以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、一実施の形態における電磁サスペンション装置の概念図である。図2は、電磁サスペンション装置における制御部のシステム図である。図3は、PWM回路を示す図である。図4は、回生領域を示す図である。図5は、軽、小型および普通自動車に適用される緩衝器の伸長側と収縮側の発生荷重の設定頻度状況を示す図である。図6は、車両走行中の緩衝器の伸縮ストローク速度の頻度を示す図である。図7は、最も効率的に電源を充電することが可能なストローク荷重−荷重特性を示す図である。図8は、任意のストローク速度における回生電流と荷重との関係を示す図である。図9は、効率充電制御を行う領域をストローク速度と荷重との関係で示した図である。図10は、効率充電制御を行う領域をストローク速度とq相電流との関係で示した図である。図11は、ストローク速度と回生電流を最大値にするd相電流およびq相電流の合成ベクトルとの関係を示す図である。図12は、第1ゲインとストローク速度との関係を示す図である。図13は、第2ゲインとq相電流目標値との関係を示す図である。図14は、この電磁サスペンション装置の制御可能領域を示す図である。図15は、他の電磁サスペンション装置の概念図である。
一実施の形態における電磁サスペンション装置は、図1に示すように、一方部材たる螺子軸1と、螺子軸1に対し相対運動を呈するボール螺子ナット2と、モータMと、モータMに接続される制御部20とを備えて構成されている。
詳しくは、螺子軸1は、ボール螺子ナット2に回転自在に螺合されるとともに、螺子軸1の図1中上端は、モータMのロータRに連結されている。他方のボール螺子ナット2は、螺子軸1が挿入される筒4の上端に固着されており、この筒4を介して車両のバネ上部材およびバネ下部材のうち一方に連結することが可能なようになっている。
また、螺子軸1は、車両のバネ上部材およびバネ下部材の他方に回転自在に連結されるようになっており、具体的には、上記車両のバネ上部材およびバネ下部材の他方に設けたボールベアリングに軸支されるか、モータMを上記車両のバネ上部材およびバネ下部材の他方に固定するなどとされる。
したがって、螺子軸1とボール螺子ナット2が軸方向の直線相対運動を呈すると、螺子軸1が回転運動を呈することになり、この螺子軸1の回転運動がモータMのロータRに伝達されることになる。ここで、螺子軸1の回転速度を歯車機構等で構成される減速機を介して減速して上記螺子軸1の回転運動をロータRに伝達するようにしてもよい。
なお、上記螺子軸1とボール螺子ナット2が軸方向の直線相対運動を呈するときに、螺子軸1を回転不能として代わりにボール螺子ナット2を回転させるようにする場合には、このボール螺子ナット2の回転運動をモータMのロータRに伝達するようにしてもよい。具体的には、螺子軸1を車両のバネ上部材およびバネ下部材の一方に回転不能に連結し、他方のボール螺子ナット2を車両のバネ上部材およびバネ下部材の他方にボールベアリング等を介して回転自在に連結し、ボール螺子ナット2の回転運動を歯車機構や摩擦車機構等を介してモータMのロータRに伝達してやればよい。
そして、モータMは、この場合、筒状のフレーム10と、フレーム10の内周側に設けた電機子であるステータと、フレーム10に回転自在に軸支されるロータRとを備え三相ブラシレスモータとして構成され、詳しくは、ステータは、複数のティースを備えた環状のステータコア11と、各ティースに巻回されたU,V,W相の各相における巻線12とを備えており、他方のロータRは、シャフト13と、シャフト13の中間部外周に装着された駆動用磁石14とを備えている。
なお、駆動用磁石14は、所定数の極数を実現できるようにブロック化された磁石で構成されてシャフト13に埋め込まれており、本モータMは、埋め込み磁石型とされている。無論、駆動用磁石14を所定数の極数を実現できるようにブロック化してシャフト13の外周に接着したり、環状に形成して分割着磁されてシャフト13の外周に嵌着するようにしたりしてもよいが、いわゆる、表面磁石型とすると、後述する弱め界磁制御時に駆動用磁石14の表面に渦電流損が生じやすいので、埋め込み磁石型の方が好ましい。
また、このモータMには、ロータRの回転角を検出するために、回転角センサ15が搭載されており、具体的にはたとえば、回転角センサ15は、シャフト13設けたレゾルバコアとフレーム10に設けられるレゾルバコアに対向するレゾルバステータとで構成されればよく、他にも、光学式のエンコーダを採用してもよいし、ロータRにセンシング用磁石を設ける場合にはホール素子やMR素子等の磁気センサをフレーム10に設けるとした構成としてもよい。
上述のように、この電磁サスペンション装置にあっては、駆動源をモータMとしているので、モータMに電気エネルギを与えて駆動する場合には、螺子軸1を回転駆動させて螺子軸1とボール螺子ナット2とを積極的に相対直線運動させる、すなわち、ストロークさせることができ、アクチュエータとしての機能を発揮できる。
また、モータMは、螺子軸1から強制的に回転運動が入力されると、誘導起電力や電源からの電力によって巻線12に電流が流れて磁界が形成されて電磁力が発生し、螺子軸1の回転運動を抑制するトルクを発生するので、螺子軸1とボール螺子ナット2の相対直線運動を抑制するように機能する。すなわち、この場合には、モータMが外部から入力される運動エネルギを回生して電気エネルギに変換して得られる電力によって、あるいは、この回生に加えて電源から供給される電力によって、発生するトルクで螺子軸1とボール螺子ナット2の相対直線運動を抑制することができる。
