(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図1〜図9に従って説明する。
図1は、外装ケースを取り外した状態のインクジェット式記録装置の平面図を示す。上側(図1では紙面手前側)が開口する略直方体形状の箱体からなる本体ケース12(本体フレーム)内には、プラテン13が主走査方向(図1における左右方向)に沿って延びるように架設されている。紙送り手段(図示しない)を介して送出されるターゲットとしての記録媒体(図示しない)は、その下面をプラテン13に支持された状態で副走査方向(図1における上下方向)に搬送される。
また、本体ケース12内には、棒状のガイド軸14が、その軸方向を主走査方向に一致させた状態でプラテン13と平行に延びるように架設されている。キャリッジ15はその後部側壁間にガイド軸14が貫挿されるとともに、該ガイド軸14に対しその軸方向に往復移動可能な状態に支持されている。本体ケース12の後部(図1における上側部分)において主走査方向に所定距離離れた二位置にそれぞれ軸支された一対のプーリ16a,16bには、タイミングベルト17が巻き掛けられており、キャリッジ15はその背面側(図1では上側)部分にてタイミングベルト17に固定されている。図1において、右側のプーリ16aは、本体ケース12の背面右端寄り位置に支持されたキャリッジモータ18の駆動軸に連結されており、キャリッジモータ18が正逆転駆動されることにより、タイミングベルト17を介してキャリッジ15はガイド軸14に沿って往復移動するように構成されている。
キャリッジ15のプラテン13と対向する下面には、プラテン13側に向かって液体としてのインクを噴射させるための複数のノズル20a(図3参照)を有する記録ヘッド20が設けられている。また、キャリッジ15上には、インクを一時貯留可能なタンク(図示省略)を備えるとともに該タンク内のインクを圧力調整した状態で記録ヘッド20へ供給可能なバルブユニット21(サブタンクとも呼ばれる)が搭載されている。本実施形態では、バルブユニット21はインク色毎に1つずつ計4つ設けられており、各バルブユニット21により、それぞれブラック、イエロー、マゼンタ及びシアンの各色のインクが圧力調整されて記録ヘッド20へ供給されるようになっている。
本体ケース12の一端部(図1における右端部)に設けられたカートリッジホルダ24には、インク色に対応した4個のインクカートリッジ23が着脱可能に装填されている。そして、図2には、4個のインクカートリッジ23のうち1つを示しており、インクカートリッジ23は、略直方体状のインクケース31と、このインクケース31内にほぼ全体が収容されたインクパック32とを備える。インクパック32は、ガスバリア性を有する可撓性フィルムにより袋状に形成されるとともにその内部に液体としてのインクが封入された袋部32aと、この袋部32aの端部に固着されたインク供給部32bとを備える。インクパック32は、インク供給部32bのみがインクケース31から露出するとともに、それ以外の部分がインクケース31内に気密状態に収容されている。従って、インクケース31とインクパック32との間には、隙間33が形成されている。なお、インクカートリッジ23は、1つのケース内に複数色のインクパックを収納する構成でもよい。
図2に示すように、カートリッジホルダ24は、本体24aと、本体24aの装填面(図2における右面)から略垂直に突設されたインク供給針24bおよび空気導入針24cを有している。また、本体24aの背面(同図における左面)にはインク供給管部24dおよび空気導入管部24eが突設されている。本体24aは、多数本の流路が内部に形成された流路形成部材からなる。詳しくは、本体24a内には、インク供給針24bとインク供給管部24dとを連通する不図示のインク流路と、空気導入針24cと空気導入管部24eとを連通する不図示の空気流路とが、それぞれインク色と同数本ずつ形成されている。また、本体24aの下部から略水平に延出するガイド板部24fにより、装填されたインクカートリッジ23の下面が支持される。なお、カートリッジホルダ24は、針構造以外の連結構造により、装填されたインクカートリッジ23と連結される構成でもよい。
インクカートリッジ23がカートリッジホルダ24に装填された状態では、インク供給針24bがインク供給部32bに差し込まれ、かつ空気導入針24cがインクケース31に形成された連通孔31aに差し込まれるように構成されている。そして、空気導入管部24eから導入された空気が空気導入針24cの先端部に形成された不図示の針孔(空気導出孔)を通じてインクケース31内の隙間33に導入されることにより、隙間33における圧力を上昇させ、インクパック32を押し潰すような力を発生させることが可能となっている。そして、インクパック32が押し潰されることにより、インクパック32内のインクが、インク供給針24bの先端部に形成された不図示の針孔(インク導入孔)を通じてカートリッジホルダ24内へ送られ、本体24aの背面に突設されたインク供給管部24dから、加圧された状態で供給されるようになっている。
図1に示すように、各カートリッジホルダ24は、それぞれインク供給チューブ35を通じて各バルブユニット21に接続されている。従って、インクケース31内の隙間33に導入された空気圧に応じたインク圧で、インクカートリッジ23からインク供給チューブ35を通じてバルブユニット21へインクが供給される。なお、インク供給チューブ35の上流側の一端部は、図2に示したカートリッジホルダ24のインク供給管部24dにそれぞれ接続されている。
図1に示すように、インクカートリッジ23の装填位置の上側には、加圧ポンプ25が本体ケース12に支持された状態で設けられている。加圧ポンプ25は、大気を吸引して加圧空気として排出することが可能であり、その排出された加圧空気は、加圧チューブ37を通じて圧力検出器38に供給される。
圧力検出器38では、加圧ポンプ25から供給された空気の圧力が検出される。そして、圧力検出器38の検出圧に基づいて、加圧ポンプ25の駆動が制御される。従って、加圧ポンプ25から供給される加圧空気は、所定範囲内の圧力となるように調整される。圧力検出器38は、4本の空気供給チューブ39を通じてカートリッジホルダ24の前述した空気導入管部24e(図2参照)に接続されており、インクカートリッジ23の隙間33に所定範囲内の圧力となるように調整された加圧空気が導入される。
以上により、各インクカートリッジ23のインクパック32は、加圧ポンプ25から隙間33に供給された加圧空気によって押し潰され、インクパック32内のインクが対応するバルブユニット21に対して加圧された状態で供給される。そして、バルブユニット21内のタンクに一時貯留された加圧インクは、圧力が調整された状態で、記録ヘッド20へと供給される。
このとき、画像データに基づいて、キャリッジ15を主走査方向に移動させるとともにその移動過程で記録ヘッド20のノズルからインクを吐出させる走査と、記録ヘッド20からインクを噴射させることにより紙送り手段によって記憶媒体を副走査方向に移動させる紙送り動作とを交互に行うことにより、記録媒体上に印刷を行うことが可能となる。
クリーニング装置26は、キャリッジ15の移動経路上における非印刷領域(ホームポジョン)に設けられている。そして、クリーニング装置26の上面には、記録ヘッド20のノズル形成面20b(図3参照)に密着して封止し得るエラストマ等の弾性材料により形成されたキャップ26aが配置されている。そして、図3に示すように、このキャップ26aは、キャリッジ15がホームポジョンに移動する動作に連動して、記録ヘッド20に接近する方向に移動(上昇)して、記録ヘッド20のノズル形成面20bにおける全ノズル20aを含む所定領域を封止することができるように構成されている。クリーニング装置は、キャリッジ15がホームポジョンに移動し終わる直前の過程でキャリッジ15に係合して押されるレバーを有する昇降機構(図示省略)を備える。キャップ26aは、昇降機構のレバーがキャリッジ15に押されることにより斜状のガイド部に沿って上昇方向に移動することで上昇し、キャリッジ15がホームポジョンから離れると図示しない付勢バネの付勢力で斜状のガイド部に沿って下降方向に移動することで下降するように構成されている。
そして、キャップ26aの内部には、インクを含んだ吸収体26bが配設されており、インクジェット式記録装置11の休止期間中において、キャップ26aによって記録ヘッド20のノズル形成面20bを封止することで、キャップ26aの内部を高湿状態に保ち、ノズル20a内のインクの増粘等を防ぐようになっている。
また、キャップ26aの底部にはインクや気泡、異物(紙粉等)などを排出するための排出管路26cが設けられており、この排出管路26cにはインク排出チューブ26dの一端部が接続されている。そして、インク排出チューブ26dの他端は、廃液タンク27(図4参照)に接続されている。
インク排出チューブ26dの途中にはチューブポンプ26e(吸引ポンプ)が設けられており、チューブポンプ26eの吸引動作によって、キャップ26aの内部に吸引力が及んで負圧が形成されるようになっている。そして、増粘インクや異物、気泡等が、インク排出チューブ26dを介して廃液タンクへと排出されるようになっている。これにより、記録ヘッド20のクリーニングが行われる。
一方、図1に示すように、クリーニング装置26には、キャップ26aの印字領域側に隣接して、ゴム等の弾性素材を短冊状に形成したワイピング部材26fが備えられている。そして、ワイピング部材26fは、必要に応じて記録ヘッド20の移動経路に垂直方向に進出することにより、記録ヘッド20がホームポジションから離れる移動の際にノズル形成面20bを払拭して、ノズル形成面20bに付着した残存インクを除去するとともにノズル内のインクのメニスカスが整えられる。
<バルブユニット>
次に、インク供給装置の模式構成を図4に従って説明する。図4に示すように、加圧ポンプから圧送された空気がインクケース31内の隙間33に導入されてインクパック32が押し潰されることでインクパック32内から所定圧に加圧されたインクがバルブユニット21に送られる。バルブユニット21は、弁装置としての差圧弁41(チョーク弁)および圧力調整弁42を内蔵し、バルブユニット21内に供給されたインクは、差圧弁41を通って圧力調整弁42に送られ、この圧力調整弁42から圧力調整されつつ記録ヘッド20に供給されるように構成されている。なお、差圧弁41および圧力調整弁42は、インク色毎のインク流路ごとにそれぞれ設けられている。
