JP4888752B2 - ニッケル材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷間でのプレス成形やプレス打抜き、曲げ加工と言った加工が施されるニッケル材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
モバイルパソコンや携帯電話に代表される携帯可能な電子機器には充電式の二次電池が使用されてきているが、機器の高機能化による消費電力の増大と長時間使用の要求から電池にはエネルギー密度の増大と長寿命化が求められている。
特に近年では携帯電話の爆発的な普及により、その待ち受け時間の長時間要求から充電式二次電池としては特にエネルギー密度が高いLiイオン二次電池の採用が増加しており、このLiイオン二次電池は反応活物質を鉄またはAl製の缶の中に封入し、この缶の周囲に電気の流れる道となるリードと呼ばれるニッケル材料でなる部品を配置している。
【0003】
このリードにニッケル材料が使用されているのは、電池で発生した電気を流すため低抵抗が要求されることに加え、リードは缶にスポット溶接法,抵抗溶接法や超音波溶接法で溶接接合されるため,リードの材質には溶接性も要求されていることから、低電気抵抗で溶接性に優れたニッケル材料が求められている。
また、このニッケルイオン二次電池は携帯機器以外にもその高エネルギー密度を利用して電気自動車のバッテリーとしての用途も期待されており、ニッケル材料を用いた用途は今後益々広がっていくと予想される。
このニッケル材料の提案としては特開平11-61302号に、冷間鍛造性の改善にCやNのコントロールが重要で、この両元素をある範囲以下に管理することで冷間鍛造性が改造されることについて述べている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、現在、上述の電池に組み込まれるニッケル材料製のリードには次の特性が要求される。
(1) リードとして曲げて使用されるため曲げ加工性が良く、更に多くの場合リード材は帯状のニッケル材料をプレス加工して部品とされるため、このプレス打ち抜き時に材料の変形が起きず、またバリの発生が少ないといったプレス加工性が良好なことが要求される。
(2) 溶接性が良いこと。これは電池に使用されるリード材は、鉄またはAl製の缶にスポット溶接、抵抗溶接や超音波溶接と言った溶接法により接続され使用されるためである。
(3) 電気伝導性が良いこと。これは電池としての最大の差別化要素である、電池の長寿命化に貢献し、発熱等のロスを低減させるのに役立つ。
【0005】
従来の電池用ニッケル材料は、単にニッケルの純度を上げることで低電気抵抗、溶接性の改善等を行ってきた。低電気抵抗を実現するには確かにニッケルの純度を上げる手法は一定の効果がある。しかし、ガス成分元素に起因した金属間化合物が形成されて電気抵抗が増加する可能性を生じたリ、更に溶接性においては、何が本質的に特性を支配しているのかが必ずしも明確とはなっておらず、製造時の管理ポイントがあいまいで品質、特性が製造ロットによりバラツキを有するといった問題があった。
また、上述の特開平11-61302号ではCやNをコントロールして冷間鍛造性を改善することが述べられているが、プレス性、加工性や溶接性については何の考慮もなされておらず、電池用に用いられるNi材料において求められる上記の(1)〜(3)を同時に満足する材料は得られていないのが現状である。
本発明の目的は、特にプレス加工時のバリ発生や変形を抑えることで加工性を改善し、更に溶接性を兼ね備えたニッケル材料を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、プレス加工時のバリ発生や変形を抑えることで加工性を改善し、更に溶接性を向上させるために、添加する元素の作用効果、金属組織、表面解析等の種々の手法を試みた結果、特定のガス成分を適正量にすると、低電気抵抗、優れたプレス性や曲げ加工性、及び溶接性を満足できることを見出した。
そして更に、特定の金属組織、或いは酸化層の深さを調整することで、更に加工性を向上できることを見出し本発明に到達した。
