JP4910654B2 - 疲労強度の高いクランクシャフト - Google Patents

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Description

本発明は、少なくともクランク・ピンの表面に高周波焼入れによる硬化層をそなえるクランクシャフトに関する。
自動車エンジンなどの内燃機関におけるピストンの往復運動を回転運動に変更する部品として、クランクシャフトが用いられている。
このクランクシャフト1は、図1に示すように、シリンダーへのクランク・ジャーナル2、ピストン用コネクティングロッドの軸受け部であるクランク・ピン3、クランクウェブ4およびカウンタウェイト5を備えていて、特にクランク・ジャーナル2およびクランク・ピン3には高周波焼入れを施し、その表面に硬化層6を形成して疲労強度の向上を図っている。
かようなクランクシャフトを典型例とする機械構造用部品は、鋼材を1100℃以上で加工(鍛造)して製造するのが一般的であり、表面の硬化のために行う上記焼入れ処理の前組織が高温加工によって粗大化するために、焼入れ後のマルテンサイトの旧オーステナイト粒径も粗大化する。旧オーステナイト粒径の粗大化は、単位粒界面積当たりの粒界を劣化させる、例えばPなどの不純物元素の濃化をまねくことから、粒界破壊を起こしやすくなる。このような部位に引張残留応力が発生した場合は、焼入れ後に割れ(以下、焼割れという)が発生しやすくなる。また、高温の鍛造では、焼入れ前組織が粗大化するため、焼入れ後のマルテンサイトの旧オーステナイト粒も粗大化する。特に、疲労試験における曲げ繰り返し数の小さい、いわゆる短時間側の疲労強度が低下しやすい傾向にあり、さらなる疲労強度の向上が望まれていた。
ここに、クランクシャフトの焼割れについて、特許文献1には、クランクシャフトの焼入れ冷却時に、クランクシャフトのピン部およびクランク・ジャーナルのスラスト部に冷媒がかからないようにすることによって、焼割れを防止することが提案されている。この方法は、焼割れが発生しやすいスラスト部の引張り残留応力を低下させ、焼割れを抑制するものである。しかし、さらなる高疲労強度を得ようとした場合に、例えば図1において、クランク・ピン3のボトム部分の曲面で構成された部位である、ボトムR部7においては、焼入れによって発生する圧縮残留応力が高くならないため、焼割れは起こらないものの、所期した疲労強度が得られないことがあった。
特開2005−146384号公報
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたものであり、従来に比し一層優れた耐焼割れ性を有し、かつ高い疲労強度を有するクランクシャフトについて提案することを目的とする。
さて、発明者らは、前記したような耐焼割れ性を効果的に向上させると共に、特にクランク・ピンのボトムR部の圧縮残留応力を高めるための方途について鋭意究明したところ、高周波焼入れにおいて適切な条件を見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)少なくともクランク・ピンの表面に焼入れ硬化層を有するクランクシャフトであって、
C:0.35〜0.7mass%、
Si:0.80mass%以下(ゼロを含む)
Mn:0.2〜2.0mass%、
Al:0.25mass%以下(ゼロを含む)
Ti:0.005〜0.1mass%、
Mo:0.05〜0.6mass%、
B:0.0003〜0.006mass%、
S:0.06mass%以下、
P:0.020mass%以下および
Cr:2.5mass%以下(ゼロを含む)
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の成分組成を有し、前記クランク・ピンのボトムR部における表面圧縮残留応力が600MPa以上であることを特徴とする疲労強度の高いクランクシャフト。
(2)前記(1)において、前記成分組成として、さらに
Cu:1.0mass%以下、
Ni:3.5mass%以下、
Co:1.0mass%以下、
Nb:0.1mass%以下、
V:0.5mass%以下および
W:1.0mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする疲労強度の高いクランクシャフト。
(3)前記(1)または(2)において、前記成分組成として、さらに
Zr:0.1mass%以下、
Ta:0.5mass%以下、
Hf:0.5mass%以下および
Sb:0.1mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする疲労強度の高いクランクシャフト。
