JP4879375B2 - 低周波数用途で有用な軟磁性特性を有するアモルファスFe−B−Si−C合金 - Google Patents

低周波数用途で有用な軟磁性特性を有するアモルファスFe−B−Si−C合金 Download PDF

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Description

発明の背景
関連出願の相互参照
本出願は、1996年5月9日に出願された米国特許第08/647,151号の一部継続出願であり、その米国特許第08/647,151号は1994年5月20日に出願された米国特許出願第08/246,393号のファイルラッパー継続出願であり、そしてその米国特許出願第08/246,393号は1992年12月23日に出願された米国特許出願第996,288号のファイルラッパー継続出願である。
1.発明の分野
本発明は、アモルファス金属合金、さらに詳しくは配電用および電源用変圧器の製造に有用な磁心の製作に有用な、鉄、ホウ素、ケイ素および炭素から本質的に成るアモルファス合金に関する。
2.従来技術の説明
アモルファス金属合金(金属ガラス)は長距離原子秩序を全く欠いた準安定材料である。これらは、液体または無機の酸化物ガラスで観測される回折パターンに定量的に類似している散漫な(広い)最大強度からなるX線回折パターンによって特徴化される。しかし、十分高い温度に加熱すると、これらは結晶化し始めて結晶化熱を放出する。それに対応して、そのX線回折パターンは、結晶性の物質で観測されるパターンに向かって変化し始める。即ち、鮮明な極大強度がそのパターン中に発現し始める。これら合金の準安定状態は、同じ合金の結晶形に比べて、特にその合金の機械的性質および磁気的性質に関して著しい利点を提供する。
例えば、配電用変圧器の磁心として利用されている常用の結晶度3重量%のSi-Fe方向性鋼(Si-Fe grain-oriented steels)の鉄損の約1/3に過ぎない総鉄損を有する、市場から入手できる金属ガラスが存在する[例えば、ブイ.アール.ブイ.ラマナン(V. R. V. Ramanan)による、“配電用の変圧器用金属ガラス:最新事情(Metallic Glasses in Distribution Rransformer Application: An Update)”、J. Mater. Eng.、13、(1991)、pp.119-127)を参照されたい]。米国だけにでも約3000万台の配電用変圧器が存在し、約50億ポンドの磁心材料が消費されていることを考慮すれば、配電用変圧器の磁心に金属ガラスを使用することで得られるエネルギー節減の可能性と、それに関連する経済的利益は莫大である。
アモルファス金属合金は、一般に、この技術分野で普通用いられている様々な方法の中の任意の方法を用いて融解物を急速冷却することにより製造される。この“急速冷却”という用語は、通常、少なくとも約104℃/秒の冷却速度を意味し;Feに富んだ大半の合金の場合には、一般に、結晶相の生成を抑え、そしてその合金を準安定なアモルファス状態に急冷するのにより大きい冷却速度(105から106℃/秒)が必要である。アモルファス金属合金を製造するために利用できる方法の例は、(普通、冷却された)基材上へのスパッタもしくは溶射(スプレイ)成膜法、ジェット注型法、プラナー・フロー注型法(planar flow casting)などである。標準的には、特定の組成が選ばれ、希望する割合の必要な元素の(もしくは、フェロボロン、フェロシリコンなどのような分解して元素を生成する材料の)粉末または顆粒を融解し、均質化し、次いで、その融解合金をその選ばれた組成に適した速度で急速に冷却(焼入れ)することによってアモルファス状態を生成させる。
連続した金属ガラスのストリップを製造する最も望ましい方法は、ナラシマン(Narasimhan)に付与され、アライドシグナル社(AlliedSignal Inc.)に譲渡された米国特許第4,142,571号明細書に説明されているプラナー・フロー注型法として知られている方法である。このプラナー・フロー注型法は、次の:
(a)冷却物体の表面を、その冷却物体の表面近くに位置する細隙開口部を区切っている通常平行な一対のリップによって規定されたノズルのオリフィスであって、そのリップとその表面との間の隙間は約0.03mmから約1mmに変化するようになっており、一般にその冷却物体の移動方向に垂直に配置されている、オリフィスを過ぎて、予め定められた約100から約2000m/分の速度で縦方向に移動させる工程、および
(b)そのノズルのオリフィスを通して溶融合金を強制的に流し、その動いている冷却物体の表面と接触させて、その上でその合金を固化させて連続ストリップを形成させる工程
を含んでなる。好ましくは、ノズル間隙は約0.3から1mmの幅を有し、その第1リップはその間隙の幅と少なくとも同じ幅を有し、そして第2リップはその間隙の幅の約1.5から3倍の幅を有している。ナラシマンの方法に従って製造される金属ストリップは、7mmもしくはそれ以下から、150mmから200mmもしくはそれ以上の幅を有する。米国特許第4,142,571号明細書に説明されているこのプラナー・フロー注型法は、用いられる合金の組成、融点、固化および結晶化特性に依存して、厚みが0.025mm以下から約0.14mmもしくはそれ以上のアモルファス金属ストリップを製造することができる。
合金が、経済的にそして大量にアモルファス形で製造できるという合意、およびアモルファス形であるそれら合金の諸性質が、過去20年間、多くの研究の主題であった。どのような合金が、より容易にアモルファス形に製造できるかという課題を指向する最も良く知られている特許は、エイチ.エス.チエン(H. S. Chen)およびデー.イー.ポーク(D. E. Polk)に付与され、アライドシグナル社に譲渡された米国再発行特許第32,925号明細書である。その中に開示されているのは、式Mabc(式中、Mは鉄、ニッケル、コバルト、クロムおよびバナジウムから選ばれる金属から本質的に成る金属であり、Yはリン、ホウ素および炭素の群から選ばれる少なくとも一つの元素であり、Zはアルミニウム、アンチモン、ベリリウム、ゲルマニウム、インジイウム、スズおよびケイ素の群から選ばれる少なくとも一つの元素であり、“a”は約60から90原子%の範囲であり、“b”は約10から30原子%の範囲であり、そして“c”は約0.1から15原子%の範囲である)を有する一群のアモルファス金属合金である。現在、市場から入手できるアモルファス金属合金の大多数は、上記式の範囲内のものである。
アモルファス金属合金の分野における研究と開発が続けられ、一定の合金および合金系が、世界的に重要な一定の用途、特に、配電用および電源用変圧器、発電機および電気モータ用の磁心材料のような電気的用途でのそれらの有用性を高める磁気的性質および物理的性質を有していることが明らかになった。
アモルファス金属合金の分野における初期の研究と開発で、二成分合金:Fe8020が高い飽和磁化値(178emu/g)を示し、変圧器、特に配電用変圧器および発電機に用いられる磁心の製造に有用な候補合金であることが確認された。しかし、Fe8020は、アモルファス形に注型することが困難であることが知られている。さらに、それは結晶化温度が低いので熱的に不安定になる傾向があり、そして延性のあるストリップ状に作るのが困難である。さらに、その鉄損と励起所要電力は最低限で許容できる程度であることが測定から分った。かくして、磁心、特に配電用変圧器用磁心の製造にアモルファス金属合金が実際に利用できるためには、改善された注型性と安定性、そして改善された磁気的性質を有する合金が開発されなければならない。
続く追加の研究で、このような用途に使用するために、三成分Fe-B-Siの合金がFe8020より優れていることが確認された。それら自身ユニークな一連の磁気的性質を有する広範囲の合金群が、長年の間に開発された。ルボルスキー(Luborsky)らに付与された米国特許第4,217,135および同第4,300,950号明細書には、式Fe80-8412-19Si1-8で一般に代表され、但し、30℃で少なくとも約174emu/gの飽和磁化値(現在、推奨できる値と認識されている値)、約0.03Oe以下の保磁度および少なくとも約320℃の結晶化温度を示さなければならないという限定付きの、一群の合金が開示されている。アライドシグナル社に譲渡されたフライリッヒ(Freilich)らの米国特許出願第220,602号明細書には、式Fe〜75-78.5〜11-21Si4-10.5で代表される一群のFe-B-Si合金が高い結晶化温度を示し、併せて許容できる高い飽和磁化値を維持しながら、配電用変圧器中での磁心の通常の変圧器の操業条件(即ち、100℃で、60Hz、1.4T)に近い条件での低い鉄損と低い励起所要電力を示すことが開示されている。
