JP4902489B2 - 高強度Cr−Mo鋼の溶接金属 - Google Patents

高強度Cr−Mo鋼の溶接金属 Download PDF

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Description

本発明は、被覆アーク溶接棒で形成された高強度Cr−Mo鋼の溶接金属に関するものである。
発電プラント、化学プラントなどの高温高圧環境下で使用されるCr−Mo系低合金耐熱鋼容器は、装置の大型化によって、使用される鋼材は厚肉化しており、V、Nb等を添加した高強度Cr−Mo鋼が使用されている。そして、この高強度Cr−Mo鋼からなる鋼材を成形し、各部を溶接して大型の容器が製造されている。
こうした高強度Cr−Mo鋼の溶接時には、一般的に、溶接効率が良好であるサブマージアーク溶接が適用されているが、特に、ノズル及び配管等の溶接時においては、被覆アーク溶接を適用することが必要とされている。そして、この高強度Cr−Mo鋼の溶接部を構成する溶接金属においては、耐熱性(高温強度)、耐SR割れ性(応力除去のための焼鈍時に粒界割れを起こさないこと)、靭性および耐焼戻脆化特性を改善することが求められ、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、TIG溶接ワイヤに関する技術であるが、(Si+Mn)/C(P+Sn+Sb+As)で表されるパラメータを一定値に制限することで、焼戻し脆化特性を改善する技術が開示されている。また、特許文献2には、電解抽出により採取した残渣の組成が、Fe:35重量%以下、V:10重量%以上となるようにすることによって、旧オーステナイト粒界にセメンタイト析出を抑制することで、耐SR割れ性を改善する被覆アーク溶接金属および被覆アーク溶接材料に関する技術が開示されている。また、特許文献3には、サブマージアーク溶接方法において、溶接金属中の酸素量を低減することで焼戻し脆化特性が改善されることが記載されている。
特許第2742201号公報 特許第3283773号公報 特開平1−271096号公報
しかし、TIG溶接は施工効率が低いため、装置が厚肉化している近年においては、被覆アーク溶接、ガスシールドアーク溶接、サブマージアーク溶接等のより高い効率で施工可能な溶接方法が望ましいが、TIG以外の溶接方法においては、溶接金属中の酸素量がTIG溶接と比較して不可避的に高くなるため、特許文献1に記載の成分組成を検討する必要があった。また、特許文献2に記載の被覆アーク溶接金属では、すべての特性をバランスよく確保できているが、焼戻し脆化特性に改善の余地があった。さらに、特許文献3に記載のサブマージアーク溶接方法では、耐焼戻し脆化特性のレベルは十分ではなかった。
そこで、本発明の課題は、耐熱性(高温強度)、耐SR割れ性、靭性および耐焼戻脆化特性のバランスに優れ、特に、近年の発電プラント、化学プラント等の高温高圧環境下で使用されるCr−Mo系低合金耐熱鋼容器の溶接金属に対する靭性および焼戻し脆化特性の改善要求に対応できる高強度Cr−Mo鋼の溶接金属を提供することにある。
そこで、本発明者らは、脆化促進処理(ステップクーリング)を実施することで、高強度Cr−Mo鋼の被覆アーク溶接における焼戻し脆化特性について調査した。その結果、溶接金属中の不純物レベルを低減しても、脆化する場合も多く、その原因を調査したところ、溶接金属の耐焼戻脆化特性を支配するのは炭化物形態であることを知見した。具体的には、脆化促進処理(ステップクーリング)時にNbを主成分とするMC炭化物の成長を促進させるとともに、Crを主成分とする炭化物を抑制することで大幅な改善に成功した。また、これらの炭化物形態制御は他の特性(耐SR割れ性、靭性)も改善できることが明らかとなった。
さらに、これら炭化物形態を溶接金属において実現するには、被覆アーク溶接棒の成分(C、Cr、Mo、Nb、V)および溶接施工条件を適切に制御すればよいことを見出し、本発明を完成した。
また、脆化特性を改善するために、炭化物形態以外の支配因子を検討した結果、直径1μm以上の比較的粗大な酸化物系介在物の個数密度を2000個未満に抑制することで、安定的に所望の脆化特性が得られることを見出した。そして、溶接金属中の酸素量に加えて、脱酸元素の組成を制御することによって、粗大な酸化物系介在物の個数密度を制御できることを見出した。
