JP4884613B2 - 芳香族メチリデン化合物、それを製造するための芳香族アルデヒド化合物、メチルスチリル化合物、及びそれらの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子写真感光体における機能材料として、有機電界発光素子における電荷輸送材料や発光材料等の機能材料として、あるいはその他各種の有機半導体素子に用いられる機能材料として有用な、新規芳香族メチリデン化合物、それを製造するのに有用な芳香族アルデヒド化合物、メチルスチリル化合物、及びそれらの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
物質の電界発光現象を利用する電界発光素子は、液晶素子に比べて自己発光型であるために視認性が高く、ディスプレイなどに用いる場合に鮮明な表示が可能である。また完全固体素子であるために、耐衝撃性に優れる等の特徴を有しており、今後、薄型ディスプレイ,液晶ディスプレイのバックライト,あるいは平面光源などに広く用いられることが期待されている。
【0003】
現在、実用化されている電界発光素子として硫化亜鉛等の無機材料を用いた分散型電界発光素子があるが、この分散型電界発光素子は、その駆動に比較的高い交流電圧を必要とすることから駆動回路が複雑になったり、また輝度が低いなどの問題がありあまり広く実用に共されていないのが実状である。
【0004】
一方、有機材料を用いる有機電界発光素子は、1987年にC.W.Tangらによって、電子輸送性の有機蛍光材料と、正孔輸送性の有機材料を積層して、電子と正孔の両キャリヤーを、蛍光材料層中に注入して発光させる積層構成の素子が提案され、一躍脚光を浴びるところとなった。(C.W.Tang and S.A.VAN Slyke,Appl.Phys.Lett.,vol.51,pp.913〜915(1987) ;特開平63-264629号公報)。この素子では、10V以下の駆動電圧で1000cd/m2以上の発光が得られたとされており、その後この提案を発端として、周辺の活発な研究が行われるようになっている。現在では様々な材料や素子構成等が提案され、実用化に向けた研究開発が活発に行われている。
【0005】
その一方で、これまでに提案された材料を用いる有機電界発光素子には、まだ様々な問題・課題があることも事実である。いくつかの例を挙げれば、駆動状態、非駆動状態にかかわらず、保存することだけで素子の機能が劣化して発光輝度が低下したり、駆動時や非駆動時にダークスポットと呼ばれる発光しない領域が発生・成長したりする劣化が起こり、最終的には素子が短絡して破壊が起こったりする現象を挙げることができる。このような現象は、そこで用いられている材料の本質的な問題が大きいと言え、現状では実用的に寿命が充分であるとは言い難い。そのため、素子の実用に当たっては比較的短い寿命で対応可能なデバイスに限定せざるを得ない状況と言える。さらに、素子のカラー化を考えると、現状ではそれに対応できる方式、発光材料が充分には用意されていない。いずれにしても、これらの問題・課題を解決し、有機電界発光素子の広範な実用化を目指すには、そこで用いられる新たな高性能な発光材料、電荷輸送材料等の新しい材料の開発が待望されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような有機電界発光素子の実状に鑑みなされたもので、低電圧で高輝度な発光、耐久性に優れた有機電界発光素子を実現させるため、特に発光材料として有用な芳香族メチリデン化合物、それを製造するための芳香族アルデヒド化合物、メチルスチリル化合物、及びそれらの製造方法を提供することにある。これにより、高輝度発光で高耐久な有機電界発光素子の実現に寄与しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、下記一般式(1)で表される化合物が提供される。
【化15】
[但し、上記式中R11は、非置換または置換アルキル基、非置換または置換アルコキシ基、ハロゲン基、シアノ基、またはニトロ基を表し、n11は0、1、2、3または4の整数を表す。n11が2以上の整数のとき、R11は、複数の同一置換基からなるか、または複数の異なる置換基からなる。またR21およびR31は、同一または異なる基であって、水素(但しR21およびR31が同時に水素である場合を除く)、非置換または置換アルキル基(但しR21およびR31が同時にアルキル基である場合を除く)、非置換または置換シクロアルキル基(但しR21およびR31が同時にシクロアルキル基である場合を除く)、非置換または置換芳香族基、または非置換または置換芳香族複素環基を表すか、または、R21およびR31は共同で、非置換または置換芳香族環の縮合した、あるいは非置換または置換芳香族複素環の縮合した環である。]
