JP4902454B2 - 食品用原料抽出液の製造方法 - Google Patents

食品用原料抽出液の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、良好な香味を有する食品用原料抽出液を得るための技術に関する。より特定すれば、本発明は、凍結粉砕食品用原料をアルコール含有溶媒で効率よく抽出し、安定して所望の食品用原料抽出液を得るための技術に関する。
果実等、食品又は飲料の原料において、原料の特徴を最終製品に生かし、望ましい香味を簡便に調整するための様々な工夫がなされている。その一つとして、果実等の食品用原料を凍結させ、それを粉砕して得た凍結粉砕原料を、抽出可能な濃度のアルコールに浸漬して、新鮮な香味を伴う抽出液を得る方法が特許文献1等に記載されている。
ここで、果実等の凍結粉砕原料を溶媒中に分散して抽出液を得る際に、解凍してスラリー状態にしてから溶媒中に投入し分散させる方法が知られているが、この方法では、解凍後に原料がゲル化して溶媒中で分散せず、食品用原料として扱いづらくなる傾向がある。特にペクチン質を多く含有し、酸度の高い果実ではその傾向が強い。このゲル化を防ぐために、例えば、特許文献2は、解凍工程においてアラビアガムを添加する方法を記載する。
国際公開2006/009252 特開昭58−134942
しかしながら、上記のようなゲル化を添加物の添加なしに防止し、凍結粉砕食品用原料、特に凍結微粉砕果実の抽出液を簡便に得るための効果的な方法は存在しなかった。
凍結粉砕原料、特に凍結微粉砕果実の抽出液を得ようとする際に、凍結微粉砕原料を解凍後に溶媒中に投入すると、一般的な凍結果実や凍結粉砕果実と異なり、分散不良によりダマになる、ゲル化する等の問題点が発生しやすい。
本発明者らは、凍結微粉砕果実を解凍せず、直接溶媒に投入すると、凍結微粉砕果実が大きい塊の場合や圧縮された塊の場合、凍結微粉砕果実中への溶媒の浸透速度と浸透溶媒の温度低下により、溶媒の凍結速度及び溶媒中に分散した繊維・粘性物質の結合の相互効果で、果実がダマ状態になる、又は、果実が分散することなく塊のまま液面に浮いてしまい、撹拌強度を上げても分散が困難であるか、分散に極めて長時間を要することになる、ということを見出した。また、抽出の際の攪拌強度が増大すると、所望の成分の抽出液中の量が減少することも見出した。
そこで、望ましい香味を有する凍結粉砕食品用原料の抽出液を簡便に得ることを課題として鋭意研究を重ねた結果、凍結微粉砕果実を解凍せず、直接溶媒に投入し、かつその際、凍結微粉砕果実が大きい塊や圧縮された塊でなければ、投入後に凍結微粉砕果実の空隙に溶媒が充分に浸透し、攪拌強度を上げずとも凍結微粉砕果実が溶媒中に分散して所望の抽出液を簡便に得ることができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、浸漬有効密度の凍結粉砕食品用原料を、アルコール含有溶媒に投入することを含む、食品用原料の抽出液の製造方法を提供する。
本発明はまた、前記凍結粉砕食品用原料が凍結微粉砕果実、好ましくは、凍結微粉砕柑橘類果実である、前記の製造方法を提供する。
本発明はまた、前記浸漬有効密度が0.80g/cm3以下、好ましくは0.78g/cm3以下、より好ましくは0.70g/cm3以下である、前記の製造方法を提供する。
本発明はまた、前記アルコール含有溶媒のアルコール度数が10%〜100%、好ましくは20%〜60%、より好ましくは30%〜50%である、前記の製造方法を提供する。
本発明はまた、前記凍結粉砕食品用原料の粒径が、約1μm〜約400μm、好ましくは1μm〜200μm、より好ましくは1μm〜100μmである、前記の製造方法を提供する。
である、前記の製造方法を提供する。
本発明はまた、アルコール含有溶媒への投入時の前記凍結粉砕食品用原料の表面温度が、約0℃以下である、前記の製造方法を提供する。
