JP3813472B2 - 窒化物系半導体発光素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、BN(窒化ホウ素)、GaN(窒化ガリウム)、AlN(窒化アルミニウム)、InN(窒化インジウム)もしくはTlN(窒化タリウム)またはこれらの混晶等のIII −V族窒化物系半導体(以下、窒化物系半導体と呼ぶ)からなる半導体発光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高密度かつ大容量の光ディスクシステムに用いられる記録または再生用の光源として、青色または紫色の光を発する窒化物系半導体レーザ素子の研究開発が行われている。
【0003】
図9は従来の窒化物系半導体レーザ素子の例を示す模式的な断面図である。
図9に示す半導体レーザ素子は、サファイア基板81のC(0001)面上に、MOCVD法(有機金属化学的気相成長法)により、アンドープのAlGaNからなるバッファ層82、アンドープGaN層83、n−GaNからなるn−GaNコンタクト層84、n−InGaNからなるクラック防止層85、n−AlGaNからなるn−AlGaNクラッド層86、InGaNからなる発光層87、p−AlGaNからなるp−AlGaNクラッド層91およびp−GaNからなるp−GaNコンタクト層92が順に形成されてなる。
【0004】
発光層87は、n−GaNからなるn−GaN光ガイド層88と、InGaNからなり多重量子井戸(MQW)構造を有するMQW活性層89と、p−GaNからなるp−GaN光ガイド層90とが順に積層されてなる。
【0005】
p−GaNコンタクト層92からp−AlGaNクラッド層91の所定深さまでがエッチングにより除去されている。それにより、p−GaNコンタクト層92およびp−AlGaNクラッド層91からなるストライプ状のリッジ部93が形成されるとともに、p−AlGaNクラッド層91に平坦部が形成される。このリッジ部93のp−GaNコンタクト層92上にp電極131が形成されている。また、p−AlGaNクラッド層91の平坦部からn−GaNコンタクト層84までの一部領域がエッチングにより除去され、n−GaNコンタクト層84のn電極形成領域94が露出している。この露出したn電極形成領域94上にn電極132が形成されている。
【0006】
リッジ部93の両側面、p−AlGaNクラッド層91の平坦部上面、p−AlGaNクラッド層91からn−GaNコンタクト層84までの側面、ならびにn電極132が形成された領域を除くn−GaNコンタクト層84上面にSiO2 等のSi酸化物からなる絶縁膜95が形成されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
図9の半導体レーザ素子においては、例えば従来のAlGaAs系半導体レーザ素子と比較して、発光層87とn−AlGaNクラッド層86およびp−AlGaNクラッド層91との屈折率の差が約4分の1から3分の1と小さい。このため、発光層87のMQW活性層89において発生した光は、発光層87に導波されにくい。
【0008】
また、発光層87のMQW活性層89において発生した光を閉じ込めるn−AlGaNクラッド層86およびp−AlGaNクラッド層91の外側に位置するn−GaNコンタクト層84およびp−GaNコンタクト層92の屈折率が、n−AlGaNクラッド層86およびp−AlGaNクラッド層91よりも大きくなるいわゆる反導波構造となることから、基本垂直横モードが得られにくい。
【0009】
ここで、例えばGaAsのような吸収係数の大きな材料から構成されるコンタクト層は、クラッド層からしみ出した光を吸収することが可能である。しかしながら、上記のようにGaNから構成されるp−GaNコンタクト層92は、吸収係数が小さいため、p−AlGaNクラッド層91からしみ出した光を吸収することができない。
【0010】
したがって、図9の半導体レーザ素子においては、発光層87に十分に光を閉じ込めることが困難であり、垂直横モードが高次モードになりやすい。このため、半導体レーザ素子のしきい値電流の低減化を図ることが困難である。
【0011】
垂直横モードが高次モードになることを防止するためには、n−AlGaNクラッド層86およびp−AlGaNクラッド層91のAl組成を大きくする(例えば0.07より大きくする)か、または、n−GaNコンタクト層84に数%のAlを加える(例えばAlを0.02程度加える)。それにより、基本垂直横モードが得られやすくなる。しかしながら、このようにAl組成が大きくなることによって成長層にクラックが発生しやすくなり、その結果素子の歩留りが大きく低下してしまう。