したがって、この電磁サスペンション装置は、モータMをアクチュエータとしてもジェネレータとしても機能させ得るので、上記螺子軸1とボール螺子ナット2の相対直線運動を抑制することができると同時に、アクチュエータとしての機能を生かして車両の車体の姿勢制御も同時に行うことができ、これにより、アクティブサスペンションとしての機能をも発揮することができる。
そして、上記モータMの巻線12に流れる電流を制御するために、具体的には、U,V,W相の巻線12は、制御部20に接続され、このモータMは、制御部20によって駆動制御される。
この制御部20は、図2に示すように、基本的には、上記巻線12の三相のうち二相に流れる電流をdq変換してd相電流値およびq相電流値を演算する二相電流演算手段21と、電流目標値演算部26によって決定される各電流目標値と上記d相およびq相の電流値とに基づいてd相電圧指令値およびq相電圧指令値を演算する比例積分制御部22と、上記d相電圧指令値およびq相電圧指令値をU,V,Wの各相の電圧指令値に変換する三相変換演算手段23と、三相ブラシレスモータのU,V,Wのうち二相に流れる電流値を検出する電流検出器24と、モータ駆動回路としてのPWM回路25と、リミッタ28とを備えて構成されている。
そして、この制御部20は、電流目標値演算部26によって決定されるd相およびq相の各電流目標値と、二相電流演算手段21の演算結果として得られるd相、q相の電流値とのそれぞれの偏差に基づいてモータMを比例積分制御する。なお、偏差を微分して得られる要素を追加して比例微分積分制御を行うようにしてもよい。
ここで、電流目標値演算部26は、トルク指令としてd相およびq相の電流目標値を上記比例積分制御部22に出力するものであるが、車体姿勢を所定の制御則に則り電磁サスペンション装置に発生させる荷重を制御するため、および、後述するモータMのエネルギ回生によって後述の電源Eを効率的に充電する効率充電制御、弱め界磁制御のために必要な情報となる車速、操舵角や、バネ上およびバネ下の速度・加速度、ストローク速度等は、回転角センサ15以外に適宜車両に設けられる各種センサ等から電圧信号等として電流目標値演算部26に入力されるようになっている。
なお、この電磁サスペンション装置の伸縮量、ストローク速度や伸縮加速度については、回転角センサ15から得られる回転角θと螺子軸1のピッチ、減速比から演算すればよく、別途センサを設ける必要は無い。
そして、具体的にたとえば、車体姿勢制御の制御則にスカイフック理論を採用する場合には、車両におけるバネ上速度が電流目標値演算部26に入力されるようにしておけばよく、この場合には電流目標値演算部26は、上記バネ上速度からトルク指令としてのd相の電流目標値とq相の電流目標値を演算して上記比例積分制御部22に出力する。
なお、この電流値目標演算部26は、基本的に、d相の電流目標値については、後述する効率充電制御および弱め界磁制御を適用している状態では、上記車体姿勢制御の制御則のみならず上記効率充電制御および弱め界磁制御に基づいて演算し、また、効率充電制御および弱め界磁制御を適用していない状態で車体姿勢制御のみを行っている場合には、d相電流は、モータMの発生するトルクに寄与しないので、電磁サスペンション装置が発生する荷重はq相電流に依存することからd相電流目標値を0として出力するようになっている。
また、電流検出器24としては、ホール素子や巻線等を用いた非接触型や、三相の巻線12のそれぞれに直列介装した抵抗の電圧降下から電流値を得る電流センサを用いればよい。
なお、上記電流検出器24は、U,V,W相のうち二相に流れる電流値を検出すればよく、これは、二相の電流値が分かればロータRの電気角θから後述する下記(1)式を用いてd相およびq相の電流値に変換可能であるからである。
さらに、PWM回路25は、図3に示すように、電源Eと、モータMにおける三相各相の巻線12に電流供給を行う6つのスイッチング素子41と、各スイッチング素子41にPWMパルス信号を与えるマルチバイブレータ等の図示しないパルス発生器とを備えて構成されており、このPWM回路25は、比例積分制御部21が出力する各電圧指令値に基づいて所定のPWMデューティ比で上記各相に電流供給を行う。なお、電源Eについては、車両に搭載されるバッテリとしておけばよい。
そして、二相電流演算手段21は、電気角θを用いて、以下の(1)式に示したように、上記各電流値iv,iuをd相およびq相の電流値id,iqへ変換する演算を行い、この変換されたd相およびq相の電流値id,iqを比例積分制御部22へ出力する。
比例積分制御部22は、各電流目標値id*,iq*と電流値id,iqの各偏差εd,εqを算出し、算出された偏差εd,εqを積分して得られた積分値に所定の積分ゲインを乗じ、さらには、各偏差εd,εqに所定の比例ゲインを乗算じ、積分ゲイン乗算後の値と比例ゲイン乗算後の値を加算して、各電圧指令値Vd,Vqを出力する。
そして、さらに、d相電圧指令値Vdおよびq相電圧指令値Vqは、上記したにU,V,Wの各相の電圧指令値に変換する三相変換演算手段23に入力され、この三相変換演算手段23は、下記(2)式の演算によって、上記d相電圧指令値Vdおよびq相電圧指令値Vqを実際のU,V,W各相の電圧指令値Vu,Vv,Vwへ変換し、この変換された電圧指令値Vu,Vv,VwをPWM回路25に出力する。
