JP4889142B2 - 窒化物系半導体レーザ素子 - Google Patents

窒化物系半導体レーザ素子 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、BN(窒化ホウ素)、GaN(窒化ガリウム)、AlN(窒化アルミニウム)、InN(窒化インジウム)もしくはTlN(窒化タリウム)またはこれらの混晶等のIII −V族窒化物系半導体(以下、窒化物系半導体と呼ぶ)からなる窒化物系半導体レーザ素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高密度かつ大容量の光ディスクシステムに用いられる記録または再生用の光源として、青色または紫色の光を発する窒化物系半導体レーザ素子の研究開発が行われている。
【0003】
図11は従来の窒化物系半導体レーザ素子の例を示す模式的な断面図である。
図11に示す半導体レーザ素子は、サファイア基板81のC(0001)面上に、MOCVD法(有機金属化学的気相成長法)により、アンドープのAlGaNからなるバッファ層82、アンドープGaN層83、n−GaNからなるn−GaNコンタクト層84、n−InGaNからなるクラック防止層85、n−AlGaNからなるn−AlGaNクラッド層86、InGaNからなる発光層87、p−AlGaNからなるp−AlGaNクラッド層91およびp−GaNからなるp−GaNコンタクト層92が順に形成されてなる。
【0004】
発光層87は、n−GaNからなるn−GaN光ガイド層88と、InGaNからなり多重量子井戸(MQW)構造を有するMQW活性層89と、p−GaNからなるp−GaN光ガイド層90とが順に積層されてなる。
【0005】
p−GaNコンタクト層92からp−AlGaNクラッド層91の所定深さまでがエッチングにより除去されている。それにより、p−GaNコンタクト層92およびp−AlGaNクラッド層91からなるストライプ状のリッジ部93が形成されるとともに、p−AlGaNクラッド層91に平坦部が形成される。このリッジ部93のp−GaNコンタクト層92上にp電極131が形成されている。また、p−AlGaNクラッド層91の平坦部からn−GaNコンタクト層84までの一部領域がエッチングにより除去され、n−GaNコンタクト層84のn電極形成領域94が露出している。この露出したn電極形成領域94上にn電極132が形成されている。
【0006】
リッジ部93の両側面、p−AlGaNクラッド層91の平坦部上面、p−AlGaNクラッド層91からn−GaNコンタクト層84までの側面、ならびにn電極132が形成された領域を除くn−GaNコンタクト層84上面にSiO2 等のSi酸化物からなる絶縁膜95が形成されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
図11の半導体レーザ素子においては、例えば従来のAlGaAs系半導体レーザ素子と比較して、発光層87とn−AlGaNクラッド層86およびp−AlGaNクラッド層91との屈折率の差が約4分の1〜3分の1と小さい。このため、発光層87のMQW活性層89において発生した光は、発光層87に導波されにくい。
【0008】
また、発光層87のMQW活性層89において発生した光を閉じ込めるn−AlGaNクラッド層86およびp−AlGaNクラッド層91の外側に位置するn−GaNコンタクト層84およびp−GaNコンタクト層92の屈折率が、n−AlGaNクラッド層86およびp−AlGaNクラッド層91よりも大きくなるいわゆる反導波構造となる。このため、n−AlGaNクラッド層86およびp−AlGaNクラッド層91からn−GaNコンタクト層84およびp−GaNコンタクト層92に光が漏れる。
【0009】
ここで、例えば、従来のAlGaAs系半導体レーザ素子の場合では、AlGaAsからなる活性層より発生したレーザ光に対して吸収のあるGaAsのような吸収係数の大きな材料から構成されるコンタクト層は、クラッド層から漏れ出した光を吸収することが可能である。しかしながら、上記のようにGaNから構成されるn−GaNコンタクト層84およびp−GaNコンタクト層92は、吸収係数が小さいため、n−AlGaNクラッド層86およびp−AlGaNクラッド層91から染み出した光を吸収することができない。
【0010】
以上のことから、上記の半導体レーザ素子においては、発光層87に十分に光を導波することが困難であり、垂直横モードが高次モードになりやすく、安定した垂直基本横モードが得られにくい。
【0011】
特に、この場合においては、p型層91,92に比べて厚さが大きいサファイア基板81側の層82〜86およびサファイア基板81において、光の漏れ出しがより大きくなる。このため、サファイア基板81側においては、より垂直横モードが高次モードになりやすい。
【0012】
このように、上記の半導体レーザ素子においては、安定した垂直基本横モードを得ることが困難であることから、しきい値電流の低減化を図ることが困難である。
【0013】
一方、垂直横モードが高次モードになることを防止して安定な垂直基本横モードを得る方法としては、n−AlGaNクラッド層86およびp−AlGaNクラッド層91のAl組成を大きくする(例えば0.07より大きくする)か、または、n−GaNコンタクト層84に数%のAlを加える(例えばAlを0.02程度加える)方法がある。このような方法により、半導体レーザ素子において垂直基本横モードが得られやすくなる。
【0014】
しかしながら、これらの場合においては、Al組成を大きくすることによって成長層にクラックが発生しやすくなり、その結果、素子の歩留まりが大きく低下してしまう。
【0015】
ところで、上記の半導体レーザ素子のMQW活性層89は、GaNやAlGaNに比べて格子定数が大きいInGaNから構成される。このようなInGaNから構成されるMQW活性層89は、膜厚を大きくすると結晶性が劣化する。したがって、MQW活性層89の結晶性を劣化させないためには、MQW活性層89の厚さを数十Åと小さくする必要がある。
【0016】
しかしながら、このようにMQW活性層89の厚さを小さくした場合、発光層87に特に光を導波しにくく、垂直横モードがさらに高次モードになりやすい。このため、半導体レーザ素子においてしきい値電流の低減化を図ることがより困難となる。
【0017】
本発明の目的は、安定な垂直基本横モードを得ることが可能でありしきい値電流の低減化を図ることが可能な窒化物系半導体レーザ素子を提供することである。
【0018】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
第1の発明に係る窒化物系半導体レーザ素子は、基板上に活性層を含む窒化物系半導体層が形成されてなる窒化物系半導体レーザ素子であって、基板は、活性層から漏れ出した光を吸収可能な材料から構成されるものである。
【0019】
