBSi化合物ターゲットは、その組成がTa=50〜94at%、Si=5〜30at%、B=1〜20at%であることが、放電の不安定化や膜の組成や膜厚のばらつきを回避できる点で特に好ましい。
上記例示した方法で吸収体層14を形成するには、具体的には以下の成膜条件で実施すればよい。
TaB化合物ターゲットおよびSiターゲットを使用する方法(2)
スパッタガス:ArとN2の混合ガス(N2ガス濃度3〜80vol%、好ましくは5〜30vol%、より好ましくは8〜15vol%。ガス圧1.0×10-1Pa〜10×10-1Pa、好ましくは1.0×10-1Pa〜5×10-1Pa、より好ましくは1.0×10-1Pa〜3×10-1Pa。)
投入電力(各ターゲットについて):30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:2.0〜60nm/sec、好ましくは3.5〜45nm/sec、より好ましくは5〜30nm/sec
TaBSi化合物ターゲットを使用する方法(3)
スパッタガス:ArとN2の混合ガス(N2ガス濃度3〜80vol%、好ましくは5〜30vol%、より好ましくは8〜15vol%。ガス圧1.0×10-1Pa〜10×10-1Pa、好ましくは1.0×10-1Pa〜5×10-1Pa、より好ましくは1.0×10-1Pa〜3×10-1Pa)
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:2.0〜60nm/sec、好ましくは3.5〜45nm/sec、より好ましくは5〜30nm/sec
本発明のEUVマスクブランクは、図2に示すように、吸収体層14上にマスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層15が形成されていることが好ましい。
EUVマスクを作製する際、吸収体層にパターンを形成した後、このパターンが設計通りに形成されているかどうか検査する。このマスクパターンの検査では、検査光として通常257nm程度の光を使用した検査機が使用される。つまり、この257nm程度の光の反射率の差、具体的には、吸収体層14がパターン形成により除去されて露出した面と、パターン形成により除去されずに残った吸収体層14表面と、の反射率の差によって検査される。ここで、前者は保護層13表面である。したがって、検査光の波長に対する保護層13表面と吸収体層14表面との反射率の差が小さいと検査時のコントラストが悪くなり、正確な検査が出来ないことになる。
上記した構成の吸収体層14は、EUV光線反射率が極めて低く、EUVマスクブランク1の吸収層として優れた特性を有しているが、検査光の波長について見た場合、光線反射率が必ずしも十分低いとは言えない。この結果、検査光の波長での吸収体層14表面の反射率と保護層13表面の反射率との差が小さくなり、検査時のコントラストが十分得られない可能性がある。検査時のコントラストが十分得られないと、マスク検査においてパターンの欠陥を十分判別できず、正確な欠陥検査を行えないことになる。
吸収体層14上に低反射層15を形成することにより、検査時のコントラストが良好となる、別の言い方をすると、検査光の波長での光線反射率が極めて低くなる。このような目的で形成する低反射層15は、検査光の波長領域の光線を照射した際に、該検査光の波長の最大光線反射率が15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
低反射層15における検査光の波長の光線反射率が15%以下であれば、該検査時のコントラストが良好である。具体的には、保護層13表面における検査光の波長の反射光と、低反射層15表面における検査光の波長の反射光と、のコントラストが、40%以上となる。
本明細書において、コントラストは下記式を用いて求めることができる。
コントラスト(%)=((R2−R1)/(R2+R1))×100
ここで、検査光の波長におけるR2は保護層13表面での反射率であり、R1は低反射層15表面での反射率である。なお、上記R1およびR2は、図2に示すEUVマスクブランク1の吸収体層14および低反射層15にパターンを形成した状態(つまり、図3に示す状態)で測定する。上記R2は、図3中、パターン形成によって吸収体層14および低反射層15が除去され、外部に露出した保護層13表面で測定した値であり、R1はパターン形成によって除去されずに残った低反射層15表面で測定した値である。
本発明において、上記式で表されるコントラストが45%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。
低反射層15は、上記の特性を達成するため、検査光の波長の屈折率が吸収体層14よりも低い材料で構成され、その結晶状態がアモルファスであることが好ましい。
このような低反射層15の具体例としては、Ta、B、Siおよび酸素(O)を以下に述べる比率で含有するもの(低反射層(TaBSiO))が挙げられる。
Bの含有率 1at%以上5at%未満、好ましくは1〜4.5at%、より好ましくは1.5〜4at%