(4)前記(1)、(2)または(3)において、前記成分組成として、さらに
Pb:0.1mass%以下、
Bi:0.1mass%以下、
Se:0.1mass%以下、
Te:0.1mass%以下、
Ca:0.01mass%以下、
Mg:0.01mass%以下および
REM:0.1mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする疲労強度の高いクランクシャフト。
本発明によれば、優れた耐焼割れ性並びに高い疲労強度を有するクランクシャフトを安定して提供することができる。
まず、本発明を導くに到った実験結果から順に説明する。
さて、発明者らは、前記した耐焼割れ性を効果的に向上させるべく、特に高周波焼入れ時の冷却条件について鋭意検討を行った。その結果、高周波焼入れ時の冷却時間を10s以下とすると、焼入れ直後に、上記したクランクシャフトのクランク・ピン3のボトムR部7に大きな圧縮残留応力を与えることができる反面、その代償としてショルダー部8(図1参照)に大きな引張残留応力が発生することが判明した。
一方、図2に、高周波焼入れ時の冷却時間とクランク・ピン3の各部分における最高復熱温度との関係を示すように、冷却時間が短いためにクランク内部の熱がショルダー部8あるいはボトムR部7に復熱することも新たに判明した。このとき、図2からわかるように、ショルダー部8は150℃以上に、疲労強度が必要なボトムR部7は100℃程度にまで復熱する。さらに、冷却時間を7s以下にすると、ショルダー部8は180℃程度に、ボトムR部7は130℃程度まで復熱する。すなわち、焼入れ時の冷却時間を短くすると、ショルダー部8は高温に加熱されるため、一部で転位の回復が起こり、局所的に高い残留引張応力が緩和される結果、焼割れが起こりにくくなる。一方、疲労強度が必要なボトムR部7はさほど高温に晒されないため、転位の回復が起こりにくく、圧縮残留応力が残る結果、高い疲労強度を得ることができるのである。
なお、図2に結果を示した実験は、C:0.48mass%、Si:0.60mass%、Mn:0.70mass%、Mo:0.25mass%、Ti:0.05mass%、B:0.0030mass%の組成の鋼材を熱間鍛造してクランクシャフトにし、ピン部およびジャーナル部を切削加工した後、高周波焼入れで加熱温度1000℃にて焼入れする条件に従って行った。
さらに、図3に、高周波焼入れ時の冷却時間に関する、ボトムR部7における圧縮残留応力の変化を示すように、焼入れ時の冷却時間を10s以下にすれば、700MPa以上の圧縮残留応力を得ることができる。この図3に結果を示す実験の条件は、先の図2の場合と同様である。
なお、用いる鋼材の成分組成を本発明に従う成分組成範囲を満足するものとした場合、冷却時間を10s以下と短くしても、図4に示すように、焼入れ部の硬さは変化せず、さらに、図5に示すように、表面からの焼入れ深さも変化しないため、焼入れ処理における問題は発生しない。
なお、クランク・ピンのボトムR部の焼入れ深さは、疲労強度確保の観点から1.5mm以上とする必要がある。
ここで、図4および図5に結果を示した実験は、C:0.48mass%、Si:0.60mass%、Mn:0.70mass%、Ti:0.05mass%を基本組成とし、これにMo:0.25mass%および/またはB:0.0030mass%を添加した、あるいは添加しない、残部がFeおよび不可避不純物の組成の鋼材を熱間鍛造してクランクシャフトにし、ピン部およびジャーナル部を切削加工した後、加熱温度1000℃の高周波焼入れ処理にて焼入れする条件に従って行った。
以上の実験結果から、クランクシャフトの焼入れ時の冷却時間を10s以下に短くすると、復熱によって、ショルダー部は高温に加熱される一方、ボトムR部はさほど高温に晒されないため、ショルダー部での焼割れを回避しつつ高い疲労強度を得ることができる。かような、短時間冷却での焼入れによって、クランク・ピンのボトムR部における表面圧縮残留応力を600MPa以上にすることができる。
ここで、クランク・ピンのボトムR部における表面圧縮残留応力を600MPa以上にするのは、表面に高い圧縮残留応力を与えることによって、900MPa以上の高い疲労限を得るためである。
次に、上記した焼入れ前組織を得るための好適な鋼成分について説明する。
C:0.35〜0.7mass%
Cは、焼入れ性への影響が最も大きい元素であり、焼入れ硬化層の硬さおよび深さを高めて疲労強度の向上に有効に寄与する。しかしながら、含有量が0.35mass%に満たないと、必要とされる疲労強度を確保するために焼入れ硬化層深さを飛躍的に高めねばならず、その際焼割れの発生が顕著となるため、0.35mass%以上を添加する。一方、0.7mass%を超えて含有させると、粒界強度が低下し、それに伴い疲労強度も低下し、また、切削性、冷間鍛造性および耐焼割れ性も低下する。このため、Cは0.35〜0.7mass%の範囲に限定した。好ましくは、0.4〜0.6mass%の範囲である。