すなわち、請求項1に係る発明の高強度Cr−Mo鋼の溶接金属は、被覆アーク溶接によって形成される溶接金属において、C:0.04〜0.10質量%、Si:0.15〜0.5質量%、Mn:0.5〜1.0質量%、Cr:2.00〜3.25質量%、Mo:0.9〜1.2質量%、Nb :0.01〜0.03質量%、V:0.2〜0.7質量%、B:0.003質量%以下(0質量%含まない)、およびO:0.02〜0.05質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、溶接金属原質部のみから電解抽出される残渣におけるCr析出量が0.3質量%未満、かつNb析出量が0.005質量%以上であることを特徴とする。
この高強度Cr−Mo鋼の溶接金属では、必須成分として、C、Si、Mn、Cr、Mo、Nb、V、B、およびOの含有量を特定の範囲に制御し、さらに、電解抽出残渣におけるCr析出量およびNb析出量を特定の範囲に制限することによって、脆化促進処理(ステップクーリング)時にNbを主成分とするMC炭化物の成長を促進させるとともに、Crを主成分とする炭化物を抑制して、溶接金属の焼戻し脆化特性を支配する炭化物形態を制御して靱性および耐焼戻脆化特性を改善することができる。
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の高強度Cr−Mo鋼の溶接金属において、さらに、前記不可避的不純物におけるCuおよびNiの含有量をそれぞれ0.05質量%未満に制限することによって、耐焼戻脆化特性に有害なCuおよびNiの含有量を制限して、耐焼戻脆化特性の改善を図ることができる。
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係る発明の高強度Cr−Mo鋼の溶接金属において、さらに、前記不可避的不純物におけるPおよびSの含有量をそれぞれ0.012質量%未満に制限することによって、不純物として旧γ粒界に偏析し、焼戻し脆化を促進させるPおよびSの含有量を制限して、耐焼戻脆化特性の改善を図ることができる。
請求項4に係る発明の高強度Cr−Mo鋼の溶接金属は、下記式(1)で算出されるパラメータCPが、5〜50であることを特徴とする。
CP=[C]×[Nb]/([Cr]/52+[Mo]/96+[Nb]/93+[V]/51)×1000
式(1)
式(1)中、[C]、[Nb]、[Cr]、[Mo]、[Nb]および[V]は、溶接金属中のC、Nb、Cr、Mo、NbおよびVの含有率(質量%)を示す。
この高強度Cr−Mo鋼の溶接金属では、パラメータCPを5〜60の範囲に規制することによって、脆化促進処理(ステップクーリング)時にNbを主成分とするMC炭化物の成長を促進させるとともに、Crを主成分とする炭化物を抑制して、耐焼戻脆化特性の改善を図ることができる。
請求項5に係る発明の高強度Cr−Mo鋼の溶接金属は、直径1μm以上の酸化物系介在物が、被見面積1mm2当り2000個未満であることを特徴とする。
この高強度Cr−Mo鋼の溶接金属では、直径1μm以上の酸化物系介在物が、被見面積1mm2当り2000個未満であることによって、破壊起点が低減されことによって耐焼戻し脆化特性を改善して、安定的に所望の脆化特性を得ることができる。
ここで、安定的とは、ステップクーリング後のシャルピー試験において、vE-50の最小値(min.)でも55J以上確保できることを言う。
請求項6に係る発明の高強度Cr−Mo鋼の溶接金属は、溶接金属中のSiの含有率[Si]、Mnの含有率[Mn]およびOの含有率[O]が、下記式(2)で表される関係を有することを特徴とする。
12000[Si]+170[Mn]+150000[O]<9800
式(2)
この高強度Cr−Mo鋼の溶接金属では、溶接金属中のSiの含有率[Si]、Mnの含有率[Mn]およびOの含有率[O]が、下記式(2)で表される関係を有することによって、溶接金属中の酸素量に加えて、脱酸元素の組成を制御して、溶接金属中のSi、MnおよびOの含有率のバランスを適正にして、粗大な酸化物系介在物の個数密度を制御し、耐焼戻脆化特性を改善して、安定的に所望の脆化特性を得ることができる。
本発明の高強度Cr−Mo鋼の溶接金属は、Nbを主成分とするMC炭化物の成長を促進させるとともに、Crを主成分とする炭化物を抑制して、溶接金属の焼戻し脆化特性を支配する炭化物形態を制御して靱性および耐焼戻脆化特性を改善して、近年の発電プラント、化学プラント等の高温高圧環境下で使用されるCr−Mo系低合金耐熱鋼容器の溶接金属に対する靭性および焼戻し脆化特性の改善要求に対応することができる。
以下、本発明の高強度Cr−Mo鋼の溶接金属(以下、「本発明の溶接金属」という)について詳細に説明する。