カナダ特許第1,174,081号明細書には、式Fe77-8012-16Si5-10で規定される一群の合金が、エージング後に室温での低い鉄損と低い保磁度、そして高い飽和磁化値を示すことが開示されている。アライドシグナル社に譲渡された米国特許第5,035,755号明細書において、ナサシン(Nathasingh)らは、式Fe79.4-79.812-14Si6-8で代表され、エージングの前後両方で、予想外に低い鉄損と励起所要電力と併せて、許容できる高い飽和磁化値を示す配電用変圧器用の磁心の製造に有用な一群の合金を開示している。最後に、ラマナンらに付与され、アライドシグナル社に譲渡された米国特許第5,496,418号明細書には、鉄含有量が高く、配電用および電源用変圧器の製造に用いられる磁心の製作において有用性が高く、取り扱いが容易なもう一つのクラスのFe-B-Si合金が開示されている。これらの合金は、高い結晶化温度、高い飽和磁気誘導、一定範囲での焼なまし条件にわたって、25℃で、60Hzおよび1.4Tの条件での低い鉄損と低い励起所要電力を示すと共に、一定範囲での焼なまし条件に亘っての焼なまし後の延性保持性が良好であることが示されている。
Fe80B20に欠けた特性を矯正し、そしてFe-B系から“失われた”飽和磁化値の幾らかを取り戻するための他の研究努力の中で、三成分Fe-B-C合金が大きい将来性を有することが教示された。この系における合金の性質は、General Electric Co. Technical Information Series Report No. 79CRD169、1979年8月号のルボルスキーらによる総括的報告“Fe-B-C三成分アモルファス合金(The Fe-B-C Ternary Amorphous Alloys)”の中に要約されている。この報告では、Fe-B-Si系に比べた場合、Fe-B-C系はより広い組成範囲にわたって高い飽和磁化値を持続するが、(Fe-B-Si合金系中での)Siによる高い結晶化温度、従って大きい合金の安定性に見られる有益な効果は、Fe-B-C合金系での組成領域の多くで重大な危険にさらされることが示されている。言い換えれば、BをCで置き換えれば、普通、結晶化温度は低下する。磁気的性質の面から見て、Fe-B-C合金で留意すべき主要な欠点は、これら合金の保磁度がFe-B-Si合金の保磁度より大きく、そして二成分合金の保磁度より大きなことさえあることである。主として、合金の安定性と保磁度におけるこれらの欠陥の結果として、このFe-B-C合金は、上記のルボルスキーらの報告が出た時以来、配電用変圧器の磁心の用途で商業的に可能性のある有意な合金としてさらに追究されることはなくなった。
アライドシグナル社に譲渡された米国特許第4,219,355号明細書において、デクリストファロ(DeCristofaro)らは式Fe80-8212.5-14.5Si2.5-5.01.5-2.5で代表される一群のアモルファス金属Fe-B-Si-C合金を開示し、その中で、この合金は、高い磁化値と低い鉄損および低い電圧-電流デマンド(60Hzで)に併せて、改善された交流および直流磁気特性が150℃以下で安定性を維持することを開示している。デクリストファロ達は、上式の範囲外の組成のFe-B-Si-C合金は許容できない直流特性[保磁度、B80(1Oeでの誘導)など]もしくは交流特性(鉄損および/または励起電力)または両方を有することも開示している。
アモルファス金属Fe-B-Si-C合金は、サトー(Sato)らに付与された米国特許第4,437,907号明細書中にも開示されている。この特許中には、式Fe74-806-13Si8-190-3.5で示される一群の合金が存在することが教示されており、その合金は50Hzおよび1.26Tでの低い鉄損と磁性の大きい熱安定性を示し、そしてその合金は、200℃でのエージング後に、室温、1Oeで測定した磁束密度の保持性が高く、そして上述の条件での鉄損の保持性が良好である。
サトーらの米国特許第4,865,664号明細書は、シートの厚みが50から150μmで、シートの幅が少なくとも20mmである鉄系のアモルファス合金を開示している。このストリップは単一ローラ冷却法で製造され、破壊ひずみが0.01もしくはそれ以上である。サトーらのこの’664号特許は、さらに、FeabSicd(式中、a、b、cおよびdの範囲はそれぞれ77から82、8から15、4から15および0から3であるのが好ましい)の組成を有するアモルファス合金ストリップスも開示している。
特公平1−37,467号公報(1989年8月7日)は、FeaSibcdの組成を有し、磁気的性質の時間的変化が非常にに小さい、鉄損の少ない、鉄系アモルファス合金を開示している。a、b、cおよびdの値は原子パーセントであって、a=77〜79、b=8より大から12、c=9〜11、そしてd=1〜3であり、そしてa+b+c+d=100である。
特開昭56−33,452号公報(1981年4月3日)は、FeaSibcdの組成を有する、変圧器の鉄心に用いられるアモルファス合金を開示している。ただし、式中のa、b、cおよびdの値は原子パーセントであって、a+b+c+d=100であり、b=2〜8、c=8〜17そしてd=1〜8である。
特開昭58−34,162号(1983年2月28日)公報は式FeabSicdのアモルファス合金を開示している。ここで、式中のa、b、cおよびdの値は原子パーセントであって、a+b+c+d=100であり、a=78〜82、b=8〜14、c=5〜15、そしてd≦1.5でありる。この合金は、磁気の枯れに対する抵抗性が良好である。
特開55−152,150号公報(1980年11月27日)は、原子パーセントで11-17%のホウ素と3-8%の炭素を含み、残りは実質的に鉄から成る磁束密度の大きい、透磁率が大きくかつ鉄損が小さいアモルファス鉄合金を開示している。この公開公報は、原子パーセントで11-17%のホウ素と3-8%の炭素を含み、前者の少なくとも5%以下と後者の少なくとも5%以下がケイ素で置換されており、ケイ素、ホウ素および炭素の和は18-21%であり、そして残りは実質的に鉄から成る磁束密度の大きい、透磁率が大きくかつ鉄損が小さいアモルファス鉄合金も開示している。
上の考察から容易に明らかになるように、研究者達は、どの合金が配電および電源用変圧器の磁心の製造に最も適していかを決めるのに基本的に重要である各種性質に焦点を当てているが、どの研究者も磁心の製造と操業の全ての面で明瞭に優れた結果を得るのに必要な性質の組み合わせを認知しておらず、従って多様な異なる合金が発見されており、各研究者は全組み合わせの一部だけに焦点を当てている。さらに具体的に言えば、上記で引用した特許文献の開示からは、その合金が、高い結晶化温度と大きい飽和磁化値と、それに併せて広範囲の焼なまし温度および時間にわたって焼なましされた後での低い鉄損と低い励磁所要電力を示し、加えて磁心の製造を容易にするのに十分な延性を一定範囲の焼なまし条件にわたって保持する一群の合金の識別法が存在しないことは明瞭である。これら特徴の組み合わせを示す合金は、変圧器製造工業において圧倒的に採用されるであろう。何故なら、それらは変圧器の改善された運転に欠くことのできない磁気特性を所有しているに違いなく、そして各種変圧器の磁心の製造業者により用いられる装置、方法および取り扱い法における変動により容易に適応するに違いないからである。
上記で考察したアモルファス金属合金中での元素ホウ素は、これらの合金に関連する総原材料コストにおける主要コスト成分である。例えば、上記で考察したFe-B-Si合金の場合、合金中の3重量パーセント(約13原子%)のホウ素は総原材料コストの約70%にもなり得る。上記で説明した特徴の望ましい組み合わせに加えて、このような合金が、その組成中のホウ素の水準を低くすることができれば、変圧器用途用の合金の大規模製造における総生産コストを下げ、前に考察した付随の社会的利益を伴うアモルファス金属合金磁心のより迅速な導入が起きるであろう。
発明の要約
本発明は、アモルファスが少なくとも約70%であって、鉄、ホウ素、けい素および炭素から成り、そしてFeabSicdの組成から本質的に成る、不純物が約0.5原子パーセント以下である、少なくとも500℃の結晶化温度を有する新規な金属合金を提供するものである:ただし、上記の式において、“a”-“d”は原子パーセントであって、“a”、“b、“c”および“d”の和は100に等しく、“a”は約77から80の範囲であり、“b”は約7から11.5の範囲であり、“c”は約3から12の範囲であり、そして“c”が7.5より大である時“d”は少なくとも4であることを前提として“d”は約2から6の範囲である。本発明の合金は、少なくとも約360℃のキューリー温度、少なくとも約165emu/gの磁気モーメントに対応する飽和磁化値を有し、併せてその合金を5-30Oeの範囲の磁場の存在下で0.5〜4時間の範囲の時間335℃-390℃の範囲内の温度で焼なましした後に、25℃、60Hzおよび1.4Tで測定したとき約0.35W/kg以下の鉄損および約1VA/kg以下の励磁力値を明瞭に示す。
本発明は、また、本発明のアモルファス金属合金を含んでなる改善された磁心も提供する。この改良された磁心は、アモルファス金属合金のリボンから本質的に成る(例えば、巻かれた、巻かれて切断された、もしくは積み重ねられた)主要部分(body)を含んで成り、その主要部分は、上記で説明したように、磁場の存在下で焼なましされている。
本発明は、さらに、硼素含有量の少なくとも一部をカーボサーミック(carbothermic)・フェロボロンから供給する工程を含んでなる合金を製造する方法を提供する。