【0012】
ところで、上記の半導体レーザ素子のMQW活性層89は、GaNやAlGaNに比べて格子定数が大きいInGaNから構成される。このようなInGaNから構成されるMQW活性層89は、膜厚を大きくすると結晶性が劣化する。したがって、MQW活性層89の結晶性を劣化させないためには、MQW活性層89の厚さを数十Åと小さくする必要がある。しかしながら、このようにMQW活性層89の厚さを小さくした場合、発光層87に特に光を閉じ込めにくく、垂直横モードがさらに高次モードになりやすい。このため、半導体レーザ素子においてしきい値電流の低減化を図ることがより困難となる。
【0013】
一方、p−AlGaNからなるp−AlGaNクラッド層91は抵抗が大きいため、上記の半導体レーザ素子においては電極間の直列抵抗が大きくなる。このため、半導体レーザ素子において動作電圧の低減化を図ることが困難である。特に、半導体レーザ素子を0℃以下のような低温で動作させる場合、p−AlGaNクラッド層91における抵抗がより大きくなるので、動作電圧がさらに高くなり、絶縁破壊等の素子破壊が発生しやすくなる。
【0014】
本発明の目的は、クラックの発生による歩留りの低下をまねくことなく、発光層における光の閉じ込めを効果的に行うことによりしきい値電流の低減化が図られた窒化物系半導体発光素子を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、クラックの発生による歩留りの低下をまねくことなく、動作電圧の低減化が図られた窒化物系半導体発光素子を提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
第1の発明に係る窒化物系半導体発光素子は、III 族窒化物系半導体からなり活性層を含む発光層上に、III 族窒化物系半導体からなり活性層よりも大きなバンドギャップを有しかつ活性層よりも小さな屈折率を有するp型クラッド層が形成され、p型クラッド層の厚さが0.3μm未満であるものである。
【0017】
本発明に係る窒化物系半導体発光素子においては、p型クラッド層の厚さが0.3μm未満と小さく抑えられている。このため、活性層において発生した光のp型クラッド層へのしみ出しが抑制され、垂直横モードにおける高次モードをカットオフすることが可能である。それにより、窒化物系半導体発光素子においてしきい値電流の低減化を図ることが可能になるとともに、レーザ光を集光した際の集光特性の向上が図られる。
【0018】
特に、上記の窒化物系半導体発光素子では、活性層の厚さを小さくした場合においてもp型クラッド層への光のしみ出しを抑制することが可能である。したがって、このような窒化物系半導体発光素子においては、活性層の厚さを小さくすることが可能である。ここで、活性層の厚さが小さな窒化物系半導体発光素子においては活性層において良好な結晶性を実現することが可能となることから、上記の窒化物系半導体発光素子においては素子特性の向上を図ることが可能となる。
【0019】
さらに、上記の窒化物系半導体発光素子においては、抵抗の大きなp型クラッド層の厚さが0.3μm未満と小さいため、電極間の直列抵抗の低減化が図られる。それにより、この窒化物系半導体発光素子においては、素子の動作電圧の低減化を図ることが可能となる。
【0020】
クラッド層のアルミニウム組成が0.05以下であってもよい。このようにクラッド層のアルミニウム組成を0.05以下にすることによって、窒化物系半導体層の成長時に発生する窒化物系半導体層にかかる歪を小さくすることができ、窒化物系半導体層でのクラック発生を防止できる。それにより、素子の歩留りを低下させることなく、窒化物系半導体発光素子の動作電圧の低減化を図ることが可能となる。
【0021】
また、発光層は、活性層上に、p型クラッド層よりも小さなバンドギャップを有しかつp型クラッド層よりも大きな屈折率を有するとともに活性層よりも大きなバンドギャップを有しかつ活性層よりも小さな屈折率を有するp型光ガイド層をさらに含み、p型光ガイド層上にp型クラッド層が形成されてもよい。
【0022】
このような窒化物系半導体発光素子においても、活性層への光の閉じ込めを効果的に行ってしきい値電流の低減を図ることが可能になるとともに、p型クラッド層における抵抗を低減して窒化物系半導体発光素子の動作電圧の低減を図ることが可能となる。
【0023】
