JP2008222112A - エネルギー回生ダンパ装置、および、エネルギー回生ダンパシステム - Google Patents

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Abstract

【課題】快適な乗り心地を確保しながらも、応答性良く効率的な減衰制御を行なうことのできるエネルギー回生ダンパ装置及びエネルギー回生システムを提供する。
【解決手段】自動車車体等に生じた振動のエネルギーを電気エネルギーとして回生させるエネルギー回生ダンパ装置であって、発電機が前記自動車車体等と車輪の間に設けられ、各時刻における前記自動車車体等の運動状態を検出する運動状態検出部と、前記運動状態検出部の情報から振動伝達率が最小になる目標減衰力を作成する目標減衰力作成部と、前記目標減衰力に対応し、最大エネルギー回生効率を実現する目標電流ベクトルを演算する目標電流演算部と、前記電気エネルギーとして三相交流回生電流を発生させる前記発電機と、前記三相交流回生電流を電流ベクトルに変換して前記目標電流ベクトルに追従させる制御を行う。
【選択図】図13

Description

本発明は、自動車等の懸架装置に適用されるエネルギー回生ダンパ装置およびエネルギー回生ダンパシステムに関し、詳しくは、自動車車体等の振動エネルギーを発電機の使用により電気エネルギーへ変換するときに発生する減衰力を制御することによって、省エネルギーと車両の運動性能の向上および地球環境への配慮とを同時に満足するエネルギー回生ダンパ装置およびエネルギー回生ダンパシステムに関する。
一般に、自動車等の車両の操縦安定性を確保するとともに乗り心地を良くするために、懸架装置においてはバネと油圧ダンパが使用されている。この油圧ダンパは、自動車車体等の振動エネルギーを熱エネルギーに変換して振動を抑制するために、エネルギーを消費している。
この油圧ダンパが消費するエネルギー量を、入手したデータの解析によって求めた。対象にしたのは排気量1300ccクラスの自動車であり、少し荒れた舗装路を時速60kmで走行した時に、全走行抵抗が4339Wでその15%に相当する650Wが油圧ダンパにより消費されていることが分かった。理想的なエネルギー回生ダンパ装置が実用化されて、80%に当たる520Wが電気エネルギーとして回生できたと仮定し、エンジンの熱効率を35%としてガソリンに換算すると、約7.3%燃料消費率を改善できることが分かった。
本発明では、理想のエネルギー回生ダンパ装置を追求して、下記のような結論を得た。先ず、最高性能を実現するために、各時刻における自動車の走行状態、車体の振動状態に最も相応しい最適減衰力と一致するように、ダンパ装置が発生する減衰力が常時制御されるシステムを備えている。次に、電気回路の抵抗および機械構造の摩擦等で生じるエネルギーロスを除外すれば、発電機の回生効率を最良の値に近づけることができる制御が行われている。そして、十分な安全を確保するために、エネルギー回生ダンパ装置の電気回路における異常や事故に対応して、電気回路の補償回路とさらに機械装置のバックアップシステムを備えている。さらに、油による環境汚染を防止できるオイルフリーで、製品のリサイクルも容易である。
以上を纏めると、減衰力の最適な制御によって性能を向上させると共に、電気エネルギーとして効率よく回生して省エネルギー効果を高め、安全が確保され、しかも地球環境に優しいものが理想のエネルギー回生ダンパ装置と考えられる。
油圧ダンパを廃止して、振動エネルギーを電気エネルギーとして回生を行うエネルギー回生ダンパ技術としては、従来、以下のようなものが提案されている。
特許文献1には、懸架装置の振動エネルギーを発電機によって電気エネルギーに変換するという発想を見ることができる。しかし、この装置では、回生した電気エネルギーを可変抵抗器で熱エネルギーとして放散することによって振動減衰を行っており、省エネルギーの観点が見られない。
次に、特許文献2では、振動速度が遅い領域では、発電機に生じる電圧が小さいために、減衰力が発生しない不感帯と呼ばれる現象で振動が大きくなるので、回生したエネルギーを使って振動を減衰させている。従ってこの発明でも、省エネルギー効果が十分ではない。