差圧弁41は、チョーククリーニングを行うときに記録ヘッド20に繋がるインク流路を閉弁させるためのものである。また、圧力調整弁42は、記録ヘッド20に適宜インクを供給するためのものであって、記録ヘッド20からインクが吐出されて記録ヘッド20内のインク圧が低下してインク圧許容範囲の下限圧に達すると開弁して記録ヘッド20へインクを供給し、一方、記録ヘッド20にインクが供給されてインク圧がインク圧許容範囲の上限圧まで上昇すると閉弁する構造の開閉弁である。圧力調整弁42によって、記録ヘッド20内に導入されるインク量を制限して、インクの過剰導入による各ノズル20aからのインクの漏洩を抑制するようになっている。圧力調整弁42は、上記の開閉動作をする限りにおいて、逆止弁、差圧弁、自己封止弁などの公知の弁から構成される。なお、自己封止弁とは、常にはバネの付勢力により弁体が閉弁方向に押されることで閉弁し、弁室内が所定圧力に減圧してダイヤフラムがバネの付勢力に抗して内側に撓むことにより弁体を開弁方向へ押すことで開弁する開閉弁である。
<差圧弁>
次に、バルブユニット21に内蔵された差圧弁41について、図5〜図7に従って、詳細に説明する。図5は、差圧弁の斜視図である。図6および図7は差圧弁の断面図であり、図6は開弁状態、図7は閉弁状態をそれぞれ示す。なお、差圧弁41の構造を説明するうえで、各図における上方向を、便宜上、差圧弁の上側として説明する。
図5に示すように、差圧弁41は、平面視所定形状(本実施形態では四角形状)で表面(上面)に凹部43を有する略板状の基材44と、基材44の表面44aに凹部43の開口43aを封止する状態に固着された可撓性部材としてのフィルム部材45(ダイヤフラム)とを備える。凹部43は、円形の開口43aを有するとともに深さ方向に渡って同一の内径に形成されている。フィルム部材45は、可撓性が得られるような所定厚み(例えば10μm〜1mmの範囲内の所定値)のガスバリア性の高い合成樹脂フィルムよりなり、所定の固着代を確保できるように凹部43の開口43aより広いサイズの例えば円形に形成されている。
本実施形態では、基材44およびフィルム部材45は共に合成樹脂製であり、フィルム部材45は基材44に対して熱溶着により固着されている。よって、両者の材料として、熱溶着により固着できる組合せの熱可塑性樹脂を用いている。熱溶着可能な組合せであれば、どのような熱可塑性樹脂を用いてもよいが、本実施形態では、接着強度が確保されやすいように両者ともに同じ材質を使用しており、その材料として例えばポリプロピレン(PP)またはポリエチレンテレフタレート(PET)を使用している。また、熱溶着できればよいので、例えば基材44のうちフィルム部材45が固着される表面層のみを、フィルム部材45を熱溶着可能な合成樹脂材料(例えばフィルム部材45と同一材質の熱可塑性材料)で形成してもよい。もちろん、接着剤を用いるなど熱溶着以外の他の固着方法も採用でき、その場合は、熱可塑性樹脂に限らず、さらに合成樹脂にも限ることなく、金属やセラミック等の適宜な材料を使用できる。また、固着可能であれば、振動溶着など他の溶着方法を採用してもよい。
図5〜図7に示すように、凹部43の底面略中央部には、円環状の突起46が平面視で凹部43と同心円をなすように突出形成されている。突起46の内底面上ほぼ中央には、基材44の底面略中央位置から突出した図6及び図7に示す流入管部48の内部を通る流入路47の流入口47aが、開口している。また、図5〜図7に示すように、基材44の側部(図6及び図7では右側部)には流出路49が貫通形成され、この流出路49は凹部43の内周面に一端が開口するとともに他端が基材44の周縁部に延出形成された鍔部44bの端面に開口する直線状流路をなしている。凹部43の内壁面上に開口する流出路49の流出口49aは、凹部43の内周壁(側壁)における深さ方向のほぼ上端に位置している。なお、突起46は、本実施形態では円環状としたが、環状であればよく、例えば楕円状、多角形状(例えば三角形、四角形、六角形等)をなす環状としても構わない。
また、凹部43の内壁面(突起46の外周面を含む)とフィルム部材45とで囲まれた領域が弁室50(チョーク室)となっている。弁室50は、弁室50のうち突起46の外側領域からなる大断面積流路としての第1流路51と、突起46の内側領域からなり突起46の内周面により囲み形成された中断面積流路としての第2流路52とからなる。そして、流入口47aを通じて第2流路52と連通する流入路47が、小断面積流路となっている。
差圧弁41は、フィルム部材45の外面に大気圧がかかる状態でバルブユニット21に水平(フィルム部材45の外面が上側を向く状態)に組み付けられている。本例では、差圧弁41は、バルブユニット21の基材に凹設された組付用凹部に組み付けられ、この組み付け状態において流出路49は組付用凹部の内壁面上の相対位置に開口する不図示のインク流路の開口と、その周囲をシール部材でシールされた状態で接続されている。また、差圧弁41の流入管部48には、カートリッジホルダ24に接続された対応するインク色のインク供給チューブ35が接続されている。
差圧弁41は、フィルム部材45は、弁室50の内外の圧力差によって撓むことにより開閉する開閉弁である。すなわち、弁室50内の圧力が大気圧よりも減少すると、フィルム部材45が弁室50の容積を減少させる方向に撓んで、突起46の平坦な先端面よりなる弁座面46bに当接し、開口46aを閉塞する。開口46aがフィルム部材45により閉塞されることにより差圧弁41は閉弁し、第1流路51と第2流路52との連通が遮断されるようになっている。そして、弁室50の内外の圧力差によってフィルム部材45が突起46から離間することにより開弁し、第1流路51と第2流路52とが開口46aを通じて連通するようになっている。フィルム部材45のうち開口43aに対応する撓み変形可能な円形をなす隔壁部分がダイヤフラム45aとなっており、開弁および閉弁の際は、ダイヤフラム45aの部分が変位することになる。なお、フィルム部材45は、弁室50の内外の圧力差によって撓むのであれば、合成樹脂以外の材料、例えばエラストマやゴム等の材料に変更することもできる。
印刷時は、加圧ポンプ25の駆動により流入路47から加圧インクが弁室50内に流入して、弁室50内は、所定インク圧に加圧された状態にある。この加圧状態においては、図6に示すように、フィルム部材45が突起46から離間した開弁状態になる。この加圧状態下では、フィルム部材45は内面が加圧されることにより、図6に示す平板状の状態から少し外側(大気側)へ断面円弧状に膨出した状態になる。一方、チョーククリーニングを行う際は、加圧ポンプ25の駆動が停止されて流入路47からの加圧が止められた非加圧状態とされる。この非加圧状態では、図6に示すように差圧弁41は開弁した状態にある。但し、本例では、弁室50の内圧が開放されずに加圧が残るので、フィルム部材45は外側へ膨出したままとなる。そして、この非加圧状態の下で、クリーニング装置26により記録ヘッド20のノズル20aからインクが吸引されると、弁室50内のインクが流出路49から強制的に吸引排出されて、弁室50内がインクの減少により負圧となり、図7に示すように、フィルム部材45が弁室50の内側へ撓んで突起46に密接する。フィルム部材45が突起46に密接することで開口46aは閉塞され、差圧弁41は閉弁する。
その後、差圧弁41の閉弁箇所から記録ヘッド20のノズル20aに至るまでのインク流路内に負圧が十分蓄積された所定の段階で、加圧ポンプ25の駆動が再開されるように設定されている。この加圧ポンプ25の駆動開始タイミングは、予め予備実験等で求められた設定条件に従って後述のCPU61により決められ、例えば図示しないタイマにより計時された吸引動作時間が設定時間に達したときに、加圧ポンプモータ73(図9に示す)の駆動が再開されて加圧ポンプ25を再駆動させるように設定されている。もちろん吸引動作開始後のチューブポンプ26e(または図9に示すチューブポンプモータ74)の回転数を計測し、計測した総回転数が設定回転数に達したときに、加圧ポンプモータ73の駆動を再開する構成も採用可能である。
ここで、本実施形態では、図6に示すように、突起46(第2流路52)の開口径(内径)φA、凹部43(第1流路51)の開口径(直径)φB、流入路47の流路径(つまり流入口47aの開口径)φCとすると、φB>φA>φCの関係にある。もちろん、第1流路51、第2流路52および流入路47が、それぞれ流路長に渡って同一の内径になっている本実施形態では、これら各流路の内径の大小関係が、φB>φA>φCにあることになる。チョーククリーニングにおいて非加圧状態の下でインク流路内に負圧を蓄積する過程では、フィルム部材45が突起46から離間した開弁状態にあるうちは、弁室50内のインクが流出口49aから吸引排出されて減少しつつ、その一方でインク減少に伴う弁室50内の減圧によって流入路47を通じて弁室50内にインクが流入する。このとき、差圧弁41を速やかに閉弁させるためには、インク流出量に対するインク流入量の割合を小さく抑える必要がある。そのためには流入路47の流路径Cを小さく保つ必要があり、本実施形態では、この観点から流路径Cを相対的に小さな値に定めている。
流出路49からのインク流出量は、その流路径、流路長、流出路49の入口と出口間の圧力差などで決まり、一方、流入路47からのインク流入量は、その流路径、流路長、流入路47の入口と出口間の圧力差などで決まる。ここで、流路の入口と出口間の圧力差は、その流路を通る流体(インク)が受ける流路抵抗に起因する圧力損失の影響を受けて決まり、流路径が小さいほど流路抵抗に起因する圧力損失が大きくなって、流量が小さく抑制されることになる。これらの条件を考慮して、差圧弁41が速やかに閉弁できるように、流入路47の流路径φC(つまり流路断面積)が設定されている。但し、流入路47の流路径Cは、閉弁状態にある差圧弁41を開弁させるために流入路47から供給されるインクの流量を決めるので、開弁応答性を良好に保つとともに印刷時におけるインク供給を円滑に行うためには、あまり小さくし過ぎることも好ましくないので、この点も考慮して設定されている。もちろん、流入路47は、その流路長全域に渡って同一径である必要はなく、流量をコントロールできる限りにおいて、例えば流入路47の流路途中に絞り部(オリフィス)を設けた構成でもよい。絞り部を採用した場合は、流量は絞り径に大きく依存するので、絞り径(開口径C)を適切値に設定する。なお、流路径(流路口の開口径)Cの条件などその詳細については後述する。
