JP4873788B2 - 炉内状況の検知方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶銑を製造する高炉の羽口レースウエイ部の燃焼状態を監視するため炉内温度状況の検知方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高炉下部には円周方向に等間隔に配置された羽口があり、ここから高温熱風、酸素、微粉炭燃料が吹き込まれている。羽口には風圧によってレースウエイが形成され、コークスや微粉炭が燃焼している。ここで発生した熱及び還元ガスで焼結鉱が還元されて溶銑が作られるので、レースウエイの状態が高炉の操業状態に大きく影響を及ぼす。高炉内では効率よく安定して溶銑を生産することが大事であるが、近年、生産コストを下げることができる微粉炭熱剤大量吹き込みへの取り組みがなされている。この場合、レースウエイでの微粉炭の燃焼状態が何らかの原因で悪化すると、未燃焼の微粉炭は高炉内で熱源とならず炉内に蓄積し、炉内の通気性を阻害して操業を不安定にしたり、燃料比の増加をもたらすことになり好ましくない。このような理由から、羽口に設けられた観察窓を通してレースウエイ内部燃焼場の温度を放射測温手段で測定してレースウエイ燃焼状態を監視する技術が考案されている。
【0003】
例えば、特開昭60−24307号公報には、羽口に炉内を指向する光ファイバを設置して、熱放射光を炉外の放射温度計に導く測温方法が記載されている。
あるいは、特開平9−256010号公報では、羽口観測窓からテレビカメラでレースウエイを観察し、同時に放射温度計でも測定し、テレビカメラの画像信号と放射温度計の温度信号から温度分布を求める装置が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開昭60−24307号公報に開示される従来装置では、光ファイバを羽口に設置した後、光ファイバの指向方向を炉外から把握することができず、一般に温度分布を有するレースウエイ燃焼場のどの部位の温度を測定しているのかの判断が難しいといった問題がある。また、知りたいのは特定の一点の温度ではなく、複数点あるいは温度分布であることも少なくない。
【0005】
一方、特開平9−256010号公報に開示される装置では、テレビカメラでレースウエイの熱画像を撮像して温度分布を求めるので、前述公報の問題点を解決することができる。しかしながら、レースウエイ内の温度分布を常時測定して、温度データから早期に異常を判断するといった操業への活用については、以下に述べる課題が残る。
【0006】
これらの測定技術は、価格、汎用性、継続性、拡張性、及び定量性に課題があり、必ずしも継続的に測定する技術として定着していない。例えば、温度測定に関しては放射温度計が使用されてきたが、ガラスの汚れ、曇りなどにより測定の信頼性が大幅に低下する。また二色温度計による測定、解析の報告もあるが、微粉炭が吹き込まれるようになってからは測定位置が確定できず使用されなくなった。またCCDの羽口計測装置が開発され測定位置同定は可能となつたが、画像の観察及び輝度のみであり、温度の絶対値は測定できなかった。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、羽口からレースウエイの温度変化を非接触で、かつ的確に連続測定可能で、羽口近傍での状態変化を推定することが出来る技術を提供することにある。
即ち、本発明は、高炉羽口の観察窓を通してレースウエイ内燃焼場の画像を異なる2波長で撮像し、該画像信号をデジタル信号に変換した波長の異なる2枚のデジタル画像の各画素の2色輝度比から温度を求めてヒストグラム化し、該ヒストグラムの有効温度画素数n、各測定値Xi(i=1,2,・・・n)とし、平均値Xa 、分散V、および、下記(5)式で定義される歪度Sk、または、下記(6)式で定義される尖度Kwを求め、該ヒストグラムの歪度Skまたは尖度Kwの正規分布(Sk=0、Kw=0)からのずれに基づき、炉内状況を検知することを特徴とする。
【式3】
【式4】
【0008】
即ち、高炉羽口の画像信号の画素の2色輝度比から温度を求めてヒストグラム化し、ヒストグラムを形成することで、炉内状況を検知し、操業状態を判断することができる。
即ち、操業良好時のヒストグラムは、レースウエイの温度分布は平均値を中央値としてほぼ左右対称の正規分布となる。これはレースウエイの健全に形成されている時には、上方から温度の低い未燃焼のコークスが連続的に供給され、更に燃焼も連続的になされるため、レースウエイの内部には燃焼初期の温度の低温のコークスと、燃焼後期の高温のコークスが混在するため、温度分布は正規分布となる。