また、特許文献3では、2個の直流モータをばね下とばね上に配置し、ばね下の直流モータで発電し、この回生した電気エネルギーを使用してばね上の直流モータをアクチュエータとして使ってアクティブ制御し、ばね上の減衰を行っている。このため、性能は向上するがアクティブ制御でエネルギーを消費するので、省エネルギー効果はほとんど期待できない。
次に、特許文献4では、機械的な増速機構を使ってサスペンションの変位を増幅して、発電効率を上げようとしているが、発電を制御して最適な減衰力を得るという発想は見られない。
特開平4―129815号公報(第1−3頁、図1−図3) 特開平10―274281号公報(第2−5頁、図1−図6) 特開平11―65679号公報(第2−4頁、図1−図15) 特開2001―55033号公報(第2−3頁、図1−図2)
懸架装置のダンパ制御には、次の三つの形式がある。パッシブ制御:ダンパの伸縮速度のみによって減衰力は決まるため、制御性能は劣る。アクティブ制御:制御性能は最も優れているが、制御に多量のエネルギーを必要とする。セミアクティブ制御:制御を行うが、この時外部のエネルギーを使用しない。性能は、上記2形式の間に位置する。
エネルギー回生ダンパを考える場合は、セミアクティブ制御が最適である。しかし、一つ問題がある。車体の上下振動の方向と減衰力の方向とが一致すると、車体は加振され振動が大きくなるという問題が存在する。減衰力を作用させていれば、車体の上下振動が小さくなるように思われるが、必ずしもそうではないことが分かる。この問題を解決する従来の方法には、二つある。
第一に、減衰力が発生しないように発電を中止する方法があるが、この方法では、この間エネルギー回生が中断して、減衰力も発生しなくなるので振動絶縁効果が悪化する。第二に、発電機をモータに切り替えて、アクティブ制御で振動を抑制する方法があるが、この方法は、回生したエネルギーが消費され、またその間エネルギー回生もできない。
このような考察から、実用化のために第3の方法を提案する。減衰力が加振力になる場合は、減衰力を零にするか、乗心地が悪くなったと感じない範囲の減衰力を作用させる。本発明では、エネルギーを高い効率で回生するためにセミアクティブ制御を利用し、理想のエネルギー回生ダンパ装置を実現する課題に対して、下記のような技術課題が存在することを発見した。
自動車走行時に、スカイフック理論に基づいて算出された最適減衰力が発生すると共に、振動エネルギーを電気エネルギーとして可能な限り回生するという2つの要求を同時に満足する技術が望まれている。
ダンパの伸縮速度が小さいときに、回生電圧がバッテリ電圧より低くなり、回生電流が流れないため減衰力が発生しない不感帯が現れるので、これを除去することが必要になる。
自動車走行中、各時刻に算出された最適減衰力に発電機の発生する減衰力を電流制御を実施することによって追従時に発生する制御遅れの問題を解決することが必要となる。
安全を確保するために、装置の異常、故障に対する対策がなされる必要がある。
本発明の目的は、上述の課題を解決する点にある。
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、自動車車体等に生じた振動のエネルギーを電気エネルギーとして回生させるエネルギー回生ダンパ装置であって、
発電機が前記自動車車体等と車輪の間に設けられ、各時刻における前記自動車車体等の運動状態を検出する運動状態検出部と、前記運動状態検出部の情報から振動伝達率が最小になる目標減衰力を作成する目標減衰力作成部と、前記目標減衰力に対応し、最大エネルギー回生効率を実現する目標電流ベクトルを演算する目標電流演算部と、前記電気エネルギーとして三相交流回生電流を発生させる前記発電機と、前記三相交流回生電流を電流ベクトルに変換して前記目標電流ベクトルに追従させる制御を行うことを特徴とする。
このように構成したことにより、エネルギー回生効率を最大にし、省エネルギーと車両の運動性能の向上およびオイルの使用を止めることによる地球環境への配慮とを同時に満足することが可能になる。