また、凹部43の開口径φBは、差圧弁41が開弁状態から閉弁状態に至る過程において、インク吸引時における弁室50内の負圧(インク圧)をフィルム部材45が受ける受圧面積(=π・B2/4)、つまりダイヤフラム45aの面積を規定する。この受圧面積と、負圧と大気圧との圧力差との積により、フィルム部材45に働く閉弁力が決まる。
図7に示す閉弁状態にある差圧弁41を、流出路49に負圧を付与しつつ流入路47に加圧を付与することで開弁させるためには、フィルム部材45が第2流路52内のインクの加圧を受ける受圧面積と、その加圧Pposと大気圧Patmとの差圧である加圧値ΔPpos(=Ppos−Patm)とから決まる押圧力(開弁力)が、所定値以上である必要がある。つまり、フィルム部材45における凹部43の開口43aに臨んで撓み変形可能なダイヤフラム45aは、閉弁状態において第1流路51のインクから、突起46との当接箇所の周囲に渡る円環状の周縁領域にて負圧を受けつつ、第2流路52のインクから開口46aを通じて中央領域にて加圧を受ける。そして、ダイヤフラム45aが突起46から離間できるためには、ダイヤフラム45aの中央領域に働く加圧による力が、その周縁領域に働く負圧による力に打ち勝つ必要がある。そのために突起46の開口径φAは、凹部43の開口径φB(つまりダイヤフラム径)に対する比率(A/B)が、差圧弁41を開弁できる所定値以上の値をとるように設定されている。なお、加圧状態における第2流路52内のインク圧は略一定であるものの所定範囲内で変動するので、その所定範囲のうち最低インク圧でも差圧弁41を開弁できるように、開口径φAは設定されている。
開口径A,B,C(流路径)の条件を特定するために、図6に示す構成の差圧弁41を用いて、開弁できる開口径φAの条件を評価する実験を行った。表面44aと突起46の段差量、つまり差圧「0」におけるダイヤフラム45aと突起46間のギャップを0.3mmとした。また、吸引して閉弁させた状態における第1流路51内の流体からダイヤフラム43aが受ける負圧ΔPnegを30kPa、開弁させるために加圧したときに第2流路52内の流体からダイヤフラム45aが受ける加圧(正圧)ΔPposを30kPaとした。ここで、負圧ΔPnegとは、第1流路51内のインク圧である負圧Pnegと大気圧Patmとの差圧(=Patm−Pneg)を指し、加圧(正圧)ΔPposとは、第2流路52内のインク圧である加圧Pposと大気圧Patmとの差圧(=Ppos−Patm)を指す。
また、フィルム部材45として、厚さ12μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)と、厚さ25μmのCPP(無延伸ポリプロピレンフィルム)を用いた。流入路47の流路径φCに対する凹部43の開口径φB(ダイヤフラム径)の寸法比B/Cは、「約10」とした。また、凹部43の開口径φB(ダイヤフラム径)に対する突起46の開口径φAの寸法比A/Bは、1/3、1/2、2/3の3種類の差圧弁41を用意した。
評価の結果、差圧弁41を開弁できる開弁条件は、凹部43の開口径φBに対する突起46の開口径φAの寸法比A/Bが、「1/2以上」必要であることが分かった。フィルム部材45の材質の違いによる影響は特に認められなかった。以上から、寸法比は、B:A:C=10:5以上:1であることが望ましい。なお、フィルム部材45の材質は、PETやCPP以外の合成樹脂を使用してもよい。例えば、OPP(二軸延伸ポリプロピレンフィルム)、ONY(二軸延伸ナイロン)、CNY(無延伸ナイロン)、PVA(ポリビニルアルコール)、PI(ポリイミド)、PC(ポリカーボネイト)、TAC(トリアセチルセルロース)、PS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)などを用いることができる。
ここで、上記の評価例では、ダイヤフラム45aに第1流路51と面する周縁領域においてかかる負圧ΔPnegと、第2流路52と面する中央領域においてかかる加圧ΔPposとを等しいとしているが、これらの差圧ΔPneg,ΔPposが異なってももちろんよい。この場合、ダイヤフラム45aの中央領域に加えられた加圧に基づく開弁力が、その周縁領域に加えられた負圧に基づく閉弁力に打ち勝って、フィルム部材45を突起46から離間できる比率A/Bを、チューブポンプ26eの能力から決まる吸引インク圧と、加圧ポンプ25の能力から決まる加圧インク圧とに基づいて決定する。そして、比率A/Bで示された開弁条件が決まると、その開弁条件を満たすように、開口46aの開口径φAと、凹部43の開口径φB(ダイヤフラム径)を設定すればよい。
次に、比率A/Bで示される開弁条件について、図8を用いて説明する。図8は、チョーククリーニング時の閉弁後に、流出路49に負圧を付与しつつ流入路47への加圧の付与を再開したときの差圧弁を示す。差圧弁41を開弁させるときは、チューブポンプ26eの駆動が継続されてノズル20aからのインク吸引が継続されたまま、加圧ポンプ25の駆動が再開されてインクカートリッジ23の隙間33に空気が導入されることにより、その空気圧に応じたインク圧が加圧される。この結果、差圧弁41においては、流出路49にノズル吸引による負圧Pnegが付与されつつ、流入路47に加圧Pposが付与される。差圧弁41の閉弁状態においては、ダイヤフラム45aが突起46に当接して開口46aを閉塞することにより第1流路51と第2流路52は非連通状態に遮断されている。このため、流出路49に連通する第1流路51は負圧Pnegになり、流入路47に連通する第2流路52は加圧(正圧)Pposになる。
ダイヤフラム45aには、第1流路51に面するリング状の周縁領域である第1受圧領域A1に、負圧ΔPneg(=Patm−Pneg)に基づく閉弁方向の力Fnegが働き、一方、開口46aを通じて第2流路52に面する円形状の中央領域である第2受圧領域A2に、加圧ΔPpos(=Ppos−Patm)に基づく開弁方向の力Fposが働く。ここで、第1受圧領域A1の受圧面積をS1、第2受圧領域A2の受圧面積をS2とすると、閉弁方向の力Fnegと開弁方向の力Fposは、それぞれ次のように表される。
Fneg=ΔPneg・S1 …(1)
Fpo s=ΔPpos・S2 …(2)
図8に示すように、第2受圧領域A2にかかる加圧に基づく開弁方向の力Fposは、ダイヤフラム45aの中央部に働く。この開弁方向の力Fposが働く第2受圧領域A2は、ダイヤフラム45aを周囲で固定している支点O(固定点)から距離の離れた中央部であるので、曲げモーメントの関係で、その周縁部に比べ少ない力でダイヤフラム45aを開弁方向に移動させることができる。これに対して負圧による閉弁方向の力Fnegが働く突起46の外側に位置するリング状の第1受圧領域A1は、ダイヤフラム45aの周縁に位置し、支点Oからの距離が近いので、先の中央部に働く力による曲げモーメントと均衡する曲げモーメントを得るには、より大きな力が必要になる。
ダイヤフラム45aには流体圧がかかるので、第1受圧領域A1には流体の負圧Pnegが面に均一に作用する等分布荷重が働き、第2受圧領域A2についても流体の加圧Pposが面に均一に作用する等分布荷重が働く。このため、曲げモーメントを考える場合、ダイヤフラム45aの径方向に多数分布する各微小領域の各点についての支点Oからの距離を加算平均し、その加算平均で求まる距離を用いて曲げモーメントを概算する。すなわち、リング状の第1受圧領域A1に径方向に分布する微小領域の各点についての支点Oからの距離を加算平均し、支点Oからその加算平均の距離d1だけ離れた位置に力Fnegが働くものとみなす。また、第2受圧領域A2に径方向に分布する微小領域の各点についての支点Oからの距離を加算平均し、支点Oからその加算平均の距離d2だけ離れた位置に力Fposが働くものとみなす。第1受圧領域A1に働く閉弁方向の力Fnegに基づく曲げモーメントMnegと、第2受圧領域A2に働く開弁方向の力Fposに基づく曲げモーメントMposは、それぞれ次式で表される。
Mneg=Fneg・d1 …(3)
Mpos=Fpos・d2 …(4)
開弁条件は、Mpos>Mnegである。図6に示した突起46の開口径φAと、凹部43の開口径φB(ダイヤフラム径)とを用いると、受圧面積S1,S2、距離d1,d2は次式で表される。但し、ダイヤフラム45aが負圧を受けることがない弁座面46bとの密接領域における径方向の幅は無視する。
S1=π・(B2−A2)/4 …(5)
S2=π・A2/4 …(6)
d1=(B−A)/4 …(7)
d2=(2B−A)/4 …(8)
ここで、ダイヤフラム45aが弁座面46bに密接して負圧を受けない部分の径方向の幅は無視し、その部分にも負圧が働くものもとみなしているが、実際は、その密接部分には負圧は働かない。よって、その密接部分にも負圧が作用するとみなしている上記の式を採用する場合、負圧に基づく力が実際より過大な値になっているので、開弁条件は、Mpos≧Mnegとしてよい。上記(1)〜(8)式を用いて、開弁条件 Mpos≧Mnegを求めると、次式が得られる。
A/B≧{ΔPneg/(3ΔPp os+ΔPneg)}1/2 …(9)
上記(9)式から分かるように、凹部43の開口径φB(ダイヤフラム径)に対する開口46aの開口径φAの比率は、加圧値ΔPposと負圧値ΔPnegに応じて決まる。例えば加圧値ΔPposと負圧値ΔPnegが等しいとすると、上記(9)式から、A≧B/2となり、開口径φAを開口径φBの1/2以上にすればよいことが分かる。これは、評価実験の結果とも一致している。
また、上記(9)の開弁条件は、受圧面積S1,S2を用いて表現すると、次式で示される。
S2/S1≧ΔPneg/3Ppos …(10)
例えば加圧値ΔPposと負圧値ΔPnegとが等しいとすると、上記(10)式から、S2/S1≧1/3となり、受圧面積S2(開口46aの開口面積)を受圧面積S1の1/3以上にすればよい。