また、このモータ制御部は、電圧指令リミッタ27を備えており、この電圧指令リミッタ27は、三相変換演算手段23が出力する上記各電圧指令値Vu,Vv,Vwのうち、PWM開度が全開、すなわち、PWMデューティ比が最大値以上となる場合に、PWMデューティ比を最大値とする値に電圧指令値Vu,Vv,Vwを制限する。
そして、上記制御部20のPWM回路25以外の各部は、ハードウェアとして、具体的にはたとえば、電流検出器24、回転角センサ15および車体姿勢制御に必要な各種センサが出力する各信号を増幅するためのアンプと、アナログ信号をデジタル信号に変換する変換器と、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)等の記憶装置、RAM(Random Access Memory)、水晶発振子及びこれらを連絡するバスラインとを備えた図示しない周知のコンピュータシステムとして構成され、また、PWM回路25に電圧指令値Vu,Vv,Vwを出力することができるようになっている。なお、このハードウェアとして制御部20のPWM回路25以外の各部は、車両に搭載されるECUに統合されてもよい。
そして、この場合、上記電流目標値演算部26における目標値の演算のための車体姿勢制御を行うための処理手順と後述する効率充電制御および弱め界磁制御を行うための処理手順は、プログラムとしてROMや他の記憶装置に予め格納されている。
ところで、この電磁サスペンション装置は、モータMのロータRが回転すると、ロータRの駆動用磁石14の磁束が巻線12を横切るので、巻線12に誘導起電力が生じて回生電流が流れることから、巻線12には、PWM回路25で備える電源Eによる電流と上記誘導起電力による回生電流が流れることになるが、モータMの巻線12の誘導起電力によって電源Eを充電可能な回生を行うことができる回生領域Kは、原点を通り短絡特性Tにおけるストローク速度と荷重の曲線に対して接する接線Sとストローク速度軸とで囲まれる範囲となり、図4に示すように、モータMを短絡した状態における電磁サスペンション装置のストローク速度と荷重との関係である短絡特性Tによって決することができる。
なお、モータMのロータRの回転速度は、螺子軸1とボール螺子ナット2の相対速度、すなわち、電磁サスペンション装置のストローク速度に比例し、また、モータMの出力トルクは電磁サスペンション装置の荷重に比例することから、上記短絡特性Tは、モータM自体の回転速度とトルクの関係である短絡特性を上記電磁サスペンション装置のストローク速度と荷重との関係に変換したものである。そして、本明細書で短絡特性という場合、特に断らなければ、上記したようにモータを短絡した状態における電磁サスペンション装置のストローク速度と荷重との関係を言う。
ここで、ストローク速度とは、螺子軸1に対するボール螺子ナット2の軸方向の直線相対移動速度であって、荷重とは、モータMが発生するトルクによって生じる螺子軸1とボール螺子ナット2の直線相対運動を抑制あるいは助長する力のことである。
図4中、ストローク速度軸において、電磁サスペンション装置が収縮する方向のストローク速度を便宜的に正の値とすると、原点より右方側は収縮方向のストローク速度を示し、電磁サスペンション装置が伸長する方向のストローク速度を便宜的に負の値とすると、原点より左方側は伸長方向のストローク速度を示している。他方、荷重軸において、電磁サスペンション装置を伸長させる方向の荷重を便宜的に正の値とすると原点より上方側は伸長方向の荷重を示し、電磁サスペンション装置を収縮させる方向の荷重を便宜的に負の値とすると原点より下方側は収縮方向の荷重を示している。
したがって、図4中、第1象現は、電磁サスペンション装置は、収縮する方向にストロークするのに対しそのストロークを抑制する荷重を発生している状態を示し、第2象現は、電磁サスペンション装置は、伸長する方向にストロークするのに対しそのストロークを助長する方向に荷重を発生している状態を示し、第3象現は、伸長する方向にストロークするのに対しそのストロークを抑制する荷重を発生している状態を示し、第4象現は、収縮する方向にストロークするのに対しそのストロークを助長する荷重を発生している状態を示している。
上述のように回生領域Kは、原点を通り短絡特性Tにおけるストローク速度と荷重の曲線に対して接する接線Sとストローク速度軸とで囲まれる範囲(図4中斜線部分)となり、短絡特性Tによって決することができ、さらには、この接線Sにおける傾きは、モータMのトルク定数およびの巻線12とPWM回路25の全体の抵抗、すなわち回路中の抵抗器以外にもリード線の内部抵抗を含んだ全体の抵抗によっても決まる値であるので、トルク定数および上記全体の抵抗の設定によっても回生領域Kを決定することができる。また、上記接線Sの傾きは、螺子軸1のリードによっても調整することも可能である。
なお、図4中の各象現の最大あるいは最小荷重を決する水平線aは、電流目標値演算部26で演算されるq相電流目標値iq*を制限することで決せられる荷重発生可能な領域と不可能な領域とを仕切る線であり、また、曲線bもまた荷重発生可能な領域と不可能な領域とを仕切る線である。
