本発明の目的は、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンの大量規模での製造に適した製造方法を提供することにある。非特許文献1の方法では、75%ee(エナンチオマー過剰率)のS体しか製造できない。非特許文献2の方法では、ラセミ体を安く大量に入手するのが困難で、また光学分割で不要となった、望まない立体化学を有する1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールから、ラセミまたは目的とする立体化学の1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンに誘導することが極めて難しいため、50%以上の収率を期待することができない。非特許文献3の方法では、高価な不斉還元剤を量論的に使用する必要があり、また光学純度も96%eeが限界である。非特許文献4の方法では、光学活性トリフルオロ乳酸からの誘導に多段階を要する(スキーム1を参照)。
この様に、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンの大量規模での製造に適した製造方法が強く望まれている。特に、R体はアテローム性動脈硬化症治療候補薬の鍵中間体として重要であるが[Journal of Medicinal Chemistry(米国),2003年,第46巻,第11号,p.2152−2168]、従来の製造技術では大量に供給することが容易でなかった。
本出願人は、本出願に先立ち、トリフルオロ乳酸の効率的な光学分割について出願している(特願2005−49484号)。
本発明者らは、上記の課題を解決するために非特許文献4の方法の短工程化について鋭意検討した結果、光学活性トリフルオロ乳酸をヒドリド還元剤と反応させることにより光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールに変換し、次に有機塩基の存在下に環状硫酸エステル化剤と反応させることにより環状硫酸エステル体に変換し、更に金属のハロゲン化物と反応させることによりハロヒドリン体に変換し、最後に無機塩基と反応させることにより光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンが製造できることを見出し、本発明を完成した(スキーム2を参照)。
本発明の特徴は、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールの一級水酸基の選択的なハロゲン化にあり、該ジオールから誘導される環状硫酸エステル体の開環ハロゲン化を採用することにより、出発原料として同じ光学活性トリフルオロ乳酸を使用する非特許文献4の方法に比べて、格段に短工程化できることにある。光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールの一級水酸基の選択的なハロゲン化については、塩化スルフリルや五塩化リンを使用する方法が開示されているが(特開平6−172237号公報、特開平6−247953号公報)、本発明者らが記載通りに追試しても収率は20%程度であり、安価に大量の製造をするには、必ずしも好適とは言えなかった。また光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールの一級水酸基の選択的なメシル化についても詳細に検討したが、反応は収率良く進行するものの(90%程度)、メシル化の選択性(一級水酸基:二級水酸基)は9:1が限界であり、一級水酸基の脱離基への特異的な変換という観点からは程遠いものであった。
環状硫酸エステル体の炭素、窒素、酸素または硫黄求核種による開環反応は既に報告されているが[Chemistry A European Journal(ドイツ),1997年,第3巻,第4号,p.517−522]、開環ハロゲン化は未だ報告されていない。上記の炭素、窒素、酸素または硫黄求核種による開環反応では、スキーム3に示す括弧内の中間体から目的とする開環生成物への変換に、別途、酸による加水分解の工程を必要とした。
しかし、本発明の開環ハロゲン化では、含水の反応溶媒を用いて反応を行うことにより、該加水分解の工程を必要とせず、直接的にハロヒドリン体を得ることができ、反応操作が非常に簡便になった。さらに本発明における、含水の反応溶媒を用いる開環ハロゲン化では、30℃以上の温度条件を採用することにより反応時間を短縮でき、ハロヒドリン体が収率良く得られ、特に好適な反応条件の組み合わせであることがわかった。本発明で開示した環状硫酸エステル化と開環ハロゲン化を組み合わせるハロゲン化は、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールの一級水酸基の特異的なハロゲン化として有効な方法である。
また光学活性トリフルオロ乳酸のヒドリド還元は無水条件にて行うのが好ましいが、光学活性トリフルオロ乳酸は吸湿性が極めて高いため、水分管理や脱水等の煩雑な操作を必要とする場合がある。上記の非特許文献4または特願2005−49484号に記載された、光学活性トリフルオロ乳酸と光学活性フェネチルアミンからなる光学活性ジアステレオマー塩は吸湿性が殆どなく、取扱いも容易であり、ヒドリド還元においても不純物を殆ど副生しないため、光学活性トリフルオロ乳酸の代替として好適に使用できる場合がある。