本発明に係る窒化物系半導体レーザ素子においては、活性層から漏れ出した光を吸収可能な材料から構成される基板が用いられているため、活性層から漏れ出した光を基板において吸収することが可能である。したがって、このような窒化物系半導体レーザ素子においては、活性層からの光の漏れを低減することが可能となり、垂直横モードが高次モードとなることを防止することが可能となる。
【0020】
それにより、上記の半導体レーザ素子においては、安定した垂直基本横モードを得ることが可能となり、しきい値電流の低減化を図ることが可能となる。
【0021】
また、このような窒化物系半導体レーザ素子においては、窒化物系半導体層におけるクラックの発生を招くことなく垂直基本横モードを実現することが可能であるため、高い歩留まりでの製造が実現可能となる。
【0022】
【0023】
【0024】
基板の少なくとも一部は活性層よりも小さなバンドギャップを有する窒化物系半導体から構成されてもよい。このような基板においては、活性層から漏れ出した光を、活性層よりも小さなバンドギャップを有する窒化物系半導体から構成される部分において吸収することが可能となる。
【0025】
なお、ここで、活性層が障壁層および井戸層から構成される多重量子構造(MQW構造)を有する場合においては、井戸層のバンドギャップを活性層のバンドギャップとする。
【0026】
また、活性層はInGaNを含む窒化物系半導体から構成され、基板の少なくとも一部はInGaNを含む窒化物系半導体から構成されてもよい。このような基板においては、活性層から漏れ出した光をInGaNから構成される部分において吸収することが可能となる。
【0027】
また、基板はInGaN層とAlGaN層とが積層された超格子構造を有してもよい。このような基板においては、活性層から漏れ出した光をInGaN層において吸収することが可能となるとともに、基板と窒化物系半導体層との間に生じる歪みを緩和することが可能となる。
【0028】
第2の発明に係る窒化物系半導体レーザ素子は、基板上に、第1の窒化物系半導体層と、活性層を含む第2の窒化物系半導体層とが形成されてなる窒化物系半導体レーザ素子であって、第1の窒化物系半導体層は活性層から漏れ出した光を吸収可能な材料から構成されるものである。
【0029】
本発明に係る窒化物系半導体レーザ素子においては、活性層から漏れ出した光を吸収可能な材料から第1の窒化物系半導体層が構成される。このため、活性層から漏れ出した光を第1の窒化物系半導体層において吸収することが可能となる。したがって、このような窒化物系半導体レーザ素子においては、活性層からの光の漏れを低減することが可能となり、垂直横モードが高次モードとなることを防止することが可能となる。
【0030】
それにより、上記の窒化物系半導体レーザ素子においては、安定した垂直基本横モードを得ることが可能となり、しきい値電流の低減化を図ることが可能となる。
【0031】
また、このような窒化物系半導体レーザ素子においては、窒化物系半導体層におけるクラックの発生を招くことなく垂直基本横モードを実現することが可能であるため、高い歩留まりでの製造が実現可能となる。
【0032】
【0033】
【0034】
第1の窒化物系半導体層は活性層よりも小さなバンドギャップを有する窒化物系半導体から構成される層を含んでもよい。このような第1の窒化物系半導体層においては、活性層から漏れ出した光を、活性層よりも小さなバンドギャップを有する窒化物系半導体から構成される層において吸収することが可能となる。
【0035】
なお、ここで、活性層が障壁層および井戸層から構成される多重量子構造(MQW構造)を有する場合においては、井戸層のバンドギャップを活性層のバンドギャップとする。
【0036】
また、活性層はInGaNを含む窒化物系半導体から構成され、第1の窒化物系半導体層はInGaN層を含んでもよい。このような第1の窒化物系半導体層においては、活性層から漏れ出した光をInGaN層において吸収することが可能となる。
【0037】
また、第1の窒化物系半導体層はInGaN層とAlGaN層とが積層された超格子構造を含んでもよい。このような第1の窒化物系半導体層においては、活性層から漏れ出した光をInGaN層において吸収することが可能となる。
【0038】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の参考形態に係る窒化物系半導体レーザ素子の一例を示す模式的な断面図である。図1に示す半導体レーザ素子100は、以下の方法により作製される。
【0039】
半導体レーザ素子100の作製時においては、まず、MgがドープされたがGaNからなる厚さ150μmのp−GaN基板1上に、MOCVD法(有機金属化学的気相成長法)により、MgがドープされたGaNからなる厚さ2μmのp−GaNバッファ層2、MgがドープされたIn0.03Ga0.97Nからなる厚さ0.1μmのp−InGaNクラック防止層3、MgがドープされたAl0.07Ga0.93Nからなる厚さ1.0μmのp−AlGaNクラッド層4、後述の発光層5、SiがドープされたAl0.07Ga0.93Nからなる厚さ0.4μmのn−AlGaNクラッド層6およびSiがドープされたGaNからなる厚さ0.1μmのn−GaNコンタクト層7を順に成長させる。
【0040】
この場合、図2に示すように、発光層5の成長時においては、まず、MgがドープされたGaNからなる厚さ0.1μmのp−GaN光ガイド層51およびMgがドープされたAl0.2 Ga0.8 Nからなる厚さ200Åのp−AlGaNキャリアブロック層52を順に成長させる。
【0041】
続いて、p−AlGaNキャリアブロック層52上に、SiがドープされたIn0.02Ga0.98Nからなるn−InGaN障壁層53とSiがドープされたIn0.09Ga0.91Nからなるn−InGaN井戸層54とを交互に積層して多重量子井戸構造(MQW構造)を有するMQW活性層57を成長させる。
【0042】
なお、この場合においては、厚さ100Åの4つのn−InGaN障壁層53と厚さ50Åの3つのn−InGaN井戸層54とが交互に積層されてMQW活性層57が構成されている。
【0043】
上記のようにして形成したMQW活性層57上にSiがドープされたAl0.2 Ga0.8 Nからなる厚さ200Åのn−AlGaNキャリアブロック層55を成長させ、さらにこのn−AlGaNキャリアブロック層55上に、SiがドープされたGaNからなる厚さ0.1μmのn−GaN光ガイド層56を成長させる。
【0044】
以上のようにして、p−GaN光ガイド層51、p−AlGaNキャリアブロック層52、MQW活性層57、n−AlGaNキャリアブロック層55およびn−GaN光ガイド層56から構成される発光層5を形成する。
【0045】
上記のように、半導体レーザ素子100の作製時においては、Mgがドープされたp−GaN基板1を用いるとともに、このp−GaN基板1上にMgがドープされたp−GaNバッファ層2、p−InGaNクラック防止層3およびp−AlGaNクラッド層4を成長させる。
