JP4904698B2 - 色素増感型太陽電池における負極の製造方法 - Google Patents

色素増感型太陽電池における負極の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、色素増感型太陽電池における負極の製造方法に関するものであり、より詳細には、有機溶媒中に金属酸化物半導体が分散された半導体ペーストを透明樹脂製電極基板上に塗布し、有機溶媒を除去することにより半導体多孔質層を形成する工程を含む色素増感型太陽電池における負極の製造方法に関する。
現在、地球規模の環境問題や化石エネルギー資源枯渇問題などの観点から太陽光発電に対する期待が大きく、単結晶及び多結晶シリコン光電変換素子が太陽電池として実用化されている。しかし、この種の太陽電池は、高価格であること、シリコン原料の供給問題などを有しており、シリコン以外の材料を用いた太陽電池の実用化が望まれている。
上記のような見地から、最近では、シリコン以外の材料を用いた太陽電池として、色素増感型太陽電池が注目されている。この色素増感型太陽電池は、図1に示すように、透明ガラスや透明樹脂フィルムなどの透明基板1a上に透明導電膜1b(例えばITO膜)を電極基板1として使用し、この電極基板1の透明導電膜1b上に二酸化チタンなどの金属酸化物半導体の多孔質層3を設け、この多孔質層3の表面に増感色素(例えばRu色素)5を吸着させたものを負極7として有しており、このような負極7を、電解質液8を間に挟んで正極10に対峙させた構造を有している。
このような構造の色素増感型太陽電池では、負極7側から可視光を照射すると、色素5が励起され、基底状態から励起状態へと遷移し、励起された色素5の電子は、半導体の多孔質層3の伝導帯へ注入され、外部回路12を通って正極10に移動する。正極10に移動した電子は、電解液中のイオンによって運ばれ、色素5に戻る。このような過程の繰り返しにより電気エネルギーが取り出されるわけである。このような色素増感型太陽電池の発電メカニズムは、pn接合型光電変換素子と異なり、光の捕捉と電子伝導が別々の場所で行われ、植物の光電変換プロセスに非常に似たものとなっている。
ところで、上記のような色素増感型太陽電池の負極7は、透明基板1aの透明導電膜1b上に、金属酸化物半導体を、水や有機溶媒などに分散させた半導体ペーストを塗布して、加熱処理して溶媒を除去し焼き付けることにより半導体の多孔質層3を形成し、この上に色素溶液を塗布し、色素を多孔質層3に吸着させた後、色素溶液の溶媒を除去することにより製造されている(特許文献1,2)。
特許第2664194号 特公平8−15097号
ところで、上記のようにして負極7を製造する方法では、透明基板1aとして透明ガラスを用いている場合には、半導体ペーストを塗布しての溶媒除去及び焼付けをかなり高温(例えば450℃程度まで)での加熱処理により行うことができるが、透明基板1aとしてポリエチレンテレフタレートなどの透明樹脂フィルムを用いた場合には、その熱変形を防止するために、加熱処理温度が制限される。従って、このような場合には、金属酸化物半導体を分散させるための溶媒として低級アルコール等の有機溶媒を使用し、且つ120〜150℃程度の低温での加熱処理により半導体多孔質層3を形成している。
しかしながら、上記のような方法で透明樹脂製電極基板(即ち、透明樹脂製フィルム表面に透明導電膜を形成したもの)上に半導体多孔質層を形成して得られた負極を製造したときには、最終的に組み立てられた太陽電池の変換効率が低く、例えば透明ガラスを電極基板として用いた場合に比して低く、変換効率の増大が求められている。
従って、本発明の目的は、透明樹脂製電極基板上に色素が吸着された半導体多孔質層を有する構造を有している負極であって、変換効率の高い色素増感型太陽電池を作製することが可能な負極を製造する方法を提供することにある。
本発明によれば、透明樹脂製電極基板上に、金属酸化物半導体及び該金属酸化物に対応する金属アルコキシドが有機溶媒中に分散された半導体ペーストを塗布して半導体コーティング層を形成し、該半導体コーティング層の多孔質化処理によって半導体多孔質層を形成し、この半導体多孔質層に色素溶液を接触させて色素吸着処理を行うことにより色素増感型太陽電池における負極を製造する方法において、