本発明はまた、前記アルコール含有溶媒の温度が、約0℃〜約40℃である、前記の製造方法を提供する。
本発明はまた、以下の工程:凍結微粉砕果実を製造する工程:前記凍結微粉砕果実の密度を0.80g/cm3以下に保つ工程;密度0.80g/cm3以下の前記凍結微粉砕果実を10%〜100%アルコール度数のアルコール含有溶媒に投入する工程;投入後、抽出有効強度で抽出有効時間、攪拌する工程;攪拌後、濾過することにより抽出液を得る工程;を含む、果実の抽出液の製造方法を提供する。
本発明はまた、前記抽出有効強度の攪拌が3.5x10^4未満である、前記の製造方法を提供する。
本発明はまた、前記攪拌工程後のリモネン量が、攪拌工程前と比較して80%〜100%の範囲の量である、前記製造方法を提供する。
本発明はまた、前記の製造方法のいずれかにより得られた、原料抽出液、特に果実の抽出液を提供する。
本発明はまた、前記原料抽出液を含有する食品又は飲料、特に酒類を提供する。
本明細書中において、「凍結粉砕食品用原料」とは、食品用原料を凍結粉砕処理することで得られるものを指し、該食品用原料には、果実、野菜、豆、種実、きのこ、藻類及び茶等が含まれる。このうち、「果実」には、仁果類、準仁果類(柑橘類等)、核果類、漿果類のほか、果菜類であって市場では果実として扱われているもの(例えば、いちご、すいか、メロン)が含まれる。
前記原料に、凍結粉砕後の解凍工程においてゲル化に寄与する成分、例えば代表成分であるペクチン及び/又は凍結時に凍結を困難にする成分、例えば代表成分である脂質が多く含まれると、凍結粉砕原料の抽出液を所望の香味を有する抽出液を簡便に得ようとする際に問題になる。特に、凍結粉砕の際に、原料の特徴を生かす観点から及び/又は製造上簡便であるという観点から果実を皮ごと用いる場合には、果皮に含まれる成分も問題になる。従って、本発明の凍結粉砕食品用原料として、好ましくはペクチンを多く含む柑橘類果実やリンゴ等を用いることができる。
柑橘類果実とはミカン科ミカン亜科に属する植物の総称であり、例えば、レモン、グレープフルーツ(ホワイト種、ルビー種)、ライム、オレンジ類(ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、マンダリンオレンジ)、うんしゅうみかん、紀州みかん、タンゴール、なつみかん、甘夏、はっさく、ひゅうがなつ、シイクワシャー、すだち、ゆず、かぼす、だいだい、いよかん、ぽんかん、きんかん、さんぼうかん、オロブランコ、ぶんたん、ジャバラ、スウィーティー、デコポン、セミノール、清見、はるみ等を含むがこれらに限定されない。
柑橘類果実は、表1に示すように果皮に脂質を多く含み、零下20℃付近の凍結処理では脂質分を充分に凍結することができず、粉砕が困難である。従って、これらの柑橘類果実を凍結粉砕処理する場合には、脆化点以下の温度で、例えば液体窒素を用いて凍結処理を行うことが好ましい。
Figure 0004902454
原料は、一種のみを用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
凍結粉砕食品用原料は、上記の原料を用いて、例えば、特許文献1に記載の方法で得ることが出来る。具体的には、凍結処理によって原料を凍結し、次いで該凍結原料を粉砕して、凍結粉砕原料を得る。
凍結処理は、原料を凍結することにより固化し、成分の劣化を防いで、粉砕処理を低温下で充分にかつ容易に実施するために行われる。このような目的を達成することができれば、凍結機、凍結方法とも特に限定されず、空気凍結法、エア・ブラスト凍結法、接触式凍結法、ブライン凍結法、液体窒素を用いる凍結法等いずれをも用いることができる。急速に凍結できるとの観点からは、液体窒素を用いる凍結法が好ましい。