請求項2に記載した発明は、前記目標電流ベクトルに追従させる制御がd−q変換部、d−q逆変換部と前記目標電流ベクトルを前記電流ベクトルと比較して操作量を出力する制御器、および電力変換回路で構成されることを特徴とする。
このように構成したことにより、ベクトル制御により最大エネルギー回生効率を達成できる。
請求項3に記載した発明は、前記発電機が埋込磁石同期発電機であり、制御器がロバスト制御理論を援用したPIDコントローラであり、前記電力変換回路がPWMコンバータであることを特徴とする。
このように構成したことにより、埋込磁石同期発電機はリラクタンス・トルクも利用できるために回生電力を増加でき、コントローラにロバスト性があれば発電機のばらつきに対応できる。これらの装置は他の用途でも一般的に使用されているため低コストで信頼性のあるシステムとすることができる。
請求項4に記載した発明は、前記目標電流演算部は、前記車体の振動方向と前記発電機の減衰力の方向とが一致する時は、前記目標減衰力の大きさを零あるいは乗心地に悪影響を及ぼさない範囲の値に設定するアルゴリズムで制御することを特徴とする。
このように構成したことにより、本発明はセミアクティブ制御を行っているために、減衰力の方向が車体の振動方向と一致する時の乗心地悪化を防ぎながら、部分的に電力回生も可能になる。
請求項5に記載した発明は、前記発電機が回生した電気エネルギーを蓄積すると共に、蓄積した電気エネルギーを前記制御等に必要なエネルギーとして供給するエネルギー蓄積部を備えていることを特徴とする。
このように構成したことにより、回生した電気エネルギーを蓄積し、この電気エネルギーを制御あるいは他の電装部品のエネルギー源として有効利用することができる。
請求項6に記載した発明は、前記制御を行う電気回路は、異常時に備えた前記電気回路の補償回路を有し、さらに前記電気回路と前記電気回路の補償回路に故障が生じたときに備えた機械装置によるバックアップシステムを有することを特徴とする。
このように構成したことにより、万一異常や故障が発生しても、フェイルセーフのシステムになっているので安全が損なわれない。
請求項7に記載した発明は、前記自動車車体等と前記車輪の間に設けられる請求項1から請求項4の何れかに記載のエネルギー回生ダンパ装置を4本備えており、前記目標減衰力作成部において、前記目標減衰力の作成に4本の前記エネルギー回生ダンパ装置の統合制御を付加することにより、加速減速時は前記車体のピッチング角が、コーナリング時は前記車体のロール角が、直線走行時は前記車体のヨーイング角が夫々最小になるように演算するアルゴリズムを含むことを特徴とする。
このように構成したことにより、自動車車体の傾きが減少して自動車走行時の走行安定性が確保され、乗心地も改善される。
以上説明した通り、本発明によれば、快適な乗り心地を確保しながらも、応答性良く効率的な減衰制御を行なうことのできるエネルギー回生ダンパ装置およびエネルギー回生ダンパシステムを提供することができるようになった。
以下、本発明に係るエネルギー回生ダンパ装置の実施形態について、以下図面に基づいて説明する。
本発明では、運動エネルギーを熱エネルギーに変換してエネルギーを消費する油圧ダンパを廃止して、その場所に発電機等を利用し電気エネルギーとして回生できるエネルギー回生ダンパ装置を装着する。先ず初めに、現在実用化されている油圧ダンパの働きを説明する。
図1に示すように、自動車が走行して車輪が段差に乗り上げると、コイルばねが矢印Bの方向に縮むことによって、突き上げを緩和する。段差を降りた後は、コイルばねが伸縮を繰り返すので、車輪とスイングアームが振動する。この振動は、車体にも伝わって乗心地を損なう。そこで、この揺れはショックアブソーバとも呼ばれるシリンダ状の油圧ダンパが減衰力を発生して収束させる。
油圧ダンパは、車体と車輪の相対速度に比例した減衰力を発生するものが良く利用されているが、この減衰力は必ずしも最適減衰力とは一致しない。この理由を以下で説明する。