半導体ペースト塗布後に直ちに半導体コーティング層を減圧下で急激乾燥して脱溶媒し、さらに減圧状態を維持しながら、脱溶媒に続く脱水縮合並びに脱水縮合により生成した水の除去を行うことにより、前記多孔質化処理による半導体多孔質層の形成が行われ、
前記色素吸着処理後に洗浄処理を行い、次いで減圧乾燥または熱風吹き付けによる乾燥を行うことを特徴とする製造方法が提供される。
本発明の製造方法においては、
(1)色素吸着処理後の乾燥を、25乃至120℃の温度で10Torr以下の真空度に保持されたチャンバー内に保持することにより行うこと、
(2)色素吸着処理後の乾燥を、25乃至120℃の雰囲気のチャンバー内で、透明導電性樹脂基板側から、0.3乃至300mの風量で気流を吹き付けることによる熱風乾燥により行うこと、
(3)減圧下での脱溶媒を低温領域での加熱により行い、それに続く減圧下での脱水縮合及び水の除去を高温領域での加熱により行うこと、
(4)前記低温領域が25乃至100℃であり、前記高温領域が100乃至200℃であること、
が好ましい。
本発明においては、色素吸着処理を行った後に行われる洗浄処理後の乾燥が、減圧乾燥または熱風吹き付けによる熱風乾燥によって行われる。これにより、色素で増感された半導体多孔質層内に洗浄液に由来する微量水分を確実に除去することができるのである。
本発明者等の研究によると、色素で増感されている半導体多孔質層の内部に僅かにでも微量の水分が残存していると、該負極を用いて組み立てられた色素増感型太陽電池の変換効率が低下してしまう。即ち、色素で増感された半導体多孔質層は、色素溶液を多孔質半導体層に接触させることにより形成されるため、このような処理(色素吸着処理)後に洗浄が行われる。従って、増感された半導体多孔質層の内部には、洗浄液に由来する微量の水分が残存し易く、これが変換効率の低下をもたらしているものと考えられる。例えば、従来では、色素水溶液を洗浄した後の乾燥は、大気圧下で適度な温度に加熱することにより行われていたため、該多孔質層の内部のポア内に微量の水分が残存してしまい、後述する比較例に示されているように、このような負極を用いた太陽電池の変換率は約2.0〜3.0%程度である。
しかるに、本発明に従い、この乾燥を減圧乾燥或いは熱風乾燥により行う場合には、半導体多孔質層の内部についても十分に乾燥が行われ、微量水分の残存を有効に抑制することが可能となり、この結果、後述する実施例に示されているように、変換効率は約3〜5%に増大することとなる。
また、本発明においては、半導体ペーストを塗布することにより透明電極樹脂基板上に形成された半導体コーティング層の多孔質化処理を、半導体ペースト塗布後に直ちに半導体コーティング層を減圧下で急激乾燥して脱溶媒し、さらに減圧状態を維持しながら、脱溶媒に続く脱水縮合並びに脱水縮合により生成した水を除去することにより行う。これにより、色素吸着量を増大し、変換効率を高めることができる。
即ち、半導体ペースト中に金属酸化物半導体とともに配合されている金属アルコキシドは、バインダーとして機能するものであり、ゲル化により金属酸化物半導体粒子同士を接合し、多孔質の層を形成するものである。従来では、半導体ペースト塗布後に大気中に放置しての乾燥(自然乾燥)により徐々に溶媒の除去及びゲル化を行っていたのであるが、このような手段では、表面から徐々に脱溶媒及びゲル化が進行しいていくために、該多孔質層が緻密な層となってしまい、この結果、その表面積も小さいものとなり、色素吸着量を増大させることが困難となる。例えば、後述する比較例では、このような自然乾燥により半導体多孔質層を形成していることから、半導体多孔質層への色素吸着量は、約1.8〜2×10-8モル/cm程度である。
しかるに、半導体ペースト塗布後に急激乾燥(減圧下での加熱による乾燥)を行い、引き続いて減圧下で加熱温度を高めて脱水縮合(ゲル化)並びに脱水縮合により生成した水を除去する処理を行ったときには、コーティング層の内部から一気に溶媒が揮発するため、内部にポアが多く形成され、多孔質化度の高い多孔質層が形成され、その表面積が極めて増大し、色素吸着量も増大し、変化率がさらに高められるのである。例えば後述する実施例では、色素吸着量は、約3〜5×10-8モル/cm程度に増大しており、この結果、変換率は約3〜5%にさらに増大している。