また、凍結粉砕原料を得る際の凍結粉砕処理は、香味設計上有効な温度で行われる。香味設計上有効な温度とは、最終製品に意図した味、香り、色、テクスチャー、機能、加工特性、保存特性等の食品としての特徴を付与するために有効な温度をいう。香味設計上有効な温度は、原料から意図した味等に関与する成分又は成分組成物を得るのに有効な粉砕を行うことができる温度、すなわち粉砕上有効な温度であることが好ましい。粉砕上有効な温度は、原料、又は原料由来の成分もしくは組成物の脆化温度に基づいて決定することができる。
「脆化温度(脆化点ということもある)」とは、特別な場合を除き、対象物が低温で急激に脆化(脆く、破壊されやすくなる)する温度をいう。脆化温度は、高分子等で実施される従来の方法を適用して決定することができる。例えば、試料中心温度と破壊荷重とをグラフに表し、破壊荷重の低下が最も著しい温度を、脆化温度として決定することができる。
粉砕上有効な温度は、脆化温度、ある成分の脆化温度以下の温度、すべての成分の脆化温度以下の温度、ある成分の脆化温度と他の成分の脆化温度の中間の温度であり得、原料由来の香気成分、色素又は精油の脆化温度に基づいて決定されたものであることが好ましい。香気成分には、リモネンが含まれ、色素には、クロロフィル、カロテノイド、アントシアン、フラボノイドが含まれる。柑橘類果実を用いる場合、リモネンの脆化温度及び/又は柑橘類果実精油(例えば、レモン精油、ライム精油、グレープフルーツ精油)の脆化温度に基づいて決定してもよい。
原料は、凍結機に投入可能であれば大きさは特に制限されないが、なるべく短時間で凍結するためには小さくカットしたほうが適切な場合があり、なるべく傷めず、また空気に曝さずに凍結するためにはあまり切り分けないほうが適切な場合がある。原料は、果皮及び種子等を含んだ丸ごとを用いることもでき、また非可食部、有効な成分を含まない部分及び/又は好ましくない成分を含む部分を除去して用いることもできる。このような部分の除去は、凍結後の粉砕処理前に行うこともできる。例えば、柑橘類果実を用いる場合は、果皮をつけたままの丸ごとの果実を、2〜16程度に分割して、また約1cm角程度に細断してから、粉砕処理に供することができる。また、核果類果実を用いる場合は、果皮及び種子を含む丸ごとの果実を凍結し、そのまま粉砕処理に供することができる。
粉砕処理においては、粉砕機、粉砕方法とも特に限定されない。粉砕は、液体窒素を用いた凍結条件下で、なるべく短時間に行うことが好ましい。粉砕の程度は抽出を充分かつ容易に行うことができれば特に限定されないが、凍結物の平均粒径が、この分野で使用される通常の手段により測定した場合に約1μm〜約1000μm、好ましくは約1μm〜約400μm、より好ましくは約1μm〜約200μm、さらに好ましくは約1μm〜約100μmとなるまで行う。レモンなど柑橘類の細胞の大きさは10〜50μmであり、外果皮(フラベド)の貯油嚢は約250μmである(市川収著『食品組織学』(東京光生館)p239参照)ことを考慮すると、精油等の細胞内成分を充分に利用可能とするためには、平均粒径が約50μm未満程度、例えば、約40μm又は約30μmにまで粉砕することが好ましい。また、粉砕物は、微粉砕物であってもよい。なお、本明細書で粉砕処理により得られた粉砕物について平均粒径をいうときは、特別な場合を除き、メディアン径(ふるい上分布曲線の50%に対応する粒径。中位径、又は50%粒子径ともいう。)をいう。粒径が小さいほど良好な香味の抽出液を得ることができるが、粉砕に必要なコストも増加するため、香味と経済性とを考慮して好ましい粒径を設定することができる。細胞壁の大きさを考慮すれば、100μm以下の粒径であれば、香味や凍結粉砕後の解凍工程におけるゲル化に対する粒径の影響はさほど大きくないであろう。