【0046】
ここで、通常、窒化物系半導体から構成される層および基板は肉眼では透明に見えるが、上記のようにMgがドープされた窒化物系半導体から構成されるp−GaN基板1および各層2〜4は、Mgにより黒色をおびている。このようにMgがドープされて黒色をおびたp−GaN基板1、p−GaNバッファ層2、p−InGaNクラック防止層3およびp−AlGaNクラッド層4においては、可視光を吸収することが可能となる。
【0047】
なお、Mgがドープされたp−GaN基板1および各層2〜4において上記のように光を吸収することが可能となるのは、Mgをドープすることにより、p−GaN基板1および各層2〜4のエネルギーバンド中に不純物準位が形成されるためであると考えられる。
【0048】
上記のようにしてp−GaN基板1上に各層2〜7を成長させた後、n−GaNコンタクト層7からn−AlGaNクラッド層6の所定深さまでをエッチングにより除去する。それにより、n−GaNコンタクト層7およびn−AlGaNクラッド層6から構成される幅2μmのストライプ状のリッジ部を形成するとともに、n−AlGaNクラッド層6に厚さ0.05μmの平坦部を形成する。
【0049】
次に、p−GaN基板1の結晶成長面と反対側の面にNi膜を形成してp電極16を形成する。また、リッジ部側面およびn−AlGaNクラッド層6の平坦部上面にSiO2 からなる厚さ0.3μmの絶縁膜8を形成するとともに、リッジ部上面および絶縁膜8上にTi膜およびAl膜を順に積層してn電極15を形成する。
【0050】
最後に、例えば劈開により、共振器長500μmの共振器を作製する。以上のようにして、半導体レーザ素子100を作製する。
【0051】
図3は、上記の方法により作製された半導体レーザ素子100の各層2〜7およびp−GaN基板1の有する屈折率を示す模式図である。
【0052】
なお、基板および各層がそれぞれ有する屈折率と、これらの基板および各層がそれぞれ有するエネルギーバンドギャップの幅との間には逆の関係が成り立つ。すなわち、屈折率が大きいものほどエネルギーバンドギャップの幅が小さく、屈折率が小さいものほどエネルギーバンドギャップの幅が大きい。
【0053】
図3に示すように、半導体レーザ素子100においては、MQW活性層57の屈折率とp−AlGaNクラッド層4の屈折率との差が小さい。このため、発光層5のMQW活性層57において発生した光を発光層5内に十分に導波することが困難であり、発光層5からp−AlGaNクラッド層4に光が漏れ出す。
【0054】
なお、ここでは、n−InGaN障壁層53およびn−InGaN井戸層54の厚みによる重み付けをした屈折率平均値をMQW活性層57の屈折率と定義する。
【0055】
また、半導体レーザ素子100は、p−AlGaNクラッド層4の外側に位置するp−GaNバッファ層2がp−AlGaNクラッド層4に比べて大きな屈折率を有するいわゆる反導波構造となる。このため、p−AlGaNクラッド層4からp−GaNバッファ層2に光が漏れ出す。
【0056】
特に、半導体レーザ素子100においては、発光層5下方のp−GaN基板1側の層2〜4およびp−GaN基板1の厚さが大きいため、p−GaN基板1側においては光の漏れ出しが大きくなる。
【0057】
ここで、半導体レーザ素子100においては、前述のように、p−GaN基板1、p−GaNバッファ層2、p−InGaNクラック防止層3およびp−AlGaNクラッド層4にMgがドープされておりp−GaN基板1および各層2〜4において可視光を吸収することが可能である。このため、発光層5からp−GaN基板1側へ漏れ出した光をp−GaN基板1、p−GaNバッファ層2、p−InGaNクラック防止層3およびp−AlGaNクラッド層4において吸収することが可能となる。
【0058】
このように、半導体レーザ素子100においては、発光層5からp−GaN基板1側へ漏れ出した光をp−GaN基板1、p−GaNバッファ層2、p−InGaNクラック防止層3およびp−AlGaNクラッド層4において吸収することが可能となるため、発光層5からの光の漏れを低減することが可能となり、垂直横モードが高次モードとなるのを防止することが可能となる。それにより、半導体レーザ素子100においては安定した垂直基本横モードを得ることが可能となり、しきい値電流の低減化を図ることが可能となる。
【0059】
上記のように、この場合においては、p−AlGaNクラッド層4のAl組成を大きく(例えば0.07より大きくする)したりp−GaNバッファ層2にAlを加える(例えばAlを0.02程度加える)ことなく垂直基本横モードを実現することができるため、各層2〜7におけるクラックの発生を防止することが可能となる。したがって、半導体レーザ素子100においては、高い歩留まりでの製造が実現可能となる。
【0060】
なお、この場合、p−GaN基板1、p−GaNバッファ層2、p−InGaNクラック防止層3およびp−AlGaNクラッド層4における光の吸収はあまり強くなくてもよい。通常、光吸収がある場合の光吸収係数は数千cm-1であるのに対して、p−GaN基板1および各層2〜4全体における光の吸収係数は数十cm-1以上であればよい。このように光の吸収係数が小さなp−GaN基板1および各層2〜4においても、十分に光の吸収を行うことが可能となり、安定な垂直基本横モードを実現することが可能となる。
【0061】
なお、p−GaN基板1、p−GaNバッファ層2、p−InGaNクラック防止層3およびp−AlGaNクラッド層4において光吸収効果を得るために必要なMgのドープ濃度は、それぞれ1×1018〜1×1021cm-3である。
【0062】
p−GaN基板1および各層2〜4におけるMgのドープ濃度を高くすることによりp−GaN基板1および各層2〜4における光の吸収をより大きくすることが可能となる。しかしながら、このようにMgのドープ濃度を大きくして光の吸収を大きくする場合においては、Mgにより、p−GaN基板1および各層2〜4において結晶性に問題が生じるおそれがある。
【0063】
ところで、p−GaN基板1はMQW活性層57から発生した光を吸収するため、p−GaN基板1とMQW活性層57との距離が小さい場合には、p−GaN基板1での光吸収が増加し、半導体レーザ素子100のしきい値を増加させるおそれがある。
【0064】
しかしながら、半導体レーザ素子100においては、p−AlGaNクラッド層4の厚さが1μmと十分大きいため、p−GaN基板1とMQW活性層57とを十分に離すことができる。したがって、半導体レーザ素子100においては、発光層5に導波される光が吸収されるのを防止し、かつ発光層5から漏れ出した光を吸収することが可能となる。
【0065】
図4は本発明の参考形態に係る窒化物系半導体レーザ素子の他の例を示す模式的な断面図である。図4に示す半導体レーザ素子101は、以下の方法により作製される。
【0066】