尚、本発明において、半導体ペースト塗布後直ちに急激乾燥を行うとは、塗布後にコーティング層表面での脱溶媒或いはさらにゲル化が生じての表面の緻密化が生じない程度の時間内に急激乾燥を開始することを意味する。また、急激乾燥は、自然乾燥ではなく、減圧下での加熱で強制的に一気に乾燥を行うことを意味するものである。
以下、本発明の色素増感型太陽電池における負極の製造プロセスを、図1を参照して説明する。
先ず、図1で示されている透明樹脂製電極基板1を用意する。この電極基板1は、通常、0.25乃至360cm程度の大きさを有するものであり、透明樹脂フィルム1a上に透明導電膜1bを設けたものであり、透明樹脂フィルム1aとしては、透明である限り任意のものが使用されるが、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、或いはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同士のランダム乃至ブロック共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体等のエチレン−ビニル化合物共重合体樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン−スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のビニル系樹脂;ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキサイド;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体;酸化澱粉、エーテル化澱粉、デキストリンなどの澱粉;及びこれらの混合物からなる樹脂;などからなるフィルムを用いることができる。一般的には、強度や耐熱性等の見地から、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンナフタレートが好適に使用される。また、透明樹脂フィルム1aの厚みや大きさは、特に制限されず、最終的に使用される色素増感型太陽電池の用途に応じて適宜決定される。
透明導電膜1bとしては、酸化インジウム−酸化錫合金からなる膜(ITO膜)や酸化錫にフッ素をドープした膜(FTO膜)が代表的であるが、電気抵抗が低いことから、特にITO膜が好適である。これらは蒸着により上記の透明基板1a上に形成され、その厚みは、通常、0.5乃至0.7μm程度である。
次いで、透明樹脂製電極基板1の透明導電膜1b上に、半導体ペーストを塗布して半導体コーティング層を形成する。このコーティング層は、図1における半導体多孔質層(チタニア多孔質層)3を形成するものである。
従って、塗布する半導体ペーストは、金属酸化物半導体粒子を有機溶媒に分散させたものであり、金属酸化物半導体としては、色素増感型太陽電池において従来から使用されているもの、具体的には、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、タンタル、クロム、モリブデン、タングステンなどの金属の酸化物、或いはこれら金属を含有する複合酸化物、例えばSrTiO、CaTiOなどのペロブスカイト型酸化物などを用いることができる。高い変換率を確保するためには、二酸化チタン(特にアナターゼ型結晶構造を有するもの)が最も好適に使用される。また、このような半導体酸化物の粒子は、多孔質化の点で微粒であることが好ましく、通常、その粒径が5〜500nm、特に5〜350nmの範囲にあるのがよい。
また、上記の金属酸化物半導体粒子を分散させる有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール等の炭素数が4以下の低級アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,3−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール等の脂肪族グリコール、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルエチルアミン等のアミン類などが単独または2種以上の組み合わせで好適に使用されるが、特に好適には、炭素数4以下の低級アルコールが使用される。即ち、このような有機溶媒を用いることにより、透明樹脂フィルム1aの熱変形を発生させることなく、容易に当該有機溶媒を除去することができるからである。
