樹脂フィルム同士の貼り合わせと接続導体となる導電ペーストの焼結を一度の加熱加圧により一括して行う多層回路基板の製造方法が、例えば、特開2000−38464号公報(特許文献1)と特開2003−86948号公報(特許文献2)に開示されている。
図6(a)〜(c)は、上記多層回路基板の製造方法の一例で、多層回路基板90の製造方法を示す模式的な工程別断面図である。
図6に示す多層回路基板90の製造方法では、最初に、図6(a)に示すように、熱可塑性樹脂1からなる樹脂フィルムの片面に所定の導体パターン2aが形成され、導体パターン2aを底とする有底孔に導電ペースト4が充填された樹脂フィルム20を準備する。導体パターン2aは、樹脂フィルムの片面に例えば銅(Cu)箔を貼り合わせた後、該銅箔をエッチングして形成される。導電ペースト4には、例えば銀(Ag)と錫(Sn)の混合粉末からなる導電ペーストが用いられる。
次に、上記工程で準備した樹脂フィルム20a〜20fを、図6(b)に示すように積層し、該積層体を熱プレス板により加熱加圧して、熱可塑性樹脂1からなる樹脂フィルム20a〜20fを相互に貼り合わせると共に、導電ペースト4を焼結させて接続導体4aとする。この積層体の熱プレス工程では、導体パターン2aの酸化を防止しつつ導電ペースト4を焼結させて樹脂フィルム20a〜20f同士を貼り合わせるため、高真空の環境下で、高温(320℃)、高圧(3.5Mpa)の真空熱プレスが実施される。これによって、図6(c)に示す多層回路基板90が製造される。
多層回路基板の生産性を高めるため、上記積層体の熱プレス工程では、これまでバッチ型の大きな真空チャンバ内で、大型プレスによる多数個取りや多段化プレス等が検討されてきた。しかしながら、多数個取りでは大面積の熱プレス盤が必要で、該熱プレス盤の昇降温に多大な時間がかかり、ワークの投入から取り出しまで300分/バッチ以上の時間が必要とされる。また、熱プレス盤の加熱冷却エネルギー量も、ワーク処理に必要なエネルギー量に較べて膨大なものとなり、省エネルギーに反した装置となっている。
一方、多段化プレスでは、次のような問題がある。上記多層回路基板の製造においては、導体パターンの変形や断線を防止するうえで、積層された各樹脂フィルムが互いに平行状態を保ったまま熱プレスされることが必要である。しかしながら、多段化プレスを行うと、積層された各樹脂フィルムの平行状態が崩れやすく、生産歩留まりが著しく低下してしまう。
上記バッチ型の真空チャンバを用いた熱プレスの問題を改善する方法が、特許第3893930号明細書(特許文献3)に開示されている。
図7は、特許文献3に開示された多層回路基板の製造方法を説明する図で、図7(a)は、シート材保持具40にシート材30を保持した状態を示す説明図であり、図7(b)は、加圧・加熱を行う装置100の概略構成を示した図である。
図7(a)に示すシート材30は、図6(b)に示したような樹脂フィルム20a〜20fの積層体からなる。シート材30は、熱伝導性に優れる金属、例えばチタンを十分な剛性を有するように厚板状に形成した平坦なベース部41とカバー部42の間に挟まれて、シート材保持具40に入れられる。シート材30が入れられたシート材保持具40は、排気口11を介して、真空ポンプ15によって内部が減圧される。
図7(b)に示す装置100は、加熱及び加圧を行うプレス機120を備える。すなわち、プレス機120は、加圧するための一対の加圧ヘッド102,104を有する。これら、加圧ヘッド102,104の内部には、通電することにより発熱するヒータ103,105がそれぞれ内蔵されている。また、装置100には、加熱及び加圧を行うプレス機120に隣接して、冷却した加圧ヘッドによってシート材保持具40に保持されたシート材30を加圧するプレス機130が設けられている。プレス機130は、加圧を行う一対の加圧ヘッド107,109を有する。これら加圧ヘッド107,109の内部には冷却管108,110が配設されており、これら冷却管108,110に冷却水を流動させることにより、一対の加圧ヘッド107,109の温度を低温に保っている。
図7(b)に示す装置100では、内部にシート材30が入れられたシート材保持具40が台座に載せられると、上方加圧ヘッド102が下方加圧ヘッド104との間でシート材30を加圧できる位置まで下降され、ヒータ103,105によって加熱された一対の加圧ヘッド102,104が、シート材30を加熱しつつ加圧する。該加熱・加圧工程により、図6(b)で説明した樹脂フィルム20a〜20f同士の貼り合わせと導電ペースト4の焼結が行われる。