さらに、凹部43の開口面積(ダイヤフラム面積)をSとすると、開弁条件は次式で表される。
S2/S≧ΔPneg/(3ΔPpos+ΔPneg) …(11)
例えば加圧値ΔPposと負圧値ΔPnegとが等しいとすると、上記(11)式から、S2/S≧1/4となり、開口46aの開口面積S2を凹部43の開口面積S(ダイヤフラム面積)の1/4以上にすればよい。つまり、突起46の開口面積、すなわちダイヤフラム45aの閉弁状態において加圧インクのインク圧が作用する第1受圧面積S1は、負圧値ΔPnegと加圧値ΔPposとが同値である前提の下で、ダイヤフラム45aの総受圧面積Sの1/4以上あれば、差圧弁41をチョーククリーニング時に開弁させることができる。本実施形態の場合、第1流路51と第2流路52は、共に流路の深さ方向に渡って流路径(つまり流路断面積)が同一な流路となっているので、上記の開弁条件は、これらの流路断面積を用いて、第2流路52(中断面積流路)の流路断面積が、第1流路51(大断面積流路)の流路断面積の1/4以上であればよいと言える。
ここで、加圧値ΔPposと負圧値ΔPnegとが等しいとした場合の開弁条件として、A/B≧1/2、S2/S1≧1/3、S2/S≧1/4が得られたが、これらの開弁条件が成立したときに差圧弁41を開弁できるのは、ΔPpos=ΔPnegのときに限らない。負圧値ΔPnegより加圧値ΔPposが弱い場合も、当然、差圧弁41を開弁できる。
なお、本実施形態では、開口46aの開口形状と、凹部43の開口形状を共に円形としたが、円形以外であっても、相似の関係にある場合は、上記(9)式で示される開弁条件が同様に成り立つ。この場合、相似関係にある両開口43a,46aの対応箇所の長さ比(相似比)を、上記(9)式に基づいて定めればよい。円形以外の形状としては、楕円、三角形、四角形、五角形、六角形、あるいは八角形以上の多角形を挙げることができる。さらに相似関係にない形状の組合せであっても、凹部の開口(ダイヤフラム)の最大寸法(例えば外接円の直径)をBとし、突起の開口の最小寸法(例えば内接円の直径)をAとすれば、上記( 9)式が開弁条件として成立する。
また、本実施形態では、凹部43の開口43a(つまりダイヤフラム45a)の中心線と、開口46a(つまり突起46)の中心線とが一致するように、ダイヤフラム45aに対する突起46の位置を定めている。しかし、両者の各中心線は許容範囲内で多少ずれていてもよい。この許容されるずれ量は、開弁条件から決まる開口径φAの設定可能範囲のうち下限値(B/2)近くの開口径φAを設定した場合は著しく少なくなる。しかし、その下限値に余裕をみた大きめの開口径φA(例えば2B/3)を設定した場合は、そのずれ量が多少大きくなっても開弁条件が成立する。また、中心線が許容範囲を超えてずれている場合は、改めて開弁条件を求め直し、その求めた開弁条件から突起の開口寸法を定めればよい。
また、周囲を固定されている半径B/2で厚さtの円形のダイヤフラムに、差圧ΔPneg(=Patm−Pneg)がかかったとき、ダイヤフラムの中心からrの地点における変位ω(r)は、ダイヤフラムを構成する材料のヤング率とポアソン比をそれぞれE,νとすると、rの関数として、次式で表される。
ω(r)=3/16・{(1−ν2)/(E・t3)}・ΔPneg・(r2−(B/2)2)2 …(12)
この(12)式から、開口46aの開口径がφAである差圧弁41において開弁状態にあるダイヤフラム45aに負圧ΔPnegがかかったときにダイヤフラム45aが開口46aを閉塞することができる、表面44aと突起46との段差量G、つまりダイヤフラム45aと突起46間のギャップG(差圧0のとき)の条件は、次のようになる。すなわち、上記(12)式において、r=A/2のときの変位ω(r)が、ギャップG以上の値(G≦ω(A/2))をとればよい。よって、閉弁できるためのギャップGの条件は、次式で表される。
G≦3/16・{(1−ν2)/(E・t3)}・ΔPneg・((A/2)2−(B/2)2)2 …(13)
なお、本実施形態では、チョーククリーニング以外の通常時は、弁室50内のインク圧が加圧により大気圧Patmより高くなってダイヤフラム45aが外側(大気側)へ膨出するので、段差量G(ギャップ)が零であっても開弁はできる。よって、段差量G=0も許容されることから、上記(13)式から、A=Bも許容されることになるが、閉弁保持を確実なものとするためには、開口46aの開口径φAは、凹部43の開口径φBの80%以下とすることが望ましい。従って、インクジェット式記録装置11で用いられる圧力範囲での使用では、望ましい開弁条件は、1/2≦A/B≦4/5となる。これを面積で表現した場合は、1/3≦S2/S1≦16/9、1/4≦S2/S≦16/25となる。なお、負圧Pnegと加圧Pposが、ある範囲内で変動する場合は、差圧弁41の開弁を確実なものとするため、負圧Pnegについてはその変動範囲内の最大負圧を採用し、加圧Pposについてはその変動範囲内の最小加圧を採用することが好ましい。
また、チョーククリーニング時に良好な閉弁応答性を得るためには、前述したように、インク吸引時における弁室50内のインク流出量に対するインク流入量の割合を小さく抑える必要がある。インク吸引開始直後はキャップ26a内の吸引圧(負圧)と弁室50のインク圧との間の圧力差が大きく、一方、弁室50と流入路47の上流側位置との両インク圧の圧力差が小さい。そして、インク吸引が進むに連れて弁室50内のインク圧が徐々に減少するため、流出路49の入口と出口の間の差圧が徐々に小さくなるとともに、流入路47の入口と出口の間の差圧が徐々に大きくなる。このため、流出口49からの流出量が徐々に減少するとともに、その一方で流入口47aからの流入量が徐々に増加する。よって、まず差圧弁41が閉弁できるためには、この流出量と流入量の大小関係が逆転する前に、ダイヤフラム45aが突起46に当接可能な所定変位ω(r)だけ撓み変形できることが最低限必要となる。
例えば差圧弁41のギャップがGoである場合、閉弁するために必要な負圧ΔPnegは、上記(13)式から、以下のようになる。
ΔPneg≧16Go・{(E・t3) /(1−ν2)}/3((A/2)2−(B/2)2)2 …(14)
この(14)式の右辺の値をΔPnegminとすると、ΔPnegが、閉弁に必要な最低負圧ΔPnegminに達したときに差圧弁41は閉弁することになる。そして、差圧弁41を閉弁できるためには、閉弁過程における弁室50の内外の圧力差である負圧ΔPnegが、この最低負圧ΔPnegminに達するまで、弁室50における流出量が流入量よりも多くなっている状態が継続されることが必要である。
ところで、流路を通る流体の流量Qは、次式で示される。
Q=(πr4p/8η)(p1−p2)/L …(15)
ここで、rは流路半径、p1は流路の上流側(入口側)の圧力、p2は流路の下流側(出口側)の圧力(よって圧力差Δp=p1−p2)、ηは流体(インク)の粘性係数(粘度)、Lは流路長、pは流路における流体の平均圧力(=(p1+p2)/2)である。
よって、負圧ΔPnegが、最低負圧ΔPnegminに達したときにおける、流出路49から流出する流量Q1と、流入路47から流入する流量Q2は、上記(15)式を用いて、それぞれ以下のように示される。
Q1=(πr14(P1+Pnegmin)/16η)(Pnegmin−P1)/L1 …(16)
Q2=(πr24(P2+Pnegmin)/16η)(P2−Pnegmin)/L2 …(17)
ここで、r1は流出路49の流路半径、r2は流入路47の流路半径、P1は流出路49の出口側の流体圧、P2は流入路47の入口側の流体圧、Pnegminは弁室50の流体圧(最低負圧)、L1は流出路49の流路長、L2は流入路47の流路長である。
そして、弁室50内の流体圧が、閉弁できる最低負圧Pnegminにあるときに、流出量Q1よりも流入量Q2が少ないこと(Q1>Q2)が、差圧弁41が閉弁できる閉弁条件となる。但し、閉弁までの所要時間Tが長くなると、チョーククリーニングの負圧蓄積段階でインクが無駄に吸引廃棄されてしまう。ここで、チョーククリーニング開始時から差圧弁41が閉弁するまでの弁室50の容積の減少量をΔVoとし、流出路49の流出量Q1と流入路47の流入量Q2が所要時間Tの短い期間においてはほぼ変化しないとみなせるとしてその流量差をΔQ(=Q1−Q2)とすると、閉弁するまでの所要時間T(秒)は、T=ΔVo/ΔQで表される。この所要時間Tは、チョーククリーニングにおいて差圧弁41が閉弁するまでの所要時間であり、この所要時間Tを短くすることにより閉弁前の負圧の蓄積に使用されず無駄に吸引廃棄されるインクを少なく済ませることができる。無駄に吸引廃棄されるインク量を少なく抑えるためには、例えば吸引開始(弁室50への負圧導入開始)から遅くとも2秒以内に閉弁することが望ましい。すると、T≦2を満たすとよいことから、2≦ΔVo/(Q1−Q2)となり、これにより、Q1≦(ΔVo+2Q2)/2を満たすような、流出路の流路半径r1に対する流入路の流路半径r2を設定すればよい。
ここで、チョーククリーニング開始前の加圧停止状態下では、下流側の圧力調整弁42が閉弁しているので、弁室50内には加圧が残っており、ダイヤフラム45aは外側へ膨出した状態にある。上記(12)式は負圧ΔPnegに替えて加圧ΔPposとしたときも成立するので、加圧ΔPposのときの変位をω(r)pos、負圧ΔPnegのときの変位をω(r)negとすると、ΔVoは、∫2πrω(r)posdr+∫2πrω(r)negdrを、積分範囲r=0〜B/2で計算することにより求められる。もちろん、実際には、計算通りの値が常に成立する訳ではなく、流路内壁面の摩擦係数、流路内を通る流体が層流か乱流かの違い、流路径の変化、流路経路の屈曲の有無など種々の要因により条件は決まる。よって、ΔVo、Pneg(またはΔPneg)など、流路半径r1に対するr2を特定するために必要な各値は、計測により求めたり、ダイヤフラムや開口の径や流路径などの各種パラメータを変えた差圧弁41のサンプルを複数作製し、実際に開弁、閉弁するかどうかを調べたり、閉弁の応答速度を評価したりする実験をして、その実験結果から条件を設定することが望ましい。そして、流路径C(=2・r2)については、流路半径r1に対して決まる流路半径r2の値に基づきを決定する。