本発明のアモルファス金属合金は、従来技術の合金に比べて、一定範囲の焼なまし条件にわたって得られる、線周波数での低い鉄損と低い励磁力と、それに併せて高い飽和磁気誘導、高いキューリー温度および高い結晶化温度を有する。このような組み合わせは、本発明の合金を電力配電網用の変圧器の磁心への利用に特に適したものにする。この他、特定の磁気増幅器、継電器磁心、地絡遮断器および類似の用途にも用いられる。
【図面の簡単な説明】
本発明は、以下の本発明の推奨される態様の詳細な説明と添付した図面を参照することによりさらに完全に理解され、さらなる利点が明らかになるであろう。添付図面において、
図1(a)-1(g)は、本発明の基本的で推奨される合金を例示することに留意した、鉄の様々な値における、四成分系Fe-B-Si-C組成空間(composition space)の三成分系断面図であり;
図2(a)-2(f)は、個々の合金組成物の℃で示した結晶化温度の値を提示することに留意した、鉄の様々な値における四成分系Fe-B-Si-C組成空間の三成分系断面図であり、その中には本発明の基本的合金の対応する範囲も示されており;
図3(a)-3(f)は、区分して示されている個々の合金組成物の℃で示したキューリー温度の値を提示することに留意した、鉄の様々な値における四成分系Fe-B-Si-C組成空間の三成分系断面図であり、その中には本発明の基本的合金の対応する範囲も示されており;そして
図4(a)-4(d)は、記入されている個々の合金組成物のemu/gで示した飽和磁気モーメントの値を提示することに留意した、鉄の様々な値における四成分系Fe-B-Si-C組成空間の三成分系断面図であり、その中には本発明の基本的合金の対応する範囲も示されている。
推奨される態様の説明
本発明は、アモルファスが少なくとも約70%であって、鉄、ホウ素、ケイ素および炭素から成り、そしてFeabSicdの組成から本質的に成る、不純物が0.5原子パーセント以下である、少なくとも500℃の結晶化温度を有する新規な金属合金を提供するものである。ただし、上記の式において、“a”-“d”は原子パーセントであって、“a”、“b、“c”および“d”の和は100に等しく、“a”は約77から80の範囲であり、“b”は約7から11.5の範囲であり、“c”は約3から12の範囲であり、そして“c”が7.5以上である時“d”は少なくとも4であることを前提として“d”は約2から6の範囲である。
例示の目的で示すと、四成分系合金を規定する組成空間は、構成成分のこの四成分組成空間の三成分系断面図を用いるグラフ形式でうまく描写することができる。即ち、偽-三成分ダイヤグラムを用い、第4成分の値を固定して、構成成分の三つの含有量の可能な範囲を表すことができる。この表示法を用いて、図1(a)-1(g)は、Feの含有量を様々な値に固定した偽-三成分B-Si-C状態図中の複数の領域として本発明のFe-B-Si-C合金を描写することができる。本発明の合金の組成は:
(i)図1(a)に示される、“a”=80における四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図で、“b”、“c”および“d”が領域A、B、C、D、E、F、G、Aの中にあり;
(ii)図1(b)に示される、“a”=79.5における四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図で、“b”、“c”および“d”が領域A、B、C、D、E、F、Aの中にあり;
(iii)図1(c)に示される、“a”=79における四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図で、“b”、“c”および“d”が領域A、B、C、D、E、Aの中にあり;
(iv)図1(d)に示される、“a”=78.5における四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図で、“b”、“c”および“d”が領域A、B、C、D、E、Aの中にあり;
(v)図1(e)に示される、“a”=78における四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図で、“b”、“c”および“d”が領域A、B、C、D、E、Aの中にあり;
(vi)図1(f)に示される、“a”=77.5における四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図で、“b”、“c”および“d”が領域A、B、C、D、E、Aの中にあり;そして、
(vi)図1(g)に示される、“a”=77における四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図で、“b”、“c”および“d”が領域A、B、C、D、Aの中にある;
ような組成である。
図1を参照してさらに具体的に説明すると、上記で説明した本発明の合金を描写する様々な多角形のコーナで規定されるこの合金の組成は、大体次の通りである:
(i)80原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe8011.5Si6.52、Fe8011.5Si35.5、Fe8011Si36、Fe807Si76、Fe807Si94、Fe808.5Si7.54、Fe8010.5Si7.52およびFe8011.5Si6.52で規定され;
(ii)79.5原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe79.511.5Si72、Fe79.511.5Si36、Fe79.57Si7.56、Fe79.57Si9.54、Fe79.59Si7.54、Fe79.511Si7.52およびFe79.511.5Si72で規定され;
(iii)79原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe7911.5Si7.52、Fe7911.5Si3.56、Fe797Si86、Fe797Si104、Fe799.5Si7.54およびFe7911Si7.52で規定され;
(iv)78.5原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe78.511.5Si7.52.5、Fe78.511.5Si46、Fe78.57Si8.56、Fe78.57Si10.54、Fe78.510Si7.54およびFe78.511.5Si7.52.5で規定され;
(v)78原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe7811.5Si7.53、Fe7811.5Si4.56、Fe787Si96、Fe787Si114、Fe7810.5Si7.54およびFe7811.5Si7.53で規定され;
(vi)77.5原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe77.511.5Si7.53.5、Fe77.511.5Si56、Fe77.57Si9.56、Fe77.57Si11.54、Fe77.511Si7.54およびFe77.511.5Si7.53.5で規定され;そして
(vii)77原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe7711.5Si7.54、Fe7711.5Si5.56、Fe777Si106、Fe777Si124およびFe7711.5Si7.54で規定される。
本発明の合金は、少なくとも500℃の結晶化温度、少なくとも約360℃の高いキューリー温度、少なくとも約165emu/gの磁気モーメントに対応する高い飽和磁化値と、それに併せてこの合金を約5-30Oeの範囲の磁場の存在下で0.5〜4時間範囲の時間約330℃-390℃の範囲内の温度で焼なましした後に、25℃、60Hzおよび1.4Tで測定した鉄損が約0.35W/kg以下で、励磁力値が約1VA/kg以下であることを明瞭に示す。
良く知られているように、準安定状態に注型された合金の磁気的性質は、一般に、アモルファス相の容量パーセントが増すと向上する。従って、本発明の合金は、少なくとも約70%アモルファス、好ましくは少なくとも約90%アモルファス、最も好ましくは本質的に100%アモルファスとなるように注型される。この合金中のアモルファス相の容量パーセントは、X-線回折法で上手く求めることができる。
本発明の好ましい合金は、FeabSicdの組成から本質的に成り、ここで式中の“a”-“d”は原子パーセントであって、“a”、“b、“c”および“d”の和は100に等しく、“a”は約77から80の範囲であり、そして“b”は約8から11の範囲である。Bの含有量が少なくとも8%であれば、そのような合金は、少なくとも90%、最も好ましくは本質的に100%アモルファスとなるようにより容易に注型されると信じられる。Bの含有量を多くても約11%に制限すれば、その合金の原材料コストは低下する。Feの含有量が少なくとも約78%であると、その合金の飽和磁化値が大きくなる。本発明のこれらの好ましい合金では、より高いキューリー温度(約380℃より上)とより小さい鉄損(25℃、60Hzおよび1.4Tで約0.28W/kg以下)の組み合わせが得られる。
本発明の好ましい合金は、例示の目的で図1(a)-(e)に描写されている。本発明の望ましい合金の組成は、
(i)図1(a)に例示される“a”=80での四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、“b”、“c”および“d”が領域P、C、Q、R、F、G、Pの中にあり;
