JP4893668B2 - 鍛造方法およびピストンの鍛造方法 - Google Patents
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Description
上記のような全体の形状が複雑で、且つ各部の肉厚にそれなりの差があるピストンを、アルミニウム合金からなり、且つ偏平な円柱形のブランクから熱間鍛造によって製造する場合、係るブランクから生じるメタルフローをピストンにおける各部の形状に適合させることが必要となる。
また、鍛造中における素材のブランクの塑性流動性を改善し、パイピングの発生を抑えるため、上記素材において凹部を含む上面全体に潤滑剤を0.27mg/mm2以下の塗布量で塗布して、上記素材を塑性流動させる、アルミニウム合金鍛造製品の製造方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
ピストンに設けるべきスカート部とピンボス部とは、以上のように、鍛造工程で同じブランクのアルミニウム合金から生じるメタルフローが互いに相反する挙動を示すため、これまでは、スカート部の肉欠けとピンボス部の前記「かぶり」とを、同時に解決した鍛造方法が、見出されていなかった。
即ち、本発明の鍛造方法(請求項1)は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるブランクの表面において、係る表面のうち鍛造時にメタルフローが比較的生じにくい製品の隆起部分となる部分表面に潤滑油を塗布する塗布工程と、雌型におけるキャビティの底面に、上記部分表面に潤滑油が塗布された上記ブランクをセットするセット工程と、上記雌型のキャビティ内に、雄型を進入させ、係る雄型の底面、あるいは、上記雌型におけるキャビティの底面の凹部を含む形状と反対の反転形状を、上記ブランクの表面側に成形する鍛造工程と、を備える、ことを特徴とする。
また、前記潤滑油は、特に限定されないが、鉱物性油、脂肪性油、植物性油、グリースなどが含まれる。例えば、ブランクの表面に皮膜状に塗布するため、水溶性の潤滑剤を用いたり、溶媒を併用する難水溶性の潤滑剤を用いても良い。
更に、前記雄型の凹部あるいは雌型の凹部は、雌型における円柱形のキャビティの軸方向に沿った複数個の形態があり、係る凹部には、例えば、ピストンにおける一対のスカート部の成形用、一対のピンボス部の成形用、あるいは一対の突壁の成形用などの各種の凹部が含まれる。
これによれば、例えば、前記ブランクの表面に位置する一対の対称な部分表面、あるいは帯状の部分表面にのみ潤滑油が過不足なく塗布されるため、係る部分表面の付近では、鍛造時にメタルフローが比較的生じにくなって、薄肉で且つ軸方向に沿って長い隆起部分(例えば、ピストンにおける一対のスカート部)を確実に成形できる。一方、前記部分表面を除いたブランクの表面の付近では、鍛造時にメタルフローが抑制されるため、薄肉で且つ軸方向に沿って短く、先端部に前記「かぶり」のない健全な隆起部分(例えば、ピストンにおける一対のピンボス部や突壁部)を確実に成形できる。
これによれば、先端部に肉欠けのない所定形状および寸法を有する一対のスカート部と、先端部に沿って前記「かぶり」のない一対のピンボス部とを含む健全なピストンを、精度良く確実に鍛造成形することが可能となる。
尚、以下では、ピストンの鍛造方法に沿って、本発明の鍛造方法を説明する。
図1は、アルミニウム合金(例えば、JIS:4000系合金)からなり、円周面rを有する円盤形状のブランクB0において、追って鍛造工程において上面側となる表面b1に対し、潤滑油jを部分的に塗布する工程の概略を示す斜視図である。
図1に示すように、ブランクB0の裏面b2を上向きとし且つ表面b1を下向きとして、表面b1における図1で前後方向に位置する一対の円弧部分を、図示しない水平で且つ互いに平行な一対の水平部材の上に載置して、当該ブランクB0を水平姿勢に保持する。
予め、塗布治具1の箱部6ごとの凹部8に潤滑油jを充填しておき、図1中の実線の矢印で示すように、ロッド2と共に、一対の箱部6を前記ブランクB0の表面b1に向かって上昇させ、各箱部6の上面をブランクB0の表面b1において、該表面b1の中心に対し互いに対称となる位置の部分表面f1,f2に接触させる。係る接触状態を約1〜数秒間保持した後、前記ロッド2と共に各箱部6を下降させて、塗布治具1をブランクB0から離す(塗布工程)。
