従来のゴム補強用ガラス繊維は、耐熱ゴム、例えば酸化亜鉛で架橋されたクロロプレンゴムや、硫黄または過酸化物で架橋されたHNBR等に埋め込んだ際に、ガラス繊維コードと該ゴムの接着性を改善するための被覆剤が塗布被覆されているが、その効果が不十分で、耐熱ベルトに用いた際の使用において、ガラス繊維コードと耐熱ゴムの接着強さが弱く、ガラス繊維と耐熱ゴムの界面が剥離する、寸法安定性に劣る等の問題があった。
また、従来、ガラス繊維被覆用塗布液に使用されてきたレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物と比較して、クロロフェノールにホルムアルデヒドを反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物は水に対する溶解性が低い。一旦、水に溶解したとしても液安定性が悪くクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物は析出し易いので、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物は、ゴム補強用ガラス繊維の被覆材の組成物として使用されていない。
クロロフェノールにホルムアルデヒドを反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物は、水に対する溶解性が低く、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物が沈殿した状態の反応液にアルカリ性化合物等を加えて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿を水に溶解させたとしても、その後、ガラス繊維被覆用塗布液調製のために、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体エマルジョンおよび/またはクロロスルホン化ポリエチレンエマルジョンと混合すると、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物が再度析出するという問題があった。
そこで、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿した反応液に水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を加え、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿を溶解させた後、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体エマルジョンおよび/またはクロロスルホン化ポリエチレンエマルジョンと混合してガラス繊維被覆用塗布液を調製するとクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物が析出することはない。
しかしながら、水酸化ナトリウムが強アルカリであるため、該ガラス繊維被覆用塗布液を塗布被覆したガラス繊維コード自体が侵されて、ガラス繊維コードに該ガラス繊維被覆用塗布液を塗布被覆してなるゴム補強用ガラス繊維の引っ張り強度が低下するという問題があった。
本発明は、ガラス繊維コードと前記ゴムの接着に対し好ましい接着強さを有した被覆層を得て、さらに、耐熱ベルトに用いた際、寸法安定性に優れたゴム補強用ガラス繊維を提供することを目的とする。
本発明者らが鋭意検討した結果、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿にアルコール化合物(F)又はアミン化合物(G)を加えて溶解させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液に、アクリル酸エステル系重合体および/またはメタアクリル酸エステル系重合体であるアクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョン、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンを加え、ガラス繊維被覆用塗布液とし、ガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布した後に乾燥させて被覆層としたところ、耐熱ゴムに埋めこんだ際にガラス繊維コードと耐熱ゴムの好ましい接着強さを得、耐熱ベルトとした際に寸法安定性に優れたゴム補強用ガラス繊維を得られた。
アクリル酸エステル系樹脂(B)は、ガラス繊維コードと耐熱ゴムに粘着性を与え、伝動ベルトとした際に耐熱性を与える材料であり、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)およびクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(B)を加えることで、伝動ベルトとした際に耐熱性および耐水性を与える。ベンゼン環にOH基が2コ結合したレゾルシンをホルムアルデヒドと反応させた従来のレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を用いたゴム補強用ガラス繊維に比較して、ベンゼン環にOH基1コとCl基1コが結合したクロロフェノールをホルムアルデヒドと反応させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)を用いることで、本発明のゴム補強用ガラス繊維は伝動ベルトとした際に、耐熱性および耐水性が明らかに向上する。
尚、アクリル酸エステル系重合体および/またはメタアクリル酸エステル系重合体であるアクリル酸エステル系樹脂(B)は、アクリル酸エステルおよび/またはメタアクリル酸エステルからなるモノマーを含むモノマー混合物を、ポリビニルアルコールまたはその変性物を保護コロイドとして重合させることにより得られる。
本発明者らが鋭意検討を行った結果、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を、水酸化ナトリウム等の強アルカリに替えて、アルコール化合物(F)を加えて溶解させると、ガラス繊維被覆用塗布液を調製する際に、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液に、アクリル酸エステル系重合体および/またはメタアクリル酸エステル系重合体のエマルジョン、あるいはアクリル酸エステルをベースにカルボキシル基等の官能基を導入し変性したアクリル酸エステル系共重合体樹脂(B)のエマルジョンと、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンとを加え混合したとしても、混合後にクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が析出しないことがわかった。
尚、用いるアルコール化合物(F)を加える量は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、F/A=50重量%以上、500重量%以下であることが好ましい。言い換えれば、加えるアルコール化合物(F)の重量が、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量に対して、重量比で表して、F/A=1/2以上、5倍以下であることが好ましい。
また、本発明者らが鋭意検討を行った結果、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を、水酸化ナトリウム等の強アルカリに替えて、アミン化合物(G)を加えて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させると、ガラス繊維被覆用塗布液を調製する際に、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液に、アクリル酸エステル系重合体および/またはメタアクリル酸エステル系重合体のエマルジョン、あるいはアクリル酸エステルをベースにカルボキシル基等の官能基を導入し変性したアクリル酸エステル系共重合体樹脂(B)のエマルジョンと、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンとを加え混合したとしても、混合後にクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が析出しないことがわかった。
尚、用いるアミン化合物(G)の塩基性度定数(Kb)は5×10−5以上、1×10−3以下の範囲であることが好ましく、アミン化合物(G)を加える量は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、G/A=50重量%以上、500重量%以下であることが好ましい。言い換えれば、加えるアミン化合物(G)の重量が、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量に対して、重量比で表して、G/A=1/2以上、5倍以下であることが好ましい。
このようにして、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液に、アクリル酸エステル系重合体および/またはメタアクリル酸エステル系重合体、あるいはアクリル酸エステルをベースにカルボキシル基等の官能基を導入し変性したアクリル酸エステル系共重合体樹脂(B)のエマルジョンと、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンとを加え、ガラス繊維被覆用塗布液を調製した。
該ガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布した後に乾燥させて被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムに埋めこんだところ、ガラス繊維コードと耐熱ゴムの好ましい接着強さを得、耐熱ベルトに優れた寸法安定性が得られた。
即ち、本発明は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿にアルコール化合物(F)又はアミン化合物(G)を加えて溶解させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液とアクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンを含有してなることを特徴とするガラス繊維被覆用塗布液である。
さらに、本発明は、アルコール化合物(F)を加える量が、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、F/A=50重量%以上、500重量%以下であることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
さらに、本発明は、アルコール化合物(F)が、n−プロパノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−メトキシメチルエトキシプロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−ジエトキシエタンから選ばれることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
また、本発明は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿にアミン化合物(G)を加えて溶解させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液に、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンを混合してなることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
さらに、本発明は、アミン化合物(G)の塩基性度定数(Kb)が5×10−5以上、1×10−3以下であることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