Siの含有率 1〜25at%、好ましくは1〜20at%、より好ましくは2〜10at%
TaとOとの組成比(Ta:O) 7:2〜1:2、好ましくは7:2〜1:1、より好ましくは2:1〜1:1
また、低反射層15の具体例としては、Ta、B、Si、OおよびNを以下に述べる比率で含有するもの(低反射層(TaBSiON))が挙げられる。
Bの含有率 1at%以上5at%未満、好ましくは1〜4.5at%、より好ましくは2〜4.0at%
Siの含有率 1〜25at%、好ましくは1〜20at%、より好ましくは2〜10at%
TaとO及びNの組成比(Ta:(O+N)) 7:2〜1:2、好ましくは7:2〜1:1、より好ましくは2:1〜1:1
低反射層(TaBSiO),(TaBSiON)は、上記の構成であることにより、その結晶状態はアモルファスであり、その表面が平滑性に優れている。具体的には、低反射層(TaBSiO),(TaBSiON)表面の表面粗さが0.5nm rms以下である。
上記したように、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度の悪化が防止するため、吸収体層14表面は平滑であることが要求される。低反射層15は、吸収体層14上に形成されるため、同様の理由から、その表面は平滑であることが要求される。
低反射層15表面の表面粗さが0.5nm rms以下であれば、低反射層15表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。低反射層15表面の表面粗さは0.4nm rms以下であることがより好ましく、0.3nm rms以下であることがさらに好ましい。
吸収体層14上に低反射層15を形成する場合、吸収体層14と低反射層15との合計厚さが55〜130nmであることが好ましい。また、低反射層15の厚さが吸収体層14の厚さよりも大きいと、吸収体層14でのEUV光吸収特性が低下するおそれがあるので、低反射層15の厚さは吸収体層14の厚さよりも小さいことが好ましい。このため、低反射層15の厚さは5〜30nmであることが好ましく、10〜20nmであることがより好ましい。
低反射層(TaBSiO),(TaBSiON)は、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法のようなスパッタリング法など、周知の成膜方法を用いて形成することができ、マグネトロンスパッタリング法を用いる場合、下記(1)〜(3)の方法で低反射層(TaBSiO)を形成することができる。
(1)Taターゲット、BターゲットおよびSiターゲットを使用し、アルゴン(Ar)で希釈した酸素(O2)雰囲気中でこれらの個々のターゲットを同時に放電させることによって低反射層(TaBSiO)を形成する。
(2)TaB化合物ターゲットおよびSiターゲットを用いて、これらのターゲットをアルゴンで希釈した酸素雰囲気中で同時放電させることによって低反射層(TaBSiO)を形成する。
(3)TaBSi化合物ターゲットを用いて、この3元素が一体化されたターゲットをアルゴンで希釈した酸素雰囲気中で放電させることによって低反射層(TaBSiO)を形成する。
なお、上述した方法のうち、2以上のターゲットを同時に放電させる方法((1)、(2))では、各ターゲットの投入電力を調節することによって、形成される低反射層(TaBSiO)の組成を制御することができる。
上記の中でも(2)および(3)の方法が、放電の不安定化や膜の組成や膜厚のばらつきを回避できる点で好ましく、(3)の方法が特に好ましい。TaBSi化合物ターゲットは、その組成がTa=50〜94at%、Si=5〜30at%、B=1〜20at%であることが、放電の不安定化や膜の組成や膜厚のばらつきを回避できる点で特に好ましい。
低反射層(TaBSiON)を形成する場合、アルゴンで希釈した酸素雰囲気の代わりにアルゴンで希釈した酸素・窒素混合ガス雰囲気で、上記と同様の手順を実施すればよい。
上記の方法で低反射層(TaBSiO)を形成するには、具体的には以下の成膜条件で実施すればよい。
TaB化合物ターゲットおよびSiターゲットを使用する方法(2)
スパッタガス:ArとO2の混合ガス(O2ガス濃度3〜80vol%、好ましくは5〜30vol%、より好ましくは8〜15vol%。ガス圧1.0×10-1Pa〜10×10-1Pa、好ましくは1.0×10-1Pa〜5×10-1Pa、より好ましくは1.0×10-1Pa〜3×10-1Pa。)
投入電力(各ターゲットについて):30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:2.0〜60nm/sec、好ましくは3.5〜45nm/sec、より好ましくは5〜30nm/sec
TaBSi化合物ターゲットを使用する方法(3)
スパッタガス:ArとO2の混合ガス(O2ガス濃度3〜80vol%、好ましくは5〜30vol%、より好ましくは8〜15vol%。ガス圧1.0×10-1Pa〜10×10-1Pa、好ましくは1.0×10-1Pa〜5×10-1Pa、より好ましくは1.0×10-1Pa〜3×10-1Pa。)