即ち本発明は、質量%でC:0.008〜0.020%、Si:0.01%以下、Mn:0.04%以下、残部はNi及び不可避的不純物からなる冷間圧延されたニッケル材料であって、該ニッケル材料の酸素と窒素の合計量を100ppm以下に制限し、且つ、結晶粒径はJIS G0551で示される結晶粒度番号が5より細粒であるニッケル材料である。
【0007】
好ましくは、材料の最表面から100nmの深さまでの酸素量に対して、最表面から500μmの深さでの酸素量が、最表面から100nmの深さの酸素量の二分の一以下になるニッケル材料である。
【0008】
【発明の実施の形態】
上述したように、本発明の重要な特徴はプレス性、溶接性の改善を達成するために、ニッケル以外の元素として炭素、シリコン、マンガンの成分範囲規定を行ない、更に特定量以下のガス成分を調整したことである。
このニッケル材料において個々の規定を行なった理由を以下に述べる。
【0009】
C:0.03%以下
Cは溶解工程において不可避的に混入される元素であるが、この元素には脱酸元素としての特徴がある。すなわち、Cはある程度の量が入っているとCOやCO2ガスとして溶湯中の酸素量を低減させる働きがある。
更に、溶湯中の酸素量を低減させる働きを持つ元素としてAl,Si,Mn,Cr,Ti,Mg,Ca等が知られているが、Cをある程度入れておくことでこれら脱酸元素の使用量を抑える効果もあり、結果としてニッケル材料を高純度に保てる他、従来から知られているC量では0.01mass%以下としているものが殆どであるが、Cをむしろ若干高目にしてでもSi,Mn等の添加を抑える方が、純ニッケル材料製のリードとした時の材料表面の酸化膜厚さを一定量以下に抑えることが可能となることが判明した。そこで本発明ではCは若干高めとすることが最適であることを確認し、敢えてC量は0.008から0.020mass%の管理とした。
【0010】
Si:0.01%以下
Siはニッケルの溶解の際にも脱酸元素として重要な働きをしている。しかし、Siの含有量が増えるとニッケル材料の表面に硬いSiO2の酸化膜が形成され、その結果としてプレス加工性や、曲げ加工性が劣化することが判明した。そこでSiは0.01mass%以下で管理することとした。
Mn:0.04%以下
Mnは同じく溶湯中の酸素を低減する脱酸剤として使用されるが、Mnの添加量が多くなるとSiと同様にニッケル材料の表面にMnの酸化膜を厚く形成しプレス打ち抜き性に悪影響を及ぼしたり、プレス金型を傷つけたりして、結果的に金型の寿命を低下させるという問題がある。このためMn量は0.04mass%以下とした。
以上、説明する三つの元素をそれぞれ本発明で規定する範囲内に調整することが重要である。
【0011】
本発明では、更に上述の三つの元素に加えてガス成分を制限する必要がある。
酸素と窒素との合計量を100ppm
酸素や窒素といったガス成分の合計を100ppm以下としたのは、ガス成分がこれ以上含有されるとニッケル材料中のガス元素に起因した金属間化合物量が増えて電気抵抗の増加(電流値の低下や、電池寿命の低下)が発生したり、曲げ加工性も劣化させるためである。また、溶接時にガスに起因した空孔欠陥が発生し、溶接剥離等に代表される溶接欠陥が発生する。このためガス成分の中でも特に酸素と窒素に関しては100ppm以下とする必要がある。
【0012】
次に、結晶粒径の規定を行った理由は以下による。
このニッケル材料は、例えばリチウムイオン二次電池に組み込まれる際には高精度で曲げ加工を施される。しかもこのリード用途には板厚が0.25mm以下の非常に薄い材料が使用されるため少しの材料内部欠陥でも存在すると材料が破断すると言った不具合が発生し易い。
このため少しでも材料の靭性を上げるための結晶粒径度として、JIS G0551で示される結晶粒度番号が5より細粒が好ましい。この範囲の結晶粒であれば内部クラックの進展を妨害することができ、極端な割れの発生を防止できることが判明したため、上述の範囲とした。この範囲の細粒金属組織を有する本発明のニッケル材料では、上述のリチウムイオン二次電池の他、曲げ加工を行うような用途に好適となる。
【0013】
次に、酸化層の深さについて説明する。
表面の酸化層の深さに関してはESCAを用いて調査した。この結果、最表面から100nmの深さで検出される酸素は、酸化膜に起因した酸素であることが多く、最表層からおおよそ500μmの深さの酸素量に比較して二分の一以下とすることで表面硬化が抑えられ、特に曲げ加工性に好影響を及ぼすことを突き止めた。