自動車サスペンションを基本的なモデルで表すと、図2のように車体をばね、ダンパで支持したものになる。次に、路面の変位が車体変位としてどれだけ伝わるかを表す振動伝達率Tを、入力周波数ωを横軸にとったグラフを図3に示す。ただし、横軸は、固有振動数ωの影響が良く分かるように、ω/ωで示した。この図より、減衰力を強くしてζ=1.0にすると、固有振動数ωnでの揺れは小さくなるが、外力の振動数ωが大きくなると振動が大きく伝わるという不都合な特性のあることが分かる。
このような性能限界を打破するために考えられた、スカイフック制御理論を図4に基づいて説明する。図では、ダンパを空に取り付けると仮想するために、スカイフック制御と呼ばれる。このような取付け方を仮想すると、ダンパは車体と路面の相対速度ではなく、車体の速度にのみ比例する減衰力を発生する。このようにダンパを使用できた場合には、図5に示すように減衰力を大きくすればするほど車体への振動伝達率Tが減少するという好ましい結果が得られる。
このように、スカイフック制御理論は、現状のサスペンション性能を向上させる一つの方法である。実際には、ダンパは中空には取付けられないので、制御を行うことによって同じ効果を出すことになる。
図6は、本発明のエネルギー回生ダンパ装置の例である。車輪の上下変位をボールねじを使って回転に変換し、回転型発電機の一例である埋込磁石同期発電機(IPMSG)を駆動する装置である。車輪の上下の動きによってトルクロッドの右端が加振されてトルクロッドが左右に動き、フランジにあるナットによってボールねじが回転し、これに直結した回転型発電機のロータが回転して誘導電流が発生するので、この誘導電流に比例する減衰トルクが生じることになる。この時ダンパに加わった減衰力はロードセルによって計測する。尚、回転型発電機のロータの回転数を上げるために、遊星歯車等の機械的な増速装置を、必要に応じて組み入れることができる。
図7は、シリンダ型リニア発電機の横断面の概念図で、本発明のエネルギー回生ダンパ装置の別の例である。ここでは図6とは違って回転型発電機ではなくて、リニア発電機を用いた場合である。外筒の中心部にはロッドが設けられ、このロッドには電機子コイルが装着されている。この外筒の内側にはベースシェルと呼ばれる内筒があり、その内周面には永久磁石が取り付けられている。外筒の左側と内筒の右側には取り付けリングが設けられており、この取り付けリングは従来の油圧ダンパと同様にラバーブッシュを介して、サスペンション装置に連結される。図では表示されていないが、外筒と内筒の間に直線運動を滑らかに案内するために、軸受けのドライメタルあるいはリニアブッシュ等を設ける。
図6と図7の装置を比較すると、図6は回転運動を直線運動に変換することから、機械的損失は避けられない。しかし図7では、リニア発電機の端効果により制御が難しくなり、構造自体も複雑になり、さらに慣性質量により応答も遅くなるという欠点がある。
図8は、シリンダ型リニア発電機の縦断面の概念図である。図から分かるように、電機子コイルは角形あるいは丸型で、永久磁石はリング状であることが分かる。
図9は、発電機が発生する減衰力を制御する方法を示している。車輪が路面突起で上下動することによって生じるトルクTは、電流ベクトルiとiにより、次式で表せる。
またダンパによる減衰力Fは、zをダンパの変位として次式で与えられる。
図10は、本発明で最適減衰力を実現するためのフィードバック制御系である。走行する自動車の状態をセンサで把握し、スカイフック理論等のアルゴリズムで最適な減衰係数を算出する。この最適減衰力Fと発電機で検出されたトルクTとを比較し、その差を操作量として電流を制御し、発電機の発生する減衰力を常に最適値と一致させるために、図11のような制御ブロックを構成する。
電流のベクトル制御とは、モータの電気角に注目し、3相交流をd軸とq軸を軸とした回転座標上のベクトルに置き換える。ベクトル(位相と電流の大きさ)を適当にコントロールすることで、同じモータでも選択するベクトル次第で最大効率制御、最大出力制御を任意に選択することができる。常に最大効率で電力を回生したいという要求があれば、予め作成しておいた図12のような最大効率曲線の軌跡をトレースするように電流ベクトルを制御する。この最大効率曲線を作成するには、試験ベンチで前もって発電機を駆動させてデータを取っておく。