図3に示すように、雌型10の底部12の中心部には、キャビティC側に拡径したテーパ部を上端に有する垂直な貫通孔13が形成され、係る貫通孔13には、細径のノックアウトピンkが昇降可能に挿入されている。
尚、潤滑油jが部分的に塗布されたブランクB0は、上記セットに先だって、予め、約420〜500℃に加熱される。また、雌型10は、予め、約300〜400℃に加熱され、そのキャビティCの内周面および底面14には、例えば、黒鉛含有オイルからなる離型剤が塗布されている。更に、前記ブランクB0の円周面rとキャビティCの内周面との間には、図示しない所定のクリアランスが形成されている。
雄型15は、図4に示すように、円柱形の本体16と、その底面17の半径方向の両端部付近から軸方向に沿って長く延び且つ幅が狭い一対の凹部18と、図4での視覚から水平方向に90度回転した位置の図5に示すように、前記一対の凹部18,18間の中間で且つ底面17の中心に対し対称な位置から軸方向に沿って短く延び且つ幅が広い一対の凹部19と、係る凹部19と上記凹部18との間を連通する図示しない溝状で一対の凹部と、を備えている。
図4,図5に示すように、雄型15の底面17がブランクB0の前記表面b1を下向きに押圧して、キャビティCの底面14側に接近する下死点付近に達すると、ブランクB0を形成するアルミニウム合金は、塑性流動して各図中の矢印で示すメタルフローFを生じる。この際、雄型15の各凹部18内には、ブランクB0の表面b1において、潤滑油jが塗布された部分表面f1,f2付近のアルミニウム合金が、潤滑油jによって助長されたメタルフローFに沿って流入する。
更に、一対のピンボス部pbと前記一対のスカート部s1,s2との間には、前述した一対の溝状の凹部によって、上記「かぶり」のない平行な一対の突壁が成形される。
そして、前記ノックアウトピンkを上昇させて、キャビティC内からピストンPを抜き出す。尚、前記貫通孔13のテーパ部内に進入した前記アルミニウム合金の一部により形成されるほぼ円錐形の凸部は、研磨などによって除去される。
係るピストンPは、図6に示すように、円周面r、その一端に位置する円形のヘッドh、係るヘッドhの反対(連接棒)側に延びる曲面板形状を呈する一対のスカート部s1,s2、これらの中間に位置する一対のピンボス部pb、およびスカート部s1,s2とピンボス部pb,pbとの間を接続し、上面がカーブする一対の突壁wを一体に備えている。尚、スカート部s1,s2と一対のピンボス部pbと一対の突壁wとの間には、箱形状の溝gが同時に形成される。
従って、本発明の鍛造方法によれば、各部の形状および寸法精度が安定し、且つ肉欠けや「かぶり」などの欠陥がないか、ほぼ皆無であるピストンPなどを確実に鍛造成形することが可能となる。
同じアルミニウム合金(JIS:4000系合金)からなり、表面b1,裏面b2の直径:78mm×軸方向の長さ:14.65mmである円柱形のブランクB0を、合計300個用意した。係る300個のブランクB0を100個ずつ3等分して3組とし、1つ目の組のブランクB0の表面b1には、前記塗布治具1を用いて、追ってピストンのスカート部となる位置の部分表面f1,f2に、黒鉛系水溶性潤滑油jを同じ条件により塗布して、実施例とした。
また、2つ目の組のブランクB0の表面b1には、上記潤滑油jを全面に塗布して、比較例1とした。更に、3つ目の組のブランクB0の表面b1には、潤滑油jを塗布せず、比較例2とした。
前記各例ごとの全ブランクB0に対し、前記雌型10および雄型15を用いて、熱間鍛造(鍛造圧力:350ton)を順次行って、前記ピストンPを成形した。この際、ブランクB0の加熱温度は、460℃、雌型10の加熱温度は、350℃、雄型15の加熱温度は、270℃とした。また、雌型10のキャビティC内と雄型15の底面17や凹部18,19などには、同じ離型剤を塗布した。
更に、全てのピストンPについて、前記図6で示した一対のスカート部s1,s2の先端部を各例別に目視で観察し、1箇所でも肉欠けを有していたを「有り」カウントして、表1に各例別に示した。