また、本発明によれば、下記一般式(2)で表される、前記式(1)の化合物を製造するための中間体化合物が提供される。
【化16】
[但し、上記式中R12は、非置換または置換アルキル基、非置換または置換アルコキシ基、ハロゲン基、シアノ基、またはニトロ基を表し、n12は0、1、2、3または4の整数を表す。n12が2以上の整数のとき、R12は、複数の同一置換基からなるか、または複数の異なる置換基からなる。]
さらに、本発明によれば、下記一般式(3)で表される、前記式(1)の化合物を製造するための中間体化合物が提供される。
【化17】
[但し、上記式中R13は、非置換または置換アルキル基、非置換または置換アルコキシ基、ハロゲン基、シアノ基、またはニトロ基を表し、n13は0、1、2、3または4の整数を表す。n13 が2以上の整数のとき、R13 は、複数の同一置換基からなるか、または複数の異なる置換基からなる。]
さらに、本発明によれば、下記一般式(4)で表される化合物と、下記一般式(5)で表される化合物とを反応させることを特徴とする、前記一般式(1)で表わされる化合物の製造方法が提供される。
【化18】
[但し、上記式中Zの各々は、同一又は異なる基であって、-PO(OR)2または-PA3 +を表し、Rは、非置換または置換アルキル基を表し、Aは非置換または置換アリール基を表す。]
【化19】
[但し、上記式中R14は、非置換または置換アルキル基、非置換または置換アルコキシ基、ハロゲン基、シアノ基、またはニトロ基を表し、n14は0、1、2、3または4の整数を表す。n14が2以上の整数のとき、R14は、複数の同一置換基からなるか、または複数の異なる置換基からなる。またR22およびR32は、同一または異なる基であって、水素(但しR22およびR32が同時に水素である場合を除く)、非置換または置換アルキル基(但しR22およびR32が同時にアルキル基である場合を除く)、非置換または置換シクロアルキル基(但しR22およびR32が同時にシクロアルキル基である場合を除く)、非置換または置換芳香族基、または非置換または置換芳香族複素環基を表すか、または、R22およびR32は共同で、非置換または置換芳香族環の縮合した、あるいは非置換または置換芳香族複素環の縮合した環である。]
さらに、本発明によれば、前記一般式(2)で表される化合物と、下記一般式(6)で表される化合物とを反応させることを特徴とする、前記一般式(1)で表わされる化合物の製造方法が提供される。
【化20】
[但し、上記式中R23およびR33は、同一または異なる基であって、水素(但しR23およびR33が同時に水素である場合を除く)、非置換または置換アルキル基(但しR23およびR33が同時にアルキル基である場合を除く)、非置換または置換シクロアルキル基(但しR23およびR33が同時にシクロアルキル基である場合を除く)、非置換または置換芳香族基、または非置換または置換芳香族複素環基を表すか、または、R23およびR33は共同で、非置換または置換芳香族環の縮合した、あるいは非置換または置換芳香族複素環の縮合した環である。またZは、-PO(OR)2または-PA3 +を表し、Rは、非置換または置換アルキル基を表し、Aは非置換または置換アリール基を表す。]
さらに、本発明によれば、下記式(7)で表される化合物と、下記一般式(8)で表される化合物とを反応させることを特徴とする、前記一般式(1)で表わされる化合物の製造方法が提供される。
【化21】
【化22】
[但し、上記式中R15は、非置換または置換アルキル基、非置換または置換アルコキシ基、ハロゲン基、シアノ基、またはニトロ基を表し、n15は0、1、2、3または4の整数を表す。n15が2以上の整数のとき、R15は、複数の同一置換基からなるか、または複数の異なる置換基からなる。またR24およびR34は、同一または異なる基であって、水素(但しR24およびR34が同時に水素である場合を除く)、非置換または置換アルキル基(但しR24およびR34が同時にアルキル基である場合を除く)、非置換または置換シクロアルキル基(但しR24およびR34が同時にシクロアルキル基である場合を除く)、非置換または置換芳香族基、または非置換または置換芳香族複素環基を表すか、または、R24およびR34は共同で、非置換または置換芳香族環の縮合した、あるいは非置換または置換芳香族複素環の縮合した環である。またZは、-PO(OR)2または-PA3 +を表し、Rは、非置換または置換アルキル基を表し、Aは非置換または置換アリール基を表す。]