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:2.0〜50nm/sec、好ましくは2.5〜35nm/sec、より好ましくは5〜25nm/sec
上記の方法で低反射層(TaBSiON)を形成するには、具体的には以下の成膜条件で実施すればよい。
TaB化合物ターゲットおよびSiターゲットを使用する方法(2)
スパッタガス:ArとO2とN2の混合ガス(O2ガス濃度5〜30体積%、N2ガス濃度5〜30体積%、好ましくはO2ガス濃度6〜25体積%、N2ガス濃度6〜25体積%、より好ましくはO2ガス濃度10〜20体積%、N2ガス濃度15〜25体積%。ガス圧1.0×10-2Pa〜10×10-2Pa、好ましくは1.0×10-2Pa〜5×10-2Pa、より好ましくは1.0×10-2Pa〜3×10-2Pa。)
投入電力(各ターゲットについて):30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:2.0〜50nm/sec、好ましくは2.5〜35nm/sec、より好ましくは5〜25nm/sec
TaBSi化合物ターゲットを使用する方法(3)
スパッタガス:ArとO2とN2の混合ガス(O2ガス濃度5〜30体積%、N2ガス濃度5〜30体積%、好ましくはO2ガス濃度6〜25体積%、N2ガス濃度6〜25体積%、より好ましくはO2ガス濃度10〜20体積%、N2ガス濃度15〜25体積%。ガス圧1.0×10-2Pa〜10×10-2Pa、好ましくは1.0×10-2Pa〜5×10-2Pa、より好ましくは1.0×10-2Pa〜3×10-2Pa。)
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:2.0〜50nm/sec、好ましくは2.5〜35nm/sec、より好ましくは5〜25nm/sec
なお、図2に示すEUVマスクブランク1において、吸収体層14上に低反射層15を形成することが好ましいのは、パターンの検査光の波長とEUV光の波長とが異なるからである。したがって、パターンの検査光としてEUV光(13.5nm付近)を使用する場合、吸収体層14上に低反射層15を形成する必要はないと考えられる。検査光の波長は、パターン寸法が小さくなるに伴い短波長側にシフトする傾向があり、将来的には193nm、さらには13.5nmにシフトすることも考えられる。検査光の波長が13.5nmである場合、吸収体層14上に低反射層15を形成する必要はないと考えられる。
本発明のEUVマスクブランク1は、反射層12、保護層13、吸収体層14以外に、EUVマスクブランクの分野において公知の機能膜を有していてもよい。このような機能膜の具体例としては、例えば、特表2003−501823号公報に記載されているものように、基板の静電チャッキングを促すために、基板の裏面側に施される高誘電性コーティングが挙げられる。ここで、基板の裏面とは、図1の基板11において、反射層12が形成されている側とは反対側の面を指す。このような目的で基板の裏面に施す高誘電性コーティングは、シート抵抗が100Ω/□以下となるように、構成材料の電気伝導率と厚さを選択する。高誘電性コーティングの構成材料としては、公知の文献に記載されているものから広く選択することができる。例えば、特表2003−501823号公報に記載の高誘電率のコーティング、具体的には、シリコン、TiN、モリブデン、クロム、TaSiからなるコーティングを適用することができる。高誘電性コーティングの厚さは、例えば10〜1000nmとすることができる。
高誘電性コーティングは、公知の成膜方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法、CVD法、真空蒸着法、電解メッキ法を用いて形成することができる。
なお、本発明は、上記したEUVマスクブランクに加えて、該EUVマスクブランクの製造に使用される反射膜付基板、および該EUVマスクブランクにパターン形成したEUVマスクも提供する。ここで、反射膜付基板とは、上記したEUVマスクブランクにおいて、吸収体層を形成する前の状態、すなわち、図1中、吸収体層14を除いたものを指す。
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
実施例1
本実施例では、図2に示すEUVマスクブランク1を作製した。
成膜用の基板11として、SiO2−TiO2系のガラス基板(外形6インチ(152.4mm)角、厚さが6.3mm)を使用した。このガラス基板の熱膨張率は0.2×10-7/℃、ヤング率は67GPa、ポアソン比は0.17、比剛性は3.07×1072/s2である。このガラス基板を研磨により、rmsが0.15nm以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度に形成した。
基板11の裏面側には、マグネトロンスパッタリング法を用いて厚さ100nmのCr膜を成膜することによって、シート抵抗100Ω/□の高誘電性コーティング(図示していない)を施した。