また、本発明は、アミン化合物(G)を加える量が、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、G/A=50重量%以上、500重量%以下であることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
さらに、本発明は、アミン化合物(G)が、メチルアミン、エチルアミン、t−ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、メタノ−ルアミン、ジメタノ−ルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノ−ルアミンから選ばれることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
また、本発明は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、クロロフェノール(D)に対するホルムアルデヒド(E)のモル比を、E/D=0.5以上、3.0以下としたことを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
また、本発明は、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンが、アクリル酸エステルおよび/またはメタアクリル酸エステルからなるモノマーを含むモノマー混合物を、ポリビニルアルコールまたはその変性物を保護コロイドとして重合させることにより得られたことを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
さらに、本発明は、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンが分子構造中にカルボキシル基を有してなることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
また、本発明は、塗布液中のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とアクリル酸エステル系樹脂(B)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とからなる固形分の総重量を100重量%基準とする重量%で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C)=1.0重量%以上、15.0重量%以下、アクリル酸エステル系樹脂(B)が、B/(A+B+C)=3.0重量%以上、40.0重量%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)が、C/(A+B+C)=45.0重量%以上、82.0重量%以下の範囲に含まれてなることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
さらに、本発明は、塗布液中のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)の、H/C=5.0重量%以上、80.0重量%以下を、スチレン−ブタジエン共重合体(H)に替えてなることを特徴とする上記のガラス繊維被覆用塗布液である。
また、本発明は、ガラス繊維コードに上記のガラス繊維被覆用塗布液を塗布した後、乾燥させて被覆層を設けてなることを特徴とするゴム補強用ガラス繊維である。
また、本発明は、上記のゴム補強用ガラス繊維にクロロスルホン化ポリエチレン(I)と、クロロスルホン化ポリエチレン(I)の重量に対してJ/I=0.3重量%以上、10.0重量%以下のビスアリルナジイミド(J)とを有機溶剤に分散させたガラス繊維被覆用塗布液を塗布し、さらなる被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維である。
さらに、本発明は、上記のゴム補強用ガラス繊維が母材ゴムに埋設されてなることを特徴とする伝動ベルトである。
さらに、本発明は、上記のゴム補強用ガラス繊維がHNBRに埋設されてなることを特徴とする自動車用タイミングベルトである。
本発明により、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿に、アルコール化合物(F)またはアミン化合物(G)を加え溶解させたことで、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)水溶液と、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンと、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)エマルジョンとを混合させた際、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が析出することがなく、ガラス繊維コードに被覆するためのガラス繊維被覆用塗布液が得られた。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液により、ガラス繊維コードと耐熱ゴムの接着に対し好ましい接着強さを有した被覆層を持つゴム補強用ガラス繊維が得られた。本発明のゴム補強用ガラス繊維は、母材ゴムに埋設して埋設し伝動ベルトとした際に、屈曲走行後の寸法安定性に優れた伝動ベルトを提供する。
本発明によるゴム補強用ガラス繊維によって補強されたゴム製品、即ち伝動ベルトは耐熱性に優れる。よって、本発明のゴム補強用ガラス繊維は、高温下で屈曲走行する、例えば、自動車用タイミングベルトの芯線として好適に使用される。
本発明は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿にアルコール化合物(F)又はアミン化合物(G)を加えて溶解させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液とアクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンを含有してなることを特徴とするガラス繊維被覆用塗布液である。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿にアルコール化合物(F)またはアミン化合物(G)を加えて溶解させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液に、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンを混合することで得られた。
ガラス繊維コードに上記のガラス繊維被覆用塗布液を塗布した後、乾燥させて被覆層を設けることで、例えば、ガラス繊維被覆用塗布液中でガラス繊維コードを屈曲走行させ強制的に付着させる等行った後、乾燥させることで、本発明のゴム補強用ガラス繊維が得られる。
従来のゴム補強用ガラス繊維に比較して、伝動ベルトに使用した際のガラス繊維コードと耐熱ゴムの接着強さを改善するために、本発明のゴム補強用繊維において、ゴム補強用繊維の被覆層を形成するためのガラス繊維被覆用塗布液は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)と、アクリル酸エステル系樹脂(B)と、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)を含有する。
アルコール化合物(F)を用いたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液の調製について説明する。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液の組成物であるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)とを、アルカリ性化合物の存在下に水中で縮合させてクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿とした後、アルコール化合物(F)を加えて溶解させて、水溶液として調製したものが使用される。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)とを水中で縮合反応させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を、アルコール化合物(F)を加え溶解させ水溶液とした後、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンを混合することによって得られた。
本発明において、アルコール化合物(F)とは炭化水素の水素原子をOH基で置換した化合物を指し、OH基を1個有するモノアルコール化合物、OH基を2個有するグリコール(ジオール)化合物、OH基を3個有するトリオール化合物が含まれる。
即ち、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を水中で縮合反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿に、水溶性のモノアルコール化合物、グリコール化合物、トリオール化合物のうちの少なくとも1つの水溶性のアルコール化合物(F)を加えて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させると、ガラス繊維被覆用塗布液を調製する際に、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液にアクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンを加え混合したとしても、混合後にクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が析出しないことがわかった。
このように、水中で縮合反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿を溶解させるためには、水溶性のモノアルコール化合物、グリコール化合物、トリオール化合物のうちの少なくとも1つの水溶性のアルコール化合物(F)を加える必要がある。
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿が水溶性のアルコール化合物(F)を加えることで溶解し、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液が安定となり、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物が析出しなくなるのは、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物のOH基とアルコール化合物(F)のOH基とが3次元的に強い水素結合を形成することによると思える。且つ、アルコール化合物(F)は、双極子モーメントと誘電率の値が高いので分散力など遠距離相互作用が強く働き、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)を水溶液中で安定化させる効果、さらに、配位結合的(電荷移動的)相互作用エネルギーが大きいので、溶媒−溶質間だけでなく溶媒−溶媒間で会合を起こして強い溶媒和が生じ、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が析出することなきように水溶液中で安定化させる効果があると思える。この安定化させる効果はOH基の個数が多いグリコール化合物、トリオール化合物の方がモノアルコール化合物より大きく、特にグリコール化合物が安定化させる効果に優れている。