1個1個の発電機を計測する手間を避けるには発電機をモデル化し、製品のばらつきでモデルに誤差が出たときの対策としては、制御器にロバストコントローラを実装する。これによって、製品のばらつきに対応できるので、個々のデータを実測する必要をなくすことができる。
図11をさらに詳細に説明し、システム全体を図示したものが、図13である。自動車が走行すると、走行状態検出部において、発電機の角速度ω、車速、操舵角、ばね上の上下と前後および左右の加速度等をセンサで検出し、これらの情報を目標減衰力作成部に入力して予めプログラムされたスカイフック理論等のアルゴリズムで最適減衰力を算出し、この情報を目標電流演算部に入力して、目標電流ベクトルを決定する。このとき図12で示したように発電機には固有の最大効率曲線が存在するので、矢印の先端がこの曲線上にくるように目標電流ベクトルを設定する。また、発電機およびPWMコンバータなどの電流容量を勘案し、許容電流の上限を電流制限円とし、この円内の電流ベクトルを選択する。
一方、路面の不整から車輪が上下して発電機が作動し、三相交流回生電流u,v,wが発生する。この三相交流回生電流をd−q変換部に入力して、d−q軸のベクトルに変換する。このようにして、目標電流ベクトルと発電機から得られた電流ベクトルとを比較してその差から操作量を出力する制御器に入力し、その操作量をd−q逆変換部に入力して三相交流値に戻し、電力変換部で発電機からの三相交流回生電流を制御する。回生電圧がバッテリの電圧より低い場合、高過ぎる場合のために、図の位置に昇降圧チョッパを挿入してもよい。図14はこの昇降圧用のチョッパ回路の例である。
この回路は、パワー半導体デバイスを用いて、高頻度で直流のオン・オフを繰り返すことによって、直接異なる直流電圧に変換する直流チョッパである。回路は、チョップ部、ダイオード、リアクトル、コンデンサ、バッテリによって構成されている。発電機で回生された電力はリアクトルに蓄えられ、デューティ比αの制御によって、任意の電圧を2次側に発生させることができる。
図13の本発明ダンパ装置の具体例を示せば、発電機として高効率な埋込磁石同期発電機を、制御器としてロバスト制御理論を援用したPIDコントローラを、電力変換回路としてはPWMスイッチングコンバータを使用することができる。制御器の設計にはモデル化誤差を吸収させるためにロバスト制御理論をPIDコントローラに近似的に埋め込む方式が実用的である。
以下、図6に示す埋込磁石同期発電機(IPMSG)を用いて図13に示す制御系を構築した場合について詳述する。発電機の固定子に静止している三相巻線を、永久磁石のロータと同期して回転する二つのd、q巻線に変換し、相対的に静止した二つの直流回路とみなしたものをd、q軸モデルという。これにより、電流の大きさおよび位相をd、q軸のベクトルで表現でき、取り扱いが容易になる。
三相交流からd、q軸電流への変換は、図17(a)の(3)式、および逆変換は(4)式で表せる。図17(b)は等価回路である。突極性を持つ発電機では、同トルクを発生する電流ベクトルが複数存在する。そのうち、最大効率になるベクトルを目標電流ベクトルに設定する制御を最大効率制御という。突極性を持たないSPMSGの場合、物理的構成からi=0で最大効率となるため、i=0制御ということがある。突極性のあるIPMSGでは、回転数によりそのベクトルが変化する。d,q軸等価回路より、電機子電流Ia、端子電圧Va、トルクTは図18(a)の(5)式から(7)式で表せる。
Cuを銅損、WFeを鉄損、Wを機械損、Wを合計損失とすると、等価回路より、図18(b)の(8)式から(14)式のように表せる。Tは摩擦力、ωは機械角速度である。Wを最小にするために、Wを電流ベクトルの選択によって最小にすることを考える。Wは(5)式を(10)式、(12)式に代入することでiod,T,ωの関数で表せる。Wを最小にするための条件は図18(c)の(16)式で与えられる。尚、(7)式は上述した(1)式に相当する。
