JP4890061B2 - インサート部材及びそれを用いた突合せアーク溶接方法 - Google Patents
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Description
また、確実な溶接が要求される原子力プラントや、高い溶接強度が要求される圧力容器など、溶接部に高い品質と信頼性が要求される場合には、被溶接物の裏側に形成される裏波ビード(以下、単に「裏波」という)を良好な状態にする必要があり、突合せ部にインサートリング(インサート部材)を挿入して施工する方法が用いられている。この突合せ溶接を行なう場合、先ず、被溶接物の間にインサートリングを挟んだ状態で位置合わせし、点溶接などの仮付け溶接を行なう。その後、突合せ部を本溶接すると、インサート部材が溶融して溶接部が一体化されて被溶接物同士が接合する。このようにインサートリングを用いて突合せ溶接する方法については、例えば特許文献1に開示されているものがある。
特許文献1は、管の突合せ溶接において、インサートリングを挿入するための管の開先形状をU型形状とし、ルートフラット長(すなわちU型の底の幅に相当する長さ寸法)と、ルートフェース長(すなわちU型の底の厚さ寸法)を調整することにより適正な溶け込み確保するものである。これにより、管の全周にわたって管の内面と同一の高さ或いは凸型形状の裏波を形成させるものである。
また、この仮付け作業では、溶接施工者の技量によって、位置決め精度にバラツキが生じることもあり、その結果、十分な裏波を確保できない場合があった。
本発明では、インサート部材に形成される凹部に被溶接物の開先端面を係止させることができることから、被溶接物同士を突き合わせてなる位置決め作業を精度よく且つ容易に行うことができ、しかも位置決めの作業時間を低減させることができる。また、インサート部材が被溶接物同士に挟まれた状態となっていてずれることがないため、適正なルート間隔(開先端面同士の間隔)を確保でき、精度の高い位置決めを行うことがでる。
本発明では、アークを発する面と反対の面に、外径の大きな円形断面をなすインサート部材を配置することで、裏波の量を増加させて良好な裏波を形成することができる。
本発明では、市販の溶接棒を用いてインサート部材を形成することができるため、材料の入手が容易となる。そして、二本の溶接棒を並列に接合するだけの作業によって、インサート部材を製作できることから、製作コストの低減を図ることができる。
本発明では、インサート部材の凹部に被溶接物の開先端面を係止させる構成であることから、被溶接物同士を突き合わせてなる位置決め作業を精度よく且つ容易に行うことができ、しかも位置決めの作業時間を低減させることができる。また、インサート部材が被溶接物同士に挟まれた状態となっていてずれることがないため、適正なルート間隔(開先端面同士の間隔)を確保でき、精度の高い位置決めを行うことがでる。そして、この突合せ部に突合せアーク溶接を行なうことで、インサート部材自体が溶融し、安定した強度の大きな溶接部(裏波)を形成することができる。
図1は本発明の実施の形態によるインサート部材を示す斜視図、図2はインサート部材を用いた突合せアーク溶接方法の概略を示す説明図、図3は突合せアーク溶接の溶接状態を示す説明図である。
ここで、第一及び第二溶接棒11,12の材料としては、溶接時の垂れ落ちが発生しにくいことから粘性が高い溶接棒が好ましいとされる。
また、市販の溶接棒を用いてインサート部材1を形成することができるため、材料の入手が容易となる。さらに、二本の溶接棒11、12を並列に束ねて接合するだけの作業によって、インサート部材1を製作できることから、製作コストの低減を図ることができる。
なお、特に符号を付さないが、「横方向」とは後述する平板21、22同士を突合せする方向(つまり、両者21、22を挟み込む方向)であること、「縦方向」とは前記横方向に対して直交する方向であること、を統一して用いている。
図2に示すように、インサート部材1は、Y型形状の開先に形成された被溶接物20の突合せ部Wに配置して突合せアーク溶接する際に用いられるものである。
被溶接物20としては、平板や管材などに適用することができるが、本実施の形態では鋼材などからなる二枚の平板21、22を採用する。ここで、突合せ部Wに対してアーク発生側を「上部」、その反対面(平板21、22の裏面21d、22d側)を「下部」として以下、説明する。
なお、Y型形状をなす突合せ部Wを形成する平板21、22の開先端面21a,22a(図2参照)は、インサート部材1に当接するルート面21b、22bと、ルート面21b、22bより上方(即ち、アーク発生側)に位置するテーパ面21c、22cとが形成されている。 そして、二つの円形断面からなる本インサート部材1は、第一溶接棒11の外殻線が平板21、22のテーパ面21c、22cに対して干渉することなく配置することができるため、Y型形状の突合せ部Wに好適な形状となっている。
