以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
(実施形態)
図1は、本実施形態に係る内燃機関を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る内燃機関1は、乗用車やトラックなどの車両に搭載されて動力発生源となる。内燃機関1は、シリンダ101内を往復運動するピストン102が2往復する間に、吸気行程と、圧縮行程と、膨張行程と、排気行程とからなる一連の4行程を行う、いわゆる4ストロークエンジンである。なお、内燃機関1は、ガソリンエンジンであってもよいし、ディーゼルエンジンでもよい。
内燃機関1は、シリンダ101と、ピストン102と、筒内燃焼空間103と、クランク室104とを備える。シリンダ101は、円筒形状に形成される。ピストン102は、シリンダ101内に支持されて、シリンダ101の中心軸であるシリンダ軸線SL方向に往復運動する。筒内燃焼空間103は、空気と燃料との混合気が燃焼する空間である。また、筒内燃焼空間103は、ピストン102を挟んでシリンダ軸線SL方向の一方側に設けられる。クランク室104は、筒内燃焼空間103とは反対側である他方側に設けられる。
内燃機関1は、さらに、吸気ポート105と、排気ポート106と、燃料噴射手段としてのインジェクタ107と、点火プラグ108と、クランクシャフト109とを備える。吸気ポート105は、筒内燃焼空間103に接続されて、筒内燃焼空間103内に空気を導入する。排気ポート106は、筒内燃焼空間103に接続されて、筒内燃焼空間103から混合気が燃焼した後の排気ガスを筒内燃焼空間103から排出する。
インジェクタ107は、少なくとも1つ筒内燃焼空間103から突出して設けられ、前記筒内燃焼空間に所定のタイミングで燃料を噴射する。なお、内燃機関1は、インジェクタ107が燃料を噴射する前記所定のタイミングに特徴がある。よって、前記所定のタイミングは、後に詳細に説明する。点火プラグ108は、筒内燃焼空間103から突出して設けられ、前記筒内燃焼空間内の混合気に点火する。クランクシャフト109は、クランク室104に設けられ、ピストン102の往復運動を回転運動に変換する。
内燃機関1は、さらに、シリンダヘッド110と、シリンダブロック111と、クランクケース112と、コネクティングロッド113とを備える。シリンダヘッド110は、シリンダブロック111に連結される。クランクケース112は、シリンダヘッド110とは反対側のシリンダブロック111に連結される。シリンダブロック111の内部には、上述した円筒形状のシリンダ101が形成される。また、シリンダ101の内壁面であるシリンダ内壁面101aを、ピストン102が摺動する。
上述したように、クランクケース112の内部には、クランクシャフト109が回転できるように支持される。コネクティングロッド113は、ピストン102と、コネクティングロッド113とを連結する。コネクティングロッド113は、一方の端部がピストン102と、ピストン102に対して回動できるように連結され、他方の端部が、クランクシャフト109とクランクシャフト109に対して回転できるように連結される。
上記構成により、ピストン102の往復運動は、コネクティングロッド113を介してクランクシャフト109の回転運動に変換される。クランクシャフト109によって回転運動に変換されたピストン102の往復運動は、内燃機関1の出力としてクランクシャフト109から取り出される。なお、クランクシャフト109は、その回転を円滑にするため、その軸周りにカウンタウェイト109aを有する。
ここで、筒内燃焼空間103の構成を説明する。筒内燃焼空間103は、シリンダヘッド110においてシリンダ101側の端面である筒内天井部103aと、シリンダ101のシリンダ内壁面101aと、ピストン102のクランク室104とは反対側の端面であるピストン頂部102aにより形成される空間である。
筒内燃焼空間103の筒内天井部103aには、吸気ポート105が例えば2つ開口する。また、筒内燃焼空間103の筒内天井部103aには、排気ポート106が例えば2つ開口する。また、筒内天井部103aの略中央部には、点火プラグ108が突出する。なお、内燃機関1の点火プラグ108は、筒内天井部103aの略中央部に突出して設けられるとしたが、本実施形態はこれに限定されない。点火プラグ108は、筒内燃焼空間103に突出していればよい。また、筒内燃焼空間103に突出する点火プラグ108の個数も限定されない。