半導体レーザ素子101の作製時においては、まず、厚さ350μmのサファイア基板20のC(0001)面上に、アンドープのAl0.5 Ga0.5 Nからなる厚さ200ÅのAlGaNバッファ層21、厚さ2μmのアンドープGaN層22、MgがドープされたGaNからなる厚さ5μmのp−GaNコンタクト層23、MgがドープされたIn0.03Ga0.97Nからなる厚さ0.1μmのp−InGaNクラック防止層24、MgがドープされたAl0.07Ga0.93Nからなるp−AlGaNクラッド層25、発光層26、SiがドープされたAlGaNからなる厚さ0.4μmのn−AlGaNクラッド層27およびSiがドープされたGaNからなる厚さ0.1μmのn−GaNコンタクト層28を順に成長させる。
【0067】
なお、半導体レーザ素子101の発光層26は、図2に示す半導体レーザ素子100の発光層5と同様の構造を有する。
【0068】
上記のように、半導体レーザ素子101の作製時においては、発光層26下方のサファイア基板20側に、Mgがドープされたp−GaNコンタクト層23、p−InGaNクラック防止層24およびp−AlGaNクラッド層25を成長させる。
【0069】
ここで、通常、窒化物系半導体から構成される層および基板は肉眼では透明に見えるが、上記のようにMgがドープされた窒化物系半導体から構成されるp−GaNコンタクト層23、p−InGaNクラック防止層24およびp−AlGaNクラッド層25は、Mgにより黒色をおびている。このようにMgがドープされて黒色をおびたp−GaNコンタクト層23、p−InGaNクラック防止層24およびp−AlGaNクラッド層25においては、可視光を吸収することが可能となる。
【0070】
なお、Mgがドープされたp−GaNコンタクト層23、p−InGaNクラック防止層24およびp−AlGaNクラッド層25において上記のように光を吸収することが可能となるのは、Mgをドープすることにより、これらの各層23〜25のエネルギーバンド中に不純物準位が形成されるためであると考えられる。
【0071】
上記のようにしてサファイア基板20上に各層21〜28を成長させた後、n−GaNコンタクト層28からn−AlGaNクラッド層27の所定深さまでをエッチングにより除去する。それにより、n−GaNコンタクト層28およびn−AlGaNクラッド層27から構成される幅2μmのストライプ状のリッジ部を形成するとともに、n−AlGaNクラッド層27に厚さ0.05μmの平坦部を形成する。
【0072】
続いて、n−AlGaNクラッド層27の平坦部からp−GaNコンタクト層23までの一部領域をエッチングにより除去し、p−GaNコンタクト層23を露出させる。
【0073】
次に、この露出したp−GaNコンタクト層23の所定領域上にNi膜を形成してp電極16を形成する。また、リッジ部のn−GaNコンタクト層28上にTi膜およびAl膜を順に積層してn電極15を形成する。
【0074】
上記のようにして結晶成長および電極形成を行った後、サファイア基板20の裏面を研磨してサファイア基板20の厚さを150〜200μmとする。
【0075】
さらに、リッジ部側面、n−AlGaNクラッド層27の平坦部上面、n−AlGaNクラッド層27からp−GaNコンタクト層23までの側面、p−GaNコンタクト層23のp電極形成領域を除く領域上面およびp電極16の所定領域上面に、SiO2 からなる厚さ0.3μmの絶縁膜70を形成する。
【0076】
最後に、例えば劈開により、共振器長500μmの共振器を作製する。以上のようにして、半導体レーザ素子101を作製する。
【0077】
図5は、上記の方法により作製された半導体レーザ素子101の各層21〜28の有する屈折率を示す模式図である。
【0078】
図5に示すように、半導体レーザ素子101においては、発光層26の屈折率とp−AlGaNクラッド層25の屈折率との差が小さい。このため、発光層26のMQW活性層57において発生した光を発光層26内に十分に導波することが困難であり、発光層26からp−AlGaNクラッド層25に光が漏れ出す。
【0079】
また、半導体レーザ素子101は、p−AlGaNクラッド層25の外側に位置するp−GaNコンタクト層23がp−AlGaNクラッド層25に比べて大きな屈折率を有するいわゆる反導波構造となる。このため、p−AlGaNクラッド層25からp−GaNコンタクト層24に光が漏れ出す。
【0080】
特に、半導体レーザ素子101においては、サファイア基板20側、すなわち発光層26下方の層21〜25およびサファイア基板20の厚さが大きいため、サファイア基板20側においては光の漏れ出しが大きくなる。
【0081】
ここで、半導体レーザ素子101においては、前述のように、p−GaNコンタクト層23、p−InGaNクラック防止層24およびp−AlGaNクラッド層25にMgがドープされており、各層23〜25において可視光を吸収することが可能である。このため、発光層26からサファイア基板20側へ漏れ出した光をp−GaNコンタクト層23、p−InGaNクラック防止層24およびp−AlGaNクラッド層25において吸収することが可能となる。
【0082】
このように、半導体レーザ素子101においては、発光層26からサファイア基板20側へ漏れ出した光をp−GaNコンタクト層23、p−InGaNクラック防止層24およびp−AlGaNクラッド層25において吸収することが可能となるため、発光層26からの光の漏れを低減することが可能となり、垂直横モードが高次モードとなることを防止することが可能となる。それにより、半導体レーザ素子101においては、安定した垂直基本横モードを得ることが可能となり、しきい値電流の低減化を図ることが可能となる。
【0083】
上記のように、この場合においては、p−AlGaNクラッド層25のAl組成を大きく(例えば0.07より大きくする)したりp−GaNコンタクト層23にAlを加える(例えばAlを0.02程度加える)ことなく垂直基本横モードを実現することができる。このため、半導体レーザ素子101においては、各層2〜7におけるクラックの発生を防止することが可能となる。したがって、半導体レーザ素子100においては高い歩留まりでの製造が実現可能となる。
【0084】
なお、この場合、p−GaNコンタクト層23、p−InGaNクラック防止層24およびp−AlGaNクラッド層25における光の吸収はあまり強くなくてもよく、p−GaNコンタクト層23、p−InGaNクラック防止層24およびp−AlGaNクラッド層25全体における光の吸収係数は数十cm-1以上であればよい。このように光の吸収係数が小さなp−GaNコンタクト層23、p−InGaNクラック防止層24およびp−AlGaNクラッド層25においても、十分に光の吸収を行うことが可能となり、安定な垂直基本横モードを実現することが可能となる。
【0085】
なお、p−GaNコンタクト層23、p−InGaNクラック防止層24およびp−AlGaNクラッド層25の各々において光吸収効果を得るために必要なMgのドープ濃度は、それぞれ1×1018〜1×1021cm-3である。