本発明の溶接金属は、高強度Cr−Mo鋼からなる被溶接材の被溶接部に被覆アーク溶接によって形成される溶接部を構成する金属であり、必須成分として、C、Si、Mn、Cr、Mo、Nb、V、B、およびOを特定の量含有し、残部がFeおよび不可避的不純物で構成されるものである。以下、本発明の溶接金属を構成する各成分の含有量の数値範囲およびその数値範囲の限定理由について説明する。
溶接金属中のC含有量
Cは、溶接金属の焼入れ性に大きな影響を及ぼし、室温および高温における強度ならびに靱性を確保するために重要な役割を有する元素であり、過度の添加はCrを主成分とする炭化物量を増加させるため、脆化特性を劣化させる。そこで、溶接金属中のC含有量は0.04〜0.10質量%である。C含有量が0.04質量%未満であると、強度及び靱性が低下する。好ましくは0.05質量%以上である。また、0.10質量%を超えると、脆化特性が劣化する。好ましくは0.08質量%以下である。
溶接金属中のSi含有量
Siは、脱酸作用により溶接金属を清浄にし歩留まった場合はフェライトを固溶強化させ、また、溶接ビードのなじみ性を改善する役割を有する元素である。そこで、溶接金属中のSi含有量は0.15〜0.5質量%である。溶接金属中のSi含有量が0.5質量%を超えると強度が高くなり靭性の劣化を招き、また、耐焼戻し脆化特性が低下する。好ましくは0.4質量%以下である。また、Si含有量が0.15質量%未満であると、溶接ビードのなじみ性が不十分であるため溶接の作業性が低下する。好ましくは0.2質量%以上である。
溶接金属中のMn含有量
Mnは、溶接金属の靱性を改善する役割を有する元素であり、特に、Vを含有する溶接金属の靱性を改善する効果を有し、また、ステップクーリング前の溶接金属の靱性を確保するために重要な元素である。そこで、溶接金属中のMn含有量は0.5〜1.0質量%である。溶接金属中のMn含有量が1.0質量%を超えると焼戻し脆化特性が低下する。好ましくは0.9質量%以下である。また、Mn含有量が0.5質量%未満であると、靱性が不十分となる。好ましくは0.6質量%以上である。
溶接金属中のCr含有量
Crは、耐熱性に優れた高強度Cr−Mo鋼の主成分であり、溶接金属の強度を確保するために重要な元素である。そこで、溶接金属中のCr含有量は2.00〜3.25質量である。溶接金属中のCr含有量が3.25質量%を超えると、焼入性が増大して靱性が低下するとともに、粒界に粗大炭化物が増加して焼戻し脆化特性が劣化する。好ましくは3.0質量%以下である。また、Cr含有量が2.00質量%未満であると、所望の強度を得ることができない。好ましくは2.1質量%以上である。
溶接金属中のMo含有量
Moは、Crとともに、耐熱性に優れた高強度Cr−Mo鋼の主成分であり、溶接金属の機械的強度を確保するために重要な元素である。そこで、溶接金属中のMo含有量は0.9〜1.2質量%である。溶接金属中のMo含有量が1.2質量%を超えると、焼入性が増大して靱性が低下する。好ましくは1.1質量%以下である。また、Mo含有量が0.9質量未満であると、所望の強度を得ることができない。好ましくは1.0質量%以上である。
溶接金属中のNb含有量
Nbは、その含有量が微量であっても、室温および高温における強度ならびにクリープ強度を改善する役割を有する元素である。そこで、溶接金属中のNb含有量は、0.01〜0.03質量%である。溶接金属中のNb含有量が0.03質量%を超えると、強度が高くなりすぎて、靱性が低下する。好ましくは0.025質量%以下である。また、Nb含有量が0.01質量%未満であると、室温および高温における強度ならびにクリープ強度を改善する効果が得られない。好ましくは0.015質量%以上である。
溶接金属中のV含有量
Vは、溶接金属中におけるSR処理後の粒内に微細なMC炭化物を優先的に析出させ、溶接金属の靱性および焼戻脆化特性を改善する役割を有する元素である。また、Vは溶接金属の室温及び高温強度並びにクリープ強度を高める効果も有している。そこで、溶接金属中のV含有量は、0.2〜0.7質量%である。溶接金属中のV含有量が0.7質量%を超えると、強度が高くなりすぎて、靱性及び耐焼戻し脆化特性が低下する。好ましくは0.6質量%以下である。また、V含有量が0.2質量%未満であると、靱性および焼戻脆化特性の改善効果を十分に得ることができない。好ましくは0.3質量%以上である。
溶接金属中のB含有量