平板形状をした通常の静電チャックに、形成したCr膜を用いて基板11(外形6インチ(152.4mm)角、厚さ6.3mm)を固定して、該基板11の表面上にイオンビームスパッタ法を用いてSi膜およびMo膜を交互に成膜することを40周期繰り返すことにより、合計膜厚272nm((4.5nm+2.3nm)×40)のSi/Mo多層反射膜(反射層12)を形成した。最上層は、Moの酸化防止のため、Si膜とした。
Si膜およびMo膜の成膜条件は以下の通りである。
Si膜の成膜条件
ターゲット:Siターゲット(ホウ素ドープ)
スパッタガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:0.077nm/sec
膜厚:4.5nm
Mo膜の成膜条件
ターゲット:Moターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:0.064nm/sec
膜厚:2.3nm
次に、反射層12上に、固溶体(A)からなる保護層13を、マグネトロンスパッタリング法を用いて形成した。
保護層13の形成条件は以下の通りである。
ターゲット:Ruターゲット、Bターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧:2mTorr(2.6×10-1Pa))
出力:30W(Ruターゲット)、RF250W(Bターゲット)
成膜速度:4.8nm/sec
膜厚:2.5nm
上記の手順で得られた保護層13に対し下記の評価を実施した。
(1)膜組成
保護層13の組成を、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectrometer)(PERKIN ELEMER−PHI社製:番号5500)を用いて測定した。保護層13の組成比(at%)は、Ru:B=87.5:12.5であった。
(2)結晶構造
保護層13の結晶構造を、X線回折装置(X−Ray Diffractometer)(RIGAKU社製)で確認した。尚、結晶構造の確認は、上記成膜条件で、シリコン基板上に厚さ100nmの固溶体(A)からなる膜を成膜したものを用いた。得られる回折ピークにはシャープなピークが見られないことから、保護層13の結晶構造がアモルファス構造または微結晶構造であることを確認した。さらに、真空条件(1Pa以下)で加熱試験を行ったところ、アモルファス構造または微結晶構造は200℃まで維持されていた。
(3)表面粗さ
保護層13の表面粗さを、JIS−B0601(1994年)にしたがって、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope)(セイコーインスツルメンツ社製:番号SPI3800)を用いて確認した。保護層13の表面粗さは0.15nm rmsであった。
(4)EUV耐性
EUV光(シンクロトロン放射光)を保護層13表面に、入射角θ(6度)で8時間照射した。EUV光照射後、EUV反射率の低下は0.5%以下であった。
次に、保護層13上に、吸収体層14としてTaBSiN層を、マグネトロンスパッタ法を用いて形成した。
TaBSiN層を成膜条件は以下の通りである。
TaBSiN層の成膜条件
ターゲット:TaBSi化合物ターゲット(組成比:Ta80at%、B10at%、Si10at%)
スパッタガス:ArとN2の混合ガス(Ar:86体積%、N2:14体積%、ガス圧:0.3Pa)
投入電力:150W
成膜速度:7.4nm/sec
膜厚:60nm
上記の手順で得られた吸収体層14(TaBSiN層)に対し下記の評価を実施した。
(1)膜組成
吸収体層14(TaSiBN層)の組成を、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectrometer)(PERKIN ELEMER−PHI社製:番号5500)を用いて測定した。吸収体層14の組成比(at%)は、Ta:B:Si:N=70:3:10:17である。
(2)結晶構造
吸収体層14(TaSiBN膜)の結晶構造を、X線回折装置(X−Ray Diffractometer)(RIGAKU社製)で確認した。得られる回折ピークにはシャープなピークが見られないことから、吸収体層14の結晶構造がアモルファス構造または微結晶構造であることを確認した。
(3)表面粗さ
吸収体層14(TaSiBN膜)の表面粗さを、JIS−B0601(1994年)にしたがって、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope)(セイコーインスツルメンツ社製:番号SPI3800)を用いて確認した。吸収体層14の表面粗さは0.15nm rmsであった。
最後に、吸収体14上に低反射層15としてTaBSiON層を形成することにより、基板11上に反射層12、保護層13、吸収体層14および低反射層15がこの順で形成されたEUVマスクブランク1を得た。
TaBSiON層の成膜条件は以下の通りである。