本実施形態では、流出路49の流路径Dが、例えば0.5mm〜3mmの範囲内の所定値に設定されている。そして、吸引力による負圧が付与される流出路49の両端の圧力差が、非加圧状態にある流入路47の両端の圧力差に比べ十分大きいことから、流入路47の流路径Cは、流路径Dと同じか、0.5mm以上の範囲で流路径Dよりも短い値に設定されている。よって、流路径Cは、C≦Dを満たす範囲で、0.5mm〜3mmの範囲内の所定値に設定されている。ここで、流量Q1,Q2は、上記(16),(17)式から、流路半径r1,r2(流路径C,D)の4乗に比例するので、流路半径r2を流路半径r1に対して小さくすると、流量Q2は流量Q1に対して(r2/r1)の4乗に比例して小さくなる。よって、流路径Cを流路径Dに対して若干小さくした程度でも、良好な閉弁応答性が確保される。なお、流路径C,Dは、インク中の気泡や異物が流路が詰まらず、かつ印刷時にインクが記録ヘッド20から吐出されて消費された際にその上流側のインク流路内にある程度の流速以上のインクの流れが生じる値に設定されている。
そして、このように流路径Cが流路径Dとの関係で小さく維持される必要がある流入路47については、その流路径Cを小さく維持したまま、閉弁時にダイヤフラム45aにより閉塞される開口46aを広く設定している。すなわち、凹部43の底面上に流路径Cよりも十分大径の内径を有する円環状の突起46を設けることにより、流路径Cを小さく維持しつつ、開弁の際にダイヤフラム45aにかかる加圧の受圧面積S2を決める開口46aの開口径Aを流路径Cの5倍以上に大きくして、凹部43の開口径B(ダイヤフラム径)に対する開口径Aの比率を1/2以上に大きく設定している。そして、このような条件を満たすようにA,B,C,Dを設定できたことにより、従来の差圧弁の構成に対して、流出路と流入路の位置関係を逆転した構成の差圧弁41において、閉弁応答性を良好に維持しつつ、チョーククリーニング時における閉弁状態からの開弁を実現可能とし、差圧弁41として有効に機能するようにしている。なお、流入路47については、流量Q1,Q2が、差圧弁41が閉弁できる最低負圧Pnegminのときに、Q1>Q2を満たす限りにおいて、流入路47の途中に絞り部が設けられた構成とすることもできる。
次に、以上のように構成されたインクジェット式記録装置11の電気的構成について説明する。図9に示すように、インクジェット式記録装置11は、CPU61、ROM62、RAM63を備える。また、インクジェット式記録装置11は、入力部65、第1のモータ駆動回路67、第2のモータ駆動回路68、第3のモータ駆動回路69、ヘッド駆動回路70を備える。そして、これらは、バス64を介して互いに接続されている。
入力部65は、インクジェット式記録装置11の本体ケース12等に設けられ、ユーザにより入力部65が操作されると、CPU61は入力部65からオン信号を入力する。また、CPU61は、第1のモータ駆動回路67を介してキャリッジモータ18に接続され、キャリッジモータ18を駆動制御するための駆動制御信号を出力する。
また、CPU61は、第2のモータ駆動回路68を介して加圧ポンプモータ73に接続され、加圧ポンプモータ73を駆動させるための駆動制御信号を出力する。加圧ポンプモータ73は、前記加圧ポンプ25に対して動力を伝達可能に接続されている。本実施形態においては、加圧ポンプモータ73が正転駆動されることにより、加圧ポンプ25から加圧空気が送出され、加圧ポンプモータ73の駆動が停止されることで、加圧ポンプ25からの加圧空気の送出が停止される。
さらに、CPU61は、第3のモータ駆動回路69を介してチューブポンプモータ74と接続され、チューブポンプモータ74を正逆回転させるための駆動制御信号を出力する。チューブポンプモータ74は、チューブポンプ26eに対して動力を伝達可能に接続されている。チューブポンプモータ74が正転駆動されたときに、チューブポンプ26eがポンプ駆動されてキャップ26aの内部に負圧が導入される吸引動作が行われ、チューブポンプモータ74の駆動が停止されることで、チューブポンプ26eにおける吸引動作が停止される。
また、CPU61は、ヘッド駆動回路70を介して記録ヘッド20に接続され、記録ヘッド20に設けられているノズル20aからインクを吐出させるための図示しない吐出駆動素子(例えば圧電振動素子)に対してノズル駆動信号を出力する。CPU61は、ROM62に記憶された各種プログラムに従って動作し、その演算処理結果等をRAM63に一時記憶するようになっている。詳述すると、ROM62は、チョーククリーニングプログラム及びその他プログラムを記憶している。
次に、以上のように構成されたインクジェット式記録装置11の動作について説明する。まず、印刷時における動作を説明する。インクパック32から記録ヘッド20までの各インク供給流路は、各色のインクがそれぞれ充填された状態にある。そして、CPU61によって、第2のモータ駆動回路68を介して加圧ポンプモータ73が駆動されており、インクカートリッジ23の隙間33に導入された加圧空気により、インクパック32内のインクは加圧状態に維持されている。従って、印刷時においては、インクカートリッジ23からバルブユニット21へと、インクが加圧状態で供給された状態となっている。
そして、バルブユニット21に加圧状態で導入された各色のインクは、色毎に対応する差圧弁41の流入路47へ供給されている。そして、図6に示すように、流入路47を通じて弁室50へと供給されたインクは、加圧に基づき大気圧より高い所定圧力に維持されている。従って、フィルム部材45が突起46から離間するとともに加圧によって外側(大気側)へやや膨らんだ状態で、差圧弁41は開弁している。
差圧弁41と記録ヘッド20との間の流路上に設けられた圧力調整弁42は、印刷停止中は記録ヘッド20に必要量のインクが供給された状態にあるので閉弁している。そして、画像データに基づいて印刷が開始されると、記録ヘッド20からインクの噴射が行われ、インクの噴射量に応じて、圧力調整弁42の圧力室内のインクが記録ヘッド20へと供給される。この結果、圧力調整弁42の圧力室内のインクが減少し、圧力室のインク圧が所定圧よりも減少すると、圧力調整弁42が開弁する。この圧力調整弁42の開弁の結果、圧力調整弁42の圧力室内へとインクが流入すると、その圧力室内のインクの圧力が上昇する。この結果、圧力調整弁42が閉弁する。こうして記録ヘッド20へ必要量のインクが供給されるとともに、記録ヘッド20に対して過大なインク圧がかからないので、ノズル20aからのインクの漏出が抑えられる。この結果、印刷時においては、圧力調整弁42の圧力室内には、所定範囲内の略一定圧に調整されたインクが貯留された状態となり、記録ヘッド20へのインク供給の安定性が確保されるようになっている。
そして、差圧弁41においては、圧力調整弁42が開弁したとき、弁室50内のインクが流出路49から圧力調整弁42側へ供給されるとともに、その流出した分のインクが流入路47から弁室50内へ導入される。
次に、チョーククリーニング時におけるインクジェット式記録装置11の動作を説明する。本実施形態では、ユーザによって入力部65(図9参照)が操作されることにより、チョーククリーニングが行われる。入力部65の操作に基づくオン信号を入力したCPU61は、まず、チョーククリーニングプログラムに従って、キャリッジモータ18を駆動させ、キャリッジ15をホームポジションに移動させる。キャリッジ15がホームポジションに移動することにより、キャップ昇降機構を介してキャップ26aが上昇して記録ヘッド20のノズル形成面20bを封止する。また、CPU61は、入力部65からのオン信号の入力に基づいて、圧力減少段階に移り、加圧ポンプモータ73の駆動を停止させ、加圧ポンプ25からの加圧空気の送出を停止させる。
続いて、CPU61は、吸引段階に移り、チューブポンプモータ74を駆動させ、チューブポンプ26eの吸引動作によってキャップ26aの内部に負圧を導入する。この結果、記録ヘッド20のノズルからインクが吸引され、圧力調整弁42の圧力室内のインクが減少し始める。そして、圧力調整弁42の圧力室内の圧力が所定圧以下となることにより、前記印刷時と同様にして、圧力調整弁42が開弁する。この結果、圧力調整弁42の圧力室内に上流側からインクが流入し、その流入した分のインクがその上流側に位置する差圧弁41の弁室50内から流出する。このチョーククリーニング時は、流入路47から導入されるインクが非加圧状態にあるとともに流路径C,Dの設定により、弁室50における流出路49からのインク流出量が、流入路47からのインク流入量に勝って、弁室50内のインクが減少し始める。そして、弁室50内のインク減少に伴う減圧によってフィルム部材45が弁室50の内側へ撓み、その圧力が所定圧よりも減少すると、フィルム部材45が突起46に当接して開口46aを閉塞する。これにより、差圧弁41が閉弁する。このとき、差圧弁41は吸引動作開始から2秒以内の所定時間経過のうちに速やかに閉弁し、良好な閉弁応答性が得られる。この結果、吸引動作開始から差圧弁41の閉弁までに開口46aを通過するインク量が少なく抑えられるので、負圧蓄積段階終了までに無駄に吸引廃棄されるインク量が少なく抑えられる。
チューブポンプ26eによる吸引動作が継続されることにより、開口46aを閉塞したダイヤフラム45aを境としてその下流側に負圧が蓄積される。CPU61は、チョーククリーニングプログラムに従って、チューブポンプモータ74の駆動時間を計時しており、その駆動時間が所定時間を経過すると、圧力増加段階に移り、加圧ポンプモータ73の駆動を再開する。
この結果、加圧ポンプ25から加圧空気の送出が再開され、インクカートリッジ23からバルブユニット21へとインクが加圧状態で供給される。すると、差圧弁41の流入路47を通じて弁室50内にインクが加圧状態で供給され、ダイヤフラム45aの開口46aを閉塞する部分に加圧されたインク圧がかかってダイヤフラム45aの中央部分(第2受圧領域A2)を強く押すことになる。このとき、開口46aの開口径Aが凹部43の開口径B(つまりダイヤフラム径)の1/2以上確保されているので、図8に示すように、開口46aを通じてダイヤフラム45aの中央領域にかかる加圧ΔPposに基づく開弁方向の力Fposが十分確保される。そして、ダイヤフラム45aの中央領域に働く開弁方向の力Fposに基づく曲げモーメントMposが、ダイヤフラム45aの周縁領域に働く閉弁方向の力Fnegに基づく曲げモーメントMnegに勝り、ダイヤフラム45aは突起46から離間する。この結果、差圧弁41は開弁する。