Si:0.80mass%以下(ゼロを含む)
Siは、脱酸剤として作用するだけでなく、強度の向上にも有効に寄与するが、含有量が0.8mass%を超えると、被削性および鍛造性の低下を招くため、Si量は0.8mass%以下にすることが必要である。
なお、強度向上のためには0.05mass%以上とすることが好ましい。
Mn:0.2〜2.0mass%
Mnは、焼入れ性を向上させ、焼入れ時の硬化層深さを確保する上で有用な成分である。その含有量が0.2mass%未満では、焼入れ性の向上の添加効果に乏しいため、0.2mass%以上は必要である。好ましくは0.3mass%以上である。一方、Mn量が2.0mass%を超えると、焼入れ後の残留オーステナイトが増加し、かえって表面硬度が低下し、ひいては疲労強度の低下を招くので、Mnは2.0mass%以下にすることが必要である。
Al:0.25mass%以下(ゼロを含む)
Alは、脱酸に有効な元素である。また、焼入れ加熱時におけるオーステナイト粒成長を抑制することによって焼入れ硬化層の粒径を微細化する上でも有用な元素である。しかしながら、0.25mass%を超えて含有させてもその効果は飽和し、むしろ成分コストの上昇を招く不利が生じるので、Alは0.25mass%以下の範囲で含有させる必要がある。好ましくは0.01〜0.10mass%の範囲である。なお、MnSの形態制御を行う場合には、Al量を0.005mass%以下とすることが有効である。
Ti:0.005〜0.1mass%以下
Tiは、不可避不純物として混入するNと結合することで、BがBNとなってBの焼入れ性向上効果が消失するのを防止し、Bの焼入れ性向上効果を十分に発揮させる作用を有する。この効果を得るためには、0.005mass%以上添加する必要がある。一方、0.1mass%を超えて含有されると、TiNが多量に形成される結果、これが疲労破壊の起点となって疲労強度の著しい低下を招くため、Tiは0.1mass%以下とする。好ましくは、0.01〜0.07mass%の範囲である。
Mo:0.05〜0.6mass%
Moは、オーステナイト粒の成長を抑制する上で有用な元素であり、そのためには0.05mass%以上添加する必要がある。一方、0.6mass%を超えて添加すると、被削性の劣化を招くため、Moは0.6mass%以下とする。
B:0.0003〜0.006mass%
Bは、粒界強化により疲労特性を改善するだけでなく、強度を向上させる有用な元素であり、0.0003mass%以上添加するが、0.006mass%を超えて添加しても、その効果は飽和するため、0.006mass%以下に限定した。
S:0.06mass%以下
Sは、鋼中でMnSを形成し、切削性を向上させる有用元素であるが、0.06mass%を超えて含有させると粒界に偏析して粒界強度を低下させるため、Sは0.06mass%以下に制限した。好ましくは、0.04mass%以下である。
P:0.020mass%以下
Pは、不純物元素として粒界に偏析し、粒界強度を低下させるために0.020mass%以下にする必要がある。
Cr:2.5mass%以下(ゼロを含む)
Crは、焼入れ性の向上に有効であり、硬化深さを確保する上で有用な元素である。しかし、過度に含有されると炭化物を安定化させて残留炭化物の生成を助長し、粒界強度を低下させて疲労強度を劣化させる。従って、Crの含有は極力低減することが望ましいが、2.5mass%までは許容できる。好ましくは、1.5mass%以下である。
以上、基本成分について説明したが、本発明ではその他にも、以下に述べる6成分のうちの1種または2種以上を適宜含有させることができる。
Cu:1.0mass%以下
Cuは、焼入れ性の向上に有効であり、またフェライト中に固溶し、この固溶強化によって、疲労強度を向上させる。さらに、炭化物の生成を抑制することにより、炭化物による粒界強度の低下を抑制し、疲労強度を向上させる。しかしながら、含有量が1.0mass%を超えると、熱間加工時に割れが発生するため、1.0mass%以下の添加とすることが好ましい。より好ましくは、0.5mass%以下である。なお、0.03mass%未満の添加では、焼入れ性の向上効果および粒界強度の低下抑制効果が小さいため、0.05mass%以上含有させることが望ましい。
Ni:3.5mass%以下