また、発光層は、活性層上に形成されp型光ガイド層よりも大きなハンドギャップを有するp型のキャリア漏れ防止層をさらに含み、キャリア漏れ防止層上にp型光ガイド層が形成されてもよい。この場合、キャリア漏れ防止層により、活性層からp型光ガイド層へのキャリアの漏れを防止することが可能となる。したがって、このような窒化物系半導体発光素子においては、しきい値電流の低減化がさらに図られる。
【0024】
p型クラッド層にリッジ部が形成され、リッジ部の厚さが0.3μm未満であってもよい。この場合、しきい値電流および動作電圧の低減化が図られたリッジ導波型構造を有する窒化物系半導体発光素子が得られる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る半導体発光素子として、半導体レーザ素子について説明する。
【0033】
図1は本発明の一実施例における半導体レーザ素子を示す模式的な断面図である。
【0034】
図1に示す半導体レーザ素子100は、サファイア基板1のC(0001)面上に、アンドープのAl0.5 Ga0.5 Nからなり厚さが250Åであるバッファ層2、厚さ2μmのアンドープGaN層3、SiドープのGaNからなる厚さ3μmのn−GaNコンタクト層4、SiドープのIn0.1 Ga0.9 Nからなる厚さ0.1μmのn−InGaNクラック防止層5、SiドープのAl0.05Ga0.95Nからなる厚さ1μmのn−AlGaNクラッド層6、発光層7、MgドープのAl0.05Ga0.95Nからなるp−AlGaNクラッド層8およびMgドープのGaNからなる厚さ0.05μmのp−GaNコンタクト層9が順に形成されてなる。このような各層2〜9は、例えばMOCVD法(有機金属化学的気相成長法)により形成される。
【0035】
図2は、発光層7の詳細な構造を示す模式的な部分拡大断面図である。図2に示すように、発光層7は、SiドープのGaNからなる厚さ0.1μmのn−GaN光ガイド層71と、多重量子井戸(MQW)構造を有するMQW活性層72と、MgドープのGaNからなる厚さ0.1μmのp−GaN光ガイド層73とから構成される。MQW活性層72は、SiドープのIn0.02Ga0.98Nからなる厚さ90nmの4つのn−InGaN障壁層72aとSiドープのIn0.1 Ga0.9 Nからなる厚さ30nmの3つのn−InGaN井戸層72bとが交互に積層された多重量子井戸構造を有する。
【0036】
なお、ここでは、クラッド層に比べてバンドギャップが小さくかつクラッド層に比べて屈折率が大きいとともに、活性層に比べてバンドギャップが大きくかつ活性層に比べて屈折率が小さい層を光ガイド層と定義している。また、本例のように活性層が多重量子井戸構造を有する場合には、活性層の井戸層のバンドギャップの大きさを活性層のバンドギャップの大きさと定義する。
【0037】
図1に示すように、p−GaNコンタクト層9からp−AlGaNクラッド層8までの一部領域が反応性イオンエッチング法(RIE法)または反応性イオンビームエッチング法(RIBE法)によりエッチングされている。それにより、p−GaNコンタクト層9およびp−AlGaNクラッド層8からなるストライプ状のリッジ部10が形成されるとともに、p−AlGaNクラッド層8に平坦部が形成される。このように、本実施例の半導体レーザ素子100はリッジ導波型構造を有する。
【0038】
上記のp−AlGaNクラッド層8の平坦部からn−GaNコンタクト層4までの一部領域がRIE法またはRIBE法によりエッチングされ、n−GaNコンタクト層4のn電極形成領域11が露出している。
【0039】
リッジ部10のp−GaNコンタクト層9上にp電極131が形成され、n−GaNコンタクト層4のn電極形成領域11上にn電極132が形成されている。さらに、リッジ部10の両側面、p−AlGaNクラッド層8の平坦部上面、p−AlGaNクラッド層8からn−GaNコンタクト層4までの側面、ならびにn電極132が形成された領域を除くn−GaNコンタクト層4の上面に、SiO2 等からなる絶縁膜12が形成されている。
【0040】
上記において、半導体レーザ素子100のリッジ部10のp−AlGaNクラッド層8の厚さt1 は0.3μm未満である。一方、リッジ部10の両側に位置するp−AlGaNクラッド層8の平坦部の厚さt2 は、半導体レーザ素子100の横モード制御の点から、0.05〜0.15μmであることが好ましい。なお、この場合においては、t1 およびt2 がt1 >t2 の関係を満たしている。
【0041】