また、ガラス繊維被覆用塗布液に、沸点が50℃より低いアルコール化合物(F)を用いるとアルコール化合物(F)が揮発しやすく扱い難い。アルコール化合物(F)が揮発するとクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が析出する。ガラス繊維被覆用塗布液に、沸点が250℃より高いアルコール化合物(F)を用いると、ガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布し被覆する際、被覆層よりアルコール化合物(F)が揮発しにくい。被覆層よりアルコール化合物(F)を除去しないと、ガラス繊維コードを耐熱ゴムに埋め込んで伝動ベルトとした際の、伝動ベルトの耐熱性、耐水性が低下する。よって、本発明のガラス繊維被覆用塗布液に用いるアルコール化合物(F)には、沸点、50℃以上、250℃以下の水溶性のモノアルコール化合物、グリコール化合物またはトリオール化合物から少なくとも1つの水溶性のアルコール化合物(F)を選んで用いることが好ましい。
例えば、本発明の繊維被覆用塗布液において、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンと混合しても析出なきよう安定させるために、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)と水中で縮合反応させて生成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を擁する反応液にアルコール化合物(F)を加えて、沈殿を溶解させてクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液を得た。詳しくは、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)の混合水溶液に水酸化ナトリウムを縮合反応に必要な量のみを加え、余分に加えないで、30℃以上、95℃以下に加熱して、4時間以上、攪拌しつつ縮合反応させて得られたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿が生成した反応液に、アルコール化合物(F)を加え、次いで攪拌することによって該沈殿を溶解させて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液を得た。
アルコール化合物(F)を加えることにより、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させる際の、アルコール化合物(F)の量は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、F/A=50重量%以上、500重量%以下である。言い換えれば、加えるアルコール化合物(F)の重量は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量に対して、重量比でF/A=1/2以上、5以下である。
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、アルコール化合物(F)の量が50重量%より少ないと、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)を溶解させる効果がなく、F/A=500重量%より多く含有させる必要はない。アルコール化合物(F)の量がF/A=500重量%より多くなると、繊維被覆用塗布液の濃度が低下し、ガラス繊維被覆用塗布液を繊維コードに塗布してなる被覆層が薄くなり、ゴム補強用ガラス繊維が柔軟でなくなる。
尚、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)と水中で縮合反応させて生成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を擁する反応液を加熱し蒸発させた残渣の重量より求められる。この際、未反応のクロロフェノールおよびホルムアルデヒドは揮発除去される。
本発明において、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の沈殿を溶解させるために使用するアルコール化合物(F)には、メタノール(CH3OH)沸点65℃、エタノール(C2H5OH)沸点78℃、n−プロピルアルコール(C3H8O)沸点97℃、イソプロピルアルコール(C3H8O)沸点82℃、2−メトキシエタノール(エチレングリコールモノメチルエーテル:C3H8O2)沸点124℃、プロピレングリコール(C3H8O2)沸点188℃、2−メトキシメチルエトキシプロパノール(C7H16O3)沸点190℃、1−メトキシ−2−プロパノール(C4H10O2)沸点120℃、エチレングリコール(1,2−エタンジオール:C2H6O2)沸点196℃、ジエチレングリコール(C4H10O3)沸点244℃、1,2−ジエトキシエタン(C6H14O2)沸点123℃、グリセリン(C3H8O3)沸点171℃が挙げられ、好ましくは、n−プロピルアルコール(C3H8O)、イソプロピルアルコール(C3H8O)、2−メトキシエタノール(エチレングリコールモノメチルエーテル:C3H8O2)、プロピレングリコール(C3H8O2)、2−メトキシメチルエトキシプロパノール(C7H16O3)、1−メトキシ−2−プロパノール(C4H10O2)、エチレングリコール(1,2−エタンジオール:C2H6O2)、ジエチレングリコール(C4H10O3)、1,2−ジエトキシエタン(C6H14O2)である。特に、2−メトキシエタノール、プロピレングリコールは、ガラス繊維被覆用塗布液を塗布後乾燥してガラス繊維コードに被覆層を形成する際に、気散し被覆層中に残らないこと、およびクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液を安定化させる効果も高いことから、本発明のガラス繊維被覆用塗布液に用いるに特に好ましいアルコール化合物(F)である。
OH基を2個含有するグリコール(ジオール)化合物の中には、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させる目的でガラス繊維被覆用塗布液に使用する際、塗布液の濃度調整のために水を添加するとゲル化物が形成されるものもあるが、必要領域における濃度調整において、2−メトキシエタノール、プロピレングリコールは、ともにその懸念はなく、加えて、火気に対して安全性があり、毒性も低く、沸点が低いことより作業者が吸引する懸念もなく、環境安全性に優れ、市販価格も安く、実用性が高く、本発明のガラス繊維被覆用塗布液に用いるに、特に好ましいアルコール化合物(F)である。
OH基を1個含有するモノアルコール化合物(F)に含まれるメタノールおよびエタノール、およびOH基を3個含有するトリオール化合物に含まれるグリセリンは、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させる目的でガラス繊維被覆用塗布液に使用した際、ガラス繊維被覆用塗布液が高濃度の状態では、ガラス繊維コードに塗布被覆することが可能である。しかしながら、塗布時に塗布液の濃度調整のために水を添加するとゲル化物が形成析出しやすくなり、濃度調整がし難く扱い難い。
次いで、アミン化合物(G)を用いたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液の調製について説明する。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液の組成物であるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)は、アルカリ性化合物の存在下に水中で縮合させてクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿とした後、アミン化合物(G)を加えて溶解させて、水溶液として調製したものが使用される。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)と水中で縮合反応させたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を、アミン化合物(G)を加え溶解させ水溶液とした後、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンを混合することによって得られた。
また、本発明のガラス繊維被覆用塗布液において、前記アミン化合物(G)には、塩基性度定数(Kb)が5×10−5以上、1×10−3以下であるアミン化合物(G)を用いる。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が沈殿した前記反応液に、塩基性度定数(Kb)が5×10−5以上、1×10−3以下であるアミン化合物(G)を加え、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させた後、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)エマルジョンとを混合させて調製する。
塩基性度定数(Kb)とは、アルカリ性化合物が水素イオンを溶液から受け入れる度合いを測定し、塩基性度として表したものであり、アミン化合物においては、化1の式の平衡定数である。
例えば、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)を水に溶解させる場合には、通常、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿した反応液にアンモニアまたは水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を加える。
しかしながら、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させるために、アンモニアのように塩基性度定数(Kb)が小さいアルカリ性化合物を加え、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させた後、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンとを混合すると、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が析出する。
また、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)を水に溶解させるために、水酸化ナトリウムのように塩基性度定数(Kb)が大きいアルカリ性化合物を加え、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させた後、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)エマルジョンとを混合すると、混合後にクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が析出することが抑制される。しかしながら、水酸化ナトリウムは強アルカリであるため、ガラス繊維を劣化させて、ゴム補強用ガラス繊維の引っ張り強度を弱めてしまい使用し難い。
ところが、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が沈殿した反応液にアミン化合物(G)を加え、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解後、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)エマルジョンとを混合すると、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の析出が起こり難く、ガラス繊維を劣化させて、ゴム補強用ガラス繊維の引っ張り強度を弱めてしまうことがないことがわかった。
例えば、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)の混合水溶液に水酸化ナトリウムを縮合反応に必要な量のみを加え、余分に加えないで、30℃以上、95℃以下に加熱して、4時間以上、攪拌しつつ縮合反応させて得られたクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿が生成した反応液にアミン化合物(G)を加え、さらに攪拌することによって該沈殿を溶解させて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液を得る。