図13に示すように、目標電流演算部でダンパの伸縮速度と車体振動速度より目標電流ベクトルi ,i を作成する。IPMSGからの三相交流電流i,i,iをd−q変換したものをi,iとし、目標電流ベクトルとの差を制御器に入力する。制御器はPIコントローラであり、制御出力v ,v を与える。これをd−q逆変換することにより、PWMコンバータへの制御入力v ,v ,v を得る。PWMコンバータは6個のIGBTからなり、u相、v相、w相夫々独立にスイッチされる。
自動車のサスペンションは、エネルギー回生ダンパ装置を4本備えることになるので、目標減衰力作成部において、目標減衰力の作成を行う際に4本の本発明エネルギー回生ダンパ装置の統合制御を付加し、加速減速時は車体のピッチング角が、コーナリング時は車体のロール角が、直線走行時は車体のヨーイング角が夫々最小になるように演算するアルゴリズムを適用する。これによって、操縦安定性が改善されるだけでなく、乗心地も良くすることができる。
自動車を急加速するときは、スクワットと呼ばれる前上がり現象が、急制動するときはノーズダイブと呼ばれる前下がり現象が現れる。この二つの車体の動きは、ピッチングと呼ばれる。この現象を防ぐためには、前輪と後輪に位置するエネルギー回生ダンパ装置に夫々異なる最適減衰力を発生させて、車体の回転モーメントを打ち消すようにすることで、車体のピッチングを最小にする。
自動車が進行方向を変えるためにコーナリングをする時は、遠心力によって車体が傾く。この時の車体のロール角を最小にするためには、同じく車体の回転モーメントを打ち消すように、旋回円の外側に位置するエネルギー回生ダンパ装置の最適減衰力を大きく、内側の最適減衰力を小さくする。前輪の片側だけが路面突起に乗り上げると車体にヨーイングが生じて、進行方向が変化する。このヨーイング角を最小にするために、同様にして車体の鉛直軸周りの回転モーメントを打ち消すように減衰力を発生させる。
図15は、発電機によって回生された電気エネルギーを図11や図13の制御系、あるいは補器類、二次電池などに利用できることを示している。このように、これまで熱エネルギーにして捨てていたものを電気エネルギーとして回生することにより、省エネルギーを実現できることになる。
図16は、エネルギー回生ダンパ装置で故障が発生した場合の安全対策を示している。発電制御ダンパ装置で、断線や部品の故障で装置が作動しなくなると減衰力不足に陥り、車体の揺れが大きくなったり、車体の傾きが大きくなったりするので、自動車の操縦性や安定性そして乗心地が損なわれることになる。このような事態に備えて、この不具合を防止するためにバックアップの補償回路が設けられる。また、フェイルセーフの観点から、バックアップの電気回路にも故障が発生した場合に備えて、性能低下を最小限に抑制するために、機械的に減衰力を発生させる機械装置も組み込まれる。この例としては、ブレーキモータ等に使われているブレーキを利用する。
最大エネルギー回生効率を実現するためのベクトル制御では、エンコーダやタコジェネレータ、レゾルバなどの速度位置センサが必要である。しかし、モータが発生する逆起電圧の位相から、モータの電気角を推定するセンサレス・ベクトル制御も可能である。このセンサレス・ベクトル制御であれば、センサ類を用いる必要がないために、高信頼なシステムが構築できる。
以上の説明から明らかなように、本発明によれば以下の効果をあげることができる。すなわち、本発明のダンパ装置をシリンダ形状に設計すれば、現在のシリンダ形油圧ダンパ装置と容易に置換することができる。さらに、ベクトル制御を行うことで最大エネルギー回生効率を実現できると共に、本発明のエネルギー回生ダンパ装置の減衰力をコンピュータが指示した最適減衰力に遅れなく追従させることが可能で、走行性能が向上する。しかも、油圧ダンパを廃止して、油を使用しなくなるので環境汚染の防止に役立つことになる。