また、例えばインサート部材1の凹部1a,1aと平板21、22との係止のみで確実に姿勢が保持される場合には、インサート部材1と平板21、22との仮付け溶接を行なわずに突合せ部Wを形成させることも可能である。
さらに、第二溶接棒12(正確には平板21,22の裏面21d,22dから突出するインサート部材1)の大きさを変更することで、裏波30の大きさ、形状を調整することができる。
例えば、本実施の形態では、突合せ部Wの開先形状をY型形状としているが、この開先形状に限定されることはなく、このほかの開先形状として、例えばV型形状、X型形状、H型形状などの形状の開先に使用することができる。
また、本実施の形態では、被溶接物20を平板21、22としているが、このほかに管同士の突合せ溶接などにも使用してもよい。
さらに、本実施の形態では二本の溶接棒11、12を並列に接合して断面視略8の字形状をなすインサート部材1としているが、このような断面形状に限定されることはなく、例えば断面四角形状の溶加材で、その縦方向の外殻線の略中央に一対の凹部を形成させてなるインサート部材であってもかまわない。要はインサート部材の断面形状における両側部に、被溶接物を係止させることが可能な凹部がインサート部材に形成されていればよいのである。
また、本実施の形態ではTIG溶接法としているが、これに限定されることはなく、MIG溶接またはMAG溶接などの他のアーク溶接法であってもかまわない。
さらにまた、本実施の形態では平板21、22の裏面21d、22d側に外径の大きな第二溶接棒12を突出させて配置させているが、これに限定されず、第一及び第二溶接棒11,12の外径は同じ、或いは上部に位置する第一溶接棒11を大きくしてもかまわない。要は平板21、22の裏面側に突出する溶接棒の外径を適宜変更することで、裏波30の大きさ、形状を調整すればよいのである。
以下、実施の形態による図1乃至図3、及び図4を参照して実施例を説明する。
図4はインサート部材を用いた突合せアーク溶接によって形成された裏波の状態を示す写真である。
そして、溶接条件として、溶接方法は手動TIG溶接にて行ない、その溶接時における姿勢は、下向姿勢および立向上進姿勢とした。また、溶接時のピーク電流を150A、ベース電流を75A、周波数1.5Hz、ピーク電流時間/ベース電流時間を0.5、平均電流を180Aとした。
図4の写真では、実施例における溶接は平板21、22の略中央の位置まで実施され、その略中央から写真左側にインサート部材1の第二溶接棒12が平板21、22の裏面21d、22dに突出しているのがわかる。また、同様に略中央から右側では、第二溶接棒12が溶融して裏波30が成形されていることがわかる。これによると、裏波30の形状は、十分に溶け込みされた安定した形状に成形されていることが確認できる。
さらに、平板21、22の板厚は、3mmより小さい寸法の場合では開先加工が困難であることから、3mm以上とすることが好ましい。
1a 凹部
11 第一溶接棒
12 第二溶接棒
21、22 平板(被溶接物)
30 裏波
R 接合部
W 突合せ部
Claims (4)
- 突合せ溶接に用いられ、互いに溶接される被溶接物同士の突合せ部に配置されるインサート部材であって、
断面形状の縦方向の外殻線をなす両側部に、横方向に対向する一対の凹部が形成されており、
前記断面形状は二つの円形断面が外接され又は一部に重なりをもって接合されて接合部を形成してなり、該接合部に前記凹部が形成されていることを特徴とするインサート部材。 - 前記二つの円形断面の外径が異なることを特徴とする請求項1に記載のインサート部材。
- 前記二つの円形断面は、二本の溶接棒を並列に接合させて形成されてなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインサート部材。
- 互いに溶接される被溶接物同士の突合せ部に配置されるインサート部材を用いた突合せアーク溶接方法であって、
前記インサート部材は、外径が異なる二つの円形断面を接合させて形成されるとともに、断面形状の縦方向の外殻線をなす両側部に、横方向に対向する一対の凹部が形成され、
前記インサート部材の前記凹部に前記被溶接物の開先端面を係止させて姿勢を保持して突合せ部を形成し、その後に該突合せ部を溶接するようにし、
前記インサート部材の前記凹部に前記被溶接物の開先端面を係止させたときに、外径の大きな前記円形断面が前記被溶接物の裏面側に配置されるようにしたことを特徴とするインサート部材を用いた突合せアーク溶接方法。
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