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿が生成した反応液にアミン化合物(G)を加えて該沈殿を溶解後も析出なきよう安定させるために、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)に加えるアミン化合物(G)の塩基性度定数(Kb)は5×10−5以上、1×10−3以下である。
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)に加えるアミン化合物(G)の塩基性度定数(Kb)が5×10−5より小さいと、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)エマルジョンとを混合後、クロロフェノール類−ホルムアルデヒド縮合物(A)が経時により析出する、1×10−3より大きいとガラス繊維被覆用塗布掖とし、ガラス繊維コードに被覆し耐熱ゴムに埋め込んだ際は、ガラス繊維コードと耐熱ゴムの接着性に劣る。
アミン化合物(G)を加える量は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、G/A=50.0重量%以上、500.0重量%以下である。言い換えれば、加えるアミン化合物(G)の重量は、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量に対して、重量比で表して、G/A=1/2以上、5倍以下である。
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、アミン化合物(G)を加える量が、G/A=50重量%より少ないと、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を溶解させる効果がなく、G/A=500重量%より多く含有させる必要はない。アミン化合物(G)の量がG/A=500重量%より多くなると、繊維被覆用塗布液の濃度が低下し、ガラス繊維被覆用塗布液を繊維コードに塗布してなる被覆層が薄くなり、ゴム補強用ガラス繊維が柔軟でなくなる。
尚、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)と水中で縮合反応させて生成したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿を擁する反応液を加熱蒸発して固形分濃度として求められる。この際、未反応のクロロフェノール(D)およびホルムアルデヒド(E)は揮発除去される。
本発明において、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)に加えるアミン化合物(G)にはメチルアミン、エチルアミン、t−ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、メタノ−ルアミン、ジメタノ−ルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノ−ルアミンが挙げられる。この中でも、ジメチルアミンおよびジエチルアミンは価格が安く入手し易いこと、モノエタノールアミンおよびジエタノールアミンはアミン特有の臭いがなく取り扱いが容易であることより本発明のガラス繊維被覆用塗布液に用いるに特に好ましいアミン化合物(G)である。これらアミン化合物(G)の塩基性度定数(Kb)は、有機化学(中)第3版 東京化学同人および有機化学用語辞典(第2刷)朝倉書店、167頁〜175頁等に示されており、ジメチルアミンの塩基性度定数(Kb)は5.4×10−4、ジエタノールアミンの塩基性度定数(Kb)は1.0×10−4.5である。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液において、用いるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)としては、クロロフェノール(D)に対するホルムアルデヒド(E)のモル比が、E/D=0.5以上、3.0以下、即ち、E/D=0.5〜3.0で、アルカリ性化合物の存下、縮合反応させたレゾール型樹脂を用いることが好ましい。好ましくは、E/D=0.5〜2.5である。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液において、ホルムアルデヒドのモル比が、E/D=0.5未満では、ゴム補強用ガラス繊維と耐熱ゴムとの接着強さに劣り、E/D=3.0を越えるとガラス繊維被覆用塗布液が、ゲル化し易い。
また、前記アクリル酸エステル系樹脂(B)には、アクリル酸エステルおよび/またはメタアクリル酸エステルからなるモノマーを含むモノマー混合物を、ポリビニルアルコールまたはその変性物を保護コロイドとして重合させることにより得られるアクリル酸エステル系重合体のエマルジョンを挙げられる。尚、前記アクリル酸エステル系樹脂(B)は、(メタ)アクリル酸エステルから選択されるモノマーを含むモノマー混合物を特定のポリビニルアルコールを保護コロイドとして重合させて得られるアクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンを配合してなるものであり、ここで、使用する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜18のアルキル基を有するアルコールとの(メタ)アクリル酸エステル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、モノメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチルプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、これらの(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる1種のモノマーを単独で使用してもよいが、通常は2種以上のモノマーを混合して使用する。
尚、(メタ)アクリレートはアクリレートとメタクリレートの総称である。さらに、モノマーとして、共重合可能なエチレン性不飽和モノマーを併用することができる。エチレン性不飽和モノマーとしては、アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、グリシジルアリルエーテル等が挙げられる。
このようなアクリル系モノマーに水溶性コロイドとしてのポリビニルアルコール、またはその変性物を加えて乳化重合したアクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョン、言い換えれば、一般的な低分子量の界面活性剤を使用せず、水溶性高分子を保護コロイドとして重合させたものであるアクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとして、例えば、日信化学工業株式会社より、商品名ビニブラン、保護コロイド重合系グレードとして型番2680、2683、2684、2685、2687、2689等が粘着剤、繊維加工剤、シーラント、接着剤として市販されており、本発明のゴム補強用ガラス繊維の被覆層を形成するための成分の一つとして、本発明のガラス繊維被覆用塗布液に使用される。
一方、ゴム補強用繊維の被覆層を形成するための本発明のガラス繊維被覆用塗布液に、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)に加える、他のアクリル酸エステル系樹脂(B)として、アクリル酸エステルをベースにカルボキシル基等の官能基を導入して変性したアクリル酸エステル系ラテックス、具体的には分子構造中にカルボキシル基を有してなるアクリル酸エステル系共重合体ラテックスである自己架橋型アクリレートラテックスが挙げられる。
このようなアクリル系共重合体ラテックスとして、例えば、日本ゼオン株式会社より、商品名Nipol、型番LX851、LX852が市販されており、本発明のゴム補強用ガラス繊維の被覆層を形成するための成分の一つとして、本発明のガラス繊維被覆用塗布液に使用される。
本発明のゴム補強用繊維の被覆層の成分の一つとして用いるビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)には、例えば、ビニルピリジン:スチレン:ブタジエンの比が、重量比で10〜20:10〜20:60〜80の範囲のビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)であるとして、日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテクス、JSR株式会社製、商品名、0650、および日本ゼオン株式会社製、商品名、Nipol、型番1218FS等が市販されており、本発明のガラス繊維被覆用塗布液に使用できる。尚、前記重合比を外れたビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)を用いたガラス繊維被覆用塗布液を使用し、被覆を施したゴム補強用ガラス繊維は、母材であるゴムとの接着性に劣るとされている。
伝動ベルトに使用した際のガラス繊維と母材ゴムとに所望の接着強さを得るには、本発明のガラス繊維被覆用塗布液において、被覆層中のアクリル酸エステル系樹脂(B)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とからなる固形分の総重量を100%基準とする重量%で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C)=1.0重量%以上、15.0重量%以下、アクリル酸エステル系樹脂(B)が、B/(A+B+C)=3.0重量%以上、40.0重量%以下、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)が、C/(A+B+C)=45.0重量%以上、82.0重量%以下の範囲であることが好ましい。尚、ガラス繊維コードにガラス繊維被覆用塗布液を塗布乾燥させ、被覆層を形成した場合、このままの割合で被複層となる。
前記ガラス繊維被覆用塗布液中の、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C)=1.0重量%より少ないと、ガラス繊維コードと母材ゴムの接着強さが弱くなり、伝動ベルトにした際に好ましい耐熱性が得難い。クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)がA/(A+B+C)=15.0重量%より多いと、ゴム補強用ガラス繊維の被覆に粘着性が生じ被覆層が転写し易くなり、工程が汚れたりして作業性が悪くなる。
よって、ガラス繊維被覆用塗布液中の好適なクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の組成範囲は、A/(A+B+C)=1.0重量%以上、15.0重量%以下である。
前記ガラス繊維被覆用塗布液中のアクリル酸エステル系樹脂(B)が、B/(A+B+C)=3.0重量%より少ないと、伝動ベルトにした際に所望の耐熱性が得難く、アクリル酸エステル系樹脂(B)が、B/(A+B+C)=40.0重量%より多いと、ガラス繊維コードと母材ゴムの接着強さが弱くなり、伝動ベルトにした際に好ましい耐熱性が得難い。所望の接着性、耐熱性が得られる被覆層中の好適なアクリル酸エステル系樹脂(B)の組成範囲は、B/(A+B+C)=3.0重量%以上、40.0重量%以下である。
前記ガラス繊維被覆用塗布液中の、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)が、C/(A+B+C)=45.0重量%より少ないと、ガラス繊維コードと母材ゴムの接着強さが弱くなり、伝動ベルトにした際に好ましい耐熱性が得難い。ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)が、C/(A+B+C)=82.0重量%より多いと、ゴム補強用ガラス繊維の被覆に粘着性が生じ被覆層が転写し易くなり、工程が汚れたりして作業性が悪くなる。よって、被覆層中の好適なビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)の組成範囲は、C/(A+B+C)=45.0重量%以上、82.0重量%以下である。
