JP4879860B2 - 金属板の摩擦係数算出方法及び成形シミュレーション方法 - Google Patents

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Description

本発明は、金属板を成形する金型の設計に際し、有限要素法シミュレーションによるプレス不具合を高精度で効率良く予測するための、摩擦係数算出方法及びこれを用いた有限要素法による成形シミュレーション方法に関する。
鋼板などの金属板をトランスファープレス等によってプレス加工する際、有限要素法による成型シミュレーションを利用し、プレス金型を製造する前に成型可否を判断し、金型の設計にフィードバックして、工期短縮やコストの低減を図っている。この金型の設計における工期短縮、コスト低減のためには、有限要素法を用いた成型シミュレーションの精度の向上が不可欠である。
しかしながら、従来の有限要素法による成型シミュレーションのプログラムは、摩擦係数を一定としたクーロン摩擦則を用いており、成型中の摩擦係数の変化を正確に反映していなかった。有限要素法による成形シミュレーションは、金属板の機械的特性を材料構成式として入力し、工具との接触問題については摩擦係数を入力することにより金属板の変形状態の釣り合い式を解いたり(静的的陰解法法や静的陽解法)、運動方程式を解いたり(動的陽解法)することによって、応力分布や歪み分布を出力する方法である。しかし、従来の有限要素法プログラムは摩擦係数の変化を正確に反映していなかったために、正確な応力分布や歪み分布を出力することができず、成型可否の予測精度が必ずしも十分とはいえないものであった。
摩擦係数を状態関数として扱い、有限要素法により成型シミュレーションに非線形摩擦モデルを組み込んだ例として、特許文献1には、摺動距離と金属板に加わる歪みの2つをパラメータとして多項式近似した状態関数が報告され、特許文献2には面圧と摩擦仕事量の2つをパラメータとして多項式近似した状態関数が報告されている。また、特許文献3には、成形速度及び摩擦仕事量と、成形速度等を用いて多項式近似により摩擦係数を求める摩擦係数の算出方法が報告され、特許文献4には、摩擦係数を面圧のみの4次以上の多項式近似によって計算する摩擦係数算出方法が報告されている。
しかしながら、これらの手法を用いても、有限要素法による成形シミュレーションにおける摩擦係数の評価の精度はなお不十分であり、成形可否の予測精度は満足できるものではなかった。
仲町ら、平成4年春期塑性加工講論、(1992)、P355 橋本ら、塑性と加工、Vol.44、No.504、(2003)、P35 特開2005−207774号公報 特開2005−131696号公報
本発明は、上記した従来の問題点に鑑み、金属板の成形加工中に摩擦係数が変化する成形シミュレーションを行うにあたり、より加工精度を向上させることができる金属板の摩擦係数算出方法及びこれを用いた成形シミュレーション方法を提供することを課題とする。
上記の課題を解決するために、発明者らは鋭意研究を重ねた結果、摩擦係数は面圧、速度、温度に依存するほか、金属板の形状変化に対しても強い依存性があることが分かった。そこで、成形過程中の形状変化に伴って変動する摩擦係数を計算する方法を発明した。さらに、この摩擦係数の形状依存性を有限要素法に取り込んだ成形シミュレーション方法を発明した。
以上の問題を解決するためになされた本発明に係る金属板の摩擦係数算出方法は、金属板の成形加工中に変化する摩擦係数を算出するための金属板の摩擦係数算出方法において、面圧と成形速度と温度に加えて金属板の曲率半径を変数として取り込み、これらの4つを変数とする摩擦係数の格子データを求めたうえに、この格子データにおける格子点間の値を区分線形関数により補間して摩擦係数を求めることを特徴とするものである。
上記した発明において、解析モデルのメッシュ要素を三角形として、金属板の曲率κと金型の曲率κとを離散微分幾何学により計算して求め、これらκ、κの値から等価曲率半径Rを求めて、この等価曲率半径Rを金属板の曲率半径として用いることができる。
また、本発明の金属板の摩擦係数算出方法は、上記したような摩擦係数算出方法により求めた金属板の摩擦係数を用いて、有限要素法による成形シミュレーションを行うことを特徴とするものである。
請求項1に係る発明は、金属板の曲率半径とを変数とする摩擦係数の格子データを求め、この格子データにおける格子点間の値を区分線形関数により補間することにより、従来は考慮されなかった形状依存性を摩擦係数の計算に取り込むことができる。
請求項2に係る発明は、解析モデルのメッシュ要素を三角形としたことにより、平均曲率の公式又はガウス曲率の公式又は主曲率の公式又は曲率のすべり方向成分を用いた離散幾何学によって曲率の計算を行うことができるので、この曲率から求めた等価曲率半径Rを用いて摩擦係数を計算することができる。
請求項3に係る発明は、有限要素解析に当たって、形状の変化を取り込んだ摩擦係数を用いるので、成形のシミュレーションを従来より正確に行うことができる。
以下に、本発明を詳細に説明する。
発明者らは鋭意研究を重ねた結果、摩擦係数は面圧、速度、温度に依存するほか、金属板の形状変化に対しても強い依存性があることを突き止めた。図1、2には、平板摺動実験を行って求めた摩擦係数の面圧依存性を示す。図中GAは合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、CRは冷延鋼板である。平板摺動実験は平板摺動摩擦装置を用いて、摩擦係数を求めた。工具チップとして、先端曲率半径R100(図1)とR10(図2)のものを用いた。摩擦係数μの計算は、μ=水平成分力/垂直成分力による。また、摺動速度は何れも120mm/sである。何れの試験においても、面圧が増化するにつれて摩擦係数は減少している。また、工具チップの曲率半径Rが小さくなると共に摩擦係数の変化量は大きくなっており、曲率半径Rが摩擦係数に大きく影響することが分かる。
以上に例示したように、摩擦係数には曲率半径が大きく影響するので、摩擦係数を取り込んで成形シミュレーションを行うに当たって、曲率半径の影響を無視することは適切ではない。そこで以下のようにして、曲率半径を取り込んで摩擦係数を計算する方法を発明した。その概要を図3、4に示す。
先ず、平板摺動試験を行って摩擦係数を、面圧p、速度v、曲率r、温度tを変数とした格子データとして表す。格子データはとびとびのデータであるので、格子点間のデータは直線によって補間する区分線形関数によって表示することとした。
すなわち、格子データの条件を,p≦p<p、v≦v<v、r≦r<r
≦t<tとすると、補間係数は以下のとおりとなる。
α(0)=(p−p)/(p1−p),α(1)=1−α
α(0)=(v−v)/(v1−v),α(1)=1−α
α(0)=(r−r)/(r1−r),α(1)=1−α
α(0)=(t−t)/(t1−t),α(1)=1−α
そして、摩擦係数は以下のような補間式によって表すことができる。
Figure 0004879860