上記した短絡特性Tは、ストローク速度を増速していくと、あるストローク速度で荷重のピークを迎え、その後のストローク速度の増速に対しては、荷重が漸減していくような曲線を描く。これは、荷重ピークを迎えるまでは、モータMのロータRが強制的に回転させられることによる発電によって得られる電流がストロークを抑制するトルクを有効に発生させるように各相の巻線12に流れるが、荷重ピークを過ぎる程度までストローク速度が速くなるとトルクに寄与しない無効電流が増えて荷重が小さくなることによるものである。なお、このことは、回生領域Kに影響を与えるものではない。
なお、モータMの巻線12とPWM回路25の全体の抵抗、すなわち回路中の抵抗器以外にもリード線の内部抵抗を含んだ全体の抵抗、さらには、螺子軸1のリードを変化させると、短絡特性Tをストローク速度軸に沿って圧縮伸長させることができ、上記抵抗を小さくするか螺子軸1のリードを小さくすれば、短絡特性Tはストローク速度軸に沿って原点側に向けて圧縮され、逆に、抵抗を大きくするか螺子軸1のリードを大きくすれば、短絡特性Tはストローク速度軸に沿って高速側に向けて伸長され、これによって接線Sの傾きを変化させることができる。また、トルク定数を大きくすれば接線Sの傾きを大きくでき、逆にトルク定数を小さくすれば接線Sの傾きを小さくすることができる。そして、特に、上記全体の抵抗を小さくするか、あるいは、トルク定数を大きくするか、あるいは、螺子軸1のリードを小さくするか、あるいは、それらの任意の組み合わせで、電磁サスペンション装置は、ストローク速度が低くても大きな荷重が得られ、上記回生領域Kも大きくなることになる。
そして、この電磁サスペンション装置においては、短絡特性Tは荷重が車両走行中に頻繁に使用されるストローク速度以下でピークを迎えるように設定される、すなわち、短絡特性Tにおける荷重は頻繁使用ストローク速度範囲内で最大値を採るように設定されている。
すると、車両走行中に頻繁に出現するストローク速度範囲内における回生領域Kが大きくなるので、回生によって電源Eを充電する機会が多くすることができ、モータMによるエネルギ回生を効率的に行うことができ、省電力化を確実なものにすることができる。
また、本電磁サスペンション装置にあっては、効率的な回生を行うために特別な制御の必要が無いので、省電力化制御のために車両の挙動が制御の切り替わるようなことが無くなるとともに車両搭乗者に違和感や不安感を抱かせることが無く、車両における乗り心地を向上することが可能である。
ここで、車両には、車両走行中にバネ下部材に入力される振動をバネ上部材に伝達しにくくするためにバネ下部材とバネ上部材との間にバネ要素が介装され、また、その振動を抑制するために緩衝器がバネ下部材とバネ上部材との間に介装されるのが通常であり、軽、小型および普通自動車に適用される緩衝器の伸長側と収縮側の発生荷重の設定頻度状況を示す図5から、伸長側では、おおよそ600Nを中心として200Nから1000Nの範囲内で荷重を発生している緩衝器が多く、収縮側ではおおよそ300Nを中心として0Nから600Nの範囲内で荷重を発生している緩衝器が多く、上記のような自動車の車体振動を抑制するためには、緩衝器は伸長側で1000N、収縮側で600N程度の荷重を発生する必要がある。
また、車両走行中の緩衝器の伸縮ストローク速度の頻度を示す図6から、緩衝器は、収縮側ストローク速度を負の値として伸長側ストローク速度を正の値とすると、−0.1m/sから0.1m/sのストローク速度範囲内で頻繁に使用される。
上記したところから理解できるように、緩衝器の伸縮における頻繁使用されるストローク速度は0.1m/sの範囲内(伸縮方向で正負の符号を付する場合には−0.1m/s以上0.1m/s以下の範囲内)であって、必要となる発生荷重は、1000N以内である。
このことから、具体的には、上記した電磁サスペンション装置の短絡特性Tにおける荷重がピークとなる頻繁使用ストローク速度範囲を伸縮のストローク速度が0.1m/s以下の範囲とするようにしてある。
したがって、車両走行中に頻繁に出現するストローク速度範囲内における回生領域Kが大きくなるので、回生によって電源Eを充電する機会を多くすることができ、モータMによるエネルギ回生を効率的に行うことができ、省電力化を確実なものにし、さらには、車両における乗り心地を向上することができるのは言うまでも無いが、このように頻繁使用ストローク速度範囲を規格化しておくことによって電磁サスペンション装置の汎用性が向上し、製造コストも低減することができる。
また、このときに、接線Sをストローク速度が0.1m/sおよび荷重が1000Nであるポイントより上を通過するように設定しておくこととすれば、電磁サスペンション装置が頻繁に使用されるストローク速度範囲内で緩衝器として発生することが必要とされる荷重範囲全体が回生領域K内でカバーされることになる。
したがって、このように設定される場合には、電磁サスペンション装置が頻繁に使用される場面では、常に回生して電源Eを充電するようになり電源Eの電力を消費することが無いので、より一層確実に省電力化が図られ、電源Eがあがってしまうような事態を防止でき、さらには、電気自動車等の駆動源をモータとするような車両に最適となる。
このように構成された電磁サスペンション装置にあっては、その回生領域K中であって最も効率的に電源Eを充電することが可能なストローク荷重−荷重特性は、図7に示すように、原点を通り短絡特性Tにおけるストローク速度と荷重の曲線に対して接する接線Sの傾きの2分の1の傾きを持ち原点を通る直線Aとなる。