ここで、この場合においては、リッジ部10の厚さt1 をp−AlGaNクラッド層8の厚さと定義する。p−AlGaNクラッド層8の厚さt1 が0.3μm未満に設定された半導体レーザ素子100においては、以下のような効果が得られる。
【0042】
図3は、図1の半導体レーザ素子の所定領域におけるレーザ光の電界分布を示す模式的な断面図である。なお、図3においては絶縁膜12およびp電極131の図示を省略している。ここではX軸に電界の大きさをとり、Y軸を半導体レーザ素子100の各層6〜9に垂直な方向の空間軸としている。
【0043】
なお、図3は、n−AlGaNクラッド層6の所定領域、発光層7、p−AlGaNクラッド層8およびp−GaNコンタクト層9におけるレーザ光の電界分布を示すものであり、ここではこれ以外の領域におけるレーザ光の電界分布については図示していない。この場合、各AlGaNクラッド層6,8における電界分布は指数関数(exp.)で表され、一方、発光層7のMQW活性層72および各GaN光ガイド層71,73、ならびにp−GaNコンタクト層9における電界分布は正弦関数および余弦関数(sinおよびcos)で表される。
【0044】
図3に示すように、厚さt1 が0.3μm未満のp−AlGaNクラッド層8を備えた半導体レーザ素子100においては、発光層7からp−AlGaNクラッド層8への光のしみ出しが小さく、発光層7における光の閉じ込めが効果的に行われる。このため、垂直横モードが最低次の基本モードとなる。このような半導体レーザ素子100においては、しきい値電流の低減化が図られるとともに、レーザ光を集光した際の集光特性の向上が図られる。
【0045】
ここで、比較のため、p−AlGaNクラッド層8の厚さt1 を0.3μm以上とした場合について説明する。
【0046】
図1の半導体レーザ素子100と同様の構造を有し、p−AlGaNクラッド層8の厚さt1 が0.3μm以上である半導体レーザ素子のレーザ光の電界分布を図4に示す。なお、図4(a)は、p−AlGaNクラッド層8の厚さt1 が0.6μmより大きい場合について示しており、図4(b)はp−AlGaNクラッド層8の厚さt1 が0.3〜0.6μm程度である場合について示している。
【0047】
図4は、図3の場合と同様、X軸に電界の大きさをとり、Y軸を半導体レーザ素子の各層6〜9に垂直な方向の空間軸とした模式図である。
【0048】
また、図4においては、図3の場合と同様、半導体レーザ素子の詳細な構造の図示を省略するとともに、n−AlGaNクラッド層6の所定領域、発光層7、p−AlGaNクラッド層8およびp−GaNコンタクト層9以外の領域におけるレーザ光の電界分布については図示していない。
【0049】
図4(a)に示すように、p−AlGaNクラッド層8の厚さt1 が0.6μmより大きい場合、p−AlGaNクラッド層8に大きな電界が存在する。すなわち、発光層7からp−AlGaNクラッド層8への光のしみ出しが大きく、発光層7において光の閉じ込めが十分に行われない。このような状態では、垂直横モードは高次モード、この場合は1次モードとなる。したがって、このような半導体レーザ素子においては、しきい値電流の低減化を図ることが非常に困難であり、また、レーザ光を集光した際の集光特性が良好ではない。
【0050】
一方、図4(b)に示すように、p−AlGaNクラッド層8の厚さt1 が0.3〜0.6μm程度の場合、電界はp−AlGaNクラッド層8とp−GaNコンタクト層9との界面付近にわずかに存在する程度である。すなわち、この場合においては、p−AlGaNクラッド層8の厚さt1 が0.6μmより大きい図4(a)の場合に比べて、発光層7からp−AlGaNクラッド層8への光のしみ出しが小さくなる。
【0051】
しかしながら、この場合においても発光層7に十分に光を閉じ込めることができず、垂直横モードは1次モードとなる。したがって、半導体レーザ素子においてしきい値電流の低減化を図ることが困難であり、また、レーザ光を集光した際の集光特性が良好ではない。
【0052】
以上のように、p−AlGaNクラッド層8の厚さt1 が0.3μm未満と小さい半導体レーザ素子100のp型半導体層側においては、発光層7からp−AlGaNクラッド層8への光のしみ出しを抑制し、垂直横モードにおける高次モードをカットオフすることができる。このため、半導体レーザ素子100においては、しきい値電流の低減化を図ることが可能になる。また、この場合、レーザ光を集光した際の集光特性が良好である。
【0053】