本発明のガラス繊維被覆用塗布液の組成物の一つであるビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)の一部を、他のゴムエラストマーに替えても良い。ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のみでは、ゴム補強用ガラス繊維の被覆に粘着性が生じ被覆層が転写し易くなり、工程が汚れたりして作業性が悪くなる。他のゴムエラストマーとしてカルボキシル基変性スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリルーブタジエンゴム等も挙げられるが、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)との相性が良いスチレン−ブタジエン共重合体(H)が特に好適に使用でき、本発明のゴム補強用ガラス繊維の特徴である母材ゴムとの接着性および耐熱性を損なわないH/C=5.0重量%以上、80.0重量%以下の範囲で、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)に替えて使用される。H/C=5.0重量%より少ないと、または80.0重量%より多いと、接着性および耐熱性が損なわれる。このようなスチレン−ブタジエン共重合体(G)として、例えば、日本エイアンドエル株式会社から、商品名、J−9049が市販されており、本発明のゴム補強用ガラス繊維の被覆層を形成するためのガラス繊維被覆用塗布液に使用される。
本発明のゴム補強用ガラス繊維に被覆層を形成するためのガラス繊維被覆用塗布液には、老化防止剤、pH調整剤、安定剤等を含有させても良い。老化防止剤にはジフェニルアミン系化合物、pH調整剤にはアンモニアが挙げられる。
本発明のゴム補強用ガラス繊維は、種々のゴム、特にクロロプレンゴムおよびHNBR等の耐熱ゴムに埋設した際に、優れた接着性を示し伝動ベルトを作製する際のゴム補強用として有効に働く。
さらに、本発明のゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムに埋設させ伝動ベルトとして用いた際、高温の環境下における長時間の使用において、被覆層が接着の初期強さを持続し且つ寸法安定性に優れること、即ち、耐熱性を必要とする際は、ゴムに埋設する前にクロロスルホン化ポリエチレン(I)とビスアリルナジイミド(J)とを有機溶剤に分散させたガラス繊維被覆用塗布液を塗布し、さらなる被覆層を設けることが好ましい。有機溶剤としては、例えば、キシレンが挙げられる。
この際のビスアリルナジイミド(J)の配合率は、重量%で表して、クロロスルホン化ポリエチレン(I)の重量に対して、J/I=0.3重量%以上、10.0重量%以下である。J/I=0.3重量%より少ないと、前述の耐熱性改善の効果が得がたい。J/I=10.0重量%より多いとガラス繊維コードと母材ゴムとの接着強さが弱くなる。
ビスアリルナジイミド(J)は熱硬化性イミドの一種であり、低分子量のビスアリルナジイミド(J)は他の樹脂との相溶性に優れており、硬化後のビスアリルナジイミド(J)樹脂は、ガラス転移点が300℃以上で、前記伝動ベルトの耐熱性を高める効果がある。
ビスアリルナジイミド(J)は、その硬化前において化2の構造式で表され、化2の構造式のアルキル基は、化3または化4の構造式等で示され、特に、N−N'−ヘキサメチ
レンジアリルナジイミドが好適に使用される。
ビスアリルナジイミド(J)は、丸善石油化学株式会社よりBANI−M、BANI−H、BANI−X等の商品名で市販され、本発明のゴム補強用ガラス繊維に好適に使用される。
尚、ガラス繊維コードにアクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンとを混合させたガラス繊維被覆用塗布液を塗布した後、乾燥させて被覆層を設けてなることを特徴とする本発明のゴム補強用ガラス繊維に、さらなる2次被覆を設ける際、ビスアリルナジイミド(J)に換えて、マレイミドを含有する2次被覆層を設ける、有機ジイソシアネートおよびメタクリル酸亜鉛を含有する2次被覆層を設ける、またはトリアジン系化合物を含有する2次被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維も考えられるが、上述の理由で伝動ベルトの耐熱性において、即ち、伝動ベルトに耐熱性を必要とする際は、ゴムに埋設する前にクロロスルホン化ポリエチレン(I)とビスアリルナジイミド(J)とを有機溶剤に分散させたガラス繊維被覆用塗布液を塗布し、さらなる被覆層を設けることが特に好ましい。
本発明のゴム補強用ガラス繊維に耐熱性を与えるためには、2次被覆の組成物として、クロロスルホン化ポリエチレン(I)を用いることが好ましく、さらに、加硫剤としてのニトロソ化合物、例えば、p−ニトロソベンゼン、無機充填剤、例えばカーボンブラックまたは酸化マグネシウムを前記ガラス繊維2次被覆用塗布液に添加し、ゴム補強用ガラス繊維に2次被覆層に加えることは、該ゴム補強用ガラス繊維をゴムに埋設して作製した伝動ベルトの耐熱性を高める一層の効果がある。
ガラス繊維2次被覆用塗布液に、塗布液中のクロロスルホン化ポリエチレン(I)の重量を100%基準とする重量百分率で表して、加硫剤を0.5%以上、20.0%以下、無機充填材を10.0%以上、70.0%以下の範囲で添加すると、作製した伝動ベルトは、いっそうの耐熱性を発揮する。加硫剤の含有が0.5%より少ない、無機充填材の含有が10.0%より少ないと耐熱性を向上させる効果が発揮されず、加硫剤を、20.0%を超えて、無機充填材を、70.0%を超えて加える必要はない。
耐熱性のためには、さらに、加硫剤としてのニトロソ化合物、例えば、p−ニトロソベンゼン、無機充填剤、例えばカーボンブラックまたは酸化マグネシウムを前記ガラス繊維被覆用塗布液およびガラス繊維2次被覆用塗布液に添加し、被覆層に加えることは、耐熱性を高める一層の効果がある。クロロスルホン化ポリエチレン(I)の重量に対して、重量%で表して、加硫剤を0.5重量%以上、20.0重量%以下、無機充填材を10.0重量%以上、70.0重量%以下の範囲で添加すると、本発明のゴム補強用繊維を埋設した伝動ベルトはより好ましい耐熱性を発揮する。
このように、本発明のゴム補強用ガラス繊維は、従来のゴム補強用ガラス繊維に比較して、耐熱ゴム、例えば、HNBRに埋設して伝動ベルトとした際に、ガラス繊維コードへの耐熱性を向上させることで伝動ベルトに優れた耐熱性を与え、耐水性および耐熱性を併せ持たせる。
尚、本発明において、伝動ベルトとは、エンジン、その他機械を運転するために、エンジン、モーター等の駆動源の駆動力を伝えるベルトのことであり、かみ合い伝動で駆動力を伝える歯付きベルト、摩擦伝動で駆動力を伝えるVベルトが挙げられる。
また、自動車用伝動ベルトとは自動車のエンジンルーム内で用いられる耐熱性の前記伝動ベルトのことである。
タイミングベルトとは、前記自動車用伝動ベルトの中で、カムシャフトを有するエンジンにおいて、クランクシャフトの回転をタイミングギヤに伝えカムシャフトを駆動させバルブの開閉を設定されたタイミングで行うための、プーリーの歯とかみ合う歯を設けた歯付きベルトのことである。自動車用伝動ベルトには、エンジンの熱に対する耐熱性と雨天走行における耐水性が必要であり、高温下および多湿下での長時間の走行後において、引っ張り強さを持続し寸法安定性に優れていること、即ち、耐熱性および耐水性が要求される。本発明のガラス繊維被覆用塗布液、該ガラス繊維被覆用塗布液をガラス繊維コードに塗布してなるゴム補強用ガラス繊維、該ゴム補強用ガラス繊維を耐熱ゴムに埋設してなる伝動ベルト、例えばHNBRに該ゴム補強用ガラス繊維を埋設してなるタイミングベルトは耐熱性および耐久性に優れる。
本発明のアクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンを用いたゴム補強用ガラス繊維(実施例1〜10)、比較としてアクリル酸エステル系樹脂(B)等のアクリル系化合物を何ら用いていない従来のゴム補強用ガラス繊維(比較例1〜3)のクロロプレンゴム、およびクロロプレンゴムに対してより使用温度の高いHNBRに対する接着強さの評価、および高温の環境下における長時間の使用において、被覆層が接着の初期強さを持続し且つ寸法安定性に優れること、即ち、耐熱性の評価を行った。尚、本発明のガラス繊維被覆用塗布液に使用するクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物の水溶液の調製に、実施例1、7においてはアルコール化合物(F)としての2−メトキシエタノール、実施例2〜6、実施例8〜10にはアミン化合物(G)としてのジメチルアミンを使用した。
表1が、接着強さおよび耐熱性の評価結果である。
以下、詳細に説明する。
実施例1
(ゴム補強用ガラス繊維の作製)
最初に、アルコール化合物(F)として2−メトキシエタノールを使用したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液の調製について述べる。
還流冷却器、温度計、攪拌機をつけた三つ口セパラブルフラスコに、クロロフェノール(D)、128重量部、37.0重量%の濃度のホルムアルデヒド(E)水溶液、80重量部(モル比で表せば、E/D=1.0)、濃度、1重量%の水酸化ナトリウム水溶液、20重量部を仕込み、水で全体が1000重量部になるように希釈した後、80℃に加熱した状態で5時間攪拌した。この反応溶液中に、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が沈殿物となって重合された。この反応溶液100重量部に対して、アルコール化合物(F)に属する2−メトキシエタノールを加えて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿物を溶解させて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液を作製した。
この際、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量に対して2−メトキシエタノールを加えた量は200重量%であった。尚、1.0重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液の前記添加は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を縮合反応させてクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とするための縮合反応に必要な量以上には加えてはいない。尚、クロロフェノール(D)には、P−クロロフェノールを用いた。
(ガラス繊維被覆用塗布液の調製)
前述の手順で調製したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液(固形分、8.7重量%)、233重量部と、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョン(日信化学工業株式会社製、商品名、ビニブラン、型番2684、固形分、30重量%)、113重量部と、ビニルピリジンとスチレンとブタジエンとを、15:15:70の
重量割合で含有する、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックス、固形分、41重量%)、527重量部と、アンモニア水(濃度、25重量%)、22重量部とに水を添加し全体として1000重量部になるようにして、ガラス繊維被覆用塗布液を調製した。
(ゴム補強用ガラス繊維の作製)
次いで、ガラス溶融炉下のブッシュから吐出させた径9μmのガラス繊維フィラメント、200本にシラン系カップリング剤を含有してなる集束剤を散布して塗布した後に集束させたガラス繊維コード3本を引き揃え、前記ガラス繊維被覆用塗布液を塗布した後、乾燥させて被覆層を設けガラス繊維コードとした。