また、吸気ポート105及び排気ポート106は、それぞれ2つずつの筒内天井部103aに開口するとしたが、本実施形態はこれに限定されない。吸気ポート105は、少なくとも1つ筒内燃焼空間103に開口していればよい。また、排気ポート106は、少なくとも1つ筒内燃焼空間103に開口していればよい。
内燃機関1は、さらに、ECU(Electronic Control Unit)114と、吸気弁115と、排気弁116と、吸気通路117と、排気通路118とを備える。ECU114は、内燃機関1を構成する各構成要素の制御手段として、マイクロコンピュータを中心に構成される。ECU114は、内燃機関1の各構成要素と電気的に接続され、前記各構成要素の各動作を制御する。
吸気弁115は、吸気ポート105に設けられて、吸気ポート105と筒内燃焼空間103とを連通する開口を所定のタイミングで開閉する。これにより、吸入空気は、所定のタイミングで、筒内燃焼空間103内に吸気ポート105を介して吸気される。なお、内燃機関1は、吸気弁115が開閉する前記所定のタイミングに特徴がある。前記所定のタイミングは、後に詳細に説明する。
吸気弁115は、ECU114と電気的に接続されることで、所定のタイミングで開閉する電子弁である。なお、本実施形態はこれに限定されず、吸気弁115は、タイミングチェーンにより所定のタイミングで開閉されてもよい。但し、内燃機関1は、吸気弁115が開閉する前記所定のタイミングに特徴がある。よって、吸気弁115は、電子弁によって内燃機関1の運転状況により精密に制御されると好ましい。
また、吸気弁115は、開弁時間、つまり吸気ポート105と筒内燃焼空間103とが連通する時間を変えることで、筒内燃焼空間103内に導入する空気の量を調節できる。排気弁116は、排気ポート106に設けられて、筒内燃焼空間103と排気ポート106とを連通する開口を所定のタイミングで開閉する。これにより、所定のタイミングで、筒内燃焼空間103内の排気ガスを排気ポート106を介して排気できる。
吸気通路117は、一方の端部が大気に開口し、他方の端部が吸気ポート105に接続される。これにより、吸気通路117は、大気から空気を取り入れ、吸気ポート105に前記空気を導く。なお、吸気通路117上には、吸入した空気に含まれる塵を取り除くエアクリーナや、吸入した空気の量を検出するエアフロセンサなどが設けられる。
排気通路118は、一方の端部が排気ポート106に接続され、他方の端部が大気に開口する。これにより、排気通路118は、排気ポート106から排気ガスを大気に排出する。なお、排気通路118上には、排気ガスを浄化する触媒装置や、排気ガスに含まれる酸素量を検出する酸素量センサなどが設けられる。
ECU114は、インジェクタ107、点火プラグ108、吸気弁115、排気弁116、などと電気的に接続される。これにより、ECU114は、インジェクタ107の燃料噴射時期及び燃料噴射量、点火プラグ108の点火時期、吸気弁115の開閉、排気弁116の開閉などを制御する。
ここで、上述したように、内燃機関1は、ピストン102が2往復する間に、吸気行程と、圧縮行程と、膨張行程と、排気行程とからなる4行程を行う。以下に各行程における内燃機関1の動作を説明する。なお、内燃機関1は、吸気行程に特徴がある。よって、すでに筒内燃焼空間103に混合気が存在する状態から説明し、吸気行程については、後に詳細に説明する。
筒内燃焼空間103内には、吸気行程によって筒内燃焼空間103内に吸入された空気と、インジェクタ107によって噴射された燃料とが混合した混合気が存在する。ここで、圧縮行程では、ピストン102が下死点を経てシリンダ101内をシリンダヘッド110の筒内天井部103a側へ、つまり上死点側へ移動する。これにより、混合気が圧縮される。次に、膨張行程では、ピストン102が圧縮行程上死点に近づくと、点火プラグ108により混合気に点火される。これにより、筒内燃焼空間103内で混合気が燃焼し、その燃焼圧力によりピストン102が下死点側へ移動する。ここで、燃焼後の混合気は排気ガスとなる。
排気行程では、ピストン102が下死点を経て上死点に向かって移動することで排気ポート106及び排気通路118を介して筒内燃焼空間103から排気ガスが排気される。上記構成により、ピストン102を備える内燃機関1は、ピストン102が、シリンダ101内を2往復する間に、上記4行程を行うことで、クランクシャフト109から出力を発生させる。