しかしながら、レースウエイが健全に形成されない場合には、燃焼が充分進まない、あるいは逆に過燃焼となるため、ヒストグラムは分散の小さい温度分布となる。
また、レースウエイは健全なものの、融着帯が低下した場合、あるいは鉱石の還元率が低下するなどの場合には低温の未還元鉱石がレースウエイに流入するため、低温度部分が広がったいびつな分布のヒストグラムとなる。
以上のように理由はいくつか考えられるが、ヒストグラムから正規分布の分散と平均、あるいは正規分布からの偏差を見ることにより、レースウエイの状況や炉内の状況が検知可能となる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下には本発明の装置を操業中の高炉に適用した一実施例を説明する。
図1には高炉羽口付近の模式図と発明装置の構成例を示す。
高炉炉体3の所定位置に設けた羽口4には熱風供給管6から熱風が高圧で吹き込まれており、その風圧で炉内にレースウエイ1が形成されている。羽口4には微粉炭を吹き込む供給管5も備えられている。レースウエイ界面ではコークスや微粉炭が燃焼して一酸化炭素が発生する高温燃焼反応が生じている。羽口の炉外側の後端にはレースウエイを直視できる観察窓7がある。
【0010】
二波長撮像装置10は観察窓からレースウエイの画像を異なる2つの波長(x1,x2)で撮像する。これらの画像は同じ光軸で撮像するようにして、同じ視野を見て波長のみが異なるようにする。分光して撮像する方法として、ここではカラーCCDカメラのRGB信号のうちR(赤)成分である中心波長650μmをx1、G(緑)成分の中心波長550μmをx2とした。別の方法として、ハーフミラー等で光路を分け、透過波長がそれぞれx1とx2の分光フィルタを備えた2台のモノクロカメラを使用し、ハーフミラーで光路を分岐させるなどして同軸で撮像する方法も考えられる。二波長撮像装置が出力する波長の異なる2枚の画像信号は画像デジタル変換装置11に入力され、デジタル信号に変換された。その後、パソコン等の小型計算機12に送られる。計算機12は画像から温度分布を計算する演算を実行し、結果をモニタ14表示したり、記憶装置(図示を省略)にデータを保存する。撮像制御装置13は計算機14からの指示に基づきCCDカメラの電子シャタ露光時間あるいはレンズ絞りを設定する信号を撮像装置に発信する機能を担う。本実施例では、CCDカメラが有する高速電子シャッタの露光時間を想定される明るさの範囲で段階的に制御することとした。
【0011】
次に、計算機で実行される画像演算処理の詳細を説明する。図2のフローチャートに示すように、測定が開始されると、まず観察波長の異なる2枚の画像が取り込まれる(S1)。ここで波長x1およびx2の画像をそれぞれP1,P2とする。画像P1の各画素の輝度はp1(i、j)((i、j)はそれぞれ画像の縦方向、横方向の座標)とする。同じく画像P2の各画素の輝度はP2(i,j)とする。S2ではそれぞれの画像に対して最高輝度を検索し抽出する処理を実行する。画像P1およびP2の最高輝度をそれぞれLmx1,Lmx2とする。温度計算を実施する際に、受光素子が飽和あるいはそれに近い状態で画像輝度が上限値になるほど画像が明るかったり、逆に画像が暗すぎてノイズの影響が大きくなると、温度精度が極端に悪化するので、S3で最高輝度の値から画像が適切な明るさで撮像されているかを判断する。Lmx1あるいはLmx2のどちらかが予め定めた許容輝度上限値Lhiより大きい場合は、S4で撮像装置の露光時間を短くする指令を撮像制御装置に出す。逆に、Lmx1あるいはLmx2のいずれかが許容輝度下限値Lloより小さい場合はS4で露光時間を長くする信号を発し、再度画像取り込みを実行する。画像が適正な明るさ範囲にあることが確認されると、それぞれの画像ごとにノイズ除去のフィルタリングを施す(S5)。この実施例では3×3画素の2次元スムージング処理とした。
【0012】
S6では画像P1とP2の画面間除算から2波長の2色輝度比を計算する。すなわち、カラー画像の2色輝度比(グリーン輝度G/レッド輝度R)から温度Tへの変換式は、
温度T=K3・Ratio3+K2・Ratio2+K1・Ratio+K0 (1)
但しRatio:(G−Bg)/(R−Br)
Bg:グリーンバイアス輝度
Br:レッドバイアス輝度
K3:0、K2:−3529.2、K1:6269.8、K0:−527.4
ここで、K0〜K3はパラメータファイルで変更可能であり、上述の例では、
Ratio=xとおくと下記(2)式となる。
T=−3529.2x2 +6269.8x−527.44 (2)