Niは、焼入れ性を向上させる元素であるので、焼入れ性を調整する場合に用いる。また、炭化物の生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制して、疲労強度を向上させる元素でもある。しかしながら、Niは極めて高価な元素であり、3.5mass%を超えて添加すると、鋼材のコストが上昇するため、3.5mass%以下で添加することが好ましい。なお、0.05mass%未満の添加では、焼入れ性の向上効果および粒界強度の低下抑制効果が小さいため、0.05mass%以上含有させることが望ましい。さらに、好ましくは0.1〜1.0mass%である。
Co:1.0mass%以下
Coは、炭化物の生成を抑制して、炭化物による粒界強度の低下を抑制し、疲労強度を向上させる元素である。しかしながら、Coは極めて高価な元素であり、1.0mass%を超えて添加すると鋼材のコストが上昇するので、1.0mass%以下の添加とする。なお、0.01mass%未満の添加では、粒界強度の低下抑制効果が小さいため、0.01mass%以上添加することが望ましい。好ましくは、0.02〜0.5mass%である。
Nb:0.1mass%以下
Nbは、焼入れ性の向上効果があるだけでなく、鋼中でCおよびNと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素でもあり、これらの効果によって疲労強度を向上させる。しかしながら、0.1mass%を超えて含有させても、その効果は飽和するため、0.1mass%以下とすることが好ましい。なお、0.005mass%未満の添加では、析出強化作用および焼もどし軟化抵抗性の向上効果が小さいため、0.005mass%以上添加することが望ましい。さらに好ましくは、0.01〜0.05mass%である。
V:0.5mass%以下
Vは、鋼中でC,Nと結合し析出強化元素として作用する.また、焼戻し軟化抵抗性を向上させる元素であり、これらの効果により疲労強度を向上させる。しかしながら、0.5mass%を超えて含有させても、その効果は飽和するため、0.5mass%以下とすることが好ましい。なお、0.01mass%未満の添加では、疲労強度の向上効果が小さいことから、0.01mass%以上添加することが望ましい。さらに好ましくは、0.03〜0.3mass%である。
W:1.0mass%以下
Wは、オーステナイト粒の成長を抑制する上で有用な元素であり、そのためには0.005mass%以上で含有することが好ましいが、1.0mass%を超えて添加すると、被削性の劣化を招くため、Wは1.0mass%以下とすることが好ましい。
Zr:0.1mass%以下
Zrは、焼入れ性向上効果があるだけでなく、鋼中でCおよびNと結合し析出強化元素として作用する。また、焼戻し軟化抵抗性を向上させる元素であり、これらの効果によって疲労強度を向上させる。しかしながら、0.1mass%を超えて含有させても、その効果は飽和するため、0.1mass%以下とすることが好ましい。なお、0.005mass%未満の添加では、析出強化作用および焼もどし軟化抵抗性の向上効果が小さいため、0.005mass%以上添加することが望ましい。さらに、好ましくは0.01〜0.05mass%である。
Ta:0.5mass%以下
Taは、ミクロ組織変化の遅延に対して効果があり、疲労強度、特に転動疲労の劣化防止する効果があるため、添加してもよい。しかし、その含有量が0.5mass%を超えて含有量を増加させても、それ以上強度向上に寄与しないため、0.5mass%以下とする。なお、疲労強度の向上作用を発現させるためには、0.02mass%以上とすることが好ましい。
Hf:0.5mass%以下
Hfは、ミクロ組織変化の遅延に対して効果があり、疲労強度、特に転動疲労の劣化を防止する効果があるため、添加してもよい。しかし、その含有量が0.5mass%を超えると、それ以上強度向上に寄与しないため、0.5mass%以下とする。なお、疲労強度の向上作用を発現させるためには、0.02mass%以上とすることが好ましい。
Sb:0.01mass%以下
Sbは、ミクロ組織変化の遅延に対して効果があり、疲労強度、特に転動疲労の劣化防止する効果があるので、添加してもよい。しかし、その含有量が0.01mass%を超えて含有量を増加させると靭性が劣化するので、0.01mass%以下とする。疲労強度の向上作用を発現させるためには、0.005mass%以上とすることが好ましい。
さらにまた、本発明では、Pb:0.1mass%以下、Bi:0.1mass%以下、Se:0.1mass%以下、Te:0.1mass%以下、Ca:0.01mass%以下、Mg:0.01mass%以下およびREM:0.1mass%以下を含有させることができる。