さらに、上記の半導体ペースト中は、前記金属酸化物に対応する金属アルコキシドが配合される。この金属アルコキシドは、所謂バインダーとして機能するものであり、所謂分散剤及び硬化剤としての機能を有しており、有機溶媒中に金属酸化物半導体粒子を均一且つ安定に分散させることができ、更に、半導体微粒子同士を連結させるように容易に硬化し、短時間で均一な半導体多孔質層3を形成するのに有利となる。しかも、この金属アルコキシドは、半導体微粒子との縮合によって該半導体微粒子に対応する金属酸化物を形成するため、このような金属アルコキシドによる性能低下は生じない。本発明において、このような金属アルコキシドとしては、イソプロポキシドが好適であり、特に金属酸化物半導体として二酸化チタン粒子を用いた場合には、テトライソプロポキシチタンが最も好適である。例えば、二酸化チタン粒子とテトライソプロポキシチタンとの組み合わせの場合、テトライソプロポキシチタンは、有機溶媒中に含まれる微量の水分或いは大気中の湿分により容易に加水分解し且つ有機溶媒の除去に伴って二酸化チタン微粒子と縮合し、粒子間を結合させるため、半導体コーティング層の多孔質層化を促進させる。従って、かかる組み合わせは、短時間で且つ低温で多孔質化を行う上で極めて有利である。
また、上記の金属アルコキシドは、前述した金属酸化物半導体粒子100重量部当り、10乃至60重量部、特に20乃至40重量部の量で使用するのが好適である。あまり多量に使用すると、硬化効果は上昇するが、分散効果は上昇せず、かえって変換効率を低下する等の不都合を生じ易く、また、あまり少量でも、所望の硬化効果及び分散効果を得ることができないからである。
さらに、上述した半導体ペーストの固形分濃度は、10乃至50重量%、特に15乃至25重量%の範囲にあるのがよい。溶媒量が多すぎると、垂れ等により安定な厚みのコーティング層を形成することが困難となり、また、溶媒量が少ないと、作業性が低下してしまう。
尚、金属アルコキシド含有の半導体ペーストは、1リットル当たり1〜3モル程度の金属アルコキシドを含有する有機溶媒溶液を調製し、この有機溶媒溶液を金属酸化物半導体粒子とともに前述した低級アルコールに分散させることにより調製することができる。この場合、金属アルコキシド用の有機溶媒としては、前述した炭素数4以下の低級アルコールが好適に使用される。
半導体ペーストのコーティングは、ドクターブレード法、スピンコート法、スクリーン印刷法、スプレーコーティング法等の周知の方法で行うことができ、その厚みは、多孔質化後の厚みが5乃至20μm程度、半導体重量としては、0.001乃至0.010g/cm程度となるようにするのがよい。
上記のようにして本発明の半導体ペーストを透明樹脂製電極基板1の透明導電膜1b上にコーティングして半導体コーティング層を形成した後に、多孔質化処理を行う。
即ち、この多孔質化は、半導体ペースト塗布後に直ちに行われ、例えば塗布後、10分以内に多孔質化処理を開始する。塗布後から多孔質化処理開始までにあまり時間が経過してしまうと、自然乾燥による脱溶媒及びゲル化がコーティング層の表面から始まり、コーティング層の表面が緻密になってしまうおそれがあり、多孔質度の高い層を形成しにくくなってしまうからである。例えば、従来法により自然乾燥等により多孔質化を行った場合には、図2に示されるように、半導体多孔質層3の内部には空隙が存在せず、緻密な層となるが、上記のように急激乾燥を経て形成される半導体多孔質層3には、その内部に空隙3aが多く生成しており、従ってその表面積も大きく、色素吸着量を増大させることができる。
また、多孔質化処理は、半導体コーティング層が表面に形成されている塗布された透明樹脂製電極基板1を、所定のチャンバー内に導入して行われるが、特に、急激乾燥により一気に脱溶媒を行い、引き続いて脱水縮合(ゲル化)及び縮合水の除去を行うことにより、多孔質化処理を行うことが、多孔質度の高い半導体多孔質層を形成し、後述する色素吸着処理による色素吸着量を増大させる上で必要である。先にも述べたように、急激乾燥により、一気にコーティング層内部の溶媒が揮散し、極めて多孔質度の高い層が形成されるからである。