プレス機120によって加熱・加圧工程が行われた後に、そのシート材30はシート材保持具40内に保持されたまま隣のプレス機130に移送され、冷却・加圧工程が行われる。すなわち、一対の加圧ヘッド107,109の温度を冷却水によって低温に保ちつつ、シート材保持具40内に保持されたシート材30を加圧する。この冷却・加圧工程は、加熱・加圧工程によって高温になったシート材30の温度を強制的に低下させるために行うものである。これにより、シート材30の温度低下に要する時間を短縮することができるので、生産リードタイムを短縮し、生産効率を向上することができる。冷却・加圧工程の終了後には、シート材保持具40内の密閉空間に大気が導入され、図6(c)に示す多層回路基板90のように製造が終了したシート材30がシート材保持具40より取り出される。
特開2000−38464号公報
特開2003−86948号公報
特許第3893930号明細書
図7に示した多層回路基板の製造方法は、従来のバッチ型の真空チャンバを用いた熱プレスと異なり、樹脂フィルムの積層体からなるシート材30を一つずつシート材保持具40に保持した状態で加熱・加圧工程を行う、所謂、枚葉式の工程である。従って、図7(b)の装置100を用いた製造方法によれば、従来のバッチ型の真空チャンバを用いた工程に較べて、生産効率を大幅に向上することができると共に、加熱冷却のエネルギー利用効率も大幅に改善することができる。
一方、図7(b)の装置100を用いた製造方法では、シート材30の加熱温度や印加圧力の制御が、従来のバッチ型の真空チャンバを用いた熱プレスに較べて困難である。このため、図7(b)の装置100では、多層回路基板を高い歩留りや高精度で製造することが困難となっている。
そこで本発明の目的は、多層回路基板を製造するための生産効率やエネルギー利用効率に優れる枚葉式の真空熱プレス装置であって、高精度な多層回路基板を高い歩留りで製造することのできる真空熱プレス装置を提供することにある。
請求項1に記載の発明は、多層回路基板を形成するための樹脂フィルムの積層体からなるシート材の真空熱プレス装置であって、前記シート材を密閉空間内に保持し、該密閉空間内を減圧した状態でシート材に熱および圧力を伝達可能なシート材保持具をワークとして、該ワークに対して外部から加圧加熱する第1加圧加熱ユニットと、前記第1加圧加熱ユニットにより処理された前記ワークに対して、外部から加圧加熱する第2加圧加熱ユニットと、前記第2加圧加熱ユニットにより処理された前記ワークに対して、外部から加圧冷却する加圧冷却ユニットとを有してなり、前記第1加圧加熱ユニット、第2加圧加熱ユニットおよび加圧冷却ユニットが、円周上に配置されてなり、前記ワークが、前記円周の中心に配置された旋回機構により、前記第1加圧加熱ユニット、第2加圧加熱ユニットおよび加圧冷却ユニットの各処理位置に搬送され、前記第1加圧加熱ユニット、第2加圧加熱ユニットおよび加圧冷却ユニットが、それぞれ、前記ワークを間に挟んで加圧加熱または加圧冷却する上側プレスユニットと下側プレスユニットとを有してなり、前記下側プレスユニットの下側加圧プレートが、昇降シリンダとスライドガイドからなる移動機構により昇降され、前記下側加圧プレートが、キーブロックからなるロックアップ機構により、所定の上昇位置で固定されることを特徴としている。
上記真空熱プレス装置は、樹脂フィルムの積層体からなるシート材が密閉空間内に減圧状態で保持されているシート材保持具をワークとして、該ワークを第1加圧加熱ユニット、第2加圧加熱ユニットおよび加圧冷却ユニットの各ユニットに一つずつ一定方向に順次搬送し、上記各ユニットでシート材をシート材保持具の外部から加圧加熱または加圧冷却していく、所謂、枚葉式の真空熱プレス装置である。従って、上記真空熱プレス装置は、大きな真空チャンバを用いたバッチ型の真空熱プレス装置に較べて、生産効率やエネルギー利用効率に優れている。
上記真空熱プレス装置において、第1加圧加熱ユニット、第2加圧加熱ユニットおよび加圧冷却ユニットの各ユニットは、円周上に配置されており、ワークを円周の中心に配置された旋回機構で間欠回転させて、各ユニットの処理位置に素早く搬送することができる。