【0086】
p−GaNコンタクト層23、p−InGaNクラック防止層24およびp−AlGaNクラッド層25におけるMgのドープ濃度を高くすることにより各層23〜25においてより光の吸収を大きくすることが可能となる。しかしながら、このようにMgのドープ濃度を大きくして光の吸収を大きくする場合においては、Mgにより、各層23〜25において結晶性に問題が生じるおそれがある。
【0087】
なお、上記の半導体レーザ素子101において、p−GaNコンタクト層23の厚さは大きい方が好ましく、例えば10〜20μmであることが好ましい。このように大きな厚さを有するp−GaNコンタクト層23においては、特に多くの光を吸収することが可能となる。それにより、半導体レーザ素子101において、垂直横モードが高次モードとなることをより防止することが可能となる。
【0088】
図6は本発明に係る窒化物系半導体レーザ素子の一例を示す模式的な断面図である。図6に示す半導体レーザ素子102は以下の方法により作製される。
【0089】
半導体レーザ素子102の作製時においては、n−AlGaN層とn−InGaN層とを交互に複数積層してn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31を作製する。
【0090】
n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31の作製の際には、まず、サファイア基板上に、アンドープのAl0.5 Ga0.5 Nからなる厚さ200ÅのAlGaNバッファ層および厚さ2μmのアンドープGaN層を成長させる。そして、さらにこのアンドープGaN層上に、SiがドープされたIn0.12Ga0.88Nからなる厚さ50Åのn−InGaN層とSiがドープされたAl0.1 Ga0.9 Nからなる厚さ50Åのn−AlGaN層とを1対として複数対積層し、厚さ150μmまで成長させる。このようにしてn−AlGaN/n−InGaN超格子構造を形成した後、研磨によりサファイア基板、AlGaNバッファ層およびアンドープGaN層を除去する。以上のようにして、厚さ150μmのn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31を作製する。
【0091】
ここで、この場合においては、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31のn−InGaN層のバンドギャップの幅が、後述の発光層35のn−InGaN井戸層62のバンドギャップの幅よりも小さくなるようにn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31のn−InGaN層の組成を設定する。それにより、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31のn−InGaN層において、発光層35からn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31側に漏れ出した光を吸収することが可能となる。
【0092】
上記のようにして作製したn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31上に、SiがドープされたGaNからなる厚さ2μmのn−GaNバッファ層32、SiがドープされたIn0.03Ga0.97Nからなる厚さ0.1μmのn−InGaNクラック防止層33、SiがドープされたAl0.07Ga0.93Nからなる厚さ1.0μmのn−AlGaNクラッド層34、後述の発光層35、MgがドープされたAl0.07Ga0.93Nからなる厚さ0.4μmのp−AlGaNクラッド層36およびMgがドープされたGaNからなる厚さ0.1μmのp−GaNコンタクト層37を順に成長させる。
【0093】
この場合、図7に示すように、発光層35の成長時においては、まず、SiがドープされたGaNからなる厚さ0.1μmのn−GaN光ガイド層61を成長させる。続いて、n−GaN光ガイド層61上に、SiがドープされたIn0.02Ga0.98Nからなるn−InGaN障壁層62とSiがドープされたIn0.09Ga0.91Nからなるn−InGaN井戸層63とを交互に積層した多重量子井戸構造(MQW構造)を有するMQW活性層66を成長させる。さらに、このMQW活性層66上に、MgがドープされたAl0.2 Ga0.8 Nからなる厚さ200Åのp−AlGaNキャリアブロック層64およびMgがドープされたGaNからなる厚さ0.1μmのp−GaN光ガイド層65を順に成長させる。
【0094】
なお、この場合においては、厚さ100Åの4つのn−InGaN障壁層62と厚さ50Åの3つのn−InGaN井戸層63とが交互に積層されてMQW活性層66が構成されている。
【0095】
上記のようにしてn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31上に各層32〜37を成長させた後、p−GaNコンタクト層37からp−AlGaNクラッド層36の所定領域深さまでをエッチングにより除去する。それにより、p−GaNコンタクト層37およびp−AlGaNクラッド層36から構成される幅2μmのストライプ状のリッジ部を形成するとともに、p−AlGaNクラッド層36に厚さ0.05μmの平坦部を形成する。
【0096】
次に、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31の結晶成長面と反対側の面にTi膜およびAl膜を順に積層してn電極15を形成する。また、リッジ部側面およびp−AlGaNクラッド層6の平坦部上面にSiO2 からなる厚さ0.3μmの絶縁膜38を形成するとともに、リッジ部上面および絶縁膜38上にNi膜を形成してp電極16を形成する。
【0097】
最後に、例えば劈開により、共振器長500μmの共振器を作製する。以上のようにして、半導体レーザ素子102を作製する。
【0098】
図8は、上記の方法により作製された半導体レーザ素子102のn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31および各層32〜37の有する屈折率を示す模式図である。
【0099】
図8に示すように、半導体レーザ素子102においては、MQW活性層66の屈折率とn−AlGaNクラッド層34の屈折率との差が小さい。このため、発光層35のMQW活性層66において発生した光を発光層35内に十分に導波することが困難であり、発光層35からn−AlGaNクラッド層4に光が漏れ出す。
【0100】
なお、ここでは、n−InGaN障壁層62およびn−InGaN井戸層63の厚みによる重み付けをした屈折率平均値をMQW活性層66の屈折率と定義する。
【0101】