急激乾燥は、コーティング層の内部の溶媒を迅速に揮散させるという点で、減圧乾燥により行われ、例えば、チャンバー内を25乃至120℃の温度で且つ10Torr以下の真空度に保持することにより行うことが好ましい。即ち、単なる加熱乾燥では、透明樹脂製電極基板1の熱変形等を防止するために加熱温度が制限され、脱溶媒効率が低いが、上記のような減圧下での加熱乾燥により、極めて迅速に脱溶媒を行うことができ、しかもコーティング層内部の溶媒の揮散も有効に行うことができるからである。また、このような減圧で急激乾燥を行うことにより、半導体粒子同士の接触度合いも向上し、変換効率を高める上で有利となる。
また、急激乾燥に続いて行われる脱水縮合(ゲル化)及び縮合水の除去は、上記の急激乾燥工程でも一部行われている。従って、この工程は明確に急激乾燥工程と分離できるものではなく、急激乾燥に連続して行われるものであるが、通常、かかる工程は、急激乾燥よりも高い温度領域で行われる。例えば、上記のように減圧下での加熱乾燥により急激乾燥が行われた場合には、その真空度を維持したまま、温度を100乃至200℃の高温領域に高めることにより、脱水縮合及び縮合水の除去を行うのがよい。従って、この場合には、急激乾燥開始から脱水縮合及び縮合水の除去を終了するまで、徐々に温度を昇温させていくことが好ましく、通常、これらの工程は1〜2時間程度かけて行われる。
上述した多孔質化処理により、例えばアルキメデス法による相対密度が50乃至90%、特に55乃至80%程度の半導体多孔質層3が形成される。
上記のような多孔質化処理が行われた後に、半導体多孔質層3に色素溶液を接触させることにより、増感色素5を吸着させる。この吸着処理は、上記の脱水処理後、直ちに行うのがよい。即ち、脱水処理後の半導体多孔質層3が大気中に長時間曝されると、再び、大気中の水分を吸着してしまうからである。
色素溶液の接触は、ディッピング或いは色素溶液の滴下により行うことができる。吸着処理時間(浸漬時間)は、ディッピングの場合、通常、30分〜24時間程度である。また、色素溶液の滴下による吸着処理は、減圧下で行うこともでき、例えば、減圧下で多孔質化処理を行った場合には、減圧の程度を比較的小さくし(例えば、2〜0.1Torr程度)、さらに処理する基板1を振とうさせながら色素溶液の滴下を行うのがよい。
上記のような吸着処理後、洗浄及び乾燥して色素溶液の溶媒、余剰色素や洗浄液を除去することにより、表面に増感色素5が形成された半導体多孔質層3を有する負極7を得ることができる。この場合、半導体多孔質層3表面に微量水分が付着していない状態で色素の吸着が行われるため、均一に増感色素5の薄層を形成することができる。
用いる増感色素は、カルボキシレート基、シアノ基、ホスフェート基、オキシム基、ジオキシム基、ヒドロキシキノリン基、サリチレート基、α−ケト−エノール基などの結合基を有するそれ自体公知のものが使用され、前述した特許文献1,2等に記載されているもの、例えばルテニウム錯体、オスミウム錯体、鉄錯体などを何ら制限なく使用することができる。特に幅広い吸収帯を有するなどの点で、ルテニウム−トリス(2,2’−ビスピリジル−4,4’−ジカルボキシラート)、ルテニウム−シス−ジアクア−ビス(2,2’−ビスピリジル−4,4’−ジカルボキシラート)などのルテニウム系錯体が好適である。このような増感色素の色素溶液は、溶媒としてエタノールやブタノールなどのアルコール系有機溶媒を用いて調製され、その色素濃度は、通常、3×10−4乃至5×10−4mol/l程度である。
吸着処理後の洗浄は、例えばエタノール、アセトニトリル、メトキシプロピオニトリル等を用いて行われ、これにより、半導体多孔質層3の表面に単分子吸着していない余剰の色素及び溶媒を除去し、次いで乾燥が行われる。
本発明においては、かかる乾燥を、減圧乾燥または熱風吹き付けによる熱風乾燥によって行われる。即ち、半導体多孔質層3は多孔質度が高く、例えば内部に多くの空隙(ポア)を含んでおり、通常の自然乾燥或いは加熱乾燥では、この内部に、洗浄液等に由来する微量の水分が残存しやすく、微量の水分が残存していると、後述する実施例等にも示されているように変換効率の低下を招く。しかしながら、減圧乾燥や熱風の吹き付けによる乾燥により、このような半導体多孔質層3の内部に付着した微量の水分をも有効に除去することができ、変換効率を向上させることが可能となるのである。