(ii)図1(b)に例示される“a”=79.5での四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、“b”、“c”および“d”が領域F、Q、R、S、E、F、Aの中にあり;
(iii)図1(c)に例示される“a”=79での四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、“b”、“c”および“d”が領域P、Q、R、S、E、Pの中にあり;
(iv)図1(d)に例示される“a”=78.5での四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、“b”、“c”および“d”が領域P、Q、R、S、E、Pの中にあり;そして、
(v)図1(e)に例示される“a”=78での四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、“b”、“c”および“d”が領域P、Q、R、S、E、Pの中にある
ような組成である。
図1(a)-(e)を参照してさらに具体的に説明すると、上記で説明した本発明の望ましい合金を描写する様々な多角形のコーナで規定されるこの合金の組成は、大体次の通りである:
(i)80原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe8011Si72、Fe8011Si36、Fe808Si66、Fe808Si84、Fe808.5Si7.54、Fe8010.5Si7.52およびFe8011Si72で規定され;
(ii)79.5原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe79.511Si7.52、Fe79.511Si3.56、Fe79.58Si6.56、Fe79.58Si8.54、Fe79.59Si7.54およびFe79.511Si7.52で規定され;
(iii)79原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe7911Si7.52.5、Fe7911Si46、Fe798Si76、Fe798Si94、Fe799.5Si7.54およびFe7911Si7.52.5で規定され;
(iv)Fe78.5原子パーセントでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe78.511Si7.53、Fe78.511Si4.56、Fe78.58Si7.56、Fe78.58Si9.54、Fe78.510Si7.54およびFe78.511Si7.53で規定され;
(v)78原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe7811Si7.53.5、Fe7811Si56、Fe788Si86、Fe788Si104、Fe7810.5Si7.54およびFe7811Si7.5C3.5で規定される。
本発明のさらに好ましい合金は、FeabSicdの組成から本質的に成り、ここで式中の“a”-“d”は原子パーセントであって、“a”、“b、“c”および“d”の和は100に等しく、“a”は約79から80の範囲であり、“b”は約8.5から10.5の範囲であり、そして“d”は約3から4.5の範囲である。本発明のこれらのより好ましい合金は、約390℃より高いキューリー温度、しばしば505℃より高い結晶化温度、少なくとも約170emu/gの磁気モーメント、そしてしばしば約174emu/gの磁気モーメントに対応する飽和磁化値と、これに併せて特に低い鉄損、標準的には25℃、60Hzおよび1.4Tで約0.25W/kg以下、そしてしばしば同じ試験条件下で約0.2W/kg以下の鉄損を示す。このより好ましい合金では、これらの性質は最高で約10.5のB含有量の場合でさえも得られ、その原材料コストをさらに下げる。このより好ましい合金では、原材料コストの低減と注型性および熱安定性とをバランスさせるために、炭素の含有量が制限される。Fe含有量少なくとも約79%で、十分な飽和磁化値が保障される。本発明のこのより好ましい合金の例は、Fe79.59.25Si7.53.75、Fe798.5Si8.54、Fe79.18.9Si84およびFe79.79.1Si7.24.0である。
本発明のこのより好ましい合金は図1(a)-(c)に例示のため示される。本発明のこのより好ましい合金の組成は:
(i)図1(a)に示される“a”=80での四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、“b”、“c”および“d”が領域1、2、3、F、4、1の中にあり;
(ii)図1(b)に示される“a”=79.5での四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、“b”、“c”および“d”が領域1、2、3、4、E、5、1の中にあり;そして
(iii)図1(c)に示される“a”=79での四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、“b”、“c”および“d”が領域1、2、3、4、E、1の中にある
ような組成である。
図1(a)-(c)を参照してさらに具体的に説明すると、上記で説明した本発明のより好ましい合金を描写する様々な多角形のコーナで規定されるこの合金の組成は、大体次の通りである:
(i)80原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe8010.5Si6.53、Fe8010.5Si54.5、Fe808.5Si74.5、Fe808.5Si7.54、Fe809.5Si7.53およびFe8010.5Si6.53で規定され;
(ii)79.5原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe79.510.5Si73、Fe79.510.5Si5.54.5、Fe79.58.5Si7.54.5、Fe79.58.5Si84、Fe79.59Si7.54、Fe79.510Si7.53およびFe79.510.5Si73で規定され;そして、
(iii)79原子パーセントFeでの四成分Fe-B-Si-C組成空間の三成分断面図において、これらコーナは合金Fe7910.5Si7.53、Fe79.510.5Si84.5、Fe798.5Si84.5、Fe798.5Si8.54、Fe799.5Si7.54およびFe7910.5Si7.53で規定される。
本発明のさらにより好ましい合金は、熱安定性と成形性をさらに高めるために、少なくとも約6.5のケイ素含有量“c”を有している。
本発明の合金の純度は、言うまでもなく、その合金の製造に用いた原材料の純度に依存する。高価でなく、従って不純物の含有量が多い原材料が、例えば大規模製造の経済性を確保するのには望ましいだろう。従って、本発明の合金は約0.5原子パーセントのように多い不純物を含んでいてもよいが、不純物の原子パーセントは、0.3以下であるのが好ましい。この場合、Fe、B、SiおよびC以外の全ての元素は不純物と考えられる。言うまでもなく、不純物が含まれていると、本発明の合金中の一次構成成分の実際の含有水準は、その意図される値から変わるであろう。しかし、Fe、B、SiおよびCの割合の比は維持されると予期される。
金属合金の化学的性質は、電磁結合プラズマ発光スペクトル分析法(ICP)、原子吸光分析法(AAS)、および古典的湿式化学分析法(重量分析法)を含めて、この技術分野で知られている各種方法で決定できる。同時分析が可能であるので、ICPが工場の実験室では特に適した方法である。ICP系を操作する迅速な方法は“濃度比”法であり、この方法では一連の選択した主要元素および不純物元素を同時に直接分析し、その主要構成成分は100パーセントと分析したそれら元素との差によって計算される。かくして、そのICP系で直接測定されなかった不純物元素は、この計算で求められた主要元素含有量の一部として報告される。即ち、この濃度比法によるICPで分析された金属合金中の主要元素の真の含有量は、実際には、直接測定されない非常に低水準の不純物の存在に因り、計算で求めた含有量より僅かに小さい。本発明の合金の化学的性質は、100パーセントに正規化されたFe、B、SiおよびCの相対的な量に関係する。不純物元素の含有量は、100パーセントになるまで加算された主要元素の和の中に含まれているとは考えられない。
工業的規模でトン単位の量で本発明の金属ガラス合金を注型成形するには、その製造法の信頼性ができるだけ高く、そしてできるだけ安価な原材料の組み合わせを使用することが肝要である。この合金の中で最も高価な構成成分はホウ素である。この合金融解物は元素状のホウ素から調製することもできるが、ホウ素の単位重量当たりの実効コストがより低いことと、製造工程に供給する場合の信頼性と再現性がより大きいことの両方によって、フェロボロンを使用するのが極めて好ましい。容易に融解し、本発明の合金に容易に混和できるフェロボロンと対照的に、元素状ホウ素は、大量の融解物中に添加した時、その表面に浮く程質量密度が小さい。かくして、元素状ホウ素は、融解しないで残ることなしに、或いは表面スラグ層に巻き込まれることなしに、十分に混和されるという再現性を保証することが困難である。