さらに、本発明によれば、下記一般式(9)で表される化合物と、下記一般式(10)で表される化合物とを反応させることを特徴とする、前記一般式(1)で表わされる化合物の製造方法が提供される。
【化23】
[但し、上記式中R16は、非置換または置換アルキル基、非置換または置換アルコキシ基、ハロゲン基、シアノ基、またはニトロ基を表し、n16は0、1、2、3または4の整数を表す。n16が2以上の整数のとき、R16は、複数の同一置換基からなるか、または複数の異なる置換基からなる。またZの各々は、同一又は異なる基であって、-PO(OR)2または-PA3 +を表し、Rは、非置換または置換アルキル基を表し、Aは非置換または置換アリール基を表す。]
【化24】
[但し、上記式中R25およびR35は、同一または異なる基であって、水素(但しR25およびR35が同時に水素である場合を除く)、非置換または置換アルキル基(但しR25およびR35が同時にアルキル基である場合を除く)、非置換または置換シクロアルキル基(但しR25およびR35が同時にシクロアルキル基である場合を除く)、非置換または置換芳香族基、または非置換または置換芳香族複素環基を表すか、または、R25およびR35は共同で、非置換または置換芳香族環の縮合した、あるいは非置換または置換芳香族複素環の縮合した環である。]
さらに、本発明によれば、前記一般式(4)で表される化合物と、下記一般式(11)で表される化合物とを反応させてアセタール化合物を得た後、該アセタール化合物をアルデヒド化合物に誘導することを特徴とする、前記一般式(2)で表わされる化合物の製造方法が提供される。
【化25】
[但し、上記式中R17は、非置換または置換アルキル基、非置換または置換アルコキシ基、ハロゲン基、シアノ基、またはニトロ基を表し、n17は0、1、2、3または4の整数を表す。n17が2以上の整数のとき、R17は、複数の同一置換基からなるか、または複数の異なる置換基からなる。またRは、非置換または置換アルキル基を表す。]
さらに、本発明によれば、前記一般式(4)で表される化合物と、下記一般式(12)で表される化合物とを反応させることを特徴とする、前記一般式(2)で表わされる化合物の製造方法が提供される。
【化26】
[但し、上記式中R18は、非置換または置換アルキル基、非置換または置換アルコキシ基、ハロゲン基、シアノ基、またはニトロ基を表し、n18は0、1、2、3または4の整数を表す。n18が2以上の整数のとき、R18は、複数の同一置換基からなるか、または複数の異なる置換基からなる。]
さらに、本発明によれば、前記一般式(4)で表される化合物と、下記一般式(13)で表される化合物とを反応させることを特徴とする、前記一般式(3)で表わされる化合物の製造方法が提供される。
【化27】
[但し、上記式中R19は、非置換または置換アルキル基、非置換または置換アルコキシ基、ハロゲン基、シアノ基、またはニトロ基を表し、n19は0、1、2、3または4の整数を表す。n19が2以上の整数のとき、R19は、複数の同一置換基からなるか、または複数の異なる置換基からなる。]
さらに、本発明によれば、前記一般式(7)で表される化合物と、下記一般式(14)で表される化合物とを反応させることを特徴とする、前記一般式(3)で表わされる化合物の製造方法が提供される。
【化28】
[但し、上記式中R10は、非置換または置換アルキル基、非置換または置換アルコキシ基、ハロゲン基、シアノ基、またはニトロ基を表し、n10は0、1、2、3または4の整数を表す。n10が2以上の整数のとき、R10は、複数の同一置換基からなるか、または複数の異なる置換基からなる。またZは、-PO(OR)2または-PA3 +を表し、Rは、非置換または置換アルキル基を表し、Aは非置換または置換アリール基を表す。]
【0008】
本発明による、一般式(1)で表される化合物は有機電界発光素子の構成材料として有用であり、特に発光材として優れたものである。本発明は、上記一般式(1)で表される化合物の具体例である下記化合物を特許請求対象とする。
【化2】