本発明において、上記の乾燥を減圧乾燥により行うときには、例えば25乃至120℃の温度で10Torr以下の真空度に保持されたチャンバー内に、色素5で増感された半導体多孔質層3が形成された基板を保持することにより行うことが好ましく、乾燥時間は、基板の大きさや減圧度(真空度)等によっても異なるが、一般には、1乃至120分程度、当該チャンバー内に保持すればよい。
また、熱風吹き付けにより乾燥を行う場合には、温度25乃至120℃の雰囲気に保持されたチャンバー内で、乾燥空気を吹き付けることが好ましく、特に、透明導電性樹脂基板1a側から吹き付け、その風量を0.3乃至300m3/min程度とすることが最も乾燥効率が高い。
このようにして得られた負極7は、半導体多孔質層3内に洗浄液に由来する微量水分が確実に除去されており、かかる負極7を用いて作製された太陽電池は、高い変換効率を示す。
即ち、上記のようにして得られた負極7は、図1に示すように、電解質液8を間に挟んで対極である正極10に対峙させることにより、色素増感型太陽電池として使用に供される。
尚、電解質液8としては、通常、リチウムイオン等の陽イオンや塩素イオン等の陰イオンを含む種々の電解質溶液を使用することができる。また、この電解質溶液中には、酸化型構造及び還元型構造を可逆的にとり得るような酸化還元対を存在させることが好ましく、このような酸化還元対としては、例えばヨウ素−ヨウ素化合物、臭素−臭素化合物、キノン−ヒドロキノンなどを挙げることができる。また、この電解質液8は、一般に、電気絶縁性の樹脂等により封止され、電極間から漏洩しないように構成されている。
また、正極10は、透明、不透明に関係なく、種々の電極基板を用いることができ、例えばガラス基板や透明樹脂フィルムなどの透明基板表面に白金層やITO等の透明電極層を蒸着させたもの、或いは透明基板表面にITO等の透明電極層を蒸着させ、さらにその上に白金層を蒸着させたものなど、任意の構造を採ることができる。
本発明の製造方法により得られた負極7を用いて作製された色素増感型太陽電池では、負極7中の増感色素5が半導体多孔質層3の表面に多く且つ均一に吸着しており、且つ該多孔質層3の内部での微量水分の残存が有効に回避されているため、高い変換効率を示すこととなる。
本発明を、次の実施例及び比較例により説明する。
(実施例1)
チタンイソプロポキシドを1mol/lになるように、有機溶剤ブタノールで希釈したチタンアルコキシド溶液を調整し、これと、二酸化チタン粒子(構成粒子径は、15〜350nmの汎用チタニア粒子)を、二酸化チタン微粒子100重量部当り50重量部の量で含有し、且つ固形分濃度が20重量%の二酸化チタン微粒子ペーストを調整した。
そして、ポリエチレンテレフタレートフィルムに導電膜としてITO膜を設けた
導電性フィルム(トービ社製、製品名「OTEC」)に、上記調整した二酸化チタンのペーストを塗布し、その後、1Torr減圧下雰囲気のチャンバー内に二酸化チタンのペーストが塗布されたサンプルを設置し、130℃で60分の加熱を施し、多孔質膜を得た。その半導体ペーストの厚みは約5μmで、半導体重量は約0.002g/cmであった。その後、純度99.5%のエタノールに分散させたルテニウム錯体色素[Ru(dcbpy)2(NCS)2]・2H2Oからなる色素溶液中に、20時間浸漬して色素を吸着させた。その後、メトキシプロピオニトリルで過剰吸着色素分を洗浄し、50℃に保持したチャンバー内に挿入して1Torr減圧下で30分乾燥させた。
以上のようにして得られた負極を用いて、これと、LiI/I2(0.5mol/0.05mol)をメトキシプロピオニトリルに溶かしたものに4-tert-butyl pyridine(ターシャリーブチルピリジン)を添加して作製した電解質を、白金を蒸着したITO/ガラスで構成される正極とで挟み込んだ色素増感型太陽電池を作製した。この電池の変換効率を測定したところ、約4%であった。また、負極の色素吸着量を測定したところ、約3.8×10-8モル/cm2であった。
(実施例2)