この時の固形分付着率、即ち、被覆層の重量割合は、被覆層を設けたガラス繊維コードの全重量に対して、19重量%であった。
前記被覆層を設けたガラス繊維コードを、280℃で22秒間乾燥させた後、2.54cm当たり2.0回の下撚りを与え、さらに13本引き揃えて2.54cm当たり2.0回の上撚りを施し得られたものをゴム補強用ガラス繊維とした。
尚、前記ゴム補強用ガラス繊維において、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)と被覆層中のアクリル酸エステル系樹脂(B)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とからなる固形分の総重量を100%基準とする重量%で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の含量が、A/(A+B+C)=7.5%、アクリル酸エステル系樹脂(B)の含量が、B/(A+B+C)=12.5%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)の含量が、C/(A+B+C)=80.0%、であった。
(使用ゴム)
ゴム補強用ガラス繊維を埋没させるための母材ゴムとして、クロロプレンゴム100重量部に対して、カーボンブラック、45重量部と、亜鉛華、5重量部と、老化防止剤、5重量部と、プロセスオイル、5重量部と、酸化マグネシウム、4重量部と、ステアリン酸、1重量部と、硫黄、0.5重量部と、加硫促進剤、1.5重量部と、パラフィンワックス、0.5重量部とを配合させてなる耐熱ゴムを使用した。
(接着強さの評価)
前記耐熱ゴムからなる3mm厚、25mm幅のゴムシート上に前記ゴム補強用ガラス繊維を20本並べ、その上から布をかぶせ、温度、140℃、196ニュートン/cm2(
以下、ニュートンをNとする)の条件で端部を除き押圧し、25分間加硫させつつ成形して、接着強さ評価のための試験片を得た。この試験片の接着強さの測定を、端部においてゴムとゴム補強用繊維を個別にクランプにてはさみ、剥離速度を50mm/分とし、ゴムシートからゴム補強用ガラス繊維を剥がす際の最大の抵抗値を剥離時の強さとした。
表1の実施例1に示すように、剥離時の強さは、296Nであり、比較例1、2に示した従来のゴム補強用繊維に比べて、大きな接着強さを有していた。尚、表1において、ガラス繊維とゴムが界面から剥離していない状態を完全ゴム破壊とし、界面から一部のみでも剥離している状態を部分ゴム破壊としたが、実施例1に示す様に完全ゴム破壊であり、好ましい接着強さを有していた。完全ゴム破壊の方が、部分ゴム破壊より、接着強さに優れる。
(耐熱性の評価)
幅5mm、深さ2.5mmの溝を施した金型の溝部に、幅5mmに裁断した布を敷き、その上に9.8Nの張力で1本のゴム補強用ガラス繊維を張り、その上から5mm幅に裁断した3mm厚の前記クロロピレンゴムからなるゴムシートを被せ、温度、140℃下、196N/cm2の条件で、25分間押圧して平ベルトを成形した。その後、長さ、25
cmに切断し、温度、140℃下、24時間加熱処理した後、MIT屈曲試験機に片方の端部を取りつけて、もう片方の端部に3kgの重りを吊し、MIT屈曲試験機に取りつけた方の端部を動かし、曲げ角、120゜、120回/分の屈曲条件で1200回折り曲げた。次いで、両端を固定して、片側の端部を、引っ張り速度、250mm/分、クランプ間隔、250mmで引っ張り、破壊される際の最大強さである残存強さ、即ち、ゴム補強用繊維が破断する際の強さを測定し、耐熱性の評価を行った。
表1の実施例1に示すように、残存強さは632Nであり、好ましい耐熱性を有していた。
実施例2
(ゴム補強用ガラス繊維の作製)
次いで、アミン化合物(G)としてジメチルアミンを使用した、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の合成について述べる。
還流冷却器、温度計、攪拌機をつけた三つ口セパラブルフラスコに、クロロフェノール(D)、128重量部、37.0重量%の濃度のホルムアルデヒド(E)水溶液、80重量部(モル比で表せば、E/D=1.0)、濃度、1重量%の水酸化ナトリウム水溶液、20重量部を仕込み、水で全体が1000重量部になるように希釈した後、80℃に加熱した状態で5時間攪拌した。この反応溶液中に、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が沈殿物となって重合された。この反応溶液100重量部に対して、アミン化合物(G)に属するジメチルアミンを加えて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の沈殿物を溶解させて、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液を作製した。尚、ジメチルアミンの塩基性度定数(Kb)は5.4×10−4である。
この際、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の重量に対してジメチルアミンを加えた量は200重量%であった。尚、1.0重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液の前記添加は、クロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を縮合反応させてクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とするための縮合反応に必要な量以上には加えてはいない。尚、クロロフェノール(D)には、P−クロロフェノールを用いた。
(ガラス繊維被覆用塗布液の調製)
前述の手順で調製したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液(固形分、8.7重量%)、233重量部と、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョン(日信化学工業株式会社製、商品名、ビニブラン、型番2684、固形分、30重量%)、113重量部と、ビニルピリジンとスチレンとブタジエンとを、15:15:70の重量割合で含有する、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名、ピラテックス、固形分、41重量%)、
527重量部と、アンモニア水(濃度、25重量%)、22重量部とに水を添加し全体として1000重量部になるようにして、ガラス繊維被覆用塗布液を調製した。
(ゴム補強用ガラス繊維の作製)
次いで、ガラス溶融炉下のブッシュから吐出させた径9μmのガラス繊維フィラメント、200本にアミノシラン含有の集束剤を散布して塗布した後に集束させたガラス繊維コード3本を引き揃え、前記ガラス繊維被覆用塗布液を塗布した後、乾燥させて被覆層を設けガラス繊維コードとした。
この時の固形分付着率、即ち、被覆層の重量割合は、被覆層を設けたガラス繊維コードの全重量に対して、19重量%であった。
前記被覆層を設けたガラス繊維コードを、280℃で22秒間乾燥させた後、2.54cm当たり2.0回の下撚りを与え、さらに13本引き揃えて2.54cm当たり2.0回の上撚りを施し得られたものをゴム補強用ガラス繊維とした。
尚、前記ゴム補強用ガラス繊維において、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)と被覆層中のアクリル酸エステル系樹脂(B)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とからなる固形分の総重量を100%基準とする重量%で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の含量が、A/(A+B+C)=7.5%、アクリル酸エステル系樹脂(B)の含量が、B/(A+B+C)=12.5%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)の含量が、C/(A+B+C)=80.0%、であった。
(使用ゴム)
ゴム補強用ガラス繊維を埋没させるための母材ゴムとして、クロロプレンゴム100重量部に対して、カーボンブラック、45重量部と、亜鉛華、5重量部と、老化防止剤、5重量部と、プロセスオイル、5重量部と、酸化マグネシウム、4重量部と、ステアリン酸、1重量部と、硫黄、0.5重量部と、加硫促進剤、1.5重量部と、パラフィンワックス、0.5重量部とを配合させてなる耐熱ゴムを使用した。
(接着強さの評価)
前記耐熱ゴムからなる3mm厚、25mm幅のゴムシート上に前記ゴム補強用ガラス繊維を20本並べ、その上から布をかぶせ、温度、140℃、196ニュートン/cm2(
以下、ニュートンをNとする)の条件で端部を除き押圧し、25分間加硫させつつ成形して、接着強さ評価のための試験片を得た。この試験片の接着強さの測定を、端部においてゴムとゴム補強用繊維を個別にクランプにてはさみ、剥離速度を50mm/分とし、ゴムシートからゴム補強用ガラス繊維を剥がす際の最大の抵抗値を剥離時の強さとした。
表1の実施例2に示すように、剥離時の強さは、278Nであり、比較例1、2に示した従来のゴム補強用繊維に比べて、大きな接着強さを有していた。尚、表1において、ガラス繊維とゴムが界面から剥離していない状態を完全ゴム破壊とし、界面から一部のみでも剥離している状態を部分ゴム破壊としたが、実施例2に示す様に完全ゴム破壊であり、好ましい接着強さを有していた。完全ゴム破壊の方が、部分ゴム破壊より、接着強さに優れる。
(耐熱性の評価)
幅5mm、深さ2.5mmの溝を施した金型の溝部に、幅5mmに裁断した布を敷き、その上に9.8Nの張力で1本のゴム補強用ガラス繊維を張り、その上から5mm幅に裁断した3mm厚の前記クロロピレンゴムからなるゴムシートを被せ、温度、140℃下、196N/cm2の条件で、25分間押圧して平ベルトを成形した。その後、長さ、25
cmに切断し、温度、140℃下、24時間加熱処理した後、MIT屈曲試験機に片方の端部を取りつけて、もう片方の端部に3kgの重りを吊し、MIT屈曲試験機に取りつけた方の端部を動かし、曲げ角、120゜、120回/分の屈曲条件で1200回折り曲げた。次いで、両端を固定して、片側の端部を、引っ張り速度、250mm/分、クランプ間隔、250mmで引っ張り、破壊される際の最大強さである残存強さ、即ち、ゴム補強用繊維が破断する際の強さを測定し、耐熱性の評価を行った。
表1の実施例2に示すように、残存強さは597Nであり、好ましい耐熱性を有していた。
実施例3
実施例2の手順で調製したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液(固形分、8.7重量%)234量部と、アクリル酸エステル系樹脂(B)エマルジョン(日信化学工業株式会社製、商品名、ビニブラン、型番、2684、固形分、30重量%)113重量部と、アンモニア水(濃度、25重量%)22重量部と、ビニルピリジンとスチレンとブタジエンとを、15:15:70の割合で含有するビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名ピラテックス、固形分、41重量%)408重量部と、スチレン−ブタジエン共重合体(H)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、型番J−9049、固形分、48重量%)101重量部とに水を添加して全体として1000重量部になるようにして、ガラス繊維被覆用塗布液を調製し、実施例2に示した手順でゴム補強用ガラス繊維を用意した。
該ゴム補強用ガラス繊維において、被覆層中のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とアクリル酸エステル系樹脂(B)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とスチレン−ブタジエン共重合体(H)とからなる固形分の総重量を100%基準とする重量%で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C+H)=7.5%、アクリル酸エステル系樹脂(B)が、B/(A+B+C+H)=12.5%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とスチレン−ブタジエン共重合体(G)を合わせて(C+H)/(A+B+C+H)=80.0%である。