Bは、溶接金属の靭性確保に有効な元素であり、さらに適量の含有により、Crを主成分とする炭化物量を低減させる役割を有する元素である。そこで、溶接金属中のB含有量は、0.003質量%以下とし、0質量%は含まない。溶接金属のB含有量が0.003質量%を超えると、溶接金属中に固溶したNを固定するため、結果として微細なMC炭化物を増加させることになる。好ましくは0.002質量%以下(0質量%含まない)である。
溶接金属中のO含有量
Oは、溶接金属の組織を微細化させて靱性の確保に有効な元素である。また、溶接金属中のOは、旧オーステナイト粒径の微細化による耐SR割れ性の改善にも有効な元素である。そこで、溶接金属中のO含有量は、0.02〜0.05質量%である。溶接金属中のO含有量が0.05質量%を超えると、酸化物系介在物が増加するため、靭性が低下する。好ましくは0.04質量%以下である。また、O含有量が0.02質量%未満であると、靱性の改善効果を得ることができない。好ましくは0.03質量%以上である。
本発明の溶接金属は、前記のC、Si、Mn、Cr、Mo、Nb、V、B、およびOを必須成分とし、残部がFeおよび不可避的不純物で構成されるものである。この不可避的不純物に含まれる成分の中で、CuおよびNiは、溶接金属の靱性を確保するために有効な元素であるが、焼戻し脆化を促進させる側面をも有する成分である。そこで、本発明の溶接金属においては、不可避的不純物におけるCuおよびNiの含有量をそれぞれ0.05質量%未満に制限することが望ましい。さらに好ましくは0.03質量%未満である。
また、不可避的不純物に含まれる成分の中で、PおよびSは、不純物として旧γ粒界に偏析し、焼戻し脆化を促進させる成分である。そこで、本発明の溶接金属においては、不可避的不純物におけるPおよびSの含有量を、それぞれ0.012質量%未満に制限することが望ましい。さらに好ましくは0.010質量%未満である。
さらに、本発明の溶接金属において、焼戻し脆化特性を支配する炭化物の形態を適正にするためには、Nbを主成分とするMC炭化物の成長を促進させるとともに、Crを主成分とする炭化物を抑制するために、下記式で算出されるパラメータCPを5〜50の範囲に制御することが好ましい。微細炭化物(MC)の成長と粗大炭化物(M23C6)の抑制には、5以上あればよい。5より小さいと粗大M23C6が増加する。50を超えると微細MCがかえって増加するおそれがあるため、焼戻し脆化特性が劣化する。また、パラメータCPの好ましい下限値は10、より好ましくは12であり、好ましい上限値は40、より好ましくは30である。
CP=[C]×[Nb]/([Cr]/52+[Mo]/96+[Nb]/93+[V]/51)×1000
式(1)
式(1)中、[C]、[Nb]、[Cr]、[Mo]、[Nb]および[V]は、溶接金属中のC、Nb、Cr、Mo、NbおよびVの含有率(質量%)を示す。
本発明の溶接金属において、溶接金属原質部のみから電解抽出される残渣におけるCr析出量が0.3質量%未満、かつNb析出量が0.005質量%以上に規制される。電解抽出残渣におけるCr析出量を0.3質量%未満に規制してCrを主成分とする粗大炭化物(M23C6および/またはM7C3)を低減することによって、良好な耐焼戻脆化特性を得ることができる。また、電解抽出残渣におけるNb析出量を0.0056質量%以上にすることによって、Nbを主成分とする微細炭化物(MC)を成長させ、良好な耐焼戻脆化特性を得ることができる。
前記の電解抽出は、10体積%アセチルアセトン−1体積%テトラメチルアンモニウムクロライド−メタノール溶液を電解溶液として、飽和甘汞電極に対して0mVの電解条件下、室温で約1000Cの電気量を通電して、溶接金属から採取した試料を約2g溶解させ、フィルタ孔径0.1μmのフィルタを用いて電解後の電解液をろ過して行うことができる。そして、ろ過の残渣をICP発光分析に掛けてCr析出量およびNb析出量を測定することができる。
また、本発明の溶接金属において、直径1μm以上の酸化物系介在物は、被見面積1mm2当り2000個未満に規制される。本発明において、被見面積とは、溶接金属を任意の方向に切断したときに観察される断面を言う。被見面積1mm2当り、直径1μm以上の酸化物系介在物の個数が2000個未満にすることによって、破壊起点が低減されることによって良好な耐焼戻し脆化特性を得ることができ、さらに、安定的に所望の脆化特性を得ることができる。ここで、安定的とは、ステップクーリング後のシャルピー試験において、vE-50の最小値(min.)でも55J以上確保できることを言う。