さらに、金型への金属板の接触形状(曲率半径)の評価を行うに当たっては以下のような問題があるので、この問題点を次のようにして解決した。その手順を図5に示す。
〈問題点1〉有限要素の解析モデルのメッシュ要素が四辺形であるばあいには、曲率を直接計算することができない。そこで四辺形のメッシュを、図5に示すように三角形に分割した。これによって離散幾何学による公式を用いることが可能となる。離散幾何学による曲率の計算に当たっては、平均曲率の公式[数2]又はガウ
ス曲率の公式[数3]又は主曲率の公式[数4]又は曲率のすべり方向成分[数5]を用
いることができる。
Figure 0004879860
Figure 0004879860
Figure 0004879860
Figure 0004879860
〈問題点2〉平板摺動試験は平板と一定曲率半径の円筒との接触による試験である。しかしプレス品の形状は金型に沿うため、金型の曲率のみでは金属板の接触形状を定めることができない。そこで、成形品と金型の曲率を元に等価曲率半径を求めることとした。すなわち、金属板の曲率κと金型の曲率κとを平均曲率の公式、又はガウス曲率の公式、又は主曲率の公式、又は曲率のすべり方向成分により計算して、これらの値κ、κから等価曲率κをκ=κ+κとして求める。そして、この等価曲率κから曲率半径Rを、R=1/κとして求めることができるので、このRを摩擦係数の計算に用いることが可能となる。
〈成形シミュレーション〉
上記のようにして求めた摩擦係数を市販の有限要素解析ソフトに組み込んで解析を行った。すなわち、通常の解析は、接触検知したノードに対し、摩擦係数μを計算するルーチンを呼び出して計算を行うが、本発明においては、摩擦係数μの計算のルーチン内に上記した区分線形関数を用いた摩擦モデル、及び等価曲率半径Rを実装することにより、摩擦係数μの面圧、速度、形状、温度依存性を取り込むことが可能となる。
〈実施例〉
以下に、本発明の実施例を説明する。すなわち、図6に示すような上金型、下金型、しわ抑えで構成される成形機を用いて実プレス試験を行い、計算結果と比較した。金属板寸法は、幅250mm、長さ400mm、厚さ1.4mm、しわ抑え力15トンである。成形中における等価曲率半径の変化を図7に示す。加工直前には、等価曲率半径は10mm弱であるが、加工が進むにつれて増加し、加工終期には70mm程度となっている。試験結果を、摩擦係数μを0.25とした従来法、及び本発明方法と比較して図8、9に示す。本発明によるシミュレーション結果は従来法より精度が高いことがわかる。
下金型中心から下角R部までの距離を口開き量として、スプリングバック量を比較した結果、μを0.25で一定とした従来法において実プレス品との差は、3.59mmであった。しかしながら、等価曲率半径Rを取り込んだ本発明方法においては、1.74mmと半分以下の小さい誤差とすることができた。よって、本発明方法は高精度な金属板の成形シミュレーションが可能であることを確かめることができた。
先端曲率半径R100の工具を用いた場合の摩擦係数の面圧依存性を示すグラフである。 先端曲率半径R10の工具を用いた場合の摩擦係数の面圧依存性を示すグラフである。 格子データを補間する方法の説明図である。 格子データを補間するステップを示す図である。 等価曲率半径を求めるステップを示す図である。 プレス試験機の概略構成図である。 成形に伴う等価曲率半径の変化を示すグラフである。 試験値と、従来法及び本発明方法の計算値とを比較して示すグラフである。 図8のA部の拡大図である。

Claims (3)

  1. 金属板の成形加工中に変化する摩擦係数を算出するための金属板の摩擦係数算出方法において、面圧と成形速度と温度に加えて金属板の曲率半径を変数として取り込み、これらの4つを変数とする摩擦係数の格子データを求めたうえに、この格子データにおける格子点間の値を区分線形関数により補間して摩擦係数を求めることを特徴とする金属板の摩擦係数算出方法。
  2. 解析モデルのメッシュ要素を三角形として、金属板の曲率κと金型の曲率κとを離散幾何学により計算して求め、これらκ、κの値から等価曲率半径Rを求めて、この等価曲率半径Rを金属板の曲率半径として用いる請求項1に記載の金属板の摩擦係数算出方法。
  3. 請求項1又は2に記載の摩擦係数算出方法により求めた金属板の摩擦係数を用いて、有限要素法による成形シミュレーションを行うことを特徴とする金属板の成形シミュレーション方法。
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