また一般式(2)および一般式(3)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物を製造する際の有用な中間体である。本発明により提供されるそれら化合物、ならびにそれらの製造方法は、高輝度発光で高耐久な有機電界発光素子の実現に大きく貢献するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の化合物は、一般式(1)で表わされる化合物である。
【0010】
一般式(1)中、R11は、非置換または置換アルキル基、非置換または置換アルコキシ基、ハロゲン基、シアノ基、またはニトロ基を表す。ここで、前記非置換または置換アルキル基としては、炭素数1〜12のものを挙げることができる。前記非置換または置換アルコキシ基としては、炭素数1〜12のものを挙げることができる。前記ハロゲン基としては、-F、-Cl、−Br及び-I等を挙げることができる。また、n11は、0、1、2、3または4の整数を表わす。n11が2以上の整数のとき、R11は、複数の同一置換基からなってもよく、または複数の異なる置換基からなってもよい。なお、一般式(2)〜(14)におけるR10及びR12〜R19も、R11と同様のものとすることができ、n10及びn12〜n19も、n11と同様の数とすることができる。
【0011】
一般式(1)中、R21およびR31は、(i)同一または異なる基であって、水素(但しR21およびR31が同時に水素である場合を除く)、非置換または置換アルキル基(但しR21およびR31が同時にアルキル基である場合を除く)、非置換または置換シクロアルキル基(但しR21およびR31が同時にシクロアルキル基である場合を除く)、非置換または置換芳香族基、または非置換または置換芳香族複素環基を表すか、または、(ii)共同で、非置換または置換芳香族環の縮合した、あるいは非置換または置換芳香族複素環の縮合した環である。(i)の場合、R21およびR31の少なくとも一方が、非置換または置換芳香族基、または非置換または置換芳香族複素環基であることが好ましい。前記非置換または置換アルキル基としては、炭素数1〜12のものが好ましく、前記非置換または置換シクロアルキル基としては、炭素数3〜8のものが好ましい。前記非置換または置換芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基、ピレニル基等、並びにこれらが一つ以上のメチル基、t-ブチル基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、フェニル基、メトキシ基、ニトロ基、ベンジル基、シクロヘキシル基、シアノ基等で置換された基を挙げることができ、前記非置換または置換芳香族複素環基としては、チエニル基、ピリジル基、キノリル基等を挙げることができる。また、(ii)の場合、R21及びR31が共同で形成しうる縮合環としては、ジベンゾシクロヘプテニリデン基、ジベンゾシクロヘプタニリデン基等が挙げられる。なお、一般式(5)、(6)、(8)及び(10)におけるR22〜R25及びR32〜R35も、それぞれR21及びR31と同様のものとすることができる。
【0012】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、大別して四通りの合成経路、すなわち、一般式(4)で表される化合物と一般式(5)で表されるスチルベンアルデヒド誘導体との反応、一般式(2)で表される2,3-ビス(4-ホルミルスチリル)-ビフェニル誘導体と一般式(6)で表される化合物との反応、一般式(7)で表されるフタルアルデヒド誘導体と一般式(8)で表される化合物との反応、または一般式(9)で表される化合物と一般式(10)で表されるケトン誘導体との反応により製造することが出来る。一般式(4)、(6)、(8)及び(9)において、Zは、-PO(OR)2または-PA3 +を表し、Rは非置換または置換アルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の非置換または置換アルキル基である。またAは非置換または置換アリール基を表わし、好ましくはフェニル基、トリル基またはナフチル基を表す。式中複数のZがある場合これらは同一でも異なっていてもよい。また、Zが-PA3 +である場合、この基と適当な塩基との塩を、反応に供することができる。当該塩基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子のイオンを挙げることができる。
【0013】