このような半導体レーザ素子100においては、MQW活性層72の厚さを小さくした場合においても、p型半導体層側への光のしみ出しを抑制することができる。したがって、半導体レーザ素子100においてはMQW活性層72の厚さを小さくすることができる。厚さの小さなMQW活性層72においては良好な結晶性が実現されることから、このような半導体レーザ素子100においては素子特性の向上が図られる。
【0054】
また、半導体レーザ素子100においては、p−AlGaNクラッド層8により、MQW活性層72からのキャリアの漏れを十分に抑制することが可能である。したがって、しきい値電流の低減がさらに図られる。
【0055】
さらに、半導体レーザ素子100においては、抵抗の大きなp−AlGaNクラッド層8の厚さt1 が0.3μm未満と小さいので、p電極131とn電極132との間の直列抵抗を小さくすることが可能となる。したがって、半導体レーザ素子100においては動作電圧の低減化が図られる。
【0056】
なお、上記の半導体レーザ素子100においては、p−AlGaNクラッド層8およびn−AlGaNクラッド層6がともにAl0.05Ga0.95Nから構成されているが、Al組成が0.05よりも大きくてもよい。ただし、クラッド層のAl組成を0.05以下にすることによって、窒化物系半導体層の成長時に発生する窒化物系半導体層にかかる歪を小さくすることができ、窒化物系半導体層でのクラックの発生を防止することができる。それにより、素子の歩留りを低下させることなく、窒化物系半導体発光素子の動作電圧の低減化を図ることが可能となる。
【0057】
また、上記の半導体レーザ素子100においては、p−AlGaNクラッド層8およびn−AlGaNクラッド層6がともにAl0.05Ga0.95Nから構成され、同じ大きさのバンドギャップを有する場合について説明したが、バンドギャップの大きさが異なるp−AlGaNクラッド層8およびn−AlGaNクラッド層6が形成されてもよい。
【0058】
また、上記においてはn−GaN光ガイド層71およびp−GaN光ガイド層73の両方が形成される場合について説明したが、n−GaN光ガイド層71およびp−GaN光ガイド層73のどちらか一方のみが形成された構造であってもよく、また、n−GaN光ガイド層71およびp−GaN光ガイド層73の両方が形成されない構造であってもよい。
【0059】
図5は本発明の他の実施例における半導体レーザ素子を示す模式的な断面図である。図5に示す半導体レーザ素子101は、以下の点を除いて、図1の半導体レーザ素子100と同様の構造を有する。
【0060】
図5に示すように、半導体レーザ素子101においては、発光層7を構成する厚さ0.1μmのp−GaN光ガイド層73の所定領域が所定深さまでエッチングされ、リッジ部10aが形成されている。
【0061】
この場合、p−GaN光ガイド層73の平坦部の厚さは、半導体レーザ素子101の横モード制御の点から、0.05μm以下であることが好ましい。また、MQW活性層72が露出するまでp−GaN光ガイド層73の所定領域がエッチングされてMQW活性層72上にリッジ状のp−GaN光ガイド層73が形成された構造であってもよい。
【0062】
半導体レーザ素子101においては、p−GaN光ガイド層73のリッジ部10aの上面にp電極131が形成されている。また、p−GaN光ガイド層73のリッジ部10aの両側面、p−GaN光ガイド層73の平坦部上面、p−GaN光ガイド層73からn−GaNコンタクト層4までの側面、ならびにn電極132が形成された領域を除くn−GaNコンタクト層4の上面にSiO2 等からなる絶縁膜12が形成されている。
【0063】
本実施例の半導体レーザ素子101においては、図1の半導体レーザ素子100のようなp−AlGaNクラッド層およびp−GaNコンタクト層が形成されず、代わりにp−GaN光ガイド層73にリッジ部10aが形成されてリッジ部10aの上面がp電極131にオーミック接触している。
【0064】
このような半導体レーザ素子101のp型半導体層側においては、MQW活性層72で発生した光のしみ出しがp−GaN光ガイド層73に限られる。このため、光のしみ出しを抑制してMQW活性層72に光を効果的に閉じ込めることができる。それにより、垂直横モードにおける高次モードを十分にカットオフすることができる。したがって、半導体レーザ素子101においては、しきい値電流の低減化が図られるとともに、レーザ光を集光した際の集光特性が向上する。
【0065】