すなわち、本発明は、次の[発明1]〜[発明9]を骨子とする、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンを製造する方法を提供する。
[発明1]として、式[1]
[式中、*は不斉炭素を表し、その絶対配置はR体またはS体を採る]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールを有機塩基の存在下に環状硫酸エステル化剤と反応させることにより、式[2]
[式中、*は不斉炭素を表し、反応を通してその立体化学は保持される]で示される環状硫酸エステル体に変換し、次にアルカリ金属の臭化物と反応させることにより、一般式[3]
[式中、Xはハロゲン原子を表し、*は不斉炭素を表し、反応を通してその立体化学は保持される]で示されるハロヒドリン体に変換し、最後に水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機塩基と反応させることにより、式[4]
[式中、*は不斉炭素を表し、反応を通してその立体化学は保持される]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンを製造する方法を提供する。
[発明2]として、式[1]
[式中、*は不斉炭素を表し、その絶対配置はR体またはS体を採る]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールを有機塩基の存在下に塩化スルフリル(SO2Cl2)と反応させることにより、式[2]
[式中、*は不斉炭素を表し、反応を通してその立体化学は保持される]で示される環状硫酸エステル体に変換し、次に含水の反応溶媒中でアルカリ金属の臭化物と30℃〜125℃で反応させることにより、式[5]
[式中、*は不斉炭素を表し、反応を通してその立体化学は保持される]で示されるハロヒドリン体に変換し、最後に水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機塩基と反応させることにより、式[4]
[式中、*は不斉炭素を表し、反応を通してその立体化学は保持される]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンを製造する方法を提供する。
[発明3]として、式[6]
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールをイミダゾールの存在下に塩化スルフリル(SO2Cl2)と反応させることにより、式[7]
で示される環状硫酸エステル体に変換し、次に含水のテトラヒドロフラン中で臭化カリウムと35℃〜100℃で反応させることにより、式[8]
で示されるハロヒドリン体に変換し、最後に水酸化ナトリウムと反応させることにより、式[9]
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンを製造する方法を提供する。
[発明4]として、[発明1]において、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールが、式[10]
[式中、*は不斉炭素を表し、その絶対配置はR体またはS体を採る]で示される光学活性トリフルオロ乳酸をヒドリド還元剤と反応させることにより得たもの(反応を通して不斉炭素の立体化学は保持される)であることを特徴とする、[発明1]に記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンを製造する方法を提供する。
[発明5]として、[発明1]において、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールが、式[11]
[式中、*は不斉炭素を表し、その絶対配置の組み合わせはR体/R体またはS体/S体を採る(斜線の前は光学活性トリフルオロ乳酸の絶対配置を表し、斜線の後は光学活性フェネチルアミンの絶対配置を表す)]で示される光学活性トリフルオロ乳酸と光学活性フェネチルアミンからなる光学活性ジアステレオマー塩をヒドリド還元剤と反応させることにより得たもの(反応を通して不斉炭素の立体化学は保持される)であることを特徴とする、[発明1]に記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンを製造する方法を提供する。
[発明6]として、[発明2]において、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールが、式[10]
[式中、*は不斉炭素を表し、その絶対配置はR体またはS体を採る]で示される光学活性トリフルオロ乳酸をボラン還元剤と反応させることにより得たもの(反応を通して不斉炭素の立体化学は保持される)であることを特徴とする、[発明2]に記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンを製造する方法を提供する。
[発明7]として、[発明2]において、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールが、式[11]