ここで、図8に示すように、任意のストローク速度で発生される荷重に対して生じる回生電流は、回生領域K内で発生可能な荷重の最大値の2分の1の荷重にて最大値となることから、任意のストローク速度に対して回生領域K内で発生可能な荷重の最大値の2分の1の荷重が電磁サスペンション装置によって発生されるときに回生効率が最大となり、電源Eの充電を最も効率的に行うことができるのである。なお、この任意のストローク速度とそのストローク速度に対して回生効率が最大を実現する荷重とで決まる点の軌跡が上記直線Aとなることは、図8から容易に理解できる。
したがって、モータMの発電による電源Eの充電効率が最大となる荷重である最高率充電荷重は、上記したように、任意のストローク速度に対して上記直線A上となる荷重となる。
そこで、この電磁サスペンション装置では、ストローク速度に対して、図9中、第1象現および第3象現における回生領域Kの上記直線Aよりストローク速度軸側の領域Y(図9中斜線部分)内で荷重を発生する場合、すなわち、任意のストローク速度に対して電磁サスペンション装置が出力すべき必要荷重が最効率充電荷重を下回る場合には、回生電流を最大値に近づけ効率的に電源Eを充電可能なようにモータMに流れる電流を制御して効率充電制御を行うようにしている。
そして、この効率充電制御にあっては、上述したように、モータMをdq相電流によって制御する場合、モータMのトルクに寄与する磁界を発生するのはq相のみであり、電磁サスペンション装置が発生する荷重は、q相電流の大きさによって決まり、d相電流はトルクに寄与しないことから、領域Y内で、或るストローク速度に対して或る荷重を発生する場合、q相電流で該荷重を発生させる一方、q相電流のみでは回生電流の最大値に不足する時にはd相にあえてトルクに寄与しない電流を流してやることで回生電流を最大値に近づけるようにする。ここで、d相に流す電流を制御して回生電流を最大値とすると、電源Eを最も効率的に充電することができる。すると、上記効率充電制御によって、電磁サスペンション装置は、領域Y内の任意の荷重を発生しつつ、電源Eを最も効率的に充電することが可能となる。
なお、上記回生領域K内であって領域Y以外の範囲では、任意のストローク速度に対して発生される荷重が上記直線A上の任意ストローク速度に対する荷重を超え、d相の電流を制御しても回生電流は上記最大値になることがない。
実際には、電流目標値演算部26において、車体姿勢制御の制御則に従ってq相電流目標値を演算するとともに、ストローク速度と該q相電流目標値に基づいてd相に供給すべきd相電流基準値を演算し、このd相電流基準値に第1ゲインk1および第2ゲインk2を乗算してd相効率充電基準値を演算して、このd相効率充電基準値に後述する弱め界磁制御に基づいて演算されるd相弱め界磁基準値を加算してd相電流目標値を演算し、これらq相およびd相の各電流目標値を出力する。なお、弱め界磁制御が行われるまでは、d相弱め界磁基準値の値は0であり、効率充電制御のみが行われる状態では、d相効率充電基準値がd相電流目標値となる。
以下、上記した電流目標値演算部26による効率充電制御時のd相電流目標値の演算について詳細に説明すると、まず、電流目標値演算部26は、車体姿勢制御の制御則に従って演算したq相電流目標値とストローク速度とから、電磁サスペンション装置が発生しようとしている荷重が、上記した領域Y内に入っているか判断する。実際には、q相電流によって荷重が決まってくるので、図10に示すように、上記領域Yを仕切る直線Aをストローク速度とq相電流との関係に置き換えて、領域Yを領域Y’に変換しておくことで、演算されたq相電流目標値とストローク速度とから上記判断を行うようにしておくとよい。
なお、荷重が領域Y内にあるか否かの判断を行う際には、上記q相電流とストローク速度との関係となるマップを記憶装置に格納しておき、電流目標値演算部26に該マップを参照させてマップ演算によって該判断を行わせるようにしておくとよい。
そして、上記ストローク速度に対して発生させる荷重が、領域Y内となる場合には、電流目標値演算部26は、d相電流基準値を演算する。具体的には、あらかじめ回生電流を最大値にするq相電流とd相電流の合成ベクトルをidqとし、d相電流基準値をidkとすると、d相電流基準値idk=(idq2−iq*2)1/2で計算される。
ここで、二相電流id,iqをモータMの実際の巻線12の三相電流iu,iv,iwとの関係は式(3)の関係であらわすことができる。
上記式(3)の関係から電気角θを0から2πまで変化させると、二相電流id,iqの極大値は、三相電流iu,iv,iwの(3/2)
1/2となることが分かる。
そして、これらの関係をd相電流およびq相電流の合成ベクトルで評価すると、この合成ベクトルidqの大きさは三相電流iu,iv,iwのベクトルのうち任意の一つのベクトルの大きさに(3/2)1/2を乗算したものと等しくなる。
したがって、上記した合成ベクトルidqと三相電流iu,iv,iwのベクトルとの関係から、電磁サスペンション装置が任意のストローク速度に対し回生電流が最大値を採る荷重を発生したとき、すなわち、ストローク速度−荷重特性が直線Aとなる状態としたときにおける三相電流iu,iv,iwの電流実効値を得ておくことで、図11に示すように、ストローク速度と回生電流を最大値にする上記合成ベクトルidqとの関係をあらかじめ得ることができる。