このような半導体レーザ素子101においては、MQW活性層72の厚さを小さくした場合においても、光のしみ出しを抑制してMQW活性層72に効果的に光を閉じ込めることができる。したがって、半導体レーザ素子101においてはMQW活性層72の厚さを小さくすることができる。厚さの小さなMQW活性層72においては良好な結晶性が実現されることから、このような半導体レーザ素子101においては素子特性の向上が図られる。
【0066】
また、半導体レーザ素子101おいては、抵抗が大きいp−AlGaNクラッド層が形成されていないため、動作電圧の低減化が十分に図られる。
【0067】
特に、このような半導体レーザ素子101においては、素子の動作温度の変化に伴う動作電圧の変動を小さく抑えることが可能である。すなわち、半導体レーザ素子101においては、動作温度を下げた場合においても動作電圧の上昇が小さいので、低温下においても絶縁破壊等の素子破壊の発生を防止することができる。
【0068】
図6は本発明のさらに他の実施例における半導体レーザ素子を示す模式的な断面図である。
【0069】
図6に示す半導体レーザ素子102は、MQW活性層72上にキャリア漏れ防止層74が形成されるとともにこのキャリア漏れ防止層74上にp−GaN光ガイド層73が形成された点を除いて、図5の半導体レーザ素子101と同様の構造を有する。
【0070】
キャリア漏れ防止層74は、MQW活性層72およびp−GaN光ガイド層73に比べて大きなバンドギャップを有する。なお、ここでは、前述のようにn−InGaN井戸層72bのバンドギャップの大きさをMQW活性層72のバンドギャップの大きさと定義する。
【0071】
例えば、上記の半導体レーザ素子102においてはp−Al0.25Ga0.75Nからなる厚さ200Åのキャリア漏れ防止層74が形成されている。このようなキャリア漏れ防止層74が形成された半導体レーザ素子102においては、キャリア漏れ防止層74が障壁となるため、MQW活性層72からp−GaN光ガイド層73へのキャリア(電子)の漏れが防止される。
【0072】
上記の半導体レーザ素子102のp型半導体層側においては、MQW活性層72で発生した光のしみ出しがキャリア漏れ防止層74およびp−GaN光ガイド層73に限られる。このため、光のしみ出しを抑制してMQW活性層72に光を効果的に閉じ込めることができる。それにより、垂直横モードにおける高次モードを十分にカットオフすることができる。したがって、半導体レーザ素子102においては、しきい値電流の低減化が図られるとともに、レーザ光を集光した際の集光特性が向上する。
【0073】
特に、この場合においては、MQW活性層72上にキャリア漏れ防止層74が形成されているため、MQW活性層72からp−GaN光ガイド層73への電子(キャリア)の漏れを防止することが可能となる。したがって、半導体レーザ素子102においては、しきい値電流の低減化がさらに図られる。
【0074】
このような半導体レーザ素子102においては、MQW活性層72の厚さを小さくした場合においても、光のしみ出しを抑制してMQW活性層72に効果的に光を閉じ込めることができる。したがって、半導体レーザ素子102においては、MQW活性層72の厚さを小さくすることができる。厚さの小さなMQW活性層72においては良好な結晶性が実現されることから、このような半導体レーザ素子102においては素子特性の向上が図られる。
【0075】
また、半導体レーザ素子102おいては、抵抗が大きいp−AlGaNクラッド層が形成されていないため、動作電圧の低減化が十分に図られる。
【0076】
特に、このような半導体レーザ素子102においては、素子の動作温度の変化に伴う動作電圧の変動を小さく抑えることが可能である。すなわち、半導体レーザ素子102においては、動作温度を下げた場合においても動作電圧の上昇が小さいので、低温下においても絶縁破壊等の素子破壊の発生を防止することができる。
【0077】
なお、上記においてキャリア漏れ防止層74は抵抗の大きなp−AlGaNから構成されているが、厚さが200Åと小さいため、キャリア漏れ防止層74は半導体レーザ素子102の動作電圧には影響しない。キャリアの漏れを十分に抑制しかつ素子の動作電圧の低減化を図る上では、キャリア漏れ防止層74の厚さは150〜300Åであることが好ましい。
【0078】
半導体レーザ素子100〜102において、各層の構成は上記に限定されるものではない。各層は、Al、Ga、In、BおよびTlの少なくとも1つを含む窒化物系半導体から構成されていればよい。また、上記においては基板としてサファイア基板を用いているが、Si、SiC、GaN等からなる基板を用いてもよい。
【0079】