TaBSiON層の成膜条件
ターゲット:TaBSiターゲット(組成比:Ta80at%、B10at%、Si10at%)
スパッタガス:ArとN2とO2の混合ガス(Ar:60体積%、N2:20体積%、O2:20体積%、ガス圧:0.3Pa)
投入電力:150W
成膜速度:11nm/sec
膜厚:10nm
上記の手順で得られた低反射層15の組成比(at%)を、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectrometer)(PERKIN ELEMER−PHI社製:番号5500)を用いて測定したところ、Ta:B:Si:N:O=40:3:10:10:37である。
反射特性(コントラスト評価)
保護層13まで形成した段階で、該保護層13表面におけるパターン検査光(波長257nm)の反射率を分光光度計を用いて測定した。また、低反射層15(TaBSiON層)を形成した後、該低反射層15表面におけるパターン検査光の反射率を測定した。その結果、保護層13層表面での反射率は60.0%であり、低反射層15表面の反射率は6.9%であった。これらの結果と上記した式を用いてコントラストを求めたところ79.4%であった。
エッチング特性
エッチング特性については、上記手順で作製されたEUVマスクブランクを用いて評価する代わりに以下の方法で評価した。
RFプラズマエッチング装置の試料台(4インチ石英基板)上に、試料として(1)固溶体(A)からなる膜が成膜されたSiチップ(10mm×30mm)および(2)TaBSiN膜が成膜されたSiチップ(10mm×30mm)を設置した。この状態で試料台に設置されたSiチップ上の固溶体(A)からなる膜およびTaNBSiN膜を以下の条件でプラズマエッチング(RFプラズマエッチング)した。
バイアスRF:50W
エッチング時間:120sec
トリガー圧力:3Pa
エッチング圧力:1Pa
エッチングガス:Cl2/Ar
ガス流量(Cl2/Ar):20/80sccm
電極基板間距離:55mm
固溶体(A)からなる膜およびTaBSiN膜は上記と同様に、マグネトロンスパッタ法により成膜を行った。成膜した固溶体(A)からなる膜、およびTaBSiN膜についてエッチング速度を求め、下記式を用いてエッチング選択比を求めた。
エッチング選択比
=(TaBSiN膜のエッチング速度)/(固溶体(A)からなる膜のエッチング速度)
プラズマエッチングの場合、吸収体層14と保護層13とのエッチング選択比は10以上が望ましい。TaBSiN膜と固溶体(A)からなる膜のエッチング選択比は15であり、十分なエッチング選択比を有していた。
実施例2
実施例2は、固溶体(B)からなる保護層13とした以外は、実施例1と同様の手順で実施した。固溶体(B)からなる保護層13は、マグネトロンスパッタ法により、以下の条件で成膜した。
保護層13の形成条件
ターゲット:Ruターゲット、Zrターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧:2mTorr(2.6×10-1Pa))
出力:150W(Ruターゲット)、100W(Zrターゲット)
成膜速度:18.2nm/sec
膜厚:2.5nm
上記の手順で得られた保護層13に対し下記の評価を実施した。
(1)膜組成
保護層13の組成を、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectrometer)(PERKIN ELEMER−PHI社製:番号5500)を用いて測定した。保護層13の組成比(at%)は、Ru:Zr=80.4:19.6である。
(2)結晶構造
保護層13の結晶構造を、X線回折装置(X−Ray Diffractometer)(RIGAKU社製)で確認した。尚、結晶構造の確認は、上記成膜条件で、シリコン基板上に厚さ100nmの固溶体(B)からなる膜を成膜したものを用いた。得られる回折ピークにはシャープなピークが見られないことから、保護層13の結晶構造がアモルファス構造または微結晶構造であることを確認した。さらに、1Pa以下で加熱試験を行ったところ、アモルファス構造または微結晶構造は400℃まで維持された。
(3)表面粗さ
保護層13の表面粗さを、JIS−B0601(1994年)にしたがって、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope)(セイコーインスツルメンツ社製:番号SPI3800)を用いて確認した。保護層13の表面粗さは0.15nm rmsであった。
(4)EUV耐性
EUV光(シンクロトロン放射光)を保護層13表面に、入射角θ(6度)で実施例1と同様の時間照射した。EUV光照射後、EUV反射率の低下は0.5%以下であった。
(5)反射特性
また、実施例1と同様の手順で、保護層13および低反射層15(TaBSiON層)表面におけるパターン検査光(波長257nm)の反射率を測定した。その結果、保護層13表面での反射率は60.0%であり、低反射層15表面の反射率は6.9%であった。これらの結果と上記した式を用いてコントラストを求めたところ79.4%であった。