[式中、*は不斉炭素を表し、その絶対配置の組み合わせはR体/R体またはS体/S体を採る(斜線の前は光学活性トリフルオロ乳酸の絶対配置を表し、斜線の後は光学活性フェネチルアミンの絶対配置を表す)]で示される光学活性トリフルオロ乳酸と光学活性フェネチルアミンからなる光学活性ジアステレオマー塩をボラン還元剤と反応させることにより得たもの(反応を通して不斉炭素の立体化学は保持される)であることを特徴とする、[発明2]に記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンを製造する方法を提供する。
[発明8]として、[発明3]において、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールが、式[12]
で示される光学活性トリフルオロ乳酸をボラン還元剤と反応させることにより得たものであることを特徴とする、[発明3]に記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンを製造する方法を提供する。
[発明9]として、[発明3]において、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールが、式[13]
で示される光学活性トリフルオロ乳酸と光学活性フェネチルアミンからなる光学活性ジアステレオマー塩をボラン還元剤と反応させることにより得たものであることを特徴とする、[発明3]に記載の光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンを製造する方法を提供する。
本発明の製造方法は、従来技術に比較して、両エナンチオマー、特にR体を非常に高い光学純度で製造することができる点で優れている。また、安く大量に入手することが困難な化合物を使用する必要がなく、収率も50%以下に制限されない。本発明の出発原料である光学活性トリフルオロ乳酸としては、上記の非特許文献4または特願2005−49484号に記載された、トリフルオロ乳酸の光学分割により調製したものを使用することもできるが、これらの調製においては、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性条件にて不要なエナンチオマーを容易にラセミ化することができ、光学分割に再利用することができ、経済的に有利である。また、本発明の製造方法では、高価な反応剤を大量に使用する必要もない。
本発明で開示した特徴を有する製造方法は、関連する技術分野において全く開示されておらず、さらに四工程、全ての選択性が非常に高く、分離の難しい不純物を殆ど副生しないため、光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンの大量規模での製造に適した製造方法として極めて有用である。また光学活性トリフルオロ乳酸を出発原料として使用しない従来の製造方法に比べても格段に優れている。
本発明で対象とする光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンの製造方法には、上記のスキーム2に示す通り、1)ヒドリド還元、2)環状硫酸エステル化、3)開環ハロゲン化、および4)エポキシ化の各工程があり、本発明の製造ルートは、具体的に"環状硫酸エステル化→開環ハロゲン化→エポキシ化([発明1]、[発明2]、および[発明3])"および"ヒドリド還元→環状硫酸エステル化→開環ハロゲン化→エポキシ化([発明4]、[発明5]、[発明6]、[発明7]、[発明8]、および[発明9])"からなる。
最初に、第一工程のヒドリド還元について詳細に説明する。
第一工程のヒドリド還元は、窒素またはアルゴン等の不活性ガス雰囲気下、無水条件にて行うのが好ましい。
式[10]で示される光学活性トリフルオロ乳酸の不斉炭素の絶対配置としては、R体またはS体を採ることができ、そのエナンチオマー過剰率としては、特に制限はないが、通常は95%ee以上のものを使用すればよく、97%ee以上が好ましく、特に99%ee以上がより好ましい。
式[11]で示される光学活性トリフルオロ乳酸と光学活性フェネチルアミンからなる光学活性ジアステレオマー塩の、不斉炭素の絶対配置の組み合わせとしては、R体/R体またはS体/S体を採ることができ(斜線の前は光学活性トリフルオロ乳酸の絶対配置を表し、斜線の後は光学活性フェネチルアミンの絶対配置を表す)、これらの組み合わせからなる該光学活性ジアステレオマー塩は、光学分割において非水和物として効率良く得ることができる。一方、上記の特願2005−49484号に記載した通り、R体/S体またはS体/R体の組み合わせからなる該光学活性ジアステレオマー塩は、光学分割において水和物として効率良く得られるため、ヒドリド還元剤を多量に使用する必要があり、大量規模での製造においては、本発明の絶対配置の組み合わせ(R体/R体またはS体/S体)が有利である。該光学活性ジアステレオマー塩の光学活性トリフルオロ乳酸部位のエナンチオマー過剰率としては、特に制限はないが、通常は95%ee以上のものを使用すればよく、97%ee以上が好ましく、特に99%ee以上がより好ましい。また該光学活性ジアステレオマー塩の光学活性フェネチルアミン部位はトリフルオロ乳酸の光学分割剤であり、そのエナンチオマー過剰率としては、特に制限はないが、通常は97%ee以上のものを使用すればよく、98%ee以上が好ましく、特に99%ee以上がより好ましい。