そして、d相電流は、上記したように発生荷重に影響を与えないことから、まず、ストローク速度に対し発生すべき荷重からq相電流目標値iq*を演算しておけば、図11に示すように、上記回生電流を最大値とする合成ベクトルidqとq相電流目標値iq*から上記したようにd相電流基準値idkを演算することができるのである。
すなわち、上記合成ベクトルidqに基づいてd相電流基準値idkを演算するようにしているので、都度、回生電流が最大値となるように複雑な演算を行う必要がなくなるのである。
つづいて、電流目標値演算部26は、上記のようにして演算されたd相電流基準値idkに、第1ゲインk1と、第2ゲインk2とを乗算してd相電流目標値id*を演算する。
上記した第1ゲインk1は、図12に示すように、ストローク速度が所定速度範囲内にあるときは、その値が1であって、ストローク速度が所定速度範囲以上となるとストローク速度に応じて0まで漸減し、ストローク速度が所定速度範囲以下となるとストローク速度に応じて0まで漸減するように設定されている。すなわち、第1ゲインk1は、ストローク速度に対して効率充電制御が行われる範囲を律していることになる。
この所定速度範囲は、任意に設定されるが、基本的には、図9における第1象限および第3象限で効率充電制御を行うために2つ設定される。
また、所定速度範囲は、ストローク速度が0の範囲を含まず、かつ、第1ゲインk1が原点付近では必ず0の値を持つことができるように第1象限における所定速度範囲下限と第3象限における所定速度範囲の上限は、第1ゲインk1が1から0に漸減することが可能なように、原点からある程度距離を持たせるようにしてある。これは、領域Yは原点から第1および第3象限に広がりをもつので、電磁サスペンション装置がストローク速度0近傍で伸縮すると、d相電流が振動的となって制御が煩雑となってしまうので、実用的でなくなるので、このような制御が行われることを防止するようにしている。上記したところから理解できるように、第1ゲインk1は、伸縮時のストローク速度が増加して第1象限における所定速度範囲下限あるいは第3象限における所定速度範囲の上限を超えて所定速度範囲内となるときには、効率充電制御をフェードインさせ、他方、伸縮時のストローク速度が減少して第1象限における所定速度範囲下限あるいは第3象限における所定速度範囲の上限以下となって所定速度範囲を逸脱するようになるときには、効率充電制御をフェードアウトさせる機能を発揮する。
また、第1象限における所定速度範囲の上限と第3象限における所定速度範囲の下限は、後述する弱め界磁制御が開始されるストローク速度とされており、この第1ゲインk1は、伸縮時のストローク速度が増加して、第1象限における所定速度範囲の上限および第3象限における所定速度範囲の下限以上になると、効率充電制御をフェードアウトさせ、反対に伸縮時のストローク速度が減少して、第1象限における所定速度範囲の上限と第3象限における所定速度範囲の下限を超えて所定速度範囲内となると効率充電制御をフェードインさせる機能をも発揮する。
転じて、第2ゲインk2について説明すると、第2ゲインk2は、q相電流目標値iq*に依存して変化する。具体的には、図13に示すように、第2ゲインk2は、q相電流目標値の絶対値が0以上任意値以下となる範囲内においてq相電流目標値の絶対値に比例して変化し、上記任意値以上となる範囲では1となるように設定されている。
ここで、q相電流目標値は、電磁サスペンション装置が発生する荷重を決定する値であることから、図10中、第1および第4象限でq相電流目標値が電磁サスペンション装置の収縮を助長する方向から抑制する方向へ荷重を発生させるように時間的に変化するときには、q相電流目標値は、マイナスからプラスに転じるように変化するが、このとき、q相電流目標値はストローク速度軸近傍のプラスの値をとるときには、小さい値となり、この状態で回生電流を最大値とするとd相に流すべき電流が大きくなる。
このように、ストローク速度が0近傍で電磁サスペンション装置が伸縮を繰り返すと、q相電流目標値も図10中ストローク速度軸近傍で振動を繰り返し、結果、d相電流基準値も最大値と0の間で振動することになって制御が煩雑となってしまい実用的でなくなるので、このような制御が行われることを防止するようにしている。
他方、q相電流目標値が減少して図10中領域Y’内に進入するような場合には、q相電流のみで回生電流を最大値とするラインを通過して領域Y’内に進入することになり、このような場合、d相電流基準値の絶対値は、q相電流目標値の減少によって徐々に大きくなることから、第2ゲインk2は、q相電流目標値が任意値以上では特に変化させる必要はない。
以上のように、この効率充電制御時には、d相効率充電基準値をd相電流目標値としてd相に流れる電流を制御してやることによって、電磁サスペンション装置に車体姿勢制御を行ううえで必要となる荷重を発生させつつ回生電流を大きくすることができるので、モータMによるエネルギ回生を効率化して電源Eの充電効率を高めることが可能となる。
そして、電源Eを効率的に充電するのに、車体姿勢制御に必要な荷重になんら影響を与えることがないので、車両における乗り心地を犠牲にすることがなく、車体姿勢についての制御が切換ることがないので車両の搭乗者に制御切り替わり時にあるような振動等を感知させるなどして違和感や不安感を抱かせることがない。