フェロボロンは、アルミノサーミック(alminothermic)もしくはカーボサーミック(carbothermic)還元法のいずれかにより工業的に製造される。これらの方法はこの技術分野での常法であり、J.H.ダウリング(J. H. Dowling)編の報告:“フェロ合金の製造(Production of Ferroalloys)”、Electric Furnace Proceedings、第41巻、MI州デトロイト、1983年12月6-9日(Iron and Steel Society/AIME Warrendale, PI, 1984)の中で詳細に説明されている。その教示内容をここで引用、参照することにより、それが本明細書に含まれるものとする。カーボサーミック・フェロボロンが本発明の合金用に推奨される。鉄系合金中に混和した場合、アルミノサーミック・フェロボロンは不純物水準のアルミニウムを混入する可能性があり、注型工程それ自身、およびその合金の最終の磁気的性質に幾分有害である。従って、本発明の合金は、ホウ素の少なくとも80%がカーボサーミック・フェロボロンから供給される方法により製造されるのが好ましい。ホウ素の実質的に全てがカーボサーミック・フェロボロンから供給されるのがさらに好ましい。
工業用品種のカーボサーミック・フェロボロンは、標準的には、ホウ素含有量が約15-20重量%で、約0.15から、多い場合には0.5重量%に変動する炭素を含んでいる。本発明の合金はかなりの量の炭素を含んでいるから、実質的に炭素を含まない合金で用いられるフェロボロンの場合より、多い量の炭素不純物を許容できる。このより多い不純物含有量が許容されることにより、本発明の合金の製造者は、明らかに高価でない品種のフェロボロンを使用することが可能になり、この合金の総原材料コストを下げるのに好都合である。
実際に注型した様々な組成のFe-B-Si-C合金が、図2(a)-2(f)または3(a)-3(f)に示される。ここに示されている合金は、全て、次の方法に従って、50-100gの規模で幅6mmのリボンに注型された。これらの合金は、その一端が開口している中空の回転シリンダ上に注型された。このシリンダは外径25.4cm、厚み0.25”(0.635cm)、幅2”(5.08cm)の注型表面を有している。このシリンダは、ブラッシュ-ウエルマン(Brush-Wellman)社で製造されたCu-Be合金(名称:Brush-Wellman Alloy 10)から造られた。試験した合金の構成元素を、高純度(B=99.9%、FeとSiは少なくとも99.99%の純度)の原材料から出発し、適した比に混合し、直径2.54cmの石英るつぼ中で融解して、均質化されたプレアロイ・インゴットを得た。これらのインゴットを、シリンダの注型表面から0.008”(大体0.02cm)の位置に置かれた、底面が平らで、寸法0.25”×0.02”(0.635cm×0.51cm)の長方形のスロットを有する第2の石英るつぼ(直径2.54cm)の中に入れた。このシリンダを約9,000フィート/分(45.72m/秒)の周速度で回転させた。この第2るつぼとホイールを、ポンプで約10mmHgの減圧に下げたチャンバーの中に入れた。このるつぼの上に蓋をし、るつぼの内部を軽い減圧(約10mmHgの圧力)に維持した。ピーク電力の約70%で操業される電源[ピラー社(Pillar Corporation)10kW]を用いて、各インゴットを誘導溶融した。インゴットが十分融解したら、そのるつぼ内の減圧を戻し、その融解物をホイール表面と接触できるようにし、次いで、本明細書中で引用、参照されている米国特許第4,142,571号明細書に開示されているプラナー・フロー注型の原理により、幅約6mmのリボンに急冷成形した。
本発明に属する合金の幾つか、さらにまた本発明の範囲外の数種の合金組成物も、約5-1000kgの製造規模で、より大きい注型機で約1”と6.7”の間の範囲の幅のリボンに注型成形された。この場合も、プラナー・フロー注型の原理が用いられた。るつぼとプレアロイ・インゴットの大きさおよび各種の注型パラメータは、当然、上記で説明したものとは異なっていた。さらに、熱の負荷がより大きいので、異なる注型基材も用いられた。より大きい注型操作の場合における多くの例では、プレアロイ・インゴットの中間工程は省略され、および/または工業用純度の原材料が用いられた。工業用の高規格原材料が用いられた場合、化学分析の結果は、その不純物含有量は約0.2〜0.4重量パーセントの範囲であることを示した。Ti、V、Cr、Mn、Co、NiおよびCuなどの検出された痕跡量の幾つかの元素は、Feの原子量に似た原子量を有し、一方Na、Mg、AlおよびPなどの他の検出された元素は原子量がSiに近い。検出された重い元素はZr、CeおよびWであった。この分布は分るので、検出された、全部で0.2から0.4重量パーセントの不純物は約0.25から0.5原子パーセントの範囲の含有量に相当すると推定される。
本発明の合金について特定された各限界値よりもBおよび/またはSi含有量が低く、および/またはC含有量が高い場合には、得られる合金は様々な理由から受容できないことが一般に認められている。多くの例では、これらの合金は、注型したままの状態でも脆くて取扱いが困難であった。他の例では、その融解物を均質化するのが困難で、その結果その注型リボン中の組成を制御するのが困難であった。非常な注意と努力を払えば、これら化学物質の幾つかは正しい組成を有する延性のあるリボンに成形することができるけれど、このような合金組成物は受容できるリボンの大規模連続生産に安心して採用することができないので、これらの合金は好ましくない。
前に考察したように、ホウ素は原材料としてのコストが非常に高いので、本発明の合金用に本明細書で規定した量より高い水準のホウ素は経済的に魅力がなく、従って望ましくない。図2には結晶化温度の測定値も含まれており、そして図3はこれら合金のキューリー温度の測定値も示している。これらの各図には、本発明の基本的合金の範囲を規定した多角形も参考のために示されている。
これら合金の結晶化温度は示差走査熱量測定法で測定された。20K/分の走査速度が用いられ、そして、その結晶化温度は結晶化反応の始まる温度として定義された。
キューリー温度はインダクタンス法を用いて測定された。全ての点(長さ、数およびピッチ)で同一の、多重らせん状高温巻線用セラミック-絶縁銅線を二本の末端開放型石英管に巻き付けた。このようにして調製した二組の巻付管は同じインダクタンスを示した。この二本の石英管を管状炉の中に入れ、そして、この調製されたインダクタ(固定コイル)に(約2kHz〜10kHzの範囲の固定周波数の)交流励磁信号を印加し、そしてそのインダクタからの平衡(または差)信号を監視した。そのインダクタ用の“心”材の役目をする、測定されるべき合金のリボン試料をその管の一つに挿入した。この強磁性磁心材料の高い透磁性は、インダクタンスの値の平衡を失わせ、そのために大きい信号が生じる。この合金リボンに取り付けられた熱電対が温度モニタとして役立つ。この二つのインダクタを一つの炉の中で加熱すると、この強磁性金属ガラスはそのキューリー温度を通過し、そして常磁性体(低透磁性)になると、この非平衡信号は本質的に0まで落ちる。そして、この二つのインダクタは大体同じ出力を生じる。その転移領域は普通広く、これは注型したままのガラス状合金中の応力が緩和されているという事実を反映している。この転移領域の中間点がキューリー温度として定義されるものである。
同様にして、その炉を放冷すると、常磁性から強磁性への転移が検出される。少なくとも部分的に緩和されたガラス状合金でのこの転移は、普通非常に明瞭である。この常磁性から強磁性への転移温度は、所定試料での強磁性から常磁性への転移温度より高い。図3にキューリー温度として示される値は、常磁性から強磁性への転移を代表する。
高い結晶化およびキューリー温度にとって重要なことは、注型したてのアモルファス金属合金のストリップに必要な焼なましを効率的に行なわなければならないことである。
配電用および電源用変圧器に用いられるアモルファス金属合金ストリップ(金属ガラス)からの磁心の製造では、この金属ガラスは、磁心に巻き付けられる前後いずれかにおいて焼なましされる。注型したままの金属ガラスは、有意の応力誘起磁気異方性の原因になる高度の焼入れ応力を示すから、その金属ガラスが素晴らしい軟磁性特性を示すためには、その前に、普通、印加磁場の存在下で行われる焼なまし(即ち、熱処理と同義)が必要である。この異方性は、その製品の真の軟磁性をマスクし、その誘起焼入れされた応力が緩和されるように適切に選ばれた温度で、その製品を焼なましすることにより除去される。明らかに、この焼なまし温度は結晶化温度以下でなければならない。焼なましは動的工程であるから、焼なまし温度が高ければ高い程、その製品を焼なましするのに必要な時間は短くなる。これらの理由および以下において説明される他の理由により、最適焼なまし温度は、その金属ガラスの結晶化温度の約140Kから100K下の狭い温度範囲であり、そして最適焼なまし時間は、大きい磁心、即ち50kgを超える質量を有する磁心では、約1.5から2.5時間であり、約4時間までの範囲でもう少し長い時間が必要な場合もある。