式[10]で示される光学活性トリフルオロ乳酸、または式[11]で示される光学活性トリフルオロ乳酸と光学活性フェネチルアミンからなる光学活性ジアステレオマー塩は、上記の非特許文献4または特願2005−49484号に従い製造することができ(前者の光学分割においてはR体/R体またはS体/S体の非水和物が得られる)、具体的にはラセミまたは光学活性トリフルオロ乳酸を光学活性フェネチルアミンと接触させ、次いで再結晶溶媒から再結晶することにより容易に得ることができる。
本工程の原料基質としては、式[11]で示される光学活性トリフルオロ乳酸と光学活性フェネチルアミンからなる光学活性ジアステレオマー塩を使用する方が、式[10]で示される光学活性トリフルオロ乳酸の使用に比べて、水分管理や脱水等の煩雑な操作を回避することができ、大量規模での製造において好適な場合が多い。
ヒドリド還元剤としては、(i−Bu)2AlH、LiAlH4、NaAlH2(OCH2CH2OCH3)2等のアルミニウムヒドリド系、ジボラン、BH3・THF、BH3・SMe2、BH3・NMe3、BH3・NPhEt2、NaBH4、LiBH4等のホウ素ヒドリド系等が挙げられる(Buはブチル基、THFはテトラヒドロフラン、Meはメチル基、Phはフェニル基、Etはエチル基をそれぞれ表す)。その中でもホウ素ヒドリド系の方が、アルミニウムヒドリド系に比べて、不純物を殆ど副生することなく、後処理操作も簡便なため、好ましく、特にジボラン、BH3・THF、BH3・SMe2、BH3・NMe3およびBH3・NPhEt2のボラン還元剤がより好ましい。ボラン還元剤は、NaBH4またはLiBH4等と、ヨウ素、ジメチル硫酸、塩化トリメチルシリルまたは三フッ化ホウ素(または該ジエチルエーテル錯体)等を組み合わせて定法に従い調製したものを使用することもできる。これらのヒドリド還元剤には、トルエン、塩化メチレン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジグリム、エチレングリコールジメチルエーテル等の定濃度溶液が市販されているものもあり、該定濃度溶液を利用するのが簡便である。またこれらのヒドリド還元剤は各種無機塩の存在下に使用することもできる。
ヒドリド還元剤の使用量としては、特に制限はないが、式[10]で示される光学活性トリフルオロ乳酸、または式[11]で示される光学活性トリフルオロ乳酸と光学活性フェネチルアミンからなる光学活性ジアステレオマー塩1.0モルに対して、通常は0.5モル以上を使用すればよく、0.7〜10.0モルが好ましく、特に0.9〜7.0モルがより好ましい。
反応溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、ジオキサン、ジグリム、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール等のアルコール系等が挙げられる。その中でも芳香族炭化水素系、ハロゲン化炭化水素系およびエーテル系が好ましく、特にエーテル系がより好ましい。これらの反応溶媒は、単独または組み合わせて使用することができる。またヒドリド還元剤の各種定濃度溶液を利用する場合には、反応溶媒を新たに加えずに反応を行うこともできる。
反応溶媒の使用量としては、特に制限はないが、式[10]で示される光学活性トリフルオロ乳酸、または式[11]で示される光学活性トリフルオロ乳酸と光学活性フェネチルアミンからなる光学活性ジアステレオマー塩1.0モルに対して、通常は0.1L(リットル)以上を使用すればよく、0.2〜20.0Lが好ましく、特に0.3〜10.0Lがより好ましい。
温度条件としては、特に制限はないが、通常は−100℃〜+100℃の範囲で行えばよく、−80℃〜+80℃が好ましく、特に−60℃〜+60℃がより好ましい。
反応時間としては、特に制限はないが、通常は24時間以内で行えばよく、原料基質、ヒドリド還元剤および反応条件等により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、NMR等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を終点とするのが好ましい。
後処理としては、特に制限はないが、米国特許第6815559号明細書に記載の操作方法を参考にし、通常は反応終了液に塩酸、臭化水素酸、硝酸または硫酸等の無機酸の水溶液を加えて酸処理を行い、有機溶媒(例えば、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテルまたは酢酸エチル等)で抽出することにより、目的とする式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールの粗生成物を得ることができる。また必要に応じて、活性炭処理、蒸留または再結晶等により、高い化学純度に精製することができる。第一工程のヒドリド還元を通して、式[10]で示される光学活性トリフルオロ乳酸、または式[11]で示される光学活性トリフルオロ乳酸と光学活性フェネチルアミンからなる光学活性ジアステレオマー塩の不斉炭素の立体化学は保持され、光学純度は殆ど低下しない。
次に、第二工程の環状硫酸エステル化について詳細に説明する。