このようにして得られた凍結粉砕原料を、アルコール含有溶媒に投入して、原料抽出液を得る。典型的には、投入後溶媒が浸透することによって凍結粉砕原料が浸漬し、この浸漬の前及び/又は後に溶媒を攪拌することにより原料が分散する。用いるアルコール含有溶媒は、目的の水溶性成分及び/又は脂溶性成分を充分に及び/又はバランスよく抽出できるよう、また、香味、安定性、微生物管理等の観点から、アルコール濃度が約10%〜約100%、好ましくは20%〜約60%、より好ましくは30%〜50%、例えば40%のものを用いる。アルコール度数が低すぎると凍結粉砕物投入時に液が凍って好ましくなく、また、アルコール度数が低いと抽出が充分に行われない。
本明細書でいう「アルコール」とは、特別な場合を除き、飲用のアルコール(エタノール、エチルアルコール)をいい、純粋アルコールのみならず、アルコールを含む飲用可能な液及び/又はアルコールを含む食品製造に使用可能な液をいう。また、アルコールの濃度に関して「〜%」というときは、特別な場合を除き、アルコール度数と同義であり、溶液100mL中に含まれる純粋アルコールの量(容積/容積)を表したものである。
アルコール濃度を変えることにより、香味や効能のある成分の種類又は量を変えることができる。具体的には、果実(特に柑橘類、とりわけグレープフルーツ及びレモン)を用いる場合は、アルコール濃度は、香味を充分にもたせるとの観点からは、約20%以上、好ましくは約30%以上、例えば約40%とすることができ、好ましくない呈味(例えば、苦味)及び臭い(例えば、カビ臭)をもたせないようにするとの観点からは、約60%以下、好ましくは約50%以下とすることができる。さらに透明性を重視する観点からは、濁度が約120 Helm以下となるようなアルコール濃度を選択することができる。
用いるアルコールは原料アルコールでもよく、酒類でもよい。製法は特に限定されず、醸造酒、蒸留酒、混成酒のいずれでもよい。原料も特に限定されない。浸漬抽出に用いるアルコールとしては、一種のみを用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
抽出には、原料アルコール、蒸留酒、混成酒を好適に用いることができる。蒸留酒としては、焼酎(米、芋、麦、とうもろこし、そば、黒糖、糖蜜、なつめやし、粗留アルコール等、いずれを原料とするものでもよい。甲類、乙類いずれでもよい。)、ウオツカ、スピリッツが好ましく、それ以外にも、ウィスキー、ブランデー、ジン、ラム、テキーラ等を用いることができる。
浸漬比、抽出時間は、材料の種類、粉砕原料の粒径、抽出したい成分の種類・量、求める抽出効率等に応じて適宜定めることができる。浸漬比は、一般的には、アルコール1Lに対し、凍結粉砕原料約1g〜約500g、好ましくは約5g〜約300g、より好ましくは約10g〜約200gである。抽出時間は、一般的には、約半日〜数ヶ月であり、柑橘類果実の場合は一般に数週間〜数ヶ月とすることができ、うめ等の核果類果実の場合は数ヶ月としてもよい。
凍結粉砕原料投入時の前記アルコール含有溶媒の温度は、溶媒が凍結しにくいよう、低すぎないことが好ましく、0℃以上が好ましいが、抽出される成分(例えばリモネン)の変質、及び作業性(エタノールの蒸発散による影響)を考慮して、40℃以下とすることが好ましい。より詳細には、凍結粉砕原料投入により溶媒の温度が低下することも考慮し、凍結粉砕原料投入後の溶媒温度が溶媒の凝固点以上であればよい。溶媒の凝固点はアルコール度数に依存し、アルコール度数が高いほど凝固点は低くなる。
抽出条件(例えば、抽出時間、アルコール度数、凍結粉砕原料の量等)を調整することによって、香味や成分を調整することができる。また、アルコール含有溶液への投入時における凍結粉砕原料の密度を調整し、溶解能を制御することで、所望の香味を有する抽出液を簡便に得ることが出来る。したがって、原料の品質等にばらつきがあったとしても、得られるアルコール浸漬物又はそれを用いた食品もしくは飲料において安定した品質を保持することが可能となる。