金属ガラスは、それらの非晶性に帰因する事実である磁性結晶異方性(magnetocrystalline anisotropy)を示さない。しかし、磁心、特に配電用変圧器に用いられる磁心の製造では、そのストリップの長さ方向に一致する優先軸に沿って、その合金の磁気異方性を最大にすることが極めて望ましい。事実、現在では、優先磁化軸を誘起するために、その焼なまし工程中に、その金属ガラスに磁場を印加することが、変圧器用磁心製造業者に推奨される実用手段であると考えられている。
焼なまし中に普通印加される磁場の強さは、その材料を、その誘起異方性を最大にするために、その材料を飽和するのに十分な強さである。飽和磁化値はキューリー温度に達するまでは温度が上がると減少し、キューリー温度より上では磁気異方性がそれ以上改善されないことを考慮すれば、焼なましは、その外部磁場の効果を最大にするように、その金属ガラスのキューリー温度に近い温度で行われるのが好ましい。勿論、焼なまし温度が低い程、注型時発生応力を除去し、そして優先異方性軸を誘起するのに必要な時間がより長くなる(そして、印加磁場の強さがより大きくなる)。
上記の考察から、その焼なまし温度と時間の選択はその材料の結晶化温度とキューリー温度に大きく依存することが明らかである。一般に、これらの温度が高ければ高い程、その焼なまし温度をより高くすることが可能で、その結果焼なまし工程はより短い時間で達成されるであろう。
図2および3から留意すべき点は、結晶化温度とキューリー温度は、鉄の含有量が減少すると一般に高くなることである。さらに、所定の鉄含有量の場合には、ホウ素の含有量が減少するとその結晶化温度が一般に低下する。鉄の含有量が約81原子パーセントより大きいのは望ましくなく;結晶化温度とキューリー温度の両方に悪影響を及ぼす。
この温度の上昇は、鉄含有量の1減少原子パーセントにつき、結晶化温度で大体20℃-25℃、キューリー温度で大体10℃-15℃の範囲である。
鉄含有量へのこれら温度のこのようなスムースな依存性は、本発明の合金の際立った、そして望ましい特性である。例えば、これら材料の大規模製造の工程中でのその結晶化温度の合理的で迅速な測定は、注型リボンの組成物での品質管理手段として利用することができるであろう。これらの化学製品の実際的な評価は時間のかかる工程である。さらに、材料の諸性質がその組成にスムースに依存するという特性は、その合金組成を実験室のようにはきちんと、格通りに制御できない工業的規模での材料の製造では、当然好都合である。
変圧器の磁心材料として有用なアモルファス合金では、焼なまし中または変圧器中での使用中(特に、電流過負荷の事態の場合)に、その合金に結晶化を誘起する危険性を最小限に確実に抑えるようにするために、少なくとも500℃の結晶化温度が好ましい。前に述べたように、アモルファス合金のキューリー温度は焼なまし時に用いられる温度に近く、且つ、好ましくはその温度より僅かに高くあるべきである。焼なまし温度がキューリー温度に近ければ近い程、望ましい軸内に磁化ドメインを整列させることがより容易になり、その同じ軸に沿って磁化された時にその合金が示す損失(鉄損)が最小になる。有用な変圧器用磁心合金のキューリー温度は少なくとも約360℃であるべきである;この温度がより低いと、焼なまし温度が低くなり、焼なまし時間が長くなる。しかし、非常に高いキューリー温度もあまり望ましくない。焼なまし温度は様々な理由から高過ぎてはならない:この合金は部分的結晶化さえ避けなければならないので、高い焼なまし温度では、焼なまし時間の制御が基本的に重要になる;そして、結晶化が潜在的問題を表に出さなくても、延性、従って取り扱い易さが実質的に失われる危険を最小限にするために、焼なまし時間の制御の基本的重要性は残る;さらに、後で説明されるように、大きい磁心の焼なましに普通用いられる炉の都合から、そしてそれに付随する温度勾配の必要な管理の観点から、有用で“最適の”磁心を確保するには、焼なまし温度は“現実的”でなければならず、そして余り高くてはならない。他方、キューリー温度の高い材料が焼なましされる時に、その焼なまし温度を高くしないと、磁性ドメインの好ましい整列を確保するのに非実用的な大きい磁場が必要になるであろう。
本発明の合金におけるよりも、けい素含有量が大きく、それらの結晶化および/またはキューリー温度の値は本発明の合金の値に匹敵する他の独自の組成物があり得るが、これらの値の合金組成への依存性はより複雑で、本発明の合金で観測されるように規則正しくない。図2と3から気が付くように、本発明の合金で特定されているSi含有量の外側をあえて探してみると、結晶化温度もしくはキューリー温度は、一般に合金組成に敏感である傾向があり、結晶化温度が低下するか、またはキューリー温度が高くなる。上に考察したように、アモルファス材料の結晶化温度とキューリー温度は、その材料の焼なまし温度を決める助けになり、そして実際に、これらの焼なまし条件は、大型変圧器用磁心の製造中厳格に維持されるから、その材料の諸性質が、組成の小さい変動に、一般的に耐えられない合金組成物は望ましくない。
飽和磁気モーメントは、これら合金中の鉄含有量で徐々に変化する関数であり、鉄含有量が減るにつれてその値が減少することを見いだされた。これは図4(a)-4(b)に例示されている。
引用されている飽和磁化の値は、注型したままのリボンから得た値である。この技術分野では、焼なましされた金属ガラス合金の飽和磁化値は、このガラスは焼なましされた状態で緩和されるという、前に説明したのと同じ理由により、普通、注型したまま状態の同じ合金の値より大きい。
これら合金の飽和磁気モーメントの測定には市販の振動試料磁力計が用いられた。所定の合金からの注型したままのリボンを数個の小さい正方形(大体2mm×2mm)に裁断し、これらを約95kOeの最大印加磁場に平行な面の法線方向の回りにランダムに配向させた。測定した質量密度を用いて飽和誘導BSを計算した。この注型合金を、全部ではないが、飽和磁気モーメントについて特徴付けた。これら合金の試料の密度をアルキメデスの原理に基づく標準法で測定した。
図4から明らかなように、約77原子パーセント以下の鉄含有量は、その飽和磁気モーメントが許容できない水準に落ちるので望ましくない。配電用変圧器は、普通、85℃で利用できる飽和誘導の90%で操業されるように設計されており、そしてより高い設計の飽和誘導になるとよりコンパクトな磁心になるので、変圧器の磁心設計者の観点からすれば、高いキューリー温度に併せて、高い磁気モーメント、従って高い飽和誘導が重要になる。
変圧器の磁心材料として有用な合金の飽和磁気モーメントは、少なくとも約165emu/g、好ましくは約170emu/gであるべきである。Fe-B-Si-C合金は、一般に、Fe-B-Si合金より質量密度が大きいから、上記の数値は、変圧器の磁心材料として用いられるFe-B-Si合金で確立された基準と両立するであろう。図4から、本発明の最も望ましい合金の幾つかは、175emu/gのように高い飽和磁気モーメント有することが認められる。
結晶化温度およびキューリー温度のような因子に加えて、焼なまし温度および時間を選ぶ場合に考慮すべき重要な点は、製品の延性に及ぼす焼なましの効果である。配電および電源用変圧器用磁心の製造において、この金属ガラスは、巻き付けたり、磁心の形状に組み立てられるように、そして焼なましされた後で、特にそれに続く、その変圧器のコイルを通してその焼なまし金属ガラスを締め付ける工程のような変圧器の製造工程中で取り扱える程十分に延性でなければならない(変圧器用磁心およびコイル・アセンブリを製造する方法に関する詳細な議論については、例えば米国特許第4,734,975号明細書を参照されたい)。
鉄の多い金属ガラスの焼なましはその合金の延性の低下をもたらす。結晶化前の低下の原因となる機構は明らかはでないが、それは、一般に、注型したての金属ガラス中に急冷時に封じ込まれた“自由体積”の消失に関連すると考えられる。ガラス状原子構造中のこの“自由体積”は、結晶性原子構造中の空隙に似ている。金属ガラスを焼なましすると、この“自由体積”は、このアモルファス構造が、そのアモルファス状態におけるより効率的な原子“充填”で代表される、よりエネルギーの低い状態へと緩和されるにつれて消失する。何等かの理論と結び付けることを望むものではないが、アモルファス状態における鉄系合金の充填は、鉄の体心立方構造より面心立方構造(最密結晶構造)充填の方によく似ているので、その鉄系合金ガラスがより緩和されればされる程、より脆くなると考えられる(即ち、外部応力により耐え難くなる)。それ故、焼なまし温度および/または時間が増すと、その金属ガラスの延性が低下する。従って、合金組成の基本的問題から離れて、変圧器の磁心の製造に用いるのに十分な延性の保持を一層保証するために、焼なまし温度および時間の効果を考慮しなければならない。
変圧器用磁心の実用性能で最も重要な二つの特性は、磁心材料の鉄損と励磁電力である。焼なましされた金属ガラスの磁心にエネルギーを加えると(即ち、磁場を加えて磁化すると)、その入力エネルギーの一部は磁心によって消費され、最終的に熱として失われる。このエネルギー消費は、主として、その金属ガラス中の全ての磁化ドメインを磁場の方向に整列させるのに必要なエネルギーに因る。この失われたエネルギーは鉄損と呼ばれ、その材料の一回の完全磁化サイクル中に発生するB-Hループによって囲まれた面積で定量的に代表される。