実施例2と同様の手順で、試験片をつくり、接着強さの評価、耐熱性の評価を行ったところ、表1の実施例3に示すように、剥離時の強さは331Nであり、比較例1、2に示した従来のゴム補強用繊維に比べて、強い接着強さを有していた。尚、表1の実施例3に示すように、剥離状況は完全ゴム破壊であり、好ましい接着強さを有していた。また、表1の実施例2に示すように、残存強さは658Nであり、好ましい耐熱性を有していた。実施例4
実施例3のガラス繊維被覆用塗布液に対して、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョン(日信化学工業株式会社製、2684、固形分30重量%)の添加量を230重量部、スチレンーブタジエン共重合体(H)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、J−9049、固形分、48重量%)の添加量を31重量部に替え、実施例1に示した手順でゴム補強用繊維を用意した。
該ゴム補強用ガラス繊維において、被覆層中のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とアクリル酸エステル系樹脂(B)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とスチレン−ブタジエン共重合体(H)とからなる固形分の総重量を100%基準とする重量%で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C+H)=7.5%、アクリル酸エステル系樹脂(B)が、B/(A+B+C+H)=25.0重量%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とスチレンブタジエン共重合体(G)を合わせて、(C+H)/(A+B+C+H)=67.5%である。
実施例2と同様の手順で、試験片をつくり、接着強さの評価、耐熱性の評価を行ったところ、表1の実施例4に示すように、剥離時の強さは343Nであり、比較例1、2に示した従来のゴム補強用繊維に比べて、大きな接着強さを有していた。尚、表1の実施例4に示すように、剥離状況は完全ゴム破壊であり、好ましい接着強さを有していた。また、表1の実施例4に示すように、残存強さは679Nであり、好ましい耐熱性を有していた。
実施例5
実施例3のガラス繊維被覆用塗布液に対して、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョン(日信化学工業株式会社製、2684、固形分、30重量%)を同じく日信化学工業株式会社製の型番2689(固形分、30重量%)に替えて113重量部添加し、実施例2に示した手順で、ゴム補強用ガラス繊維を用意した。
該ゴム補強用ガラス繊維において、被覆層中のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とアクリル酸エステル系樹脂(B)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とスチレン−ブタジエン共重合体(H)とからなる固形分の総重量を100%基準とする重量%で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C+H)=7.5%、アクリル酸エステル系樹脂(B)が、B/(A+B+C+H)=12.5%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とスチレン−ブタジエン共重合体(H)とを合わせて、(C+H)/(A+B+C+H)=80.0%である。
実施例2と同様の手順で、試験片をつくり、接着強さの評価、耐熱性の評価を行ったところ、表1の実施例5に示すように、剥離時の強さは325Nであり、比較例1、2に示した従来のゴム補強用繊維に比べて、大きな接着強さを有していた。尚、表1の実施例5に示すように、剥離状況は完全ゴム破壊であり、好ましい接着強さを有していた。また、表1の実施例5に示すように、残存強さは640Nであり、好ましい耐熱性を有していた。
実施例6
実施例5のガラス繊維被覆用塗布液に対して、アクリル酸エステル系樹脂(B)エマルジョン(日信化学工業株式会社製、2689、固形分30重量%)の添加量を225重量部、スチレン−ブタジエン共重合体(G)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、型番、J−9049、固形分、48重量%)の添加量を31重量部として、実施例2に示した手順でゴム補強用繊維を用意した。
該ゴム補強用ガラス繊維において、被覆層中のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とアクリル酸エステル系樹脂(B)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とスチレン−ブタジエン共重合体(H)とからなる固形分の総重量を100%基準とする重量%で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C+H)=7.5%、アクリル酸エステル系樹脂(B)が、B/(A+B+C+H)=25.0重量%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とスチレン−ブタジエン共重合体(G)とを合わせて、(C+G)/(A+B+C+H)=67.5重量%である。
実施例2と同様の手順で、試験片をつくり、接着強さの評価、耐熱性の評価を行ったところ、表1の実施例6に示すように、剥離時の強さは300Nであり、比較例1、2に示した従来のゴム補強用繊維に比べて、大きな接着強さを有していた。尚、表1の実施例6に示すように、剥離状況は完全ゴム破壊であり、好ましい接着強さを有していた。また、表1の実施例6に示すように、残存強さは668Nであり、好ましい耐熱性を有していた。
実施例7
実施例1における、アルコール化合物(F)として2−メトキシエタノールを使用し調製したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液を用いてなるガラス繊維被覆用塗布液を用いたゴム補強用ガラス繊維をに、クロロスルホン化ポリエチレン(I)(東ソー株式会社製、型番、TS−430)、100重量部と、p−ジニトロベンゼン、40重量部と、ビスアリルナジイミド(J)(丸善石油化学株式会社製、商品名、BANI−H)1重量部と、カーボンブラック、30重量部と、キシレン、1315重量部とを含むガラス繊維2次被覆用塗布液で塗布し、110℃、2分間乾燥を行い、さらなる被覆層(2次被覆層)を得、二層の被覆層からなるゴム補強用ガラス繊維を得た。この2次被覆層による固形分付着率、即ち、2次被覆層の重量割合は、被覆層を設けたガラス繊維コードの全重量に対して、3.5重量%であった。
(使用ゴム)
実施例1〜実施例6で使用したクロロピレンゴムに替えて、HNBRを用いた。HNBR(日本ゼオン株式会社製、型番2010)100重量部に対して、カーボンブラック、40重量部と、亜鉛華、5重量部と、ステアリン酸、0.5重量部と、1,3−ジ(t−ブチルペロキシイソプロピル)ベンゼン5重量部とを配合させてなる耐熱ゴムを使用した。
(接着強さの評価)
前記耐熱ゴムからなる3mm厚、25mm幅のゴムシート上に前記の2層の被覆層を有するゴム補強用ガラス繊維を20本並べ、その上から布をかぶせ、温度、170℃下、196N/cm2での条件で端部を除き押圧し、30分間加硫させつつ成形して接着強さ評
価のための試験片を得た。この試験片の接着強さの測定を、端部においてゴムとゴム補強用繊維を個別にクランプにてはさみ、剥離速度を50mm/分とし、ゴムシートからゴム補強用ガラス繊維を剥がす際の最大の抵抗値を剥離時の強さとした。
表1の実施例7に示すように、剥離時の強さは、445Nであり、比較例3に示した従来のゴム補強用繊維に比べて好ましい接着強さを有していた。尚、表1の実施例7に示す様に完全ゴム破壊であり、好ましい接着強さを有していた。
(耐熱性の評価)
幅、5mm、深さ、2.5mmの溝を有した金型の溝部に、幅5mmに裁断した布を敷き、その上に9.8Nの張力で1本のゴム補強用ガラス繊維を張り、その上に5mm幅に
裁断した3mm厚の前記HNBRからなるゴムシートを被せ、温度、170℃下、196N/cm2も条件で、30分間押圧して平ベルトを成形した。その後、長さ、25cmに切断し、温度、160℃下、24時間加熱処理した後、MIT屈曲試験機に片方の端部を取りつけて、もう片方の端部に3kgの重りを吊し、MIT屈曲試験器に取り付けた方の端部を動かし、曲げ角、120゜、120回/分の屈曲条件で1200回折り曲げた。
次いで、両端を固定して、引っ張り速度、250mm/分、クランプ間隔、250mmで引っ張り、破壊される際の最大強さである残存強さ、即ち、ゴム補強用繊維が破断する際の強さを測定し、耐熱性の評価行った。
表1の実施例7に示すように、残存強さは876Nであり、好ましい耐熱性を有していた。
実施例8
実施例3における、アミン化合物(F)としてジメチルアミンを使用し調製したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液を用いてなるゴム補強用ガラス繊維を、クロロスルホン化ポリエチレン(I)(東ソー株式会社製、型番、TS−430)、100重量部と、p−ジニトロベンゼン、40重量部と、ビスアリルナジイミド(J)(丸善石油化学株式会社製、商品名、BANI−H)1重量部と、カーボンブラック、30重量部と、キシレン、1315重量部とを含むガラス繊維2次被覆用塗布液で塗布し、110℃、2分間乾燥を行い、さらなる被覆層(2次被覆層)を得、二層の被覆層からなるゴム補強用ガラス繊維を得た。この2次被覆層による固形分付着率、即ち、2次被覆層の重量割合は、被覆層を設けたガラス繊維コードの全重量に対して、3.5重量%であった。
(使用ゴム)
実施例1〜実施例6で使用したクロロピレンゴムに替えて、HNBR用いた。HNBR(日本ゼオン株式会社製、型番2010)100重量部に対して、カーボンブラック、40重量部と、亜鉛華、5重量部と、ステアリン酸、0.5重量部と、1,3−ジ(t−ブチルペロキシイソプロピル)ベンゼン5重量部とを配合させてなる耐熱ゴムを使用した。
(接着強さの評価)
前記耐熱ゴムからなる3mm厚、25mm幅のゴムシート上に前記の2層の被覆層を有するゴム補強用ガラス繊維を20本並べ、その上から布をかぶせ、温度、170℃下、196N/cm2での条件で端部を除き押圧し、30分間加硫させつつ成形して接着強さ評
価のための試験片を得た。この試験片の接着強さの測定を、端部においてゴムとゴム補強用繊維を個別にクランプにてはさみ、剥離速度を50mm/分とし、ゴムシートからゴム補強用ガラス繊維を剥がす際の最大の抵抗値を剥離時の強さとした。
表1の実施例8に示すように、剥離時の強さは、475Nであり、比較例3に示した従来のゴム補強用繊維に比べて好ましい接着強さを有していた。尚、表1の実施例8に示す様に完全ゴム破壊であり、好ましい接着強さを有していた。
(耐熱性の評価)
幅、5mm、深さ、2.5mmの溝を有した金型の溝部に、幅5mmに裁断した布を敷き、その上に9.8Nの張力で1本のゴム補強用ガラス繊維を張り、その上に5mm幅に
裁断した3mm厚の前記HNBRからなるゴムシートを被せ、温度、170℃下、196N/cm2も条件で、30分間押圧して平ベルトを成形した。その後、長さ、25cmに切断し、温度、160℃下、24時間加熱処理した後、MIT屈曲試験機に片方の端部を取りつけて、もう片方の端部に3kgの重りを吊し、MIT屈曲試験器に取り付けた方の端部を動かし、曲げ角、120゜、120回/分の屈曲条件で1200回折り曲げた。
次いで、両端を固定して、引っ張り速度、250mm/分、クランプ間隔、250mmで引っ張り、破壊される際の最大強さである残存強さ、即ち、ゴム補強用繊維が破断する際の強さを測定し、耐熱性の評価行った。
表1の実施例8に示すように、残存強さは855Nであり、好ましい耐熱性を有していた。