本発明の製造方法は、上記の凍結粉砕食品用原料をアルコール含有溶媒に投入する際に、前記凍結粉砕食品用原料が浸漬有効密度であることを特徴とする。ここで、浸漬有効密度とは、浸漬時に凍結粉砕原料の中心部を含む全体に溶媒が充分に浸透し、凍結粉砕原料が液表面に浮くことなく短時間で塊が沈み、緩やかな攪拌条件でも溶媒中に分散できることを許容する低さの密度である。攪拌が緩やかであれば、抽出成分(例えばリモネン)の含有量の多い、望ましい香味の抽出液が得られる。凍結粉砕原料が浸漬有効密度であるか否かは、例えば後述の実施例3に記載のように、任意の密度の凍結粉砕原料をアルコール含有溶媒に投入して静置し、凍結粉砕原料が沈降し始めるまでに要する時間を測定することで、判断することができる。特別な場合を除き、本発明における密度は体積及び重量から算出した平均密度を指すものとする。
望ましい香味の抽出液を得るという観点から、好ましい密度は凍結粉砕後の解凍工程でゲル化に寄与する成分であるペクチンや凍結困難な成分である油分の含有量によって原料ごとに異なる。例えば、後述の実施例3-1に記載のように、凍結粉砕原料としてグレープフルーツを用いた場合、密度が0.78g/cm3以下であることが好ましい。また、後述の実施例3-2に記載のように、凍結粉砕原料としてペクチンや油分の含有量の多いレモンを用いた場合、その密度は0.70g/cm3以下であることが好ましい。
アルコール含有溶媒に投入する際に、前記凍結粉砕原料が浸漬有効密度であるためには、製造後の凍結粉砕原料の密度を低く保つことが必要である。その際、密度が増加する条件を検討した上で、適宜適切な方法を用いることができる。
例えば、自重圧縮による密度増加を防止するために、製造した凍結粉砕食品用原料を溶媒に投入するまで保管する際に、梱包時、圧力をかけず、例えば後述の実施例4を参照し、高さを低く保つことが望ましい。高さの低い小型梱包にすることで、果実が自重によって過剰に圧縮されることを防止することができる。輸送効率を考慮して200Lドラム缶等の大容量の梱包量を採用すると、凍結粉砕原料の密度が増加して投入時の溶媒浸透や分割作業に影響を及ぼすため、好ましくない。保存期間は、果実の自重による圧縮及び原料の鮮度劣化等を考慮した期間とすることが出来る。
また、凍結粉砕原料の密度は、後述の実施例4に記載のように、振動により増加する。これを防ぐため、静置して保管することが望ましく、トラック等での輸送は可能な限り避けることが望ましい。やむをえない場合には高さを低く梱包して輸送する。
本発明において、凍結粉砕原料は、解凍によるゲル化を避けるべく、凍結状態でアルコール含有溶媒に投入することが望ましく、特に投入時に凍結粉砕原料の表面温度が0℃以下であることが好ましい。このため、凍結粉砕原料は-15℃以下で低温保管することが望ましい。また、アルコール含有溶媒への投入も、速やかに、例えば20kgの原料の場合、24℃において50分以内に投入を完了させることが好ましい。この際、溶解性を向上させるべく、例えば12分割して原料を投入することができる。
凍結粉砕原料をアルコール含有溶媒に投入後、典型的には抽出有効強度の攪拌で攪拌し、次いで濾過することにより、原料抽出液を得る。ここで、抽出有効強度の攪拌とは、アルコール含有溶媒に投入した凍結粉砕原料が分散するには充分な強度だが、抽出液中の所望の成分(例えばリモネン)が減少するほど大きくはない強度の攪拌をいう。攪拌強度は、例えば、攪拌レイノルズ数で表すことができる。