図2は、従来に係る内燃機関の筒内燃焼空間を模式的に示す断面図である。ここで、従来の内燃機関2の問題点を説明する。内燃機関2は、ピストン102が、シリンダ101内を2往復する間に、筒内燃焼空間103内に空気を1回導入する。内燃機関2は、ピストン102が上死点から下死点に向かって移動する間に、吸気弁215を一度開く。これにより、筒内燃焼空間103内に吸気ポート105を介して空気が吸気される。
このとき、筒内燃焼空間103内には縦型渦流、いわゆるタンブル流が形成される。ここで、筒内燃焼空間103内には、吸気ポート105の形状や、吸気弁215の形状などの要因によって、タンブル流TF05と逆タンブル流TF06とが形成される。タンブル流TF05は、筒内天井部103a側で吸気ポート105側から排気ポート106側へ向かう渦流である。また、逆タンブル流TF06は、タンブル流TF05とは反対側に渦巻く渦流である。
内燃機関2は、筒内燃焼空間103内に、互いに相反する方向に渦巻く渦流が存在するため、タンブル流TF05と逆タンブル流TF06とが衝突することによって、タンブル流が打ち消しあうおそれがある。これにより、内燃機関2は、タンブル流による筒内燃焼空間103内に噴射された燃料の攪拌が不十分となり、内燃機関における混合気の燃焼が不十分になるおそれがある。結果として、内燃機関2は、燃焼速度が低下し、未燃ガスが増大するおそれがある。
図3は、本実施形態に係る吸気弁の開閉時期と、インジェクタによる燃料噴射時期を示す説明図である。図3において、円は図1に示すクランクシャフト109の回転を示す。図3中、TDCは上死点を示し、BDCは下死点を示す。なお、以下の説明では、図1及び図3を用いる。
内燃機関1は、図1に示すピストン102が、シリンダ101内を2往復する間に、筒内燃焼空間103内に空気を少なくとも2回、所定のタイミングで導入する点に特徴がある。ここで、一回目の吸気タイミングを第1吸気期間としての第1吸気タイミングVT01、二回目の吸気タイミングを第2吸気期間としての第2吸気タイミングVT02とする。
また、内燃機関1は、第1吸気タイミングVT01と第2吸気タイミングVT02との間に、図1に示すインジェクタ107によって燃料を筒内燃焼空間103内に少なくとも一度噴射する。このタイミングを、燃料噴射タイミングFJとする。
まず、排気行程終了後、ピストン102は、下死点BDC側から上死点TDC近傍に至る。このとき、第1開弁タイミングIVo01で、吸気弁115が開弁し、第1吸気期間の終了時期としての第1閉弁タイミングIVc01で吸気弁115が閉弁する。
次に、ピストン102は、上死点TDC側から下死点BDCに向かって移動する。この期間内に、インジェクタ107は筒内燃焼空間103内に燃料を噴射する。このとき、燃料噴射タイミングFJの期間中は、排気弁116は閉弁状態である。また、吸気弁115も閉弁状態である。
ここで、燃料噴射タイミングFJの開始時期である燃料噴射開始タイミングFJsは、第1閉弁タイミングIVc01よりも後であると好ましい。つまり、第1吸気タイミングVT01は、燃料噴射タイミングFJと重ならない方が好ましい。
次に、燃料噴射タイミングFJの終了時期である燃料噴射終了タイミングFJeよりも後に、第2吸気タイミングVT02で、吸気弁115が開弁する。ここで、第2吸気タイミングVT02での吸気弁115の開弁時期である第2開弁タイミングIVo02は、燃料噴射終了タイミングFJeよりも後であると好ましい。つまり、第2吸気タイミングVT02は、燃料噴射タイミングFJと重ならない方が好ましい。なお、第2吸気タイミングVT02での吸気弁115は、第2閉弁タイミングIVc02で閉弁する。
なお、第1開弁タイミングIVo01は、ピストン102が上死点TDCに至るよりも前の時期である。さらに、第2吸気期間の開始時期としての第2開弁タイミングIVo02は、ピストン102が下死点BDCよりも後の時期である。これは、吸気ポート105内を流動する空気には慣性が存在する。これにより、ピストン102が上死点TDCから下死点BDCに向かって移動していなくても、上死点TDC及び下死点BDC近傍であれば筒内燃焼空間103内に空気が吸気されるためである。よって、第1開弁タイミングIVo01及び第2開弁タイミングIVo02の時期は、上死点TDCと下死点BDCとの間の範囲に限定されず、筒内燃焼空間103内に空気を吸気できる範囲内で変更できる。
