JP4888476B2 - 真空機器 - Google Patents
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図2において、111は高電位導体であり、正の高電圧が印加される。112は低電位導体であり、通常接地される。113は絶縁体であり、高電位導体111の支持および高電位導体111と低電位導体112の電気絶縁を確保するために設けられる。低電位導体112には凹部hが形成され、絶縁体113との間にクリアランスyが設けられている。絶縁体113は、一般的に、アルミナや繊維強化プラスチック(以下、FRPという)が用いられ、その沿面における絶縁破壊を防止するのに十分な長さが設けられている。
このような絶縁構造体では、低電位導体112に凹部を形成し、低電位導体112と絶縁体113との間にクリアランスが設けられている。これにより絶縁体113の沿面における絶縁破壊の原因の一つであるトリプルジャンクション114(真空中の低電位導体112と絶縁体113との接合部)における電子の放出を抑制する。
真空中で図3の高電位導体111に高電圧が印加されると、真空と低電位導体112と絶縁体113とが成すトリプルジャンクション114における電界が非常に大きくなり低電位導体112から電子が放出される。放出された一部の電子は絶縁体113に衝突する。このとき、絶縁体113から電子(二次電子)が放出され、この電子が絶縁体113に衝突することでさらに電子が放出される。このように、二次電子が次から次へと増殖される現象(二次電子なだれ現象)が電界によって高電位導体111に向かって進行する。二次電子の放出量が多いと絶縁体113の帯電量が大きくなり、絶縁破壊(沿面放電)しやすくなる。二次電子の放出量は絶縁体113の二次電子放出係数に依存し、この値が大きいほど二次電子放出量が多い。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、真空中における絶縁構造体の沿面での絶縁耐力を向上させた真空機器を提供するとことを目的とする。本発明により、真空機器の小型化を実現することができ、また、絶縁信頼性の高い絶縁構造体を提供することができる。
このような構成によれば、二次電子なだれが生じやすい絶縁体113とトリプルジャンクション114との距離を確保でき、トリプルジャンクション114で発生した電子が絶縁体113に衝突せずに、二次電子放出係数の小さい絶縁物皮膜1に衝突することで二次電子の放出を抑制することができる。よって、真空中での絶縁体113の沿面における二次電子なだれ、つまり沿面破壊が防止され、絶縁耐力が向上する。結果として小型化の真空機器を実現することができる。
さらに、絶縁物皮膜1は塗布によっても形成できるため、それ自身の形状が簡単であり、また、複雑な形状の低電位導体112や絶縁体113であっても容易に形成され、また、低電位導体と絶縁体113との界面の接着やシールを兼ねることも出来るため、真空機器の小型化に大きく寄与することができる。
なお、本実施形態においては、高電位導体111には正の高電位が印加され、低電位導体112には基準電位である接地電位が与えられているが、高電位導体111と低電位導体112との間に所定の電位差(電圧)を生じさせるものであれば本実施形態の態様に限らない。すなわち、所定の電圧が確保できるものであれば、負の電圧となり得る導体に絶縁物皮膜1を形成することで、正負の電圧を含めて適宜設定できる。
ここで、図1における絶縁物皮膜1によって確保するべき、絶縁体113とトリプルジャンクション114との距離xは、少なくとも電子の放出点から次に絶縁物皮膜1上に衝突するまでの距離以上である。非特許文献1を参照すれば、この距離は高々20μm程度であるので、、少なくとも20μm以上の絶縁物皮膜を低電位導体112の所定の表面上に施すことで本発明の効果が得られる。本発明者の知見では、実際の製造プロセス上のマージンを考慮して、距離xを50μm以上にすることが望ましい。絶縁物皮膜の形成方法によっては50μmよりも大きく形成されることもある。また、低電位導体112に接点や端子などの導体の露出部分が不要である場合は、その全面あるいは広範囲の表面に絶縁物皮膜1を施すこともできる。
なお、絶縁物皮膜1は、絶縁体113とトリプルジャンクション114との距離を確保するために設けれているので、その厚さは特に限定されるものではないが、本実施形態では、膜厚10μmの絶縁物皮膜1を用いている
電気学会研究会資料 放電研究会ED−99−187、P25〜P30(1999年11月19日)以下、本実施形態に係る種々の実施例を説明する。
(a)ナフタレン型エポキシ樹脂
(b)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂
(c)メソゲン基を持つエポキシ樹脂
(d)ビスフェノール型エポキシ樹脂
(e)フェニルグリシジルエーテル(反応性希釈剤の一例)
(f)2エチル4メチルイミダゾール
(g)2メチルイミダゾール
(h)3フッ化ホウ素アニリン錯体
(i)ジアミノジフェニルメタン系硬化剤
(j)シリカ(充填材の一例)