凍結粉砕原料の密度が低ければ、アルコール含有溶媒投入後に溶媒が凍結粉砕原料中に浸透し、原料が分散しやすいため、攪拌の抽出有効強度は小さくなるであろう。逆に、凍結粉砕原料の密度が高ければ、凍結粉砕原料の溶媒中での分散には、より大きな攪拌動力が必要となり、抽出有効強度は大きくなるであろう。抽出有効強度が大きいと、攪拌時に同時に空気が巻き込まれ、原料の酸化等、得られる抽出液の品質の劣化を招き、好ましくない。例えば抽出液中のリモネンは、攪拌による気泡巻き込みにより、揮発又は酸化劣化する。このような、抽出液の品質という観点からの抽出有効強度の攪拌については、攪拌前後の特定の成分の変化を測定することで判断することができ、例えば、後述の実施例6に記載のように、リモネン量の測定により判断できる。攪拌前と比較して攪拌後のリモネン量が80%〜100%の範囲であれば、好ましい強度の攪拌であろう。
攪拌後、濾過により原料抽出液を得ることが出来る。濾過には、この分野で同様の目的で使用される通常の手段、例えば珪藻土を使用する方法を適用することができる。得られた濾過物を、必要に応じ、蒸留等の追加の処理に供してもよい。
本発明はさらに、前記原料抽出液を含有する食品、飲料、特にアルコール飲料を提供する。ここで、前記「食品」には加工食品が含まれ、例えばジャム、ペースト、ゼリー、アイスクリーム、ヨーグルト、ガム、ケーキ、サラダが挙げられるが、これらに限定されない。また、前記「飲料」には、アルコール飲料、果実・野菜ジュース、炭酸飲料、ドリンク剤、清涼飲料及び果汁飲料が含まれるが、これらに限定されない。
本明細書でいう「アルコール飲料」とは、特別な場合を除き、アルコールを含む飲料、又は飲料の原料として用いられるアルコールを含む液(「原料酒」ということもある)をいう。本発明で得られる原料抽出液は、アルコール含有溶媒を用いて得られ、そのまま飲料として用いることができ、また各種のアルコール飲料を製造するための原料酒としても用いることができる。原料酒としては、リキュール類、スピリッツ類の製造、特にチューハイ等の、RTDを含む低アルコール飲料の製造に好適に用いることができる。特に、柑橘類果実を原料とした場合には、チューハイ、リキュール等のアルコール飲料の製造に好適に用いることができる。
上記食品及び飲料には、糖類、酸味料を添加してもよい。糖類としては、例えば、砂糖、果糖、ブドウ糖及び果糖ブドウ糖液糖等を使用することができる。酸味料としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、リン酸等を使用することができる。
本発明によれば、凍結粉砕原料が溶媒中に容易に分散することで、効率良く所望の抽出液を得ることができ、また、再現性の高い抽出を行うことができるため品質の安定した抽出液を得ることができる。また、本発明によれば、凍結粉砕原料のゲル化を防止するための添加剤が不要である。溶媒中における凍結粉砕原料の分散不良(ダマ状態、ゲル化発生など)も防ぐことができる。
さらに、本発明の製造方法は、原料由来成分の損失及び酸化劣化等を低減しうる。また、このようにして得られた本発明の原料抽出液は、意図した成分を充分に及び/又はバランスよく含み、香味等の成分の劣化が少なく、保存安定性にも優れたものであり得る。従って、本発明の原料抽出液を用いた食品や飲料は、香料、果汁等を補わなくとも充分に香味を有し、果汁・野菜汁や、香料、酸味料、着色料等の食品添加物の添加なしに、又は少量の添加で、充分に香味の優れたものとすることができる。
実施例1 凍結微粉砕グレープフルーツの製造
生のグレープフルーツ果実(皮付き)を、後述する凍結粉砕機に投入できるように8つ切りに分割し、−196℃の液体窒素を用いて凍結した。これを凍結粉砕機(リンレックスミル;(株)リキッドガス製)に投入し、凍結したまま粉砕することにより、粒径約50μmの白いさらさらした粉末状の凍結粉砕原料を得た。粒径の測定は、凍結粉砕原料を約20倍量の水で希釈し、レーザ回折式粒度分布測定装置(SALD-3100;(株)島津製作所)で粒度分布を測定することにより行った。
実施例2 凍結微粉砕レモンの製造