具体的には、上述の最表面からおおよそ500μmの深さ、つまり中心付近の酸素量が、最表面から100nmの深さで検出される酸素量の二分の一以下にならない場合、表層域に過剰な酸化膜が形成されている場合が多く、その酸化膜の影響で材料表面が硬化してしまい結果的に延性が低下してしまうため、曲げ加工時にはクラックが入る原因となり、また、プレス加工時には金型を傷つけて金型の寿命を低下させてしまう原因となる。このため、酸化層の厚さを最表面から100nmの深さの酸素量に対して、最表面から500μmの深さでの酸素量が、表面酸素量の二分の一以下とするのが良く、曲げ加工を行うような用途にとって更に好適となる。
なお、最表面から500μm丁度の位置の酸素量を測定するのは、困難であるから、約500μmの位置であれば良く、例えば480〜520μmの位置であっても問題はない。
【0014】
なお、ここでいう最表面とは、ドライエッチング無しの材料表面をESCAで測定する深さまでを最表面という。
また、ESCA(光電子分光分析装置)を用いて深さ方向にドライエッチングを行い、分析を実施する場合では、1分のドライエッチングによっていくらドライエッチングがなされているか分からないという欠点がある。そのため、多くの場合、SiO2標準試料によって、1分のドライエッチングで例えば1nmのドライエッチングがなされるように調整し、未知試料の分析で1分のドライエッチングで1nmがドライエッチングされたものと見なして分析を行っている。
このため、本発明者等も最表面から100nmの分析においては、100分のドライエッチングで100nmの深さを分析した。
【0015】
【実施例】
電解ニッケルを真空誘導炉で溶解し、脱酸剤の添加と真空脱ガスによって種々のレベルの不純物量を含有したインゴットに鋳造し、このインゴットを熱間圧延により加工して厚さ50mmの直方体形状のスラブにし、更に熱間圧延、冷間圧延を実施して、板厚0.15mmリチウムイオン二次電池用リード材に圧延成形した。
圧延形成した材料から結晶粒度測定用試験片を採取し、JIS G0551に従い、結晶粒径を測定した。
また、酸化層深さ測定のため、ESCA用試験片を採取し、有機溶剤で表面脱脂、乾燥し、光電子分光分析装置にて酸素量を測定した。この時、定量分析は、C,O,N,Ni,Si,Mnの元素を最表面から100nmの位置を分析した。最表面から500μmの位置は、測定用試験片を治具に貼りつけ、機械研磨で僅かづつ研磨しながら、研磨量をマイクロメータで測定して約500μmを研磨し、研磨の影響がESCA分析値に表れないように、更に500分のドライエッチを施した場所をESCAで定量分析した。
冷間圧延されたニッケル材料に含有された微量元素と、結晶粒度番号、酸素量比を表1に纏めて示す。
【0016】
【表1】
【0017】
表1から、C含有量を若干高めに添加すると、Si,Mn量の添加量も抑制でき、結果として、材料表面の酸化が少なく、良好な曲げ加工性、プレス性が得られ、更に、ニッケル材料の高純度化が図れている。
また、酸素や窒素のガス成分を制限していることから、ガス成分に起因した金属間化合物の生成も抑制でき、低電気抵抗、曲げ加工性、溶接性の特性を同時に満足できる材料であることが分かる。
更に、本発明の冷間圧延されたニッケル材料の結晶粒径は7と非常に細粒であるため、十分な曲げ加工性を有している。
【0018】
【発明の効果】
本発明に従えば、表面酸化層厚さが低減され、更に曲げ加工性も改善されることから、金型寿命の延長につながり、例えば、ニッケル材料の一用途であるリチウムイオン二次電池用のリード材として好適な技術となり得る。
Claims (2)
- 質量%でC:0.008〜0.020%、Si:0.01%以下、Mn:0.04%以下、残部はNi及び不可避的不純物からなる冷間圧延されたニッケル材料であって、該ニッケル材料の酸素と窒素の合計量を100ppm以下に制限し、且つ、結晶粒径はJIS G0551で示される結晶粒度番号が5より細粒であることを特徴とするニッケル材料。
- 材料の最表面から100nmの深さの酸素量に対して、
最表面から500μmの深さでの酸素量が、
最表面から100nmの深さの酸素量の二分の一以下になる
ことを特徴とする請求項1に記載のニッケル材料。
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