この(2)式は図3に示すように温度変換できる。尚、実際には画素感度むら補正や画像輝度ゼロレベル(完全な暗状態での画像信号のオフセット出力)補正などの若干の前処理を実施するが、説明を簡便にするためここでは詳細な記述を省略する。
【0013】
次に、S7では、上記S6で求めた画素の温度に基づきヒストグラムを作成する。例えば、40000画素(縦200画素×横200画素)のCCDカメラを使用し、この全画素をTminからTmaxまで、原則的に1℃ごとスキャンして画素数をカウントしヒストグラムを形成する。
【0014】
次に、S7で求めたヒストグラムの形状を基に、炉操業状態を判別する(S8)。具体的には、無効画素を除いた有効温度画素(PV)を基に判別する。上記ヒストグラムでは、CCDカメラの全画素が被測定物を測定するわけではなく、被測定物の部分以外ののぞき窓の外側部分等をも含まれ、全ての画素をヒストグラムとして作成すると、図4に示す如くなり、不要な部分が多数存在する他、データ量を少なくするためにも、これらのデータを除去することが好ましい。
だたし、不要なデータの部分は、炉内の羽口の温度状態の把握に際し、明確に温度領域が異なることより、不要なデータを残していても、温度状況等の判別にはあまり影響がない。
【0015】
ここで、無効画素は、例えば全画素のうち、G及びRの輝度値が240以上の場合には、温度変換した場合、実際の温度とは異なった値となる為、有効に使用することが出来ず、画素数で上限外温度画素数(PNU)として無効画素として取り扱う。
また、GBg及びR−Brが10以下の場合には、温度変換した場合も、下限温度はずれて有効に使用することが出来ない画素数となり下限外温度画素数(PNL)として、同様に無効画素として除いている。
前者は、本CCDカメラのシャッタースピードや絞りの範囲では測定出来なかった領域で、後者は非常に低温の領域であり、微粉炭バーナーなどレースウエイの被測定部以外部分であると推認出来るからである。
このようにして形成した、ヒストグラムに基づいて、上下限温度値で挟まれた温度領域内の平均温度を平均値1として算出する(式(3))
【式5】
【0016】
次に、上限温度値から指定されたTp温度領域内の平均温度を平均値2として算出する(式(4))。
この式(4)は、有効温度画素数中一定割合n(%)以上の部分の平均温度を示すもので、この平均値2を求めるのは、例えば、生鉱石落ちがあった場合、この部分は大幅に温度が低下する。この為、この生鉱石落ちでない部分の温度を求める必要があるときなどに利用する。
【式6】
ここで、nは、上限温度値から指定したTp温度領域内の画素数の上下限温度値領域内画素数Nに対する割合(%)で、この時の画素数Npとする。また、上限温度値から低温方向に画素数をNpになるまでカウントし,Npとなる画素が存在する温度をTpとしている。
【0017】
そして、ヒストグラムを正規分布と仮定し、平均Xa、分散Vおよび正規分布とのずれを計算し、併せて、有効温度画素数をn,各測定値をXi(i= 1,2,…,n)としヒストグラムの歪度Sk、尖度Kwを求める。
ここで、歪度Skは、下式(5)となり、図5に示す如く、Sk=0で左右対称な正規分布となる。また、Sk>0の時は左に偏った分布となり、温度分布が低温側に移動していることが判る。逆にSk<0の時は、右に偏った分布となり、温度分布が高温側に移動していることが判り、このデータから複数の羽口の情報を併せて、炉内の温度分布を把握し、最適な炉操業をすることが出来る。
【式7】
【0018】
また尖度Kwは、図6に示す如く、Kw=0で左右対称な正規分布と同程度を表し。Kw>0の時は、正規部分布より尖った形で、中心への集中度が高い分布となり、温度分布が一点へ集中していることが判る。逆にKw<0の時は、正規部分布より扁平な形で、中心への集中度が低い分布となり、温度分布が分散していることが判る。
【式8】
【0019】
操業良好時にはレースウエイの温度分布は平均値を中央値として、ほぼ左右対称の正規分布のヒストグラムとなる。これはレースウエイの健全に形成されている時には、上方から温度の低い未燃焼のコークスが連続的に供給され、更に燃焼も連続的になされるため、レースウエイの内部には燃焼初期の温度の低温のコークスと、燃焼後期の高温のコークスが混在するため、温度分布は正規分布となる。
しかしながら、レースウエイが健全に形成されない場合には、燃焼が充分進まない、あるいは、逆に過燃焼となるため、分散の小さい温度分布、即ち尖度Kw>0の表示となる。
また、レースウエイは健全なものの、融着帯が低下した場合、あるいは鉱石の還元率が低下するなどの場合には低温の未還元鉱石がレースウエイに流入するため、低温度部分が広がったいびつな分布、即ち尖度Kw<0の表示となる。