生のレモン果実(皮付き)を、後述する凍結粉砕機に投入できるように4つ切りに分割し、−196℃の液体窒素を用いて凍結した。これを実施例1に記載の凍結粉砕機に投入し、凍結したまま粉砕することにより、粒径約30μmの白いさらさらした粉末状の凍結粉砕原料を得た。粒径の測定は、凍結粉砕原料を約20倍量の水で希釈し、実施例1に記載のレーザ回折式粒度分布測定装置で粒度分布を測定することにより行った。
実施例3-1 凍結微粉砕グレープフルーツの浸漬
方法:実施例1で製造した凍結粉砕グレープフルーツを-20℃の冷凍庫内で内径16mmの透明パイプに詰め、密度が0.5〜1.0g/cm3となるように圧縮した。冷凍下、その圧縮原料を円柱状(底面径16mm、高さ20mm)に切断した。常温下、これを温度20℃のエタノール(アルコール度数40%)200mlに投入して静置した際に凍結粉砕原料が沈降し始めるまでに要する時間を測定した。
結果:結果を図1に示す。凍結粉砕原料のままアルコール含有溶媒に投入すると、分散時にダマなどの問題は生じなかった。凍結粉砕原料の密度が高いほど、沈降し始めるまでに要する時間は長くなった。さらに、図1に見られるように、密度が0.78g/cm3より高くなると、沈降し始めるまでに要する時間の増加率が高くなった。
実施例3-2 凍結微粉砕レモンの浸漬
方法:実施例2で製造した凍結微粉砕レモンを-20℃の冷凍庫内で内径16mmの透明パイプに詰め、密度が0.65〜約0.9g/cm3となるように圧縮した。冷凍下、その圧縮物を円柱状(底面径16mm、高さ20mm)に切断した。常温下、これを温度20℃のエタノール(アルコール度数40%)200mlに投入して静置した際に凍結粉砕原料が沈降し始めるまでに要する時間を測定した。
結果:結果を図2に示す。凍結粉砕原料のままアルコール含有溶媒に投入すると、分散時にダマなどの問題は生じなかった。凍結粉砕原料の密度が高いほど、沈降し始めるまでに要する時間は長くなった。さらに、図1に見られるように、密度が0.70g/cm3より高くなると沈降し始めるまでに要する時間の増加率が高くなった。
実施例4 振盪による、凍結微粉砕原料の密度増加
方法::冷蔵下、実施例1で製造した凍結微粉砕グレープフルーツ20kgをポリ袋に詰め、容積52800cm3(縦40cm×横30cm×高さ44cm)のダンボールに梱包した。これを適当な時間振盪し、凍結粉砕原料の自重による密度変化を観察した。
結果:振盪前の凍結微粉砕原料の密度は、0.38g/cm3であった。振盪後、ダンボール内の原料の高さが下がり(22cm)、それに伴い凍結微粉砕原料の密度が0.76g/cm3に増加した。
また、凍結粉砕グレープフルーツ10kg、12kgについても同様に実験を行った。結果を以下の表2にまとめる。振盪後、粉砕物の高さは低くなり、自重による密度の増加が見られた。
Figure 0004902454
実施例5 解凍した凍結微粉砕原料のアルコール含有溶媒中における分散性
方法:実施例2で製造した凍結微粉砕レモンを室温(24℃)で20時間静置して解凍し、それを上部から60g取り分け、温度20℃のエタノール(アルコール度数40%)200mlに投入し静置して観察した。実施例1で製造した凍結微粉砕グレープフルーツについても同様の実験を行った。
結果:凍結微粉砕レモンを室温解凍すると全体がゲル化した。このゲル化した凍結微粉砕原料をアルコール含有溶媒に投入すると、分散せず、溶媒中に大きな塊となって残った。この塊を薬さじを用いてある程度細かくした後、撹拌機(T.K.ロボミックス;プライミクス株式会社製)を用いて撹拌したが、一部溶媒中に分散しないゲルの塊のまま残った。実施例1で製造した凍結微粉砕グレープフルーツの場合も、攪拌機を用いて攪拌後、レモンの場合よりは量は少なかったが、一部溶媒中に分散しないゲルの塊のまま残った。
実施例6 撹拌強度の違いによる香気成分量の変化