図4は、第1吸気タイミングの時の筒内燃焼空間内を模式的に示す断面図である。図4に示すように、第1吸気タイミングVT01では、ピストン102は、筒内天井部103a側に近づいている。この時、吸気弁115は開弁状態である。よって、吸気ポート105を介して、筒内燃焼空間103内に空気が吸気される。
ここで、筒内燃焼空間103内には、第1渦流としての第1タンブル流TF01と、第2渦流としての第1逆タンブル流TF02とが形成される。第1タンブル流TF01は、筒内天井部103a側で吸気ポート105側から排気ポート106側へ向かう渦流である。また、第1逆タンブル流TF02は、第1タンブル流TF01とは反対側に渦巻く渦流である。
このとき、吸気ポート105の形状や吸気弁115の形状によって、筒内燃焼空間103内に形成される2つのタンブル流は、相対的に渦流の強さが強いタンブル流と、相対的に渦流の強さが弱いタンブル流となる。本実施形態では、吸気ポート105が筒内燃焼空間103に開口する開口部と吸気弁115との隙間のうち、点火プラグ108に近い側の隙間を通る第1タンブル流TF01が、前記隙間において点火プラグ108から遠い側の隙間を通る第1逆タンブル流TF02よりも渦流の強さが強いタンブル流とする。
ここで、渦流の強は、渦流の持つエネルギーの大きさと略同義である。つまり、第1タンブル流TF01が有するエネルギーは、第1逆タンブル流TF02が有するエネルギーよりも大きい。
上述したように、第1吸気タイミングVT01では、ピストン102は、筒内天井部103a近傍に位置する。よって、筒内天井部103aに沿うように排気ポート106側へ流れる第1タンブル流TF01に対して、ピストン102側へ流れる第1逆タンブル流TF02は渦流が発生しにくい。もしくは、第1逆タンブル流TF02は、その渦流の形状を保ちにくい。
つまり、上死点TDC近傍で吸気弁115を開弁することによって、第1タンブル流TF01とは反対方向に渦巻く第1逆タンブル流TF02の渦流の強さが低減される。結果として、内燃機関1は、第1タンブル流TF01の渦流の強さを弱める反対方向に渦巻く渦流である第1逆タンブル流TF02の渦流の強さが低減されたことにより、第1タンブル流TF01の渦流の強さの低下を抑制できる。
なお、第1吸気タイミングVT01で形成された第1タンブル流TF01は、第2吸気タイミングVT02まで、渦流として筒内燃焼空間103内で保たれる。
図5は、燃料噴射タイミングの時の筒内燃焼空間内を模式的に示す断面図である。図5に示すように、燃料噴射タイミングFJでは、吸気弁115及び排気弁116は閉弁状態である。つまり、この時、筒内燃焼空間103内は密閉空間となる。
この時、筒内燃焼空間103内には、第1吸気タイミングVT01で形成された第1タンブル流TF01が残っている。ここで、インジェクタ107の噴射口が、第1タンブル流TF01の流れに沿う方向に向けられて筒内燃焼空間103に突出して設けられる。なお、前記噴射口とは、インジェクタ107において燃料が噴射される開口である。本実施形態では、インジェクタ107は、例えば、吸気ポート105側のシリンダヘッド110に設けられ、排気ポート106側に向けて燃料を噴射する。
これにより、インジェクタ107から噴射された燃料は、第1タンブル流TF01の流れに沿うように噴射される。よって、第1タンブル流TF01は、インジェクタ107から噴射された燃料が有する運動エネルギーが加わり、渦流の強さが増加する。
なお、インジェクタ107は筒内燃焼空間103に突出するように1つ設けられるものとして説明したが、本実施形態はこれに限定されない。インジェクタ107以外に、例えば、吸気ポート105に突出するようにインジェクタを設けてもよい。つまり、インジェクタ107によって筒内燃焼空間103内に燃料が噴射されると共に、インジェクタ107とは別のインジェクタによって、吸気ポート105内に補助として燃料が噴射されてもよい。
図6は、燃料噴射タイミングの時の他の筒内燃焼空間内を模式的に示す断面図である。なお、インジェクタ107は、吸気ポート105側のシリンダヘッド110に設けられ、排気ポート106側に向けて燃料を噴射すると説明したが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、図6に示すように、インジェクタ107は、排気ポート106側のシリンダヘッド110に設けられ、ピストン頂部102a側に向けて燃料を噴射してもよい。これにより、第1タンブル流TF01は、インジェクタ107から噴射された燃料が有する運動エネルギーが加わり、渦流の強さが増加する。