また、上記真空熱プレス装置は、第1加圧加熱ユニットと第2加圧加熱ユニットの2つの加圧加熱ユニットを有しており、樹脂フィルムの積層体からなるシート材に対して、圧力および温度の異なる2段階の処理を実施することができる。また、ワークであるシート材保持具は、上記したように各ユニット間を素早く搬送される。
さらに、上記真空熱プレス装置においては、前記下側プレスユニットの下側加圧プレートが、昇降シリンダとスライドガイドからなる移動機構により昇降される構成となっている。これにより、例えば後の上側プレスユニットの移動機構で示すボールねじによる移動機構を採用する場合に較べて、下側加圧プレートを高速で昇降することができる。このように、下側加圧プレートの昇降時間を短縮することで、ワークを各ユニット内の所定のプレス位置に素早く搬送することができ、各ユニット内工程でワークの温度維持や処理時間の短縮を図ることができる。
また、上記真空熱プレス装置において、前記下側加圧プレートは、キーブロックからなるロックアップ機構により、所定の上昇位置で固定される構成となっている。これにより、下側加圧プレートを上記昇降シリンダとスライドガイドからなる移動機構でプレス位置まで高速で上昇させた場合であっても、正確なプレス位置を確保することができる。
以上示したように、上記真空熱プレス装置では、搬送の間におけるワークの温度を確実に維持することができる。これによって、樹脂フィルムの積層体からなるシート材の熱処理温度を厳密に制御することができ、高精度な多層回路基板を高い歩留りで製造することができる。
以上のようにして、上記真空熱プレス装置は、多層回路基板を製造するための生産効率やエネルギー利用効率に優れる枚葉式の真空熱プレス装置であって、高精度な多層回路基板を高い歩留りで製造することのできる真空熱プレス装置となっている。
上記真空熱プレス装置は、請求項2に記載のように、前記旋回機構が、ロータリ真空バルブを有してなり、前記シート材保持具の密閉空間内が、前記ロータリ真空バルブを介して、前記第1加圧加熱ユニット、第2加圧加熱ユニットおよび加圧冷却ユニットによる処理中、並びに前記旋回機構による搬送中にも、減圧状態が維持される構成とすることが好ましい。
これによれば、シート材保持具の密閉空間内を当該真空熱プレス装置への投入前に予め真空引きするだけでなく、該密閉空間内を、上記ロータリ真空バルブを介して、各ユニットでの処理中および旋回機構による搬送中にも真空引きすることができる。従って、例えば加圧加熱処理中において該密閉空間内に保持されているシート材から発生するガスを排出できると共に、シート材に形成されている導体パターンや導電ペースト等の酸化を確実に防止することができる。
また、上記真空熱プレス装置は、請求項3に記載のように、前記上側プレスユニットの上側加圧プレートが、少なくとも3対のボールねじからなる移動機構により昇降される構成とすることが好ましい。
上側プレスユニットの上側加圧プレートの昇降機構として、少なくとも3対のボールねじからなる移動機構を採用することで、上側加圧プレートの傾きを該少なくとも3対のボールねじで精密に制御することができる。これによって、対となる下側プレスユニットの下側加圧プレートに対する平行度を、高い精度で確保することができる。従って、樹脂フィルムの積層体からなるシート材に均等な圧力をかけることができ、高精度な多層回路基板を高い歩留りで製造することができる。
また、上記真空熱プレス装置においては、請求項4に記載のように、ロードセルが、前記加圧加熱または加圧冷却時において、前記少なくとも3対のボールねじの下方にそれぞれ配置されることが好ましい。
これによって、上記した少なくとも3対のボールねじによる上側加圧プレートの傾きの制御を、それぞれの下方に配置されているロードセルの荷重をフィードバックさせて行うことができる。これによって、樹脂フィルムの積層体からなるシート材にかける圧力をより均等にすることができ、高精度な多層回路基板を高い歩留りで製造することができる。
上記真空熱プレス装置においては、請求項5に記載のように、前記樹脂フィルムが、熱可塑性樹脂からなり、一方の表面に導体パターンが形成され、該導体パターンを底とする孔に導電ペーストが充填されてなる樹脂フィルムである場合に好適で、この場合には、前記第1加圧加熱ユニットの加熱温度を、前記導電ペーストの焼結温度に設定し、前記第2加圧加熱ユニットの加熱温度を、前記熱可塑性樹脂の融着温度に設定することが好ましい。