第二工程の環状硫酸エステル化は、Chemistry A European Journal(ドイツ),1997年,第3巻,第4号,p.517−522を参考にし、同様に行うことができる。
環状硫酸エステル化剤としては、SO2X2[式中、Xはハロゲン原子を表す]で示されるハロゲン化スルフリルと定義でき、その中でもフッ化スルフリル(SO2F2)および塩化スルフリル(SO2Cl2)が好ましく、特に塩化スルフリル(SO2Cl2)がより好ましい。塩化スルフリル(SO2Cl2)が特に好適な理由としては、十分な反応性を示し、また反応剤として取り扱い易い沸点(SO2Cl2 69℃ vs.SO2F2 −50℃)を有しているためである。
環状硫酸エステル化剤の使用量としては、特に制限はないが、式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオール1.0モルに対して、通常は0.7モル以上を使用すればよく、0.8〜5.0モルが好ましく、特に0.9〜3.0モルがより好ましい。
有機塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、ピリジン、ルチジン、コリジン、イミダゾール、DMAP(4−ジメチルアミノピリジン)、DABCO(1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)、DBN(1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン)、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン)等が挙げられる。その中でもトリエチルアミン、N−メチルピペリジン、ピリジン、ルチジン、イミダゾール、DMAP(4−ジメチルアミノピリジン)およびDBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン)が好ましく、特にイミダゾールがより好ましい。イミダゾールが特に好適な理由としては、十分な反応性を示し、また反応系内で生成した目的とする式[2]で示される環状硫酸エステル体とイミダゾールが殆ど副反応を起こさないためである。
有機塩基の使用量としては、特に制限はないが、式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオール1.0モルに対して、通常は1.0モル以上を使用すればよく、1.1〜10.0モルが好ましく、特に1.2〜7.0モルがより好ましい。
反応溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。その中でもn−ヘプタン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシドが好ましく、特に塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミドおよびアセトニトリルがより好ましい。これらの反応溶媒は、単独または組み合わせて使用することができる。
反応溶媒の使用量としては、特に制限はないが、式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオール1.0モルに対して、通常は0.1L以上を使用すればよく、0.2〜20.0Lが好ましく、特に0.3〜10.0Lがより好ましい。
温度条件としては、特に制限はないが、通常は−100℃〜+70℃の範囲で行えばよく、−80℃〜+60℃が好ましく、特に−60℃〜+50℃がより好ましい。環状硫酸エステル化剤の沸点以上の温度条件で反応を行う場合には、耐圧反応容器を使用することができる。
反応時間としては、特に制限はないが、通常は24時間以内で行えばよく、環状硫酸エステル化剤、有機塩基および反応条件等により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、NMR等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を終点とするのが好ましい。
後処理としては、特に制限はないが、通常は反応終了液に塩酸、臭化水素酸、硝酸または硫酸等の無機酸の水溶液を加え、有機溶媒(例えば、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテルまたは酢酸エチル等)で抽出することにより、目的とする式[2]で示される環状硫酸エステル体の粗生成物を得ることができる。また必要に応じて、活性炭処理、蒸留または再結晶等により、高い化学純度に精製することができる。第二工程の環状硫酸エステル化を通して、式[1]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールの不斉炭素の立体化学は保持され、光学純度は殆ど低下しない。
更に、第三工程の開環ハロゲン化について詳細に説明する。
金属のハロゲン化物としては、アルカリ金属の臭化物が挙げられるが、特に臭化カリウムがより好ましい。アルカリ金属の臭化物、特に臭化カリウムが好適な理由としては、開環ハロゲン化において十分な反応性を示し、また式[5]で示されるハロヒドリン体の精製操作においても十分な安定性を有し、さらに引き続くエポキシ化においても充分な反応性を示すためである。またアルカリ金属の臭化物、特に臭化カリウムは、大量規模での入手が容易で且つ安価であることも好適な理由として挙げられる。