また、この期間中、ピストン102は上死点TDCから下死点BDCに向かって移動する。しかしながら、筒内燃焼空間103と筒内燃焼空間103の外部とを連通する吸気弁115及び排気弁116は閉弁状態である。これにより、筒内燃焼空間103内は、ピストン102が上死点TDCから下死点BDCに向かう程、吸気ポート105内の気体の圧力よりも減圧される。
よって、インジェクタ107からこの減圧された筒内燃焼空間103内に噴射された燃料は、筒内燃焼空間103内の気体が減圧される程気化しやすくなる。結果として、筒内燃焼空間103内に噴射された燃料は、インジェクタ107から噴射されてから気化するまでの時間が短くなる。これにより、燃料が早期に気化し、筒内燃焼空間103内に存在する第1タンブル流TF01によって攪拌されることで、内燃機関1の混合気の燃焼がより良好となる。また、筒内燃焼空間103内に噴射された燃料が、早期に気化することによって、従来の問題であった燃料のシリンダ内壁面101aへの付着を抑制できる。
なお、燃料がシリンダ内壁面101aに付着すると、筒内燃焼空間103内での燃料の気化が遅れ、未燃ガスの発生や、内燃機関1の出力の低下などのおそれがある。特に、吸気弁115が、開度の少ない低リフト弁であったり、吸気弁115の開弁時間が短い場合は、未燃ガスは発生しやすい。よって、吸気弁115が上記のような低リフト弁であったり、吸気弁115の開弁時間が短い場合、内燃機関1が奏する未燃ガスの抑制効果は特に大きい。
また、燃料がシリンダ内壁面101aに付着すると、ピストン102とシリンダ内壁面101aとの隙間から、図1に示すクランク室104へ燃料が混入するおそれがある。クランク室104に混入した燃料は、クランク室104内で気化する。ここで、クランク室104内の気体を吸気通路117へ戻す機構を備える内燃機関では、クランク室104内で気化した燃料が、再度、筒内燃焼空間103に導入されることとなる。
ここで、上述したように、インジェクタ107は、ECU114により、噴射する燃料を必要な量に制御される。つまり、クランク室104内で気化した燃料が、筒内燃焼空間103に導入された分、インジェクタ107が噴射する燃料の量は減少する。しかしながら、インジェクタ107には、最も少なく噴射できる燃料の量に限界がある。よって、クランク室104内に混入する燃料の量が増加すると、ECU114によってインジェクタ107に要求される噴射する燃料の最適量が、インジェクタ107が最も少なく噴射できる燃料の量よりも小さくなることがある。これにより、ECU114による内燃機関1の制御に不具合が生じるおそれがある。
内燃機関1は、燃料噴射タイミングFJ期間中に、インジェクタ107が燃料を噴射することにより、筒内燃焼空間103内に噴射された燃料が早期に気化する。これにより、内燃機関1は、燃料がシリンダ内壁面101aに付着することを抑制できる。よって、内燃機関1は、クランク室104内に燃料が混入することを抑制できる。結果として、内燃機関1は、クランク室104内の気体を吸気通路117へ戻す機構を備える場合に、上述のようなECU114による内燃機関1の制御に不具合が生じるおそれを抑制できる。
また、燃料のシリンダ内壁面101aへの付着を抑制することにより、内燃機関1は、インジェクタ107の燃料の噴射量の低下も抑制できる。これにより、内燃機関1は、第1タンブル流TF01に沿うようにインジェクタ107から噴射される燃料が有する運動エネルギーの低下を抑制できる。結果として、内燃機関1は、より好適に第1タンブル流TF01の渦流の強さの低下を抑制できる。
図7は、第2吸気タイミングの時の筒内燃焼空間内を模式的に示す断面図である。図7に示すように、第2吸気タイミングVT02期間中は、吸気弁115は開弁状態である。また、筒内燃焼空間103内には、第1吸気タイミングVT01期間中に形成された第1タンブル流TF01が残っている。
吸気弁115が開弁されると、筒内燃焼空間103内には、第2タンブル流TF03と第2逆タンブル流TF04とが形成される。第2タンブル流TF03は、筒内天井部103a側で吸気ポート105側から排気ポート106側へ向かう渦流である。また、第2逆タンブル流TF04は、第2タンブル流TF03とは反対側に渦巻く渦流である。