これらの反応は、いずれもアルデヒドまたはケトンと活性メチレン等との反応であり、通常、有機溶媒中で塩基を用いて行われる。反応溶媒としては水あるいはメタノール、エタノール、ブタノール、アミルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロルベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、クロロホルム、ジクロルメタン、ジクロルエタン等のハロゲン化炭化水素、ピリジン、キノリン等の複素環式芳香族炭化水素、その他N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒が挙げられ、通常一般の有機溶媒はすべて使用可能である。また反応に際して用いられる塩基としては炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウムあるいは水酸化ナトリウムなどの無機塩基、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ピリジンあるいはヘキサメチレンテトラミン等の有機塩基、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムブトキシド等のアルコール類のアルカリ金属塩、その他ナトリウムアミド等が挙げられる。用いる塩基の量としては、触媒量から化学当量以上まで、必要に応じ用いることが出来る。
【0014】
反応の温度としては、約-10°Cないし約150°Cで行なうことができるが、通常約0°Cないし約80°Cで行うことが好ましい。反応時間としては、一般に反応温度との関係で左右され、通常30分ないし100時間程度であるが、各原料の組み合わせにより、適宜選択されるべきである。
【0015】
反応終了後、反応混合物から目的物を得るには、濃縮や貧溶媒による希釈などにより粗製品を取り出し、好ましくは水洗などによって無機分を取り除いてから、カラムクロマトグラフィーや再結晶、あるいは昇華精製などの一般的な精製方法によって純粋な目的物を得ることが出来る。
【0016】
本発明の第2の化合物は、一般式(2)で表される化合物である。
【0017】
一般式(2)で表される化合物は、一般式(4)で表されるビスメチルホスホン酸エステル誘導体と一般式(11)で表されるテレフタルアルデヒド誘導体のモノジアルキルアセタールとの反応によって一般式(2)の化合物のアセタール化合物を得た後、該アセタールをアルデヒドに誘導することにより一般式(2)の化合物を得る方法、あるいはテレフタルアルデヒド誘導体のモノジアルキルアセタールの代わりに、一般式(12)で表されるテレフタルアルデヒド誘導体を一般式(4)で表わされるビスメチルホスホン酸エステル誘導体と反応させることによって直接得る方法等により製造することが出来る。一般式(11)において、Rは非置換または置換アルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の非置換または置換アルキル基である。
【0018】
一般式(4)で表わされる化合物と一般式(11)または(12)で表わされる化合物との反応は上記一般式(1)で表わされる化合物の合成反応と同様にアルデヒドと活性メチレンとの反応であり、通常、有機溶媒中で塩基を用いて行われる。ここで用いられる反応溶媒および塩基並びに反応条件は、上記一般式(1)で表わされる化合物の合成経路で説明したものと同様なものを用いることが出来る。また、一般式(4)で表わされる化合物と一般式(11)で表わされる化合物との反応により得られたアセタール化合物をアルデヒドに誘導する反応は、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルスルフォキシドあるいはN,N-ジメチルホルムアミド等の溶媒中、当該アセタール化合物に、酢酸、塩酸、硫酸等の酸類を、およそ0℃ないし100℃程度の温度で5分ないし5時間程度作用せしめることにより、容易に行うことができる。
【0019】
本発明の第3の化合物は、一般式(3)で表される化合物である。
【0020】