製造する多層回路基板が、熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムの一方の表面に形成された導体パターンを底とする孔に導電ペーストが充填され、該樹脂フィルムの積層体を真空熱プレスして製造するものである場合、真空熱プレス工程は、大別すると(1)導電ペーストの乾燥および焼結、(2)樹脂フィルム同士の融着、(3)冷却成形の3段階のプロファイルを制御できることが重要である。
従って、上記したように、第1加圧加熱ユニットの加熱温度を導電ペーストの焼結温度に設定し、第2加圧加熱ユニットの加熱温度を熱可塑性樹脂の融着温度に設定し、加圧冷却ユニットを冷却成形処理に用いることで、各処理に適した温度と圧力を設定することができ、高精度な多層回路基板を高い歩留りで製造することができる。
以上のようにして、上記した真空熱プレス装置は、多層回路基板を製造するための生産効率やエネルギー利用効率に優れる枚葉式の真空熱プレス装置であって、高精度な多層回路基板を高い歩留りで製造することのできる真空熱プレス装置とすることができる。
本発明は、多層回路基板を形成するための真空熱プレス装置に係るもので、樹脂フィルムの積層体からなるシート材の真空熱プレス装置に関する。以下、本発明を実施するための最良の形態を、図に基づいて説明する。
図1は、本発明の真空熱プレス装置の一例で、真空熱プレス装置200を模式的に示した斜視図である。図2は、図1の真空熱プレス装置200に投入されるワークを説明する図で、シート材30と開いた状態にあるシート材保持具40を模式的に示した斜視図である。図2に示したシート材30およびシート材保持具40は、図7(a)で説明したものと同様であり、同じ符号を付した。図3は、図1の真空熱プレス装置200の構成要素である第1加圧加熱ユニットHU1、第2加圧加熱ユニットHU2および加圧冷却ユニットCUの基本構造Uを模式的に示した斜視図である。また、図4(a)〜(d)は、ワーク40aが定位置にきた後の各ユニットHU1,HU2,CUでの一連の動作を説明する図で、それぞれ、部分断面図で動作途中の各状態を示している。
図1に示す真空熱プレス装置200は、図2に示すシート材30を内部に保持したシート材保持具40をワークとする真空熱プレス装置である。
図2のシート材30は、図6(b)に示したような樹脂フィルム20a〜20fの積層体からなり、個々の樹脂フィルム20a〜20fは、図6(a)に示したように、熱可塑性樹脂1からなる樹脂フィルムの片面に所定の導体パターン2aが形成され、導体パターン2aを底とする有底孔に導電ペースト4が充填されている。代表的には、導体パターン2aは、銅(Cu)箔をエッチングして形成され、導電ペースト4には、銀(Ag)と錫(Sn)の混合粉末からなる導電ペーストが用いられる。尚、以下の説明においては、図1,2に示したシート材30として、図6(a)〜(c)に示した樹脂フィルム20,20a〜20fとその各部の符号を参照する。
図2に示すように、シート材30は、熱伝導性に優れる金属(例えばチタン)を十分な剛性を有するように厚板状に形成した平坦なベース部41とカバー部42の間に挟まれて、シート材保持具40に入れられる。シート材30が入れられたシート材保持具40は、図7(a)に示したように、閉じた状態にして、排気口11を介して、真空ポンプにより内部が減圧される。
以上のように、図1の真空熱プレス装置200は、シート材30を密閉空間内に保持し、該密閉空間内を減圧した状態でシート材30に熱および圧力を伝達可能なシート材保持具40をワーク40aとしている。
図1に示す真空熱プレス装置200は、上記ワーク40aに対して外部から加圧加熱する第1加圧加熱ユニットHU1と、第1加圧加熱ユニットHU1により処理されたワーク40aに対して外部から加圧加熱する第2加圧加熱ユニットHU2と、第2加圧加熱ユニットHU2により処理されたワーク40aに対して外部から加圧冷却する加圧冷却ユニットCUとを有している。第1加圧加熱ユニットHU1、第2加圧加熱ユニットHU2および加圧冷却ユニットCUは、円周上に配置されている。ワーク40aは、円周の中心に配置された旋回機構RMにより、旋回プレートRPに載せられて、軌道レールRL上を間歇回転して移動し、第1加圧加熱ユニットHU1、第2加圧加熱ユニットHU2および加圧冷却ユニットCUの各処理位置に搬送される。