このとき、吸気ポート105の形状や吸気弁115の形状によって、筒内燃焼空間103内に形成される2つのタンブル流は、相対的に渦流の強さが強いタンブル流と、相対的に渦流の強さが弱いタンブル流となる。ここで、第2タンブル流TF03の渦流の強さは、第2逆タンブル流TF04の渦流の強さより強いものとする。
なお、吸気ポート105が開弁すると、筒内燃焼空間103に開口する開口部と吸気弁115との間に隙間が形成される。第2タンブル流TF03は、前記隙間のうち、点火プラグ108に近い側の隙間を通る。また、第2逆タンブル流TF04は、前記隙間のうち、点火プラグ108から遠い側の隙間を通る。
上述のように、第2吸気タイミングVT02期間中、筒内燃焼空間103内には、第1タンブル流TF01が渦流として残っている。なお、第1タンブル流TF01は、第2タンブル流TF03と同じ方向に渦巻く渦流である。よって、第2タンブル流TF03は、第1タンブル流TF01によって、渦流の強さが増加する。また、第1タンブル流TF01は、第2逆タンブル流TF04と反対方向に渦巻いている。よって、図7に示すように、第2逆タンブル流TF04は、第1タンブル流TF01と衝突する。これにより、第2逆タンブル流TF04の渦流の強さは低減される。
よって、第2タンブル流TF03の渦流の強さを弱める第2逆タンブル流TF04渦流の強さが低減されたことにより、内燃機関1は、第2タンブル流TF03の渦流の強さの低下を抑制できる。これにより、筒内燃焼空間103内の燃料は、第2タンブル流TF03によって、または第1タンブル流TF01及び第2タンブル流TF03によってより良好に攪拌される。よって、燃料が早期に気化し、筒内燃焼空間103内に存在する第1タンブル流TF01によって攪拌されることで、内燃機関1の混合気の燃焼がより良好となる。
図8は、第1吸気タイミングでの吸気量と第2吸気タイミングでの吸気量との関係を説明する説明図である。図8の横軸は、図1に示すクランクシャフト109の回転角度、つまり時間を示す。また縦軸は、吸気量を示す。なお、IFはインジェクタ107による混合気への点火時期を示す。
図8に示すように、第1吸気タイミングVT01での吸気量は、第2吸気タイミングVT02での吸気量よりも小さい。ここで、図4に示すように、第1吸気タイミングVT01の時、ピストン102は、上死点TDC近傍に位置する。そして、図5に示すように、第1吸気タイミングVT01以降、吸気弁115及び排気弁116が閉弁状態中に、ピストン102は上死点TDC側から下死点BDC側へ向かって移動する。
この時、筒内燃焼空間103内の気体の圧力が低くなる程、上述したように、インジェクタ107から筒内燃焼空間103内に噴射された燃料は気化しやすくなる。しかしながら、筒内燃焼空間103内の気体の圧力が低くなる程、ピストン102が上死点TDC側から下死点BDC側へ移動するのに必要な力が増大する。つまり、筒内燃焼空間103内の気体の圧力が低くなる程、ピストン102が上死点TDC側から下死点BDC側へ移動する時の抵抗力が増大する。
内燃機関1は、第1吸気タイミングVT01で、筒内燃焼空間103内に空気を導入することで、筒内燃焼空間103内の気体の圧力が過剰に低くなることを抑制できる。これにより、内燃機関1は、ピストン102が上死点TDC側から下死点BDC側へ移動する時の抵抗力を抑制できる。よって、内燃機関1は、内燃機関1のポンピングロスを抑制できる。
ここで、第2吸気タイミングVT02での吸気がメインの吸気であり、第1吸気タイミングVT01での吸気は、第2逆タンブル流TF04の渦流の強さを低減するための第1タンブル流TF01を筒内燃焼空間103内に形成するための吸気である。よって、第1吸気タイミングVT01での吸気量は、前記ポンピングロスを抑制できる量よりも多ければよい。結果として、第1吸気タイミングVT01での吸気量は、第2吸気タイミングVT02での吸気量よりも小さくなる。
これにより、内燃機関1は、前記ポンピングロスを抑制しつつ、燃料噴射タイミングFJにインジェクタ107から筒内燃焼空間103内に噴射された燃料を早期に気化できる。結果として、ポンピングロスによる内燃機関1の出力低下を抑制しつつ、内燃機関1の混合気の燃焼がより良好となる。
ここで、第1吸気タイミングVT01での吸気量のより良好な範囲は、燃料噴射タイミングFJの期間中、筒内燃焼空間103内が大気圧力よりも低くなり、ピストン102が上死点TDC側から下死点BDC側へ移動するときの前記抵抗力によって、図1に示すクランクシャフト109の回転が停止しない範囲の吸気量であると好ましい。