また、半導体レーザ素子102は、n−AlGaNクラッド層34の外側に位置するn−GaNバッファ層32がn−AlGaNクラッド層34に比べて大きな屈折率を有するいわゆる反導波構造となる。このため、n−AlGaNクラッド層34からn−GaNバッファ層32に光が漏れ出す。
【0102】
特に、半導体レーザ素子102においては、発光層35下方のn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31側の層32〜34およびn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31の厚さが大きいため、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31側においては光の漏れ出しが大きくなる。
【0103】
ここで、半導体レーザ素子102においては、前述のように、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31のn−InGaN層のバンドギャップの幅が発光層35のn−InGaN井戸層62のバンドギャップの幅よりも小さくなっているため、発光層35からn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31側に漏れ出した光をn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31において吸収することが可能である。
【0104】
このように、半導体レーザ素子102においては、発光層35から漏れ出した光をn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31において吸収することが可能であるため、発光層35からの光の漏れを低減することが可能となり、垂直横モードが高次モードとなるのを防止することが可能となる。それにより、半導体レーザ素子102においては安定した垂直基本横モードを得ることが可能となり、しきい値電流の低減化を図ることが可能となる。
【0105】
上記のように、この場合においては、n−AlGaNクラッド層34のAl組成を大きく(例えば0.07より大きくする)したりn−GaNバッファ層32にAlを加える(例えばAlを0.02程度加える)ことなく垂直基本横モードを実現することができる。このため、半導体レーザ素子102の各層32〜37においては、クラックの発生を防止することができる。
【0106】
さらに、この場合においては、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31が超格子構造を有するため、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31と各層32〜37との間に生じる歪みが緩和されている。このため、半導体レーザ素子102においては、クラックの発生を防止することができる。
【0107】
以上のように、半導体レーザ素子102においては各層32〜37におけるクラックの発生を防止することが可能となるため、このような半導体レーザ素子102においては高い歩留まりでの製造が実現可能となる。
【0108】
n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31における光の吸収はあまり強くなくてもよく、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31における光の吸収係数は数十cm-1以上であればよい。このように光の吸収係数が小さなn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31においても、発光層35から漏れ出した光を十分に吸収することが可能であり、安定な垂直基本横モードを実現することが可能となる。
【0109】
なお、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31において、n−InGaN層のIn組成を大きくすると、n−InGaN層のバンドギャップの幅がより小さくなるため、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31における光の吸収をより大きくすることが可能となる。しかしながら、n−InGaNのIn組成が大きくなるとn−InGaNの結晶性が劣化する。したがって、このようにInの組成を大きくして光の吸収を大きくする場合においては、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31において結晶性に問題が生じるおそれがある。
【0110】
ところで、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31はMQW活性層66から発生した光を吸収するため、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31とMQW活性層66との距離が小さい場合には、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31での光吸収が増加し、半導体レーザ素子102のしきい値を増加させるおそれがある。
【0111】
しかしながら、半導体レーザ素子102においては、n−AlGaNクラッド層34の厚さが1μmと十分大きいため、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31とMQW活性層66とを十分に離すことができる。したがって、半導体レーザ素子102においては、発光層35に導波される光がn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31に吸収されるのを防止し、かつ発光層35から漏れ出した光をn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31において吸収することが可能となる。
【0112】
なお、上記の半導体レーザ素子102においては、光の吸収効果を目的とするとともに歪み緩和効果を目的とするためにn−AlGaN/n−InGaN超格子基板31を形成しているが、光吸収効果のみを目的とするのであれば、n−InGaN層が部分的に挿入された基板、例えば、厚さ0.2μm以下のn−InGaN層がある程度の間隔で存在する構造を有する基板を形成すればよい。
【0113】
なお、InGaNは格子定数が大きいのでn−InGaN層の厚さが0.2μmより大きくなるとn−InGaN層の結晶性が劣化する。したがって、n−InGaN層の厚さは0.2μm以下であることが好ましい。
【0114】
例えば、n−GaN/n−InGaN超格子構造またはn−GaN/n−InGaN/n−AlGaN超格子構造を有する基板を形成してもよい。また、基板は超格子構造以外の周期構造を有していてもよく、あるいは超格子構造および周期構造以外の構造であってもよい。この場合においても、基板が発光層から漏れ出した光を吸収することが可能であるため、安定な垂直基本横モードを得ることが可能となる。