さらに、本発明の溶接金属において、溶接金属中のSiの含有率[Si]、Mnの含有率[Mn]およびOの含有率[O]が、下記式(2)で表される関係を有することが好ましい。溶接金属中のSiの含有率[Si]、Mnの含有率[Mn]およびOの含有率[O]が、下記式(2)で表される関係を有することによって、溶接金属中の酸素量に加えて、脱酸元素の組成を制御して、溶接金属中のSi、MnおよびOの含有率のバランスを適正にして粗大な酸化物系介在物の個数密度を制御し、耐焼戻脆化特性を改善して、安定的に所望の脆化特性を得ることができる。
12000[Si]+170[Mn]+150000[O]<9800
式(2)
この高強度Cr−Mo鋼の溶接金属では、そのメカニズムについては、すべてを解明したものではないが、以下のように推定される。
すなわち、溶接金属において、酸化物系介在物の個数密度を支配するものは、酸素量と酸化物系介在物のサイズである。ここで、酸素は一定量必要なので、個数密度を低減するには、サイズを比較的大きくすればよい。また酸化物介在物のサイズは、酸化物系介在物の融点または界面エネルギーに依存するとされる。そこで、本発明においては、酸化物系介在物を構成する元素(=脱酸元素)はSi、Mnであり、これら両元素とOのバランスによって、形成される酸化物種を制御することで、酸化物介在物のサイズが制御でき、同程度の酸素量でも個数密度が制御できたものと考えられる。
次に、本発明の溶接金属を形成するための被覆アーク溶接方法について説明する。
この被覆アーク溶接方法は、必須成分として、C、Si、Mn、Cr、Mo、Nb、V、B、およびOを特定の量含有し、残部がFeおよび不可避的不純物で構成される溶接金属を形成するために、前記のC、Si、Mn、Cr、Mo、Nb、VおよびBの各成分と、残部がFeおよび不可避的不純物と、さらに、アーク安定剤及びスラグ生成剤等を含む被覆剤とを、固着剤によって心線に被覆させて構成される被覆アーク溶接棒を使用して被覆アーク溶接する方法である。このとき、溶接電流の好ましい範囲は、140〜190Aである。
次に、被覆アーク溶接棒の各成分の含有量の限定理由および被覆率について説明する。なお、以下に示す成分は溶接棒における心線及び被覆剤のいずれか一方に含有されていても、両方に含有されていてもよく、両方に含有される場合はその合計量を規定するものである。
被覆アーク溶接棒中のC含有量
Cは溶接金属の室温及び高温強度、並びに靱性を確保するために重要な元素であり、溶接金属中のC含有量を0.04〜0.10質量%にするために、歩留まりを考慮して溶接棒全体におけるC含有量を調整する必要がある。そこで、被覆アーク溶接棒中のC含有量は0.04〜0.12質量%にすることが好ましい。さらに好ましくはC含有量は0.05〜0.11質量%である。
被覆アーク溶接棒中のSi含有量
Siはビードのなじみ性を改善する役割を有する元素であり、溶接金属中のSi含有量を0.15〜0.5質量%にするために、歩留まりを考慮して被覆アーク溶接棒全体におけるSi含有量を調整する必要がある。従って、被覆アーク溶接棒中のSi含有量は1.0〜1.8質量%にすることが好ましい。さらに好ましくは1.4〜1.7質量%である。
被覆アーク溶接棒中のMn含有量
Mnは、特に、Vが添加された溶接金属の靱性を向上させる効果を有する成分であり、溶接金属中のMn含有量を0.5〜1.0質量%とするために、歩留まりを考慮して被覆アーク溶接棒全体におけるMn含有量を調整する必要がある。従って、被覆アーク溶接棒中のMn含有量は0.8〜1.8質量%にすることが好ましい。さらに好ましくは、1.0〜1.5質量%である。
被覆アーク溶接棒中のCr含有量
Crは、耐熱性に優れた高強度Cr−Mo鋼の主成分であり、溶接金属の機械的強度を確保するために重要な元素であり、溶接金属中のCr含有量を2.00〜3.25質量%とするために、歩留まりを考慮して被覆アーク溶接棒全体のCr含有量を調整する必要がある。そこで、被覆アーク溶接棒におけるCr含有量は2.0〜3.3質量%にすることが好ましい。さらに好ましくは2.2〜3.0質量%である。
被覆アーク溶接棒中のMo含有量
Moは、Crとともに、耐熱性に優れた高強度Cr−Mo鋼の主成分であり、溶接金属の機械的強度を確保するために重要な元素であり、溶接金属中のMo含有量を0.9〜1.2質量%とするために、歩留まりを考慮して被覆アーク溶接棒全体のMo含有量を調整する必要がある。そこで、被覆アーク溶接棒におけるMo含有量は0.9〜1.2質量%にすることが好ましい。さらに好ましくは1.0〜1.1質量%である。
被覆アーク溶接棒中のNb含有量