この差圧弁41の開弁によって、弁室50における開口46aより下流側の流路に蓄積されていた負圧を解消しようとして、上流側から一気にインクが流れ込み、瞬間的に流速の高められたインクが流れる。この結果、弁室50およびその下流の流路上に滞留していた気泡や異物が、インクとともに一気に記録ヘッド20のノズル20aから排出される。その後、チューブポンプモータ74の駆動時間が予め設定された総駆動時間に達すると、チューブポンプモータ74の駆動が停止される。そして、CPU61は、チューブポンプモータ74の駆動を停止すると、チョーククリーニングプログラムの処理を終了する。このチューブポンプモータ74の駆動停止により、差圧弁41の開弁時に少なくとも弁室50内にあったインクが記録ヘッド20のノズル20aから排出されたタイミングで、吸引動作が終了する。
このチョーククリーニングに際して、差圧弁41の弁室50内では気泡はその浮力により弁室50内の上方位置に集まっており、負圧蓄積過程における減圧により気泡は大きなサイズに成長する。そして、本実施形態では、流出口49aが弁室50内における側壁面の上端近傍位置に開口しているので、インクが一気に流出する際は、弁室50内の上側に集まった気泡は、弁室50の側壁面の上端近傍に開口する流出口49aから円滑に排出される。こうして、チョーククリーニングが行われた結果、インクジェット式記録装置11におけるインクの充填性が向上する。
以上詳述したように、第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)円環状の突起46を設けることにより、突起46の内周面に囲まれた中断面積流路としての第2流路52を小断面積流路としての流入路47に連通するように設け、閉弁したダイヤフラム45aが、第2流路52内の加圧インクから受ける受圧面積を開弁に必要な広さだけ確保した。よって、閉弁したダイヤフラム45aが中央領域で開口46aを通じて受ける加圧ΔPposによる開弁方向の力Fposに基づく曲げモーメントMposを、ダイヤフラム45aが周縁領域で受ける負圧ΔPnegによる閉弁方向の力Fnegに基づく曲げモーメントMnegより大きくすることができることから、差圧弁41を開弁できる。このように、閉弁時にダイヤフラム45aにより閉塞される開口46aが開口する突起46の内周面に囲まれて形成された第2流路52に連通する流路を、従来構造における流出路に替えて、流入路47とすることができた。このため、流出口49aを凹部43の内壁面上に開口するように構成できるので、流出口49aの配置位置の制約をなくすことができる。
そして、流出口49aの位置の制約がなくなることで、差圧弁41をインクジェット式記録装置11に組付けた状態において凹部43の内壁面上における上端位置(重力方向反対側の端部位置)に流出口49aを位置設定できる。このため、浮力で弁室50内のインク中の上方位置に集まった気泡を流出口49aへ円滑に流出させることができるので、チョーククリーニングの際に気泡排出性が向上する。
(2)本実施形態のようにフィルム部材45が上側に位置するように差圧弁41を平置きにした場合、凹部43の内壁面上において気泡が浮力で移動する方向となる反重力方向側の端部位置、つまり上端位置近傍にて開口するように流出口49aを位置設定できる。よって、弁室50内の上方に集まったインク中の気泡が、チョーククリーニングにおける開弁時に、流出口49aから円滑に排出されやすくなる。従って、チョーククリーニングによる気泡排出性を高めることができる。
(3)凹部43の開口径φBに対して突起46の開口径φAを、前記(9)式で示された開弁条件である、A/B≧{ΔPneg/(3ΔPpos+ΔPneg)}1/2が成立するように設定した。このため、負圧Δnegと加圧ΔPposが略等しいといえる範囲を超えて異なっても、開口46aの開口径Aを、ダイヤフラム径Bに対して開弁が可能となる値に設定できる。よって、負圧Δnegと加圧ΔPposの各値に拘わらず、上記開弁条件を満たす開口径Aが確保されるように突起46を設ければ、差圧弁41を確実に開弁させることができる。
(4)円形を含め、ダイヤフラム45aの形状と開口46aの開口形状が互いに相似の関係にある同一形状の場合は、開弁条件である前記(11)式で示された、S2/S≧ΔPneg/(3ΔPpos+ΔPneg)が成立するように、凹部43の開口面積S(ダイヤフラム面積)に対する開口46aの開口面積(第2受圧面積S2)を設定した。よって、ダイヤフラム45aと開口46aが径で表現できない円形以外の形状であっても、開弁条件を満たす開口46aの開口面積が確保されるように突起46を設けることができ、差圧弁41を開弁させることができる。
(5)円環状の突起46の開口径φAを、凹部43の開口径φBの1/2以上に設定した。すなわち、突起46の開口面積、つまりダイヤフラム45aの閉弁状態において加圧インクのインク圧が作用する第2受圧面積S2を、ダイヤフラム45aの総受圧面積Sの1/4以上に設定した。このため、チョーククリーニング時において、差圧弁41の閉弁後に十分負圧が蓄積された段階で流入路47への加圧の付与を再開した際に、ダイヤフラム45aを突起46から離間させて、差圧弁41を開弁できる。特に、インクジェット式記録装置11のように、加圧ΔPposと負圧ΔPnegが略同程度の値、もしくは加圧ΔPposが負圧ΔPnegよりも強い値となる能力の加圧ポンプ25およびチューブポンプ26eが用いられる構成において、突起46の内周面で形成された第2流路52に連通する側を流入路47としても、チョーククリーニング時に差圧弁41を確実に開弁させることができる。
(6)流出口49aを差圧弁41の配置向きに応じて気泡排出性のよくなる位置に位置設定すればよいことから、差圧弁41の配置向きも自由に設定できるようになる。よって、差圧弁41の配置向きの自由度も高まる。このため、チューブや配管との接続性のよい配置向きに差圧弁41を組付けて配管接続性の向上を図ったり、与えられた組付けスペースに収まる向きに配置することで差圧弁41をコンパクトに組付けたりすることができる。
(7)流入路47の流路径(流入口47aの開口径)φCを小さく維持しつつ、開口46aの開口径φAを流路径φCの5倍以上に設定した。よって、吸引動作開始直後における流出路49からのインク流出量Q1を、閉弁するまで継続的に、流入路47からのインク流入量より多く維持でき、しかも吸引動作開始から2秒以内のうちに差圧弁41を閉弁させることができ、吸引動作開始後において良好な閉弁応答性を得ることができる。
(8)突起46は、ダイヤフラム45aとそれぞれの中心線を一致させた状態で、ダイヤフラム45aの略中央部に対峙して位置するようにした。このため、支点Oから開弁方向の力が働く第2受圧領域A2までの距離d2を長く稼ぐことができ、加圧値や開口46aの開口面積の割りに、ダイヤフラム45aの中央領域に働く開弁方向の曲げモーメントを大きく確保することができる。よって、ダイヤフラム45aを突起46から離間させる開弁が小さな加圧で可能となる。あるいは、ダイヤフラム45aを突起46から離間させる開弁が、少ない開口面積の開口46aにより可能となる。
(9)突起46を円環状とし、ダイヤフラム45aが開口46aを通じて加圧を受ける第2受圧領域A2が円形となるようにした。このため、支点Oから開弁方向の力が働く第2受圧領域A2までの加算平均の距離d2を、同一面積の他形状に比べ長く稼ぐことができ、その加圧値や開口46aの開口面積の割りに、ダイヤフラム45aの中央領域に働く開弁方向の曲げモーメントを大きく確保することができる。よって、ダイヤフラム45aを突起46から離間させる開弁がより小さな加圧で可能となる。あるいは、ダイヤフラム45aを突起46から離間させる開弁が、少ない開口面積の開口46aにより可能となる。
(10)流入口47aは突起46の内底面上に配置位置が制約されるものの、突起46の内底面上であればどこに位置してもよい。本実施形態では、突起46の開口径Aを、凹部43の開口径B(ダイヤフラム径)の1/2以上となる大径としているので、流入口47aの配置位置についても、従来の弁装置における流出口に比べ配置位置の自由度を高められる。
(第2実施形態)
次に第2実施形態について図10に従って説明する。本実施形態は、差圧弁の構成が異なる例である。インクジェット式記録装置11の構成については、前記第1実施形態と同様であるので、同一部材には同一の符号を付してその説明は省略し、差圧弁の構成のみ図10に基づいて説明する。
図10に示す差圧弁81は、基本的な構成は前記第1実施形態における差圧弁41と同じ構造を有している。異なる点は、前記第1実施形態における差圧弁41は、フィルム部材45の表面が上側を向く状態に基材44が水平に配置される平置きに組み付けられていたのに対し、本実施形態ではフィルム部材45の表面が側方を向く状態に基材44が鉛直に配置される縦置きに組み付けられている。そのため、弁室50内において重力方向と反対側の位置に開口するように、前記第1実施形態における流出路49の位置を変更して、図10に示すように縦置きされた状態において凹部43の上壁面上に開口するように流出路82を形成している。チョーククリーニングが行われる際は、インク中の気泡は、弁室50内における重力方向反対側である上部に集まり、インク吸引時の減圧によって気泡径が大きくなった気泡は流出路82の流出口82aの近傍位置に集まる構成となっている。
このため、チョーククリーニング時のインク吸引中に加圧ポンプ25が再駆動されて差圧弁81が開弁して一気にインクが排出されるときに、流出口82aの近傍に位置する気泡が優先的に排出されることになる。このように、本発明の差圧弁81は、閉弁時にフィルム部材45が当接する突起の内側に位置する流路を流入路とし、凹部における突起の外側に位置する内壁面上に開口するように流出路を設定することができる。よって、凹部における突起の外側に位置する内壁面上の自由な位置に流出路の開口を位置設定することができる。これに対し、従来は、突起の連通孔が流出路であったので、流出路の開口位置が、凹部の底面中央位置に制約されていた。このため、気泡が弁室内に滞留しにくくするための差圧弁の配置向きまでも制約されることになっていた。本実施形態では、この種のレイアウト上の制約がなくなるので、差圧弁81を縦置きにすることができるとともに、流出路49の流出口49aを弁室50内において重力方向反対側の内壁面上に位置設定することができる。