図1に示す真空熱プレス装置200は、樹脂フィルム20a〜20fの積層体からなるシート材30が密閉空間内に減圧状態で保持されているシート材保持具40をワーク40aとして、該ワーク40aを第1加圧加熱ユニットHU1、第2加圧加熱ユニットHU2および加圧冷却ユニットCUの各ユニットに一つずつ一定方向に順次搬送し、上記各ユニットHU1,HU2,CUでシート材30をシート材保持具40の外部から加圧加熱または加圧冷却していく、所謂、枚葉式の真空熱プレス装置である。従って、図1の真空熱プレス装置200は、大きな真空チャンバを用いたバッチ型の真空熱プレス装置に較べて、生産効率やエネルギー利用効率に優れている。
図1の真空熱プレス装置200は、図6(a)に示したように熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルム20の導体パターン2aを底とする孔に導電ペースト4が充填され、図6(b)に示した樹脂フィルム20a〜20fの積層体を一括して真空熱プレスして、図6(c)の多層回路基板90を製造するのに好適な装置となっている。真空熱プレス装置200は、第1加圧加熱ユニットHU1と第2加圧加熱ユニットHU2の2つの加圧加熱ユニットを有しており、樹脂フィルム20a〜20fの積層体からなるシート材30に対して、次に示すように、圧力および温度の異なる2段階の処理を実施することができる。
図5は、図1の真空熱プレス装置200を用いて行う真空熱プレス工程の一例を模式的に示した図である。
上記したように導体パターン2aを底とする孔に導電ペースト4が充填された熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルム20a〜20fの積層体を真空熱プレスして多層回路基板90を製造する場合、真空熱プレス工程は、大別すると(1)導電ペースト4の乾燥および焼結、(2)樹脂フィルム20a〜20f同士の融着、(3)冷却成形の3段階のプロファイルを制御できることが重要である。尚、前述した銀(Ag)と錫(Sn)の混合粉末からなる導電ペースト4を用いる場合には、(2)の樹脂フィルム20a〜20f同士の融着段階において、錫の拡散が同時になされる。
上記3段階のプロファイルを制御するため、図1の真空熱プレス装置200では、図5に示すように、第1加圧加熱ユニットHU1の加熱温度を導電ペースト4の焼結温度220℃に設定し、第2加圧加熱ユニットHU2の加熱温度を熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルム20a〜20fの融着温度320℃に設定し、加圧冷却ユニットCUを冷却成形処理に用いている。このように、図1の真空熱プレス装置200は、第1加圧加熱ユニットHU1と第2加圧加熱ユニットHU2について、それぞれ導電ペースト4の焼結と樹脂フィルム20a〜20fの融着の各処理に適した温度と圧力を設定することができる。
また、図1の真空熱プレス装置200では、第1加圧加熱ユニットHU1、第2加圧加熱ユニットHU2および加圧冷却ユニットCUの各ユニットが、円周上に配置されている。特に、真空熱プレス装置200では、ワーク40aの脱着位置を含めて、各ユニットHU1,HU2,CUが、円周の中心に配置された旋回機構RMに対して、十字型に配置されている。該真空熱プレス装置200では、ワーク40aが円周の中心に配置された旋回機構RMを用いて間欠回転され、各ユニットHU1,HU2,CUの処理位置に素早く搬送される。従って、真空熱プレス装置200では、搬送の間におけるワーク40aの冷却を抑制することができ、ワーク40aの温度を確実に維持することができる。これによって、樹脂フィルム20a〜20fの積層体からなるシート材30の熱処理温度を厳密に制御することができ、高精度な多層回路基板90を高い歩留りで製造することができる。
以上のようにして、図1に示した真空熱プレス装置200は、多層回路基板を製造するための生産効率やエネルギー利用効率に優れる枚葉式の真空熱プレス装置であって、高精度な多層回路基板90を高い歩留りで製造することのできる真空熱プレス装置となっている。
次に、上記した真空熱プレス装置200の細部について、より詳細に説明する。
図1に示す真空熱プレス装置200は、ワーク40aの旋回機構RMが、ロータリ真空バルブ(図示省略)を有しており、シート材保持具40の密閉空間内が、該ロータリ真空バルブを介して、第1加圧加熱ユニットHU1、第2加圧加熱ユニットHU2および加圧冷却ユニットCUによる処理中、並びに旋回機構RMによる搬送中にも、減圧状態が維持される構造となっている。