これに対し、比較例1のピストンPは、「かぶりq」のない健全なものが12個、修理可能なものが43個、NGが45個であった。また、比較例2のピストンPは、「かぶりq」のない健全なものが89個、残り11個は修理可能なものであった。
係る結果は、実施例および比較例2のピストンPでは、ピンボス部pbとなる表面には、潤滑油jが塗布されず、前記アルミニウム合金によるメタルフローFが過度に助長されなかったため、厚肉で且つ軸方向に沿って短い一対のピンボス部pbに「かぶりq」が生じにくくなった、ものと推定される。
これらに対し、比較例1のピストンPでは、ピンボス部pbとなる表面を含む前記ブランクB0の表面b1の全面に潤滑油jが塗布されたことに起因して、メタルフローFが過度に助長されたため、ピンボス部pbで「かぶりq」が生じ易くなり、約半数がNGになった、ものと推定される。
係る結果は、実施例のピストンPでは、前記ブランクB0の表面b1でスカート部s1,s2となる部分表面f1,f2のみに潤滑油jが塗布され、比較例1のピストンPでは、上記表面b1全体に潤滑油jが塗布されたため、前記アルミニウム合金によるメタルフローFが助長され、薄肉で軸方向に沿って長いスカート部s1,s2の先端部にまで十分にメタルが充填された、ものと推定される。
これらに対し、比較例2のピストンPでは、前記ブランクB0の表面b1に潤滑油jが全く塗布されなかったため、前記メタルフローFが不十分となって、過半数のものに肉欠けが生じた、ものと推定される。
以上のような実施例の鍛造方法によれば、潤滑油jを各部分の形状および寸法ごとに対応して塗布したことで、「かぶりq」が殆どないピンボス部pb、および肉欠けのないスカート部s1,s2を有する健全なピストンPを確実に鍛造成形できることが確認され、本発明の効果が裏付けられた。
例えば、本発明の塗布工程は、前記塗布治具1の箱部6を別の細長い1つの箱部としたり、あるいは、前記金属薄板の中央部に細長い長方形の切り欠きを設けたマスクを塗布工程で用いることによって、図9に示すように、ブランクB1の表面b1に、その中心部を含めて直径方向に通過する帯状の部分表面f3を形成することも可能である。
また、係る部分表面f3を有するブランクB1は、前述した潤滑油jによるメタルフローFの作用に応じた形状および寸法のピストンの鍛造に用いられる。
更に、ブランクB0の表面b1に潤滑油jを塗布すべき部分表面は、3箇所以上としても良い。
加えて、本発明の鍛造方法は、ピストン以外のアルミニウム製品の熱間鍛造にも適用することが可能である。
b1…………表面
f1〜f3…部分表面
j……………潤滑油
6……………箱部
8……………油溜め用の凹部
10…………雌型
C……………キャビティ
14,17…底面
15…………雄型
18,19…凹部
s1,s2…スカート部(隆起部分)
pb…………ピンボス部
P……………ピストン(製品)
Claims (3)
- アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるブランクの表面において、係る表面のうち鍛造時にメタルフローが比較的生じにくい製品の隆起部分となる部分表面に潤滑油を塗布する塗布工程と、
雌型におけるキャビティの底面に、上記部分表面に潤滑油が塗布された上記ブランクをセットするセット工程と、
上記雌型のキャビティ内に、雄型を進入させ、係る雄型の底面、あるいは上記雌型におけるキャビティの底面の凹部を含む形状と反対の反転形状を、上記ブランクの表面側に成形する鍛造工程と、を備える、
ことを特徴とする鍛造方法。 - 前記塗布工程は、前記ブランクの表面を下向きとし、該表面のうち前記部分表面に対し、下側から平面視が該部分表面と相似形の油溜め用の凹部を有する箱部を接触させて行われる、
請求項1に記載の鍛造方法。 - 請求項1または2に記載の鍛造方法における前記塗布工程において、潤滑油が塗布される前記ブランクの部分表面は、追ってピストンのスカート部となる部分である、
ことを特徴とするピストンの鍛造方法。
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