ただし、操業が好調な時も若干分散が低下するケースもある。
以上のように理由はいくつか考えられるが、正規分布の分散と平均、あるいは正規分布からの偏差を見ることにより、レースウエイの状況や炉内の状況が判断可能である。
【0020】
このように上述ヒストグラムを作成し、有効温度画素数PV、上限外温度画素数PNU、下限外温度画素数PNL、平均値1、平均値2、標準偏差(分散)、歪度Sk、尖度Kwを求めることにより、羽口の温度分布を正確に把握でき、この結果をモニター等の表示器に表示し(S9)、炉内温度等の炉内状況を検知し作業者に知らせる。
【0021】
上記一連の画像処理はキーボード等からの測定終了の指示が、入力されるまで繰り返される(S10)。この際、上記測定は、等間隔の10個程度の羽口の測定を繰り返し測定することが、炉内の温度の円周バランスを正確に把握するうえで好ましい。
【0022】
(実施例1)
図7は、操業好調時の測定例、図8は操業不調時を示した図である。
それぞれ(a)は原画、(b)は画像処理し温度分布として表した図、(c)は、(b)に基づき、ヒストグラムとして表した図である。
この実施例では、中央の部分に観察窓があり、その周りは高炉の外周であり下限値温度画素であり、全画素40000個の内、35682個が下限値温度画素であった。また、100個が上限値温度画素で、残り4218個が有効温度画素数PVとなり、これをヒストグラムに表している。
また、この時の平均値1は1887℃、上限値から15領域の平均値2は、2066℃であった。そして、標準偏差は、64.1、歪度Skは−0.000039であった。
【0023】
この図からも判ることより、レースウエイの温度分布は平均値を中央値として、ほぼ左右対称の正規分布のヒストグラムとなり、操業良好時と推定できる。また、比較例として図8の例では、全画素40000個の内、36394個が下限値温度画素であった。また、100個が上限値温度画素で、残り3506個が有効温度画素数PVとなり、これをヒストグラムに表している。また、この時の平均値1は1844℃、上限値から15領域の平均値2は、1990℃であった。そして、標準偏差は、94.1、歪度Skは−0.000263であった。この図からも判るように、低温度部分が広がったいびつな分布となり、融着帯が低下した場合、あるいは鉱石の還元率が低下するなどの場合等、操業がやや不良時と推定できる。
【0024】
(実施例2)図9は、上記の歪度を利用した長期的な操業状態を把握するのに用いた実施例を示すもので、操業不調高炉の場合(図9(a))の、標準偏差と、歪度をプロットすると、標準偏差が低く、歪度がマイナス、つまり温度分布が小さく低温側に尾を引いた分布になっている。一方操業の好調な高炉の場合(図9(b))は、標準偏差は50以上、歪度は0近傍に保たれている。
【0025】
【発明の効果】
本発明は以上のようにして高炉羽口のぞき窓から炉内レースウスイの温度分布を測定するが、前述のごとく2波長で熱放射画像を撮像し、それらの画像データから各画素の温度温度分布をヒストグラムに表すことにより、温度分布状態を把握することが出来、高炉レースウスイ温度分布が常に定量的に監視ができるようになり、作業者は炉状況の変化を迅速かつ正確に把握して操業することが可能になる.その結果、高い生産性と安定した銑鉄品質の確保が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の装置の実施例を示す構成図である。
【図2】本発明の実施例において、画像からヒストグラムを作成する手順を示したフローチャートを示す説明図である。
【図3】温度と2色比の関係を示す説明図である。
【図4】画像に含まれ得ている画素をそのままヒストグラムとしたときの説明図である。
【図5】本発明の実施例において使用する、ヒストグラムの歪度を表す説明図である。
【図6】本発明の実施例において使用する、ヒストグラムの尖度を表す説明図である。
【図7】操業好調時の測定例を示す説明図である。
【図8】操業不調時の測定例を示す説明図である。
【図9】長期的な操業状態を把握するのに用いた、標準偏差と歪度の関係を示す説明図である。
【符号の説明】
1 レースウエイ
2 炉内充填物
3 高炉炉体
4 羽口
5 微粉炭供給管
6 熱風供給管
7 観察窓
10 二波長撮像装置
l1 画像デジタル変換装置
12 小型計算機
l3 撮像制御装置
14 表示装置
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