これによれば、シート材保持具40の密閉空間内を当該真空熱プレス装置200への投入前に予め真空引きするだけでなく、該密閉空間内を、上記ロータリ真空バルブを介して、各ユニットHU1,HU2,CUでの処理中および旋回機構RMによる搬送中にも真空引きすることができる。従って、例えば加圧加熱処理中において該密閉空間内に保持されているシート材30(導電ペースト4)から発生するガスを排出できると共に、シート材30に形成されている導体パターン2aや導電ペースト4等の酸化を確実に防止することができる。
図3の基本構造Uに示すように、真空熱プレス装置200の第1加圧加熱ユニットHU1、第2加圧加熱ユニットHU2および加圧冷却ユニットCUは、それぞれ、ワーク40aを間に挟んで加圧加熱または加圧冷却する上側プレスユニットUPと下側プレスユニットDPとを有している。
図1の真空熱プレス装置200における第1加圧加熱ユニットHU1と第2加圧加熱ユニットHU2は、それぞれ、前述した(1)の導電ペースト4の乾燥および焼結段階と(2)の樹脂フィルム20a〜20f同士の融着段階を実施する部分である。従って、第1加圧加熱ユニットHU1と第2加圧加熱ユニットHU2では、図3の基本構造Uにおける上側加圧プレート50uと下側加圧プレート50dに、加熱ヒータHが設けてあり、上側加圧プレート50uと下側加圧プレート50dが熱盤となっている。一方、図1の真空熱プレス装置200における加圧冷却ユニットCUは、前述した(3)の冷却成形段階を実施する部分である。従って、加圧冷却ユニットCUでは、図3の基本構造Uにおける上側加圧プレート50uと下側加圧プレート50dに、冷却水Cが導入される構造となっている。また、上記加圧プレート50u,50dの周りには断熱壁DWが設けられており、断熱壁DWの構成も各ユニットHU1,HU2,CUで異なる。しかしながら、図1の真空熱プレス装置200において、加圧プレート50u,50dと断熱壁DW以外の主な構成、例えば加圧プレート50u,50dの昇降機構の構成は、各ユニットHU1,HU2,CU共に、図3と図4に示した共通の構成となっている。
図3に示す上側プレスユニットUPは、駆動モータMOの乗った駆動プレート53u、上側加圧プレート50uを吊り下げた上側昇降プレート54u、およびボールねじBNを4隅に配置した上面プレート55uの3層構造となっており、上面プレート55uが設備の構造体に固定されている。上側昇降プレート54uは、4隅にボールねじBNのナット部、中央に加熱加圧用のヒータブロックまたは冷却加圧用の冷却ブロックが取り付けてあり、該ブロックの先端面が平面度の高い上側加圧プレート50uとなっている。尚、第1加圧加熱ユニットHU1と第2加圧加熱ユニットHU2においては、上側昇降プレート54uとヒータブロック間に冷却水の通る回路が設けられた断熱材からなる断熱冷却プレートCPが挿入されており、ヒータブロックからの熱伝導によってボールねじBNのナット部が損傷しないようになっている。
図3の基本構造Uでは、駆動プレート53uの4隅に各ボールねじBNの駆動モータMOが取り付けてあり、必要に応じ個別または連携してボールねじBNを回転し、上側昇降プレート54u(従って上側加圧プレート50u)を昇降する構成となっている。このように、上側プレスユニットUPの上側加圧プレート50uは、少なくとも3対のボールねじBNからなる移動機構により昇降される構成とすることが好ましい。これによれば、上側加圧プレート50uの傾きを該少なくとも3対のボールねじで精密に制御することができ、対となる下側プレスユニットDPの下側加圧プレート50dに対する平行度を高い精度で確保することができる。従って、樹脂フィルム20a〜20fの積層体からなるシート材30に均等な圧力をかけることができ、高精度な多層回路基板90を高い歩留りで製造することができる。
次に、下側プレスユニットDPの構成を説明する。図3に示すように、下側プレスユニットDPは、基本的には上側プレスユニットUPを上下反転した構造となっているが、下側プレスユニットDPの下側昇降プレート54dの4隅には、スライドガイドSGが設けてある。そして、下側昇降プレート54dは、下面プレート55dと昇降シリンダCYを取り付けた駆動プレート53dの間で支持されている。下側プレスユニットDPは、駆動プレート53dで設備の構造体に固定されており、上下ユニットの位置関係を保っている。また、駆動プレート53dにはロックアップ機構LUが搭載されており、ロードセル(図示省略)を乗せた可動式のキーブロックKBが作動することにより、下側プレスユニットDPの下側昇降プレート54d(従って下側加圧プレート50d)を上昇位置に保持する構造となっている。