実施例9
実施例2の手順で調製したクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液(固形分、8.7重量%)234重量部と、アクリル酸エステル系樹脂(B)としてアクリル酸エステル系共重合体ラテックス(日本ゼオン株式会社製、商品名、Nipol、型番、LX851、固形分、45重量%)75重量部と、ビニルピリジンとスチレンとブタジエンとを、15:15:70の割合で含有するビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名ピラテックス、固形分、41重量%)408重量部と、スチレン−ブタジエン共重合体(H)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、型番J−9049、固形分、48重量%)101重量部と、アンモニア水(濃度、25重量%)22重量部とに水を添加して全体として1000重量部になるようにガラス繊維被覆用塗布液を調製し、実施例2に示した手順でゴム補強用ガラス繊維を作製した。
該ゴム補強用ガラス繊維において、被覆層中のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とアクリル酸エステル系樹脂(B)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とスチレン−ブタジエン共重合体(G)とからなる固形分の総重量を100%基準とする重量%で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C+H)=7.5%、アクリル酸エステル系樹脂(B)が、B/(A+B+C+H)=12.5%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とスチレン−ブタジエン共重合体(H)を合わせて、(C+H)/(A+B+C+H)=80.0重量%、である。
実施例8に示した手順で、クロロスルホン化ポリエチレン(I)(東ソー株式会社製、TS−430)、100重量部と、p−ジニトロベンゼン、40重量部と、ビスアリルナジイミド(J)(丸善石油化学株式会社製、商品名BANI−H)、1重量部と、カーボンブラック、30重量部と、キシレン、1315重量部とを含むガラス繊維被覆用塗布液でさらに処理し、110℃、2分間乾燥を行なった。この処理による固形分付着率は3.5重量%であった。
実施例8と同様の手順で、試験片をつくり、接着強さの評価、耐熱性の評価を行ったところ、表1の実施例9に示すように、剥離時の強さは477Nであり、比較例1、2に示した従来のゴム補強用繊維に比べて、大きな接着強さを有していた。尚、表1の実施例9に示すように、剥離状況は完全ゴム破壊であり、好ましい接着強さを有していた。また、表1の実施例9に示すように、残存強さは891Nであり、好ましい耐熱性を有していた。
実施例10
クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液(固形分、8.7重量%)234重量部と、ビニルピリジンとスチレンとブタジエンとを、15:15:70の割合で含有するビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名ピラテックス、固形分、41重量%)408重量部と、スチレン−ブタジエン共重合体(H)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、型番J−9049、固形分、48重量%)101重量部と、とアクリル酸エステル系樹脂(B)としてのアクリル酸エステル系共重合体ラテックス(日本ゼオン株式会社製、商品名、Nipol、型番、LX852、固形分、45重量%)75重量部と、アンモニア水(濃度、25重量%)22重量部とに水を添加して全体として1000重量部になるようにガラス繊維被覆用塗布液を調製し、実施例2に示した手順でゴム補強用ガラス繊維を用意した。
該ゴム補強用ガラス繊維において、被覆層中のクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)とアクリル酸エステル系樹脂(B)とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とスチレン−ブタジエン共重合体(H)とからなる固形分の総重量を100%基準とする重量%で表して、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)が、A/(A+B+C+H)=7.5%、アクリル酸エステル系樹脂(B)が、B/(A+B+C+H)=12.5%、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)とスチレン−ブタジエン共重合体(H)を合わせて、(C+H)/(A+B+C+H)=80.0%である。
実施例8に示した手順で、クロロスルホン化ポリエチレン(I)(東ソー株式会社製、TS−430)、100重量部と、p−ジニトロベンゼン、40重量部と、ビスアリルナジイミド(J)(丸善石油化学株式会社製、商品名BANI−H)、1重量部と、カーボンブラック、30重量部と、キシレン、1315重量部とを含むガラス繊維被覆用塗布液でさらに処理し、110℃、2分間乾燥を行なった。この処理による固形分付着率は3.5重量%であった。
実施例8と同様の手順で、試験片をつくり、接着強さの評価、耐熱性の評価を行ったところ、表1の実施例10に示すように、剥離時の強さは431Nであり、比較例3に示した従来のゴム補強用繊維に比べて、大きな接着強さを有していた。尚、表1の実施例10に示すように、剥離状況は完全ゴム破壊であり、好ましい接着強さを有していた。また、表1の実施例10に示すように、残存強さは863Nであり、好ましい耐熱性を有していた。
比較例1
実施例3のガラス繊維被覆用塗布液に対して、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンを無添加とし、スチレン−ブタジエン共重合体(G)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、J−9049、固形分、48重量%)の添加量を172重量部に替えて、実施例2に示した手順でゴム補強用ガラス繊維を用意した。
実施例2と同様の手順で、試験片をつくり、接着強さの評価、耐熱性の評価を行ったところ、表1の比較例1に示すように、剥離時の強さは172Nであり、実施例1〜10に示す本発明のゴム補強用繊維に比べて、接着強さが弱かった。尚、表1の比較例1に示す様に、破壊上状況は部分ゴム破壊であり、好ましい接着強さを有していない。また、表1の比較例1に示すように、残存強さは268Nであり、好ましい耐熱性を有していない。
比較例2
ビニルピリジンとスチレンとブタジエンとを15:15:70の割合で含有するビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョン(日本エイアンドエル株式会社製、商品名ピラテックス、固形分、41%)、408重量部と、クロロスルホン化ポリエチレン(G)のエマルジョン(住友精化株式会社製CSM450、固形分、40重量%)、206重量部と、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物(固形分、8.7重量%)233重量部と、アンモニア水(25%)22重量部とを撹拌しながら添加し、全体として1000重量部になるようにガラス繊維被覆用塗布液を調製し、実施例2に示した手順でゴム補強用ガラス繊維を用意した。
実施例2と同様の手順で、試験片をつくり、接着強さの評価、耐熱性の評価を行ったところ、表1の比較例2に示すように、剥離時の強さは238Nであり、実施例1〜10に示す本発明のゴム補強用繊維に比べて、接着強さが弱かった。尚、表1における比較例2に示す様に、破壊上状況は部分ゴム破壊であり、好ましい接着強さを有していない。また、表1の比較例2に示すように、残存強さは463Nであり、好ましい耐熱性を有していない。
比較例3
比較例2で用意したゴム補強用ガラス繊維に、実施例8に示した手順で、クロロスルホン化ポリエチレン(I)(東ソー株式会社製、TS−430)、100重量部と、p−ジニトロベンゼン、40重量部と、ビスアリルナジイミド(J)(丸善石油化学株式会社製、商品名BANI−H)、1重量部と、カーボンブラック、30重量部と、キシレン、1315重量部とを含むガラス繊維被覆用塗布液でさらに処理し、110℃、2分間乾燥を行なった。この処理による固形分付着率は3.5重量%であった。
実施例8と同様の手順で、試験片をつくり、接着強さの評価、耐熱性の評価を行ったところ、表1の比較例3に示すように、剥離時の強さは282Nであり、実施例1〜10に示す本発明のゴム補強用繊維に比べて、接着強さが弱かった。尚、表1の比較例3に示す様に、破壊上状況は部分ゴム破壊であり、好ましい所望の接着強さを有していない。また、表1の比較例3に示すように、残存強さは578Nであり、実施例1〜10に比べて低い強さであった。
本発明者らが鋭意検討した結果、クロロフェノール(D)にホルムアルデヒド(E)を反応させてなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の水溶液に、アクリル酸エステル系樹脂(B)のエマルジョンとビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)のエマルジョンを混合した1次被覆用塗布液を、ガラス繊維コードに塗布後、乾燥させて1次被覆層とし、その上層にクロロスルホン化ポリエチレン(I)とビスアリルナジイミド(J)とを有機溶剤に分散させた2次被覆用塗布液を塗布後、乾燥させた2次被覆層を設けたゴム補強用ガラス繊維をHNBRに埋設し、伝動ベルトとしたところ、ゴム補強用ガラス繊維とHNBRとに好ましい初期の接着強さを得、伝動ベルトに優れた耐水性および耐熱性を併せ持たせる、具体的には、高温下および注水下の長時間の走行試験後も引っ張り強さを維持し、伝動ベルトに優れた寸法安定性を与えるゴム補強用ガラス繊維が提供されることがわかった。
このことは、従来のガラス繊維コードにアクリル酸エステル系樹脂とビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体とレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物とを水に分散させエマルジョンとしたガラス繊維被覆用塗布液を塗布した後、乾燥させてなる被覆層を設けてなるゴム補強用ガラス繊維に比較して、ベンゼン環に親水性基であるOH基が2個付加したレゾルシンとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物に対し、ベンゼン環に親水性基であるOH基が1コ、疎水性基であるClが1コ付加したクロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を縮合してなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)を用いることで、本発明のゴム補強用ガラス繊維において、耐熱性および耐水性が向上したことによると思える。
また、従来のゴム補強用ガラス繊維における、ともに親水性であるアクリル酸エステル系樹脂(B)とレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物の組み合わせにビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体を加えた被覆層より、本発明のゴム補強用ガラス繊維における、アクリル酸エステル系樹脂(B)に、ベンゼン環に親水性基であるOH基が1コ、疎水性基であるClが1コ付加したクロロフェノール(D)とホルムアルデヒド(E)を縮合してなるクロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物(A)の組み合わせに、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体(C)を加えた被覆層の方がより疎水化し、耐熱性および耐水性が向上したことによると思える。