金属のハロゲン化物の使用量としては、特に制限はないが、式[2]で示される環状硫酸エステル体1.0モルに対して、通常は0.9モル以上を使用すればよく、1.0〜10.0モルが好ましく、特に1.1〜7.0モルがより好ましい。
反応溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。その中でもn−ヘプタン、トルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、アセトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシドが好ましく、特にトルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、アセトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドおよびアセトニトリルがより好ましい。これらの反応溶媒は、単独または組み合わせて使用することができる。
反応溶媒の使用量としては、特に制限はないが、式[2]で示される環状硫酸エステル体1.0モルに対して、通常は0.01L以上を使用すればよく、0.05〜20.0Lが好ましく、特に0.10〜10.0Lがより好ましい。
本工程は、上記の通り、含水の反応溶媒を用いて反応を行うことにより、直接的に一般式[3]で示されるハロヒドリン体を得ることができる。
含水の反応溶媒としては、水との混和性(溶解性)が良く、または水の飽和溶解度が高く、さらに後処理において反応終了液からの目的とする一般式[3]で示されるハロヒドリン体の抽出操作が直接的に行える(予め反応溶媒を濃縮除去しなくても有機層と水層の分液が良好に行える)、反応溶媒との組み合わせが好ましく、具体的に含水の上記エーテル系、ケトン系、エステル系およびニトリル系が好ましく、特に含水のテトラヒドロフランがより好ましい。これらの含水の反応溶媒は、上記の反応溶媒に水を加えることにより簡便に調製できる。
水の使用量としては、特に制限はないが、式[2]で示される環状硫酸エステル体1.0モルに対して、通常は0.01L以上を使用すればよく、0.05〜20.0Lが好ましく、特に0.07〜10.0Lがより好ましい。水の使用量が反応溶媒の飽和溶解度を超える場合には、二相系で反応を行うこともできる。またこの様な場合には、必要に応じて、第四級アンモニウムまたはホスホニウムのハロゲン化物等の相間移動触媒を使用することもできる。
本工程は、特定の温度条件を採用することにより、反応終盤の反応速度を改善できる。特に含水の反応溶媒を用いる開環ハロゲン化では、具体的に25℃〜150℃の範囲で行えばよく、30℃〜125℃が好ましく、特に35℃〜100℃がより好ましく、この好適な温度条件を採用することにより、反応時間を短縮でき、一般式[3]で示されるハロヒドリン体を収率良く得ることができる。
反応時間としては、特に制限はないが、好ましくは12時間以内で行えばよく、金属のハロゲン化物および反応条件等により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、NMR等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を終点とするのが好ましい。また下記の好適な反応条件の組み合わせを採用することにより、反応時間を格段に短縮することができる。
好適な反応条件の組み合わせとしては、含水の反応溶媒、特に含水のテトラヒドロフラン中で、アルカリ金属の臭化物、特に臭化カリウムと、30℃〜125℃、特に35℃〜100℃で反応させることにより、一般式[3]で示されるハロヒドリン体を極めて効率良く製造することができる。
後処理としては、特に制限はないが、通常は反応終了液に水を加え、有機溶媒(例えば、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテルまたは酢酸エチル等)で抽出することにより、目的とする一般式[3]で示されるハロヒドリン体の粗生成物を得ることができる。該ハロヒドリン体のX(ハロゲン原子)としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、使用した金属のハロゲン化物により決まる。その中でも特に臭素が上記の理由により好適である。また必要に応じて、活性炭処理、蒸留または再結晶等により、高い化学純度に精製することができる。第三工程の開環ハロゲン化を通して、式[2]で示される環状硫酸エステル体の不斉炭素の立体化学は保持され、光学純度は殆ど低下しない。
最後に、第四工程のエポキシ化について詳細に説明する。
第四工程のエポキシ化は、上記の非特許文献3および非特許文献4を参考にし、同様に行うことができる。
無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。その中でも、特に水酸化ナトリウムがより好ましい。水酸化ナトリウムが特に好適な理由としては、十分な反応性を示し、大量規模での入手が容易で且つ安価なためである。
無機塩基の使用量としては、特に制限はないが、一般式[3]で示されるハロヒドリン体1.0モルに対して、通常は0.9モル以上を使用すればよく、1.0〜10.0モルが好ましく、特に1.1〜7.0モルがより好ましい。