(6)エッチング特性
固溶体(B)からなる膜について、上記と同様の手順でエッチング特性を評価した。その結果、TaBSiN膜と固溶体(B)からなる膜とのエッチング選択比は11.5であり、十分なエッチング選択比を有していた。
比較例1
比較例1は、保護層13としてB含有率が5at%未満の固溶体(A)からなる膜を使用した点以外は、実施例1と同様の手順で実施した。保護層13は以下の条件で形成した。
保護層13の形成条件
ターゲット:Ruターゲット、Bターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧:2mTorr(2.6×10-1Pa))
出力:30W(Ruターゲット)、RF150W(Bターゲット)
成膜速度:4.8nm/sec
膜厚:2.5nm
得られた保護層13の組成を、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectrometer)(PERKIN ELEMER−PHI社製:番号5500)を用いて測定した。保護層13の組成比(at%)は、Ru:B=95.2:4.8であった。
得られた保護層13の結晶構造を、X線回折装置(X−Ray Diffractometer)で確認したところ、得られる回折ピークにシャープなピークが見られることから、保護層13が結晶質であることが確認できた。尚、結晶構造の確認は、上記の条件で固溶体(A)からなる膜をシリコン基板上に厚さ100nm成膜したものを用いた。
得られた保護層13について、実施例1と同様の手順でEUV耐性を調べたところ、実施例1と同様の時間の照射により反射率が2%低下しており、EUV耐性に劣ることが確認された。
比較例2
比較例2は、保護層13として、B含有率が30at%超の固溶体(A)からなる膜を使用した点以外は、実施例1と同様の手順で実施したが、保護層13は形成できなかった。
保護層13の形成条件
ターゲット:Ruターゲット、Bターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧:2mTorr(2.6×10-1Pa))
出力:30W(Ruターゲット)、RF400W(Bターゲット)
成膜速度:5.0nm/sec
膜厚:2.5nm
比較例3
比較例3は、保護層13としてZr含有率5at%未満の固溶体(B)からなる膜を使用した点以外は、実施例2と同様の手順で実施した。保護層13は以下の条件で形成した。
保護層13の形成条件
ターゲット:Ruターゲット、Zrターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧:2mTorr(2.6×10-1Pa))
出力:150W(Ruターゲット)、50W(Zrターゲット)
成膜速度:15.8nm/sec
膜厚:2.5nm
得られた保護層13の組成を、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectrometer)(PERKIN ELEMER−PHI社製:番号5500)を用いて測定した。保護層13の組成比(at%)は、Ru:Zr=96:4であった。
得られた保護層13の結晶構造を、X線回折装置(X−Ray Diffractometer)で確認したところ、得られる回折ピークにシャープなピークが見られることから、保護層13が結晶質であることが確認できた。尚、結晶構造の確認は、上記の条件でZr含有率5at%未満の固溶体(B)からなる膜をシリコン基板上に厚さ100nm成膜したものを用いた。
得られた保護層13について、実施例2と同様の手順でEUV耐性を調べたところ、実施例1と同様の時間の照射により反射率が2%低下しており、EUV耐性に劣ることが確認された。
比較例4
比較例4は、保護層13として、Zr含有率が30at%超の固溶体(B)からなる膜を使用した点以外は、実施例2と同様の手順で実施した。保護層13は、以下の条件で形成した。
保護層13の形成条件
ターゲット:Ruターゲット、Zrターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧:2mTorr(2.6×10-1Pa))
出力:24W(Ruターゲット)、150W(Zrターゲット)
成膜速度:10.9nm/sec
膜厚:2.5nm
得られた保護層13の組成を、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectrometer)(PERKIN ELEMER−PHI社製:番号5500)を用いて測定した。保護層13の組成比(at%)は、Ru:Zr=58:42であった。
Zr含有率30at%超の固溶体(B)からなる膜について、上記と同様の手順でエッチング特性を評価した。その結果、TaBSiN膜と固溶体(B)からなる膜とのエッチング選択比は5.6であり、十分なエッチング選択比が得られなかった。
比較例5