(第3実施形態)
次に第3実施形態について図11に従って説明する。本実施形態は、差圧弁の構成が異なる例である。インクジェット式記録装置11の構成については、前記第1実施形態と同様であるので、同一部材名称には同一の符号を付してその説明は省略し、差圧弁の構成のみ図11に基づいて説明する。
図11に示すように、差圧弁91は、一側面に凹部93を有する板状の基材94と、基材94の表面94a(同図では右側面)に凹部93の開口を封止する状態に固着された可撓性部材としてのフィルム部材95とを備える。凹部93は、基材94の表面94aに円形の開口を有するように形成されている。フィルム部材95は、凹部93の開口より広いサイズで、可撓性が得られるような所定厚みの合成樹脂フィルムよりなる。基材94およびフィルム部材95は共に前記第1実施形態と同様の合成樹脂製であり、フィルム部材95は基材94に熱溶着により固着されている。
図11に示すように、凹部93の底面における略中央には、凹部93と同心円をなす円環状の突起96が突出している。基材94に貫通形成された流入路97は、突起96の内底面上に流入口97aを開口させるとともに、基材94の背面(図11における左側面)に沿って下方へ延びて基材94の下端部から下方へ突出する流入管部98内に連通している。また、基材94に貫通形成された流出路99は、凹部93の上端面に開口する流出口99aを有するとともに、該流出口99aから上側へ所定経路で延び、基材94の上端部から上方へ突出する排出管部100に連通している。流入路97のうち基材94の背面に沿って延びる部分は、基材94の背面に凹設された流路溝94bと、この流路溝94bを覆うように基材94の背面に熱溶着されたフィルム部材95とにより囲み形成されている。
凹部93の側周面は外周側へ向かうほど深さが浅くなるテーパ状の斜面93a(テーパ面)に形成されている。また、突起96は先端へ向かうほど径方向の厚みが徐々に薄くなるような先細り形状に形成されている。このため、突起96の内周面は、深さ方向(図11の左方向)へゆくほど流路断面が徐々に狭くなる円錐台状の斜面96aに形成されている。また、突起96の外周面は、先端側ほど外周径が徐々に小さくなる斜面96b(円錐台の外周面形状の斜面)に形成されている。差圧弁91は、フィルム部材95の撓み方向(図11における左右方向)が重力方向(同図では上下方向)と略直交する向きに配置されて、インクジェット式記録装置11に組付けられている。弁室102の内壁面に形成された斜面96b,96a,93aは、重力方向に対して、弁室102内のインク中を浮力により移動する気泡を流出口99aへ案内可能な向きに傾斜している。
このように差圧弁91の弁室102の内周面には斜面96b,96a,93aが形成されているので、弁室102内のインク中の気泡は斜面96b,96a,93aに沿って上方へ移動する。このため、差圧弁91を図11に示すように縦置きした場合、突起96の外周面および内周面が、気泡が比較的溜まり易い上壁面となるが、その上壁面が浮力で上方へ移動しようとする気泡を流出口99aへ案内できる向きに傾斜した斜面96b,96a,93aになっている。このため、気泡を弁室102の上端面に位置する流出口99aの近傍に集めやすくなる。よって、チョーククリーニングの際は、弁室102内の気泡を一層排出し易くなる。
なお、実施の形態は、上記に限定されず、以下の構成も採用できる。
(変形例1)前記実施形態では、円環状の突起46を設けたが、弁座部は、環状の突起であることに限定されない。つまり、可撓性部材(ダイヤフラム)が、閉弁状態で当接できればその当接対象は環状の突起であることに限定されない。例えば図12に示すように突起のない差圧弁110でも構わない。すなわち、同図に示すように、基材44の表面44aに凹設された凹部111の略中央部には、該凹部111の径よりも小径の凹部112が形成されている。この凹部112の底面上には流入路47の流入口47aが開口しており、凹部112の内側領域が第2流路52となっている。凹部111の深さは、前記第1実施形態における突起46の先端面の深さと略等しく、凹部111の底面における開口112aの周囲部分が、閉弁時のダイヤフラム45aが当接する弁座部113となっている。また、大断面積流路としての第1流路51は、深さ方向に渡って同一径とはなっておらず、凹部111の内周壁には開口111aより大径の円周溝111bが形成された部分があり、第1流路51は開口111aの開口面積よりも広い流路断面積を有する構成となっている。このような構成であっても、前記実施形態と同様の開弁条件を満たせば差圧弁として機能するので、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。
(変形例2)前記実施形態では、突起46の内底面上に流入口47aを開口させた小断面積流路としての流入路47を有する構成であったが、これに限定されない。例えば図13に示すように、小断面積流路を有さない差圧弁120でも構わない。すなわち、同図に示すように、突起46の内側に上側ほど拡開する錘状の孔121が形成され、孔121の内側部分が第2流路52となっている。この第2流路52の小径側(図13では下端側)の開口端が流入口47aとなっている。この構成では、中断面積流路が深さ方向に同一径でなく、しかも小断面積流路を有さない差圧弁120となる。このように、小断面積流路のない差圧弁120でも、前記実施形態と同様に開弁条件を満たせば差圧弁として機能するので、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、中断面積流路はダイヤフラム径の1/2未満の流路径を有する部分や、流入口47aの5倍未満の流路径を有する部分が存在するが、開口46aがダイヤフラム径の1/2以上、流入口47aの5倍以上あればよい。
(変形例3)差圧弁41をインク色毎に一個ずつ設ける構成としたが、図14に示すように複数の差圧弁131が一つの共通の基材上に一体に設けられた弁装置130を採用することもできる。すなわち、同図に示すように、基材132の表面には複数(例えばカートリッジと同数(4つ))の凹部43が凹設され、各凹部43の底面略中央部には、円環状の突起46がそれぞれ設けられている。基材132の表面には、1枚のフィルム部材133が、複数の凹部43の開口をそれぞれ封止する状態に熱溶着により固着されている。また、差圧弁を基材の表裏両面に設ける構成も採用できる。例えば基材の表裏両面にそれぞれ設けた凹部43の底面中央部に環状の突起をそれぞれ設け、基材の表裏両面に可撓性部材としてのフィルム部材を、凹部を封止するように固着した構成を採用できる。この場合、流入路47の外側の開口は、流出路49と同様に基材132の端面に開口させるとよい。
(変形例4)前記実施形態では、第1流路の径が第2流路の径よりも大きい構成であったが、これに限定されない。例えば、弁座部における開口の開口径がダイヤフラム径の1/2以上である限りにおいて、第2流路が第1流路の径よりも大きな径となる部分を有していても構わない。
(変形例5)弁座部の開口は1つであることに限定されない。例えば円錐台状の突起の先端面に複数の開口を有する構成を採用できる。この場合、1つひとつの開口の開口径は、ダイヤフラム径の1/2未満となるが、この場合、開口の開口面積(複数の開口の開口面積総計)が、ダイヤフラム面積の1/4以上であればよい。また、流入口についても1つに限定されず、例えば複数の凹部により第2流路が構成される場合、第2流路を構成する各凹部の底面上に1つずつ流入口を有する構成を採用できる。もちろん前記第1〜第3実施形態における突起の内底面上に複数の流入口47aが開口する構成を採用することもできる。このように流入口47aが複数N個存在する場合は、流入口が1つの場合の条件B≦5Cから、流路抵抗(圧力損失)が流路径の5乗に反比例することを用いて導かれる条件を採用する。
(変形例6)ダイヤフラム(つまり凹部の開口)と弁座部の開口の各形状は、円形であることに限定されない。ダイヤフラムと弁座部の開口が、相似関係にある略同一形状であれば、ダイヤフラムに対する前記開口の対応する箇所の長さ比(相似比)が、1/2以上であればよい。この1/2以上の条件を満たせば、開弁条件は成立する。
(変形例7)開口の開口面積が、ダイヤフラム面積の1/4以上ある限りにおいて、第2流路52が第1流路51の最大流路断面積より大きな流路断面積となった部分を有していても構わない。また、開口46aの開口面積が流入口47aの開口面積の5倍以上である限りにおいて、流入路が第2流路の流路断面積より大きな流路断面積の部分を有していても構わない。
(変形例8)弁装置としての差圧弁41,81,91,110,120,131を、液体供給路の途中に設けたが、弁装置としての差圧弁はインクカートリッジ23に設けてもよい。インクケース31内が空気で加圧される構成のインクカートリッジ23に差圧弁を設ける場合は、ダイヤフラムの外側面が大気に開放された状態に差圧弁を設けることが好ましい。例えばインクケース31内にインクパック32が収容される密閉収容室と大気開放室とを設け、インクパック32のインク供給部32bを大気開放室に配置するとともに、インク供給部32bと連通する状態に差圧弁も大気開放室に配置する。また、差圧弁をインク供給部32bと一体に形成した構成も採用できる。もちろん、弁装置としての差圧弁は、インクパック式以外のインクカートリッジに設けることもできる。例えばインクが貯留されるインク室を有するインクカートリッジや、インクが充填された多孔質体を収容するインクカートリッジにおいて、そのインクケース内の供給流路上に差圧弁を設けることができる。
(変形例9)流出口に負圧を付与しつつ流入口に加圧を付与する開弁方法に限定されない。例えば流出口に負圧を付与して閉弁した後に、キャップの排出管の途中に設けた開閉弁を閉弁してインク供給路内を負圧に維持するとともに吸引ポンプを停止した状態で、流入口に加圧を付与するクリーニング方法を採用することができる。