反応溶媒としては、水、エチレングリコール、ジグリム等が挙げられる。その中でも水およびエチレングリコールが好ましく、特に水がより好ましい。これらの反応溶媒は、単独または組み合わせて使用することができる。
反応溶媒の使用量としては、特に制限はないが、一般式[3]で示されるハロヒドリン体1.0モルに対して、通常は0.01L以上を使用すればよく、0.05〜20.0Lが好ましく、特に0.07〜10.0Lがより好ましい。
温度条件としては、特に制限はないが、通常は−25℃〜+150℃の範囲で行えばよく、0℃〜+125℃が好ましく、特に+25℃〜+100℃がより好ましい。
反応時間としては、特に制限はないが、通常は24時間以内で行えばよく、原料基質、無機塩基および反応条件等により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、NMR等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を終点とするのが好ましい。また反応器内でガスの発生が止んだ時点を終点の目安とするのが簡便である。
後処理としては、特に制限はないが、反応器内で発生したガスを反応器外に導き出し、冷却したトラップ等で凝縮させることにより、目的とする式[4]で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパン(沸点40℃)の粗生成物を得ることができる。また必要に応じて、活性炭処理、蒸留または再結晶等により、高い化学純度に精製することができる。第四工程のエポキシ化を通して、一般式[3]で示されるハロヒドリン体の不斉炭素の立体化学は保持され、光学純度は殆ど低下しない。
以下、実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
窒素雰囲気下、ボラン・テトラヒドロフラン錯体の1.00Mテトラヒドロフラン溶液800.0mL(800.0mmol、1.49eq)に、内温を8℃〜11℃に制御しながら、下記式
で示される光学活性トリフルオロ乳酸77.21g(536.0mmol、1.00eq、光学純度99.0%ee)のテトラヒドロフラン溶液(テトラヒドロフラン使用量194mL)を加え、室温で終夜攪拌した。反応の変換率を19F−NMRにより測定したところ、100%であった。氷冷下、反応終了液に1N塩酸136mLを加え、50℃で3時間攪拌した。テトラヒドロフランを減圧濃縮し、析出したホウ酸を濾別し、濾液を酢酸エチルで2回(380mL、100mL)抽出した。回収有機層を10%食塩水130mLで洗浄し、減圧濃縮し、トルエン150mLで共沸脱水し、真空乾燥し、下記式
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールの粗生成物54.40gを得た。粗生成物の1H−NMR純度は91.0%であり、収率は71%であった。粗生成物の光学純度をキラル液体クロマトグラフィー[ジ安息香酸エステル体に誘導後、ダイセルCHIRALPAK OD−H(n−ヘキサン:i−プロパノール=98:2)で分析]により測定したところ、98.9%eeであった。粗生成物の機器データを下に示す。
1H−NMR(基準物質:Me4Si,重溶媒:CDCl3),δ ppm:2.02(br,1H),3.06(br,1H),3.83−3.92(m,2H),4.03−4.13(m,1H).
19F−NMR(基準物質:C6F6,重溶媒:CDCl3),δ ppm:84.05(d,7.6Hz,3F).
塩化メチレン335mLに、下記式
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールの粗生成物29.90g(209.2mmol、1.00eq、1H−NMR純度91.0%)とイミダゾール39.10g(574.3mmol、2.75eq)を加えて溶解した。内温を−36℃〜−32℃に制御しながら、塩化スルフリル32.76g(242.7mmol、1.16eq)の塩化メチレン溶液(塩化メチレン使用量45mL)を加え、−35℃で4時間攪拌した。反応の変換率を19F−NMRにより測定したところ、95%であった。反応終了液に5%硫酸水溶液70mLを加え、ジイソプロピルエーテルで2回(400mL、100mL)抽出した。回収有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液80mLで洗浄し、10%食塩水70mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、真空乾燥し、下記式
で示される環状硫酸エステル体の粗生成物40.41gを得た。粗生成物を19F−NMRによる内部標準法で定量したところ、目的とする環状硫酸エステル体が171.1mmol含まれており(19F−NMR純度81.3%)、収率は82%であった。粗生成物には沈澱物が若干認められたため綿栓濾過を行い、次工程に供した。粗生成物の機器データを下に示す。
1H−NMR(基準物質:Me4Si,重溶媒:CDCl3),δ ppm:4.75(dd,4.4Hz,9.8Hz,1H),4.85(dd,7.6Hz,9.8Hz,1H),5.08(m,1H).
19F−NMR(基準物質:C6F6,重溶媒:CDCl3),δ ppm:83.48(d,6.0Hz,3F).