以上のように、下側プレスユニットDPの下側加圧プレート50dは、昇降シリンダCYとスライドガイドSGからなる移動機構により昇降されることが好ましい。これによれば、例えば上側プレスユニットUPと同じボールねじによる移動機構を採用する場合に較べて、下側加圧プレート50dを高速で昇降することができる。このように、下側加圧プレート50dの昇降時間を短縮することで、ワーク40aを各ユニットHU1,HU2,CU内の所定のプレス位置に素早く搬送することができ、各ユニットHU1,HU2,CU内工程でワーク40aの温度維持や処理時間の短縮を図ることができる。
また、この場合、下側加圧プレート50dは、上記したようにキーブロックKBからなるロックアップ機構LUにより、所定の上昇位置で固定される構成とすることが好ましい。これによれば、下側加圧プレート50dを昇降シリンダCYとスライドガイドSGからなる移動機構でプレス位置まで高速で上昇させた場合であっても、正確なプレス位置を確保することができる。
次に、真空熱プレス装置200のより具体的な動作例について説明する。
図1の真空熱プレス装置200において、第1加圧加熱ユニットHU1は、前述した(1)の導電ペースト4の乾燥および焼結段階を担うため、上側加圧プレート50uと下側加圧プレート50dが230℃に昇温保持されている。第2加圧加熱ユニットHU2は、前述した(2)の樹脂フィルム20a〜20f同士の融着段階を担うため、上側加圧プレート50uと下側加圧プレート50dが330℃に昇温保持されている。加圧冷却ユニットCUは、前述した(3)の冷却成形段階を担うため、上側加圧プレート50uと下側加圧プレート50dが20℃に冷却保持されている。また、各ユニットHU1,HU2,CUの後述するプレス圧力は、3.5Mpa(荷重10Ton)を目標値として制御されるように設定した。
ワーク40aは、図1の各ユニットHU1,HU2,CU内において、図3の上側プレスユニットUPが上昇端、下側プレスユニットDPがロックアップ機構LUを解除して下降端にある時、旋回機構RMで回転させることができる。図3の上側加圧プレート50uと下側加圧プレート50dは中心が同じ軸上にあり、ワーク40aは、その中心が前記中心軸に一致するように、図1の十字型に配置された各ユニットHU1,HU2,CUに旋回機構RMで搬送される。以上のようにして、搬送が終了した時点では、図1の真空熱プレス装置200における各ユニットHU1,HU2,CUにおいては、内部の密閉空間が真空状態に保持されたワーク40aがセットされている。また、真空熱プレス装置200における正面のワーク脱着位置では、処理を完了したワーク40aが次の仕掛ワークと取り替えられる状態にある。図1では、シート材30と開いた状態にあるシート材保持具40の仕掛状態にあるワークが図示されている。
次に、図4(a)〜(d)を用いて、ワーク40aが定位置にきた後、各ユニットHU1,HU2,CUでの一連の動作を説明する。
図4(a)に示すように、ワーク40aが上側加圧プレート50uと下側加圧プレート50dの中心軸に一致するように搬送されると、次の図4(b)に示すように、昇降シリンダCYを作動させ、ワーク40aを上昇させる。上側加圧プレート50uと下側加圧プレート50dは、ワーク40aが乗せられた下側加圧プレート50dを上昇端に持ち上げた時、上側加圧プレート50uに接触する高さとなるように設定されている。これによって、ワーク40aは上側加圧プレート50uと下側加圧プレート50dに挟まれて停止し、ワーク40aの昇温が始まる。次に、図4(c)に示すように、図示しないシリンダにより、キーブロックKBを移動させる。
次に、図4(d)に示すように、駆動モータMOによりボールねじBNを回動し、下側加圧プレート50dとの間でワーク40aを挟みながら、上側加圧プレート50uを下降させる。尚、昇降シリンダCYの推力はプレス荷重に比べ十分小さいため、下側プレスユニットDPの下側加圧プレート50dは、ロードセルLCにストッパSTが当接するまでわずかながら降下する。