比較例5は、保護層13として、RuおよびTiを含む膜を使用した点以外は、実施例2と同様の手順で実施した。なお、保護層13のTiの含有率を調整するため、ターゲット出力は以下の3条件で実施した。
保護層13の形成条件
ターゲット:Ruターゲット、Tiターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧:2mTorr(2.6×10-1Pa))
出力条件(1):150W(Ruターゲット)、50W(Tiターゲット)
出力条件(2):150W(Ruターゲット)、100W(Tiターゲット)
出力条件(3):50W(Ruターゲット)、150W(Tiターゲット)
膜厚:2.5nm
得られた保護層13の結晶構造を、X線回折装置(X−Ray Diffractometer)で確認したところ、得られる回折ピークにシャープなピークが見られることから、保護層13が結晶質であることが確認できた。尚、結晶構造の確認は、上記成膜条件で、RuおよびTiを含む厚さ100nmの膜をシリコン基板上に成膜したものを用いた。
比較例6
比較例5は、保護層13として、RuおよびMoを含む膜を使用した点以外は、実施例2と同様の手順で実施した。なお、保護層13のMoの含有率を調整するため、ターゲット出力は以下の3条件で実施した。
保護層13の形成条件
ターゲット:Ruターゲット、Moターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧:2mTorr(2.6×10-1Pa))
出力条件(1):150W(Ruターゲット)、50W(Moターゲット)
出力条件(2):150W(Ruターゲット)、100W(Moターゲット)
出力条件(3):150W(Ruターゲット)、150W(Moターゲット)
膜厚:2.5nm
得られた保護層13の結晶構造を、X線回折装置(X−Ray Diffractometer)で確認したところ、得られる回折ピークにシャープなピークが見られることから、保護層13が結晶質であることが確認できた。尚、結晶構造の確認は、上記成膜条件で、RuおよびMoを含む厚さ100nmの膜をシリコン基板上に成膜したものを用いた。
比較例7
比較例5は、保護層13として、RuおよびNbを含む膜を使用した点以外は、実施例2と同様の手順で実施した。なお、保護層13のNbの含有率を調整するため、ターゲット出力は以下の3条件で実施した。
保護層13の形成条件
ターゲット:Ruターゲット、Nbターゲット
スパッタガス:Arガス(ガス圧:2mTorr(2.6×10-1Pa))
出力条件(1):150W(Ruターゲット)、30W(Nbターゲット)
出力条件(2):150W(Ruターゲット)、50W(Nbターゲット)
出力条件(3):150W(Ruターゲット)、100W(Nbターゲット)
膜厚:2.5nm
得られた保護層13の結晶構造を、X線回折装置(X−Ray Diffractometer)で確認したところ、得られる回折ピークにシャープなピークが見られることから、保護層13が結晶質であることが確認できた。尚、結晶構造の確認は、上記成膜条件で、RuおよびNbを含む厚さ100nmの膜をシリコン基板上に成膜したものを用いた。
図1は、本発明のEUVマスクブランクの実施形態を示す概略断面図である。 図2は、図1と同様の図である。但し、吸収体層上に低反射層が形成されている。 図3は、図2のEUVマスクブランク1の吸収体層14(および低反射層15)にパターン形成した状態を示している。
符号の説明
1:EUVマスクブランク
11:基板
12:反射層(多層反射膜)
13:保護層
14:吸収体層
15:低反射層

Claims (17)

  1. 基板上に、EUV光を反射する反射層と、該反射層を保護する保護層とがこの順に形成されたEUVリソグラフィ用反射層付基板であって、
    前記保護層が、ルテニウム(Ru)と、ホウ素(B)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選択される少なくとも1つの元素と、を成分とし、
    前記保護層におけるRuの含有率が70at%〜95at%、前記BおよびZrの合計含有率が5at%〜30at%であることを特徴とするEUVリソグラフィ用反射層付基板。
  2. 基板上に、EUV光を反射する反射層と、該反射層を保護する保護層とがこの順に形成されたEUVリソグラフィ用反射層付基板であって、
    前記保護層が、Ruと、BおよびZrからなる群から選択される少なくとも1つの元素と、を成分とし、
    前記保護層は、前記反射層側におけるBおよびZrの合計含有率が高く、表面側におけるBおよびZrの合計含有率が低くなるように、前記保護層におけるBおよびZrの合計含有率が該保護層の厚さ方向に沿って変化する傾斜組成膜であり、
    前記反射層側におけるBおよびZrの合計含有率が5at%〜30at%であり、
    前記表面側におけるBおよびZrの合計含有率が0at%〜20at%であることを特徴とするEUVリソグラフィ用反射層付基板。
  3. 前記保護層が下記のいずれかの固溶体よりなることを特徴とする請求項1または2に記載のEUVリソグラフィ用反射層付基板。