懸架装置の構造例を示す断面図 サスペンションの基本モデル図 図2モデルの共振曲線グラフ スカイフック制御のモデル図 スカイフックモデルの共振曲線グラフ 本発明の直線変位を回転変位に変換する回転型発電機を利用するダンパの構成図 本発明のシリンダ型リニア同期発電機の横断面の概念図 本発明のシリンダ形リニア同期発電機の縦断面の概念図 発電機が発生する減衰力Fを制御する方法の説明図 本発明ダンパ装置のフィードバック制御系の構成図 本発明のダンパ装置の制御方法を示すブロック線図 ベクトル制御による最大エネルギー回生効率決定法を示す説明図 本発明によるダンパ装置の詳細な制御方法を示すブロック線図 昇降圧チョッパの回路図 充電回路によるエネルギー供給を示す説明図 本発明によるダンパ装置のバックアップシステムの説明図 (a)は本発明によるエネルギー回生ダンパ装置の動作原理を示す数式の説明図、(b)は等価回路図 (a),(b),(c)は本発明によるエネルギー回生ダンパ装置の動作原理を示す数式の説明図

Claims (7)

  1. 自動車車体等に生じた振動のエネルギーを電気エネルギーとして回生させるエネルギー回生ダンパ装置であって、
    発電機が前記自動車車体等と車輪の間に設けられ、各時刻における前記自動車車体等の運動状態を検出する運動状態検出部と、前記運動状態検出部の情報から振動伝達率が最小になる目標減衰力を作成する目標減衰力作成部と、前記目標減衰力に対応し、最大エネルギー回生効率を実現する目標電流ベクトルを演算する目標電流演算部と、前記電気エネルギーとして三相交流回生電流を発生させる前記発電機と、前記三相交流回生電流を電流ベクトルに変換して前記目標電流ベクトルに追従させる制御を行うことを特徴とするエネルギー回生ダンパ装置。
  2. 前記目標電流ベクトルに追従させる制御がd−q変換部、d−q逆変換部と前記目標電流ベクトルを前記電流ベクトルと比較して操作量を出力する制御器、および電力変換回路により構成されることを特徴とする請求項1記載のエネルギー回生ダンパ装置。
  3. 前記発電機が埋込磁石同期発電機であり、制御器がロバスト制御理論を援用したPIDコントローラであり、前記電力変換回路がPWMコンバータであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエネルギー回生ダンパ装置。
  4. 前記目標電流演算部は、前記車体の振動方向と前記発電機の減衰力の方向とが一致する時は、前記目標減衰力の大きさを零あるいは乗心地に悪影響を及ぼさない範囲の値に設定するアルゴリズムで制御することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のエネルギー回生ダンパ装置。
  5. 前記発電機が回生した電気エネルギーを蓄積すると共に、蓄積した電気エネルギーを前記制御等に必要なエネルギーとして供給するエネルギー蓄積部を備えている請求項1から4の何れかに記載のエネルギー回生ダンパ装置。
  6. 前記制御を行う電気回路は、異常時に備えた前記電気回路の補償回路を有し、さらに前記電気回路と前記電気回路の補償回路に故障が生じたときに備えた機械装置によるバックアップシステムを有する請求項1から5の何れかに記載のエネルギー回生ダンパ装置。
  7. 前記自動車車体等と前記車輪の間に設けられる請求項1から請求項6の何れかに記載のエネルギー回生ダンパ装置を4本備えており、
    前記目標減衰力作成部において、前記目標減衰力の作成に4本の前記エネルギー回生ダンパ装置の統合制御を付加することにより、加速減速時は前記車体のピッチング角が、コーナリング時は前記車体のロール角が、直線走行時は前記車体のヨーイング角が夫々最小になるように演算するアルゴリズムを含むことを特徴とするエネルギー回生ダンパシステム。
JP2007065405A 2007-03-14 2007-03-14 エネルギー回生ダンパ装置、および、エネルギー回生ダンパシステム Pending JP2008222112A (ja)

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