【0115】
なお、ここでは100Å以下の厚さの層が200Å以下の周期で積層された積層構造を超格子構造としており、これ以外の範囲の厚さおよび周期の層が積層された積層構造を周期構造として超格子構造と区別している。
【0116】
なお、上記の半導体レーザ素子102においては、n型の超格子基板を形成するとともにこの基板上にn型層およびp型層をこの順で形成する場合について説明したが、p型の超格子基板を形成するとともにこの基板上にp型層およびn型層をこの順で形成してもよい。
【0117】
図9は本発明の参考形態に係る窒化物系半導体レーザ素子の他の例を示す模式的な断面図である。図9に示す半導体レーザ素子103は、以下の方法により作製される。
【0118】
半導体レーザ素子103の作製時においては、まず、厚さ350μmのサファイア基板40のC(0001)面上に、アンドープのAl0.5 Ga0.5 Nからなる厚さ200ÅのAlGaNバッファ層41、厚さ2μmのアンドープGaN層42、SiがドープされたAlGaNおよびInGaNからなる後述の厚さ5μmのn−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43、SiがドープされたGaNからなる厚さ1μmのn−GaNコンタクト層44、SiがドープされたAl0.07Ga0.93Nからなるn−AlGaNクラッド層45、発光層46、MgがドープされたAl0.07Ga0.93Nからなる厚さ0.4μmのp−AlGaNクラッド層47およびMgがドープされたGaNからなる厚さ0.1μmのp−GaNコンタクト層48を順に成長させる。
【0119】
なお、半導体レーザ素子103の発光層46は、図7に示す半導体レーザ素子102の発光層35と同様の構造を有する。
【0120】
ここで、この場合においては、n−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43のn−InGaN層のバンドギャップの幅が、発光層46のn−InGaN井戸層62のバンドギャップの幅よりも小さくなるようにn−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43のn−InGaN層の組成を設定する。それにより、発光層46からサファイア基板40側に漏れ出した光をn−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43のn−InGaN層において吸収することが可能となる。
【0121】
上記のようにしてサファイア基板40上に各層41〜48を成長させた後、p−GaNコンタクト層48からp−AlGaNクラッド層47の所定深さまでをエッチングにより除去する。それにより、p−GaNコンタクト層48およびp−AlGaNクラッド層47から構成される幅2μmのストライプ状のリッジ部を形成するとともに、p−AlGaNクラッド層47に厚さ0.05μmの平坦部を形成する。
【0122】
続いて、p−AlGaNクラッド層47の平坦部からn−GaNコンタクト層44までの一部領域をエッチングにより除去してn−GaNコンタクト層44を露出させる。
【0123】
次に、この露出したn−GaNコンタクト層44の所定領域上にTi膜およびAl膜を順に積層してn電極15を形成する。また、リッジ部のp−GaNコンタクト層48上にNi膜を形成してp電極16を形成する。
【0124】
上記のようにして結晶成長および電極形成を行った後、サファイア基板40の裏面を研磨してサファイア基板40の厚さを150〜200μmとする。
【0125】
さらに、リッジ部側面、p−AlGaNクラッド層47の平坦部上面、p−AlGaNクラッド層47からn−GaNコンタクト層44までの側面、n−GaNコンタクト層44のn電極形成領域を除く領域上面およびn電極15の所定領域上面に、SiO2 からなる厚さ0.3μmの絶縁膜70を形成する。
【0126】
最後に、例えば劈開により、共振器長500μmの共振器を作製する。以上のようにして、半導体レーザ素子103を作製する。
【0127】
図10は、上記の方法により作製された半導体レーザ素子103の各層41〜48の有する屈折率を示す模式図である。
【0128】
図10に示すように、半導体レーザ素子103においては、発光層46の屈折率とn−AlGaNクラッド層45の屈折率との差が小さい。このため、発光層46のMQW活性層66において発生した光を発光層46内に十分に導波することが困難であり、発光層46からn−AlGaNクラッド層45に光が漏れ出す。
【0129】
また、半導体レーザ素子103は、n−AlGaNクラッド層45の外側に位置するn−GaNコンタクト層44がn−AlGaNクラッド層45に比べて大きな屈折率を有するいわゆる反導波構造となる。このため、n−AlGaNクラッド層45からn−GaNコンタクト層44に光が漏れ出す。
【0130】
特に、半導体レーザ素子103においては、サファイア基板40側、すなわち発光層46下方の層41〜45およびサファイア基板40の厚さが大きいため、サファイア基板40側においては光の漏れ出しが大きくなる。
【0131】
ここで、半導体レーザ素子103においては、前述のように、n−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43のn−InGaN層のバンドギャップの幅が発光層46のn−InGaN井戸層62のバンドギャップの幅よりも小さくなっているため、発光層46からサファイア基板40側に漏れ出した光をn−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43において吸収することが可能である。
【0132】
このように、半導体レーザ素子103においては、発光層46から漏れ出した光をn−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43において吸収することが可能であるため、発光層46からの光の漏れを低減することが可能となり、垂直横モードが高次モードとなるのを防止することが可能となる。それにより、半導体レーザ素子103においては、安定した垂直基本横モードを得ることが可能となり、しきい値電流の低減化を図ることが可能となる。
【0133】
上記のように、この場合においては、n−AlGaNクラッド層45のAl組成を大きく(例えば0.07より大きくする)したりn−GaNコンタクト層44にAlを加える(例えばAlを0.02程度加える)ことなく垂直基本横モードを実現することができる。このため、半導体レーザ素子103の各層41〜48においては、クラックの発生を防止することができる。
【0134】