Pb:0.1mass%以下
Bi:0.1mass%以下
PbおよびBiはいずれも、切削時の溶融、潤滑および脆化作用により、被削性を向上させるため、この目的で添加することができる。しかしながら、Pbで0.1mass%、Biで0.1mass%を超えて添加しても、効果が飽和する上に成分コストが上昇するため、それぞれ上記の範囲で添加することが好ましい。なお、被削性の改善のためには、Pbは0.01mass%以上およびBiは0.01mass%以上で含有させることが好ましい。
Se:0.1mass%以下
Te:0.1mass%以下
SeおよびTeはそれぞれ、Mnと結合してMnSeおよびMnTeを形成し、これがチップブレーカーとして作用することにより被削性を改善する。しかしながら、含有量が0.1mass%を超えると、効果が飽和する上、成分コストの上昇を招くので、いずれも0.1mass%以下で含有させる。また、被剤性の改善のためには、Seの場合は0.003mass%以上およびTeの場合は0.003mass%以上で含有させることが好ましい。
Ca:0.01mass%以下
REM:0.1mass%以下
CaおよびREMはそれぞれ、MnSと共に硫化物を形成し、これがチップブレーカーとして作用することにより被削性を改善する。しかしながら、CaおよびREMをそれぞれ、0.0lmass%および0.1mass%を超えて含有させても、効果が飽和する上、成分コストの上昇を招くため、それぞれ上記の範囲で含有させる。なお、被削性の改善のためには、Caは0.0001mass%以上およびREMは0.0001mass%以上で含有させることが好ましい。
Mg:0.01mass%以下
Mgは、脱酸元素であるだけでなく、応力集中源となって被削性を改善する効果があるため、必要に応じて添加することができる。しかしながら、過剰に添加すると効果が飽和する上、成分コストが上昇するため、0.01mass%以下で含有させるものとした。なお、被削性の改善のためには、Mgは0.0001mass%以上で含有させることが好ましい。
以上説明した元素以外の残部はFeおよび不可避不純物であることが好ましく、不可避不純物としては、NおよびOが挙げられ、それぞれ、N:0.015mass%およびO:0.008mass%までをそれぞれ許容できる。
次に、本発明の製造方法について説明する。
上記した所定の成分組成に調整した鋼材を、棒鋼圧延後に鍛造しクランクシャフト形状に成形し、研削などによりクランク・ピンまたはクランク・ジャーナルを焼入られるように加工した後、少なくともクランク・ピンに、あるいは、さらにクランク・ジャーナルに対しても加熱温度:900℃以上の条件下にて焼入れ処理する。これに続いて焼戻しを行っても良い。最後に仕上の加工(オイル穴開け、バランス調整等)を行い、クランクシャフトを製造する。
ここで、特にクランクシャフトのクランク・ピンのボトムR部の表面圧縮残留応力を600MPa以上とすることが、疲労強度の向上に重要である。このような高い残留応力を得るための手段として、高周波加熱後冷却する際の冷却時間を10s以下とすることが肝要である。
すなわち、この焼入れ時の冷却条件は、前掲の図2および図3に示したように、ショルダー部の焼割れを防止し、かつボトムR部の圧縮残留応力を最大限に残すため、焼入れ後の復熱現象を有効に利用する条件である。
なお、高周波焼入れ時の冷却は、冷媒に濃度5〜15%のクエンチャントを用いて行うことが有利である。なぜなら、クエンチャントの濃度が5%未満では焼割れが発生しやすくなり、一方、濃度が15%を超えると冷却能力が低下して焼きが入りにくくなるためである。
さらに、図6に示すように、焼入れ温度は焼入れ不足にならない条件、好ましくは940℃以上で、かつ1000℃以下にするのが短時間側の疲労強度を上昇させることができるために有効となる。
すなわち、図6に、回転曲げ疲労試験片を用いて測定した疲労強度と焼入れ温度との関係を示すように、クランクシャフトの疲労限は介在物と圧縮残留応力に影響されるため変化しないが、短時間の疲労寿命は焼入れ温度を低下させることにより大幅に向上可能であることを見出した。
これは、焼入れ後のマルテンサイトの旧オーステナイト粒径が微細化するため疲労強度が上昇するからである。従って、マルテンサイトの旧オーステナイト粒径を微細化するために、2回にわたる高周波焼入れを行うと、さらに短時間の疲労強度が上昇する。
なお、図6示した実験は、C:0.48mass%、Si:0.6mass%、Mn:0.7mass%、Mo:0.25mass%、Ti:0.05mass%およびB:0.0030mass%を含み、残部がFeおよび不可避不純物の組成の鋼材から得た、回転曲げ疲労試験片を種々の温度で高周波焼入れし、2次加工により仕上げた後に、回転曲げ疲労試験に供して行った。