Nbは、その含有量が微量であっても、室温および高温における強度ならびにクリープ強度を改善する役割を有する元素であり、溶接金属中のNb含有量を0.01〜0.03質量%とするために、歩留まりを考慮して被覆アーク溶接棒全体のNb含有量を調整する必要がある。そこで、被覆アーク溶接棒におけるNb含有量は0.04〜0.08質量%にすることが好ましい。さらに好ましくは0.05〜0.07質量%である。
被覆アーク溶接棒中のV含有量
Vは、溶接金属中におけるSR処理後の粒内に微細なMC炭化物を優先的に析出させ、溶接金属の靱性および焼戻脆化特性を改善する役割を有する元素であり、溶接金属中のV含有量を0.2〜0.7質量%とするために、歩留まりを考慮して被覆アーク溶接棒全体のV含有量を調整する必要がある。そこで、被覆アーク溶接棒におけるV含有量は0.3〜1.0質量%にすることが好ましい。さらに好ましくは0.4〜0.8質量%である。
被覆アーク溶接棒中のB含有量
Bは、溶接金属の靭性確保に有効な元素であり、さらに適量の含有により、Crを主成分とする炭化物量を低減させる役割を有する元素であり、溶接金属中のB含有量を0.003質量%以下とするために、歩留まりを考慮して被覆アーク溶接棒全体のB含有量を調整する必要がある。そこで、被覆アーク溶接棒におけるB含有量は0.0002〜0.005質量%にすることが好ましい。さらに好ましくは0.0002〜0.004質量%である。
被覆アーク溶接棒中のCuおよびNi含有量
CuおよびNiは、溶接金属の靱性を確保するために有効な元素であるが、焼戻し脆化を促進させる側面をも有する成分であり、溶接金属中のCu含有量およびNi含有量はそれぞれ0.05質量%未満に制限することが好ましい。そこで、被覆アーク溶接棒全体のCu含有量およびNi含有量をそれぞれ0.05質量%未満にすることが好ましい。さらに0.03質量%未満に制限することが好ましい。
被覆アーク溶接棒中のP含有量
PおよびSは、不純物として旧γ粒界に偏析し、焼戻し脆化を促進させる成分であり、溶接金属中のP含有量およびS含有量をそれぞれ0.012質量%未満に制限することが好ましい。そこで、被覆アーク溶接棒全体のP含有量およびS含有量をそれぞれ0.012質量%未満にすることが好ましい。さらに好ましくは0.010質量%未満に制限することが好ましい。
また、アーク安定剤およびスラグ生成剤としては、一般的な石灰等の金属炭酸塩、蛍石等の金属フッ化物、アルミナ及びルチール等の酸化物、Mg、鉄粉、アルカリ成分等を必要に応じて添加することができる。
さらに、固着剤としては、珪酸ソーダ又は珪酸カリを含有する水ガラスを使用することができる。
心線に被覆させる被覆剤の被覆率は、溶接棒全質量あたり25〜40質量%、好ましくは28〜35質量%である。溶接棒全質量あたりの被覆剤の被覆率が25重量%未満であると、保護筒を十分に形成することができないので、アークが集中せず、スパッタが多発して作業性が極めて悪くなる。また、スラグが十分に形成されず、ビード形状も劣化する。一方、被覆率が40重量%を超えると、スラグの発生量が極めて多くなり、開先内における運棒が困難になる。また、スラグ巻き込みが発生し、スラグの剥離性が低下するので、溶接作業性が極めて悪いものとなる。
以下、本発明の溶接金属の実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。
(実施例1〜9、比較例1〜8)
直径が4.0mmの心線に、被覆材を被覆塗装した後に、乾燥・焼成して表1に示す成分組成を有する被覆アーク溶接棒とした。
Figure 0004902489
この被覆アーク溶接棒を用いて、図1に示すとおり、V形状の開先部3を介して、表2に示す成分組成を有する高強度Cr−Mo鋼からなる溶接母材(板厚:19mm)1aおよび1bを突合せ溶接して溶接試験片を作製した。開先部3の下部には、溶接母材1a,1bと同一の組成を有する裏当金2を配置した。また、V形状の開先部3の開先角度を10度、裏当金2が配置されている部分の溶接母材1aと溶接母材1bとの間のギャップ幅を22mmとした。
溶接は、電流170A、電圧25Vで、8層16パスで行った。なお、予熱・パス間温度は200〜250℃とした。
Figure 0004902489
次に、得られた溶接試験片に図2に示すSR(応力除去焼鈍)処理を行った。図2は、温度を縦軸、時間を横軸としてSR処理の温度処理過程を示す図である。このSR処理は、加熱開始後、溶接試験片の温度が300℃を超えたときに、昇温速度が55℃/時間となるように加熱し、さらに、溶接試験片の温度が705℃に到達した段階で、その温度を8時間保持した。次に、溶接試験片の温度が300℃以下になるまで、降温速度が55℃/時間となるように冷却した。なお、試験片の温度が300℃以下の範囲では、加熱及び冷却条件は規定しない。