絶縁耐力を調べる場合、雰囲気圧力を約1×10−4Paとし、絶縁体113の沿面距離つまり高電位導体111と低電位導体112(接地)との距離を2mmとして高電位導体111に電圧を印加した。また、絶縁耐力には表面の清浄度などが影響することが知られているので、この影響を低減するために、放電20回のコンディショニング後のデータで試料間の比較を行った。
なお、絶縁耐力の従来例には図2の構造の絶縁構造体を用い、図2中y、hはいずれも0.2mmとした。従来例の絶縁体113にはアルミナおよびFRPを用いた。
表2に評価結果を示す。絶縁耐力はいずれも相対値である。表1に示した全てのエポキシ樹脂組成物において、絶縁体113がアルミナの場合もFRPの場合も絶縁耐力は表1に示すエポキシ樹脂組成物からなる絶縁体皮膜により向上している。
なお、本実施例の雰囲気圧力は約1×10−4Paとしたが、沿面放電は雰囲気圧力が5×10−2Pa以下において特に影響が大きくなる。
表3において、絶縁体113がアルミナの場合もFRPの場合も絶縁耐力は5倍以上向上していることがわかる。
(14)熱融着性のフッ素系樹脂フィルム:ネオフロンEFEP(ダイキン工業製)
(15)熱融着性のフッ素系樹脂フィルム:シルキーボンド(潤工舎製)
(16)フッ素系樹脂塗料:ルミフロン(R)(旭硝子製)
(17)フッ素系樹脂塗料:カンペフロン(R)HD(関西ペイント製)
(18)シリコーン系樹脂ワニス:TSR116(モメンティブ製)
(19)シリコーン系樹脂:SE1713(東レダウコーニングシリコーン製)
(20)ポリアミドイミドワニス:HPC−5000(日立化成製)
(21)ポリイミド系ワニス:CT4200H(京セラケミカル製)
また、本発明における絶縁体113の形状は、実施例に示した柱状でなくても、管状や箱状でその両端に導体を接続したものでも良く、また管状や箱状の内部の空間を真空雰囲気とし、内部の絶縁耐力を向上させたものでも良い。これは実施例における絶縁体の表面を管状や箱状の内壁と置き換え、真空雰囲気をその内部空間と置き換えることで理解できるであろう。
111 高電位導体(正の高電圧印加部)
112 低電位導体(接地部)
113 絶縁体
114 トリプルジャンクション
Claims (8)
- 高電位が与えられる高電位導体と、
前記高電位導体と対向する位置に平行に設けられ、低電位が与えられる低電位導体と、
前記高電位導体と前記低電位導体に接続され、その間に垂直に介在する絶縁体と、を備え、
5×10−2Pa以下の真空雰囲気において、前記高電位導体に高電圧を印加することにより、前記低電位導体と前記高電位導体の間に電位差が生じて平等電界が形成され、荷電粒子による表面改質装置、電子銃、および粒子加速装置として適用される真空機器であって、
前記低電位導体の表面上の前記絶縁体と隣接する位置に、米国材料試験協会(ASTM:American Society for Testing and Materials) の規格D570に規定された23℃の吸水率が0.3%以下の絶縁物被膜が形成されたことを特徴とする真空機器。 - 前記絶縁物皮膜は、前記絶縁体に隣接し、且つ、前記絶縁体から20μm以上延在して形成されたことを特徴とする請求項1記載の真空機器。
- 前記絶縁物被膜はエポキシ樹脂組成物であり、前記エポキシ樹脂組成物は少なくとも主剤と反応性希釈剤と触媒型硬化剤とから構成され、前記主剤は、ビスフェノール型、または、芳香族環、五員環、脂肪族六員環、ジシクロペンタジエン構造、ノボラック構造、メソゲン基のいずれかを含む環状の化学構造より選ばれる1つ、またはそれらの混合物であり、前記反応性希釈剤の化学構造は、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルなどの単官能型、または直鎖脂肪族、ポリグリコール、ポリエーテル、ポリチオールなどの2官能型、またはそれらの混合物であり、前記触媒型硬化剤はイミダゾール化合物、または、3フッ化ホウ素アミン錯体であることを特徴とする請求項1または2に記載の真空機器。
- 前記イミダゾール化合物は2メチルイミダゾール、2エチル4メチルイミダゾール、nウンデシルイミダゾール、1ベンジル2メチルイミダゾール、または、それらの混合物であり、その配合比が前記主剤と前記反応性希釈剤との合計100重量部に対して前記触媒型硬化剤が0.5重量部以上7重量部以下であることを特徴とする請求項3に記載の真空機器。
- 前記3フッ化ホウ素アミン錯体は3フッ化ホウ素アニリン錯体、3フッ化ホウ素クロロフェニルアミン錯体、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項3に記載の真空機器。
- 前記絶縁物被膜は、フッ素系樹脂またはシリコーン系樹脂またはポリイミド系樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の真空機器。
- 前記絶縁体はアルミナまたは繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項1または2に記載の真空機器。
- 前記絶縁体は内部に真空排気された空間を持つことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の真空機器。
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