(変形例10)加圧手段は必須ではない。例えばカートリッジ内の液体としてのインクの水頭圧を利用して加圧する構成でもよい。この場合、流入路47の上流側に開閉弁を設け、チョーククリーニング時にはその開閉弁を閉じ、差圧弁41の開弁時に開閉弁を開いて流入路47に加圧を付与する構成とする。
(変形例11)負圧と加圧で示される圧力差を決める基準圧は大気圧に限定されない。例えばダイヤフラムの外側の流体圧は大気圧より高い圧力であったり、大気圧より低い圧力であったりしてもよい。例えばダイヤフラムの外側面は大気ではなく設定圧の液体が接している構成でもよい。
(変形例12)特許文献1に記載の付勢バネを設け、付勢バネによりダイヤフラムを外側から押圧する構成を採用することができる。この場合、インクカートリッジがホルダから取り外された場合に、フィルムを突起に当接させて、開口を確実に閉塞することができる。その結果、インクカートリッジの非装填状態において、ホルダのインク供給針から、開口よりも下流のインク流路内に滞留したインクを漏出させないようにすることができる。
(変形例13)特許文献2に記載の規制板を設けてもよい。各弁室50の内外の圧力差によって撓むフィルム部材に対し、弁室50の容積を大きくする方向への変位を規制する。チョーククリーニングの際に、すぐにクリーニングに必要な位置に変位することができるので、弁室50よりも下流側の流路を閉塞するまでの時間を短縮し、チューブポンプの駆動開始に対する開口封止部Kの応答性を向上することができる。
(変形例14)前記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式記録装置に具体化したが、この限りではなく、インク以外の他の液体(機能材料の粒子が分散されている液状体を含む)を噴射する液体噴射装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
(変形例15)さらに流体は液体にも限定されない。例えば気体でもよい。流体として気体を扱う液体噴射装置において、液体噴射装置の気体排出口から吸引手段で吸引することで流出口に負圧を付与して弁装置を閉弁させるとともに、その後、負圧を十分蓄積した後に流入口に加圧を付与して気体を下流側へ一気に押し出すチョーククリーニングを実施する液体噴射装置に適用できる。このような流体を気体とする液体噴射装置において、弁装置内において気体に含有される異質の気体を排出しやすい位置に流出口を配置することが可能になる。例えば使用目的とする気体に混入や化学反応等により含有されることになった不純ガスや浮遊微粒子等を、例えば比重の違いを利用して排出しやすい位置に流出口を設定することで、気体からの不純物排出性を向上できる。例えば、液体が封入された袋体を気体で加圧することで液体を供給する加圧式液体供給装置を備えた液体噴射装置において、その加圧用の気体の流路上に弁装置を設けて該流路をチョーククリーニングする構成でもよい。また、液体噴射装置に備えられたクリーニング装置において液体噴射ヘッドのノズルから吸引された廃液が流れる流路に弁装置を設けて該流路に気体を流してチョーククリーニングを行う構成でもよい。さらに、液体噴射ヘッドより上流側の流路上の途中に例えば液体に特定のガスを溶解させるためのガス溶解器が設けられ、液体に溶解させる気体を供給する流路上に弁装置を設けて、該流路を気体でチョーククリーニングする構成でもよい。
以下、前記実施形態および各変形例から把握される技術的思想を記載する。
(1)前記流入口で前記第2流路に連通する流入路を有しており、前記第2流路は、前記流入路より大きな流路断面積を有していることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の液体噴射装置。なお、第2流路は中断面積流路であることに限定されない。
(2)前記隔壁部と前記突起の前記開口は互いに略相似関係となる略同一形状をそれぞれ有しており、前記隔壁部に対する前記開口の相似比は、1/2以上であることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか一項に記載の液体噴射装置。これによれば、隔壁部と突起の開口は、互いに略同一形状で略相似関係にあり、かつ隔壁部に対する開口の相似比が1/2以上であることから、流出口に負圧を付与して閉弁させた後に、流出口に負圧を付与しつつ流入路に加圧を付与した場合に、弁装置を開弁させることが可能になる。
(3)前記隔壁部と前記開口は共に略円形を有するとともに、該開口の直径が前記隔壁部の直径の1/2以上であることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか一項に記載の液体噴射装置。これによれば、隔壁と開口は共に略円形であることから、可撓性部材による閉塞が小さな負圧で可能となるうえ、液体流出口に負圧付与して閉弁させた後に、流出口に負圧付与しつつ流入路に加圧付与した場合に、弁装置を開弁させることが可能になる。
(4)前記開口を介して略中央領域で前記第2流路の流体圧を受圧する受圧面積は、前記当接箇所より外側となる周縁領域で前記第1流路の流体圧を受圧する受圧面積の1/3以上であることを特徴とする請求項12に記載の液体噴射装置。これによれば、隔壁部が周縁領域で受圧する第1流路の負圧と、開口を介して略中央領域で受圧する第2流路の加圧とが、略等しい条件で使用される場合でも、第1流路の負圧より第2流路の加圧が弱い条件で使用される場合のどちらでも、弁装置を開弁できる。例えば液体噴射ヘッドに液体を加圧供給するための加圧手段による加圧と、液体噴射ヘッドのノズルから液体を吸引するクリーニング用の吸引手段による負圧とを用いてチョーククリーニングが行われる液体噴射装置への適用に好適である。
(5)前記突起は、前記隔壁部の略中央部に対峙して位置することを特徴とする請求項5乃至12のいずれか一項に記載の液体噴射装置。これによれば、突起は、隔壁部の略中央部に対峙して位置するので、可撓性部材を弁座部(突起)から離間させる開弁がさらに小さな加圧で可能となる。
(6)前記突起が円環状であることを特徴とする請求項5乃至12のいずれか一項に記載の液体噴射装置。これによれば、突起が円環状であることから、可撓性部材を弁座部(突起)から離間させる開弁がより小さな加圧で可能となる。
(7)弁装置を備えた液体噴射装置であって、前記弁装置は、流体流路を形成する壁面の一部を形成するとともに流体流路の内外の圧力差によって撓む可撓性部材と、連続して配置された流路断面積の異なる大断面積流路と、中断面積流路と、液体が流入する小断面積流路と、前記大断面積流路と連通する液体流出口とを備え、前記中断面積流路を囲むように形成した突起の外周面のうち前記中断面積流路が開口するシール面(46b)と前記可撓性部材が対峙するように配置されたことを特徴とする液体噴射装置。
(8)弁装置と加圧流体供給手段と吸引手段とを備えた液体噴射装置であって、前記弁装置は、凹部が設けられた基材と、前記凹部の開口を封止して弁室を形成するとともに該弁室の内外の圧力差により撓む可撓性部材と、前記可撓性部材が前記弁室の容積を減少させる方向へ撓んだときに当接可能に前記弁室内に設けられた弁座部と、前記可撓性部材が前記弁座部に当接することにより閉じられるとともに加圧流体供給手段と接続される流入路と、前記可撓性部材が前記弁座部と離間した状態で前記流入路と連通し、前記可撓性部材が前記弁座部に当接した状態で前記流入路との連通が遮断されるように前記弁室の内壁面上に開口するとともに吸引手段と接続されて使用される流出路とを備え、前記流入路の最小断面積は、前記吸引手段により前記流出路を通じて前記弁室内の流体が吸引されたときに前記可撓性部材が前記弁座部に当接できるように該弁室内の流体を減少させることができる流路抵抗を前記流入路に付与しうる流路断面積に設定され、前記弁座部に当接した前記可撓性部材が前記加圧流体供給手段から前記流入路を通じて流入される加圧流体の流体圧を受ける受圧面積は、前記流出路から吸引中に前記流入路が加圧されたときに前記可撓性部材を前記弁座部から離間可能な受圧面積に設定されていることを特徴とする液体噴射装置。
11…液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置、20…液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド、0a…ノズル、21…バルブユニット、23…液体貯留手段及び液体収容容器としてのインクカートリッジ、24…カートリッジホルダ、25…加圧手段を構成する加圧ポンプ、26…吸引手段としてのクリーニング装置、26a…キャップ、26e…吸引手段を構成するチューブポンプ、31…インクケース、32…液体貯留手段を構成するインクパック、35…液体供給路を構成するインク供給チューブ、37…加圧手段を構成する加圧チューブ,39…加圧手段を構成する空気供給チューブ、41,81,91,110,120,131…弁装置としての差圧弁、43,93,111…凹部、43a,111a…凹部の開口、44,94,132…基材、45,95,133…可撓性部材としてのフィルム部材、45a…ダイヤフラム、46,96…弁座部としての突起、46a…突起(弁座部)の開口、46b…弁座面、47,97…小断面積流路としての流入路、47a,97a…流入口、49,82,99…流出路、49a,82a,99a…流出口、50,102…流体流路を構成する弁室、51…大断面積流路としての第1流路、52…中断面積流路としての第2流路、73…加圧手段を構成する加圧ポンプモータ、74…吸引手段を構成するチューブポンプモータ、93…凹部、93a,96a,96b…案内面としての斜面、112a…弁座部の開口、113…弁座部、130…弁装置、A…凹部の開口径(ダイヤフラム径)、B…突起の開口径、C…流入口(流入路)の径、A1…第1受圧領域、A2…第2受圧領域、S…凹部の開口の開口面積(ダイヤフラム面積、総受圧面積)、S1…負圧を受圧する受圧面積としての第1受圧面積、S2…突起(弁座部)の開口面積(加圧を受圧する受圧面積)としての第2受圧面積、ΔPneg…負圧(差圧)、ΔPpos…加圧(差圧)、d1,d2…距離、Fneg…閉弁方向の力、Fpos…開弁方向の力、Mneg…曲げモーメント、Mpos…曲げモーメント。