方法:実施例2で製造した凍結微粉砕レモン300gをエタノール(アルコール度数40%)1000mlに投入し、薬さじで静かに撹拌して分散させた。その後、撹拌機(T.K.ロボミックス;プライミクス株式会社製)を用いて、以下の(1)及び(2)の異なる撹拌強度で10分間撹拌した。抽出液中の重要な香気成分であるリモネン(Limonene)の残存量をガスクロマトグラフ分析(以下、GC分析という)により分析した。撹拌強度及びGC分析条件を以下に示す。
撹拌強度(撹拌レイノルズ数)
(1) Re=2.3×10^4 (2) Re=3.5×10^4
GC分析条件
機種:HP6890(GC) カラム:DB−WAX(60m×0.32mm×0.25μm)
カラム温度:70℃(2min)→(5℃/min昇温)→230℃(30min)
注入方法:split 注入口温度:200℃
注入量:2μL キャリアガス:He(1.0mL/min一定流量)
結果:図2に示すように、撹拌強度(2)による撹拌では、撹拌強度(1)による撹拌よりも、リモネンの残存量が攪拌前の約80%と少なく、撹拌強度が大きくなることで溶液中のリモネンが減少してしまうことが分かった。攪拌強度が大きくなることにより、気泡の巻き込みによるリモネンの酸化劣化がみられ、攪拌時間の増大よりも、攪拌強度の増大が香気成分の量に与える影響の方が大きかった。従って、攪拌強度が小さいほうが、香気成分の多い、より好ましい抽出液が得られることが明らかになった。このことは、凍結粉砕原料の溶媒への投入後、攪拌強度が低くても充分な分散が可能となるような原料抽出液の製造方法が好ましいことを示唆した。
参考例 凍結微粉砕原料の水中への投入
方法:実施例1で製造した凍結微粉砕グレープフルーツ(密度<0.76g/cm3)を水の中に投入して撹拌した際の分散の様子を観察した。
結果:水中に投入した凍結微粉砕原料は、原料の表面で水が凍って膜を形成して塊を生じてしまい、撹拌しても塊を分散させることができなかった。
本発明は、食品又は飲料の製造のために使用することができる。凍結微粉砕柑橘類果実をエタノール含有溶媒で抽出する場合以外にも、柑橘類以外の凍結微粉砕果実、凍結微粉砕葉、凍結微粉砕野菜、凍結微粉砕菌糸類、凍結微粉砕肉、凍結微粉砕魚介類にも適用可能である。
図1は、実施例3-1における、凍結微粉砕グレープフルーツの密度とアルコール含有溶媒中への沈降速度との関係を示すグラフである。 図2は、実施例3-2における、凍結微粉砕レモンの密度とアルコール含有溶媒中への沈降速度との関係を示すグラフである。 図3は、実施例6における、凍結微粉砕レモンを浸漬・分散させたアルコール含有溶媒中のリモネン残存量と攪拌強度との関係を示すグラフである。

Claims (5)

  1. 凍結粉砕した食品用原料からアルコール含有溶媒による抽出液を効率的に得る方法であって、凍結粉砕した食品用原料の溶媒に浸漬される際の密度が0.80g/cm3以下に保持されるよう小型梱包で保管又は搬送され、これにより凍結粉砕原料の中心部を含む全体に溶媒が浸透しながら、溶媒中に凍結粉砕原料が分散容易となる、方法。
  2. 前記凍結粉砕食品用原料が凍結微粉砕果実である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記浸漬時の凍結粉砕原料の密度が0.78g/cm3以下であり、凍結微粉砕果実がグレープフルーツである、請求項2に記載の方法。
  4. 前記浸漬時の凍結粉砕原料の密度が0.70g/cm3以下であり、凍結微粉砕果実がレモンである、請求項2に記載の方法。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で溶媒中に分散させた凍結粉砕原料から得られた、原料抽出液。
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