実施例と同様に調整した二酸化チタンペーストを、ポリエチレンテレフタレートフィルムに導電膜としてITO膜を設けた導電性フィルム(トービ社製、製品名「OTEC」)に塗布し、その後、1Torr減圧下雰囲気のチャンバー内に二酸化チタンのペーストが塗布されたサンプルを設置し、130℃で60分の加熱を施し、多孔質膜を得た。その半導体ペーストの厚みは約5μmで、半導体重量は約0.002g/cmであった。その後、実施例1と同様に色素を吸着・洗浄させた後、50℃に保持したチャンバー内に挿入して、透明導電性樹脂基板側から風速200rpmの乾燥空気を吹き付けて乾燥させた。
以上のようにして得られた負極を用いて、実施例1と同様に色素増感型太陽電池を作製し、変換効率を測定したところ、約3.5%であった。また、負極の色素吸着量を測定したところ、約3.4×10-8モル/cm2であった。
(比較例1)
実施例1と同様に調整した二酸化チタンペーストを、ポリエチレンテレフタレートフィルムに導電膜としてITO膜を設けた導電性フィルム(トービ社製、製品名「OTEC」)に塗布し、その後、1Torr減圧下雰囲気のチャンバー内に二酸化チタンのペーストが塗布されたサンプルを設置し、130℃で60分の加熱を施し、多孔質膜を得た。その半導体ペーストの厚みは約5μmで、半導体重量は約0.002g/cmであった。その後、実施例1と同様に色素を吸着・洗浄させた後、140℃に保持したチャンバー内に挿入して大気圧下で30分乾燥させた。
以上のようにして得られた負極を用いて、実施例1と同様に色素増感型太陽電池を作製し、変換効率を測定したところ、約2%であった。また、負極の色素吸着量を測定したところ、約1.8×10-8モル/cm2であった。
(比較例2)
実施例1と同様に調整した二酸化チタンペーストを、ポリエチレンテレフタレートフィルムに導電膜としてITO膜を設けた導電性フィルム(トービ社製、製品名「OTEC」)に塗布し、その後、1Torr減圧下雰囲気のチャンバー内に二酸化チタンのペーストが塗布されたサンプルを設置し、130℃で60分の加熱を施し、多孔質膜を得た。その半導体ペーストの厚みは約5μmで、半導体重量は約0.002g/cmであった。その後、実施例1と同様に色素を吸着・洗浄させた後、室温、大気圧中で30分放置し乾燥させた。
以上のようにして得られた負極を用いて、実施例1と同様に色素増感型太陽電池を作製し、変換効率を測定したところ、約2%であった。また、負極の色素吸着量を測定したところ、約2×10-8モル/cm2であった。
本発明により製造される負極を有する色素増感型太陽電池の概略構造を示す図。 従来の製法によって作成された多孔質層の模式図。 本発明の製法によって作成された多孔質層の模式図。
符号の説明
1:透明樹脂製電極基板
1a:透明樹脂フィルム
1b:透明導電層
3:多孔質半導体層
5:増感色素
7:負極
8:電解質液
10:正極

Claims (5)

  1. 透明樹脂製電極基板上に、金属酸化物半導体及び該金属酸化物に対応する金属アルコキシドが有機溶媒中に分散された半導体ペーストを塗布して半導体コーティング層を形成し、該半導体コーティング層の多孔質化処理によって半導体多孔質層を形成し、この半導体多孔質層に色素溶液を接触させて色素吸着処理を行うことにより色素増感型太陽電池における負極を製造する方法において、
    半導体ペースト塗布後に直ちに半導体コーティング層を減圧下で急激乾燥して脱溶媒し、さらに減圧状態を維持しながら、脱溶媒に続く脱水縮合並びに脱水縮合により生成した水の除去を行うことにより、前記多孔質化処理による半導体多孔質層の形成が行われ、
    前記色素吸着処理後に洗浄処理を行い、次いで減圧乾燥または熱風吹き付けによる乾燥を行うことを特徴とする製造方法。
  2. 色素吸着処理後の乾燥を、25乃至120℃の温度で10Torr以下の真空度に保持されたチャンバー内に保持することにより行う請求項1に記載の製造方法。
  3. 色素吸着処理後の乾燥を、25乃至120℃の雰囲気のチャンバー内で、透明導電性樹脂基板側から、0.3乃至300mの風量で気流を吹き付けることによる熱風乾燥により行う請求項1に記載の製造方法。
  4. 減圧下での脱溶媒を低温領域での加熱により行い、それに続く減圧下での脱水縮合及び水の除去を高温領域での加熱により行う請求項1乃至3の何れかに記載の製造方法。
  5. 前記低温領域が25乃至100℃であり、前記高温領域が100乃至200℃である請求項4に記載の製造方法。
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