一般式(3)で表される化合物は、一般式(4)で表されるビスメチルホスホン酸エステル誘導体と一般式(13)で表されるトルアルデヒド誘導体との反応、あるいは一般式(7)で表されるフタルアルデヒド誘導体と一般式(14)で表される化合物との反応によって得ることが出来る。一般式(14)において、Zは、-PO(OR)2または-PA3 +を表し、Rは非置換または置換アルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の非置換または置換アルキル基である。またAは非置換または置換アリール基を表わし、好ましくはフェニル基、トリル基またはナフチル基を表わす。また、Zが-PA3 +である場合、この基と適当な塩基との塩を、反応に供することができる。当該塩基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子のイオンを挙げることができる。
【0021】
これら一般式(3)で表わされる化合物の合成反応は上記一般式(1)で表わされる化合物の合成反応と同様にアルデヒドと活性メチレンとの反応であり、通常、有機溶媒中で塩基を用いて行われる。ここで用いられる反応溶媒および塩基並びに反応条件は、上記一般式(1)で表わされる化合物の合成経路で説明したものと同様なものを用いることが出来る。
【0022】
尚、一般式(3)で表される化合物は、前記した一般式(1)の化合物を得るための原材料として有用な、一般式(9)で表されるビスメチルホスホン酸エステル誘導体を得るための中間体の一つとして用いることができる。すなわち、一般式(3)で表される化合物を下記一般式(15)で表されるハロメチル体に誘導し、その後亜リン酸トリアルキルを作用せしめることにより、一般式(9)で表されるビスメチルホスホン酸エステル誘導体を都合良く得ることが出来るものである。
【0023】
【化29】
【0024】
[但し、上記式中R'はR11と同一の基を表し、n'はn11と同一の数を表わし、Xはハロゲンを表す。]
【0025】
上記の、一般式(3)で表わされる化合物の一般式(15)で表わされるハロメチル体への誘導は、四塩化炭素、二硫化炭素等の有機溶剤中、ハロゲン種を含む化合物を、光照射下及び/又は過酸化ベンゾイル、あるいはアゾビスイソブチロニトリル等のラジカル発生剤と共に、30℃ないし100℃程度で30分ないし10時間程、一般式(3)で表わされる化合物に作用せしめることにより容易に行うことができる。ハロゲン種を含む化合物としては、臭素原子を含む化合物が好ましく、臭素あるいはN-ブロモスクシンイミド等を用いることができる。さらに、得られた一般式(15)で表わされるハロメチル体を一般式(9)で表わされる化合物にする方法としては、亜リン酸トリエステルをこのハロメチル体に50℃ないし150℃程度で10分ないし10時間程度作用させてビスメチルホスホン酸エステル誘導体を得る方法、又はハロメチル体にトリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィン化合物を作用させてビスメチルトリアリールホスフォニウム化合物を得る方法などが挙げられる。
【0026】
次に、本発明の一般式(1)で表される化合物の具体例を表1ないし表5に、一般式(2)で表される化合物の具体例を表6に、また一般式(3) で表される化合物の具体例を表7に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
【表5】
【0032】
【表6】
【0033】
【表7】
【0034】
先にも述べた様に、本発明による、一般式(1)で表される化合物は、有機電界発光素子の構成材料として有用であり、特に発光材料として優れたものである。
また一般式(2)および一般式(3)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物を製造する際の有用な中間体である。本発明により提供されるこれらの化合物、ならびにこれらの化合物の製造方法は、高輝度発光で高耐久な有機電界発光素子の実現に大きく貢献するものである。
【0035】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
化合物番号1-02の製造例(その1)
3-フェニル-1,2-キシリレンジホスホン酸テトラエチル1.82g、4-(2,2-ジフェニルビニル)ベンズアルデヒド2.27gをN,N-ジメチルホルムアミド24mlに溶解し、5〜10°Cでカリウムtert-ブトキシド1.04gを10分間にわたり少量ずつ添加した。その後、室温にて20時間撹拌してから、反応混合物をエタノール200mlに注入し、沈殿物を濾取、エタノール洗浄の後、水洗、乾燥して淡黄色粉末の粗生成物1.62gを得た。
【0037】