さらに、上記においては基板上にn型層およびp型層がこの順で形成される場合について説明したが、基板上にp型層およびn型層がこの順で形成されてもよい。
【0081】
図7は、本発明の参考例における半導体レーザ素子を示す模式的な断面図である。図7に示す半導体レーザ素子は、サファイア基板21のC(0001)面上に、アンドープのAlGaNからなるバッファ層22、アンドープGaN層23、n−GaNからなるn−GaNコンタクト層24、n−Al0.05Ga0.95Nからなるn−AlGaNクラッド層25、発光層26、p−Al0.05Ga0.95Nからなるp−AlGaN第1クラッド層27、開口部を有するn−AlGaNからなるn−AlGaN電流ブロック層28、p−Al0.05Ga0.95Nからなるp−AlGaN第2クラッド層29およびp−GaNからなるp−GaNコンタクト層30が順に積層されてなる。p−GaNコンタクト層30からn−GaNコンタクト層24までの一部領域が除去され、n−GaNコンタクト層24が露出している。この露出したn−GaNコンタクト層24上にn電極132が形成されている。また、p−GaNコンタクト層30の所定領域上にはp電極131が形成されている。
【0082】
なお、上記の発光層26の構造は、図1の半導体レーザ素子100の発光層7の構造と同様である。
【0085】
例えば、図7の半導体レーザ素子において、開口部を有するn−AlGaN電流ブロック層28が発光層26上に直接形成され、このn−AlGaN電流ブロック層28上およびn−AlGaN電流ブロック層28の開口部内で露出した発光層26上にp−GaNコンタクト層30が形成された構造であってもよい。この場合においては、図2の半導体レーザ素子101と同様の効果が得られる。さらに、この場合、図3の半導体レーザ素子102のように、発光層26のMQW活性層とp−GaN光ガイド層との間にキャリア漏れ防止層を形成してもよい。
【0086】
図8は、本発明のさらに他の実施例における半導体レーザ素子を示す模式的な断面図である。
【0087】
図8に示す半導体レーザ素子は、MQW活性層72上にキャリア漏れ防止層74が形成されるとともにこのキャリア漏れ防止層74上にp−GaN光ガイド層73が形成された点を除いて、図1の半導体レーザ素子100と同様の構造を有する。
【0088】
キャリア漏れ防止層74は、MQW活性層72およびp−GaN光ガイド層73に比べて大きなバンドギャップを有する。なお、ここでは、前述のようにn−InGaN井戸層72bのバンドギャップの大きさをMQW活性層72のバンドギャップの大きさと定義する。
【0089】
例えば、本実施例の半導体レーザ素子においては、p−Al0.25Ga0.75Nからなる厚さ200Åのキャリア漏れ防止層74が形成されている。このようなキャリア漏れ防止層74が形成された本実施例の半導体レーザ素子においては、キャリア漏れ防止層74が障壁となるため、MQW活性層72からp−GaN光ガイド層73へのキャリア(電子)の漏れが防止される。
【0090】
本実施例の半導体レーザにおいては、p−AlGaNクラッド層8の厚さt1が0.3μm未満と小さいため、p型半導体層側において、発光層7からp−AlGaNクラッド層8への光のしみ出しを抑制し、垂直モードにおける高次モードをカットオフすることができる。このため、本半導体レーザ素子においては、しきい値電流の低減化を図ることが可能になる。また、この場合、レーザ光を集光した際の集光特性が良好である。
【0091】
加えて、本半導体レーザ素子においては、MQW活性層72の厚さを小さくした場合においても、p型半導体層側への光のしみ出しを抑制することができる。厚さの小さなMQW活性層72においては、良好な結晶性が実現されることから、このような半導体レーザ素子においては素子特性の向上が図られる。
【0092】
また、本実施例の半導体レーザ素子においては、図1の半導体レーザ素子に比較して、キャリア漏れ防止層74により、MQW活性層72からのキャリア漏れを、より一層十分に抑制することが可能である。したがって、しきい値電流の低減がさらに図られる。
【0093】
さらに、本実施例の半導体レーザ素子においては、抵抗の大きなp−AlGaNクラッド層8の厚さt1 が0.3μm未満と小さいので、p電極131とn電極132との間の直列抵抗を小さくすることが可能となる。したがって、本実施例の半導体レーザ素子においては動作電圧の低減化が図られる。
【0094】