また、この電磁サスペンション装置にあっては、効率的な電源Eの充電が可能となるから、確実に省電力を達成することができ、モータとガソリンエンジンとを搭載し燃費向上を図ったハイブリッド自動車や完全にモータのみで駆動する電気自動車に最適となり、特に、上記電源Eが車両のバッテリとされる場合には、電源Eの電圧が低下してしまうと、ハイブリッド車等のモータを駆動源とする車両では、走行性に影響を与えることになるが、この電磁サスペンション装置によれば、効率的に電源Eを充電することができることから、そのような車両の走行性を向上することができる。
さらに、上記した実施の形態のように、効率充電制御時に回生電流を最大値とするようにd相電流を制御すると、充電効率が最大となるので、上記した作用効果が高くなる。
なお、d相効率充電基準値の算出にあたり、d相電流基準値に第1および第2ゲインk1,k2を乗算しているが、第1ゲインk1のみ、あるいは、第2ゲインk2のみをd相電流基準値に乗算し、または、いずれのゲインk1,k2を乗算しないとしても、効率的に電源Eを充電することが可能であるので、本発明の効果を失うことはない。
また、接線Sの傾きを大きくしておくと、上記した頻繁に使用されるストローク速度において電源Eの充電が可能となる利点が得られ、さらには、領域Yも面積も大きくなるので、その傾きは本実施の形態のごとくに設定されることが望ましいが、必ずしもそのように設定せずとも、本発明では領域Y内では電源Eを効率的に充電することが可能である。
さて、この電磁サスペンション装置にあっては、上記したように効率充電制御を行うことによって電源Eの効率的な充電を行えるが、回生領域Kを拡大し、ストローク速度が低くても車両の姿勢を制御する程度の荷重を発生させるためには、トルク定数をある程度大きくする必要があるが、トルク定数を大きくすると発電量が大きくなる。
したがって、そのままではモータMの巻線12に生じる誘導起電力が電源Eの電圧を超えるストローク速度が小さくなって、第2および第4象現における制御可能領域Wを決する制御可能曲線Pは図14に示すがごとくとなり、第2および第4象現において発生可能な荷重が小さくなり、その結果、制御可能な領域が小さくなる。
そこで、本電磁サスペンション装置にあっては、モータMの巻線12に生じる誘導起電力が電源Eの電圧を超えるストローク速度を高速側にシフトするために、弱め界磁制御を行う。
弱め界磁制御は、モータMが通常の制御則に則って制御されている状態で誘導起電力が電源Eの電圧を超える場合、あるいは、超える恐れがある場合に行われる。
この弱め界磁制御は、具体的には、d相にあえてマイナスの小さな電流を流して、磁束を減じさせるので、発電量も減少せしめられることになる。
すると、この弱め界磁制御によって、図14中の制御可能曲線Pは、弱め界磁制御時曲線P’にシフトして制御可能領域Wが拡大されることになる。また、制御可能曲線Pは、図4に示すように、第1象現および第3象現の回生領域Kを区画していることから、弱め界磁制御によって弱め界磁制御時曲線P’にシフトすることで回生領域Kを拡大することができる。
したがって、この電磁サスペンション装置によれば、回生領域Kを頻繁に使用されるストローク速度範囲内で拡大するように短絡特性Tやトルク定数を設定し、その結果トルク定数が大きくなって誘導起電力が電源Eの電圧を上回るストローク速度が低くなるような場合にあっても、第2および第4象現の制御可能領域Wの減少を防止することができ、同時に、回生領域Kを拡大して消費電力を小さくすることが可能である。
また、この第2および第4象現における制御可能領域Wは、そもそも、アクティブ制御領域であるので、この電磁サスペンション装置にあっては、アクティブ制御時に充分な荷重を発生することができないといった事態を招来することが無い。
この弱め界磁制御にあたり、具体的には、電流目標値演算部26によってd相に流すべき電流値が決定されるが、電流目標値演算部26では、上記回転角センサ15から入力される回転角θを微分して得られる回転角速度ωと螺子軸1のピッチと、減速機を介しているのであれば減速比に基づいて得られる電磁サスペンション装置の伸縮ストローク速度が電源Eの電圧を超える誘導起電力を発生させる速度Zとなる場合、あるいは、該速度Zの絶対値より低い速度Z’に達する場合に、弱め界磁制御が行われる。
上記速度Z,Z’は、具体的には、上記効率充電制御における第1ゲインk1の変化が始まる所定速度範囲の絶対値の上限値とされており、具体的には、上記第1象限における所定速度範囲の上限および第3象限における所定速度範囲の下限の値とされている。なお、第1象限における所定速度範囲の上限と第3象限における所定速度範囲の下限の値がそれぞれ異なる場合には、上記速度Z,Z’は、第1および第3象限で異なる値に設定されるようにしてもよい。
そして、弱め界磁制御を行う場合、具体的には、電流目標値演算部26は、上記効率充電制御に基づくd相効率充電基準値のほかに、d相弱め界磁基準値を演算し、これらd相効率充電基準値とd相弱め界磁基準値とを加算してd相電流目標値を演算する。つづき比例積分制御部22で、d相電圧指令値およびq相電圧指令値を演算し、三相変換演算手段23が上記d相電圧指令値およびq相電圧指令値をU,V,Wの各相の電圧指令値に変換しPWM回路25に出力することで行われ、これによって、制御可能領域Wと回生領域Kの拡大が達成される。