テトラヒドロフラン100mLと水50mLに、下記式
で示される環状硫酸エステル体の粗生成物39.20g(165.9mmol、1.00eq、19F−NMR純度81.3%)と臭化カリウム40.00g(336.1mmol、2.03eq)を加え、40℃で5時間攪拌した。反応の変換率を19F−NMRにより測定したところ、100%であった。反応終了液に水300mLを加え、ジイソプロピルエーテルで3回(150mL、75mL、75mL)抽出した。回収有機層を10%食塩水で2回(75mL、75mL)洗浄し、アルカリ性食塩水[炭酸水素ナトリウム3.75g、食塩7.50gと水64mLから調製]で洗浄し、常圧濃縮し、下記式
で示されるハロヒドリン体の粗生成物をジイソプロピルエーテルとテトラヒドロフランの混合溶液として76.97g得た。粗生成物を19F−NMRによる内部標準法で定量したところ、目的とするハロヒドリン体が約167mmol含まれており(該混合溶液の含量は41.6%)、収率は定量的であった。該混合溶液を分別蒸留(沸点54℃/5.3kPa)し、蒸留精製品25.13gを得た。蒸留精製品の1H−NMR純度は91.7%であり、残り8.3%はテトラヒドロフランであった。分別蒸留の回収率は72%であった。蒸留精製品の機器データを下に示す。
1H−NMR(基準物質:Me4Si,重溶媒:CDCl3),δ ppm:3.34(br,1H),3.47(dd,8.8Hz,11.2Hz,1H),3.62(dd,2.8Hz,11.2Hz,1H),3.78(m,1H).
19F−NMR(基準物質:C6F6,重溶媒:CDCl3),δ ppm:83.83(d,6.0Hz,3F).
水酸化ナトリウム水溶液[水酸化ナトリウム22.60g(565.0mmol、3.28eq)と水45mLから調製]に、氷冷下、下記式
で示されるハロヒドリン体の蒸留精製品36.30g(172.5mmol、1.00eq、1H−NMR純度91.7%、同様に製造したハロヒドリン体も合わせて使用)を加え、内温を61℃まで除々に昇温し(44℃付近で勢い良くガスが発生)、発生したガスを反応器外に導き出し、−78℃に冷却したトラップで凝縮させ、下記式
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンの粗生成物18.60gを得た。粗生成物の1H−NMR純度は86.8%(残り13.2%はテトラヒドロフラン)であり、収率は84%であった。粗生成物17.30gを分別蒸留(沸点40℃/常圧)し、蒸留精製品13.90gを得た。蒸留精製品の1H−NMR純度は93.7%であり、残り6.3%はテトラヒドロフランであった。分別蒸留の回収率は87%であった。蒸留精製品の光学純度を非特許文献2の方法に従い測定したところ、98.6%eeであった。蒸留精製品の機器データを下に示す。
1H−NMR(基準物質:Me4Si,重溶媒:CDCl3),δ ppm:2.90(m,1H),2.96(dd,2.4Hz,5.2Hz,1H),3.40(m,1H).
19F−NMR(基準物質:C6F6,重溶媒:CDCl3),δ ppm:86.90(d,6.4Hz,3F).
[実施例2]
窒素雰囲気下、ボラン・テトラヒドロフラン錯体の1.00Mテトラヒドロフラン溶液800.0mL(800.0mmol、2.30eq)に、氷冷下、下記式
で示される光学活性トリフルオロ乳酸と光学活性フェネチルアミンからなる光学活性ジアステレオマー塩92.25g(347.8mmol、1.00eq、光学活性トリフルオロ乳酸部位の光学純度99.0%ee)を加え、45℃で終夜攪拌した。反応の変換率を19F−NMRにより測定したところ、100%であった。1N塩酸を過剰に加えた以外は実施例1と同様の後処理操作を行い、下記式
で示される光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールの粗生成物36.01gを得た。粗生成物の1H−NMR純度は90.0%であり、収率は72%であった。粗生成物の機器データは実施例1と同様であった。さらに実施例1と同様の変換反応を行い、目的とする光学活性1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンを高い光学純度で得ることができた。
[実施例3]
テトラヒドロフラン200mLと水100mLに、下記式
で示される環状硫酸エステル体の粗生成物63.00g(314.2mmol、1.00eq、19F−NMR純度95.8%、実施例1と同様に製造した環状硫酸エステル体を使用)と臭化カリウム75.00g(630.3mmol、2.01eq)を加え、20℃で19時間30分攪拌した。下記式
で示されるハロヒドリン体への変換率を19F−NMRにより測定したところ、71%であった。
[実施例4]
テトラヒドロフラン32mLと水16mLに、下記式
で示される環状硫酸エステル体の粗生成物11.00g(46.8mmol、1.00eq、19F−NMR純度81.8%、実施例1と同様に製造した環状硫酸エステル体を使用)と臭化カリウム11.20g(94.1mmol、2.01eq)を加え、20℃で41時間30分攪拌した。下記式
で示されるハロヒドリン体への変換率を19F−NMRにより測定したところ、100%であった。