次にこの淡黄色粉末の粗生成物を、固定相シリカゲル、移動相としてトルエンおよびヘキサンの混合溶媒(体積比1:1)にてカラムクロマトグラフィーを行い、淡黄色のガラス状物質を得た。次いでクロロフォルム及びエタノールの混合溶媒で再結晶、100°Cで真空乾燥して強い蛍光を有する淡黄色結晶1.48g(収率52%)を得た。このものの元素分析値は、炭素94.00%(化合物番号1-02としての計算値94.08%)、水素5.78%(化合物番号1-02としての計算値5.92%)であった。赤外線吸収スペクトル(KBr錠剤法)では芳香環に起因する伸縮振動を1600cm-1付近に認め、プロトン核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDCl3、内部標準TMS)では芳香環環プロトン及びアルケンプロトンをおよそδ=6.4〜7.7ppm(42H)に認めた。また、マススペクトルでは、分子イオンピークm/z=714が観測され、以上のことより上記で得られた化合物は化合物番号1-02であることを確認した。
【0038】
(実施例2)
化合物番号1-02の製造例(その2)
ジフェニルメチルホスホン酸ジエチル3.04g、2,3-ビス(4-ホルミルスチリル)ビフェニル(化合物番号2-01)2.07gをN,N-ジメチルホルムアミド30mlに溶解し、5〜10°Cでカリウムtert-ブトキシド1.30gを10分間にわたり少量ずつ添加した。その後、室温にて20時間撹拌してから、反応混合物をエタノール200mlに注入し、沈殿物を濾取、エタノール洗浄の後、水洗、乾燥して粗生成物を得、この粗生成物を実施例1と同様に処理し、化合物番号1-02を得た。
【0039】
(実施例3)
化合物番号1-02の製造例(その3)
3-フェニルフタルアルデヒド1.05g、4-(2,2'-ジフェニルビニル)ベンジルホスホン酸ジエチル4.06gをN,N-ジメチルホルムアミド30mlに溶解し、5〜10°Cでカリウムtert-ブトキシド1.30gを10分間にわたり少量ずつ添加した。その後、室温にて20時間撹拌してから、反応混合物をエタノール200mlに注入し、沈殿物を濾取、エタノール洗浄の後、水洗、乾燥して粗生成物を得、この粗生成物を実施例1と同様に処理し、化合物番号1-02を得た。
【0040】
(実施例4)
化合物番号1-02の製造例(その4)
2,3-ビス(4-メチルスチリル)ビフェニル7.73g、N-ブロモスクシンイミド7.12g、25%含水過酸化ベンゾイル0.5g及び四塩化炭素80mlからなる混合物を、10時間加熱還流した。放冷後、ジエチルエーテル200mlを加えて析出した結晶を濾別して、濾液を濃縮しブロモメチル体を得た。このブロモメチル体に、亜リン酸トリエチル13.29gを加え120℃で5時間加熱した。反応終了後、生成している臭化エチル及び過剰の亜リン酸トリエチルを減圧下留去し、2,3-ビス(4-メチルスチリル)ビフェニル-α,α'-ジイルジホスホン酸テトラエチルを得た。
【0041】
ベンゾフェノン1.82g、上記のようにして得た2,3-ビス(4-メチルスチリル)ビフェニル-α,α'-ジイルジホスホン酸テトラエチル3.29gをN,N-ジメチルホルムアミド30mlに溶解し、5〜10°Cでカリウムtert-ブトキシド1.30gを10分間にわたり少量ずつ添加した。その後、室温にて20時間撹拌してから、反応混合物をエタノール200mlに注入し、沈殿物を濾取、エタノール洗浄の後、水洗、乾燥して粗生成物を得、この粗生成物を実施例1と同様に処理し、化合物番号1-02を得た。
【0042】
(実施例5)
化合物番号2-01の製造例(その1)
3-フェニル-1,2-キシリレンジホスホン酸テトラエチル9.09g、テレフタルアルデヒドモノジエチルアセタール8.75gをN,N-ジメチルホルムアミド80mlに溶解し、5〜10°Cでカリウムtert-ブトキシド5.67gを10分間にわたり少量ずつ添加した。その後、室温にて25時間撹拌してから、36%塩酸38.5mlを加え、浴温80-85°Cで更に30分間撹拌した。放冷後、水約150mlを加え、沈殿物を濾取水洗した後、乾燥して黄褐色粉末を得た。次いでトルエンおよびエタノールの混合溶媒から再結晶した後、80°Cで真空乾燥して3.81g(収率46%)の黄色結晶を得た。このものの元素分析値は、炭素86.66%(化合物番号2-01としての計算値86.93%)、水素5.19%(化合物番号2-01としての計算値5.35%)であった。赤外線吸収スペクトル(KBr錠剤法)では、アルデヒドに起因する伸縮振動を1690cm-1付近に、芳香環に起因する伸縮振動を1600cm-1付近に認め、マススペクトルでは、分子イオンピークm/z=414が観測され、以上のことより上記で得られた化合物は化合物番号2-01であることを確認した。