次に、得られたSR処理を施した溶接試験片から、図3に示すように、開先部に形成された溶接金属4の中央部からJISZ3111 4号に規定されるサイズの試験片5を採取した。
得られた試験片について、吸光光度法(B)、燃焼-赤外線吸収法(C・S)、不活性ガス融解−熱伝導度法(N・O)、誘導結合プラズマ発光分光分析法(前述の元素以外)によって化学成分分析を行った。また、下記の方法にしたがって、溶接金属の被見面積1mm2における酸化物介在物の個数を測定した。
酸化物介在物の個数
得られた溶接金属の中央部から試験片を切り出し、まず、走査型電子顕微鏡(CarlZeiss社製、SUPRA 35)を用いて、倍率1000倍で試験片を観察し、被見面積0.006mm2の画像を20視野撮影した。次に、得られた画像を画像解析ソフト(Media Cybernetic社製、Image−Pro Plus)を用いて解析し、酸化物径を算出し、直径1μm以上のものの個数密度(個/mm2)を算出した。
また、得られた試験片について、JISZ3111 4号に基づき、シャルピー衝撃試験を実施し、vTr55を評価した。
次に、焼戻し脆化特性を評価するため、脆化促進処理(ステップクーリング)を実施した後にvTr’55を評価した。図4に、ステップクーリングの処理方法を示す。図4に示すように、試験片の温度が300℃を超えると、温度上昇が毎時50℃以下になるように加熱条件を調整し、試験片の温度を593℃まで加熱して、1時間保持する。その後、同様の要領で538℃で15時間、524℃で24時間、496℃で60時間保持するが、これらの冷却段階においては、毎時5.6℃の温度で試験片が冷却されるように調整する。更に、496℃に保持された試験片を、毎時2.8℃の温度で冷却して468℃とし、この温度で100時間保持する。そして、試験片の温度が300℃以下になるまで、温度降下が毎時28℃以下となるように試験片を冷却する。なお、SR条件と同様に、試験片の温度が300℃以下の範囲では、加熱及び冷却条件は規定していない。
次に、ステップクーリング後に、さらに、JISZ3111 4号に基づき、シャルピー衝撃試験を実施し、vTr'55およびvE-50を評価した。
また、ステップクーリング後の試験片について、下記の表3に示す条件で電解抽出を行い、得られた残渣について、ICP発光分析法によって、Cr析出量、Nb析出量を分析した。
Figure 0004902489
表4−1、表4−2および表4−3に、溶接金属中央部の成分組成、パラメータCPの算出結果、電解抽出残渣の分析結果、Si、MnおよびOのバランス(式(2)の左辺の数値)ならびに靱性の指標であるvTr55、さらに耐焼戻脆化特性の指標としてΔ=vTr55−vTr'55、およびステップクーリング後のvE-50をあわせて示す。表4において、vTr55<-50℃、vTr'55<-50℃、Δ(=vTr55−vTr'55)<5℃のものを合格とした。ただしΔがマイナスになる材料については、ゼロと表示した(ほとんど脆化しない優れた材料である)。また、vE-50については、シャルピー試験を3回行って、得られた値の平均値(ave.)が55(J)以上、最小値(min.)が47(J)以上のものを合格とした。
Figure 0004902489
Figure 0004902489
Figure 0004902489
表4−1、表4−2および表4−3に示すとおり、実施例1〜8の溶接金属は、各成分の含有量および電解抽出残渣におけるCr析出量(insol.Cr)およびNb析出量(insol.Nb)が本発明の範囲であった。そのため、靱性の指標であるvTr55およびvE-50、耐焼戻脆化特性の指標であるΔが良好であった。また、ステップクーリング後のシャルピー試験において、vE-50の最小値(min.)でも55J以上が確保され、安定的な脆化特性を有することが分かった。
一方、比較例1の溶接金属は、C含有量が本発明の範囲の上限を超えるとともに、パラメータCPが89.5と60よりも高い値であるため、insol.Crが高く耐焼戻脆化特性に劣る結果を示している。比較例2の溶接金属は、Si含有量が本発明の範囲の上限を超えるため、靭性に劣るとともに、耐焼戻脆化特性も劣る結果を示している。比較例3の溶接金属は、Mn含有量が本発明の範囲の上限を超えるため、靭性は悪くないが、耐焼戻脆化特性に劣る結果を示している。