これにより、インジェクタ107から筒内燃焼空間103内に燃料が噴射されたとき、筒内燃焼空間103内の気体の圧力は大気圧以下となる。これにより、インジェクタ107から噴射された燃料は、早期に気化する。早期に気化した燃料が、筒内燃焼空間103内に存在する第1タンブル流TF01、または第1タンブル流TF01及び第2タンブル流TF03によって十分に攪拌されることで、内燃機関1の混合気の燃焼がより良好となる。
また、インジェクタ107から噴射された燃料が早期に気化することにより、内燃機関1は、シリンダ内壁面101aへの燃料の付着を抑制できる。これにより、内燃機関1は、クランク室104内に燃料が混入することを抑制できる。結果として、内燃機関1は、クランク室104内の気体を吸気通路117へ戻す機構を備える場合に、上述のようなECU114による内燃機関1の制御に不具合が生じるおそれを抑制できる。
また、図8に示す、第2吸気タイミングVT02での吸気量は、ピストン102がシリンダ101内を2往復する間に内燃機関1が必要とするとする必要吸気量と、第1吸気タイミングVT01での吸気量とに基づいて求められる。具体的には、前記必要吸気量から第1吸気タイミングVT01での吸気量を減算することで第2吸気タイミングVT02での吸気量が求められる。
これにより、内燃機関1は、ピストン102がシリンダ101内を2往復する間に吸気した総合の吸気量が、必要吸気量よりも小さくなるおそれを抑制できる。よって、内燃機関1は、内燃機関1の混合気の燃焼が不十分になることによる、例えば、未燃ガスの増加を抑制できる。つまり、内燃機関1は、第1吸気タイミングVT01と、第2吸気タイミングVT02での吸気量との和必要吸気量よりも小さくなるおそれを抑制できる。なお、内燃機関1の運転状況により、前記総合の吸気量が前記必要吸気量に達しない場合は、第1吸気タイミングVT01での吸気量を増やすことで対応してもよい。
なお、第1タンブル流TF01の渦流の強さは、第1逆タンブル流TF02の渦流の強さよりも強いとして説明したが、本実施形態はこれに限定されない。吸気ポート105の形状や、吸気弁115の形状などにより、第1逆タンブル流TF02の渦流の強さが、第1タンブル流TF01の渦流の強さよりも強くなり、第2逆タンブル流TF04の渦流の強さが、第2タンブル流TF03の渦流の強さよりも強くなる場合もある。
この場合、インジェクタ107は、渦流の強さが相対的に強い第1逆タンブル流TF02の流れの方向に沿って燃料を噴射するように設ければよい。これにより、内燃機関1は、上述の効果と同等の効果を奏する。
以上、内燃機関1は、シリンダ101内を往復運動するピストン102と、空気と燃料との混合気が燃焼する筒内燃焼空間103と、筒内燃焼空間103内の排気ガスを筒内燃焼空間103から排出する排気ポート106と、排気ポート106を介して所定のタイミングで筒内燃焼空間103から排気ガスを排出する排気弁116と、筒内燃焼空間103に空気を導入すると共に筒内燃焼空間103内に渦流を形成する吸気ポート105と、ピストン102がシリンダ101内を2往復する間に少なくとも2回開弁することで吸気ポート105を介して筒内燃焼空間103に空気または混合気を少なくとも2回導入する吸気弁115と、排気弁116が閉弁状態であって、2回の吸気のうち1回目の吸気期間である第1吸気タイミングVT01の第1閉弁タイミングIVc01と2回目の吸気期間である第2吸気タイミングVT02の第2開弁タイミングIVo02との間に筒内燃焼空間103に対して少なくとも1回燃料を噴射するインジェクタ107と、を備える。
また、インジェクタ107は、第1吸気タイミングVT01の第1閉弁タイミングIVc01以後に燃料の噴射を開始し、かつ、第2吸気タイミングVT02の第2開弁タイミングIVo02以前に燃料の噴射を終了する。
図9は、シリンダ軸線と直交する面での筒内燃焼空間を模式的に示す断面図である。また、筒内燃焼空間103内に渦流として縦型の渦流であるタンブル流が形成されるものとして説明したが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、筒内燃焼空間103内に渦流として横型の渦流であるスワール流が形成される場合であってもよい。