なお、上記の本実施例の半導体レーザ素子においては、p−AlGaNクラッド層8およびn−AlGaNクラッド層6がともにAl0.05Ga0.95Nから構成されているが、Al組成が0.05よりも大きくてもよい。ただし、クラッド層のAl組成を0.05以下にすることによって、窒化物系半導体層の成長時に発生する窒化物系半導体層にかかる歪を小さくすることができ、窒化物系半導体層でのクラックの発生を防止することができる。それにより、素子の歩留りを低下させることなく、窒化物系半導体発光素子の動作電圧の低減化を図ることが可能となる。
【0095】
また、上記の本実施例の半導体レーザ素子においては、p−AlGaNクラッド層8およびn−AlGaNクラッド層6がともにAl0.05Ga0.95Nから構成され、同じ大きさのバンドギャップを有する場合について説明したが、バンドギャップの大きさが異なるp−AlGaNクラッド層8およびn−AlGaNクラッド層6が形成されてもよい。
【0096】
また、上記においてはn−GaN光ガイド層71およびp−GaN光ガイド層73の両方が形成される場合について説明したが、n−GaN光ガイド層71およびp−GaN光ガイド層73のどちらか一方のみが形成された構造であってもよく、また、n−GaN光ガイド層71およびp−GaN光ガイド層73の両方が形成されない構造であってもよい。
【0097】
なお、上記においては本発明を半導体レーザ素子に適用する場合について説明したが、本発明を半導体レーザ素子以外の半導体発光素子に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例における半導体レーザ素子を示す模式的な断面図である。
【図2】図1の半導体レーザ素子の発光層の詳細な構造を示す模式的な部分拡大図である。
【図3】図1の半導体レーザ素子の所定領域におけるレーザ光の電界分布を示す模式的な断面図である。
【図4】p−AlGaNクラッド層の厚さが0.3μm以上である半導体レーザ素子のレーザ光の電界分布を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明の他の実施例における半導体レーザ素子を示す模式的な断面図である。
【図6】本発明のさらに他の実施例における半導体レーザ素子を示す模式的な断面図である。
【図7】 本発明の参考例における半導体レーザ素子を示す模式的な断面図である。
【図8】本発明のさらに他の実施例における半導体レーザ素子を示す模式的な断面図である。
【図9】従来の窒化物系半導体レーザ素子の例を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
1 サファイア基板
2 バッファ層
3 アンドープGaN層
4 n−GaNコンタクト層
5 n−InGaNクラック防止層
6 n−AlGaNクラッド層
7 発光層
8 p−AlGaNクラッド層
9 p−GaNコンタクト層
10,10a リッジ部
11 n電極形成領域
12 絶縁膜
71 n−GaN光ガイド層
72 MQW活性層
73 p−GaN光ガイド層
74 キャリア漏れ防止層
100,101,102 半導体レーザ素子
131 p電極
132 n電極
Claims (4)
- III 族窒化物系半導体からなり活性層を含む発光層上に、III 族窒化物系半導体からなり前記活性層よりも大きなバンドギャップを有しかつ前記活性層よりも小さな屈折率を有するp型クラッド層が形成され、前記p型クラッド層にはリッジ部およびリッジ部の両側に位置する平坦部が形成され、前記クラッド部の厚さt 1 は0.3μm未満であり、前記平坦部の厚さt 2 は0.05〜0.15μmであり、前記厚さt 1 及び厚さt 2 が、t 1 >t 2 の関係を満たすことを特徴とする窒化物系半導体発光素子。
- クラッド層のアルミニウム組成が0.05以下であることを特徴とする請求項1記載の窒化物系半導体発光素子。
- 前記発光層は、前記活性層上に、前記p型クラッド層よりも小さなバンドギャップを有しかつ前記p型クラッド層よりも大きな屈折率を有するとともに前記活性層よりも大きなバンドギャップを有しかつ前記活性層よりも小さな屈折率を有するp型光ガイド層をさらに含み、前記p型光ガイド層上に前記p型クラッド層が形成されたことを特徴とする請求項1または2記載の窒化物系半導体発光素子。
- 前記発光層は、前記活性層上に形成され前記p型光ガイド層よりも大きなバンドギャップを有するp型のキャリア漏れ防止層をさらに含み、前記キャリア漏れ防止層上に前記p型光ガイド層が形成されたことを特徴とする請求項3記載の窒化物系半導体発光素子。
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