ストッパSTがロードセルLCに当接すると、ロードセルLCの信号により、図示していない制御装置によって各ボールねじBNの回転量を駆動モータMOで制御し、ワーク40aに対してプレス荷重を制御しながらプレスを行う。このように、上側加圧プレート50uは、下降してワーク40aに接触しても下降端に至ることはなく、駆動モータMOとボールねじBNによる押し付け力(プレス力)が、ワーク40aに印加されるようになっている。この押し付け力は、各ボールねじBNの送り量を調整することで、適宜調整することが可能である。
また、上記押し付け力は、下側プレスユニットDPに設けた昇降シリンダCYが受けるのではなく、キーブロックKB上に設けた4つのロードセルLCが各ボールねじBNの軸力を受ける配置となっている。これにより、ワーク40aに加わる全荷重及び荷重バランスを4つのロードセルLCで把握することができるようになっている。
このように、前述した少なくとも3対のボールねじBNからなる移動機構を持った真空熱プレス装置においては、ロードセルLCが、各ユニットHU1,HU2,CUでの加圧加熱または加圧冷却時において、少なくとも3対のボールねじの下方にそれぞれ配置されていることが好ましい。これによって、上記した少なくとも3対のボールねじによる上側加圧プレート50uの傾きの制御を、それぞれの下方に配置されているロードセルLCの荷重をフィードバックさせて行うことができる。
尚、目標のプレス荷重は、例えば10Tonとなるように制御する(各軸2.5Ton)。ワーク40aの温度の上昇に伴いシート材保持具40内で熱膨張と樹脂フィルム20a〜20fの軟化が起きるため、プレス荷重は常に微小変化するが、ボールねじBNのリードを例えば10mmと細かくすることで、±0.2μmの分解能で制御することが可能である。また、上側加圧プレート50uと下側加圧プレート50dの平行性も同じ分解能で制御できるため、これまで困難であった熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルム20a〜20fの積層体の高精度プレスも可能となる。以上のようにして、樹脂フィルム20a〜20fの積層体からなるシート材30にかける圧力をより均等にすることができ、高精度な多層回路基板90を高い歩留りで製造することができる。
図4(d)の状態で所定の加熱時間(例えば8分)が経過すると、逆の手順で初期状態の図4(a)の状態に戻す。すなわち、上側プレスユニットUPの上側加圧プレート50uを上昇し、ワーク40aに加わる荷重が抜けた後、下側プレスユニットDPのキーブロックKBを外し、下側加圧プレート50dを降下させる。
次に、図1の旋回機構RMでワーク40aを回転させて、順次、次の各ユニットHU1,HU2,CUにワーク40aを搬送する。また、真空熱プレス装置200における正面のワーク脱着位置で、処理を完了したワーク40aのシート材保持具40からできあがった多層回路基板90を取り出す。
上記真空熱プレス装置200においては、各ユニットHU1,HU2,CUの温度を一体に保ち、ワーク40aのシート材保持具40に設けられたベース部41とカバー部42からなるシート材30の保持プレートの質量(昇降温熱量)を最小限に抑えることにより、300℃/分の昇温速度を実現することができる。各ユニットHU1,HU2,CUでの加圧処理時間(例えば8分)を考慮しても、10分/ユニットの高速処理が可能であり、また各ユニットHU1,HU2,CU間のワーク40aの搬送も10秒以下で可能であり、高速且つ高精度なプレスを実施することができる。
以上のようにして、上記真空熱プレス装置は、多層回路基板を製造するための生産効率やエネルギー利用効率に優れる枚葉式の真空熱プレス装置であって、高精度な多層回路基板を高い歩留りで製造することのできる真空熱プレス装置となっている。
尚、上記真空熱プレス装置200の実施例では、4隅にボールねじBNを配置した例で示したが、前述したように3本のボールねじBNを用いてもよい。また、駆動モータMOは、4個でなく、1個で構成することも可能である。また、上記真空熱プレス装置200では、円周上で、十字型にユニットHU1,HU2,CUとワーク40aの脱着位置が配置されていた。しかしながらこれに限らす、本発明の真空熱プレス装置は、必要に応じてユニット数を増加して図5のプロファイルをより詳細に制御したり、各ユニットの配置位置を変更して搬送時間を変更したりすることが可能である。