【0043】
(実施例6)
化合物番号2-01の製造例(その2)
3-フェニル-1,2-キシリレンジホスホン酸テトラエチル9.09g、テレフタルアルデヒド13.41gをN,N-ジメチルホルムアミド160mlに溶解し、5〜10°Cでカリウムtert-ブトキシド5.67gを10分間にわたり少量ずつ添加した。その後、室温にて20時間撹拌してから、水約300mlを加え、沈殿物を濾取水洗した後、更にエタノールで洗浄してから乾燥して黄褐色粉末を得た。この黄褐色粉末を、トルエンおよびエタノールの混合溶媒から再結晶を繰り返して、実施例5と同様に化合物番号2-01を得た。
【0044】
(実施例7)
化合物番号3-01の製造例(その1)
3-フェニル-1,2-キシリレンジホスホン酸テトラエチル4.54g、4-メチルベンズアルデヒド2.64gをN,N-ジメチルホルムアミド60mlに溶解し、5〜10°Cでカリウムtert-ブトキシド2.60gを10分間にわたり少量ずつ添加した。その後、室温にて20時間撹拌してから、水約150mlを加え、沈殿物を濾取、水洗、乾燥して淡褐色の粉末を得た。次にこの粉末を、トルエン及びエタノールの混合溶媒から再結晶して淡黄褐色結晶2.00g(収率52%)を得た。このものの元素分析値は、炭素93.11%(化合物番号3-01としての計算値93.22%)、水素6.56%(化合物番号3-01としての計算値6.78%)であった。赤外線吸収スペクトル(KBr錠剤法)では、芳香環に起因する伸縮振動を1600cm-1付近に認めた。マススペクトルでは、分子イオンピークm/z=386が観測され、以上のことより上記で得られた化合物は化合物番号3-01であることを確認した。
【0045】
(実施例8)
化合物番号3-01の製造例(その2)
3-フェニルフタルアルデヒド2.10g、4-メチルベンジルホスホン酸ジエチル4.85gをN,N-ジメチルホルムアミド60mlに溶解し、5〜10°Cでカリウムtert-ブトキシド2.60gを10分間にわたり少量ずつ添加した。その後、室温にて20時間撹拌してから、水約150mlを加え、沈殿物を濾取、水洗、乾燥して淡褐色の粉末を得た。このものを実施例7と同様に処理し、化合物番号3-01を得た。
【0046】
(実施例9)
陽極として、透明電極であるインジウム錫酸化物(ITO)の薄膜をあらかじめ形成したガラス基板(ITO ガラス基板) の電極上に、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び陰極としてのアルミニウム/リチウム(Al/Li)電極を順次蒸着により形成して、本発明の化合物を含む有機電界発光素子を作製した。具体的には、先ず、ITOガラス基板、正孔輸送材料としてN,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(3-メチルフェニル)ベンジジン(TPD)、発光材料として本発明の化合物番号1-02の芳香族メチリデン化合物、及び電子輸送材料としてトリス(8-ヒドロキシキノリノ)アルミニウム(Alq)を真空蒸着装置にセットし、10-4Paまで排気した。次にITOガラス基板の電極上に、正孔輸送材であるTPDを0.1 〜0.5nm/秒の蒸着速度で蒸着し、正孔輸送層を50nm形成した。次に、発光材料である化合物番号1-02を0.1〜0.5nm/秒の蒸着速度で蒸着し、発光層を50nm形成した。続いて電子輸送材料であるAlqを0.1nm/秒の速度で蒸着し、膜厚10nmの電子輸送層を形成した。さらにLiを0.01〜0.02nm/秒、Alを1〜2nm/秒の蒸着速度で同時に蒸着し、Al/Li電極を形成した。その厚さは150nmとした。これらの蒸着はいずれも真空を破らずに連続して行い、また膜厚は水晶振動子によってモニターすることにより制御した。素子作製後、直ちに乾燥窒素中で電極の取り出しを行い、有機電界発光素子を作成した。この様にして作成した素子に、電圧を印加したところ、均一な青色の発光が得られた。
【0047】
【発明の効果】
上述のように、本発明に関わる芳香族メチリデン化合物を用いた本発明の有機電界発光素子は、発光特性に優れ、且つ、安定性にも優れた長寿命の素子である。従って、本発明の化合物ならびにそれらの製造方法は、工業的に極めて重要なものであると言える。
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