鉄損は普通W/kgの単位で報告され、実際に報告された周波数、磁心誘導水準および温度条件下で、材料1kgによって1秒の間に失われるエネルギーを示す。
鉄損は金属ガラスの徐冷熱処理履歴の影響を受ける。簡単に言えば、鉄損はそのガラスが熱処理不足であるか、最適熱処理もしくは過熱処理されているかのいずれであるかに依存する。熱処理不足のガラスは、急冷時に残った応力およびそれに関連した磁気異方性を有しており、製品の磁化中に追加のエネルギーを必要とし、磁化サイクル中に鉄損を増大させる。過熱処理されている合金は、最大“充填”を示し、および/または結晶相を含む可能性があり、その結果延性の消失および/または磁化ドメインの移動に対する抵抗が増大することに因る鉄損の増加のような、劣った磁性を示ようになると考えられる。最適に焼なましされている合金では、延性と磁気的性質の間に優れたバランスが認められる。現在、変圧器製造業者は、0.37W/kg(温度25℃、60Hzおよび1.4T)以下の鉄損を示すアモルファス合金を使用している。
励磁電力(皮相電力とも呼ばれる)は、金属ガラス中に、所定水準の磁化を達成すべく十分な強さの磁場を生成させるのに必要な電気エネルギーである。注型したままの鉄含有量の多いアモルファス金属合金は、或る程度歪んだB-Hループを示す。焼なまし中に注型直後の異方性および注型時に生じた応力が緩和され、B-Hループが最適に焼なましされるまで、注型直後のループ形状に比べてより正方形に近づき、そしてより狭くなる。過熱処理の場合、歪みに対する耐久性の低下と、過熱処理の程度に依存しての結晶相の存在の結果、B-Hループは広がる傾向がある。かくして、所定の合金に対する焼なまし工程が熱処理不足から最適熱処理を経て過熱処理へと進んで行くにつれて、所定水準の磁化に対するHの値は、最初減少し、次いで最適(最低)値に近づき、その後増加する。それ故、所定の磁化を達成するのに必要な電気エネルギー(励磁電力)は、最適熱処理合金の場合に最小になる。現在では、変圧器の磁心製造業者は、60Hz、1.4T(25℃)での励磁電力の値が約1VA/kgもしくはそれ以下であるアモルファス合金を用いている。
最適焼なまし条件は、異なる組成のアモルファス合金に応じて、そして要求される性質に応じて異なることは明らかである。その結果、“最適”焼なましとは、一般に、所定の用途に必要な機械的特性と電気的特性の組み合わせの間で最良のバランスを生じさせる焼なまし工程と認識されている。変圧器用磁心の製造の場合、その製造業者は使用される合金にとって“最適”である焼なましのための特定温度と時間を決め、そしてその温度または時間から外れないようにする。
しかし、実際には、熱処理炉および炉の制御装置は、選んだ最適の焼なまし条件を正確に維持するのに十分な程精密ではない。さらに、磁心の大きさ(標準的には、それぞれ200kg以下)と炉の構造のために磁心は均一に加熱されない可能性があるので、過熱処理および熱処理不足の磁心部分が生成する。それ故、とりわけ重要なことは、最適条件下で諸性質の最良の組み合わせを示す合金を提供することだけでなく、一定範囲の焼なまし条件にわたってその“最良の組み合わせ”を示す合金を提供することである。有用な製品を製造できる焼なまし条件の範囲は、“焼なまし(または焼なます)窓(annealing(or anneal)window)”のように呼ばれる。
前に述べたように、変圧器の製造に現在用いられている金属ガラスのための最適焼なまし温度および時間は、その合金の結晶化温度の下140℃-100℃の範囲の温度と、1.5-2.5時間である。
本発明の合金は、同じ最適焼なまし時間で約20-25℃の焼なまし窓を示す。かくして、本発明の合金はその最適焼なまし温度から約±10℃の焼なまし温度の変動を受けることがあるが、それでも変圧器用磁心の経済的製造にとって基本的な特性の組み合わせを維持する。さらに本発明の合金は、その焼なまし窓の範囲全体にわたって、その組み合わせの特性の各々で予想外に高い安定性を示し、この特性により、変圧器製造業者は、より確実に、均一に作動する磁心を製造することが可能になる。
周波数fでの正弦励磁下における軟質磁心の周波数依存性は次式で表されることが知られている:
L=af + bfn + cf2
ただし、上記の式において、項afは直流ヒステリシス損(周波数が0に近づいた時の鉄損の極限値)であり、項cf2は古典的過電流損であり、そして項bfnは異常過電流損を表す[例えば、G.E.フィッシュ(D. E. Fish)らのJ. Appl. Phys.、64,5370(1988)を参照されたい]。アモルファス金属は、一般に、古典的過電流損を無視できる程十分大きい抵抗値と薄い厚みを有する。さらに、アモルファス金属での指数nは約1.5であることが多いことが知られている。何等かの理論で裏付けられているわけではないが、nのこの値は、磁化工程で活性な磁壁の数が周波数により変動することを示唆するものと考えられる。n=1.5という値が代表的な値であるなら、ヒステリシス係数aと過電流係数bは、サイクル当たりの鉄損L/fをf1/2に対して直線としてプロットすることにより、うまく求めることができる。この直線のf=0の切片がaであり、傾斜がbである。
全く予想外なことであるが、本発明者達は、従来技術の合金からなる磁心と本発明の合金からなる磁心とでは、鉄損のヒステリシス成分と過電流成分の間のバランスが全く異なることを見いだした。それ故、一つの周波数で類似の鉄損を有する異なる材料の磁心が、他の周波数では全く異なる鉄損を有することがある。特に、本発明の磁心は、従来技術のアモルファス金属の同様の磁心より、線周波数で過電流損の値はより小さいが、ヒステリシス損の値はより大きい。それ故、本発明の合金の総鉄損は、線周波数では、従来技術のFe-系合金より僅かに小さいだけであるが、より高い周波数では大幅に小さいであろう。このような差により、本発明の合金および磁心は、400Hzで操作される機上電気装置およびkHz領域で操作される他の電子的用途で使用するのに特に便利である。
本発明の合金はフィルタ・インダクタ用磁心の組立てにも便利に用いられる。この技術分野では、フィルタ・インダクタは、希望の直流電流の上に重なった交流電流のノイズもしくはリップルの通過を選択的に阻止するための電子回路に用いられることが良く知られている。このような用途では、このフィルタ・インダクタ用磁心は、その磁気回路中に少なくとも一つのギャップを含んでいることが多い。このギャップを適切に選ぶことにより、その磁心のヒステリシス・ループをずらせて、制御範囲内で、その磁心を飽和させるのに必要な磁場を大きくする可能性がある。或いはまた、そのインダクタを通り抜ける直流成分はその磁心を飽和させるように作用し、交流成分により見られる有効透磁率を低下させ、そして望まれるろ過作用を排除する。その巻線を通り抜ける交流成分に因るインダクタ磁心中の磁束の外れは小さくなるが、飽和磁化の大きい値はそれでも重要であって、大きい直流電流はずれたB-Hループを飽和することなく通過する。上記でより詳細に説明したように、本発明の合金は、好ましくは少なくとも約165emu/g、さらに好ましくは少なくとも約170emu/gの飽和磁化を示す。ギャップを有する磁心を製造するためのこの技術分野における共通の方法は、普通ドーナツ型である磁心を一つまたはそれ以上の箇所でラジアル方向にに裁断する工程と、穿孔或いは箔押しC-IもしくはE-Iラミネーションの組立工程の両方を含んでいる。
以下の実施例は、本発明をより完全に理解して貰うために提示されるものである。本発明の原理と実施を例示するために説明された特定の技術、条件、材料、比率および報告されたデータは、例示のためのものであって、本発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。
実施例1
鉄損および励磁電力のデータは、次のようにして調製された本発明の数種の代表的合金試料から集められた:
焼なましと、それに続く磁気測定用のトロイド状試料は、注型したままのリボンをセラミック製ボビンに巻き付けることにより調製され、そのリボン磁心の平均物理パス長(mean path length)は約126mmであった。鉄損測定の目的で、このこのトロイドに絶縁された一次および二次巻線(各々100番)を巻き付けた。このようにして調製したトロイド状試料は、6mm幅のリボンの場合3から20gの間のリボンを含んでおり、またそれより幅の広いリボンの場合は30から70gの間のリボンを含んでいる。これらトロイド状試料の焼なましは、そのリボンの長さ方向に沿って(トロイドの周囲)加えた約5-30Oeの印加磁場の存在下、330℃-390℃の温度で1-2.5時間行なわれた。この磁場は、これら試料が焼なましに続いて冷却される間維持された。この焼なましは真空下で行われた。
総鉄損と励磁電力は、標準法を用い、正弦磁束条件下で、閉磁回路試料で測定された。励磁の周波数(f)は60Hzであり、その磁心が駆動される最大誘導水準(Bm)は1.4Tであった。