図9に示すように、筒内燃焼空間103内には、第1スワール流SF01と第1逆スワール流SF02とが形成される。第1逆スワール流SF02は、第1スワール流SF01とは反対側に渦巻く渦流である。
このとき、吸気ポート105の形状や吸気弁115の形状によって、筒内燃焼空間103内に形成される2つのスワール流は、相対的に渦流の強さが強いスワール流と、相対的に渦流の強さが弱いスワール流となる。第1吸気タイミングVT01で形成された第1スワール流SF01は、第2吸気タイミングVT02まで、渦流として筒内燃焼空間103内で保たれる。
燃料噴射タイミングFJでは、筒内燃焼空間103内には、第1吸気タイミングVT01で形成された第1スワール流SF01が残っている。ここで、インジェクタ107の噴射口が、第1スワール流SF01の流れに沿う方向に向けられて筒内燃焼空間103に突出して設けられる。これにより、インジェクタ107から噴射された燃料は、第1スワール流SF01の流れに沿うように噴射される。よって、第1スワール流SF01は、インジェクタ107から噴射された燃料が有する運動エネルギーが加わり、渦流の強さが増加する。
第2吸気タイミングVT02期間中、筒内燃焼空間103内には、第1吸気タイミングVT01期間中に形成された第1スワール流SF01が残っている。吸気弁115が開弁されると、筒内燃焼空間103内には、第2スワール流SF03と第2逆スワール流SF04とが形成される。第2スワール流SF03は、第1スワール流SF01と同じ方向に渦巻く渦流である。また、第2逆スワール流SF04は、第2スワール流SF03とは反対側に渦巻く渦流である。
このとき、吸気ポート105の形状や吸気弁115の形状によって、筒内燃焼空間103内に形成される2つのタンブル流は、相対的に渦流の強さが強いタンブル流と、相対的に渦流の強さが弱いタンブル流となる。ここで、第2スワール流SF03の渦流の強さは、第2逆スワール流SF04の渦流の強さより強いものとする。
上述のように、第2吸気タイミングVT02期間中、筒内燃焼空間103内には、第1スワール流SF01が渦流として残っている。よって、第2スワール流SF03は、第1スワール流SF01によって、渦流の強さが増加する。また、第1スワール流SF01は、第2逆スワール流SF04と反対方向に渦巻いている。よって、第2逆スワール流SF04は、第1スワール流SF01と衝突する。これにより、第2逆スワール流SF04の渦流の強さは低減される。
第2スワール流SF03の渦流の強さを弱める第2逆スワール流SF04の渦流の強さが低減されたことにより、内燃機関1は、第2スワール流SF03の渦流の強さの低下を抑制できる。これにより、内燃機関1は、筒内燃焼空間103内にタンブル流を形成する場合と同等の効果を奏する。
図10は、本実施形態に係る他の吸気弁の開閉時期と、インジェクタによる燃料噴射時期を示す説明図である。また、図3に示すように、第1吸気タイミングVT01は、燃料噴射タイミングFJと重ならない方が好ましいと説明したが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、図10に示すように、第1閉弁タイミングIVc01は、燃料噴射開始タイミングFJs以後でもよい。
また、第2吸気タイミングVT02は、燃料噴射タイミングFJと重ならない方が好ましいと説明したが、本実施形態はこれに限定されない。例えば、第2開弁タイミングIVo02は、燃料噴射終了タイミングFJe以前でもよい。
内燃機関1は、第1吸気タイミングVT01と、第2吸気タイミングVT02との間に少なくとも1回、燃料を筒内燃焼空間103に噴射すればよい。より詳細には、内燃機関1は、第1閉弁タイミングIVc01と、第2開弁タイミングIVo02との間に少なくとも1回、燃料を筒内燃焼空間103に噴射すればよい。
また、燃料噴射タイミングFJは、第1閉弁タイミングIVc01と、第2開弁タイミングIVo02との間において、連続していなくてもよい。つまり、第1閉弁タイミングIVc01と、第2開弁タイミングIVo02との間に複数回、筒内燃焼空間103内に燃料を噴射してもよい。
上記のように、内燃機関1を構成しても、内燃機関1は、第2タンブル流TF03の渦流の強さの低下を抑制できる。また、筒内燃焼空間103は、ピストン102が上死点TDC側から下死点BDC側へ移動することで減圧される。これにより、インジェクタ107によって筒内燃焼空間103に噴射された燃料は、早期に気化する。結果として、内燃機関1は、上述の効果と略同様の効果を奏する。