比較例4の溶接金属は、Nb含有量が本発明の範囲の下限未満であるとともに、パラメータCPが4.0と5未満であるため、耐焼戻脆化特性が劣るとともに、insol.Crが高く、また、insol.Nbが低いため、靭性も劣る結果を示している。比較例5の溶接金属は、Nb含有量が本発明の上限を超えるとともに、パラメータCPが68.8と60よりも高い値であるため、低い靭性を示している。
比較例6の溶接金属は、O含有量が本発明の範囲の上限を超えるため、靱性に劣る結果を示している。比較例7の溶接金属は、Bを含有しないため、靱性に劣る結果を示している。比較例8の溶接金属は、B含有量が本発明の範囲の上限を超えるとともに、insol.Nbが低いため、耐焼戻脆化特性に劣る結果を示している。
また、実施例1〜9、および比較例1〜8の溶接金属について、直径1μm以上の酸化物介在物の個数と、vE-50の最小値(min.)との関係を図5に示す。
この図5から、直径1μm以上の酸化物介在物の個数が2000未満である実施例1〜4、および実施例6〜9の溶接金属は、vE-50の最小値(min.)が47(J)以上の結果を示し、良好な脆化特性を安定的に有することが分かる。これに対して、酸化物介在物の個数が2000未満である比較例1、3〜5および7〜8は、vE-50の最小値(min.)が47(J)以下の結果を示し、良好な脆化特性を安定的に有しないものであることが分かる。
本発明の実施例および比較例で行った溶接試験における溶接母材および溶接部を示す模式断面図である。 本発明の実施例および比較例で行ったSR処理を示す図である。 本発明の実施例および比較例における溶接金属からの試験片の採取方法を説明する図である。 本発明の実施例および比較例で行ったステップクーリング処理条件を示すグラフである。 本発明の実施例および比較例の溶接金属における酸化物介在物個数と、vE-50の関係を示すグラフである。
符号の説明
1a,1b 溶接母材
2 裏当金
3 開先部
4 溶接金属
5 試験片

Claims (6)

  1. 被覆アーク溶接によって形成される溶接金属において、C:0.04〜0.10質量%、Si:0.15〜0.5質量%、Mn:0.5〜1.0質量%、Cr:2.00〜3.25質量%、Mo:0.9〜1.2質量%、Nb :0.01〜0.03質量%、V:0.2〜0.7質量%、B:0.003質量%以下(0質量%含まない)、およびO:0.02〜0.05質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、溶接金属原質部のみから電解抽出される残渣におけるCr析出量が0.3質量%未満、かつNb析出量が0.005質量%以上であることを特徴とする高強度Cr−Mo鋼の溶接金属。
  2. さらに、前記不可避的不純物におけるCuおよびNiの含有量がそれぞれ0.05質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の高強度Cr−Mo鋼の溶接金属。
  3. さらに、前記不可避的不純物におけるPおよびSの含有量がそれぞれ0.012質量%未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高強度Cr−Mo鋼の溶接金属。
  4. 下記式(1)で算出されるパラメータCPが、5〜50であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度Cr−Mo鋼の溶接金属。
    CP=[C]×[Nb]/([Cr]/52+[Mo]/96+[Nb]/93+[V]/51)×1000 式(1)
    式(1)中、[C]、[Nb]、[Cr]、[Mo]、[Nb]および[V]は、溶接金属中のC、Nb、Cr、Mo、NbおよびVの含有率(質量%)を示す。
  5. 直径1μm以上の酸化物系介在物が、被見面積1mm2当り2000個未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度Cr−Mo鋼の溶接金属。
  6. 溶接金属中のSiの含有率[Si]、Mnの含有率[Mn]およびOの含有率[O]が、下記式(2)で表される関係を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度Cr−Mo鋼の溶接金属。
    12000[Si]+170[Mn]+150000[O]<9800
    式(2)
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