さらに、この場合においては、n−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43が超格子構造を有するため、n−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43と各層41,42,45〜48との間の歪みが緩和されている。このため、半導体レーザ素子103においては、クラックの発生を防止することができる。
【0135】
以上のように、半導体レーザ素子102においては各層41〜48におけるクラックの発生を防止することが可能となるため、このような半導体レーザ素子103においては高い歩留まりでの製造が実現可能となる。
【0136】
n−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43における光の吸収はあまり強くなくてもよく、n−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43における光の吸収係数は数十cm-1以上であればよい。このように光の吸収係が小さなn−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43においても、発光層46から漏れ出した光を十分に吸収することが可能であり、安定な垂直基本横モードを実現することが可能となる。
【0137】
なお、n−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43において、n−InGaN層のIn組成を大きくすると、n−InGaN層のバンドギャップの幅がより小さくなるため、n−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43における光の吸収をより大きくすることが可能となる。しかしながら、n−InGaNのIn組成が大きくなるとn−InGaNの結晶性が劣化する。このため、このようにInの組成を大きくして光の吸収を大きくする場合においては、n−AlGaN/n−InGaN超格子基板31において結晶性に問題が生じるおそれがある。
【0138】
上記の半導体レーザ素子103においては、光の吸収効果を目的とするとともに歪み緩和効果を目的とするためにn−AlGaN/n−InGaN超格子バッファ層43を形成しているが、光吸収効果のみを目的とするのであれば、n−InGaN層が部分的に挿入されたバッファ層、例えば、厚さ0.2μm以下のn−InGaN層がある程度の間隔で存在する構造を有するバッファ層を形成すればよい。
【0139】
なお、InGaNは格子定数が大きいのでn−InGaN層の厚さが0.2μmより大きくなるとn−InGaN層の結晶性が劣化する。したがって、n−InGaN層の厚さは0.2μm以下であることが好ましい。
【0140】
例えば、n−GaN/n−InGaN超格子構造またはn−GaN/n−InGaN/n−AlGaN超格子構造を有するバッファ層を形成してもよい。また、バッファ層は超格子構造以外の周期構造を有していてもよく、あるいは超格子構造および周期構造以外の構造であってもよい。この場合においても、基板が発光層から漏れ出した光を吸収することが可能であるため、安定な垂直基本横モードを得ることが可能となる。
【0141】
なお、ここでは100Å以下の厚さの層が200Å以下の周期で積層された積層構造を超格子構造としており、これ以外の範囲の厚さおよび周期の層が積層された積層構造を周期構造として超格子構造と区別している。
【0142】
また、上記の半導体レーザ素子103においては、サファイア基板上にn型層およびp型層がこの順で形成される場合について説明したが、サファイア基板上にp型層およびn型層がこの順で形成されてもよい。
【0143】
上記の半導体レーザ素子100〜103の各層の組成は上記に限定されるものではなく、各層は、Ga、Al、In、BおよびTlの少なくとも1つを含む窒化物系半導体から構成されていればよい。
【0144】
また、半導体レーザ素子101,103においてはサファイア基板20,40を用いているが、サファイア基板20,40の代わりにSi基板、SiC基板等を用いてもよい。
【0145】
さらに、上記においては、本発明をリッジ導波型構造を有する半導体レーザ素子に適用する場合について説明したが、本発明をセルフアライン型構造を有する半導体レーザ素子に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の参考形態に係る半導体レーザ素子の一例を示す模式的な断面図である。
【図2】 図1の半導体レーザ素子の発光層の構造を示す模式的な断面図である。
【図3】 図1の半導体レーザ素子の基板および各層の屈折率を示す模式図である。
【図4】 本発明の参考形態に係る半導体レーザ素子の他の例を示す模式的な断面図である。
【図5】 図4の半導体レーザ素子の各層の屈折率を示す模式図である。
【図6】 本発明に係る半導体レーザ素子の一例を示す模式的な断面図である。
【図7】 図6の半導体レーザ素子の発光層の構造を示す模式的な断面図である。
【図8】 図6の半導体レーザ素子の基板および各層の屈折率を示す模式図である。
【図9】 本発明の参考形態に係る半導体レーザ素子の他の例を示す模式的な断面図である。
【図10】 図9の半導体レーザ素子の各層の屈折率を示す模式図である。
【図11】 従来の半導体レーザ素子の構造を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
1 p−GaN基板
2 p−GaNバッファ層
3,24,33 p−InGaNクラック防止層
4,25,36,47 p−AlGaNクラッド層
5,26,35,46 発光層
6,27,34,45 n−AlGaNクラッド層
7,28,44 n−GaNコンタクト層
8,38,70 絶縁膜
15 n電極
16 p電極
20 サファイア基板
21 AlGaNバッファ層
23,37,48 p−GaNコンタクト層
100〜103 半導体レーザ素子

Claims (4)

  1. 基板上に活性層を含む窒化物系半導体層が形成されてなる窒化物系半導体レーザ素子であって、
    前記活性層はInGaNを含む窒化物系半導体から構成され、
    前記基板は、InGaN層とAlGaN層とが積層された超格子構造からなり、
    前記InGaN層は、バンドギャップの幅が、前記活性層のInGaNを含む窒化物系半導体のバンドギャップの幅よりも小さく、且つ、前記活性層から漏れ出した光を吸収可能であることを特徴とする窒化物系半導体レーザ素子。
  2. 前記基板の少なくとも一部はn型であることを特徴とする請求項1記載の窒化物系半導体レーザ素子。
  3. 前記基板の少なくとも一部にはSiがドープされていることを特徴とする請求項記載の窒化物系半導体レーザ素子。
  4. 前記窒化物系半導体にはSiがドープされていることを特徴とする請求項記載の窒化物系半導体レーザ素子。
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