さらに、速度Z,Z’を認識した時点で弱め界磁制御を行う場合には、電流目標値演算部26に、ストローク速度の絶対値が速度Z,Z’を超える大きさに比例してd相弱め界磁基準値をマイナス側に漸減させ、ストローク速度の絶対値が速度Z,Z’を超えて任意の速度に達するとd相弱め界磁基準値をマイナス電流の所定値に設定し、その後のストローク速度の絶対値の増加に対しては上記所定値にフィックスするようにする。なお、上記任意の速度は、実験等によって車両に最適となる値とすればよく、上記所定値は、モータMが減磁を生じないような値に設定される。
このように弱め界磁の程度をストローク速度に応じて徐々に強めることによって、速度Zをもってd相弱め界磁基準値をいきなり所定値とすることに比較すると、速度Zの近傍で弱め界磁制御がオンオフされる場合にあっても、d相電流が過度に振動的となってしまい制御が煩雑となることが防止され実用性が向上する。
ここで、速度Z,Z’は、上記のごとく、効率充電制御が行われる範囲を決する所定速度範囲の絶対値の上限に設定されているので、上記所定速度範囲の絶対値の上限を境として効率回生制御をフェードアウトさせつつ弱め界磁制御をフェードインあるいは弱め界磁制御をフェードアウトさせつつ効率充電制御をフェードインさせるようにすることができる。なお、効率充電制御を行った状態での上記d相効率充電基準値は、第1象限と第3象限のそれぞれで弱め界磁制御時におけるd相弱め界磁基準値と同じ符号となる。また、第1象限と第3象限におけるq相電流は逆向きとなるので、それに応じて、上記d相効率充電基準値とd相弱め界磁基準値の符号は、第1象限と第3象限とでは逆符号となる。
ところで、上記したように、d相電流目標値は、d相効率充電基準値とd相弱め界磁基準値とを合算した値となるが、この値が大きすぎるとモータMが減磁してしまう恐れがある。そこで、この実施の形態においては、d相電流目標値をクランプ値にクランプするリミッタ28を設けてある。このクランプ値は、モータMの減磁耐力によって決定される値であり、このリミッタ28によって、上記効率充電制御時および弱め界磁制御時の一方あるいは両方の制御が混在する状態におけるモータMの減磁が確実に防止される。
そして、伸縮ストローク速度が電源Eの電圧を超える誘導起電力を発生させる速度Zを認識した時点から弱め界磁制御を行う場合には、制御可能領域Wと回生領域Kを拡大することができる。したがって、トルク定数を大きくしてストローク速度が低い場合の回生領域K、領域Yを大きくして充電効率を高めつつ、制御可能領域Wの確保が可能であるから、電磁サスペンション装置の電源充電効率と車両における乗り心地との高次元の両立が可能となる。
また、伸縮ストローク速度が電源Eの電圧を超える誘導起電力を発生させる速度Z’を認識した時点から弱め界磁制御を行う場合には、上記速度Zからの弱め界磁制御の作用効果に加えて、ストローク速度が速度Z近傍で急激に増加した場合でも、先んじて弱め界磁制御が行われて制御可能領域Wが各象現で拡大されていることになり、電磁サスペンション装置が発生すべき荷重に対して荷重過不足が生じてしまう事態が防止され、車両における乗り心地を向上することができ、特に、アクティブ制御時に荷重不足となることが無いので車体姿勢制御を確実に行うことができる。
なお、効率充電制御および弱め界磁制御にあっては、d相効率充電基準値およびd相弱め界磁基準値を直線的に変化させるようにしているが、これを滑らかに曲線的に変化させるようにしてもよいことは無論である。また、上記した利点のために、d相弱め界磁制御においてd相弱め界磁基準値を上記のごとく変化させるようにしているが、弱め界磁制御が必要となった時点でd相電流目標値を所定値にフィックスようにしても制御可能領域Wと回生領域Kの拡大が可能する効果は失われない。
また、電磁サスペンション装置を、図15に示す他の電磁サスペンション装置のように、一方部材である筒31と、筒31に対し相対運動を呈する他方部材であるロッド32と、該相対運動を少なくとも抑制可能なモータM2とで構成するようにしてもよい。
詳しくは、筒31は、車両のバネ上部材およびバネ下部材の一方に連結され、この筒31内には、車両のバネ上部材およびバネ下部材の他方に連結されるロッド32が相通される。
また、モータM2は、ロッド32の外周に軸方向にS極とN極が交互に現われるように装着される駆動用磁石33と、筒31内に駆動用磁石33と対向する巻線34とを備えて構成され、巻線34は所定の長さにわたり筒31の軸方向に添ってU,V,Wの各相が交互に並ぶように配置されている。
なお、筒31に設けられた巻線34は環状に成型され、少なくとも内周側は、樹脂等によってコーティングされ、この巻線34の内周と、ロッド32の外周あるいは駆動用磁石33と、の間には図示しない環状の軸受が配在され、筒31に対してロッド32の軸ぶれが防止されている。
すなわち、この他の電磁サスペンション装置にあっては、筒31に対しロッド32が進退して相対運動を呈すると、駆動用磁石33が巻線34に対して相対移動する、いわゆるリニアモータ型の構成となっており、この他の電磁サスペンション装置にあっても、上記した一実施の形態における電磁サスペンション装置と同様に、モータM2は、モータとしてもジェネレータとしても機能し、モータM2の動作はモータMと同様である。
したがって、この他の電磁サスペンション装置においても、上記した効率充電制御および弱め界磁制御が可能であり、そうすることで、上記一実施の形態における電磁サスペンション装置と同様の作用効果を奏することができる。
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。