ただし、焼入れが不十分な温度まで焼入れ温度を低下させると、疲労強度は極端に低下するため、焼入れはAc点以上である必要がある。
表1に示す成分組成になる鋼素材を、転炉により溶製し、連続鋳造により鋳片とした。この鋳片を、1050℃での熱間圧延により100mmΦの棒鋼に鍛造した。ついで、この棒鋼から図7に示すクランク模擬試験片を採取し、表2に記載の条件にて焼入れを行ったのち、クランク・ピンのショルダー部およびボトムR部の残留応力、クランク・ピンのボトムR部の焼入れ深さ並びに、疲労強度を測定した。その測定結果を、表2に併記する。
なお、残留応力の測定は、X線回折により半価幅の変化を測定することで行った。
また、疲労試験は、クランク曲げ試験機を用いて行った。
Figure 0004910654
Figure 0004910654
表2から、No.1〜4は高周波の焼入温度を変化させているが、焼入れ温度が970℃近傍で最も106回疲労強度が高くなっていることがわかる。また、No.4のように、焼入れ温度がAc点以下になると、疲労強度は急激に低下している。
No.5〜9では、高周波焼入れの冷却時間を変化させているが、冷却時間の低下に伴いショルダー部の残留応力が大きく低下する。これに伴い、焼割れも解消することが分かる。また、ボトムR部の圧縮残留応力が上昇し、曲げ疲労強度が106回および107回のいずれの場合も上昇することが分かる
クランクシャフトの模式図である。 焼入れ時の冷却時間と復熱温度との関係を示すグラフである。 焼入れ時の冷却時間と残留応力との関係を示すグラフである。 焼入れ時の冷却時間と表面硬さとの関係を示すグラフである。 焼入れ時の冷却時間と焼入れ深さとの関係を示すグラフである。 焼入れ温度と疲労強度との関係を示すグラフである。 疲労試験に供する試験片を示す図である。
符号の説明
1 クランクシャフト
2 クランク・ジャーナル
3 クランク・ピン
4 クランク・ウェブ
5 カウンタウェイト
6 硬化層
7 ボトムR部
8 ショルダー部

Claims (4)

  1. 少なくともクランク・ピンの表面に焼入れ硬化層を有するクランクシャフトであって、
    C:0.35〜0.7mass%、
    Si:0.80mass%以下(ゼロを含む)
    Mn:0.2〜2.0mass%、
    Al:0.25mass%以下(ゼロを含む)
    Ti:0.005〜0.1mass%、
    Mo:0.05〜0.6mass%、
    B:0.0003〜0.006mass%、
    S:0.06mass%以下、
    P:0.020mass%以下および
    Cr:2.5mass%以下(ゼロを含む)
    を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の成分組成を有し、前記クランク・ピンのボトムR部における表面圧縮残留応力が600MPa以上であることを特徴とする疲労強度の高いクランクシャフト。
  2. 請求項1において、前記成分組成として、さらに
    Cu:1.0mass%以下、
    Ni:3.5mass%以下、
    Co:1.0mass%以下、
    Nb:0.1mass%以下、
    V:0.5mass%以下および
    W:1.0mass%以下
    のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする疲労強度の高いクランクシャフト。
  3. 請求項1または2において、前記成分組成として、さらに
    Zr:0.1mass%以下、
    Ta:0.5mass%以下、
    Hf:0.5mass%以下および
    Sb:0.1mass%以下
    のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする疲労強度の高いクランクシャフト。
  4. 請求項1、2または3において、前記成分組成として、さらに
    Pb:0.1mass%以下、
    Bi:0.1mass%以下、
    Se:0.1mass%以下、
    Te:0.1mass%以下、
    Ca:0.01mass%以下、
    Mg:0.01mass%以下および
    REM:0.1mass%以下
    のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする疲労強度の高いクランクシャフト。
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