    ・RuとBとの固溶体
    ・RuとZrとの固溶体
    ・Ru、BおよびZrの固溶体
  4. 前記保護層の結晶状態が、アモルファスであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射層付基板。
  5. 基板上に、EUV光を反射する反射層と、該反射層を保護する保護層とがこの順に形成されたEUVリソグラフィ用反射層付基板であって、
    前記保護層が、ルテニウム(Ru)と、ホウ素(B)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選択される少なくとも1つの元素と、を成分とし、
    前記保護層におけるRuの含有率が70at%〜95at%、前記BおよびZrの合計含有率が5at%〜30at%であり、
    前記保護層の結晶構造がアモルファスであることを特徴とするEUVリソグラフィ用反射層付基板。
  6. 基板上に、EUV光を反射する反射層と、該反射層を保護する保護層とがこの順に形成されたEUVリソグラフィ用反射層付基板であって、
    前記保護層が、Ruと、BおよびZrからなる群から選択される少なくとも1つの元素と、を成分とし、
    前記保護層は、前記反射層側におけるBおよびZrの合計含有率が高く、表面側におけるBおよびZrの合計含有率が低くなるように、前記保護層におけるBおよびZrの合計含有率が該保護層の厚さ方向に沿って変化する傾斜組成膜であり、
    前記反射層側におけるBおよびZrの合計含有率が5at%〜30at%であり、
    前記表面側におけるBおよびZrの合計含有率が0at%〜20at%であり、
    前記保護層の結晶構造がアモルファスであることを特徴とするEUVリソグラフィ用反射層付基板。
  7. 前記保護層が下記のいずれかの固溶体よりなることを特徴とする請求項5または6に記載のEUVリソグラフィ用反射層付基板。
    ・RuとBとの固溶体
    ・RuとZrとの固溶体
    ・Ru、BおよびZrの固溶体
  8. 前記保護層が、Ruと、Bと、を成分とし、前記保護層の結晶状態が、真空中(1Pa以下)、200℃までアモルファスを維持することを特徴とする請求項3乃至7のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射層付基板。
  9. 前記保護層が、Ruと、Zrと、を成分とし、前記保護層の結晶状態が、真空中(1Pa以下)、400℃までアモルファスを維持することを特徴とする請求項3乃至7のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射層付基板。
  10. 前記保護層表面の表面粗さが、0.5nm rms以下であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射層付基板。
  11. 前記保護層の厚さが、1〜10nmであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射層付基板。
  12. 請求項1乃至11のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射層付基板の保護層上に吸収体層を形成してなるEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
  13. 前記吸収体層が、タンタル(Ta)を主成分とする材料で形成されることを特徴とする請求項12に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
  14. 前記保護層と前記吸収体層とのエッチング選択比が、プラズマエッチングを用いた場合、10以上であることを特徴とする請求項12または13に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
  15. 前記吸収体層上に、タンタル(Ta)を主成分とする材料で形成された、マスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層が設けられていることを特徴とする請求項12乃至14のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
  16. 吸収体層に形成されるパターンの検査に用いられる光の波長に対する前記保護層表面での反射光と、前記低反射層表面での反射光と、のコントラストが、30%以上であることを特徴とする請求項15に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
  17. 請求項12乃至16のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクをパターニングしたEUVリソグラフィ用反射型マスク。
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