本発明の代表的合金、および本発明の範囲内にない数種の合金の焼なましされた磁心から25℃、60Hzおよび14Tで得られた鉄損および励磁電力を、異なる温度で1時間焼なまししたリボンについて表2および3に示し、異なる温度で2時間焼なまししたリボンについては表4に示してある。これら表中の合金の名称は、表1に示した対応する組成物に対応する。この表から分るように、A-Fと名付けられた合金は本発明の範囲外である。これら合金を、全てではないが、表に示した全てのセット条件で焼なましした。これらの表から、本発明の合金の大半で、鉄損は約0.3W/kg以下であることが分る。本発明に属さない合金ではそうでない。前述のように、現在、変圧器製造業者が磁心材料用に規定している鉄損の値は約0.37W/kgである。励磁電力の値も約1VA/kg以下であるように留意されており、この値は、現在、変圧器磁心用材料の規格値である。励磁電力と鉄損のこの組み合わせは、さらに、前に考察した他の特性および焼なまし条件下での諸性質の相対的均一性および整合性と併せて、本発明の合金の特性であるが、予想外の特性である。その範囲で磁心の性能特性の有利な組み合わせが得られる焼なまし窓は、表2、3および4から明らかである。本発明の合金用の化学物質の好ましい範囲内で特に留意すべきは、その鉄損は約0.2-0.3W/kgのように小さくても良く、そしてその励磁電力は約0.25-0.5VA/kgのように小さくても良いことである。
Figure 0004879375
Figure 0004879375
Figure 0004879375
Figure 0004879375
実施例2
上記で説明された磁心に加えて、本発明の数種の望ましい合金からより大きい10個のトロイド状の磁心を組み立て、焼なましし、そして試験した。これらの磁心には約12kgの磁心材料が用いられた。これらの磁心用に選ばれたリボンは幅が4.2”で、公称合金組成がFe79.59.25Si7.53.75およびFe798.5Si8.54である二種の異なる大規模の注型物から作られた。この磁心は内径約7”、外径約9”であり、不活性雰囲気中で公称温度370℃において2時間焼なましされた。これら磁心の寸法は大きいので、その磁心材料の全部はこの焼なまし温度に同じ時間曝されなかったかも知れない。調べたこの両組成物について、60Hz、1.4T、25℃で測定されたこれら磁心の平均鉄損は0.25W/kgで、標準偏差は0.023W/kgであり、平均励磁電力は0.40VA/kgで、標準偏差は0.12VA/kgであった。これらの値は、類似組成の直径がより小さい磁心で得られる値と大差がない。
この技術分野では、トロイド状の磁心への巻き付けに関連する磁心材料上の歪みのために、このような磁心で測定された鉄損は、その材料が歪んでいない真っ直ぐなストリップとして焼なましされ、そして特性化されたとすれば得られるであろう値より一般に大きい。例えば、所定の磁心用ボビン径で、リボンの幅が約1”より広い場合、この効果は、磁心材料のストリップの多重巻線を含む30から70gの磁心では、そのようなリボンの単層もしくは多くても2-3層だけを含む磁心の場合より顕著である。30-70gの磁心中で測定した鉄損は、真っ直ぐなストリップで測定した鉄損より実質的に大きいことが多い。
これは、変圧器用磁心製造工業において“破壊因子(destruction factor)”と呼ばれている現象の一つの顕れである。このいわゆる破壊因子(“ビルド因子(build factor)”と言われることもある)は、普通、完全に組み立てられた変圧器磁心中の磁心材料から求められた実際の鉄損と、品質管理試験室で同じ材料の真っ直ぐなストリップから求めた鉄損との比として定義される。上記で引用された磁心材料を巻くことに関連する歪みの影響は、これらの磁心では、その直径が前に説明した実験室磁心より非常に大きいので、“実生活(real life)”用変圧器の場合にはさして大きくはない。これらの磁心での“破壊”は、その磁心の組立工程それ自身の結果であることがより大きい。一例として、変圧器組立の一つのスキームでは、その磁心の周囲に複数のコイルが挿入されるためには、その焼なましされた磁心は切り開かれていなければならない。この磁心材料の裁断などに関連する破壊の外に、新しく導入される応力が鉄損の増大に寄与する。この磁心組立スキームに依存して、直径の小さいトロイド状磁心での0.2-0.3W/kgの範囲の鉄損の値は、本発明の合金からの典型的磁心の場合におけるように、“現実の(real)”変圧器用磁心では、約0.3-0.4W/kgの範囲になるように、恐らく増大するであろう。
実施例3
本発明の金属ガラス合金(公称組成Fe79.79.17.24.0)の巻線試験用磁心11-16を、常用の方法を用いて不活性雰囲気中で製造し、そして焼なましした。各磁心は、普通トロイダル状に巻かれた幅6.7”の約100kgのリボンから成る。これらの磁心の大体の大きさは、定格20-30kVAの商業用の配電用変圧器に使用するために指定された大きさであった。所要のリボンを裁断し、そして中心マンドレルの回りに第1層を巻き付け、次いで続く各層を先行層の回りに巻き付けることにより磁心を組み立てた。各層はその反対側の端が少し重なり合うように裁断された。最終層を巻き付けた後、続いての取り扱いと焼なましの間、スチールバンドを用いてその磁心を縛った。裁断してあるので、この磁心は焼なまし後にこれを広げて、銅巻線の上を滑らしてやることができ、そして次いでもう一度縛って、配電用変圧器の磁心-コイル・アセンブリの商業的組み立てに普通用いられる方法を利用することが可能になる。磁心材の各層の間にギャップが存在すると、その磁心の励磁電力が、幾何学的形状が同じでギャップのない磁心が示すであろう励磁電力に比べて大きくなることが知られている。
本実施例の磁心(表5に示される)は、次いでトロイダル方向に沿って加えられた磁場の存在下で焼なましされた。温度は熱電対で測定された。各磁心をその中心が表に示した温度になるように加熱し、その後約1時間保持してからその磁心を約6時間かけて常温にまで冷却した。60Hzでの正弦束励起条件下での鉄損と励磁電力を、フラックスを測定する平均応答電圧計、電流、電圧および励磁電力を測定するためのRMS-応答計、および電力損失を測定するための電子式電力計を含む標準的方法を用いて測定した。最大誘導1.3Tおよび1.4Tで、室温で測定したこれら磁心の鉄損と励磁電力のデータを下記の表5に示した。
Figure 0004879375
上記で説明したギャップを有していても、本実施例の磁心は、示されているように、1.3Tおよび1.4Tへの60Hz正弦束励起下、室温で測定した場合、小さい鉄損と小さい励磁電力の組み合わせを示すことに留意すべきである。25℃、1.4T/60Hzでの鉄損と励起電力がそれぞれ0.27W/kgおよび0.9VA/kg以下である組み合わせを有する磁心が特に望ましい。
かくして、本発明を相当詳しく説明したが、このような細部に厳格に固執する必要はなく、この技術分野の習熟者であれば、付記された特許請求の範囲によって限定される本発明の範囲に全て含まれるさらなる変更と修正を思い付くであろう。

Claims (7)

  1. アモルファスが少なくとも70%であり、且つその組成がFeabSicdの組成である、鉄、ホウ素、ケイ素及び炭素からなる金属合金において、a−dは原子パーセントであって、a,b,c及びdの和は100に等しく、aは79.5〜80の範囲であり、bは7〜11.5の範囲であり、cは3〜9.5の範囲であり、そしてdは4〜6の範囲であるが、ただし、cが7.5より大である時dは少なくとも4である金属合金であり、
    その合金が、0.5原子パーセント以下の不純物、及び466〜495℃の結晶化温度を有し、
    その合金は、335〜390℃の範囲内の温度、0.5〜4時間の範囲の時間で、5〜30Oeの範囲の磁場の存在下で焼きなまされており、
    その合金が、焼きなました後に、25℃、60Hzおよび1.4Tで測定したとき0.35W/kg以下の鉄損および1VA/kg以下の励磁電力の値を有し、
    a=80における四成分Fe−B−Si−C組成空間の三成分断面図で、b,c及びdが、R−R’−A’の線を除く図1(a)に示される領域B,C,D,E,R,R’,A’,Bの中にあり、そのコーナーB,C,D,E,R,R’及びA’が、それぞれ、組成Fe8011.5Si35.5,Fe8011Si36,Fe807Si76,Fe807Si94,Fe808Si84,Fe808Si7.254.75,及びFe8011.5Si3.754.75を表し、
    a=79.5における四成分Fe−B−Si−C組成空間の三成分断面図で、b,c及びdが、D’−C’の線を除く図1(b)に示される領域C’,C,D,D’,C’の中にあり、そのコーナーC’,C,D及びD’が、それぞれ、組成Fe79.57.5Si76,Fe79.57Si7.56,Fe79.57Si9.54,及びFe79.57.5Si94を表す、ことを特徴とする前記金属合金。
  2. 合金のホウ素含有量の少なくとも一部をフェロボロンから供給する工程を含んでなる方法により製造されたものである、請求項1に記載の金属合金。
  3. フェロボロンがカーボサーミック還元法で製造されるものである、請求項2に記載の金属合金。
  4. キューリー温度が少なくとも360℃であり、そして飽和磁化が少なくとも165emu/gの磁気モーメントに対応する、請求項1に記載の金属合金。
  5. キューリー温度が少なくとも380℃である、請求項4に記載の金属合金。
  6. アモルファスが少なくとも90%である、請求項1に記載の合金で作られた金属ストリップを含んでなる、ギャップを含む磁心。
  7. 請求項1に記載の合金を含んでなる製造物品。
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